特許第6000257号(P6000257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6000257-2−アルケニルアミン化合物の製造方法 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000257
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】2−アルケニルアミン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/16 20060101AFI20160915BHJP
   C07C 211/21 20060101ALI20160915BHJP
   C07C 211/40 20060101ALI20160915BHJP
   C07C 211/45 20060101ALI20160915BHJP
   C07C 209/18 20060101ALI20160915BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20160915BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
   C07C209/16
   C07C211/21
   C07C211/40
   C07C211/45
   C07C209/18
   B01J31/22 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-531362(P2013-531362)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071856
(87)【国際公開番号】WO2013031840
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-188769(P2011-188769)
(32)【優先日】2011年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】福本 直也
(72)【発明者】
【氏名】北村 雅人
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140456(JP,A)
【文献】 特開2007−238562(JP,A)
【文献】 特表平10−511721(JP,A)
【文献】 ORGANOMETALLICS,1995年,14,1945-1953
【文献】 Angew. Chem. Int. Ed.,2006年,45,5546-5549
【文献】 Angew. Chem. Int. Ed.,2003年,42,5066-5068
【文献】 ORGANIC LETTERS,1999年,1(12),1929-1931
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2010年,132,11917-11919
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2006年,128,11770-11771
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2005年,127,15506-15514
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2000年,122,7905-7920
【文献】 J. Org. Chem.,2001年,66,3238-3241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一級又は二級アミン化合物と一般式(1)で表される2−アルケニル化合物を触媒存在下で反応させる2−アルケニルアミン化合物の製造方法であって、
【化1】
{式中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルケニル基、アセトキシ基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。XはNO−、RO−、RS(O)O−、RCOO−及びROCOO−(Rは炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基)からなる群より選ばれるいずれかの置換基を表す。}、前記触媒が、分子内に遷移金属原子に対して二座配位する窒素配位部−酸素配位部を有する錯化剤と、1価アニオン性5員環共役ジエンを分子内に配位子として有する遷移金属前駆体との反応生成物である遷移金属錯体であることを特徴とする2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記錯化剤が、以下の一般式(2)
【化2】
{式中、R〜Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は置換基の炭素数の合計が1〜30のアルキル置換若しくは置換基の炭素数の合計が6〜30のアリール置換シリル基を表す。但し、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRは各々互いに結合して飽和又は不飽和の4〜8員環を形成してもよい。}で表されるα−イミノ酸型配位子化合物である請求項1に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属前駆体が、周期表の第8族及び第9族に属する遷移金属からなる群より選ばれる遷移金属原子の少なくとも一種を含む請求項1又は2のいずれかに記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属原子がルテニウム、ロジウム、及びイリジウムからなる群より選ばれる請求項3に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記1価アニオン性5員環共役ジエンが以下の一般式(3)
【化3】
{式中、R10〜R30は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は置換基の炭素数の合計が1〜30のアルキル置換若しくは置換基の炭素数の合計が6〜30のアリール置換シリル基を表し、環上の隣接する2つの炭素原子に結合する基が互いに結合して、前記隣接する2つの炭素原子とともに飽和又は不飽和の4〜8員環を形成してもよい。}のいずれかで表される共役可能な1価アニオン構造{式中、アニオンはR10〜R30の結合炭素に共役して存在する。}を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(1)中、R、R、R、R、及びRが全て水素原子である請求項1〜5のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記一級又は二級アミン化合物が、分子内にアミノ基を1つ又は2つ有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族アミン、分子内にアミノ基を1つ又は2つ有する炭素数が3〜30の飽和の脂環式アミン、分子内にアミノ基を1〜10個有する炭素数が6〜30のアリールアミン化合物、及び複素環を構成する窒素原子上に水素原子を有する、炭素数が2〜30の含窒素複素環式化合物からなる群より選ばれる請求項1〜6のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属錯体を、一級又は二級アミン化合物と2−アルケニル化合物との総和(一級又は二級アミン化合物のモル量+2−アルケニル化合物のモル量)1モルに対して0.000001〜10モル用いる請求項1〜7のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【請求項9】
1価アニオン性5員環共役ジエン骨格を有する化合物と遷移金属化合物とを反応させ1価アニオン性5員環共役ジエンを分子内に配位子として有する遷移金属前駆体を製造する工程と、
前記遷移金属前駆体と錯化剤とを混合し遷移金属錯体を製造する工程と、
前記遷移金属錯体と、一級又は二級アミン化合物と、2−アルケニル化合物を混合し反応させて2−アルケニルアミン化合物を製造する工程と、
を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルアミンに代表される2−アルケニルアミン化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、アミノ基を有する化合物と2−アルケニル化合物を特定の遷移金属錯体と配位子の存在下で反応させることにより、2−アルケニルアミン化合物を高効率で得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリルアミンに代表される2−アルケニルアミン化合物はヘテロ原子(窒素原子)と官能基変換可能なオレフィン部位(炭素−炭素二重結合)を有し、有機合成上有用なビルディングブロックを与える。そのため医薬品や農薬などの生理活性機能分子や、高分子の改質剤、化学反応の触媒等として広く利用される。
【0003】
アリルアミン類の製造方法としては、アリルクロライドとアンモニア水とを反応させて合成する方法が知られている(特許文献1)。この方法においては、モノアリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミンの3つのアリル化合物が生成し、副反応(アリルアルコールの副生)により目的物の収率が低下する。生成物と同化学量論量の塩が生じ、原料にハロゲン化物を用いているため環境負荷が大きい。また、この方法では有機塩素化合物がアリル化合物中に必ず残存してしまい、幾つかの用途、例えばエレクトロニクス用途で使用するには、絶縁特性が低くなるという欠点があるため好ましくない。
【0004】
近年、この問題を解決するべく、ハロゲン化物をアリル化剤として用いない種々の遷移金属触媒によるアミンのアリル化法が開発されている。例えば、非特許文献1には酢酸アリルをアリル化剤として用い、N,N−ジホルミルアミドを基質として、パラジウム触媒を用いてアリル化を行うことが報告されている。しかしながら、アミン自体(N,N−ジホルミルアミド)の求核性が弱く、リチウム塩やナトリウム塩に変換するための強塩基を必要とし、反応性も低く、アリル化には長時間を要する。
【0005】
また、非特許文献2には、ベンジルアミンを基質として、中心金属にパラジウムを、配位子として二座光学活性ホスファイト−チオエーテル化合物を有する触媒を用いた不斉アリル化方法が記載されている。触媒量も低く、反応性も高いが、溶媒に環境負荷の大きいハロゲン系溶媒を必要とし、反応温度も低温に保たなければならず、配位子も別途合成が必要で、触媒調製の煩雑さからも工業化は難しいといえる。
【0006】
非特許文献3にはアリルカーボネートをアリル化剤とし、中性ロジウム錯体を用いる、アリルアミン類の製造方法が開示されている。トリメチルホスファイトを配位子とし、THF溶媒中、室温で反応は進行する。しかしながら、アミン求核剤は、その反応性を高めるため、トルエンスルホン酸保護された後、化学量論量以上の塩基を用いてアニオン化する必要があり、反応は本質的に強塩基性条件下で実施される。配位子及びアミン等価体アニオンは、酸素や水分に対して不安定であるため、大量合成には不向きといえる。
【0007】
イリジウム触媒を用いた例として、アリル化剤であるアリルカーボネートや酢酸アリルによりアミンをアリル化する方法が、例えば非特許文献4〜6に報告されている。収率も高く、脂肪族アミン、芳香族アミンともに目的のアリル化体が得られる。アリル化剤にアリルカーボネートを使用する場合は、脱炭酸及びメタノール等のアルコールの脱離が反応原動力となる。工業的に大規模合成する際には、共生成物に二酸化炭素等の気体が発生することは安全性の面で問題がある。また、触媒には高価なイリジウム、(キラル)ホスホロアミダイト配位子を必要とし、コスト面からのデメリットも大きく、基質によってはトリアザビシクロウンデセン(TBD)やトリエチルアミン等の塩基が化学量論量必要となる。
【0008】
中心金属にルテニウムを利用する方法も知られている。非特許文献7には、アリルカーボネートをアリル化剤とし、錯化剤にシクロペンタジエニルアニオンを持つ中性ルテニウム錯体を触媒とするアリル化法が開示されている。THF溶媒中、0℃、1時間で、反応が完結する。アミンには求核性の高いピペリジンが使用され、その他の基質への適用の可否は不明である。
【0009】
また、非特許文献8にはジカチオン性ルテニウム錯体を用いる、アリルアミン類の製造方法が開示されている。錯化剤にペンタメチルシクロペンタジエニルアニオンを、配位子にビピリジンを有し、ヘキサフルオロリン酸アニオンを対カチオンとする触媒を使用し、溶媒中、室温で反応は進行する。ルテニウム錯体のアリル化に対する反応性を示した先駆的な結果であるが、いずれも反応性は低く、触媒量を多く使用しなければならず、脱炭酸型のアリル化剤を使用するため、上記工業的問題を回避することができない。
【0010】
特許文献2及び非特許文献9は、ホスホノアミダイト配位子とイリジウム触媒を用いたアリルアルコールからのアリルアミンの製造方法を開示する。アリルアルコールをアリル化剤としスルファミン酸をアミン源として一級の分岐型アリルアミンを選択的に得ることができる。アリルアルコールのアリル化剤として使用することができる可能性を初めて示した例として挙げられるが、触媒コスト、触媒調製の観点から工業化に困難を伴う。
【0011】
特許文献3は、α−イミノ酸型配位子又はα−アミノ酸型配位子を有するシクロペンタジエニルルテニウム錯体存在下における、アリルエーテル類の製造方法を開示している。この方法によればいかなる添加剤も使用することなくアリルアルコールとアルコールから脱水的にアリルエーテルを製造することができる。共生成物は水のみであり、環境に調和した非常に効率的な方法であるが、アミン類に適用する際には、基質の塩基性のため、触媒の活性化に必要な配位子のプロトン化が抑制され、触媒自体の性能が失われると考えられる。そのため、塩基性化合物とのアリル化反応は進行しないと考えられており、そのような化合物への適用はこれまで見送られてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−283209号公報
【特許文献2】特開2009−46452号公報
【特許文献3】特開2005−289977号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】K. Dingら, J. Org. Chem., 66, pp. 3238−3241 (2001).
【非特許文献2】D. A. Evansら, J. Am. Chem. Soc., 122, pp. 7905−7920 (2000).
【非特許文献3】P. A. Evansら, Org. Lett., 1, pp. 1929−1931 (1999).
【非特許文献4】G. Helmchenら, Angew. Chem. Int. Ed., 45, pp. 5546−5549 (2006).
【非特許文献5】J. F. Hartwigら, J. Am. Chem. Soc., 127, pp. 15506−15514 (2005).
【非特許文献6】J. F. Hartwigら, J. Am. Chem. Soc., 128, pp. 11770−11771 (2006).
【非特許文献7】T. Kondo, Y. Watanabeら, Organometallics, 14, pp. 1945−1953 (1995).
【非特許文献8】B. Demerseman, C. Bruneauら, Angew. Chem. Int. Ed., 42, pp. 5066−5068 (2003).
【非特許文献9】E, M. Carreiraら, J. Am. Chem. Soc. 132, pp. 11917−11919 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、アミノ基を有する化合物及び2−アルケニル化剤を出発原料として、効率よく対応する2−アルケニルアミン化合物を製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、一級又は二級アミン化合物を、特定の2−アルケニル化剤を用いて、錯化剤と、1価アニオン性5員環共役ジエン化合物により安定化された遷移金属前駆体とからなる触媒(遷移金属錯体)の存在下で2−アルケニル化することで、効率よく2−アルケニルアミン化合物が得られることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]一級又は二級アミン化合物と一般式(1)で表される2−アルケニル化合物を触媒存在下で反応させる2−アルケニルアミン化合物の製造方法であって、
【化1】
{式中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルケニル基、アセトキシ基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。XはNO−、RO−、RS(O)O−、RCOO−及びROCOO−(Rは炭素数1〜30の有機基)からなる群より選ばれるいずれかの置換基を表す。}、前記触媒が、分子内に遷移金属原子に対して二座配位する窒素配位部−酸素配位部を有する錯化剤と、1価アニオン性5員環共役ジエンを分子内に配位子として有する遷移金属前駆体との反応生成物である遷移金属錯体であることを特徴とする2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[2]前記錯化剤が、以下の一般式(2)
【化2】
{式中、R〜Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は置換基の炭素数の合計が1〜30のアルキル置換若しくは置換基の炭素数の合計が6〜30のアリール置換シリル基を表す。但し、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRは各々互いに結合して飽和又は不飽和の4〜8員環を形成してもよい。}で表されるα−イミノ酸型配位子化合物である前記[1]に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[3]前記遷移金属前駆体が、周期表の第8族及び第9族に属する遷移金属からなる群より選ばれる遷移金属原子の少なくとも一種を含む前記[1]又は[2]のいずれかに記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[4]前記遷移金属原子がルテニウム、ロジウム、及びイリジウムからなる群より選ばれる前記[3]に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[5]前記1価アニオン性5員環共役ジエンが以下の一般式(3)
【化3】
{式中、R10〜R30は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は置換基の炭素数の合計が1〜30のアルキル置換若しくは置換基の炭素数の合計が6〜30のアリール置換シリル基を表し、環上の隣接する2つの炭素原子に結合する基が互いに結合して、前記隣接する2つの炭素原子とともに飽和又は不飽和の4〜8員環を形成してもよい。}のいずれかで表される共役可能な1価アニオン構造{式中、アニオンはR10〜R30の結合炭素に共役して存在する。}を有する前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[6]前記一般式(1)中、R、R、R、R、及びRが全て水素原子である前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[7]前記一級又は二級アミン化合物が、分子内にアミノ基を1つ又は2つ有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族アミン、分子内にアミノ基を1つ又は2つ有する炭素数が3〜30の飽和の脂環式アミン、分子内にアミノ基を1〜10個有する炭素数が6〜30のアリールアミン化合物、及び複素環を構成する窒素原子上に水素原子を有する、炭素数が2〜30の含窒素複素環式化合物からなる群より選ばれる前記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[8]前記遷移金属錯体を、一級又は二級アミン化合物と2−アルケニル化合物との総和(一級又は二級アミン化合物のモル量+2−アルケニル化合物のモル量)1モルに対して0.000001〜10モル用いる前記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
[9]1価アニオン性5員環共役ジエン骨格を有する化合物と遷移金属化合物とを反応させ1価アニオン性5員環共役ジエンを分子内に配位子として有する遷移金属前駆体を製造する工程と、
前記遷移金属前駆体と錯化剤とを混合し遷移金属錯体を製造する工程と、
前記遷移金属錯体と、一級又は二級アミン化合物と、2−アルケニル化合物を混合し反応させて2−アルケニルアミン化合物を製造する工程と、
を有する前記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の2−アルケニルアミン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の2−アルケニルアミン化合物の製造方法によれば、2−アルケニル化反応に直接寄与しない溶媒以外の添加剤を使用することなく、2−アルケニル化合物により一級又は二級のアミノ基を選択的に2−アルケニル化させることにより2−アルケニルアミンを高反応率で製造することができる。従来の酢酸アリルのようなアリル化剤(2−アルケニル化剤)と酢酸パラジウムのような塩を触媒として使用する場合に必要となる強塩基のような添加剤を必要としないため、温和な条件で反応を行なうことができ、生産性が高く、環境にも調和した方法を提供することができる。アミン化合物の溶解性や反応性によっては溶媒を使用することなく反応を行うことができる。2−アルケニル化剤の代表例であるアリル化剤には、大量に供給可能で安価なカルボン酸アリルエステルを用いることができ、工業化時の生産性も高い手法であるため、本発明による2−アルケニルアミン化合物の製造方法は、生産性、操作性の観点から非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1で得られた2−アルケニル化(アリル化)生成物のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の2−アルケニルアミン化合物の製造方法は、一級又は二級アミン化合物を、特定の2−アルケニル化合物を用い、錯化剤と、1価アニオン性5員環共役ジエンを分子内に配位子として有する遷移金属前駆体との反応生成物である遷移金属錯体を触媒として用いて2−アルケニル化することを特徴とする。
【0020】
本発明において用いられる一級又は二級アミン化合物としては、水素原子を有するアミノ基を含む化合物であればアミノ基を1個有する化合物でも、アミノ基を2個以上有する化合物でもよく、特に制限はない。本明細書において「一級アミン」化合物は、分子内に一級アミノ基を有し、二級アミノ基を有さない化合物(分子内に三級アミン骨格を有していてもよい)を意味し、「二級アミン」化合物は、分子内に少なくとも一つの二級アミノ基を有する化合物(分子内に一級アミノ基、及び/又は三級アミン骨格を有していてもよい)を意味する。
【0021】
一級又は二級アミン化合物としては、例えば分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族一級アミン、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が2〜30の飽和の脂肪族二級アミン、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が2〜30の不飽和の脂肪族一級アミン、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が3〜30の不飽和の脂肪族二級アミン、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が3〜30の飽和又は不飽和の脂環式一級アミン、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が4〜30の飽和又は不飽和の脂環式二級アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族一級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が2〜30の飽和の脂肪族二級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が2〜30の不飽和の脂肪族一級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が3〜30の不飽和の脂肪族二級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が3〜30の飽和の脂環式一級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が4〜30の飽和の脂環式二級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が3〜30の不飽和の脂環式一級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が4〜30の不飽和の脂環式二級ジアミン又は多価アミン、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が6〜30のモノ一級アミノアリール化合物、分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が7〜30のモノ二級アミノアリール化合物、分子内にアミノ基を2〜10個有する炭素数が6〜30のポリ一級アミノアリール化合物、分子内にアミノ基を2〜10個有する炭素数が7〜30のポリ二級アミノアリール化合物、複素環を構成する窒素原子上に水素原子を有する、炭素数が2〜30の含窒素複素環式化合物等が挙げられる。一級又は二級アミン化合物はハロゲン原子等の置換基を含んでもよい。
【0022】
分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族一級アミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ネオペンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−オクタアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が2〜30の飽和の脂肪族二級アミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が2〜30の不飽和の脂肪族一級アミンの具体例としては、アリルアミン、クロチルアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が3〜30の不飽和の脂肪族二級アミンの具体例としては、ジアリルアミン等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が3〜30の飽和の脂環式一級アミンの具体例としては、2−メチルシクロペンタミン、シクロヘキシルアミン、アマンタジン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が4〜30の飽和の脂環式二級アミンの具体例としては、N,N−メチルシクロペンチルアミン、N,N−メチルシクロへキシルアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が3〜30の不飽和の脂環式一級アミンの具体例としては、2−(1−シクロヘキセニル)エチルアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が4〜30の不飽和の脂環式二級アミンの具体例としては、N−メチル−2−(1−シクロヘキセニル)エチルアミン、等が挙げられる。
【0023】
分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族一級ジアミン又は多価アミンの具体例としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、2−クロロ−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が2〜30の飽和の脂肪族二級ジアミン又は多価アミンの具体例としては、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−2−クロロ−1,3−プロパンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が2〜30の不飽和の脂肪族一級ジアミン又は多価アミンの具体例としては、2−ブテン−1,4−ジアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が3〜30の不飽和の脂肪族二級ジアミン又は多価アミンの具体例としては、N,N’−ジメチル−2−ブテン−1,4−ジアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が3〜30の飽和の脂環式一級アミンの具体例としては、1,2−シクロペンタンジアミン、(シクロヘキサン−1,4−ジイル)ビス(メタンアミン)、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が4〜30の飽和の脂環式二級アミンの具体例としては、N,N’−ジメチル−1,2−シクロペンタンジアミン、N,N’−ジメチル−(シクロヘキサン−1,4−ジイル)ビス(メタンアミン)、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が3〜30の不飽和の脂環式一級アミンの具体例としては、1,2−シクロペンテンジアミン、(1−シクロヘキセン−1,4−ジイル)ビス(メタンアミン)、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2つ以上有する炭素数が4〜30の不飽和の脂環式二級アミンの具体例としては、N,N’−ジメチル−1,2−シクロペンテンジアミン、N,N’−ジメチル−(1−シクロヘキセン−1,4−ジイル)ビス(メタンアミン)、等が挙げられる。
【0024】
分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が6〜30のモノ一級アミノアリール化合物の具体例としては、アニリン、トルイジン、4−ニトロアニリン、2,4−ジ−tert−ブチルアニリン、2,4−ジ−tert−ブチル−6−メチルアニリン、1−アミノナフタレン、2−アミノナフタレン、ベンジルアミン、2−フェニルエチルアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を1つ有する炭素数が7〜30のモノ二級アミノアリール化合物の具体例としては、N−メチルアニリン、N−メチルトルイジン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2〜10個有する炭素数が6〜30のポリ一級アミノアリール化合物の具体例としては、ベンジジン、1,2−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、1−メチル−2,3−ジアミノナフタレン、1,2,4−ベンゼントリアミン、等が挙げられる。分子内にアミノ基を2〜10個有する炭素数が7〜30のポリ二級アミノアリール化合物の具体例としては、N,N’−ジメチルベンジジン、N,N’−ジメチル−1,2−ジアミノナフタレン、N,N’−ジメチル−1,8−ジアミノナフタレン、N,N’−ジメチル−1−メチル−2,3−ジアミノナフタレン、N,N’,N''−トリメチル−1,2,4−ベンゼントリアミン、等が挙げられる。
【0025】
複素環を構成する窒素原子上に水素原子を有する、炭素数が2〜30の含窒素複素環式化合物の具体例としては、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン、モルホリン、アゾール類(例えばピラゾール、イミダゾール等)、イミダゾリン、チアジン、インドール、ベンゾイミダゾール、等が挙げられる。
【0026】
これらの一級又は二級アミン化合物は、分子内にアミノ基を1つ又は2つ有する炭素数が1〜30の飽和の脂肪族アミン、分子内にアミノ基を1つ又は2つ有する炭素数が3〜30の飽和の脂環式アミン、分子内にアミノ基を1〜10個有する炭素数が6〜30のアリールアミン化合物、及び複素環を構成する窒素原子上に水素原子を有する、炭素数が2〜30の含窒素複素環式化合物からなる群より選ばれることがより好ましい。
【0027】
本発明において用いられる2−アルケニル化合物は、一級又は二級アミン化合物のアミノ基と反応し2−アルケニルアミンを生成することができる置換基を分子内に有するものであって、以下の一般式(1)で表されるものである。本明細書において「2−アルケニル化合物」とは一般式(1)で表されるように置換基Xが結合する炭素原子に隣接するβ位の炭素原子とさらにその隣のγ位に位置する炭素原子との間で二重結合が形成されている化合物を意味する。代表例としては一般式(1)中のR、R、R、R、及びRが全て水素原子であるアリル化合物が挙げられる。また、本明細書において「2−アルケニルアミン」とはアミノ基の窒素原子が結合する炭素原子に隣接するβ位の炭素原子とさらにその隣のγ位に位置する炭素原子との間で二重結合が形成されているアミン化合物を意味する。代表例としてはアリルアミンが挙げられる。
【化4】
{式中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルケニル基、アセトキシ基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。XはNO−、RO−、RS(O)O−、RCOO−及びROCOO−(Rは炭素数1〜30の有機基)からなる群より選ばれるいずれかの置換基を表す。}で表される。R、R、R、R、及びRは、好ましくは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基であり、Rは好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基である。
【0028】
XがNO−である2−アルケニル化合物の具体例としては、1−ニトロ−2−ブテン、1−ニトロ−1,3−ジフェニル−2−プロペン、3−ニトロ−3−メトキシプロペン等が挙げられる。XがRO−である2−アルケニル化合物の具体例としては、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ジアリルエーテル、アリルフェニルエーテル等が挙げられる。XがRS(O)O−である2−アルケニル化合物の具体例としては、ベンゼンスルホン酸アリル、p−トルエンスルホン酸アリル等が挙げられる。XがRCOO−である2−アルケニル化合物の具体例としては、酢酸アリル、酢酸−2−ヘキセニル、酢酸−2,4−ヘキサジエニル、酢酸プレニル、酢酸ゲラニル、酢酸ファルネシル、酢酸シンナミル、酢酸リナリル、酢酸−3−ブテン−2−イル、酢酸−2−シクロペンテニル、酢酸−2−トリメチルシリルメチル−2−プロペニル、酢酸−2−メチル−2−シクロヘキセニル、プロピオン酸−1−フェニル−1−ブテン−3−イル、酪酸−1−シクロヘキシル−2−ブテン、4−シクロペンテン−1,3−ジオール−1−アセテート、1,4−ジアセトキシブテン−2、3−アセトキシ−4−ヒドロキシブテン−1等が挙げられる。XがROCOO−である2−アルケニル化合物の具体例としては、アリルメチル炭酸エステル、4−アセトキシ−2−ブテニルエチル炭酸エステル、ネリルメチル炭酸エステル、炭酸ジアリル等が挙げられる。これらの2−アルケニル化合物は単独で用いることもできるし、それらを複数任意に組み合わせて使用することもできる。本発明において使用する2−アルケニル化合物として最も好ましいものは脱離生成物の安定性が高く、また入手が容易である点からXがRCOO−であるカルボン酸エステル及びXがROCOO−である炭酸エステルである。
【0029】
一級又は二級アミン化合物に対する2−アルケニル化合物の使用量は、一級又は二級アミン化合物のアミノ基の有する水素原子1当量当たり2−アルケニル化合物が0.1〜500当量、好ましくは0.5〜50当量、より好ましくは1〜20当量である。一級又は二級アミン化合物のアミノ基の有する水素原子1当量当たり2−アルケニル化合物の当量が1(当量比が1)より著しく大きい場合には、過剰の2−アルケニル化合物は、2−アルケニル化剤として使用されるだけでなく、溶媒としても使用される。一級又は二級アミン化合物のアミノ基の有する水素原子1当量当たり2−アルケニル化合物の当量が1(当量比が1)未満の場合には、目的生成物への転化が極めて低くなる場合があり、当量比が0.1未満の場合顕著となる。なお、当量比が1未満の場合は、過剰の一級又は二級アミン化合物を必要に応じて回収して、このプロセスに再循環することができる。2−アルケニル化反応は均一系で実施することが好ましいので、一級又は二級アミン化合物及び2−アルケニル化合物は混合されて均一な液状となるものを組み合わせて用いることが好ましい。
【0030】
本発明において用いられる遷移金属錯体は、以下に詳述する錯化剤と、遷移金属化合物及び1価アニオン性5員環共役ジエン化合物が錯形成することにより得られる遷移金属前駆体とが反応して得られる錯体である。
【0031】
本発明において用いられる遷移金属錯体の形成に有用な錯化剤としては、分子内に遷移金属原子に対して二座配位する窒素配位部−酸素配位部(窒素原子及び酸素原子)を有するものであり、以下の一般式(2)
【化5】
{式中、R〜Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は置換基の炭素数の合計が1〜30のアルキル置換若しくは置換基の炭素数の合計が6〜30のアリール置換シリル基を表す。但し、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRは各々互いに結合して飽和又は不飽和の4〜8員環を形成してもよい。}で表されるα−イミノ酸型配位子化合物が好ましい。α−イミノ酸型配位子化合物の具体例としては、キナルジン酸、ピコリン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。α−イミノ酸型配位子化合物は2−アルケニル化反応に対する高い活性を示すため、本発明において好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるし、任意に組み合わせて使用することもできる。
【0032】
本発明において用いられる遷移金属錯体の形成に有用な遷移金属前駆体の製造に用いられる遷移金属化合物としては、周期表の第8族及び第9族に属する遷移金属からなる群より選ばれる遷移金属原子の少なくとも一種を含む化合物が使用される。具体的には、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、硝酸鉄(III)等の鉄化合物、塩化ルテニウム(III)、臭化ルテニウム(III)、硝酸ルテニウム(III)、ヘキサアンミンルテニウム(II)、ヘキサアクアルテニウム(III)等のルテニウム化合物、塩化オスミニウム(III)、酸化オスミニウム(VI)等のオスミウム化合物、塩化コバルト(III)等のコバルト化合物、塩化ロジウム(III)等のロジウム化合物、塩化イリジウム(III)、酢酸イリジウム(II)等のイリジウム化合物等が挙げられるが、中でもルテニウム化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物が好ましく、特にルテニウム化合物が2−アルケニル化反応の活性が高く比較的安価であるため好ましい。
【0033】
本発明において1価アニオン性5員環共役ジエンは上記遷移金属化合物と反応して錯形成することにより遷移金属原子が安定化された遷移金属前駆体を形成する。本明細書において、1価アニオン性5員環共役ジエン化合物とは、シクロペンタジエニル骨格を分子内に有する1価のアニオンを指し、以下の一般式(3)で表される共役可能な1価アニオン構造を有する化合物であることが好ましい。
【化6】
{式中、R10〜R30は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は置換基の炭素数の合計が1〜30のアルキル置換若しくは置換基の炭素数の合計が6〜30のアリール置換シリル基を表し、環上の隣接する2つの炭素原子に結合する基が互いに結合して、前記隣接する2つの炭素原子とともに飽和又は不飽和の4〜8員環を形成してもよい。式中、アニオンはR10〜R30の結合炭素に共役して存在する。}
【0034】
本発明において有用な1価アニオン性5員環共役ジエンの具体例としては、例えばη−シクロペンタジエニルアニオン、η−メチルシクロペンタジエニルアニオン、η−ジメチルシクロペンタジエニルアニオン、η−トリメチルシクロペンタジエニルアニオン、η−テトラメチルシクロペンタジエニルアニオン、η−ペンタメチルシクロペンタジエニルアニオン、η−エチルシクロペンタジエニルアニオン、η−n−プロピルシクロペンタジエニルアニオン、η−イソプロピルシクロペンタジエニルアニオン、η−n−ブチルシクロペンタジエニルアニオン、η−sec−ブチルシクロペンタジエニルアニオン、η−tert−ブチルシクロペンタジエニルアニオン、η−n−ペンチルシクロペンタジエニルアニオン、η−ネオペンチルシクロペンタジエニルアニオン、η−n−ヘキシルシクロペンタジエニルアニオン、η−n−オクチルシクロペンタジエニルアニオン、η−フェニルシクロペンタジエニルアニオン、η−ナフチルシクロペンタジエニルアニオン、η−トリメチルシリルシクロペンタジエニルアニオン、η−トリエチルシリルシクロペンタジエニルアニオン、η−tert−ブチルジメチルシリルシクロペンタジエニルアニオン、η−インデニルアニオン、η−メチルインデニルアニオン、η−ジメチルインデニルアニオン、η−エチルインデニルアニオン、η−n−プロピルインデニルアニオン、η−イソプロピルインデニルアニオン、η−n−ブチルインデニルアニオン、η−sec−ブチルインデニルアニオン、η−tert−ブチルインデニルアニオン、η−n−ペンチルインデニルアニオン、η−ネオペンチルインデニルアニオン、η−n−ヘキシルインデニルアニオン、η−n−オクチルインデニルアニオン、η−n−デシルインデニルアニオン、η−フェニルインデニルアニオン、η−メチルフェニルインデニルアニオン、η−ナフチルインデニルアニオン、η−トリメチルシリルインデニルアニオン、η−トリエチルシリルインデニルアニオン、η−tert−ブチルジメチルシリルインデニルアニオン、η−テトラヒドロインデニルアニオン、η−フルオレニルアニオン、η−メチルフルオレニルアニオン、η−ジメチルフルオレニルアニオン、η−エチルフルオレニルアニオン、η−ジエチルフルオレニルアニオン、η−n−プロピルフルオレニルアニオン、η−ジ−n−プロピルフルオレニルアニオン、η−イソプロピルフルオレニルアニオン、η−ジイソプロピルフルオレニルアニオン、η−n−ブチルフルオレニルアニオン、η−sec−ブチルフルオレニルアニオン、η−tert−ブチルフルオレニルアニオン、η−ジ−n−ブチルフルオレニルアニオン、η−ジ−sec−ブチルフルオレニルアニオン、η−ジ−tert−ブチルフルオレニルアニオン、η−n−ペンチルフルオレニルアニオン、η−ネオペンチルフルオレニルアニオン、η−n−ヘキシルフルオレニルアニオン、η−n−オクチルフルオレニルアニオン、η−n−デシルフルオレニルアニオン、η−n−ドデシルフルオレニルアニオン、η−フェニルフルオレニルアニオン、η−ジ−フェニルフルオレニルアニオン、η−メチルフェニルフルオレニルアニオン、η−ナフチルフルオレニルアニオン、η−トリメチルシリルフルオレニルアニオン、η−ビス−トリメチルシリルフルオレニルアニオン、η−トリエチルシリルフルオレニルアニオン、η−tert−ブチルジメチルシリルフルオレニルアニオンなどを有する化合物が挙げられ、好ましくはη−シクロペンタジエニルアニオン、η−テトラメチルシクロペンタジエニルアニオン、η−ペンタメチルシクロペンタジエニルアニオン、η−インデニルアニオン、又はη−フルオレニルアニオンである。これらの1価アニオン性5員環共役ジエン源としては、例えばカリウム、ナトリウム、リチウム等を対イオン(カウンターカチオン)として有する化合物が用いられる。
【0035】
上記遷移金属前駆体の合成は、公知の方法によって行うことができ、好ましくは、上記1価アニオン性5員環共役ジエン化合物を、遷移金属のハロゲン化物等と反応させることにより得られる。適当な調製法の例は、例えば、Adv. Synth. Catal, 346, pp. 901−904 (2004)や特表2003−507387号公報に記載されている。例えば、塩化ルテニウム(III)と、ナトリウムη−シクロペンタジエニルを反応させて、ジ(η−シクロペンタジエニル)ルテニウム錯体を得た後、Adv. Synth. Catal, 346, pp. 901−904 (2004)に記載の方法で、シクロペンタジエニルルテニウムトリアセトニトリル錯体(遷移金属前駆体)に変換することができる。
【0036】
上記錯化剤と遷移金属前駆体とを反応溶媒に溶解して反応させることにより、遷移金属錯体よりなる触媒が得られる。遷移金属錯体は、錯化剤と遷移金属前駆体とを両者の混合比(錯化剤/遷移金属前駆体(モル比))が0.8〜1.5、より好ましくは0.9〜1.1、反応温度0〜100℃、より好ましくは20〜50℃で混合することにより得られる。両者は溶媒に溶解、混合後速やかに反応し遷移金属錯体を形成するので、溶媒に溶解、混合直後に使用することもできるが、混合後暫くエイジングしてから用いることもできる。反応時間は好ましくは0.01〜10時間、より好ましくは0.2〜1時間である。
【0037】
2−アルケニル化反応は均一系で実施することが好ましく、遷移金属錯体も一級又は二級アミン化合物及び2−アルケニル化合物に溶解することが好ましい。遷移金属錯体が一級又は二級アミン化合物及び2−アルケニル化合物に溶解する場合は、遷移金属錯体、一級又は二級アミン化合物及び2−アルケニル化合物を同時に反応容器に仕込んで使用することができる。触媒の使用量は、多数の要因、例えば触媒の形態、反応の種類(回分反応、連続式の固定床反応、連続式の流動床反応)、後述する溶媒の使用量などに応じて適宜調節可能である。一般に、遷移金属錯体の使用量は、均一系触媒として使用する(反応系に触媒を溶解させて使用する)場合、一級又は二級アミン化合物と2−アルケニル化合物との総和(一級又は二級アミン化合物のモル量+2−アルケニル化合物のモル量)1モルに対して、0.000001〜10モルであり、回分反応においては、一級又は二級アミン化合物と2−アルケニル化合物との総和1モルに対して、0.000001〜0.5モルである。また、担体(ポリスチレン等)に結合された錯化剤と遷移金属前駆体とを反応させて担持触媒(不均一系触媒)として使用することもできる。そのような担持触媒を用いる連続式の固定床又は流動床反応においては、遷移金属錯体の使用量は、一級又は二級アミン化合物と2−アルケニル化合物との総和1モルに対して、0.0001〜0.5モルである。
【0038】
反応工程において反応液の均一化、粘度調整等の目的のため必要に応じて溶媒を使用することができる。使用できる溶媒としては、水、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素、脂肪族、脂環式及び芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトロアルカン、並びにエーテル、グリコールエーテル、エステル、ケトン等の酸素含有炭化水素が挙げられる。これらの中で好ましい溶媒としては、脂肪族炭化水素の例としてヘキサン、オクタン、脂環式炭化水素の例としてシクロヘキサン、芳香族炭化水素の例としてトルエン、キシレン、脂肪族ハロゲン化炭化水素の例としてジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、芳香族ハロゲン化炭化水素の例としてクロロベンゼン、ニトロアルカンの例としてニトロメタン、エーテルの例としてテトラヒドロフラン、グリコールエーテルの例としてジメトキシエタン、エステルの例として酢酸エチル、ケトンの例としてアセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、特に反応性、溶解性、コスト等の点で好ましい溶媒はシクロヘキサン、ジクロロメタン、トルエン及びジメトキシエタンである。これらの溶媒は単独又は任意に組み合わせて使用できる。
【0039】
上記溶媒は、一級又は二級アミン化合物100質量部に対して、1000質量部以内、好ましくは0.5〜500質量部、より好ましくは1〜100質量部の量で使用する。
【0040】
2−アルケニル化反応は10〜200℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜90℃の温度において、反応を本質的に完了させるのに充分な時間、通常は0.1〜72時間、好ましくは0.1〜48時間、より好ましくは0.1〜24時間実施することができる。個々の一級又は二級アミン化合物に対して最適な2−アルケニル化反応温度及び時間は、使用する一級又は二級アミン化合物の反応性、溶媒及び触媒によって異なる。反応は液相で実施することが好ましく、したがって反応系が液相に保たれる圧力雰囲気下で実施することが好ましい。例えば約5〜約2000kPaの圧力を使用できる。
【0041】
上記工程で所望の転化率まで2−アルケニル化反応を実施後、任意の適当な方法又は手段を用いて、反応液から不要な成分を除去することが好ましい。例えば均一系触媒を用いる場合、均一系触媒及びその合成に用いた余剰の錯化剤や反応副生物が反応混合物中に均一相として存在するため、反応液を洗浄する又は反応液を吸着剤処理することによりこれら不純物を分離することができる。反応液から上記不要な成分を除去するには、これら後処理前に、溶媒を添加することが好ましい。溶媒を添加することにより2−アルケニル化反応生成物を含む反応液の粘度を低下させることができ、その結果除去効率を向上させることができる。添加する溶媒は脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素、脂肪族、脂環式及び芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトロアルカン、並びにエーテル、グリコールエーテル、エステル、ケトン等の酸素含有炭化水素からなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含むことが好ましい。具体的には、脂肪族炭化水素であるヘキサン、オクタン、脂環式炭化水素であるシクロヘキサン、芳香族炭化水素であるトルエン、キシレン、脂肪族ハロゲン化炭化水素であるジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、芳香族ハロゲン化炭化水素であるクロロベンゼン、ニトロアルカンであるニトロメタン、エーテルであるテトラヒドロフラン、グリコールエーテルであるジメトキシエタン、エステルである酢酸エチル、ケトンであるアセトン、メチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶媒が挙げられる。また、一般式(1)のXに基因する脱離生成物が水溶性である場合には、洗浄時の抽出効率を高めるため、水を同時に添加することが好ましい。但し、この場合は非水溶性の有機溶媒を用いる必要がある。反応液は2−アルケニルアミン生成物を含む有機層と触媒由来の無機塩や水溶性の脱離生成物を含む水層に分離するので、不要な水層は分離、除去する。水の添加とあわせて硫酸等の強酸をあわせて添加することにより触媒残渣の水層への移動が促進される。
【0042】
上記の通り均一系触媒を2−アルケニル化反応液から分離した後、分離残渣(分離した水層)を再び前記添加溶媒と同様の溶媒で洗浄し、水層中に微量含まれている2−アルケニルアミン生成物を洗浄液中に抽出し、その洗浄液を反応液と混合することで、生成物の回収率を高めることができる。洗浄、分別蒸留、抽出蒸留、液液抽出、固液抽出及び結晶化又はこれらの方法の任意の組合せを用いて、反応液から2−アルケニル化反応生成物を分離及び回収することができる。一例としてカルボン酸アリルエステルを2−アルケニル化(アリル化)剤として用いた場合の生成物分離方式としては、蒸留又は蒸発によって反応混合物から溶媒及び未反応2−アルケニル化(アリル化)剤のような揮発分を除去し、次いで蒸留又は抽出によってカルボン酸副生成物を回収して、目的とする2−アルケニル誘導体生成物を底部生成物として回収することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
10mLのヤングコック付きシュレンク型反応管に、アルゴン気流下、錯化剤としてキナルジン酸(3.5mg,0.02mmol;東京化成工業(株)製)、遷移金属前駆体として[CpRu(CHCN)]PF(8.7mg,0.02mmol;Aldrich社製)(Cp:シクロペンタジエニル錯体)を加えた。ここに3回凍結−乾燥操作を施した、2−フェニルエチルアミン(1.2g,10mmol)と酢酸アリル(3.0g,30mmol)(一般式(1)のR、R、R、R、及びRは全て水素原子であり、XはCHCOO−である)の混合液を加え、キナルジン酸と[CpRu(CHCN)]PFを溶解、混合し80℃において3時間撹拌した。NMR分析の結果、2−フェニルエチルアミンのモノ(2−アルケニル)化体(モノアリル化体)を8.5%、2−フェニルエチルアミンのジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)を91.5%の収率で得た(2−フェニルエチルアミンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%)。なお、2−アルケニル化反応の収率は他の実施例、比較例を含めて以下の条件によるH−NMRスペクトル測定に基づき求めた。
核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル測定条件
BRUKER AVANCE400(BRUKER社製)
溶媒 重クロロホルム、測定温度 27℃
【0044】
[実施例2]
実施例1において、錯化剤をピコリン酸(2.4mg,0.02mmol;関東化学社製)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%で2−アルケニル化体(アリル化体)を得た。モノ(2−アルケニル)化体(モノアリル化体)が14.8%、ジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)が85.2%生成した。配位子にはピコリン酸よりもキナルジン酸を用いた場合の方が、ジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)の収率は高まる。
【0045】
[実施例3]
実施例1において、2−フェニルエチルアミンをシクロへキシルアミン(0.99g,10mmol;東京化成工業(株)製)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、シクロへキシルアミンのジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)を83.9%、シクロへキシルアミンのモノ(2−アルケニル)化体(モノアリル化体)を16.1%の収率で得た(シクロへキシルアミンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%)。
【0046】
[実施例4]
実施例1において、2−フェニルエチルアミンをtert−ブチルアミン(0.73g,10mmol;東京化成工業(株)製)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、tert−ブチルアミンのジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)を40.6%、tert−ブチルアミンのモノ(2−アルケニル)化体(モノアリル化体)を59.4%の収率で得た(tert−ブチルアミンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%)。
【0047】
[実施例5]
実施例1において、2−フェニルエチルアミンをアニリン(0.93g,10mmol;東京化成工業(株)製)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、アニリンのジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)を>99%の収率で得た(アニリンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%)。
【0048】
[実施例6]
実施例1において、2−フェニルエチルアミンをN−メチルアニリン(1.07g,10mmol;東京化成工業(株)製)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、N−メチルアニリンの2−アルケニル化体(アリル化体)を>99%の収率で得た(N−メチルアニリンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%)。
【0049】
[実施例7]
実施例1において、2−フェニルエチルアミンをモルホリン(0.87g,10mmol;東京化成工業(株)製)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、モルホリンの2−アルケニル化体(アリル化体)を>99%の収率で得た(モルホリンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%)。
【0050】
[実施例8]
実施例1において、2−アルケニル化剤である酢酸アリルを炭酸ジアリル(4.2g,30mmol;関東化学(株)製)(一般式(1)のR、R、R、R、及びRは全て水素原子であり、XはHC=CH−CHOCOO−である)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、2−フェニルエチルアミンの転化率>99%、2−アルケニル化合計収率>99%で2−アルケニル化体(アリル化体)を得た。モノ(2−アルケニル)化体(モノアリル化体)が<1.0%、ジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)が99%生成した。
【0051】
[実施例9]
実施例1において、2−アルケニル化剤である酢酸アリルをアリルフェニルエーテル(4.0g,30mmol;東京化成工業(株)製)(一般式(1)のR、R、R、R、及びRは全て水素原子であり、XはCO−である)、アミンをN−メチルアニリン(1.07g,10mmol)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、N−メチルアニリンの転化率>99%、収率77%で2−アルケニル化体(アリル化体)を得た。
【0052】
[実施例10]
実施例1において、触媒前駆体を[CpRu(CHCN)]PF(10.1mg,0.02mmol;Aldrich製)(Cp:ペンタメチルシクロペンタジエニル錯体)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、2−フェニルエチルアミンの転化率61.8%、2−アルケニル化合計収率57.8%で2−アルケニル化体(アリル化体)を得た。モノ(2−アルケニル)化体(モノアリル化体)とジ(2−アルケニル)化体(ジアリル化体)の比率は原料や副生成物のH−NMRスペクトルにおけるシグナルが重複するため分析困難であり、決定していない。
【0053】
[実施例11〜13]
実施例1において、以下の表1に記載の各溶媒(2.0mL)を共存させた以外は実施例1と同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果を表1にまとめた。
【0054】
【表1】
【0055】
[比較例1〜2]
α−イミノ酸型配位子化合物とは異なる錯化剤を用いた際の結果:実施例1において錯化剤として用いたキナルジン酸を以下の表2に記載した錯化剤に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下2−アルケニル化した。表2に、錯化剤、物質量(mg)、モル量(mmol)、2−フェニルエチルアミンの転化率(%)、2−アルケニル化合計収率(%)、モノ(2−アルケニル)化体(MA)収率(%)、ジ(2−アルケニル)化体(DA)収率(%)の順に結果をまとめた。
【0056】
【表2】
【0057】
リン系配位子であるトリフェニルホスフィンやスルホン酸系配位子であるp−トルエンスルホン酸を用いた場合は、2−アルケニル化体の収率は低く、副反応(アセチル化反応)が主反応として優先すると考えられる。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、遷移金属前駆体を酢酸パラジウム(4.4mg,0.02mmol)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、転化率<1%、2−アルケニル化合計収率<1%で2−アルケニル化反応は殆ど進行せず目的物は全く得られなかった。
【0059】
[比較例4]
実施例1において、2−アルケニル化剤である酢酸アリルをアリルアルコール(1.7g,30mmol)(一般式(1)のR、R、R、R、及びRは全て水素原子であり、XはHO−である)に変更した以外は実施例1と全く同じ条件下、2−アルケニル化した。反応後の溶液を分析した結果、転化率<1%、2−アルケニル化合計収率<1%で2−アルケニル化反応は殆ど進行せず目的物は全く得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の2−アルケニルアミン化合物の製造方法によれば、2−アルケニル化反応に直接寄与しない溶媒以外の添加剤を使用することなく、2−アルケニル化剤により一級又は二級のアミノ基を選択的に2−アルケニル化させることにより2−アルケニルアミンを高反応率で製造することができる。2−アルケニル化剤の代表例であるアリル化剤には、大量に供給可能で安価なカルボン酸アリルエステルを用いることができ、これらのアリル化剤はアリルアルコールに比べアリル化剤としての反応性が高く、毒性も低いことから工業化時の安全性も高い手法であり、生産性、操作性の観点から非常に有益である。
図1