特許第6000259号(P6000259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000259止血障害治療用第II因子およびフィブリノーゲン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000259
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】止血障害治療用第II因子およびフィブリノーゲン
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20160915BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160915BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20160915BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   A61K37/475
   A61K37/02
   A61P7/04
   A61P43/00 121
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-532104(P2013-532104)
(86)(22)【出願日】2011年9月19日
(65)【公表番号】特表2013-538863(P2013-538863A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2011066241
(87)【国際公開番号】WO2012045569
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】61/390,224
(32)【優先日】2010年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508098350
【氏名又は名称】メドイミューン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MedImmune Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】アン・ロヴグレン
(72)【発明者】
【氏名】ケニー・ハンソン
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−513349(JP,A)
【文献】 特表2007−508820(JP,A)
【文献】 特開平10−045620(JP,A)
【文献】 特開平07−145075(JP,A)
【文献】 特開平08−059505(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0159733(US,A1)
【文献】 特表2001−517636(JP,A)
【文献】 ANESTHESIA & ANALGESIA,2008年 4月,V106 N4,P1070-1077
【文献】 BRITISH JOURNAL OF ANAESTHESIA,2006年10月,V97 N4,P460-467
【文献】 INTENSIVE CARE MEDICINE,1999年10月,V25 N10,P1105-1110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/36
MEDLINE/CA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における希釈性凝固障害に関連する止血障害を正常化するための医薬であって、(1)FII、(2)FIIおよびFVIIaの組み合わせ、(3)フィブリノーゲンとFIIおよびFVIIaの組み合わせ、並びに(4)フィブリノーゲンとFIIからなる群から選択される凝固因子治療薬を含み、ここで、FIIは、1〜10mg/kgの用量で投与され、フィブリノーゲンは、12.5〜200mg/kgの用量で投与され、該医薬は、凝固因子FV〜FXIIIのうちの上記以外の凝固因子を含まない、医薬。
【請求項2】
希釈性凝固障害に関連する止血障害を有する哺乳動物の最大血餅硬度(MCF)を増大させるための医薬であって、(1)FII、(2)FIIおよびFVIIaの組み合わせ、(3)フィブリノーゲンとFIIおよびFVIIaの組み合わせ、並びに(4)フィブリノーゲンとFIIからなる群から選択される凝固因子治療薬を含み、ここで、FIIは、1〜10mg/kgの用量で投与され、フィブリノーゲンは、12.5〜200mg/kgの用量で投与され、該医薬は、凝固因子FV〜FXIIIのうちの上記以外の凝固因子を含まない、医薬。
【請求項3】
希釈性凝固障害に関連する止血障害を有する哺乳動物の凝固時間(CT)を短縮させるための医薬であって、(1)FII、(2)FIIおよびFVIIaの組み合わせ、(3)フィブリノーゲンとFIIおよびFVIIaの組み合わせ、並びに(4)フィブリノーゲンとFIIからなる群から選択される凝固因子治療薬を含み、ここで、FIIは、1〜10mg/kgの用量で投与され、フィブリノーゲンは、12.5〜200mg/kgの用量で投与され、該医薬は、凝固因子FV〜FXIIIのうちの上記以外の凝固因子を含まない、医薬。
【請求項4】
希釈性凝固障害に関連する止血障害を有する哺乳動物のトロンビン生成を改善するための医薬であって、(1)FII、(2)FIIおよびFVIIaの組み合わせ、(3)フィブリノーゲンとFIIおよびFVIIaの組み合わせ、並びに(4)フィブリノーゲンとFIIからなる群から選択される凝固因子治療薬を含み、ここで、FIIは、1〜10mg/kgの用量で投与され、フィブリノーゲンは、12.5〜200mg/kgの用量で投与され、該医薬は、凝固因子FV〜FXIIIのうちの上記以外の凝固因子を含まない、医薬。
【請求項5】
前記希釈性凝固障害が、周術期出血、術後出血または分娩後出血と関係している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項6】
前記FIIが組換えヒトFII(rhFII)である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
前記FVIIaが組換えヒトFVIIa(rhVIIa)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項8】
治療を必要としている前記哺乳動物が、2g/L未満、1g/L未満または0.5g/L未満の血中フィブリノーゲン濃度レベルを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項9】
治療を必要としている前記哺乳動物が、200mg/dL未満、150mg/dL未満、100mg/dL未満または50mg/dL未満の血中フィブリノーゲン濃度レベルを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
前記止血障害が、哺乳動物の推定全血液体積の30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、80%を超えるまたは85%を超える失血と関係している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項11】
希釈性凝固障害が、正常血液量または血行力学的安定性の回復に起因する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項12】
血中フィブリノーゲン濃度を0.5g/Lよりも上昇、1g/Lよりも上昇、1.5g/Lよりも上昇または2mg/Lよりも上昇させるのに十分な量のフィブリノーゲンが投与される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項13】
前記凝固因子治療薬が、凝固時間を40秒〜60秒短縮する用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項14】
前記凝固因子治療薬が、最大血餅硬度を10mm〜30mmに増大させる用量で投与される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項15】
前記凝固因子治療薬の投与により、投与後少なくとも2時間、正常化された凝固が維持される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項16】
FIIとFVIIaが少なくとも1:90の比で該医薬に含まれる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項17】
前記凝固因子治療薬が、(1)FIIまたは(2)フィブリノーゲンとFIIである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は止血障害の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
止血とは、損傷した血管からの失血を止める過程をいう。凝固または血餅の形成は、止血の重要な一部である。傷からの出血を止めるために、損傷した血管壁は血小板およびフィブリンを含む血餅で覆われる。凝固不全は出血(bleeding)(出血(hemorrhage))または凝固(血栓形成)リスクの増大に繋がり得る。
【0003】
患者の大量の出血または輸血は、一般に凝固障害と関係する。この凝固障害は、血液の希釈による出血傾向の増大と定義される希釈性凝固障害によって引き起こされ得る。体液補償(fluid compensation)は、血圧を正常化し、循環ショックを避けるための、広範囲の失血に対する従来の治療法である。しかしながら、体液補償(fluid compensation)は、残った血液中の凝固因子を希釈し、それらの機能を損なうため、致命的な出血の増大をもたらし得る。
【0004】
凝固に繋がる生体内の生化学的経路は複雑であり、多数の因子と補助因子を必要とする。ローマ数字のI〜XIIIで表記される(III、IVおよびVIの表記は使用されていない)10個の因子が存在する。多くの関連する因子および補助因子が生化学的経路の活性を調節する。例えば、組織因子の経路では、血管が損傷を受けると、第VII因子(ローマ数字で命名された因子に対する慣例通り、FVIIと略記)が、組織因子発現細胞(間質線維芽細胞および白血球)で発現する組織因子(TF)と接触する。これにより、活性化複合体(TF−FVIIa)が生成する。TF−FVIIaはFIXおよびFXを活性化する。FVII自身はトロンビン、FXIa、プラスミン、FXIIおよびFXaにより活性化される。TF−FVIIaによるFXの活性化FXaへの変換は、組織因子経路阻害剤(TFPI)によって、ほぼ直ちに阻害される。FXaおよびその補助因子FVaはプロトロンビナーゼ複合体を生成し、これはプロトロンビンをトロンビンへと活性化させる。その後、トロンビンは、FVおよびFVIII(これらはFXIを活性化し、これが次にFIXを活性化する)を含む凝固カスケードの他の成分を活性化し、フォンヴィレブランド因子(vWf)に結合しているFVIIIを活性化して解放する。FVIIIaはFIXaの補助因子であり、これらは共に「テナーゼ」複合体を形成し、これはFXを活性化し、このサイクルの中に最終的にフィードバックする。経路の活性化は、活性化トロンビンのバーストを引き起こす。このサイクルで活性化されたトロンビンは、フィブリノーゲンをフィブリンに変換することができる。フィブリンは血小板と共に血餅を形成するタンパク質である。
【0005】
プロトロンビン(FII)は肝臓で生成され、プロトロンビンの10個のグルタミン酸をガンマカルボキシグルタミン酸に変換するビタミンK依存反応において翻訳後修飾される。ビタミンKの欠乏または抗凝血剤ワルファリンの投与は、第II因子のグルタミン酸残基のGlaへの変換を阻害し、凝固カスケードの活性化速度を遅くする。トロンビン(FIIa)は、活性化因子X(FXa)によってFII上の2か所が酵素により開裂することによって生成される。FXaの活性は活性化第V因子(FVa)との結合により大きく亢進する。ヒト成人では、プロトロンビン活性の正常血中濃度は、約1.1単位/mlであると測定されている。プロトロンビンの新生児血漿中濃度は、誕生1日後の約0.5単位/mlから、生後6か月の約0.9単位/mlへと、誕生後着実に増加し正常な成人濃度に達する。
【0006】
プロトロンビンから生成されるトロンビンは、凝固カスケードの中で多くの効果を有する。可溶性フィブリノーゲンを不溶性のフィブリン線維に変換するのも、多くの他の凝固関連反応を触媒するのもセリンプロテアーゼである。Al Dieriらは、凝固因子が先天的に様々に欠乏している患者の凝固因子濃度、トロンビン生成のパラメータおよび失血量の関係を調べた。著者らは、出血傾向がトロンビン生成量と直接関係しており、トロンビン生成量はFIIに対して直線的に変化することを示した。Al Dieriら“Thromb Haemost” 2002年,88:576−82。Fenger−Eriksonらもまた、希釈性凝固障害の場合、ヒドロキシエチルデンプン溶液で32%に希釈後には、フィブリノーゲンは別として、FII、FXおよびFXIIIを含む凝固因子もまた予想濃度未満に低下することを示した。Fenger−Eriksenら“J Thromb Haemost” 2009年,7:1099−105。
【0007】
フィブリノーゲン(第I因子またはFI)は、肝臓で合成され、凝血時にトロンビンによってフィブリンに変換される可溶性血漿糖タンパク質である。凝固カスケード中のプロセスにより、プロトロンビンは活性化セリンプロテアーゼトロンビンに変換され、それはフィブリノーゲンをフィブリンに変換する。その後、フィブリンは第XIII因子により架橋され、血餅を形成する。血漿中のフィブリノーゲンの正常濃度は1.5〜4.0g/Lまたは約7μMである。顕著な失血が生じた場合、他のいかなるプロコアギュラント因子または血小板よりもフィブリノーゲンが危険な低血漿中濃度に達する。Hiippalaら“Anesth Analg” 1995年,81:360−5;Singbartlら“Anesth Analg” 2003年,96:929−35;McLoughlinら“Anesth Analg” 1996年,83:459−65。少量のコロイド(1000ml未満)はフィブリンの重合を阻害し、それにより血餅強度を低下し得る。Innerhofer Pら“Anesth Analg” 2002年,95:858−65;Mittermayrら“Anesth Analg” 2007年;105:905−17;Friesら“Anesth Analg” 2002年,94:1280−7。いくつかの勧告では、フィブリノーゲン濃度が0.5g/L未満の4人の患者の4人ともに、びまん性の微小血管出血が見られたという研究結果に基づき、フィブリノーゲン濃度の閾値は1g/Lであるとしている。Spahnら“Crit Care” 2007年,11:R17;Stainsbyら“Br J Haematol” 2006年;135:634−41;Ciavarellaら“Br J Haematol” 1987年;67:365−8。対照的に、周産期の出血、神経外科および心臓外科からの最近の臨床データは、周術期および手術後の出血傾向が、1.5〜2g/L未満のフィブリノーゲン濃度で既に増加していることを示している。Charbitら“J Thromb Haemost” 2007年,5:266−73;Gerlachら“Stroke” 2002年,33:1618−23;Blomeら“J Thromb Haemost” 2005年,93:1101−7;Ucarら“Heart Surg Forum” 2007年,10:E392−6。
【0008】
希釈性凝固障害などの出血障害と関連する凝固の問題は、止血療法により対処することができる。止血療法の目的は、失血、輸血の必要性および死亡率を最小限に留めることにある。Injury Severity Score(ISS)が同じ外傷患者では、凝固障害の結果として、死亡率は事実上、単純に2倍である。Brohiら“J Trauma” 2003年,54:1127−30。複数の外傷がある患者の大量の出血または輸血は凝固障害と関係する。したがって、十分な止血を行うためには、十分な量のトロンビンと十分な量の凝固性物質が必要である。凝固においてキーとなる要素は、血小板表面におけるトロンビンの生成と、フィブリンを生成するためのトロンビンによるフィブリノーゲンの開裂である。Brohiら“J Trauma” 2003年,54:1127−30。十分なトロンビンが生成されれば、フィブリノーゲンが、第XIII因子(FXIII)の存在下で形成中の血餅の硬度を決定する安定なフィブリンに変換される。Korteら“Hamostaseologie” 2006年,26:S30−5。
【0009】
複数の鈍的外傷がある患者に大量失血がある場合、積極的に輸液置換を行うことが、正常血液量を維持するために重要である。Sperry JLら“J Trauma” 2008年;64:9−14。しかしながら、大量の晶質またはコロイド溶液の投与による血行力学的安定化は、希釈性凝固障害を引き起こす。正常血液量性血液希釈により引き起こされる血漿凝固障害の臨床効果は、数編の刊行物で以前に調査されている。Innerhofer Pら“Anesth Analg” 2002年;95:858−65,Singbartlら“Anesth Analg” 2003年;96:929−35.Mittermayrら“Anesth Analg” 2007年;105:905−17。
【0010】
希釈性凝固障害は、通常、新鮮な凍結血漿(FFP)と、もし入手可能であれば寒冷沈殿物で治療する。Stainsbyら“Br J Anaesth” 2000年,85:487−91;Spahnら“Crit Care” 2007年,11:Rl7。しかしながら、危険なまでに低下した凝固因子の濃度は、FFPの投与では、その凝固因子の濃度の低下と体積膨張効果のために、関心のタンパク質濃度の意図する増加を相殺することになって、殆ど修正することができない。Mittermayer 2007年,supra;Scaleaら“Ann Surg”,2008年,248:578−84;Chowdhuryら“Br J Haematol” 2004年,125:69−73;Stanworthら“Br J Haematol” 2004年,126:139−52;Abdel−Wahabet“Transfusion” 2006年,46:1279−85。さらに、FFPの投与は、肺傷害、複数の臓器不全および感染症の発病などのいくつかの合併症に関係する。Watson GAら“J Trauma” 2009年,67:221−7;Saraniら“Crit Care Med” 2008年,36:1114−8;Daraら“Crit Care Med.”2005年,33:2667−71。さらに、必要な解凍プロセスは、急性で重篤な出血の場合に特に重要な緊急治療を遅らせる。
【0011】
希釈性凝固障害に対するフィブリノーゲン濃縮液投与の効果は、生体外でも、数種類の動物モデルでも、臨床診療でも、以前に調べられている。Friesら“Br J Anaesth” 2005年,95:172−7;Friesら“Anesth Analg” 2006年,102:347−5l;Velik−Salchnerら“J Thromb Haemost” 2007年,5:1019−25;Stingerら“J Trauma” 2008年,64:S79−85。フィブリノーゲン濃縮液の単独投与は血餅強度を正常化するが、凝固の開始を正常化するものではない。何故なら、それはトロンビン依存反応であるからである。Friesら“Br J Anaesth” 2005年,95:172−7;Friesら“Anesth Analg” 2006年,102:347−5l;Fenger−Eriksenら“J Thromb Haemost” 2009年,7:795−802。このため、フィブリノーゲンと、プロトロンビン複合体濃縮液(PCC)などの凝固因子複合体との組み合わせが以前より研究されてきている。
【0012】
特に、Friesらは、希釈性凝固障害の反転に対するフィブリノーゲン置換の効果を生体外モデルで調べた。“British Journal of Anaesthesia”,2006年,97(4):460−467。乳酸リンゲル液、4%修飾ゼラチン溶液または6%ヒドロキシエチルデンプン(HES)130/0.4を使用する他、乳酸リンゲル液と2つのコロイド溶液のいずれかとの組み合わせも使用して、5人の健康な男性ボランティアからの血液を60%に希釈した。Friesら“Anesth Analg”;2006年,102:347−51。その後、分注した各希釈血液試料を、3通りの異なる濃度のフィブリノーゲン(0.75、1.5および3.0g/L)とともにインキュベートした。改良トロンボエラストグラフィー(ROTEM(登録商標);Pentapharm,Munich,Germany)により測定した。60%に希釈後、凝固時間は増加し、一方、血餅硬度とフィブリンの重合は顕著に低下した。フィブリノーゲン投与後、凝固時間は短縮した。フィブリノーゲンを添加すると、全ての希釈血液試料で血餅の硬度もフィブリンの重合も増大した。ROTEM(登録商標)変数に対する生体外でのフィブリノーゲン置換の効果は、フィブリノーゲンの用量と、血液試料の希釈に使用した溶液の種類に依存した。
【0013】
別の研究で、Friesらは、豚モデルで、血液希釈および無制御出血の条件下、フィブリノーゲンとプロトロンビンの複合体濃縮液(PCC)の効果を調べた。Friesら“British Journal of Anaesthesia”,2006年,97(4):460−467。推定全血液体積の65%になる大失血後のHES(2500ml)による輸液は、従来の凝固試験およびROTEM(登録商標)分析による測定によれば、希釈性凝固障害をもたらした。回収赤血球細胞濃縮液のみを受けた動物と、プラセボ群では、ROTEM(登録商標)パラメータに統計的に有意な僅かな改善が認められた。しかしながら、治療群では、フィブリノーゲンおよびPCCのさらなる置換により、凝固パラメータが正常化した。プラセボの場合と比較して、フィブリノーゲンとPCCで治療した動物では、標準肝臓傷害後の失血および死亡率が顕著に減少した。
【0014】
重篤な病気の患者の凝固時間が長い場合や大量出血の場合、PCCが臨床診療でしばしば投与される。Schochlら“Anaesthesia” 2009年。PCCは、第II、VII、IXおよびX因子、並びにタンパク質Cおよび少量のヘパリンに対応し、遺伝性の凝固障害の治療に、またビタミンKアンタゴニスト投与後の抗凝固性の反転に長年使用されてきた。大量失血およびHESの投与により引き起こされた後天的凝固因子欠損を示す豚における最近のPCC製剤を使用について入手可能な動物データは、僅かに過ぎない。Dickneiteら“Anesth Analg” 2008年,106:1070−7;Dickneiteら“Br J Anaesth” 2009年,102:345−54;Dickneiteら“J Trauma” 2009年。
【0015】
Staudingerらは、重篤な病気の患者の血漿凝固に対するPCCの効果を調べ、第IX因子2,000単位のPCC(平均30IU/kg体重)が、凝固活性がやや減少した患者の第II、第VII、第IXおよび第Xの凝固因子の血漿中濃度を増加させることによって、プロトロンビン時間(PT)を正常化させることを指摘した。Staudingerら“intensive Care Med” 1999年,25:1105−10。しかしながら、トロンビンの生成に関しては、PCCはrhFVIIaよりはるかに高い活性を有するようである。Dickneiteら“J Trauma” 2009年。PCCは、特に後天性凝固障害を有する患者において、血栓閉塞性合併症に対するリスクの増大と関係し得る。Bagotら“Thromb Haemost” 2007年,98:1141−2;Warrenら“Ann Emerg Med” 2009年,53:758−61;Kohlerら“Thromb Haemost” 1998年,80:399−402。
【0016】
凝固因子の補給など、出血および失血に対するさらなる治療方法が各種提案されている。例えば、米国特許出願公開第2003/0129183号明細書、同第2004/0198647号明細書、同第2004/0237970号明細書、同第2005/0282771号明細書、同第2006/0025336号明細書、同第2006/0211621号明細書、同第2007/0232788号明細書、同第2008/0014251号明細書、同第2008/0188400号明細書、同第2008/0267940号明細書、同第2010/0093607号明細書、同第2009/0098103号明細書、同第2009/0148502号明細書、同第2009/0175931号明細書、同第2009/0232877号明細書および同第2010/0086529号明細書を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
止血を回復するための組成物および方法が各種提案され、研究されてきたにもかかわらず、希釈性凝固障害などの止血障害を治療する改良された方法に対するニーズが当該技術分野で依然存在する。
【0018】
出血障害または失血患者の止血を達成するには、十分な量のトロンビンと十分な凝固性基質(フィブリノーゲン)が必要である。凝固における重要な観点は、血小板表面でのトロンビンの生成と、フィブリンを生成するためのトロンビンによるフィブリノーゲンの開裂である。十分なトロンビンが生成され、十分なフィブリノーゲンが存在するならば、フィブリノーゲンが安定なフィブリンに変換される。これは第XIII因子(FXIII)の存在下で形成される血餅の硬度を決定する。
【0019】
本発明は、組換えヒト第II因子(rhFII)単独、または3つの組換えヒト凝固因子、rhII、rhFXおよびrhVIIa(3F)の組み合わせを含む組換え止血剤を使用する、無制御出血の治療または最小化であって、止血剤はフィブリノーゲンを併用または併用しない治療または最小化を提供する。特に、本発明は、希釈性凝固障害の治療における、そのような組換え止血剤の効果を示す。驚いたことに、rhFIIの単独、またはフィブリノーゲンとの併用投与は、正常な止血を回復するのに十分である。rhFIIの単独、またはフィブリノーゲンとの併用投与は、出血障害または失血を制御するために現在提供されている他の標準形態の治療では起こり得る潜在的に深刻な血栓閉塞症の合併症を避けることができる。
【0020】
本明細書における刊行物への参照はいかなるものも、そのような刊行物が以下に開示する本発明の先行技術であることを認めるものであると解釈されるべきでないことに留意すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
止血障害の治療または止血の正常化は、(1)FII単独;(2)PCC;および(3)FII、FXおよびVIIaの3因子の組み合わせからなる群から選択される凝固因子治療薬の投与を含み得る。凝固因子治療薬(止血剤)は、任意選択により、フィブリノーゲンと組み合わせて投与することができる。止血剤は、組換えヒト因子、例えば、rhFII、rhFXおよびrhVIIa(組み合わせヒト因子の、この3種の因子の組み合わせは、3Fと略記し得る)、またはrhFII単独とすることができる。いくつかの実施形態では、止血障害または止血正常化の有効な治療は、フィブリノーゲンとrhFIIを共投与することを含み得る。治療は他の凝固因子を実質的に補給せずに行うことができる。したがって、いくつかの実施形態では、止血障害の有効な治療は、(1)FII単独、例えばrhFII;(2)3F;(3)フィブリノーゲン、並びにFII、FVIIaおよびFXの組み合わせ;または(4)フィブリノーゲンとFIIからなる群から選択される凝固因子治療薬を投与することを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】肝臓を切開し、生理食塩水のコントロール、フィブリノーゲン濃縮液(fib)、PCCと組み合わせたフィブリノーゲン濃縮液(PCC+fib)、3因子の組み合わせと組み合わせたフィブリノーゲン濃縮液(3F+fib)、または組換えヒトFIIと組み合わせたフィブリノーゲン濃縮液(FII+fib)を投与した後の、体重1kg当たりの失血量(ml)を、平均+/−SDで示す。
図2A-B】ベースライン(BL)での、血液抜き取り後(BW)、血液希釈後(HD)、試験薬剤投与後(TH)、および観察終了時(END)の、ベースライン(BL)でのROTEM(登録商標)分析。試験薬剤は、フィブリノーゲン濃縮液(fibrinogen)、PCCと組み合わせたフィブリノーゲン濃縮液(PCC)、組換えヒトFIIと組み合わせたフィブリノーゲン濃縮液(FII)、3因子組み合わせと組み合わせたフィブリノーゲン濃縮液(3F)、または生理食塩水のコントロールに対応する。凝固時間(CT、秒)(図2A)と最大血餅硬度(MCF、mm)(図2B)を示す。統計的に有意な差(P<.001)を、生理食塩水群とフィブリノーゲン群と比較して示す。
図3】(1)生理食塩水のコントロール;(2)8mg/kgの組換えヒトFII(rhFII);(3)それぞれ4.0、0.32および0.006mg/kgのrhFII+rhFX+rhFVIIaに対応する3因子の組み合わせ(低用量);(4)それぞれ8.0、0.64および0.012mg/kgのrhFII+rhFX+rhFVIIaに対応する3因子組み合わせ(高用量);(5)40U/kgのFEIBA VH(登録商標)(活性複合体濃縮液(APCC);Baxter);(6)第1回用量200μg/kg、その1時間後の第2回用量100μg/kgのNovo Seven(登録商標)(凝固第VIIa因子;Novo Nordisk);またはHaemocomplettan(登録商標)HS(フィブリノーゲン濃縮液;CSL−Behring)を投与後の、体重1k当たりの失血量(ml)、個々の値および中央値(横棒)で。
図4A-B】上記図3で記載した凝固因子またはそれらの組み合わせを投与した後のROTEMの結果であり、ベースライン、希釈後、薬剤投与後、および実験終了時にそれぞれ採取したex−TEM(組織因子)活性化全血試料のa)凝固時間(CT)、b)最大血餅硬度(MCF)を、平均値±SEMで示す。
図5A-D】上記図3で記載した凝固因子またはそれらの組み合わせを投与した後のトロンビン生成(較正自動トロンボグラム)結果であり、ベースライン、希釈後、薬剤投与後、および実験終了時に得られた血漿試料に対する(A)ラグタイム、(B)ピークまでの時間、(C)ピーク、(D)内因性トロンビンポテンシャルを平均値±SEMで示す。
図6】上記図3で記載した凝固因子またはそれらの組み合わせを投与した後に、ベースライン、希釈後、薬剤投与後、および実験終了時に採取した血漿試料中のトロンビン−抗トロンビン複合体の濃度を中央値で示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、凝固因子治療薬または1種以上の凝固因子の組み合わせの投与による、無制御出血の治療または止血の正常化を提供する。特に、本発明は、FIIまたは3因子組み合わせ(FII、FXおよびVIIa)の投与による、無制御出血の治療または止血の正常化を提供する。ある実施形態では、止血剤または凝固因子は、組換えヒト凝固因子である。他の実施形態では、凝固因子はフィブリノーゲンと併用または併用せずに投与される。ある他の実施形態では、凝固因子治療薬はPCC(FII、FVII、FIXおよびFX、任意選択により少量のヘパリンを含む)である。
【0024】
希釈性凝固障害の発病および治療の効果は、回転式トロンボエラストメトリー(ROTEM(登録商標))などの従来の凝固試験や、1pMのTF活性化剤を使用して行う較正自動トロンボグラム(CAT)で測定されるトロンビン生成により測定することができる。
【0025】
凝固およびそれに続く線維素溶解過程における凝固因子、それらの阻害剤、抗凝固剤、血液細胞、特に血小板の相互作用は、ROTEM(登録商標)により調べられる。レオロジー条件は、静脈中の血液の緩慢な流れを模擬している。簡単に説明すると、血液を電子ピペットを使用して使い捨てキュベットに入れる。細いスプリングと結合されていてゆっくりと前後に振動するシャフトに、使い捨てのピンを装着する。血液試料中に懸垂しているピンの信号は、光学検出システムにより伝送される。この機器は、形成または分解中の血餅の全段階における弾性の変化を測定し、図示する。通常の試験温度は37℃であるが、別の温度を選択することもできる。一次的結果は、血餅が形成または分解するときの弾性対時間を示す反応曲線である。
【0026】
ルーチンの使用では、凝固曲線は4つのパラメータで説明される。凝固時間(CT)は血液に開始薬剤を加えてから血餅の形成が開始するまでの待ち時間である。CTが延びるのは、凝固障害、主として凝固因子またはヘパリン(使用した試験に依る)による結果であり得る。CTの短縮は凝固性の亢進を示す。アルファ角は、曲線の接線の角度であり、血餅形成時間(CFT)は、CTから血餅硬度が20mmに達するまでの時間である。これらのパラメータは固体の血餅の形成速度を意味し、主に血小板の作用の影響を受けるが、フィブリノーゲンおよび凝固因子も関与している。CFTの延長(または、アルファ角の縮小)は、通常、乏しい血小板作用、少ない血小板数、フィブリン重合障害、またはフィブリノーゲンの欠乏によって引き起こされる。CFTの短縮(または、アルファ角の増大)は、凝固性の亢進を示す。最大血餅硬度(MCF)は曲線の垂直方向の最大幅である。これはフィブリンおよび血小板血餅の絶対強度を反映している。MCFの低さは、血小板の数の減少もしくは作用の低下、フィブリノーゲン濃度の低下もしくはフィブリン重合障害、または第XIII因子の活性低下を示す。機械的強度の小さい血餅は、重大な出血のリスクを表す。
【0027】
異なるパラメータおよび効果を強調するために、ROTEM(登録商標)の変形を使用してもよい。例えば、EXTEMは、(外因性の)止血システムに対するスクリーニング試験である。EXTEM試薬は、組織因子を使用して止血を穏やかに活性化させる。その後、この結果は、外因性の凝固因子、血小板およびフィブリノーゲンの影響を受ける。
【0028】
較正自動トロンボグラム(CAT)はHemkerらによって説明されている(“Pathophysiol Haemost Thromb”,2002年,32:249−253)。蛍光を発する「遅い」トロンビン基質を使用し、同時に使用している校正物質と連続的に比較することにより、トロンビン生成を自動的にモニターすることができる。得られる「トロンボグラム」から、貧血小板血漿中における凝固性低下および凝固性亢進が測定される。
【0029】
止血障害の治療または止血の正常化は、凝固因子治療薬、例えばFIIおよび任意選択のFXとFVIIa、またはフィブリノーゲンとFIIとの組み合わせ、任意選択によりさらにFXとFVIIaを組み合わせた治療薬を投与することを含んでもよい。止血剤は組換えヒト因子、例えばrhFII、rhFXおよびrhVIIa、またはrhFII単独とすることができる。いくつかの実施形態では、止血障害の有効な治療は、FIIの投与、またはFII、FXおよびFVIIaの共投与、あるいはフィブリノーゲンとFIIとの共投与、任意選択によりさらにFXとFVIIaとの共投与で構成することができ、ここで、FII、FXおよび/またはFVIIaは、組換え技術で製造されたヒト因子とすることができる。
【0030】
止血の治療または正常化は、他の凝固因子を実質的に補給せずに行うことができる。いくつかの実施形態では、止血障害の治療は、FII、またはフィブリノーゲンとFIIとの共投与から構成することができ、ここで、FIIは組換えヒトFII(rhFII)とすることができる。
【0031】
用語「実質的な補給」は、本発明で記載したものに加えて、凝固因子などの他の成分を追加することであって、そのような追加の凝固因子を補給したときの1種以上の止血剤の効果が、補給なしの1種以上の止血剤を投与したときの効果と相当に異なるような量で追加することをいう。
【0032】
本明細書では、「組換え」タンパク質には、組換え技術で作られたタンパク質が含まれる。そのようなタンパク質には、天然タンパク質に似たものや、活性、タンパク質の半減期、タンパク質の安定性、タンパク質の局在性、および有効性を増進するように修飾したものが含まれる。米国特許出願公開第2005/0164367号明細書を参照されたい。これは、参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0033】
本明細書では、「治療」とは、有益または所望の臨床結果を得る方法である。有益または所望の臨床結果には、症状の緩和、出血の減少、個体の安定化および出血の防止が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
句「実質的に構成される」は、患者に対し他の従来の治療を同時に行うのをやめる必要があることを意味するものではなく、例えば、実質的に、FIIの投与または有効量のフィブリノーゲンとFIIとの共投与からなる治療が、他の凝固因子、特に、ローマ数字V〜XIIIで記載されるものなどのタンパク質凝固因子のかなりの補給が、その直前にも、同時にもあるいは直後にも行われないことを意味する。いくつかの実施形態では、実質的にFIIの単独投与、または有効量のフィブリノーゲンとFIIの共投与からなる治療は、輸血、凍結血小板、回収血液細胞、晶質および/またはコロイドを含む液体の投与、並びに、輸血血液、凍結血小板製剤などにおいて内因性であり得るものを超える凝固因子の積極的な補給を含まない他の従来の治療などの別の処置と同時に行われる。他の実施形態では、実質的に、有効量のFII、3F、フィブリノーゲンとFIIまたはフィブリノーゲンと3Fの投与からなる治療を行っているとき、かなりの量の凝固因子(例えば、第V〜XIII因子)を含む組成物の別の投与を含む処置を同時に行うことを必要としないか、または所望されない場合があり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、治療を必要としている哺乳動物の外傷性出血障害を治療する方法は、(a)PCC(FII、FX、FIX、FVIIおよびタンパク質C);(b)rhFII、rhFVIIaおよびrhFX;並びに(c)rhFII単独からなる群から選択される凝固因子治療薬を投与することを含むことができる。ここで、(a)、(b)または(c)は任意選択によりフィブリノーゲンと組み合わせて提供される。同様に、哺乳動物の外傷性出血と関連する止血障害を正常化する方法は、(a)PCC(FII、FX、FIX、FVIIおよびタンパク質C);(b)rhFII、rhFVIIaおよびrhFX;並びに(c)rhFII単独からなる群から選択される凝固因子治療薬を投与することを含むことができる。ここで(a)、(b)または(c)は任意選択によりフィブリノーゲンと組み合わせて提供される。さらに、外傷性出血障害による死亡率を低下させる方法は、(a)PCC(FII、FX、FIX、FVIIおよびタンパク質C);(b)rhFII、rhFVIIaおよびrhFX;並びに(c)rhFII単独からなる群から選択される凝固因子治療薬を投与することを含むことができる。ここで、(a)、(b)または(c)は任意選択によりフィブリノーゲンと組み合わせて提供される。
【0036】
止血障害の治療または止血の正常化方法は、FIIおよび任意選択によりフィブリノーゲンを含む1種以上の止血剤を含むか、または実質的にそれらからなる組み合わせ治療薬を投与することにより、最大血餅硬度(MCF)を増加させること、凝固時間(CT)を短縮させること、および/または、哺乳動物の外傷性出血障害に関連する出血または大量失血後のトロンビンの生成を改善することを含むことができる。
【0037】
これらの方法のいずれにおいても、凝固因子治療薬は、(a)PCC(FII、FX、FIX、FVIIおよびタンパク質C);(b)rhFII、rhFVIIaおよびrhFX;並びに(c)rhFIIからなる群から選択することができる。1つの実施形態では、凝固因子治療薬は、FII、FVIIaおよびFXの組み合わせである。他の1つの実施形態では、凝固因子治療薬は、FIIまたはrhFII単独である。他の実施形態では、凝固因子治療薬は、他の止血因子、特に他のローマ数字表記の凝固因子を実質的に補給しない、rhFII、rhFVIIaおよびrhFXの組み合わせ、またはrhFII単独とすることができる。すなわち、いくつかの実施形態では、方法は、他の止血因子、特に第V〜XIII因子を実質的に補給せずに、rhFII、および任意選択によるフィブリノーゲンを投与することを含むことができる。
【0038】
代替の実施形態では、治療を必要としている哺乳動物の外傷性出血障害を治療する方法は、上記凝固因子治療薬を投与することから構成することができる。同様に、哺乳動物の外傷性出血障害と関連する止血障害の正常化方法は、上記凝固因子治療薬を投与することから構成することができる。さらに、外傷性出血障害による死亡率を低下させる方法は、上記凝固因子治療薬を投与することから構成することができる。
【0039】
止血障害の治療または止血の正常化方法は、凝固因子治療薬を投与することから構成することができる方法により、最大血餅硬度(MCF)を増加させること、凝固時間(CT)を短縮すること、および/または、哺乳動物の外傷性出血障害と関連する出血または大量失血後のトロンビンの生成を改善することを含むことができる。ある実施形態では、最大血餅硬度は、約10mm〜約40mm、約10mm〜約30mm、約10mm、約15mm、約20mm、約25mm、または約30mmに増加する。他の実施形態では、凝固時間は、約35〜約75秒、あるいは約35秒、約40秒、約45秒、約50秒、約55秒、約60秒、約65秒、約70秒、または約75秒に短縮する。上記のように、凝固因子治療薬は、(a)PCC(FII、FX、FIX、FVIIおよびタンパク質C);(b)rhFII、rhFVIIaおよびrhFX;並びに(c)rhFII単独からなる群から選択することができ、ここで、(a)、(b)または(c)は任意選択によりフィブリノーゲンと組み合わせて提供される。いくつかの好ましい実施形態では、凝固因子治療薬は、(1)FII、FVIIaおよびFXの組み合わせ;または(2)FII単独のいずれかである。凝固因子治療薬は、組換えヒト因子、すなわち、(1)rhFII、rhFVIIaおよびrhFXの組み合わせ、(2)rhFII単独のいずれかを含むことができる。いくつかの実施形態では、方法は、rhFII、および任意選択によりフィブリノーゲンを共投与することから構成することができる。
【0040】
「共投与する」または「共治療する」とは、成分の混合物を投与するか、あるいは共治療薬の成分を、互いに近接した時刻に別々に投与する、例えば、共投与される成分を時間的にオーバーラップした時間内に投与するか、または共投与成分の投与開始もしくは完了から約1時間、または30分、または15分以内に1成分の投与を開始することを意味する。
【0041】
本明細書中に開示した方法において投与する成分は、この分野で十分に確立された手法により処方され、かつ投与される。例えば、フィブリノーゲンとFII、rhFIIまたは3Fは、薬学的に許容可能な担体または賦形剤を使用して、静脈注射または点滴により投与することができる。活性薬剤の製剤に適した担体および賦形剤としては、その成分を摂取した個体に有害な免疫応答を誘起せず、かつ過度の毒性を伴わずに投与することができる医薬品が挙げられる。薬学的に許容可能な賦形剤としては、水などの液体、生理食塩水、グリセロール、砂糖およびエタノールが挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容可能な塩も挙げることができる。そのような塩としては、塩化水素、臭化水素、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸の塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸の塩を含む。さらに、そのようなビヒクル中に、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などの補助物質が含まれていてもよい。薬剤として許容可能な賦形剤についての徹底した議論は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Pub.Co.,18th Edition,Easton,Pa.,1990年)で得られる。
【0042】
止血障害は、凝固障害(例えば、希釈性凝固障害)、外傷性出血、周術期出血、術後出血、分娩後出血などに関係する。止血障害は、約2〜約1.5g/L未満、約1g/L未満、または約0.5g/L未満の血中フィブリノーゲン濃度と関係し得る。止血障害は、哺乳動物の推定全血体積の約30%〜約85%、例えば、約30%超、約40%超、約45%超、約50%超、約55%超、約60%超、約70%超、約80%超、または約85%超の失血と関係し得る。いくつかの実施形態では、希釈性凝固障害は、正常血液量の回復、または血行力学的安定性の回復に起因する。したがって、本明細書で開示する治療を必要とする哺乳動物は、これらの判定基準の1つ以上に合致する哺乳動物であり得る。
【0043】
止血障害にはまた、血友病AおよびB、抑制抗体を有する血友病AおよびBの患者、凝固因子、例えばフィブリノーゲン、FII、FV、FVII、FIX、FVIII、FX、FXI、FXIIおよびFXIIIの欠乏、フォンヴィレブランド因子、FV/FVIIの複合欠乏、ビタミンKエポキシドレダクターゼC1欠乏、ガンマカルボキシラーゼ欠乏;外傷、傷害、血栓症、血小板減少症、脳卒中、凝固障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)に伴う出血;ヘパリン、低分子量ヘパリン、ペンタサッカリド、ワルファリン、小分子抗血栓薬(すなわち、FXa阻害剤)に関係する過剰抗凝固;およびベルナール・スーリエ症候群、グランツマン血小板無力症および貯蔵プール欠乏症などの血小板障害が含まれ得る。
【0044】
止血障害にはまた、深部静脈血栓症、心血管疾患もしくは悪性腫瘍に伴う血栓症、留置カテーテルもしくは他の侵襲性外科的処置に起因する血栓症、および狼瘡などの自己免疫疾患に伴う血栓症などの血栓疾患に関係する出血が含まれ得る。
【0045】
本明細書に記載の方法は、血中フィブリノーゲン濃度を約0.5、約1、約1.5または約2g/L超へと増加させるのに十分な量のフィブリノーゲンを共投与することを含むか、または実質的にそれから構成され得る。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンは、12.5〜200mg/kgの用量、例えば約12.5、25、50、100または200mg/kgの用量が投与される。いくつかの実施形態では、rhFIIは、12、48または10mg/kgの用量が投与される。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンと1種以上の止血剤の投与により、投与後少なくとも2時間は、ほぼ正常な凝固が維持される。
【0046】
いくつかの実施形態では、治療用活性薬剤をキットに組み立てることができる。キットは、フィブリノーゲンと、FII、rhFIIおよび/または3Fだけでなく、これらに限定されないが、生理食塩水およびスクロース溶液などの適当な賦形剤、並びに、これらに限定されないが、糖類、抗酸化剤およびアルブミンなどの、組成物の成分の安定化または有効性のために追加する補助因子を含み得るであろう。キットは、さらに、活性薬剤を注入する器具(例えば、シリンジ)、止血帯、および注入部位を清浄にするアルコールスワブなどの、活性薬剤の送達に関係する他の要素を含むことができる。キットには、縫合材料、針およびピンセットなどの創傷閉鎖に関係する要素を含む他の要素もまた含めることができる。
【0047】
本明細書に開示する方法を、その実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなく、各種の変更が可能であり、かつ等価のものを使用し得ることは明らかであろう。同様に、以下の実施例は、開示の方法の説明として提示するのであって、開示の方法を限定すると解釈されるべきではない。
【0048】
フィブリノーゲンまたはフィブリノーゲン濃縮液は、最終の血餅強度を高めるために、1種以上の止血剤と共に投与することができる。ある実施形態では、フィブリノーゲンとPCC、rhFIIまたは3Fとの組み合わせは、凝固時間を短縮し、トロンビンの生成を改善する。フィブリノーゲンと組み合わされたPCCまたはrhFIIは、無制御出血の治療において、死亡率を低下させるために使用することができる。PCCとフィブリノーゲンの組み合わせの投与は、投与後0.5時間、1時間または2時間まで、凝固を強化するために使用することができる。したがって、rhFIIの使用、特にフィブリノーゲンと組み合わせた使用は、PCCの代替とすることができ、同等の効能を有するが、血栓閉塞性合併症に対するリスクはより低減される。
【0049】
他のいかなる止血剤も補給せずに、フィブリノーゲンとrhFIIの共投与することを含む治療は、少なくとも約60%の血液希釈にも達する重篤な失血後の止血障害を、合併症に対するより低いリスクで正常化するのに有効であり得る。フィブリノーゲンとrhFII含有3Fとの共投与もまた有効である。さらに、有効な治療は、フィブリノーゲンを補給または補給せずにrhFIIまたは3Fを投与することにより実質的に構成することができる。
【実施例】
【0050】
実施例1
方法
外科的準備および測定:研究は、50匹の健康な豚を使用して行った。これらの動物にアザペロン(4mg kg−1IM、神経遮断薬、Stresnil(商標)、Janssen、Vienna、Austria)およびアトロピン(0.1mg kg−1IM)による麻酔前投薬を研究開始の1時間前に行った。プロポフォール(1〜2mg・kg−1IV)により麻酔を導入し、維持した。鎮痛用にピリトラミドを注射した(30mg、半減期が約4〜8時間のオピオイド、Dipidolor(商標)、Janssen社、Vienna、Austria)。気管内麻酔後に、筋弛緩用として0.2mg kg−1・hr−1のパンクロニウムを注射した。挿管後、血液試料の採取のために7.5フレンチカテーテルを大腿動脈に挿入し、血圧を連続測定した。血液抜き取り、コロイドおよび晶質の投与、並びに試験薬剤の投与用に、2本の7.5フレンチカテーテルを両大腿静脈に挿入した。Swan−Ganzカテーテルを右頸静脈に挿入した。
【0051】
実験計画:補液(4ml kg−1)の基本的必要性を、晶質(リンゲルの乳酸塩溶液)により試験の全過程で満たした。標準の希釈性凝固障害を誘導するために、6%HES 130/0.4(Voluven(登録商標)、Fresenius Co.,Bad Homburg、Germany)により正常血液量性血液希釈を行った:大きいカテーテルにより動物から血液を抜き取り、1:1の比でコロイドにより置換した。血液希釈の完了後、抜き取った血液をCell Saver System(Cats(登録商標)、Fresenius社、Vienna、Austria)で処理し、濃縮し、血行力学的に関係する貧血を避けるために再輸液した。得られた凝固障害がROTEM(登録商標)およびEXTEM試薬による測定される臨界レベル:凝固時間(CT)>100秒および最大血餅硬度(MCF)<40mmに達したとき、正常血液量性血液希釈を終了した。動物に、200mg kg−1のフィブリノーゲン濃縮液(Haemocomplettan HS(登録商標)、CSL−Behring)(フィブリノーゲン群)、200mg kg−1のフィブリノーゲン濃縮液と35IU kg−1のPCC(Beriplex(登録商標)、CSL Behring社、Marburg、Germany)(PCC群)、200mg kg−1のフィブリノーゲン濃縮液と4mg kg−1のrhFII濃縮液(AstraZeneca R&D Moelndal社、Sweeden)(FII群)、200mg kg−1のフィブリノーゲン濃縮液と、4mg kg−1のrhFII、0.32mg kg−1のrhFXおよび0.006mg kg−1のrhFVIIaを含む3因子組み合わせ濃縮液(AstraZeneca R&D Moelndal社、Sweeden)(3F群)、または同量の通常生理食塩水(サリン群)をランダムに与えた。フィブリノーゲン濃縮液およびPCCの用量は、以前に刊行された動物実験のデータに基づいた。Sperryら“J Trauma” 2008年,64:9−14;Innerhofer Pら“Anesth Analg” 2002年,95:858−65。
【0052】
上述の凝固因子または凝固因子の組み合わせを投与した後、直ちに、テンプレートを使用して標準肝臓傷害(長さ12cm、深さ3cm)を誘発した。創傷を肝臓の右肝葉上に形成した。研究は、組織検査、凝固分析、血行力学の文書化、肝臓切開を行ったスタッフ、または生起している失血の採取および測定に参加した人々に知らせないでおいた。
【0053】
肝臓の切開後、続いて起こった失血を、動物が出血ショックで死亡するまでの時間の長さで評価した。トロンボエラストメトリー測定に加えて、標準凝固分析(PT、aPTT、フィブリノーゲン、血小板数)を実施し、活性化凝固のパラメータ(D−ダイマーおよびTAT)と、トロンビン生成能力を推定するためのトロンビン生成試験(較正自動トロンボグラム、CAT)を実施した。
【0054】
肝臓外傷の2時間後、生存している動物をカリウム注入により犠牲にした。心臓、肺、腸の一部および腎臓を除去し、微小血管の血栓の発生を調べた。
【0055】
血液サンプリングおよび分析方法:動脈の血液サンプリングを、ベースライン(BL)、血液抜き取り後(BW)、血液希釈後(HD)、試験薬剤による治療後(TH)、および肝臓切開の120分後または予想される死の直前(END)に実施した。全ての血液試料は大腿動脈から抜き取ったが、最初の5mlの血液は捨てた。ROTEM(登録商標)用および凝固分析用の血液試料を、0.3mL(0.106モル/L)の緩衝化(pH5.5)クエン酸ナトリウム(Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)を入れた3mLのチューブに採取した。血液細胞計数用血液試料は、1.6mgEDTA/mL(Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)を入れた2.7mLのチューブに採取した。Dade Behring社、Marburg、GermanyおよびAmelung Coagulometer社、Baxter、UKの適切な試験を使用する標準の研究室的方法により、プロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT−LA1)、フィブリノーゲン濃度、抗トロンビン(AT)およびトロンビン−抗トロンビン複合体(TAT)を測定した。D−ダイマーの測定には、分析法D−dimer0020008500(登録商標)(Instrumentation Laboratory Company社,Lexington,USA)を使用した。血液細胞の計数はSysmex Poch−100i(登録商標)counter(Sysmex社,Lake Zurich,IL,USA)を使用して実施した。凝固システムの機能的評価に、トロンボエラストメトリー(ROTEM(登録商標)、Pentapharm社,Munich,Germany)を使用した。加速とより良好な標準化のために、EXTEM試薬を使用した。Luddington,“Clin Lab Haematol” 2005年,27:81−90。
【0056】
丸底の96ウェルプレート(Greiner microlon、U型、高結合性、USA)中で較正自動トロンボグラム(CAT)分析を行った。クエン酸血漿試料(80μl)および1pMのTFを含有するトリガー溶液(20μl)(low Cat# TS31.00のPPP試薬、Thrombinoscope社、Maastricht、The Netherlands)を試料ウェル内で混合した。これと並行して、20μlの較正器と80μlのプールした正常な豚のクエン酸血漿とを、試料ウェルと結合したウェル中で混合することにより、較正器(Cat# TS20.00、Thrombinoscope社)を分析した。その後、プレートを蛍光光度計(Ascent reader,Thennolabsystems OY社,Helsinki,Finland)に移し、蛍光発生基質とCaClを含む20μlのFluCa溶液(Cat# TS50.00、Thrombinoscope社)を、器具を使って分配した。蛍光シグナルを、390nmのλex、460nmのλemで60分間測定した。試薬を加える間、96ウェルプレートを37℃の加熱ブロック上に置いた。Thrombinoscope BV社(Maastricht,Netherlands)製のソフトウェアThrombinoscope(バージョン3.0.0.29)を使用して、トロンビン活性の開始(遅れ時間)、トロンビン活性がピークに達するまでの時間(ttPeak)、ピークのトロンビン活性(Peak)、および全トロンビン活性、すなわち内因性トロンビンポテンシャル(ETP)を算出した。
【0057】
統計解析:全ての統計解析はSPSS15.0統計パッケージ(SPSS社、Chicago、IL)を使用して実施した。正常性を試験するためにシャピロ−ウィルク検定を使用した。正規分布していない変数は、パラメータ解析を可能にするために対数変換を行った。階層的処理を適用して分散の解析を行い(ANOVA)、オーバーオールの群と時間の効果を検出した(P<0.5を有意であると見做した)。顕著な差がある場合には、分散の解析を行い(ANOVA)、群間の差異を検出した。多重比較の補正にはボンフェローニ−ホルムの方法を使用した。P<0.005を有意であると見做した。顕著な差がある場合には、群内の対応T検定および群間の独立したT検定を実施した。P<0.001を有意であると見做した。カプラン−マイヤー法を、治療群の累積生存のログランク(マンテル・コックス)比較と共に使用して、群間の生存を解析した。
【0058】
結果
平均体重が36.98kg(±4.23)、4〜5月齢の50匹の豚を調べた。ベースラインでは、血行力学的または凝固パラメータ、血小板または赤血球細胞の数に関して、群間で統計的に有意な差は検知されなかった。全ての凝固試験の結果は、正常な範囲内であった。Velik−Salchnerら“Thromb Res” 2006年,117:597−602。
【0059】
生存期間:rhFII(P=0.029)またはPCC(P=0.017)と組み合わせたフィブリノーゲンで治療した動物は、無制御の出血を伴う肝臓傷害の後、コントロール群のものより、かなり長生きした。少なくとも1種の血液因子で治療した全ての群の動物は、コントロール群と比較して生存期間が延長したが、フィブリノーゲン単独またはフィブリノーゲンと3Fとの組み合わせも、コントロール群と比較して、肝臓傷害後の生存に関して類似の効果を示した。血栓閉塞性の合併症により、PCC投与後直ぐに1匹の動物が死亡した。
【0060】
失血:図1に示すように、無制御の出血を伴う肝臓傷害の後、失血は、生理食塩水群と比較して全ての群で顕著に減少した。
【0061】
ROTEM(登録商標):PCCまたは3Fと組み合わせたフィブリノーゲンの投与後、凝固時間(CT)は、生理食塩水またはフィブリノーゲン単独の治療と比べて顕著に短縮された。図2aに示すように、観察期間の終了時(END)、フィブリノーゲンと3Fの組み合わせで治療した動物では、生理食塩水またはフィブリノーゲン単独の場合と比べて、CTは依然短縮されていた。フィブリノーゲンとPCCの組み合わせは、生理食塩水と比べてCTを顕著に短縮した。
【0062】
図2bに示すように、3FまたはrhFIIと組み合わせたフィブリノーゲンの投与により、最大血餅硬度(MCF)は、生理食塩水単独による治療と比べて、顕著に増大した。希釈後、MCFは、全ての群で同じ量だけ顕著に減少した。フィブリノーゲンの投与後、MCFは、生理食塩水で治療したコントロールの動物と比べて顕著に増大した。観察期間の終了時、フィブリノーゲンと3Fの濃縮液(3F群)、またはフィブリノーゲンとrhFIIの組み合わせを与えられた豚では、生理食塩水群と比べてMCFは依然増大していた。

【0063】
トロンビンの生成(CAT):遅れ時間およびピークまでの時間は、群内で差がなかった。PCC、rhFIIまたは3Fと組み合わせたフィブリノーゲンの投与により、フィブリノーゲン単独で治療された動物と比べて、ピーク値が顕著に高くなった。ピーク値はまた、フィブリノーゲンとrhFIIの投与後、およびフィブリノーゲンと3Fの投与後、コントロール群と比較して、顕著に増大した。肝臓傷害の2時間後、他の全ての群に比べて、フィブリノーゲンとPCCの組み合わせで治療した動物でピーク値は顕著に増大した。フィブリノーゲンとrhFIIの組み合わせで治療した動物も、フィブリノーゲンと3Fで治療した動物も、フィブリノーゲン(#)単独で治療した動物より、顕著に高いETPを有した一方、フィブリノーゲンとrhFIIの組み合わせはまた、コントロール群と比較してETPを顕著に増大させた。観察期間の終了時、フィブリノーゲンとPCCの組み合わせは、他の全ての群より顕著に高いETPを有した。
【0064】
結論
上で示したように、フィブリノーゲンと組み合わせたPCCまたはrhFIIの投与は、生理食塩水またはフィブリノーゲン単独の場合と比べて、正常血液量性血液希釈および肝臓傷害後の失血に顕著な減少をもたらした。フィブリノーゲンと組み合わせたPCCまたはrhFIIの投与はまた、肝臓傷害後の動物の生存期間を顕著に延長させた。凝固時間は、コントロールに比べてフィブリノーゲンと組み合わせたrFIIの投与により顕著に短縮され、最大血餅硬度もまたフィブリノーゲンと組み合わせたrhFIIの治療で顕著に増大した。これらの結果は、rhFIIの投与(この場合、フィブリノーゲンと組み合わせて)が、正常な止血の回復、失血の防止、および死亡率の低下に十分に有効な治療法であることを示すものである。出血障害および失血の治療でrhFIIを使用することは、したがって有効であり、複数の凝固因子の組み合わせを投与することに伴って起こり得る、重症になる可能性がある血栓閉塞症の合併症を避けることができよう。
【0065】
実施例2
方法
麻酔と止血の維持:筋肉内注射により豚にDormicum(2mg/kg)およびKetaminol(10mg/kg)を麻酔前投薬した。約20分後、麻酔薬およびリンゲル液の投与に使用するために、ポリエチレンカテーテル(Venflon1.0×32mm、Becton Dickinson社、Helsingborg、Sweden)を耳の静脈に挿入した。挿管を可能にするため、初めに、豚に、ペントバルビタールナトリウム(Apoteksbolaget社、Umea、Sweden)を静脈内注射で急速投与量(15mg/kg)与え、麻酔した。実験の間、麻酔は維持し、準備中、1.8%イソフルラン(Isoba(登録商標)vet、Schering−Plough社、Denmark)を補充したペントバルビタール(10〜15mg/kg/h)を引き続き注入した。豚に10%Oが供給される室内空気で人工呼吸(Servo Ventilator 900C,Siemens Elema社、Solna、Sweden)した。呼吸数は15回/分の一定値に維持し、呼気体積を調節して呼気終末COを約5.5kPaに維持した。1.5mL/kg/hのリンゲル液(Fresenius Kabi AS社、Halden、Norway)を連続的に与え、補液を行った。動物を覆い、かつ外部から加熱することにより、実験の間、体温を36〜39℃に維持した。実験終了時、動物に致死量のペントバルビタール(>150mg/kg)を注入した。
【0066】
外科的準備:連続的な動脈圧の測定と血液試料の採取のために、ポリエチレンカテーテル(Intramedic PE−200 Clay Adams社、Parsippany、NJ、USA)を右大腿動脈に挿入した。血液の抜き取りと、処理済赤血球(PRC)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)および試験薬剤/ビヒクルの投与のために、ポリエチレンカテーテル(Intramedic PE−200 Clay Adams社、Parsippany、NJ、USA)を両大腿静脈に挿入した。中心静脈圧を監視するために、第4のポリエチレンカテーテル(Intramedic PE−200 Clay Adams社、Parsippany、NJ、USA)を右頸静脈に挿入した。体温を直腸検温により測定した。最後に、肝臓を露出させるために、約35cmの正中開腹を行った。肝臓切開を行うまで、創傷は止血鉗子で閉ざし、生理食塩水含浸スワブにより乾燥から保護した。
【0067】
実験計画:ベースライン血液試料(BS0)採取後、動物の全血液体積(70mL/kg)の約60%を、60mg/mLのHES(Voluven(登録商標)、Fresenius Kabi AB社、Uppsala、Sweden)で、等容的、かつ正常体温で交換した。5mL、0.109Mのクエン酸ナトリウムを入れて準備した50mLのシリンジで、平均動脈血圧(MAP)が30mmHg〜35mmHgの危険レベルに達するまで、可能な限り多くの血液を抜き取った。その後、動物はMAPが安定レベルに増大するまで、安静にした(約10分)。
【0068】
その後、MAPが最低限の30mmHgに降下するまで、血液の抜き取りを継続し、圧力カフにより直ちにHESを静脈内に投与した(1mL HES:1mL 血液)。通常は、最初の血液−HES交換ラウンド中に、凝固障害を引き起こすのに必要な、計算した容積の血液を採ることは困難である。ROTEM解析でチェックして、もし凝固障害のレベルがあまりに低いならば、さらに多くの血液を抜き取り、HESで置換する(1:1、最初の交換ラウンドで血液は希釈されるが)。第2の、そしてその後の全てのラウンドの間、平均動脈圧は60mmHg未満に降下しないであろうから、回復のために中断する必要はない。最初の交換ラウンドで抜き取る血液の体積を最大にするために、たとえMAPが降下しつつあっても、静脈内に塩酸フェニレフリン(Apoteket AB社、Moelndal、Sweden)を投与して、末梢血管から血液を搾り取ることができる。MAPが約40mmHgに降下したなら、10分間の回復のための中断の後、塩酸フェニレフリン(0.1mg/mLを約2mL)を与える。MAPの短時間で、かつ即座の増加の間に、何本かの追加のシリンジを血液で満たすことができる。
【0069】
流れた血液を、クオリティー・ウオッシュ・プログラムを使用してセルセーバー(CATS(登録商標)、Fresenius Kabi AB社、Uppsala、Sweden)上で処理し、HESによる容積回復後、ヘモグロビン値を50g/L超に維持するために、動物に適当な容積の処理済赤血球を投与し、これにより重篤な貧血による早期の死を回避する。血液希釈後、ROTEM解析を行い、凝固障害の程度を測定した。凝固障害の判断基準は、以下の通りとした:CTEx−TEM≧100で、かつMCF≦40mm。凝固障害の確立後、血液試料を採取した(BS2)。その後、試験薬剤を投与した。試験薬剤は次のものに対応させた:(1)生理食塩水コントロール;(2)8mg/kgの組換えヒトFII(rhFII);(3)それぞれ4.0、0.32および0.006mg/kgのrhFII+rhFX+rhFVIIaに対応する3因子の組み合わせ(低用量);(4)それぞれ8.0、0.64および0.012mg/kgのrhFII+rhFX+rhFVIIaに対応する3因子の組み合わせ(高用量);(5)40U/kgのFEIBA VH(登録商標)(抗阻害剤凝固複合体(AICC);Baxter);(6)200+100μg/kgのNovoSeven(登録商標)(凝固第VIIa因子;Novo Nordisk);またはHaemocomplettan(登録商標)HS(フィブリノーゲン濃縮液;CSL−Behring)。注入完了の十(10)分後、別の血液試料を採取した(BS3)。自作のテンプレートを右肝葉にあてがい、外科用メス(11番)をテンプレート(長さ8cm、深さ3cm)のスリットを通して引くことにより、標準切開を実施して無制御出血を引き起こした。肝臓切開後の最大観察時間は120分とした。死の直前に、最後の血液試料を採取した(BS4)。腹から血液を吸引し、全失血量および生存期間を測定した。死を、パルスを伴わない電気的活動、15mmHg未満のMAP、または1.5kPa未満の呼気終末二酸化炭素で定義した。
【0070】
血液サンプリング:ROTEM測定用として、クエン酸チューブ(S−Monovette(登録商標)9NC/2.9mL、Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)に動脈血を採取し、血漿は、トロンビン生成、およびトロンビン−抗トロンビン複合体の分析用として保存した。組換えヒト第II因子(rhFII)、組換えヒト第X因子(rhFX)、FVIIa、ヒトフィブリノーゲンおよび細胞数の血漿中濃度決定用血液を、カリウムEDTAチューブ(S−Monovette(登録商標)2.6mL K3E、Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)に採取した。
【0071】
全血分析
ROTEM:実験を通して、連続した血液試料を得、回転式トロンボエラストメトリー(ROTEM(登録商標)、Pentapharm GmbH社、Munich、Germany)の標準凝固試験(EXTEM(登録商標)、INTEM(登録商標)、Pentapharm GmbH社、Munich、Germany)を使用して、血餅の弾力性発達に関する止血システムの能力を評価した。商業的に入手可能な溶液と類似の濃度を有する、自社製の塩化カルシウム溶液以外は、商業的に入手可能な試薬を使用した。製造業者からの使用説明書に従った。この研究では、凝固時間(CT)、血餅形成時間(CFT)および最大血餅硬度(MCF)を評価した。
【0072】
血液ガスおよび電解質:実験中に、動脈血のガス、酸−塩基パラメータおよび電解質を分析した(ABL 700、Radiometer Medical ApS社、Broenshoej、Denmark)。製造業者の説明書にしたがって分析を行った。全ての動物は実験期間を通して良好な血液ガスの状態を示した。
【0073】
細胞計数:血液細胞の濃度のあり得る変化を監視するために、血液のサンプリングが行われる度に、自動血球計数装置(KX−21N、シスメックス株式会社、神戸、日本)で動脈血試料を分析した。分析は製造業者の説明書に従って行った。
【0074】
血漿分析
トロンビン−抗トロンビン複合体(TAT):サンドイッチ酵素免疫測定法(Enzygnost(登録商標)TAT micro、Dade Behring GmbH社、Marburg、Germany)を使用して、TATの血漿中濃度を測定した。製造業者の説明書に従った。>90μg/mLの濃度が得られたときは、試料を希釈緩衝液中に加えて10倍に希釈して分析した。血漿試料中に血餅が観察されれば、それらについてはTATの分析を行わなかった。
【0075】
CAT:実施例1に記載のようにしてCAT分析を行った。
【0076】
結果
データ解析:自社製のソフトウェア(PharmLab V6.0、AstraZeneca R&D Moelndal社)を使用して、平均動脈圧、中心静脈圧および心拍数データを収集した。結果を、全血凝固時間およびTAT濃度の結果を除いて、平均値±平均値の標準誤差(SEM)とともに記述統計として示す。これらの結果を、これらのデータ中の異常値が平均値に誤解を与えるような影響を及ぼすため、中央値として示す。「実験終了」と称する各実験における最後の血液試料を、大部分の動物で実験中の異なる時点で生じる死の前に採取する。
【0077】
失血:図3は、ビヒクル、試験物質およびコントロール物質の投与後、並びに肝臓の切開後の、体重1kg当たりの失血をmlで表したものである。データは、横棒で示す中央値とともに個々の値を示している。
【0078】
生存期間:図4は、異なる治療群の生存曲線を示す。ビヒクル群では、25%の動物が全実験期間を通じて生き延びた。2時間の観察で治療群の生存は、それぞれ、3因子組み合わせの低用量で67%、3因子組み合わせの高用量、NovoSeven(登録商標)およびHaemocomplettan(登録商標)で80%、rhFIIおよびFEIBA(登録商標)で100%であった。
【0079】
ROTEM:ベースライン、希釈後、薬剤投与後および実験終了時に抜き取った全血試料の、EXTERM活性化、すなわちTFによる活性化の結果を図5aおよび4bに示す。ベースラインでは、CTおよびMCFは全ての治療群で類似である。希釈後、CTはベースラインレベルの2倍に増大するが、MCFはベースラインレベルの約半分に低下する。希釈後、両変数はベースラインと比べて、群間で大きな変動性を示す。治療薬投与後、CTは、含まれる治療薬の全てでベースライン値に向かって類似の移行を示したが、完全に正常化するには至らなかった。薬剤投与後にはほぼ正常なMCFを示すHaemocomplettan(登録商標)(フィブリノーゲン)を除いて、異なる治療薬のMCFに対する影響は僅かであった。
【0080】
CAT:ベースライン、希釈後、薬剤投与後、そして実験の終了時点で抜き取った血漿試料の較正自動トロンボグラム分析の結果を図6(a〜d)に示す。
【0081】
希釈後は、ベースライン値に比べて、遅れ時間(LT)およびピークまでの時間(ttPeak)は短縮し、ピークおよび内因性トロンビンポテンシャル(ETP)は増大した。物質が投与された後は、LTはrhFIIで約50%増大し、Haemocomplettan(登録商標)で僅かな増大が認められたが、他の物質ではLTは僅かな短縮となった。さらに、ttPeakはLTと同じパターンを示した。ピーク値は、希釈後の値と比べて、rhFIIで100%、3因子の組み合わせ(低用量)で30%、3因子の組み合わせ(高用量)で150%そしてFEIBA(登録商標)で150%増大した。ビヒクル、NovoSeven(登録商標)およびHaemocomplettan(登録商標)は、希釈直後の値と比べて、変化しなかった。最後にFTP値は、希釈工程後の値と比べて、rhFII、3因子の組み合わせ(高用量)およびFEIBA(登録商標)でほぼ200%増大した。低用量3因子の組み合わせは、希釈後と比べて、約30%増大した。
【0082】
実験の終了時では、rhFIIが希釈工程後と同一レベルに短縮したことを除いて、LTは用量投与後の場合と同じ時間に対応した。ttPeak値はLTと同様であった。ピークの状況からは、FEIBA(登録商標)を除くすべての物質群が、最終希釈後のレベルに戻ったことが示された。FEIBA(登録商標)は、依然、物質投与の直後見られたレベルと同等のピークを示した。実験終了時のETP値は全て、ピークのパターンと類似していた。
【0083】
TAT:図7に示すように、希釈工程後の全ての治療群でTATレベルは類似であった。薬剤投与後は、プロトロンビンを含む全ての治療薬、すなわち、3因子の組み合わせ、rhFIIおよびFEIBA(登録商標)でTATレベルの2〜3倍の増加が見られた。実験終了時には、薬剤投与後に得られたパターンと依然一致しており、投与後と比べてTATレベルの減少を示すrhFII単独を除いて、プロトロンビン含有治療薬のTATレベルは一層増大した。Haemocomplettan(登録商標)およびNovoSeven(登録商標)もまた、希釈後および投与後の両方と比べて、実験終了時のTATレベルを2〜3倍増大した。
【0084】
結論
上述のように、rhFIIの単独投与は、生理食塩水または他の治療薬と比べて、正常血液量性血液希釈および肝臓傷害後の失血を顕著に減少させる。トロンボグラム分析によれば、遅れ時間の増大がrhFII単独で約50%、ピーク値の増加がrhFII単独で100%、そしてETP値の増加がrhFII単独でほぼ200%であることがわかった。これらの結果は、さらに、rhFII単独投与が、正常化した止血の回復、失血の防止、および生存期間の増加に十分有効な治療法であることを示すものである。
【0085】
rhFIIの単独使用または3因子組み合わせの使用は、無制御出血の複雑な動物モデルでは、希釈性凝固障害のために、これまで試験されていなかった。したがって、本発明は、出血障害および失血の治療に対するrhFII単独の効能または3Fの効能を初めて提供するものである。上記実施例2で記載したように、実験終了時のTATレベルおよびトロンビン生成データは、すべての試料で投与前のレベルまで減少した。rhFII単独などの凝固因子の投与については、これは、危険な出血の発現過程で、または失血中に、より良好な治療計画の調節を可能にする点で有利である。持続時間が長引くと、治療計画の必要な調節ができなくなり得る。さらに、rhFII単独投与は、上述したように、複数の凝固因子の組み合わせを投与することにしばしば伴う、重症になる可能性がある血栓閉塞症の合併症を、治療中に避けることができる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7