【実施例】
【0050】
実施例1
方法
外科的準備および測定:研究は、50匹の健康な豚を使用して行った。これらの動物にアザペロン(4mg kg
−1IM、神経遮断薬、Stresnil(商標)、Janssen、Vienna、Austria)およびアトロピン(0.1mg kg
−1IM)による麻酔前投薬を研究開始の1時間前に行った。プロポフォール(1〜2mg・kg
−1IV)により麻酔を導入し、維持した。鎮痛用にピリトラミドを注射した(30mg、半減期が約4〜8時間のオピオイド、Dipidolor(商標)、Janssen社、Vienna、Austria)。気管内麻酔後に、筋弛緩用として0.2mg kg
−1・hr
−1のパンクロニウムを注射した。挿管後、血液試料の採取のために7.5フレンチカテーテルを大腿動脈に挿入し、血圧を連続測定した。血液抜き取り、コロイドおよび晶質の投与、並びに試験薬剤の投与用に、2本の7.5フレンチカテーテルを両大腿静脈に挿入した。Swan−Ganzカテーテルを右頸静脈に挿入した。
【0051】
実験計画:補液(4ml kg
−1)の基本的必要性を、晶質(リンゲルの乳酸塩溶液)により試験の全過程で満たした。標準の希釈性凝固障害を誘導するために、6%HES 130/0.4(Voluven(登録商標)、Fresenius Co.,Bad Homburg、Germany)により正常血液量性血液希釈を行った:大きいカテーテルにより動物から血液を抜き取り、1:1の比でコロイドにより置換した。血液希釈の完了後、抜き取った血液をCell Saver System(Cats(登録商標)、Fresenius社、Vienna、Austria)で処理し、濃縮し、血行力学的に関係する貧血を避けるために再輸液した。得られた凝固障害がROTEM(登録商標)およびEXTEM試薬による測定される臨界レベル:凝固時間(CT)>100秒および最大血餅硬度(MCF)<40mmに達したとき、正常血液量性血液希釈を終了した。動物に、200mg kg
−1のフィブリノーゲン濃縮液(Haemocomplettan HS(登録商標)、CSL−Behring)(フィブリノーゲン群)、200mg kg
−1のフィブリノーゲン濃縮液と35IU kg
−1のPCC(Beriplex(登録商標)、CSL Behring社、Marburg、Germany)(PCC群)、200mg kg
−1のフィブリノーゲン濃縮液と4mg kg
−1のrhFII濃縮液(AstraZeneca R&D Moelndal社、Sweeden)(FII群)、200mg kg
−1のフィブリノーゲン濃縮液と、4mg kg
−1のrhFII、0.32mg kg
−1のrhFXおよび0.006mg kg
−1のrhFVIIaを含む3因子組み合わせ濃縮液(AstraZeneca R&D Moelndal社、Sweeden)(3F群)、または同量の通常生理食塩水(サリン群)をランダムに与えた。フィブリノーゲン濃縮液およびPCCの用量は、以前に刊行された動物実験のデータに基づいた。Sperryら“J Trauma” 2008年,64:9−14;Innerhofer Pら“Anesth Analg” 2002年,95:858−65。
【0052】
上述の凝固因子または凝固因子の組み合わせを投与した後、直ちに、テンプレートを使用して標準肝臓傷害(長さ12cm、深さ3cm)を誘発した。創傷を肝臓の右肝葉上に形成した。研究は、組織検査、凝固分析、血行力学の文書化、肝臓切開を行ったスタッフ、または生起している失血の採取および測定に参加した人々に知らせないでおいた。
【0053】
肝臓の切開後、続いて起こった失血を、動物が出血ショックで死亡するまでの時間の長さで評価した。トロンボエラストメトリー測定に加えて、標準凝固分析(PT、aPTT、フィブリノーゲン、血小板数)を実施し、活性化凝固のパラメータ(D−ダイマーおよびTAT)と、トロンビン生成能力を推定するためのトロンビン生成試験(較正自動トロンボグラム、CAT)を実施した。
【0054】
肝臓外傷の2時間後、生存している動物をカリウム注入により犠牲にした。心臓、肺、腸の一部および腎臓を除去し、微小血管の血栓の発生を調べた。
【0055】
血液サンプリングおよび分析方法:動脈の血液サンプリングを、ベースライン(BL)、血液抜き取り後(BW)、血液希釈後(HD)、試験薬剤による治療後(TH)、および肝臓切開の120分後または予想される死の直前(END)に実施した。全ての血液試料は大腿動脈から抜き取ったが、最初の5mlの血液は捨てた。ROTEM(登録商標)用および凝固分析用の血液試料を、0.3mL(0.106モル/L)の緩衝化(pH5.5)クエン酸ナトリウム(Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)を入れた3mLのチューブに採取した。血液細胞計数用血液試料は、1.6mgEDTA/mL(Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)を入れた2.7mLのチューブに採取した。Dade Behring社、Marburg、GermanyおよびAmelung Coagulometer社、Baxter、UKの適切な試験を使用する標準の研究室的方法により、プロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT−LA1)、フィブリノーゲン濃度、抗トロンビン(AT)およびトロンビン−抗トロンビン複合体(TAT)を測定した。D−ダイマーの測定には、分析法D−dimer0020008500(登録商標)(Instrumentation Laboratory Company社,Lexington,USA)を使用した。血液細胞の計数はSysmex Poch−100i(登録商標)counter(Sysmex社,Lake Zurich,IL,USA)を使用して実施した。凝固システムの機能的評価に、トロンボエラストメトリー(ROTEM(登録商標)、Pentapharm社,Munich,Germany)を使用した。加速とより良好な標準化のために、EXTEM試薬を使用した。Luddington,“Clin Lab Haematol” 2005年,27:81−90。
【0056】
丸底の96ウェルプレート(Greiner microlon、U型、高結合性、USA)中で較正自動トロンボグラム(CAT)分析を行った。クエン酸血漿試料(80μl)および1pMのTFを含有するトリガー溶液(20μl)(low Cat# TS31.00のPPP試薬、Thrombinoscope社、Maastricht、The Netherlands)を試料ウェル内で混合した。これと並行して、20μlの較正器と80μlのプールした正常な豚のクエン酸血漿とを、試料ウェルと結合したウェル中で混合することにより、較正器(Cat# TS20.00、Thrombinoscope社)を分析した。その後、プレートを蛍光光度計(Ascent reader,Thennolabsystems OY社,Helsinki,Finland)に移し、蛍光発生基質とCaCl
2を含む20μlのFluCa溶液(Cat# TS50.00、Thrombinoscope社)を、器具を使って分配した。蛍光シグナルを、390nmのλex、460nmのλemで60分間測定した。試薬を加える間、96ウェルプレートを37℃の加熱ブロック上に置いた。Thrombinoscope BV社(Maastricht,Netherlands)製のソフトウェアThrombinoscope(バージョン3.0.0.29)を使用して、トロンビン活性の開始(遅れ時間)、トロンビン活性がピークに達するまでの時間(ttPeak)、ピークのトロンビン活性(Peak)、および全トロンビン活性、すなわち内因性トロンビンポテンシャル(ETP)を算出した。
【0057】
統計解析:全ての統計解析はSPSS15.0統計パッケージ(SPSS社、Chicago、IL)を使用して実施した。正常性を試験するためにシャピロ−ウィルク検定を使用した。正規分布していない変数は、パラメータ解析を可能にするために対数変換を行った。階層的処理を適用して分散の解析を行い(ANOVA)、オーバーオールの群と時間の効果を検出した(P<0.5を有意であると見做した)。顕著な差がある場合には、分散の解析を行い(ANOVA)、群間の差異を検出した。多重比較の補正にはボンフェローニ−ホルムの方法を使用した。P<0.005を有意であると見做した。顕著な差がある場合には、群内の対応T検定および群間の独立したT検定を実施した。P<0.001を有意であると見做した。カプラン−マイヤー法を、治療群の累積生存のログランク(マンテル・コックス)比較と共に使用して、群間の生存を解析した。
【0058】
結果
平均体重が36.98kg(±4.23)、4〜5月齢の50匹の豚を調べた。ベースラインでは、血行力学的または凝固パラメータ、血小板または赤血球細胞の数に関して、群間で統計的に有意な差は検知されなかった。全ての凝固試験の結果は、正常な範囲内であった。Velik−Salchnerら“Thromb Res” 2006年,117:597−602。
【0059】
生存期間:
rhFII(P=0.029)またはPCC(P=0.017)と組み合わせたフィブリノーゲンで治療した動物は、無制御の出血を伴う肝臓傷害の後、コントロール群のものより、かなり長生きした。少なくとも1種の血液因子で治療した全ての群の動物は、コントロール群と比較して生存期間が延長したが、フィブリノーゲン単独またはフィブリノーゲンと3Fとの組み合わせも、コントロール群と比較して、肝臓傷害後の生存に関して類似の効果を示した。血栓閉塞性の合併症により、PCC投与後直ぐに1匹の動物が死亡した。
【0060】
失血:
図1に示すように、無制御の出血を伴う肝臓傷害の後、失血は、生理食塩水群と比較して全ての群で顕著に減少した。
【0061】
ROTEM(登録商標):PCCまたは3Fと組み合わせたフィブリノーゲンの投与後、凝固時間(CT)は、生理食塩水またはフィブリノーゲン単独の治療と比べて顕著に短縮された。
図2aに示すように、観察期間の終了時(END)、フィブリノーゲンと3Fの組み合わせで治療した動物では、生理食塩水またはフィブリノーゲン単独の場合と比べて、CTは依然短縮されていた。フィブリノーゲンとPCCの組み合わせは、生理食塩水と比べてCTを顕著に短縮した。
【0062】
図2bに示すように、3FまたはrhFIIと組み合わせたフィブリノーゲンの投与により、最大血餅硬度(MCF)は、生理食塩水単独による治療と比べて、顕著に増大した。希釈後、MCFは、全ての群で同じ量だけ顕著に減少した。フィブリノーゲンの投与後、MCFは、生理食塩水で治療したコントロールの動物と比べて顕著に増大した。観察期間の終了時、フィブリノーゲンと3Fの濃縮液
(3F群)、またはフィブリノーゲンとrhFIIの組み合わせを与えられた
豚では、生理食塩水群と比べてMCFは依然増大していた。
【0063】
トロンビンの生成(CAT):遅れ時間およびピークまでの時間は、群内で差がなかった。PCC、rhFIIまたは3Fと組み合わせたフィブリノーゲンの投与により、フィブリノーゲン単独で治療された動物と比べて、ピーク値が顕著に高くなった。ピーク値はまた、フィブリノーゲンとrhFIIの投与後、およびフィブリノーゲンと3Fの投与後、コントロール群と比較して、顕著に増大した。肝臓傷害の2時間後、他の全ての群に比べて、フィブリノーゲンとPCCの組み合わせで治療した動物でピーク値は顕著に増大した。フィブリノーゲンとrhFIIの組み合わせで治療した動物も、フィブリノーゲンと3Fで治療した動物も、フィブリノーゲン(#)単独で治療した動物より、顕著に高いETPを有した一方、フィブリノーゲンとrhFIIの組み合わせはまた、コントロール群と比較してETPを顕著に増大させた。観察期間の終了時、フィブリノーゲンとPCCの組み合わせは、他の全ての群より顕著に高いETPを有した。
【0064】
結論
上で示したように、フィブリノーゲンと組み合わせたPCCまたはrhFIIの投与は、生理食塩水またはフィブリノーゲン単独の場合と比べて、正常血液量性血液希釈および肝臓傷害後の失血に顕著な減少をもたらした。フィブリノーゲンと組み合わせたPCCまたはrhFIIの投与はまた、肝臓傷害後の動物の生存期間を顕著に延長させた。凝固時間は、コントロールに比べてフィブリノーゲンと組み合わせたrFIIの投与により顕著に短縮され、最大血餅硬度もまたフィブリノーゲンと組み合わせたrhFIIの治療で顕著に増大した。これらの結果は、rhFIIの投与(この場合、フィブリノーゲンと組み合わせて)が、正常な止血の回復、失血の防止、および死亡率の低下に十分に有効な治療法であることを示すものである。出血障害および失血の治療でrhFIIを使用することは、したがって有効であり、複数の凝固因子の組み合わせを投与することに伴って起こり得る、重症になる可能性がある血栓閉塞症の合併症を避けることができよう。
【0065】
実施例2
方法
麻酔と止血の維持:筋肉内注射により豚にDormicum(2mg/kg)およびKetaminol(10mg/kg)を麻酔前投薬した。約20分後、麻酔薬およびリンゲル液の投与に使用するために、ポリエチレンカテーテル(Venflon1.0×32mm、Becton Dickinson社、Helsingborg、Sweden)を耳の静脈に挿入した。挿管を可能にするため、初めに、豚に、ペントバルビタールナトリウム(Apoteksbolaget社、Umea、Sweden)を静脈内注射で急速投与量(15mg/kg)与え、麻酔した。実験の間、麻酔は維持し、準備中、1.8%イソフルラン(Isoba(登録商標)vet、Schering−Plough社、Denmark)を補充したペントバルビタール(10〜15mg/kg/h)を引き続き注入した。豚に10%O
2が供給される室内空気で人工呼吸(Servo Ventilator 900C,Siemens Elema社、Solna、Sweden)した。呼吸数は15回/分の一定値に維持し、呼気体積を調節して呼気終末CO
2を約5.5kPaに維持した。1.5mL/kg/hのリンゲル液(Fresenius Kabi AS社、Halden、Norway)を連続的に与え、補液を行った。動物を覆い、かつ外部から加熱することにより、実験の間、体温を36〜39℃に維持した。実験終了時、動物に致死量のペントバルビタール(>150mg/kg)を注入した。
【0066】
外科的準備:連続的な動脈圧の測定と血液試料の採取のために、ポリエチレンカテーテル(Intramedic PE−200 Clay Adams社、Parsippany、NJ、USA)を右大腿動脈に挿入した。血液の抜き取りと、処理済赤血球(PRC)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)および試験薬剤/ビヒクルの投与のために、ポリエチレンカテーテル(Intramedic PE−200 Clay Adams社、Parsippany、NJ、USA)を両大腿静脈に挿入した。中心静脈圧を監視するために、第4のポリエチレンカテーテル(Intramedic PE−200 Clay Adams社、Parsippany、NJ、USA)を右頸静脈に挿入した。体温を直腸検温により測定した。最後に、肝臓を露出させるために、約35cmの正中開腹を行った。肝臓切開を行うまで、創傷は止血鉗子で閉ざし、生理食塩水含浸スワブにより乾燥から保護した。
【0067】
実験計画:ベースライン血液試料(BS0)採取後、動物の全血液体積(70mL/kg)の約60%を、60mg/mLのHES(Voluven(登録商標)、Fresenius Kabi AB社、Uppsala、Sweden)で、等容的、かつ正常体温で交換した。5mL、0.109Mのクエン酸ナトリウムを入れて準備した50mLのシリンジで、平均動脈血圧(MAP)が30mmHg〜35mmHgの危険レベルに達するまで、可能な限り多くの血液を抜き取った。その後、動物はMAPが安定レベルに増大するまで、安静にした(約10分)。
【0068】
その後、MAPが最低限の30mmHgに降下するまで、血液の抜き取りを継続し、圧力カフにより直ちにHESを静脈内に投与した(1mL HES:1mL 血液)。通常は、最初の血液−HES交換ラウンド中に、凝固障害を引き起こすのに必要な、計算した容積の血液を採ることは困難である。ROTEM解析でチェックして、もし凝固障害のレベルがあまりに低いならば、さらに多くの血液を抜き取り、HESで置換する(1:1、最初の交換ラウンドで血液は希釈されるが)。第2の、そしてその後の全てのラウンドの間、平均動脈圧は60mmHg未満に降下しないであろうから、回復のために中断する必要はない。最初の交換ラウンドで抜き取る血液の体積を最大にするために、たとえMAPが降下しつつあっても、静脈内に塩酸フェニレフリン(Apoteket AB社、Moelndal、Sweden)を投与して、末梢血管から血液を搾り取ることができる。MAPが約40mmHgに降下したなら、10分間の回復のための中断の後、塩酸フェニレフリン(0.1mg/mLを約2mL)を与える。MAPの短時間で、かつ即座の増加の間に、何本かの追加のシリンジを血液で満たすことができる。
【0069】
流れた血液を、クオリティー・ウオッシュ・プログラムを使用してセルセーバー(CATS(登録商標)、Fresenius Kabi AB社、Uppsala、Sweden)上で処理し、HESによる容積回復後、ヘモグロビン値を50g/L超に維持するために、動物に適当な容積の処理済赤血球を投与し、これにより重篤な貧血による早期の死を回避する。血液希釈後、ROTEM解析を行い、凝固障害の程度を測定した。凝固障害の判断基準は、以下の通りとした:CT
Ex−TEM≧100で、かつMCF≦40mm。凝固障害の確立後、血液試料を採取した(BS2)。その後、試験薬剤を投与した。試験薬剤は次のものに対応させた:(1)生理食塩水コントロール;(2)8mg/kgの組換えヒトFII(rhFII);(3)それぞれ4.0、0.32および0.006mg/kgのrhFII+rhFX+rhFVIIaに対応する3因子の組み合わせ(低用量);(4)それぞれ8.0、0.64および0.012mg/kgのrhFII+rhFX+rhFVIIaに対応する3因子の組み合わせ(高用量);(5)40U/kgのFEIBA VH(登録商標)(抗阻害剤凝固複合体(AICC);Baxter);(6)200+100μg/kgのNovoSeven(登録商標)(凝固第VIIa因子;Novo Nordisk);またはHaemocomplettan(登録商標)HS(フィブリノーゲン濃縮液;CSL−Behring)。注入完了の十(10)分後、別の血液試料を採取した(BS3)。自作のテンプレートを右肝葉にあてがい、外科用メス(11番)をテンプレート(長さ8cm、深さ3cm)のスリットを通して引くことにより、標準切開を実施して無制御出血を引き起こした。肝臓切開後の最大観察時間は120分とした。死の直前に、最後の血液試料を採取した(BS4)。腹から血液を吸引し、全失血量および生存期間を測定した。死を、パルスを伴わない電気的活動、15mmHg未満のMAP、または1.5kPa未満の呼気終末二酸化炭素で定義した。
【0070】
血液サンプリング:ROTEM測定用として、クエン酸チューブ(S−Monovette(登録商標)9NC/2.9mL、Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)に動脈血を採取し、血漿は、トロンビン生成、およびトロンビン−抗トロンビン複合体の分析用として保存した。組換えヒト第II因子(rhFII)、組換えヒト第X因子(rhFX)、FVIIa、ヒトフィブリノーゲンおよび細胞数の血漿中濃度決定用血液を、カリウムEDTAチューブ(S−Monovette(登録商標)2.6mL K3E、Sarstedt社、Nuembrecht、Germany)に採取した。
【0071】
全血分析
ROTEM:実験を通して、連続した血液試料を得、回転式トロンボエラストメトリー(ROTEM(登録商標)、Pentapharm GmbH社、Munich、Germany)の標準凝固試験(EXTEM(登録商標)、INTEM(登録商標)、Pentapharm GmbH社、Munich、Germany)を使用して、血餅の弾力性発達に関する止血システムの能力を評価した。商業的に入手可能な溶液と類似の濃度を有する、自社製の塩化カルシウム溶液以外は、商業的に入手可能な試薬を使用した。製造業者からの使用説明書に従った。この研究では、凝固時間(CT)、血餅形成時間(CFT)および最大血餅硬度(MCF)を評価した。
【0072】
血液ガスおよび電解質:実験中に、動脈血のガス、酸−塩基パラメータおよび電解質を分析した(ABL 700、Radiometer Medical ApS社、Broenshoej、Denmark)。製造業者の説明書にしたがって分析を行った。全ての動物は実験期間を通して良好な血液ガスの状態を示した。
【0073】
細胞計数:血液細胞の濃度のあり得る変化を監視するために、血液のサンプリングが行われる度に、自動血球計数装置(KX−21N、シスメックス株式会社、神戸、日本)で動脈血試料を分析した。分析は製造業者の説明書に従って行った。
【0074】
血漿分析
トロンビン−抗トロンビン複合体(TAT):サンドイッチ酵素免疫測定法(Enzygnost(登録商標)TAT micro、Dade Behring GmbH社、Marburg、Germany)を使用して、TATの血漿中濃度を測定した。製造業者の説明書に従った。>90μg/mLの濃度が得られたときは、試料を希釈緩衝液中に加えて10倍に希釈して分析した。血漿試料中に血餅が観察されれば、それらについてはTATの分析を行わなかった。
【0075】
CAT:実施例1に記載のようにしてCAT分析を行った。
【0076】
結果
データ解析:自社製のソフトウェア(PharmLab V6.0、AstraZeneca R&D Moelndal社)を使用して、平均動脈圧、中心静脈圧および心拍数データを収集した。結果を、全血凝固時間およびTAT濃度の結果を除いて、平均値±平均値の標準誤差(SEM)とともに記述統計として示す。これらの結果を、これらのデータ中の異常値が平均値に誤解を与えるような影響を及ぼすため、中央値として示す。「実験終了」と称する各実験における最後の血液試料を、大部分の動物で実験中の異なる時点で生じる死の前に採取する。
【0077】
失血:
図3は、ビヒクル、試験物質およびコントロール物質の投与後、並びに肝臓の切開後の、体重1kg当たりの失血をmlで表したものである。データは、横棒で示す中央値とともに個々の値を示している。
【0078】
生存期間:
図4は、異なる治療群の生存曲線を示す。ビヒクル群では、25%の動物が全実験期間を通じて生き延びた。2時間の観察で治療群の生存は、それぞれ、3因子組み合わせの低用量で67%、3因子組み合わせの高用量、NovoSeven(登録商標)およびHaemocomplettan(登録商標)で80%、rhFIIおよびFEIBA(登録商標)で100%であった。
【0079】
ROTEM:ベースライン、希釈後、薬剤投与後および実験終了時に抜き取った全血試料の、EXTERM活性化、すなわちTFによる活性化の結果を
図5aおよび4bに示す。ベースラインでは、CTおよびMCFは全ての治療群で類似である。希釈後、CTはベースラインレベルの2倍に増大するが、MCFはベースラインレベルの約半分に低下する。希釈後、両変数はベースラインと比べて、群間で大きな変動性を示す。治療薬投与後、CTは、含まれる治療薬の全てでベースライン値に向かって類似の移行を示したが、完全に正常化するには至らなかった。薬剤投与後にはほぼ正常なMCFを示すHaemocomplettan(登録商標)(フィブリノーゲン)を除いて、異なる治療薬のMCFに対する影響は僅かであった。
【0080】
CAT:ベースライン、希釈後、薬剤投与後、そして実験の終了時点で抜き取った血漿試料の較正自動トロンボグラム分析の結果を
図6(a〜d)に示す。
【0081】
希釈後は、ベースライン値に比べて、遅れ時間(LT)およびピークまでの時間(ttPeak)は短縮し、ピークおよび内因性トロンビンポテンシャル(ETP)は増大した。物質が投与された後は、LTはrhFIIで約50%増大し、Haemocomplettan(登録商標)で僅かな増大が認められたが、他の物質ではLTは僅かな短縮となった。さらに、ttPeakはLTと同じパターンを示した。ピーク値は、希釈後の値と比べて、rhFIIで100%、3因子の組み合わせ(低用量)で30%、3因子の組み合わせ(高用量)で150%そしてFEIBA(登録商標)で150%増大した。ビヒクル、NovoSeven(登録商標)およびHaemocomplettan(登録商標)は、希釈直後の値と比べて、変化しなかった。最後にFTP値は、希釈工程後の値と比べて、rhFII、3因子の組み合わせ(高用量)およびFEIBA(登録商標)でほぼ200%増大した。低用量3因子の組み合わせは、希釈後と比べて、約30%増大した。
【0082】
実験の終了時では、rhFIIが希釈工程後と同一レベルに短縮したことを除いて、LTは用量投与後の場合と同じ時間に対応した。ttPeak値はLTと同様であった。ピークの状況からは、FEIBA(登録商標)を除くすべての物質群が、最終希釈後のレベルに戻ったことが示された。FEIBA(登録商標)は、依然、物質投与の直後見られたレベルと同等のピークを示した。実験終了時のETP値は全て、ピークのパターンと類似していた。
【0083】
TAT:
図7に示すように、希釈工程後の全ての治療群でTATレベルは類似であった。薬剤投与後は、プロトロンビンを含む全ての治療薬、すなわち、3因子の組み合わせ、rhFIIおよびFEIBA(登録商標)でTATレベルの2〜3倍の増加が見られた。実験終了時には、薬剤投与後に得られたパターンと依然一致しており、投与後と比べてTATレベルの減少を示すrhFII単独を除いて、プロトロンビン含有治療薬のTATレベルは一層増大した。Haemocomplettan(登録商標)およびNovoSeven(登録商標)もまた、希釈後および投与後の両方と比べて、実験終了時のTATレベルを2〜3倍増大した。
【0084】
結論
上述のように、rhFIIの単独投与は、生理食塩水または他の治療薬と比べて、正常血液量性血液希釈および肝臓傷害後の失血を顕著に減少させる。トロンボグラム分析によれば、遅れ時間の増大がrhFII単独で約50%、ピーク値の増加がrhFII単独で100%、そしてETP値の増加がrhFII単独でほぼ200%であることがわかった。これらの結果は、さらに、rhFII単独投与が、正常化した止血の回復、失血の防止、および生存期間の増加に十分有効な治療法であることを示すものである。
【0085】
rhFIIの単独使用または3因子組み合わせの使用は、無制御出血の複雑な動物モデルでは、希釈性凝固障害のために、これまで試験されていなかった。したがって、本発明は、出血障害および失血の治療に対するrhFII単独の効能または3Fの効能を初めて提供するものである。上記実施例2で記載したように、実験終了時のTATレベルおよびトロンビン生成データは、すべての試料で投与前のレベルまで減少した。rhFII単独などの凝固因子の投与については、これは、危険な出血の発現過程で、または失血中に、より良好な治療計画の調節を可能にする点で有利である。持続時間が長引くと、治療計画の必要な調節ができなくなり得る。さらに、rhFII単独投与は、上述したように、複数の凝固因子の組み合わせを投与することにしばしば伴う、重症になる可能性がある血栓閉塞症の合併症を、治療中に避けることができる。