【実施例】
【0026】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0027】
本実施例は、Zn:15.0〜20.0mass%、Sn:0.50〜1.50mass%、Bi:0.6〜1.5mass%、P:0.30mass%以下及び不純物としてPb:0.20mass%以下を含有し、残余がCuと不可避不純物から成ることを特徴とする鋳造用無鉛快削青銅合金である。
【0028】
具体的には、砂型鋳造用若しくは連続鋳造用であり、本実施例においてはP:0.05mass%以下に設定した砂型鋳造用無鉛快削青銅合金としている。
【0029】
そして本合金においては、
図5(ii)に図示したように、x軸にBiのmass%、y軸にSnのmass%をプロットしたグラフにおいて、機械的性質のみを考慮した場合は下式(a)、(b)、(d)で表される直線で囲まれた範囲が最適となる。更に、機械的性質だけでなく被削性を加味した場合は
図11に図示した範囲が最適となる。そのため、本実施例においては、機械的性質及び被削性を考慮して、下式(a)〜(c)で表される直線で囲まれた範囲となるように、Sn及びBi量を設定している。
y=1.50・・・(a)
y=0.86
×x+0.06・・・(b)
x=0.60・・・(c)
x=0・・・(d)
【0030】
以下、具体的な実験例に基づいて詳述する。
【0031】
(1)供試材
供試材の化学成分を
図1のNo.1〜25に示す。比較合金としては一般的な鉛無青銅のJIS H5120 CAC902を用い、化学成分をそれぞれNo.4,9に示す(No.4,9を除く他の供試材が本実施例に係る合金である。)。供試材は黒鉛坩堝を用いて電気炉にて溶解し、試験用途に応じてNo.1〜3、5は、穿孔試験用で直径40mm、高さ100mmの金型と、切削合力測定用でJIS H5120 E号金型に、No.4は、穿孔試験用で直径40mm、高さ100mmの金型に、No.6〜25は機械的性質測定用でJIS H5120 E号金型と、そのうちNo.6〜9は耐エロージョン・コロージョン性試験用に直径40mm、高さ100mmの金型に、各々鋳造し、試験片を採取した。
【0032】
被削性として、穿孔に関する評価のために、
図1に示す各合金(No.1〜5)の直径40mm、高さ100mm金型鋳造材は、底部を30mm高さで切断し、穿孔用試験片を採取し、穿孔試験に供した。また、外径切削に関する評価のために、
図1に示す各合金(No.1〜5)のE号金型鋳造材は、直径18mm長さ200mmに機械加工し、切削合力測定に供した。
【0033】
機械的性質(引張強さと伸び)を評価するために、
図1に示す各合金(No.6〜25)のE号金型鋳造材から、JIS Z2201 4号引張試験片を採取し、引張試験に供した。
【0034】
耐エロージョン・コロージョン性を評価するために、
図1に示す各合金(No. 6〜9)の直径40mm、高さ100mmの金型鋳造材から、
図12に示す試験片形状に機械加工し、エロージョン・コロージョン試験に供した。
【0035】
(2)機械的性質の評価
供試材No.6〜25について引張試験を行った結果を
図2に示す。JIS H5120 CAC902における機械的性質規格の引張強さは195MPa以上、伸びは15%以上であり、参考までにそれを満たす場合は○、満たさない場合は×と評価した。
【0036】
図3のSn量と機械的性質の関係において、Sn量の減少とともに引張強さは減少の傾向にあり、
図4のBi量と機械的性質の関係においては、Bi量の増加とともに引張強さは減少の傾向が見られる。よって、195MPa以上を一定の基準とした場合、機械的性質を満たすSn、Biの下限量から、それらと機械的性質の関係は
図5のようになる。
【0037】
(3)被削性の評価
被削性の評価は外径切削と穿孔切削で行い、外径切削は
図6に示す切削条件で試験片の外径加工を行い、その切削合力を測定した。
図7は供試材No.1〜5の切削合力測定結果を示したものである。また、穿孔切削は供試材No.1〜5について、
図8に示す切削条件でドリルが5mm深さまで到達するまでの時間を計測し、
図9の位置で試験を行った。その結果を、
図10に示す。
【0038】
図7,10における両被削性評価では、Bi0.6mass%未満において、比較材のCAC902より急激に被削性が悪化している。従って、外径切削、穿孔の両切削条件においてはBiを0.6mass%以上まで添加することによって、Bi量のチップブレーカ効果がより高まり、CAC902に近い被削性を得ることができる。
【0039】
また、機械的性質におけるSn、Biの関係に、被削性を考慮した最低Bi量を加えると
図11の様になる。
【0040】
(4)耐エロージョン・コロージョン性の評価
耐エロージョン・コロージョン試験は
図13に示す条件で、
図12における試験片形状の直径30mmの平試験面部に、0.4mm離れたところから勢い良く試験溶液を噴射し、強制的にエロージョン・コロージョンを起こさせ、試験片の最大腐食深さ、腐食減量重量を測定し、耐エロージョン・コロージョン性を評価した。
【0041】
供試材No.6〜9について耐エロージョン・コロージョン試験を行った結果を
図14に、また、腐食減量重量の一般的な比較材との対比グラフを
図15に、最大腐食深さの同対比グラフを
図16に示す。一般的に耐エロージョン・コロージョン性が悪い材質では、最大腐食深さで1000μm、腐食減量重量で1000mg程度であり、Snが低くなるとともに両者が大きく劣化していくため、それらを参考としてSnは0.5mass%以上が妥当と思われる。
【0042】
以上の各種実験結果より、機械的性質を満足させるためにはSn、Biは
図5の左側の範囲内に入れる必要があり、被削性を同時に満足しようとした場合は、さらにBiを0.60mass%以上含有させる必要がある(
図11)。また、エロージョン・コロージョン性を考慮した場合の最低Sn量は0.5mass%であり、良好な機械的性質を確保し耐食性とのバランスを取る為、Snは1.50mass%を上限とした。さらに、良好な被削性を備えたまま延性や鋳造性を損なうことの無いよう、Biは0.60〜1.5mass%とした。これにより、一般的な鉛無青銅のJIS H5120 CAC902とほぼ同等な機械的性質はもとより、大きく劣化しない被削性、耐エロージョン・コロージョン性を確保することが可能となる。
【0043】
よって、本実施例は、一般的な鉛無青銅のJIS H5120 CAC902における基本特性を大きく損なうこと無く、高価なSnとBiを極めて低くまた狭い範囲内に調整することで、トータルコストを抑えつつも一般的な鉛無青銅と遜色ない機械的性質、耐エロージョン・コロージョン性、被削性を備えた鋳造用無鉛快削青銅合金となる。