特許第6000315号(P6000315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000315
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】光起電力素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20160915BHJP
   H01L 31/0747 20120101ALI20160915BHJP
【FI】
   H01L31/04 266
   H01L31/06 455
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-210818(P2014-210818)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-82025(P2016-82025A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2016年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591097632
【氏名又は名称】長州産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100152261
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 隆弘
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 英治
【審査官】 金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3349308(JP,B2)
【文献】 国際公開第2012/105155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02 − 31/078
H01L 31/18 − 31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一導電型の結晶系の半導体基板の第1の主面に一導電型の非晶質の第1半導体層を積層し、かつ前記半導体基板の第2の主面に他導電型の非晶質の第2半導体層を積層して得られる積層体を基板ホルダーに配置し、
前記積層体は、前記第2半導体層を積層した面を前記基板ホルダー側に向けて配置するものとし、
前記基板ホルダーには、前記積層体の前記第2半導体層を積層した面をその周縁部を残して露出させる開口部を予め形成しておき、
前記基板ホルダーに前記積層体を配置した状態で透明導電膜の材料を前記第1半導体層の主面および側面に向けて供給して第1透明導電膜を積層し、かつ前記開口部を通じて透明導電膜の材料を前記第2半導体層の主面に向けて供給して第2透明導電膜を積層し、
前記第1透明導電膜上に集電極を形成し、
前記第2透明導電膜上に裏面電極を形成することを特徴とする光起電力素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光起電力素子、及びこれを用いた太陽電池モジュール、太陽光発電システム、そして光起電力素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ接合型の光起電力素子とは、半導体基板の一方の面において、半導体基板と同一の一導電型を示す非晶質の半導体層が形成され、半導体基板の他方の面において半導体基板と逆の他導電型を示す非晶質の半導体層とが形成され、各半導体層に透明導電膜が積層されたものである。なお、前述の半導体層を形成する前に、半導体基板の両面に真性の非晶質の半導体層を形成する場合もある。
【0003】
この光起電力素子は、半導体基板と半導体層の界面に存在する未結合手を水素により終端して高いパッシベーション性能を発揮している。しかし、半導体層を形成した後の熱履歴が200度を超えると未結合手を終端している水素が脱離するため、一般的なシリコン系太陽電池に用いられるファイヤースルーの手法を用いることはできない。このため、前述のとおり、各半導体層上に透明導電膜を積層する必要がある。光起電力素子における透明導電膜は、集電極に至るまでの横方向の集電と、反射防止膜の2つの役割を果たしている。
【0004】
図10に光起電力素子の等価回路を示す。図10に示すように、光起電力素子においては、直列抵抗Rsを0Ωに近づけるとともに、並列抵抗Rshを極めて高くする(無限大に近づける)ことが、光起電力素子の出力特性を増加させる指針となる。
【0005】
ところで、透明導電膜を形成する際には、スパッタ法、CVD法等の製造法を用いるので、透明導電膜が半導体層の表面のみならず、半導体層及び基板の側面にも回り込むことになる。この場合、一導電型を示す半導体層上の透明導電膜と、他導電型を示す半導体層上の透明導電膜が電気的に接触することになる。これにより、光起電力素子の並列抵抗Rshが低下して漏れ電流が増大し、光起電力素子の出力特性が低下することになる。そこで、このような電気的な接触を避ける手法として、レーザ光などを用いたエッジアイソレーションが一般的に知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3349308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のように、エッジアイソレーションを実施するには専用の設備を導入する必要があり、コストの増加要因となっていた。また、特許文献1においては、他導電型の半導体層上に集電極を形成し、一導電型の半導体層上に裏面電極を形成している。この場合、半導体基板から裏面電極までの各層の界面はオーミックな接触となっている。さらに、集電極が形成された側の透明導電膜が半導体基板の側面にまで回り込んでおり、この透明導電膜と半導体基板との間がオーミックな接触となっている。ここで、オーミックな接触とは、オームの法則に従った電気伝導となるオーミック接触のみならず、価電子帯の上部または伝導体の下部にポテンシャルバリアがあったとしても、その高さが熱エネルギーと比較して低い場合、または、その幅がキャリアにとってトンネル効果により容易に貫通できる程度に狭い場合のようにオーミック接触に類似した電気伝導が可能な接触も含まれる。このため、集電極が形成された側の透明導電膜と裏面電極との間が半導体基板を介してオーミックな伝導となり、漏れ電流が発生するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に着目し、集電極が形成された側の透明導電膜と裏面電極との間のオーミックな伝導を低減することにより漏れ電流を抑制して高効率を実現する光起電力素子、及びこれを用いた太陽電池モジュール、太陽光発電システムを提供することを目的とする。また、本発明は、エッジアイソレーション等の後工程を経ることなく前述の光起電力素子を製造するための光起電力素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る光起電力素子は、第1には、一導電型の結晶系の半導体基板と、前記半導体基板の第1の主面に積層された一導電型の非晶質の第1半導体層と、前記第1半導体層に積層された第1透明導電膜と、前記半導体基板の第2の主面に積層された他導電型の非晶質の第2半導体層と、前記第2半導体層に積層された第2透明導電膜と、を備える光起電力素子において、前記第2透明導電膜は、前記第2半導体層の主面の周縁よりも内側となる領域に設けられ、前記第1透明導電膜上には集電極が設けられ、前記第2透明導電膜上には裏面電極が設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記構成おいて、集電極が配置された第1透明導電膜が太陽光の受光面となる。また、上記構成により、第2半導体層に積層された第2透明導電膜は半導体基板には接触しておらず、また他導電型の第2半導体層により裏面電極と、半導体基板の第2の主面側に形成された各層との間は非オーミック伝導となっている。よって、仮に第1半導体層に積層された第1透明導電膜が半導体基板の側面、さらには第2半導体層の側面にまで回り込んでいたとしても、第1透明導電膜と裏面電極との間は第2半導体層の存在によりオーミックな伝導になることはない。したがって、第1透明導電膜から裏面電極への漏れ電流を抑制して高効率な光起電力素子となる。
【0011】
第2には、前記第1透明導電膜は、前記第1半導体層の周縁からその側面に回り込み前記半導体基板の側面を覆っていることを特徴とする。
上記構成により、1透明導電膜から裏面電極への漏れ電流を抑制した状態を維持しつつ第1透明導電膜の第1半導体層からのキャリアの集電効率を高めることができる。
【0012】
第3には、前記半導体基板と前記第1半導体層との間、及び前記半導体基板と前記第2半導体層との間には、真性の非晶質の半導体層がそれぞれ設けられていることを特徴とする。
上記構成により、キャリアの再結合損失を低減して光起電力素子の変換効率を高めることができる。
【0013】
本発明に係る太陽電池モジュールは、前述の光起電力素子を備えたことを特徴とする。
上記構成により、第1透明導電膜から裏面電極への漏れ電流を抑制して高効率な太陽電池モジュールとなる。
【0014】
本発明に係る太陽光発電システムは、前述の太陽電池モジュールを備えたことを特徴とする。
第1透明導電膜から裏面電極への漏れ電流を抑制して高効率な太陽光発電システムとなる。
【0015】
一方、本発明に係る光起電力素子の製造方法は、一導電型の結晶系の半導体基板の第1の主面に一導電型の非晶質の第1半導体層を積層し、かつ前記半導体基板の第2の主面に他導電型の非晶質の第2半導体層を積層して得られる積層体を基板ホルダーに配置し、前記積層体は、前記第2半導体層を積層した面を前記基板ホルダー側に向けて配置するものとし、前記基板ホルダーには、前記積層体の前記第2半導体層を積層した面をその周縁部を残して露出させる開口部を予め形成しておき、前記基板ホルダーに前記積層体を配置した状態で透明導電膜の材料を前記第1半導体層の主面に向けて供給して第1透明導電膜を積層し、かつ前記開口部を通じて透明導電膜の材料を前記第1半導体層の主面に向けて供給して第2透明導電膜を積層し、前記第1透明導電膜上に集電極を形成し、前記第2透明導電膜上に裏面電極を形成することを特徴とする光起電力素子の製造方法。
【0016】
上記方法により、基板ホルダーを第2半導体層の周縁のみを第2透明導電膜の材料に対して遮蔽するマスクとして用いることができる。よってマスクに覆われた第2半導体層の周縁に第2透明導電膜が積層されることはなく、第2透明導電膜が第1透明導電膜に接触することはない。従って、エッジアイソレーション等の後工程を経ることなく前述の光起電力素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光起電力素子、及びこれを用いた太陽電池モジュール、太陽光発電システムによれば、集電極側に配置された第1透明導電膜から裏面電極への漏れ電流を抑制することができる。また、本発明に係る光起電力素子の製造方法によれば、エッジアイソレーション等の後工程を経ることなく前述の光起電力素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の光起電力素子の模式図(断面図)である。
図2】本実施形態の光起電力素子の模式図(裏面図)である。
図3】本実施形態の光起電力素子の製造装置の模式図(正面図)である。
図4】本実施形態の光起電力素子の製造装置の模式図(平面図)である。
図5】本実施形態の光起電力素子の製造装置における透明導電膜の積層前を示す模式図(断面図)である。
図6】本実施形態の光起電力素子の製造装置における透明導電膜の積層後を示す模式図(断面図)である。
図7】比較例の光起電力素子の模式図(断面図)である。
図8】実施例及び比較例の暗流特性を示す図である。
図9】実施例及び比較例のIV特性を示す図である。
図10】光起電力素子の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0020】
図1図2に本実施形態の光起電力素子の模式図(断面図、裏面図)を示す。本実施形態の光起電力素子10は、一導電型(n型)の単結晶のシリコン基板12(半導体基板)を用いている。そして、シリコン基板12の第1の主面12aには、真性(i型)の非晶質(アモルファス)のi型シリコン層14(半導体層)、一導電型(n型)の非晶質のn型シリコン層16(第1半導体層)、ITO(Indium Tin Oxide)等を材料とする第1透明導電膜18、及び集電極20がその順に積層されている。よって、シリコン基板12の第1の主面12a側が太陽光の受光面になっている。
【0021】
一方、シリコン基板12の第2の主面12bには、真性(i型)の非晶質(アモルファス)のi型シリコン層22(半導体層)、他導電型(p型)の非晶質のp型シリコン層24(第2半導体層)、ITO等を材料とする第2透明導電膜26、及び裏面電極28がその順に積層されている。
【0022】
i型シリコン層14,22、n型シリコン層16、p型シリコン層24は、シランなどのシリコン化合物を用いたプラズマCVD法により成長させることができる。このうち、n型シリコン層16の成長の際には、シリコン化合物にジボラン等を添加すればよく、p型シリコン層24の成長の際には、シリコン化合物にホスフィン等を添加すればよい。また、第1透明導電膜18及び第2透明導電膜26は、後述のスパッタ法により成長させることができる。
【0023】
集塵極20及び裏面電極28は、導電性ペーストを用いた印刷技術により形成することができる。裏面電極28の材料としては、銀、ニッケル、銅、アルミ、カーボン等の導電性ペーストを用いることが好適である。一方、図示は省略するが、集電極20は、第1透明導電膜18に対する遮光率を低減するために櫛歯状に形成して、通電面積を小さくする必要がある。このため、通電面積が小さい状態で良導体とするために、集電極20の材料としては、導電性の高い銀ペーストを用いることが好適である。
【0024】
図1図2に示すように、第1透明導電膜18は、n型シリコン層16(図1)上に積層されるものであるが、n型シリコン層16の周縁からはみ出して、n型シリコン層16の側面及びシリコン基板12の側面、i型シリコン層22の側面、p型シリコン層24の側面にまで回り込んでいる。
【0025】
一方、第2透明導電膜26は、p型シリコン層24上に積層されるものであるが、p型シリコン層24の主面の周縁(i型シリコン層22の主面の周縁及びシリコン基板12の主面の周縁)よりもやや内側となる領域に形成されている。
【0026】
上記構成により、p型シリコン層24に積層された第2透明導電膜26はシリコン基板12には接触しておらず、また他導電型のp型シリコン層24により、裏面電極28と、シリコン基板12の第2の主面12b側に形成された各層との間は非オーミック伝導となっている。よって、図1に示すように、n型シリコン層16に積層された第1透明導電膜18がシリコン基板12の側面、さらにはp型シリコン層24の側面にまで回り込んでいたとしても、第1透明導電膜18と裏面電極28との間はp型シリコン層24の存在によりオーミックな伝導になることはない。したがって、第1透明導電膜18から裏面電極28への漏れ電流を抑制して高効率な光起電力素子10となる。
【0027】
また第1透明導電膜18は、n型シリコン層16の周縁からその側面に回り込みシリコン基板12の側面を覆っている。これにより、第1透明導電膜18から裏面電極28への漏れ電流を抑制した状態を維持しつつ第1透明導電膜18のn型シリコン層16からのキャリアの集電効率を高めることができる。
【0028】
さらに、シリコン基板12とn型シリコン層16との間にはi型シリコン層14が、シリコン基板12とp型シリコン層24との間にはi型シリコン層22が設けられている。これにより、キャリアの再結合損失を低減して光起電力素子10の変換効率を高めることができる。
【0029】
図3図4に本実施形態の光起電力素子の製造装置の模式図(正面図、平面図)を示す。また、図5図6に、本実施形態の光起電力素子の製造装置における透明導電膜の積層前と積層後を示す模式図(断面図)を示す。
【0030】
本実施形態の光起電力素子10の製造装置100(スパッタ装置)は、第1透明導電膜18及び第2透明導電膜26を成長させるものである。製造装置100は、チャンバー(不図示)内に積層体13を載置する基板ホルダー102が配置されている。ここで、積層体13とは、シリコン基板12の第1の主面12aにi型シリコン層14、n型シリコン層16の順に積層し、第2の主面12bにi型シリコン層22、p型シリコン層24の順に積層したものである。またチャンバー内において、基板ホルダー102の上方と下方となる位置には、それぞれ透明導電膜の材料を焼結させた円筒形のターゲット106,108が配置されている。ここで、基板ホルダー102は、積層体13を一方のターゲット106に対向する位置から他方のターゲット108に対向する位置に、駆動機構103によって、移動できるようになっている。
【0031】
ターゲット106,108は、それぞれ中空の円筒形状なっている。そしてターゲット106,108の内部には、磁石109がそれぞれ配置されており、グロー放電用の高電圧電源により電力を供給すると、この磁石109により生ずる磁力線に閉じ込められて高密度放電プラズマが形成される。このため、その高密度放電プラズマ中で生じたイオンが照射されてターゲット106,108の材料が弾き飛ばされ、積層体13に到達するようになっている。一方、ターゲット106,108は円筒形の軸周りに回転している。これにより、チャンバー内において、ターゲット106,108の材料が弾き飛ばされる位置はほぼ固定されるが、ターゲット106,108の円筒面における材料を弾き飛ばす位置は回転により移動している。図において、上部に配置されているターゲット106からは基板ホルダー102(積層体13)の上面に向けてターゲット106の材料が飛散し、下部に配置されているターゲット108からは基板ホルダー102(積層体13)の下面に向けてターゲット108の材料が飛散する。
【0032】
基板ホルダー102の積層体13を載置する位置には、積層体13(シリコン基板12)の外形の相似形であってやや積層体13よりも小さい開口部104が形成されており、積層体13は、その周縁のみが基板ホルダー102により支持される。これにより積層体13の周縁はターゲット108から弾き飛ばされる材料に対して遮蔽(マスク)され、残りの部分が開口部104により露出し、ターゲット108から弾き飛ばされた材料が堆積する。
【0033】
図5に示すように、本実施形態では、積層体13は、シリコン基板12の第2の主面12b、すなわちp型シリコン層24を形成した面を開口部104に向けて基板ホルダー102に載置する。また、図6に示すように、本実施形態では、第1の主面12a側に第1透明導電膜18、第2の主面12b側に第2透明導電膜26を積層するが、積層の順番は任意である。また、図3,4では、片面ずつ透明導電膜を積層しているが、ターゲット106,108が積層体13を同時に挟み込む配置にし、両面同時に透明導電膜を積層してもよい。
【0034】
そして、第1透明導電膜18及び第2透明導電膜26を積層後、第1透明導電膜18上に集電極20を形成し、第2透明導電膜26上に裏面電極28を形成することにより、図1、2に示す光起電力素子10が形成される。
【0035】
上記工程により、基板ホルダー102をp型シリコン層24の周縁のみを第2透明導電膜26の材料に対して遮蔽するマスクとして用いることができる。よってマスクに覆われたp型シリコン層24の周縁に第2透明導電膜26が積層されることはなく、第2透明導電膜26が第1透明導電膜18に接触することはない。従って、エッジアイソレーション等の後工程を経ることなく光起電力素子10を製造することができる。
【0036】
[実施例]
本実施形態の光起電力素子10の製造工程について説明する。まず、一辺が156mmの正方形の単結晶系のn型のシリコン基板12を用意した。そして、プラズマCVD法により、シリコン基板12の第1の主面12aに非晶質のi型シリコン層14、及び非晶質のn型シリコン層16を順に積層し、第2の主面12bに非晶質のi型シリコン層22、及び非晶質のp型シリコン層24を順に積層した。
【0037】
次に、第1透明導電膜18、第2透明導電膜26はスパッタ法により積層する。その際、ターゲット106,018は、錫(Sn)を3wt%含有するITOの円筒形の焼結体を用いた。また、基板ホルダー102には一辺が152mmの正方形の開口部104を形成し、この開口部104を覆うようにシリコン基板12を基板ホルダー102に配置した。
【0038】
ここで、開口部104を広げすぎるとシリコン基板12が位置ズレを起こして局所的に第1透明導電膜18と第2透明導電膜26が電気的に接触する。逆に、開口部104を狭くしすぎると実質的な発電領域が狭くなる。このため、156mm角のシリコン基板12を用いる際の開口部104の寸法は、150mm角〜155mm角が好適である。このときの第2透明導電膜26のマスク領域(非成膜領域)は、シリコン基板12の周縁からその内側に0.5mm〜3mmの幅を有する矩形のリング形状となる。
【0039】
なお、各層の厚みは、シリコン基板12が200μm程度、i型シリコン層14及びn型シリコン層16が10nm程度、i型シリコン層22、p型シリコン層24、第1透明導電膜18、及び第2透明導電膜26が100nm程度である。
【0040】
実施例では、シリコン基板12を156mm角、開口部104を152mm角としたので、第2透明導電膜26に対するマスク領域(非成膜領域)は、シリコン基板12の周縁からその内側に2mmの幅を有する矩形のリング形状となった。一方、第1透明導電膜18は、シリコン基板12の側面にまで回り込んだ状態でn型シリコン層16上に積層された。その後、導電性ペーストを用いた印刷技術により、第1透明導電膜18上に集電極20を形成し、第2透明導電膜26上に裏面電極28を形成した。
【0041】
図7に、比較例の光起電力素子の模式図(断面図)を示す。実施例では、p型シリコン層24が開口部104に対向するように積層体13を基板ホルダー102に配置したが、比較例では、積層体13において、n型シリコン層16が開口部104に対向するように積層体13を基板ホルダー102に配置して光起電力素子11を形成した。比較例では、p型シリコン層24上に積層した第2透明導電膜26がシリコン基板12の側面にまで回り込み、n型シリコン層16上に積層した第1透明導電膜18は開口部104(マスク)によりn型シリコン層16の周縁よりやや内側となる領域に形成される。そして、第1透明導電膜18上に裏面電極28を形成し、第2透明導電膜26上に集電極20を形成した。よって、光起電力素子11では、第2透明導電膜26側が太陽光の受光面となる。
【0042】
図8に、実施例及び比較例の暗流特性を示し、図9に、実施例及び比較例のIV特性を示す。図8は、横軸が集電極20と裏面電極28との間の印加電圧(V)、縦軸が光起電力素子10,11内を流れる暗電流(A)を示している。また図9は、光起電力素子10,11に光を照射して起電力を発生させ、開放電圧、短絡電流、負荷特性を測定したものである。
【0043】
図8に示すように、印加電圧が0.6V以上では実施例と比較例ではほとんど差は見られない。しかし、印加電圧を0.6V以下にすると両者の間には差が生じ、0.3Vにおいて実施例の暗電流は比較例の暗電流よりも約10分の1程度にまで低くなり、0.1Vにおいては約50分の1程度にまで低くなる。
【0044】
比較例では、シリコン基板12と裏面電極28との間がオーミックな伝導となっている。またp型シリコン層24上に積層した第2透明導電膜26はn型シリコン層16の側面にまで回り込み(図7)、両者はオーミックな伝導となっている。よって、第2透明導電膜26と裏面電極28はオーミックな伝導となっている。このため、図8に示すように、比較例では、低バイアス域における暗電流(漏れ電流)が実施例と比較して抑制できておらず、図9に示すように光照射時の電流も暗電流の分だけ実施例よりも低くなり、出力特性が実施例よりも劣った形となる。
【0045】
本実施形態の光起電力素子10を、例えばパネルにアレイ状に複数配列して並列接続することにより太陽電池モジュールを構築することができる。また、この太陽電池モジュールを屋外(屋根)に複数配置することにより太陽光発電システムを構築することができる。
【0046】
なお、シリコン基板12の第1の面12aにi型シリコン層14を、第2の面12bにi型シリコン層22を積層しているが、キャリアの再結合損失が小さい等の理由により、十分な変換効率が得られる場合には、これらを省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
集電極が形成された側の透明導電膜と裏面電極との間のオーミックな伝導を低減することにより漏れ電流を抑制して高効率を実現する光起電力素子、及びこれを用いた太陽電池モジュール、太陽光発電システムとして利用できる。また、エッジアイソレーション等の後工程を経ることなく前述の光起電力素子を製造するための光起電力素子の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0048】
10………光起電力素子、12………シリコン基板、13………積層体、12a………第1の主面、12b………第2の主面、14………i型シリコン層、16………n型シリコン層、18………第1透明導電膜、20………集電極、22………i型シリコン層、24………p型シリコン層、26………第2透明導電膜、28………裏面電極、100………製造装置、102………基板ホルダー、104………開口部、106………ターゲット、108………ターゲット。
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