(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000346
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】安全性ガスの必要を最小化するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20160915BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20160915BHJP
H01M 8/04228 20160101ALI20160915BHJP
H01M 8/04303 20160101ALI20160915BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/12
H01M8/04 H
H01M8/04 Y
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-517859(P2014-517859)
(86)(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公表番号】特表2014-523081(P2014-523081A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】FI2012050676
(87)【国際公開番号】WO2013001166
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年5月11日
(31)【優先権主張番号】20115685
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】513042506
【氏名又は名称】コンヴィオン オサケユキチュア
【氏名又は名称原語表記】CONVION OY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ホッティネン,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】アストロム,キム
(72)【発明者】
【氏名】ライティネン,マルコ
【審査官】
笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−059667(JP,A)
【文献】
特開2009−252544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 −8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置であって、前記燃料電池システムの各燃料電池が、アノード側、カソード側、及び前記アノード側と前記カソード側との間の電解質を有し、前記燃料電池は燃料電池スタックに配置され、前記燃料電池システムは、反応物のための燃料電池システム配管、及び燃料を前記燃料電池の前記アノード側に供給するための手段を有し、前記装置は:
− アノードの酸化を妨げるために少なくとも2つの前記燃料電池スタックのグループに別々のルートで所定の電圧を供給する電気的アノード保護のための手段と、
− 前記電気的アノード保護のための手段に少なくとも所定の最小時間は電気エネルギを提供するバックアップエネルギ源と、
− 故障のスタックの場合における前記スタックのグループ固有の前記電気的アノード保護に対して、アノード保護電流が所定の最大電流値を超えることを別々に防ぐための手段と、を有し、
− 前記装置は、前記アノードの酸化が前記燃料電池の前記アノード側に前記燃料を供給するための手段によって妨げられない状況において、前記電気的アノード保護のための手段を確実にトリガするための手段、を有し、前記装置はさらに爆発雰囲気の存在において爆発安全動作を可能にするための手段を有し、前記装置はさらに全ての非安全設備の電源を確実に切るための手段を有する、
装置。
【請求項2】
前記状況は、前記アノードの酸化が前記燃料電池の前記アノード側に前記燃料を供給するための手段によって妨げられない、緊急シャットダウン状況である、
請求項1に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項3】
前記装置は、前記燃料電池スタックの温度値を得るための及び前記温度値に応じて前記所定の電圧を定めるための手段を有する、
請求項1に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項4】
前記装置は、前記アノード保護電流の変調によって実現される、スタック抵抗情報に基づいて前記燃料電池スタックの温度値を得るための前記手段を有する、
請求項3に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項5】
前記装置は、スタック固有の抵抗情報を測定するために、各前記スタックのグループに別々のルートで、直流信号とともに及び前記直流信号の上に高周波交流電圧信号を注入することによって、前記燃料電池スタックの温度値を別々に得るための前記手段を有し、
少なくともスタック固有の前記電気的アノード保護に使用される電流値を制限するために、前記スタック固有の抵抗情報に基づいて、各前記スタックのグループに対して個別の温度情報を決定する、
請求項4に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項6】
前記装置は、安全性ガスの必要性を最小にするように、前記緊急シャットダウン状況においてパージングガスによる前記反応物の排除のための手段を有する、
請求項2に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項7】
前記装置は、前記燃料電池スタックの前記電気的アノード保護のために電気的エネルギを供給するための、及びアイランドモード動作において一時的なバッテリバッファとして動作するための及び/又は前記燃料電池システムによるUPS(無停電電源)機能を実装するための、前記エネルギ源としてのバッテリ源を有する、
請求項1に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項8】
前記装置は、前記燃料電池スタックの前記電気的アノード保護のためにエネルギを供給するための、及び/又は前記燃料電池システムによるUPS(無停電電源)機能を実装するための、前記エネルギ源としての予備発電機を有する、
請求項1に記載の高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための装置。
【請求項9】
高温燃料電池システムにおいて安全性ガスの必要を最小化するための方法であって、前記方法では、燃料が燃料電池のアノード側に供給され、所定の電圧及び電流値が得られ、前記方法では:
− アノードの酸化を妨げるために少なくとも2つの燃料電池スタックのグループに別々のルートで所定の電圧を供給する電気的アノード保護が実行され、
− 前記電気的アノード保護を実行するために少なくとも所定の最小時間バックアップエネルギ源から電気エネルギが提供され、
− 故障のスタックの場合における前記スタックのグループ固有の前記電気的アノード保護に対して、アノード保護電流が所定の最大電流値を超えることが別々に防がれ、及び
− アノード酸化が前記燃料電池の前記アノード側に前記燃料を供給することによって妨げられない状況において、前記電気的アノード保護を実行することが確実にトリガされ、前記方法は、爆発安全動作が前記エネルギ源の爆発雰囲気の存在において可能にされるとともに全ての非安全設備が確実に電源を切られる、
高温燃料電池システムにおける安全性ガスの必要を最小化するための方法。
【請求項10】
前記状況は、前記アノードの酸化が前記燃料電池の前記アノード側に前記燃料を供給することによって妨げられない、緊急シャットダウン状況である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記燃料電池スタックの温度値が得られるとともに前記所定の電圧値は前記温度値に応じて定められる、
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記燃料電池スタックの温度値が、前記アノード保護電流の変調によって実現される、スタック抵抗情報に基づいて得られる、
請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記燃料電池スタックの温度値が、スタック固有の抵抗情報を測定するために、各前記スタックのグループに別々のルートで、直流信号とともに及び前記直流信号の上に高周波交流電圧信号を注入することによって、前記を別々に得られ、
少なくともスタック固有の前記電気的アノード保護に使用される電流値を制限するために、前記スタック固有の抵抗情報に基づいて、各前記スタック又は前記スタックのグループに対して個別の温度情報を決定する、
請求項9に記載の方法。
【請求項14】
反応物が、安全性ガスの必要性を最小にするように、前記緊急シャットダウン状況においてパージングによって排除される、
請求項10に記載の方法。
【請求項15】
バッテリ源が、前記燃料電池スタックの前記電気的アノード保護のために電気的エネルギを供給するための、及びアイランドモード動作において一時的なバッテリバッファとして動作するための及び/又は前記燃料電池システムによるUPS(無停電電源)機能を実装するための、前記エネルギ源として用いられる、
請求項9に記載の方法。
【請求項16】
予備発電機が、前記燃料電池スタックの前記電気的アノード保護のためにエネルギを供給するための、及び/又は前記燃料電池システムによるUPS(無停電電源)機能を実装するための、前記エネルギ源として用いられる、
請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
世界のエネルギーのほとんどは、石油、石炭、天然ガス又は原子力により生産されている。全てのこれらの生産方法はそれらに特有の問題を持っている。例えば利用可能性及び環境への影響の強さなどが懸念されている。環境へ懸念に関しては、特に石油及び石炭はそれらを燃焼させる際に大気汚染が問題となる。原子力の問題は、少なくとも、使用済み燃料の貯蔵である。
【0002】
特に環境問題のために、より環境に優しく、例えば上述のエネルギー源よりもより効率的な新たなエネルギー源が開発されてきている。燃料電池装置は、将来有望なエネルギー変換装置であり、それにより、例えばバイオガスなどの燃料が環境に優しいプロセスで化学反応を介して電気に直接変換される。
【背景技術】
【0003】
図1に示す燃料電池は、アノード電極側100とカソード電極側102及びそれらの間の電解質材料104を有する。
図1の矢印が表すように、燃料116がアノード側に供給され、空気106がカソード側に供給され、したがってカソード電極は“空気電極”とも呼ばれる。固体酸化物型燃料電池(SOFC)において、酸素(例えば、空気106)がカソード側102に供給され、外部電気回路111を介してアノードから電子を受け取ることによって負酸素イオンに還元される。負酸素イオンは電解質材料104を通過してアノード側100に行き、そこで燃料109と反応して水を生成し及びまた通常は二酸化炭素(CO2)を生成する。アノード100とカソード102の間は、燃料電池のための負荷110を有する外部電気回路111である。
【0004】
図2には、SOFC装置が高温燃料電池装置の一例として示される。SOFC装置は、例えば天然ガス、バイオガス、メタノール又は炭化水素混合物を含むをその他の化合物を燃料として使用し得る。
図2のSOFC装置は、1より多い、典型的には複数の燃料電池を、スタック形成部103(SOFCスタック)に含む。それぞれの燃料電池は、
図1で示されるアノード100及びカソード102構造を有する。使用済み燃料の一部は、それぞれのアノードを通ってフィードバック装置109で再循環される。測定手段115(例えば、燃料流量計、電流計、温度計等)を使用することによって、アノード側100を通って再循環され得るガスからの必要な測定が実行される。アノード側100で使用されたガスの一部のみが、フィードバック装置109でアノードを通って再循環され、ガスの他の部分はアノード100から排出114される。
【0005】
図2のSOFCはまた、燃料熱交換器105及びリフォーマ107を有する。熱交換器は、燃料電池プロセスでの熱条件を制御するために使用され、1より多い熱交換器がSOFC装置の異なる場所に置かれ得る。循環ガスの余分の熱エネルギーは、SOFC装置又は外部熱回収ユニットで利用されるように、1又は複数の熱交換器105で回収される。リフォーマ107は、例えば天然ガスなどの燃料を、燃料電池への適切な組成物、例えば水素とメタノール、二酸化炭素、一酸化炭素及及び不活性ガスを含む組成物に変換する装置である。ただしそれぞれのSOFCがリフォーマを持つことは必ずしも必要ではない。
【0006】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)装置は、燃料を酸化させることから電気を直接生成する電気化学変換装置である。SOFC装置の利点は、高効率、長期間の安定性、低排出及び低コストを含む。主な欠点は、高作動温度であり、これは長時間のスタートアップ時間、並びに、機械的及び化学的な適合性の問題をもたらす。固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、600−1000℃の温度で動作する。
【0007】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)のアノード電極は通常相当量のニッケルを含み、このニッケルは雰囲気が還元性でない場合には、酸化ニッケルを形成しやすい。酸化ニッケル生成が激しい場合、電極の形態が不可逆的に変化し、電気化学的活性の大きな損失、又は電池の破壊さえもたらす。従って、SOFCシステムは、燃料電池のアノード電極を酸化から防ぐために、スタートアップ及びシャットダウン中に、還元性ガス(窒素などの不活性ガスで希釈された水素など)を含む安全性ガスを必要とする。実際のシステムでは、過剰量の例えば水素を含む加圧ガスは高価であり、かつ空間を要する成分として問題があるため、安全性ガスの量は最小限である必要がある。
【0008】
アノードの酸化はアノード流路を還元性雰囲気に保つことによって防がれ得る。還元条件は、燃料又は、例えばアノードに達する全ての酸素を還元するのに十分な割合で水素を含むガス等の他の還元種によって維持され得る。還元ガスが高い水素(又は水素当量)含有量を有する場合、必要とされる流れは比較的小さく、通常の燃料が使用され得る場合、追加的なガス源は必要とされない。適切なプロセス及び安全装置によって、通常の燃料が、通常の作動中並びにスタートアップ及び制御されたシャットダウン中、アノードにおいて還元性雰囲気を保つために使用され得る。しかし、例えば、ガス警報に起因する緊急シャットダウン(ESD)の場合、可燃性ガスの全ての供給が、直ちに停止されなければならない。水素がアノードで依然として必要とされる場合、いずれの混合割合でも空気との爆発性混合物を作らない十分低い水素含有量を持つ希薄混合物の形態で供給されなければならない。水素―窒素混合物に関して、水素含有量はこの基準を満たすために5%以下にしなければならない。これは、純粋水素の供給と比べて必要な体積流量を20倍に増加させる。
【0009】
従来例においては、実行時反応物及びスタートアップ状況における加熱時間の最小化に対する同時の要求並びに実行時反応物及びシャットダウン状況におけるシステムの冷却の最小化に対する同時の要求があるので、通常のスタートアップ又はシャットダウン中の実行時反応物の量は、アノード再循環、即ち未使用の安全性ガスをループに戻して循環させることで最小化される。熱もまた未使用のガスと一緒にプロセスで再循環され得るので、スタートアップ過熱時間もこの再循環プロセスで最小化することが可能である。しかし、例えばガス警告や停電による緊急シャットダウン(ESD)では、必要な安全性ガスの量を増加させるのに利用可能なアクティブ再循環を利用できない場合がある。さらに、カソード空気流は、ESDの際にシステムを冷却することもない。というのは空気ブロワはシャットダウンされなければならず、それにより、前記システムをニッケル酸化が起こらない温度まで冷却する時間がアクティブシャットダウン状況と比較して3倍も増加されるので、必要な安全性ガスの量がさらに増加されるからである。
【0010】
ESD状況では、必要なガスの総量は、アノード酸化温度より下に冷却するためにシステムに必要な時間によって決定される。アクティブ冷却機構が緊急冷却中に利用可能でない場合があるので、冷却時間は、十分に断熱されたシステムに対して、最大何十時間であり得る。これは、燃料電池ユニットとともに大規模な安全性ガスの貯蔵の必要を意味する。付加費用に加えて、ガス貯蔵はまた、燃料電池システム設置のための必要スペースを著しく増加させる。さらに、ガス貯蔵及び配送ロジスティックス(ボトル又はボトルラック交換)は、燃料電池環境の追加的な要件及び各交換に対するコストをもたらす。全体で、大量のパージガス(すなわち、安全性ガス)に対する必要性は、多くの用途での燃料電池システムの実現可能性に対する大きな障害である。
【0011】
特許文献1には、シャットダウン又は燃料喪失イベント中の高温燃料電池システムにおけるアノード酸化保護方法が示されている。特許文献1の1つの方法では、溶融炭酸塩型又は固体酸化物型燃料電池のアノードの周りの還元性雰囲気が:(a)燃料電池によって発生した電位を監視すること;及び(b)燃料電池の電圧出力が所定のレベルより下に低下するときはいつも、電流が、燃料電池の通常動作中の電流の流れと反対の方向に、燃料電池を通って流れるように、燃料電池全体に外部電位を印加する;ことによって、保持される。外部電源が、所定電圧レベルより下への低下後に、適用され、この所定電圧レベルは実質的に低電圧レベルである。少なくとも低動作温度では、これらの種類の実施形態は、アノード酸化を防ぐことに成功しない。緊急シャットダウン状況(ESD)では、記載されたタイプの方法は、このようなものとして適用されることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US2002/028362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、シャットダウン状況でのアノード酸化のリスクが安全性ガスの必要を最小化するように低減される、燃料電池システムを実現することである
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、高温燃料電池システムにおいて安全性ガスの必要を最小化するための装置によって達成され、燃料電池システムの各燃料電池は、アノード側、カソード側、及びアノード側とカソード側との間の電解質を有し、燃料電池は燃料電池スタックに配置され、燃料電池システムは、反応物のための燃料電池システム配管、及び燃料を燃料電池のアノード側に供給するための手段を有する。この装置は、アノードの酸化を妨げるために少なくとも2つの燃料電池スタック又は燃料電池スタックのグループに別々に所定の電圧を供給する電気的アノード保護のための手段、電気的アノード保護のための手段に少なくとも所定の最小時間は電気エネルギを提供するのに十分なエネルギ源、アノード保護電流を少なくとも2つの燃料電池スタック又は燃料電池スタックのグループに対して別々に所定の最大電流値に制限するように所定の電圧を減らすための手段、及び、アノードの酸化が燃料電池のアノード側に燃料を供給するための手段によって妨げられない状況において、電気的アノード保護のための手段を確実にトリガするための手段、を有する。
【0015】
本発明の焦点はまた、高温燃料電池システムにおいて安全性ガスの必要を最小化するための方法であり、この方法では、燃料が燃料電池のアノード側に供給され、所定の電圧及び電流値が得られる。本方法では、アノードの酸化を妨げるために少なくとも2つの燃料電池スタック又は燃料電池スタックのグループに別々に所定の電圧を供給する電気的アノード保護が実行され、電気的アノード保護を実行するために少なくとも所定の最小時間は電気エネルギが提供され、アノード保護電流を少なくとも2つのスタック又はスタックのグループに対して別々に所定の最大電流値に制限するように所定の電圧が減らされ、及び本方法では、アノード酸化が燃料電池のアノード側に燃料を供給することによって妨げられない状況において、電気的アノード保護を実行することが確実にトリガされる。
【0016】
本発明は、アノード側の酸化を妨げるために少なくとも2つの燃料電池スタック又は燃料電池スタックのグループに別々に所定の電圧を供給する電気的アノード保護のために、少なくとも所定の最小時間は電気エネルギを提供するのに十分なエネルギ源の利用に基づく。この所定の電圧は、アノード保護電流を少なくとも2つのスタック又はスタックのグループに対して別々に所定の最大電流値に制限するために使用される。さらに、電気的アノード保護は、アノード酸化が燃料電池のアノード側に燃料を供給することによって妨げられない状況において、確実に動作される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の利点は、燃料電池システムの経済的なコスト及び物理的なサイズにおける著しい節約が緊急シャットダウン状況におけるアノード酸化のリスクを減らしながら達成され得ることである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】
図3は、本発明による第1の好適な実施形態を示す。
【
図4】
図4は、燃料電池スタックの電気的アノード保護のための手段の好適な例示的な実施形態を示す。
【
図5】
図5は、本発明による第2の好適な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、複数の形状を有し得る。平坦形状(
図1)は、多くのタイプの燃料電池に用いられる典型的なサンドイッチ型形状であり、電解質104が電極の間、アノード100とカソード102との間に入れられる。SOFCはまた、管状形状で構成されることもでき、例えば、空気又は燃料が管の内部を通され、他方のガスは管の外側に沿って通される。管状設計は、燃料から空気をシールする点で優れている。しかし、いずれにせよ、平面設計は比較的低い抵抗を有するため、平面設計の性能は、管状設計の性能より良好である。SOFCの他の構造は、改良平面セル(MPC又はMPSOFC)を含み、波状構造が平面セルの従来の平坦な構造を置き換える。このような設計は、それらが、平面セル(低抵抗)及び管状セル両方の利点を共有するため、将来有望である。
【0020】
SOFCで用いられるセラミックスは、それらが極めて高い温度に達するまでイオン的に活性にならず、この結果として、スタックは、600から1000℃の範囲の温度に加熱されなければならない。酸素106(
図1)の酸素イオンへの還元は、カソード102で生じる。これらのイオンはその後、固体酸化物電解質104を通って、それらが燃料として用いられるガスを電気化学的に酸化させることができるアノード100に移送される。この反応において、水及び二酸化炭素の副産物が、2つの電子と共に放出される。これらの電子はその後、それらが電流を生成するために利用され得る外部回路111を通って流れる。その後、これらの電子がカソード材料102に再び入るので、このサイクルが繰り返される。
【0021】
大型の固体酸化物型燃料電池システムでは、典型的な燃料は、天然ガス(主にメタン)、様々なバイオガス(主に窒素及び/又は二酸化炭素希釈メタン)、及び、アルコールを含む他の高級炭化水素含有燃料である。燃料は燃料を供給するための手段108(
図2、3、5)によってアノード側に供給され、この手段は、燃料を含む燃料源から燃料電池103のアノード側100への必要な接続配管を有する。メタン及び高級炭化水素は、燃料電池スタックに入る前に改質器107(
図2)で、或いは、スタック103内で(部分的に)内部的に改質される必要がある。改質反応は、ある程度の量の水を必要とし、また、追加的な水が、メタン及び特に高級炭化水素に起因する起こり得る炭素形成(コーキング)を防止するために必要とされる。この水は、水が燃料電池反応で余分に創出されるため、アノードガス排出流を再循環させることによって内部的に供給されることができる、及び/又は、この水は、独立した水供給部(例えば、新鮮な水の直接的な供給、又は、排出される凝縮液の循環)を用いて供給されることができる。アノード再循環装置によって、未使用燃料及びアノードガスの希釈剤の一部はまた、そのプロセスにフィードバックされ、一方で、独立した水供給装置では、水のみがそのプロセスに対して加えられる。
【0022】
アノードでの酸化を防止するための本発明による実施形態は、セルに適切な電界を維持することによって構成され、これはニッケル酸化反応が起こることを防ぐ。電界を維持するために、電流が燃料電池に供給される必要がある。電流の大きさはアノードに達する酸素の量と相互に関連する。以下では、緊急シャットダウン状況の間も電気アノード保護を用いるための様々なテクニック及び方法が示される。
【0023】
緊急シャットダウンは、燃料電池システムの内部又は外部の幾つかの理由によって生じ得る。これらの理由は、ガス漏れ、送電網の停電及び重大なコンポーネント故障を含む。例えば、ガス漏れは緊急シャットダウンを生じさせる潜在的な原因の1つであるので、燃料電池システムは爆発安全タイプでなければならない。
【0024】
電気装置に関して、これは、EX−分類、ゾーン2(爆発性雰囲気の発生が稀である)又はそれ以上を意味する。電気アノード保護が緊急シャットダウン状況において使用されることになる場合、それが、燃料電池スタック、電流収集及び配線、電気回路及びエネルギ源を含む、影響される部品のそれぞれに対する爆発のリスクを増加させないことが示されなければならない。
【0025】
燃料電池スタック103に関して、電気的アノード保護の使用は、爆発安全性に関して基本的に影響が無い。アノードがパージガス供給又は電子的に保護されるかどうかにかかわらず、スタックは、それらが高温である限り、OCV(開路電圧)に近い電圧を有する。OCVのレベルは、スタック及び作動温度に応じて、典型的には1V−1.15Vの間である。スタック表面温度は、基本的に同じであるとともに、最初に典型的には起こり得る漏出ガスの自己発火温度を十分に上回る。電気アノード保護が電流制限機能を備えるとき、それは実際局所的な漏れ又はスタック短絡によって生じる過熱のリスクを減少させることができる。したがって、燃料電池スタックに関して、爆発安全性は、緊急シャットダウン状況中に電気アノード保護を使用することに対する障害ではない。
【0026】
電流収集に関して、基本的に燃料電池スタック103に関するものと同じことを適用する。サーキットブレーカが高温環境に置かれることができないので、スタック集電装置及びケーブルの高温部分が常にスタック電圧を帯び、したがって、パージング又は電気的保護が使用されるかどうかにかかわらず違いは生じない。電気的保護に対して使用される電流は、少なくとも一桁公称燃料電池電流より小さく、それによって、配線の対応する熱負荷は無視できる。電流収集の低温部分に関して、通常のEX−プラクティスが適用され得る。電気的アノード保護に対して使用されるこの保護電流が燃料電池セル103から電気ネットワークに供給される電流と同じではないことも強調される。
【0027】
図3には、高温燃料電池システムにおける本発明による第1の好適な装置が示される。電気的保護を実現するために使用される電気回路122、すなわち電気的アノード保護のための手段122は好ましくは、ソース120からの電気的エネルギをスタック103に供給されることになる制御された電圧及びピーク制限電流に変換するための手段を有する。したがって、手段122は好ましくは、パワーエレクトロニクス回路を有する。EX−ゾーン1及び2に対して、例えば耐炎性エンクロージャがEX要件に適合するように用いられ得る。
【0028】
様々なエネルギ源120が電気的アノード保護のために電力を提供するために使用され得る。オプションは、バッテリ(例えば、鉛酸、リチウム)、外部UPS又は安全供給AC若しくはDC電源からの供給(例えば、船舶用途における非常用電源)及び予備発電機を含む。幾つかの電源の組合せ、例えば、限られた長さの送電網停電の代わりをするためのバッテリで保護される送電網からの供給が、使用され得る。バッテリ又は非常用発電機は、EX−分類の必要を避けるために、離れた非危険区域に置かれ得る。少なくともバッテリに関して、EX−承認エンクロージャも利用可能である。エネルギ源120は、電気的アノード保護の手段122に対して、少なくとも所定の最小時間は電気エネルギを提供するのに十分である。所定の最小時間は、例えば、燃料電池システム動作プロセス中又は同プロセス前の燃料電池システム計算及び/又は燃料電池システム測定に基づく。
【0029】
本発明はまた、アノード酸化が燃料を燃料電池103のアノード側100に供給するための手段108によって防ぐことができない状況において電気的アノード保護のための手段122を確実にトリガ(動作)させる手段126を有する。手段126は、電気的アノード保護手段を動作させる、すなわちオンにする。したがって、手段126は例えば、本発明によるトリガ動作を実行するためのトリガスイッチ又はトリガ電子装置である。トリガ動作を実行するためのコマンドは好ましくは、パワーエレクトロニクス制御手段124から又は燃料電池システム制御プロセッサから手段126に与えられることになる。
【0030】
アノードにおいて必要な電界を保持するために必要とされる電流の量は、スタックの漏れのレベル及び接地電流のレベル等に依存し、これらの目的のために、本発明は電流値を制限するための解決方法を提示する。水素の絶対的な必要性は、酸素漏出の量を決定することによって電気アノード保護において決定されることができ、この酸素の量に基づいて対応する水素の量が決定される。電気アノード保護及びパージングの組合せが用いられる本発明によるプロセスでは、必要な水素の量は、特に、パージングのみがプロセスで使われる状況での決定によって提供される。パージガスのみが使用されるのと同じレベルの保護を実現するために電気的アノード保護に必要とされる電流に対する悲観的推定値は、パージングガスの全ての水素が消費されることを仮定することによって得ることができる。この推定値は、従来技術のパージングプロセスのみが使用されるとき、パージガス量の要件がかなりの安全マージンを有するので、悲観的である。安全マージンは、様々な種類の不確実要因のために設定されている。水素の現実の必要は少なくなり、したがって電気的アノード保護のための電流の実際のレベルも少なくなる。
【0031】
電気的アノード保護に印加される電圧は、ニッケル酸化及びカーボン形成のどちらも起こらないように設定されるべきである。以下のアプローチで示される数値は実験的な熱力学計算に基づく。この実験的な熱力学計算(又は同種の値)はまた文献から見出され得る。定電圧が使用される場合、この電圧は1.0V近くであるべきである。スタックの温度情報が利用可能である場合、電力消費は、電流もまた最高であることが見込まれる高温において、電圧を0.8Vまで減らすことによって、減らされ得る。本発明の1つの好適な実施形態では、パワーエレクトロニクス制御手段124は、スタック抵抗情報を得るために、例えば、DC(直流)信号の上に高周波AC(交流)信号を注入することによって、アノード保護電流を変調するためのスタック抵抗(ASR)測定手段を有する。得られたスタック抵抗情報は、スタック温度を概算するために使用されることができ、その後、実際の温度測定の必要なしに使用されることになる適切な電気的保護電圧値を決定するために使用されることができる。好ましくは、手段124は、スタック固有の抵抗情報を測定するために、各スタック103又はスタックのグループに別々に、直流信号とともに及び直流信号の上に高周波交流電圧信号を注入することによって、燃料電池スタック103の温度値を別々に得る。その後、個別の温度情報が、スタック固有の抵抗情報に基づいて、各スタック又はスタックのグループに対して決定され、この温度情報は、スタック固有の電気的アノード保護に使われる電流の制限に利用される。
【0032】
さらに、制御手段124は、故障スタック又は短絡スタックの場合のスタック固有の電気的アノード保護における所定の最大値に保護電流を制限するように、所定の保護電圧を減らすための手段124を有する。これらの状況では、起こり得る短絡スタックは全ての使用可能な保護電流電位を空にせず、保護電流は、他のスタックに、それらが損傷を受けることを防ぐために、依然として提供され得る。したがって、他のスタックは本発明により構成されたこの種の個別使用構成によって、依然として使用中に保たれる。最大電流値の事前定義は少なくともスタック103の温度情報に基づき、この事前定義は、燃料電池システム動作プロセス中又は同プロセス前に実行され得る。所定の電圧を減らすための手段124は、従来技術による単純な電圧低減テクニック又はより複雑な電圧制御テクニックから構成され得る。
【0033】
図4には、燃料電池スタックの電気的アノード保護のための手段122の好適な例示的な実施形態が示される。手段122は、ダイオードD1、D2、D3、D4、第1のスイッチS1、S2、S3、S4、第2のスイッチk1、k2、コンデンサC1及びインダクタL1を有する。
ダイオード及び第1のスイッチは並列接続にある。手段122は、第2のスイッチk1を介してDC−リンクに、第2のスイッチk2を介して燃料電池スタック103に、及びコンデンサC1と並列接続でエネルギ源120に、接続される。手段122は、S1及びD2がアクティブであり、k2が閉じられ且つk1が開いているときのスタック保護状態で動作する。バッテリがエネルギ源120として使用されるとき、手段122は、S3及びD4がアクティブであり、k1が閉じられ且つk2が開いているときのバッテリ充電状態で動作する。さらに、手段122は、S4及びD2がアクティブであり、S1が閉じられ且つk1が閉じられるとき、一時的なエネルギバッファとして動作する。
【0034】
本発明の1つの好適な実施形態では、電気的なアノード保護のための手段122、すなわち、電気的なアノード保護のためのパワーエレクトロニクス回路は、スタック103に連続的に接続され得るとともに、1つの使用可能/使用不可能信号によって制御され得る。手段122の存在は、保護回路としての主電力変換装置(例えばDC/DC)の最小作動電流の要件を解除することを可能にする、すなわち、手段122は、燃料電池スタック103がローディングの開始中に電流を供給することを補助し得る。主変換装置に用いられるトポロジに応じて、より高い電流を用いる始動の可能性は、設計の簡略化及びコストの削減を可能にする。
【0035】
電気的アノード保護電源120が大型バッテリパックとして実装される場合、それはまた、追加的な機能を燃料電池システムに提供するように利用され得る。主インバータに接続される場合、それはアイランドモード動作において一時的なエネルギバッファとして働くことができ、さらに、燃料電池システムは、UPS(無停電電源)機能を実装することができる。
【0036】
図5には、本発明による第2の好適な装置が示され、この装置は、例えば
図3に関連して示された電気アノード保護装置とともに、安全性ガスの必要性を最小化するための、緊急シャットダウン状況でのパージング動作のための空気圧駆動装置130を有する。パージング動作のための装置130は、例えば、特許出願FI20105196に示されたパージング装置の1つである。スプーリング動作のためのこのような空気圧駆動装置は好ましくは、実質的に緊急シャットダウン(ESD)状況の場合にアノード側でのパージガス(すなわち、安全性ガス)の必要性を減らすために、高温燃料電池システムのカソード側102に配置されるが、装置はまた、アノード側100、又は高温燃料電池システムのアノード側100若しくはカソード側102の両方に同時に、適用され得る。この種の組み合わされたパージング及び電気的アノード保護装置によって、実質的に小さい酸素漏出が達成されることができ、したがって、著しく小さいエネルギ源120が電気的アノード保護に対して十分である。特に、大容量燃料電池システムでは、システムサイズは実質的に小さく構成され得るとともに、経済的なコストはパージング無しで電気的アノード保護を使用するシステムより小さい。
【0037】
本発明は、添付の図面及び発明の詳細な説明に基づいて説明されてきたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に含まれる変更をも対象としている。