特許第6000350号(P6000350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6000350フッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドガラス層を備えたオプティカルプリフォームを製造するためのプラズマ堆積方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000350
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】フッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドガラス層を備えたオプティカルプリフォームを製造するためのプラズマ堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20160915BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   C03B37/018 C
   G02B6/02 Z
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-522105(P2014-522105)
(86)(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公表番号】特表2014-528885(P2014-528885A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】EP2012064748
(87)【国際公開番号】WO2013014258
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年3月11日
(31)【優先権主張番号】102011108612.2
(32)【優先日】2011年7月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス シュルトハイス
(72)【発明者】
【氏名】カーステン ブロイアー
(72)【発明者】
【氏名】リヒャート シュミット
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−072231(JP,A)
【文献】 特開2010−155731(JP,A)
【文献】 米国特許第04294601(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドガラス層(3)を備えたオプティカルプリフォーム(13)を製造するためのプラズマ堆積方法であって、
プラズマトーチ(6)を用いてフッ素の存在下でSiO2粒子を形成し、石英ガラスから成り長手軸(4)を中心に回転する円柱状の基体(2)の円柱周面上に、前記粒子を層状に堆積させ、ガラス化してクラッドガラス層(3)を形成し、
前記プラズマトーチ(6)と前記基体(2)は、前記プラズマトーチ(6)が前記基体(2)に沿って2つの転回点(A;B)の間で方向転換しながら移動するよう、互いに相対的に運動する、
プラズマ堆積方法において、
前記プラズマトーチ(6)が他方の転回点(B;A)の領域に存在するとき、一方の転回点(A;B)の領域に対し暖熱部材(11;12)によって加熱作用を生じさせることを特徴とする、
プラズマ堆積方法。
【請求項2】
前記一方の転回点(A;B)の領域に及ぼす前記暖熱部材(11;12)の作用の大きさを、前記プラズマトーチ(6)が前記他方の転回点(B;A)から隔たるにつれて小さくする、請求項1に記載の堆積方法。
【請求項3】
前記プラズマトーチ(6)が一方の転回点(A;B)の領域に存在するとき、該転回点(A;B)の領域に対し前記暖熱部材(11;12)は作用を及ぼさない、請求項2に記載の堆積方法。
【請求項4】
前記一方の転回点の領域における前記暖熱部材(11;12)の加熱作用により、前記クラッドガラス層の表面温度を少なくとも650℃に維持する、請求項1から3のいずれか1項に記載の堆積方法。
【請求項5】
前記プラズマトーチ(6)の両側に配置された暖熱部材(11;12)を用い、該暖熱部材(11;12)の各々をそれぞれ1つの転回点(A;B)に割り当てる、請求項1から4のいずれか1項に記載の堆積方法。
【請求項6】
前記暖熱部材(11;12)として蓄熱器又は熱放射反射器を用いる、請求項1から5のいずれか1項に記載の堆積方法。
【請求項7】
前記蓄熱器又は前記熱放射反射器は、熱源により加熱される受動部材である、請求項6に記載の堆積方法。
【請求項8】
前記蓄熱器又は前記熱放射反射器として石英ガラス管(11;12)を用い、該石英ガラス管(11;12)は、前記プラズマトーチ(6)が前記他方の転回点(B;A)の領域に存在するとき、前記一方の転回点(A;B)の領域において前記基体(2)を取り囲む、請求項5又は6に記載の堆積方法。
【請求項9】
前記石英ガラス管(11;12)は、熱放射に対する拡散反射器として機能する少なくとも部分的に不透明な壁部を有する、請求項8に記載の堆積方法。
【請求項10】
前記クラッドガラス層を、最大で全長の80%に相当する長さまで、前記石英ガラス管の中に延在させる、請求項8又は9に記載の堆積方法。
【請求項11】
前記石英ガラス管の内径は、最大で200mm、前記基体の外径よりも大きい、請求項8から10のいずれか1項に記載の堆積方法。
【請求項12】
前記石英ガラス管の内径は、前記クラッドガラス層の最大外径の3倍を超えない大きさに相当する、請求項8から11のいずれか1項記載の堆積方法。
【請求項13】
前記基体(2)を水平方向に配向された長手軸(4)によって配置する、請求項1から12のいずれか1項記載の堆積方法。
【請求項14】
前記クラッドガラス層(3)の石英ガラス中に、ドーピングされていない石英ガラスに対し少なくとも27×10-3の屈折率低減Δnを生じさせるフッ素成分を含有させる、請求項1から13のいずれか1項記載の堆積方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドガラス層を備えたオプティカルプリフォームを製造するためのプラズマ堆積方法に関する。この場合、プラズマトーチを用いてフッ素の存在下でSiO2粒子を形成し、石英ガラスから成り長手軸を中心に回転する円柱状の基体の円柱周面上に、前記粒子を層状に堆積させ、ガラス化してクラッドガラス層を形成し、前記プラズマトーチと前記基体は、前記プラズマトーチが前記基体に沿って2つの転回点の間で方向転換しながら移動するよう、互いに相対的に運動する。
【0002】
基体とプラズマトーチとのこのような相対運動における両側の転回点によって、クラッドガラス層の端面側の終端が実質的に規定される。
【0003】
背景技術
いわゆるPOD法(Plasma Outside Deposition プラズマ外付け法)によって光ファイバのためのプリフォームを製造するために、例えば石英ガラスから成るコアロッドの円柱周面上に、フッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドガラス層が形成される。この目的で、ケイ素化合物と酸素とフッ素化合物が供給されるプラズマトーチが使用され、このトーチは長手軸を中心に回転するコアロッドに沿って方向転換しながら運動する。プラズマ炎中の出発物質の反応によって、フッ素ドーピングされたSiO2が生成され、これがコアガラスの上に層状に堆積し、ただちにガラス化されて、フッ素含有SiO2クラッドガラス層が形成されていく。
【0004】
コアロッドは通常、半径方向に均一な屈折率プロフィルを有する。コアロッドはたいていはドーピングされていない石英ガラスから成るが、屈折率を変化させるドーパントが含まれていてもよい。クラッドガラス層のフッ素ドーピングは、ドーピングされていない石英ガラスよりも屈折率を下げるように作用し、つまりはコアガラスとクラッドガラスとの屈折率差Δnを下げる働きをする。屈折率を大きく低減するためには多くのフッ素ドーピングが必要とされる。このような低減は、クラッドガラス層を堆積させるときにただちにガラス化し、そのようにして拡散しやすいフッ素が石英ガラス中に閉じ込められるようにすることによって達成される。
【0005】
プリフォームを形成するためのこの種のPOD法は、例えばDE 2005 015 706 A1及びEP 1 997 783 A2に記載されている。堆積プロセスは可動のコアロッドを備え垂直方向に配向されたチャンバ内で行われ、その際、可動のコアロッドは被覆すべきその長手方向で、位置固定されたプラズマトーチに沿って上下に動かされる。このようにしてコアロッドの上に、フッ素ドーピングされたSiO2が層状に堆積し、これはプラズマ炎によってただちにガラス化されてクラッドガラス層が形成される。
【0006】
フッ素ドーピングはコアロッド(堆積面)の温度に依存し、コアロッドの温度が上昇するにつれて減少することが報告されている。ただしコアロッド温度の低減は、堆積したクラッドガラス層をただちにガラス化するという要求によって制約されている。
【0007】
しかも、プラズマトーチはコアロッド終端領域において方向転換しながら相対運動することから、そこではプラズマ炎がコアロッドを相次いで2回擦過することになり、したがってコアロッド中心部よりも温度が上昇することになる。これに伴ってフッ素ドーピングが軸線方向で変動するのを最小限に抑え、屈折率差Δnを全体として高めることができるようにする目的で提案されているのは、コアロッド終端部からプラズマトーチが復路運動するときに、出発材料の供給レートを低減すること、あるいはプラズマトーチの移動速度を高めることである。
【0008】
JP 2005-200265 Aから、POD法において軸線方向で均質なフッ素ドーピングを実現する別の方法が公知である。ここで提案されているのは、プラズマ炎の当接点における温度を連続的に測定し、予め定められた温度に保持することである。ここでは温度制御の調整量として、プラズマ炎とコアロッドとの間隔が用いられる。
【0009】
発明が解決しようとする課題
POD堆積プロセスの場合にはプラズマトーチが相対運動するときに、プラズマ炎がコアロッドを一方の転回点から他方の転回点へと向きを変えて通過し、その際にコアロッドが局所的に加熱される。加熱されていない長手方向区間は、局所的に加熱された部分に対し相対的に冷却される。中央区間では、往路運動と復路運動における2つの加熱フェーズが、それぞれ等しい長さの冷却フェーズによって途切れている。これに対し終端領域では、2つの加熱フェーズが(往路運動と復路運動において)即座に相前後して続き、これらは次に加熱されるまで長い冷却フェーズによって分離されている。このため終端領域は比較的長い冷却フェーズ中、かなり強く冷却される一方、2つの加熱フェーズが短い期間で連続することによってかなりの過熱状態となる。
【0010】
したがって堆積プロセスの期間全体にわたって見るならば、コアロッド終端領域における温度の履歴は中央領域とはまったく異なっている。
【0011】
これに対し1つの運動サイクルだけについて見るならば、一方の転回点において二重に加熱されたことで発生する最大温度と、方向転換しながら行われる相対運動の他方の転回点において同じ時点で発生する最小温度とによって、コアロッドの全長にわたり温度勾配が生じる。軸線方向で均質なフッ素ドーピングを達成する目的で公知のPOD法が目指しているのは、軸線方向での温度経過を均質化することであり、その際にこのような均質化は、プラズマ炎の作用を転回点の領域では低減することで行われ、同時にその前掲条件として、フッ素の組み込みを促進するためにコアロッド温度をできるかぎり低く保持するようにしている。
【0012】
しかしながら堆積プロセスにおいてコアロッドの温度が低すぎると、それによってプリフォームに亀裂が生じる可能性があり、全体が破損してしまう原因となりかねない。それというのも、温度が低すぎるということは、クラッドガラス層のガラス化が不十分になるリスクを孕んでいるだけでなく、軸線方向の温度勾配と結び付いて、製造に起因してもたらされる機械的応力の緩和が不十分になるリスクも孕んでいるからである。フッ素ドーピングが増えるにつれてコアガラスとクラッドガラスの熱膨張係数の差が増大していくことから、Δnが増えていくとこのリスクが高まる。
【0013】
したがって本発明の課題は、ドーパント分布を軸線方向においてできるかぎり均質にしながら高濃度のフッ素ドーピングが得られる点で優れたプリフォームを製造するためのPOD法を提供することにある。
【0014】
発明の概要
本発明によればこの課題は、冒頭で述べた形式の方法において、プラズマトーチが他方の転回点の領域に存在するとき、一方の転回点の領域で暖熱部材が加熱作用を及ぼすようにすることによって解決される。
【0015】
POD堆積プロセスにおいて軸線方向の温度勾配の平坦化を達成するため、上述の従来技術ではトーチ運動の転回点領域でプラズマ炎の作用を局所的に低減することが提案されている。プラズマ炎の作用を低減することによって、目下該当する転回点の領域において温度が低下することとなり、このことは実質的に軸線方向温度勾配の最大温度の低下として現れる。他方の転回点の温度ならびに軸線方向温度勾配の最小温度は、これによっても何ら作用が及ぼされず、あるいはほとんど作用が及ぼされない。
【0016】
本発明はこれとは異なる方法をとっている。本発明によれば、トーチ運動の他方の転回点でプラズマ堆積が行われているときには、一方の転回点の領域においてプリフォームの過度な冷却に抗する作用を生じさせ、これとは反対にこの転回点の領域でプラズマ堆積が行われるときには、他方の転回点の領域においてプリフォームの過度な冷却に抗する作用を生じさせることが提案されている。そしてこのことは、そのつど冷えていくプリフォーム終端に対し直接的又は間接的な加熱による一時的又は持続的な作用を生じさせることによって実現される。直接的な加熱は加熱素子によって達成され、間接的な加熱は蓄熱器による熱放出又は熱放射反射器による反射作用によって達成される。尚、ここでは、クラッドガラス層がまだ完成していないとしても、基体とクラッドガラス層の複合体のことを「プリフォーム」と称する。
【0017】
いずれにせよ、一方のプリフォーム終端に対する加熱が行われるのは少なくとも、他方の終端領域でプラズマ堆積が行われているときであり、このような加熱は、その終端の温度が加熱作用がなかったとしたなら生じる温度よりも高くなるまで、そこが冷えていくことに抗して作用を及ぼす。したがって本発明による方法によれば軸線方向の温度勾配は、(終端領域の加熱を行わない標準的な方法と対比して)その最低温度が高められることによって小さくなる。
【0018】
ただし、軸線方向の温度勾配の所望の平坦化ならびにそれに伴って現れるプリフォームの中央領域と終端領域の温度の近似以外にも、これらの措置はさらに別の重要な作用を有している。
【0019】
すなわちプリフォームの平均的な温度は、トーチ運動転回点領域で加熱が行われない場合よりも高いレベルに保持される。プリフォームは堆積実行時、転回点領域だけでなく全体的に、そして堆積が行われる局所領域それぞれにおいて、サーマル部材が用いられない標準的なPODプロセスの場合よりも比較的高い温度となる。これによって軸線方向の温度勾配が小さくなる。
【0020】
しかも次のような作用が顕著となる。すなわちクラッドガラス層のガラス化に必要とされる熱量は、プリフォーム殊にクラッドガラス層に局所的に存在する残留熱と、プラズマ炎の付加的な局所的熱寄与量とによってもたらされる。残留熱が高ければ、プラズマ炎によってもたらすべき熱量つまりはプラズマ炎の温度を、相応に低くすることができる。
【0021】
本発明による方法においては、この関係が有利に利用される。それというのも驚くべきことに、石英ガラスへのフッ素の組み込みの度合いに関して決定的な役割を果たすのは、基体もしくはすでに形成されたクラッドガラス層の温度ではなく、あるいはいずれにせよその温度だけではなく、プラズマ炎の温度が(プラズマ炎の温度も、又はまず第一にプラズマ炎の温度が、あるいはもっぱらプラズマ炎の温度が)重要であることが判明したからである。比較的高い平均温度と、転回点領域におけるクラッドガラス層の残留熱とによって、完全なガラス化という境界条件のもとで、標準的な堆積プロセスよりもプラズマ炎の温度を下げるという可能性が開かれる。
【0022】
このようなやり方によって、クラッドガラス層の石英ガラスにおいて驚くほど高いフッ素濃度を実現することができ、このような濃度によって、ドーピングされていない石英ガラスに対し27×10-3よりも大きい屈折率低減Δn有利には少なくとも30×10-3の屈折率低減Δnが生じる。これに付随して基体とクラッドガラス層の熱膨張係数の差異が生じるにもかかわらず、これと同時に生じる小さく平坦な軸線方向温度勾配によって、応力亀裂に起因する欠損のリスクを格段に下げることができる。
【0023】
この場合、フッ素の組み込みレベルの驚異的な上昇は、プラズマ炎の温度が比較的低いことに帰するとしてよく、欠損リスクの低下は、平坦な軸線方向及び半径方向の温度勾配ならびにプリフォーム全体にわたる温度履歴の適応化に帰するとすることができる。
【0024】
最初に挙げた効果は、クラッドガラス層をその全長にわたり付加的に熱し、そのようにして「残留熱」を高めるようにしても現れる。ただし好適であると判明したのは、加熱部材の作用をクラッドガラス層終端領域に限定し、かつ一方の転回点の領域への暖熱部材の作用の大きさを、他方の転回点からプラズマトーチが遠ざかるにつれて小さくする、というように時間の経過につれて変化させることである。
【0025】
このようにすることで、クラッドガラス層終端つまりトーチ運動の転回点領域の過熱に抗する作用が得られる。なぜならば、プラズマトーチが後方の転回点から離れて前方の転回点に向かって移動している間、暖熱部材の作用を連続的又は段階的に弱めることで、いっそう急速な冷却が可能となるからである。ついでプラズマトーチが前方の転回点の領域に到達したとき、この領域は暖熱部材の作用が事前に取り除かれていることから冷えており、したがってプラズマトーチの往復運動による二重の過熱が、殊にプラズマ炎の温度が比較的低ければ、暖熱部材が持続的に作用している場合に比べて、ほとんど見られなくなる。このとき、他方の暖熱部材又は同じ暖熱部材がクラッドガラス層の他方の端部に作用を及ぼし、そこにおいてこの部材は、制約なく冷えていくことに抗して作用が及ぼされる。
【0026】
理想的なケースでは、プラズマトーチが一方の転回点の領域に存在するとき、暖熱部材はこの転回点の領域には作用を及ぼさず、あるいはほとんど作用を及ぼさない。
【0027】
暖熱部材は必要に応じてスイッチオフされるか、又はその暖熱パワーが低減され、あるいは該当する転回点から間隔をおいて暖熱部材が配置されて、せいぜいのところ加熱作用の大きさが低減されてその転回点に対し離れたところから作用を及ぼすようになる。
【0028】
フッ素をできるかぎり高い濃度でドーピングすると同時に軸線方向及び放射方向でフッ素の分布を均質にすることについて格別有利であると判明したのは、暖熱部材の加熱作用によって転回点の領域においてクラッドガラス層の表面温度を、少なくとも650℃に維持することであり、有利には少なくとも750℃に維持することである。
【0029】
暖熱部材の作用を、一方の転回点から他方の転回点へずらすことができる。ただし有利であるのは、プラズマトーチの両側に配置される暖熱部材を用いることであり、それらの暖熱部材の各々が1つの転回点に割り当てられる。
【0030】
この場合、プラズマトーチ運動の各転回点に対応して少なくとも1つの固有の暖熱部材が設けられる。これらの暖熱部材はプラズマトーチから予め定められた間隔をおいて配置されており、基体の長手軸に沿ってプラズマトーチと同じ相対運動を受ける。プラズマトーチが一方の転回点に達すると、この転回点に割り当てられた暖熱部材は有効な作用範囲外に位置する一方、他方の暖熱部材は他方の転回点のところに(あるいはその近くに)位置し、その転回点に対して加熱作用を及ぼす。
【0031】
暖熱部材を能動的な熱源として構成することができ、例えば補助トーチ又は電気的な加熱装置として構成することができる。ただし、クラッドガラス層終端領域において制約なく過度に冷えていくことに抗して作用を及ぼす目的では、蓄熱器や熱放射反射器のような簡単な受動的な部材を暖熱部材として用いれば十分である。
【0032】
受動的な部材を使用する場合、クラッドガラス層に及ぼされる加熱作用は、熱が妨げなく放出されるのを抑えることを利用している。この場合には、可燃媒体あるいは電気エネルギーを暖熱部材に特別に供給する必要はない。
【0033】
殊に、著しく長いクラッドガラス層において平坦な温度勾配を生じさせて保持するためには、蓄熱器もしくは熱放射反射器を熱源により加熱される受動部材とするも有利である。
【0034】
この熱源は有利には、暖熱部材に作用するトーチである。これによって、受動的な断熱よりも高い温度を転回点に生じさせて維持しておくことができるだけでなく、偶発的な温度変動に抗して作用する温度をいっそう適切に規定できるようにもなり、再現可能な堆積プロセスを実現できる。
【0035】
受動的な暖熱部材として有利であるのは石英ガラス管を用いることである。この石英ガラス管は転回点の領域で基体を取り囲み、このときにプラズマトーチは他方の転回点の領域にある。
【0036】
石英ガラスは熱的に安定しており、製造すべきプリフォームに対し化学的に不活性である。石英ガラスから成る管もしくは管状区間が熱せられたプリフォーム終端を包囲することができるので、これを補う手段を設けなくても、包囲された領域において制約なく冷えていくことに抗して作用する熱の滞留が発生する。
【0037】
石英ガラス管が少なくとも部分的に不透明の壁部を有し、この壁部が熱放射に対する拡散反射器として働くようにすれば、石英ガラス管の熱反射作用を向上させることができる。
【0038】
石英ガラス管が不透明な石英ガラスから成るか、又は少なくとも1つの不透明な表面層を有するようにすれば、石英ガラス管が拡散反射器として機能する。拡散反射器によって、石英ガラス管により包囲されたクラッドガラス層の領域に加熱作用が生じる。
【0039】
不透明な石英ガラスは、化学的及び熱的な耐性が高い点で優れており、赤外線波長領域において(測定波長が1μmのとき)60%を超える反射率となる(積分球による測定、標準材料「スペクトラロンSpectralon(登録商標)」の反射率との対比)。
【0040】
有利であると判明したのは、クラッドガラス層を最大で全長の80%に相当する長さまで、有利には全長の60%未満に相当する長さまで、石英ガラス管の中に延在させることである。
【0041】
この場合、クラッドガラス層の両方の終端に、それぞれ1つの石英ガラス管が受動的な暖熱部材として割り当てられている。基体が動かされ石英ガラス管が位置固定されるケースであっても、基体が固定され、堆積プロセス中、クラッドガラス層に沿って石英ガラス管が動かされるケースであっても、石英ガラス管は合わせてクラッドガラス層の全長の最大で80%を覆う。その際、石英ガラス管の長さ及びそれら相互間の間隔は、そのつどいかなる時点でも石英ガラス管がクラッドガラス層の全長の80%を超えて覆うことはなく、有利にはクラッドガラス層の全長の60%未満を覆うように選定される。
【0042】
プラズマ炎があたるクラッドガラス層の殊に熱い長手区間には、石英ガラス管が常に存在せず、したがって石英ガラス管の加熱作用が及ぼされるのは、クラッドガラス層のあまり熱くない領域あるいはクラッドガラス層の終端領域に限られている。
【0043】
この場合、1つもしくは複数の石英ガラス管の内径は、基体外径よりも最大で200mm大きく、有利には最大で120mm大きい。
【0044】
この寸法は、堆積プロセス開始時に基体と石英ガラス管との間に100mmよりも小さいリング状の間隙が残るように選定され、有利には60mmよりも小さいリング状の間隙が残るように選定される。石英ガラス管のような受動的な暖熱部材であるならば、蓄熱又は熱放射の反射に基づく作用はまさに、クラッドガラス層と石英ガラス管との間の間隙幅に左右される。堆積プロセスが進行するにつれてクラッドガラス層の厚さは増加し、これに伴いリング状間隙の幅が減少する。堆積プロセス開始時にリング状間隙の幅が100mmであれば、トーチ運動の転回点領域ではクラッドガラス層に及ぼされる加熱作用は僅かになる。
【0045】
石英ガラス管とクラッドガラス層との間に残されたリング状間隙が狭くなるにつれて、石英ガラス管による断熱が良好に行われるようになるので、石英ガラス管の内径を、クラッドガラス層の最大外径の3倍を超えない値にするのが有利であり、好ましくは2倍を超えない値にするのが有利である。
【0046】
POD堆積プロセス終了時、クラッドガラス層はその最大外径に達する。
【0047】
基体を水平方向に配向された長手軸を用いて配置するのが有利である。
【0048】
長手軸が垂直方向に配置されていると、あるいは長手軸が水平方向に対し傾斜して配置されていると、堆積プロセスに際して熱の対流が軸線方向の温度勾配に必然的に影響を与えることになる。このような影響は、基体を水平方向に配置すれば回避される。
【0049】
すでに説明したように1つの有利な方法によれば、クラッドガラス層終端が管により包囲され、もしくはそれらの終端が高められた温度に保持される。基本的にはこのような措置は、他の従来技術から知られている。
【0050】
つまりEP 1 801 080 A1で述べられているプラズマ吹き付け法によれば、方向転換しながら運動するプラズマトーチを使用して、事前に作られた石英ガラス粒子が、又は天然の原料から形成された石英粒子が、プリフォームの周面に吹き付けられる。その際、吹き付けられたばかりでまだ柔らかいガラス層から汚染粒子を遠ざける目的で、プリフォームの周囲が石英ガラス又は特殊鋼から成りガス洗浄される包囲管によって遮蔽される。有利なケースでは、堆積が行われている領域だけは包囲管によって覆われていない。洗浄ガスによってジャケットガラス層の過度な冷却を防ぐ目的で、その部分は300℃〜600℃の温度になるよう事前に加熱される。
【0051】
この包囲管は、プリフォームの長さの0.3倍〜0.8倍を覆う。プリフォームの直径が100mmの場合、包囲管の内径は150mmである。
【0052】
プラズマ吹き付けの場合には通常、1回の吹き付けステップでPOD堆積の1回のステップよりも厚いガラス層が形成される(典型的には層厚20μm)。プラズマ吹き付けの場合には層厚が厚くなることから、形成されたばかりの表面はいっそう長い間にわたり柔らかく、このことにより周囲から粒子が溶け込むリスクがもたらされる。EP 1 801 080 A1によればこの問題点は、形成されたばかりの表面をガス洗浄される包囲管を用いて遮蔽することにより解決している。この場合には、形成されたばかりの表面を洗浄ガスによって冷却されることが望まれており、このような冷却を(300℃までの温度に至るまでは)そのまま甘受している。本発明のように均質で高濃度のフッ素ドーピングという問題点は、プラズマ吹き付けの場合には発生しないし、そのような問題点は、包囲管が加熱作用ではなくむしろ冷却作用を及ぼすことから、公知の方法では解決することもできない。
【0053】
合成の石英ガラスから成るプリフォームを製造するために、いわゆる「スート法 soot method」も知られている。この方法によれば、火炎加水分解又は酸化によって生成したSiO2粒子を心棒の上に堆積させて、多孔質SiO2スート母材していく。スート母材は機械的堅牢性がほとんどなく、亀裂しがちである。このような理由から、スート母材の終端の密度が付加的に高められる。この種の方法はUS 2008/0053155 A1から公知である。殊に大きなスート母材において亀裂を防止するために提案されているのは、SiO2スート母材の終端を補助ヒータにより持続的に加熱して、その部分では温度が700℃を下回らないようにすることである。補助ヒータの作用は持続的であり、スート母材の終端領域にスートを堆積させるときも維持される。
【0054】
この方法の場合も、スート母材終端の温度を高めて保持する措置の目的は、フッ素を高濃度で均質にドーピングするためではない。このことから、プラズマ堆積プロセスの場合にこのような措置がフッ素ドーピングに何らかの作用を及ぼし得る、ということにはならない。
【0055】
次に、実施例及び図面に基づき本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明によりPOD法に従ってプリフォームを製造する装置を示す図
図2図1よりも後のプロセスステップにおける装置の状態を示す図
【0057】
図1には、階段状の屈折率プロフィルを有するいわゆるマルチモードファイバのためのプリフォームを製造する方法が概略的に描かれている。この場合、堆積チャンバ1内において、高純度のドーピングされていない合成石英ガラスから成り直径65mm、長さ600mmのコアロッド2が、フッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドガラス層3によりPOD法によって被層される。コアロッド2は水平に配向された長手軸4によって、端面に溶接された保持管5を用いて(図示されていない)ガラス旋盤の締付顎部に保持される。ガラス旋盤によってコアロッド2は、長手軸4を中心に回転可能なだけでなく、長手軸4に沿って方向転換しながら往復運動可能である。
【0058】
堆積チャンバ1内においてプラズマトーチ6の両側に、左側のマッフル管11と右側のマッフル管12が位置固定されて配置されている。マッフル管11、12の両側は開放されており、それらの中心軸はコアロッド長手軸4に対し同軸に延在している。両方のマッフル管11,12は同一に構成されており、それらは不透明な石英ガラスから成り、170mmの内径、20mmの壁厚、500mmの長さを有する。1μmの測定波長の場合、不透明な石英ガラスは(原材料スペクトラロン Spectralon(登録商標)に関して)約65%の緩和度を有する。マッフル管11,12相互間の中央スペースは760mmである。
【0059】
プラズマトーチ6には出発物質としてSiCl4と酸素とSF6が供給され、これらはプラズマトーチ6のトーチ炎7においてSiO2粒子に変換される。プラズマ炎7は、石英ガラスから成り高周波コイルにより取り囲まれたトーチ管10内で形成される。堆積プロセス開始時は、トーチ管10とコアロッド2との間において80mmの間隔が設定される。
【0060】
以下、図1及び図2に示した装置に基づき例示しながら、本発明によるプリフォーム製造方法について説明する。
【0061】
長手軸4を中心に回転するコアロッド2は、毎分500mmの移動速度でプラズマトーチ6に沿って方向転換しながら往復運動する。これによってSiO2粒子が、コアロッド2の円柱周面に層状に堆積される。そのつど堆積されていく層はプラズマ炎7によってただちにガラス化されて、フッ素を含有する石英ガラスが形成される。ここでは、クラッドガラス層3がまだ完成されていないとしても、コアロッド2とクラッドガラス層3から成る複合体をプリフォーム13と称する。クラッドガラス層3の終端はプリフォーム13の終端に相応する。
【0062】
プリフォーム13の転回点A,Bの一方がプラズマトーチ6に達すると、コアロッド運動の方向転換が行われる。したがって転回点A,Bはプリフォーム13に固定的に対応づけられており、プリフォーム13とともに長手軸4に沿って移動する。転回点AとB相互間の間隔は(クラッドガラス層3の円錐形の端部キャップ部分を除く)プリフォーム13の有効長にほぼ対応し、600mmである。堆積プロセス終了後のプリフォームの外形は80mmである。
【0063】
堆積プロセス中、プラズマ炎7はコアロッド2ないしはすでに形成されたクラッドガラス層3を転回点Aから転回点Bへ、そしてその逆へと擦過し、これによって局所的な温度上昇が引き起こされる。プリフォーム13の長さ全体にわたって生じる軸線方向の温度勾配が最大となるのは、プラズマ炎7が転回点AとBのうち一方の領域に存在するときである。プリフォーム13における反対側の終端は冷えていくが、まだ高い残留熱を有している。
【0064】
プラズマトーチ6の両側に配置されたマッフル管11,12は、このような軸線方向の温度勾配を平坦にするために用いられる一方、プリフォーム13の平均温度を高める役割を果たす。平均温度が高められることによって、プラズマ炎7の温度を低減することができる。
【0065】
この場合、マッフル管11,12は付加的に加熱されない。この代案となるやり方として、マッフル管はそれらに対して配向された酸水素ガストーチによって1000℃の温度に保持される。
【0066】
図1に示したプロセスステップの場合、プラズマ炎7は、転回点Aが対応づけられたプリフォーム13の終端に近づいている。方向を示す矢印14によって、プリフォーム13が転回点Aに到達するまでさらに移動する方向が表されている。これとは反対側のプリフォーム終端は、すでに一部分が右側のマッフル管12の中に進入している。転回点Aに到達すると、プリフォーム13は400mmの長さにわたりマッフル管12に進入し、その後、移動方向が逆向きになる。
【0067】
図2に示したプロセスステップによれば、他方の転回点Bにおいてプラズマ堆積が行われている。ここでは方向を示す矢印14によって、この転回点Bに到達するまでプリフォーム13がさらに移動する方向が表されている。この場合、反対側のプリフォーム終端がすでに左側のマッフル管11に進入しており、この側においても最大の進入深さは400mmであり、これはプラズマ炎7が転回点Bに到達したときの値である。マッフル管11;12は、プリフォーム13の一方の終端がマッフル管11;12の一方の中に存在しているときに、プリフォーム13の他方の終端が他方のマッフル管11;12の完全に外側に位置するように、互いに隔てられている。
【0068】
マッフル管11;12は、それらが熱放射反射器及び蓄熱器としてはたらくことで、個々のプリフォーム終端の残留熱を保持する。このようにすることで、現時点ではプラズマ炎7によって加熱されておらず、それゆえ急激に冷えていくプリフォーム13の終端が、一時的に(熱放射又は熱反射により)間接的に加熱され、該当するプリフォーム終端が急速に冷えていることに抗する作用が及ぼされ、比較的平坦な軸線方向の温度勾配が生じる。転回点A,Bにおける温度は、いかなる時点でも750℃を下回らない。
【0069】
しかも、堆積プロセス全体におけるプリフォーム13の平均温度は、プリフォーム13の長さ全体にわたってみれば、マッフル管11;12が設けられていない場合よりも高いレベルに保持される。したがってプリフォーム13の温度は比較的高くなり、その結果、クラッドガラス層3のガラス化に寄与するものでありプラズマ炎7により供給すべき熱を少なくすることができる。
【0070】
このことは、本発明の上述の実施例の場合、ガラス化に必要とされるプラズマトーチ6の出力は、マッフル管11;12を用いない標準的な堆積プロセスの場合よりも10%少なくなる、というかたちで現れる。
【0071】
驚くべきことによりこのようにすることで、クラッドガラス層3の石英ガラスの高いフッ素ドーピングが得られ、これはドーピングされていないコアロッド2の石英ガラスに対し30×10-3という屈折率低減Δnを生じさせるのに適している。Δn値がこのように高いにもかかわらず、プリフォームの亀裂に起因する欠損率をほぼ100%低減することができた。
【0072】
本発明による方法に従って得られるプリフォームは、波長が633nmのときに屈折率が1.4571となる純粋な石英ガラスから成るコアと、波長が633nmのときに屈折率が1.4271となるフッ素ドーピングされた石英ガラスから成るクラッドとによって形成されている。また、クラッドガラスの平均フッ素含有率は約7重量%付近にある。さらにコアロッド中のヒドロキシル基は0.1重量ppm付近にある。
図1
図2