(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000360
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】電気機械系の診断を行うための定常信号を求める方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R31/34 G
G01R31/34 F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-532263(P2014-532263)
(86)(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公表番号】特表2014-531593(P2014-531593A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】EP2012003915
(87)【国際公開番号】WO2013045045
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年9月14日
(31)【優先権主張番号】11460050.5
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507050230
【氏名又は名称】アーベーベー テクノロジー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ABB Technology AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ オルマン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ オットウィル
(72)【発明者】
【氏名】ミハル オルキシュ
【審査官】
小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第5461329(US,A)
【文献】
国際公開第01/71362(WO,A1)
【文献】
国際公開第01/71363(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/101097(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第2426502(EP,A1)
【文献】
特許第5932022(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械系の診断を行うための定常信号を求める方法であって、
・前記電気機械系のアナログの波形信号(S)を測定するステップと、
・測定した前記波形信号(S)を、
時点のベクトルと、
対応する振幅ベクトルと
を含む処理済み離散的信号(SDP)に変換するステップと、
・前記処理済み離散的信号(SDP)を、複数の分割個別周期(SDP1,SDP2・・・SDPn)に分割するステップと
を有し、ただし前記各分割個別周期は、他の分割個別周期のサンプル数と同数または異なる数のサンプルを有し、
前記方法はさらに、
・リサンプリング後の分割個別周期(SDR1,SDR2・・・SDRn)を得るためのリサンプリング手順によって、前記各分割個別周期(SDP1,SDP2・・・SDPn)のサンプル数を変更するステップ
を有し、ただし当該サンプル数を変更するステップは、前記リサンプリング後の各分割個別周期に含まれるサンプル数がすべて等しくなるように行い、
前記方法はさらに、
・前記リサンプリング後の各個別周期(SDR1,SDR2・・・SDRn)ごとの時点のベクトルを連続した整数のベクトルに置換して、無次元の分割個別周期(SDN1,SDN2・・・SDNn)を得るステップと、
・前記連続した無次元の分割個別周期からサンプルを順次並べて、複数の連続したサンプルのシーケンスを形成することにより、すべての前記無次元の分割個別周期(SDN1,SDN2・・・SDNn)を連結して1つの無次元離散的信号(SN)にまとめるステップと、
・前記無次元離散的信号(SN)における昇順の時点のベクトルに、前記連続した整数のベクトルを置換することにより、有次元化された定常信号(SNt)を得るステップと、
・前記有次元化された定常信号(SNt)を時間領域から周波数領域に変換することにより、対象となる周波数ベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを抽出する元になる周波数スペクトルを求めるステップと
を有し、
ただし、前記周波数ベクトルおよび振幅ベクトルは、前記電気機械系の診断に用いられ、可視化装置上で表示されるものである
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
測定されるアナログ信号は電流信号である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記電気機械系を診断する手法は電流徴候解析である、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
測定されるアナログ信号は電圧信号である、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
測定されるアナログ信号はトルク信号である、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
測定されるアナログ信号は加速度であるか、または速度であるか、または振動運動である、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
電気機械系の診断を行うための定常信号を求める装置であって、
・前記電気機械系のアナログの波形信号(S)を測定し、
・測定した前記波形信号(S)を、
時点のベクトルと、
対応する振幅ベクトルと
を含む処理済み離散的信号(SDP)に変換し、
・前記処理済み離散的信号(SDP)を、複数の分割個別周期(SDP1,SDP2・・・SDPn)に分割し、
ただし前記各分割個別周期は、他の分割個別周期のサンプル数と同数または異なる数のサンプルを有し、
前記装置はさらに、
・リサンプリング後の分割個別周期(SDR1,SDR2・・・SDRn)を得るためのリサンプリング手順によって、前記各分割個別周期(SDP1,SDP2・・・SDPn)のサンプル数を変更し、
ただし当該サンプル数を変更する際に、前記リサンプリング後の各分割個別周期に含まれるサンプル数がすべて等しくなるようにし、
前記装置はさらに、
・前記リサンプリング後の各個別周期(SDR1,SDR2・・・SDRn)ごとの時点のベクトルを連続した整数のベクトルに置換して、無次元の分割個別周期(SDN1,SDN2・・・SDNn)を取得し、
・前記連続した無次元の分割個別周期からサンプルを順次並べて、複数の連続したサンプルのシーケンスを形成することにより、すべての前記無次元の分割個別周期(SDN1,SDN2・・・SDNn)を連結して1つの無次元離散的信号(SN)にまとめ、
・前記無次元離散的信号(SN)における昇順の時点のベクトルに、前記連続した整数のベクトルを置換することにより、有次元化された定常信号(SNt)を取得し、
・前記有次元化された定常信号(SNt)を時間領域から周波数領域に変換することにより、対象となる周波数ベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを抽出する元になる周波数スペクトルを求める、
ただし、前記周波数ベクトルおよび振幅ベクトルは、前記電気機械系の診断に用いられ、可視化装置上で表示されるものである
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機を用いる電気機械系であって、電気機械系の動作中に少なくとも1つの電気的信号または機械的信号を測定する電気機械系の診断を行うための定常信号を求める方法に関する。本発明は特に、モータやジェネレータの状態モニタリングに用いられる。
【0002】
本発明の背景技術
ここで記載する従来技術は、電流信号の測定に基づく手法であるが、たとえば電圧や振動測定結果における加速度等の他の物理的信号にも同様に当てはまる場合がある。
【0003】
モータおよびジェネレータ、より広い用語では回転機は、電気機械系の重要な要素となっている。回転機と電源とを接続する電力ケーブルから測定できる電流を解析する手法は、電気機械系の状態をモニタリングする有効な手法であることが分かっている。回転機に誘導される電流は動作条件の変化とともに変化し、これはしばしば、交流電流電源の大きな電流の振幅や位相変調となって現れることが多いことが知られている。
【0004】
定常動作状態では、電源ケーブルから測定される電流の変調を引き起こす原因となる不具合が数多く存在する。このような変調は典型的には周波数領域で、周波数の特定の帯域における振幅成分の増加として解析される。回転機の電力ケーブルから測定された電流信号の周波数スペクトラムの特定の周波数における振幅成分の解析は、電流徴候解析MCSAとの名称で知られている。近年、MCSAはモータの不具合の発生を検出して対処する標準的な手法になってきている。典型的には、監視対象の回転機にオンラインで直接給電がなされる場合、電源周波数は測定期間全体にわたって実質的に変化することがない。したがってMCSAは、オンラインで直接給電される回転機の解析に容易に適用することができる。というのも、電源周波数の変調は測定期間全体にわたって一貫性を有し、よって、ノイズと容易に区別できるからである。この手法を用いると、モータ状態を特定して、たとえば偏心率、ロータバー故障、ベアリング故障等の不具合を予測し、保守作業のスケジュールを立てることができる。
【0005】
回転機の給電を可変速度ドライブにより行うことが多くなってきている。その場合、電源周波数が一定値になることは希であり、典型的には、所要トルクおよび所要磁束に応じて変化する。可変速度ドライブにより給電されるモータから記録される電流信号のこのような非定常特性により、複数の異なる個別の周波数において対象のピークが生じなくなってしまったり、この対象ピークとノイズ信号とを区別することが困難になってしまうので、MCSAの有効性が低下してしまう。さらに、対象のピークに電源周波数の高調波が重畳する可能性も高くなる。
【0006】
米国特許公報US5461329明細書には、交流電源の電流搬送波の変動的な周波数に応じて測定電流信号のサンプリングレートを変化させる回路を、データ取得システムに組み込むことにより、非定常のモータ電流信号を解析する方法が記載されている。可変周波数クロックジェネレータがモータ電流信号を入力として受け取って、出力としてクロック信号を出力し、アナログデジタル変換器がこのクロック信号を使用してモータ電流信号をサンプリングする。前記可変周波数クロックジェネレータは、有利な形態では位相同期ループPLLを有する。サンプリングされたデータは、離散フーリエ変換を用いて周波数領域に変換され、対象の信号が解析される。可変周波数クロックを、特にPLLを用いて信号をサンプリングする方式の手法には制限が課される。基本的にPLLは、期待される対象の周波数に同調された内部フィルタを使用し、この対象の周波数は、モータの定格給電周波数の前後であると想定される。オンラインで直接給電されるモータの場合にはこのことが一般的に成り立つが、可変速度ドライブにより給電されるモータの場合、給電周波数は大きく変動する。幅広い周波数変動を扱える可変周波数クロックを生成するのに必要な回路は、対象の周波数が厳密に特定されていて有意に変動しない場合のシステムの同等の回路と比較して格段に複雑になる。さらに、測定された電流信号と、可変周波数クロックによる推定周波数との間には、避けられない遅延が生じる。その結果、モータ電流信号の給電周波数の変化と、これに対応する、アナログデジタル変換器のサンプリング周波数の変化との間に遅延が生じる。その上、モータ電流信号のサンプリングレートを調整するために用いられる回路はノイズに影響を受けやすく、このことにより、周波数の推定が不正確であることに起因して、サンプリングされた信号の相互間の一貫性が失われてしまう。電流徴候解析の場合、このように一貫性が失われると、問題の診断が誤った結果になってしまう。
【0007】
本発明の概要
電気機械系を診断するための定常信号を求める本発明の方法の重要な特徴は、以下のステップを有することである。
・前記電気機械系のアナログ波形信号Sを測定するステップ。
・測定した波形信号Sを、
時点のベクトルと、
対応する振幅ベクトルと
を含む処理済み離散的信号S
DPに変換するステップ。
・処理済み離散的信号S
DPを複数の分割個別周期S
DP1,S
DP2・・・S
DPnに分割するステップ。各分割個別周期S
DP1,S
DP2・・・S
DPnは、他の分割個別周期のサンプル数と同数または異なる数のサンプルを有する。
・リサンプリング後の分割個別周期S
DR1,S
DR2・・・S
DRnを得るためのリサンプリング手順によって、前記各分割個別周期S
DP1,S
DP2・・・S
DPnのサンプル数を変更して、前記リサンプリング後の分割個別周期に含まれるサンプル数がすべて等しくなるようにするステップ。
・前記リサンプリング後の各個別周期S
DR1,S
DR2・・・S
DRnごとの時点のベクトルを連続した整数のベクトルに置換して、無次元の分割個別周期S
DN1,S
DN2・・・S
DNnを得るステップ。
・前記連続した無次元の分割個別周期からサンプルを順次並べて、複数の連続したサンプルのシーケンスを形成することにより、すべての無次元の分割個別周期S
DN1,S
DN2・・・S
DNnを連結して1つの無次元離散的信号S
Nにまとめるステップ。
・前記無次元離散的信号(S
N)における昇順の時点のベクトルに、連続する整数のベクトルを置換することにより、有次元化された定常信号(S
Nt)を得るステップ。
・前記有次元化された定常信号(S
Nt)を時間領域から周波数領域に変換することにより、対象となる周波数ベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを抽出する元になる周波数スペクトルを求めるステップ。
ただし、前記周波数ベクトルおよび振幅ベクトルは、電気機械系の診断に用いられ、可視化装置上で表示されるものである。
【0008】
有利には、上述の測定アナログ信号は電流信号である。有利には、電気機械系を診断するための方法は電流徴候解析である。これに代えて択一的に、前記測定アナログ信号を電圧信号とすることができる。また、これに代えて択一的に、前記測定アナログ信号をトルク信号とすることができる。さらに、これに代えて択一的に、前記測定アナログ信号を加速度または速度または振動運動とすることができる。
【0009】
本発明の方法の主な利点は、従来技術にて周知となっている回転機の電気信号の解析技術の多くを、可変速度ドライブにより回転機の給電が行われるケースに適用できることである。さらに、既存の手法と異なり、本発明の方法は電源周波数の大きな変動に影響を受けにくく、また、電気信号の周波数がどうなっているのかを事前に知っておく必要もない。
【0010】
図面に、本発明の対象を一実施形態として示している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を実現するためのシステムのブロック回路図である。
【
図2】記録されたアナログ信号Sと、当該アナログ信号Sを離散化したものS
Dとを示すグラフである。
【
図3】離散的信号S
Dから得られた、変更後の処理済み離散的信号S
DPを示すグラフである。
【
図4】それぞれ異なる数のサンプルを有する、最初の2つの分割個別周期S
DP1,S
DP2のグラフである。
【
図5】同数のサンプルを有する、リサンプリング後の最初の2つの分割個別周期S
DR1,S
DR2のグラフである。
【
図6】同数のサンプルを有する、無次元化後の最初の2つの分割個別周期S
DN1,S
DN2のグラフである。
【
図7】連結により形成された無次元の離散的信号S
Nを示すグラフである。
【
図8】有次元化された定常的な離散的信号S
Ntを示すグラフである。
【
図9】本発明を実現するための方法を示すフローチャートである。
【0012】
本発明の詳細な説明
図1に示した、本発明の方法を実施するための測定システムは交流3相電源1に接続されており、当該交流3相電源1は給電ケーブル2によってモータ3に接続されている。同図の本発明の実施形態では交流電源1は3相であるが、図面には示していないものの、当業者であれば、本願にて開示した発明を、1相で給電される回転機にも、また多相で給電される回転機にも適用できることは明らかである。
【0013】
前記給電ケーブル2は測定装置4に接続されており、当該測定装置4はアナログデジタル変換器5を有する。このアナログデジタル変換器5はコンピュータ処理装置6に接続されており、当該コンピュータ処理装置6は、図中に示していない標準的な構成要素、たとえばプロセッサ、メモリおよび記憶モジュールを備えている。前記測定装置4はまた、本発明の方法を実施するのに適した処理モジュール7および無次元化モジュール8を備えている。コンピュータ処理装置6は測定装置4を通じて、本発明の方法を実施することにより得られる結果を可視化するための装置9に接続されている。図中の本発明の実施形態では測定装置4はコンピュータ装置6と統合されているが、測定装置とコンピュータ装置とを別体の装置とすることもできる。このことは図面には示していない。この場合には、前記結果を可視化する装置9はコンピュータ装置6に直接接続されているか、またはリモート接続されている。
【0014】
図中に示した本発明の実施形態では、ステータ巻線に給電する交流電流のアナログ電流信号I1,I2,I3を測定するが、電気機械系の任意の電気的または機械的なアナログ波形の信号を記録することができ、たとえば、電圧信号、トルク信号、振動測定に関連する、たとえば変位、移動または加速度等の信号とすることもできる。ここで記載した方法は、任意の数の信号にそれぞれ別々に使用することができるので、以下の記載では、1つのアナログ波形信号の処理のみを取り上げる。このアナログ波形信号は、符号Sにより示している。本発明の方法は以下のステップ1〜5で実行される。
【0015】
ステップ1
ステップ1において測定アナログ波形信号Sを測定し、その後、測定アナログ波形信号Sをアナログデジタル変換器5において離散的信号S
Dに変換する。このアナログデジタル変換器5には定数パラメータP1が供給される。
図2にアナログ信号Sと離散的電流信号S
Dとの双方を示しており、アナログ信号Sは実線で、離散的電流信号S
Dは丸印で示されている。パラメータP1はアナログ信号を離散的信号に変換する過程を表すものであり、ユーザにより設定されるサンプリングレートF
Sと、ユーザにより設定される、変換対象の信号の長さT
Lとにより構成されたものである。サンプリングレートF
Sは、アナログ波形信号Sから得られる毎秒サンプリング数である。通常、最小サンプリングレートは1kHzであり、これはデフォルト設定とされる。
【0016】
信号長さT
Lは、アナログデジタル変換のために選択された、アナログ波形信号Sの長さである。本発明の方法のこの実施形態では、信号長さT
Lの最小値は1sである。
【0017】
離散的信号S
Dは、コンピュータ装置6内に実装された処理モジュール7へ自動的に送信される。
【0018】
ステップ2
前記離散的信号S
Dは複数のサンプル{a
1,・・・a
i,・・・a
k}により構成される。各サンプルは、時点、すなわち各サンプルが記録された時点と、アナログ波形信号Sから記録された、前記時点に対応する振幅との2つの座標により記述される。すべての時点のシーケンスにより、時点ベクトルが作成され、これらの時点に対応するすべての振幅のシーケンスにより、対応する振幅ベクトルが作成される。
【0019】
ステップ2ではまず最初に、長さT
Lの離散的信号S
Dの数値の平均値X
meanを、以下のようにして計算する:
X
mean = (a
1 + a
2 + ... a
i ... +a
k) / k (1)
ここで、a
iはサンプルiの値であり、kは離散的信号S
Dに含まれるサンプルの総数である。サンプル数kは、サンプリング周波数F
Sに信号長さT
Lを乗算したものに等しい。
【0020】
次に、前記離散的信号S
Dの各サンプル点の値a
iから前記平均値X
meanを減算することにより、{b
1,・・・b
i・・・b
k}により示したサンプルから構成される処理済み離散的信号S
DPを計算する:
{b
i} = {a
i} - X
mean (2)
上述の演算の結果、処理済み離散的信号S
DPの時点ベクトルは、信号S
Dの時点ベクトルと同じになり、かつ、処理済み離散的信号S
DPの対応する振幅ベクトルは、信号S
Dの振幅ベクトルに対して変更されたものになる。
【0021】
離散的信号S
Dの上述の変更は、次のゼロ交差の計算に必要なものである。
図3に、時間領域における処理済み離散的信号S
DPの各サンプルの値{b
1,・・・b
i,・・・b
k}を示しており、同図から、処理済み離散的信号S
DPの瞬時電源周波数を求めるプロセス中に特定される、当該処理済み離散的信号S
DPの種々の特性が明らかである。ゼロ交差は、処理済み離散的信号S
DPの符号の変化を検出することにより特定される。正のゼロ交差とは、処理済み離散的信号S
DPの符号が負から正に変わるときに生じるゼロ交差として定義されるのに対し、負のゼロ交差とは、処理済み離散的信号S
DPの符号が正から負に変わるときに生じるゼロ交差として定義される。
【0022】
電源ケーブルにより収集される信号は常に、ある程度のレベルのノイズを含む。検出されるゼロ交差が、記録されたノイズに起因するものではなく、確実に、基礎となる電源信号の符号の変化に起因するものとなるようにするためには、P2で示しているように、正のヒステリシスパラメータDを供給する。有利には、ユーザにより与えられる正のヒステリシスパラメータDの値は、モータ定格電流の10%に等しくするべきである。処理済み離散的信号S
DPの値が負から正に変わり、この値が正のヒステリシスパラメータDの値を上回る場合には、正のゼロ交差時点T
Pであると判定する。処理済み離散的信号S
DPの値が正から負に変わり、この値が、ユーザにより設定された負のヒステリシスパラメータEを下回る場合には、負のゼロ交差時点T
Nになったと判定する。前記負のヒステリシスパラメータEは、正のヒステリシスの場合のP2として供給される正のヒステリシスパラメータDの値を負値にしたものである(E=−D)。連続した複数の正のゼロ交差時点T
P1,T
P2,・・・T
Pnのシーケンスと、連続した負のゼロ交差時点T
N1,T
N2,・・・T
Nnのシーケンスとが、このステップの結果となる。
【0023】
ステップ2にて説明した変換はすべて、処理モジュール7において実施される。
【0024】
ステップ3
ステップ3では、まず最初に、連続した各正のゼロ交差時点T
P1,T
P2,・・・T
Pnと連続した各負のゼロ交差時点T
N1,T
N2,・・・T
Nnとの間の時間間隔T
D1,T
D2,・・・T
Dnのシーケンスを、以下の数式にしたがって計算する:
T
D1 = | T
P1 - T
N1|, T
D2 = | T
P2 - T
N2|, ..., T
Dn = | T
Pn - T
Nn | (3)
次に、前記時間間隔T
D1,T
D2,・・・T
Dnのシーケンスの平均値の数値を、以下の数式のように計算する:
T
mean = (T
D1 + T
D2 + ... + T
Dn)/n (4)
ここで、nは正のゼロ交差または負のゼロ交差の総数である。
【0025】
その次に、時間間隔のシーケンスの上記平均値の数値T
meanに2を乗算したものの逆数を求めることにより、給電基本周波数F
lを計算する:
F
l=1/2 T
mean (5)
次に、サンプリングレートF
Sを基本給電周波数F
lにより除算することによって、給電基本周波数F
lに等しい一定の周波数を有する信号の1期間N
Fsあたりのサンプル数を求める:
N
Fs=F
S/F
l (6)
次に、連続した各正のゼロ交差時点T
P1,T
P2,・・・T
Pn間の分割個別周期S
DP1,S
DP2,・・・S
DPnに、処理済み離散的信号S
DPを分割する。各分割個別周期S
DP1,S
DP2,・・・S
DPnの長さは時間領域において変化しうる。
図4に、それぞれ異なる数のサンプルを有する、最初の2つの分割個別周期S
DP1,S
DP2を示している。分割個別周期S
DP1は円により示しており、その次の分割個別周期S
DP2は三角により示している。
【0026】
次に、公知のリサンプリング技術を用いて各分割個別周期S
DP1,S
DP2,・・・S
DPnをリサンプリングする。このリサンプリングは、リサンプリング後の分割個別周期S
DR1,S
DR2,・・・S
DRnのサンプル数が、給電基本周波数F
lに等しい一定の周波数を有する信号の1期間N
Fsにおけるサンプル数と同数になるように行われる。
図5に、サンプル数が同数である、リサンプリング後の最初の2つの個別周期S
DR1およびS
DR2を示す。
【0027】
次に、時点ベクトルの置換を行う。リサンプリング後の各分割個別周期S
DR1,S
DR2,・・・S
DRnはそれぞれ、時点ベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを含む。分割個別周期S
DR1では、時点ベクトルを連続した整数のベクトルに置換し、その結果は、連続した整数のベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを含む新たな無次元の個別周期S
DN1となる。この演算は、サンプリング後の各分割個別周期S
DR2,・・・S
DRnに対しても、S
DN1と同様に繰り返し行う。
図6に、サンプル数が同数である最初の2つの無次元分割個別周期S
DN1およびS
DN2を示す。信号S
DN1は丸印により示されており、信号S
DN2は三角形印により示されている。
【0028】
次に、分割後の無次元信号S
DN1,S
DN2,・・・S
DNnをすべて連結して、連続した分割後の無次元信号からサンプルを取り出して順次並べる。このように連結すると、複数の整数のベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを含む無次元の離散的信号S
Nが形成される。この無次元信号S
Nは
図7に示されている。
【0029】
次に、整数の前記ベクトルの連続した複数の要素を、昇順の時点のベクトルに置換する。この置換では、各昇順時点間の期間がサンプリングレートF
Sの逆数に等しくなるようにする。このステップの結果、変更された時点ベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを含む有次元の定常信号S
Ntが形成される。この有次元定常信号S
Ntは
図8に示されている。
【0030】
ステップS3にて説明した変換はすべて、コンピュータ装置6に実装された無次元化モジュール8において実施される。
【0031】
ステップ4
次に、有次元定常信号S
NtのDFT(Discrete Fourier Transform)の計算を行う。このDFT演算は、スペクトル解析を行えるように、信号を時間領域から周波数領域の信号に変換するものである。たとえば高速フーリエ変換等の、DFTを計算するために用いられるアルゴリズムを含めたこの計算の詳細は、当業者に周知である。
【0032】
対象となる周波数のベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを抽出するためには、上述のようにして得られたDFTスペクトラムを任意の公知の手法によって処理することができる。
【0033】
対象となる周波数のベクトルと、これに対応する振幅ベクトルとを用いて、電気機械系の診断を行うことができる。上述のベクトルから得られるデータは特に、公知の電流徴候解析‐MCSAを行うのに用いることができる。
【0034】
ステップ5
ステップ5では、公知の手法を用いる可視化装置9を用いて、ステップ4にて得られた結果を表示する。
【符号の説明】
【0035】
符号 呼称
S アナログ波形信号
P1 定数パラメータ
F
S サンプリングレート
T
L 信号の長さ
S
D 離散的信号
a
1,・・・a
i,・・・a
k 離散的信号S
Dのサンプル
k 離散的信号に含まれるサンプル総数
X
mean 離散的信号の平均値の数値
S
DP 処理済みの離散的信号
b
1,・・・b
i,・・・b
k 処理済みの離散的信号S
DPのサンプル
D 正のヒステリシスパラメータ
E 負のヒステリシスパラメータ
P2 定数パラメータ
T
P 正のゼロ交差時点
T
N 負のゼロ交差時点
T
P1,T
P2,・・・T
Pn 連続した正のゼロ交差時点のシーケンス
T
N1,T
N2,・・・T
Nn 連続した負のゼロ交差時点のシーケンス
T
D1,T
D2,・・・T
Dn 時間間隔のシーケンス
T
mean 前記時間間隔シーケンスの平均値の数値
F
l 給電基本周波数
N
Fs 前記給電基本周波数に等しい一定の周波数を有する信号の1周期あたりのサンプル数
S
DP1,S
DP2,・・・S
DPn 信号S
DPの分割個別周期
S
DR1,S
DR2,・・・S
DRn リサンプリング後の分割個別周期
S
DN1,S
DN2,・・・S
DNn 無次元の分割個別周期
S
N 無次元化された離散的信号
S
Nt 有次元化された定常信号