特許第6000372号(P6000372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6000372-4導体束に用いるスペースダンパー 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000372
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】4導体束に用いるスペースダンパー
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/14 20060101AFI20160915BHJP
   H02G 7/12 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   H02G7/14
   H02G7/12
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-549641(P2014-549641)
(86)(22)【出願日】2011年12月30日
(65)【公表番号】特表2015-503896(P2015-503896A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】IT2011000424
(87)【国際公開番号】WO2013098864
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】514164753
【氏名又は名称】アー. サルヴィ アンド チー. エッセ.ピー.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥファリ アルド
【審査官】 石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭53−156088(JP,U)
【文献】 特公昭50−033558(JP,B1)
【文献】 特開昭59−191417(JP,A)
【文献】 米国特許第03263021(US,A)
【文献】 特開昭55−006084(JP,A)
【文献】 特開昭60−098815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/14
H02G 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線の4ケーブル束に用いるスペーサーダンパーであって、
堅固な四辺形フレーム構造体(10)を備え、
前記フレーム構造体から4つの支持アーム(20a〜20b)が分岐し、
前記4つの支持アームの遠位端部に、電気ケーブルを固定するクランプが設けられ、
前記アーム(20a〜20c)は、それぞれの減衰ヒンジ(30a〜30c)によって前記フレーム構造体(10)に拘束され、
前記スペーサーダンパーは、前記スペーサーダンパーの垂直固有モード周波数が、前記スペーサーダンパーの対応する水平固有モード周波数よりも高い、スペーサーダンパー。
【請求項2】
前記アーム(20a〜20c)は、基準軸を有し、
前記基準軸は、前記それぞれのケーブルの固定点を前記それぞれのヒンジ(30a〜30c)の回転中心に結び、
前記基準軸のうち対向する2つの基準軸同士は、水平軸に対して同一の角度(α、α)を有し、
一の対向する2つの基準軸と他の対向する2つの基準軸とは、水平軸に対して相互に異なる角度(α、α)を有する、請求項1に記載のスペーサーダンパー。
【請求項3】
前記減衰ヒンジは、水平線に対して少なくとも1つの辺が傾いている四辺形フレーム構造体(10)の頂点にある、請求項1又は2に記載のスペーサーダンパー。
【請求項4】
前記四辺形フレーム構造体は非直交の隣接辺を有する、請求項3に記載のスペーサーダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線の多導体(electric bundle conductors)に用いるスペーサーに関し、特に、4ケーブル束に用いるスペーサーに関する。
【背景技術】
【0002】
既知のように、架空送電線は、これまで最も広く利用されているタイプの長距離送電線の代表である。架空送電線は、支柱間に張られる複数の導体を備える。通常、特に高電圧長距離送電線の場合、各線路導体はケーブル又は素導体の束からなる。なぜなら、束にすることによって、伝送可能な電力が増大し、漏電及び妨害電磁場が制限されるからである。最も一般的に利用される束は、2本、3本、又は4本の素ケーブルからなる。
【0003】
個々の多導体は、好ましくは1本の支柱と他の支柱との間のスパン全体にわたって、互いに正確な距離を置いて維持されなければならないことが明らかである。このような目的で、束を構成する導体の数に応じて種々の方法で構成されるスペーサーを使用することが既知である。本明細書では、4ケーブル束に用いるスペーサー、すなわち、導体の束に属する4本のケーブル間の位置一貫性を維持するのに好適なスペーサーを論じる。
【0004】
静的条件において、一連の広範なサブスパンを規定しながらケーブルを正確な相互距離を置いて維持するには、(200メートル長〜1000メートル長で変動する)スパンの長さを差し渡して位置付けられる少数のスペーサーで理論上は十分である。しかし、架空送電線は変動する大気条件に曝される。変動する大気条件は、架空送電線の状態を変化させるとともに外乱力をもたらす。一般的に、風が架空送電線に著しく作用し、架空送電線の動的挙動に悪影響を及ぼす。
【0005】
風の作用は、3つのタイプの振動/バイブレーションを架空送電線上にもたらす。剥離渦(whirl detachment)に起因するエオリアン振動(Aeolian vibration)が、通常、高周波数及び小振幅において現れる。別の振動モードは、「ギャロッピング」と呼ばれる振動モードであり、同じスパン内(すなわち2本の支柱間)で低周波数及び大振幅を伴って発生し、ケーブル束が垂直平面において振動することにつながる。ギャロッピングは、極めて特定の環境条件(通常、ケーブルの回りに氷が堆積している場合)において発生する。最後に、サブスパン振動がある。サブスパン振動は、スペーサーによって相互に隔てられた個々のサブスパン内で現れ、風上側ケーブルと風下側ケーブルとの間の空力干渉(後流作用)に起因する。
【0006】
以下で、サブスパン振動を大部分論じる。この現象は、4ケーブル束上で特に顕著であることがわかっている。4ケーブル束では、1対の風上側ケーブルと1対の風下側ケーブルとを有することが通常の状況であり、これが重大な後流作用を発生させる。これらの振動は、「サブスパン」とも呼ばれ、束のサブ導体間の振動につながる可能性がある。この振動は、スペーサーダンパーのクランプの所で導体上に顕著な応力を与えるとともに、結果としてケーブル破断が生じる可能性を伴う。
【0007】
これまで従来技術において提案された4ケーブル用スペーサーダンパーの全ては、中央の四辺形フレーム構造体を設けている。この四辺形フレームの頂点に、それぞれの小型アームによって支持される固定手段が配置される。これらの小型アームの端部に、導体束のケーブルが締結される。通常、その構造は、4本のケーブルが、相互に十分に離間され、静荷重が等しく分布する状態で四辺形の頂点に維持されるように対称的である。
【0008】
サブスパン振動に対処するために、長い間、種々の装置が提案されてきた。
【0009】
従来的には、ケーブル固定アームが減衰ヒンジによって四辺形フレーム構造体上に取り付けられる。既に減衰ヒンジは、振動/バイブレーションに対する減衰作用をもたらす。このタイプのスペーサーダンパーは、例えば、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に記載されている。
【0010】
また、本明細書と同封の図1において、従来技術のスペーサーダンパーが前面図で示されている。認識することができるように、このスペーサーダンパーは、四辺形フレーム構造体1からなり、フレーム構造体の頂点に4つの同一のアーム2a〜2cがヒンジ結合され、これらのアームの遠位端に、既知のタイプのクランプによって導電ケーブル(図示していない)が固定される。フレーム構造体1をアーム2a〜2cに拘束する各ヒンジ3a〜3cは、所望の位置にクランプを支持するとともに、いかなる振動も減衰するように好適な構成を有する。特に、図1において認識することができるように、クランプは、ケーブルがヒンジ3a〜3cの回転中心と実質的に同じ高さにあるように支持される(すなわち、ケーブルの固定点とヒンジの回転軸とが1つの略水平の線上にある)。この設計は、この区域において最も好適であるとみなされる。なぜなら、応力の対称負荷をもたらすことに加えて、この設計は、エオリアン振動に最良に対処することを可能にする設計であるからである。事実として、上記エオリアン振動は、通常、垂直平面(図1のy軸と一致する)において引き起こされる。したがって、減衰システムが適切に動作するように、ヒンジ3a〜2cの回転軸に対してアーム2a〜2cによって規定される良好な応力中心距離を見つけることが有用である。図2は、動的数値シミュレーションのために、図1のスペースダンパーが図式化されている幾何学的図を示している。見出すことができるように、アームの略水平の姿勢と、可能な限りケーブルを離間させる必要性とにより、中央フレーム構造体が略矩形及び大きなサイズになる(中央フレーム構造体の高さはケーブル間の垂直方向距離と略同一である)。
【0011】
別の効果的な手段は、サブスパンの長さを縮小し、ひいては空気力学的な力に対する束の挙動を向上させるために、送電線上のスペーサーダンパーの数を増大させることであることが確かである。導体ケーブルが特に軽量であり、天候条件が特に厳しい(高温、ケーブルの張力低下、及び頻発する激しい風)場合、サブスパン振動が主な問題であり、サブスパンを約40メートル〜45メートルにまで短縮することが必要であるかもしれない。このことは、推測され得るように、材料及び設置保守の双方の費用に悪影響を与えるため、特に不所望である。
【0012】
代替的に又は加えて、カウンターウエイトを設けた好適な減衰装置をサブスパンの線路に取り付けることが提案されている。この減衰装置は捻り固有モードに対して特に効果がある。しかし、この解決策も費用に悪影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第0244624号
【特許文献2】米国特許第4554403号
【特許文献3】米国特許第4188502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、上述した課題を解決する革新的なスペーサーダンパー、すなわち、サブスパンの長さの縮小を強いることなく、可能な限りサブスパン振動を低減させるスペーサーダンパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、本質的に、本明細書と同封の請求項1に記載の装置によって達成される。従属請求項は、本発明の好ましい特徴を記載している。
【0016】
特に、本発明の第1の態様によれば、架空送電線の4ケーブル束に用いるスペーサーダンパーが提供される。本スペーサーダンパーはフレーム構造体を備え、フレーム構造体から4つの小型支持アームが分岐する。4つの小型支持アームの遠位端部に、電気ケーブルを固定するクランプが設けられ、上記小型アームは、それぞれの減衰ヒンジによってフレーム構造体に拘束される。上記スペーサーダンパーは、本スペーサーダンパーの垂直モード固有周波数が、本スペーサーダンパーの対応する水平モード固有周波数よりも高いように構成される。
【0017】
更なる一態様によれば、小型アームが基準軸を有するスペーサーダンパーが提供される。この基準軸は、それぞれのケーブルの固定点をそれぞれのヒンジの回転中心に結ぶ。この基準軸は水平軸に対して角度を形成し、この角度のうちの2つは同一であり、他の2つとは異なる。
【0018】
別の態様によれば、減衰ヒンジが、水平線に対して少なくとも1つの辺が傾いている四辺形フレーム構造体の頂点にある。さらに、本発明の最後の一態様によれば、四辺形フレーム構造体は非直交の隣接辺を有する。
【0019】
本発明の更なる特徴及び利点は、いずれの場合も、単に非限定的な例として与えられ、添付の図面に示されている好ましい一実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】既に述べた従来技術の4ケーブル束用スペーサーダンパーの立面図である。
図2】既に述べた従来技術の4ケーブル束用スペーサーダンパーの概略図である。
図3】本発明に係るスペーサーダンパーの一実施形態の前面図である。
図4】動的数値シミュレーションのための、図3のスペーサーダンパーが図式化されている幾何学的図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は以下の考えから始められた。エオリアン振動がこれまで最も頻発する振動であったが、4ケーブル束上では、サブスパン振動現象が等しく重大であり、上記のまとまったアプローチから離れ、エオリアン振動に対する有効性の一部を断念して妥協解決策を特定する試みを行うことが有利とすることができる。
【0022】
このアプローチから出発して、サブスパン振動は、空気力学的な力(フラッター)を受ける機械構造体の2つの自由度における不安定性現象が原因とすることが可能であることが認識され得た。特に、この不安定性は、サブスパン水平振動の固有モードがサブスパン垂直振動の固有モードと連成することに起因する(このことはおそらくはスパン全体の捻りモードから生じる可能性がある)。
【0023】
2つの固有モードの周波数は構造的に異なる。特に、(図1及び図2の解決策におけるように)対称的な4ケーブル束用スペーサーダンパーの、同一の向きのアームを有する既知の構成によって、垂直モードの周波数は水平モードの周波数よりも低くなる。
【0024】
風下側導体に対する風上側導体の空力後流作用に起因する非保存力場は、通常、水平面にあるが、漸次的に垂直モードの周波数を変化させ、垂直モードの周波数を増大させ、対応する水平モードの周波数と同じ周波数にさせることが認識されている。1対のモードの周波数が一致すると、通常の不安定性のフォームが発生し(フラッター)、これに2本の束ケーブルの楕円運動が伴い、限界周期にまで拡大し、ケーブルが互いに衝突又は更には破断する可能性がある。
【0025】
本発明によれば、上記のまとまった対象構造のアプローチを断念することにより、スペーサーダンパーは、少しであっても、スペーサーダンパーの垂直モード周波数が、対応する水平モードの周波数よりも高い構成で設けられる。このような場合、空気力学的な力の影響は、このような周波数を更に離す傾向があり、したがって、サブスパン振動から生じる2つのモードが連成することが回避される。
【0026】
図3は、上記で述べた本発明の原理に従う4ケーブル束用スペーサーダンパーの可能な一実施形態を示している。
【0027】
上記スペーサーダンパーは、それ自体既知であるように、フレーム構造体10からなり、フレーム構造体には4つの周縁支持アーム20a〜20cが設けられ、4つの周縁支持アームは、4つの周縁支持アームの遠位端部に、4つの対応する導電ケーブル(図示していない)に対する締結クランプを担持する。支持アーム20a〜20cは、減衰ヒンジ30a〜30bによってフレーム構造体10に拘束される。
【0028】
本発明によれば、スペーサーダンパーは、もはや対称的に構成されない。しかし、それにもかかわらず、ケーブルは水平辺及び垂直辺を有する理想的な矩形四辺形の4つの頂点に維持される。特に、4つのヒンジ30a〜30bは、水平線に対して少なくとも1つの辺が傾いている四辺形の4つの頂点にあり(図3)、また、例えば平行四辺形等の非直交の隣接辺を有することもできる(図4)。
【0029】
さらに、支持アーム20a〜20bは、水平軸に対して異なる角度を有する基準軸(すなわち、それぞれのヒンジ30a〜30bの回転軸のケーブル固定点につながる軸)を有する。図4は、支持アームの基準軸が、水平線に対して対で同一の傾斜角度を有する場合を示している。すなわち、2つの対向するアームが水平線に対して角度αを規定し、他方の2つの対向するアームがαとは異なる基準角度αを規定する。これらの角度は35度〜65度の範囲にあり、好ましくは、αが30度〜40度であり、αが60度〜70度である。
【0030】
この構成により、通常の振動に対するスペーサーダンパーの優れた平均性能が得られる。事実として、この構成によって、対応する垂直固有モードの周波数よりも低い水平固有モード周波数が生じ、ひいてはサブスパン振動の増大が強固に抑制される。このとき、エオリアン振動に対して僅かに性能が劣化する代償があるが、これは許容可能な範囲内に留まる。
【0031】
本発明に係るスペーサーダンパーの優れた性能は、数値シミュレーションによって理論レベルで証明されている。本発明に係るスペースダンパーは、過酷な環境条件においてもサブスパンの長さを60メートルにまで劇的に延ばすことを可能にし、このとき、風振動に関して性能が認識可能に著しく劣化する結果は伴わないことが見出されている。
【0032】
とりわけ、本発明に係る構成は、従来技術と比較してより小型のサイズの中央フレーム構造体を画定することを可能にし、このことは相対費用を更に低減する場合がある。
【0033】
しかし、本発明は、単に本発明の範囲の非限定的な例を示す上述及び図示した特定の構成に限定されないことと、全て当業者の理解範囲内で、本発明の範囲から逸脱することなく、複数の変形形態が可能であることとが理解される。
図1
図2
図3
図4