(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6000394
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】パワーユニット
(51)【国際特許分類】
F02N 3/04 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
F02N3/04 D
F02N3/04 E
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-71048(P2015-71048)
(22)【出願日】2015年3月31日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 広之
(72)【発明者】
【氏名】深町 昌俊
【審査官】
田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−203354(JP,A)
【文献】
特開2000−034933(JP,A)
【文献】
特開2007−146803(JP,A)
【文献】
特開平04−203324(JP,A)
【文献】
特開昭59−029770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(E)のクランクシャフト(13)上に設けられる駆動プーリ(46)を有するVベルト式の無段変速機(M)が、その無段変速機(M)を外側方から覆うケースカバー(44)を有して前記内燃機関(E)のクランクケース(14)に連設される伝動ケース(12)内に収容され、前記ケースカバー(44)の外方に配置されるキックレバー(54)が外端部に設けられるようにして前記ケースカバー(44)を回転自在に貫通するキック軸(55)および前記クランクシャフト(13)間に、前記キック軸(55)に固定される駆動歯車(57)と、当該駆動歯車(57)からの動力伝達に応じて前記クランクシャフト(13)の軸線方向に移動可能な被動歯車(58)と、該被動歯車(58)とともに作動する駆動側ラチェット(59)と、前記クランクシャフト(13)の軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェット(59)の移動に応じて該駆動側ラチェット(59)を係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフト(13)とともに回転するようにして前記クランクシャフト(13)上に設けられる被動側ラチェット(60)とを有するキック始動機構(56)が介設されるパワーユニットにおいて、
前記クランクケース(14)は、前記クランクシャフト(13)の軸線方向に分割可能な一対のクランクケース半体(20,21)が結合されて成り、前記ケースカバー(44)に設けられる貫通孔(63)を貫通する前記キック軸(55)の内端部が、一対の前記クランクケース半体(20,21)に回転自在に支持されることを特徴とするパワーユニット。
【請求項2】
内燃機関(E)のクランクシャフト(13)上に設けられる駆動プーリ(46)を有するVベルト式の無段変速機(M)が、その無段変速機(M)を外側方から覆うケースカバー(44)を有して前記内燃機関(E)のクランクケース(14)に連設される伝動ケース(12)内に収容され、前記ケースカバー(44)の外方に配置されるキックレバー(54)が外端部に設けられるようにして前記ケースカバー(44)を回転自在に貫通するキック軸(55)および前記クランクシャフト(13)間に、前記キック軸(55)に固定される駆動歯車(57)と、当該駆動歯車(57)からの動力伝達に応じて前記クランクシャフト(13)の軸線方向に移動可能な被動歯車(58)と、該被動歯車(58)とともに作動する駆動側ラチェット(59)と、前記クランクシャフト(13)の軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェット(59)の移動に応じて該駆動側ラチェット(59)を係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフト(13)とともに回転するようにして前記クランクシャフト(13)上に設けられる被動側ラチェット(60)とを有するキック始動機構(56)が介設されるパワーユニットにおいて、
前記ケースカバー(44)に設けられる貫通孔(63)を貫通する前記キック軸(55)の内端部が、前記クランクケース(14)に回転自在に支持され、前記クランクケース(14)に、前記クランクシャフト(13)を同軸に囲繞して前記伝動ケース(12)内に突入する円筒状の支持筒部(21a)が設けられ、前記クランクシャフト(13)の外面との間に環状間隙(69)を形成して円筒状に形成される前記被動歯車(58)の外周が、前記支持筒部(21a)の内周で回転自在かつ軸方向移動自在に支持されることを特徴とするパワーユニット。
【請求項3】
内燃機関(E)のクランクシャフト(13)上に設けられる駆動プーリ(46)を有するVベルト式の無段変速機(M)が、その無段変速機(M)を外側方から覆うケースカバー(44)を有して前記内燃機関(E)のクランクケース(14)に連設される伝動ケース(12)内に収容され、前記ケースカバー(44)の外方に配置されるキックレバー(54)が外端部に設けられるようにして前記ケースカバー(44)を回転自在に貫通するキック軸(55)および前記クランクシャフト(13)間に、前記キック軸(55)に固定される駆動歯車(57)と、当該駆動歯車(57)からの動力伝達に応じて前記クランクシャフト(13)の軸線方向に移動可能な被動歯車(58)と、該被動歯車(58)とともに作動する駆動側ラチェット(59)と、前記クランクシャフト(13)の軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェット(59)の移動に応じて該駆動側ラチェット(59)を係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフト(13)とともに回転するようにして前記クランクシャフト(13)上に設けられる被動側ラチェット(60)とを有するキック始動機構(56)が介設されるパワーユニットにおいて、
前記ケースカバー(44)に設けられる貫通孔(63)を貫通する前記キック軸(55)の内端部が、前記クランクケース(14)に回転自在に支持され、前記駆動プーリ(46)が、前記クランクシャフト(13)に固定される固定シーブ(47)と、該固定シーブ(47)に対する近接離反を可能として前記クランクシャフト(13)に支持されて前記固定シーブ(47)および前記クランクケース(14)間に配置される可動シーブ(48)とを備え、前記クランクシャフト(13)の回転数増大に応じて前記可動シーブ(48)を前記固定シーブ(47)に近接させる働きをする遠心式シフト機構(50)の一部を構成するウエイト保持プレート(52)が、前記固定シーブ(47)とは反対側から前記可動シーブ(48)に対向しつつ前記クランクシャフト(13)に固定され、前記被動側ラチェット(60)が、前記クランクシャフト(13)の軸線と直交する方向から見て前記ウエイト保持プレート(52)の一部と重なる位置に配置されることを特徴とするパワーユニット。
【請求項4】
前記クランクケース(14)に、前記クランクシャフト(13)を同軸に囲繞して前記伝動ケース(12)内に突入する円筒状の支持筒部(21a)が設けられ、前記クランクシャフト(13)の外面との間に環状間隙(69)を形成して円筒状に形成される前記被動歯車(58)の外周が、前記支持筒部(21a)の内周で回転自在かつ軸方向移動自在に支持されることを特徴とする請求項3に記載のパワーユニット。
【請求項5】
前記クランクケース(14)は、前記クランクシャフト(13)の軸線方向に分割可能な一対のクランクケース半体(20,21)が結合されて成り、前記キック軸(55)の内端部が、一対の前記クランクケース半体(20,21)に回転自在に支持されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のパワーユニット。
【請求項6】
前記クランクシャフト(13)の軸線に沿う方向で前記クランクケース(14)および前記駆動プーリ(46)間に前記キック始動機構(56)が配置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のパワーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフト上に設けられる駆動プーリを有するVベルト式の無段変速機が、その無段変速機を外側方から覆うケースカバーを有して前記内燃機関のクランクケースに連設される伝動ケース内に収容され、前記ケースカバーの外方に配置されるキックレバーが外端部に設けられるようにして前記ケースカバーを回転自在に貫通するキック軸および前記クランクシャフト間に、前記キック軸に固定される駆動歯車と、当該駆動歯車からの動力伝達に応じて前記クランクシャフトの軸線方向に移動可能な被動歯車と、該被動歯車とともに作動する駆動側ラチェットと、前記クランクシャフトの軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェットの移動に応じて該駆動側ラチェットを係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフトとともに回転するようにして前記クランクシャフト上に設けられる被動側ラチェットとを有するキック始動機構が介設されるパワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
Vベルト式の無段変速機を収容する伝動ケースの一部を構成して前記無段変速機を外側方から覆うケースカバーを貫通するキック軸と、クランクシャフトとの間に、前記キック軸の回動操作によってクランクシャフトを回転駆動するようにしたキッ
ク始動機構が設けられるようにしたパワーユニットが、特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−170574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1で開示されるものでは、キック軸が、ケースカバーに回動自在に支持されており、ケースカバーを金属等の剛性の高い材料によって形成しなければならなかった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ケースカバーが高剛性を有することを不要としたパワーユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、内燃機関のクランクシャフト上に設けられる駆動プーリを有するVベルト式の無段変速機が、その無段変速機を外側方から覆うケースカバーを有して前記内燃機関のクランクケースに連設される伝動ケース内に収容され、前記ケースカバーの外方に配置されるキックレバーが外端部に設けられるようにして前記ケースカバーを回転自在に貫通するキック軸および前記クランクシャフト間に、前記キック軸に固定される駆動歯車と、当該駆動歯車からの動力伝達に応じて前記クランクシャフトの軸線方向に移動可能な被動歯車と、該被動歯車とともに作動する駆動側ラチェットと、前記クランクシャフトの軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェットの移動に応じて該駆動側ラチェットを係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフトとともに回転するようにして前記クランクシャフト上に設けられる被動側ラチェットとを有するキック始動機構が介設されるパワーユニットにおいて、前記ケースカバーに設けられる貫通孔を貫通する前記キック軸の内端部が、前記クランクケースに回転自在に支持さ
れ、前記クランクケースは、前記クランクシャフトの軸線方向に分割可能な一対のクランクケース半体が結合されて成り、前記ケースカバーに設けられる貫通孔を貫通する前記キック軸の内端部が、
一対の前記クランクケース半体に回転自在に支持されることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、
内燃機関のクランクシャフト上に設けられる駆動プーリを有するVベルト式の無段変速機が、その無段変速機を外側方から覆うケースカバーを有して前記内燃機関のクランクケースに連設される伝動ケース内に収容され、前記ケースカバーの外方に配置されるキックレバーが外端部に設けられるようにして前記ケースカバーを回転自在に貫通するキック軸および前記クランクシャフト間に、前記キック軸に固定される駆動歯車と、当該駆動歯車からの動力伝達に応じて前記クランクシャフトの軸線方向に移動可能な被動歯車と、該被動歯車とともに作動する駆動側ラチェットと、前記クランクシャフトの軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェットの移動に応じて該駆動側ラチェットを係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフトとともに回転するようにして前記クランクシャフト上に設けられる被動側ラチェットとを有するキック始動機構が介設されるパワーユニットにおいて、前記ケースカバーに設けられる貫通孔を貫通する前記キック軸の内端部が、前記クランクケースに回転自在に支持され、前記クランクケースに、前記クランクシャフトを同軸に囲繞して前記伝動ケース内に突入する円筒状の支持筒部が設けられ、前記クランクシャフトの外面との間に環状間隙を形成して円筒状に形成される前記被動歯車の外周が、前記支持筒部の内周で回転自在かつ軸方向移動自在に支持されることを第
2の特徴とする。
【0008】
本発明は、
内燃機関のクランクシャフト上に設けられる駆動プーリを有するVベルト式の無段変速機が、その無段変速機を外側方から覆うケースカバーを有して前記内燃機関のクランクケースに連設される伝動ケース内に収容され、前記ケースカバーの外方に配置されるキックレバーが外端部に設けられるようにして前記ケースカバーを回転自在に貫通するキック軸および前記クランクシャフト間に、前記キック軸に固定される駆動歯車と、当該駆動歯車からの動力伝達に応じて前記クランクシャフトの軸線方向に移動可能な被動歯車と、該被動歯車とともに作動する駆動側ラチェットと、前記クランクシャフトの軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェットの移動に応じて該駆動側ラチェットを係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフトとともに回転するようにして前記クランクシャフト上に設けられる被動側ラチェットとを有するキック始動機構が介設されるパワーユニットにおいて、前記ケースカバーに設けられる貫通孔を貫通する前記キック軸の内端部が、前記クランクケースに回転自在に支持され、前記駆動プーリが、前記クランクシャフトに固定される固定シーブと、該固定シーブに対する近接離反を可能として前記クランクシャフトに支持されて前記固定シーブおよび前記クランクケース間に配置される可動シーブとを備え、前記クランクシャフトの回転数増大に応じて前記可動シーブを前記固定シーブに近接させる働きをする遠心式シフト機構の一部を構成するウエイト保持プレートが、前記固定シーブとは反対側から前記可動シーブに対向しつつ前記クランクシャフトに固定され、前記被動側ラチェットが、前記クランクシャフトの軸線と直交する方向から見て前記ウエイト保持プレートの一部と重なる位置に配置されることを第
3の特徴とする。
【0009】
本発明は、
本発明は、第3の特徴の構成に加えて、前記クランクケースに、前記クランクシャフトを同軸に囲繞して前記伝動ケース内に突入する円筒状の支持筒部が設けられ、前記クランクシャフトの外面との間に環状間隙を形成して円筒状に形成される前記被動歯車の外周が、前記支持筒部の内周で回転自在かつ軸方向移動自在に支持されることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第2〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記クランクケースは、前記クランクシャフトの軸線方向に分割可能な一対のクランクケース半体が結合されて成り、前記キック軸の内端部が、一対の前記クランクケース半体に回転自在に支持されることを第5の特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、第1〜第5の特徴の構成のいずれかに加えて、前記クランクシャフトの軸線に沿う方向で前記クランクケースおよび前記駆動プーリ間に前記キック始動機構が配置されることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば、キック軸の内端部がクランクケースに回転自在に支持されるので、キック軸が貫通するケースカバーが高剛性を有することが不要となり、ケースカバーを形成する材料の選択の自由度が高くなる。
また、キック軸の内端部が、クランクケースを協働して構成するようにして相互に結合される一対のクランクケース半体に支持されるので、キック軸の長い部分がクランクケースに支持されることになり、キック軸の支持剛性を高くすることができる。
【0013】
本発明の第2の特徴によれば、
クランクケースに設けられてクランクシャフトを同軸に囲繞する円筒状の支持筒部に、クランクシャフトの外面との間に環状間隙を形成する円筒状の被動歯車の外周が支持されるので、被動歯車がクランクシャフトで支持されないようにしてクランクシャフトおよび被動歯車間でフリクションが発生することがないようにすることができる。
【0014】
本発明の第
3の特徴によれば、クランクシャフトの回転数増大に応じて可動シーブを固定シーブに近接させる働きをする遠心式シフト機構の一部を構成するウエイト保持プレートの一部と、被動側ラチェットが、クランクシャフトの軸線と直交する方向から見て重なるので、無段変速機およびキッ
ク始動機構をクランクシャフトの軸線に沿う方向でコンパクトに配置することができる。
【0015】
本発明の第4の特徴によれば、クランクケースに設けられてクランクシャフトを同軸に囲繞する円筒状の支持筒部に、クランクシャフトの外面との間に環状間隙を形成する円筒状の被動歯車の外周が支持されるので、被動歯車がクランクシャフトで支持されないようにしてクランクシャフトおよび被動歯車間でフリクションが発生することがないようにすることができる。
【0016】
本発明の第5の特徴によれば、
キック軸の内端部が、クランクケースを協働して構成するようにして相互に結合される一対のクランクケース半体に支持されるので、キック軸の長い部分がクランクケースに支持されることになり、キック軸の支持剛性を高くすることができる。
【0017】
さらに本発明の第6の特徴によれば、キック始動機構が、クランクシャフトの軸線に沿う方向でクランクケースおよび駆動プーリ間に配置されるので、キック始動機構を伝動ケース内にコンパクトに配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】自動二輪車に搭載されるパワーユニットの左側面図である。
【
図6】被動歯車および駆動側ラチェットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお以下の説明で前後、上下および左右の各方向は内燃機関が搭載される自動二輪車に搭乗した乗員から見た方向を言うものとする。
【0020】
先ず
図1および
図2において、自動二輪車の車体フレーム(図示せず)には、後輪WRを駆動する動力を発揮する単気筒の内燃機関Eと、その内燃機関Eの動力を無段階に変速するVベルト式の無段変速機Mとを有するパワーユニットPが上下揺動可能に懸架され、前記内燃機関Eの機関本体11に連設されて前記後輪WRの右側まで延出される伝動ケース12内に無段変速機Mが収容され、前記後輪WRは前記伝動ケース12の後部に軸支される。
【0021】
前記機関本体11は、軸線を車幅方向に沿わせたクランクシャフト13を回転自在に支承するクランクケース14と、シリンダボア18を有して前記クランクケース14に結合されるシリンダボディ15と、該シリンダボディ15に結合されるシリンダヘッド16と、シリンダヘッド16に結合されるヘッドカバー17とを備える。
【0022】
前記クランクケース14は、右側クランクケース半体20と、左側クランクケース半体21とが結合されて成る。前記クランクシャフト13は、前記右側クランクケース半体20および前記左側クランクケース半体21を回転自在に貫通して、それらのクランクケース半体20,21に回転自在に支持されており、前記クランクシャフト13および右側クランクケース半体20間には第1のボールベアリング25が介装され、前記クランクシャフト13および左側クランクケース半体21間には、第2のボールベアリング26と、第2のボールベアリング26の軸方向外方に配置される環状のシール部材27とが介装される。また前記シリンダボア18に摺動可能に嵌合されるピストン23が前記クランクシャフト13のクランクピン13aにコネクティングロッド24を介して連接される。
【0023】
前記右側クランクケース半体20には、有底筒状に形成される発電機カバー28が、前記右側クランクケース半
体20との間に発電機室29を形成するようにして結合され、この発電機室29には発電機30が収容される。
【0024】
前記シリンダヘッド16には、図示しない吸気弁および排気弁が開閉作動可能に配設されており、前記シリンダヘッド16および前記ヘッドカバー17間に形成される動弁室31には、前記吸気弁および前記排気弁を開閉作動せしめる動弁機構32が収容される。
【0025】
前記動弁機構32は、前記クランクシャフト13と平行な軸線を有して前記シリンダヘッド16に回転自在に支承されるカムシャフト33と、該カムシャフト33および前記吸気弁間に設けられる吸気側ロッカアーム34と、前記カムシャフト33および前記排気弁間に設けられる排気側ロッカアーム35とを備える。
【0026】
前記動弁機構32の前記カムシャフト33には、前記クランクシャフト13からの回転動力が減速比を1/2とした調時伝動機構36によって伝達される。
【0027】
前記調時伝動機構36は、前記第1のボールベアリング25および前記発電機30間に配置されて前記クランクシャフト13に固定される前記カムチェーン駆動スプロケット37と、前記カムシャフト33に固定されるカムチェーン被動スプロケット38とに、無端状のカムチェーン39が巻き掛けられて成るものであり、このカムチェーン39を走行させるカムチェーン室40が、前記シリンダボア18よりも右側で前記機関本体11における前記右側クランクケース半体20、前記シリンダボディ15および前記シリンダヘッド16に形成される。
【0028】
前記右側クランクケース半体20には、前記カムチェーン室40および前記発電機室39間を隔てる隔壁部材41が締結されており、この隔壁部材41を液密にかつ回転自在に貫通する前記クランクシャフト13の右端部には前記発電機30のアウターロータ42が固定され、前記発電機カバー28には、前記発電機30のインナーステータ(図示せず)が固定される。
【0029】
前記伝動ケース12は、前記クランクケース14における左側クランクケース半体21に一体に設けられるケース主部43と、前記無段変速機Mを外側方から覆うようにして前記ケース主部43に締結されるケースカバー44とを備えるものであり、前記左側クランクケース半体21から突出して前記伝動ケース12内に突入した前記クランクシャフト13の右端部には、前記無段変速機Mの一部を構成する駆動プーリ46が設けられる。前記駆動プーリ46は、前記クランクシャフト13に固定される固定シーブ47と、その固定シーブ47の軸方向内方側に配置されて前記クランクシャフト13に軸方向移動可能に支持される可動シーブ48とを備え、前記固定シーブ47および前記可動シーブ48間にVベルト49が巻き掛けられる。
【0030】
前記可動シーブ48は、遠心式シフト機構50の働きによって前記クランクシャフト13の回転数増大に応じて前記固定シーブ47に近接する側に駆動されるものであり、前記遠心式シフト機構50は、前記可動シーブ48の前記固定シーブ47とは反対側の面に形成されるカム面51と、前記固定シーブ47とは反対側から前記可動シーブ48に対向するようにして前記クランクシャフト13に固定されるウエイト保持プレート52と、前記カム面51および前記ウエイト保持プレート52間に保持される複数のウエイト53とを備える。
【0031】
図3および
図4を併せて参照して、前記ケースカバー44の外方に配置されるキックレバー54が外端部に設けられるようにして前記ケースカバー44を回転自在に貫通するキック軸55および前記クランクシャフト13間には、前記キック軸55の回動に応じて前記クランクシャフト13を回転駆動して内燃機関Eを始動させるようにしたキック始動機構56が介設される。
【0032】
このキック始動機構56は、前記キック軸55に固定される駆動歯車57と、当該駆動歯車57からの動力伝達に応じて前記クランクシャフト13の軸線方向に移動可能な被動歯車58と、該被動歯車58とともに作動する駆動側ラチェット59と、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェット59の移動に応じて該駆動側ラチェット59を係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフト13とともに回転するようにして前記クランクシャフト13上に設けられる被動側ラチェット60とを有し、この実施の形態で前記キック始動機構56は、前記駆動歯車57、前記被動歯車58、前記駆動側ラチェット59および前記被動側ラチェット60に加えて、前記駆動歯車57に噛合する第1の中間歯車61と、第1の中間歯車61とともに回転するようにして前記被動歯車58に噛合する第2の中間歯車62とを備え、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向で、前記クランクケース14および前記駆動プーリ46間に配置される。
【0033】
ところで前記クランクシャフト13よりも後方で前記ケースカバー44には、前記キック軸55を貫通させる貫通孔63が設けられており、その貫通孔63を貫通する前記キック軸55の内端部は、前記クランクケース14に回転自在に支持される。
【0034】
しかも前記クランクケース14を協働して構成するようにして相互に結合される右側クランクケース半体20および左側クランクケース半体21に前記キック軸55の内端部が回転自在に支持されるものであり、前記右側クランクケース半体20には、左側クランクケース半体21側に開放した有底の支持孔64が前記クランクシャフト13の軸線と平行に設けられ、その支持孔64と同軸である支持孔65が、両端を開放した貫通孔として前記左側クランクケース半体21に設けられ、前記キック軸55の内端部は、前記支持孔64,65に回転自在に支持されるようにして嵌合される。
【0035】
前記駆動歯車57は、セクタ歯車であり、前記キック軸55に固定される前記駆動歯車57および左側クランクケース半体21間には、前記キック軸55を囲繞するコイル状のねじりばね66が、前記キック軸55を戻し側に付勢するばね力を発揮するようにして介設される。
【0036】
第1の中間歯車61は、前記駆動歯車57に噛合するようにして小径に形成されており、この第1の中間歯車61が一体に有する軸67が、前記キック軸55および前記クランクシャフト13間で前記左側クランクケース半体21に設けられた支持凹部68に回転自在に嵌合される。また第2の中間歯車62は、ウォームホイルであり、第1の中間歯車よりも大径に形成されて第1の中間歯車61に同軸に固定される。
【0037】
図5〜
図7を併せて参照して、前記被動歯車58は、ウォームホイルである第2の中間歯車62に噛合するウォームとして円筒状に形成される。また前記クランクケース14における前記左側クランクケース半体21には、前記クランクシャフト13を同軸に囲繞して前記伝動ケース12内に突入する円筒状の支持筒部21aが設けられており、前記クランクシャフト13の外面との間に環状間隙6
9を形成して円筒状に形成される前記被動歯車58の外周が、前記支持筒部21aの内周で回転自在かつ軸方向移動自在に支持される。
【0038】
しかも前記支持筒部21aの先端部には、前記第2の中間歯車62を前記被動歯車58に噛合させるための切欠き70が設けられる。また前記被動歯車58には、フリクションばね71が巻かれており、このフリクションばね71の両端部は、前記切欠き70に連なるようにし手前記支持筒部21aに設けられて軸方向に長く形成されるガイド凹部72の周方向両側の側縁に摺動可能に係合される。
【0039】
前記駆動側ラチェット59は前記被動歯車58に一体に形成され、前記被動側ラチェット60は、前記駆動側ラチェット59に対向するようにして前記クランクシャフト13に固定される。
【0040】
ところで、前記クランクシャフト13には、前記駆動側ラチェット59と反対側に臨む環状段部76が規制されており、前記クランクシャフト13にスプライン結合される前記被動側ラチェット60は、前記環状段部76に当接される。しかも前記被動側ラチェット60は、前記クランクシャフト13にスプライン結合される前記ウエイト保持プレート52の内周部および前記環状段部76間に挟まれる。また前記ウエイト保持プレート52の内周部との間に前記クランクシャフト13を囲繞する円筒状のスリーブ73を挟む固定シーブ47が、前記クランクシャフト13にスプライン結合されており、前記クランクシャフト13の左端部に螺合されるナット74を締め付けることで、前記被動側ラチェット60、前記ウエイト保持プレート52および前記固定シーブ47が、前記クランクシャフト13に固定される。
【0041】
また前記被動側ラチェット60は、前記クランクシャフト13の軸線と直交する方向から見て前記ウエイト保持プレート52の一部と重なる位置に配置されるものであり、この実施の形態では、前記ウエイト保持プレート52がその内周部に有する凹部75に前記被動側ラチェット60が配置される。
【0042】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、無段変速機Mを外側方から覆うケースカバー44を有してクランクケース14に連設される伝動ケース12内に無段変速機Mが収容され、前記ケースカバー44の外方に配置されるキックレバー54が外端部に設けられるようにして前記ケースカバー44を回転自在に貫通するキック軸55およびクランクシャフト13間にキック始動機構56が介設され、前記ケースカバー44に設けられる貫通孔63を貫通する前記キック軸55の内端部が、前記クランクケース14に回転自在に支持されるので、キック軸55が貫通するケースカバー44が高剛性を有することが不要となり、ケースカバー44を形成する材料の選択の自由度が高くなる。
【0043】
またクランクケース14は、クランクシャフト13の軸線方向に分割可能な右側クランクケース半体20および左側クランクケース半体21が結合されて成り、前記キック軸55の内端部が、右側クランクケース半体20および左側クランクケース半体21に回転自在に支持されるので、キック軸55の長い部分がクランクケース14に支持されることになり、キック軸55の支持剛性を高くすることができる。
【0044】
またクランクシャフト13の軸線に沿う方向で前記クランクケース14および駆動プーリ46間に前記キック始動機構56が配置されるので、キック始動機構56を伝動ケース12内にコンパクトに配置することができる。
【0045】
また前記キック始動機構56が、キック軸5
5に固定される駆動歯車57と、当該駆動歯車57からの動力伝達に応じて前記クランクシャフト13の軸線方向に移動可能な被動歯車58と、該被動歯車58とともに作動する駆動側ラチェット59と、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向への前記駆動側ラチェット59の移動に応じて該駆動側ラチェット59を係脱可能に係合させることを可能としつつ前記クランクシャフト13とともに回転するようにして前記クランクシャフト13上に設けられる被動側ラチェット60とを有しており、クランクケース14に、前記クランクシャフト13を同軸に囲繞して前記伝動ケース12内に突入する円筒状の支持筒部21aが設けられ、前記クランクシャフト13の外面との間に環状間隙69を形成して円筒状に形成される前記被動歯車58の外周が、前記支持筒部21aの内周で回転自在かつ軸方向移動自在に支持されるので、被動歯車58がクランクシャフト13で支持されないようにしてクランクシャフト13および被動歯車58間でフリクションが発生することがないようにすることができる。
【0046】
さらに前記駆動プーリ46が、前記クランクシャフト13に固定される固定シーブ47と、該固定シーブ47に対する近接離反を可能として前記クランクシャフト13に支持されて前記固定シーブ47および前記クランクケース14間に配置される可動シーブ48とを備え、前記クランクシャフト13の回転数増大に応じて前記可動シーブ48を前記固定シーブ47に近接させる働きをする遠心式シフト機構50の一部を構成するウエイト保持プレート52が、前記固定シーブ47とは反対側から前記可動シーブ
48に対向しつつ前記クランクシャフト13に固定され、前記被動側ラチェット60が、前記クランクシャフト13の軸線と直交する方向から見て前記ウエイト保持プレート52の一部と重なる位置に配置されるので、無段変速機Mおよびキッ
ク始動機構56をクランクシャフト13の軸線に沿う方向でコンパクトに配置することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0048】
12・・・伝動ケース
13・・・クランクシャフト
14・・・クランクケース
20,21・・・クランクケース半体
21a・・・支持筒部
44・・・ケースカバー
46・・・駆動プーリ
54・・・キックレバー
47・・・固定シーブ
48・・・可動シーブ
50・・・遠心式シフト機構
52・・・ウエイト保持プレート
55・・・キック軸
56・・・キック始動機構
57・・・駆動歯車
58・・・被動歯車
59・・・駆動側ラチェット
60・・・被動側ラチェット
63・・・貫通孔
69・・・環状間隙
E・・・内燃機関
M・・・無段変速機
P・・・パワーユニット
【要約】
【課題】無段変速機を外側方から覆うケースカバーを有してクランクケースに連設される伝動ケース内に無段変速機が収容され、ケースカバーを回転自在に貫通するキック軸およびクランクシャフト間に、キック始動機構が介設されるパワーユニットにおいて、ケースカバーが高剛性を有することを不要とする。
【解決手段】ケースカバー44に設けられる貫通孔63を貫通するキック軸55の内端部が、クランクケース14に回転自在に支持される。
【選択図】
図2