特許第6000449号(P6000449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000449
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
   F04C18/02 311X
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-513450(P2015-513450)
(86)(22)【出願日】2013年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2013062319
(87)【国際公開番号】WO2014174655
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】515294031
【氏名又は名称】ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松村 彰士
(72)【発明者】
【氏名】太田原 優
(72)【発明者】
【氏名】武田 啓
(72)【発明者】
【氏名】上橋 佑介
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 裕一
(72)【発明者】
【氏名】近野 雅嗣
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019322(JP,A)
【文献】 特開2011−089499(JP,A)
【文献】 特開平11−141474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールと、該固定スクロールと噛み合わさり前記固定スクロールに対して旋回することにより圧縮室を形成する旋回スクロールと、
該旋回スクロールをクランク軸を介して駆動する電動機と、を備えたスクロール圧縮機において、
前記圧縮室と前記固定スクロールの上部の吐出圧力空間とを連通することで前記圧縮室から作動流体を吐出圧力空間に流すリリース弁装置を備え、
該リリース弁装置は、前記圧縮室と連通するリリース穴の流路の開閉を行うリリース弁と、該リリース弁が開いたときに該リリース弁を受けるためのリリース弁受と、該リリース弁受が圧力を逃がす際に該リリース弁受を上側から押さえる押さえ部と、から構成され
前記押さえ部には、前記圧縮室で圧縮した作動流体を流す前記固定スクロールの吐出口に対応した第1穴と、前記リリース弁装置に対応した第2穴とが形成されるとともに、これらの第1穴及び第2穴とは互いに連通されておらず、
さらに前記第1穴を前記第2穴から離れた位置に配置することで、前記第1穴と前記吐出口とが一部、重ならないように形成されることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
前記リリース弁受の材質にステンレス鋼を使用することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
前記リリース弁装置が配置されるリリース弁装置空間は上部の大径部と下部の小径部とで構成され、
前記リリース弁装置空間内の上部の大径部の上下方向の厚みDkの方が前記リリース弁受の外周側の上下方向の厚みDsより大きく、これらの差h(=Dk−Ds)は0.45mm以下であることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
前記押さえ部における前記リリース弁装置からの作動流体を前記吐出圧力空間に流すリリース弁逃がし穴の中心位置と、前記リリース弁受の中心位置とのズレ量が最大となる場合においても、前記リリース弁受の上面と前記押さえ部の接触面積が一定値以上となることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
リリース弁受の下部の凸部に第1のリリース弁受部が形成されるとともに前記第1のリリース弁受部の外周側に第2のリリース弁受部が形成され、これらの第1のリリース弁受部及び第2のリリース弁受部により前記リリース弁が開いた際の該リリース弁を受ける構成であることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
前記リリース弁受の外周側において対称位置関係の内周側に凹んだ凹み部が形成されることで、該凹み部と前記リリース弁装置空間の内壁との間の隙間が形成され、さらに、
前記リリース弁受の上部に前記圧縮室側に凹む流路が形成され、該流路は前記隙間と連通するように形成されることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
固定スクロールと、該固定スクロールと噛み合わさり前記固定スクロールに対して旋回することにより圧縮室を形成する旋回スクロールと、
該旋回スクロールをクランク軸を介して駆動する電動機と、を備えたスクロール圧縮機において、
前記圧縮室と前記固定スクロールの上部の吐出圧力空間とを連通することで前記圧縮室から作動流体を吐出圧力空間に流すリリース弁装置を備え、
前記固定スクロールにおいて吐出口を形成する内周側壁面に対して、最も前記吐出口に隣接した位置に設けられた前記リリース弁装置のリリース弁装置空間の内壁面と前記内周側壁面との間に所定の厚みが形成され、
前記吐出口の外周部のうち、最も近い前記リリース弁装置空間と向き合う箇所を当該リリース弁装置空間と離れる方向に凹むような凹み形状を有することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載のスクロール圧縮機において、固定スクロール吐出口を形成する側面壁と、最も吐出口に隣接した位置に設けられたリリース弁装置のリリース弁装置空間を形成する側面壁との間隔が離れるよう、圧縮された作動流体を吐出空間に逃がすための吐出空間側吐出口の中心位置が圧縮室側吐出口の中心位置に対して、偏芯した位置に配設されることを特徴とするスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2013−19322号公報(特許文献1)がある。この公報には、「固定スクロールは、圧縮室の圧力が設定圧力より上昇すると、圧縮室と吐出圧室とを連通するように開路するリリース弁装置を有し、リリース弁装置は、圧縮室と吐出圧室とを連通するリリース流路と、リリース流路を開閉するリリース弁と、リリース弁とリテーナとの間に配置されたリリース弁に弾性押圧力を付与する弁押圧体と、弁押圧体の移動範囲を制限するリテーナと、を有し、リリース弁がリリース流路を閉じた状態及びリリース流路を開いた状態の何れの状態においても、弾性押圧力により弁押圧力がリテーナに押付られる。」と記載されており、これにより「リリース弁装置を配置した際の弁押圧体の圧入による固定スクロールへの変形を抑制するとともに、衝突によるリテーナ及び弁押圧体の変形や衝突音を抑制して、スクロール圧縮機の性能及び信頼性を高めることができる」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−19322号公報
【特許文献2】特開2011−89499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に示されるリリース弁装置の構造により、リリース弁がリリース流路を閉じた状態及びリリース流路を開いた状態の何れにおいても、弾性押圧力により弁押圧体がリテーナに押えつけられる。これにより、リテーナと弁押圧体との衝突音の発生のほか、衝突によるリテーナ又は弁押圧体の変形を抑制し、信頼性向上を図ることができると記載されている。このように、弁押圧体をリテーナで常に上部より抑える構造とすることで、弁押圧体の上下方向への動きが抑制され、衝突による音および変形は低減される。
【0005】
図5は特許文献1の固定スクロール上部を示したものである。ここで特許文献1においては、図5の吐出口とリリース穴位置が隣接した場合に関してのリリース弁の信頼性については言及されていない。
【0006】
特許文献2は過圧縮領域の圧縮効率を高め、且つ不足圧縮領域も含めた全運転圧縮比領域を通した全体の圧縮効率を高めることを目的としている。このため、固定スクロール吐出口に最も近い2つの圧縮室にそれぞれリリース弁装置が設けられた場合には、必然的に吐出口と圧縮室のどちらかに設けられたリリース穴位置が隣接することになる。また作動流体の抜けを良くするためには、当然リリース穴の径を大きくすることが効果的であるため、リテーナの吐出口に対応した穴(第1穴)とリリース弁装置に対応した穴(第2穴)との間の厚みが薄くなるか、もしくは第1穴と第2穴とがつながることになる。更に、圧縮機の容量が5馬力を超えるようなサイズになると作動流体のリリース量も多くなるため、リテーナの強度不足や、弁押圧体の変形の恐れがあり、信頼性が低下するという課題が生じる。
【0007】
そこで本発明は、リリース弁装置が設けられた場合に、押さえ部やリリース弁受の変形を抑制して信頼性の向上を図る圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
【0009】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、
「固定スクロールと、該固定スクロールと噛み合わさり前記固定スクロールに対して旋回することにより圧縮室を形成する旋回スクロールと、
該旋回スクロールをクランク軸を介して駆動する電動機と、を備えたスクロール圧縮機において、
前記圧縮室と前記固定スクロールの上部の吐出圧力空間とを連通することで前記圧縮室から作動流体を吐出圧力空間に流すリリース弁装置を備え、
該リリース弁装置は、前記圧縮室と連通するリリース穴の流路の開閉を行うリリース弁と、該リリース弁が開いたときに該リリース弁を受けるためのリリース弁受と、該リリース弁受が圧力を逃がす際に該リリース弁受を上側から押さえる押さえ部と、から構成され
前記押さえ部には、前記圧縮室で圧縮した作動流体を流す前記固定スクロールの吐出口に対応した第1穴と、前記リリース弁装置に対応した第2穴とが形成されるとともに、これらの第1穴及び第2穴とは互いに連通されておらず、
さらに前記第1穴を前記第2穴から離れた位置に配置することで、前記第1穴と前記吐出口とが一部、重ならないように形成されること」を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リリース弁装置により全圧縮比領域での圧縮機効率を高めながら、押さえ部やリリース弁受の変形を抑制し、スクロール圧縮機の信頼性を高めることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のスクロール圧縮機の構成を説明する図である。
図2】実施例1のスクロール圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールの基本構成の断面図を示している。
図3】固定スクロール5の上側から見た上視図を示している。
図4】リリース弁装置20の一例を横方向から見た断面図を示している。
図5図5(a)はリリース弁受21bを上側から見た図であり、図5(b)はリリース弁受21bを下側から見た図を示す。
図6(a)】実施例1のリリース弁装置20を説明するための図である。
図6(b)】実施例1のリリース弁装置20を説明するための図で図6(a)下図で見た方向と90度異なる方向から見た図を示す。
図7】実施例1のリリース弁受21bの形状を説明するための図である。
図8】実施例1の圧縮工程における圧縮室16a、16bとリリース穴20aとの関係を説明する図である。
図9】実施例1の押さえ部22の構造を説明するための図である。
図10】実施例3のリリース弁装置20を説明するための図である。
図11】実施例4のスクロール圧縮機の構成を説明するための図である。
図12】実施例5のリリース弁受21bの構成を説明するための図である。
図13(a)】実施例6のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。
図13(b)】実施例6のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。
図14】実施例7のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。
図15】実施例7の固定スクロール吐出口5dの形状を説明するための図である。
図16】実施例8のリリース弁装置20の構成と固定スクロール吐出口5dの形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例では、過圧縮領域および不足圧縮領域も含めた全運転圧縮比領域を通した全体の圧縮効率を高めるためにリリース弁装置が設けられた場合にも、リテーナや弁押圧体の変形を抑制して信頼性の向上を図る圧縮機について説明する。
【0014】
図1は、本実施例のスクロール圧縮機の構成を説明する図である。
スクロール圧縮機1は、圧縮機構部2と圧縮機構部2を駆動する電動機3と、圧縮機構部2と電動機3などを収納する密閉容器4を備えて構成される。本実施例の圧縮機は、密閉容器4の内部において上部に圧縮機構部2を、中部に電動機3を、下部に油溜まり15が配置される縦型スクロール圧縮機である。
【0015】
密閉容器4は、円筒状チャンバ4aに蓋キャップ4bと底キャップ4cが上下に溶接されて構成されている。蓋キャップ4bには吸込パイプ4dが配設され、円筒状チャンバ4aの側面には吐出パイプ4eが取り付けられている。密閉容器4の内部には吐出圧力となる吐出圧空間4fが収納されている。また、吐出圧空間4fには圧縮機構部2と電動機3が収納されている。
【0016】
圧縮機構部2は、固定スクロール5と旋回スクロール6とフレーム7などを基本要素として構成されている。固定スクロール5とフレーム7はボルトで締結されており、旋回スクロール6はフレーム7に支持されている。
【0017】
固定スクロール5は円盤状の天板部(固定側板部5b)と固定側板部5bの下部の内周部に立設された渦巻状の固定側ラップ5aと、固定側板部5bの外周部にラップ5aを囲むように設けられた筒状の固定側板部5bの上面5gと、固定側板部5b上部に備えられた吸入口5cと吐出口5dなどを有して構成され、フレーム7にボルトで固定されている。
【0018】
旋回スクロール6は、固定スクロール5の固定側ラップ5aが立設される側に円盤状の旋回側板部6bと、旋回側板部6bの内周側に立設された渦巻状の旋回側ラップ6aなどを有して構成される。旋回スクロール6は、固定スクロール5と互いのラップが噛み合い、圧縮室16が形成されるように旋回自在に配置されている。旋回スクロール6の背面側(図1の下側、図2の手前側)にはクランク軸9の偏芯ピン部9bが連結されている。旋回スクロール6が固定スクロール5に対して旋回運動することにより、その容積が減少する圧縮動作が行われる。
【0019】
図2は本実施例のスクロール圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールの基本構成の断面図を示している。旋回スクロール6が固定スクロール5に対して旋回運動することにより、その容積が減少する圧縮動作が行われる。
【0020】
それぞれのスクロールラップ(固定側ラップ5a、旋回側ラップ6a)は円のインボリュート曲線などを基本曲線として形成されており、両スクロールを互いに噛み合わせて旋回スクロール6の巻き終わり側のラップの外側で形成される外線側圧縮室と、その内側で形成される内線側圧縮室との大きさが異なり、軸の回転に対して位相が約180°ずれて形成される非対称スクロール形状である。フレーム7は、外周側が溶接などによって密閉容器4の内壁面に固定されており、クランク軸9を回転自在に支持する主軸受8を備えている。
【0021】
旋回スクロール6の背面側とフレーム7の間には、オルダムリング10が配設されている。オルダムリング10は旋回スクロール6の背面側に形成された溝とフレーム7に形成された溝に装着され、旋回スクロール6が自転することなくクランク軸9の偏芯ピン部9bの偏芯回転を受けて公転運動するよう配設される。
【0022】
電動機3は、ステータ3bとロータ3aから構成される。ステータ3bは密閉容器4に圧入および焼嵌などにより固定されている。ロータ3aはステータ3b内側に回転可能に配置されている。ロータ3aはクランク軸9に固定されており、ロータ3aが回転することにより、クランク軸9を介して旋回スクロール6を旋回運動させる。
【0023】
クランク軸9は、主軸9aと偏芯ピン部9bとから構成され、フレーム7に設けられた主軸受8と副軸受11とで支持されている。偏芯ピン部9bはクランク軸9aに対して偏芯して一体に形成されており、旋回スクロール6の背面に形成された旋回軸受6dに挿入されている。クランク軸9は電動機3により駆動され、偏芯ピン部9bは主軸9aに対して偏芯回転運動することで、旋回スクロール6を駆動させる。また、クランク軸9には、主軸受8および副軸受11、旋回軸受6dへ潤滑油を導く給油通路9cが内部に設けられ、油溜り15側下端には潤滑油を汲み上げて給油通路9cに導くポンプ部14が装着されている。
【0024】
副軸受11はハウジング12及び下フレーム13を介して密閉容器4に固定されている。副軸受11は、すべり軸受や転がり軸受、球面軸受部材などを使用してクランク軸主軸部9aの油溜まり側の一端を回転自在に保持する。
【0025】
旋回スクロール6が電動機3により駆動されるクランク軸9を介して旋回運動されると、旋回スクロール6、固定スクロール5の両ラップが噛み合い、大きさの異なる2つの圧縮室(内線側圧縮室、外線側圧縮室)が180°の位相差を持って交互に形成される。すると、冷媒ガスなどの作動流体は、吸入パイプ4dから旋回スクロール6および固定スクロール5により形成される圧縮室16に導かれ、冷媒ガスはスクロールの中心方向に移動するに従い容積が縮小され圧縮が行われる。圧縮された冷媒ガスは固定スクロール5の固定側板部5bの上部中央に設けられた吐出口5dから密閉容器4内の吐出圧空間4fへ吐出され、圧縮機構部2および電動機3の周囲を循環した後、吐出パイプ4eから外部へと流出する。従って、密閉容器4内の空間が吐出圧空間4fの圧力(吐出圧力と呼ぶ)に保たれる高圧チャンバタイプの圧縮機である。
【0026】
続いて潤滑油の給油経路について説明する。旋回スクロール6の背面側とフレーム7との間には吸入パイプ4d内での圧力と吐出圧空間4fの吐出圧力の中間となる圧力状態である背圧室17が形成されている。この背圧室17は、油溜り15から潤滑油が給油通路9cを通り、旋回軸受6dを潤滑した後、圧縮機構部2の摺動部に供給する経路中に設けられている。旋回スクロール6の旋回側板部6bには圧縮室16と旋回スクロール6の背面側に形成される背圧室17を間欠的に連通させる背圧孔6cが設けられており、背圧室17の圧力を吸入圧と吐出圧の中間的な圧力(この中間の圧力を背圧と呼ぶ)に保っている。この背圧とシール部材18の内周側の中央側空間に作用する吐出圧力の合力で、旋回スクロール6は背面から固定スクロール5に押し付けている。
【0027】
次に、固定スクロール5に配設されるリリース弁装置20について図3〜9を用いて説明する。
【0028】
図3は固定スクロール5の上側から見た上視図を示している。リリース弁装置20は、図1の圧縮室16内の圧力が吐出圧力以上となる過圧縮時に、圧縮室16から吐出圧空間4fに圧力を逃がすための装置である。リリース弁装置20は、固定スクロール5と旋回スクロール6で形成される複数の圧縮室16に対応して、図3に示すように固定スクロール5の複数箇所に配設される。
【0029】
固定スクロール5の吸入口5cからガス冷媒または、運転条件によっては液冷媒やミスト状の潤滑油等が作動流体として圧縮室16に吸入される。旋回スクロール6の旋回運動によって作動流体が圧縮される過程において、圧縮室16内の圧力が吐出圧力以上となる過圧縮になることがある。リリース弁装置20は通常運転時は閉路しているが、このような過圧縮時には、リリース弁装置20が開路する。これにより圧縮室16と吐出圧力空間4fとが連通することで圧縮室16から吐出圧力空間4fに圧力を逃がすことができる。
【0030】
図4はリリース弁装置20の一例を横方向から見た断面図を示している。リリース弁装置20は、圧縮室16と連通するリリース穴20aの流路の開閉を行うリリース弁20bと、閉弁時にリリース弁20bをリリース穴20aの流路を閉じる方向に押付ける弾性体21aと、弾性体21aを保持するとともに開弁時にリリース弁20bを受けるためのリリース弁受21bと、リリース弁受21bが圧力を逃がす際に圧縮室16と反対側に移動しないように保持するリリース弁受21bを上側から押さえる押さえ部22とから構成される。押さえ部22は、リリース弁受21bの移動範囲を制限する。本実施例では固定スクロール5に形成された圧縮室16と吐出圧力空間4fとを連通しリリース弁装置20を配置するための空間をリリース弁装置空間20eと呼ぶことにする。押さえ部22はリリース弁受21bが吐出圧力空間4fに移動しないように保持するものである。
【0031】
図5(a)はリリース弁受21bを上側から見た図であり、図5(b)はリリース弁受21bを下側から見た図を示す。リリース弁受21bは焼結金属や炭素鋼材などで成形され中央の逃がし穴21cと周囲の逃がし穴21dが形成される。
【0032】
また、リリース弁受21bは円筒形状に形成され、図4に示すように下部に圧縮室16側に凸となる凸部が設けられ、この凸部に弾性材21aの一端を圧入などで一体に組み合わせて構成される。この凸部は圧縮機側に向かうにつれて径が小さくなるように構成される。弾性材21aに円盤状や異径円状のリリース弁20bが取り付けられて弾性材21aの圧縮室16側への付勢力により、閉弁時はリリース弁20bがリリース穴20aを塞ぐように作用する。また閉弁時にリリース弁20bは固定スクロール5の円環状の弁シート部20cに当接する。ここではリリース弁受21bとリリース弁20bとの間に形成される空間をリリース弁室20dと呼ぶ。
【0033】
なお、リリース穴20aは小径となるように形成され、リリース弁室20dはリリース穴20aに対してより大径の穴で形成される。リリース穴20aの容積は圧縮室16の容積の一部となり、圧縮行程で残ったガスの再膨張損失を伴うデッドボリュームとなるため、リリース穴20aの容積を極力抑えると良い。また、作動流体を逃がす機能を損なうことのないよう、十分にリリース流路を確保するため、リリース弁室20dを形成する穴の径はリリース穴より大径とする。
【0034】
図4(b)は弾性材21aが縮むように作用することでリリース弁20bが開いて圧縮室16から吐出圧力空間4fに作動流体が流れ圧力を逃がす状態を示している。このとき圧縮室16の作動流体はリリース穴20aからリリース弁室20dに流れ、さらにリリース弁受21bに形成された中央の逃がし穴21c及び周囲の逃がし穴21dに流れて吐出圧力空間4fに流れる。このようにリリース穴20aからリリース弁室20d、さらに中央の逃がし穴21c及び周囲の逃がし穴21dへとリリース弁装置20による作動流体のリリース流路が形成される。
【0035】
このときリリース弁20bは弁シート部20cから離れリリース弁受21bの凸部に形成されるリリース弁受部21eに接触するように移動する。以上のようにリリース弁装置20は圧縮室16と吐出圧空間4fとを連通するように固定スクロール5の固定側台板部5bの上面5gと下部内周面5hとの間のリリース弁装置空間20eに構成される。また図4に示すようにリリース弁装置空間20eは固定スクロール5において、リリース弁受21bが必要以上にリリース穴20a側に近づく事を規制するために、上部の大径部と下部の小径部とで構成され、このように2段形状で構成されている。そしてリリース弁受21bは円柱体で成形され、その外径がリリース弁装置空間20eの内径より若干小さく構成され、リリース弁装置空間20e内の上部の大径部において上下方向に移動することが可能な隙間を有する。
【0036】
図4、5に示す構造では、圧縮室16が過圧縮状態となり、作動流体がリリース弁20bを押上げる際にリリース弁20bとリリース弁受21bのリリース弁受部21eが接触する。すると図5(b)に示すように、リリース弁受21bはリリース弁受部21eのみでリリース弁20bからの荷重を受ける事になる。そのため、リリース弁受21bのリリース弁受部21eが磨耗することで信頼性の低下を招く虞がある。これに対し、リリース弁受部21eの表面に窒化処理を施し、硬度を増加させ、信頼性を向上させる手段もある。
【0037】
しかし、この手段は窒化処理によるコスト増加、またリリース弁受部21eの硬度向上量によっては、相手側の弁が摩耗し易くなるという問題がある。また表面処理のバラツキによる信頼性低下の虞もあり、さらには表面処理で磨耗が完全に防げる訳ではないため磨耗が進行して処理層以上に磨耗すれば、やはり信頼性低下を招く虞がある。そこで、本実施例ではリリース弁受部21eの面圧を下げることで信頼性を向上させる構造について以下に説明する。
【0038】
図6、7は信頼性向上のためのリリース弁装置20の構造について説明するための図である。
【0039】
図6(a)(b)は本実施例のリリース弁装置20を説明するための図である。図6(a)の上図はリリース弁装置20を吐出圧力空間4f側(上側)から見た図であり、下図は上図のA−Aの断面図を示す。また図6(b)上図は図6(a)上図と同様にリリース弁装置20を吐出圧力空間4f側(上側)から見た図であり、下図は上図のB−Bの断面図を示す。図4図6ではリリース弁装置空間20eの内径は変更していない。この場合においてリリース弁受21bの下部には図6(a)下図、図6(b)下図に示すように、図4と同様に凸部が形成され、ここに弾性材21aが取り付けられる。図6(a)、(b)、図7において図4と同様の符号については基本的には同様のものであり説明省略するが、図4とはリリース弁受21bの形状が主に異なる。
【0040】
図7は本実施例においてリリース弁受21bの形状を説明するための図である。図7(a)はリリース弁受21bを吐出圧力空間4f側(上側)から見た図であり、図7(b)はリリース弁受21bを圧力室16側(下側)から見た図を示している。図6、7に示すように、本実施例のリリース弁受21bは図4のリリース弁受21bから、外周側において対称位置関係にある2ヶ所の端面を取除いた形状となっている。
【0041】
ここでリリース弁受21bは、固定スクロール5に形成され圧縮室16と吐出圧力空間4fとを連通するリリース弁装置空間20eに保持される。そして、リリース弁受21bの外周側壁面は対称関係にある複数の位置において、リリース弁装置空間20eの内壁との隙間が大きくなる形状となっている。この隙間により図6(a)(b)に示す周囲の逃がし穴21dが形成され、開弁時には作動流体がこの逃がし穴21dを通って吐出圧力空間4fに流れる。
【0042】
本実施例では図7に示すように、リリース弁受21bの外周側において対称位置関係の2箇所に内周側に凹んだ凹み部21fを形成することで上記したようにリリース弁装置空間20eの内壁との隙間(周囲の逃がし穴21d)が形成されるようにしたものである。
【0043】
図6(b)下図ではリリース弁装置空間20eの内壁とリリース弁受21bの凹み部21fとにより形成される隙間(周囲の逃がし穴21d)を示している。図6(b)下図の右側の開弁時においてはリリース穴20aからの作動流体はリリース弁室20dに流れた後、図における左右に形成される隙間(周囲の逃がし穴21d)を流れて吐出圧力空間4fに流れる。またリリース弁受21bには図4、5と同様に中央の逃がし穴21cが形成されており、リリース弁室20dの作動流体はこの中央の逃がし穴21cにも流れて吐出圧力空間4fに圧力を逃がすように作用する。なお、リリース弁受21bの凹み部21fは図6図7では2箇所、設けられているが、対称関係にあれば2箇所に限らず、さらに複数の凹み部が形成されていてもよい。
【0044】
図7(b)に示すように本実施例のリリース弁受21bの下部の凸部には図4、5と同様にリリース弁受部21eが形成され、開弁時のリリース弁20bを受ける構成となっている。ここで本実施例ではさらにリリース弁受部21eの外周側に第2のリリース弁受部21hが形成され、このように第1のリリース弁受部21e及び第2のリリース弁受部21hとの2箇所で開弁時のリリース弁20bを受ける構成となっている。
【0045】
これにより本実施例のリリース弁装置20によれば、中央の逃がし穴21c及び周囲の逃がし穴21dにより作動流体の流路を確保しつつ、リリース弁20bとの接触面を拡大することができるため信頼性を向上することができる。
【0046】
ここでリリース弁20bの動作について具体的に説明する。リリース穴20a、リリース弁室20d、凹み部21fによる隙間(周囲の逃がし穴21d)で構成されるリリース流路は上下方向に形成される。このとき、リリース弁20bはリリース弁受21bの荷重と弾性材21aの弾性押圧力を受けるように構成される。そのため、設定圧力(吐出圧力+リリース弁の重量による圧力+弾性材の弾性押圧力)以上に圧縮室16内部の作動流体が圧縮され過圧縮状態になると、リリース弁が開路する。そのため、作動圧力(リリース弁の重量による圧力+弾性材の弾性押圧力)は数kPa程度となり、圧縮室16内での旋回スクロール6の旋回運動に伴う圧力上昇(R410A混合冷媒の場合で1〜3MPa程度)に対して作動圧力は僅かとなる。
【0047】
本実施例の弾性材21aはコイルばねであり、リリース弁受21bの下部の凸部に取り付けられ、リリース弁受21bと一体に移動する。また、弾性材21aを構成するコイルばねの端を密着巻き部とすることで、リリース弁受21bに組付けた後に外れ難くなり、コイルばねの外れを防止できる。
【0048】
リリース弁装置20は、リリース弁20bがリリース流路を閉じた状態およびリリース弁20bがリリース流路を開いた状態の何れの状態においても、弾性材21aによる弾性押圧力によりリリース弁受21bが押さえ部22に押えつけられるように構成される。なお、リリース弁受21bが押さえ部22に押えつけられる状態とは、リリース弁受21bが押さえ部22と接触している状態である。これは、弾性材21aに押さえ部22からの反力が加わっている状態である。
【0049】
図3に示すように、押さえ部22は作動流体の逃がし穴22a、22bを有し、固定スクロール5の固定側板部5bの上面5gとボルト23などによって取付けられる。複数箇所に設けられたリリース弁装置20に対する押さえ部22は一つの部材で成形し、鋼板のプレス成形あるいはレーザー加工により加工される。
【0050】
ここで特許文献2に示される構造では、図2に示すように、固定スクロール5の吐出口5dに最も近い2つの圧縮室16a、16bにそれぞれリリース穴20aが設けられている。圧縮室16a、16bは渦巻き中心に対して対となっている。各リリース穴20aは、互いに渦巻き中心に対して非対称に配置される。
【0051】
図8は圧縮工程における高圧側の圧縮室16a、16bとリリース穴20aとの関係を説明する図である。図8(a)〜(d)に示すように、高圧側の圧縮室16a、16bの少なくともどちらか一方が固定スクロール吐出口5dに連通する状態において、外線側圧縮室16a、内線側圧縮室16bに備えられたリリース穴20aの何れかが吐出口5dに連通する位置に配設される。なお、図8のリリース穴の20aの状態は、圧縮途中であり、圧縮室16a、16bと吐出口5dとが連通していない為に、何れのリリース穴も吐出口5dと連通していない状態を示すものである。これにより、過圧縮状態による余分な圧縮入力を抑制するだけでなく、リリース弁20bによる開路時に固定スクロール5の吐出口5dに加えて作動流体を吐出する流路となることから、吐出圧損を低減する役割を果すことが出来る。
【0052】
図9は本実施例の押さえ部22の構造を説明するための図である。本実施例の押さえ部22は中央部に吐出口逃がし穴22aとその周りに4つのリリース弁逃がし穴22bが形成されたものである。なお、リリース弁逃がし穴22bは4つに限定されるものではない。図9(a)の押さえ部22に設けられた吐出口逃がし穴(第1穴)22aは、圧縮室16で圧縮した作動流体を吐出圧力空間4fに通すため、固定スクロール5の吐出口5dに対して設けられた逃がし穴である。
【0053】
図8に示したように本実施例の固定スクロール5には4つのリリース穴20aが形成されており、またこのリリース穴20aから吐出圧力空間4fに作動流体を流すリリース弁装置20がそれぞれ配置される。図9の4つのリリース弁逃がし穴22bはこのリリース弁装置20にそれぞれ対応する配置となっている。
【0054】
ここで図8において4つのリリース穴20aのうち高圧側の内線側圧縮室16bに配置されるリリース穴20aは外線側の圧縮室16aに配置されるリリース穴20aに対して、固定スクロール5の吐出口5dに近づく位置関係となる。
すると押さえ部22において、この吐出口5dに対応して形成される吐出口逃がし穴22aと、吐出口5dに最も近いリリース穴20aに対応して形勢されるリリース弁逃がし穴22b(図9では左から2番目に形成されるリリース弁逃がし穴22b)との位置関係も近づくことになる。
【0055】
このとき図9(a)に示すように、吐出口逃がし穴22aと、これに最も近いリリース弁逃がし穴22bとの間の距離が小さくなることにより、押さえ部22における吐出口逃がし穴22aとこれに最も近いリリース弁逃がし穴22bとの間の厚みが小さくなる。この厚みが小さいと強度が十分でないことが考えられ、たとえばリリース弁20bの開弁時の衝撃などにより、この厚みが破損する虞があり信頼性の低下に繋がる可能性がある。
【0056】
また図9(b)に示すように、吐出口逃がし穴22aと、これに最も近いリリース弁逃がし穴22bとを連通することが考えられる。しかし、この場合には図9(b)下図に示すようにリリース弁受21bが押さえ部22に対して片方(図では左側)のみに接触することになるため、リリース弁受21bの変形を招く虞があり、やはり信頼性の低下に繋がる可能性がある。
【0057】
また厚みを確保するためにリリース穴22aの径を小さくすることも考えられるが、この場合には作動流体、特に液冷媒を含む場合にリリース弁装置20による作動流体のリリース作用が悪くなり、本来の目的を達成することができなくなる。
【0058】
そこで、本実施例では、図9(c)に示す構造を採用するものである。図9(c)に示すように固定側板部5bの上面5gに取付けられる押さえ部22には、圧縮室16で圧縮した作動流体を流す固定スクロール5の吐出口5dに対応した吐出口逃がし穴22a(第1穴)と、圧縮室16で過圧縮された作動流体を流すためのリリース弁装置20に対応したリリース弁逃がし穴22b(第2穴)とが形成される。またこの吐出口逃がし穴22a(第1穴)とリリース弁逃がし穴22b(第2穴)とは互いに連通されていない。そして、吐出口逃がし穴22a(第1穴)をリリース弁逃がし穴22b(第2穴)から離れた位置に配置することで、固定スクロール5の吐出口5dと一部、重ならないように形成される。
【0059】
本来は吐出口逃がし穴22a(第1穴)に対して全ての吐出口5dの形状が重なるようにそれぞれ配置することが望ましいが、このように配置すると、吐出口逃がし穴22a(第1穴)とリリース弁逃がし穴22b(第2穴)との間の距離が近づくことにより、上記したような信頼性低下の虞がある。そこで、本実施例では、上記した一部が重ならない構成とすることで、押さえ部22において吐出口逃がし穴22a(第1穴)とリリース弁逃がし穴22b(第2穴)との間の厚みを確保することが可能となるため、押さえ部22の強度確保およびリリース弁受21bの変形を抑制し、信頼性を向上できる。
【0060】
また、上記したようにリリース穴22aの大きさは確保できるため、作動流体の抜けを良くすることができ、リリース弁装置20を正常に作用させることができるため、過圧縮領域および不足圧縮領域も含めた全運転圧縮比領域を通した全体の圧縮効率を高めることが可能となる。
【0061】
また、リリース弁装置20が配置されるリリース弁装置空間20eと固定スクロール5の吐出口5dとの関係も同様に間の距離が近づくことになり、固定スクロール5においてリリース弁装置空間20eと吐出口5dとの間に厚みを設けた場合、この厚みが小さくなり、強度の問題から信頼性低下を招く虞がある。そこで本実施例では図9(c)に示すようにリリース弁装置空間20eと吐出口5dとを連結させて間に厚みを持たせない構成とすることで強度の問題をなくし、信頼性向上を図ったものである。
【実施例2】
【0062】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例2について説明する。本実施例では押さえ部22の材質に関する点、以外は実施例1と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0063】
リリース弁装置20に使用するリリース弁受21bの材質には従来、炭素鋼を、押さえ部22には鋼板を使用しているが、押さえ部22の変形を抑制するため、より硬度の高いステンレス鋼を使用することを特徴とする。これにより、形状を変化せずにリリース弁装置20の信頼性を向上でき、実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0064】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例3について図10を用いて説明する。リリース弁装置20の寸法規定以外については実施例1〜2と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0065】
図10(a)はリリース弁受21bが固定側板部5bの上面5gよりも下側に位置する構造を示したものである。図10(b)はリリース弁受21bが固定側板部5bの上面5gよりも上側に位置する構造を示したものである。図10に示すようにリリース弁装置空間20eは固定スクロール5において、リリース弁受21bが必要以上にリリース穴20a側に近づく事を規制するために、上部の大径部と下部の小径部とで構成され、このように2段形状で構成されている。そしてリリース弁受21bは円柱体で成形され、その外径がリリース弁装置空間20eの内径より若干小さく構成され、リリース弁装置空間20e内の上部の大径部において上下方向に移動することが可能な隙間を有する。
【0066】
図10(a)では、リリース弁装置空間20e内の上部の大径部の上下方向の厚みDkをリリース弁受21bの外周側の上下方向の厚みDsに対して僅かに深くしている。このときリリース弁受21bの上下移動可能な距離h(=Dk−Ds)を大きくすると、弾性材21aの伸縮によるリリース弁受21bの上下移動によって押さえ部22への衝撃が大きくなり、リリース弁受21bおよび押さえ部22の信頼性が損なわれる恐れがある事が分かった。
【0067】
そこで、本実施例は、リリース弁受21bの上下移動を極力抑えるために、リリース弁受21bの上下移動可能な距離h(=Dk−Ds)を0.45mm以下にとすることで、リリース弁受21bの上下移動による押さえ部22への衝撃を抑制し、信頼性を向上することが可能となる。
【0068】
また図10(b)では、リリース弁装置空間20e内の上部の大径部の上下方向の厚みDkをリリース弁受21bの外周側の上下方向の厚みDsに対して浅くしている。リリース弁受21bの上面が固定側板部5bの上面5gよりも上側に凸となるため、この場合には突き出した凸の分だけ押さえ部22により押えつけられることになる。この場合には図10(a)で説明したようなリリース弁受21bの上下移動による押さえ部22への衝撃は抑制できる。
【0069】
しかし凸の出張り量が大きすぎると押さえ部22に過剰な荷重を常にかけることになり、押さえ部22の変形を招く恐れがある。そのため本実施例では、リリース弁受21bの出張り量、つまりh(=Ds−Dk)部)を0.05mm以下とするものである。これにより押さえ部22への過剰な荷重を抑制することができ、信頼性を向上することが可能となる。なお、リリース弁受21bの上下移動量の変更は、固定スクロール5に加工するリリース弁装置空間20e内の深さ寸法の変更のみで変更できるため、作業量の低下を図りつつ行うことが可能である。
【実施例4】
【0070】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例4について図11を用いて説明する。リリース弁装置20の寸法規制以外については実施例1〜3と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0071】
図11は実施例4のスクロール圧縮機の構成を説明するための図である。
押さえ部22とリリース弁受21bに関する信頼性ついては、押さえ部22とリリース弁受21bの接触面積の影響が大きい。つまり、両者の端面にかかる面圧を抑えるために、一定以上の接触面積を確保しなければならない。そのため、部品の加工寸法に起因する組付け時の押さえ部22とリリース弁受21bのズレ量を管理する必要がる。押さえ部22は、固定スクロール5の固定側板部5bの上面5gにボルト23で固定される。
【0072】
そのため、組付けの際には、固定スクロール5の固定側板部5bの上面5gに設けられたボルト穴の芯ズレ、押え部ボルト通し穴22cとボルト23との隙間、押え部ボルト通し穴22cの芯ズレ、リリース弁装置空間20eの芯ズレ、及びリリース弁装置空間20eとリリース弁受21bの外周隙間により、押さえ部22のリリース弁逃がし穴22bの中心位置とリリース弁装置空間20e内に備え付けられたリリース弁受21bの中心位置にズレが生じる。
【0073】
本実施例では、押さえ部22の固定スクロール5への取付け時に、固定スクロール5の固定側板部5bの上面5gに設けられたボルト穴の芯ズレ + 押え部ボルト通し穴22cとボルト23との隙間 + 押え部ボルト通し穴22cの芯ズレ + リリース弁装置空間の芯ズレ + リリース弁装置空間20eとリリース弁装置空間20e内のリリース弁受21bとの外周隙間の合計により最大にズレた場合にも、押さえ部22とリリース弁受21bの上端面との接触幅が、0.3mm以上確保される。
【実施例5】
【0074】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例5について図12を用いて説明する。本実施例は、リリース弁装置20のリリース弁受21bの形状が異なること以外は、実施例1〜4と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0075】
図12は実施例5のリリース弁受21bの構成を説明するための図である。
本実施例では、圧縮室16が過圧縮状態となり、作動流体がリリース弁20bを押上げ、リリース弁20bとリリース弁受21bが接触する弁受面を拡大する構造を示す。
【0076】
図12に示すように、円柱状のリリース弁受21bには、作動流体を逃がす中央の逃し穴21cとその周囲には複数の逃がし穴21dとが形成される。またリリース弁受21bの下部の凸部には図示していないが弾性材21aが取り付けられ、凸部の下面がリリース弁受部21eであり、リリース弁20bが開いた際にこのリリース弁20bを受ける面となる。そして本実施例においては、リリース弁20bが開いた際の流路を確保しつつ、さらに受ける面を大きくすることでリリース弁受21bの信頼性向上を図るものである。
【0077】
そのため本実施例では、リリース弁受21bの内周側に設けられた第1のリリース弁受部21eとこれの外周側に配置された第2のリリース弁受部21hとを有する。リリース弁受21bの外周側には複数の逃がし穴21dが形成されており、この第2のリリース弁受部21hは複数の逃がし穴21dの略同一円上に配置されるとともに複数の逃がし穴21dが形成されていない場所に形成される。
【0078】
これにより、作動流体の流路を十分に確保し、かつリリース弁受21bにおいてリリース弁20bを受ける面を拡大でき、信頼性を向上できる。また、リリース弁受21bをリリース弁装置空間20eと同じく円柱状とすることで、リリース弁装置空間20eの内壁の全周でリリース弁受21bを拘束できるため、リリース弁受21bがリリース弁装置空間20e内で回転するなどの挙動を抑えることができる。
【実施例6】
【0079】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例6について図13を用いて説明する。本実施例は、リリース弁装置20のリリース弁受21bの形状が異なること以外は、実施例1〜4と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0080】
図13(a)(b)は実施例6のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。
本実施例では、押さえ部22とリリース弁受21bの信頼性を向上させるために、押さえ部22とリリース弁受21bとの接触面積を拡大する構成を示す。押さえ部22とリリース弁受21bの上端面との接触面積の拡大は、押さえ部22に設けるリリース弁装置20より過圧縮された作動流体を逃がすためのリリース弁逃がし穴22bを縮小することで達成できる。しかし、押さえ部22に設けられたリリース弁逃がし穴22bの径は小さすぎると、本来のリリース弁装置20の機能が損なわれることになる。
【0081】
図13(a)はリリース弁逃がし穴22bの径を小さくした場合のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。このリリース弁受21bの形状は図6、7で示したものと同様である。このとき実施例1と同様にリリース穴20aからの作動流体はリリース弁室20dに流れる。その後、リリース弁装置空間20eの内壁面20fとリリース弁受21bの凹み部21fとの間に形成される隙間(周囲の逃がし穴21d)を流れて吐出圧力空間4fに流れる。またリリース弁受21bには図4、5と同様に中央の逃がし穴21cが形成されており、リリース弁室20dの作動流体はこの中央の逃がし穴21cにも流れて吐出圧力空間4fに圧力を逃がすように作用する。
【0082】
しかし、図13(a)に示すように、リリース弁逃がし穴22bの径を小さくすると、中央の逃がし穴21cから作動流体を吐出圧力空間4fに流すことは可能であっても左右に形成された隙間(周囲の逃がし穴21d)から流すことはできない。すなわち、押さえ部22のリリース弁逃がし穴22bによる流路が極端に縮小し、もしくは閉ざされる恐れがあるものである。
【0083】
図13(b)はこの問題を解消するための本実施例のリリース弁装置20の構成を示す図である。リリース弁受21bの上部に圧縮室16側に凹む凹み流路21gが形成され、凹み流路21gは隙間(周囲の逃がし穴21d)と連通するように形成されている。これにより上記隙間(周囲の逃がし穴21d)の作動流体がリリース弁受21b上部の凹み流路21gを流れ、この凹み流路21gからリリース弁逃がし穴22bを経て吐出圧空間4fへ流出するものである。
【0084】
これにより、押さえ部22の作動流体のリリース弁逃がし穴22bの径を縮小してリリース弁受21bと押さえ部22との接触面を拡大することで信頼性向上を図りつつ、作動流体の流路を確保することができるため、実施例1で説明したリリース弁装置20による効果を得ることが可能となる。
【実施例7】
【0085】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例7について図14、15を用いて説明する。本実施例は、固定スクロール5の吐出口5d周辺の形状が異なること以外は、実施例1〜6と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0086】
図14、15は実施例7のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。
本実施例において、固定スクロール5は、固定スクロール台板部5bに設けられた吐出口5dと吐出口5dに最も接近したリリース弁装置空間20eを形成する穴との間隔を2〜3mm以上確保し、配設されるものである。
【0087】
固定スクロール5において吐出口5dを形成する内周側壁面5iに対して、最も吐出口5dに隣接した位置に設けられたリリース弁装置20のリリース弁装置空間20eの内壁面20fと内周側壁面5iとの間の厚みが1mm以下の薄肉構造となり、強度不足となる恐れがある。
【0088】
また図14(a)に示す構造のように吐出口5dとリリース弁装置空間20eとが重なる構造とすると、壁面の一部が取除かれた(ザグリ)形状として吐出口5dとリリース弁装置空間20eとを連通するものである。しかし、この構造では、リリース弁受21bの外周壁面の一部がリリース弁装置空間の内壁面20fのザグリ部に位置した場合、ザグリ部ではリリース弁受21bの外周壁面を拘束できない為に、ザグリ部側にリリース弁受が傾きやすくなる。その結果、リリース弁受21bと押さえ部22、リリース弁受21bとリリース弁20bの片当りが生じる恐れがある。
【0089】
また本実施例では、リリース弁装置空間20eの設ける位置を変えることなく、吐出口5dとリリース弁装置空間20eとの間隔を確保するものである。ここで図14(a)では吐出口5dは楕円形状となっている。これに対して図14(b)においては吐出口5dの外周部のうち、楕円形状から最も近いリリース弁装置空間20eと向き合う箇所をリリース弁装置空間20eと離れる方向に凹むような凹み形状を有するようにしたものである。
【0090】
図15(a)は図14(a)の形状における圧縮室16と吐出口5dとの開口断面積5jの圧縮完了時からの変化を示している。また図15(b)は図14(b)の形状における圧縮室16と吐出口5dとの開口断面積5jの圧縮完了時からの変化を示している。図15(a)での吐出口5dに比べ、図15(b)での吐出口5dの断面積は僅かに減少しているが、図15(b)に示すように圧縮室16と吐出口5dとの開口断面5j(図15中の網掛け部)は15(a)と同等以上に確保することが可能であり、吐出圧損を抑制することができる。
【0091】
この構成により、性能を低下させることなく、吐出口5d付近の高圧側の圧縮室16に設けられたリリース弁装置20の信頼性を向上することが出来る。
【実施例8】
【0092】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例8について図16を用いて説明する。本実施例は、固定スクロール吐出口5dの吐出空間側吐出口5kの中心位置と圧縮室側吐出口5lの中心位置とが偏芯していること以外は、実施例1〜6と同じであり、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0093】
図16は実施例8のリリース弁装置20の構成を説明するための図である。
本実施例は、固定スクロール5の固定側板部5bに設けられた吐出口5dの圧縮室側からの作動流体の逃がし口である圧縮室側吐出口5lの中心位置と、吐出圧空間4fへの作動流体の逃がし口である吐出空間側吐出口5kの中心位置とを、δずらして設けたものである。これにより圧縮室側吐出口5lの形状および位置を変更することなく、吐出口5dに最も隣接したリリース弁装置20のリリース弁装置空間20eの内壁面20fと内周側壁面5iとの間隔を確保できるものである。
【0094】
即ち、圧縮室側吐出口5lは形状および中心位置は変更することなく、その形状はリリース弁装置空間20eの上段部を形成する内壁面20fと干渉せずに一定の間隔が確保される深さまで加工される。また吐出空間側吐出口5kは中心位置を吐出口5dに最も隣接したリリース弁装置20のリリース弁装置空間20eから遠ざかる方向にずらして設けられる。そしてこれらの圧縮室側吐出口5lと吐出空間側吐出口5kとが連通することで吐出口5dが形成されるものである。また、圧力損失低減のために、吐出空間側吐出口5kは圧縮室側吐出口5lと形状が異なっても良い。
【0095】
なお圧縮室側吐出口5lと吐出空間側吐出口5kとが繋がる位置において、断面積の確保と流路の円滑化の為に図16のA部を面取りもしくは、Rを持たせた形状に加工にすると圧損の低減となり、なお良い。
【0096】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 スクロール圧縮機
2 圧縮機構部
3 電動機(3a:ロータ、3b:ステータ)
4 密閉容器(4a:円筒状チャンバ、4b:蓋キャップ、4c:底キャップ、4d:吸入パイプ、4e:吐出パイプ、4f:吐出圧空間)
5 固定スクロール(5a:固定側ラップ、5b:固定側板部、5c:吸入口、5d:吐出口、5e:天板面ボルト穴、5g:固定側板部の上面、5h:固定側板部の下部内周面、5i:内周側壁面、5j:吐出口開口断面、5k:吐出空間側吐出口、5l:圧縮室側吐出口)
6 旋回スクロール(6a:旋回側ラップ、6b:旋回側台板部、6c:背圧孔、6d:旋回軸受)
7 フレーム
8 主軸受
9 クランク軸(9a:主軸、9b:偏心ピン部、9c:給油通路)
10 オルダムリング
11 副軸受
12 ハウジング
13 下フレーム
14 ポンプ部
15 油溜り
16 圧縮室
16a 外線側圧縮室
16b 内線側圧縮室
17 背圧室
20 リリース弁装置
20a リリース穴
20b リリース弁
20c 弁シート部
20d リリース弁室
20e リリース弁装置空間
20f リリース弁装置空間の内壁面
21a 弾性材
21b リリース弁受
21c 中央の逃がし穴
21d 周囲の逃がし穴
21e リリース弁受部
21f リリース弁受凹み部
21g スリット(凹み流路)
21h リリース弁受部
22 押さえ部
22a 吐出口逃がし穴
22b リリース弁逃がし穴
22c ボルト通し穴
23 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13(a)】
図13(b)】
図14
図15
図16