【実施例1】
【0013】
本実施例では、過圧縮領域および不足圧縮領域も含めた全運転圧縮比領域を通した全体の圧縮効率を高めるためにリリース弁装置が設けられた場合にも、リテーナや弁押圧体の変形を抑制して信頼性の向上を図る圧縮機について説明する。
【0014】
図1は、本実施例のスクロール圧縮機の構成を説明する図である。
スクロール圧縮機1は、圧縮機構部2と圧縮機構部2を駆動する電動機3と、圧縮機構部2と電動機3などを収納する密閉容器4を備えて構成される。本実施例の圧縮機は、密閉容器4の内部において上部に圧縮機構部2を、中部に電動機3を、下部に油溜まり15が配置される縦型スクロール圧縮機である。
【0015】
密閉容器4は、円筒状チャンバ4aに蓋キャップ4bと底キャップ4cが上下に溶接されて構成されている。蓋キャップ4bには吸込パイプ4dが配設され、円筒状チャンバ4aの側面には吐出パイプ4eが取り付けられている。密閉容器4の内部には吐出圧力となる吐出圧空間4fが収納されている。また、吐出圧空間4fには圧縮機構部2と電動機3が収納されている。
【0016】
圧縮機構部2は、固定スクロール5と旋回スクロール6とフレーム7などを基本要素として構成されている。固定スクロール5とフレーム7はボルトで締結されており、旋回スクロール6はフレーム7に支持されている。
【0017】
固定スクロール5は円盤状の天板部(固定側板部5b)と固定側板部5bの下部の内周部に立設された渦巻状の固定側ラップ5aと、固定側板部5bの外周部にラップ5aを囲むように設けられた筒状の固定側板部5bの上面5gと、固定側板部5b上部に備えられた吸入口5cと吐出口5dなどを有して構成され、フレーム7にボルトで固定されている。
【0018】
旋回スクロール6は、固定スクロール5の固定側ラップ5aが立設される側に円盤状の旋回側板部6bと、旋回側板部6bの内周側に立設された渦巻状の旋回側ラップ6aなどを有して構成される。旋回スクロール6は、固定スクロール5と互いのラップが噛み合い、圧縮室16が形成されるように旋回自在に配置されている。旋回スクロール6の背面側(
図1の下側、
図2の手前側)にはクランク軸9の偏芯ピン部9bが連結されている。旋回スクロール6が固定スクロール5に対して旋回運動することにより、その容積が減少する圧縮動作が行われる。
【0019】
図2は本実施例のスクロール圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールの基本構成の断面図を示している。旋回スクロール6が固定スクロール5に対して旋回運動することにより、その容積が減少する圧縮動作が行われる。
【0020】
それぞれのスクロールラップ(固定側ラップ5a、旋回側ラップ6a)は円のインボリュート曲線などを基本曲線として形成されており、両スクロールを互いに噛み合わせて旋回スクロール6の巻き終わり側のラップの外側で形成される外線側圧縮室と、その内側で形成される内線側圧縮室との大きさが異なり、軸の回転に対して位相が約180°ずれて形成される非対称スクロール形状である。フレーム7は、外周側が溶接などによって密閉容器4の内壁面に固定されており、クランク軸9を回転自在に支持する主軸受8を備えている。
【0021】
旋回スクロール6の背面側とフレーム7の間には、オルダムリング10が配設されている。オルダムリング10は旋回スクロール6の背面側に形成された溝とフレーム7に形成された溝に装着され、旋回スクロール6が自転することなくクランク軸9の偏芯ピン部9bの偏芯回転を受けて公転運動するよう配設される。
【0022】
電動機3は、ステータ3bとロータ3aから構成される。ステータ3bは密閉容器4に圧入および焼嵌などにより固定されている。ロータ3aはステータ3b内側に回転可能に配置されている。ロータ3aはクランク軸9に固定されており、ロータ3aが回転することにより、クランク軸9を介して旋回スクロール6を旋回運動させる。
【0023】
クランク軸9は、主軸9aと偏芯ピン部9bとから構成され、フレーム7に設けられた主軸受8と副軸受11とで支持されている。偏芯ピン部9bはクランク軸9aに対して偏芯して一体に形成されており、旋回スクロール6の背面に形成された旋回軸受6dに挿入されている。クランク軸9は電動機3により駆動され、偏芯ピン部9bは主軸9aに対して偏芯回転運動することで、旋回スクロール6を駆動させる。また、クランク軸9には、主軸受8および副軸受11、旋回軸受6dへ潤滑油を導く給油通路9cが内部に設けられ、油溜り15側下端には潤滑油を汲み上げて給油通路9cに導くポンプ部14が装着されている。
【0024】
副軸受11はハウジング12及び下フレーム13を介して密閉容器4に固定されている。副軸受11は、すべり軸受や転がり軸受、球面軸受部材などを使用してクランク軸主軸部9aの油溜まり側の一端を回転自在に保持する。
【0025】
旋回スクロール6が電動機3により駆動されるクランク軸9を介して旋回運動されると、旋回スクロール6、固定スクロール5の両ラップが噛み合い、大きさの異なる2つの圧縮室(内線側圧縮室、外線側圧縮室)が180°の位相差を持って交互に形成される。すると、冷媒ガスなどの作動流体は、吸入パイプ4dから旋回スクロール6および固定スクロール5により形成される圧縮室16に導かれ、冷媒ガスはスクロールの中心方向に移動するに従い容積が縮小され圧縮が行われる。圧縮された冷媒ガスは固定スクロール5の固定側板部5bの上部中央に設けられた吐出口5dから密閉容器4内の吐出圧空間4fへ吐出され、圧縮機構部2および電動機3の周囲を循環した後、吐出パイプ4eから外部へと流出する。従って、密閉容器4内の空間が吐出圧空間4fの圧力(吐出圧力と呼ぶ)に保たれる高圧チャンバタイプの圧縮機である。
【0026】
続いて潤滑油の給油経路について説明する。旋回スクロール6の背面側とフレーム7との間には吸入パイプ4d内での圧力と吐出圧空間4fの吐出圧力の中間となる圧力状態である背圧室17が形成されている。この背圧室17は、油溜り15から潤滑油が給油通路9cを通り、旋回軸受6dを潤滑した後、圧縮機構部2の摺動部に供給する経路中に設けられている。旋回スクロール6の旋回側板部6bには圧縮室16と旋回スクロール6の背面側に形成される背圧室17を間欠的に連通させる背圧孔6cが設けられており、背圧室17の圧力を吸入圧と吐出圧の中間的な圧力(この中間の圧力を背圧と呼ぶ)に保っている。この背圧とシール部材18の内周側の中央側空間に作用する吐出圧力の合力で、旋回スクロール6は背面から固定スクロール5に押し付けている。
【0027】
次に、固定スクロール5に配設されるリリース弁装置20について
図3〜9を用いて説明する。
【0028】
図3は固定スクロール5の上側から見た上視図を示している。リリース弁装置20は、
図1の圧縮室16内の圧力が吐出圧力以上となる過圧縮時に、圧縮室16から吐出圧空間4fに圧力を逃がすための装置である。リリース弁装置20は、固定スクロール5と旋回スクロール6で形成される複数の圧縮室16に対応して、
図3に示すように固定スクロール5の複数箇所に配設される。
【0029】
固定スクロール5の吸入口5cからガス冷媒または、運転条件によっては液冷媒やミスト状の潤滑油等が作動流体として圧縮室16に吸入される。旋回スクロール6の旋回運動によって作動流体が圧縮される過程において、圧縮室16内の圧力が吐出圧力以上となる過圧縮になることがある。リリース弁装置20は通常運転時は閉路しているが、このような過圧縮時には、リリース弁装置20が開路する。これにより圧縮室16と吐出圧力空間4fとが連通することで圧縮室16から吐出圧力空間4fに圧力を逃がすことができる。
【0030】
図4はリリース弁装置20の一例を横方向から見た断面図を示している。リリース弁装置20は、圧縮室16と連通するリリース穴20aの流路の開閉を行うリリース弁20bと、閉弁時にリリース弁20bをリリース穴20aの流路を閉じる方向に押付ける弾性体21aと、弾性体21aを保持するとともに開弁時にリリース弁20bを受けるためのリリース弁受21bと、リリース弁受21bが圧力を逃がす際に圧縮室16と反対側に移動しないように保持するリリース弁受21bを上側から押さえる押さえ部22とから構成される。押さえ部22は、リリース弁受21bの移動範囲を制限する。本実施例では固定スクロール5に形成された圧縮室16と吐出圧力空間4fとを連通しリリース弁装置20を配置するための空間をリリース弁装置空間20eと呼ぶことにする。押さえ部22はリリース弁受21bが吐出圧力空間4fに移動しないように保持するものである。
【0031】
図5(a)はリリース弁受21bを上側から見た図であり、
図5(b)はリリース弁受21bを下側から見た図を示す。リリース弁受21bは焼結金属や炭素鋼材などで成形され中央の逃がし穴21cと周囲の逃がし穴21dが形成される。
【0032】
また、リリース弁受21bは円筒形状に形成され、
図4に示すように下部に圧縮室16側に凸となる凸部が設けられ、この凸部に弾性材21aの一端を圧入などで一体に組み合わせて構成される。この凸部は圧縮機側に向かうにつれて径が小さくなるように構成される。弾性材21aに円盤状や異径円状のリリース弁20bが取り付けられて弾性材21aの圧縮室16側への付勢力により、閉弁時はリリース弁20bがリリース穴20aを塞ぐように作用する。また閉弁時にリリース弁20bは固定スクロール5の円環状の弁シート部20cに当接する。ここではリリース弁受21bとリリース弁20bとの間に形成される空間をリリース弁室20dと呼ぶ。
【0033】
なお、リリース穴20aは小径となるように形成され、リリース弁室20dはリリース穴20aに対してより大径の穴で形成される。リリース穴20aの容積は圧縮室16の容積の一部となり、圧縮行程で残ったガスの再膨張損失を伴うデッドボリュームとなるため、リリース穴20aの容積を極力抑えると良い。また、作動流体を逃がす機能を損なうことのないよう、十分にリリース流路を確保するため、リリース弁室20dを形成する穴の径はリリース穴より大径とする。
【0034】
図4(b)は弾性材21aが縮むように作用することでリリース弁20bが開いて圧縮室16から吐出圧力空間4fに作動流体が流れ圧力を逃がす状態を示している。このとき圧縮室16の作動流体はリリース穴20aからリリース弁室20dに流れ、さらにリリース弁受21bに形成された中央の逃がし穴21c及び周囲の逃がし穴21dに流れて吐出圧力空間4fに流れる。このようにリリース穴20aからリリース弁室20d、さらに中央の逃がし穴21c及び周囲の逃がし穴21dへとリリース弁装置20による作動流体のリリース流路が形成される。
【0035】
このときリリース弁20bは弁シート部20cから離れリリース弁受21bの凸部に形成されるリリース弁受部21eに接触するように移動する。以上のようにリリース弁装置20は圧縮室16と吐出圧空間4fとを連通するように固定スクロール5の固定側台板部5bの上面5gと下部内周面5hとの間のリリース弁装置空間20eに構成される。また
図4に示すようにリリース弁装置空間20eは固定スクロール5において、リリース弁受21bが必要以上にリリース穴20a側に近づく事を規制するために、上部の大径部と下部の小径部とで構成され、このように2段形状で構成されている。そしてリリース弁受21bは円柱体で成形され、その外径がリリース弁装置空間20eの内径より若干小さく構成され、リリース弁装置空間20e内の上部の大径部において上下方向に移動することが可能な隙間を有する。
【0036】
図4、5に示す構造では、圧縮室16が過圧縮状態となり、作動流体がリリース弁20bを押上げる際にリリース弁20bとリリース弁受21bのリリース弁受部21eが接触する。すると
図5(b)に示すように、リリース弁受21bはリリース弁受部21eのみでリリース弁20bからの荷重を受ける事になる。そのため、リリース弁受21bのリリース弁受部21eが磨耗することで信頼性の低下を招く虞がある。これに対し、リリース弁受部21eの表面に窒化処理を施し、硬度を増加させ、信頼性を向上させる手段もある。
【0037】
しかし、この手段は窒化処理によるコスト増加、またリリース弁受部21eの硬度向上量によっては、相手側の弁が摩耗し易くなるという問題がある。また表面処理のバラツキによる信頼性低下の虞もあり、さらには表面処理で磨耗が完全に防げる訳ではないため磨耗が進行して処理層以上に磨耗すれば、やはり信頼性低下を招く虞がある。そこで、本実施例ではリリース弁受部21eの面圧を下げることで信頼性を向上させる構造について以下に説明する。
【0038】
図6、7は信頼性向上のためのリリース弁装置20の構造について説明するための図である。
【0039】
図6(a)(b)は本実施例のリリース弁装置20を説明するための図である。
図6(a)の上図はリリース弁装置20を吐出圧力空間4f側(上側)から見た図であり、下図は上図のA−Aの断面図を示す。また
図6(b)上図は
図6(a)上図と同様にリリース弁装置20を吐出圧力空間4f側(上側)から見た図であり、下図は上図のB−Bの断面図を示す。
図4と
図6ではリリース弁装置空間20eの内径は変更していない。この場合においてリリース弁受21bの下部には
図6(a)下図、
図6(b)下図に示すように、
図4と同様に凸部が形成され、ここに弾性材21aが取り付けられる。
図6(a)、(b)、
図7において
図4と同様の符号については基本的には同様のものであり説明省略するが、
図4とはリリース弁受21bの形状が主に異なる。
【0040】
図7は本実施例においてリリース弁受21bの形状を説明するための図である。
図7(a)はリリース弁受21bを吐出圧力空間4f側(上側)から見た図であり、
図7(b)はリリース弁受21bを圧力室16側(下側)から見た図を示している。
図6、7に示すように、本実施例のリリース弁受21bは
図4のリリース弁受21bから、外周側において対称位置関係にある2ヶ所の端面を取除いた形状となっている。
【0041】
ここでリリース弁受21bは、固定スクロール5に形成され圧縮室16と吐出圧力空間4fとを連通するリリース弁装置空間20eに保持される。そして、リリース弁受21bの外周側壁面は対称関係にある複数の位置において、リリース弁装置空間20eの内壁との隙間が大きくなる形状となっている。この隙間により
図6(a)(b)に示す周囲の逃がし穴21dが形成され、開弁時には作動流体がこの逃がし穴21dを通って吐出圧力空間4fに流れる。
【0042】
本実施例では
図7に示すように、リリース弁受21bの外周側において対称位置関係の2箇所に内周側に凹んだ凹み部21fを形成することで上記したようにリリース弁装置空間20eの内壁との隙間(周囲の逃がし穴21d)が形成されるようにしたものである。
【0043】
図6(b)下図ではリリース弁装置空間20eの内壁とリリース弁受21bの凹み部21fとにより形成される隙間(周囲の逃がし穴21d)を示している。
図6(b)下図の右側の開弁時においてはリリース穴20aからの作動流体はリリース弁室20dに流れた後、図における左右に形成される隙間(周囲の逃がし穴21d)を流れて吐出圧力空間4fに流れる。またリリース弁受21bには
図4、5と同様に中央の逃がし穴21cが形成されており、リリース弁室20dの作動流体はこの中央の逃がし穴21cにも流れて吐出圧力空間4fに圧力を逃がすように作用する。なお、リリース弁受21bの凹み部21fは
図6、
図7では2箇所、設けられているが、対称関係にあれば2箇所に限らず、さらに複数の凹み部が形成されていてもよい。
【0044】
図7(b)に示すように本実施例のリリース弁受21bの下部の凸部には
図4、5と同様にリリース弁受部21eが形成され、開弁時のリリース弁20bを受ける構成となっている。ここで本実施例ではさらにリリース弁受部21eの外周側に第2のリリース弁受部21hが形成され、このように第1のリリース弁受部21e及び第2のリリース弁受部21hとの2箇所で開弁時のリリース弁20bを受ける構成となっている。
【0045】
これにより本実施例のリリース弁装置20によれば、中央の逃がし穴21c及び周囲の逃がし穴21dにより作動流体の流路を確保しつつ、リリース弁20bとの接触面を拡大することができるため信頼性を向上することができる。
【0046】
ここでリリース弁20bの動作について具体的に説明する。リリース穴20a、リリース弁室20d、凹み部21fによる隙間(周囲の逃がし穴21d)で構成されるリリース流路は上下方向に形成される。このとき、リリース弁20bはリリース弁受21bの荷重と弾性材21aの弾性押圧力を受けるように構成される。そのため、設定圧力(吐出圧力+リリース弁の重量による圧力+弾性材の弾性押圧力)以上に圧縮室16内部の作動流体が圧縮され過圧縮状態になると、リリース弁が開路する。そのため、作動圧力(リリース弁の重量による圧力+弾性材の弾性押圧力)は数kPa程度となり、圧縮室16内での旋回スクロール6の旋回運動に伴う圧力上昇(R410A混合冷媒の場合で1〜3MPa程度)に対して作動圧力は僅かとなる。
【0047】
本実施例の弾性材21aはコイルばねであり、リリース弁受21bの下部の凸部に取り付けられ、リリース弁受21bと一体に移動する。また、弾性材21aを構成するコイルばねの端を密着巻き部とすることで、リリース弁受21bに組付けた後に外れ難くなり、コイルばねの外れを防止できる。
【0048】
リリース弁装置20は、リリース弁20bがリリース流路を閉じた状態およびリリース弁20bがリリース流路を開いた状態の何れの状態においても、弾性材21aによる弾性押圧力によりリリース弁受21bが押さえ部22に押えつけられるように構成される。なお、リリース弁受21bが押さえ部22に押えつけられる状態とは、リリース弁受21bが押さえ部22と接触している状態である。これは、弾性材21aに押さえ部22からの反力が加わっている状態である。
【0049】
図3に示すように、押さえ部22は作動流体の逃がし穴22a、22bを有し、固定スクロール5の固定側板部5bの上面5gとボルト23などによって取付けられる。複数箇所に設けられたリリース弁装置20に対する押さえ部22は一つの部材で成形し、鋼板のプレス成形あるいはレーザー加工により加工される。
【0050】
ここで特許文献2に示される構造では、
図2に示すように、固定スクロール5の吐出口5dに最も近い2つの圧縮室16a、16bにそれぞれリリース穴20aが設けられている。圧縮室16a、16bは渦巻き中心に対して対となっている。各リリース穴20aは、互いに渦巻き中心に対して非対称に配置される。
【0051】
図8は圧縮工程における高圧側の圧縮室16a、16bとリリース穴20aとの関係を説明する図である。
図8(a)〜(d)に示すように、高圧側の圧縮室16a、16bの少なくともどちらか一方が固定スクロール吐出口5dに連通する状態において、外線側圧縮室16a、内線側圧縮室16bに備えられたリリース穴20aの何れかが吐出口5dに連通する位置に配設される。なお、
図8のリリース穴の20aの状態は、圧縮途中であり、圧縮室16a、16bと吐出口5dとが連通していない為に、何れのリリース穴も吐出口5dと連通していない状態を示すものである。これにより、過圧縮状態による余分な圧縮入力を抑制するだけでなく、リリース弁20bによる開路時に固定スクロール5の吐出口5dに加えて作動流体を吐出する流路となることから、吐出圧損を低減する役割を果すことが出来る。
【0052】
図9は本実施例の押さえ部22の構造を説明するための図である。本実施例の押さえ部22は中央部に吐出口逃がし穴22aとその周りに4つのリリース弁逃がし穴22bが形成されたものである。なお、リリース弁逃がし穴22bは4つに限定されるものではない。
図9(a)の押さえ部22に設けられた吐出口逃がし穴(第1穴)22aは、圧縮室16で圧縮した作動流体を吐出圧力空間4fに通すため、固定スクロール5の吐出口5dに対して設けられた逃がし穴である。
【0053】
図8に示したように本実施例の固定スクロール5には4つのリリース穴20aが形成されており、またこのリリース穴20aから吐出圧力空間4fに作動流体を流すリリース弁装置20がそれぞれ配置される。
図9の4つのリリース弁逃がし穴22bはこのリリース弁装置20にそれぞれ対応する配置となっている。
【0054】
ここで
図8において4つのリリース穴20aのうち高圧側の内線側圧縮室16bに配置されるリリース穴20aは外線側の圧縮室16aに配置されるリリース穴20aに対して、固定スクロール5の吐出口5dに近づく位置関係となる。
すると押さえ部22において、この吐出口5dに対応して形成される吐出口逃がし穴22aと、吐出口5dに最も近いリリース穴20aに対応して形勢されるリリース弁逃がし穴22b(
図9では左から2番目に形成されるリリース弁逃がし穴22b)との位置関係も近づくことになる。
【0055】
このとき
図9(a)に示すように、吐出口逃がし穴22aと、これに最も近いリリース弁逃がし穴22bとの間の距離が小さくなることにより、押さえ部22における吐出口逃がし穴22aとこれに最も近いリリース弁逃がし穴22bとの間の厚みが小さくなる。この厚みが小さいと強度が十分でないことが考えられ、たとえばリリース弁20bの開弁時の衝撃などにより、この厚みが破損する虞があり信頼性の低下に繋がる可能性がある。
【0056】
また
図9(b)に示すように、吐出口逃がし穴22aと、これに最も近いリリース弁逃がし穴22bとを連通することが考えられる。しかし、この場合には
図9(b)下図に示すようにリリース弁受21bが押さえ部22に対して片方(図では左側)のみに接触することになるため、リリース弁受21bの変形を招く虞があり、やはり信頼性の低下に繋がる可能性がある。
【0057】
また厚みを確保するためにリリース穴22aの径を小さくすることも考えられるが、この場合には作動流体、特に液冷媒を含む場合にリリース弁装置20による作動流体のリリース作用が悪くなり、本来の目的を達成することができなくなる。
【0058】
そこで、本実施例では、
図9(c)に示す構造を採用するものである。
図9(c)に示すように固定側板部5bの上面5gに取付けられる押さえ部22には、圧縮室16で圧縮した作動流体を流す固定スクロール5の吐出口5dに対応した吐出口逃がし穴22a(第1穴)と、圧縮室16で過圧縮された作動流体を流すためのリリース弁装置20に対応したリリース弁逃がし穴22b(第2穴)とが形成される。またこの吐出口逃がし穴22a(第1穴)とリリース弁逃がし穴22b(第2穴)とは互いに連通されていない。そして、吐出口逃がし穴22a(第1穴)をリリース弁逃がし穴22b(第2穴)から離れた位置に配置することで、固定スクロール5の吐出口5dと一部、重ならないように形成される。
【0059】
本来は吐出口逃がし穴22a(第1穴)に対して全ての吐出口5dの形状が重なるようにそれぞれ配置することが望ましいが、このように配置すると、吐出口逃がし穴22a(第1穴)とリリース弁逃がし穴22b(第2穴)との間の距離が近づくことにより、上記したような信頼性低下の虞がある。そこで、本実施例では、上記した一部が重ならない構成とすることで、押さえ部22において吐出口逃がし穴22a(第1穴)とリリース弁逃がし穴22b(第2穴)との間の厚みを確保することが可能となるため、押さえ部22の強度確保およびリリース弁受21bの変形を抑制し、信頼性を向上できる。
【0060】
また、上記したようにリリース穴22aの大きさは確保できるため、作動流体の抜けを良くすることができ、リリース弁装置20を正常に作用させることができるため、過圧縮領域および不足圧縮領域も含めた全運転圧縮比領域を通した全体の圧縮効率を高めることが可能となる。
【0061】
また、リリース弁装置20が配置されるリリース弁装置空間20eと固定スクロール5の吐出口5dとの関係も同様に間の距離が近づくことになり、固定スクロール5においてリリース弁装置空間20eと吐出口5dとの間に厚みを設けた場合、この厚みが小さくなり、強度の問題から信頼性低下を招く虞がある。そこで本実施例では
図9(c)に示すようにリリース弁装置空間20eと吐出口5dとを連結させて間に厚みを持たせない構成とすることで強度の問題をなくし、信頼性向上を図ったものである。