(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記剛性切替え装置は、通常は高剛性にて前記ベアリングケースを支持し、予め指定された工具が前記主軸に装着されるときに低剛性にて前記ベアリングケースを支持するように切り替えられる請求項1に記載の工作機械の主軸装置。
前記剛性切替え装置は、前記主軸に装着される工具の径が予め定められた値よりも小さい場合には低剛性にて前記ベアリングケースを支持し、前記主軸に装着される工具の径が予め定められた値以上の場合には高剛性にて前記ベアリングケースを支持する請求項1に記載の工作機械の主軸装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から
図7を参照して、本発明の実施の形態における工作機械の主軸装置について説明する。工具を装着した主軸を回転させる主軸装置は、任意の工作機械に配置することができる。例えば、横形や立形のマシニングセンタ、フライス盤、または中ぐり盤等の工作機械等に配置することができる。
【0020】
図1は、本実施の形態における主軸装置の概略部分断面図である。主軸装置は、工具2を支持する主軸1と、主軸1が内部に配置されているハウジングとを含む。本実施の形態におけるハウジングは、主軸頭ハウジング10と、フロントハウジング11と、前端ハウジング12とを含む。
【0021】
本実施の形態における主軸装置は、ビルトインタイプの回転機を含む。主軸頭ハウジング10の内面には、ステータ7が配置されている。主軸1の外面にはロータ6が配置されている。ステータ7およびロータ6により回転機が構成されている。主軸1は、円柱状に形成されており、主軸頭ハウジング10の内部で回転する。
【0022】
本実施の形態においては、主軸1の回転軸線101が延びる方向のうち、工具2が固定されている側を前側と称し、工具2が固定されている側と反対側を後側と称する。また、主軸1の回転軸線101が延びる方向をZ軸方向と称する。主軸1の前側の端部は、軸受としてのフロントベアリングおよびフロントベアリングを保持するベアリングケース14,15を介して、フロントハウジング11に支持されている。
【0023】
フロントベアリングは、主軸1を回転軸線101の周りに回転可能に支持する。本実施の形態におけるフロントベアリングは、背面合わせの一対のアンギュラ軸受21と、ころ軸受22とを含む。本実施の形態におけるころ軸受22は、円筒状のころを含む。アンギュラ軸受21は、主軸1に対して回転軸線101の延びる方向に力が加わった場合にも、この力に対する抗力を提供する。アンギュラ軸受21は、主軸1が回転軸線101の延びる方向に移動することを抑制する機能を有する。
【0024】
ベアリングケース14,15は、アンギュラ軸受21およびころ軸受22を覆うように形成されている。ベアリングケース14は、フロントベアリングと、フロントハウジング11との間に配置されている。本実施の形態におけるベアリングケース14およびベアリングケース15は、互いに固定されている。ベアリングケース14およびベアリングケース15は、別部材にて形成されているが、この形態に限られず、一つの部材から一体的に形成されていても構わない。これらのフロントベアリングおよびベアリングケース14,15もハウジングの内部に配置されている。
【0025】
主軸1の後側の端部は、リヤベアリングおよびリヤベアリングを支持するベアリングケース17を介して、主軸頭ハウジング10に支持されている。リヤベアリングは、主軸1を回転軸線101の周りに回転可能に支持する。本実施の形態におけるリヤベアリングは、ころ軸受23を含む。本実施の形態におけるころ軸受23は、円筒状のころを含む。ころ軸受23の外輪は、ベアリング押え部材18により、ベアリングケース17に向かって押圧されている。ころ軸受23は、ベアリングケース17を介して、主軸頭ハウジング10に支持されている。
【0026】
主軸1の後側の端部にはナット30が固定されている。ナット30が締め付けられることにより、ころ軸受23の内輪は、スリーブ25およびカラー26,27を介して主軸1に固定されている。また、ナット30が締め付けられることにより、ころ軸受23の内輪が主軸1のテーパ部に食い込んでころ軸受23に予圧が付与されている。
【0027】
主軸1の内部には、回転軸線101に沿って延びるドローバー42が配置されている。ドローバー42は、棒状に形成されている。ドローバー42の周りには、皿ばね43が配置されている。皿ばね43の後側の端部には、ナット44が配置されている。ナット44は、ドローバー42に固定されている。
【0028】
主軸1は、ドローバー42に係合するコレット45を含む。ドローバー42は、皿ばね43によって矢印111に示す後側に付勢され、コレット45と係合する。この時にコレット45は、前側の端部が開いた状態になる。コレット45は、工具ホルダ3に係合して工具ホルダ3を保持する。一方で、コレット45は、ドローバー42が前側に向かって押圧された時に、工具ホルダ3との係合が解除されるように形成されている。
【0029】
主軸装置は、ドローバー42を前側に押圧する油圧シリンダ5を含む。油圧シリンダ5が駆動してドローバー42を押圧することにより、工具ホルダ3の固定が解除される。工具2は、工具ホルダ3に固定されている。工具2は、工具ホルダ3と共に取り替えることができる。
【0030】
ワークを加工する場合には、油圧シリンダ5によるドローバー42の押圧が解除される。工具ホルダ3が皿ばね43の付勢力によって主軸1の前側のテーパ穴に固定される。このように、ワークの加工中には、工具2が主軸1に固定された状態になる。工具2は、主軸1と一体的に回転したり移動したりする。
【0031】
図2に、フロントベアリングおよびベアリングケース部分の拡大概略断面図を示す。
図1および
図2を参照して、アンギュラ軸受21およびころ軸受22は、外輪がベアリングケース14,15によって支持されている。アンギュラ軸受21ところ軸受22との間には、カラー36が配置されている。
【0032】
ベアリングケース14は、回転軸線101に沿って厚さがほぼ一定である筒状部14bを有する。本実施の形態においては、筒状部14bの外側の表面と、フロントハウジング11の内面との間に、僅かな隙間を有する間隙部35が形成されている。間隙部35の高さは、例えば主軸1の径方向において数十μm程度が好ましい。すなわち、筒状部14bの外側の表面とフロントハウジング11の内面とが数十μm離れていることが好ましい。
【0033】
ベアリングケース14は、前側の端部にピストン部14cを有する。ベアリングケース14は、ピストン部14cと筒状部14bとの間に形成されているテーパ部14aを有する。テーパ部14aは、後側に向かって徐々に外径が小さくなっている。フロントハウジング11は、テーパ部14aと対向する部分に形成されているテーパ穴部11aを有する。テーパ穴部11aは、後側に向かって内径が徐々に小さくなっている。本実施の形態におけるテーパ穴部11aは、テーパ部14aを押し付けたときにテーパ部14aと面接触するように形成されていると同時に、ピストン部14cは、フロントハウジング11の前端とも面接触する。結局、ベアリングケース14は、二面拘束されることになる。
【0034】
ベアリングケース14,15の後側の端部は、ダイヤフラム31により支持されている。ダイヤフラム31は、金属により板状に形成されている板状部材である。ダイヤフラム31は、厚さ方向が主軸1の回転軸線101の方向とほぼ平行に配置されている。ダイヤフラム31は、径方向の外側の端部がフロントハウジング11に固定され、径方向の内側の端部がベアリングケース15に固定されている。
【0035】
ころ軸受22の前側には、カラー37を介してナット29が配置されている。アンギュラ軸受21の後側には、スリーブ24が配置されている。主軸1に対してナット29を締め付けることにより、カラー37を介してころ軸受22が押圧される。ころ軸受22の内輪が主軸1のテーパ部に食い込むことにより、ころ軸受22に予圧が付与される。更に、ナット29を締め付けることにより、カラー36を介して前側のアンギュラ軸受21の内輪が後側に押圧される。この押圧力は、前側のアンギュラ軸受21の外輪、後側のアンギュラ軸受21の外輪、および後側のアンギュラ軸受の内輪に、この順に伝達される。このために、アンギュラ軸受21にも予圧が付与される。
【0036】
ナット29の前側にはシール部材16が配置されている。シール部材16は、フロントベアリングに供給された潤滑油が流出することを抑制すると共に、切りくずが主軸装置内に侵入することを防止する。シール部材16は、例えば表面に凹凸が形成されたラビリンスシールを構成している。
【0037】
本実施の形態の主軸装置は、ハウジングの内部にてベアリングケース14,15を主軸1の回転軸線101の方向に移動させる移動装置を含む。ベアリングケース14のピストン部14cの前側には油室63が形成されている。前端ハウジング12には、油路61が形成されている。油路61は、油室63に連通している。ピストン部14cの後側のフロントハウジング11の前端面には、8個等配で油室64が形成されている。フロントハウジング11には油路62が形成されている。油路62は、油室64に連通している。
【0038】
本実施の形態の移動装置は、油室63,64に、高圧の制御油を供給する油圧装置8を含む。油圧装置8が油室63または油室64の一方に高圧の制御油を供給することにより、ピストン部14cを回転軸線101の延びる方向に沿って移動させることができる。すなわち移動装置は、ベアリングケース14,15を主軸1の回転軸線101の方向に沿って移動させることができる。
【0039】
本実施の形態における主軸装置は、ベアリングケース14および主軸1に生じる振動の減衰を促進する振動減衰装置を備える。振動減衰装置は、ハウジングとベアリングケース14との間に設けられている。本実施の形態の振動減衰装置は、前端ハウジング12に固定されている摩擦部材65を含む。摩擦部材65は、ハウジングとベアリングケース14との接触部に設けられている。摩擦部材65は、ベアリングケース14の前側の端面に対向するように配置されている。本実施の形態の摩擦部材65は、板状に形成されている。摩擦部材65は、厚さ方向が回転軸線101の方向とほぼ平行に配置されている。
【0040】
本実施の形態における主軸装置は、ハウジングに対してベアリングケース14,15を支持するときの支持剛性を複数段にて切替え可能な剛性切替え装置を備える。本実施の形態の剛性切替え装置は、低剛性および低剛性よりも剛性の高い高剛性にて2段階でベアリングケース14,15を支持する。剛性切替え装置は、移動装置を含み、ベアリングケース14,15を移動することにより剛性を切り替える。
【0041】
図2に示す状態では、高剛性にて主軸1を支持している。油圧装置8は、矢印112に示すように油室63に高圧の制御油を供給している。油室64からは、矢印113に示すように、貯留していた制御油が流出する。ベアリングケース14のピストン部14cは、油室63に供給された制御油の油圧により押圧される。ベアリングケース14,15は、矢印114に示すように後側に押圧される。
【0042】
ベアリングケース14のテーパ部14aは、フロントハウジング11のテーパ穴部11aに密着すると同時に、ベアリングケース14のピストン部14cの後側がフロントハウジング11の前端面に密着する。このために、ベアリングケース14,15の前側の端部が矢印116に示す径方向および矢印114に示す軸方向に拘束される。また、ベアリングケース14,15の後側の端部は、ダイヤフラム31によって径方向に拘束されている。主軸1は、ベアリングケース14,15の後側の端部に加えて、前側の端部が径方向および軸方向に拘束されるために、ベアリングケース14,15をハウジングに対して高剛性で支持することができる。
【0043】
図3に、本実施の形態における主軸装置のフロントベアリングおよびベアリングケースの部分の他の拡大概略断面図を示す。
図3に示す状態では、低剛性にて主軸1を支持している。油圧装置8は、矢印112に示すように、油室64に高圧の制御油を供給する。油室63に貯留していた制御油は、矢印113に示すように流出する。この結果、ベアリングケース14,15は、矢印115に示す向きに回転軸線101に沿って移動する。すなわち、ベアリングケース14,15は、前側に移動する。ベアリングケース14のテーパ部14aは、フロントハウジング11のテーパ穴部11aから離れる。このときのベアリングケース14,15の移動量は、数百μm程度の僅かな移動量が好ましい。ベアリングケース14のピストン部14cの前端面は、摩擦部材65に接触する。ベアリングケース14が前側に移動することにより、テーパ部14aとテーパ穴部11aとの間およびピストン部14cとフロントハウジング11の前面との間に僅かな隙間が形成される。テーパ部14aとテーパ穴部11aとの隙間は、例えば、径方向において数十μmである。
【0044】
ベアリングケース14,15は、アンギュラ軸受21およびころ軸受22を支持し、アンギュラ軸受21およびころ軸受22は、主軸1を支持している。このために、ベアリングケース14,15が移動することにより、主軸1も矢印115に示す向きに移動する。シール部材16は、前端ハウジング12の表面よりも飛び出す。この主軸1の移動量pzは、例えば前述のように数百μm程度である。
【0045】
ベアリングケース14,15が前側に移動することにより、ダイヤフラム31が僅かに変形する。ベアリングケース14,15の後側の端部は、ダイヤフラム31によって径方向に拘束される。ところが、ベアリングケース14の前側の端部は、強い拘束を受けていない状態になる。このように、ベアリングケース14,15を、ハウジングに対して低剛性にて支持することができる。すなわち、ハウジングに対して主軸1を低剛性にて支持することができる。
【0046】
このように、ベアリングケース14,15を移動することにより主軸1の支持剛性を変化させることができる。なお、主軸1の後側の端部を支持するリヤベアリングにおいては、
図1を参照して、ころ軸受23のころに対して内輪が滑ることにより、主軸1が移動する。
【0047】
本実施の形態の主軸装置は、
図2に示す高剛性の状態が通常の状態であり、多くの加工において採用される。特に、
図2に示す状態は、主軸1が高い支持剛性で支持されているために、大径の工具2を用いる場合や切込み量の大きな重切削加工を行う場合等に好適である。ベアリングケース14のテーパ部14aおよびピストン部14cをフロントハウジング11に圧接させて、高い支持剛性を達成できるために、高い加工精度にて加工することができる。
【0048】
一方で、小径の工具2を用いて切削等の加工を行う場合には、工具2と加工面との接触により、工具2に振動が生じる場合がある。このような場合には、主軸装置を
図3に示す低剛性の状態にする。この状態では、ベアリングケース14,15の後側の端部は、ダイヤフラム31により径方向に強く拘束される。ところが、ベアリングケース14,15の前側の端部は、強い拘束を受けていないために、矢印116に示す径方向に僅かな振幅で振動可能になる。
【0049】
加工中に工具2に生じる微振動は、主軸1に伝達される。主軸1が微振動することにより、ベアリングケース14のピストン部14cの端面は、摩擦部材65と摺動する。このため、主軸1の振動を摩擦により減衰することができる。この結果、工具2に生じる振動を抑制し、高い加工精度にて加工を行うことができる。特に、小径の工具2を用いた場合に、びびり振動を抑制しながら加工を行うことができる。この加工は、小径の工具2を用いて仕上げ加工を行うとき等に好適である。このように、本実施の形態における振動減衰装置は、剛性切替え装置が低剛性にてベアリングケース14を支持している時に作動する。
【0050】
主軸1の振動を抑制する摩擦部材65は、微小の振動でもベアリングケース14と滑らかに摺動する部材を採用することが好ましい。たとえば、摩擦部材65は、静摩擦係数と動摩擦係数との差が小さい材質にて形成されることが好ましい。または、摩擦部材65は、低摩擦摺動材であることが好ましい。
【0051】
本実施の形態の摩擦部材65は、フッ素樹脂により形成されている。フッ素樹脂は、静摩擦係数が動摩擦係数の1.0倍〜1.1倍程度の材質である。このために、微小な振幅の振動においても、摩擦部材65とベアリングケース14とが滑らかに摺動する。効果的に振動エネルギを熱エネルギに変換することができる。また、びびり振動が生じても効果的に摩擦減衰させることができる。さらに、本実施の形態の主軸装置においては、ピストン部14cの前側には油室63が形成されている。このために、制御油が摩擦部材65の表面にも移動し、制御油による粘性減衰の効果も得ることができる。
【0052】
また、本実施の形態の摩擦部材65は、前端ハウジング12に固定されているが、この形態に限られず、ハウジングに対してベアリングケースが摺動する部分に配置することができる。たとえば、摩擦部材は、ベアリングケースに配置されていても構わない。
【0053】
ダイヤフラム31は、径方向における剛性が十分に大きくなるように形成することが好ましい。また、ダイヤフラム31の回転軸線101の延びる方向における弾性力が、適度に大きいことが好ましい。このような、ダイヤフラム31は、金属にて形成することができる。
【0054】
図4に、比較例の主軸装置に小径の工具を取り付けて加工シミュレーションを行ったときの安定限界線図を示す。比較例の主軸装置は、本実施の形態における剛性切替え装置を備えておらずに、常に高い支持剛性で主軸を支持する。
図5に、本実施の形態における主軸装置に小径の工具を取り付けて加工シミュレーションを行ったときの安定限界線図を示す。
図5は、剛性切替え装置により、低い支持剛性にて主軸を支持したときの状態を示している。横軸は主軸の回転数であり、縦軸は工具の切込み量を示している。また、工具としては小径のエンドミルを使用したときの結果を示している。
【0055】
図4に示すように、高剛性にて主軸を支持した状態にて小径の工具を用いるとびびり振動が発生し、安定限界線の下限を示す切込み量は非常に低くなることがわかる。これに対して、
図5に示すように、低剛性にて主軸を支持し、更に、摩擦部材を用いて振動を摩擦減衰により低減させることにより、安定限界線の下限を示す切込み量が比較例よりも大きくなっていることが分かる。
【0056】
本実施の形態の主軸装置は、工具の振動が生じやすい状態においても、切込み量を大きくしたり、安定した加工を行ったりすることができる。すなわち、本実施の形態の主軸装置は、加工精度(加工面品位)や加工能率を向上させることができる。これは、主軸の支持剛性を低減することにより、工具の振動と同一の振動モードにて主軸が振動可能になり、更に、その振動を摩擦部材の摺動により減衰することができるためと考えられる。このように、本実施の形態の主軸装置は、工具自体に生じる振動を抑制することができる。特に、小径の工具、工具長の長い工具、または振動しやすい工具等を用いたときに生じる振動を効果的に減衰させることができる。また、支持剛性を高剛性に切り替えることにより大径の工具を用いる場合等でも高い加工精度や加工能率にて加工を行うことができる。
【0057】
なお、工具としては、回転しながら加工を行う工具を例示することができ、エンドミルを例示することができる。また、びびり振動等の振動が生じる工具径としては、10mm以下を例示することができる。例えば、工具径が10mm以下のエンドミルを用いる場合には、低い支持剛性にて主軸1を支持することが好ましい。工具径が10mmよりも大きなエンドミルを用いる場合には、高い支持剛性にて主軸1を支持することが好ましい。
【0058】
図2および
図3を参照して、シール部材16と前端ハウジング12との間には隙間が形成されている。この隙間が形成されている領域において、前端ハウジング12には、変位センサー66が配置されている。変位センサー66は、Z軸方向におけるハウジングに対する主軸1の変位を検出する。また、前端ハウジング12とナット29との間には、隙間が形成されている。この隙間が形成されている領域において、前端ハウジング12には、変位センサー67が配置されている。変位センサー67は、Y軸方向におけるハウジングに対する主軸1の変位を検出する。
【0059】
更に、Y軸およびZ軸に直交するX軸方向(紙面に垂直方向)において、ハウジングに対する主軸1の変位を検出する変位センサーが配置されている。X軸方向の変位センサーは、Y軸方向の変位センサー67に対して回転軸線101の周りに90°回転した位置に配置されている。このように、本実施の形態の主軸装置は、ハウジングに対して主軸1が移動したときの変位を検出する複数のセンサーを備える。
【0060】
Z軸方向の変位を検出する変位センサー66は、油圧装置8によりベアリングケース14,15を移動させた場合に、所望の移動量の移動が行われたか否かを検出することができる。また、変位センサー66の出力に基づいて、ベアリングケース14,15の移動量pzを修正することができる。また、ワークの加工の期間中に、変位センサー66の出力が予め定められた範囲内から逸脱した場合には、主軸1の支持剛性が異常であると判別することができる。この場合には、ワークの加工を停止する制御を行うことができる。更には、例えば、操作パネルに警報を表示する等の制御を行うことができる。
【0061】
また、Y軸方向の変位を検出する変位センサー67の出力、およびX軸方向の変位を検出する変位センサーの出力により、ワークの加工の期間中における主軸1の変位や振動状態を検出することができる。例えば、ワークの加工の期間中にX軸方向またはY軸方向に、許容範囲を逸脱する振動の振幅が検出された場合には、加工を停止する制御を行うことができる。また、操作パネルに異常を通知する警報を表示することができる。
【0062】
このように、ハウジングに対する主軸の変位を検出する変位センサーを備えることにより、移動装置の異常を速やかに検出したり、加工精度が低下した状態で加工を継続することを回避したりすることができる。
【0063】
本実施の形態のベアリングケース14は、工具が配置されている側の端部が剛性切替え装置にて支持されている。ベアリングケース14は、工具が配置されている側と反対側の端部がダイヤフラム31により支持されている。この構成を採用することにより、低い支持剛性の場合に、主軸1を効果的に振動させることができる。また、ダイヤフラム31を用いて支持することにより、ベアリングケース14を径方向に高い支持剛性で支持する一方で、ベアリングケース14の回転軸線101の方向には僅かな移動を許容することができる。
【0064】
なお、ダイヤフラム31は、テーパ部14aから所定の間隔を空けて配置することが好ましい。所定の間隔を空けることにより、軸方向において離れた2か所の位置にて主軸1を支持することができる。主軸1をより確実に高い支持剛性にて支持することができる。また、主軸が効果的に振動するように、ダイヤフラム31は摩擦部材65から離れた位置に配置されていることが好ましい。
【0065】
ところで、
図3を参照して、小径の工具を用いる場合等には主軸1をZ軸方向に移動量pz移動させて加工を行う。このために、ワークの加工面においては移動量pzの加工誤差が生じ得る。次に、工作機械にてワークを加工するときに移動量pzの加工誤差を修正する制御について説明する。
【0066】
図6に、本実施の形態におけるワークの加工システムの概略図を示す。本実施の形態における加工システムは、数値制御式の工作機械85と、工作機械85に入力する入力数値データ84を生成する装置を備える。CAD(computer aided design)装置81にてワークの形状を設計する。CAD装置81は、ワークの形状データ82をCAM(computer aided manufacturing)装置83に供給する。
【0067】
工作機械85は、加工やワークの移動等を制御する制御装置を備える。本実施の形態の制御装置は、NC(数値制御:Numerical Control)装置86を含んでいる。CAM装置83は、形状データ82に基づいて、NC装置86に入力するための入力数値データ84を生成する。入力数値データ84は、例えば、所定の工具2を用いるときの工具先端点の経路を示すデータを含む。入力数値データ84は、たとえば、X軸、Y軸およびZ軸の座標値によって構成されている。
【0068】
工作機械85のNC装置86は、入力数値データ84に基づいて、各軸サーボモータ87を駆動する。各軸サーボモータ87には、X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、およびZ軸サーボモータ等が含まれる。これにより、ワークに対して工具2を相対的に移動させることができる。
【0069】
NC装置86に入力される入力数値データ84には、工具径が含まれている。本実施の形態のNC装置86は、工具2の工具径が予め定められた値未満であるか否かを判別する。NC装置86は、使用する工具2の工具径が予め定められた値未満である場合には、低剛性にてベアリングケース14,15を支持する制御を行う。すなわち、剛性切替え装置は、主軸1に固定される工具2の径が予め定められた値未満の場合には、ベアリングケース14,15を前側に移動する制御を行う。
【0070】
一方で、NC装置86は、使用する工具が小径でない場合には、高剛性にてベアリングケース14,15を支持する制御を行う。すなわち、剛性切替え装置は、主軸1に固定される工具2の径が予め定められた値以上の場合には、ベアリングケース14,15を後側に移動する制御を行う。
【0071】
このように、本実施の形態における工作機械は、装着される工具に応じて主軸を支持する支持剛性を変化させて、加工精度の向上を図ることができる。
【0072】
工作機械が、工具を自動的に取り替える自動工具交換装置を備える場合には、予め定められた値よりも小さな工具径の工具が装着されたことを検出し、低い支持剛性にて支持するように剛性切替え装置を制御することができる。また、予め定められた値以上の工具径の工具が装着されたことを検出し、高い支持剛性にて支持するように剛性切替え装置を制御することができる。自動で工具を交換する場合には、
図1を参照して、制御装置が油圧シリンダ5を駆動することにより、工具2が固定されている工具ホルダ3を主軸1から取り外したり取り付けたりすることができる。
【0073】
また、NC装置86は、低い支持剛性にて主軸1を支持する場合には、工具2のZ軸方向の工具長をベアリングケース14の移動量pzに相当する値だけオフセットする制御を行うことができる。このような制御を行うことにより、低い支持剛性にて支持するときに生じるZ軸方向の加工誤差を修正することができる。NC装置86は、修正された工具経路にて各軸サーボモータ87を駆動することができる。
【0074】
なお、上述の説明においては、工作機械85のNC装置86において、工具をオフセットする例を取リ上げて説明したが、この形態に限られず、たとえばCAM装置83において工具経路を生成するときに、工具が小径の場合には、予め工具長を補正したり、工具経路をオフセットしたりしても構わない。
【0075】
上述の剛性切替え装置は、ベアリングケース14のテーパ部14aをフロントハウジング11のテーパ穴部11aに密着させているが、この形態に限られず、ベアリングケースを移動させてテーパ部をハウジングに押し当てることによりベアリングケースを支持していれば構わない。更に、剛性切替え装置は、ベアリングケースのテーパ部を、フロントハウジングに接触させたり離したりする形態に限られず、任意の構成により支持剛性を切り替えることができる。
【0076】
図7に、本実施の形態における他の主軸装置のフロントベアリングとベアリングケースとの部分の拡大概略断面図である。
図7には、小径の工具を用いて低剛性にて主軸1を支持している状態が示されている。他の主軸装置の剛性切替え装置は、油圧室部材71を含む。油圧室部材71は、内部が空洞であり油圧室が形成されている。油圧室部材71は、フロントハウジング11の内面のうち、ベアリングケース14に対向する領域に配置されている。油圧室部材71は、例えば、回転軸線101に沿って油圧室が延びるように形成されている。
【0077】
ベアリングケース14の外面と、フロントハウジング11の内面との間には、僅かな隙間が形成されている。この間隙部35の高さは、例えば数十μmである。ベアリングケース14の前側の端面は、ダイヤフラム31の弾性力によって摩擦部材65に接触した状態である。小径の工具を用いて加工を行う場合には、上述の主軸装置と同様に、主軸1が振動する。この時に、ベアリングケース14は、前側の端面が摩擦部材65と摺動し、摩擦により振動を減衰させることができる。
【0078】
油圧室部材71は、ベアリングケース14に対向する薄肉部71aを有する。薄肉部71aは、油圧装置8から高圧の油圧が供給されると、矢印123に示すようにベアリングケース14に向かって弾性変形するように形成されている。薄肉部71aは、例えば、ばね鋼などの金属にて形成することができる。
【0079】
通常の工具を使用する場合や大径の工具を用いる場合には、油圧装置8により、矢印121,122に示すように、高圧の制御油を油路73,74を通して油圧室部材71の内部に供給する。薄肉部71aが膨らむことにより、ベアリングケース14を半径方向内側に向かって押圧することができる。この結果、ベアリングケース14を高剛性にて支持することができる。このために、主軸1を高い支持剛性にて支持することができる。
【0080】
一方で、小径の工具を用いる場合等には、油圧室部材71の内部の油圧を低下させる。この制御により、薄肉部71aがベアリングケース14から離れて、ベアリングケース14の拘束を解除することができる。このような剛性切替え装置によっても、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0081】
また、
図7に示す他の主軸装置においては、主軸1が回転軸線101の方向に移動しないために、前述のような工具2の工具長を所定の移動量だけオフセットをする制御を行う必要がなく、各軸のサーボモータの制御を簡略化することができる。
【0082】
本実施の形態の主軸装置は、フロントベアリングが2つのアンギュラ軸受21および1つのころ軸受22によって構成されているが、この形態に限られず、フロントベアリングは、任意の種類の軸受を採用することができる。また、任意の個数の軸受を採用することができる。例えば、フロントベアリングは、アンギュラ軸受を用いずにころ軸受にて構成されていても構わない。また、リヤベアリングについても同様に、任意の構成により主軸を支持することができる。
【0083】
本実施の形態の剛性切替え手段は、2段階で主軸を支持する支持剛性を切り替えるように形成されているが、この形態に限られず、3段階以上で支持剛性を切り替えるように形成されていても構わない。例えば、
図7に示す実施の形態において、油圧装置8から油圧室部材71に供給する油圧を3段階以上に切り替えればよい。
【0084】
上記の実施の形態では、使用する工具の径が予め定められた値より小さい工具か、予め定められた値以上の工具かを判別して剛性を切り替えていたが、工具の径で判別せず、工作機械のオペレータが予め振動しやすい工具の番号を指定しておき、その番号の工具が工具交換動作で主軸に装着されることをNC装置86が判断したときに、高剛性から低剛性に切り替えるようにしてもよい。
【0085】
また、上記の実施の形態の振動減衰装置は、摩擦部材65とベアリングケース14の前側の端面とが摺動するように形成されているが、この形態に限られず、主軸1に生じる振動の減衰を促進するように形成されていれば構わない。たとえば、振動減衰装置は、低剛性にてベアリングケース14,15を支持する場合に、ハウジングの内部からベアリングケース14,15に向かって飛び出す弾性部材を有していても構わない。この弾性部材は、ゴムなどの弾性を有する材質にて形成することができる。弾性部材は、高剛性の場合にはハウジングの内部に収容され、低剛性の場合にハウジングから径方向に飛び出してベアリングケースを押圧することができる。弾性部材がベアリングケースを押圧することにより、ベアリングケースおよび主軸の振動を減衰することができる。
【0086】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、請求の範囲に示される形態の変更が含まれている。