特許第6000462号(P6000462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000002
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000003
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000004
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000005
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000006
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000007
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000008
  • 特許6000462-減衰力調整式緩衝器 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000462
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】減衰力調整式緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/46 20060101AFI20160915BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20160915BHJP
   F16F 9/50 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   F16F9/46
   F16F9/34
   F16F9/50
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-530990(P2015-530990)
(86)(22)【出願日】2014年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2014071204
(87)【国際公開番号】WO2015020227
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2015年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-166592(P2013-166592)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山岡 史之
(72)【発明者】
【氏名】山下 幹郎
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−87804(JP,A)
【文献】 特開2013−11342(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/105556(WO,A1)
【文献】 特開2011−75060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、該ピストンに連結され前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力発生機構とを備え、
前記減衰力発生機構は、コイルへの通電により作動して作動流体の流れを制御する常開のソレノイドバルブと、前記ソレノイドバルブの上流又は下流に設けられ、前記ソレノイドバルブとは独立し移動可能なフェイルバルブとを備え、
前記フェイルバルブは、前記作動流体の流路を開く正常位置と、前記作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるフェイル位置との間を移動可能な弁体と、該弁体が離着座するシート部と、前記弁体を移動可能に案内する案内部と、前記弁体をフェイル位置に付勢する付勢手段と、前記コイルの磁界により前記弁体を吸着して正常位置に移動させる吸着部とを有し、
前記シート部及び前記案内部は、前記コイルの磁界によって磁路を構成しない非磁性体からなり、前記弁体及び前記吸着部は、前記コイルの磁界によって磁路を形成する磁性体からなることを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項2】
前記コイルへの通電により、前記ソレノイドバルブの弁体は、前記フェイルバルブの弁体と同方向に移動して正常位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項3】
前記ソレノイドバルブと前記フェイルバルブとは、異なる部材に吸着されて駆動されることを特徴とする請求項1または2に記載の減衰力調整式緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドのストロークに対して、流体の流れを制御することにより、減衰力を発生させ、その減衰力を調整可能な減衰力調整式緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のサスペンション装置に装着される緩衝器は、一般的に、流体が封入されたシリンダ内にピストンロッドが連結されたピストンを摺動可能に嵌装し、ピストンロッドのストロークに対して、シリンダ内のピストンの摺動によって生じる流体の流れをオリフィス、ディスクバルブ等からなる減衰力発生機構によって制御して減衰力を発生させるようになっている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されたパイロット型の油圧緩衝器では、減衰力発生機構であるメインディスクバルブの背部に背圧室(パイロット室)を形成し、流体を背圧室に導入して、メインディスクバルブに対して、背圧室の内圧を閉弁方向に作用させ、ソレノイドバルブ(パイロットバルブ)によって背圧室の内圧を調整することにより、メインディスクバルブの開弁を制御するようにしている。これにより、減衰力特性の調整の自由度を高めることができる。
【0004】
また、特許文献1に記載されたものでは、万一、ソレノイドバルブへの通電が不能になった場合、バルブスプリングのバネ力により、ソレノイドバルブの弁体がフェイル位置まで移動してフェイルバルブに当接し、ソレノイドバルブに代えてフェイルバルブによって機械的に流路面積を調整するようになっている。これにより、フェイル時においても適切な減衰力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−75060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されたもののように、ソレノイドバルブの弁体の移動によりフェイルバルブの開閉を行うものでは、ソレノイドバルブの弁体のストロークをある程度長くする必要があるため、スペース上の制約が大きい。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ソレノイドバルブの弁体のストロークに依存することなく、フェイル時においても適切な減衰力が得られるようにしたパイロット型の減衰力調整式緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る減衰力調整式緩衝器は、作動流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、該ピストンに連結され前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力発生機構とを備え、
前記減衰力発生機構は、コイルへの通電により作動して作動流体の流れを制御する常開のソレノイドバルブと、前記ソレノイドバルブの上流又は下流に設けられたフェイルバルブとを備え、
前記フェイルバルブは、前記作動流体の流路を開く正常位置と、前記作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるフェイル位置との間を移動可能な弁体と、該弁体が離着座するシート部と、前記弁体を移動可能に案内する案内部と、前記弁体をフェイル位置に付勢する付勢手段と、前記コイルの磁界により前記弁体を吸着して正常位置に移動させる吸着部とを有し、
前記シート部及び前記案内部は、前記コイルの磁界によって磁路を構成しない非磁性体からなり、前記弁体及び前記吸着部は、前記コイルの磁界によって磁路を形成する磁性体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る減衰力調整式緩衝器によれば、ソレノイドバルブの弁体のストロークに依存することなく、フェイル時においても適切な減衰力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の縦断面図である。
図2図1に示す減衰力調整式緩衝器の要部である減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
図3図2に示す減衰力発生機構のフェイルバルブを拡大して示す縦断面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の要部である減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の要部である減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
図6図5に示す減衰力発生機構のフェイルバルブを拡大して示す縦断面図である。
図7】本発明の第4実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の要部である減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
図8図7に示す減衰力発生機構のフェイルバルブを拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る減衰力調整式緩衝器1は、シリンダ2の外側に外筒3を設けた複筒構造となっており、シリンダ2と外筒3との間にリザーバ4が形成されている。シリンダ2内には、ピストン5が摺動可能に嵌装されており、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ピストンロッド6の一端がナット7によって連結されており、ピストンロッド6の他端側は、シリンダ上室2Aを通り、シリンダ2及び外筒3の上端部に装着されたロッドガイド8およびオイルシール9に挿通されて、シリンダ2の外部へ延出されている。シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられている。
【0012】
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通させる通路11、12が設けられている。通路12には、シリンダ下室2B側からシリンダ上室2A側への流体の流通のみを許容し、ピストンロッド6の伸び行程から縮み行程に切換った瞬間に開弁する程度のセット荷重の小さな逆止弁13が設けられている。通路11には、伸び行程時にシリンダ上室2A側の流体の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをシリンダ下室2B側へリリーフするディスクバルブ14が設けられている。このディスクバルブ14の開弁圧は、相当に高く、通常路面走行時には開弁しない程度に設定されている。また、ディスクバルブ14には、シリンダ上下室2A、2B間を常時連通するオリフィス(図示せず)が設けられている。
【0013】
ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させる通路15、16が設けられている。通路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への流体の流通のみを許容し、ピストンロッド6の縮み行程から伸び行程に切換った瞬間に開弁する程度のセット荷重の小さな逆止弁17が設けられている。通路16には、シリンダ下室2B側の流体の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをリザーバ4側へリリーフするディスクバルブ18が設けられている。このディスクバルブ18の開弁圧は、相当に高く、通常路面走行時には開弁しない程度に設定されている。また、ディスクバルブ18には、シリンダ下室2Bとリザーバ4との間を常時連通するオリフィス(図示せず)が設けられている。シリンダ2内には、作動流体として、油液が封入され、リザーバ4内には、油液及びガスが封入されている。
【0014】
シリンダ2には、上下両端部にシール部材19を介してセパレータチューブ20が外嵌されて、シリンダ2とセパレータチューブ20との間に環状通路21が形成されている。環状通路21は、シリンダ2の上端部付近の側壁に設けられた通路22によってシリンダ上室2Aに連通している。なお、通路22は、仕様に応じて周方向に、または軸方向に位置をずらして複数設けてもよい。セパレータチューブ20の下部には、側方に突出して開口する円筒状の接続口23が形成されている。外筒3の側壁には、接続口23と同心で接続口よりも大径の開口24が設けられ、この開口24を囲むように円筒状のケース25が溶接等によって結合されている。そして、ケース25に減衰力発生機構26が取付けられている。
【0015】
次に、減衰力発生機構26について、主に図2を参照して説明する。
減衰力発生機構26は、パイロット型のメインバルブ27及び制御バルブ28と、ソレノイドバルブであるパイロットバルブ29と、フェイルバルブ100とを備えている。
【0016】
メインバルブ27は、シリンダ上室2A側の油液の圧力を受けて開弁して、その油液をリザーバ4側へ流通させるディスクバルブ30、及び、このディスクバルブ30に対して閉弁方向に内圧を作用させるパイロット室31を有している。パイロット室31は、固定オリフィス32を介してシリンダ上室2A側に接続され、また、制御バルブ28を介してリザーバ4側に接続されている。ディスクバルブ30には、シリンダ上室2A側とリザーバ4側とを常時接続するオリフィス30Aが設けられている。
【0017】
制御バルブ28は、パイロット室31側の油液の圧力を受けて開弁して、その油液をリザーバ4側へ流通させるディスクバルブ33、及び、このディスクバルブ33に対して閉弁方向に内圧を作用させるパイロット室34を有している。パイロット室34は、固定オリフィス61を介してシリンダ上室2A側に接続され、また、パイロットバルブ29を介してリザーバ4側に接続されている。
【0018】
パイロットバルブ29は、常開の圧力制御弁であり、小径のポート36によって流路を絞り、このポート36をコイル37によって、ガイド部材65の吸着部65Dに吸着されるように駆動される可動子としてのアーマチャ79に連結された弁体38によって開閉することにより、制御バルブ28のパイロット室34の内圧を調整するようになっている。なお、ポート36を小径としたことにより、受圧面積を小さくすることで、最大電流におけるパイロットバルブ29の閉弁時の圧力を大きくとることができ、これにより電流の大小での差圧が大きくなり、減衰力特性の可変幅を大きくすることが可能となっている。
【0019】
フェイルバルブ100は、パイロットバルブ29の下流側、すなわち、パイロットバルブ29とリザーバ4との間に配置され、コイル37への通電による励磁によって作動する。フェイルバルブ100は、コイル37への通電時(正常時)には、コイル37の励磁により、付勢手段であるフェイルバネ101のバネ力に抗して、図2の中心線Cの下側に示す正常位置に移動して、リザーバ4側への流路を開き、非通電時(フェイル時)には、フェイルバネ101のバネ力により、図2の中心線Cの上側に示すフェイル位置に移動して、フェイルオリフィス102によってリザーバ4側への流路を絞るようになっている。
【0020】
次に、減衰力発生機構26の具体的な構造について、更に詳細に説明する。
メインバルブ27、制御バルブ28、パイロットバルブ29及びフェイルバルブ100が組込まれるメインボディ39、制御ボディ40、パイロット室部材41、フェイルボディ103、絶縁部材104、パイロット部材105及び固定子としてのガイド部材65が通路部材42と共にケース25内に配置され、ソレノイドケース43をナット44によってケース25の開口端部に取付けることにより、ケース25内を密閉し、これらをケース25に固定している。
【0021】
通路部材42は、一端部外周にフランジ部42Aを有する円筒状で、フランジ部42Aがケース25の内側フランジ部25Aに当接し、円筒部42Bがセパレータチューブ20の接続口23に液密的に挿入されて環状通路21に接続している。ケース25の内側フランジ部25Aには、径方向に延びる通路溝25Bが形成され、この通路溝25B及び外筒3の開口24を介してリザーバ4とケース25内の室25Cとが連通している。
【0022】
メインボディ39及び制御ボディ40、パイロット室部材41、フェイルボディ103及び絶縁部材104は、略環状に形成されている。パイロット部材105は、小径部105A及び大径部105Bを有する段付の略円筒状に形成されている。ガイド部材65は、一端側に小径のポート圧入部65Aを有し、他端側に小径のプランジャ案内部65Bを有し、中間部に大径部65Cを有する段付の円筒状に形成されている。パイロット部材105の小径部105Aは、メインボディ39及び制御ボディ40に嵌合し、大径部105Bは、パイロット室部材41及びフェイルボディ103に嵌合している。フェイルボディ103の外周部は、ソレノイドケース43内に嵌合している。ガイド部材65のポート圧入部65Aは、パイロット部材105の大径部105B内に嵌合し、大径部65Cは、絶縁部材104内に嵌合し、大径部65Cの端部が絶縁部材104の内側フランジ部104Aに当接し、プランジャ案内部65Bは、内側フランジ部104Aを貫通している。絶縁部材104の外周部は、ソレノイドケース43内に嵌合し、絶縁部材104の端部は、ソレノイドケース43のフランジ部43Aに当接している。パイロット部材105の大径部105Bとガイド部材65の大径部65Cの端部との間には、ガイド部材65のポート圧入部65Aが嵌合する環状のアンカー106が介装されている。
【0023】
メインボディ39には、軸方向に貫通する通路39Aが円周方向に沿って複数設けられている。通路39Aは、メインボディ39の一端部に形成された凹部45を介して通路部材42に連通する。メインボディ39の他端部には、複数の通路39Aの開口部の外周側に環状のシート部46が突出し、内周側に環状のクランプ部47が突出している。メインボディ39のシート部46には、メインバルブ27を構成するディスクバルブ30の外周部が着座している。ディスクバルブ30の内周部は、環状のリテーナ48及びワッシャ49と共に、クランプ部47と制御ボディ40との間でクランプされている。ディスクバルブ30の背面側の外周部には、ゴム等の弾性体からなる環状の弾性シール部材50が加硫接着等の固着手段によって固着されている。ディスクバルブ30は、外周部に通路39A側とケース25内の室25Cとを常時連通させるオリフィス30Aを構成する切欠が形成されている。ディスクバルブ30は、所望の撓み特性が得られるように可撓性のディスク状の弁体を適宜積層してもよい。また、ディスクバルブ30に切欠きを設けてオリフィス30Aを構成するのに代えて、シート部46側をコイニングしてオリフィスを形成してもよい。
【0024】
制御ボディ40の一端側には環状の凹部51が形成され、この凹部51内にディスクバルブ30に固着された弾性シール部材50の外周部が摺動可能かつ液密的に嵌合されて、凹部51内にパイロット室31が形成されている。ディスクバルブ30は、通路39A側の圧力を受けてシート部46からリフトして開弁して、通路39Aをケース25内の室25Cに連通させる。パイロット室31の内圧は、ディスクバルブ30に対して閉弁方向に作用する。パイロット室31は、ディスクバルブ30に設けられた固定オリフィス32を介して通路39Aに連通し、更に、通路部材42に連通している。
【0025】
制御ボディ40には、軸方向に貫通して一端がパイロット室31に連通する通路53が円周方向に沿って複数設けられている。制御ボディ40の他端部には、複数の通路53の開口部の外周側に環状のシート部54が突出し、内周側に環状のクランプ部56が突出している。シート部54には、制御バルブ28を構成するディスクバルブ33が着座している。ディスクバルブ33の内周部は、複数のワッシャ57と共に、クランプ部56とパイロット部材105の大径部105Bとの間でクランプされている。ディスクバルブ33の背面側外周部には、ゴム等の弾性体からなる環状の弾性シール部材58が加硫接着等の固着手段によって固着されている。ディスクバルブ33は、所望の撓み特性が得られるように可撓性のディスク状の弁体を適宜積層してもよい。
【0026】
パイロット室部材41の一端側には環状の凹部59が形成され、この凹部59内にディスクバルブ33に固着された弾性シール部材58の外周部が摺動可能かつ液密的に嵌合されて、凹部59内にパイロット室34が形成されている。ディスクバルブ33は、メインバルブ27のパイロット室31に連通する通路53側の圧力を受けてシート部54からリフトして開弁し、通路53をケース25内の室25Cに連通させる。パイロット室34の内圧は、ディスクバルブ33に対して閉弁方向に作用する。パイロット室34は、パイロット部材105の小径部105Aの側壁に設けられた通路60及びワッシャ57に設けられた通路57Aを介してパイロット部材105の内部の通路105Cに連通している。通路105C内には、固定オリフィス61及びフィルタ35が設けられている。固定オリフィス61及びフィルタ35は、パイロット部材105の先端部にネジ込まれたリテーナ62によって小径部105内の段部64に固定されている。パイロット部材105の小径部105A内の通路105Cの固定オリフィス61の上流側は、小径部105Aの側壁に設けられた通路52、並びに、ディスクバルブ30及びワッシャ49の内周部に設けられた通路49Aを介してメインボディ39の通路39Aに連通している。
【0027】
ガイド部材65のポート圧入部65A内には、略円筒状のポート部材67が圧入されて固定されている。ポート圧入部65Aの先端部には、環状のリテーナ66が取付けられている。ポート部材67の外周面とパイロット部材105の内周面との間は、Oリング70によってシールされ、ポート部材67内の通路68は、パイロット部材105内の通路105Cに連通している。ポート部材67のガイド部材65内に圧入された端部には、通路68の内径を絞ったポート36が形成され、ポート36は、ガイド部材65内に形成された弁室73内に開口している。
【0028】
ガイド部材65のプランジャガイド部65B内には、プランジャ78が挿入され、軸方向に沿って摺動可能に案内されている。プランジャ78の先端部には、先細り形状の弁体38が設けられ、弁体38は、ガイド部材65内の弁室73に挿入されて、ポート部材67の端部のシート部36Aに離着してポート36を開閉する。プランジャ78の基端部には、大径のアーマチャ79が設けられ、アーマチャ79は、プランジャガイド部65Bの外部に配置されている。プランジャガイド部65Bには、アーマチャ79を覆う略有底円筒状の非磁性体からなるカバー80が取付けられており、カバー80は、アーマチャ79を軸方向に沿って移動可能に案内している。
【0029】
ソレノイドケース43内には、絶縁部材104の内側フランジ部104Aから突出したプランジャガイド部65B及びカバー80の周囲にコイル37が配置されている。コイル37は、絶縁部材104に軸方向に隣接し、ソレノイドケース43の開口部を封止するオーバーモールド107にインサートされた磁性体からなる環状の閉止部材81によって固定されている。コイル37に結線されたリード線(図示せず)は、閉止部材81の切欠及びオーバーモールド107を通して外部に延ばされている。プランジャ78は、ポート部材67との間に設けられた戻しバネ84のバネ力により、弁体38がシート部36Aから離間してポート36を開く開弁方向に付勢されており、コイル37への通電により、推力を発生し、戻しバネ84のバネ力に抗して、弁体38がシート部36Aに着座してポート36を閉じる閉弁方向に移動する。
【0030】
次に、フェイルバルブ100について、図2及び図3を参照して説明する。
フェイルボディ103は、非磁性体からなり、ソレノイドケース43とパイロット部材105の大径部105Bとの間に液密的に嵌合して、絶縁部材104側に室108を形成している。フェイルボディ103には、外周よりの部位に軸方向に貫通して、ケース25内の室25Cと室108とを連通する通路109が設けられている。フェイルボディ103の室108側の端面には、通路109の内周側及び外周側に環状のシート部110、111が突出している。室108内には、シート部110、111に離着座する磁性体からなる円環状の弁体であるフェイル弁112が設けられている。可動子としてのフェイル弁112は、内周部がパイロット部材105の大径部105Bを案内部として軸方向に沿って摺動可能に案内され、外周部がソレノイドケース43の内周面に対して適当な隙間をもって配置され、シート部110、111に着座するフェイル位置(図2の中心線Cの上側参照)と、吸着部となるアンカー106の端部に当接する正常位置(図2の中心線Cの下側参照)との間で軸方向に移動可能となっている。フェイル弁112は、フェイルバネ101のバネ力により、バネ受113を介してフェイル位置に付勢されている。フェイル弁112には、内周側のシート部110への着座部の内周側に、軸方向に貫通する通路114が設けられている。シート部110には、フェイル弁112が着座したとき、通路109と室108との間を連通するフェイルオリフィス102を形成する切欠が設けられている。フェイル弁112は、フェイル位置にあるとき、通路114及びフェイルオリフィス102を介して室108と通路109とを連通し、正常位置にあるとき、通路114を介して室108と通路109とを連通する。
【0031】
弁室73と室108とは、ガイド部材65とポート部材67との間に形成された軸方溝74、リテーナ66に形成された径方向通路75、パイロット部材105とガイド部材65のポート圧入部65Aとの間の環状の隙間76、並びに、アンカー106の内周部及び両端部に形成された溝115によって連通されている。
【0032】
コイル37の周辺に配置された部材のうち、アーマチャ79、ガイド部材65、アンカー106、フェイル弁112、ソレノイドケース43及び閉止部材81は、磁性体からなり、また、図3中においてクロスハッチングを付した絶縁部材104、パイロット部材105及びフェイルボディ103は、非磁性体からなっており、通電によりコイル37が励磁したとき、上述の磁性体からなる部材によって図3中に仮想線で示すように磁路Mを形成する。
【0033】
以上のように構成した減衰力調整式緩衝器1の作用について次に説明する。
減衰力調整式緩衝器1は、車両のサスペンション装置のバネ上、バネ下間に装着され、車載コントローラ等からの指令により、通常の作動状態(正常時)には、コイル37に通電して、プランジャ78に推力を発生させ、弁体38をシート部36Aに着座させて、パイロットバルブ29による圧力制御を実行する。
【0034】
ピストンロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が閉じ、ディスクバルブ14の開弁前には、上流室となるシリンダ上室2A側の流体が加圧されて、通路22及び環状通路21を通り、セパレータチューブ20の接続口23から減衰力発生機構26の通路部材42に流入する。
【0035】
このとき、ピストン5が移動した分の油液がリザーバ4からベースバルブ10の逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流入する。なお、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ14の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ14が開いて、シリンダ上室2Aの圧力をシリンダ下室2Bへリリーフすることにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力の上昇を防止する。
【0036】
ピストンロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が開き、ベースバルブ10の通路15の逆止弁17が閉じて、ディスクバルブ18の開弁前には、ピストン下室2Bの流体がシリンダ上室2Aへ流入し、ピストンロッド6がシリンダ2内に侵入した分の流体が上流室となるシリンダ上室2Aから、上記伸び行程時と同様の経路を通ってリザーバ4へ流れる。なお、シリンダ下室2B内の圧力がベースバルブ10のディスクバルブ18の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ18が開いて、シリンダ下室2Bの圧力をリザーバ4へリリーフすることにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力の上昇を防止する。
【0037】
減衰力発生機構26では、通路部材42から流入した油液は、主に次の3つの流路を通ってリザーバ4へ流れる。
(1)メイン流路
通路部材42から流入した油液は、メインボディ39の通路39Aを通り、メインバルブ27のディスクバルブ30を開いてケース25内の室25Cへ流れ、通路溝25B及び開口24を通ってリザーバ4へ流れる。
【0038】
(2)制御流路
通路部材42に流入した油液は、メインボディ39の通路39Aを通り、ディスクバルブ30の固定オリフィス32を通ってパイロット室31へ流れ、更に、パイロット室31から制御ボディ40の通路53を通り、制御バルブ28のディスクバルブ33を開いてケース25内の室25Cへ流れ、通路溝25B及び開口24を通ってリザーバ4へ流れる。
【0039】
(3)パイロット流路
通路部材42に流入した油液は、メインボディ39の通路39Aを通り、ディスクバルブ30及びワッシャ49の内周部に設けられた通路49A、並びに、小径部105Aの側壁の通路52を介してパイロット部材105内に流入し、フィルタ35及び固定オリフィス61を通ってポート部材67内の通路68へ流れる。この油液の圧力は、通路60及び通路57Aを介してパイロット室34に導入される。ポート部材67内の通路68に流入した油液は、ポート36を通り、パイロットバルブ29の弁体38を開いて弁室73へ流れ、軸方向溝74、径方向通路75、隙間76及び溝115を通って室108に流れる。室108へ流れた油液は、フェイルバルブ100を介して、ケース25内の室25Cへ流れ、通路溝25B及び開口24を通ってリザーバ4へ流れる。
【0040】
このとき、フェイルバルブ100では、コイル37への通電により、パイロットバルブ29による圧力制御が実行される正常時には、図3に示すように、磁性体からなるアーマチャ79、ガイド部材65、アンカー106、フェイル弁112、ソレノイドケース43及び閉止部材81によって磁路Mが形成され、フェイル弁112がアンカー106に吸着され、フェイルバネ101のバネ力に抗して正常位置に移動する。この状態では、室108は、通路114を及び通路109を介してケース25内の室25C、すなわち、リザーバ4に連通する。
【0041】
これにより、正常時においては、ピストンロッド6の伸縮行程時共に、減衰力発生機構26のメインバルブ27、制御バルブ28及びパイロットバルブ29によって減衰力が発生する。このとき、メインバルブ27のディスクバルブ30は、通路39A側の圧力を受けて開弁し、背面側に設けられたパイロット室31の内圧が閉弁方向に作用する、すなわち、通路39A側とパイロット室31側との差圧によって開弁するので、パイロット室31の内圧に応じて、内圧が低いと開弁圧力が低く、内圧が高いと開弁圧力が高くなる。
【0042】
また、制御バルブ28のディスクバルブ33は、通路53側の圧力を受けて開弁し、背面側に設けられたパイロット室34の内圧が閉弁方向に作用する、すなわち、通路53側とパイロット室34側との差圧によって開弁するので、パイロット室34の内圧に応じて、内圧が低いと開弁圧力が低く、内圧が高いと開弁圧力が高くなる。
【0043】
ピストン速度が低速域にあるとき、メインバルブ27及び制御バルブ28が閉弁し、油液は、主に上述の(3)のパイロット流路を通ってリザーバ4へ流れ、パイロットバルブ29によって減衰力が発生する。そして、ピストン速度が上昇すると、パイロットバルブ29の上流側の圧力が上昇する。このとき、パイロットバルブ29の上流側のパイロット室31、34の内圧は、パイロットバルブ29によって制御され、パイロットバルブ29の開弁により、パイロット室31、34の内圧が低下する。これにより、先ず、制御バルブ28のディスクバルブ33が開弁して、油液が上述の(3)のパイロット流路に加えて(2)の制御流路を通ってリザーバ4へ流れることにより、ピストン速度の上昇による減衰力の増大が抑制される。
【0044】
制御バルブ28のディスクバルブ33が開弁すると、パイロット室31の内圧が低下する。パイロット室31の内圧の低下により、メインバルブ27のディスクバルブ30が開弁して、油液が上述の(3)のパイロット流路及び(2)の制御流路に加えて(1)のメイン流路を通ってリザーバ4へ流れることにより、ピストン速度の上昇による減衰力の増大が抑制される。
【0045】
このようにして、ピストン速度の上昇による減衰力の増大を2段階に抑制することにより、適切な減衰力特性を得ることができる。そして、コイル37への通電により、パイロットバルブ29の制御圧力を調整することにより、制御バルブ28のパイロット室34の内圧、すなわち、ディスクバルブ33の開弁圧力を制御することができ、更に、ディスクバルブ33の開弁圧力により、メインバルブ27のパイロット室31の内圧、すなわち、ディスクバルブ30の開弁圧力を制御することができる。
【0046】
これにより、メインバルブ27の閉弁領域において、パイロットバルブ29に加えて制御バルブ28のディスクバルブ33が開弁することにより、充分な油液の流量を得ることができるので、パイロットバルブ29の流量(ポート36の流路面積)を小さくすることができ、パイロットバルブ29(ソレノイドバルブ)の小型化及びコイル37の省電力化が可能になる。また、メインバルブ27及び制御バルブ28により、減衰力を2段階に調整することができるので、減衰力特性の調整の自由度を高めて適切な減衰力特性を得ることができる。
【0047】
万一、コントローラの故障、断線等により、コイル37への通電が不能になった場合(フェイル時)、フェイルバルブ100では、コイル37による磁界の消失により、フェイル弁112は、アンカー106による吸着から解放され、フェイルバネ101のバネ力により、図2の中心線Cの上側に示すフェイル位置に移動する。この状態では、室108は、フェイルオリフィス102及び通路109を介してケース25内の室25C、すなわち、リザーバ4に連通する。これにより、作動不能となったパイロットバルブ29に代えてフェイルバルブ112により、減衰力を発生させると共に、制御バルブ28のパイロット室34及びメインバルブ27のパイロット室31の内圧を調整して制御バルブ28及びメインバルブ27の開弁圧力を制御することができる。このようにして、フェイル時においても適切な減衰力を発生させることが可能になる。
【0048】
フェイルバルブ100において、フェイル弁112は、非磁性体であるパイロット部材105の大径部105Bによって内周部が摺動、案内されるので、磁力による横力が発生せず、円滑に移動することができる。一方、フェイル弁112の外周部は、磁性体であるソレノイドケース43の内周面との間に隙間が設けられているので、磁力による横力が発生しても、円滑な移動が妨げられることはない。
【0049】
図3に示すように、正常時には、フェイル弁112は、アンカー106に吸着されて、これらの間の磁気ギャップがゼロになるので、吸着力が最大となり、安定して正常位置に自己保持されることになる。また、フェイル時には、通路114により、フェイル弁112の両端部に作用する油液の圧力は、同圧になるが、フェイル弁112の受圧面積は、シート部110、111への着座により、室108側のほうが大きくなるので、油液の圧力により、フェイル弁112を安定してフェイル位置に保持することができる。
【0050】
次に本発明の第2実施形態について、図4を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同じ参照符号を用いて、異なる部分についてのみ図示して詳細に説明する。
【0051】
図4に示すように、本実施形態に係る減衰力発生機構200では、フェイルバルブ201は、パイロットバルブ29の上流側に設けられている。固定オリフィス61は、リテーナ62に設けられた通路62Aによって通路部材42に連通しており、これにより、制御バルブ28のパイロット室34及びパイロットバルブ29には、通路部材42から固定オリフィス61を介して油液が導入される。また、パイロットバルブ29の弁室73は、パイロット部材105の大径部105Bの側壁に設けられた通路105Dを介してケース25内の室25Cに連通している。
【0052】
フェイルバルブ201は、ポート部材67の先端部と制御ボディ40の端部との間に配置されてポート部材67の先端部に離着座して、通路68を開閉する略有底円筒状のフェイル弁202と、このファイル弁202とパイロット部材105内に固定されたフィルタ35との間に介装された圧縮コイルバネであるフェイルバネ203とを備えている。フェイル弁202は、シート部となるポート部材67の先端部と、吸着部、つまりアンカーとなる制御ボディ40の端部との間に配置されている。フェイル弁202は、その外周部がパイロット部材105(非磁性体)の小径部105Aによって摺動可能に案内されて軸方向に移動可能となっている。フェイル弁202には、側壁に通路202Aが設けられ、ポート部材67の先端部に離着座する底部にオリフィス溝202Bが設けられている。これにより、フェイル弁202は、ポート部材67の先端部から離座した正常位置にあるとき(図4中の中心線C1の下側参照)、通路202Aを介してポート部材67の通路68への流路を開く。また、ポート部材67の先端部に着座したフェイル位置にあるとき(図4中の中心線C1の上側参照)、オリフィス溝202Bによってポート部材67の通路68への流路を絞る。フェイルバネ203は、そのバネ力により、フェイル弁202をフェイル位置に付勢する。
【0053】
コイル37の周辺に配置された部材のうち、アーマチャ79、ガイド部材65、ポート部材67、フェイル弁202、制御ボディ40、メインボディ39、ケース25、ソレノイドケース43及び閉止部材81は、磁性体からなり、また、図4中においてクロスハッチングを付した絶縁部材104及びパイロット部材105は、非磁性体からなり、通電によりコイル37が励磁したとき、磁性体からなる部材によって図4中に仮想線で示すように磁路M1を形成する。
【0054】
このように構成したことにより、上記第1実施形態と同様に減衰力を発生してコイル37への通電により減衰力を調整することができる。このとき、コイル37への通電によりパイロットバルブ29による圧力制御が実行可能な正常時には、フェイルバルブ201は、コイル37への通電により、図4中の中心線C1の下側に示すように、磁性体からなるアーマチャ79、ガイド部材65、ポート部材67、フェイル弁202、制御ボディ40、メインボディ39、ケース25、ソレノイドケース43及び閉止部材81によって磁路M1が形成され、フェイル弁202が制御ボディ40に吸着され、フェイルバネ203のバネ力に抗して正常位置に移動する。この状態では、ポート部材67の通路68への流路が開いて、パイロットバルブ29によって減衰力が発生する。
【0055】
万一、コントローラの故障、断線等により、コイル37への通電が不能になった場合(フェイル時)、フェイルバルブ201では、コイル37の磁界の消失により、フェイル弁202は、制御ボディ40による吸着から解放され、フェイルバネ203のバネ力により、図4の中心線Cの上側に示すフェイル位置に移動する。この状態では、フェイル弁202のオリフィス溝202Bにより、ポート部材67の通路68への流路が絞られる。これにより、作動不能となったパイロットバルブ29に代えてフェイル弁202のオリフィス溝202Bにより、減衰力を発生させると共に、制御バルブ28のパイロット室34及びメインバルブ27のパイロット室31の内圧を調整して制御バルブ28及びメインバルブ27の開弁圧力を制御することができる。このようにして、フェイル時においても適切な減衰力を発生させることが可能になる。
【0056】
フェイルバルブ201において、フェイル弁202は、非磁性体であるパイロット部材105の小径部105Aの内周部によって摺動、案内されるので、磁力による横力が作用せず、円滑に移動することができる。一方、フェイル弁202の内周部は、磁性体であるポート部材67の外周面との間に隙間が設けられているので、磁力による横力が発生しても、円滑な移動が妨げられ難い。
【0057】
上記第1及び第2実施形態において、フェイルバルブは、フェイル時にオリフィスの流路の絞りにより減衰力を発生させるもののほか、ディスクバルブ等の他の形式のバルブ機構によって減衰力を発生させるものとしてもよい。例えばフェイルバネのバネ力によりフェイル弁の開度を調整してもよい。この場合、正常時には、フェイル弁をフェイルバネのバネ力に抗して正常位置に移動させる必要があるので、ソレノイドコイルによる吸着力を相当に大きくする必要がある。
【0058】
上記第1及び第2実施形態において、パイロットバルブをスプールタイプ等の流量制御弁として、リザーバへ流れる油液の流量を調整することにより、減衰力を発生させると共に、メインバルブ及び制御バルブのパイロット室の内圧を制御するようにしてもよい。
【0059】
また、上記第1及び第2実施形態では、減衰力発生機構をシリンダ上室とリザーバとの間に設けた例を示したが、このほか、減衰力発生機構の配置は、これに限らず、シリンダ内のピストンの摺動によって油液の流れを制御して減衰力を発生できれば、いずれの部位に配置してもよい。また、伸び側と縮み側とで異なる部位に配置してもよい。
【0060】
更に、例えば特開2008−267489号公報に示されるように、減衰力発生機構をピストン部に設けたものに本発明を適用してもよい。この場合、シリンダ上室からシリンダ下室への流れと、シリンダ下室からシリンダ上室への流れに対し、それぞれ減衰力発生機構に相当する機構を設けてもよい。この場合、単筒式の緩衝器に適用も可能となる。
【0061】
また、上記実施形態は、パイロット型の減衰力発生機構にフェイルバルブを組込んだ場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、他の形式の減衰力発生機構にフェイルバルブを組込んだものにも適用することができる。
【0062】
次に、本発明の第3実施形態について、図5及び図6を参照して説明する。
なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同じ参照符号を用いて、異なる部分についてのみ図示して詳細に説明する。
【0063】
図5及び図6に示すように、本実施形態に係る緩衝器の減衰力発生機構300では、パイロット部材105の先端部は開放されており、内部の通路105Cは、固定オリフィス61及びフィルタ35を介して通路部材42に連通している。メインボディ39、制御ボディ40及びパイロット室部材41は、パイロット部材105の先端外周部に螺着されたナット301によって、パイロット部材105に固定されている。パイロット部材105の大径部105Bの端部とガイド部材65の端部との間に、磁性体である段付円筒状のアンカー106が設けられている。また、パイロット室34には、可撓性のディスク部材310によって体積弾性が付与されており、制御バルブ28の開弁特性の安定化を図っている。なお、ディスク部材310とパイロット室部材41との間を介してパイロット室34内に混入したエアを、パイロット室部材41に形成した複数の連通路380を介して、ケース25内の室25Cへ流出させることができる。
【0064】
さらに、減衰力発生機構300では、フェイルバルブ302のフェイルボディ303は、一端部がガイド部材65の大径部65C側に当接し、フェイルボディ303と絶縁部材104との間に室304が形成されている。この室304は、フェイルボディ303の内周部及びアンカー106とガイド部材65との間の隙間305、並びに、ガイド部材65とポート部材67との間に形成された軸方向溝74を介して、弁室73に連通している。フェイルボディ303には、室304とケース25内の室25Cとを連通する通路306が設けられている。また、フェイルボディ303の他端部には、フェイルバルブ302の弁体であるフェイル弁307が離着して通路306を開閉する内周側シート部308、および外周側シート部350が形成されている。
【0065】
フェイル弁307は、磁性体からなる円環状の弁体であり、フェイルボディ303のシート部308に着座するフェイル位置(図6の中心線の下側参照)と、シート部308から離間してアンカー106の大径部の端部に当接する正常位置(図6の中心線の上側参照)との間で移動可能となっている。フェイル弁307は、パイロット室部材41との間に介装された圧縮コイルバネであるフェイルバネ309のバネ力によって通路306を閉じるフェイル位置に付勢されている。フェイル弁307は、フェイル位置では、通路306を閉じて、内周側のシート部308に形成された切欠308A及びフェイル弁307の内周部を貫通するオリフィス307Aを介して通路306からケース25内の室25Cへ油液を流通させる。
【0066】
コイル37の周辺に配置された部材のうち、アーマチャ79、ガイド部材65、アンカー106、フェイル弁307、ソレノイドケース43及び閉止部材81は、磁性体からなり、また、図5中においてクロスハッチングを付した絶縁部材104、フェイルボディ303、及びフェイルバネ309は、非磁性体からなる。なお、このようにフェイルバネ309を非磁性体にすることにより、フェイル弁307がアンカー106に吸着される前にフェイルバネ309を介して磁束が流れるのを防止することができる。これにより、通電によりコイル37が励磁したとき、上述の磁性体からなるアーマチャ79、ガイド部材65、アンカー106、フェイル弁307、ソレノイドケース43及び閉止部材81によって磁路M3を形成する。
【0067】
フェイルボディ303には、ソレノイドケース43との間にシール部材としてOリング390を設けている。これにより、フェイル時に、フェイル弁307を介さずに、フェイルボディ303とソレノイドケース43との間の隙間からケース25内の室25Cへ作動流体が流出するのを防止することができる。小径のポート36によってパイロット流量を抑えている本構造において、Oリング390を設けることにより、作動流体の漏れを防止してパイロット室31、34の圧力を所望の設定圧力に維持することができる。
【0068】
このように構成したことにより、上記第1実施形態と同様に減衰力を発生し、コイル37への通電により減衰力を調整することができる。このとき、コイル37への通電によりパイロットバルブ29による圧力制御が実行可能な正常時には、フェイルバルブ302では、コイル37の励磁により、磁性体からなるアーマチャ79、ガイド部材65、アンカー106、フェイル弁307、ソレノイドケース43及び閉止部材81によって磁路M3が形成さる。これにより、フェイル弁307は、アンカー106に磁気吸着され、フェイルバネ309のバネ力に抗して、パイロットバルブ29の弁体38と同じ方向に移動して、正常位置(図6の中心線の下側参照)に配置される。この状態では、フェイルボディ303の通路306からケース25内の室25Cへの流路が開いて、パイロットバルブ29によって減衰力が発生する。
【0069】
万一、コントローラの故障、断線等により、コイル37への通電が不能になった場合(フェイル時)、フェイルバルブ302では、コイル37の磁界の消失により、フェイル弁307は、アンカー106による吸着から解放され、フェイルバネ309のバネ力により、内周側シート部308、外周側シート部350に着座するフェイル位置(図6の中心線の下側参照)に移動する。この状態では、フェイル弁307は、通路306を閉じて、内周側シート部308の切欠308A及びフェイル弁307のオリフィス307Aを介して通路306からケース25内の室25Cへ油液を流通させる。これにより、作動不能となったパイロットバルブ29に代えてフェイルバルブ302により、減衰力を発生させると共に、制御バルブ28のパイロット室34及びメインバルブ27のパイロット室31の内圧を調整して制御バルブ28及びメインバルブ27の開弁圧力を制御することができる。このようにして、フェイル時においても適切な減衰力を発生させることが可能になる。
【0070】
フェイルバルブ302において、フェイル弁307は、非磁性体であるフェイルボディ303によって内周部が摺動、案内されるので、磁力による横力が発生せず、円滑に移動することができる。一方、フェイル弁307の外周部は、磁性体であるソレノイドケース43の内周面との間に隙間が設けられているので、磁力による横力が発生しても、円滑な移動が妨げられることはない。また、正常時には、フェイル弁307は、アンカー106に吸着されて、これらの間の磁気ギャップがゼロになるので、吸着力が最大となり、安定して正常位置に自己保持されることになる。
【0071】
次に、本発明の第4実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。
なお、以下の説明において、上記第3実施形態に対して、同様の部分には同じ参照符号を用いて、異なる部分についてのみ図示して詳細に説明する。
【0072】
図7及び図8に示すように、本実施形態に係る緩衝器の減衰力発生機構400のフェイルバルブ402では、ソレノイドケース43の内周部に円筒状の保持部材401が嵌合されている。保持部材401の一端部は、絶縁部材104に当接している。パイロット部材105の大径部105Bの端部は、ガイド部材65の大径部65Cに当接している。保持部材401とパイロット部材105の大径部105Bとの間に環状の通路405が形成されている。保持部材401及びパイロット部材105の大径部105Bと絶縁部材104との間に弁室406が形成されている。保持部材401の内周部とパイロット部材105の外周部との間に、フェイルボディ404が嵌合されている。フェイルボディ404は、メインボディ39、制御ボディ40及びパイロット室部材41と共にナット301によってパイロット部材105に固定されている。フェイルボディ404には、通路405に連通する通路407が軸方向に沿って貫通されている。
【0073】
弁室406は、パイロット部材105の大径部105Bの端部に当接するガイド部材65の大径部65Cに形成された溝部408、パイロット部材105の大径部105Bの内周部とガイド部材65の外周部との間の隙間409、及び、ガイド部材65とポート部材67との間に形成された軸方溝74を介して、弁室73に連通している。また、弁室406は、通路405及びフェイルボディ404の通路411を介してケース25内の室25Cに連通している。更に、弁室406は、絶縁部材104の外周部に形成された径方向通路450、及び、ソレノイドケース43に嵌合する保持部材401の外周部に形成された軸方向溝410を介してケース25内の室25Cに連通している。
【0074】
フェイルボディ404の一端部には、その通路407からケース25内の室25Cへの油液の流れを制御して減衰力を発生させるオリフィス及びディスバルブからなるフェイル弁411が設けられている。弁室406内には、フェイルバルブ402の弁体である円環状の磁性体からなるフェイル切換弁412が設けられている。絶縁部材104の端面には、フェイル切換弁412の外周側に対向してフェイル切換弁412が離着座する環状のシート部413が突出している。そして、フェイル切換弁412のシート部413への離着座によって弁室406と径方向通路450との間の流路を開閉する。フェイル切換弁412は、外周部が絶縁部材104の内周部によって軸方向に沿って案内され、保持部材401の端面に当接する正常位置(図8の中心線の上側参照)と、絶縁部材104のシート部413に着座するフェイル位置(図8の中心線の下側参照)との間で移動可能になっている。フェイル切換弁412は、外周部が保持部材401の端部の段部に支持されて径方向内側へ放射状に延びる弁バネ414(板バネ)に当接し、この弁バネ414のバネ力によってフェイル位置へ付勢されている
【0075】
コイル37の周辺に配置された部材のうち、アーマチャ79、ガイド部材65、フェイル切換弁412、保持部材401、ソレノイドケース43及び閉止部材81(図8には図示せず)は、磁性体からなる。また、図7,8中においてクロスハッチングを付した絶縁部材104及びパイロット部材105は、非磁性体からなる。これにより、通電によりコイル37が励磁したとき、上述の磁性体からなるアーマチャ79、ガイド部材65、フェイル切換弁412、保持部材401、ソレノイドケース43及び閉止部材81(図8には図示せず)によって磁路M4を形成する。
【0076】
フェイルボディ404には、保持部材401との間にシール部材としてOリング490を設けている。これにより、フェイル時に、フェイル弁411を介さずに、フェイルボディ404と保持部材401との間の隙間からケース25内の室25Cへ作動流体が流出するのを防止することができる。小径のポート36によってパイロット流量を抑えている本構造において、Oリング490を設けることにより、作動流体の漏れを防止してパイロット室31、34の圧力を所望の設定圧力に維持することができる。
【0077】
このように構成したことにより、上記第3実施形態と同様に減衰力を発生してコイル37への通電により減衰力を調整することができる。このとき、コイル37への通電によりパイロットバルブ29による圧力制御が実行可能な正常時には、フェイルバルブ402では、コイル37の励磁により、磁性体からなるアーマチャ79、ガイド部材65、フェイル切換弁412、保持部材401、ソレノイドケース43及び閉止部材81(図8には図示せず)によって磁路M4が形成され、フェイル切換弁412は、保持部材401に磁気吸着され、フェイルバネ414のバネ力に抗して、パイロットバルブ29の弁体38と同じ方向に移動して、正常位置(図8の中心線の上側参照)に配置される。この状態では、フェイル切換弁412がシート部413から離間して、弁室406から径方向通路450への流路が開かれる。これにより、パイロットバルブ29の下流側の弁室73からケース25内の室25Cへの流路が開いて、パイロットバルブ29によって減衰力が発生する。
【0078】
万一、コントローラの故障、断線等により、コイル37への通電が不能になった場合(フェイル時)、フェイルバルブ402では、コイル37の磁界の消失により、フェイル切換弁412は、保持部材401による吸着から解放され、フェイルバネ414のバネ力により、シート部413に着座するフェイル位置(図8の中心線の下側参照)に移動して、径方向通路450を閉じる。これにより、パイロットバルブ29の下流側の油液は、弁室406から油路405及び油路407を通り、フェイル弁411を介してケース25内の室25Cへ流れる。これにより、作動不能となったパイロットバルブ29に代えてフェイル弁411により、減衰力を発生させると共に、制御バルブ28のパイロット室34及びメインバルブ27のパイロット室31の内圧を調整して制御バルブ28及びメインバルブ27の開弁圧力を制御することができる。このようにして、フェイル時においても適切な減衰力を発生させることが可能になる。
【0079】
フェイルバルブ402において、フェイル切換弁412は、非磁性体である絶縁部材104によって外周部が摺動、案内されるので、磁力による横力が発生せず、円滑に移動することができる。一方、フェイル切換弁412の内周部は、磁性体であるガイド部材65との間に隙間が設けられているので、磁力による横力が発生しても、円滑な移動が妨げられることはない。また、正常時には、フェイル切換弁412は、保持部材401及びガイド部材65の溝部408に磁気吸着されて、これらの間の磁気ギャップがゼロになるので、吸着力が最大となり、安定して正常位置に自己保持されることになる。
【0080】
なお、何れの実施形態も、フェイル弁はアンカーに吸着され、アーマチャはガイド部材に吸着される。つまり、可動子であるフェイル弁、アーマチャは、磁路を形成する異なる固定子(アンカー、ガイド部材)に、それぞれ吸着される構成とした。これにより、精度が必要な吸着面を1つの部材の一面にのみ形成すればよいので、1つの固定子に2つの可動子を吸着する構成と比して、生産性に優れる構成とすることができる。
【0081】
なお、第3実施形態では、ディスク部材310とパイロット室部材41との間を介してパイロット室34内に混入したエアを、パイロット室部材41に形成した複数の連通路380を介して、ケース25内の室25Cへ流出させることを示した。その他の実施の形態のパイロット室部材41も同様の構成をとることにより、パイロット室34内に混入したエアを、ケース25内の室25Cへ流出させることができる。また、何れの実施形態においても、パイロット室34を形成するパイロット室部材41を焼結によって微小隙間を有する焼結部品として製造することにより、作動流体は漏らさず、パイロット室に混入したエアのみを焼結部品の微小隙間を介して排出することができる。また、焼結で形成することにより、切削や鍛造で形成する場合と比して製造コストも抑えることができる。
【符号の説明】
【0082】
1…減衰力調整式緩衝器、2…シリンダ、5…ピストン、6…ピストンロッド、26…減衰力発生機構、29…パイロットバルブ(ソレノイドバルブ)、37…コイル、100…フェイルバルブ、101…フェイルバネ(付勢手段)、105B…大径部(案内部)、106…アンカー(吸着部)、112…フェイル弁(弁体)、110、111…シート部、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8