(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000467
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】高同位体純度のプルトニウム−238を効率的に調製するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B01D 59/02 20060101AFI20160915BHJP
G21C 23/00 20060101ALI20160915BHJP
B01D 59/04 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
B01D59/02
G21C23/00 Z
B01D59/04
【請求項の数】24
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-541812(P2015-541812)
(86)(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公表番号】特表2016-503339(P2016-503339A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】US2013067722
(87)【国際公開番号】WO2014113119
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】13/675,850
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591056259
【氏名又は名称】ジェネラル アトミックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】バーチ,ティモシー,クレストン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ロイド,チョウンシー
【審査官】
林 靖
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−284089(JP,A)
【文献】
特開2010−127616(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0265605(US,A1)
【文献】
米国特許第02833617(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0224472(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 19/00−19/50
G21C 23/00
G21G 1/00−5/00
B01D 59/02
B01D 59/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子を利用してプルトニウム−238(Pu−238)を調製するためのシステムであって、
前記中性子によってネプツニウム−237(Np−237)ヘキサフルオライドの一部をネプツニウム−238(Np−238)ヘキサフルオライドに変換させるのに十分な時間の間、Np−237ヘキサフルオライドを含む液体を受け取ると共に、前記中性子を受け取り、Np−237ヘキサフルオライドとNp−238ヘキサフルオライドとを含む第1液体混合物を生成する照射ユニットと、
前記照射ユニットに連結する第1パイプと、
前記第1パイプに連結しており、少なくとも1つの保存タンクを備える崩壊ユニットであって、当該少なくとも1つの保存タンクが、前記第1パイプを介して前記照射ユニットから前記第1液体混合物を連続的に受け取り、Np−237ヘキサフルオライドと、Np−238ヘキサフルオライドと、プルトニウム−238(Pu−238)ヘキサフルオライドとを含む第2液体混合物を生成するために、前記第1液体混合物を、Np−238ヘキサフルオライドが少なくとも部分的にPu−238ヘキサフルオライドに変換するのに十分な時間、保持するように構成された崩壊ユニットと、
前記少なくとも1つの保存タンクに連結する第2パイプと、
前記第2パイプに連結しており、前記第2パイプを介して前記少なくとも1つの保存タンクから前記第2液体混合物を連続的に受け取り、分留に基づいて前記第2液体混合物中のPu−238ヘキサフルオライドからNp−237ヘキサフルオライドおよびNp−238ヘキサフルオライドを同時に且つ時間的に連続的に分離し、分離されたNp−237ヘキサフルオライドおよびNp−238ヘキサフルオライドを含む第3液体混合物を連続的に除去し、前記第3液体混合物が分離されたPu−238ヘキサフルオライドを含む第4液体混合物を連続的に収集する分離ユニットと、
前記分離ユニットおよび前記照射ユニットに連結しており、前記分離ユニットから再び前記照射ユニットへと前記第3液体混合物を連続的にリサイクルする第3パイプと、を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記照射ユニットは、Np−237ヘキサフルオライドを含む前記液体を受け取る複数
のパイプまたはパネルを備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数のパイプまたはパネルを互いに連結している第4パイプをさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記崩壊ユニットは、前記第1液体混合物を受け取る複数の保存タンクを備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記複数の保存タンクを互いに直列に連結しているパイプをさらに備えることを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記崩壊ユニットは、前記第1液体混合物を受け取り、前記第1液体混合物を栓流で自身の内部を運ぶ充填容器を備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記分離ユニットは、前記第2液体混合物を当該第2液体混合物の沸点温度以上まで加熱することにより、前記第3液体混合物を優先的に蒸発させる容器と、前記第4液体混合物を収集する排出口と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記分離ユニットは、蒸発した前記第3液体混合物を優先的に蒸留する蒸留部をさらに備え、
前記蒸留部は、
前記第2液体混合物を加熱している前記容器に連結している蒸留塔と、
前記蒸留塔の蒸気生成物の一部を前記蒸留塔の下方へ逆流させて分留を引き起こす部分凝縮器と、
導管と、
全凝縮器と、を備え、
前記導管は、優先的に蒸留され蒸発した第3液体混合物を前記全凝縮器へ運び、
前記全凝縮器は、優先的に蒸留され蒸発した第3液体混合物を液化させることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記蒸留塔は、複数の蒸留板を備えることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記蒸留塔は、充填カラムとして構成されていることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記第3パイプは、前記第3液体混合物を前記照射ユニットに戻すために、前記全凝縮器を前記照射ユニットに連結することを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記第2液体混合物は、Pu−238テトラフルオライドをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記中性子は、原子炉から放射されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記原子炉と、前記照射ユニットの少なくとも一部とが設置されている共用プールをさらに備えることを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
中性子を利用してプルトニウム−238(Pu−238)を調製するための方法であって、
照射ユニットにおいて、前記中性子によってネプツニウム−237(Np−237)ヘキサフルオライドの一部をネプツニウム−238(Np−238)ヘキサフルオライドに
変換させるのに十分な時間の間、Np−237ヘキサフルオライドを含む液体を受け取ると共に、前記中性子を受け取り、Np−237ヘキサフルオライドとNp−238ヘキサフルオライドを含む第1液体混合物を得る工程と、
少なくとも1つの保存タンクを備えている崩壊ユニットにおいて、
前記照射ユニットと前記崩壊ユニットとに連結している第1パイプを介して前記照射ユニットから前記第1液体混合物を前記少なくとも1つの保存タンクに連続的に受け取る工程と、
Np−237ヘキサフルオライドと、Np−238ヘキサフルオライドと、プルトニウム−238(Pu−238)ヘキサフルオライドとを含む第2液体混合物を生成するために、前記少なくとも1つの保存タンクにおいて、前記第1液体混合物を、Np−238ヘキサフルオライドが少なくとも部分的にPu−238ヘキサフルオライドに変換するのに十分な時間、保持する工程と、
分離ユニットにおいて、
前記少なくとも1つの保存タンクに連結している第2パイプを介して、前記少なくとも1つの保存タンクから前記第2液体混合物を連続的に受け取る工程と、
分留に基づいて前記第2液体混合物中のPu−238ヘキサフルオライドからNp−237ヘキサフルオライドおよびNp−238ヘキサフルオライドを同時に且つ時間的に連続的に分離する工程と、
分離されたNp−237ヘキサフルオライドおよびNp−238ヘキサフルオライドを含む第3液体混合物を連続的に除去する工程と、
前記第3液体混合物が分離されたPu−238ヘキサフルオライドを含む第4液体混合物を連続的に収集する工程と、
前記分離ユニットおよび前記照射ユニットに連結している第3パイプを介して、前記分離ユニットから再び前記照射ユニットへと前記第3液体混合物を連続的にリサイクルする工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記照射ユニットは、Np−237ヘキサフルオライドを含む液体を受け取る複数のパイプまたはパネルを備えることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複数のパイプまたはパネルを第4パイプが互いに連結していることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
複数の保存タンクが、前記第1液体混合物を受け取ることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記保存タンクは互いに直列に連結されていることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記分離する工程は、前記第3液体混合物を優先的に蒸発させるために、容器の中で前記第2液体混合物を当該第2液体混合物の沸点以上まで加熱する工程を含むことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記分離する工程は、前記第3液体混合物を優先的に蒸留し、蒸発させて、続いて液化させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2液体混合物は、Pu−238テトラフルオライドをさらに含むことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記中性子は、原子炉から放射されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記照射ユニットは、前記原子炉と共に共用プールに設置されており、前記原子炉から前記中性子を受け取ることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本願は、2012年11月13日に出願された米国特許出願第13/675850号(発明の名称「プルトニウム−238を効率的に調製するためのシステムおよび方法」)の利益を主張するものであり、この米国特許出願の内容全体は、参照によって本願に組み込まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本願は、プルトニウム−238を調製するためのシステムおよび方法に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
プルトニウム−238(Pu−238)は、「放射性同位体熱電発電機(RTG)」と呼ばれる、便利、コンパクト、且つ長寿命なエネルギー源として用いられてきた。具体的には、Pu−238は、約88年の半減期を有するプルトニウム同位体である。Pu−238は、自然崩壊によりα粒子およびウラニウム−234(U−234とも呼ばれる)を形成した後、ラジウム系列を経て鉛−206へさらに崩壊する。また、Pu−238の崩壊は、Pu−238の1g当たり0.5Wの転換率で電力に転換可能な熱も発生させる。Pu−238は、有用な量の電力を生成するのに十分に短く、且つ当該電力を有用な時間装置に供給するのに十分に長い半減期を有するため、数ある種類の装置の中でも宇宙船および人工衛星に特に好適なエネルギー源である。
【0004】
しかし、Pu−238は、自然発生するプルトニウム同位体ではないため、合成しなければならない。米国では、1940年代から1960年代の間に、核分裂生成物(例えば、プルトニウム、ウラニウム、ネプツニウム、および核産物等)を互いに分離させる化学的方法および/または物理的方法について多くの研究がなされていた。比較的少数の方法が揮発性を利用していた。例えば、Brownらによる米国特許第2785047号、Seaborgらによる米国特許第2833617号、Jaffeyらによる米国特許第2865704号、Speddingらによる米国特許第2882125号、およびJonkeらによる米国特許第3294493号を参照されたい。Brownらによる米国特許第2869982号の方法では、ウラニウムとプルトニウムとを分離する分留が用いられた。しかし、このような化学的方法および/または蒸留に基づく方法では、所定の元素の特定の同位体を互いに十分に分離させることができない。例えば、Pu−238および当該Pu−238の安定同位体であるPu−239の両方が核分裂生成物に含まれている場合、この2つの同位体を化学反応および/または蒸留で容易に互いに分離させることができない。純粋のPu−238は、Pu−239とPu−238とが互いに混合されていない方法のみによって合理的に得ることができる。
【0005】
最近、Pu−238の同位体が宇宙船用のRTGに適しているため、Pu−238の調製への関心が復活した。例えば、Jonesによる米国特許第6896716号には、原子炉内においてネプツニウム−237(Np−237)ターゲットに熱中性子を照射することによって、Pu−238を生成するスキームが知られていることが開示されている。具体的には、Jonesには、このようなNp−237ターゲットへの照射により、2.12日の半減期でβ崩壊を経てPu−238に崩壊するNp−238を生成することが開示されている。また、Jonesでは、このようなスキームでは、プルトニウムの高い同位体および低い同位体の両方が生成される可能性があることが指摘されている。例えば、Jonesには、ターゲット自身内で生成されたPu−238も、Pu−239およびPu−240等の高いプルトニウム同位体を生成するためのターゲットになることが開示されている。さらに、Jonesには、Np−237がウラニウム−236(U−236)およびPu−236をなすように、高速中性子が当該Np−237に崩壊させ得ることが開示されている。Pu−236は、有害なガンマ線を放射する娘生成物を含むU−232に崩壊する。そこで、Jonesでは、反応炉内の高熱中性子線をアメリシウム−241(Am−241)の安定酸化物であるターゲットに照射することによってPu−238を生成する別の方法を対象としている。Jonesには、照射してから20〜30日後、Am−241がキュリウム−242(Cm−242)に変換し、その後キュリウム−242を好ましくは10〜20日以内に迅速に化学的に分離しなければならないことが開示されている。Cm−242は、163日の半減期を有しており、Pu−238へ崩壊する。
【0006】
Jonesには、Am−241に基づく方法によれば、約95%の純度を持つPu−238の調製が可能であると記載されているが、この方法は時間を要し、且ついくつかの煩雑な工程を含むことが明らかである。例えば、決まったスケジュールに従ってターゲットを物理的に原子炉内に挿入し、当該原子炉内から取り出さなければならないし、ターゲットを迅速に化学処理しなければならない。また、Pu−238を得るために、得られる反応生成物を数ヵ月にもわたって崩壊させなければならない。既知のNp−237に基づく方法の欠点は、原子炉へのターゲットの挿入および取り出しに同様の要件を有し、Pu−238に加えていくつかの別のプルトニウム同位体を生成し得る等、明らかである。このような同位体を互いに分離させることは困難な可能性がある。この観点から、Pu−238以外の生成された各プルトニウム同位体は、Pu−238の全体的な収率を低下させ、それにより材料が生成し得る電力を低下させることに留意すべきである。
【0007】
また、Jonesに開示された方法にもかかわらず、Pu−238のためのいかなる生産設備も現在、世界中のどこかに存在しているとは思われていない。既知のNp−237に基づく方法を最初に用いて、いくらかのPu−238が以前に生産および保管されているが、Pu−238の現在の供給は一定量であると思われており、将来の宇宙船および人工衛星に電力を供給するRTGへのPu−238の利用が不可能な速度で当該Pu−238が消費されている。
【0008】
そのため、実用的、効率的、低コストおよび迅速な、高同位体純度のPu−238を調製する方法が必要である。
【0009】
〔発明の概要〕
本発明の実施形態は、高同位体純度(すなわち、他のプルトニウム同位体が比較的低量)のプルトニウム−238(Pu−238)を効率的に調製するためのシステムおよび方法を提供する。具体的には、このような高純度のPu−238は、Pu−238に崩壊するNp−238を生成するために、Np−237を熱中性子に晒すことによって、不要な副反応が発生し得る範囲を制限し、Np−237が中性子に晒される時間を大幅に制限するシステムおよび方法を提供することによって調製できる。したがって、Np−237およびその所望の生成物、Np−238ならびにPu−238が高速中性子または別の熱中性子と反応し、それにより不要な生成物を生成する可能性が大幅に低減する。好ましくは、本発明に係るシステムおよび方法は、Np−237およびその所望の生成物、Np−238ならびにPu−238を液状に保つことにより、当該液体の流速を調節することでこれらの熱中性子への照射を慎重に制御することができるという効果を奏する。
【0010】
本発明の一態様においては、原子炉から放射される中性子を利用してプルトニウム−238(Pu−238)を調製するシステムは、ネプツニウム−237(Np−237)系化合物を含む液体を受け取ると共に、前記原子炉から放射された前記中性子を受け取ることにより、前記中性子によって前記Np−237系化合物の一部をネプツニウム−238(Np−238)系化合物に変換させ、前記Np−237系化合物と、比較的少量の前記Np−238系化合物との液体混合物を生成するように構成された照射ユニットを含む。また、前記システムは、前記照射ユニットから得られる混合物を、前記液体中の前記Np−238系化合物が少なくとも部分的(好ましくは、ほぼ完全)にプルトニウム−238(Pu−238)系化合物に変換するのに十分な時間保持し、前記Np−237系化合物と、前記Np−238系化合物と、前記Pu−238系化合物との混合物を含む液体を生成するように構成された崩壊ユニットを、さらに含んでいてもよい。また、前記システムは、前記崩壊ユニットから得られた混合物を当該液体混合物の沸点温度まで加熱することにより、前記Np−237系化合物に関連して前記Pu−238系化合物中で凝縮または減損された蒸気を形成するように構成された容器と、前記蒸気を収集するように構成された凝結システムとを有する分離ユニットをさらに含んでいてもよい。好ましくは、前記分離ユニットは、加熱容器を底部に有し、最適なトレイまたはパッキングを備えた蒸留塔を有する分留装置を含む。前記凝結システムは、液化された蒸気の一部を前記蒸留塔の下部へ還流させ、残りの蒸気を単独の液体生成物として液化させてもよい。あるいは、溶媒抽出、分別晶出またはクロマトグラフィ等の別の分離方式を採用してもよい。
【0011】
また、一部の実施形態においては、前記照射ユニットは、前記原子炉に近接して配置されており、前記Np−237系化合物を含む液体を受け取るように構成された複数のパネルを含む。前記システムは、前記パネルを互いに平行に連結するパイプを含んでいてもよい。一部の実施形態においては、前記原子炉と、前記照射ユニットの少なくとも一部とが共用プール内に設置されている。
【0012】
また、一部の実施形態においては、前記崩壊ユニットは、前記Np−237系化合物と前記Np−238系化合物との混合物を含む液体を受け取るように構成された複数の保存タンクを含む。例示的な一実施形態において、前記崩壊ユニットは、前記液体の逆混合を最低限にするパッキングを有する単一の保存タンクを含んでいる。前記システムは、前記収容タンクを互いに直列に連結するパイプを含んでいてもよい。
【0013】
また、一部の実施形態においては、前記分離ユニットは、導管および凝縮器を含み、当該導管は、前記蒸気を液体に凝結させ、凝結された液体を前記分離ユニットに運ぶように構成されている。一例では、前記蒸気は前記Np−237系化合物を含んでいてもよく、前記凝縮器は前記Np−237系化合物を含んだ液体に前記蒸気を凝結させるように構成されていてもよい。前記システムは、前記Np−237系化合物を含む凝結された液体を前記照射ユニットに戻すために、前記凝縮器を前記照射ユニットに連結するパイプを含んでいてもよい。
【0014】
また、例示的な一実施形態においては、前記Np−237系化合物はネプツニウム−237ヘキサフルオライドであり、前記Np−238系化合物はネプツニウム−238ヘキサフルオライドであり、前記Pu−238系化合物はプルトニウム−238ヘキサフルオライドである。
【0015】
本発明の別の態様においては、原子炉から放射される中性子を利用してプルトニウム−238(Pu−238)を調製する方法は、ネプツニウム−237(Np−237)系化合物を含む液体の流体に、前記原子炉から放射された中性子を照射することにより、前記中性子によって一部の前記Np−237系化合物をネプツニウム−238(Np−238)系化合物に変換させ、前記Np−237系化合物と、比較的少量の前記Np−238系化合物との液体混合物を得る工程を含む。また、前記方法は、得られた混合物を、前記Np−238系化合物が少なくとも部分的(好ましくは、ほぼ完全)にプルトニウム−238(Pu−238)系化合物に変換するのに十分な時間保持し、前記Np−237系化合物と、前記Np−238系化合物と、前記Pu−238系化合物との混合物を含む液体を得る工程をさらに含んでいてもよい。前記方法は、得られた前記混合物を当該混合物の沸点温度まで加熱することにより、前記Np−237系化合物に関連して前記Pu−238系化合物中で凝縮または減損された蒸気を形成および収集する工程をさらに含んでいてもよい。
【0016】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、本発明の一部の実施形態に係る、現存の原子炉と共働してプルトニウム−238を調製するシステムのハイレベル概略図を示す。
【0017】
図2は、
図1のシステムの透視図を示す。
【0018】
図3A〜3Dは、
図1および
図2のシステムの部材のさらなる詳細の透視図を示す。
【0019】
図4は、本発明の一部の実施形態に係る、プルトニウム−238を調製するための方法を示す。
【0020】
図5は、ネプツニウムヘキサフルオライドおよびプルトニウムヘキサフルオライドの相図を示す。
【0021】
図6は、本発明または既知の方法を用いてPu−238を調製する際に形成され得る反応生成物を示す。
【0022】
〔詳細な説明〕
本発明の実施形態は、高同位体純度(すなわち、他のプルトニウム同位体が比較的低量)のプルトニウム−238(Pu−238)を効率的に調製するためのシステムおよび方法を提供する。具体的には、本発明の実施形態は、例えばJonesに開示されているような既知の固相処理ではなく、ネプツニウム−237(Np−237)系化合物の液相処理に基づいてPu−238を生成する。液相処理は、例えばネプツニウムヘキサフルオライド(
237NpF
6)等の可溶性および化学的安定性を有するNp−237系化合物を含んだ液体を提供することから始まる。Np−237系化合物を含んだ液体は、原子炉の近くに位置する照射ユニットを通って運ばれる。当該照射ユニットでは、液体に熱中性子を照射することにより、一部のNp−237系化合物を同化合物のネプツニウム−238類似物(例えば、Np−238ヘキサフルオライド(
238NpF
6))へ変換させる。なお、当該ネプツニウム−238類似物は、液体中に溶解可能であることが好ましい。そして、得られた混合物は、崩壊ユニットを通って運ばれる。当該崩壊ユニットは、混合物へのさらなる中性子の照射を抑制するために、原子炉から遠く離れた場所または原子炉から遮蔽された場所に位置している。液体中のNp−238系化合物の少なくとも一部は、崩壊ユニット内において、同化合物のプルトニウム−238類似物(例えば、Pu−238ヘキサフルオライド(
238PuF
6))に崩壊する。なお、当該プルトニウム−238類似物は、液体中に溶解可能であることが好ましい。そして、得られた混合物は、化合物のネプツニウム類似物およびプルトニウム類似物の少なくとも一部を蒸留または他の適切な方法によって互いに分離する分離ユニットへ運ばれる。好ましくは、液体が反応炉を過ぎて崩壊タンクを通るときの流速は、不要な反応生成物のリスクを低減しながらも、Np−237系化合物からNp−238系化合物への十分な変換率、およびNp−238系化合物からPu−238系化合物への十分な変換率を実現するように設定する。分離後、さらなるPu−238の生成のために、残りのNp−237系化合物またはNp−238系化合物を照射ユニット、崩壊ユニットおよび分離ユニットへ再循環させてもよい。
【0023】
まず、Pu−238を生成するために構成された例示的なシステムについて説明する。次に、Pu−238を生成するための例示的な方法について説明する。最後に、本発明のシステムおよび方法により生成されたPu−238の予想同位体純度と、固体Np−237に基づく既知のシステムおよび方法により生成されたPu−238の予想同位体純度とを比較する。
【0024】
図1は、本発明の一部の実施形態に係る、既存の原子炉10と共働してPu−238を生成するためのシステム100のハイレベル概略図を示す。システム100は、照射ユニット110と、照射ユニットと連結している崩壊ユニット120と、照射ユニット110および崩壊ユニット120の両方と連結している分離ユニット130とを含む。これにより、これらのユニットは、部分的閉ループの流体制御システムをなしている。
【0025】
水プール11中に浸漬可能な核分裂原子炉10は、運動エネルギーおよび流束を有する熱中性子12を放射する。当業者に理解されるように、核分裂原子炉は、1〜2MeV程度の運動エネルギーを有する「高速」中性子を核分裂生成物として放射することができる。当該「高速」中性子は、重水、軽水またはグラファイト等の中性子減速材を利用すれば、0.01〜0.04eV程度(例えば、0.025eV程度)の運動エネルギーを有する「熱」中性子へ変換することが可能である。熱中性子12は、Np−238を生成するためにNp−237の原子核と融合するのに最適な運動エネルギーを有していることが好ましい。
【0026】
システム100の照射ユニット110は、反応炉10に隣接して設置されており、反応炉10と共に共用プール11内に設置されていることが好ましい。照射ユニット110は、Np−237系化合物を含む液体の流体を受け取ると共に、反応炉から熱中性子を受けることにより、比較的少量のNp−237系化合物をNp−238系化合物(例えば、Np−237系化合物のNp−238系類似物)へ変換させるように構成されている。一部の実施形態においては、得られた混合物には、約10%以下のNp−238系化合物および約90%以上のNp−237系化合物、また約5%以下のNp−238系化合物および約95%以上のNp−237系化合物、あるいは約1%以下のNp−238系化合物および約99%以上のNp−237系化合物、もしくは約0.1%以下のNp−238系化合物および約99.9%以上のNp−237系化合物が含まれる。
【0027】
照射ユニット110および反応炉10は、液体へ照射される高速中性子の流束を低減または最少化するように構成されていることが好ましい。具体的には、前述したように、また、本分野で周知されているように、高速中性子は、Np−237を、U−236およびPu−236に崩壊するNp−236に変換させる可能性があるため、Pu−238の全体的収率を低下させるだけでなく、有害な崩壊生成物を生成する可能性がある。そのため、照射ユニット110、反応炉10および共用プール11は、十分に厚い中性子減速材を照射ユニット110と反応炉10との間に設ける等して、液体に受け取られる高速中性子の流束を低減させるように構成されていることが好ましい。一部の実施形態においては、共用プール11がこのような中性子減速材として機能する。また、別の実施形態(図示せず)においては、照射ユニット110は、反応炉10の内部に設置されていてもよく、当該反応炉10は、液体への高速中性子の射を低減させる中性子減速材を含んでいることが好ましい。
【0028】
中性子12がNp−238系化合物を生成するため、当該化合物は、液体に容易に溶解可能であり、且つNp−237系化合物と容易に混合できることが好ましい。得られた液体混合物は、ポンプ(図示せず)の作用下、または好ましくは分離ユニット130内で生成された後述する圧力の下で照射ユニット110内を流通してもよい。また、照射ユニット110は、液体の流動性を確保するために、当該液体を所定の温度(例えば、混合物中の化合物が液相に留まる温度および/または混合物中の化合物が液体中に溶解可能な温度)に保持する加熱器(図示せず)を含んでいてもよい。Np−237系化合物およびNp−238系化合物は、互いの類似物であることが好ましい。換言すれば、両化合物は、化学成分中の放射性同位体のみが相違することが好ましい。したがって、好ましい実施形態においては、中性子12は、Np−237系化合物中のNp−237原子をNp−238原子に変換させる以外は、Np−237系化合物の物理的または化学的な変化をもたらさなければよい。非限定的な一例においては、Np−237系化合物は
237NpF
6であり、Np−238系化合物は
238NpF
6である。
【0029】
液体混合物の流速は、反応炉10からの中性子12の流束と、Np−238の半減期との両方に応じて選択してもよい。具体的には、中性子12が一部のNp−237系化合物をNp−238系化合物に変換すると、当該Np−238系化合物内のNp−238原子が理想的な半減期でPu−238原子に崩壊し得る。しかし、中性子12の流束が強いほど、また、Pu−238原子が反応炉10の付近に滞留する時間が長いほど、中性子12がPu−238系化合物内のPu−238原子を高いプルトニウム同位体(例えば、プルトニウム−239(Pu−239)またはプルトニウム−240(Pu−240))に変換する可能性が高くなる。前述したように、また、当業者も熟知しているように、異なるプルトニウム同位体を互いに分離させることが困難な可能性があるため、異なるプルトニウム同位体に変換されたPu−238は、Pu−238の全体的収率を低下させ、不要な同位体によってPu−238の濃度を低くさせる。さらに、前述したように、これら別の同位体自身が不要な生成物に崩壊する可能性がある。そこで、照射量および中性子束を一定にした場合、照射ユニット110の通過時の流速を上げることにより、Pu−238系化合物の生成率を低減させずに、照射される液体中のPu−238系化合物の濃度を低減させることができる。これにより、Pu−238系化合物からPu−239系化合物への変換率が低くなり、生成物の純度を向上させることができる。さらに、後により詳しく説明するように、一定の流速になるまでシステム10における非照射部分の容積を増すことは、さらなるNp−238系化合物のPu−238系化合物への崩壊をもたらすことができる。これにより、Pu−238系化合物の収率が向上し、照射ユニット110へ戻される液体中のNp−238系化合物の濃度が低くなるため、Pu−239系化合物が形成される量を低減することができる。また、後述するように、分離ユニット130の効率を向上させることにより、照射ユニット110へ戻されるPu−238系化合物の量を減少することができる。これにより、Pu−239系化合物が形成される量を低減し、Pu−238系化合物の製品純度および収率を向上させることができる。
【0030】
照射ユニット110は、適当に構成されたパイプを介して崩壊ユニット120と連結しており、可撓性の結合部114を任意に含んでいる。
図1に示すように、崩壊ユニット120は、適当なパイプ(標示せず)により互いに直列で連結された複数の保存タンク121,122,123を含んでいてもよい。あるいは、崩壊ユニットは、Np−237系化合物とNp−238系化合物との液体混合物を受け取り、当該液体を基本的な栓流で自身の内部を運ぶように構成された充填容器であってもよい。また、いずれの実施形態においても、崩壊ユニット120は、照射ユニット110からのNp−237系液体とNp−238系液体との混合物流体を受け取る(例えば、まず保存タンク121内の液体の混合物を受け取り、次に保存タンク122内の液体の混合物を受け取り、その次に保存タンク123内の液体の混合物を受け取る)ように構成されている。崩壊ユニット120は、過半数のNp−238がPu−238に変換するのに十分な時間、混合物を保持するように構成されている。具体的には、液体中のNp−238原子は、2.1日の半減期でPu−238に自然崩壊し得る。崩壊ユニット120が保持可能な液体の容量、および崩壊ユニット120内を通過する液体の流速は、液体中の一部またはすべてのNp−238系化合物が崩壊ユニット120内でPu−238系化合物に変換できるように選択することが好ましい。その結果、Np−237系化合物と、比較的少量のNp−238系化合物と、新しく生成されたPu−238系化合物との混合物を含む液体が得られる。また、例示的な一実施形態においては、崩壊ユニット120内を通過する液体の流速は、システム100の全体容積を考慮すると、液体が照射ユニット110の外部に滞在する時間が、Np−238の半減期の1倍よりも長くなる(例えば、Np−238の半減期の1.5倍よりも長くなる、またはNp−238の半減期の2倍よりも長くなる)ように、選択される。
【0031】
ただし、Np−238の半減期の複数倍の保持時間の間でも、混合物には一部の残留Np−238系化合物が残ることを理解されたい。また、崩壊ユニット120は、Np−237系化合物、Np−238系化合物およびPu−238系化合物からなる混合物以外にも、別の同位体を内包する少量の化合物を含む液体を照射ユニット110から受け取る可能性があることを理解されたい。別の同位体には、Pu−238系化合物を形成するための照射ユニット110内におけるNp−238系化合物の活性化および自然崩壊により形成された高位のネプツニウム同位体およびプルトニウム同位体が含まれる。Pu−238系化合物は、中性子と反応してPu−239系化合物またはPu−240系化合物を形成し、当該Pu−239系化合物またはPu−240系化合物自身は崩壊し得る。しかし、
図6を参照して以下にさらに説明するように、本発明のシステムおよび方法は、既知の方法に比べてPu−238以外のプルトニウム同位体の形成を大幅に低減し得る。
【0032】
Np−237系化合物、Np−238系化合物およびPu−238系化合物は、互いに類似の化学的形態を有し、且つ互いに可溶な液体混合物を形成することが好ましい。すなわち、これらの混合物の化学組成は、混合物内に含まれる放射性同位体のみが相違することが好ましい。このように、好ましい実施形態において、Np−237系化合物内の一部のNp−238原子からPu−238原子への変換以外は、Np−237系化合物の物理的変化または化学的変化は照射ユニット10内では実質的に発生しない。また、非限定的な一例において、Np−237系化合物は
237NpF
6であってもよく、Np−238系化合物は
238NpF
6であってもよく、Pu−238系化合物は
238PuF
6または
238PuF
4であってもよい。なお、
238NpF
6が
238PuF
6へ徐々に変換するため、崩壊ユニット120内ではあらゆる時点で3種類すべての化合物からなる混合物が存在し得る。液体混合物は、後述するように、崩壊ユニット120内を重力およびポンプ(図示せず)の作用下、および/または分離ユニット130内で発生した正圧の作用下で流れてもよい。また、崩壊ユニット120は、液体混合物の流動性を確保するために、当該液体混合物を所定の温度(例えば、液体が液相内に留まる温度)に保持する加熱器(図示せず)を含んでいてもよい。
【0033】
崩壊ユニット120は、適当なパイプ(標示せず)を介して分離ユニット130と連結している。一部の実施形態においては、分離ユニット130は、加熱器(図示せず)と連結している容器131と、蒸留塔133と、凝縮器134と、可撓性連結部135’を持つ再循環管135と、注入弁132とを含む。容器131は、Np−237系化合物、Np−238系化合物およびPu−238系化合物を含む液体の流体を崩壊ユニット120から受け取るように構成されている。加熱器(図示せず)は、容器131と連結しており、受け取った液体をその沸点まで加熱することにより、当該液体中の揮発性成分を蒸気にさせるように構成されている。当該蒸気は、蒸留塔133内を上方に向かって移動することにより、蒸気内の高揮発性成分(例えば、ネプツニウム系化合物)を低揮発性成分(例えば、プルトニウム系化合物)から分離する。そして、当該高揮発性成分は、凝縮器134へと運ばれる。好ましい実施形態においては、蒸気は凝縮器134内でネプツニウム系化合物(例えば、
237NpF
6および任意の残留している
238NpF
6)を含む液体、さらには当該ネプツニウム系化合物で基本的に構成された液体に液化されるが、プルトニウム−238系化合物(例えば、
238PuF
6または
238PuF
4)は実質的に容器131内に残る。容器131内に残されたプルトニウム−238系化合物は、排出口136を用いて収集してもよい。排出口136は、後に使用できるようにプルトニウム−238系化合物を貯蔵するための収集容器(図示せず)と連結する好適に構成された弁を備えていてもよい。凝縮器134は、本書で説明した方法でさらなるPu−238を調製するために使用される液化された液体を照射ユニット110へ再循環させるために、再循環管135および可撓性連結部135’を介して照射ユニット110と連結していてもよい。一部の実施形態においては、スロットル弁(132)または類似の部材によって液体の流れが制御されている中で、分離ユニット130内で蒸気が発生することにより、液体を所望の流速でシステム100の残りの部分を通過させるのに十分な圧力が生じる。
【0034】
別の実施形態においては、蒸気にはPu−238系化合物が含まれ、凝縮器134は、Pu−238系化合物を含む液体、さらには当該Pu−238系化合物で基本的に構成された液体に蒸気を液化させるように構成されていてもよい。このような実施形態においては、凝縮器134は、適当なパイプを介して、後にPu−238系化合物を使用できるように貯蔵するための収集容器(図示せず)と連結していてもよい。そして、Np−237系化合物およびNP−238系化合物は、容器131内に残ることが好ましく、本書で説明した方法でさらなるPu−238を調製するために使用されるために、排出口136および適当なパイプ(図示せず)を介して照射ユニット110へ再循環されてもよい。
【0035】
なお、システム100は、最適な液体量に適応するサイズであってもよい。一実施形態においては、システム100の構成部材は、およそ1ガロンから50ガロンの間(例えば、およそ5ガロンから25ガロンの間)、またはおよそ10ガロンから20ガロンの間(例えば、12〜15ガロン)の量を保持する。
【0036】
システム100内の主要部材のより詳しい構成について、
図2および
図3A〜3Dを参照して説明する。
【0037】
具体的には、
図2は、一具体的な実施形態であるシステム100の透視図を示す。システム100は、照射ユニット110、崩壊ユニット120および分離ユニット130の種々の部材を連結するパイプ(標示せず)を有する。
図3Aは、
図2において「3A」で示される照射ユニット110の一部を詳細に示している。
図2および
図3Aに示すように、照射ユニット110は、複数のパイプによって互いに平行に連結されている複数のパネル111(例えば、図示した実施形態では5つのパネル)を含んでいてもよい。具体的には、照射ユニット110は、分離ユニット130からの液体の一部を各パネル111へと振り分けて個別に送る第1マニホールド112を含んでいてもよい。パネル111は、略矩形であってもよいし、反応炉10に対して略アーチ状に配置してもよい(
図2では、反応炉10および中性子12を図示していない)。これにより、液体が中性子12に晒される表面積を増やすことができ、液体中のNp−237系化合物のNp−238への変換を増すことができる。また、照射ユニット110は、各パネル111から液体(例えば、Np−237系化合物とNp−238系化合物との混合物を含む液体)を受け取ると共に、崩壊ユニット120への運搬のための共用パイプへと液体を送るための第2マニホールド113を含んでいてもよい。一部の実施形態において、Np−237系化合物を含む液体は、各パネルの上部および下部からパネル111へ導入され、各パネルの中央付近で収集される。各パネルの中央付近における中性子12の流束が最も強いと予想されるため、このような構成によれば、生成されたNp−238系化合物またはPu−238系化合物がさらなる中性子束に晒されてしまう時間を低減することができる。
【0038】
なお、反応炉10からの熱中性子12を、パネル111内の液体へ照射するために、パネル111は任意の適当な形状を有していてもよく、任意の適当な数量設けられていてもよい。例えば、パネル111は、チューブ状、球状、またはキューブ状等の形状であってもよく、また、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10よりも多い数のパネルが設けられていてもよい。
【0039】
図2に示すように、崩壊ユニット120は、第2保存タンク122と適当なパイプを介して直列に連結された第1保存タンク121を含み、当該第2保存タンク122は、適当なパイプを介して第3保存タンク123と直列に連結されている。図示している実施形態においては、保存タンク121,122,123は、先丸の略円柱体であり、相互に略垂直方向に向けられていてもよい。保存タンク121,122,123が相互に略垂直方向に向けられていることにより、Np−237系化合物とNp−238系化合物との混合物を含む液体、および当該液体中に溶解または懸濁している反応生成物(任意の固体状態の反応生成物を含む)が、重力により下方へ流れる。なお、任意の最適な数の保存タンクを用いることができ(単一のパイプを有する単一の保存タンクまたは他の容器を含む)、タンクは任意の最適な形状を有しており、適当な構成で方向づけられ得る。一部の実施形態において、保存タンク121,122,123は、その内部に液体がおよそ10〜40時間(例えば、およそ20〜30時間またはおよそ22〜25時間)滞留するような大きさに形成される。好ましくは、液体が分離ユニット130に到達する前に、Np−238系化合物の大半(例えば、50%を超える)がPu−238系化合物に変換する。例えば、液体が分離ユニット130に到達する前に、60%超、70%超、80%超、さらには90%超のNp−238系化合物がPu−238系化合物に変換する。一実施形態において、保存タンク121,122,123は、液体が照射ユニット110の外部に、合計でNp−238の半減期の少なくとも1.5倍の時間、滞在するような大きさに形成される。
【0040】
図3Bは、
図2中の「3B」で示された分離ユニット130の一部をより詳細に示している。分離ユニット130は、注入口137に連結している容器131を含むことが分かる。容器131は、注入口137および注入弁132を介して、崩壊ユニット120の第3保存タンク123から、Np−237系化合物とNp−238系化合物とPu−238系化合物との混合物を含む液体を受け取るように構成されている。この液体は、連続的な流体として供給されてもよいし、あるいはバラバラの不連続的な一塊として供給されてもよい。
【0041】
好ましい実施形態において、容器131は、液体が加熱器(
図3Bには図示せず)により沸点まで加熱されたとき、当該液体中の高揮発性成分が蒸留によって当該液体中の低揮発性成分から優先的に分離されるように、蒸留塔133と連結している。例えば、蒸留塔133は、液体中の低揮発性成分(例えば、Pu−238系化合物)から、当該液体中の高揮発性成分(例えば、Np−237系化合物およびNp−238系化合物)を分離することを促進する多孔質の蒸留板138を複数含んでいてもよい。具体的には、当業者が熟知しているように、低揮発性成分が高揮発性成分に対して優先的に液化するような表面を蒸留板138に設けることにより、液体混合物中の低揮発性成分から当該液体混合物中の高揮発性成分を分離することを促進することができる。このようにして、蒸気相の高揮発性成分によって優先的に凝縮することができる。なお、蒸留板138の設置数が多いほど、液体混合物中から高揮発性成分を優先的に高純度で蒸留することができることは、当業者であれば分かる。一部の実施形態において、蒸留塔は、10個以上、50個以上、100個以上、500個以上、さらには1000個以上の蒸留板138を含んでいる。本明細書の教示内容に基づけば、当業者は、Np−237系化合物およびNp−238系化合物からPu−238系化合物を分離するために最適な数の蒸留板138を適宜選択し得る。また、必要な板の数量は、選択する板の種類(例えば、バブルキャップトレイ、弁トレイ、または篩トレイ)に応じて異なり、また、適当な長さの任意または構造化されたパッキングが板の代用になることは当業者であれば分かる。一実施形態において、蒸留塔133は、充填カラムとして構成されていてもよい。
【0042】
一部の実施形態では、蒸気は、Np−237系化合物およびNp−238系化合物において、容器131内の残留液体に対して優先的に凝縮される一方、別の実施形態では、蒸気が、Pu−238系化合物において、容器131内の残留液体に対して優先的に凝縮されることにより、Pu−238系化合物からネプツニウム系化合物を分離している。蒸留塔133の頂上に到達した低揮発性成分は、蒸留塔133よりも相対的に冷却された還流ヘッド139において液化することが好ましく、このような化合物は、さらなる分離のために容器131へ還流することが好ましい。Pu−238系化合物からNp−237系化合物およびNp−238系化合物を分離することを促進するための他の任意の構造または方法を用いてもよい。容器131は、低揮発性成分(例えば、Pu−238系化合物)を通して除去可能な第1排出口136と、高揮発性成分(例えば、Np−237系化合物およびNp−238系化合物)を通して除去可能な第2排出口136’とを含む。使用中の特定の化合物の性質に応じて、一部の環境下では分離ユニット130に導入された液体の高揮発性成分がPu−238系化合物となり、低揮発性成分がネプツニウム系化合物となり得る。
【0043】
容器分離ユニット130に注入される液体は、分離ユニット130内の任意の箇所(特に、各蒸留板138)に存在するネプツニウム系化合物とPu−238系化合物との相対な組成比が略均等となるように、略連続的な流れを有していることが好ましい。液体中の高揮発性成分(例えば、ネプツニウム系化合物)を含む蒸気は、凝縮器134と連結している第2排出口136’を介して、略連続的に除去され得る。なお、凝縮器134については、以下で
図3Cを参照してより詳細に説明する。ただし、容器131内に残った液体は、必ずしも排出口136を介して連続的に除去しなくてもよい。その代わりに、当該液体は、容器131内において長期間(例えば、数時間、数週間、数日間、数ヵ月間、または数年間)にわたって蓄積され、その後、単一のバッチとして除去されてもよい。一例示的な実施形態においては、当該液体は、一年間の四半期ごと(例えば、3ヵ月ごと)に1回除去される。なお、このような蓄積により、ネプツニウム系化合物とPu−238系化合物との相対的な組成比が徐々に変化するかもしれないが、分離ユニット130内の任意の箇所に存在するこれら化合物の相対的な組成比は、いつ何時の時点でも略均等となっている。
【0044】
図3Cは、凝縮器134を含む分離ユニット130の一部分を示しており、
図2中の「3C」で示された分離ユニットの一部分を示している。凝縮器134は、蒸気の沸点よりも低い温度(例えば、ネプツニウム系化合物およびPu−238系化合物の沸点よりも低い温度)を有する流体が通過する冷却ユニット(図示せず)を含む。蒸気は、冷却ユニットの表面において液化し、ネプツニウム系化合物またはPu−238系化合物を含む液体に再び変化する。この液体は、保持タンク134’および導管135を介して照射ユニット110へ再循環され得る。
【0045】
好ましくは、照射ユニット110と、崩壊ユニット120と、分離ユニット130とを相互連結するパイプ(導管とも呼ぶ)は、各ユニット内の液体の流動性を維持するために、当該液体を適切な温度に保持するように構成されている。
図3Dは、システム100における1つ以上の部材を相互連結する模範的なパイプ150の選ばれた断面における透視図を示す。パイプ150は、液体を受け取るように構成された中央通路151、および中央通路151の周囲に位置し、例えば中央通路に連結された真空空間(図示せず)の作用により、中央通路の周囲を部分的な真空状態に維持するように構成されている外周通路152を含むことが分かる。パイプ150の外表面には、当該パイプ内を流れる液体を液状に維持するために、ストリップヒータ等の加熱器(図示せず)を設置してもよい。また、パイプ150、照射ユニット110、崩壊ユニット120および分離ユニット130は、これらユニット内の液体または蒸気(予知可能なあらゆる副産物を含む)との化学反応を十分に阻害することができるように選択された材料で構成されていることが好ましいことを理解されたい。なお、このような材料は当業者が熟知している。
【0046】
図4は、Pu−238の調製方法におけるステップを示しており、例えば
図1〜
図3Dを参照して説明したシステム100を用いた調製方法における工程を示している。なお、
図1〜
図3Dに示す構成以外の構成を有するシステムを用いて本発明の方法を実現してもよいことを理解されたい。
【0047】
方法400は、Np−237系化合物を含む液体を提供する工程(ステップ410)から始まる。一部の実施形態において、液体は、基本的にはNp−237系化合物から構成されるが、以下に説明するように、当該液体が、方法400を用いて既に処理された液体を再循環して得たものである場合には、少量のNp−238またはPu−238が存在し得る。Np−237系化合物は、他の化学的変化または物理的変化を実質的に生じさせることなく、熱中性子の照射により当該Np−237系化合物中のNp−237原子をNp−238原子に変換できるように選択されることが好ましい。一例示的な実施形態において、Np−237系化合物は、本分野において調製法がよく知られている
237NpF
6(ネプツニウム−237ヘキサフルオライド)である。
237NpF
6の調製方法の一例の詳細については、Seaborgらによる米国特許第2982604号(発明の名称「ネプツニウムヘキサフルオライドの調製」)を参照されたい。この米国特許出願の内容全体は、参照によって本願に組み込まれる。Np−237系化合物を含む液体は、システム100における任意の適当な部分に供給され得る。例えば、Np−237系化合物を含む液体は、凝縮器134内に供給され、当該凝縮器134から照射ユニット110へ循環され得る。Np−237系化合物を液状に維持するために、当該Np−237系化合物が昇温温度下および/または圧力下に存在している必要がある実施形態においては、液体がシステム100を容易に流れるようにするために、システム100および当該液体の両方を予め加圧および加熱しておいてもよい。
【0048】
方法400は、原子炉から放射した熱中性子を、Np−237系化合物を含む液体に照射することにより、Np−237系化合物を部分的にNp−238系化合物に変換させる工程(ステップ420)をさらに含む。例えば、液体は、
図1、
図2および
図3Aを参照して説明した照射ユニット110内を流れ得る。この際、液体は、当該液体中のNp−237原子からNp−238原子への変換を向上させながらも、生成されたNp−238原子が照射ユニット110内でPu−238原子へ崩壊する可能性、または当該Pu−238原子が熱中性子と反応して高位のプルトニウム同位体を形成する可能性を低減させるように選択された流速で流れる。Np−237系化合物が
237NpF
6である実施形態においては、Np−238系化合物は、
237NpF
6と同様の物理的特性および化学的特性を有する
238NpF
6であることが好ましい。
【0049】
また、方法400は、ステップ420から得られる、Np−237系化合物とNp−238系化合物との混合物を含む液体を十分な時間、保持することにより、少なくとも一部のNp−238系化合物をPu−238系化合物に変換させる工程(ステップ430)も含む。例えば、液体は、当該液体中の少なくとも一部のNp−238原子がPu−238原子へ自然崩壊するように選択された流速で崩壊ユニット120内を輸送され得る。Np−237系化合物が
237NpF
6であり、且つNp−238系化合物が
238NpF
6である実施形態においては、Pu−238系液体は
238PuF
6である。
【0050】
また、方法400は、ステップ430から得られる、Np−237系化合物とNp−238系化合物とPu−238系化合物との混合物を含む液体を、当該混合物の沸点まで加熱することにより、当該液体中の高揮発性成分が優先的に蒸発した後、当該化合物を蒸留する工程(ステップ440)をさらに含む。例えば、分離ユニット130の容器131内の圧力下における液体の沸点に基づいて選択された温度に加熱された容器131内に液体を導入し得る。例えば、
図5は、種々の温度下および圧力下におけるNpF
6およびPuF
6の相図を示している。なお、これら化合物の異なる放射性同位体は、互いに略同等の温度依存相および圧力依存相を有することを理解されたい。例えば、Np−237ヘキサフルオライドおよびNp−238ヘキサフルオライドはいずれも、互いに略同等の相性を呈し得るが、その相性はPu−238ヘキサフルオライドの相性とは異なる。
【0051】
図5から分かるように、NpF
6は、約15ポンド毎平方インチ絶対圧力(psia)および約55℃未満の温度で液体となり、PuF
6は、約10psiaを超える圧力および約52℃未満の温度で液体となる。NpF
6の相線510の上方に位置する圧力および温度ではNpF
6が液体になるが、相線510の下方に位置する圧力および温度ではNpF
6は蒸気になる。同様に、PuF
6の相線520の上方に位置する圧力および温度ではPuF
6は液体になるが、相線520の下方に位置する圧力および温度ではPuF
6は蒸気になる。したがって、相線510および相線520両方の上方に位置する温度および圧力では、NpF
6およびPuF
6の両方が液体になり、相線510および相線520両方の下方に位置する温度および圧力では、NpF
6およびPuF
6の両方が蒸気になる。また、線510と線520との間の領域530内の温度および圧力では、NpF
6は蒸気となるが、PuF
6は液体となる。同様に、
図5では、NpF
6が固体になり、PuF
6が液体または蒸気になるような別の温度と圧力との組み合わせが特定されている。
【0052】
以上でさらに述べたように、NpF
6およびPuF
6の同位体類似物は、システム100の分離ユニット130以外の種々の部材内を流れる間、液状に維持されることが好ましい。したがって、適当な加熱器を用いて照射ユニット110、崩壊ユニット120およびそれらに連結している任意のパイプを所望の温度にまで加熱し、液体に対して所望の圧力の気体(例えば、フッ素ガス)を供給する等して、照射ユニット110および崩壊ユニット120は、
図5に示す相線510および相線520両方の上方に位置する温度と圧力との任意の組み合わせに適宜維持され得る。分離ユニット130は、その内部の液体を、1種類のみの液体が優先的に蒸発するような温度にまで加熱することによって動作することが好ましいため、一部の実施形態においては、分離ユニット130の容器131は、
図5に示す領域530内の温度と圧力との任意の組み合わせのうち、NpF
6が蒸気となり、PuF
6が液体となる組み合わせに適宜維持され得る。
【0053】
ただし、システム100の種々の部材にわたって略一定の圧力を印加すると共に、照射ユニット110および崩壊ユニット120内の温度に対する分離ユニット130内の温度のみを相対的に変更することが好ましい。
図5に示す領域540は、照射ユニット110および崩壊ユニット120が維持され得る温度および圧力の例示的な範囲(例えば、約28〜32psiaの範囲および約63〜73℃の範囲)を示す。領域550は、分離ユニット130の容器131内の圧力が照射ユニット110および崩壊ユニット120内の圧力と略同等である場合、当該容器131が適切に維持され得る温度の例示的な範囲(例えば、約28〜32psiaの範囲および約82〜90℃の範囲)を示す。このような温度および圧力の範囲では、容器131内の
237NpF
6および
238NpF
6が
238PuF
6に対して優先的に蒸発し得ることにより、ネプツニウム系化合物とプルトニウム−238系化合物とを互いに分離しやすくなる。なお、温度と圧力との別の組み合わせを適宜用いることができ、また、他の化合物が、本書で述べた原理に適宜適合し得る異なる相図を有し得ることを理解されたい。例えば、容器131が、特定のプルトニウム系化合物をネプツニウム系化合物に対して優先的に蒸発するような圧力および温度に維持されている場合には、当該プルトニウム化合物は、化合物のネプツニウム系類似物よりも低い沸点を有していてもよい。
【0054】
図4に戻るが、方法400は、ステップ440で形成された蒸気を液化させることにより、相応の液体を形成する工程(ステップ450)をさらに含む。例えば、液化ユニット134は、蒸気を液体の沸点よりも低い温度にまで冷却することにより、当該蒸気を液相に戻してもよい。液化した液体にNp−237系化合物とNp−238系化合物との混合物が含まれる実施形態においては、当該液体混合物を任意的に照射ユニット110に再循環させ、さらに熱中性子12を照射してもよい(ステップ450)。あるいは、ステップ450において液化した液体を後に使用するために収集しておいてもよい。方法400は、ステップ440で得られた液体(例えば、優先的に蒸発および蒸留されなかった各化合物)を収集する工程(ステップ460)も含む。例えば、
図3Bに示す排出口136を用いて、容器131から液体を連続的または定期的に収集してもよい。また、Pu−238系液体がステップ450またはステップ460において得られたか否かに関係なく、エネルギー転換に最適な形態のPu−238(例えば、酸化プルトニウム−238(
238PuO
2))を得るために、本分野における既知の処理技術を用いて、液体をさらに処理してもよい。
【0055】
なお、
図1〜
図3Dに示すシステム100は、Np−237系化合物をNp−238系化合物に変換させるのに最適なエネルギーを有する熱中性子を放射する任意の原子炉10との共利用に適合し得ることを理解されたい。特に、システム100では、反応炉10への原料挿入または反応炉10からの原料の取り出しは求められておらず、代わりに反応炉10から熱中性子を受け取るために、Np−237系化合物を含む液体を反応炉10の十分近くに配置する必要がある。実際に、反応炉10と照射ユニット110との間にいくらかの距離(および中性子減速材)を設けることにより、液体中のNp−237系化合物に高速中性子が照射されるリスクを低減することができる。これにより、Np−236および他の不要な生成物が形成されるリスクを低減することができる。また、Np−237のNp−238への変換率の向上および/または高位プルトニウム同位体の形成リスクの低減のために、特定の中性子束と、Pu−238の所望の収率および純度とに応じて、液体の流速を適宜変更してもよい。一方、原子炉自体からの固体材料の挿入および取り出しに依存する既知のシステムでは、材料が高速中性子に晒されること、および熱中性子に過度に晒されることが増え、システムから回収されたPu−238の同位体純度が大幅に低下し得る。
【0056】
具体的には、
図6は、Np−237が関与し得る種々の既知の反応((A)〜(J)と標示)を示している。例えば、反応(A)において、比較的小さな中性子捕獲断面積(σ=150)を有するNp−237は、熱中性子(n,γ)と反応してNp−238を形成し得る。反応(B)において、Np−238は、中性子(n,f)と反応して核分裂生成物を形成し得る。あるいは、反応(C)において、Np−238は、ベータ粒子(β)を放射することで2.1日の半減期で自然崩壊し、Pu−238を形成し得る。反応(D)において、Pu−238は、中性子(n,γ)と反応してPu−239を形成し得る。あるいは、反応(E)において、Pu−238は、アルファ粒子(α)を放射することで約89年の半減期で自然崩壊し、U−234を形成し得る。なお、反応(A)によって形成されたNp−238が比較的大きな中性子捕獲断面積(σ=2070)を有しているため、連続的な照射により反応(B)において核分裂生成物が形成されるリスクが増す。このような核分裂生成物により、形成されたPu−238の全体的な純度を低下しない可能性もあるが、Pu−238の予想収率が依然として低下する可能性がある。また、反応(C)によって形成されたPu−238が比較的大きな中性子捕獲断面積(σ=400)を有しているため、連続的な照射によりPu−239が形成されるリスクが増加し、Pu−238の同位体純度が低下する。
【0057】
あるいは、反応(F)において、Np−237は、高速中性子(n,2n)と反応してNp−236を形成し得る。反応(G)において、Np−236は、50%の電子捕獲によりU−236へ崩壊し得る。あるいは、反応(H)において、Np−236は、ベータ粒子(β)を放射することで22.5時間の半減期で自然崩壊し、Pu−236を形成し得る。反応(I)において、Pu−236は、別の崩壊生成物へ2.87年の半減期で自然崩壊し得る。また、さらに別の反応(J)において、Np−236は、中性子(n,f)と反応して別の核分裂生成物を形成し得る。なお、反応(G)において形成されたU−236は化学的に除去することが可能であるが、形成されたいかなるPu−236も容易にPu−238から除去することができないため、Pu−238の同位体純度を低下させることになる。また、Pu−236の崩壊生成物は有害な可能性があるため、最終組成物ではPu−236は極微量だけ含有が許される。例えば、NASAでは、いかなるRTG用の材料でも、1gのPu−238当たり2μgだけPu−236の含有が許容されている。
【0058】
Jonesに開示され、本分野において知られている、固体状態のNp−237に基づく既知の方法では、反応(A)〜(J)のうち、全部ではないが一部の反応を起こし、生成され得るPu−238の純度を付随的に低下させる。これと比べて、本発明のシステムおよび方法は、Np−237またはその生成物の高速中性子とのいかなる反応も十分に抑制するため、副反応(F)〜(J)を基本的に阻止している。また、本発明のシステムおよび方法は、Pu−238の熱中性子とのさらなる反応を抑制しているため、副反応(B)および(D)を基本的に阻止している。したがって、本発明のシステムおよび方法では、
図6に示した1本の反応連鎖に実質的に従ってNp−237を反応させる。反応連鎖は、主に照射ユニット110において発生し、Np−238を形成する反応(A)と、主に崩壊ユニット120において発生し、Pu−238を形成する反応(C)と、Pu−238がエネルギーを生成するために用いられたときに発生し、U−234を形成する反応(E)とから構成される。
【0059】
ただし、本発明の特定の実施形態においては、さらなる中性子照射のためにNp−237系化合物とNp−238系化合物との混合物を含む液体を照射ユニット110へ再循環させ得るため、再循環されたNp−238が反応(B)によって核分裂生成物またはPu−239へ崩壊するNp−239を形成するリスクが高くなる。表1には、照射ユニット110から出発し、ユニットを24時間の行程で通過するNp−238の予想生成物が列挙されている。表1から、照射ユニット110内で生成されたNp−238が照射ユニット110から排出されるとき、約85%のNp−238がそのまま変化せず、約15%のNp−238がPu−238を形成し、0.5%未満のNp−238が核分裂生成を形成し、僅か約0.02%のNp−238がPu−239を形成することが予想されるのが分かる。なお、照射ユニット110内で生成されたNp−238は、少量の中性子照射を受けることが予想される。システムの残りの部材(ユニット120,130)内を流れる間も崩壊が継続し、ネプツニウム同位体がプルトニウム同位体に崩壊する。表1では、最初に変換された材料がユニット110へ戻るときの新たな相対濃度(ただし、「*」で注釈するプルトニウム同位体はユニット130に留まり、ユニット110に戻っていない)を示す。
【0061】
ユニット内を所定の通過時間で通過したときの、凝縮器134から照射ユニット110に戻った残留Np−238の予想生成物に基づき、この循環を複数回繰返したときの予想生成物を特定することができる。表2には、この循環を複数回繰返し、照射ユニット110を24時間で通過したときの予想生成物と、システム100の残りの部材を81.4時間(Np−238の半減期の1.6倍に相当する)で通過したときの予想生成物が列挙されている。この場合も、プルトニウム同位体は、ユニット130内に留まるが、相対濃度を示すために表中に記載されている。表中の列「通過」は、最初のネプツニウム/崩壊生成物がシステムを通過する回数を表す。表中の行は、最初に変換された材料が、ユニット110から出発するときと、統合ユニット120/130から出発するとき(すなわち、当該材料が再びユニット110に入るとき)との2つの時点におけるシステム内の当該材料の相対濃度を表す。表は、ユニット130内で変換した材料のほとんどが高純度のPu−238であることを示している。
【0063】
2つ目の実施例において、システム内の流速は2倍になっている。表3には、照射ユニット110から出発し、ユニットを12時間の行程で通過するNp−238の予想生成物が列挙されている。表3から、照射ユニット110内で生成されたNp−238が照射ユニット110から排出されるとき、約92%のNp−238がそのまま変化せず、約7.7%のNp−238がPu−238を形成し、0.3%未満のNp−238が核分裂生成物を形成し、僅か約0.01%のNp−238がPu−239を形成することが予想されるのが分かる。システムの残りの部材(ユニット120,130)内を流れる間も崩壊が継続し、ネプツニウム同位体がプルトニウム同位体に崩壊する。表3では、最初に変換された材料がユニット110へ戻るときの新たな相対濃度(ただし、「*」で注釈するプルトニウム同位体はユニット130に留まり、ユニット110に戻っていない)を示す。
【0065】
材料がシステムを通過する複数の循環を終えると、ネプツニウム同位体は、前述のようにプルトニウムに崩壊する。ただし、高い流速に起因して、製造された生成物の相対分布は僅かに改善した(Pu−239および核分裂生成物が少量であった)。たとえ5回循環した後でも、高い流速により総経過時間が短いため、まだ約3%のNp−238が崩壊しなければならない。
【0067】
3つ目の実施例において、システム内の流速は半分になっている。表5には、照射ユニット110から出発し、ユニットを48時間の行程で通過するNp−238の予想生成物が列挙されている。表5から、照射ユニット110内で生成されたNp−238が照射ユニット110から排出されるとき、約73%のNp−238がそのまま変化せず、約26%のNp−238がPu−238を形成し、0.8%未満のNp−238が核分裂生成物を形成し、僅か約0.1%のNp−238がPu−239を形成することが予想されるのが分かる。システムにおける残りの部材(ユニット120,130)内を半分の流速で流れる間も崩壊が継続し、ネプツニウム同位体がプルトニウム同位体に崩壊する。表5では、最初に変換された材料がユニット110へ戻るときの新たな相対濃度(ただし、「*」で注釈するプルトニウム同位体はユニット130に留まり、ユニット110に戻っていない)を示す。
【0069】
材料がシステムを通過する複数の循環を終えると、ネプツニウム同位体は、前述のようにプルトニウムに崩壊する。ただし、低い流速に起因して、製造された生成物の相対分布は、表6に示すように、僅かに悪化した(Pu−239および核分裂生成物は多量であった)。
【0071】
3つの流速の例示から、同じ総時間を経た後の相対濃度の比較により、異なる流動条件下におけるシステム性能の比較が得られる。25.8日(通常の流速で6回の通過を終えるまでの時間)をかけた場合の流速が生成物の相対量に及ぼす影響を表7に示す。流速が比較的高いと、Pu−238純度が僅かに改善し、核分裂生成を低減させたが、3つの流速すべてにおいて、固体標的システムに対する改善が同様に現われた。
【0073】
なお、表1〜表7を参照して説明された流速および化合物は単に例示的なものであり、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0074】
本発明のシステムおよび方法では、Np−237は、
図6に示す反応(F)に相対する反応(A)のみに沿って反応していき、また、得られたNp−238は、反応(B)に相対する反応(C)のみに沿って反応していくと考えられ、また、得られたPu−238は、反応(D)に相対する反応(E)のみに沿って反応していくと考えられる。そのため、反応(A)および(C)によって形成されたPu−238は、約99%またはそれ以上の同位体純度を有すると考えられる。これと比べて、固体状態のNp−237に基づく既知の方法では、形成されたあらゆるNp−238のうちの僅か約64%が反応(C)に沿って反応してPu−238を形成して残す一方、余分の熱中性子の存在により、約23%が反応(B)に沿って反応し、約13%が反応(D)に沿って反応していくと考えられる。そのため、このような既知の方法では、約83%の同位体純度を有するPu−238が得られると考えられる。また、高速中性子の存在は、反応(F)〜(J)を引き起こし得、それによりさらなる不要な生成物を生成し、Pu−238の収率および純度を低下させることになる。
【0075】
したがって、既知の方法(特に、固体状態のNp−237に基づく方法)で得られるPu−238と比較して、本発明の実施形態によれば、特に高い同位体純度を有するPu−238を提供できることが予想される。また、本発明のシステムおよび方法は、ステップが比較的少数であり、当該ステップは比較的簡単な機械的および化学的なステップであり、中性子源として用いられる原子炉の変形(あるいは原子炉への内部通路の変形さえ)も要求されない。実際、いかなる中性子源であっても、最適なエネルギーを有する中性子を生成するものであれば、適宜用いることができる。
【0076】
以上では、本発明の種々の例示的な実施形態を説明したが、当該実施形態において、本発明から脱逸せずに種々の変更および変形を施すことができるということは、当業者にとって明白である。例えば、以上で説明した実施形態では、ネプツニウムおよびプルトニウムのヘキサフルオライド化合物の使用に主に着目しているが、ネプツニウムおよびプルトニウムの別の化合物も適宜使用できることを理解されたい。好ましくは、このような化合物のネプツニウム類似物およびプルトニウム類似物は、両方とも実用的な温度および圧力において液体となり、また、一方が他方に対して優先的に蒸発して蒸留されるように、互いに異なる沸点を有する。別の例では、以上で説明した実施形態では、ネプツニウム化合物とプルトニウム化合物とを分離する蒸留の利用に主に着目しているが、本分野で知られている化学的分離を含め、別の分離システム/方法も適宜使用できることを理解されたい。なお、添付の請求項は、本発明の精神および範囲内の全ての変更および変形を包含することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】本発明の一部の実施形態に係る、現存の原子炉と共働してプルトニウム−238を調製するシステムのハイレベル概略図である。
【
図3A】
図1および
図2のシステムの部材のさらなる詳細の透視図である。
【
図3B】
図1および
図2のシステムの部材のさらなる詳細の透視図である。
【
図3C】
図1および
図2のシステムの部材のさらなる詳細の透視図である。
【
図3D】
図1および
図2のシステムの部材のさらなる詳細の透視図である。
【
図4】本発明の一部の実施形態に係る、プルトニウム−238を調製するための方法を示す図である。
【
図5】ネプツニウムヘキサフルオライドおよびプルトニウムヘキサフルオライドの相図である。
【
図6】本発明または既知の方法を用いてPu−238を調製する際に形成され得る反応生成物を示す図である。