(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂マトリックス中に埋め込まれた少なくとも1つのマット形態の繊維の強化成分を含む繊維マット強化樹脂複合材料であって、前記樹脂マトリックスは硬化剤で架橋された熱硬化性樹脂およびリグニンを含み、かつ前記繊維は150μm〜9mmの平均長さを有する天然繊維であることを特徴とする繊維マット強化樹脂複合材料。
前記方法は、前記樹脂マトリックスを硬化させるために、前記樹脂マトリックス中に埋め込まれた繊維の前記少なくとも1つのマットを40〜180℃の温度で加熱するステップc)をさらに含む、請求項7に記載の方法。
前記天然繊維は広葉樹繊維および/または針葉樹繊維であり、そのゼロスパン引張強さ(ZSTI)は30〜200Nm/g、好ましくは60〜170Nm/g、一層好ましくは80〜160Nm/gである、請求項7〜9の何れか1項に記載の方法。
航空機、ボート、自動車、槽、タンク、容器、スポーツもしくはレジャー製品、電子的もしくは電気的応用、屋根材、風車ブレード、パイプ、チューブ、ケーブルカバー、被覆材、鋳型またはドアの製造ための、請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維マット強化樹脂複合材料の使用。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、樹脂マトリックス中に埋め込まれた少なくとも1つのマット形態の繊維の強化成分を含む繊維マット強化樹脂複合材料であって、樹脂マトリックスは、硬化剤で架橋された熱硬化性樹脂およびリグニンを含み、かつ繊維は150μm〜9mmの平均長さを有する天然繊維である、繊維マット強化樹脂複合材料に関する。
【0011】
本発明では天然繊維の強化成分は、少なくとも1つのマットまたはシートの形態である。「繊維マット」または「繊維のマット」は、樹脂マトリックス中に埋め込まれて複合材料を形成する。繊維は、マット中で配向していても、あるいは配向していなくてもよい。本発明の一実施形態では、少なくとも1つの繊維マットの厚さは、2cm未満、好ましくは1cm未満、一層好ましくは800μm未満である。
【0012】
本発明の発明者らは、繊維マット強化樹脂複合材料のその後の用途に好適な特性を保持しながら、繊維マット強化樹脂複合材料の製造に必要とされる熱硬化性樹脂の一部の代わりにリグニンを使用できることを見出した。したがって、最終の繊維マット強化樹脂複合材料におけるバイオベースの材料の比率を高めることができる。本発明の一実施形態では、複合材料におけるエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の5〜60重量%、好ましくは10〜50重量%、一層好ましくは30〜40重量%をリグニンで置き換える。本発明の一実施形態では、繊維マット強化樹脂複合材料における熱硬化性樹脂とリグニンとの重量比率は、19:1〜2:3、好ましくは9:1〜3:2である。
【0013】
本発明の一実施形態では、リグニンは、繊維の少なくとも1つのマットの繊維間に浸透する。
【0014】
本発明に使用される繊維は、天然繊維である。本明細書では、他に記載がない限り、「天然繊維」という表現は、植物源および/または動物源に由来する繊維と理解されるべきである。本発明の一実施形態では、天然繊維は、植物源に由来する。
【0015】
本発明の一実施形態では、天然繊維は木質繊維、好ましくはセルロース繊維である。本発明の一実施形態では、天然繊維はセルロース繊維である。本発明の一実施形態では、天然繊維は、木、靭皮、わら、麻、亜麻、ケナフ、ジュート、コイア、草、綿、サイザル麻、葉、茎またはそれらの任意の組み合わせから得られる。本発明に使用される天然繊維は、150μm〜9mmの平均繊維長を有する。本発明の発明者らは驚くべきことに、平均繊維長が9mm未満である場合、9mmを超える平均長さを有する繊維の使用と比較して、たとえばまだ硬化されていない樹脂マトリックス中に埋め込まれた繊維マットの柔軟性または成形性が改善することを見出した。本発明者らまた、短い繊維長さを使用すると、複合材料の一定の厚さおよび平滑な表面に結び付くシートの均一性が、改善することも見出した。さらに、本発明の発明者らは、9mm未満の平均繊維長を有する天然繊維の使用により、繊維マットの引張強さは低下せず、より長い繊維を使用したときと同等に良好なままであることも見出した。本発明の一実施形態では、繊維は150μm〜4mmの平均長さを有する。
【0016】
本発明に使用される天然繊維または繊維束の長さは当然、広範な長さ範囲内にある。たとえば靭皮、わら、麻、亜麻、ケナフ、ジュート、コイア、草、綿、サイザル麻、葉または茎から得られる繊維の長さは、0.5cm〜20cmに及んでもよい。セルロース繊維などの木質繊維の長さは、たとえば樹種、生育条件、脱リグニン法またはパルプ化法、および繊維に施されている以下の叩解法によって異なってもよい。したがって、本発明の一実施形態では、150μm〜9mmの平均繊維長を有するように繊維マットまたはそれからシートを形成する前に、天然繊維に分別、叩解、精製、混練、切断および/またはレッティングを施す。
【0017】
本明細書では、他に記載がない限り、「平均長さ」または「平均繊維長」という表現は、長さ加重平均繊維長と理解されるべきである。長さ加重平均繊維長は、規格ISO 16065−1に準拠した方法によりカヤーニファイバーラボ(Kajaani Fiberlab)装置を用いて判定することができる。
【0018】
本発明の一実施形態では、天然繊維は広葉樹繊維および/または針葉樹繊維であり、そのゼロスパン引張強さ(ZSTI:zero span tensile index)は30〜200Nm/g、好ましくは60〜170Nm/g、一層好ましくは80〜160Nm/gである。単繊維強度は、ゼロスパン引張強さ(ZSTI、ZST指数)により算出することができる。高いZST指数の利点は、最終の複合材料の引張強さが増加することである。ゼロスパン引張強さ(ZSTI)は、Tappi規格T 231cm−96に準拠してPullmac装置を用いて測定することができる。
【0019】
様々な紙、繊維および複合材料の特性を達成するため、精製および分別などの標準的な製紙プロセスを使用して、針葉樹パルプおよび/または広葉樹パルプを処理することができる。どちらのプロセスも、針葉樹繊維および広葉樹繊維の単繊維強度を変化させることができる。ZST指数は、精製により増加させてもよい。本発明の発明者らは、驚くべきことに、精製により、たとえば紙のZST指数および見掛け密度が向上するので、複合材料強度に影響を与えるため精製を使用できることを見出した。
【0020】
本発明の一実施形態では、繊維マットの厚さを調整するため、形成された繊維マットを樹脂マトリックス中に埋め込む前にカレンダー処理する。この手順により、最終の繊維マット強化樹脂複合材料中の繊維体積を増加させることができる。
【0021】
本発明の一実施形態では、熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は、通常、少なくとも2つのエポキシ基を含む低分子量プレポリマーまたはより高分子量のポリマーである。エポキシ樹脂は、重合または半重合材料である。エポキシ樹脂は、工業的に製造することができる。エポキシ樹脂製造のための原材料は通常、石油由来であるが、植物由来の原料も市販されており、たとえばエピクロロヒドリンの製造には、植物由来のグリセロールが使用される。本発明に使用することができるエポキシ樹脂の例として、二官能性および多官能性エポキシ樹脂、たとえばビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBPA)、トリグリシジルp−アミノフェノール(TGAP)、4,4’−ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジルエーテル(TGGDDM)、およびエポキシノボラックを挙げることができる。
【0022】
本発明の一実施形態では、エポキシ樹脂は熱硬化エポキシ樹脂である。本発明の一実施形態では、エポキシ樹脂は常温硬化エポキシ樹脂である。
【0023】
本発明の一実施形態では、硬化剤は、無水物、イミダゾールおよびポリメルカプタンからなる群から選択される。本発明の一実施形態では、硬化剤はポリアミン硬化剤である。本発明の一実施形態では、ポリアミン化合物は、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、エチレンアミン、アミノエチルピペラジン(AEP)、ジ−シアナミド(Dicy)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジ−プロペンジアミン(DPDA)、ジエチレンアミノプロピルアミン(DEAPA)、ヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン(N−AEP)、メンタンジアミン(MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、m−キシレンジアミン(m−XDA)およびメタフェニレンジアミン(MPDA)からなる群から選択される。
【0024】
本明細書では、他に記載がない限り、「リグニン」という表現は、任意の好適なリグニン原料に由来するリグニンと理解されるべきである。
【0025】
使用されるリグニンは、本質的に純粋なリグニンであってもよい。「本質的に純粋なリグニン」という表現は、少なくとも90%純粋なリグニン、好ましくは少なくとも95%純粋なリグニンと理解されるべきである。本発明の一実施形態では、本質的に純粋なリグニンは、高くて10%、好ましくは高くて5%の他の成分を含む。こうした他の成分の例として、抽出物および炭水化物、たとえばヘミセルロースを挙げることができる。
【0026】
本発明の一実施形態では、リグニンは、クラフトリグニン、スルホン化リグニン、リグニンスルホン酸、スルホメチル化リグニン、水蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿リグニン、バイオマス由来リグニン、アルカリパルプ化法で得られたリグニン、ソーダ法で得られたリグニン、オルガノソルブパルプ化で得られたリグニンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。本発明の一実施形態では、リグニンは木質系リグニンである。リグニンは、針葉樹、広葉樹、一年生植物またはそれらの組み合わせに由来し得る。
【0027】
異なるリグニン成分は、異なった特性、たとえば分子量、モル質量、多分散性、ヘミセルロースおよび抽出物の含有量、ならびに組成を有する場合がある。
【0028】
「クラフトリグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、クラフト黒液に由来するリグニンと理解されるべきである。黒液は、リグニン残渣、ヘミセルロース、およびクラフトパルプ化法に使用される無機薬品のアルカリ性水溶液である。パルプ化法の黒液は、異なる針葉樹種および広葉樹種に由来する成分を様々な比率で含む。リグニンは、たとえば沈殿および濾過を含む様々な技術により黒液から分離することができる。リグニンは通常11〜12未満のpH値で沈殿し始める。異なる特性を有するリグニン画分を沈殿させるため、様々なpH値を使用してもよい。こうしたリグニン画分は、分子量分布、たとえばMwおよびMn、多分散性、ヘミセルロースおよび抽出物の含有量が互いに異なる。より高いpH値で沈殿したリグニンのモル質量は、より低いpH値で沈殿したリグニンのモル質量より大きい。さらに、より低いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布は、より高いpH値で沈殿したリグニン画分より広い。
【0029】
沈殿したリグニンは、酸性洗浄ステップを用いて無機不純物、ヘミセルロースおよび木材抽出物から精製することができる。さらに、精製は濾過により達成してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態では、リグニンはフラッシュ沈殿リグニンである。「フラッシュ沈殿リグニン」という用語は、本明細書において、二酸化炭素ベースの酸性化剤、好ましくは二酸化炭素を用いて200〜1000kPaの過圧の影響下、黒液の流れのpHをリグニンの沈殿レベルまで低下させ、リグニンを沈殿させるため圧力を急激に解法することにより、連続的なプロセスで黒液から沈殿させたリグニンと理解されるべきである。フラッシュ沈殿リグニンを製造するための方法は、フィンランド特許出願第20106073号に開示されている。上記方法における滞留時間は、300秒未満である。2μm未満の粒子直径を有するフラッシュ沈殿リグニンの粒子は、凝集塊を形成し、凝集塊は、たとえば濾過を用いて黒液から分離することができる。フラッシュ沈殿リグニンの利点は、通常のクラフトリグニンと比較して高いその反応性にある。フラッシュ沈殿リグニンは、その後の処理に必要な場合、精製および/または活性化してもよい。
【0031】
本発明の一実施形態では、リグニンを純粋なバイオマスから分離する。分離プロセスは、強アルカリまたは強酸でバイオマスを液化し、続いて中和プロセスを行うことから始めてもよい。アルカリ処理後、リグニンは、上述と同様のやり方で沈殿させることができる。本発明の一実施形態では、バイオマスからのリグニンの分離は、酵素処理のステップを含む。酵素処理は、バイオマスから抽出されたリグニンを変性させる。純粋なバイオマスから分離されたリグニンは、硫黄を含んでおらず、したがってその後の処理に有用である。
【0032】
「スルホン化リグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、サルファイトパルプ化を用いた木材パルプの製造の副生成物として得られるリグニンと理解されるべきである。
【0033】
本発明の一実施形態では、リグニンは水蒸気爆砕リグニンである。水蒸気爆砕は、木材および他の繊維状有機材料に適用できるパルプ化および抽出技術である。
【0034】
「バイオリファイナリーリグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、バイオマスを燃料、化学物質および他の材料に変える精製施設またはプロセスから回収できるリグニンと理解されるべきである。
【0035】
「超臨界分離リグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、超臨界流体分離または抽出技術を用いてバイオマスから回収できるリグニンと理解されるべきである。超臨界条件は、特定の物質の臨界点を超える温度および圧力に対応する。超臨界条件では、明らかな液相および気相が存在しない。超臨界水または液体抽出は、超臨界条件下で水または液体を利用することによりバイオマスを分解し、セルロース系糖に変える方法である。水または液体は溶媒として働き、植物物質セルロースから糖を抽出し、リグニンが固体粒子として残る。
【0036】
本発明の一実施形態では、リグニンは加水分解リグニンである。加水分解されたリグニンは、紙−パルプまたはウッドケミカルスのプロセスから回収することができる。
【0037】
本発明の一実施形態では、リグニンはオルガノソルブ法に由来する。オルガノソルブは、リグニンおよびヘミセルロースを可溶化するため有機溶媒を使用するパルプ化技術である。
【0038】
本発明はさらに、本発明による繊維マット強化樹脂複合材料を製造するための方法であって、
a) 熱硬化性樹脂と、硬化剤と、2〜200μmの平均粒度を有するリグニンとを組み合わせることにより樹脂マトリックスを形成するステップ;および
b)繊維の少なくとも1つのマットを埋め込むステップ
を含み、繊維は、樹脂マトリックス中で150μm〜9mmの平均長さを有する天然繊維である
方法に関する。
【0039】
本発明の一実施形態では、ステップa)を高くて60℃の温度、好ましくは高くて40℃の温度で行う。
【0040】
本発明の一実施形態では、繊維のマットは、マットを樹脂マトリックスに浸漬することにより、樹脂マトリックスをマットに塗布することにより、含浸により、湿式ハンドレイアップにより、スプレーアップにより、プリプレグ−レイアップにより、真空バッグにより、樹脂トランスファー成形により、樹脂注入により、引き抜き成形により、フィラメントワインディングにより、樹脂トランスファー成形により、接触成形により、またはそれらの任意の組み合わせにより樹脂マトリックスに埋め込む。
【0041】
本発明では、繊維の少なくとも1つのマットを使用する。本発明の一実施形態では、繊維の1つのマットは、繊維マット強化樹脂複合材料を形成するため樹脂マトリックス中に埋め込まれている。本発明の一実施形態では、樹脂マトリックス中に別々に埋め込まれている繊維の2つ以上のマットを一緒に束ねる。本発明の一実施形態では、樹脂マトリックス中に埋め込む前に、繊維の2つ以上のマットを一緒に束ねる。
【0042】
本発明の一実施形態では、本方法は、樹脂マトリックスを硬化させるステップc)をさらに含む。本発明の一実施形態では、本方法は、樹脂マトリックスを硬化させるため、樹脂マトリックス中に埋め込まれた繊維の少なくとも1つのマットを、20〜200℃の温度、好ましくは40〜180℃の温度で加熱するステップc)をさらに含む。本発明の一実施形態では、ステップc)を0.5〜24時間行う。
【0043】
樹脂マトリックスを硬化させるステップにおいて、熱硬化性樹脂およびリグニンを硬化剤で架橋する、すなわち架橋を形成する。
【0044】
本発明の一実施形態では、繊維マット強化樹脂複合材料の製造に使用するリグニンを、その平均粒度が2〜200μmになるように粉砕または微粉砕する。リグニンは、たとえばローターミル、ハンマーミル、スワールフルイダイザー(swirl fluidizer)、および/またはサイクロミックスを使用することにより粉砕することができる。リグニンの平均粒度は、ベックマンコールター(Beckman Coulter)LSレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。この測定装置は、0.4〜2000μmの測定範囲を有する。この測定技術はレーザー回折に基づく。レーザービームは、粒度に直接関係する角度で光を散乱させる。その結果は、大きさの各分類が体積%で表される粒度分布である。
【0045】
本発明の一実施形態では、リグニンのガラス転移温度(T
g)は110〜190℃、好ましくは130〜170℃である。ガラス転移温度は、ガラス転移を、ガラス状態からゴム状態へのポリマーマトリックスの転移における熱容量の変化と定義する示差走査熱量計(DSC)により測定される。
【0046】
本発明の一実施形態では、リグニンの比表面積(ブルナウアー−エメット−テラー(Brunauer−Emmet−Teller)、BET)は、0.1〜10m
2/g、好ましくは0.3〜6.0m
2/gである。BET法は、固体材料の比表面積の分析に一般に用いられる方法である。BET法は、表面へのガスの吸着に基づき、固体材料の表面に吸着した不活性ガスの量を測定する。特定の圧力で吸着するガス分子の量が公知であるとき、分析される材料の表面積を判定することができる。
【0047】
本発明の本発明者らは、驚くべきことに、2〜200μmの平均粒度を有するリグニンであれば、樹脂マトリックス中のリグニンが繊維のマットの繊維内に浸透できることを見出した。より大きな粒度では、リグニン粒子が繊維のマットの表面にのみ残り、たとえばマットの強度特性を悪化させることにより、最終の複合材料に好ましくない影響を与え得る。さらに、より大きな粒度は、硬化すると樹脂マトリックスを破壊することもある。本発明の一実施形態では、リグニンは5〜150μm、好ましくは10〜100μmの平均粒度を有する。
【0048】
本発明はさらに、航空機、ボート、自動車、槽、タンク、容器、スポーツまたはレジャー製品、たとえばサーフボード、釣り竿、スキーおよびゴルフシャフトもしくは玩具、電子的もしくは電気的応用、たとえばプリント回路板もしくは絶縁材、屋根材、風車ブレード、パイプ、チューブ、ケーブルカバー、被覆材、鋳型またはドアの製造のための、本発明による繊維マット強化樹脂複合材料の使用に関する。繊維マット強化樹脂複合材料は、たとえば伝統的な繊維ガラスを使用できる任意の用途に使用することができる。
【0049】
上記の本発明の実施形態は、互いに任意に組み合わせて使用してもよい。いくつかの実施形態を一緒に組み合わせて、本発明のさらなる実施形態を形成してもよい。本発明が関係する複合材料、方法または使用は、上記に記載の本発明の実施形態の少なくとも1つを含めばよい。
【0050】
本発明の利点は、伝統的な複合材料に比較してバイオベースの材料の比率が高い繊維マット強化樹脂複合材料を製造できることである。本発明の利点は、形成された繊維マット強化樹脂複合材料の特性をその後の用途に好適に保持しながら、リグニンが石油系熱硬化性樹脂の一部の代わりになり得ることである。すなわち、熱硬化性樹脂の一部をリグニンで置き換えることで、石油系成分および材料のみを使用したときと同種の複合材料特性を達成することができる。
【0051】
本発明の利点は、リグニンが容易に入手でき、かつ安価な原料材料であることである。
【0052】
本発明の利点は、樹脂マトリックス中にリグニンを使用することが、エポキシ樹脂の天然繊維との適合性に有益な作用を与えることである。
【0053】
本発明による繊維マット強化樹脂複合材料の利点は、150μm〜9mmの平均長さを有する繊維を使用すると、繊維マットを工業規模の抄紙機を用いて製造することができることであり、これは、より長い繊維には当てはまらない。
【0054】
本発明による繊維マット強化樹脂複合材料の利点は、たとえば繊維マット強化樹脂複合材料を焼却により処理することができ、複合材料からの屑材が残らないことである。これは、天然繊維および樹脂マトリックスが屑材をまったく残すことなく燃焼するということにより可能になる。たとえばガラス繊維であれば、燃焼すると無機物質が残る。
【0055】
本発明の利点は、形成された複合材料のその後の取り扱い、たとえば切断、穿孔および/または鋸引きが容易であり、たとえば形成された複合材料は、たとえば鋭角を有さず、鉱物ダストの形成が生じないので、健康上のリスクを引き起こさないことである。
【0056】
繊維マット強化樹脂複合材料の利点は、たとえばガラス繊維系複合材料より重量が軽く、したがってその後の用途の取り扱いが容易であることである。
【実施例】
【0057】
次に、例を添付図面に図示した本発明の実施形態について、詳細に言及する。
【0058】
以下の記載は、当業者が本開示に基づき本発明を利用できるように、本発明のいくつかの実施形態を詳細に開示する。実施形態のステップの多くは本明細書に基づき当業者に明らかになるので、すべてのステップが詳細に考察されるわけではない。
【0059】
図1は、繊維マット強化樹脂複合材料を製造するための、本発明の一実施形態による方法を図示する。
【0060】
最初に、各成分の源および種類、特にリグニン源を選択する。上述のように、リグニンは、たとえばクラフトリグニン、スルホン化リグニン、水蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿リグニン、バイオマス由来リグニン、アルカリパルプ化法で得られたリグニン、ソーダ法で得られたリグニンおよびそれらの任意の組み合わせから選択することができる。本発明に使用されるリグニンの平均粒度は、2〜200μmである。本発明に使用される天然繊維は、150μm〜9mmの平均長さを有する。さらに使用される他の成分およびその量も選択する。
【0061】
様々な調製および前処理の後、
図1に示す本発明の実施形態では、ステップa)を行う。選択したリグニンは、熱硬化性樹脂と硬化剤との混合物と混合しても、あるいは熱硬化性樹脂と硬化剤との混合物に分散させてもよい。こうしてステップa)で樹脂マトリックスを形成する。
【0062】
樹脂マトリックスの形成後、樹脂マトリックス中に天然繊維のマットを埋め込むことによりステップb)を行う。本発明の一実施形態では、繊維のマットを樹脂マトリックス中に埋め込んだ後、樹脂マトリックスを硬化させるため、形成された複合材料をステップc)において20〜200℃の温度で加熱してもよい。
【0063】
実施例1−セルロース繊維マット強化エポキシ樹脂複合材料の調製
本例では、
図1に示す本発明の実施形態に従いセルロース繊維マット強化エポキシ樹脂複合材料を調製した。以下の成分およびその量を使用した:
エポキシ樹脂 90g
(ランゲ+リッター(Lange+Ritter)GmbH) LARIT L−285
エポキシ硬化剤 30g
(ランゲ+リッターGmbH) LARIT 287−blau
クラフトリグニン 10g
(平均粒度は、コールターLSで測定すると56μmであった)
セルロース繊維マット 5マット
(2mmの平均繊維長(カヤーニファイバーラボFS200装置で測定)を有する針葉樹繊維)
【0064】
最初に、エポキシ樹脂を硬化剤と混合することにより樹脂マトリックスを調製した。この樹脂系に本例で使用したリグニンを同時に混合した。リグニンはまた、最初にエポキシ樹脂および硬化剤を所定の時間混合した後、樹脂系に混合してもよかった。
【0065】
樹脂マトリックスを形成した後、5つのセルロース繊維マットまたはシートを各々いわゆるハンドレイアップ法により樹脂マトリックスに含浸した。樹脂マトリックスの量は、紙種およびその固有の吸収能によって異なる。形成された複合材料における繊維の体積含有率は40%であった。
【0066】
セルロース繊維マットを樹脂マトリックスに含浸した後、含浸マットまたはシートを互いに重ねて置き、積層した。次いで形成された繊維マット強化樹脂複合材料を硬化させるため、樹脂マトリックスをプレスして緩めた。その後、形成された複合材料を試験片に切断した。この棒状平面試料の寸法は、150mm(L)×20mm(B)×2mm(H)であった。切断後、試験前に、試料を乾燥させ、研磨し、秤量してその寸法を測定した。
【0067】
試験片を、DIN EN ISO 527−4「等方性および直交異方性繊維強化プラスチック複合材料の試験条件」に準拠して行った引張試験に供した。引張試験により、ヤング率、引張強さ、引張強さ時ひずみを判定した。
【0068】
形成されたセルロース繊維マット複合材料(CFC:cellulose fiber mat composite)の試験から得られた値を、対応するガラス繊維マット複合材料(GFC:glass fiber mat composite)から得られた値と比較した。さらに、リグニンを使用しなかった対応するセルロース繊維マット複合材料(CFC)も測定した。測定値を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
得られた値から、最終のマット複合材料の特性を低下させることなく、本発明による繊維マット強化樹脂複合材料においてエポキシ樹脂の代わりにリグニンを使用できることが示された。
【0071】
実施例2−様々な繊維マット強化エポキシ樹脂複合材料の調製
本例では、
図1に示す本発明の実施形態に従い、様々な繊維マット強化エポキシ樹脂複合材料を調製した。本例で形成された樹脂マトリックスは同じものであるが、繊維源および繊維種を変えた。以下の成分およびその量を使用した:
エポキシ樹脂 182g
Epilox A19−0
エポキシ硬化剤 42.6g
イソホロンジアミン
クラフトリグニン 36g
(平均粒度は、コールターLSで測定すると45μmであった)
セルロース繊維マット 7マット
(0.9mmの平均繊維長(カヤーニファイバーラボFS200装置で測定)を有するセルロース繊維;各繊維マットの厚さは280μmであった)
配向した亜麻繊維マット 3マット
(4.0mmの平均繊維長(カヤーニファイバーラボFS200装置で測定)を有する亜麻繊維;各繊維マットの厚さは800μmであった)
サイザル麻繊維マット 3マット
(6.2mmの平均繊維長(カヤーニファイバーラボFS200装置で測定)を有するサイザル麻繊維;各繊維マットの厚さは800μmであった)
【0072】
最初に、エポキシ樹脂を硬化剤(curing)と混合することにより樹脂マトリックスを調製した。この混合物に本例で使用したリグニンを同時に混合した。リグニンは、エポキシ樹脂および硬化剤を所定の時間混合した後、混合物に混合してもよかった。
【0073】
樹脂マトリックスを形成した後、いわゆるハンドレイアップ法により、繊維マットまたはシートを各々樹脂マトリックスに含浸した。樹脂マトリックスの量は、紙種およびその固有の吸収能によって異なる。形成された複合材料における繊維体積含有率は、セルロース複合材料で約51%、亜麻複合材料で約16%、およびサイザル麻複合材料で約15%であった。
【0074】
繊維マットを樹脂マトリックスに含浸した後、含浸セルロースマットまたはシートを互いに重ねて置き、積層した。同様のやり方で含浸亜麻繊維マットを組み合わせて積層し、さらにサイザル麻繊維マットも組み合わせて積層した。次いで形成された繊維マット強化樹脂複合材料を硬化させるため、樹脂マトリックスを各々プレスして緩め、その後、複合材料を試験片に切断した。この棒状平面試料の寸法は、150mm(L)×20mm(B)×2mm(H)であった。切断後、試験前に、試料を乾燥させ、研磨し、秤量してその寸法を測定した。
【0075】
試験片を、DIN EN ISO 527−4「等方性および直交異方性繊維強化プラスチック複合材料の試験条件」に準拠して行った引張試験に供した。引張試験により、ヤング率、引張強さ、引張強さ時ひずみを判定した。
【0076】
様々な繊維マット強化エポキシ樹脂複合材料により得られた値を比較した。さらに、リグニンを使用しなかった対応する繊維マット複合材料の値も判定した。判定値を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
科学技術の進歩に伴い、本発明の基本的な考えを様々なやり方で実行できることは、当業者に明らかである。したがって本発明およびその実施形態は、上述の例に限定されるものではなく、むしろ特許請求の範囲の範囲内で変化してもよい。