特許第6000487号(P6000487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000487吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法と塗膜剥離装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6000487
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法と塗膜剥離装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20160915BHJP
   E01D 11/00 20060101ALI20160915BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20160915BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20160915BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20160915BHJP
   B05C 9/10 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   E01D22/00 A
   E01D11/00
   B05D3/12 E
   B05D7/00 L
   B05D3/02 F
   B05C9/10
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-64041(P2016-64041)
(22)【出願日】2016年3月28日
【審査請求日】2016年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-23006(P2016-23006)
(32)【優先日】2016年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(72)【発明者】
【氏名】今村 壮宏
(72)【発明者】
【氏名】市田 孝治
(72)【発明者】
【氏名】笹嶋 純司
(72)【発明者】
【氏名】一宮 充
(72)【発明者】
【氏名】大西 健二
(72)【発明者】
【氏名】倉本 隆博
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−14933(JP,A)
【文献】 特開昭57−116810(JP,A)
【文献】 特開平10−245816(JP,A)
【文献】 特開2007−120242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00〜 24/00
B05D 1/00〜 7/26
B05C 7/00〜 21/00
H05B 6/00〜 6/44
B44D 3/16
H02G 1/12
B08B 1/00〜 13/00
B24B 3/00〜 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの外周面の塗膜を剥離するラッピングワイヤの塗膜剥離方法において、
誘導加熱装置の加熱ヘッドを、ラッピングワイヤの外周面の塗膜に宛がうセット工程、
前記誘導加熱装置の電源部から加熱ヘッドに電源を供給して、誘導加熱により前記ラッピングワイヤを加熱して、当該ラッピングワイヤからの熱によって前記塗膜を軟化させる加熱軟化工程、
前記軟化箇所の塗膜を剥離する剥離工程、
誘導加熱装置の電源部を、主ケーブルの近くのハンドロープを軌条として主ケーブルの軸方向に移動させる電源移動工程、
前記電源移動後に、未剥離箇所の塗膜を、前記セット工程、加熱軟化工程、剥離工程により剥離する、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法。
【請求項2】
請求項1記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法において、
誘導加熱装置の加熱ヘッドを、ラッピングワイヤの隣接する二巻き以上の箇所の塗膜表面に宛がって、前記二巻以上の箇所の被膜を加熱軟化させ、軟化した二巻以上の外周面の塗膜をシート状の塊又はその他の塊状で剥離する、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法において、
セット工程、加熱軟化工程、剥離工程を、作業者が主ケーブルの下方及び側方の作業足場内で行う、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法において、
セット工程、加熱軟化工程、剥離工程を、作業者が主ケーブルの下方及び側方の作業足場と、その上のカバーで囲われたトンネル状の空間内で行う、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法。
【請求項5】
吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの外周面の塗膜を剥離するラッピングワイヤの塗膜剥離装置において、
誘導加熱装置と、主ケーブルの下方及び外側に設けた作業足場と、作業足場の上に設けた移動体を備え、
誘導加熱装置は電源部と、誘導コイルを有する加熱ヘッドを備え、
加熱ヘッドはラッピングワイヤ表面の塗膜に宛がうことができ、
誘導加熱装置は電源部から電磁誘導コイルに高周波電流を供給することにより、ラッピングワイヤを誘導加熱して前記塗膜を軟化させることができ、
前記移動体は電源部を搭載可能な電源搭載部を備え、主ケーブルに沿って配置されているハンドロープを軌条としてハンドロープの軸方向に人力又は動力により移動して、前記電源搭載部に搭載された電源部を主ケーブルの軸方向に移動可能である、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置。
【請求項6】
請求項5記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置において、
作業足場が主ケーブル検査車のケージであり、移動体が主ケーブル検査車の駆動台車及び従動台車であり、
作業足場が前記駆動台車及び従動台車の双方又はいずれか一方に係止されて、主ケーブルの側方に吊り下げられている、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置。
【請求項7】
請求項5記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置において、
作業足場の内側に、主ケーブルの外周に脱着可能な装着具を備え、装着具に加熱ヘッドを搭載可能なヘッド搭載部を備えた、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置。
【請求項8】
請求項7記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置において、
ヘッド搭載部が、搭載された加熱ヘッドをラッピングワイヤの塗膜に押し付け可能な押し機構を備えた、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置において、
ヘッド搭載部が主ケーブルの下方もしくは側方にあり、手動又は電動により主ケーブルの下半周面に沿って移動可能であり、電動の場合はリモコン操作で移動可能である、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置。
【請求項10】
請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置において、
作業足場が上方開口の略半筒状であり、移動体が下方開口のほぼ半筒状であり、作業足場の上方開口部と移動体の下方開口部を対向させて、作業足場の上に移動体を被せると、トンネル状の作業空間を形成できる、
ことを特徴とする吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法とラッピングワイヤの塗膜剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な吊り橋の例を図1(a)〜(c)に示す。図1(a)〜(c)の吊り橋は、主塔A、メインケーブル(主ケーブル)B、ケーブルバンドC、ハンガーロープD、補剛桁E等を備えている。主ケーブルBの両端はアンカレッジと呼ばれるケーブル定着部を備えたコンクリートの塊体(図示しない)に固定されることが多い。主ケーブルBの両側方にはハンドロープ支柱F(図1(c))が立設され、夫々のハンドロープ支柱Fの上にハンドロープGが互いに平行に且つ主ケーブルBの軸方向に配線されている。ハンドロープGは主ケーブルBの上で作業する作業者Hが手で握って安全を確保することができる。
【0003】
主ケーブルBは図2(a)(b)に示すように、多数本の亜鉛メッキで被覆された鋼線(素線)Jが端面形状円形に収束され、その外側にペースト等の下地材Kが塗布され、その外周に亜鉛メッキで被覆されたラッピングワイヤLが螺旋状に巻かれ、ラッピングワイヤLの外周に塗料が塗装されて塗膜Mが形成されている。
【0004】
前記塗膜Mは、主ケーブルBのメンテナンスや塗り替え等に際して剥離することがある。従来、前記塗膜Mを剥離する工法として、グラインダーやカップブラシ等の動力工具を用いて塗装を削り取る工法(特許文献1)、剥離剤を塗布する化学的な工法(特許文献2)、高周波誘導加熱により塗膜を剥離する工法(特許文献3及び4)、サンドブラスト等で塗膜を削り取る工法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−056333号公報
【特許文献2】特許第3985966号公報
【特許文献3】米国特許第7857914号公報
【特許文献4】特開2014−014933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記動力工具を用いて表面を切削する工法では、塗装の下のラッピングワイヤの表面を傷つけてしまうおそれがある、作業時に粉塵が発生する、動力工具で騒音が発生する、ラッピングワイヤLの隣接巻線間の凹部(溝)の塗膜を剥離しにくい等の難点がある。剥離剤を用いる工法では、剥離剤の反応速度が外気温の影響を受ける、剥離剤が毒性及び可燃性を有する、剥離剤を繰り返し塗布しなければならず、除去までの塗布回数を把握しにくい、剥離剤がいったん主ケーブルの中へ吸収されて、再塗装の際にそれが現れ塗膜を溶解する可能性がある等の難点がある。高周波誘導加熱による工法では、一般に高周波誘導加熱装置の電源部がウインチで吊り上げなければならないほど重いため従来の作業足場に積載することができず、また電源部と加熱ヘッドの距離を大幅に延長すること(例えば100m程度)が技術的に困難であるため、高所にある主ケーブルBの剥離作業がしにくいという難点がある。ブラスト工法では、塗装剥離時に切削粉が生じるため飛散防止対策が必要である、作業員に高度な粉塵対策が要求される、飛散防止のために作業足場の周囲を密閉すると、作業足場が風を受けて不安定になり、作業しにくくなる等の難点がある。
【0007】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、振動や騒音が発生せず、切削粉の飛散もなく、ラッピングワイヤの隣接巻線間の凹部の塗装も剥離し易くしたラッピングワイヤの塗膜剥離方法と、その剥離に使用する塗膜剥離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法は、吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの外周面の塗膜を剥離する方法において、誘導加熱装置(Induction Heating:IH)の加熱ヘッドをラッピングワイヤの塗膜に宛がい、被覆された亜鉛メッキを損傷させることなく加熱ヘッドの誘導コイル(通常、加熱コイルとも呼ばれている。)による誘導加熱でラッピングワイヤを加熱して、当該ラッピングワイヤの塗膜を軟化させ、軟化させた塗膜をシート状の塊又はその他の塊状で剥離する方法である。前記誘導加熱装置は高周波誘導加熱装置が適するが、本発明の前記課題を解決可能であれば低周波誘導加熱装置であってもよい。
【0009】
本発明の塗膜剥離方法では、誘導加熱装置の電源部を橋桁上や地上など高低差があり距離の離れた場所に据え置くのではなく、主ケーブルの近くのハンドロープを軌条として主ケーブルの軸方向に移動させて新たな箇所の塗膜に加熱ヘッドを宛がい、その箇所の塗膜を誘導加熱により加熱軟化させ、軟化した塗膜を塊状で剥離し、以降、塗膜の前記剥離、加熱ヘッドの誘導加熱による塗膜の軟化、剥離を繰り返して、ラッピングワイヤの所望領域の塗膜を剥離することができる。
【0010】
本発明の塗膜剥離方法では、加熱ヘッドを、隣接する二巻以上のラッピングワイヤの凹部に跨がせて宛がって、その二巻以上の箇所の塗膜を加熱軟化させて、軟化した塗膜をシート状の塊或いは飛散しないような状態にして剥離することもできる。
【0011】
本発明の塗膜剥離装置は、吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜を剥離する装置であり、電源部と加熱ヘッドを備えた誘導加熱装置と、作業足場と、移動体を備え、作業足場は少なくとも主ケーブルの下方及び側方を囲って配置され、移動体は少なくとも前記電源部を搭載可能な電源搭載部を備え、吊り橋のハンドロープの外周を囲って作業足場の上に配置され、そのハンドロープを軌条として主ケーブルの軸方向に移動可能なものである。
【0012】
本発明の塗膜剥離装置は、前記作業足場が主ケーブル検査車のケージであり、前記移動体が主ケーブル検査車の駆動台車及び従動台車であり、作業足場が前記駆動台車及び従動台車の双方又はいずれか一方に係止されて、主ケーブルの下方及び側方に吊り下げられたものであってもよい。
【0013】
本発明の塗膜剥離装置は、作業足場の内側に、主ケーブルの外周に脱着可能な装着具を備え、装着具に加熱ヘッドを搭載可能なヘッド搭載部を備えたものであってもよい。ヘッド搭載部は、それに搭載された加熱ヘッドを主ケーブルのラッピングワイヤの塗膜に接触可能に押し付け機構を備えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗膜剥離方法は次の効果を奏する。
(1)塗膜が誘導加熱で加熱軟化されて熱膨張してラッピングワイヤへの付着力が劣化(低下)し、塗膜がラッピングワイヤから分離したり、場合によってはラッピングワイヤから浮き上がったりして剥がれ易くなる。このため剥離残りが生じにくく、剥離時にラッピングワイヤの表面に傷が付かず、剥離後の錆の発生、強度劣化がない。
(2)軟化した塗膜を塊或いはシート状の塊(図3)にして剥離できるため、剥離時に粉塵が発生せず、作業環境が悪化しにくい。
(3)剥離に動力工具を使用しないので振動や騒音が発生しない。
(4)加熱温度が剥離に必要な適切温度内であり、下地材から有害な物質を発生せず、被覆された亜鉛メッキに損傷を与えない温度以下(約250℃以下)であれば、塗膜の溶解や燃焼による有害気体の発生がない。
(5)騒音発生、粉塵飛散等の心配がないため、通気性のある作業足場で剥離作業ができ、良好な作業環境で作業できる。
【0015】
本発明の塗膜剥離装置は次の効果を奏する。
(1)誘導加熱装置が高周波誘導加熱方式であって、数十kgもの重い電源部を備える場合であっても、その電源部を、ハンドロープを軌条として主ケーブルの軸方向に移動可能な移動体に搭載して移動できるので、電源部の移動が容易になり、剥離作業もし易くなる。
(2)作業足場、移動体に、既存の主ケーブル検査車を利用すれば、塗膜剥離装置の製作が容易である。
(3)塗膜剥離装置を新規に製作するにしても、既存の主ケーブル検査車に搭載可能な程度の規模に小型化でき、塗膜剥離装置の構築が容易であり、高所に構築しても風の影響を受けにくく、安定し、高所作業がし易くなる。
(4)作業時の塗膜片の飛散防止のための防護工は主ケーブルに沿って移動する形式なので、主ケーブルへの負担が少なく防護工の組み払らしが容易に行えるので経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は一般的な吊り橋の部分側面図、(b)は吊り橋の主ケーブル及びハンドロープの付近の側面説明図、(c)は(b)の正面図。
図2】(a)は一般的な吊り橋の主ケーブルの斜視図、(b)は主ケーブルの部分断面図。
図3】シート状剥離片の一例を示す説明図。
図4】本発明の塗膜剥離装置の使用の一例を示す説明図。
図5】本発明における高周波誘導加熱装置の一例の一部説明図。
図6】(a)は本発明における高周波誘導加熱装置の分解説明図、(b)は高周波誘導加熱装置のヘッド側電極の一例の説明図。
図7】本発明における高周波誘導加熱装置の冷媒経路の説明図。
図8】本発明の塗膜剥離装置の一例であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図。
図9】本発明の塗膜剥離装置におけるハンドロープ挟着機構であり、(a)は車輪を開いた状態の正面図、(b)は車輪を閉じた状態の正面図、(c)は車輪を閉じてフックを係止した状態の側面図、(d)は側面図。
図10】本発明の塗膜剥離装置の他例を示すものであり,(a)は全体の側面説明図、(b)は(a)の詳細図、(c)は(b)のケージ部分の正面図。
図11】本発明の塗膜剥離装置の他例を示す斜視図。
図12図11の塗膜剥離装置における支持部の斜視図。
図13図11のヘッド搭載部の斜視図。
図14図11のヘッド搭載部の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(塗膜剥離方法の実施形態)
[吊り橋]
本発明の吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの塗膜剥離方法(以下「塗膜剥離方法」という。)は、各種形状、構造の吊り橋の主ケーブルの塗膜剥離に使用することができるが、以下の説明では、図1(a)〜(c)に示す既存の吊り橋を一例として説明する。本発明における誘導加熱方式(電磁誘導加熱方式)は高周波誘導加熱方式でも低周波摺動加熱方式でも使用可能であるが、以下の実施形態では高周波誘導加熱装置の場合を一例として説明する。本発明における冷却方式は水冷、空冷、その他の冷媒による冷却のいずれのも方式であってもよいが、以下の実施形態では水冷方式の場合を一例として説明する。
【0018】
[塗膜剥離方法]
本発明の塗膜剥離方法は、図4に示すように、高周波誘導加熱装置1を使用してラッピングワイヤLを誘導加熱し、その加熱で塗膜Mを軟化させて、塗膜Mを図3のようなシート状の塊又は図示しない他の形状の塊或いは飛散しないような状態で剥離する方法である。
【0019】
[高周波誘導加熱装置]
本発明では、既存の或いは新規の高周波誘導加熱装置を使用することができるが、一例として図4図7に示す高周波誘導加熱装置1は、高周波電源部(電源部)2と、加熱ヘッド3を備えている。加熱ヘッド3は図5に示すようにケース4内に誘導コイル5を備えている。誘導コイル5は電源部2から高周波電流が供給されるように電源部2と電気ケーブルで接続されている。
【0020】
本発明の塗膜剥離方法は、この高周波誘導加熱装置1を使用して、次の工程により、塗膜Mを剥離することができる。
【0021】
[セット工程]
図4に示すように、高周波誘導加熱装置1の加熱ヘッド3を主ケーブルBのラッピングワイヤLの外周面の塗膜Mに宛がう。加熱ヘッド3をラッピングワイヤLの隣接する二巻(ターン)以上の巻線部の凹部(窪み)N(図2(b))に跨がせて宛がう(セットする)ことができる。
【0022】
[軟化工程]
前記加熱ヘッド3の誘導コイル5に電源部2から高周波電流を供給して、高周波誘導加熱によりラッピングワイヤLを加熱する。塗膜Mは加熱ヘッド3を一箇所に2〜3秒程度連続して宛がうと剥離できる程度まで軟化する。塗膜Mが下地材(例えば、錆止め層)Kから浮き上がる程度に軟化させる。
【0023】
加熱温度は塗膜Mが軟化し易く、下地材K(図2(a)(b))から有害な物質が生じない温度かつ、ラッピングワイヤを被覆する亜鉛メッキに損傷を与えない温度以下となることが望ましい。例えば、塗膜Mがエポキシ樹脂系の塗料の場合は、100℃以上250℃未満、特に、150℃〜200℃程度が適する。加熱温度が250℃を超えると過加熱になって塗膜Mから有害成分が発生するおそれがあり、100℃未満だと加熱不足により塗膜Mの剥離が不十分になるおそれがある。これら数値は一例であり、塗装の種類や作業現場の雰囲気温度、湿度、天候等の各種状況に応じて、最適な条件を選択することができる。
【0024】
加熱ヘッド3は宛がった箇所の塗膜Mが軟化したら、ラッピングワイヤLの巻き方向と、主ケーブルBの軸方向に移動させて宛がう箇所を変えて軟化範囲を広げる。
【0025】
[剥離工程]
前記のように軟化させた又は浮き上がるほど軟化させた塗膜Mに、剥離治具を差し込んで(押込んで)塗膜Mを剥離する。剥離治具には既存のカワスキやスクレーパなどを使用することができる。この場合、下地材Kは残してその上の塗膜Mを剥離する。図3のようにラッピングワイヤLの凹部N(図2(b))を含む二巻以上の広さのシート状の塊又は図示しない他の形状の塊或いは飛散しないような状態にして剥離することができる。剥離後のラッピングワイヤLの表面には若干の塗膜Mが残ることがあるが、残った塗膜Mは前記剥離治具で掻きとって除去するのが望ましい。
【0026】
[高周波誘導加熱装置の詳細]
誘導加熱は既存の技術であり、被加熱物(本発明ではラッピングワイヤ)の直近に非接触状態で配置された誘導コイルに交流電流を流すと交番磁束が発生し、その交番磁束が被加熱物を通過することで被加熱物に誘導電流(渦電流)が発生し、その渦電流が被加熱物固有の抵抗値により消費される電力(ジュール熱)により被加熱物が自己発熱することである。誘導加熱方式には、50Hz/60Hzの商用電源(交流電流)をそのまま使用する低周波誘導加熱と、50Hz/60Hzの交流電流を20kHz/100kHzの高周波電流に変換して使用する高周波誘導加熱とがある。
【0027】
本発明で使用する高周波誘導加熱装置1は図7に示すように、インバータ方式や他の方式の高周波発振器6、ハンディー式の変流器(通常「整合用トランス」ともいう。)CT(Current Transformer)、加熱ヘッド3、冷却用の循環装置7を備えている。インバータ或いは高周波発振器6は誘導加熱に適した周波数の高周波信号(電流)を発振するものである。変流器CTは高周波発振器6から発振される高周波電流を加熱ヘッド3の誘導コイル5(図6(a))に供給するのに適した電流に変換するものである。循環装置7は冷却板8−変流器CT−加熱ヘッド3の経路で冷媒を循環させてそれら機器を冷却するものである。高周波発振器6には汎用の高周波発振器を、変流器CTには産業用IHに汎用の変流器を、循環装置7には汎用の冷媒循環装置を使用することができる。変流器CTは高所での現場作業での利便性の面から携行可能なハンディー式の変流器CTが好ましい。
【0028】
[電源部]
本発明では、前記高周波発振器6、変流器CT、循環装置7をまとめて電源部2というが、電源部2は必要に応じてこれら以外の電源関連機器を含むこともあり、前記高周波発振器6以外の一部の機器が除かれる場合もある。
【0029】
高周波発振器6と変流器CTの連結には電源ケーブル9が、循環装置7−冷却板8−変流器CT−加熱ヘッド3−循環装置7の連結にはホース10が使用されている。電源ケーブル9、ホース10は蛇腹式の保護ホース(連結具)11(図5)内に収容されている。連結具11には蛇腹式その他の可撓性のあるホースを使用することができる。
【0030】
連結具11(図6(a))の先端には、電源側連結具12がある。電源側連結具12は二つの金属ブロック13を備えている。それぞれの金属ブロック13の上面には凸部14が突設されており、金属ブロック13の先端面には半円盤状の二枚の給電電極15が取り付けられている。給電電極15は肉厚の銅板であり、ほぼ中央部に冷媒通孔16が貫通され、冷媒通孔16の上下に止め孔17が開口されている。冷媒通孔16の端面には漏洩防止パッキン18が嵌合されている。漏洩防止パッキン18はゴム、樹脂等の弾性材で成型されている。給電電極15は銅以外の金属製であってもよい。一方の金属ブロック13の側面には作業者が作業時に握るハンドル19(図5図6(a))が設けられている。
【0031】
[加熱ヘッド]
図6に示すように、加熱ヘッド3は、誘導コイル5がケース4内に収容配置され、誘導コイル5の両端部5a(図6(a))がケース4から外に引き出され、夫々の端部5aに半円盤状のコイル側電極20(図6(a)(b))が連結されている。誘導コイル5は図6(a)に示すように一本の金属パイプが平面視横長リング状に曲げ加工されており、その内部空間を通路として冷却媒体が循環できるようにしてある。誘導コイル5の外周面には絶縁処理が施されている。二枚のコイル側電極20(図6(b))の夫々には冷媒通孔21と止め孔22が貫通されている。それらコイル側電極20は加熱ヘッド3のケース4の背面に設けたヘッド側連結具23(図6(a))に取り付けられている。
【0032】
図6(a)に示すヘッド側連結具23は金属製であり、凹部24を備えた平面視コ字状である。この凹部24を二つの金属ブロック13(図6(a))の凸部14の外側に被せ、止め具30により金属ブロック13に固定してある。このヘッド側連結具23にはセンサ取付け具26(図5図6(a))が取付けられている。センサ取付け具26には取付け孔27(図6(a))が開口されており、その取付け孔27に温度センサ28(図5)を差し込んで固定してある。温度センサ28には汎用の非接触式の温度センサを使用することができる。温度センサ28は非接触式であるため、図4のように、加熱ヘッド3をラッピングワイヤLの塗膜Mに宛がったときに、当該塗膜Mに接近はするが接触はしないように設けてある。
【0033】
[電源部と加熱ヘッドとの連結]
電源部2と加熱ヘッド3(図4図5)は、図6(a)の給電電極15とコイル側電極20を突き合わせて、給電電極15の冷媒通孔16とコイル側電極20の冷媒通孔21を連通させ、図5のように二つの金属ブロック13の凸部14の外側にヘッド側連結具23の凹部24を被せ、ヘッド連結具24の上から金属ブロック13の固定孔29(図6(a))に止め具30(図5)をねじ込んで、加熱ヘッド3を電源部2側と連結してある。
【0034】
前記温度センサ28(図5)には電気ケーブルが配線されており、その一端側が増幅器(図示せず)に接続されて、温度センサ28の検知電流(電圧)を増幅できるようにしてある。電気ケーブルはフレキシブル管31内に挿通してある。
【0035】
[高周波誘導加熱]
前記した電源部2から発振される高周波電流を、変流器CT−給電電極15(図6(a))−コイル側電極20(図6(a))−誘電コイル5の経路で通電すると、加熱ヘッド3が宛がわれているラッピングワイヤL(図4)が磁性体であるがゆえ高周波誘導加熱により加熱される。この加熱によりラッピングワイヤLの外周の塗膜M(図4)が軟化し、熱膨張してラッピングワイヤLへの接着力が弱まって剥離し易くなる。加熱時に、図7に示す循環装置7−供給側のホース10−冷却板8−変流器CT−加熱ヘッド3の誘導コイル5−戻り側のホース10−循環装置7の経路で冷媒を循環させると、前記冷却板8及び誘導コイル5が冷却されて過加熱されない。
【0036】
図示は省略するが、前記高周波誘導加熱装置1には制御盤を設けることができる。制御盤には電源をON−OFFする電源スイッチ、給電電流を調整可能な出力コントローラ、加熱オフ時間を設定するタイマ、加熱時の電力強度を表示するパワーメータ、温度センサで感知されたラッピングワイヤ(ワーク)Lの温度を表示するワーク温度表示器、白金測温体(図7)で計測された冷媒温度を表示する冷媒温度表示器、加熱中に点灯する加熱中表示灯、異常発生時に高周波電流の通電を停止させる緊急停止スイッチ、異常発生時に警報を発生させるアラームスイッチ、警報をリセットするリセットスイッチ等の機器を設けて、高周波誘導加熱装置1の可動条件の設定し、異常発生の自動報知、自動停止等が行われるようすることができる。制御盤は手動で或いはリモコンで遠隔操作することもできる。リモコンで遠隔操作できる場合は、剥離作業をする作業者HがラッピングワイヤLを剥離作業しながら(高所に居ながら)加熱条件の設定、変更、その他必要な操作を行うことができる。
【0037】
前記高周波誘導加熱装置1は一例であり、本発明では、他の構成の高周波誘導加熱装置を用いて塗膜剥離することもできる。
【0038】
前記した塗膜剥離方法は、以下に説明する実施形態の塗膜剥離装置を使用して行うこともできるが、他の塗膜剥離装置を使用して行うこともできる。
【0039】
(塗膜剥離装置の実施形態1)
本発明の塗膜剥離装置は、吊り橋の主ケーブルBのラッピングワイヤLの外周の塗膜Mの剥離に用いる装置である。一例として図8(a)〜(c)に示す塗膜剥離装置33は作業足場34と移動体35を備えており、移動体35の内側の電源搭載部36(図8(a))に電源部2が搭載されている。作業足場34と移動体35は共に吊り橋の主ケーブルB及びハンドロープGの軸方向に長くなっており、作業足場34の上に移動体35を被せると、図8(b)のように、主ケーブルB及びハンドロープGの外周を囲うトンネル状になるようにしてある。トンネル状とする理由は、剥離作業時の塗膜片の飛散防止のためである。
【0040】
[作業足場]
図8(a)(b)の作業足場34は、主ケーブルBの下方及び両側方(主ケーブルBの周囲のほぼ下半分)を囲うものであり、主ケーブルBの軸方向に多数配置された上方開口のコ字形(上向き門型)の足場フレーム37の周囲をシート、メッシュ、板材等のカバー38で被覆して、主ケーブルBの軸方向に長い上方開口の半角筒状にしてある。この足場フレーム37及びカバー38の内側にはラッピングワイヤLの外周の塗膜Mを剥離作業する作業者Hが移動できる広さの作業スペースが確保されている。作業足場34の底面には金網39が設置されており、作業足場34の底面及び側面の外側に落下防止ネット40が張られている。
【0041】
[移動体]
図8(a)〜(c)に示す移動体35は主ケーブルBの周囲のほぼ上半分を囲うものであり、主ケーブルBの軸方向に間隔をあけて多数配置された下方開口のコ字形(下向き門型)の移動フレーム41の内側をシート、メッシュ、板材等のカバー(養生カバー)42で被覆して、主ケーブルBの軸方向に長い下方開口の半楕円筒状にしてある。
【0042】
[電源搭載部]
図8(a)(b)の移動体35の内側の電源搭載部36は、移動体35の天井43の幅方向左右両側から下方に突設した支柱44と、両支柱44間に連結した支持材45で囲まれて形成されている。電源搭載部36は電源部2を搭載可能な広さとしてある。左右の支柱44は二本のハンドロープGの間隔と同じ又は略同じ間隔で設けてある。支柱44、支持材45には角パイプや角棒、丸パイプや丸棒、或いは板材等を用いることができる。
【0043】
電源部2に接続される変流器CT、循環装置7、その他の電源関連機器は、電源部2として前記電源搭載部36に搭載することもできるが、移動体35の内側に電源搭載部36とは別に補助搭載部を設けて、それに電源部2以外の機器を搭載することもできる。電源搭載部36に搭載された電源部2には地上の電源から電源ケーブルにより給電することができる。循環装置7を電源搭載部36に搭載したときは、地上もしくは補剛桁Eからホースにより冷媒を供給することができる。
【0044】
[移動体の移動機構]
移動体35はハンドロープGを軌条としてその上を主ケーブルBの軸方向に移動できるようにしてある。そのため、図9(a)〜(c)に示すように、支柱44の下部に二つの車輪(溝付き車輪)46を一組として上下に配置し、上下一組の車輪46でハンドロープGを挟むことができるようにしてある。
【0045】
前記一組の車輪46は連結具47(図9(a))で上下に連結されており、下の車輪46は(図9(a))のように右側(外側)に開き、左側(内側)に閉じることができるようにしてある。外側に開くとハンドロープGの挟着を開放でき、内側に閉じるとハンドロープGを挟着できるようにしてある。内側に閉じたときは、フック48(図9(c))をピン49に係止して、下の車輪46が外側に開かず、フック48をピン49から外すと外側に開くようにしてある。
【0046】
図9(b)(c)のように上下一組の車輪46でハンドロープGを挟んだ移動体35(図8(b))は、ロープ、ワイヤ、その他の係止具50(図8(a))で図示しない牽引具に連結されている。牽引具には例えばウインチとかその他の牽引具を使用することができる。牽引具で係止具50を牽引すると、移動体35はハンドロープGを軌条(レール)として、ハンドロープGの軸方向(主ケーブルBの軸方向)に引き上げられる。牽引を解除するとハンドロープGを軌条として下方に移動する(降下する)ようにしてある。本発明では全ての車輪46を上下一組にしなくてもよく、例えば図9(d)に示すように、二つの車輪を上下一組にしたものと一つの車輪を組合せて使用することもできる。
【0047】
[実施形態1の塗膜剥離装置の使用方法]
図8(a)〜(c)の塗膜剥離装置を使用する場合は、作業足場34に加熱ヘッド3を用意し、移動体35の電源搭載部36に電源部2を搭載し、図4のように加熱ヘッド3と電源部2を電源ケーブル、冷却パイプ等で連結して、電源部2から加熱ヘッド3に高周波電流を供給して主ケーブルBのラッピングワイヤLを誘導加熱して塗膜Mを軟化させて剥離することができる。このとき、加熱ヘッド3を剥離の所望箇所に宛がい、ラッピングワイヤLの巻き方向と軸方向に移動させて、所望箇所に宛がって、それら箇所の塗膜Mを剥離することができる。加熱ヘッド3をラッピングワイヤLの巻き方向と軸方向に移動させるときは、移動体35をラッピングワイヤLの軸方向に移動させる。
【0048】
(塗膜剥離装置の実施形態2)
本発明の塗膜剥離装置の第二の例を、図10(a)〜(c)を参照して説明する。図10(a)〜(c)に示す塗装剥離装置33は、既存の牽引車51とケージ(籠)52を使用し、牽引車51に電源搭載部を設け、その電源搭載部に電源部2を搭載し、ケージ52を作業足場として使用し、牽引車51がハンドロープGを軌条として移動すると、ケージ52がハンドロープGの軸方向に移動するものである。
【0049】
[牽引車:電源搭載部]
牽引車51は移動方向先方の駆動台車53と後方の従動台車54に分かれており、駆動台車53がハンドロープGを軌条として主ケーブルBの軸方向に移動すると、従動台車54がハンドロープGを軌条として同方向に追随移動するようにしてある。この実施形態では駆動台車53に電源部2を搭載できる電源搭載部を設け、その電源搭載部に電源部2を搭載できるようにしてある。この牽引車51には既存の主ケーブル検査用車両の牽引車を使用することができる。
【0050】
[ケージ:作業足場]
ケージ52は図10(c)に示すように、二つの一対のケージ部材55を備え、両ケージ部材55が従動台車54から主ケーブルBの左右両側まで吊り下げられており、従動台車54の移動に伴って同方動に移動可能としてある。夫々のケージ部材55は作業者Hが載って作業することのできる広さの作業スペースを備えている。このケージ52にも既存の主ケーブル検査用車両のケージを使用することができる。
【0051】
[実施形態2の塗膜剥離装置の使用方法]
図10(a)〜(c)の塗膜剥離装置を使用する場合は、図10(a)〜(c)の作業足場(ケージ)52に加熱ヘッド3を用意し、牽引車51の電源搭載部に電源部2を搭載し、この加熱ヘッド3と電源部2を図4のように電源ケーブル、冷却パイプ等で連結して、電源部2から加熱ヘッド3に高周波電流を供給して主ケーブルBのラッピングワイヤLを誘導加熱して塗膜Mを軟化させて剥離することができる。このとき、加熱ヘッド3を剥離の所望箇所に宛がい、ラッピングワイヤLの巻き方向と軸方向に移動させて、所望箇所に宛がって、それら箇所の塗膜Mを剥離することができる。加熱ヘッド3をラッピングワイヤLの巻き方向と軸方向に移動させるときは、牽引車51をラッピングワイヤLの軸方向に移動させる。
【0052】
(塗膜剥離装置の実施形態3)
本発明の塗膜剥離装置の第三の例を図11に示す。この塗装剥離装置33は主ケーブルBの外周に脱着可能な装着具56と、加熱ヘッド3を搭載可能なヘッド搭載部57と、作業足場58と、移動体59を備えている。
【0053】
[装着具]
装着具56は図12に示すように、リング状の二つの巻き具60が、平行な二本のガイドバー61で連結されており、二本のガイドバー61間にヘッド搭載部57を設けてある。
【0054】
前記二つの巻き具60は同じ構造であり、略半円リング状の二つのリング62を上下に対向配置し、両リング62の連結部63をボルト、ナット等の止め具で連結固定してリング状にしてある。二つのリング62の夫々にはネジ64がねじ込まれており。これらネジ64を主ケーブルBの外周に突き当たるまでねじ込むと、二つのリング62を主ケーブルBの外周の上下に固定でき、ネジ64を緩めると、主ケーブルBへの二つのリング62の固定が緩んで両リング62を主ケーブルBの軸方向にスライドさせることができる。所望の移動位置でネジ64を主ケーブルBに突き当たるまでねじ込むと、両リング62を主ケーブルBに固定できるようにしてある。前記二本のガイドバー61は丸パイプ、丸棒等の長尺材であり、両リング62の連結部63間に架設されている。
【0055】
前記ヘッド搭載部57は加熱ヘッド3を搭載可能なものであり、二本のガイドバー61間に略半円状の二本の支持ケーブル66を主ケーブルBの下方まで吊り下げ、両支持ケーブル66の上に台車67を設け、その台車67の上に加熱ヘッド3を搭載固定できるようにしてある。台車67はその車輪68を二本の支持ケーブル66の上に載せて、両支持ケーブル66の軸方向に往復移動できるようにしてあり、この往復移動により、加熱ヘッド3が主ケーブルBの周方向の少なくとも下半周部分に沿って往復移動可能としてある。
【0056】
前記台車67は図13に示すように車輪68を取り付けてある基板69を上下に貫通する支持軸70の上に搭載台71を設置し、支持軸70の外周に被せた押し具(例えばスプリング)72で搭載台71を上方に押し上げて、搭載台71の上に搭載した加熱ヘッド3が図14に示すように主ケーブルBの外周面の塗膜Mに圧接できるようにしてある。
【0057】
[作業足場]
図11に示す作業足場58は主ケーブルBとその外周に装着された装着具56とヘッド搭載部57の外周に配置され、前記装着具56に連結バー73で連結されて保持されている。この作業足場58は基本的には図8(a)(b)に示す作業足場34と同じ構成、機能であり、作業者Hが作業できるスペースを備えている。足場フレーム74の外周には金網、板材等のカバーが張られ、足場フレーム74の側方及び下方に落下防止ネット等が張られているが、それらは説明の便宜上、図示を省略してある。
【0058】
[移動体]
図11に示す移動体59は、図8(a)(b)に示す移動体35と同様にハンドロープGの上を移動可能である。この移動体59は移動体フレーム75の外周に金網、板材等のカバーが張られ、移動体フレーム75の側方及び下方に落下防止ネット等が張られているが、これらも説明の便宜上、図示を省略してある。
【0059】
図11の移動体59の内部には電源部2を搭載可能な電源搭載部76を備えている。この電源搭載部76は、移動体59の屋根77の四コーナーから内側に四本の支柱78が突設され、その支柱78間に受け板79を取り付け、その上に高周波電源部2を収容可能な広さの空間部を設け、その空間部を電源搭載部76としてある。
【0060】
図11の移動体59は作業足場58の上部に配置固定した二本のガイドバー80にスライド可能に取り付けられている。さらに、前記四本の支柱78の下端に図9(a)〜(c)と同様に車輪46が取り付けられ、それら車輪46を二本のハンドロープGの上に載置してある。移動体59はロープやワイヤ等の係止具(図示しない)でウインチ、その他の牽引車(図示しない)に連結されており、その牽引車で牽引すると、車輪46が両ハンドロープGを軌条としてハンドロープGの上を、その軸方向(主ケーブルBの軸方向)に移動可能するようにしてある。
【0061】
図11の移動体59は、移動体フレーム75の下端を上下にスライド可能な昇降具81に取り付けて、移動体59の荷重でハンドロープGが撓んでも、その変動分を吸収できるようにしてある。昇降具81は各種機構とすることができるが、一例としては、下の大径パイプ内に上の細径パイプを差込み、細径パイプをスプリングで支持して、移動体59の荷重をそのスプリングで支持する機構とすることができる。
【0062】
[実施形態3の塗膜剥離装置の使用方法]
図11の塗膜剥離装置を使用する場合は、図11のヘッド搭載部57に加熱ヘッド3を搭載し、移動体59の電源搭載部に電源部2を搭載し、その加熱ヘッド3と電源部2を図4のように電源ケーブル、冷却パイプ等で連結して、電源部2から加熱ヘッド3に高周波電流を供給して主ケーブルBのラッピングワイヤLを誘導加熱して塗膜Mを軟化させて剥離することができる。このとき、加熱ヘッド3を剥離の所望箇所に宛がい、ラッピングワイヤLの巻き方向と軸方向に移動させて、所望箇所に宛がって、それら箇所の塗膜Mを剥離することができる。加熱ヘッド3をラッピングワイヤLの巻き方向と軸方向に移動させるときは、移動体59をラッピングワイヤLの軸方向に移動させる。
【0063】
図11の塗膜剥離装置ではヘッド搭載部57を支持ケーブル66に沿って移動させると、ヘッド搭載部57の上の加熱ヘッド3が支持ケーブル66の円弧方向に移動する。ヘッド搭載部57は支持ケーブル66の円弧方向に往復移動可能であるため、主ケーブルBの下半周部分に接触してその下半周部分の塗膜Mを加熱し、軟化させることができる。ヘッド搭載部57は作業者Hが手動で移動させることも、リモコン操作して動力で移動させることもできる。作業足場58は装着具56を主ケーブルBから緩めて移動させ、所望位置で装着具56を主ケーブルBに固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の塗膜剥離方法は主ケーブルBと同類形状の塗膜剥離にも利用できる。本発明の塗膜剥離装置は各種構造物の高所の塗膜剥離に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 高周波誘導加熱装置
2 電源部(高周波電源部)
3 加熱ヘッド
4 ケース
5 誘導コイル
5a (誘導コイルの)端部
6 高周波発振器
7 循環装置
8 (電源部の)冷却板
9 電源ケーブル
10 ホース
11 連結具(保護ホース)
12 電源側連結具
13 金属ブロック
14 (金属ブロックの)凸部
15 給電電極
16 (給電電極の)冷媒通孔
17 (給電電極の)止め孔
18 漏洩防止パッキン
19 ハンドル
20 コイル側電極
21 (コイル側電極の)冷媒通孔
22 (コイル側電極の)止め孔
23 ヘッド側連結具
24 (ヘッド側連結具の)凹部
26 センサ取付け具
27 (センサ取付け具の)取付け孔
28 温度センサ
29 (金属ブロックの)固定孔
30 止め具
31 フレキシブル管
33 塗膜剥離装置
34 作業足場
35 移動体
36 電源搭載部
37 足場フレーム
38 カバー
39 金網
40 落下防止ネット
41 移動フレーム
42 カバー(養生カバー)
43 (移動体の)天井
44 支柱
45 支持材
46 車輪
47 連結具
48 フック
49 ピン
50 係止具
51 牽引車
52 ケージ
53 駆動台車
54 従動台車
55 ケージ部材
56 装着具
57 ヘッド搭載部
58 作業足場
59 移動体
60 巻き具
61 ガイドバー
62 リング
63 連結部
64 ネジ
66 支持ケーブル
67 台車
68 車輪
69 基板
70 支持軸
71 搭載台
72 押し具(スプリング)
73 連結バー
74 足場フレーム
75 移動体フレーム
76 電源搭載部
77 (移動体の)屋根
78 支柱
79 受け板
80 ガイドバー
81 昇降具
A 主塔
B 主ケーブル(メインケーブル)
C ケーブルバンド
CT 変流器
D ハンガーロープ
E 補剛桁
F ハンドロープ支柱
G ハンドロープ
H 作業者
J 鋼線(素線)
K 下地材
L ラッピングワイヤ
M 塗膜
N 凹部(窪み)
【要約】
【課題】 振動による騒音の発生も切削粉の飛散もなく、ラッピングワイヤの隣接巻線間の凹部の塗装も剥離し易くした。
【解決手段】 本発明の塗膜剥離方法は、誘導加熱装置の加熱ヘッドを吊り橋の主ケーブルにおけるラッピングワイヤの外周面の塗膜に宛がい、加熱ヘッドの誘導コイルによる誘導加熱でラッピングワイヤを加熱して、当該ラッピングワイヤの塗膜を軟化させ、軟化させた塗膜をシート状の塊又はその他の塊状で剥離する方法である。本発明の塗膜剥離装置は、電源部と加熱ヘッドを備えた誘導加熱装置と、作業足場と、移動体を備え、作業足場は少なくとも主ケーブルの下方及び側方を囲って配置し、移動体は電源部を搭載してあり、少なくとも吊り橋のハンドロープの外周を囲って作業足場の上に配置でき、ハンドロープを軌条として主ケーブルの軸方向に移動可能とした。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14