特許第6000541号(P6000541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000541エレクトロクロミック素子用インク及びエレクトロクロミック素子並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000541
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子用インク及びエレクトロクロミック素子並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20060101AFI20160915BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20160915BHJP
【FI】
   G02F1/15 505
   C09D11/00
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-273800(P2011-273800)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2012-128426(P2012-128426A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2014年5月28日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0129286
(32)【優先日】2010年12月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】全 錫 珍
(72)【発明者】
【氏名】ダス
(72)【発明者】
【氏名】盧 昌 鎬
(72)【発明者】
【氏名】林 宣 晶
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−109086(JP,A)
【文献】 特開2003−248242(JP,A)
【文献】 米国特許第04285575(US,A)
【文献】 特開昭54−087687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15−1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極又は前記第2の電極の上に位置する補助電極と、
前記補助電極の上に塗布されているエレクトロクロミック層と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に位置する電解質と、
を備え、
前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック物質及び金属塩を含むインクから形成され、
前記エレクトロクロミック層は、前記金属塩に含まれている金属と前記エレクトロクロミック物質との錯化合物を含むことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記金属は、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された一つ以上またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記インクから形成されるエレクトロクロミック層が発現する色の色座標は、前記エレクトロクロミック物質が発現する固有色の色座標と異なることを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
第1の電極を形成するステップと、
前記第1の電極の上に補助電極を形成するステップと、
前記補助電極の上に、エレクトロクロミック物質、金属塩および溶媒を含むインクを用いて、エレクトロクロミック層を形成するステップと、
前記第1の電極と相対向するように第2の電極を配置、形成するステップと、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電解質を充填するステップと、を有し、
前記金属塩は、熱処理によって前記エレクトロクロミック物質と錯化合物を形成する金属を含み、
前記エレクトロクロミック層を形成するステップは、
前記補助電極の上に前記インクを吹き付けるステップと、
前記インクを熱処理するステップと、を含むことを特徴とするエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項5】
前記インクを熱処理するステップは、60乃至300℃の温度下で行うことを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項6】
前記金属は、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された一つ以上またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項7】
前記補助電極を300乃至500℃で焼成するステップを更に含むことを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項8】
前記エレクトロクロミック物質は、前記インクの総量に対して0.01乃至30重量%で含まれることを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項9】
前記金属塩は、前記エレクトロクロミック物質100重量部に対して100乃至2000重量部で含まれることを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項10】
前記インクは、溶解補助剤及び粘度調節剤の内の少なくとも一つを更に含むことを特徴とする請求項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子用インク及びエレクトロクロミック素子並びにその製造方法に係り、より詳しくは、インクジェット印刷法によりエレクトロクロミック物質を形成するときに、色特性を改善し得るエレクトロクロミック素子用インク及びエレクトロクロミック素子並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック(electrochromic)とは、電圧が印加されたときに、電流の流れ方向によって可逆的に色が変色する現象のことをいい、エレクトロクロミック物質とは、電気化学的な酸化及び還元反応によって材料の光特性が可逆的に変化し得る物質のことをいう。
【0003】
すなわち、エレクトロクロミック物質は、電場が印加されないときには色を発現せず、電場が印加されて電子を受けて還元されると、色を発現するという特性を有するものや、あるいは、これとは逆に、電場が印加されないときに色を発現し、電場が印加されて電子を失って酸化されると、色が消滅するという特性を有するものである。
【0004】
このようなエレクトロクロミック物質は、様々な方法により形成可能である。例えば、エレクトロクロミック物質を酸化チタンなどの粒子に吸着させ、この吸着した粒子をスクリーン印刷法により形成する方法がある。
しかしながら、このような場合、解像度を高めることに限界があり、しかも、別途のマスクが必要とされて製造コストが増大してしまうおそれがある。
【0005】
これを補う方法として、エレクトロクロミック物質をインクジェット印刷法により形成する方法がある。
インクジェット印刷法は、インクジェットヘッドを用いて、区切られている所定の位置に液体インクを吹き付けて、それぞれのインクが着色されたイメージを実現する技術であり、複数の色を一括して着色することができて、製造工程及び製造時間を節減することができるだけではなく、所望の位置にのみ適用することにより、エレクトロクロミック物質の消耗を低減することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、インクジェット印刷法によりエレクトロクロミック物質を形成するときに、色特性を改善し得るエレクトロクロミック素子用インクを提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、インクジェット印刷法によりエレクトロクロミック物質を形成するときに、色特性を改善し得るエレクトロクロミック素子用インクを用いて形成されるエレクトロクロミック素子を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、インクジェット印刷法によりエレクトロクロミック物質を形成するときに、色特性を改善し得るエレクトロクロミック素子用インクを用いて形成されるエレクトロクロミック素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様によるエレクトロクロミック素子用インクは、エレクトロクロミック物質と、金属塩と、溶媒と、を有することを特徴とする。
【0010】
前記金属塩は、熱処理によって前記エレクトロクロミック物質と錯化合物を形成し得る金属を含むことが好ましい。
前記金属は、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された一つ以上又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0011】
前記エレクトロクロミック物質と前記金属の錯化合物が発現する色の色座標 は、前記エレクトロクロミック物質が表示する固有色の色座標と異なっていることが好ましい。
前記エレクトロクロミック物質は、前記インクの総量に対して0.01〜30重量%で含まれることが好ましい。
【0012】
前記金属塩は、前記エレクトロクロミック物質100重量部に対して100〜2000重量部で含まれることが好ましい。
前記エレクトロクロミック素子用インクは、溶解補助剤及び粘度調節剤の内の少なくとも一つを更に含むことが好ましい。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様によるエレクトロクロミック素子は、相対向する第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極又は前記第2の電極の上に位置する補助電極と、前記補助電極の上に塗布されているエレクトロクロミック層と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に位置する電解質と、を備え、前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック物質及び金属塩を含むインクから形成されることを特徴とする。
【0014】
前記エレクトロクロミック層は、前記金属塩に含まれている金属と、前記エレクトロクロミック物質の錯化合物と、を含んでいることが好ましい。
前記金属は、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された一つ以上又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。
前記インクから形成されるエレクトロクロミック層が発現する色の色座標 は、前記エレクトロクロミック物質が発現する固有色の色座標と異なっていることが好ましい。
【0015】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様によるエレクトロクロミック素子の製造方法は、第1の電極を形成するステップと、前記第1の電極の上に補助電極を形成するステップと、前記補助電極の上に、エレクトロクロミック物質、金属塩及び溶媒を含むインクを用いて、エレクトロクロミック層を形成するステップと、前記第1の電極と相対向するように第2の電極を配置、形成するステップと、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電解質を充填するステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
前記エレクトロクロミック層を形成するステップは、前記補助電極の上に前記インクを吹き付けるステップと、前記インクを熱処理するステップと、を含むことが好ましい。
前記インクを熱処理するステップは、60〜300℃の温度下で行うことが好ましい。
【0017】
前記金属塩は、前記熱処理によって前記エレクトロクロミック物質と錯化合物を形成する金属を含むことが好ましい。
前記金属は、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された一つ以上又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。
前記製造方法は、前記補助電極を300〜500℃で焼成するステップを更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るエレクトロクロミック素子用インク及びエレクトロクロミック素子並びにその製造方法によれば、色座標を変化させることにより色特性を改善することができ、低温工程でも色特性が維持されるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態によるエレクトロクロミック素子を示す断面図である。
図2図1のエレクトロクロミック素子の製造に際し、エレクトロクロミック層をインクジェット印刷法により形成するステップを説明するための概略図である。
図3】実施例1〜3及び比較例1におけるエレクトロクロミック素子用インクを用いたエレクトロクロミック層の1HNMR(プロトンNMR)の結果を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例1におけるエレクトロクロミック素子用インクを用いたエレクトロクロミック層のHSQCの結果を示すグラフである。
図5】(A)は、実施例4及び比較例2におけるエレクトロクロミック素子の波長による反射度を示すグラフであり、(B)は、実施例4及び比較例2におけるエレクトロクロミック素子の色座標である。
図6】(A)は、実施例4及び実施例5におけるエレクトロクロミック素子の波長による反射度を示すグラフであり、(B)は、実施例4及び実施例5におけるエレクトロクロミック素子の色座標である。
図7】(A)は、実施例4及び実施例6におけるエレクトロクロミック素子の波長による反射度を示すグラフであり、(B)は、実施例4及び実施例6におけるエレクトロクロミック素子の色座標である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のエレクトロクロミック素子用インク及びエレクトロクロミック素子並びにその製造方法を実施するための形態の具体例を、詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の一実施形態によるエレクトロクロミック素子用インクを説明する。
本発明の一実施形態によるエレクトロクロミック素子用インクは、エレクトロクロミック物質と、金属塩及び溶媒を含む。
前記エレクトロクロミック物質は、電圧が印加されたときに、電場の方向に沿って電気化学的な変化によって可逆的に色を発現し得る化合物であり、物質により固有色を発現することができる。
【0022】
前記エレクトロクロミック物質は、還元状態で色を発現し、酸化状態で透明になる還元発色(cathodic coloration)物質であってもよく、酸化状態で色を発現し、還元状態で透明になる酸化発色(anodic coloration)物質であってもよい。
【0023】
前記エレクトロクロミック物質としては、例えば、ビオロゲン化合物、イソフタレートなどのフタレート系化合物、ピリジン系化合物、アントラキノン系化合物、アミノキノン系化合物、希土類系有機化合物、フタロシアニン系化合物、ルテニウム系有機金属化合物、ロイコ(Leuco)系染料化合物、フェノチアジン系化合物などが挙げられる。
前記エレクトロクロミック物質は、エレクトロクロミック素子用インクの総量に対して約0.01〜30重量%で含まれることが好ましい。
【0024】
前記金属塩は、熱処理によって前記エレクトロクロミック物質と錯化合物を形成し得る金属を含む。
前記金属は、軽金属、遷移金属、ランタナイド金属、アルカリ金属またはこれらの組み合わせを含むことが好ましく、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された一つ以上又はこれらの組み合わせを含むことが更に好ましい。
【0025】
前記金属は、例えば、アセテート、カルボニル、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び塩化物などの金属塩の形で含まれている。
【0026】
前述のように、エレクトロクロミック物質及び金属は、熱処理によって錯化合物を形成することができる。エレクトロクロミック物質と金属とが錯化合物を形成することにより、エレクトロクロミック物質の電子移動経路を変化させることができ、これにより、エレクトロクロミック物質と金属との錯化合物が発現する色は、エレクトロクロミック物質が発現する固有色とは色座標が異なっているか、又は、色純度が改善されている。
【0027】
例えば、エレクトロクロミック物質が赤色を発現する物質である場合、錯化合物が発現する色は、エレクトロクロミック物質が発現する赤色とは色座標が異なる位置である赤色を発現するか、あるいは、発現する色以外の色に対する吸収度が増加して、発現する色の色純度が改善される。
【0028】
金属塩は、エレクトロクロミック物質100重量部に対して約100〜2000重量部で含まれることが好ましい。金属塩が前記範囲で含まれることにより、エレクトロクロミック物質と十分な錯化合物を形成し、金属塩によってエレクトロクロミック素子の電気的特性に影響を及ぼすことがない。
【0029】
溶媒は、エレクトロクロミック物質及び金属塩が溶解可能であれば、特に制限がなく、例えば、脱イオン水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチルアセテート、ブチルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエチルエーテル、メチルメトキシプロピオン酸、エチルエトキシプロピオン酸、乳酸エチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールメチルアセテート、ジエチレングリコールエチルアセテート、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド(DMF)、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジグライム、テトラヒドロフラン、アセチルアセトンおよびアセトニトリルよりなる群から選ばれた少なくとも一種を含む。
溶媒は、エレクトロクロミック素子用インクの総量〜エレクトロクロミック物質及び金属塩を除く残量で含まれることが好ましい。
【0030】
エレクトロクロミック素子用インクは、エレクトロクロミック物質、金属塩及び溶媒の他に、溶解補助剤及び粘度調節剤の内の少なくとも一つを更に含むことが好ましい。
【0031】
溶解補助剤は、エレクトロクロミック物質の特性による溶解度のバラツキを減らし、かつ、エレクトロクロミック物質の溶解度を高めることができる。
溶解補助剤は、例えば酢酸などの酸を含んでいる。このような酸は、エレクトロクロミック物質の末端基に位置するカルボン酸又はホスホン酸などの官能基が水素結合によって結合して凝集物を形成することを妨げることができ、エレクトロクロミック物質の溶解度を高めることができる。
これにより、溶解度の低いエレクトロクロミック物質によって最終的に得られる素子のコントラスト比(contrast ratio)が低下することを防止できるばかりでなく、保存安定性も改善することができる。
【0032】
粘度調節剤は、エレクトロクロミック素子用インクの粘度を適切に維持して、インクジェット印刷に際して吐出性を高めることができる。
粘度調節剤としては、例えば、エチレングリコールなどが挙げられる。
【0033】
以下、図面を参照して、エレクトロクロミック素子用インクを用いたエレクトロクロミック素子について説明する。
図中、各種の層及び領域を明確に表現するために厚さを拡大して示す。明細書全般に亘って同一又は類似の構成要素に対しては同じ図面符号を付す。
また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上」にあるとしたとき、これは他の部分の「直上」にある場合だけではなく、その中間に更に他の部分がある場合も含む。逆に、ある部分が他の部分の「直上」にあるとしたときには、中間に他の部分がないことを意味する。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態によるエレクトロクロミック素子を示す断面図である。
図1を参照すれば、本発明の一実施形態によるエレクトロクロミック素子は、相対向する一対の絶縁基板10、20と、絶縁基板10、20の上にそれぞれ形成されている下部電極12及び上部電極22を備える。
【0035】
絶縁基板10、20は、透明ガラス又はプラスチックから製造可能であり、プラスチックとしては、例えば、ポリアクリレート、ポリエチレンエーテルフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン及びポリイミドからなる群から選ばれるいずれか一種以上を含む。
【0036】
下部電極12は、透明導電体から製作可能であり、例えば、酸化インジウムスズ(indium tin oxide;ITO)、フッ素ドープした酸化スズ(fluorine−doped tin oxide;FTO)又はアンチモンドープした酸化スズ(antimony doped tin oxide;ATO)などの無機導電性物質やポリアセンチレン又はポリチオフェンなどの有機導電性物質を含む。
【0037】
上部電極22は、透明又は不透明の導電性物質により製作可能であり、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、Alなどの金属、アンチモン含有酸化スズ(antimony doped tin oxide;ATO)及びこれらの組み合わせを含む。
【0038】
下部電極12の上には補助電極14が形成されている。
補助電極14は、複数の酸化物半導体粒子14aを含むことが好ましく、例えば、チタン酸化物(TiO)、亜鉛酸化物(ZnO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、ストロンチウム酸化物(SrO)、ニオブ酸化物(NbO)、ハフニウム酸化物(HfO)、錫酸化物(SnO)またはこれらの組み合わせにより製作することが可能である。
【0039】
酸化物半導体粒子14aは、球状、正四面体、円筒状、三角形、円板状、トライポッド(tripod)、テトラポッド(tetrapod)、キューブ、ボックス、スター、チューブなど種々の形状のものを用いることができ、約1〜200nmの平均粒径を有することが好ましい。
【0040】
補助電極14の片面には、エレクトロクロミック層15が形成されている。
エレクトロクロミック層15は、前述のエレクトロクロミック物質及び金属塩を含むインクから形成される。前述のように、金属塩に含まれている金属及びエレクトロクロミック物質は、錯化合物を形成することができる。
【0041】
図1には、補助電極14の上にエレクトロクロミック層15が形成されているが、実質的には、補助電極14の上に液状のインクを吹き付けることにより、補助電極14の酸化物半導体粒子14aの間にインクが流入して酸化物半導体粒子14aの表面を覆うように形成される。
このとき、インクは金属塩を含むことにより、補助電極14の酸化物半導体粒子14aの間に侵入して、補助電極14の電子移動性を補うとともに、前述のように、エレクトロクロミック物質及び金属の錯化合物を形成することにより、エレクトロクロミック物質が発現する色と比較して、色座標が改善された色を発現することができ、色特性を改善することができる。
【0042】
絶縁基板10、20は、間隔材18により固定されており、絶縁基板10、20の間には電解質30が充填されている。
電解質30は、エレクトロクロミック物質と反応する酸化/還元物質を供給し、液体電解質又は固体高分子電解質であってもよい。
【0043】
液体電解質としては、例えば、LiOHまたはLiClOなどのリチウム塩、KOHなどのポタシウム塩およびNaOHなどのソジウム塩などが溶媒に溶解されている溶液が使用可能であるが、これらに限定されることはない。
固体電解質としては、例えば、ポリ2−アクリルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸)(poly2−acrylamino−2−methylpropane sulfonic acid)またはポリエチレンオキシド(poly(ethylene oxide))などが使用可能であるが、これらに限定されることはない。
【0044】
以下、エレクトロクロミック素子の製造方法について、図1及び図2を参照して説明する。
図2は、図1のエレクトロクロミック素子の製造に際し、エレクトロクロミック層をインクジェット印刷法により形成するステップを説明するための概略図である。
【0045】
まず、絶縁基板10の上に下部電極12を形成する。
次に、下部電極12の上に補助電極14を形成する。補助電極14は、例えば、酸化チタンなどの酸化物半導体粒子14aを溶媒と混合してコーティングする。
【0046】
次に、補助電極14を焼成する。焼成温度は、例えば、約300〜500℃であり、焼成によって、酸化物半導体粒子14aは密着性が高められる。
次に、補助電極14の上にエレクトロクロミック層15をインクジェット印刷法により形成する。
【0047】
図2を参照すれば、補助電極14の上にエレクトロクロミック層を形成するためのインクジェット印刷システムを配置、形成する。
インクジェット印刷システムは、インクジェット印刷装置本体(図示せず)、インクジェット印刷ヘッド51及び複数のノズル52を備え、ノズル52からインク15aが吐出される。
【0048】
インク15aは、前述のように、エレクトロクロミック物質、金属塩及び溶媒を含み、場合によって、溶解補助剤、粘度調節剤などの添加剤を含む。
インク15aは、補助電極14の上に吐出されて、複数の酸化物半導体粒子14aの間に流入するか、あるいは、酸化物半導体粒子14aの表面に定着する。
【0049】
次に、インク15aを熱処理する。熱処理によって、インク15aに含まれている溶媒を除去する一方、エレクトロクロミック物質と金属塩との間に錯化合物を形成することができる。
熱処理温度は、例えば、約60〜300℃であり、溶媒の沸点よりも高い温度である約60〜150℃で一次的に熱処理した後、約100〜300℃の温度で2次的に熱処理を施す。
【0050】
次に、別の絶縁基板20に上部電極22を積層する。
次に、上部電極22の片面に反射層(図示せず)を形成する。
次に、両絶縁基板10、20を貼り合わせた後、両絶縁基板10、20の間に電解質を充填する。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらによって制限されるものではない。
【0052】
<エレクトロクロミック素子用インクの製造
(実施例1)
下記の一般式1aで表される赤色エレクトロクロミック物質1g、塩化亜鉛(ZnCl)3g、酢酸3g及びエチレングリコール2gを蒸留水で均一に混合してエレクトロクロミック素子用インクを製造した。
【化1】

・・・・・・一般式1a
【0053】
(実施例2)
塩化亜鉛(ZnCl)を20gとする以外は、実施例1の方法と同様にして、エレクトロクロミック素子用インクを製造した。
【0054】
(実施例3)
塩化亜鉛(ZnCl)を35gとする以外は、実施例1の方法と同様にして、エレクトロクロミック素子用インクを製造した。
【0055】
(比較例1)
塩化亜鉛(ZnCl)を含まないこと以外は、実施例1の方法と同様にして、エレクトロクロミック素子用インクを製造した。
【0056】
<エレクトロクロミック層の形成
実施例1〜3及び比較例1のエレクトロクロミック素子用インクを各基板の上に塗布した後、約150℃で30分間熱処理して、エレクトロクロミック層を形成した。
【0057】
<錯化合物形成の確認−その1>
次に、エレクトロクロミック層の1HNMR分析を実施した。
図3は、実施例1〜3及び比較例1におけるエレクトロクロミック素子用インクを用いたエレクトロクロミック層の1HNMR結果を示す図である。
【0058】
図3を参照すれば、塩化亜鉛を含まない比較例1を基準としたとき、塩化亜鉛の含量が多くなる実施例1、2、3の順に、窒素カップリング位置に相当する最左側のピークのシフトが大きくなっていることが分かる。
このことにより、塩化亜鉛が一般式1aの立体構造に影響を与えていることが分かり、塩化亜鉛の量が増加するほど、さらに多くの赤色エレクトロクロミック物質の構造が影響を受けることが分かる。
【0059】
立体構造の変化は、一般式1aの窒素部分と塩化亜鉛との間の結合、又はエレクトロクロミック物質末端と塩化亜鉛との間の結合に起因するものと推察される。
末端において結合が形成される場合、金属−有機複合体(metal−organic frameworks)などのネットワーク状の結合が形成される可能性がある(Metal−organic frameworks、参考論文Chem.Soc.Rev.,2003,32,276−288)。
なお、エレクトロクロミック物質と塩化亜鉛との間の結合は、エレクトロクロミック物質の色特性と最も密接な関係があるエレクトロクロミック物質固有の電子準位構造に変化を与えた可能性がある。
【0060】
<錯化合物形成の確認−その2>
次に、実施例2によるエレクトロクロミック素子用インクを用いたエレクトロクロミック層の異核種単一量子コヒーレンス法(HSQC:heteronuclear single−quantum coherence)分析を実施した。
【0061】
図4は、実施例2及び比較例1におけるエレクトロクロミック素子用インクを用いたエレクトロクロミック層のHSQCの結果を示すグラフである。
図4において、F1は「カーボン」を示し、F2は、「プロトン」を示す。
【0062】
HSQC分析のために、一般式1aで表される赤色エレクトロクロミック物質の対称構造に下記のように番号を付した。
【化2】

・・・・・・一般式1a
【0063】
図4において、Aで表示した部分が、実施例2のエレクトロクロミック素子用インクを用いた場合であり、Bで表示した部分が、比較例1のエレクトロクロミック素子用インクを用いた場合である。
【0064】
図4を参照すれば、一般式1aの3位が1、2及び4位と比較して、遥かに多くのシフト(shift)がなされていることが分かり、これより、3位における立体構造に変化があることが推察される。
【0065】
立体構造の変化は、一般式1aの窒素部分と塩化亜鉛との間に結合が形成されたか、あるいは、エレクトロクロミック物質の末端と塩化亜鉛との間に結合が形成され、この結合がエレクトロクロミック物質の窒素部分の立体構造に影響を与えた可能性がある。
【0066】
末端において結合が形成された場合、金属−有機複合体(metal−organic frameworks)などのネットワーク状の結合が形成されている可能性がある(Metal−organic frameworks、参考論文Chem.Soc.Rev.,2003,32,276−288)。
なお、エレクトロクロミック物質と塩化亜鉛との間に形成された結合は、エレクトロクロミック物質の色特性と最も密接な関係があるエレクトロクロミック物質固有の電子準位構造に変化を与えた可能性がある。
【0067】
<エレクトロクロミック素子の製造>
(実施例4)
ガラス基板の上に酸化インジウムスズ(ITO)を積層した後、その上に平均粒径20nmの酸化チタン(TiO)粒子1gをt−ブタノールに対して1:6の重量比で混合した溶液をドクターブレードによりコーティングした。
次に、溶媒を乾燥した後、約450℃で焼成して補助電極を形成した。次に、一般式1aで表される赤色エレクトロクロミック物質1重量%、塩化亜鉛(ZnCl)10重量%、酢酸30重量%、エチレングリコール20重量%及び蒸留水39重量%を含むエレクトロクロミック素子用インクを製造した後、インクジェットプリンタを用いて、補助電極の上に吹き付けた。
次いで、空気中、約150℃で30分間熱処理した。
別のガラス基板の上にアンチモンドープした酸化スズ(ATO)を積層した後、その上に平均粒径300nmの酸化チタン(TiO)ペースト(Solaronix SAT nanoxide 300)を塗布して反射層を形成した。
このときに用いられた篩体(sieve)の網目は、86μmである。
次に、70℃で20分間加熱して溶媒を蒸発させた後、大気中、約450℃で1時間焼成して上部電極を完成させた。
次に、前述の2枚のガラス基板を貼り合わせた後、上部電極の表面に微細孔を形成して、2枚のガラス基板の間にLiClO0.05M及びフェロセン0.05Mを含むγ−ブチロラクトンを電解質として充填して、エレクトロクロミック素子を製造した。
【0068】
(実施例5)
補助電極の形成に際して、350℃で焼成したこと以外は、実施例4の方法と同様にして、エレクトロクロミック素子を製造した。
【0069】
(実施例6)
ガラス基板に代えて、アラミドフィルム(aramid film)(高分子基板)を用い、且つ、補助電極の形成に際して、350℃で焼成したこと以外は、実施例4の方法と同様にしてエレクトロクロミック素子を製造した。
【0070】
(比較例2)
エレクトロクロミック素子用インクの製造に際して、一般式1aで表される赤色エレクトロクロミック物質1重量%、酢酸30重量%、エチレングリコール20重量%及び蒸留水49重量%を含むエレクトロクロミック素子用インクを用いたこと以外は、実施例4の方法と同様にして、エレクトロクロミック素子を製造した。
【0071】
<色特性評価−その1>
実施例4及び比較例2におけるエレクトロクロミック素子の色座標を用いて色特性を評価した。
図5の(A)は、実施例4及び比較例2におけるエレクトロクロミック素子の 波長による反射度を示すグラフであり、(B)は、実施例4及び比較例2におけるエレクトロクロミック素子の色座標である。
図5の(A)及び(B)を参照すれば、実施例4のエレクトロクロミック素子は、比較例2のエレクトロクロミック素子と比較して、約650nm〜750nmの赤色波長領域において一層高い反射度を示すとともに、さらに改善された赤色色座標を示すことが分かる。
【0072】
<色特性評価−その2>
図6の(A)は、実施例4及び実施例5におけるエレクトロクロミック素子の波長による反射度を示すグラフであり、(B)は、実施例4及び実施例5におけるエレクトロクロミック素子の色座標である。
図6の(A)及び(B)を参照すれば、補助電極の焼成温度が450℃である実施例4のエレクトロクロミック素子と補助電極の焼成温度が350℃である実施例5の場合とで、エレクトロクロミック素子において発現する赤色がほとんど同じであることが分かる。
これより、補助電極を比較的に低温下で焼成しても、色特性が不良化しないことが分かる。
【0073】
<色特性評価−その3>
図7の(A)は、実施例4及び実施例6におけるエレクトロクロミック素子の波長による反射度を示すグラフであり、(B)は、実施例4及び実施例6におけるエレクトロクロミック素子の色座標である。
図7の(A)及び(B)を参照すれば、高分子基板を用い、且つ、補助電極を350℃で焼成した実施例6のエレクトロクロミック素子は、実施例4のエレクトロクロミック素子と比較して、ほとんど類似の赤色を発現することが分かる。
これより、高分子基板を用いて比較的に低温下で焼成しても、色特性が不良化しないことが分かる。
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更実施することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
10、20 絶縁基板
12 下部電極
14 補助電極
14a 酸化物半導体粒子
15 エレクトロクロミック層
15a インク
18 間隔材
22 上部電極
30 電解質
51 インクジェット印刷ヘッド
52 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7