(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電力ラインの断線が検出された場合、前記交流電流が前記電力ラインに流れることを停止させる手段を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の射出成形機。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態である電動式の射出成形機1の構成図である。射出成形機1は、モータ50と、インバータ部40と、DCリンク30と、コンバータ70と、上位コントローラ90とを備えている。また、コンバータ70は、コンバータ部20と、制御部60とを備えている。
【0014】
射出成形機1は、電源10から供給される交流電力に基づいて、コンバータ部20とDCリンク30とインバータ部40とを介して、モータ50に電力を供給する機能を有している。また、射出成形機1は、モータ50によって発生した回生電力を、インバータ部40とDCリンク30とコンバータ部20とを介して、電源10に回生する機能を有している。このような機能によって、射出成形機1の省エネルギー化が図られている。電源10は、例えば、工場設備などの、射出成形機1の外部に設けられた交流電源である。
【0015】
モータ50は、射出成形機1で使用されるモータであって、モータ50の減速時に回生電力が発生するものである。モータ50の具体例として、型開閉用サーボモータが挙げられる。型開閉用サーボモータは、型締め装置を駆動し、可動プラテンを開閉することができる。可動プラテンの開閉によって、金型を閉じる型閉工程、金型を開く型開工程、金型を締め付ける型締め工程が行われる。
【0016】
モータ50は、射出用サーボモータでもよいし、エジェクタ用サーボモータでもよい。射出用サーボモータは、その作動によって、加熱シリンダ内のスクリュを前進移動させることができる。スクリュの前進移動によって、スクリュ前方に溜まった溶融材料を金型キャビティ内に射出する射出工程が行われる。エジェクタ用モータは、その作動によって、エジェクタ軸を移動させることができる。エジェクタ軸の移動によって、成形品を金型から押し出す成形品突き出し工程が行われる。また、モータ50は、互いに並列に接続された複数のモータでもよい。
【0017】
インバータ部40は、コンバータ部20からDCリンク30を介して供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力に基づいて、モータ50を駆動する駆動部である。インバータ部40は、例えば、コンバータ部20から出力されDCリンク30を介して供給される直流電流を、三相交流電流に変換する。また、インバータ部40は、モータ50によって発生した交流の回生電力を直流の回生電力に変換し、変換した直流の回生電力をDCリンク30及びコンバータ部20に供給する。インバータ部40は、例えば、モータ50から供給される三相交流電流を、直流電流に変換する。インバータ部40は、直流電力と三相交流電力との間で双方向に変換する場合、例えば6個のパワートランジスタで構成される三相ブリッジ回路を含むものであるとよい。
【0018】
DCリンク30は、コンバータ部20の直流出力側とインバータ部40の直流入力側との間に設けられた直流電源経路部であって、一対の直流電源ライン31と、平滑コンデンサ32とを備えている。直流電源ライン31は、コンバータ部20とインバータ部40と平滑コンデンサ32との間を流れる直流電流の伝達経路である。平滑コンデンサ32は、直流電源ライン31の直流電圧を平滑させるキャパシタである。平滑コンデンサ32の具体例として、電解コンデンサが挙げられる。DCリンク30のDCリンク電圧Vdcは、平滑コンデンサ32の両端電圧に相当する。
【0019】
コンバータ部20は、電源10から供給される交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力をDCリンク30及びインバータ部40に供給する一方で、インバータ部40及びDCリンク30から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を電源10に供給する回生コンバータである。コンバータ部20は、インバータ部40を介して供給される直流の回生電力を交流電力に変換する変換部である。
【0020】
コンバータ部20は、ヒューズ21と、LCフィルタ22と、電流センサ23と、ブリッジ回路24と、電源ライン25とを有している。
【0021】
ヒューズ21は、電源ライン25に直列に各相に挿入されている。ヒューズ21が溶断することによって、電源ライン25に過電流が流れることを防止できる。
【0022】
LCフィルタ22は、電源ライン25に流れる電流の高調波成分を抑制する回路部である。LCフィルタ22は、例えば、U,V,Wの各相に直列に挿入された複数のリアクトル間にコンデンサ(キャパシタ)が接続される構成を有している。LCフィルタ22は、例えば図示のような、各相に一端が接続された複数のコンデンサが中性点で共通接続されるY結線構成を有している。なお、LCフィルタ22は、図示の構成に限らず、例えば、各相間にコンデンサが挿入されるΔ結線構成でもよいし、各相に直列にリアクトルのみが挿入される構成でもよい。
【0023】
電流センサ23は、電源ライン25に流れる交流電流の電流値を検出する電流検出部である。電流センサ23は、三相の電源ライン25のうち二相の電源ラインで検出される相電流を出力し、例えば、U相で検出されるU相電流Iufb及びV相で検出されるV相電流Ivfbに応じた検出信号を出力する。
【0024】
ブリッジ回路24は、電源ライン25に流れる交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力をDCリンク30に供給する一方で、DCリンク30から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を電源ライン25に供給する回路である。ブリッジ回路24は、例えば図示のように、6個のパワートランジスタで構成される三相ブリッジ回路を含んでいる。
【0025】
ブリッジ回路24は、モータ50が力行するときには、三相ブリッジ回路を構成するパワートランジスタに並列に接続されたダイオードによって、電源ライン25に流れる交流電流を直流電流に整流する。一方、ブリッジ回路24は、モータ50の回生電力が発生しているときには、DCリンク30から供給される直流電力が電源10に回生されるように、三相ブリッジ回路を構成するパワートランジスタをオン/オフする回生動作を行う。
【0026】
電源ライン25は、電源10とブリッジ回路24との間を接続する電力ラインであって、ブリッジ回路24から供給される交流電力が伝達する。電源ライン25は、例えば、U,V,Wの三相の電流経路から構成されている。
【0027】
また、図示のコンバータ20は、力行経路と回生経路が共通しているが、コンバータ20は、力行経路と回生経路を並列に有するものでもよい。例えば、力行経路には、電源ライン25に流れる交流電力を直流電力に変換するダイオードブリッジ回路が挿入され、回生経路には、DCリンク30から供給される直流電力を交流電力に変換するブリッジ回路24のような半導体スイッチによるブリッジ回路が挿入される。この場合、力行経路と回生経路の両方に、ヒューズが挿入される。
【0028】
制御部60は、例えば、マイクロコンピュータを中心に構成された演算制御回路である。制御部60は、例えば、CPU、制御プログラムを格納するROM等の補助記憶装置、演算結果等を格納するRAM等の読み書き可能な主記憶装置、タイマ、カウンタ、入力インターフェース、出力インターフェースを有している。
【0029】
制御部60は、コンバータ部20のブリッジ回路24の回生動作を制御する手段である。制御部60は、例えば、PWM信号生成部65によって生成されるPWM信号によってブリッジ回路24をPWM制御することにより、インバータ部40及びDCリンク30を介してブリッジ回路24に入力されるモータ50の回生電力を電源10に回生する制御を行う。
【0030】
制御部60は、ブリッジ回路24から電源ライン25を介して電源10に流れる交流電流の波形が、電源10の交流電源電圧の位相に同期した正弦波になるように、ブリッジ回路24を回生動作させることによって、コンバータ部20の出力電圧(すなわち、DCリンク30のDCリンク電圧Vdc)を制御する。
【0031】
制御部60は、ブリッジ回路24を回生動作させる手段として、d−q変換部62と、電圧制御部63と、電流制御部64と、電圧位相検出部61と、PWM信号生成部65とを有している。
【0032】
d−q変換部62は、電流センサ23によって検出されたU相電流Iufb及びV相電流Ivfbをd−q変換することによって、d−q変換結果であるd軸電流成分Idfb及びq軸電流成分Iqfbを出力する。
【0033】
電圧制御部63は、所定の電圧指令値UcmdとDCリンク30で検出されたDCリンク電圧Vdcとの誤差に基づいて、その誤差を零に収束させるための、d軸電流成分Idfbの電流指令値Idを生成する。電圧指令値Ucmdは、例えば上位コントローラ90から供給される信号でもよいし、制御部60によって生成される信号でもよい。
【0034】
電流制御部64は、d−q変換部62から供給されるd軸電流成分Idfbと電圧制御部63から供給される電流指令値Idとに基づいて、d軸成分の電圧指令値Vdを生成する。また、電流制御部64は、d−q変換部62から供給されるq軸電流成分Iqfbと、q軸電流成分Iqfbの電流指令値Iqとに基づいて、q軸成分の電圧指令値Vqを生成する。電流指令値Iqは、電源ライン25の力率が1に調整されるように(すなわち、電源ライン25に流れる交流電流の波形が電源10の交流電源電圧と同位相の正弦波に調整されるように)、零に設定されている(Iq=0)
電圧位相検出部61は、電源ライン25の各相の交流電圧を検出することによって、各相の交流電圧の位相を検出する。
【0035】
PW信号生成部65は、電圧位相検出部61に検出された位相と、電流制御部64から供給されるd−q軸の電圧指令値Vd,Vqとに基づいて、ブリッジ回路24内の各トランジスタのゲートを駆動して回生動作させるPWM駆動信号を生成する。
【0036】
図3は、射出成形機1のシミュレーションによる正常時の動作波形を示した図である。Vrは、電圧位相検出部61によってグランド基準で検出された電源ライン25の交流電圧であり、Irは、電流センサ23によって検出された電源ライン25を流れる交流電流であり、VdcはDCリンク30のDCリンク電圧であり、Idfbは交流電流Irがd−q変換部62によってd−q変換されたd軸電流成分であり、Iqfbは交流電流Irがd−q変換部62によってd−q変換されたq軸電流成分である。
【0037】
コンバータ70の運転は、DCリンク電圧Vdcが所定の閾値電圧Vth1を超えたタイミングt1で開始する(サーボオン)。コンバータ70の運転が開始すると、コンバータ部20のブリッジ回路24の回生動作によって平滑コンデンサ32が放電するため、DCリンク電圧Vdcは漸減する。d軸電流成分Idfbは、制御部60によってDCリンク電圧Vdcに応じた回生電流に制御されている。q軸電流成分Iqfbは、q軸電流成分Iqfbの電流指令値Iqが零に固定されているため、零に制御されている。コンバータ70の運転は、DCリンク電圧Vdcが所定の閾値電圧Vth2を下回ったタイミングt2で停止する(サーボオフ)。コンバータ70の運転が停止すると、コンバータ部20のブリッジ回路24の回生動作は停止する。
【0038】
一方、
図4は、射出成形機1のシミュレーションによる異常時の動作波形を示した図である。
図4は、ブリッジ回路24の回生動作による平滑コンデンサ32の放電中に、電源ライン25のW相がタイミングt3で断線した場合を示している。
図4に示されるように、電源ライン25の各相の電源ラインうちいずれかの電源ラインが断線すると、d−q変換部62によるd−q変換結果であるq軸電流成分Iqfbの電流値及びd軸電流成分Idfbの電流値は正常時の定常状態に対して大きく変動する。
【0039】
したがって、ブリッジ回路24の回生動作の制御に使用されるd−q変換結果を、電源ライン25の断線検出に利用できる。d−q変換結果をブリッジ回路24の回生制御と電源ライン25の断線検出に共通して使用できるため、電源ライン25の断線検出を簡易な構成で実現できる。
【0040】
図2において、制御部60は、d−q変換部62によるd−q変換結果に基づいて、電源ライン25の断線を検出する。例えば、制御部60は、d−q変換後の電流成分の大きさの変化に基づいて、電源ライン25の断線を検出する。
【0041】
制御部60は、d−q変換部62によるd−q変換結果に基づいて、電源ライン25の断線を検出する断線検出部として、例えば
図2に示される信号処理部66及び異常判定部67を有している。
【0042】
信号処理部66は、d−q変換部62によって得られたd−q変換結果について所定のフィルタ演算を行うことで、そのd−q変換結果の電流成分の大きさに等価なデータyを生成する。異常判定部67は、データyを所定の異常判定閾値Vthと比較することによって、電源ライン25の断線の有無と判断する。異常判定部67は、例えば、データyが異常判定閾値Vthを超えている場合、電源ライン25に断線が発生していると判断し、電源ライン25の断線が検出されたことを表す断線検出信号を、上位コントローラ90に対して出力する。
【0043】
上位コントローラ90は、断線検出信号に基づいて、交流電流が電源ライン25に流れることを停止させる手段である。上位コントローラ90は、例えば、制御部60と同様に、マイクロコンピュータを中心に構成された演算制御回路である。上位コントローラ90は、例えば、CPU、制御プログラムを格納するROM等の補助記憶装置、演算結果等を格納するRAM等の読み書き可能な主記憶装置、タイマ、カウンタ、入力インターフェース、出力インターフェースを有している。
【0044】
上位コントローラ90は、例えば、電源ライン25の断線が検出されたことを表す断線検出信号を受信した場合、射出成形機1の運転を停止させるためのサーボオフ指令を発行し、コンバータ70の動作を停止させ、コンバータ部20のブリッジ回路24の動作を停止させる。これにより、コンバータ部20のブリッジ回路24の回生動作は停止するので、交流電流が電源ライン25に流れることを停止させることができる。その結果、電源ライン25に過電流が流れることを防止できる。
【0045】
また、上位コントローラ90は、電源ライン25の断線が検出されたことを表す断線検出信号を受信した場合、電源ライン25に断線が発生したことを射出成形機1のオペレータに通知してもよい。これにより、オペレータに速やかに断線異常を知らせることができる。
【0046】
図5は、断線検出部を構成する信号処理部66の第1の具体例である。信号処理部66は、絶対値回路71と、一次遅れフィルタ72とを有している。Zはラプラス変換を表し、aは所定の定数である。絶対値回路71は、q軸電流成分Iqfbを絶対値化する。一次遅れフィルタ72は、q軸電流成分Iqfbの絶対値を一次遅れ演算した値yを出力する。なお、所定値以上の大きな電流が電源ライン25に一定期間流れたことが検出されればよいので、一次遅れフィルタをタイマに置き換えてもよい。
【0047】
図6は、
図5の構成で断線を検出した場合の射出成形機1のシミュレーションによる異常時の動作波形を示した図である。
図6は、
図4と同様、ブリッジ回路24の回生動作による平滑コンデンサ32の放電中に、電源ライン25のW相がタイミングt5で断線した場合を示している。
図6に示されるように、異常判定部67は、信号処理部66から出力される|Iqfb|が所定の閾値を超えた断線発生直後のタイミングt6で、断線異常検出信号としての異常フラグを出力する。そして、上位コントローラ90は、コンバータ70を停止させることにより、コンバータ部20のブリッジ回路24の回生動作は停止する(Irが零に収束している)。
【0048】
図7は、信号処理部66の第2の具体例である。信号処理部66は、絶対値回路71に代えて、q軸電流成分Iqfbの実効値を出力する実効値回路73を有するものでもよい。一次遅れフィルタ74は、q軸電流成分Iqfbの実効値を一次遅れ演算した値yを出力する。
【0049】
図8は、信号処理部66の第3の具体例である。信号処理部66は、一次遅れフィルタに代えて、絶対値回路75から出力されるq軸電流成分Iqfbの絶対値を、移動平均した値yを出力する移動平均フィルタ76を有するものでもよい。
【0050】
図9は、信号処理部66の第4の具体例である。d軸電流成分Idfbが入力されるハイパスフィルタ77を有してもよい。これにより、d軸電流成分Idfbの直流成分が除去される。すなわち、
図4のd軸電流成分Idfbのt3〜t4の値を取り出すことによって、
図5の場合と同様に、q軸電流成分Iqfbのように取り扱うことができる。絶対値回路78は、ハイパスフィルタ77の出力を絶対値化し、一次遅れフィルタ79は、ハイパスフィルタ77の出力の絶対値を一次遅れ演算した値yを出力する。
【0051】
図10は、信号処理部66の第5の具体例である。d軸電流成分Idfbとその指令値Idとの偏差を出力する減算部80を備える。このような偏差を算出することで、指令値Idが任意の値に変化しても、
図4のd軸電流成分Idfbのt3〜t4の値に等価な値を取り出すことができる。したがって、
図5の場合と同様に、q軸電流成分Iqfbのように取り扱うことができる。絶対値回路81は、減算部80から出力される偏差を絶対値化し、一次遅れフィルタ82は、減算部80から出力される偏差の絶対値を一次遅れ演算した値yを出力する。
【0052】
図11は、本発明の第2の実施形態である電動式の射出成形機2の構成図である。
図2の射出成形機1と同様の構成・効果については、その説明を省略する。射出成形機2の制御部60は、電流センサ23によって検出された電源ライン25の各相の電流を比較することにより、断線した相を検出する手段として、断線相判定部68を有している。
【0053】
断線相判定部68は、電流センサ23によって検出される相電流の電流値が零の電源ラインを、断線した電源ラインと判定する。断線相判定部68は、電流センサ23によって検出される相電流の電流値が零の電源ラインが検出されず、信号処理部66からのデータyに基づいて断線の発生が検出された場合、電流センサ23によって相電流が直接検出されていない電源ラインが断線したと判定する。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形、組み合わせ及び置換を加えることができる。
【0055】
例えば、断線検出部は、d軸電流成分Idfbの変化とq軸電流成分Iqfbの変化とを組み合わせて、電源ライン25の断線を検出してもよい。これにより、断線の検出精度を上げることができる。
【0056】
また、例えば、制御部60が、d−q変換後の電流成分の大きさの変化に基づいて、電源ライン25の断線を検出する場合を示したが、制御部60が、d−q変換後の電流成分の周波数の変化に基づいて、電源ライン25の断線を検出してもよいし、d−q変換後の電流成分の傾きの変化に基づいて、電源ライン25の断線を検出してもよい。
【0057】
また、例えば、モータの種類は上述の種類に限ることはなく、本発明は、射出成形機に使用されるモータであれば、他のモータにも適用できる。