【文献】
SANTULLI C. et al.,Influence of Content and Diameter of Fibres and Chemical Treatment on the Dielectric Properties of Oil Palm Fibres-Rubber Composites,Sci Eng Compos Mater,2009年,Vol.16, No.2,pp.77-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロース繊維と無機充填剤を含む水懸濁液に機械的剪断力を与えて前記セルロース繊維をフィブリル化し、得られた水懸濁液とゴムラテックスとを混合し、その混合液を乾燥させることを特徴とするゴム/セルロースマスターバッチの製造方法。
前記セルロース繊維と無機充填剤を含む水懸濁液に機械的剪断力を与える磨砕処理により前記セルロース繊維をフィブリル化することを特徴とする請求項1記載のゴム/セルロースマスターバッチの製造方法。
前記水溶性セルロース誘導体が前記セルロース繊維をフィブリル化する前の水懸濁液に含まれることを特徴とする請求項3記載のゴム/セルロースマスターバッチの製造方法。
前記無機充填剤の量が前記セルロース繊維の量に対し質量比で0.01〜20倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム/セルロースマスターバッチの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係るゴム/セルロースマスターバッチの製造方法においては、セルロース繊維と無機充填剤を含む水懸濁液に機械的剪断力を与える解繊処理により該セルロース繊維を微細化、即ちフィブリル化する。
【0012】
解繊処理対象となる上記セルロース繊維としては、木材やもみ殻、藁、竹などの各種天然植物繊維から調製されるセルロース繊維(パルプ)を用いることができる。好ましくは、天然植物繊維を水酸化ナトリウム等の薬品やオゾン等により化学的に処理することで得られた粉末状セルロース繊維を用いることである。かかる粉末状セルロース繊維の平均粒子径は特に限定されないが、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。本明細書において、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により求められる値であり、後述する実施例では、株式会社島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD−2100」により測定される粒度分布(体積基準)の平均値を平均粒子径としている。
【0013】
上記無機充填剤としては、水酸基、カルボキシル基及びシラノール基等の、セルロースの水酸基と水素結合し得る表面官能基を少なくとも1種有する無機粒子が好ましく用いられ、例えば、カーボンブラックの他、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩などの金属化合物が挙げられる。このような無機充填剤を用いることで、セルロース繊維同士の水酸基による水素結合を阻害して、解繊工程や混合工程、乾燥工程におけるセルロース繊維の再凝集を防止することができる。
【0014】
上記無機充填剤の具体例としては、カーボンブラック、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、クレー(カオリナイト、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイトなど)、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウムマグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、タルク、アタパルジャイト等が挙げられる。これらはいずれか1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、酸化チタン等が好ましく、より好ましくはカーボンブラック及び/又はシリカを用いることである。
【0015】
無機充填剤としては、BET比表面積が20〜300m
2/gであるものが好ましく用いられる。このような微粒子状の無機充填剤を用いることにより、セルロース繊維の解繊を促進することができる。また、無機充填剤はフィブリル化されたセルロース繊維とともに補強性充填剤を構成するものであるため、上記範囲内のBET比表面積を持つものを用いることにより、ゴム組成物中での補強性と分散性を両立することもできる。BET比表面積は、より詳細には、カーボンブラックについては、50〜150m
2/gであることが好ましく、シリカについては、130〜220m
2/gであることが好ましい。BET比表面積は、BET法による窒素吸着比表面積であり、カーボンブラックについてはJIS K6217−7に記載の方法に準拠して、シリカなどの金属酸化物についてはJISK6430附属書Eに記載の方法に準拠して測定することができる。
【0016】
無機充填剤は、セルロース繊維の質量に対し、0.01〜20倍の範囲内の質量にて使用されることが好ましい。従って、上記水懸濁液は、無機充填剤をセルロース繊維の0.01〜20倍の質量にて含有するように調製されることが好ましい。無機充填剤の使用量をセルロース繊維の0.01倍以上とすることにより、解繊処理でのセルロース繊維の微細化効率を高めることができる。無機充填剤の使用量は、より好ましくはセルロース繊維の0.5倍以上、更に好ましくは1倍以上であり、これにより、微細化効果を一層高めることができるとともに、ゴム組成物に配合したときの補強効果にも優れる。
【0017】
セルロース繊維の微細化効率は、無機充填剤の使用量が多いほど向上する傾向にあるが、セルロース繊維の20倍を超えるような量では微細化効果は頭打ちとなる。また、そのような使用量では、得られた補強性充填剤中に占めるセルロース繊維の比率が低くなることから、フィブリル化セルロースによる優れた補強効果を得にくくなり、また多量に含まれる無機充填剤によりエネルギー損失(ヒステリシスロス)も大きくなる。そのため、無機充填剤の使用量はセルロース繊維の量の18倍以下であることがより好ましく、更に好ましくは15倍以下、より一層好ましくは10倍以下である。
【0018】
解繊処理に用いる水懸濁液は、セルロース繊維と無機充填剤を含有するものであり、即ち、セルロース繊維と無機充填剤が水中に分散してなるスラリーである。該水懸濁液中におけるセルロース繊維の濃度は特に限定されないが、0.5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%である。
【0019】
該水懸濁液に機械的剪断力を与える解繊処理としては、無機充填剤によるセルロース繊維の解繊効果を高めることができることから、磨砕処理が好ましい。磨砕処理としては、石臼法(別称:ディスクミル、グラインダー)が好適に利用できる。石臼法では、複数枚の砥粒板を対向させて配置した擦り合せ部に、上記水懸濁液を通過させることにより、セルロース繊維が微細化(即ち、フィブリル化)される。その際、水懸濁液に無機充填剤が含まれることにより、セルロース繊維に対してより効果的に剪断力を付与することができ、解繊効率を高めることができ、十分に微細化されたセルロース繊維を調製することができる。なお、解繊処理としては、このような磨砕処理に限定されるものではなく、例えば、高圧ホモジナイザー、ジェットミル、ボールミル等を利用してもよい。
【0020】
このようにして解繊処理した水懸濁液においては、セルロース繊維がフィブリル化(ミクロフィブリル化)された状態で水中に分散するとともに、無機充填剤が上記機械的剪断力の作用でフィブリル化された繊維間に入り込む等して、両者が複合一体化して分散した状態にあると考えられる。そのため、かかる無機充填剤の存在によって、解繊工程におけるセルロース繊維の再凝集を防止することができる。
【0021】
このようにしてフィブリル化されたセルロース繊維の直径(即ち、繊維径)は、特に限定されないが、平均繊維径が0.003〜10μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1μmである。また、フィブリル化セルロース繊維の長さ(即ち、繊維長)も、特に限定されないが、平均繊維長が1〜1000μmの範囲内であることが好ましい。ここで、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡観察(SEM)像より、フィブリル化セルロース繊維を10個無作為に抽出し、短径を測定してその相加平均を平均繊維径とする。平均繊維長は、カジャーニ(KAJAANI)社の繊維長測定機(FS−200)を用い、JIS P8121により測定される。
【0022】
本実施形態に係るゴム/セルロースマスターバッチの製造方法においては、上記のようにして解繊処理した水懸濁液と、ゴムラテックスと、を混合し、その混合液を乾燥させる。上記のように解繊処理後の水懸濁液においてはフィブリル化セルロース繊維と無機充填剤が複合一体化されているので、混合工程及び乾燥工程におけるセルロース繊維の再凝集を防止することができ、そのため、セルロースの微細繊維形状を活かした補強効果に優れるゴム/セルロースマスターバッチが得られる。
【0023】
上記ゴムラテックスとしては、乳化重合法により合成された合成ゴムラテックスの他、天然ゴムラテックス(例えば、フィールドラテックス、濃縮ラテックス等)や、溶液重合法により合成されたゴムを水中に乳化分散させたラテックス等、各種のゴムラテックスを用いることができる。ラテックス中におけるゴム成分(ゴムポリマー)の含有率は、特に限定されないが、一般には10〜70質量%のものを用いることができる。該ゴム成分として、具体的には、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などの各種ジエン系ゴムが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。好ましくは、NR、IR、SBR、BR又はこれらの2種以上のブレンドゴムを用いることである。
【0024】
上記解繊処理後の水懸濁液とゴムラテックスとの混合方法は、特に限定されず、例えば、ホモジナイザー、プロペラ式攪拌装置、ロータリー式攪拌装置などの公知の混合機を用いて行うことができる。
【0025】
このようにして得られた混合液を乾燥させてゴムマスターバッチを得る手法としては、特に限定されず、噴霧乾燥、自然乾燥、オーブン乾燥、凍結乾燥などの一般的方法により混合液から水を除去すればよい。好ましくは、噴霧乾燥することであり、無機充填剤を含むフィブリル化セルロース繊維のゴム成分に対する分散性を向上することができる。噴霧乾燥は、公知のスプレードライ装置を用いて行うことができる。噴霧乾燥方式としては、ノズル式、ディスク式等を挙げることができるが、ノズル式の噴霧乾燥機が好ましい。乾燥温度としては、100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上である。乾燥温度の上限は、特に限定されないが、通常は200℃以下である。
【0026】
このようにして得られる本実施形態のゴム/セルロースマスターバッチにおいて、フィブリル化セルロース繊維とゴム成分との混合比は特に限定されないが、ゴム成分(固形分)100質量部に対して、フィブリル化セルロース繊維が0.5〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜50質量部であり、更に好ましくは5〜30質量部である。このような配合量とすることにより、フィブリル化セルロース繊維による優れた補強効果をより効果的に発揮することができる。
【0027】
また、該ゴム/セルロースマスターバッチにおいて、無機充填剤の量は、フィブリル化セルロース繊維の量に対して質量比で0.01〜20倍であることが好ましく、より好ましくは0.5〜18倍、更に好ましくは0.5〜10倍、より一層好ましくは1〜10倍である。
【0028】
本実施形態に係るゴム/セルロースマスターバッチの製造方法においては、無機充填剤とともに、水溶性セルロース誘導体を用いてもよい。水溶性セルロース誘導体は、水に溶解するとともに、水懸濁液中でフィブリル化セルロース繊維の表面に水素結合や疎水性相互作用等により吸着される。特に、水溶性セルロース誘導体はセルロース分子骨格を有するので、フィブリル化セルロース繊維に対して効果的に吸着するものと考えられる。そのため、水溶性セルロース誘導体は保護コロイドとして働くことにより、フィブリル化セルロース繊維同士の水素結合による凝集を阻害し、よって、フィブリル化セルロース繊維を懸濁液中でより一層高分散化させるものと考えられる。また、水溶性セルロース誘導体の存在により、ゴム成分への分散性及びゴム成分との密着性が高まるものと考えられる。そして、マスターバッチ化された状態において、フィブリル化セルロース繊維の表面には水溶性セルロース誘導体が吸着しており、すなわち、フィブリル化セルロース繊維は水溶性セルロース誘導体で表面処理されているので、ゴム組成物中における分散性及びゴム成分との密着性が向上し、その結果、より一層高い補強効果が発揮される。
【0029】
上記水溶性セルロース誘導体は、無機充填剤とともに解繊処理前に加えてもよく、あるいはまた、解繊処理後に加えてもよいが、前者の方がフィブリル化セルロース繊維の高分散化の点でより好ましい。水溶性セルロース誘導体の使用量は、セルロース繊維に対して0.1〜50質量%の範囲であることが好ましく、すなわち、セルロース繊維100質量部に対する水溶性セルロース誘導体の量が0.1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜25質量部であり、更に好ましくは1〜10質量部である。従って、得られたゴム/セルロースマスターバッチにおいても、水溶性セルロース誘導体の量は、フィブリル化セルロース繊維100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜25質量部であり、更に好ましくは1〜10質量部である。このような配合量とすることにより、低発熱性の悪化を抑えながら剛性を高めることができる。
【0030】
上記水溶性セルロース誘導体としては、セルロース分子の水酸基の水素原子を適度に他の基に置換することで、その水酸基同士の水素結合が起こらないようにした水溶性のセルロースエーテルを用いることができる。より詳細には、下記式(1)で表されるセルロース誘導体であり、式中の3つのRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、又は炭素数1〜6のカルボキシアルキル基であり、元の3つの水素原子がこれらのアルキル基、ヒドロキシアルキル基及び/又はカルボキシルアルキル基で適度に置換されている。なお、nは1以上の整数である。
【化1】
【0031】
水溶性セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース(式(1)中、R=H又はCH
3)、エチルセルロース(式(1)中、R=H又はCH
2CH
3)などのアルキルセルロース; ヒドロキシエチルセルロース(式(1)中、R=H又は(CH
2)
2OH)などのヒドロキシアルキルセルロース; ヒドロキシメチルメチルセルロース(式(1)中、R=H、CH
3又はCH
2OH)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(式(1)中、R=H、CH
3又は(CH
2)
2OH)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(式(1)中、R=H、CH
3又はCH
2CHOHCH
3)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(式(1)中、R=H、CH
2CH
3又は(CH
2)
2OH)などのヒドロキシアルキルアルキルセルロース; カルボキシメチルセルロース(式(1)中、R=H、CH
2COOH)などのカルボキシアルキルセルロース等が挙げられ、これらはいずれか1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、フィブリル化セルロース繊維に対する吸着性を高める上で、疎水性官能基を有する水溶性セルロース誘導体として、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種が好ましく、より好ましくは、アルキルセルロース及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種である。
【0032】
水溶性セルロース誘導体のエーテル化度(置換度)は0.1〜3.0の範囲、通常は0.1〜2.5である。特に限定するものではないが、エーテル化度は、0.2〜2.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5の範囲である。なお、エーテル化度とは、無水グルコース1単位当たりのエーテル置換基数である。
【0033】
本実施形態に係るゴム組成物は、該ゴム/セルロースマスターバッチ(以下、単にマスターバッチということがある。)を含むものである。上記のように該マスターバッチにおいて、フィブリル化セルロース繊維は無機充填剤の存在によって再凝集が抑制され、十分に微細化された状態を維持することができるので、セルロース繊維の微細繊維形状を活かした補強効果が顕著に現れ、剛性ないし機械的強度に優れるゴム組成物を得ることができる。
【0034】
該ゴム組成物において、ゴム成分は、該マスターバッチ由来のゴムポリマーのみからなるものであってもよいが、該マスターバッチから配合されるものとは別に、通常の天然ゴムやジエン系合成ゴム(例えば、上記のIR、BR、SBR、CR、NBR、IIR等)などの各種ゴムポリマーのいずれか1種以上を含むものであってもよい。ゴム組成物中のゴム成分全体に対する上記マスターバッチ由来のゴム成分は30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。
【0035】
また、ゴム組成物中における上記フィブリル化セルロース繊維の含有量は、特に限定されず、ゴム組成物の用途に応じて要求される補強性を発揮するように適宜設定すればよい。好ましくは、ゴム組成物中に含まれる全ゴム成分100質量部に対して、フィブリル化セルロース繊維の含有量が0.1〜50質量部であり、より好ましくは1〜40質量部、更に好ましくは5〜30質量部である。
【0036】
該ゴム組成物には、シリカやカーボンブラック等の補強性充填剤を、ゴム混練り時に目的に応じて適宜追加で添加することができる。シリカ及びカーボンブラックとしては、上記した無機充填剤として用いられるものと同様のものを用いることができる。これらのシリカ及び/又はカーボンブラックの配合量は、特に限定されないが、上記マスターバッチとして添加されるものも含め、ゴム成分100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部である。
【0037】
該ゴム組成物には、特に無機充填剤としてシリカを用いる場合、シランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々の硫黄含有シランカップリング剤を用いることができ、特に限定されないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン; 3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン; 3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシラン(即ち、メルカプト基がアシル基で保護されたチオールエステル構造を持つシラン化合物)などが挙げられる。これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。
【0038】
該ゴム組成物には、また、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、樹脂、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0039】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、上記マスターバッチに添加剤を加えて、常法に従い混練することにより作製することができる。より詳細には、第1混合段階(NP)で、上記マスターバッチと、任意に他のゴム成分と、加硫剤や加硫促進剤などの加硫系添加剤を除く薬品とを、混練し、その後の第2混合段階(FN)で、上記で得られた混練物に加硫系添加剤を添加し混合することにより、ゴム組成物を調製することができる。
【0040】
このようにして得られるゴム組成物は、常法に従い例えば140〜200℃で加硫成形することにより、例えば、トレッドやサイドウォール、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができる。好ましくは、該ゴム組成物は、低発熱性の悪化を抑えながら、補強性を高めることができるので、空気入りタイヤのゴム部材として用いることであり、タイヤに要求される補強性と低燃費性のバランスを向上することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<フィブリル化セルロース繊維の調製>
[調製例1〜7]
セルロース繊維として粉末セルロース(日本製紙ケミカル株式会社製「KCフロックW−400G」)と、無機充填剤としてシリカ(デグサ社製「Ultrasil VN3」、BET比表面積=175m
2/g)を、下記表1に示す配合(質量部)にて水と混合攪拌して水懸濁液(スラリー)を調製した。得られた水懸濁液に対して表1に示す条件で磨砕処理を行った。磨砕処理において石臼法は、増幸産業株式会社製「スーパーマスコロイダーMKCA6−2」(砥粒板:MKG、砥粒の粒度:120番)を用いて、砥粒板のクリアランス:0μm(接触運転)、砥粒板の回転数:1500rpmに設定し、表1に記載のパス回数にて、水懸濁液を装置の摺り合わせ部に複数回通過させることにより行った。
【0043】
磨砕処理後のフィブリル化セルロース繊維の平均繊維径と、セルロース繊維と無機充填剤からなる複合体の平均粒子径を測定した。平均粒子径については水懸濁液の状態で測定し、平均繊維径については磨砕処理後の水懸濁液を、スプレードライ装置(ヤマト科学株式会社製「スプレードライヤーADL311S−A」)にて乾燥温度(ノズル温度)=160℃で噴霧乾燥したものを測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[比較調製例1〜3]
無機充填剤としてのシリカを配合せずに、表1に示す配合に従い水懸濁液を調製し、得られた水懸濁液を用いて、表1に従い磨砕処理をした(表1に示す条件以外は上記調製例1と同様)。
【0045】
[比較調製例4〜6]
表1に示す配合に従い、磨砕処理をせずに水懸濁液を調製した(表1に示す条件以外は上記調製例1と同様)。
【0046】
[比較調製例7]
無機充填剤としてのシリカを配合せずに粉末セルロースの水懸濁液を調製し、得られた水懸濁液を用いて、表1に従い磨砕処理をした。その後、シリカを混合攪拌してフィブリル化されたセルロース繊維とシリカを含む水懸濁液を調製した(表1に示す条件以外は上記調製例1と同様)。
【0047】
【表1】
【0048】
結果は表1に示す通りであり、セルロース繊維とともにシリカを含む水懸濁液を用いて磨砕処理した調製例1〜7であると、十分に微細化されたセルロース繊維を含む複合フィラーを、セルロース繊維を凝集させることなく、効率よく製造することができた。詳細には、磨砕処理時におけるシリカの存在により、セルロース繊維の解繊が促進され、少ないパス回数でもセルロース繊維を微細化でき、生産性が向上していた。また、磨砕処理時におけるパス回数の増加によってセルロース繊維の解繊が進み、平均粒子径や平均繊維径が小さくなる傾向が見られた(調製例1〜3参照)。また、シリカ量の増加により微細化効率が向上する傾向が見られたが、シリカ量がセルロース繊維の10倍量を超えると微細化効果はほぼ頭打ちとなった(調製例1,4〜7参照)。
【0049】
これに対し、磨砕処理時にシリカを配合しなかった比較調製例1〜3では、調製例1〜3に対し、同じパス回数同士で比較すると、セルロース繊維の解繊効果が明らかに劣っており、平均粒子径及び平均繊維径ともに大きいものであった。なお、比較調製例1〜3では、乾燥時に凝集したことにより、乾燥後の形態はダマ状の固体であった。比較調製例4,5では、セルロース繊維を磨砕処理していないため、解繊されておらず、平均繊維径は測定できなかった。比較調製例7では、乾燥時には水懸濁液中にシリカが配合されるため、乾燥時におけるセルロース繊維の凝集は回避できたものの、磨砕処理時にシリカを配合していないため、微細化効果に劣っていた。
【0050】
<マスターバッチの調製>
[実施例1]
上記調製例4における磨砕処理後の水懸濁液を用い、該水懸濁液と、スチレンブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製「SBラテックス Nipol LX110」、固形分濃度=40.5質量%)を、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が10質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、スプレードライ装置(ヤマト科学株式会社製「スプレードライヤーADL311S−A」)にて、乾燥温度(ノズル温度)=160℃で噴霧乾燥することにより、ゴム/セルロースマスターバッチE1を得た。
【0051】
[実施例2]
上記調製例4において、セルロース繊維とシリカを混合する際に、セルロース繊維20質量部とシリカ50質量部を水450質量部と混合し、その他は調製例4と同様にして、磨砕処理を行った。磨砕処理後のフィブリル化セルロース繊維の平均繊維径は20nmであった。得られた磨砕処理の水懸濁液と上記スチレンブタジエンゴムラテックスを、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が20質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、実施例1と同様に噴霧乾燥して、ゴム/セルロースマスターバッチE2を得た。
【0052】
[実施例3]
上記調製例4において、セルロース繊維とシリカを混合する際に、セルロース繊維10質量部と、シリカ50質量部と、水溶性セルロース誘導体としてメチルセルロース(MC、和光純薬工業株式会社製「メチルセルロース1500cP」、エーテル化度:(0.78〜0.99)0.5質量部を水450質量部と混合攪拌し、その他は調製例4と同様にして、磨砕処理を行った。磨砕処理後のフィブリル化セルロース繊維の平均繊維径は18nmであった。得られた磨砕処理の水懸濁液と上記スチレンブタジエンゴムラテックスを、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が10質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、実施例1と同様に噴霧乾燥して、ゴム/セルロースマスターバッチE3を得た。
【0053】
[実施例4]
上記実施例3において、水溶性セルロース誘導体としてメチルセルロースの代わりにヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、信越化学工業株式会社製「メトローズ65SH」、エーテル化度:1.8)を用い、その他は実施例3と同様にしてゴム/セルロースマスターバッチE4を得た。なお、磨砕処理後のフィブリル化セルロース繊維の平均繊維径は18nmであった。
【0054】
[比較例1]
上記調製例4において、シリカを添加せずに磨砕処理を行った後、フィブリル化セルロース繊維10質量部に対して50質量部のシリカを添加して水懸濁液を調製した。得られた水懸濁液と上記スチレンブタジエンゴムラテックスを、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が10質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、実施例1と同様に噴霧乾燥して、ゴム/セルロースマスターバッチC1を得た。
【0055】
[比較例2]
フィブリル化セルロース繊維とシリカの割合を、セルロース繊維20質量部に対しシリカを50質量部とし、その他は比較例1と同様にして、ゴム/セルロースマスターバッチC2を得た。
【0056】
[比較例3]
上記比較調製例1における磨砕処理後の水懸濁液を用い、該水懸濁液と上記スチレンブタジエンゴムラテックスを、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が10質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、実施例1と同様に噴霧乾燥して、ゴム/セルロースマスターバッチC3を得た。
【0057】
[実施例5]
セルロース繊維として粉末セルロース(日本製紙ケミカル株式会社製「KCフロックW−400G」)と、無機充填剤としてカーボンブラック(東海カーボン製「シースト3」、BET比表面積=79m
2/g)を用い、粉末セルロース10質量部とカーボンブラック50質量部と水450質量部を混合攪拌して水懸濁液(スラリー)を調製した。得られた水懸濁液に対して、上記調製例4と同様に磨砕処理を行った。磨砕処理後のフィブリル化セルロース繊維の平均繊維径は20nmであった。磨砕処理後の水懸濁液と、スチレンブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製「SBラテックス Nipol LX110」)を、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が10質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、実施例1と同様に噴霧乾燥して、ゴム/セルロースマスターバッチE5を得た。
【0058】
[実施例6]
実施例5において、セルロース繊維とカーボンブラックを混合する際に、セルロース繊維20質量部とカーボンブラック50質量部を水450質量部と混合し、その他は実施例5と同様にしてゴム/セルロースマスターバッチE6を得た。なお、磨砕処理後のフィブリル化セルロース繊維の平均繊維径は20nmであった。
【0059】
[比較例4]
実施例5において、カーボンブラックを添加せずに磨砕処理を行った後、フィブリル化セルロース繊維10質量部に対して50質量部のカーボンブラックを添加して水懸濁液を調製した。得られた水懸濁液と上記スチレンブタジエンゴムラテックスを、ゴム成分(SBR)100質量部に対してフィブリル化セルロース繊維(MFC)が10質量部となるように、ホモジナイザーを用いて攪拌混合し、得られた混合液を、実施例5と同様に噴霧乾燥して、ゴム/セルロースマスターバッチC4を得た。
【0060】
[比較例5]
フィブリル化セルロース繊維とカーボンブラックの割合を、セルロース繊維20質量部に対しカーボンブラックを50質量部とし、その他は比較例4と同様にして、ゴム/セルロースマスターバッチC5を得た。
【0061】
<ゴム組成物の調製及び評価>
下記表2,3に示す配合(質量部)に従い、まず、第1混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く配合成分について、ラボミキサー(ラボプラストミル)を用いて5分間混練りし、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、加硫剤である硫黄と加硫促進剤を添加し1分間混合することにより、ゴム組成物を得た。表2,3中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0062】
・シリカ:デグサ社製「Ultrasil VN3」、BET比表面積=175m
2/g
・カーボンブラック:東海カーボン製「シースト3」、BET比表面積=79m
2/g
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤CZ:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・加硫促進剤D:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
【0063】
得られた各ゴム組成物を所定の形状に成形後、モールド中で160℃×30分間にて加硫することにより、試験片を作製した。得られた試験片を用いて、補強性の指標としての破断強度TBと、破断時伸びEBと、複素弾性率E
*と、低発熱性の指標としての損失係数tanδを測定した。測定方法は以下の通りである。
【0064】
・TB、EB:JIS K6251に準じた引張り試験(ダンベル状3号形)により、破断強度および破断時の伸びを測定し、表2においては比較例6の値を、表3においては比較例9の値を、それぞれ100とした指数で表示した。指数が大きいほど、破断強度および破断時伸びが大きいことを示す。
【0065】
・E
*、tanδ:JIS K6394に準じて、温度23℃、周波数10Hz、動歪み2%、静歪み5%の条件で、粘弾性測定試験を行い、複素弾性率E
*および損失係数tanδを求めて、表2においては比較例6の値を、表3においては比較例9の値を、それぞれ100とした指数で表示した。E
*指数が大きいほど、補強性が高く、高剛性化効果に優れることを示し、また、tanδ指数が低いほど、エネルギー損失が小さく、従って発熱しにくく、低発熱性(低燃費性)に優れることを示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
表2に示すように、比較例6では、シリカをマスターバッチ化することにより、比較例8に対して、剛性が高く、低発熱性も改良されていたが、磨砕処理後にシリカを添加してマスターバッチ化したものであったため、その効果は十分ではなかった。これに対し、シリカの存在下でセルロース繊維を磨砕処理した実施例7,8では、剛性及び機械的強度が顕著に改善されており、低発熱性も改良されていた。また、実施例9,10では、更に、フィブリル化セルロース繊維を水溶性セルロース誘導体で表面処理したため、剛性及び低発熱性において更なる改良効果が得られた。
【0069】
表3に示すように、無機充填剤としてカーボンブラックを用いた場合にも、シリカを用いた場合と同様、セルロース繊維の再凝集を抑えることができ、剛性、機械的強度及び低発熱性のバランスに顕著な改良効果が見られた。