(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000618
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】高圧ガス容器及び高圧ガス容器を製造する方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20160915BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20160915BHJP
B29D 22/00 20060101ALI20160915BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20160915BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20160915BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
F17C1/06
F17C1/16
B29D22/00
B29C67/14 A
B29C67/14 J
F16J12/00 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-98663(P2012-98663)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2013-227997(P2013-227997A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年4月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、補正予算事業地域イノベーション創出研究開発事業「革新的ライナーレス超高圧ガス用複合材料容器構造の実現と実証」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】591079823
【氏名又は名称】中国工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594209463
【氏名又は名称】東洋コルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】山本 睦也
(72)【発明者】
【氏名】好満 芳邦
(72)【発明者】
【氏名】米本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴史
【審査官】
藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−009559(JP,A)
【文献】
特開2004−286201(JP,A)
【文献】
特開2000−035196(JP,A)
【文献】
特開平09−323365(JP,A)
【文献】
特開2000−314498(JP,A)
【文献】
特開2007−162830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F17C 1/16
F16J 12/00
B29C 70/06
B29C 70/16
B29D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と、その端部に設けられガス機器が接続される口金とを有する高圧ガス容器であって、
前記容器本体は、繊維強化殻と、その内面を被う樹脂皮膜とを有し、
前記樹脂皮膜は、弾性限度伸びが10%を越えるゴム弾性樹脂部材膜にガスバリア部材膜が挟み込まれてなるものである高圧ガス容器。
【請求項2】
ゴム弾性樹脂部材膜は、エポキシ樹脂、変性シリコーン樹脂又はエポキシ・変性シリコーン樹脂からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の高圧ガス容器。
【請求項3】
ガスバリア部材膜は、ビニルアルコール系樹脂又は粘土鉱物からなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧ガス容器。
【請求項4】
樹脂皮膜の厚さが0.5〜2.0mm、繊維強化殻の厚さが3〜30mmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の高圧ガス容器。
【請求項5】
水素漏洩率が1cm3/L・h以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の高圧ガス容器。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の高圧ガス容器の製造方法であって、
高圧ガス容器の内部を形成する大きさの発泡スチロール製のマンドレルの外面全体に離型膜を形成する段階と、
前記離型膜の上面に第1のゴム弾性樹脂部材膜を形成する段階と、
前記第1のゴム弾性樹脂部材膜の上面にガスバリア部材膜を形成する段階と、
前記ガスバリア部材膜の上面に第2のゴム弾性樹脂部材膜を形成する段階と、
前記第2のゴム弾性樹脂部材膜が形成されたマンドレルの端部に口金を貼付する段階と、
前記第2のゴム弾性樹脂部材膜の上面及び口金の肩部に繊維強化殻を形成する段階と、
前記発泡スチロール製のマンドレル及び前記離型膜を溶解除去する段階と、を有してなる高圧ガス容器の製造方法。
【請求項7】
ゴム弾性樹脂部材膜は、離型膜を形成させたマンドレルの上面にゴム弾性を示す樹脂からなる液状樹脂又はコーティング液を塗布した後、そのマンドレルを回転しつつ硬化又は乾燥させて形成されるものであることを特徴とする請求項6に記載の高圧ガス容器の製造方法。
【請求項8】
液状樹脂又はコーティング液の粘度は、0.2〜1.3Pa・sであることを特徴とする請求項7に記載の高圧ガス容器の製造方法。
【請求項9】
マンドレルの発泡スチロール部分に負荷される熱負荷は80℃以下であることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載の高圧ガス容器の製造方法。
【請求項10】
口金は、第2のゴム弾性樹脂部材膜が形成されたマンドレルに貼付される底面部と肩部がゴム弾性樹脂部材膜で被われると共に、そのゴム弾性樹脂部材膜が第2のゴム弾性樹脂部材膜と一体になるようにマンドレルの端部に貼付されることを特徴とする請求項6〜9の何れか一項に記載の高圧ガス容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス容器及び高圧ガス容器を製造する方法に係り、特に高圧の水素ガスの充填に好適に使用される高圧ガス容器及び高圧ガス容器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスによる環境問題に端を発し、自動車用エンジンの開発は重要な技術開発テーマになり、在来エンジンの改良、電気自動車、燃料電池自動車の開発など様々に進められてきた。在来エンジンの改良は今なお新規な技術開発が進められており、在来エンジンの優位性はなお揺らぐものではないが、電気自動車においては既に生産、販売が始まり、燃料電池自動車は開発が積極的に進められている状況である。
【0003】
このような中で、電気自動車は走行距離が短く特殊用途に限られるという問題があるが、燃料電池自動車は、電気自動車と異なり実用走行距離が確保できることに注目されている。また、燃料電池自動車の開発は、最近、開発が急がれている太陽光、太陽熱、水力、風力等の再生可能エネルギー、あるいは再生可能資源に由来するバイオ燃料と水素エネルギー等の利用技術の開発要請にも適うものである。
【0004】
燃料電池自動車の実用走行距離を確保するために、燃料を充填する高圧容器の開発、例えば、35MPaの高圧水素を充填することができる高圧容器が求められている。この要請に対し、例えば、特許文献1に、内部に高圧水素が充填される樹脂製の容器本体を有し、前記容器本体は、繊維強化材料によって補強し、前記容器本体の内面には、水素非透過性の高い材料で構成した水素バリア層を積層し、前記水素バリア層は、水素添加ニトリルゴム又はナイロンを用いて形成されている高圧水素タンクが提案されている。
【0005】
特許文献2に、補強層の内側に樹脂ライナを有するガスタンクであって、前記樹脂ライナには、酸化層が形成されているガスタンクが提案されている。このガスタンクにおいて、樹脂ライナはポリアミド系樹脂により形成されていてもよく、酸化層は前記樹脂ライナを酸化することにより形成されていてもよいとされる。そして、酸化層の厚さは50〜100μmに形成されていてもよいとされる。
【0006】
また、特許文献3に、口金部と、ライナと、該ライナに設けられた補強層とを備え、前記ライナの外面にはガスバリア層が形成されている高圧タンクが提案されている。そして、この高圧タンクにおいて、ライナは、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはその他の硬質樹脂などにより形成され、ガスバリア層は、例えばEVOH樹脂材料、あるいは塩化ビニル等の高分子材料、高架橋度樹脂などによって形成されると特許文献3に記載されている。
【0007】
一方、燃料電池自動車を対象とするものと異なり使用圧力は低いが宇宙航空機用の燃料ガス容器として、特許文献4にシェル用積層体が提案されている。すなわち、保護層、バリア層及び圧力・強度保持層をこの順に積層したシェル用積層体であって、上記保護層は厚さが5μm〜5mmで平均厚さに対するバラツキが±20%以内であり、上記バリア層は平均厚さに対するバラツキが±20%以内である熱可塑性プラスチックより成り、上記圧力・強度保持層は樹脂を含浸させた補強繊維糸を該バリア層上に編成して成るシェル用積層体が提案されている。このシェル用積層体は、保護層として伸縮性のある熱可塑性プラスチック等が望ましく、バリア層として液晶ポリマー等の熱可塑性プラスチックが好ましいとされる。また、シェル用積層体は、2MPaの酸素ガスを充填してもガス漏れが検知されなかったとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-188794号公報
【特許文献2】特開2010-19315号公報
【特許文献3】特開2010-71444号公報
【特許文献4】特開2005-9559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
燃料電池自動車用の高圧容器の開発の経過を見ると、先ず金属ライナに炭素繊維を積層して強化した高圧容器が開発された。しかしながら、自動車においては重量軽減の要請は強く、さらに重量軽減を図るために樹脂ライナに炭素繊維を積層した高圧容器が開発された。そして、樹脂ライナ製の高圧容器の水素ガスの漏洩をどのように防止するかが重要な課題となっており、上記のように各種の試みがなされている。
【0010】
ところで、特許文献1〜3に提案された高圧水素タンク等から明らかなように、従来の高圧水素ガス充填用の高圧容器は、高圧に耐えるように炭素繊維を積層して容器の強度を確保することが前提になっている。すなわち、炭素繊維を積層するためのライナが必須とされ、炭素繊維の積層は一般にはフィラメントワインディングにより行われるので、ライナは強度及び耐熱性が高く、水素透過性が低い(ガバリア性に優れた)材質の樹脂が採用される。このため、特許文献1〜3に提案された高圧水素タンク等は、その重量を軽減するには一定の限度があり、さらに重量の軽減を図ることは容易でないという問題がある。
【0011】
また、ライナを形成する樹脂をもって、ライナとしての機能とガスバリア機能を兼ねさせるには性能的に限界があるという問題がある。ライナを形成する樹脂とガスバリアを形成する樹脂の種類、それらの形態的な構成等々解決すべき課題も多い。
【0012】
一方、特許文献4に提案されたシェル用積層体のようにライナのない炭素繊維を積層した容器は、重量軽減を図るには好ましいが、耐圧性に問題がある。また、特許文献4に提案されたシェル用積層体は、アルミのマンドレルを使用して保護層、バリア層及び圧力・強度保持層をこの順に積層した後、アルミマンドレルを除去してシェル用積層体を作製しているが、このような方法は、燃料電池自動車用の高圧容器のような形状のものを作製することは困難である。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点及び重量軽減の要請に鑑み、35MPa以上の高圧水素ガスの充填に好適で軽量、かつ水素ガスの漏洩の少ない高圧ガス容器を提供することを目的とする。また、ライナがなく軽量で35MPa以上の高圧水素ガスの充填に好適で高圧ガス容器を経済的・効率的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る高圧ガス容器は、容器本体と、その端部に設けられガス機器が接続される口金とを有する高圧ガス容器であって、前記容器本体は、繊維強化殻と、その内面を被う樹脂皮膜とを有し、前記樹脂皮膜は、ゴム弾性樹脂部材膜にガスバリア部材膜が挟み込まれてなるものである。
【0015】
上記発明において、ゴム弾性樹脂部材膜は、エポキシ樹脂、変性シリコーン樹脂又はエポキシ・変性シリコーン樹脂からなるものとすることができる。
【0016】
また、ガスバリア部材膜は、ビニルアルコール系樹脂又は粘土鉱物からなるものがよい。
【0017】
本発明に係る高圧ガス容器は、樹脂皮膜の厚さが0.5〜2.0mm、繊維強化殻の厚さが3〜30mmとすることができ、水素漏洩率が1cm
3/L・h以下とすることができる。
【0018】
本発明に係る高圧ガス容器の製造方法は、上記の高圧ガス容器を製造する方法であって、高圧ガス容器の内部を形成する大きさの発泡スチロール製のマンドレルの外面全体に離型膜を形成する段階と、前記離型膜の上面に第1のゴム弾性樹脂部材膜を形成する段階と、前記第1のゴム弾性樹脂部材膜の上面にガスバリア部材膜を形成する段階と、前記ガスバリア部材膜の上面に第2のゴム弾性樹脂部材膜を形成する段階と、前記第2のゴム弾性樹脂部材膜が形成されたマンドレルの端部に口金を貼付する段階と、前記第2のゴム弾性樹脂部材膜の上面及び口金の肩部に繊維強化殻を形成する段階と、前記発泡スチロール製のマンドレル及び前記離型膜を溶解除去する段階と、により実施される。
【0019】
上記高圧ガス容器の製造方法において、ゴム弾性樹脂部材膜は、離型膜を形成させたマンドレルの上面にゴム弾性を示す樹脂からなる液状樹脂又はコーティング液を塗布した後、そのマンドレルを回転しつつ硬化又は乾燥させて形成することができる。
【0020】
また、液状樹脂又はコーティング液の粘度は、0.2〜1.3Pa・sであるのがよく、マンドレルの発泡スチロール部分に負荷される作業中の熱負荷は80℃以下であるのがよい。
【0021】
また、口金は、第2のゴム弾性樹脂部材膜が形成されたマンドレルに貼付される底面部と肩部がゴム弾性樹脂部材膜で被われると共に、そのゴム弾性樹脂部材膜が第2のゴム弾性樹脂部材膜と一体になるようにマンドレルの端部に貼付するのがよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る高圧ガス容器は、35MPa以上の高圧水素ガスの充填に好適に使用され、軽量でかつ水素ガスの漏洩が少ない。また、本発明に係る高圧ガス容器の製造方法は、ライナがなく軽量で35MPa以上の高圧水素ガスの充填に好適な高圧ガス容器を経済的・効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】ゴム弾性樹脂部材の引張り試験結果を示すグラフである。
【
図3】高密度ポリエチレン樹脂の引張り試験結果を示すグラフである。
【
図4】高圧ガス容器の耐圧性とゴム弾性樹脂部材の弾性限度伸びとの関係を示すグラフである。
【
図5】本発明に係る高圧ガス容器の製造方法を示す説明図である。
【
図6】塗膜中のボイド数と液状樹脂の粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。本発明に係る高圧ガス容器の構成を
図1に示す。
図1に示すように、本高圧ガス容器10は、容器本体11と、その端部に設けられガス機器が接続される口金20とを有し、容器本体11は繊維強化殻12と、その内面を被う樹脂皮膜15とからなる。すなわち、本高圧ガス容器10においてはいわゆるライナがないことに特徴を有する。また、樹脂皮膜15は、ゴム弾性樹脂部材膜16、18にガスバリア部材膜17が挟み込まれた構成になっていることに特徴を有する。
【0025】
繊維強化殻12は、エポキシ樹脂をマトリックスとする炭素繊維強化樹脂から形成することができる。また、繊維強化殻12は、フィラメントワインディング法により形成することができる。このような炭素繊維強化樹脂からなる繊維強化殻12は、35MPa以上の高圧水素を充填することができる高圧ガス容器に好適に使用することができる。
【0026】
繊維強化殻12を構成するマトリック樹脂は、エポキシ樹脂に限定されるものではない。例えば、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などをマトリックス樹脂として使用することもできる。また、繊維強化殻12を構成する強化繊維は、炭素繊維に限定されるものではない。例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、ホウ素繊維、セルロースなどの天然繊維などを強化繊維として使用することもできる。
【0027】
繊維強化殻12は、その厚さを3〜30mmとすることができる。繊維強化殻12の厚さは、高圧ガス容器の耐圧性能によって決めればよい。例えば、高圧ガス容器の耐圧性能が35MPaのものに対しては、繊維強化殻12の厚さを6〜8mmとすることができる。また、高圧ガス容器の耐圧性能が70MPaのものに対しては、繊維強化殻12の厚さを12〜15mmとすることができる。
【0028】
樹脂皮膜15は、上述のように、ガスバリア部材膜17がゴム弾性樹脂部材膜16、18に挟み込まれた構成を有している。すなわち、ガスバリア部材膜17が第1のゴム弾性樹脂部材膜16と第2のゴム弾性樹脂部材膜18にサンドイッチにされた構成になっている。ゴム弾性樹脂部材膜16と、ゴム弾性樹脂部材膜18は、同一材質であるのがよい。これにより、均質性の高いゴム弾性樹脂部材膜を経済的・効率的に形成することができる。樹脂皮膜15の厚さは、0.5〜2.5mmとすることができ、好ましくは、1.5〜2.0mmである。
【0029】
ゴム弾性樹脂部材とは、ゴム弾性を示す樹脂部材を意味する。例えば、
図2に示す弾性限度伸びが100%を越えるゴム弾性樹脂部材は、本発明の高圧ガス容器に好適に使用することができる。
図2は、変性シリコーン樹脂からなる試験片の引張り試験結果を示すグラフであり、横軸は変位、縦軸は引張力を示す。図中の数字は試験片番号を示す。引張り試験速度は、200mm/min、試験温度は23℃であった。
図2に示すように、この変性シリコーン樹脂からなる試験片の場合は、引張力と変位が直線状に変化しており、弾性変形をしていることが分かる。また、
図2中の表に示すように、この弾性変形を示す範囲の伸びは120〜148%である。すなわち、この変性シリコーン樹脂は、ゴム弾性樹脂であり、大きな弾性限度伸びを有している。なお、この変性シリコーン樹脂は、ほとんど塑性変形を示さないで破断していることが分かる。
【0030】
ゴム弾性樹脂部材は、変性シリコーン樹脂に限定されない。例えば、エポキシ樹脂、エポキシ・変性シリコーン樹脂等を使用することができる。弾性限度伸びが大きなものが好ましい。また、高圧ガス容器は、圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準(JARI S001)等の所定の性能試験を満たさなければならず、高圧ガス容器の耐圧試験は水圧をかけて行われるので、耐水性に優れるものがよい。
【0031】
図3は、引張り試験において、大きな伸びを示すが、引張力と変位が直線状に変化する部分が少ない高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂からなる試験片の引張り試験結果を示すグラフである。このような樹脂は、本発明でいうゴム弾性を示す樹脂部材(ゴム弾性樹脂部材)に相当しない。このHDPE樹脂は、
図3に示すように、弾性限度伸びは数%以下である。しかしながら、HDPE樹脂は、試験温度が-40℃〜80℃の範囲において破断伸びが100%を越えている。なお、
図3に示す試験は、
図2に示す試験と同様の方法で行った。
【0032】
図4は、高圧ガス容器のゴム弾性樹脂部材相当部分の材質が各種異なる高圧ガス容器の耐圧試験の結果を示す。
図4において、横軸はゴム弾性樹脂部材相当部の材質の弾性限度伸びを示し、縦軸は高圧ガス容器の耐圧力を示す。ゴム弾性樹脂部材相当部の材質において、弾性限度伸びが5%の高圧ガス容器は15MPaで破損しており、弾性限度伸びが10%のものは40MPaで破損している。しかしながら、ゴム弾性樹脂部材相当部の材質の弾性限度伸びが120%の高圧ガス容器は、90MPa以上の耐圧性を有していることが分かる。本発明の高圧ガス容器は、35MPa以上の高圧水素ガス容器を対象としており、上記のような弾性限度伸びが10%以下の材質のものは本発明にいうゴム弾性樹脂部材に相当しない。
図4から、高圧水素ガス容器の耐久性等を考慮して判断すると、ゴム弾性樹脂部材は20%〜30%以上の弾性限度伸びを示すものが好ましい。なお、
図4に示す耐圧試験は、技術基準JARI S001に準じた方法で行った。
【0033】
ゴム弾性樹脂部材膜16、18は、その厚さを02.〜1.3mmとすることができる。また、ゴム弾性樹脂部材膜16、18は、以下に説明する様に、ゴム弾性樹脂部材からなる液状樹脂をはけ又はスプレーなどにより塗布することによって形成することができる。なお、はけ塗り又はスプレー塗布するゴム弾性樹脂部材は、溶剤にゴム弾性樹脂部材が溶解したいわゆるコーティング液であってもよい。
【0034】
ガスバリア部材は、水素ガスに対するバリア性の高いビニルアルコール系樹脂又は粘土鉱物からなるものを使用することができる。ガスバリア部材は、水素透過量が表1に示すようなビニルアルコール系樹脂又は粘土鉱物を使用することができる。粘土鉱物とは、特開2005-104133号公報に示す自立粘度薄膜が例示される。なお、水素透過量の測定は、技術基準JARI S001に準じて行った。試験片に負荷する差圧はゲージ圧で0.9Mpa、測定温度は40℃、60℃であった。
【0036】
ガスバリア部材膜17は、ゴム弾性樹脂部材膜16の上面にガスバリア部材からなるフィルム又はテープを巻き付け、または、フレーク状のものを撒きかけて形成することができる。ガスバリア部材がビニルアルコール系樹脂である場合において、ガスバリア部材膜17の厚さは、30μm以上、好ましくは200μm以上であるのがよい。ガスバリア部材が粘土鉱物である場合において、ガスバリア部材膜17の厚さは、10μm以上、好ましくは15μm以上であるのがよい。ガスバリア部材膜の厚さの上限は特に限定されないが、例えば、ガスバリア部材膜の厚さは、ガスバリア部材がビニルアルコール系樹脂である場合に約1.5mm、ガスバリア部材が粘土鉱物である場合に約40μmとすることができる。
【0037】
口金20は、ガス機器が接続されるものであり金属製のものがよく、公知のアルミニウム合金からなるものを使用することができる。口金20は、
図1に示すように、スカート状に広がる部分を有する形状のものがよく、また、口金20の底面部と肩部がゴム弾性樹脂部材膜18と一体に密着・固定しているのがよい。
【0038】
以上、本発明に係る高圧ガス容器10について説明した。本高圧ガス容器10の容器本体11は、上述のように、厚さが3〜30mmの繊維強化殻12と、その内面を被う厚さが0.5〜2.5mmの樹脂皮膜15とからなり、軽量でかつ単純な構成になっている。また、樹脂皮膜15は、ガスバリア部材膜がゴム弾性樹脂部材膜に挟み込まれたサンドイッチ構造になっているので、強度、耐圧性に優れ、水素ガス透過量の少ない高圧ガス容器を構成することができる。本発明に係る高圧ガス容器は、水素漏洩率が1cm
3/L・h以下にすることができ、自動車用35MPaの水素ガス充填用の高圧ガス容器に好適に使用することができる。このような高圧ガス容器は、以下の様に経済的かつ効率的に製造することができる。
【0039】
本発明に係る高圧ガス容器の製造方法は、発泡スチロール製のマンドレルを用いて高圧ガス容器形状を形成し、その後発泡スチロール製のマンドレルを溶解除去することによって高圧ガス容器を製造する。すなわち、先ず、高圧ガス容器の内部を形成する大きさの発泡スチロール製のマンドレルを用意し、そのマンドレルの外面全体に離型膜を形成する。この場合、
図5(a)に示すように、マンドレル1にシャフト5を通し、マンドレル1を回転させることができるようになっているのがよい。離型膜8は、水溶性の樹脂をはけ塗り又は吹き付け、乾燥させて形成する。水溶性であるとその取扱い又は溶解除去が容易で好ましい。また、離型膜8は、発泡スチロール表面の凹凸を滑らかにすることができるものが樹脂皮膜15の表面を平滑にすることができるので好ましい。離型膜8の厚さは、0.1〜0.2mmとすることができる。
【0040】
次に、離型膜8の上面に第1のゴム弾性樹脂部材膜16を形成する(
図5(b))。第1のゴム弾性樹脂部材膜16は、ゴム弾性を示す樹脂からなる液状樹脂又はコーティング液を塗布し、そして、液状樹脂を硬化させ、または、コーティング液を乾燥させることによって形成することができる。液状樹脂の硬化又はコーティング液の乾燥は、マンドレル1を回転しつつ行うのがよい。
【0041】
液状樹脂又はコーティング液の塗布は、その粘度を0.2〜1.3Pa.sにするのがよい。
図6は、辺長が100mmの四辺形塗膜を作製した場合の、塗膜中に存在するボイド(気泡)の数とその作製に使用した液状樹脂の粘度との関係を示すグラフである。液状樹脂は変性ポリシリコーン樹脂からなるものであった。塗膜厚さは0.5mm、塗膜を貫通したボイドはなかった。なお、液状樹脂の塗布は室温において行い、3回塗りを行った。一般に塗り回数が多いほどボイドの数は少なくなる傾向があった。
【0042】
図6において、横軸は液状樹脂の粘度を示し、縦軸はボイドの数を示す。
図6に示すように、ボイド数は、液状樹脂の粘度依存性が高く、粘度が低くなるほど急激に減少している。液状樹脂の粘度が1.3Pa・s以下になるとボイドの数が0になっていることが分かる。液状樹脂の粘度が0.2Pa・s未満になると、作業性が悪くなり好ましくない。すなわち、液状樹脂又はコーティング液は、その濃度が0.2〜1.3Pa・sであるのが、塗膜性能及び取扱性が優れる。
【0043】
次に、
図5(b)に示すように、第1のゴム弾性樹脂部材膜16の上面にガスバリア部材膜17を形成する。ガスバリア部材膜17は、ガスバリア部材からなるフィルム又はテープを巻き付け、または、フレーク状のものを撒きかけて形成する。従って、ガスバリア部材膜17を形成するときに、ガスバリア部材を第1のゴム弾性樹脂部材膜16に粘着させるようにするのがよい。ガスバリア部材膜17が形成された後、そのガスバリア部材膜17の上面に第2のゴム弾性樹脂部材膜18を形成する(
図5(b))。以上の工程により、樹脂皮膜15が形成される。なお、第2のゴム弾性樹脂部材膜18は第1のゴム弾性樹脂部材膜16と同様の方法で形成することができる。
【0044】
次に、第2のゴム弾性樹脂部材膜18が形成されたマンドレル1の端部に口金20を貼付する(
図5(c))。口金20は、本例のようにマンドレルの両端部に設ける場合、あるいは何れか一方の端部に設ける場合がある。口金20は、
図1に示すように、その底面部と肩部がゴム弾性樹脂部材膜で被われているのがよく、ゴム弾性樹脂部材膜18の肩部18a及び底面部18b部分がゴム弾性樹脂部材膜18として一体になるように形成するのがよい。このため、
図5(c)に示すように、マンドレル1の端部に底面部18b部分が形成されるようにゴム弾性樹脂部材を塗布し、その部分が粘着性を有する間に口金20をマンドレル1の端部に貼付するとともに、ゴム弾性樹脂部材を口金20の肩部に塗布して肩部18a部分を形成することにより肩部18a及び底面部18bがゴム弾性樹脂部材膜18として一体になるように形成することができる。なお、口金20に予め肩部18a及び底面部18b部分を形成したものをマンドレルの端部に貼付する方法であってもよい。このように、口金20の底面部及び肩部がゴム弾性樹脂部材膜18と一体に固着された状態にすることによって、口金20部分からのガス漏れを防止することができる。
【0045】
次に、
図5(d)に示すように、第2のゴム弾性樹脂部材膜18の上面及び口金20の肩部に繊維強化殻12を形成する。繊維強化殻12は、公知のフィラメントワインディング法により形成することができる。このフィラメントワインディングにおいて、マンドレル1の熱変形を防止するため、発泡スチロール部分に負荷される作業中の熱負荷は80℃以下にするのがよい。
【0046】
最期に、シャフト5をマンドレル1から抜き取り、口金20の口部から溶解剤を投入し、マンドレル1の発泡スチロール部分及び離型膜8を溶解除去する。本発明は、マンドレル1を溶解除去するので、高圧ガス容器の形状的な制限はなく、目的に応じた所要の形状の高圧ガス容器を製造することができる。また、本発明によれば、高圧ガス容器10を経済的かつ効率的に製造することができる。
【実施例1】
【0047】
図1に示す形状の35Mpa用の高圧ガス容器製造試験を行った。高圧ガス容器の容量は、4.7Lであった。繊維強化殻は、マトリックスがエポキシ樹脂の炭素繊維強化樹脂からなり、フィラメントワインディング法により形成した。繊維強化殻の厚さは約5mmであった。樹脂皮膜は、変性ポリシリコーン樹脂からなるゴム弾性樹脂部材膜にビニルアルコール系樹脂又は粘土鉱物からなるガスバリア部材膜がサンドイッチにされており、厚さが1.3〜2.0mmであった。ビニルアルコール系樹脂からなるガスバリア部材膜は、厚さが30μm、粘土鉱物からなるガスバリア部材膜は、厚さが15〜40μmであった。製造した高圧ガス容器について耐水圧試験を行った結果、80MPaにおいて漏れはなかった。なお、試験は、技術基準JARI S001に準じて行った。
【符号の説明】
【0048】
1 マンドレル
5 シャフト
8 離型膜
10 高圧ガス容器
11 容器本体
12 繊維強化殻
15 樹脂皮膜
16 ゴム弾性樹脂部材膜(第1のゴム弾性樹脂部材膜)
17 ガスバリア部材膜
18 ゴム弾性樹脂部材膜(第2のゴム弾性樹脂部材膜)
20 口金