【実施例】
【0052】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されない。
【0053】
[実施例1]
本例では、環境耐性促進剤による耐乾燥性の促進を、イネの収量により評価した。
【0054】
(1)収量による評価
前記環境耐性促進剤として、石炭灰(フライアッシュ:JIS IV種灰)を使用した。前記石炭灰は、四国電力株式会社 橘湾発電所(石炭火力発電所)から入手した。前記石炭灰について、溶出成分組成を下記表1に示す。前記溶出成分組成は、前記石炭灰を5倍体積量の純水を添加し、前記混合液を室温で24時間振とうして溶出処理を行い、その液体画分について分析した結果である。下記表1は、前記石炭灰1kgあたりの重量(mg)を示す(以下、同様)。
【0055】
【表1】
【0056】
前記石炭灰を、培土(商品名くみあい粒状培土SD、カサネン工業社製、窒素0.9g/5L、リン酸3.1g/5L、カリウム0.9g/5L)に添加した。前記石炭灰の添加割合は、体積割合1v/v%および3v/v%とした。そして、1/5000aワグネルポットに、これらの培土を入れ、実施例区1%および実施例区3%とした。また、前記石炭灰を添加していない培土を入れ、対照区とした。前記実施例区および前記対照区について、土壌の乾燥状態を、以下の3つの処理区に分割した。
湿潤区(湛水:水ポテンシャル 0kPa以上)
弱乾燥区(水ポテンシャル −5〜−20kPa)
強乾燥区(水ポテンシャル −20kPa以下)
【0057】
そして、雨水等の混入を防ぐために、ビニールハウス内で、イネ「コシヒカリ」の栽培を行った。具体的には、平成20年6月11日、前記各処理区に、コシヒカリの苗を1ポットあたり5株定植した。1つの処理区あたりの反復数は、10株とした。そして、同年9月30日に、全株を刈り取って、収量を確認した。
【0058】
これらの結果を
図1に示す。
図1は、各処理区における1株あたりの収量(g)を示すグラフである。
図1において、縦軸は、1株あたりの収量(g)を示し、各処理区において、左のバーが、前記石炭灰混合率0%の対照区、真ん中のバーが、前記石炭灰混合率1%の実施例区1%、右のバーが、前記石炭灰混合率3%の実施例区3%の結果である。
【0059】
図1に示すように、湿潤区の場合、前記実施例区および前記対照区のいずれにおいても同等の収量が得られた。しかしながら、前記弱乾燥区および前記強乾燥区については、前記対照区と比較して、前記実施例区が有意に高い収量を示した。特に、より厳しい乾燥条件である強乾燥区においては、前記対照区と比較して、前記実施例区が著しい収量の増加を示し、前記培土における前記石炭灰の含有量の増加により、高い収量を達成できた。これらの結果から、前記石炭灰は、乾燥が生育に与える影響を抑制できる、つまり、耐乾燥性を促進できることがわかった。
【0060】
(2)蒸散量および含水率による評価
蒸散量測定装置(商品名スーパーポロメーターLI−1600、Li−cor社製)を用いて、前記弱乾燥区から収穫したイネについて、葉の蒸散量を測定した。また、採取した葉身を70℃で24時間風乾して、乾燥前後の重量を測定し、含水率を算出した。これらの結果を、
図2および
図3に示す。
図2は、蒸散量を示すグラフであり、縦軸は、蒸散量を示す。
図3は、葉身中の含水率を示すグラフであり、縦軸は、含水率を示す。
図2および
図3において、0%のバーは、前記対照区、1%のバーは、前記実施例区1%、3%のバーは、前記実施例区3%の結果を、それぞれ示す。
図3において、aとbとの間で、Tukey検定により5%水準の有意差を示した。
【0061】
図2および
図3に示すように、その結果、前記実施例区のイネは、前記対照区のイネと比較して、前記葉からの蒸散量が低下し、前記葉身の含水率が有意に上昇していることがわかった。この結果から、前記石炭灰を混合した培土を使用した場合、蒸散量の抑制により水分が保持された結果、耐乾燥性が向上されたと考えられる。なお、このメカニズムの推定によって、本発明は制限されるものではない。
【0062】
[実施例2]
本例では、環境耐性促進剤による耐寒冷性の促進を、新葉の発生率により評価した。
【0063】
前記石炭灰の添加割合を、体積割合1v/v%および5v/v%とした以外は、前記実施例1と同様にして、培土を準備した。そして、黒色ポリポット(直径12cm)に、これらの培土を入れ、実施例区1%および実施例区5%とした。また、前記石炭灰を添加していない培土を前記ポットに入れ、対照区とした。
【0064】
20℃で展開葉2枚まで育苗したイネ「コシヒカリ」および「ヒノヒカリ」の苗を、前記各ポットに定植し、平均気温が10℃以下の栽培ハウスで2週間育成した。前記育成後、前記イネの新葉(第4葉)の発生率を確認した。前記発生率は、2週目の全苗数に対する第4葉の出現苗数の百分率として算出した。各実施例区および対照区の反復数は、10個体とした。
【0065】
これらの結果を
図4に示す。
図4は、前記各実施例区および対照区における前記イネの新葉(第4葉)の発生率を示すグラフである。
図4において、縦軸は、前記イネの新葉(第4葉)の発生率(%)を示し、0%は、前記対照区、1%は、前記実施例区1%、5%は、前記実施例区5%の結果であり、前記各実施例区および対照区において、左のバーが、「コシヒカリ」、右のバーが、「ヒノヒカリ」の結果である。
【0066】
図4に示すように、「コシヒカリ」について、前記対照区では、第4葉発生率が74%であった。これに対し、前記実施例区1%および前記実施例区5%では、全ての個体において、第4葉の発生が確認された(第4葉発生率100%)。また、「ヒノヒカリ」について、前記対照区では、第4葉発生率が66%であった。これに対し、前記実施例区1%では第4葉発生率が82%、前記実施例区5%では第4葉発生率が100%であった。イネは高温性の作物であるため、10℃以下の低温では細胞分裂が抑制され、新葉の発生が遅延する。しかしながら、これらの結果に示すように、前記石炭灰を使用することによって、低温下でも新葉の発生が促進されたことから、寒冷が生育に与える影響を抑制できる、つまり、耐寒冷性を促進できることがわかった。
【0067】
[実施例3]
本例では、環境耐性促進剤による耐暑性の促進を、被害率および最大葉長により評価した。
【0068】
前記実施例1と同じ石炭灰に、5倍体積量の純水を添加し、この混合液を、室温で24時間振とうし、前記石炭灰の成分を前記純水に溶出させた。前記混合液をろ過し、液体画分を溶出液として回収した。
【0069】
他方、以下の方法により、肥料養液を調製した。まず、下記表2に示す原液A〜D液を調製し、前記各原液1mLを混合し、全量1Lとなるように純水で希釈し、HClによって、pH5.5〜6.5に調製した。これを、石炭灰未添加の肥料養液(0%)とした。また、前記各原液1mLに前記石炭灰溶出液を150mL混合し、同様の手順で希釈およびpH調整した。これを、石炭灰添加の肥料養液(3%)とした。すなわち、後者の肥料養液(3%)は、前記肥料養液全体の体積に対して、前記石炭灰の溶出液を、石炭灰そのものに換算して3%混合したことになる。
【0070】
【表2】
【0071】
プラスチックトレイに、細めのバーミキュライト(商品名バーミキュライトS、旭工業社製)を充填し、発芽処理したイネ「コシヒカリ」の種子を播種した。そして、前記プラスチックトレイに、前記溶出液を添加した肥料養液(3%)を添加し、実施例区とした。また、前記溶出液を添加していない肥料養液(0%)を添加し、対照区とした。
【0072】
前記播種から10日目、前記実施例区および前記対照区の苗を、25℃のグロースチャンバーに搬入した。そして、前記グロースチャンバー内の温度を上昇させながら、前記イネの苗を育成した。前記温度は、2日毎に2℃ずつ上昇させ、25℃から40℃まで上昇させた。イネは、極度の高温条件に曝されると、高温障害によって、葉の先端から白化もしくは褐変した被害部分が伸長する。そこで、前記育成後に、前記イネの葉の全長を100%として、被害部分の長さ(被害葉長)が占める割合を、被害率(%)として求めた。また、前記育成の指標として、前記イネの最大葉長を測定した。前記実施例区および前記対照区の反復数は、20個体とした。
【0073】
これらの結果を
図5および
図6に示す。
図5は、被害率(%)を示すグラフである。
図6は、最大葉長(mm)を示すグラフである。
図5において、縦軸は、被害率を示し、
図6において、縦軸は、最大葉長を示す。
図5および
図6において、0%は、前記対照区、3%は、前記実施例区3%の結果を、それぞれ示す。
図5および
図6において、aとbとの間で、Tukey検定により5%水準の有意差を示した。
【0074】
図5および
図6に示すように、前記実施例区のイネは、前記対照区のイネと比較して、被害率が有意に低下するとともに、最大葉長が有意に増加していることがわかった。これらの結果から、前記石炭灰は、高温が生育に与える影響を抑制できる、つまり、耐暑性を促進できることがわかった。
【0075】
[実施例4]
本例では、環境耐性促進剤による耐乾燥性および耐寒冷性の促進を、含水率および健全株率により評価した。
【0076】
(1)耐乾燥性の向上
前記実施例3の前記石炭灰未添加の肥料養液(0%)に、体積比が3v/v%となるように、後述する実施例5の石炭灰(D)の溶出液を添加し、培養液(3%)を調製した。前記溶出液は、以下のように、調製した。まず、前記石炭灰に、5倍体積量の純水を添加し、この混合液を、室温で24時間放置し、前記石炭灰の成分を前記純水に溶出させた。そして、前記混合液をろ過し、得られた液体画分を溶出液とした。また、ネガティブコントロールとして、前記溶出液を添加していない前記肥料養液(0%)を使用した。
【0077】
イネ「コシヒカリ」の苗を、25℃のグロースチャンバー内で、10日間、前記培養液(3%)および培養液(0%)を使用して水耕栽培した。そして、16個体について、前記実施例1と同様にして含水率を測定した。そして、ネガティブコントロールの結果を「1」として、前記培養液(3%)を使用した処理区の結果の相対値を求めた。
【0078】
この結果を、
図7(A)に示す。
図7(A)は、含水率(相対値)を示すグラフであり、
図7(A)において、縦軸は、含水率の相対値を示した結果である。
【0079】
図7(A)に示すように、前記培養液(3%)を使用することによって、ネガティブコントロールよりも、優れた含水率を示した。この結果から、環境耐性能の促進に、石炭灰が有効であることがわかった。
【0080】
(2)耐寒冷性の向上
前記(1)により前記培養液(3%)を用いて水耕栽培されたイネを、5℃の低温庫に搬入し、さらに2週間放置した。放置後のイネについて、全株のうち、低温によって白化しなかった株の百分率を、健全株率として算出した。そして、ネガティブコントロールの結果を「1」として、前記培養液(3%)を使用した処理区の結果の相対値を求めた。
【0081】
この結果を、
図7(B)に示す。
図7(B)は、健全株率(相対値)を示すグラフであり、
図7(B)において、縦軸は、健全株率の相対値を示した結果である。
【0082】
図7(B)に示すように、前記培養液(3%)を使用することによって、ネガティブコントロールよりも優れた健全株率を示した。この結果から、環境耐性能の促進に、石炭灰が有効であることがわかった。
【0083】
[実施例5]
本例では、育苗時に環境耐性促進剤を使用し、定植後における耐寒冷性の促進を評価した。
【0084】
前記石炭灰の添加割合を、体積割合6v/v%および10v/v%とした以外は、前記実施例1と同様にして、培土を準備した。そして、イネ育苗用トレイに、これらの培土を充填し、実施例区6%および実施例区10%とした。また、前記石炭灰を添加していない培土を前記トレイに充填し、対照区とした。
【0085】
発芽処理したイネ「コシヒカリ」の種子を、前記トレイに播種し、25℃条件で1ヶ月育苗した。前記育苗後、15℃の低温温室において、培土を充填した1/5000aワグネルポットに、前記育苗後のイネを定植した。前記培地は、前記石炭灰を添加していない、培土(商品名くみあい粒状培土SD、カサネン工業社製)を使用した。前記定植後、15℃で8週間育成し、地上部および地下部の重量(新鮮重)を確認した。各実施例区および対照区の反復数は、10個体とした。前記新鮮重は、採取したそのままの重量を意味する。
【0086】
これらの結果を
図8に示す。
図8は、各実施例区および対照区における地上部の重量および地下部の重量を示すグラフである。
図8において、縦軸は、地上部および地下部の新鮮重(g/株)を示し、0%は前記対照区、6%は前記実施例区6%、10%は前記実施例区10%の結果であり、各実施例区および対照区において、左のバーが、地上部、右のバーが、地下部の結果である。
図8において、aとb、a’とb’の間で、Tukey検定により5%水準の有意差を示した。
【0087】
図8に示すように、前記実施例区6%および前記実施例区10%で育苗したイネは、定植後、前記石炭灰非存在下であっても、低温下での著しい生長が確認された。特に、前記実施例区10%は、前記対照区と比較して、地上部重が約2倍、地下部重が約3倍の生長量となった。これらの結果から、育苗時に前記石炭灰を施用することによって、定植後のイネについても、耐寒冷性を促進できることがわかった。
【0088】
[実施例6]
本例では、環境耐性促進剤における有効成分を特定した。
【0089】
(1)石炭灰における有効成分の特定
前記環境耐性促進剤として、4種類の石炭灰A〜D(フライアッシュ:JIS IV種灰)を使用した。前記石炭灰は、四国電力株式会社 橘湾発電所(石炭火力発電所)および西条発電所(石炭火力発電所)から入手した。前記石炭灰A〜Dについて、溶出成分組成を下記表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
前記石炭灰を、前記実施例1の培土(商品名くみあい粒状培土SD、カサネン工業社製)に、体積割合が3v/v%となるように添加した。この培土を使用し、イネ「コシヒカリ」を5℃で育成した以外は、前記実施例2と同様にしてイネを育成した。前記育成後、前記イネの根長を測定した。
【0092】
これらの結果を
図9に示す。
図9は、前記石炭灰の溶出成分と前記イネの根長との関係を示すグラフである。
図9において、縦軸は、前記イネの根長(cm)を示し、横軸は、前記石炭灰の溶出成分量(ppm=1×10
−4w/v%)を示す。
図9において、丸(●)は、ケイ素(Si)、三角(▲)はホウ素(B)を、菱形(◆)はアルミニウム(Al)を示す。
図9において、溶出成分量0ppmにおける結果は、石炭灰を添加していない前記培土の結果である。
図9に示すように、前記イネの根長に対して、前記石炭灰の溶出成分のうち、アルミニウム、ケイ素およびホウ素の3成分の間に、重相関関係があることが分かった。このときの重相関式は、Y=(3.031×Si濃度)+(1.87×B濃度)+(2.33×Al濃度)+7.23であり、決定係数は、r
2=0.34であり、決定係数の信頼度は、99%であった。
【0093】
(2)前記3成分による耐乾燥性の向上
上記(1)の結果に基づき、前記3成分による環境耐性促進効果を含水率により評価した。
【0094】
まず、前記実施例3の前記石炭灰未添加の肥料養液(0%)に、ケイ酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、ホウ酸を、それぞれ、ケイ素元素、アルミニウム元素、ホウ素元素として、各1ppm(1×10
−4w/v%)となるように混合し、培養液を調製した。前記培養液における前記各元素の組成を下記表4に示す。下記表4において、アルミニウム、ケイ素、ホウ素の濃度は、ppm(10
−4w/v%)である。前記各元素の濃度1ppm(1×10
−4w/v%)は、前述した石炭灰Dを、体積比が約6v/v%となるように前記肥料養液に添加した場合の元素濃度に対応する。また、ネガティブコントロールとして、ケイ酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、ホウ酸を添加していない前記肥料養液を使用した。
【0095】
【表4】
【0096】
イネ「コシヒカリ」の苗を、前記実施例4(1)と同様の条件下で、前記各種培養液および前記肥料養液(0%)を使用して水耕栽培した。そして、各培養液を使用した処理区において、16個体について、前記実施例1と同様にして含水率を測定した。そして、ネガティブコントロールの結果を「1」として、各培養液を使用した処理区の結果の相対値を求めた。
【0097】
これらの結果を、
図10に示す。
図10は、含水率(相対値)を示すグラフであり、
図10において、縦軸は、含水率の相対値を示し、前記表4の各種培養液を使用した結果である。
【0098】
図10に示すように、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素を添加した培養液(Si+Al+B)を使用することによって、ネガティブコントロールよりも、優れた含水率を示した。この結果から、環境耐性能の促進効果において、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素の混合物が有効成分であることがわかった。
【0099】
(3)前記3成分による耐寒冷性の向上
前記(2)により前記培養液「Si+Al+B(各1ppm)」を用いて、前記実施例4(2)と同様条件下において、水耕栽培されたイネの健全株率を算出した。そして、ネガティブコントロールの結果を「1」として、各培養液を使用した処理区の結果の相対値を求めた。
【0100】
これらの結果を、
図11に示す。
図11は、健全株率(相対値)を示すグラフである。
図11において、縦軸は、健全株率を示し、(Si+Al+B)は、前記表4の培養液「Si+Al+B(各1ppm)」を使用した結果である。
【0101】
図11に示すように、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素を添加した培養液「Si+Al+B(各1ppm)」を使用することによって、ネガティブコントロールよりも優れた健全株率を示した。この結果から、環境耐性能の促進効果において、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素の混合物が有効成分であることがわかった。
【0102】
(4)セレンによる耐寒冷性の向上
前記実施例3の前記石炭灰未添加の肥料養液(0%)に、ケイ酸ナトリウム、硫酸アルミニウムおよびホウ酸を、それぞれケイ素元素、アルミニウム元素およびホウ素元素として、各0.5ppm(0.5×10
−4w/v%)となるように混合し、培養液「Si+Al+B」を調製した。また、前記培養液「Si+Al+B」に、さらに、セレンナトリウムを、セレン元素0.03ppm(0.03×10
−4w/v%)となるよう混合して、培養液「Si+Al+B+Se」を調製した。これらの培養液を使用した以外は、前記(2)と同様にして、25℃で10日間の水耕栽培を行い、続いて、前記(3)と同様にして、5℃で2週間放置した。放置後のイネについて、全株のうち、低温によって白化しなかった株の百分率を、健全株率として算出した。そして、セレン無添加の培養液「Si+Al+B」を使用した結果と、セレン添加の培養液「Si+Al+B+Se」を使用した結果とを比較した。
【0103】
その結果、「Si+Al+B」と「Si+Al+B+Se」との健全株率の比は、1:4となった。この結果から、セレンを併用することによって、セレン未添加の培養液よりも、さらに耐寒冷性を促進できることがわかった。
【0104】
[実施例7]
本例では、環境耐性促進剤による耐暑性の促進を、全長および被害率により評価した。
【0105】
前記実施例3と同様にして、石炭灰添加の肥料養液(3%)および石炭灰未添加の肥料養液(0%)を調製し、同一条件で、前記イネの苗を育成した。そして、前記育成後のイネについて、前記実施例3と同様にして、被害率(%)を求めた。また、前記育成の指標として、前記イネの全長(cm)を測定した。前記実施例区の反復数は、11個体とした。
【0106】
これらの結果を
図12に示す。
図12(A)は、被害率(%)を示すグラフであり、
図12(B)は、全長(cm)を示すグラフである。
図12(A)において、縦軸は、被害率を示し、
図12(B)において、縦軸は、全長を示す。
図12において、0%は、肥料養液(0%)を用いた対照区、3%は、肥料養液(3%)を用いた実施例区3%の結果をそれぞれ示す。Tukey検定により、aとbとの間で、
図12(A)は、有意水準5%、
図12(B)は、有意水準1%を示した。
【0107】
図12に示すように、前記実施例区のイネは、前記対照区のイネと比較して、被害率が有意に低下するとともに、全長が有意に増加していた。これらの結果から、前記石炭灰は、高温が生育に与える影響を抑制できる、つまり、耐暑性を促進できることがわかった。
【0108】
[実施例8]
本例では、ケイ素、ホウ素およびアルミニウムの併用による耐暑性の促進を、葉幅により評価した。
【0109】
前記実施例3の前記石炭灰未添加の肥料養液(0%)に、ケイ酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、ホウ酸および/または、セレン酸ナトリウムを添加して、ケイ素元素、アルミニウム元素、ホウ素元素および/または、セレン元素を含む培養液を調製した。前記培養液における前記各元素の組成を下記表5に示す。そして、前記各培養液を用いて、前記実施例6と同様にして、前記イネの苗を育成した。前記各培養液を使用した、それぞれの処理区において、育成後のイネ11個体について、前記実施例6と同様にして、前記育成の指標として、葉幅(cm)を測定した。
【0110】
【表5】
【0111】
これらの結果を
図13に示す。
図13は、イネの葉幅を示すグラフであり、縦軸は、前記イネの葉幅(cm)を示し、各バーは、前記表5の各培養液を使用した結果である。
【0112】
図13に示すように、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素を添加した培養液「Si+Al+B」を使用することによって、各成分単独添加よりも大きな葉幅を示した。この結果から、環境耐性能の促進効果において、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素の混合物が有効成分であることがわかった。そして、さらに、セレンを添加した培養液「Si+Al+B+Se」を使用することによって、葉幅がより大きくなった。この結果から、耐暑性能の促進は、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素だけでなく、さらに、セレンを併用することで、より向上することがわかった。
【0113】
[実施例9]
本例では、環境耐性促進剤による各種植物の耐乾燥性の促進を、含水率により評価した。
【0114】
前記実施例4(1)と同様に、前記実施例3の前記石炭灰未添加の肥料養液(石炭灰0%)に、体積比が3v/v%となるように、前記石炭灰(D)の溶出液を添加し、培養液(石炭灰3%)を調製した。また、ネガティブコントロールとして、前記溶出液を添加していない前記肥料養液(石炭灰0%)を使用した。
【0115】
そして、下記表6に示す5品目の苗を使用した以外は、前記実施例6(2)と同様にして、水耕栽培を行った。そして、前記各培養液および前記肥料養液を使用したそれぞれの処理区において、前記実施例1と同様にして含水率を測定した。そして、ネガティブコントロールの結果を「1」として、各培養液を使用した処理区の結果の相対値を求めた。
【0116】
【表6】
【0117】
これらの結果を、
図14に示す。
図14は、含水率(相対値)を示すグラフであり、
図14において、縦軸は、含水率の相対値を示す。
【0118】
図14に示すように、培養液(石炭灰3%)を添加した培養液を使用することによって、ネガティブコントロールよりも優れた含水率を示した。この結果から、環境耐性能の促進効果は、植物種にかかわらず,培養液(石炭灰3%)の添加により、向上することがわかった。
【0119】
[実施例10]
本例では、ケイ素、ホウ素およびアルミニウムの併用による各種植物の耐乾燥性の促進を、含水率により評価した。
【0120】
前記表6に示すジャガイモ、トマト、ホウレンソウおよびブロッコリーの苗を使用した以外は、前記実施例6(2)と同様にして、水耕栽培を行い、含水率を測定し、ネガティブコントロールを「1」として、各培養液を使用した処理区の結果の相対値を求めた。
【0121】
これらの結果を
図15に示す。
図15は、含水率(相対値)を示すグラフであり、
図15(A)は、ジャガイモの、
図15(B)は、トマトの、
図15(C)は、ホウレンソウの、
図15(D)は、ブロッコリーの結果である。
図15において、縦軸は、含水率の相対値を示す。
【0122】
図15(A)から(D)に示すように、いずれの植物も、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素を添加した「Si+Al+B」を使用することによって、対照区よりも高い含水率を実現し、かつ各成分単独使用よりも、環境耐性能の促進効果をもたらすことがわかった。環境耐性能の促進効果は、植物種にかかわらず、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素の併用により、向上することがわかった。