(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、追い越し等、他車両等の前方障害物を操舵によって回避する場合、ハンドルを切るタイミングは、運転者によって異なる。一方、システムが警報や自動制動を開始するタイミングは、一律である。このため例えば、比較的遅いタイミングでハンドルを切る運転者の場合、その運転者にとって通常の回避タイミングで前方障害物を回避できるにも関わらず、自動制動制御等が先に実行されることがある。この場合、その運転者は、煩わしさを感じたり、回避のための操舵や制動を行いにくく感じることがある。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、前方障害物の回避支援を、運転者にとってより的確なタイミングで行うことができる障害物回避支援装置及び障害物回避支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明の態様の一つは、自車両前方の障害物を回避するための運転操作を支援する障害物回避支援装置において、前方障害物を検出する障害物検出部と、運転者の操舵によって前記自車両が前記前方障害物を回避したと判断したときに、
前記自車両を基準とした前記前方障害物の相対移動軌跡である障害物軌跡を回避実績
として学習する回避実績学習部と、前記前方障害物が検出された際に、該前方障害物との相対距離及び相対速度に基づいて
自車位置を基準とした支援実行領域を演算し、
前記支援実行領域内に前記前方障害物が入るときを回避支援を開始する回避支援タイミング
として算出するタイミング算出部と、
前記障害物軌跡に基づいて自車位置を基準とした回避操作範囲を演算し、前記支援実行領域のうち前記回避操作範囲に重ならない領域が存在する場合に前記回避支援タイミングを遅延させるタイミング補正部と、前記回避支援タイミングに基づき、前記自車両と前記前方障害物との相対距離及び相対速度に応じた支援を実行する支援実行部とを備えたことを要旨とする。
【0008】
この発明の態様の一つによれば、運転者の操舵によって自車両が前方障害物を回避したときに、運転者固有の回避実績が学習される。一方、前方障害物が存在する際に、回避支援タイミングが算出され、回避支援タイミングが回避実績よりも早まる場合に、制動支援タイミングが遅く補正される。このため、その運転者にとって通常の操作で前方障害物を回避可能であるにも関わらず、回避支援が実行されることが抑制される。従って、前方障害物の回避支援を、運転者にとってより的確なタイミングで行うことができる。
【0010】
また、前方障害物の相対軌跡が回避実績として蓄積されるので、運転者固有の操舵傾向を詳細に反映することができる。このため、回避支援を開始するタイミングの的確性を向上し、運転者にとって煩わしさを抑制することができる。
【0011】
この発明の態様の一つにおいて、前記タイミング補正部は、全ての前記障害物軌跡よりも内側に前記回避操作範囲を設定する。
この発明の態様の一つによれば、回避操作範囲は、全ての障害物軌跡よりも内側に設定されるので、回避支援タイミングを、運転者が煩わしさを感じないタイミングとすることができる。
【0012】
この発明の態様の一つにおいて、前記タイミング補正部は、前記障害物軌跡のうち、いずれか一つの障害物軌跡に沿って前記回避操作範囲を設定することを要旨とする。
この発明の態様の一つによれば、回避操作範囲は、障害物軌跡の一つに沿って設定される。例えば、前方障害物とすれ違う際のステアリング角は、運転者によって異なるため、回避操作範囲を障害物軌跡の一つに沿わせることで、運転者固有の操舵傾向を回避操作範囲に反映することができる。
【0013】
この発明の態様の一つにおいて、前記支援実行部は、補正された前記回避支援タイミングに到達しても、前記前方障害物を回避するための操舵が行われない場合に、警報を出力する。
【0014】
この発明の態様の一つによれば、補正された回避支援タイミングに到達しても操舵が行われない場合には、警報が出力されるので、前方障害物を回避する操舵又は制動を促すことができる。
【0015】
本発明の態様の一つは、障害物検出部により検出された自車両前方の障害物を回避するための運転操作を支援する障害物回避支援方法において、
回避実績学習部が、運転者の操舵によって前記自車両が前方障害物を回避したと判断したときに、
前記自車両を基準とした前記前方障害物の相対移動軌跡である障害物軌跡を回避実績
として学習
し、
タイミング
算出部が、前記前方障害物が検出された際に、該前方障害物との相対距離及び相対速度に基づいて
自車位置を基準とした支援実行領域を演算し、
前記支援実行領域内に前記前方障害物が入るときを回避支援を開始する回避支援タイミング
として算出し、
タイミング補正部が、前記障害物軌跡に基づいて自車位置を基準とした回避操作範囲を演算し、前記支援実行領域のうち前記回避操作範囲に重ならない領域が存在する場合に前記回避支援タイミングを遅延させ、
支援実行部が、前記回避支援タイミングに基づき、前記自車両と前記前方障害物との相対距離及び相対速度に応じた支援を実行する
ことを要旨とする。
【0016】
この発明の態様の一つによれば、運転者の操舵によって自車両が前方障害物を回避したときに、運転者固有の回避実績が学習される。一方、前方障害物が存在する際に、回避支援タイミングが算出され、回避支援タイミングが回避実績よりも早まる場合に、制動支援タイミングが遅く補正される。このため、その運転者にとって通常の操作で前方障害物を回避可能であるにも関わらず、回避支援が実行されることが抑制される。従って、前方障害物の回避支援を、運転者にとってより的確なタイミングで行うことができる。
また、
前方障害物の相対軌跡が回避実績として蓄積されるので、運転者固有の操舵傾向を詳細に反映することができる。このため、回避支援を開始するタイミングの的確性を向上し、運転者にとって煩わしさを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の障害物回避支援装置及び障害物回避支援方法を具体化した一実施形態について、
図1〜
図7を参照して説明する。本実施形態の障害物回避支援装置及び障害物回避支援方法は、他車両やポール等の路面設置物等といった前方障害物を回避するための支援として、自動制動制御及び報知を行う。
【0019】
図1に示すように、障害物回避支援システム10は、回避支援制御部12と回避実績学習部13とを備えている。回避支援制御部12及び回避実績学習部13は、障害物回避支援装置11を構成し、前方障害物との衝突の可能性を運転者に早期に認識させ、前方障害物を回避するための運転操作を支援する制御を協働して行う。回避支援制御部12と回避実績学習部13は、それぞれCPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等を備えている。尚、回避支援制御部12は、障害物検出部、タイミング算出部、タイミング補正部、支援実行部として機能する。
【0020】
回避支援制御部12及び回避実績学習部13は、自車両に備えられた車速センサ21から自車速度を入力可能に構成されている。また回避支援制御部12及び回避実績学習部13は、自車両のステアリング角を計測するステアリングセンサ22から、ステアリング角を入力可能に構成されている。
【0021】
さらに、障害物回避支援システム10は、前方障害物の接近を運転者に報知する報知部30を備える。この報知部30は、インストルメントパネル等に設けられた表示部、及びブザーから構成される。
【0022】
回避支援制御部12及び回避実績学習部13は、レーダユニット20から前方障害物に関する情報を入力可能に構成されている。回避支援制御部12及び回避実績学習部13は、レーダユニット20から、前方障害物の有無、前方障害物と自車両との相対距離、前方障害物に対する自車両の相対速度、及び自車位置を基準とした前方障害物の相対方位を入力する。
【0023】
レーダユニット20は、前方障害物との相対距離の他、自車両を基準とした方位又は水平方向の位置を検出可能であればよい。例えば、レーダユニット20は、車両前端に取り付けられた複数のミリ波レーダを備え、これらのミリ波レーダと前方障害物との相対距離に基づき、相対方位を演算するようにしてもよい。或いは、レーダユニット20は、電子スキャン方式で前方障害物の方位を検出するユニットであってもよい。この場合、レーダユニット20は、送信アンテナ、複数受信アンテナ及び受信信号を処理するマイコンを備えている。マイコンは、各受信アンテナからの受信信号に基づき、FMCW方式等によって、前方障害物との相対距離及び相対速度を算出する。また、マイコンは、複数の受信アンテナから受信した信号に基づき、ビート信号間に現れる周波数を計測することで、相対方位を検出する。
【0024】
回避支援制御部12は、レーダユニット20からの入力信号に基づいて、衝突予測時間(TTC:Time To Collision)を算出し、TTCに基づいて自動制動制御を行う。TTCは、前方障害物との相対距離を相対速度で除算することによって算出する。
【0025】
回避支援制御部12は、ブレーキECU25に制動要求を出力可能に構成されている。ブレーキECU25は、電子制御ユニットであって、回避支援制御部12からの制動要求に応じてブレーキユニット26を駆動する。ブレーキユニット26は、例えばブレーキ液の液圧を調整する液圧発生装置や、液圧発生回路(いずれも図示略)を備えており、各車輪のホイールシリンダのシリンダ圧を調整することによって各車輪に付与される制動力の大きさを調整する。
【0026】
本実施形態では、回避支援制御部12は、車線変更や急カーブを走行していない直進状況で前方障害物を検出したとき、TTCに応じて、段階的な制動制御を行う。回避支援を開始する状況であるか否かは、自車両の速度が所定速度(例えば10km/h)以上である否か、ステアリング角が所定範囲(+30度〜−30度)以内であるかといった条件によって判断する。
【0027】
自車速度が所定速度以上且つステアリング角が所定範囲以内であって、他車両等の前方障害物とのTTCが、第1の予測時間範囲PR1内である場合、回避支援制御部12は、ブレーキECU25に制動要求を出力して、自車両C1のブレーキランプを点灯させることのみを目的とする小さい制動力を付与する警報制動を行う。その結果、後続車両に対し、自車両が減速することを知らせることができる。また、TTCが第1の予測時間範囲PR1内である場合、報知部30により、運転者に前方障害物が接近していることを報知する。
【0028】
図2には、自車両C1の速度が80km/h、他車両(図示略)の速度が10km/hとした場合における支援実行領域としての第1制動実行領域Z1を示している。第1制動実行領域Z1は、警報制動及び報知を行うための領域であって、回避支援制御部12は、第1制動実行領域Z1に他車両が入ると、警報制動を実行する。
【0029】
第1制動実行領域Z1は自車位置を基準に左右対称に設定され、例えば五角形状をなしている。第1制動実行領域Z1が五角形状であることにより、自車両C1の前方であって真正面に存在する前方障害物に対しては早めのタイミングで制動支援が行われ、自車両C1の前方左側又は前方右側に存在する前方障害物に対しては、真正面の前方障害物よりも若干遅いタイミングで制動支援が行われる。
【0030】
一方、自車速度が所定速度以上且つステアリング角が所定範囲以内であって、他車両等の前方障害物とのTTCが、第1の予測時間範囲PR1よりも小さい第2の予測時間範囲PR2内である場合、回避支援制御部12は、本格制動を行う。本格制動では、TTCが第1の予測時間範囲PR1内である場合よりも大きな制動力を付与する。その結果、自車両が減速し、前方障害物との相対距離が長くなる。
【0031】
図2には、自車両C1の速度が80km/h、他車両の速度が10km/hとした場合における第2制動実行領域Z2を示している。第2制動実行領域Z2も略五角形状であって、第1制動実行領域Z1よりも自車位置側に設定されている。この第2制動実行領域Z2に他車位置が含まれると、本格制動を実行する。
【0032】
一方、自車両の速度が、上記所定速度未満である場合にも、自動制動制御の有用性がある場合には、回避支援制御部12は自動制動制御を行う。この場合には、警報制動を行わず、本格制動のみを行う。
【0033】
次に、回避実績学習部13について説明する。回避実績学習部13は、回避実績を蓄積する処理を開始する前に、自車速度が回避速度V1以上であるか否かを判断する。回避速度V1は、例えば10km/hに設定されているが、10km/h超30km/h未満といった低速域、30km/h以上の中速域に設定されていてもよい。
【0034】
自車速度が回避速度V1以上である場合、レーダユニット20からの受信信号に基づき、前方障害物の有無を判断する。前方障害物が検出された場合、レーダユニット20から、前方障害物の相対距離及び相対方位を取得するとともに、ステアリングセンサ22からステアリング角を取得し、前方障害物に関する情報としてRAM等に一時記憶する。また、相対距離及び相対方位に基づいて、自車位置からみた前方障害物の相対軌跡を演算する。
【0035】
前方障害物の相対軌跡の演算は、次のように行われる。例えば、
図3に示すように、他車両C2の後端がレーダ検出範囲ZLに入ると、回避実績学習部13は、自車位置P1を(x,y)=(0,0)とした座標系において、他車両C2の相対方位及び相対距離に基づいて、他車両C2の位置をx座標及びy座標に変換する。また、その他車両C2の位置がレーダ検出範囲ZL内である間、他車両C2の位置を追跡し、検出した位置(x,y)の座標群を障害物軌跡Tとする。
【0036】
そして、他車両C2がレーダ検出範囲ZL外となると、運転者が、前方障害物を回避する操舵を行ったか否かを判断する。例えば、回避実績学習部13は、前方障害物に関する情報としてRAM等に蓄積されたステアリング角を読み出し、ステアリング角STの絶対値が回避舵角θ以上、即ちST≦−θ、+θ≦STである状況が、所定時間範囲内継続されたか否かを判断する。例えば、回避舵角θは、20度以上、所定時間範囲は、1秒以上3秒以下等に設定されている。
【0037】
回避実績学習部13が、障害物軌跡Tを描いた前方障害物に対し、運転者が回避するための操舵を行ったと判断すると、その障害物軌跡Tを回避実績としてROM等に蓄積する。このような前方障害物の障害物軌跡Tは、前方障害物を回避するための操舵が行われる度に蓄積される。このように、ROM等に蓄積される障害物軌跡Tは、その車両の運転者の操舵傾向を反映したものとなる。例えば、前方障害物を回避する際、ステアリング角を最小限とする運転者もいれば、比較的大きくする運転者もいて、運転者のステアリング角はそれぞれ異なる。
【0038】
次に障害物回避支援装置11の動作について説明する。障害物回避支援装置11は、前方障害物を回避する際における運転者の操舵傾向を学習する回避実績学習処理と、回避実績を考慮した制動支援処理とを行う。まず、回避実績学習処理について、障害物回避支援装置11の動作とともに説明する。
【0039】
図4に示すように、回避実績学習部13は、回避実績学習を開始するか否かを判断する(ステップS1−1)。例えば、イグニッションスイッチがオン状態とされたとき、又は回避実績学習を開始するための操作部が操作されたとき等、回避実績学習を開始すると判断する(ステップS1−1においてYES)。
【0040】
回避実績学習を開始すると判断すると、回避実績学習部13は、車速センサ21からの入力信号に基づいて、自車速度Vが、上述した回避速度V1以上であるか否かを判断する(ステップS1−2)。
【0041】
自車速度Vが回避速度V1以上であるか否かを判断するのは、信号待ちや渋滞等で、回避実績学習部13に前方障害物の回避実績を学習させないためである。
自車速度Vが回避速度V1未満である場合(ステップS1−2においてNO)、回避実績を学習せずに、ステップS1−10に進む。
【0042】
ステップS1−10では、回避実績学習部13は、回避実績学習を終了するか否かを判断する。例えば、イグニッションスイッチがオフ状態とされたとき、又は回避実績学習を終了するための操作部が操作されたとき等、回避実績学習を終了すると判断して(ステップS1−10においてYES)、この処理を終了する。回避実績学習を終了しないと判断すると(ステップS1−10においてNO)、ステップS1−2に戻る。
【0043】
ステップS1−3では、回避実績学習部13は、レーダユニット20からの入力信号に基づいて、他車両等の前方障害物が検出されたか否かを判断する。前方障害物を検出しない場合には(ステップS1−3においてNO)、ステップS1−8に進む。
【0044】
一方、前方障害物を検出したと判断した場合には(ステップS1−3においてYES)、レーダユニット20から取得した各種情報から、自車位置を基準とした前方障害物の相対距離及び相対方位を取得する(ステップS1−4)。また、回避実績学習部13は、ステアリングセンサ22からステアリング角STを取得し(ステップS1−5)、該ステアリング角STと前方障害物の相対距離及び相対方位とを関連付けて、RAM等に一時記憶する。
【0045】
そして、回避実績学習部13は、相対距離及び相対方位に基づいて、上述したように自車位置を基準とし、前方障害物の障害物軌跡Tを2次元的に演算する(ステップS1−6)。
【0046】
さらに回避実績学習部13は、障害物軌跡Tとレーダユニット20の検出結果とに基づき、前方障害物がレーダ検出範囲外に退避したか否かを判断する(ステップS1−7)。前方障害物がレーダ検出範囲外に退避していないと判断すると(ステップS1−7においてNO)、ステップS1−3に戻り、障害物軌跡Tの演算、ステアリング角STの取得、及びそれらの値の一時記憶が繰り返される。
【0047】
一方、前方障害物がレーダ検出範囲外に退避したと判断すると(ステップS1−7においてYES)、回避実績学習部13は、その障害物軌跡Tに関連付けられたステアリング角STに基づき、回避操舵が行われたか否かを判断する(ステップS1−8)。このとき、上述したように、回避実績学習部13は、一時記憶されたステアリング角STを読み出し、ステアリング角STの絶対値が回避舵角θ以上、即ちST≦−θ、+θ≦STである状況が、所定時間範囲内継続されたか否かを判断する。
【0048】
回避するための操舵が行われたと判断すると(ステップS1−8においてYES)、回避実績学習部13は、その前方障害物の障害物軌跡Tに関連付けられた障害物軌跡Tを、回避実績としてROM等に格納する(ステップS1−9)。回避実績は、自車両のイグニッションスイッチがオフされても、消去されずに蓄積される。このように前方障害物を回避する操舵が行われると、その操舵の度に、前方障害物の相対軌跡がROMに蓄積される。
【0049】
一方、回避するための操舵が行われていないと判断すると(ステップS1−8においてNO)、回避実績学習部13は、障害物軌跡Tを格納せずに、RAMから消去し、ステップS1−10に進む。このようにステアリング角ST等と回避舵角θとを比較することにより、隣接車線を走行する他車両を追い抜く場合や、対向車線を走行する他車両とすれ違う場合等に、それらの他車両の軌跡が不要であるにも関わらず格納することがない。
【0050】
次に、制動支援処理について、
図5に従って説明する。この制動支援処理は、例えばイグニッションスイッチがオン状態になったとき等に開始される。
回避支援制御部12は、レーダユニット20の検出結果に基づいて、他車両等の前方障害物を検出したか否かを判断する(ステップS2−1)。前方障害物が存在しないと判断すると(ステップS2−1においてNO)、ステップS2−10に進み、回避支援処理を終了するか否かを判断する。該処理の終了条件は、例えばイグニッションスイッチがオフ状態になったとき等である。回避支援処理を終了しないと判断すると(ステップS2−10においてNO)、ステップS2−1に戻り、前方障害物の有無の判断を繰り返す。
【0051】
例えば自車両の前方を走行する他車両を前方障害物として検出すると(ステップS2−1においてYES)、回避支援制御部12は、レーダユニット20からの入力信号から、前方障害物との相対距離及び相対速度を取得し(ステップS2−2)、車速センサ21及びステアリングセンサ22から自車速度及びステアリング角を取得する(ステップS2−3)。
【0052】
さらに、回避支援制御部12は、自車速度、及び前方障害物との相対距離及び相対速度に基づき、支援内容を決定する(ステップS2−4)。上述したように、回避支援制御部12は、取得した自車速度及びステアリング角に基づき、自車両が、所定速度以上で直進しているか否かを判断する。所定速度未満で走行している場合、又は進行方向が直進方向でない場合には、本実施形態では自動制動制御を実行しない。この場合は、例えば支援モードを示す変数を初期値に維持する。
【0053】
自車両が所定速度以上で直進していると判断すると、回避支援制御部12は、TTCを算出するとともに、自車速度に応じたマップを読み出す。例えば、自車速度が60km/h以上である場合には、中速域用のマップを読み出し、該マップを用い、そのTTCに応じて、警報制動及び本格制動のいずれかを選択する。また、自車速度が低速域である場合には、低速域用のマップを読み出し、該マップを用いて、算出したTTCに応じた支援を決定する。
【0054】
そして、回避支援制御部12は、ステップS2−4で決定した支援内容に、自動制動があるか否かを判断する(ステップS2−5)。自動制動を行わないと判断した場合には(ステップS2−5においてNO)、ステップS2−10に進む。自動制動を行うと判断した場合には(ステップS2−5においてYES)、ステップS2−6に進む。
【0055】
ステップS2−6では、回避支援制御部12は、必要に応じて制動実行領域を補正する。このステップについて、
図6に従って詳述する。
図6は、
図2と同様に、自車速度が80km/hであって、他車速度が10km/hである状態を示す。
【0056】
回避支援制御部12は、自車位置を基準として、自車位置に近い側に第2制動実行領域Z2を予め設定し、第2制動実行領域Z2よりも自車位置から遠い側に第1制動実行領域Z1を予め設定する。他車両等の前方障害物の位置が、第1制動実行領域Z1内に入ったとき、回避支援タイミングに到達したと判断して警報制動及び報知を行い、前方障害物の位置が第2制動実行領域Z2内に入ったとき、回避支援タイミングに到達したと判断して本格制動を行う。
【0057】
また、
図6に示すように、回避支援制御部12は、回避実績学習部13から障害物軌跡Tを読み出し、最も内側(自車位置側)の障害物軌跡Tに沿って、回避操作範囲ZAを演算する。
図6では、回避操作範囲ZAの先端は円弧状に形成されているが、障害物軌跡Tに沿っていれば他の形状でもよい。また、障害物軌跡Tが自車両C1からみて前方左側にある場合には、その障害物軌跡Tに沿った形状とし左右対称でなくてもよい。障害物軌跡Tの曲率が大きい場合、即ち運転者が前方障害物を回避する際のステアリング角が大きい場合には、回避操作範囲ZAの先端は鋭角的な形状となり、障害物軌跡Tの曲率が小さい場合、回避操作範囲ZAの先端は鈍角的な形状となる。
【0058】
この回避操作範囲ZAは、障害物軌跡Tの最も内側に設定されることから、この回避操作範囲ZAの内側(自車位置側)に前方障害物が侵入すると、運転者の通常の回避操作では前方障害物を回避し難いことが想定され、大きな制動力を自動的に付与する必要性が高いことが示される。
【0059】
さらに回避支援制御部12は、演算した回避操作範囲ZAを、自車位置を基準として制動実行領域に重ね合わせる。
図6では、回避操作範囲ZAの先端が、第2制動実行領域Z2の先端よりも自車側に配置された状態を示している。第2制動実行領域Z2のうち、回避操作範囲ZAと重複しない範囲は、運転者の回避操舵と干渉する可能性がある干渉範囲ZBである。前方障害物の位置がこの干渉範囲ZBにあるとき、運転者が回避のための操舵を行う直前か、操舵中であるにも関わらず、本格制動モードの自動制動を実行してしまうため、運転者が煩わしく感じたり、回避するための運転操作を行いにくいと感じることがある。
【0060】
このため、回避支援制御部12は、この干渉範囲ZBが存在するか否かを判断する。干渉範囲ZBが存在しないか、回避操作範囲ZAの先端が第2制動実行領域Z2よりも自車両C1の先にある場合には、回避支援制御部12は、干渉範囲ZBが存在しないと判断して、制動実行領域を補正しない。
【0061】
一方、回避支援制御部12が、干渉範囲ZBが存在すると判断すると、回避支援制御部12は、
図7に示すように、第2制動実行領域Z2に形成される干渉範囲ZBを相殺するか又は最小限にして、第2制動実行領域Z2を補正する。
図7では五角形の第2制動実行領域Z2の先端を円弧状の干渉範囲ZBの先端に沿わせるように補正している。このように第2制動実行領域Z2の先端が自車位置側に修正されることによって、本格制動モードの自動制動が実行される回避支援タイミングが遅延される。このとき、制動領域の補正に、運転者の操舵傾向が反映された障害物軌跡Tに沿った回避操作範囲が用いられるので、その運転者にとっての回避支援タイミングの的確性を向上することができる。また、回避操作範囲ZAを、全ての障害物軌跡Tよりも内側に設定することにより、運転者が煩わしさを感じたり、回避操舵をしにくいと感じることが抑制される。
【0062】
このように必要に応じて制動実行領域を補正すると、回避支援制御部12は、自動制動制御を実行するタイミングであるか否かを判断する(ステップS2−7)。詳述すると、前方障害物の位置が、第1制動実行領域Z1内、又は第2制動実行領域Z2内である場合には、自動制動制御を実行するタイミングであると判断する。ステップS2−4で、回避支援を実行しないと決定したり、タイミングに到達していない場合には(ステップS2−7においてNO)、ステップS2−1に戻る。例えば、自動制動が実行される前に、運転者の操作により前方障害物が回避された場合には、支援内容等が初期化され、前方障害物の監視が継続される。
【0063】
一方、回避支援制御部12が自動制動を実行すると判断すると(ステップS2−7においてYES)、ステップS2−4で決定した支援内容に基づいた自動制動制御を実行する(ステップS2−8)。例えばステップS2−4において、警報制動及び報知を行うと決定した場合には、ブレーキECU25に制動力を指定して制動要求を出力し、ブレーキユニット26を駆動するとともに、報知部30により報知を行う。ブレーキユニット26は、指定された制動力の大きさに従って、各ホイールシリンダのシリンダ圧を調整し、各車輪に制動力を付与する。
【0064】
また、ステップS2−4において本格制動を実行すると決定した場合には、回避支援制御部12は、ブレーキECU25に制動力を指定して制動要求を出力する。このとき、補正された第2制動実行領域Z2を用いてタイミングを決定するので、運転者の通常の操作により回避できるにも関わらず大きな制動力が付与されることを抑制できる。
【0065】
ブレーキユニット26を駆動すると、回避支援制御部12は、自動制動制御を終了するか否かを判断する(ステップS2−9)。例えば、TTCが第1の予測時間範囲PR1外であったり、自車両が停止したと判断すると、回避支援制御部12は自動制動制御を終了すると判断し(ステップS2−9においてYES)、ステップS2−10に進む。
【0066】
ステップS2−10において、回避支援制御部12は、回避支援処理を終了するか否かを判断する。回避支援処理を終了しないと判断すると(ステップS2−10においてNO)、ステップS2−1に戻り、次の前方障害物を監視する。回避支援処理を終了すると判断すると(ステップS2−10においてYES)、制動支援処理を終了する。
【0067】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)障害物回避支援システム10では、回避実績学習部13により、運転者の操舵によって自車両が前方障害物を回避したときに、運転者固有の回避実績が学習される。一方、回避支援制御部12により、前方障害物が存在する際に、回避支援タイミングが算出され、回避支援タイミングが回避実績よりも早まる場合に、回避支援タイミングが遅く補正される。このため、その運転者にとって通常の操作で前方障害物を回避可能であるにも関わらず、自動制動が実行されることが抑制される。従って、前方障害物の回避支援を、運転者にとってより的確なタイミングで行うことができる。
【0068】
(2)回避実績学習部13は、自車両を基準とした前方障害物の相対移動軌跡である障害物軌跡Tを演算し、障害物軌跡Tを回避実績として蓄積する。このため、運転者固有の操舵傾向を詳細に反映することができる。また、障害物軌跡に基づいて回避操作範囲ZAを演算し、回避操作範囲に重ならない干渉範囲ZBを相殺又は縮小する。このため、回避支援を開始するタイミングの的確性を向上し、運転者に煩わしさを感じさせることを抑制することができる。
【0069】
(3)制動実行領域を補正するための回避操作範囲ZAは、全ての障害物軌跡Tの内側となるように設定される。このため、回避操作範囲ZAを障害物軌跡Tの平均値とする場合等に比べ、回避支援タイミングを、殆どの状況において運転者が煩わしさを感じないタイミングとすることができる。
【0070】
(4)制動実行領域を補正するための回避操作範囲ZAは、最も内側の障害物軌跡Tに沿って設定される。例えば、前方障害物とすれ違う際のステアリング角は、運転者によって異なるため、回避操作範囲ZAを障害物軌跡Tの形状に沿わせることで、運転者固有の操舵傾向を回避操作範囲ZAに反映することができる。
【0071】
尚、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・回避支援処理において、補正された回避支援タイミングに到達しても、前方障害物を回避するための操舵が行われない場合に、警報を出力するようにしてもよい。例えば、回避支援制御部12が、前方障害物との相対距離に基づき、回避操作範囲ZAに入ったにも関わらず、ステアリング角の変化量又はステアリング角速度が所定値以下である場合、報知とは異なる音の警報を出力するようにしてもよい。この場合、運転者に対し、前方障害物を回避する操舵又は制動を促すことができる。
【0072】
・回避実績学習処理では、障害物軌跡Tを、そのときの相対速度又は自車速度毎に蓄積するようにしてもよい。例えば、自車両と前方障害物との相対速度が大きい場合、運転者により、早めにハンドルを切ることが予測される。従って、相対速度によっては障害物軌跡Tが異なる可能性があるため、障害物軌跡Tを、そのときの相対速度が判別可能な状態、又は速度域で分けて蓄積してもよい。そして、回避操作範囲ZAを算出するときは、そのときの前方障害物との相対速度に応じて、障害物軌跡Tを読み出す。例えば、そのときの相対速度が大きいときは、「相対速度:大」に分けられた障害物軌跡Tを読み出し、その障害物軌跡Tに基づき回避操作範囲ZAを演算する。そのときの相対速度が小さいときは、「相対速度:小」に分けられた障害物軌跡Tを読み出し、その障害物軌跡Tに基づき回避操作範囲ZAを演算する。
【0073】
・上記実施形態では、第2制動実行領域Z2を補正するようにしたが、第1制動実行領域Z1を補正するようにしてもよい。
図8(a)に示すように、回避操作範囲ZAの先端が、第1制動実行領域Z1と第2制動実行領域Z2との間にあるとき、回避操作範囲ZAに沿うように第1制動実行領域Z1を補正してもよい。また、
図8(b)に示すように、回避操作範囲ZAの先端が、第2制動実行領域Z2よりも内側にあるとき、第2制動実行領域Z2を補正するとともに、第1制動実行領域Z1の先端を、第2制動実行領域Z2に近づけるように補正してもよい。
【0074】
・上記実施形態では、前方障害物を検出するセンサとして、ミリ波レーダを用いたが、車載カメラやソナー等の他のセンサを使用するか、協働して検出処理を行うようにしてもよい。車載カメラを用いた場合には、前方障害物を検出する画像処理により、前方障害物の方位を検出するようにしてもよい。さらには、前方障害物が他車両であるか否かを画像処理で判断し、前方障害物が他車両である場合に、回避実績を蓄積してもよい。
【0075】
・上記実施形態では、レーダユニット20は、自車両前端に設けられたミリ波レーダを備えるようにしたが、自車両前端や側端に設けられた複数のミリ波レーダから構成するようにしてもよい。この場合、レーダ検出範囲が拡大するため、より広範囲にて障害物軌跡Tを演算することができる。
【0076】
・回避実績学習処理では、前方障害物が検出範囲外となったときに、障害物軌跡Tに関連付けられたステアリング角に基づき、その障害物軌跡Tを回避実績として格納するか否か判断するようにした。それ以外に、障害物軌跡Tがなすカーブの最大曲率や、障害物軌跡Tの屈曲部の角度に基づき、その軌跡が、隣接車線の他車両の追い抜き、対向車線の他車両とのすれ違いによるものではなく、回避するための操舵に基づくものであると判断するようにしてもよい。
【0077】
・回避実績学習処理では、障害物軌跡Tを演算した後に、障害物軌跡Tに関連付けられたステアリング角に基づき、回避するための操舵が行われたか否かを判断するようにしたが、障害物軌跡Tを演算しているときに判断するようにしてもよい。この場合、例えばステアリング角の絶対値が回避舵角θ以上である状況が、所定時間範囲内継続された際に、初期状態に「0」に設定されるフラグを「1」とし、障害物軌跡Tの演算が完了した際に、フラグの値が「1」であれば、障害物軌跡Tを格納する。また、回避するための操舵が行われたか否かは、ステアリング角速度、ヨーレート等や、障害物軌跡Tと自車両の走行軌跡とを比較することにより判断しても良い。自車両の走行軌跡は、自車速度及びジャイロ等により判断可能である。
【0078】
・障害物回避支援装置11は、回避支援制御部12と回避実績学習部13とを備えるようにしたが、一つの制御部として構成してもよい。また、回避実績学習部、障害物検出部、タイミング算出部、タイミング補正部、支援実行部を3つ以上の制御部に分散させてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、回避実績として、自車両を基準とした相対距離及び相対方位に基づく障害物軌跡Tを蓄積したが、相対距離のみでもよい。この場合、前方障害物を回避したときの最短の相対距離となるように、第1又は第2制動実行領域Z1,Z2の長さを縮小すればよい。
【0080】
・上記実施形態では、障害物回避支援パターンとして、警報制動及び報知、本格制動を行うようにしたが、障害物回避支援パターンは一つでもよいし、他の複数のパターンでもよい。例えば、警報制動を実行せず、本格制動のみを実行するようにしてもよい。また、報知と、本格制動との2パターンでもよい。さらに、本格制動の際に付与される制動力の大きさをさらに細分化し、3パターン以上の支援を行うようにしてもよい。また、報知のみを実行するパターンであってもよい。
【0081】
・上記実施形態では、回避操作範囲ZAを、全ての障害物軌跡Tの内側となるように設定したが、全ての障害物軌跡Tを平均した軌跡、又は全ての障害物軌跡Tのうち最も平均的な軌跡を回避操作範囲ZAとしてもよい。このようにすると、運転者の回避操舵のうち、最も平均的な回避操舵に基づく障害物軌跡Tを回避操作範囲ZAとすることができるので、例えば、その運転者にとってもハンドルを切りすぎたのが遅すぎた場合等、特異的な回避実績に基づいて回避操作範囲ZAが決定されない。