(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の駐車支援装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施例は、多くのニーズに適応できるように検討されており、駐車位置の精度を向上できることは検討されたニーズの1つである。以下の実施例では、さらに、滑らかで、運転者が予期しやすい車両動作、ステア動作が得られ、運転者に安心感を与えることができるとのニーズにも対応している。
【0009】
〔実施例1〕
まず、構成を説明する。
[車両の構成]
図1は、駐車支援装置を適用した車両の構成図である。
運転者はシフトレバー8によって車両の前進、後退、停止を指示し、アクセルペダル6によって駆動モータ(電動機)1の駆動力を指示する。駆動モータ1はエンジンとしてもよい。駆動モータ1は運転者のアクセルペダル操作、シフト操作とは無関係に駆動力、制動力を発生可能である。
ブレーキペダル7の踏力はブレーキブースタ15によって倍力され、その力に応じた油圧がマスタシリンダ16に発生する。発生した油圧は、電動油圧ブレーキ2を介してホイルシリンダ21〜24に供給される。このように、運転者はブレーキペダル7によって制動力を制御する。電動油圧ブレーキ2はモータで駆動するポンプや電磁弁等を内蔵し、運転者のブレーキペダル操作とは無関係に4輪の制動力(ホイルシリンダ21〜24の油圧)を独立に制御可能である。なお、運転者のブレーキペダル操作による4輪の制動力に左右差はない。
電動パワーステアリング3は、運転者がステアリングホイール9を介して入力した操舵トルクに応じたアシストトルクを発生し、運転者の操舵トルクと電動パワーステアリング3のアシストトルクによって左右前輪(操舵輪)41,42が操舵され、車両走行中には車両が旋回する。また、電動パワーステアリング3は運転者のステア操作とは無関係にステアトルクを発生し、左右前輪41,42を操舵可能である。
また、車両周辺を撮影し、車両周辺の対象物を認識する4つのカメラ11〜14が車両の前後左右に取り付けられている。4つのカメラ11〜14の映像は合成され、車両と車両周辺を上方から見下ろした俯瞰図としてタッチパネル18に表示される。運転者は駐車支援の制御によらず、この俯瞰図を見ながら駐車を行うこともできる。
【0010】
実施例1の駐車支援装置では、カメラ11〜14の映像上の駐車枠や他の駐車車両の位置に基づいて駐車位置(駐車スペース)を認識し、認識した駐車位置に車両が到達するように駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、電動パワーステアリング3を自動制御する。俯瞰図が表示されたタッチパネル18を用いて、運転者が駐車位置を指示することも可能である。
また、駐車軌跡(走行軌跡)を制御するため、操舵角センサ(操舵角検出部)4と車輪速センサ31〜34が取り付けられている。電動油圧ブレーキ2は、前後加速度、横加速度、ヨーレートを検出する車両運動検出センサ17と操舵角センサ4と車輪速センサ31〜34からのセンサ信号によって、車両の横滑り防止やアンチロックブレーキ制御を行うが、操舵角センサ4と車輪速センサ31〜34の信号は駐車支援の制御と共用される。
以上挙げた電動装置は全て電子制御ユニット(コントローラ)5によって制御され、各センサ信号も全て電子制御ユニット5に入力される。各センサ信号には運転者の操作量である、アクセルペダル操作量、ブレーキペダル操作量、シフト位置、操舵トルクも含まれる。また、電子制御ユニット5の機能を分割し、各電動装置に電子制御ユニットを取り付け、各電子制御ユニット間で必要な情報を通信する構成とすることもできる。
駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、各ホイルシリンダ21-24、各車輪41〜44および電子制御ユニット5により、車速を自動的にコントロールする自動車速制御装置が構成される。また、電動パワーステアリング3、および電子制御ユニット5により、左右前輪41,42を自動的に操舵する自動操舵制御装置が構成される。
【0011】
[駐車支援装置の構成]
図2は、駐車支援装置の構成図である。
駐車動作中は車両動作が駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、電動パワーステアリング3によって自動的に制御されるが、運転者操作量は監視されており、運転者のオーバーライドが可能である。運転者がブレーキペダル7を操作した場合は車両を一時停止させ、運転者がブレーキを解除した後に自動制御による駐車動作を再開する。これにより、駐車経路上に障害物が進入した場合には、運転者のブレーキ操作を優先し、障害物との接触を回避できる。その後、ブレーキペダル7の操作が解除された場合は、自動制御による駐車動作を再開する。これにより、障害物が駐車経路から離れた場合は、自動的に駐車支援を再開できる。また、運転者がシフト位置を変更するか、運転者の操舵トルクが所定値以上になった場合は自動制御による駐車動作を中止する。これにより、運転者のシフト操作またはステア操作を優先して車両を走行させることができる。なお、タッチパネル18に自動制御中止ボタンを表示し、この自動制御中止ボタンを押すことで自動制御を中止することもできる。
【0012】
[駐車支援制御]
図3は、電子制御ユニット5における駐車支援の制御の構成図である。
電子制御ユニット5は、駐車支援の制御を実現する構成として、駐車軌跡設定部51、移動距離計算部52、車速計算部(車速検出部)53、軌跡制御部(目標操舵角設定部、目標車速設定部)54、車速制御部55および操舵角制御部56を備える。
まず、駐車動作開始位置でカメラ(駐車スペース認識部)11〜14によって駐車位置を認識する。駐車位置は前述の通り、俯瞰図が表示されたタッチパネル18によって運転者が指定してもよい。次に、駐車位置を基に駐車軌跡設定部51で駐車軌跡を設定する。駐車軌跡の設定は駐車動作開始時に1回だけ行われ、駐車動作中に駐車軌跡の補正は行わない。駐車軌跡は車両の移動距離に対する操舵角として表される。
車輪速センサ31〜34は車輪1回転に付き複数回の車輪速パルスを発生する。この車輪速パルスの発生回数を積算し、移動距離計算部52にて車両の移動距離を計算する。また、車輪速パルスの発生周期を用いて、車速計算部53で車速Vを計算する。実施例1では、移動距離と車速Vは後輪車軸中心の移動距離と車速とするので、左右後輪43,44の移動距離と車輪速の平均値を、求める移動距離と車速Vとする。
軌跡制御部54は駐車軌跡と車両の移動距離から車速指令(車速の目標値)V
*と操舵角指令(操舵角の目標値)δ
h*を求める。前進、後退中の車速指令V
*はそれぞれ一定とする。
車速制御部55は車速指令V
*と車速Vを基に車速制御を行い、操作量として駆動モータ1への駆動トルク指令T
ac*と電動油圧ブレーキ2への液圧指令P
wc*を求める。駆動モータ1と電動油圧ブレーキ2はこれらの指令によって駆動力と制動力を発生する。駆動力と制動力は共に駆動モータ1のみで発生させてもよいし、駆動力は駆動モータ1で発生させ、制動力は電動油圧ブレーキ2で発生させるというように分担させてもよい。駆動モータ1をエンジンに置き換えた場合は後者の方法を採ればよい。実施例1ではエンジンではなく駆動モータ1を用いているが、駆動力は駆動モータ1、制動力は電動油圧ブレーキ2で発生させる。
操舵角制御部56は操舵角指令δ
h*と操舵角センサ4で計測した操舵角δ
hを基に操舵角制御を行い、操作量としてステアトルク指令T
st*を求める。電動パワーステアリング3はこの指令によってステアトルクを発生する。
【0013】
[車速制御]
図4は、車速制御部55の制御ブロック図である。
減算器100は、車速指令V
*から車速Vを減じた車速偏差(V
*-V)を出力する。
乗算器101は、車速偏差に比例ゲインKp_aを乗じる。
積分器102は、車速偏差を積分する。
乗算器103は、車速偏差の積分値に積分ゲインKi_aを乗じる。
加算器104は、両乗算器101,103の出力の和を駆動トルク指令T
ac*として出力する。
乗算器105は、車速偏差の正負を反転させる。
乗算器106は、正負反転後車速偏差に比例ゲインKp_bを乗じる。
積分器107は、正負反転後車速偏差を積分する。
乗算器108は、正負判定後偏差の積分値に積分ゲインKi_bを乗じる。
加算器109は、両乗算器106,108の出力の和を液圧指令P
wc*として出力する。
判定器110は、車速偏差が0以上である場合にはリンク運転選択指令=1(true)を出力し、0未満である場合にはリンク運転選択指令=0(false)を出力する。
スイッチ111は、判定部110から出力されたリンク運転選択指令が1のときは駆動トルク指令T
ac*を出力し、0のときは液圧指令P
wc*を出力する。
プラントモデル(車両モデル)112は、駆動トルク指令T
ac*または液圧指令P
wc*を入力し、車速Vを出力する。
以上のように、車速制御部55は、PI制御により、車速偏差(V
*-V)の正負によって駆動モータ1と電動油圧ブレーキ2を使い分ける。車速偏差が0以上の場合には、比例ゲインKp_a、積分ゲインKi_aを用いて演算した駆動トルク指令T
ac*により駆動モータ1を駆動し、駆動モータ1による駆動力で車速Vを車速指令V
*に近付ける。このとき、電動油圧ブレーキ2への液圧指令P
wc*は0として制動力を発生させない。一方、車速偏差が0未満の場合には、比例ゲインKp_b、積分ゲインKi_bを用いて演算した液圧指令P
wc*により電動油圧ブレーキ2を駆動し、電動油圧ブレーキ2による制動力で車速Vを車速指令V
*に近付ける。このとき、駆動モータ1への駆動トルク指令T
ac*は0として駆動力を発生させない。
【0014】
[操舵角制御]
図5は、操舵角制御部56の制御ブロック図である。外乱dを打ち消す外乱オブザーバを用いた二自由度制御であり、目標応答Gによって操舵角応答を自由に設定できる。
減算器120は、操舵角指令δ
h*から操舵角δ
hを減じた操舵角偏差(δ
h*-δ
h)を出力する。
モデルマッチング補償器121は、操舵角偏差を入力し、あらかじめ与えた所望の目標応答Gに一致させる理想ステアトルクを出力するフィードフォワード補償器である。
減算器122は、理想ステアトルクから外乱推定トルクを減じたステアトルク指令T
st*として出力する。
加算器123は、ステアトルク指令T
st*に外乱dを加算する。
プラントモデル(車両モデル)124は、外乱を含むステアトルク指令を入力し、操舵角δ
hを出力する。
ノイズフィルタ部125は、ステアトルク指令T
st*をローパスフィルタでフィルタ処理する。
逆プラントモデル126は、操舵角δ
hを得るステアトルク指令をノイズフィルタ部125のローパスフィルタと同一のローパスフィルタでフィルタ処理する。
減算器127は、逆プラントモデル126の出力からノイズフィルタ部125の出力を減じて外乱推定トルクを出力する。
プラントモデルP、目標応答G、ノイズフィルタQは、下記の式(1)〜(3)のように全て一次遅れとする。
【数1】
操舵角指令δ
h*と操舵角δ
hの関係は下記の式(4)となる。
【数2】
目標応答Gは電動パワーステアリング3の出力の限界よりも遅い応答とし、操舵角応答が確実に目標応答通りとなるように設定する。また、操舵角速度が大きいと電動パワーステアリング3の出力の限界によって、操舵角応答が目標応答Gとならないが、移動距離に対して操舵角の変化率が大きい場合は軌跡制御部54で車速指令V
*を低くし、車速制御によって車速Vを低く保つことで、操舵角速度が低く保たれるため、操舵角応答を目標応答Gに保つことができる。
【0015】
次に、実施例1の駐車支援装置の動作ロジックを説明する。
[並列駐車時]
図6は、並列駐車の車両動作を示す図である。駐車動作開始位置P0から切り返し位置P1まで前進し、切り返し位置P1で停止後、切り返し位置P1から駐車位置P2までは後退し、駐車位置P2で停止する。一連の駐車動作は駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、電動パワーステアリング3を用いて全て自動制御で行われる。駐車動作開始位置P0、切り返し位置P1、駐車位置P2では操舵角は0であり、ステアは中立の位置とする。前進と後退の開始位置から中間点まではステアを切り増ししていき、中間点で操舵角が最大となり、中間点から前進と後退の終了位置まではステアを切り戻していく。移動距離に対して、駐車軌跡の曲率の変化率を一定とし、駐車軌跡をクロソイド曲線とする。回転半径の小さい駐車軌跡とするため、前進と後退の中間点よりも手前でステアの切り増しを終了し、中間点を通過してしばらく移動するまで操舵角を固定し、その後ステアを切り戻していくことで、駐車軌跡にクロソイド曲線と円弧を併用することもできる。
図7に、並列駐車で駐車軌跡がクロソイド曲線の場合の後輪車軸中心の駐車軌跡を示す。
【0016】
図8は、並列駐車で駐車軌跡がクロソイド曲線の場合の移動距離と操舵角の関係を示す図である。前進と後退では操舵角の正負が逆になるが、ここでは前進と後退の操舵角をどちらも正として表す。クロソイド曲線では曲線の長さに対して曲線の変化率は一定となるので、移動距離に対する操舵角の変化率もほぼ一定となる。操舵角δ
hと曲率χの関係はステアリングギア比Nとホイールベースlを用いて、下記の式(5)で表される。
【数3】
ホイールベースlと曲率χの積が小さい範囲では式(5)の近似が成り立ち、移動距離に対する曲率の変化率が一定であれば、操舵角の変化率も一定となる。
図8で後退の開始時にしばらく操舵角が0となっているが、この区間では車速制御による車速の誤差によって前進の終了時に操舵角0で移動距離が所定値以上になった分、後退の開始時に操舵角0で前進での移動距離の超過分を逆走しているためである。これにより駐車位置の精度が保たれる。
移動距離に対して操舵角が
図8の通りになれば、駐車位置の精度は保たれるが、そのためには操舵角の精度を保つ必要がある。しかし、
図5に示した操舵角制御では操舵角指令δ
h*に対して操舵角δ
hが目標応答Gの一次遅れとなる。そこで、軌跡制御部54で、
図8の操舵角を操舵角目標δ
h_tarとし、操舵角指令δ
hを下記の式(6)のように求めると、下記の式(7)のように操舵角δ
hと操舵角目標δ
h_tarが等しくなり、操舵角の精度が保たれることで、駐車位置の精度が保たれる。
【数4】
さらに、操舵角指令δ
h*を式(6)のように求めると、下記の式(8)のように操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarと、操舵角目標δ
h_tarの微分に定数を掛けたものの和となる。
【数5】
一般的に微分はノイズを含むが、
図8のように操舵角目標δ
h_tarは移動距離Lに対してほぼ比例し、定数kを用いて下記の式(9)のように表される。
【数6】
したがって、式(8)の微分項は下記の式(10)のように車速Vに定数を掛けたものとなる。
【数7】
つまり、操舵角指令δ
h*は下記の式(11)のように置き換えられ、ノイズが低減される。
【数8】
【0017】
図9は、車速が一定とした場合の操舵角目標δ
h_tarと式(11)の操舵角指令δ
h*との関係を示した図である。
図9は前進のみの操舵角を示しているが、後退の操舵角も同様となる。所要時間2t
1の半分の時間t
1で操舵角目標δ
h_tarの増減率の正負が逆転するので、時刻0〜t
1で操舵角目標δ
h_tarが増加中(切り増し中)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも大きくなり、時刻t
1〜2t
1で操舵角目標δ
h_tarが減少中(切り戻し中)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも小さくなる。
図10は、並列駐車で駐車軌跡がクロソイド曲線と円弧による場合の後輪車軸中心の駐車軌跡を示す図である。駐車動作開始位置P0で車両が駐車枠の方向を向いているので、回転半径の小さい駐車軌跡を設定する必要があり、駐車軌跡にクロソイド曲線と円弧を用いている。
図11は、並列駐車で駐車軌跡がクロソイド曲線と円弧による場合の移動距離と操舵角の関係を示す図である。前進と後退では操舵角の正負が逆になるが、ここでは前進と後退の操舵角をどちらも正として表す。移動距離に対して操舵角が変化する区間がクロソイド曲線の区間で、中間付近の操舵角が一定の区間が円弧の区間である。
【0018】
図12は、車速が一定とした場合の操舵角目標δ
h_tarと式(11)の操舵角指令δ
h*との関係を示す図である。
図12は前進のみの操舵角を示しているが、後退の操舵角も同様となる。時刻0〜t
1で操舵角目標δ
h_tarが増加中(切り増し中)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも大きくなり、時刻t
1〜t
2で操舵角目標δ
h_tarが一定の間は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarと等しくなり、時刻t
2〜t
1+t
2で操舵角目標δ
h_tarが減少中(切り戻し中)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも小さくなる。
【0019】
[縦列駐車時]
図13は、縦列駐車の車両動作を示す図である。駐車動作開始位置P0から切り返し位置P1まで前進し、切り返し位置P1で停止後、切り返し位置P1から駐車位置P2まで後退し、駐車位置P2で停止する。一連の駐車動作は駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、電動パワーステアリング3を用いて全て自動制御で行われる。後退の中間点をP3とし、さらに駐車動作開始位置P1とP3の中間点をP4、P3と駐車位置P2の中間点をP5とする。駐車動作開始位置P0、切り返し位置P1、駐車位置P2、後退の中間点P3では操舵角は0であり、ステアは中立の位置とする。前進中はステアの中立を保つので直進となる。後退の開始位置P1から点P4までは駐車位置に近付く方向にステアを切り増ししていき、点P4で操舵角が最大となり、点P4から点P3まではステアを切り戻していく。さらに、点P3から点P5までは点P1から点P3までと逆方向にステアを切り増ししていき、点P5で操舵角が最大となり、点P5から駐車位置P2まではステアを切り戻していく。移動距離に対して、駐車軌跡の曲率の変化率を一定とし、駐車軌跡をクロソイド曲線とする。回転半径の小さい駐車軌跡とするため、並列駐車の場合と同様に、駐車軌跡にクロソイド曲線と円弧を併用することもできる。
【0020】
図14は、縦列駐車で駐車軌跡がクロソイド曲線の場合の移動距離と操舵角の関係を示す図である。前進では操舵角が0に固定され、後退の開始時は並列駐車の場合と同様に、前進での移動距離の超過分、操舵角0でしばらく逆走する。
図15は、
図14の操舵角を操舵角目標δ
h_tarとしたときの、操舵角目標δ
h_tarと操舵角指令δ
h*の関係を示す図である。時刻0を後退でのステアの切り始めの時点としている。時刻0〜t
1で操舵角目標δ
h_tarが増加中(切り増し中)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも大きくなり、時刻t
1〜3t
1で操舵角目標δ
h_tarが減少中(時刻t
1〜2t
1までは切り戻し、時刻2t
1〜3t
1までは逆方向に切り増し)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも小さくなる。さらに、時刻3t
1〜4t
1で操舵角目標δ
h_tarが増加中(切り戻し中)は操舵角指令δ
h*は操舵角目標δ
h_tarよりも大きくなる。
【0021】
[駐車位置精度の向上]
車両走行中に自動的に操舵角を変化させて運転者の駐車動作を支援する装置としては、例えば、特開平10-278825号公報や特開2004-338638号公報に記載のものが知られている。前者は、操舵角を自動制御し、駐車動作中に運転者のブレーキ操作量が基準値からずれた場合は警報を行うものである。後者は、駐車動作開始前に操舵角指令に対する操舵角の遅れを推定し、駐車軌跡の曲率増減率を制限するものである。また、駐車動作中に操舵角指令に対する操舵角の遅れを計測し、駐車軌跡の再設定を行っている。
ところが、上記従来技術のうち前者では、運転者に対する警報はあるものの、車速を制御するのは運転者であり、車速が上下しやすく、車速の上下に伴い操舵角の精度も保ちにくくなるため、駐車位置に精度を出すことは困難である。後者では、操舵角指令に対する操舵角の遅れ自体は解消されず、それによって駐車軌跡が制約される。また、駐車動作中の駐車軌跡の再設定によってステア動作が滑らかでなくなり、運転者に違和感を与えてしまう。
【0022】
これに対し、実施例1の駐車支援装置では、カメラ11〜14の映像上の駐車枠や他の駐車車両の位置に基づいて駐車位置を認識し、認識した駐車位置に車両が到達するように駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、電動パワーステアリング3を自動制御する。つまり、操舵角と車速を共に自動制御することで、操舵角と車速で決まる車両の走行経路を高精度に制御でき、駐車位置の精度を向上できる。
駐車軌跡設定部51は、認識した駐車位置を基に駐車軌跡を設定し、軌跡制御部54は、駐車軌跡と車両の移動距離から車速指令V
*と操舵角指令δ
h*を求める。このとき、軌跡制御部54は、前進、後退共に車速指令V
*を一定とする。一般的に、車速変化の少ない方が操舵角は制御しやすく、さらに実施例1では式(10)のように車速変化が操舵角指令δ
h*に影響するが、車速偏差(V
*-V)をなくすようPI制御を行う車速制御部55によって車速Vは自動的にほぼ一定に保たれるため、操舵角の精度が保たれる。
駐車軌跡の設定は駐車動作開始時に1回だけ行い、駐車動作中に駐車軌跡の補正を行わないため、駐車動作中に操舵角指令δ
h*が急変するのを抑制できるため、滑らかで、運転者が予期しやすい車両動作、ステア動作となり、運転者に安心感を与えることができる。
また、駐車軌跡はクロソイド曲線またはクロソイド曲線と円弧を併用したものとしている。クロソイド曲線は、曲率が一定の比率で変化する曲線であり、一定の速度での走行中に、一定の速度でステア操作したときの車両の軌跡である。よって、駐車軌跡のクロソイド曲線部分を走行中は、車速Vと操舵角速度が一定に保たれ、滑らかで、運転者が予期しやすい車両動作、ステア動作となり、運転者に安心感を与えることができる。
【0023】
車速制御部55による車速制御に用いる車輪速センサ31〜34と、操舵角制御部56による操舵角制御に用いる操舵角センサ4は、横滑り防止制御やアンチロックブレーキ制御と共用でき、それ以外のセンサとしては駐車動作開始位置で駐車位置情報を取得するセンサ(実施例1の場合はカメラ11〜14)のみがあればよいため、コストアップを抑えることができる。
操舵角制御部56では、操舵角制御の目標応答Gを、電動パワーステアリング3の出力の限界より遅い応答とし、操舵角応答が確実に目標応答通りとなるように設定する。すなわち、操舵角応答を、電動パワーステアリング3の出力に対して若干余裕のある所定の応答に保つため、操舵角応答から逆算した操舵角指令δ
h*によって、操舵角目標δ
h_tarと操舵角δ
hを等しくでき、操舵角の精度を保つことができる。
なお、操舵角速度が大きいと電動パワーステアリング3の出力の限界によって、操舵角応答が目標応答Gとならないが、移動距離に対して操舵角δ
hの変化率が大きい場合は車速制御によって車速Vを低く保つことで、操舵角速度を低く保たれ、操舵角応答を目標応答Gに保つことができる。つまり、操舵角速度が大きい場合には車速Vを低く保つことで、操舵角の精度が保たれる。
【0024】
次に、効果を説明する。
実施例1の駐車支援装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 左右前輪41,42の操舵角δ
hを検出する操舵角センサ4と、車速Vを検出する車速検出部と、操舵角指令δ
h*および車速指令V
*を設定する軌跡制御部54と、検出された操舵角δ
hが操舵角指令δ
h*になるよう左右前輪41,42を自動的に操舵する自動操舵制御装置(電動パワーステアリング3、および電子制御ユニット5)と、検出された車速Vが車速指令V
*になるよう車速Vを自動的にコントロールする自動車速制御装置(駆動モータ1、電動油圧ブレーキ2、各ホイルシリンダ21-24、各車輪41〜44および電子制御ユニット5)と、自車両の駐車スペースを認識するカメラ11〜14と、を備え、自動操舵制御装置と自動車速制御装置によって認識された駐車位置に自車両を駐車させる。
これにより、操舵角δ
hと車速Vとが自動制御されるため、操舵角δ
hと車速Vで決まる車両の走行経路を高精度に制御でき、駐車位置の精度を向上できる。
(2) 電子制御ユニット5を備え、電子制御ユニット5は、カメラ11〜14によって認識された駐車位置と自車両の位置との間に駐車軌跡を設定し、設定された駐車軌跡を走行するように自動操舵制御装置と自動車速制御装置をコントロールする。
これにより、駐車軌跡を高精度に制御できるため、駐車位置の精度を向上できる。
【0025】
(3) 電子制御ユニット5を備え、電子制御ユニット5は、カメラ11〜14によって認識された駐車位置と自車両の位置との間にクロソイド曲線を有する駐車軌跡を設定し、設定された駐車軌跡を走行するように自動操舵制御装置と自動車速制御装置をコントロールする。
これにより、駐車軌跡のクロソイド曲線部分を走行中は、車速Vと操舵角速度が一定に保たれ、滑らかで、運転者が予期しやすい車両動作、ステア動作となり、運転者に安心感を与えることができる。
(4) 電子制御ユニット5を備え、電子制御ユニット5は、カメラ11〜14によって認識された駐車位置と自車両の位置との間に駐車軌跡を設定し、設定された駐車軌跡を走行するように自動操舵制御装置の操舵応答性に関して操舵角指令δ
h*を補正して自動操舵制御装置をコントロールする。
これにより、操舵角目標δ
h_tarと操舵角δ
hを等しくでき、操舵角δ
hの精度が保たれるため、駐車位置の精度が保たれる。
(5) 電子制御ユニット5を備え、電子制御ユニット5は、カメラ11〜14によって認識された駐車位置と自車両の位置との間に駐車軌跡を設定し、設定された駐車軌跡を自車両が移動する移動距離に対する操舵角の変化率が大きいときは小さいときに比べて、車速Vが小さくなるように自動車速制御装置をコントロールする。
これにより、操作角速度が大きい場合であっても、操舵角応答を目標応答Gに保つことができ、操舵角の精度が保たれるため、駐車位置の精度を向上できる。
【0026】
以下に、実施例から把握される特許請求の範囲に記載した発明以外の技術的思想について説明する。
(a) 請求項1に記載の駐車支援装置において、
コントローラを備え、
前記コントローラは、前記駐車スペース認識部によって駐車スペースが認識されると、自車両の位置と駐車スペースとの間に走行軌跡を設定し、前記設定された走行軌跡を描くよう前記操舵角の目標値と前記車速の目標値を設定することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、走行軌跡を高精度に制御できるため、駐車位置の精度を向上できる。
(b) 請求項1に記載の駐車支援装置において、
コントローラを備え、
前記コントローラは、前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置によって制御中に運転者によりブレーキペダルが操作されると自車両を停止させることを特徴とする駐車支援装置。
これにより、駐車経路上に障害物が進入した場合には、運転者のブレーキ操作を優先し、障害物との接触を回避できる。
(c)に(b)記載の駐車支援装置において、
前記コントローラは、前記停止中に前記ブレーキペダルの操作が解除されると前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置による制御を再開することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、障害物が駐車経路から離れた場合は、自動的に駐車支援を再開できる。
【0027】
(d) 請求項1に記載の駐車支援装置において、
コントローラを備え、
前記コントローラは、前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置によって制御中に運転者により前後のシフト位置変更または運転者による操舵トルクが所定値以上になった場合、前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置による制御を解除することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、運転者のシフト操作またはステア操作を優先して車両を走行させることができる。
(e) 請求項1に記載の駐車支援装置において、
前記自動車速制御装置は、車輪を駆動するための電動機と車輪を含むことを特徴とする駐車支援装置。
これにより、電動機により車輪を駆動する電気自動車およびハイブリッド車において、駐車位置の精度を向上できる。
(f) 操舵輪の操舵角を検出する操舵角検出部と、
車速を検出する車速検出部と、
前記検出された操舵角が前記目標操舵角になるよう前記操舵輪を自動的に操舵する自動操舵制御装置と、
前記検出された車速が前記目標車速になるよう車速を自動的にコントロールする自動車速制御装置と、
自車両の駐車スペースを認識する駐車スペース認識部と、
を備え、
前記認識された駐車スペース内に自車両が駐車するよう各制御装置に対する操舵制御指令値と車速制御指令値を出力することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、操舵角と車速とが自動制御されるため、操舵角と車速で決まる車両の走行経路を高精度に制御でき、駐車位置の精度を向上できる。
(g) (f)に記載の駐車支援装置において、
コントローラを備え、
前記コントローラは、前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置によって制御中に運転者によりブレーキペダルが操作されると自車両を停止させることを特徴とする駐車支援装置。
これにより、駐車経路上に障害物が進入した場合には、運転者のブレーキ操作を優先し、障害物との接触を回避できる。
【0028】
(h) (g)に記載の駐車支援装置において、
前記コントローラは、前記停止中に前記ブレーキペダルの操作が解除されると前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置による制御を再開することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、障害物が駐車経路から離れた場合は、自動的に駐車支援を再開できる。
(i) (h)に記載の駐車支援装置において、
前記コントローラは、前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置によって制御中に運転者により前後のシフト位置変更または運転者による操舵トルクが所定以上になった場合、前記自動操舵制御装置と前記自動車速制御装置による制御を解除することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、運転者のシフト操作またはステア操作を優先して車両を走行させることができる。
(j) (f)に記載の駐車支援装置において、
コントローラは、前記駐車スペース認識部によって認識された駐車スペースと自車両の位置との間に走行軌跡を設定し、前記設定された走行軌跡を走行するように各制御装置をコントロールすることを特徴とする駐車支援装置。
これにより、走行軌跡を高精度に制御できるため、駐車位置の精度を向上できる。
【0029】
(k) (j)に記載の駐車支援装置において、
前記走行軌跡は、クロソイド曲線を有することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、駐車軌跡のクロソイド曲線部分を走行中は、車速と操舵角速度が一定に保たれ、滑らかで、運転者が予期しやすい車両動作、ステア動作となり、運転者に安心感を与えることができる。
(l) (k)に記載の駐車支援装置において、
前記コントローラは、前記設定された走行軌跡を走行するように前記自動操舵制御装置の操舵応答性に関して前記操舵角の目標値を補正して前記自動操舵制御装置をコントロールすることを特徴とする駐車支援装置。
これにより、操舵角の目標値と操舵角を等しくでき、操舵角の精度が保たれるため、駐車位置の精度が保たれる。
(m) 請求項1に記載の駐車支援装置において、
コントローラを備え、
前記コントローラは、前記駐車スペース認識部によって認識された駐車スペースと自車両の位置との間に走行軌跡を設定し、前記設定された走行軌跡を自車両が移動する移動距離に対する前記操舵角の変化率が大きいときは小さいときに比べて、車速が小さくなるように前記自動速度制御装置をコントロールすることを特徴とする駐車支援装置。
これにより、操作角速度が大きい場合であっても、操舵角応答を目標とする応答に保つことができ、操舵角の精度が保たれるため、駐車位置の精度を向上できる。
【0030】
(n) (m)に記載の駐車支援装置において、
前記コントローラは、前記駐車スペース認識部によって駐車スペースが認識されると、自車両の位置と駐車スペースとの間に走行軌跡を設定し、前記設定された走行軌跡を描くよう前記操舵角の目標値と前記車速の目標値を設定することを特徴とする駐車支援装置。
これにより、走行軌跡を高精度に制御できるため、駐車位置の精度を向上できる。
(o) 自車両を駐車するための駐車スペースを認識した後に、自車両が駐車スペースへ駐車するまでの走行軌跡を算出し、算出された走行軌跡を描くための目標操舵角と目標車速を設定し、設定された目標操舵角と目標車速に応じて自動操舵制御装置と自動車速制御装置をコントロールすることを特徴とする駐車支援装置の制御方法。
これにより、走行軌跡を高精度に制御できるため、駐車位置の精度を向上できる。