【実施例】
【0013】
図1,
図2に示すように繰出式多芯筆記具1は、前軸2の雌螺子部2aと後軸3の雄螺子部3aとを螺合して構成した軸筒4の後方に、軸芯に沿った方向に開口した3つの切欠窓3b、3c、3dを形成してあり、軸筒4内に収容されるシャープペンシル体10,ボールペン体20,ボールペン体30の後方部に連結して一体とした摺動部材11,21,31を、前記切欠窓3b,3c,3dへ摺動可能に配設する構造である。尚、
図2では、前記シャープペンシル体10と、ボールペン体20とを見せた断面としてあり、ボールペン体30は省略した図としてある。
【0014】
シャープペンシル体10は、
曲げ弾性率が2300MPaである高剛性ポリプロピレン(日本ポリプロ社製ノバテックEA9FT)からなる軸部材10aを、後軸3内のコイルスプリング5aおよび後軸4内に装着した隔壁部材6の底面61に形成した貫通孔6aに挿通させて配設してある。また、ボールペン体20は、一般的な曲げ弾性率が1800MPaであるポリプロピレンからなる軸部材20aを、後軸3内のコイルスプリング5bおよび後軸3内に装着した隔壁部材6の底面61に形成した貫通孔6bに挿通させて配設してある。本実施例では、コイルスプリング5a,5bを、隔壁部材6の底面61および摺動部材11,21の支持部11a,21aに当接させ、シャープペンシル体10およびボールペン体20を軸筒4の後方へ弾発する構造としてある。シャープペンシル体10の軸部材10aの前方には芯繰出機構部10bを設けてあり、ボールペン体20の軸部材20aの前方にはボールペンチップ20bを設けてある。
【0015】
図1示すように本実施例における軸筒4の後方部は、後軸3の後方部にクリップ7の基部7aを延設してあり、クリップ7の基部7aの上部に、蓋体8の蓋本体部8aに延設した脚部8bを回動可能なヒンジ構造として保持させてある。尚、蓋本体部8aには二つの掛止孔8cを設けてあり、蓋本体部8aを閉じた状態においては、後軸3に形成した二つの掛止爪3eを蓋本体部8aの掛止孔8cに掛止させて、
図2に示す軸筒4内のコイルスプリング5a,5bに弾発されたシャープペンシル体10と、ボールペン体20とが飛び出さないように蓋本体部8aで押さえてある。
【0016】
次に、本実施例のスライド繰出式多芯筆記具における繰出操作について説明を行う。
図3に示すように、摺動部材21の突部21bを前進させたボールペン体20は、軸筒4の前軸2に設けた先端開口部2bから、ボールペンチップ20bを突出させている。さらに詳述すると、ボールペン体20のボールペンチップ20bを前軸2の先端開口部2bから突出させた状態においては、摺動部材21の後方内側に形成した係止突起21cが、後軸3の内面に形成した係止受部3fに係止して、ボールペンチップ20bが軸筒4の先端開口部2bから突出した状態を維持できる。尚、ボールペン体20の軸部材20aは可撓性を有する樹脂パイプで形成してあり、また摺動部材21の圧入部21eがボールペン体20の軸部材20aに隙間なく密嵌されていることから、ボールペンチップ20bが軸筒4の先端開口部2b側に向かうときには、
図3に示すように、軸部材20aが撓むことにより摺動部材21に対して軸部材20aが傾斜する構造である。
【0017】
また
図3の状態から、摺動部材11の突部11bを前方へスライドさせることで、摺動部材11に形成した係止解除突起11dにより、後軸3の係止受部3fに係止してある摺動部材21の係止突起21cを解除して、ボールペン体20のボールペンチップ20bを軸筒4内に没入させ、さらに摺動部材11を前進させることにより、摺動部材11の後端部に形成した係止突起11cを後軸3の係止受部3fに係止させ、
図4,
図5に示すように、シャープペンシル体10の先端部10cを軸筒4の先端開口部2bから突出した状態で維持させることができる。このような出没操作は、後軸3の切欠窓3b,3cから突出させた各摺動部材の突部をスライドさせることによって繰り返し行うことができる。尚、本実施例のシャープペンシル体10の芯繰出機構部10bは、摺動部材11のノック操作により、軸部材10aを介して、芯繰出機構部10bの前方を前軸2の内面に当接させて、先端部10cから芯(図示せず)を繰り出す一般的なシャープペンシル機構であるため説明は省略する。
【0018】
図6は、シャープペンシル体の軸部材と摺動部材とを分解した状態を示す要部姿図で、
図7は、軸部材と摺動部材とを嵌着させた状態を示す要部姿図である。摺動部材11の前方には、軸部材10aの外径D1より太く形成した円柱部11eを形成してあり、円柱部11eの前方には軸部材10aの内径D2より細く形成した延出部11fを形成してある。また、延出部11fの両側面には、軸心に沿った方向Yと軸心に向かう方向Zとに直交する方向Xへ突出させた突起部11gを形成してあり、突起部11gは、延出部11fの側面より円弧状に突出させた小径部11hと、延出部11fの側面より円弧状に突出させた大径部11iと、小径部11hと大径部11iとの境界に形成される段部11jとで構成してある。尚、段部11jは、延出部11fの軸心に向かう方向における巾(
図5におけるZ方向の巾)の中心に形成してある。
【0019】
尚、本実施例の突起部11gは、小径部11hおよび大径部11iの外径を軸部材10aの内径より大きく形成してあり、段部11jは、摺動部材11を射出成形する分割金型のパーティションラインが段部11jの位置と一致するようにしてあり、段部11jに鋭いエッジ部11kが形成されるようにしてある。したがって、摺動部材11の延出部11fを軸部材10aの開口部10dに挿通させた際には、硬い高剛性ポリプロピレンで成形した軸部材10aであっても、段部11jのエッジ11kが内面10eに食い込み、
図8に示すように軸部材10aと摺動部材11とを容易に嵌着させることができた。また、エッジ11kが軸部材10aの内面10eに食い込んでいることから、摺動部材11と軸部材10aとが簡単に外れることはなかった。
【0020】
また本実施例の摺動部材11は、前述の通り、段部11jが延出部11fの軸心に向かう方向(
図6におけるZ方向)における巾の中心に位置するので、
図8に示すように、軸部材10の中心位置に突起部11gの最も突出した段部11jが位置して、
図9に示したように、軸部材10と摺動部材11とを、軸筒の軸径方向(Z方向)に対して巾広く揺動させることができるものとなった。尚、
図9の状態は、
図5に示したように、摺動部材11を前進させてシャープペンシル体10の先端部10cを軸筒4の前軸2に設けた先端開口部2bから突出させた使用状態のときであるが、この状態で軸部材10aは曲がることなく傾斜してシャープペンシル体10の先端部10cを突出させることができ、また摺動部材11の突部11bをノック操作して、芯繰出機構部10bにて芯を繰り出す際においても、軸部材10aが曲がることなく芯を繰り出すことができ、軸部材10の内部に収容した芯が折れることはなかった。
【0021】
図9では、摺動部材11に対して軸部材10aが軸心方向Z1方向に傾斜した状態を示しているが、軸心反対方向Z2に対しても傾斜することが可能であり、それにより
図10に示すように、軸筒4からシャープペンシル体10を着脱する際に、摺動部材11を軸部材10aに対して軸心反対方向Z2へ傾斜させて、軸部材10aを曲げることなく着脱させることができた。したがって軸部材10aの内部に芯(図示せず)を収容していても、軸部材10aを曲げないでシャープペンシル体10の着脱が行えることから、芯が折れることはなかった。また、シャープペンシル体10の芯繰出機構部10bは、軸部材10aに対して後部を挿着させており、
図11に示すように、繰出機構部10bを軸部材10aから外して替え芯5を軸部材10a内に補充することができる。
【0022】
尚、
図12は、摺動部材11を分割金型M,Nで射出成形している状態を示しており、
図12Aは樹脂を流し込んでいる状態の摺動部材11と分割金型M,Nとの関係を示し、
図12Bは成形された摺動部材11と分割金型M,Nとの関係を示している。本実施例の摺動部材11は、
図12Aに示すように、分割金型M,NのパーティションラインPLの位置で、摺動部材11の突起部11gのエッジ部11kが形成されるようにしてあり、エッジ部11kを丸みのない鋭く形成することができた。