(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0021】
1.本実施形態の概要
高速AFの代表的手法として位相差AF方式がある。従来の位相差AF方式では、撮像光学経路を分岐し、その分岐した経路に位相差検出用の専用センサを設け、その専用センサにより位相差情報を検出していた。一方、昨今では、専用センサを設けずに撮像素子(以下では適宜「撮像センサ」とも呼ぶ)のみで位相差を検出する手法が、種々提案されている。例えば、イメージャ内位相差方式やカラー位相差方式などがある。
【0022】
イメージャ内位相差方式では、撮像センサ自体に位相差検出機能を搭載し、その位相差検出機能により位相差を検出する。しかしながら、この方式では、左右の瞳位置からの光束をそれぞれ受光する独立した画素(位相差検出用画素)が必要であるため、結像画像の撮像用に使用可能な画素は全画素の半数になり、解像度の犠牲が伴う。また、位相差検出用画素が撮像画像での画素欠陥のような状態となり、画質劣化の要因となるため、高度な補正処理が必要になる。
【0023】
これに対して、カラー位相差方式(例えば上述した特許文献1)では、結像光学系の左右の瞳位置に異なる波長域のフィルタを配置し、その色の違いで左右の位相差画像(多重画像)を取得し、その左右の位相差画像の位相差を演算により求めるため、イメージャ内位相差方式の課題を解決できる。しかしながら、通常のRGBの3原色カラー撮像センサを使用する場合、例えば右瞳通過光束用には撮像センサのRフィルタを割り当て、左瞳通過光束用には撮像センサのBフィルタを割り当てるなど、位相差画像を3原色のいずれかによって明確に分離できるようにしなくてはならない。そのため、赤成分のみの画像や青成分だけの画像など単一色画像の場合や、色分離により位相差画像を取得してもR画像とB画像の相関性が低い場合には、位相差を検出できなくなってしまう。また、RGBのうち一部の色の光束のみを通過させるフィルタを用いるので、光量低下が発生したり、デフォーカス位置の撮像画像が位相差により必ず色ずれを起こしたりする。そのため、これらの光量低下や色ずれを精度良く補正する処理が必要となり、補正画像の品質や処理のリアルタイム性、低コスト化の観点で課題がある。
【0024】
このようなカラー位相差方式の課題を解決するために、多バンドフィルタを用いる手法(例えば上述した特許文献2)が考えられる。この手法では、例えば、右瞳光束用には赤フィルタR1と青フィルタB1を割り当て、左瞳光束用には赤フィルタR2と青フィルタB2を割り当てる。赤フィルタR1とR2、青フィルタB1とB2は、それぞれ波長分離されたフィルタであり、その波長の違いにより左右の位相差画像を取得する。しかしながら、この手法では、各色を分離するための多バンド(多分割波長域)のカラーフィルタを撮像センサに設ける必要があり、多バンドの各バンドに割り当て画素が必要となる。そのため、一つ一つのバンド画像(分離波長域画像)のサンプリングが粗くなるのは必然であり、位相差検出のための相関精度が低下してしまう。また、サンプリングの粗さによって単一バンド画像の解像度が低下し、撮像画像としての解像度も劣化するという課題が残る。
【0025】
そこで本実施形態では、同色系の波長域を左右瞳に別々に割当て、位相差画像を取得する。このような手法としては、例えば第2実施形態で後述する手法が考えられる。この例では、右瞳には{r
R,g,b
R}の3色を割り当て、左瞳には{r
L,g,b
L}の3色を割り当て、通常の3原色撮像センサで撮像する。波長域r
R、r
LはRの波長域を分割したものであり、波長域b
R、b
LはBの波長域を分割したものである。撮像画像はRGBなので右瞳画像と左瞳画像を色だけで区別することはできないが、撮像センサのRGBの波長域がオーバーラップしていることを利用して右瞳画像と左瞳画像を分離する。このようにして得られた位相差画像は、ともにRGBの画像である。この手法によれば、左右の瞳画像はいずれも原色成分を取得できるので、色ずれ等の課題を解決できる。
【0026】
さて、以上に述べた種々の手法によって得られた位相差画像に対して相関演算を行い、位相差を求めることにより、合焦位置検出または被写体までの測距が可能になる。瞳分割画像を撮像画像として利用する場合には、当然のことながら、フォーカスが合っているときに位相差はゼロとなっている。このような場合、
図1で後述するように、フォーカスが前ピント状態であるか後ピント状態であるかによって、位相差画像のずれ方向は逆方向となる。この2つの位相差画像をずらして効率的に相関ピークを求めるためには、結像面が前ピント状態にあるのか後ピント状態にあるのかを瞬時に判定する必要がある。もし、ピント状態を瞬時に判定できない場合には、まずは2つの位相差画像をいずれかの方向にずらしてみて相関ピークが出る方向かを探索し、撮像面の全画素(又は必要な領域の画素)についてこの方向探索が繰り返されることになる。このような探索を繰り返すと、演算回数が膨大になり相関演算の高速化を阻害する要因になってしまう。
【0027】
そこで本実施形態では、
図3(A)等に示すように、左瞳画像I
L(x)(又は左瞳画像I
R(x))と撮像画像I(x)との画素値の大小関係を比較することにより、前ピント状態であるか後ピント状態であるか(合焦方向)を判定する。これにより、相関演算において位相差のずれ方向を探索する必要がなくなり、相関演算を高速化することができる。
【0028】
なお本実施形態の合焦方向判定手法は、第2実施形態で後述する手法で分離した左右瞳画像に適用する場合に限定されない。即ち、前ピント状態と後ピント状態とで位相差のずれ方向が変化するような位相差画像を取得する手法であれば、本実施形態の合焦方向判定手法を適用できる。
【0029】
2.第1実施形態
2.1.撮像光学系の基本構成
次に、本実施形態の合焦方向判定手法について詳細に説明する。まず、第1実施形態について説明する。
【0030】
図1に、本実施形態における撮像光学系の基本構成例を示す。この撮像光学系は、撮像素子のセンサ面に被写体を結像させる結像レンズLNSと、第1瞳と第2瞳で帯域を分離する光学フィルタFLTと、を含む。なお以下では、撮像センサの水平走査方向に瞳を分割し、第1瞳を右瞳とし、第2瞳を左瞳とする場合を例にとり説明する。また、左瞳から右瞳へ向かう瞳分割の方向を、適宜「視差方向」とも呼び、この視差方向(即ち水平走査方向)に沿った画素位置を位置xで表すものとする。なお本実施形態では、瞳の分離方向は水平走査方向に限定されず、撮像光学系の光軸AXに対して垂直な任意の方向に分離されていればよい。
【0031】
光学フィルタFLTは、透過率特性f
Rを有する右瞳フィルタFL1(第1フィルタ)と、f
Rとは異なる透過率特性f
Lを有する左瞳フィルタFL2(第2フィルタ)と、を有する。光学フィルタFLTは、撮像光学系の瞳位置(例えば絞りの設置位置)に設けられ、フィルタFL1、FL2がそれぞれ右瞳、左瞳に相当している。
【0032】
結像レンズLNS及び光学フィルタFLTを透過した結像光には、右瞳を通過した被写体像と左瞳を通過した被写体像が含まれる。撮像素子は、これらの被写体像を含む結像光束を画像として撮像する。そして、左右瞳の透過率特性f
R、f
Lが明確に帯域分離されていることを用いて、撮像画像から右瞳画像(第1画像)の画素値I
R(x)と左瞳画像(第2画像)の画素値I
L(x)を求める。なお、I
R(x)、I
L(x)は位置xにおける画素値を表すが、画像全体を表す符号としても適宜I
R(x)、I
L(x)を用いる。
【0033】
図1に示すように、フォーカス位置FPに撮像素子のセンサ面がある場合には、右瞳画像I
R(x)と左瞳画像I
L(x)は視差方向にずれておらず、位置が一致している。一方、デフォーカス位置Dr、Dfに撮像素子のセンサ面がある場合には、右瞳画像I
R(x)と左瞳画像I
L(x)は視差方向にずれる。
【0034】
具体的には、デフォーカス位置Dfでは、フォーカスが撮像素子のセンサ面よりも後ろ側にある後ピント状態であり、右瞳を通過した光束が右側に存在し、左瞳を通過した光束が左側に存在する。
図1には、右瞳のポイントスプレッドファンクションPSF
Rと左瞳のポイントスプレッドファンクションPSF
Lを概念的に図示しており、このポイントスプレッドファンクションの分離が光束の分離に対応している。後ピント状態の場合、この光束の分離方向に対応して、右瞳画像I
R(x)が右側にずれ、左瞳画像I
L(x)が左側にずれる。一方、デフォーカス位置Drは、フォーカスが撮像素子のセンサ面よりも前側にある前ピント状態であり、右瞳を通過した光束が左側に存在し、左瞳を通過した光束が右側に存在する。この場合、右瞳画像I
R(x)が左側にずれ、左瞳画像I
L(x)が右側にずれる。
図1には、このデフォーカス位置DrでのI
R(x)、I
L(x)を例として図示しており、I
R(x)、I
L(x)のずれ量をδで表す。
【0035】
2.2.合焦方向判定手法
次に、右瞳画像I
R(x)と左瞳画像I
L(x)を用いて合焦方向を判定する手法について説明する。
【0036】
図2(A)、
図2(B)に示すように、撮像画像I(x)、右瞳画像I
R(x)、左瞳画像I
L(x)の画素値のDC成分(幅Wでの平均値)をゼロレベルにして基準を合わせ、比較用画素値I(x)’、I
R(x)’、I
L(x)’を求める。
図2(A)には、後ピント状態での比較用画素値を示し、
図2(B)には、前ピント状態での比較用画素値を示す。これらの比較用画素値は下式(1)により求められる。なお以下では適宜、「比較用画素値」を単に「画素値」とも呼ぶ。
【数1】
【0037】
ここで、幅Wは、例えば実験等により予め求めた所定の平均演算区間であり、位置xを中心とする幅である。
図2(A)、
図2(B)では、x=xiの場合を例に幅Wを図示している。また、I(x)’、I
R(x)’、I
L(x)’の間には、下式(2)の関係が成り立つ。
I’(x)=[I
L’(x)+I
R’(x)]/2 (2)
【0038】
次に、合焦方向を判定したい画素(以下では「注目画素」と呼ぶ)が、画素値I(x)’の増加区間Raに属するか減少区間Faに属するかを判定する。具体的には、注目画素の位置をx=xiとすると、I(x)’、I
R(x)’、I
L(x)’の交点(比較用画素値が一致(略一致を含む)する位置)のうち、xiに最も近い交点の位置x
0、x
1を求める。位置x
0は、注目画素よりも左側の交点であり、位置x
1は、注目画素よりも右側の交点である。そして、下式(3)を満たす場合には、注目画素が増加区間Raに属すると判定し、下式(4)を満たす場合には、注目画素が増加区間Raに属すると判定する。例えば
図2(A)では、注目画素の位置xiは減少区間Faに属すると判定される。
[I’(x
0)−I’(x
1)]<0 (3)
[I’(x
0)−I’(x
1)]>0 (4)
【0039】
なお、[I
L’(x
0)−I
L’(x
1)]<0又は[I
R’(x
0)−I
R’(x
1)]<0を満たす場合に、注目画素が増加区間Raに属すると判定してもよい。また、[I
L’(x
0)−I
L’(x
1)]>0又は[I
R’(x
0)−I
R’(x
1)]>0を満たす場合に、注目画素が減少区間Faに属すると判定してもよい。
【0040】
次に、I’(x)とI
L’(x)の上下関係に基づいて、注目画素が前ピント状態であるか後ピント状態であるかを判定する。具体的には、下式(5)により、注目画素が属する区間でのI’(x)とI
L’(x)の差分値E
Lを求め、その差分値E
Lの符号に基づいて合焦方向を判定する。
図2(A)、
図2(B)に示すように、増加区間Raと減少区間Faでは、I’(x)とI
L’(x)の上下関係が異なるので、その上下関係と合焦方向との対応が異なっている。即ち、増加区間Raにおいては、下式(6)により合焦方向を判定し、減少区間Faにおいては、下式(7)により合焦方向を判定する。
【数2】
【数3】
【数4】
【0041】
なお、I’(x)とI
R’(x)の上下関係に基づいて合焦方向を判定してもよいことは言うまでもない。この場合、下式(8)により差分値E
Rを求める。E
LとE
Rでは、符号と合焦方向の対応が逆になる。例えば、増加区間RaにおいてE
R<0を満たす場合には後ピント状態と判定する。
【数5】
【0042】
上記の判定手法がなぜ可能であるのかを、単純なモデルを用いて原理的に説明する。
図3(A)、
図3(B)は、後ピント状態でのI(x)、I
L(x)、I
R(x)の関係を原理的に示す図である。
図3(A)には、増加区間Raでの関係を示し、
図3(B)には、減少区間Faでの関係を示す。
【0043】
ここでは、I(x)は、瞳が分割されていない理想的な撮像光学系で結像された像であるとする。実際に撮像される画像は、このI(x)に対して、撮像光学系のポイントスプレッドファンクション(PSF: Point Spread Function)をコンボリューションしたものである。即ち、右瞳と左瞳のポイントスプレッドファンクションをそれぞれPSF
R(x)、PSF
L(x)とすると、右瞳画像はI
R(x)=I(x)*PSF
R(x)で得られ、右瞳画像はI
L(x)=I(x)*PSF
L(x)で得られる。ここで、“*”はコンボリューション演算を表す。
【0044】
このI
R(x)、I
L(x)は、PSF
R(x)、PSF
L(x)の重心位置が異なっているため、それに応じて左右にシフトする。
図3(A)、
図3(B)に示すように、後ピント状態では、I
R(x)が右にシフトし、I
L(x)が左にシフトする。このとき、
図3(A)に示すように、増加区間Raでは、I
R(x)<I(x)、I
L(x)>I(x)となる。一方、
図3(B)に示すように、減少区間Faでは逆に、I
R(x)>I(x)、I
L(x)>I(x)となる。このように、ずれ方向が同じであっても、増加区間Raと減少区間FaとでI(x)、I
R(x)、I
L(x)の上下関係は異なったものとなる。本実施形態では、この上下関係に基づいて合焦方向を判定している。
【0045】
2.3.撮像装置
図4に、第1実施形態における撮像装置の構成例を示す。この撮像装置は、結像レンズLNS、光学フィルタFLT、撮像部10、位相差画像生成部20、合焦方向判定部60、フォーカス制御部80を含む。なお、本実施形態は
図4の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略(例えばフォーカス制御部80)したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。
【0046】
撮像部10は、撮像素子と撮像処理部を含むことができる。撮像素子は、結像レンズLNS及び光学フィルタFLTによって結像された被写体を撮像する。撮像処理部は、撮像動作の制御や、アナログの画素信号をA/D変換する処理などを行う。
【0047】
位相差画像生成部20は、撮像部10により撮像された画像に基づいて、右瞳画像I
Rと左瞳画像I
Lを生成する。この2画像を位相差画像とする。位相差画像の生成手法としては、例えば既知の手法(例えば特許文献1、2に記載の手法)など、種々の手法を採用することが可能である。或は、第2実施形態で説明するマルチバンド推定処理により位相差画像を生成してもよい。
【0048】
合焦方向判定部60は、位相差画像I
R、I
Lに対して、上述の合焦方向判定手法を適用し、前ピント状態であるか後ピント状態であるかを判定する。上述の合焦方向判定手法では、撮像画像I(x)と左瞳画像I
L(x)を比較することになるが、撮像画像I(x)としては、撮像部10が出力する画像を用いてもよいし、位相差画像I
R、I
Lの平均画像を用いてもよい。なお、撮像画像I(x)と右瞳画像I
R(x)を比較してもよい。
【0049】
フォーカス制御部80は、検出された合焦方向の情報に基づいてオートフォーカス制御を行う。即ちフォーカス制御部80は、合焦方向の情報に基づいてフォーカスレンズ(結像レンズLNS)の移動方向を決定し、その移動方向へフォーカスレンズを移動させる制御を行う。
【0050】
2.4.フォーカス制御処理
図5に、本実施形態の合焦方向判定手法を用いたフォーカス制御処理のフローチャートを示す。なお本実施形態の合焦方向判定手法は、フォーカス制御処理に限らず、例えば被写体の形状計測等に適用することが可能である。
【0051】
図5に示すように、処理が開始されると、フォーカス制御部80が、撮像画像上でフォーカスを合わせたいポイントFA(例えば位置xi)を設定する(ステップS1)。次に、位相差画像生成部20が位相差画像I
R、I
Lを取得する(ステップS2)。次に、合焦方向判定部60が、ポイントFAにおける合焦方向を判定する(ステップS3)。この合焦方向の判定は、上述した通り、位相差画像の画素値I
R(x)’とI
L(x)’とのうちの少なくとも一方と、比較用画素値I(x)’とによって行われる。
【0052】
次に、フォーカス制御部80は、合焦方向の判定結果が前ピント状態であるか否かを判断する(ステップS4)。前ピント状態である場合には、フォーカス制御部80は、ポイントFA近傍の位相差画像I
R、I
Lを画像上の第1の方向にずらして相関演算を行い、位相差を検出する(ステップS5)。ここで「画像上の第1の方向にずらす」とは、左瞳から右瞳へ向かう方向を視差方向(
図2(B)の+x方向)とする場合に、右瞳画像I
Rを視差方向(+x方向)にずらすこと、又は、左瞳画像I
Lを視差方向の反対方向(−x方向)にずらすことである。
【0053】
次に、フォーカス制御部80が、フォーカスレンズを光軸上の第1の方向へ位相差分だけ移動させる(ステップS6)。ここで、
図1に示すように、前ピント状態ではフォーカス位置が結像レンズLNSと撮像センサの間にあるが、「光軸上の第1の方向」とは、そのフォーカス位置を撮像センサへ近づけるようなフォーカスレンズの移動方向である。
【0054】
ステップS4において前ピント状態でない場合には、フォーカス制御部80は、合焦方向の判定結果が後ピント状態であるか否かを判断する(ステップS7)。後ピント状態である場合には、フォーカス制御部80は、ポイントFA近傍の位相差画像I
R、I
Lを画像上の第2の方向(第1の方向の反対方向)にずらして相関演算を行い、位相差を検出する(ステップS8)。ここで「画像上の第2の方向にずらす」とは、左瞳から右瞳へ向かう方向を視差方向(
図2(B)の+x方向)とする場合に、右瞳画像I
Rを視差方向の反対方向(−x方向)にずらすこと、又は、左瞳画像I
Lを視差方向(+x方向)にずらすことである。
【0055】
次に、フォーカス制御部80が、フォーカスレンズを光軸上の第2の方向(第1の方向の反対方向)へ位相差分だけ移動させる(ステップS9)。ここで、
図1に示すように、後ピント状態では、結像レンズLNSから見て撮像センサよりも遠い位置にフォーカス位置があるが、「光軸上の第2の方向」とは、そのフォーカス位置を撮像センサへ近づけるようなフォーカスレンズの移動方向である。
【0056】
ステップS7において後ピント状態でない場合には、ポイントFAを別のポイントへ設定するか否かを判断する(ステップS10)。例えば、ユーザに対して指示を求め、そのユーザからの指示に基づいて判断してもよい。あるいは、フォーカス制御部80が判断を行うこととし、ポイントFAの更新を所定回数くり返しても合焦方向を判定できない場合には、ポイントFAの更新をしないこととしてもよい。ステップS7においてポイントFAを別のポイントへ設定すると判断した場合には、ステップS1を再び実行し、ポイントFAを別のポイントへ設定しないと判断した場合には、このフローの処理を終了する。
【0057】
このフォーカス制御処理によれば、フォーカス位置が光軸上のどちらの方向にあるかを合焦方向の判定結果から知ることができるので、その方向へフォーカスレンズを動かし、高速に合焦させることができる。また、フォーカスレンズの移動量は、位相差画像の位相差(ずれ量)により求めることができる。この位相差は相関演算により求められるが、撮像画像上において位相差画像をどちらの方向に動かせば相互に近づくかを、合焦方向の判定結果から知ることができるので、相関係数のピークを効率的に求めることができる。
【0058】
以上の実施形態によれば、
図4に示すように、撮像装置は撮像光学系(結像レンズLNS、光学フィルタFLT)と撮像素子(撮像部10)と位相差画像生成部20と合焦方向判定部60とを含む。撮像光学系は、第1被写体像(右瞳を通過した被写体像)と、第1被写体像に対して視差を有する第2被写体像(左瞳を通過した被写体像)とを結像する。撮像素子は、第1被写体像と第2被写体像とを撮像し、撮像画像を取得する。位相差画像生成部20は、その撮像画像に基づいて、第1被写体像に対応する第1画像I
R(x)(右瞳画像)と第2被写体像に対応する第2画像I
L(x)(左瞳画像)とを生成する。合焦方向判定部60は、撮像画像I(x)の画素値と、第1画像I
R(x)及び第2画像I
L(x)のうち少なくとも一方である比較画像(例えばI
L(x))の画素値とを比較することにより、撮像光学系の合焦方向を判定する。
【0059】
ここで「視差」とは、被写体と観測点(本実施形態では光学系の瞳)の相対的な位置の違いによって、結像の位置が変化する(ずれる)ことである。
【0060】
このようにすれば、前ピント状態であるか後ピント状態であるかを判定することができ、その判定結果に対応して、第1画像I
R(x)と第2画像I
L(x)のずれ方向を知ることができる。これにより、どの方向に第1画像I
R(x)と第2画像I
L(x)を動かせば相関値のピークを検出できるかが分かるため、効率的に相関演算できる。即ち、第1画像I
R(x)と第2画像I
L(x)をずらす方向を探索しなくてもよい。また、合焦方向の判定結果によって、フォーカス駆動の方向を知ることができるため、高速な位相差AFを実現できる。また、この位相差AFでは、撮像系と別に位相差検出用の光路を設ける必要がないため、光学系をコンパクトにできる。
【0061】
また本実施形態では、
図2(A)等で説明したように、合焦方向判定部60は、第1画像I
R(x)と第2画像I
L(x)が視差によりずれる方向を視差方向(+x方向)とする場合に、撮像画像I(x)の画素値が視差方向に増加又は減少する領域(Ra又はFa)を特定する。上式(5)〜(7)で説明したように、合焦方向判定部60は、その特定した領域における撮像画像I(x)の画素値と比較画像I
L(x)の画素値との大小関係に基づいて、撮像光学系から見て被写体よりも近い位置にフォーカスが合った状態である後ピント状態であるか、撮像光学系から見て被写体よりも遠い位置にフォーカスが合った状態である前ピント状態であるかを判定する。
【0062】
より具体的には、撮像光学系は、第1被写体像を通過させる第1瞳(右瞳)と第2被写体像を通過させる第2瞳(左瞳)とを有する。視差方向は、第1瞳から第2瞳に向かう方向(+x方向)である。合焦方向判定部60は、撮像画像I(x)の画素値が視差方向に増加する領域Raにおいて、第1画像I
L(x)の画素値が撮像画像I(x)の画素値よりも大きい場合には前ピント状態であると判定し、第1画像I
L(x)の画素値が撮像画像I(x)の画素値よりも小さい場合には後ピント状態であると判定する。
【0063】
このようにすれば、撮像画像I(x)の画素値と比較画像I
L(x)の画素値とを比較することにより、撮像光学系の合焦方向を判定できる。また、
図2(A)等で説明したように、撮像画像I(x)の画素値が増加する領域Raと減少する領域Faでは、撮像画像I(x)の画素値と比較画像I
L(x)の大小関係が異なっている。この点、本実施形態によれば、合焦方向を判定したい位置が、増加領域Ra及び減少領域Faのいずれに属するのかを特定でき、その特定した領域での大小関係に基づいて合焦方向を判定できる。
【0064】
3.第2実施形態
3.1.撮像装置
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、RGB画像から5バンドの画像を推定し、その5バンドの画像のうち、右瞳に対応するバンドの画像から右瞳画像I
Rを生成し、左瞳に対応するバンドの画像から左瞳画像I
Lを生成する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一の内容(例えば撮像光学系の基本構成や、合焦方向判定手法など)については、適宜説明を省略する。
【0065】
図6に、第2実施形態における撮像装置の構成例を示す。この撮像装置は、結像レンズLNS、光学フィルタFLT、撮像部10、位相差画像生成部20、出力部25、表示画像生成部30、モニタ表示部40、分光特性記憶部50、合焦方向判定部60、マルチバンド推定部70、フォーカス制御部80、位相差検出部82、データ圧縮部90、データ記録部100を含む。なお、本実施形態は
図6の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略(例えば出力部25、データ圧縮部90)したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。
【0066】
撮像部10は、撮像素子と撮像処理部を含むことができる。撮像素子は、例えばRGB3原色の撮像素子であり、結像レンズLNS及び光学フィルタFLTによって結像された被写体を撮像する。撮像処理部は、撮像動作の制御や、アナログの画素信号をA/D変換する処理、ベイヤ画像に対するデモザイキング処理などを行う。
【0067】
分光特性記憶部50は、撮像素子がもつカラーフィルタの分光特性のデータを記憶しており、そのデータをマルチバンド推定部70に出力する。ここで、撮像されるRGB成分は、厳密にはカラーフィルタのみならず撮像素子の分光感度特性や、結像レンズLNSの分光特性によって決まるものである。即ち、分光特性記憶部50は、撮像素子や結像レンズLNSの分光特性を含んだ分光特性のデータを記憶する。
【0068】
マルチバンド推定部70は、撮像画像と分光特性のデータとに基づいてマルチバンド推定処理を行う。具体的には、
図7に示すように、撮像センサのカラーフィルタがもつ波長域を5バンド{r
L,r
R,g,b
L,b
R}に分割する。光学フィルタFLTの右瞳は帯域{r
R,g,b
R}を透過し、左瞳は帯域{r
L,g,b
L}を透過する。マルチバンド推定部70は、撮像画像I(x)のRGB画素値から5バンド{r
L,r
R,g,b
L,b
R}の画素値を推定する。
【0069】
位相差画像生成部20は、5バンド{r
L,r
R,g,b
L,b
R}の画素値から、右瞳画像I
R={r
R,g,b
R}と左瞳画像I
L={r
L,g,b
L}を生成する。この2画像を位相差画像とする。
【0070】
合焦方向判定部60は、位相差画像I
R、I
Lの同色成分{r
R,r
L}(即ち、I
R、I
LのR画素値)に対して、上述の合焦方向判定手法を適用し、前ピント状態であるか後ピント状態であるかを判定する。上述の合焦方向判定手法では、撮像画像I(x)のR画素値と左瞳画像I
L(x)のR画素値を比較することになるが、撮像画像I(x)のR画素値としては、撮像部10が出力するRGB画像のR画素値を用いてもよいし、位相差画像I
R、I
LのR画素値の平均値を用いてもよい。なお、同色成分として{b
R,b
L}(即ち、I
R、I
LのB画素値)を用いてもよい。
【0071】
位相差検出部82は、合焦方向に対応した方向に位相差画像I
R、I
Lをずらしながら相関演算を行い、位相差を検出する。具体的には、
図2(A)のような後ピント状態と判定された場合には、右瞳画像I
R(x)を−x方向に、又は左瞳画像I
L(x)を+x方向にずらせばよい。一方、
図2(B)のような前ピント状態と判定された場合には、右瞳画像I
R(x)を+x方向に、又は左瞳画像I
L(x)を−x方向にずらせばよい。なお、第2実施形態では、第1実施形態で説明した
図5のフローチャートのステップS4、S5、S7、S8を、位相差検出部82が実行する。
【0072】
このように、合焦方向の判定結果により位相差画像I
R、I
Lの相対的な位置関係が分るので、位相差を求めるための相関演算の方向(どちらに近づけていくか)が容易に分り、無駄のない計算が可能となる。
【0073】
フォーカス制御部80は、検出された位相差の情報に基づいてオートフォーカス制御を行う。具体的にはフォーカス制御部80は、フォーカス制御量算出部84、フォーカスレンズ駆動制御部86を含む。フォーカス制御量算出部84は、位相差の情報に基づいて結像レンズLNSのデフォーカス量を算出し、そのデフォーカス量と合焦方向の情報に基づいてフォーカス制御量(結像レンズLNSの移動量と移動方向)を算出する。フォーカスレンズ駆動制御部86は、結像レンズLNSの移動量及び移動方向に基づいてフォーカスレンズを移動させる制御を行う。
【0074】
このように、合焦方向を瞬時に判定できることにより、従来のコントラストAFのようにレンズを前後に動かしながらフォーカスレンズの移動方向を探索する必要がなく、無駄のない効率的なフォーカス駆動が可能となる。また、フォーカス制御だけでなく、測距情報を高速に求めることにも利用できる。即ち、相関演算の方向が容易に分ると言うことは、フォーカス位置までの距離や被写体までの距離(3次元情報)を高速に求めることができるということである。
【0075】
表示画像生成部30は、5バンド{r
L,r
R,g,b
L,b
R}の画素値から表示用のRGB画像を生成する。例えば{r
R,g,b
R}の画素値をRGB画像とする。モニタ表示部40は、表示画像生成部30が生成した画像を表示する。
【0076】
出力部25は、位相差画像生成部20が生成した位相差画像I
R、I
Lや、位相差検出部82が検出した位相差の情報、合焦方向判定部60が判定した合焦方向の情報を、出力する処理を行う。出力処理としては、例えば外部記憶装置への保存や、外部モニタへの表示、外部情報処理装置への出力などが想定される。外部情報処理装置では、例えば、位相差の情報や合焦方向の情報に基づいて被写体の3次元情報を求める。また、出力部25がその3次元情報を求めてモニタ表示部40に表示させてもよい。
【0077】
データ圧縮部90は、撮像部10からのRGB画像を圧縮する処理を行う。データ記録部100は、圧縮されたRGB画像データと、カラーフィルタの分光特性データとを記録する。これらの記録データは、撮影後の事後処理においてマルチバンド推定処理や位相差検出処理に用いることが可能である。なお、この事後処理は、撮像装置と別体に構成された情報処理装置で行ってもよい。
【0078】
3.3.マルチバンド推定処理
3.3.1.バンド分割手法
次に、撮像画像から位相差画像を取得するためのマルチバンド推定処理について詳細に説明する。なお以下では、RGBベイヤ配列の撮像素子を例に説明するが、本実施形態はこれに限定されず、カラーフィルタの透過率特性に重なり部分がある撮像素子でさえあればよい。
【0079】
図7にバンド分割についての説明図を示す。
図7に示すように、5バンドの成分b
R、b
L、g、r
R、r
Lは、撮像系の分光特性に応じて定まる成分である。
図7には、撮像系の分光特性として、撮像センサのカラーフィルタの透過率特性F
R、F
G、F
Bを示すが、厳密には、撮像系の分光特性は、例えばカラーフィルタを除いた撮像センサがもつ分光特性や、光学系のもつ分光特性等も含んでいる。以下では説明を簡単にするため、撮像センサ等の分光特性が、
図7に示すカラーフィルタの透過率特性F
R、F
G、F
Bに含まれるものとする。
【0080】
図7に示すように、青色フィルタの透過率特性F
Bと緑色フィルタの透過率特性F
Gとの重なり部分に対応するバンドの成分がb
Lであり、青色フィルタの透過率特性F
Bの非重なり部分に対応するバンドの成分がb
Rである。また、赤色フィルタの透過率特性F
Rと緑色フィルタの透過率特性F
Gとの重なり部分に対応するバンドの成分がr
Rであり、赤色フィルタの透過率特性F
Rの非重なり部分に対応するバンドの成分がr
Lである。また、緑色フィルタの透過率特性F
Gの非重なり部分に対応するバンドの成分がgである。ここで、非重なり部分とは、他の色フィルタの透過率特性と重なっていない部分のことである。
【0081】
5バンドの帯域BD1〜BD5は、透過率特性F
R、F
G、F
Bの形状や重なり具合などに応じて決定すればよく、透過率特性の帯域や重なり部分の帯域そのものである必要はない。例えば、透過率特性F
G、F
Bの重なり部分の帯域は、およそ450nm〜550nmであるが、帯域BD2は重なり部分に対応するものであればよく、450nm〜550nmである必要はない。
【0082】
第2の実施形態では、
図1の右瞳フィルタFL1には、透過波長域f
Rとしてバンド{b
R,g,r
R}を割り当て、左瞳フィルタFL2には、透過波長域f
Lとしてバンド{b
L,g,r
L}を割り当てる。
図7に示すように、右瞳を通過した波長分割光{b
R,g,r
R}と、左瞳を通過した波長分割光{b
L,g,r
L}は、波長帯域が明確に分離されている。一方、撮像素子のカラーフィルタの分光特性{F
R,F
G,F
B}は、隣接する分光特性の波長帯域が重複した特性となっている。この重複状態を考慮すると、デモザイキング処理後の各画素における赤色、緑色、青色の画素値R、G、Bを、下式(9)のようにモデル化することができる。
R=g
R+r
RR+r
LR,
G=b
LG+g
G+r
RG,
B=b
RB+b
LB+g
B (9)
【0083】
図8(C)に示すように、成分{b
RB,b
LB,g
B}は、分光特性F
Bの青色フィルタを通過した波長分割光{b
R,b
L,g}に対応する。
図8(D)に示すように、成分{b
LG,g
G,r
RG}は、分光特性F
Gの緑色フィルタを通過した波長分割光{b
L,g,r
R}に対応する。また、
図10(D)に示すように、成分{g
R,r
RR,r
LR}は、分光特性F
Rの赤色フィルタを通過した波長分割光{g,r
R,r
L}に対応する。各成分を表す符号の上付きサフィックスは、右瞳「R」及び左瞳「L」のいずれを通過したかを表し、下付サフィックスは、赤色フィルタ「R」、緑色フィルタ「G」、青色フィルタ「B」のいずれを通過したかを表している。
【0084】
3.3.2.{b
R,b
L,(g+r
R)}の推定処理
次に、
図8(A)〜
図9を用いて、画素値{R,G,B}から成分{b
RB,b
LB,g
B}、{b
LG,g
G,r
RG}、{g
R,r
RR,r
LR}を推定する処理について説明する。
【0085】
まず上式(9)を用いて、画素値{B,G}で重複している波長帯域{b
L,g}を、画素値{B,G}の差分に基づいて取り除き、成分b
Rと成分[g+r
R]の関係を求めることにより成分{b
R,b
L,(g+r
R)}の関係式を導き出す処理を行う。
【0086】
ここで注意しなければならないのは、
図8(A)〜
図8(D)に示すように、波長帯域b
Lに対応するのは画素値Bの成分b
LB及び画素値Gの成分b
LGであるが、成分b
LB、b
LGには、分光特性F
B、F
Gの相対ゲインが乗じられていることである。そのため、成分b
LB、b
LGは、相対ゲインの分だけ異なる値であり、成分b
LB、b
LGが等しくなるように補正する必要がある。
【0087】
図8(C)、
図8(D)に示すように、画素値Gを基準(例えば「1」)として、(b
LB+g
B)の成分比をk
B1とし、b
LGの成分比をk
B2とすると、下式(10)が成り立つ。ここで、k
B1/k
B2は、例えば帯域b
Lにおける分光特性F
B、F
Gのゲイン比である。
b
LB+g
B=(k
B1/k
B2)×b
LG (10)
【0088】
帯域b
L、gにおける分光特性F
Bのゲインを考慮すると、成分g
Bは成分b
LBよりも十分小さいと考えられるため、成分b
LB、b
LGを等しくするためには、成分(b
LB+g
B)と成分b
LGがほぼ等しくなればよい。成分(b
LB+g
B)を補正した値を(b
LB’+g
B’)とすると、上式(10)を用いて下式(11)に示す補正を行えばよい。
b
LB’+g
B’≒b
LG=(k
B2/k
B1)×(b
LB+g
B) (11)
【0089】
成分(b
LB+g
B)は画素値Bに含まれるため、成分(b
LB+g
B)を補正するためには、結局、画素値Bを補正することになる。この補正後のBをB’とすると、下式(12)の関係が得られる。
B’=(k
B2/k
B1)B (12)
【0090】
上式(12)より、B’の成分{b
RB’,b
LB’,g
B’}は下式(13)となる。
b
RB’=(k
B2/k
B1)×b
RB,
b
LB’+g
B’≒b
LG (13)
【0091】
上式(9)、(13)より、画素値B’と画素値Gを成分{b
RB’,b
LG,g
G,r
RG}を用いて表すと、下式(14)のようになる。
B’=b
RB’+(b
LB’+g
B’)=b
RB’+b
LG,
G =b
LG+(g
G+r
RG) (14)
【0092】
次に、下式(15)に示すように、補正後の画素値B’と画素値Gの差分を取ることにより、重複した成分b
Lを取り除く。また上式(14)より下式(16)が成り立つ。
B’−G=[b
RB’+b
LG]−[b
LG+g
G+r
RG]
=b
RB’−(g
G+r
RG) (15)
b
LG=B’−b
RB’ (16)
【0093】
b
RB’を未知数(支配変数)とすると、上式(15)、(16)より{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}の関係式を下式(17)のように求められる。
b
RB’=未知数(支配変数)
b
LG=B’−b
RB’
g
G+r
RG=b
RB’−(B’−G) (17)
【0094】
{B’,G}は検出された既知の値であるので、上式(17)に基づき未知数b
RB’が決まれば、{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}が全て決まることになる。即ち、{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}の尤度パターンを特定することができる。
【0095】
図9に、この関係を原理的に表した図を示す。
図9に示すように、未知数b
RB’として、{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}と{B’/2,G/2}の誤差が最小になる値を求める。即ち、下式(18)に示す誤差の評価値E
BGが最小になる場合のb
RB’を求め、求めたb
RB’を上式(17)に代入することにより、{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}の値を決定する。
e
B=(B’/2−b
RB’)
2+(B’/2−b
LG)
2,
e
G=(G/2−b
LG)
2+(G/2−(g
G+r
RG))
2,
E
BG=e
B+e
G (18)
【0096】
以上のようにして、各画素の2バンド画素値{B’,G}から成分{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}を推定することができる。
【0097】
なお、上記では{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}と{B’/2,G/2}の誤差が最小となる場合のb
RB’を求めたが、本実施形態では、{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}と{α
BB’,α
GbG}の誤差が最小となる場合のb
RB’を求めてもよい。ここで、α
B、α
Gbは、下式(19)を満たす値である。α
Bは、B’に対する{b
RB’,b
LG}の平均的な値を算出するためのものであり、α
Gbは、Gに対する{b
LG,(g
G+r
RG)}の平均的な値を算出するためのものである。これらは、
図7に示すような撮像素子のカラーフィルタ特性から{b
RB’,b
LG}及び{b
LG,(g
G+r
RG)}の成分比を考慮して決定すればよい。
0<α
B≦1,0<α
Gb≦1 (19)
【0098】
3.3.3.{(b
L+g),r
R,r
L}の推定処理
次に、画素値{G,R}から成分{(b
L+g),r
R,r
L}を推定する処理について説明する。
【0099】
上式(9)を用いて、画素値{G,R}で重複している波長帯域{g,r
R}を、画素値{G,R}の差分に基づいて取り除き、成分[b
L+g]と成分r
Lの関係を求めることにより成分{(b
L+g),r
R,r
L}の関係式を導き出す処理を行う。
【0100】
図10(A)〜
図10(D)に示すように、波長帯域r
Rに対応するのは画素値Gの成分r
RG及び画素値Rの成分r
RRであるが、成分r
RG、r
RRには、分光特性F
G、F
Rの相対ゲインが乗じられている。そのため、成分r
RG、r
RRは、相対ゲインの分だけ異なる値であり、成分r
RG、r
RRが等しくなるように補正する必要がある。
【0101】
図10(C)、
図10(D)に示すように、画素値Gを基準(例えば「1」)として、(g
R+r
RR)の成分比をk
R1とし、r
RGの成分比をk
R2とすると、下式(20)が成り立つ。k
R1/k
R2は、例えば帯域r
Rにおける分光特性F
G、F
Rのゲイン比である。
g
R+r
RR=(k
R2/k
R1)×r
RG (20)
【0102】
帯域g、r
Rにおける分光特性F
Rのゲインを考慮すると、成分g
Rは成分r
RRよりも十分小さいと考えられるため、成分r
RG、r
RRを等しくするためには、成分(g
R+r
RR)と成分r
RGがほぼ等しくなればよい。成分(g
R+r
RR)を補正した値を(g
R’+r
RR’)とすると、上式(20)を用いて下式(21)に示す補正を行えばよい。
g
R’+r
RR’≒r
RG=(k
R2/k
R1)×(g
R+r
RR) (21)
【0103】
成分(g
R+r
RR)は画素値Rに含まれるため、成分(g
R+r
RR)を補正するためには、結局、画素値Rを補正することになる。この補正後のRをR’とすると、下式(22)の関係が得られる。
R’=(k
R2/k
R1)R (22)
【0104】
上式(22)より、R’の成分{g
R’,r
RR’,r
LR’}は下式(23)となる。
g
R’+r
RR’≒r
RG,
r
LR’=(k
R2/k
R1)×r
LR (23)
【0105】
上式(9)、(23)より、画素値Gと画素値R’を成分{b
LG,g
G,r
RG,r
LR’}を用いて表すと、下式(24)のようになる。
G =b
LG+(g
G+r
RG),
R’=(g
R’+r
RR’)+r
LR’=r
RG+r
LR’ (24)
【0106】
次に、下式(25)に示すように、画素値Gと補正後の画素値R’の差分を取ることにより、重複した成分r
Rを取り除く。また上式(24)より下式(26)が成り立つ。
G−R’=[b
LG+g
G+r
RG)]−[r
RG+r
LR’]
=(b
LG+g
G)−r
LR’ (25)
r
RG=R’−r
LR’ (26)
【0107】
r
LR’を未知数(支配変数)とすると、上式(25)、(26)より{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}の関係式を下式(27)のように求められる。
r
LR’=未知数(支配変数),
r
RG=R’−r
LR’,
b
LG+g
G=r
LR’+(G−R’) (27)
【0108】
{G,R’}は検出された既知の値であるので、上式(27)に基づき未知数r
LR’が決まれば、{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}が全て決まることになる。即ち、{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}の尤度パターンを特定することができる。
【0109】
図11に、この関係を原理的に表した図を示す。
図11に示すように、未知数r
LR’として、{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}と{G/2,R’/2}の誤差が最小になる値を未知数r
LR’として求める。即ち、下式(28)に示す誤差の評価値E
GRが最小になる場合のr
LR’を求め、求めたr
LR’を上式(27)に代入することにより、{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}の値を決定する。
e
G=(G/2−(b
LG+g
G))
2+(G/2−r
RG)
2,
e
G=(R’/2−r
RG)
2+(R’/2−(r
LR’))
2,
E
GR=e
G+e
R (28)
【0110】
以上のようにして、各画素の2バンド画素値{G,R’}から成分{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}を推定することができる。
【0111】
なお、上記では{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}と{G/2,R’/2}の誤差が最小となる場合のr
LR’を求めたが、本実施形態では、{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}と{α
GrG,α
RR’}の誤差が最小となる場合のr
LR’を求めてもよい。ここで、α
R、α
Grは、下式(29)を満たす値である。α
Rは、R’に対する{r
LR’,r
RG}の平均的な値を算出するためのものであり、α
Grは、Gに対する{r
RG,(b
LG+g
G)}の平均的な値を算出するためのものである。これらは、
図7に示すような撮像素子のカラーフィルタ特性から{r
LR’,r
RG}及び{r
RG,(b
LG+g
G)}の成分比を考慮して決定すればよい。
0<α
R≦1,0<α
Gr≦1 (29)
【0112】
3.3.4.成分値の算出処理、右瞳画像と左瞳画像の取得処理
次に、上記で求めた値{b
RB’,b
LG,(g
G+r
RG)}、{r
LR’,r
RG,(b
LG+g
G)}を用いて、画素値Bを構成する成分{b
RB,b
LB}の値と、画素値Gを構成する成分{b
LG,g
G,r
RG}の値と、画素値Rを構成する成分{r
RR,r
LR}の値とを算出する。
【0113】
b
RB,r
LRは、上式(13)、(23)より、下式(30)のように求められる。
b
RB=(k
B1/k
B2)×b
RB’,
r
LR=(k
R1/k
R2)×r
LR’ (30)
【0114】
b
LB,r
RRは、g
B≪b
RB,g
R≪r
LRであること及び上式(9)より、下式(31)のように求められる。
b
LB=B−(b
RB+g
B)≒B−b
RB,
r
RR=R−(r
LR+g
R)≒R−r
LR (31)
【0115】
b
LG,r
RGは、上式(9)より、下式(32)のように求められる。
b
LG=G−(g
G+r
RG),
r
RG=G−(g
G+b
LG) (32)
【0116】
g
Gは、上式(9)、(32)より、下式(33)のように求められる。
g
G=G−(b
LG+r
RG) (33)
【0117】
右瞳画像I
Rと左瞳画像I
LのR、G、B成分は、上記で求めた成分から下式(34)のように分離する。
I
R=(r
RR,r
RG,b
RB),I
L=(r
LR,b
LG,b
LB) (34)
【0118】
以上の実施形態によれば、光学フィルタFLTは、撮像光学系の瞳を、第1瞳(例えば右瞳)と、第1瞳とは透過波長帯域が異なる第2瞳(左瞳)とに分割する。
図7で説明したように、撮像素子は、第1透過率特性F
Bを有する第1色(例えば青色)フィルタと、第2透過率特性F
Gを有する第2色(緑色)フィルタと、第3透過率特性F
Rを有する第3色(赤色)フィルタとを含む。マルチバンド推定部70は、第1〜第3透過率特性{F
B,F
G,F
R}の重なり部分及び非重なり部分に対応する第1〜第5バンドBD1〜BD5を設定し、撮像画像を構成する第1〜第3色の画素値{R,G,B}に基づいて第1〜第5バンドの成分値{b
R,b
L,g,r
R,r
L}を推定する。位相差画像生成部20は、第1〜第5バンドBD1〜BD5のうち第1瞳の透過波長帯域に対応するバンドの成分値を第1画像(右瞳画像)I
R=(r
RR,r
RG,b
RB)として取得し、第1〜第5バンドのうち第2瞳の透過波長帯域に対応するバンドの成分値を第2画像(左瞳画像)I
L=(r
LR,b
LG,b
LB)として取得する。
【0119】
このようにすれば、第1〜第3色の画素値で構成される画像から5バンドの成分値を推定し、その成分値を第1画像と第2画像に分離することができる。そして、第1画像と第2画像の画素値を比較することにより、合焦方向(第1画像と第2画像のずれ方向)を判定できる。また、通常のRGB撮像素子を用いることが可能となるため、位相差検出用画素による画素欠陥や、1色当たりの割り当て画素数の減少等が起きず、位相差の検出精度や画像の解像度が低下しない。また、第1瞳と第2瞳でそれぞれ複数色を透過するように設定すれば、デフォーカス画像領域における色ずれの抑制や、色が偏った被写体における位相差検出精度の向上を、実現できる。
【0120】
また本実施形態では、
図7で説明したように、マルチバンド推定部70は、第1透過率特性F
Bの非重なり部分に対応する第1バンドBD1と、第1透過率特性F
Bと第2透過率特性F
Gとの重なり部分に対応する第2バンドBD2と、第2透過率特性F
Gの非重なり部分に対応する第3バンドBD3と、第2透過率特性F
Gと第3透過率特性F
Rとの重なり部分に対応する第4バンドBD4と、第3透過率特性F
Rの非重なり部分に対応する第5バンドBD5とを設定する。
【0121】
ここで、透過率特性の重なり部分とは、
図7に示すように波長軸に対して透過率特性を表した場合に、波長軸上で隣り合う透過率特性が重なっている領域のことである。重なり部分は、透過率特性が重なっている領域そのもの、あるいは透過率特性の帯域が重なっている帯域で表される。また、透過率特性の非重なり部分とは、他の透過率特性と重なっていない部分のことである。即ち、透過率特性から重なり部分を除いた部分のことである。なお、重なり部分又は非重なり部分に対応するバンドは、重なり部分又は非重なり部分の帯域そのものに限定されず、重なり部分又は非重なり部分に対応して設定されたバンドであればよい。例えば、所定の透過率と透過率特性が交わる波長でバンドを分割し、第1〜第5バンドを設定してもよい。
【0122】
このようにすれば、撮像画像の第1〜第3色の画素値{R,G,B}から第1〜第5のバンド成分値{b
R,b
L,g,r
R,r
L}を推定することが可能となる。即ち、上式(9)で説明したように、透過率特性が隣り合う画素値(例えばB、G)には重なり部分の成分値(b
L)が含まれる。この重なり部分の成分値(b
L)を、上式(15)のように画素値の差分(B’−G)により消去することで、上式(17)のように成分値の関係式を求め、その関係式に基づいて成分値を推定することが可能となる。
【0123】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また撮像光学系、撮像装置等の構成・動作や、合焦方向判定手法、フォーカス制御手法、マルチバンド推定手法等も本実施形態で説明したものに限定に限定されず、種々の変形実施が可能である。