(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本願の発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称す)を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置を
図1〜
図3を参照して説明する。
【0011】
[モータ制御装置の構成:その1]
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置11の内部の構成と、このモータ制御装置11と直流電源12と3相交流同期電動機(適宜「モータ」もしくは「3相モータ」と略す)13と負荷(ファン)14との関連を示す図である。
図1において、モータ制御装置11は、DC−AC電力変換器であるインバータ15とインバータ15を制御する制御装置17とを備えて構成されている。
また、制御装置17は、PWM(Pulse Width Modulation)パルス生成部24とベクトル制御部21と高次成分生成部22と電圧加算部23とを備えて構成されている。
第1実施形態のモータ制御装置11の特徴は、制御装置17に高次成分生成部22を備え、制御装置17がインバータ15をPWM制御する際に、高次成分生成部22から電圧加算部23へ誘起電圧の高次成分を加算することである。この方法によって、モータ13と負荷であるファン14の共鳴による騒音を除去するものである。
この共鳴による騒音を除去する方法を特徴とする第1実施形態のモータ制御装置11の詳細を説明する前に、モータとファンの共鳴による騒音について先に説明し、その後、あらためて、
図1の第1実施形態のモータ制御装置11について詳細に説明する。
【0012】
<ファンの騒音について>
モータ13(
図1)でファン14(
図1)を駆動した際のファン14の発生する騒音について説明する。
図4は、ファン14の騒音の回転数に対する特性の一例を示す図である。なお、
図2、
図3については、後で説明する。
図4において、横軸は回転数[min
−1]であり、縦軸は騒音[dB]である。なお、回転数[min
−1]とは回転数/分である。また、rpm(rotation per minute)に相当する。また、以下においては、例えば510回転数/分を510min
−1とのように簡略化して表記するものとする。
ファン14の騒音は、
図4で、250min
−1、510min
−1、650min
−1のようにファン14の特定の回転数の付近に出現している。
次に、これらの複数の特定の回転数における周波数スペクトルを
図5〜
図8に示す。
【0013】
図5は、モータ13の回転数が450min
−1におけるファン14の騒音の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0014】
図6は、モータ13の回転数が510min
−1におけるファン14の騒音の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0015】
図7は、モータ13の回転数が600min
−1におけるファン14の騒音の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0016】
図8は、モータ13の回転数が650min
−1におけるファン14の騒音の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0017】
以上の
図5〜
図8において、横軸は周波数[Hz]であり、縦軸は騒音[dB]を表記している。また、横軸においては、1/3オクターブ単位で測定点をとっている。したがって200Hzの測定点から3番目の測定点は400Hzであるが、測定の際の設定上の端数の蓄積から398Hzとなっている。同様に794Hz、1585Hz、3162Hz、6310Hz、12589Hzは、それぞれ順に800Hz、1600Hz、3200Hz、6400Hz、12800Hzに対応するものである。
【0018】
図5〜
図8の周波数解析結果において、
図5の450min
−1と
図7の600min
−1とにおいては、騒音が突出した測定点はみられない。
しかし、
図6の510min
−1においては、200Hzと316Hzに騒音が突出した測定点がある。また、
図8の650min
−1においては、251Hzに騒音が突出した測定点がある。
このように、ファン14とモータ13の共振音は200〜300Hz付近に出現する。
また、回転数510min
−1を基準とすれば、モータが3相交流同期電動機であるので、モータの極数が8極であれば、モータの電気周波数は34Hz[510/{60×(2/8)}]である。この34Hzを基本周波数として6次成分の204Hz(34×6、
図6の200Hzに対応)と9次成分の306Hz(34×9、
図6の316Hzに対応)付近の加振トルクにより音が発生していることがわかる。
したがって、ファン14とモータ(モータのロータ)13との共振音を消去するには、これらの高次成分への対策をとることになる。
【0019】
[モータ制御装置の構成:その2]
図1の本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置11の構成について、あらためて詳細に説明する。
【0020】
<モータ制御装置と直流電源、モータ、ファンとの関連>
前記したように、
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置11の構成と、直流電源12とモータ13とファン(負荷)14との関連を示す図である。
図1において、モータ制御装置11は、直流電源12から直流電力を受けて、3相交流電力に変換する。また、モータ(3相交流同期電動機)13は、モータ制御装置11から3相交流電力を供給され、駆動制御されて回転し、ファン14を回転駆動させる。
次に、モータ制御装置11の、詳細について説明する。
【0021】
<モータ制御装置>
図1において、前記したように、モータ制御装置11は、直流電力を可変電圧可変周波数の3相交流電力に変換するインバータ15(電力変換器)とインバータ15を制御する制御装置17とを備えて構成されている。また、直流母線電流検出回路16をインバータ15の直流電源に備えている。
【0022】
《インバータ》
また、インバータ15は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子と逆並列に接続されたダイオード素子から構成された電力変換主回路51と、後記するPWMパルス生成部24からのPWMパルス信号17Aに基づいて電力変換主回路51のIGBT(Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swn)へのゲート信号を発生するゲート・ドライバ52とを備えて構成されている。
IGBTが直列に接続されてレッグを構成するIGBT(Sup、Sun)は、直流電源12の間に接続され、それぞれの上アーム(Sup)と下アーム(Sup)の接続点は、U相の交流出力端子となっている。
【0023】
同様に直列に接続されてレッグを構成するIGBT(Svp、Svn)は、直流電源12の間に接続され、それぞれの上アーム(Svp)と下アーム(Svn)の接続点は、V相の交流出力端子となっている。
また、直列に接続されてレッグを構成するIGBT(Swp、Swn)は、直流電源12の間に接続され、それぞれの上アーム(Swp)と下アーム(Swn)の接続点は、W相の交流出力端子となっている。
以上のIGBT(Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swn)を制御装置17がゲート・ドライバ52を介して、適切に制御をすることにより、直流電源12の直流電力は、可変電圧可変周波数の3相交流電力(3相交流電圧Vu,Vv,Vw、三相交流電流Iu,Iv,Iw)が前記のU相、V相、W相の交流出力端子から出力される。
【0024】
《制御装置》
また、制御装置17は、PWMパルス生成部24とベクトル制御部21と高次成分生成部22と電圧加算部23とを備えて構成されている。
ベクトル制御部21は、直流母線電流検出回路16で検出された直流母線電流情報(適宜「相電流の情報」と表記する)16Aをもとに前記永久磁石同期モータ13への基本波印加電圧指令21Bと前記永久磁石同期モータ13のモータ回転数・位相情報21Aを算出する。
また、高次成分生成部22は、前記モータ回転数・位相情報(回転情報)21Aをもとに、前記永久磁石同期モータ13の誘起電圧の高次成分22Aを電圧加算部23へ出力する。
また、電圧加算部23は、前記の基本波印加電圧指令21Bに前記の誘起電圧の高次成分22Aを加算して印加電圧指令23Aを出力する。
【0025】
また、PWMパルス生成部24は、前記の印加電圧指令23Aと内部に有するキャリア信号を基づき、インバータ15をパルス幅制御するPWMパルス信号17Aへ変換する。
なお、ベクトル制御部21のベクトル制御は、例えば、非特許文献1としての「「高速用永久磁石同期モータの新ベクトル制御方式の検討」電学論D、 Vol.129 (2009) No.1 pp.36-45」や、非特許文献2としての「「家電機器向け位置センサレス永久磁石同期モータの簡易ベクトル制御」 電学論D、 Vol.124 (2004) No.11 pp.1133-1140」に示されている方式を用いることで実現可能である。
【0026】
《直流母線電流検出回路》
直流母線電流検出回路16は、直流電源12の負側の直流母線に接続され、U相、V相、W相の脈流が混載した直流母線電流I
DCから相電流情報を取得する。取得された相電流情報は、直流母線電流情報(相電流の情報)16Aとして、ベクトル制御部21へ出力される。
なお、相電流情報の取得する方法は、例えば、特許文献3として特開2004−48886号に開示されている方式などで可能である。
【0027】
[高次成分生成部と電圧加算部の動作]
第1実施形態では、騒音を低減するため以下に示す誘起電圧の高次成分生成部22と電圧加算部23により、高次成分を印加する構成をとっている。
以下において、誘起電圧の高次成分22Aを生成する高次成分生成部22と、高次成分22Aを基本波印加電圧指令21Bへ加算する電圧加算部23の動作を、
図2、
図3、
図17、
図18を参照して説明する。
【0028】
<高次成分の生成>
高次成分生成部22では、あらかじめ設定した後記する(式1)、(式2)におけるGとφの値を用いて前記モータ回転数・位相情報21Aをもとに高次成分を生成し、高次成分22Aを電圧加算部23へ出力する。
【0029】
<印加電圧への加算>
電圧加算部23では、ベクトル制御部21が出力した基本波印加電圧指令21Bと、高次成分生成部22が出力した誘起電圧の高次成分22Aとを加算し、PWMパルス生成部24へ出力する。
具体的な構成としては、回転座標系での加算と、固定座標系での加算とがある。次に、これらの方法について順に説明する。
【0030】
《回転座標系での加算》
回転座標系での加算の方式について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の第1実施形態において、高次成分生成部22の高次成分(誘起電圧の高次成分22A)をベクトル制御部21の基本波(基本波印加電圧指令21B)へ、電圧加算部23で、回転座標系を用いて加算する方法を示す図である。
図2において、ベクトル制御部21は、相電流の情報16Aに基づき、モータ回転子の磁石磁束方向(d軸)を基準とし、このd軸と直角方向(q軸)とによる回転座標系であるdq座標軸上において、基本波印加電圧指令21B(Vd
*、Vq
*)と、モータ回転数・位相情報(回転情報)21Aを出力する。なお、Vd
*がd軸、Vq
*がq軸に関わる基本波印加電圧指令21B(
図1)である。
【0031】
高次成分生成部22は、ベクトル制御部21からのモータ回転数・位相情報21Aに基づき、dq座標軸上における高次成分22A−d(d軸)、22A−q(q軸)を生成する。なお、高次成分22A−d、22A−qは、
図1では高次成分22Aに相当する。
電圧加算部23は、d軸において、基本波印加電圧指令(Vd
*)と高次成分22A‐dを加算して、d軸の印加電圧指令23A−dを出力する。
また、電圧加算部23は、q軸において、基本波印加電圧指令(Vq
*)と高次成分22A−qを加算して、q軸の印加電圧指令23A−qを出力する。
なお、印加電圧指令23A−d、23A−qは、図示していない変換部によってU相、V相、W相の成分に変換されて、PWMパルス生成部24(
図1)に入力される。
【0032】
《固定座標系での加算》
また、固定座標系での加算の方式について、
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の第1実施形態において、高次成分生成部22の高次成分(誘起電圧の高次成分22A)をベクトル制御部21の基本波(基本波印加電圧指令21B)へ、電圧加算部23で、固定座標系を用いて加算する方法を示す図である。
図3において、ベクトル制御部21は、相電流の情報16Aに基づき、固定座標系の三相交流の基本波印加電圧指令21B(Vu
*、Vv
*、Vw
*)と、モータ回転数・位相情報21Aとを出力する。
高次成分生成部22は、ベクトル制御部21からのモータ回転数・位相情報21Aに基づき、各相の高次成分22A−U、22A−V、22A−Wを生成する。
電圧加算部23は、固定座標系の三相交流の基本波印加電圧指令21B(Vu
*、Vv
*、Vw
*)と高次成分22A−U、22A−V、22A−Wを、各相(U、V、W)毎に加算して、それぞれ印加電圧指令23A−U、23A−V、23A−Wを出力する。
【0033】
[6次振動の低減]
次に、モータ回転数の6次倍で発生するファン14とロータ(モータ13のロータ)の共振音の低減方法について説明する。
ファン14とロータ(13)による共振は、回転方向の振動に起因するものであり、モータの各相の電圧もしくは電流と座標軸が異なる。モータの120度(2π/3)毎に位相の異なる3相の合成から生ずる回転磁界の座標軸の成分にファンとロータによる共振は関係する。したがって、3相モータ(モータ)の各相の電圧ではなく、回転座標系のdq座標系に変換して共振音の低減の対策をたてることが妥当である。
【0034】
一般に3相モータの各相での(3m−1)次成分と(3m+1)次成分とは、dq座標系の3m次成分に変換される。ここで、mは正の整数とする。
なお、基本波(1次成分)と(3m−1)次成分の合成の際の和の作用により3m次成分が生成される。また、基本波(1次成分)と(3m+1)次成分の合成の際の差の作用により3m次成分が生成される。
この変換を発展させ、dq座標系、つまり回転座標系での6次成分(m=2)を消すために、3相モータの各相(U、V、W)の印加電圧に誘起電圧成分の5次成分と7次成分(m=2)を加えることを本発明者らは考案した。以下に説明する。
【0035】
<高次成分の印加式について>
この場合に、誘起電圧1次成分E
1、高次成分の印加式E
5、E
7は、次の(式1)と(式2)と(式3)とになる。
《1次成分の式》
【数1】
【0036】
《5次成分の印加式》
各相(U、V、W)への5次成分の印加式については、以下の式となる。
【数2】
【0037】
《7次成分の印加式》
また、各相(U、V、W)への7次成分の印加式については、以下の式となる。
【数3】
【0038】
この(式1)、(式2)、(式3)において、ω:モータ電気角周波数、K
e:誘起電圧定数、θ:位相、G
5:誘起電圧基本波振幅に対する5次波振幅の割合、G
7:誘起電圧基本波振幅に対する7次波振幅の割合、φ
5:基本波成分と5次成分の位相差、φ
7:基本波成分と7次成分の位相差である。
(式1)、(式2)、(式3)で表される1次成分と5次成分と7次成分をベクトル制御で用いられているdq変換することで次に示す(式4)となり、(式2)と(式3)の5次成分と7次成分は、dq座標系(トルク系)の6次成分とすることができる。この6次成分が加振トルクを打ち消すトルクとして作用し、回転数の6次成分の音を消すことができる。
【0039】
《dq座標系への変換》
誘起電圧1次成分E1と高次成分E5、E7から、dq座標系のそれぞれの電圧Ed、Eqは、次の(4式)によって変換される。
【数4】
【0040】
<各種の高次成分の低減>
また、(式1)、(式2)は、誘起電圧の振幅に対する比率G(G
5、G
7)と誘起電圧成分に対する位相差φ(φ
5、φ
7)で表現しているが、Gとφを変更することによって、自在に高次成分を印加することができる。
【0041】
《510min
−1における6次音の低減》
次に、510min
−1における6次音を低減するための実験例を示す。
本発明者らは実験的にG
5、G
7、φ
5、φ
7の値を変更し、G
5=3%、φ
5=60度、G
7=5%、φ
7=20度の場合が6次音、つまり略200Hzの騒音の低減に効果的であることを見出した。
図9は、高次成分の印加式において、G
5=3%、φ
5=60度、G
7=5%、φ
7=20度の場合の騒音のスペクトルの一例を示す図である。なお、横軸は周波数[Hz]であり、縦軸は騒音[dB]を表記している。また、横軸においては、1/3オクターブ単位で測定点をとっている。
図9において、
図6で見られた200Hzの騒音の突出した測定点はなくなっている。200Hzのスペクトルはあるものの、200Hz前後のスペクトラムと大きな差はない測定結果が得られている。したがって、6次音(略200Hz)の低減に効果があったことを示している。
【0042】
また、
図10は、
図9のスペクトルを示したときのモータ波形(電圧、電流)とモータ電流のFFT(Fast Fourier Transform)解析を実行した波形の一例を示す図であり、(a)はモータ端子電圧の波形、(b)はモータ電流の波形、(c)はモータ電流のFFT解析を実行した波形である。
また、
図10(a)、(b)の横軸は時間の推移であり、縦軸はそれぞれ電圧値と電流値である。また、
図10(c)の横軸は周波数であり、縦軸は電流の成分の割合である。
図10(c)のFFTをみると5次成分が大きく含まれている。ただし、このモータの5次成分は、ファンとは共鳴しない(ファンで減衰してしまう)ので、残っていても問題はない。
【0043】
《250min
−1における12次音の低減》
次に、250min
−1における12次音の低減方法について説明する。
図4においては、250min
−1に騒音の突出点がある。スペクトラムは図示していないが、略200Hzの騒音である。
モータの極数が8極の場合には、250min
−1における略200Hzの音は、モータ電気周波数で16.67Hz[250/{60×(2/8)}]に相当する。
したがって、12次(≒200/16.67)の高次成分に起因する騒音である。この12次の高次成分の低減の仕方について説明する。
6次の場合と同様に、高次成分と基本波の和と差の関係により、12次に対しては、11次と13次の高次成分を3相モータに印加する。
この12次に対しては、11次と13次の高次成分の両方、もしくはどちらか一方を印加することによって、ファン回転数の12倍の周波数のファンとロータの共振音を低減することができる。
【0044】
《6m次の音の低減》
以上において、6次と12次の場合について説明した。
さらに、正弦波駆動をしている場合、一周期内において対称形である各相の偶数次は、消えることになる。
したがって、第1実施形態で説明した手法で効果があるのは、前記した6次、12次の他、一般にmを正の整数として6m次(mは正の整数、すなわちm=1、2、3・・・)の音の低減ができる。
【0045】
<印加するときのソフトスタート、ソフトエンド>
高次成分を印加する場合の最初(スタート)と最後(エンド)の印加する手法について、説明する。
高次成分生成部22において、高次成分を印加する回転数となったときは、高次成分の振幅値を0から所定の振幅まで徐々に増やす(ソフトスタート)。例えば、5次と7次の成分を印加する(式1)と(式2)においては、G
5、G
7(誘起電圧基本波振幅に対する割合)の係数を徐々に増やすことに相当する。
また、高次成分を印加している状態から高次成分を印加しない回転数となったときは高次成分の振幅値を所定の振幅から0まで徐々に減らす(ソフトエンド)。
この高次成分を印加するときのソフトスタート、ソフトエンドを採用することにより、高次成分の印加を開始したときと終了したときのショックがなく、安定した制御となる。
【0046】
<第1実施形態の効果>
図1に示した第1実施形態により6m次の高次成分を所定の位相、振幅で印加することで、モータ回転数の6m倍の周波数のファンとロータの共振音を低減することができる。
【0047】
≪比較例1≫
次に比較例1として、電流制御器によって電流波形を正弦波状に制御する方式を、説明する。なお、この方式は、非特許文献1としての「「高速用永久磁石同期モータの新ベクトル制御方式の検討」電学論D、 Vol.129 (2009) No.1 pp.36-45」等に同じ、あるいは類似の技術が開示されている。
【0048】
<電流波形を正弦波状に制御する方式>
まず、電流制御器によって電流波形を正弦波状に制御する方式を、
図12〜
図16を参照して説明する。
図12は、比較例1の全体の構成を示す図である。なお、
図1と同一の符号を付したものは、同一の機能を有するものとして重複する説明は省略する。
図12が
図1と異なる構成は、制御装置18がベクトル制御部21とPWMパルス生成部24(出力はPWMパルス信号18A)とによって構成されていることである。つまり、
図1における高次成分生成部22と電圧加算部23が、
図12には存在していない。
制御装置18では、直流母線電流情報16Aから再現した相電流情報を基にベクトル制御部21で演算を行っている。すなわち、高次成分を印加しない方式である。
【0049】
次に、
図13〜
図16を参照して、誘起電圧波形と電圧・電流の関係を述べる。
図13は、誘起電圧波形が理想的な正弦波の場合の固定座標系での波形の概略を表す図であり、(a)は誘起電圧E1[V]、(b)は印加する指令電圧V1[V]、(c)はモータ電流I1[A]を示している。
【0050】
また、
図14は、誘起電圧波形が歪んだ場合の固定座標系での波形の概略を表す図であり、(a)は誘起電圧E1[V]、(b)は印加する指令電圧V1[V]、(c)はモータ電流I1[A]を示している。
【0051】
また、
図15は、誘起電圧波形が理想的な正弦波の場合の永久磁石の磁束を基準とした回転座標系での波形の概略を表す図であり、(a)は誘起電圧E[V]、(b)は印加する指令電圧V[V]、(c)はモータ電流I[A]を示している。
【0052】
また、
図16は、誘起電圧波形が歪んだ場合の永久磁石の磁束を基準とした回転座標系での波形の概略を表す図であり、(a)は誘起電圧E[V]、(b)は印加する指令電圧V[V]、(c)はモータ電流I[A]を示している。
【0053】
また、
図13〜
図16の(a)、(b)、(c)の横軸は、電気角θ
ν[rad]である。
また、
図13、
図14の(a)、(b)におけるφは、指令電圧と誘起電圧との位相差である。
また、
図15、
図16において、誘起電圧Ed、Eq、指令電圧Vd、Vq、モータ電流Id、Iqにおける添え字d、qは、それぞれd軸、q軸に対応するものである。
【0054】
永久磁石同期モータの誘起電圧波形が理想的な正弦波状の場合、
図13(b)、(c)に示すように、印加電圧指令の指令電圧、およびモータ電流は正弦波状の波形となり、回転座標系では
図15(b)、(c)に示すように一定の値となる。
【0055】
しかし、
図14、
図16に示すように、誘起電圧波形が正弦波状から歪んだ場合(a)、これらの歪みに起因してモータ電流波形にも歪み(c)、トルクに回転数の高次成分が発生する。
トルクの高次成分がファンやモータの構造に起因する共振周波数と一致すると振動・騒音の発生となる。
以上より、
図12に示した比較例1のモータ制御装置は、振動・騒音の発生が起きる可能性の高い構成である。
【0056】
≪比較例2≫
次に比較例2として、誘起電圧の高次成分22Aを、そのまま基本波印加電圧指令21Bに加算する方式について、
図17、
図18を参照して説明する。なお、比較例2を構成する回路の図示は省略する。
図17は、誘起電圧の高次成分を印加電圧に加算した場合の固定座標での概略波形を示す図であり、(a)は誘起電圧[V]、(b)は印加する指令電圧[V]、(c)はモータ電流[A]を示している。
図18は、誘起電圧の高次成分を印加電圧に加算した場合の回転座標系での概略波形を示す図であり、(a)は誘起電圧[V]、(b)は印加する指令電圧[V]、(c)はモータ電流[A]を示している。
また、
図17、
図18の(a)、(b)、(c)の横軸は、電気角θ
ν[rad]である。
また、
図17の(a)、(b)におけるφは指令電圧と誘起電圧との位相差である。
また、
図17、
図18において、誘起電圧Ed、Eq、指令電圧Vd、Vq、モータ電流Id、Iqにおける添え字d、qは、それぞれd軸、q軸に対応するものである。
【0057】
比較例2では、高次成分22Aを基本波印加電圧指令21Bに加算する。このため、
図17(b)、
図18(b)に示すように、印加電圧指令23Aには高次成分22Aが印加された電圧が出力される。
この電圧の高次成分印加により、モータ電流として、
図17(c)、
図18(c)には電圧の高次成分印加により電流(Id、Iq)の高次成分が除去された波形が出力されている。
このように高次成分の電圧を印加することにより電流に含まれる高次成分を除去することができる。そして、電流の高次成分を除去することによりトルクの高次成分も減ることになるはずである。
しかしながら、ファンとロータの共振音に関しては相電流の5次成分を低減しても消えなかった。したがって、単純に電圧の高次成分を印加する方式では、騒音が消去できない場合がある。
【0058】
また、
図17(c)、
図18(c)のように、モータ電流を綺麗な正弦波形としても、モータとしてのトルクは回転に関わるものであるので、相の座標と回転座標との相異により、トルクに起因するファンとロータの共振音は必ずしも消えるとは限らない。したがって、第1実施形態では、5次、7次の高次成分をさらに積極的に印加する方法をとっている。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置を
図19〜
図23、
図11を参照して説明する。
第2実施形態においては、3相交流モータのPWM制御の変調方式として、後記する固定相60度切り替え方式、または固定相120度切り替え方式を採用した場合において、発生する9次成分、さらに(6m+3)次成分(mは正の整数)のファンとモータの共鳴する騒音を低減する方法について説明する。
なお、後記する固定相60度切り替え方式と、固定相120度切り替え方式とを含めて、所定の電気角において、1相の電位を固定し、他の2相を変調する方式を固定2相変調と称するものとする。
まず、モータ制御装置の制御方法である固定相60度切り替え方式と、固定相120度切り替え方式について先に説明する。そして、その後で、この制御方法で発生する9次成分、さらに(6m+3)次成分を低減する方法、および具体的な回路構成について説明する。
【0060】
<固定相60度切り替え方式>
ここでモータ制御装置におけるPWM制御の変調方式について説明する。
一般的な3相交流モータのPWM制御は3相変調(3相変調方式)であるが、3相交流モータがY結線の場合には、相電圧と相間電圧が異なることを利用して2相変調(2相変調方式)で行う方法がある。
すなわち、モータ電流が相電圧ではなく相間電圧により決定されることを利用して、相間電圧を確保しつつ、各相電圧を所定期間毎にインバータのスイッチング素子を常時オンすることにより、1相毎に高位電源レベル又は低位電源レベルに電気角π/3(60度、60°)だけ順次固定してインバータのスイッチング損失を低減する方法である。
なお、この方法では前記したように、所定の区間において1相が電位的に固定され、他の2相のみが変調(PWM制御)される。そして、この電位的に固定される相が順番に繰り返される。したがって、どの時間においても、変調されているのは2相のみであるので、2相変調と称される。
以下、前記の2相変調方式を固定相60度切り替え方式と呼ぶものとする。
【0061】
次に、固定相60度切り替え方式の電圧波形(電圧指令)を
図20に示して、この方式について説明する。
図20は、2相変調方式である固定相60度切り替え方式におけるU相、V相、W相の電圧波形(電圧指令)を示す図である。
また、
図19は、参考として、一般的な3相変調方式におけるU相、V相、W相の電圧波形(電圧指令)を示す図である。
図20と
図19において、横軸は電気角の角度[°]であり、縦軸は各電気角における電圧の最大電圧に対する比、すなわちデューティ[%]を示している。
【0062】
図20において、W相は電気角が0度([°]に相当)から60度において、デューティ0%の下限の電圧で一定としている。
このW相がデューティ0%の電圧の区間である0度から60度において、U相とV相とは、W相との電圧差、位相を、
図19に示した3相変調方式の場合と同じ関係を保つような電圧波形をとる。すなわち、0度から60度においては、W相がデューティ0%のため、U相とV相とは、本来の電圧値より、やや低めの値をとる。
【0063】
また、60度から120度においては、U相がデューティ100%の上限の電圧で一定となる。この区間においては、V相とW相は、U相との電圧差、位相を、
図19に示した3相変調の場合と同じ関係を保つような電圧波形をとるので、本来の電圧値より、やや高めの値をとる。なお、U相が一挙にデューティ100%となる60度においては、V相とW相は、急に電圧が上昇する。
【0064】
また、120度から180度においては、V相がデューティ0%の下限の電圧で一定となる。この区間においては、W相とU相は、V相との電圧差、位相を、
図19に示した3相変調方式の場合と同じ関係を保つような電圧波形をとるので、本来の電圧値より、やや低めの値をとる。なお、V相が一挙にデューティ0%となる120度においては、W相とU相は、急に電圧が下降する。
【0065】
以上のようなU相、V相、W相の動作波形となるように繰り返して制御する。
図20に示すように、U相、V相、W相の相間電圧は、正弦波と異なる波形であるが、U相−V相の線間電圧、V相−W相の線間電圧、W相−U相の線間電圧は、それぞれ正弦波形となっているので、3相の線間電圧によって駆動されるモータ13(
図23)、およびファン14(
図23)は、
図19に示した3相変調方式の場合と同じように動作する。
しかしながら、W相は0度から60度において、U相は60度から120度において、V相は120度から180度において、それぞれ一定となっているので、インバータ15によるPWM制御の動作回数が低減できる。したがって、インバータ15の低消費電力化に効果がある。
【0066】
なお、0度から360度、およびそれが繰り返されるすべて区間において、U相、V相、W相のいずれかの相が固定されていて、変調されるのは残りの2相である。したがって、前記したように2相変調である。
また、非特許文献3としての「半導体電力変換回路」1987年3月の社団法人電気学会発行の第110、111、125頁等に以上と同じ、あるいは類似の技術が示されている。
【0067】
<固定相120度切り替え方式:その1>
次に、1相あたりの固定区間が前記の固定相60度切り替え方式より長い、固定相120度切り替え方式について説明する。
なお、固定相120度切り替え方式には、固定相を直流電圧の高電位に固定する上固定相120度切り替え方式と、固定相を直流電圧の低電位に固定するものを下固定相120度切り替え方式の2種類がある。次に、順に、上固定相120度切り替え方式と下固定相120度切り替え方式について説明する。
【0068】
《上固定相120度切り替え方式》
図21は、2相変調方式である上固定相120度切り替え方式におけるU相、V相、W相の電圧波形(電圧指令)を示す図である。なお、横軸は電気角の角度[°]であり、縦軸は電圧のデューティ[%]を示している。
図21において、U相は30度([°]に相当)から150度において、デューティ100%の上限の電圧で一定となっている。
また、W相は150度から270度において、デューティ100%の上限の電圧で一定となっている。
また、V相は270度から(390)度において、デューティ100%の上限の電圧で一定となっている。
【0069】
以上のように、U相、V相、W相ともそれぞれ1相毎に、電気角2π/3(120度)の間に高位電源レベルに固定する。
また、U相、V相、W相のそれぞれの1相が固定されている区間は、他の相は、前記の相との電圧差、位相を、
図19に示した3相変調方式の場合と同じ関係を保つような電圧波形をとるように制御する。
したがって、U相、V相、W相をY結線として、それぞれの線間電圧で3相交流モータを駆動することができる。
【0070】
《下固定相120度切り替え方式》
図22は、2相変調方式である下固定相120度切り替え方式におけるU相、V相、W相の電圧波形(電圧指令)を示す図である。なお、横軸は電気角の角度[°]であり、縦軸は電圧のデューティ[%]を示している。
図22において、V相は90度([°]に相当)から210度において、デューティ0%の下限の電圧で一定となっている。
また、U相は210度から330度において、デューティ0%の下限の電圧で一定となっている。
また、W相は330度から(450)度において、また、(−30)度から90度において、デューティ0%の下限の電圧で一定となっている。
【0071】
以上のように、U相、V相、W相ともそれぞれ1相毎に、電気角2π/3(120度)の間に低電位電源レベルに固定する。
また、U相、V相、W相のそれぞれの1相が固定されている区間は、他の相は、前記の相との電圧差、位相を、
図19に示した3相変調方式の場合と同じ関係を保つような電圧波形をとる。
したがって、U相、V相、W相をY結線として、それぞれの線間電圧で3相モータを駆動することができる。
【0072】
<固定相120度切り替え方式:その2>
以上のように、上固定相120度切り替え方式および下固定相120度切り替え方式とも、1相毎に高位電源レベル又は低位電源レベルに電気角2π/3(120度、120°)だけ順次固定するので、インバータのスイッチング損失を低減できる。
なお、相電圧の振幅が所定の電圧値より低くなると、
図21や
図22に示した制御が適切でない状況が生ずる場合には、2相変調方式を停止して3相変調方式によってモータに3相電圧を印加する方法もある。
また、特許文献2において、以上と同じ、あるいは類似の技術が開示されている。
【0073】
[9次成分の低減]
前記した2相変調方式の固定相60度切り替え方式や、固定相120度切り替え方式においては、9次成分が発生する。
すなわち、3相モータを正弦波駆動している場合には、一般に3相の偶数次成分は発生しないが、
図22に示す下固定相120度切り替え方式を行い、波形が上下対象となっていない場合に偶数次数が発生する。この偶数次数である8次、10次成分(各相の成分)により、9次成分(回転座標系の成分)が発生して、9次成分の騒音の原因となりうる。
したがって、3相モータの9次成分(回転座標系の成分)を低減するために、3相の8次、10次成分(各相の成分)を低減することが必要となることがある。
なお、基本波(1次成分)と8次成分の合成の際の和の作用により9次成分が生成される。また、基本波(1次成分)と10次成分の合成の際の差の作用により9次成分が生成される。
【0074】
なお、
図11は、前記の下固定相120度切り替え方式でモータを動作させた場合のモータ波形(電圧、電流)とモータ電流のFFT解析を実行した波形の一例を示す図であり、(a)はモータ端子電圧の波形、(b)はモータ電流の波形、(c)はモータ電流のFFT解析を実行した波形である。
また、
図11(a)、(b)の横軸は時間の推移であり、縦軸はそれぞれ電圧値と電流値である。また、11(c)の横軸は周波数であり、縦軸は電流の成分の割合である。
図11(c)のFFTをみると8次成分と10次成分が比較的、多く含まれている。
次に、前記した固定相60度切り替え方式を行い、その際に発生する偶数次数(8次と10次)を低減することで9次の音を低減する方式について説明する。
なお、この変調方式の選択で音低減効果のある次数は9次の他に、15次、21次、・・・、などの一般に(6m+3)次(mは正の整数)である。
【0075】
<回路構成>
次に、2相変調方式の固定相60度切り替え方式や、固定相120度切り替え方式において、(6m+3)次(mは正の整数)の高次成分を低減するモータ制御装置の構成について説明する。
図23は、本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置11の内部の構成と、このモータ制御装置11と直流電源12とモータ(3相モータ)13とファン14との関連を示す図である。
図23において、モータ制御装置11の制御装置171の構成に第2実施形態としての特徴がある。
なお、直流電源12、モータ13、ファン14、インバータ15、直流母線電流検出回路16については、
図1の第1実施形態と同様であるので重複する説明は省略する。
【0076】
制御装置19は、ベクトル制御部21と、PWMパルス生成部24と、変調方式選択部25とを備えて構成される。
ベクトル制御部21は、直流母線電流検出回路16から相電流の情報16Aを取得し、モータ回転数・位相情報(回転情報)21Aを演算して、変調方式選択部25に出力する。また、ベクトル制御部21は、併せて、基本波印加電圧指令21BをPWMパルス生成部24に出力する。
変調方式選択部25は、モータ回転数・位相情報(回転情報)21Aに基づき、共振周波数成分が騒音の限度となる所定の範囲を超えた際に、2相変調方式の固定相60度(もしくは120度)切り替え方式か、3相変調方式かを選択し、変調方式選択信号12AをPWMパルス生成部24に出力する。
PWMパルス生成部24は、基本波印加電圧指令21Bと変調方式選択信号25Aとに基づき、インバータ15をパルス幅制御するPWMパルス情報19Aを生成する。
以上の構成により、2相変調方式の固定相60度切り替え方式や、固定相120度切り替え方式において、(6m+2)次と(6m+4)次の高次成分を制御装置19で前記の2相変調方式の基本成分に印加して、(6m+3)次の高次成分を低減する。
【0077】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態により3相変調あるいは固定相60度切り替え方式の2相変調にすることで、低消費電力化を図りながら、かつ、モータ回転数の(6m+3)次(mは正の整数)の周波数のファンとロータの共振音を低減することができる。
【0078】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るモータ制御装置を、
図24を参照して説明する。
第3実施形態は、第1実施形態の高次成分生成部22および電圧加算部23と、第2実施形態の変調方式選択部25を併せて備えるものである。
【0079】
<3実施形態に係るモータ制御装置の構成>
図24は、本発明の第3実施形態に係るモータ制御装置11の内部の構成と、このモータ制御装置11と直流電源12と3相モータ13とファン14との関連を示す図である。
図24において、モータ制御装置11の制御装置20の構成に第3実施形態としての特徴がある。
なお、直流電源12、モータ13、ファン14、インバータ15、直流母線電流検出回路16については、
図1の第1実施形態と同様であるので重複する説明は省略する。
【0080】
制御装置20は、ベクトル制御部21と、PWMパルス生成部24と、高次成分生成部22と、電圧加算部23と、変調方式選択部25とを備えて構成される。
ベクトル制御部21は、直流母線電流検出回路16から相電流の情報16Aを取得し、モータ回転数・位相情報21Aを演算して、高次成分生成部22と変調方式選択部25とに出力する。また、ベクトル制御部21は、併せて、電圧加算部23に基本波印加電圧指令21Bを出力する。
高次成分生成部22は、モータ回転数・位相情報21Aに基づき高次成分22Aを生成し、電圧加算部23に出力する。
電圧加算部23は、基本波印加電圧指令21Bと高次成分22Aとを加算して印加電圧指令23Aを出力する。
【0081】
変調方式選択部25は、モータ回転数・位相情報21Aに基づき、2相変調方式の固定相60度(もしくは120度)切り替え方式か、3相変調方式かを選択し、変調方式選択信号25AをPWMパルス生成部24に出力する。
PWMパルス生成部24は、印加電圧指令23Aと変調方式選択信号25Aとに基づき、PWMパルス情報20Aを生成する。
以上の構成により、6m次の高次成分を所定の位相、振幅で印加して、周波数のファン14とロータ(13)の共振音を低減する。また、3相変調あるいは固定相60度切り替え方式の2相変調にすることでモータ回転数の3m次(mは正の整数)の周波数のファン14とロータ(13)の共振音を低減することができる。
【0082】
<3実施形態の騒音の低減の測定結果>
次に、3実施形態の騒音の低減の測定結果を
図25〜
図26を参照して説明する。
【0083】
《測定波形》
図25は、510min
−1において、5次成分の印加と、2相変調の固定相60°切替方式を実施した場合のモータ端子電圧とモータ電流の波形と、FFT解析を実行した波形を示す図であり、(a)はモータ端子電圧の波形、(b)はモータ電流の波形、(c)はモータ電流のFFT解析を実行した波形である。
また、
図25(a)、(b)の横軸は時間の推移であり、縦軸はそれぞれ電圧値と電流値である。また、
図25(c)の横軸は周波数であり、縦軸は電流の成分の割合である。
なお、510min
−1における5次成分の印加は、(式1)において位相θを62度、誘起電圧基本波振幅に対する比率G
5を3%としている。
【0084】
《騒音スペクトル》
また、
図26は、
図25のモータの測定条件時のファンの騒音スペクトルを示す図である。
図26の騒音スペクトルを
図6の騒音スペクトルと比較すると、
図6にみられた200Hzと316Hzの周波数の突発した騒音が低減されている。
【0085】
<第3実施形態の効果>
したがって、第3実施形態は、ファンとロータの多種の共振音を低減する効果がある。
【0086】
(第4実施形態)
次に、第1実施形態から第3実施形態で説明したモータ制御装置11を、空気調和機100の室外機101のファンのモータ制御装置108に適用した形態を第4実施形態として説明する。
図27は、本発明の第4実施形態に係る空気調和機100の構成例を示す図である。
図27において、空気調和機100は、外気と熱交換を行う室外機101、室内と熱交換を行う室内機102、両者をつなぐ配管103とを備えて構成される。
室外機101は、冷媒を圧縮する圧縮機104と、外気と熱交換する熱交換機105と、この熱交換機105に送風する室外ファン106と、この室外ファン106を回転する室外ファンモータ107と、この室外ファンモータ107を駆動するモータ制御装置108とを備えて構成される。なお、モータ制御装置108には、前記の第1実施形態から第3実施形態のモータ制御装置11が適用される。
【0087】
また、室内機102は、室内と熱交換を行う熱交換機109と、室内に送風する送風機110とを備えて構成される。
第4実施形態では、前記したように、第1実施形態から第3実施形態のモータ制御装置11を空気調和機100に適用する。すなわち、インバータ15を制御する制御装置(17、19、20)において、高次成分を印加したり、変調方式を選択したりすることでモータ回転数の高次の周波数のファン14とロータ(モータ13)の共振音を低減する。
【0088】
<第4実施形態の効果>
第4実施形態により、室外ファンモータ107のロータ部の防振ゴムやファン部の防振ゴムを使うことなく、音の低減ができるので静かな空気調和機100を安価に製作することが可能となる。
【0089】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明はこれら実施形態およびその変形に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があってもよく、以下にその例をあげる。
【0090】
《各構成、機能の実現》
前記の本実施形態の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、プログラム変更可能なソフトウェアにより実現してもよい。また、ハードウェアとソフトウェアを混載してもよい。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0091】
《各構成、機能の組み合わせ、置き換え》
ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加える事も可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0092】
《負荷、騒音源》
また、説明を明確に行うために、主に負荷としてファンを駆動する場合の説明を行ったが、構造的な共振周波数を起因する音の低減に本発明は有効であり、負荷としてファンに限定するものではない。
【0093】
《相電流情報の取得》
直流母線電流検出回路16による相電流情報の取得は、特許文献3として特開2004−48886号に開示されている方式など、一般的な方式を用いる事で可能であり、検出方式を特定するものではない。
【0094】
《ベクトル制御》
ベクトル制御部21は前記した非特許文献1や非特許文献2で提案されている方式など、一般的なベクトル制御を用いることで実現可能であり、制御方式を特定するものではない。
【0095】
《スイッチング素子、半導体素子》
また電力変換主回路51のスイッチング素子としてIGBTを用いたが、他の半導体素子のスイッチング素子を用いてもよく、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)でもよい。また、素子の組成として、SiC(Silicon Carbide、炭化ケイ素)やGaN(Gallium Nitride、窒化ガリウム)を用いた半導体素子でもよい。
【0096】
《高次成分の印加式のGとφの変更》
高次成分の印加式におけるG(誘起電圧基本波振幅に対する高次波振幅の割合)とφ(基本波成分と高次成分の位相差)については当初、設定した値を用いる場合について、説明したが、直流母線電流検出回路16の情報を基に、ベクトル制御部21において、Gとφを状況に応じて適宜、変更して、最適な制御をする方法もある。
【0097】
《ゲート・ドライバ》
図1におけるゲート・ドライバ52は、PWMパルス生成部24の信号の駆動能力を高めることに主機能があるので、PWMパルス生成部24の出力部に充分な駆動能力があるか、もしくはゲート・ドライバ52の機能をPWMパルス生成部24に内蔵すれば、インバータ15にゲート・ドライバ52を備えなくともよい。