【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
[実施例1]
図1は、本発明の一実施例における磁気記録再生ヘッドのトラック方向に沿った断面模式図である。磁気記録再生ヘッド(以下、単に磁気ヘッドという)は、記録ヘッド部100と再生ヘッド部200から構成される記録再生分離ヘッドであり、磁気ディスクのような回転する磁気記録媒体300に対して記録再生を行う。記録ヘッド部100は、高周波磁界を発生するための発振素子110、記録磁界を発生するための主磁極120、主磁極に磁場を励磁するためのコイル150、及び副磁極130aを有する。図示の例では、主磁極120のトレーリング方向にトレーリングシールド130bを設けているが、これは必ずしも必須ではない。なおここで、磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの進行方向をリーディング方向、磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの進行方向と反対の方向をトレーリング方向と定義する。また、図示の例では、磁気記録媒体300に対する磁気ヘッドの進行方向から見て、再生ヘッド部200が先頭で記録ヘッド部100が後方に配置されているが、ヘッドの進行方向から見て記録ヘッド部100が先頭で再生ヘッド部200が後方になるように、図示の例とはその配置を逆にした構成としてもよい。
【0017】
再生ヘッド部200は、再生センサ210、下部磁気シールド220及び上部磁気シールド230を備え、磁気記録媒体300に記録された記録信号を再生する。再生センサ210の構成としては、例えば所謂GMR(Giant Magneto-Resistive)効果を有する再生センサであってもよいし、TMR(Tunneling Magneto-Resistive)効果を有する再生センサであってもよい。また、外部磁界に対して逆極性の応答をする2つ以上の再生センサを有する所謂差動型再生センサであってもよい。また、下部磁気シールド220と上部磁気シールド230は再生信号の品質の向上に重要な役割を担うため、できるだけこれらのシールドを設ける方がよい。
【0018】
図2及び
図3は、本実施例の磁気ヘッドの記録ヘッド部の構成例を示す模式図である。
図2は、記録ヘッド部100の一部である主磁極120と発振素子110の部分を、リーディング方向を下にして媒体対向面から見た摸式図であり、
図3は記録ヘッド部が備える発振素子の斜視図である。
【0019】
発振素子110は主磁極120とトレーリングシールド130bの間に置かれ、高周波磁界を発生する高周波磁界発生層(FGL)111、スピン透過性の高い材料から成る中間層112、FGL111にスピントルクを与えるためのスピン注入固定層(以下、単に固定層という)113を備える。なお、本実施例の発振素子110は、主磁極120側から固定層113、中間層112、FGL111の順に積層して形成したが、主磁極120側からFGL111、中間層112、固定層113の順で積層して形成してもよい。発振素子110に流す電流は固定層113からFGL111に向かう向きに流れるようにする。140は埋め戻し絶縁膜である。
【0020】
FGL111の材料は、例えばFe
70Co
30であり、膜厚は例えば15nmである。Fe
70Co
30の飽和磁化は2.4Tであり、高い高周波磁界を発生することが出来る。FGL111の材料は、磁性体であればFGLとしての役割を担うことが可能である。なお、FeCo合金の他に、NiFe合金やCoFeGe,CoMnGe,CoFeAl,CoFeSi,CoMnSiなどのホイスラー合金、TbFeCoなどのRe−TM系アルモファス系合金、CoCr系合金などでもよい。また、CoIrなど負の垂直磁気異方性エネルギーを持つ材料でもよい。FGL111の膜厚は、15nm以上あるいはそれ以下であってもよいが、好ましくは5nm以上、30nm以下の範囲がよい。その理由について言えば、FGL111の膜厚を5nm以上に設定するのは、膜厚が薄すぎると高周波磁界強度が低下し過ぎるためであり、30nm以下に設定するのは膜厚が厚過ぎるとFGL111が多磁区化し磁界強度の低下を招くので、それを防ぐためである。
【0021】
中間層112は、例えばCuからなり、膜厚は例えば3nmである。中間層112の材料としてはスピン透過率の高い非磁性材料であることが好ましく、Cuの他に例えばAuやAgを用いることが出来るが、AuやAgはCuよりもさらにエレクトロマイグレーションを引き起こし易い。固定層113は、例えば[Co/Ni]
n(nは[Co/Ni]の積層数)であり、膜厚は例えば10nmである。固定層113に垂直磁気異方性を持った材料を用いることにより、FGL111の発振を安定させることが出来る。用いた[Co/Ni]
nの垂直異方性磁界は17kOeである。固定層113の材料としては、[Co/Ni]
nの他に、例えば[Co/Pt]
n,[Co/Pd]
nなどの人工磁性材料を用いることができる。以上のような発振素子110の構成により、磁気記録媒体300の記録層に高周波磁界を印加することができる。本実施例の主磁極120とシールド130bには、飽和磁化が大きく、結晶磁気異方性が小さいCoFe合金を用いた。
【0022】
次に、本実施例の特徴である、テーパー形状を有する非磁性金属層114について説明する。非磁性金属層114は、固定層113と主磁極120の磁気的な結合を遮断する目的で、発振素子110中で主磁極120に隣接して設けられる。非磁性金属層114の材料は、例えばTaであるが、これに限らない。材料は磁気的に非磁性であって、電気的に金属的な伝導を示す材料であればよい。Ta以外の材料としては、例えばRu,Pt,Cr,Irなどでもよい。また、一つの材料に限らず、それらの合金材料でもよいし、積層化してもよい。同様の観点から、FGL111とトレーリングシールド130bの磁気的な結合を遮断する目的で、非磁性金属層115をトレーリングシールド130b側に設けてもよい。
【0023】
本実施例の特徴は、主磁極120側に隣接して設けられた非磁性金属層114がトレーリング側からリーディング側に向かって徐々にトラック幅方向に幅が拡大するテーパー形状を有することである。言い換えると、非磁性金属層114は、中間層112に近い側の端面(以下、第1の端面という)のトラック幅方向の幅が中間層112のトラック幅方向の幅Twoと同等かそれよりも長く、さらに中間層112から遠い側の端面(以下、第2の端面という)のトラック幅方向の幅は第1の端面のトラック幅方向の幅よりも長く、中間層112から遠ざかるにつれてトラック幅方向の幅が徐々に拡大する形状を有する。
【0024】
ここで、
図4に示すように、非磁性金属層114の第1の端面の中間層112に対するトラック幅方向への広がり幅をx
1、非磁性金属層114の第2の端面の中間層112に対するトラック幅方向への広がり幅をx
2と表すと、それぞれの範囲は、
10nm≦x
2≦40nm (1)
0≦x
1≦(1−T/H)x
2 (2)
とするのが好ましい。ここで、Tは非磁性金属層114の厚み、Hは非磁性金属層114の第2の端面から中間層112までの距離を表す。本範囲の有効性に関しては後述する。
【0025】
非磁性金属層114の厚みTは、0.5nm以上、20nm以下の範囲である。Tを0.5nm以上に設定する理由は、膜厚が薄すぎると主磁極120と固定層113とが磁気的に結合してしまうためである。また、この膜厚を20nm以下に設定する理由は、膜厚が厚すぎると主磁極120とFGL111の距離が離れてしまい、FGL111にかかる主磁極からの磁界が低下し、効率的な高周波磁界が得られなくなるためである。
【0026】
次に、
図5を参照して、非磁性金属層114をテーパー形状としたことによる効果について説明する。
図5は、非磁性金属層114がテーパー形状を持たない発振素子Aと非磁性金属層114がテーパー形状をした発振素子Bの電流耐性を示した図である。ここでは両構造ともに素子の中間層112におけるトラック幅方向の幅Twoは40nmであり、素子高さSHoもTwoと等しく40nmである。ここで、素子に流した電流値は、中間層の面積Two×SHoで割った値(平均の電流密度)で表している。本検討に用いた発振素子Bの構成は、非磁性金属層114の第1の端面のトラック幅方向の広がり幅x
1=5nm、非磁性金属層114の第2の端面のトラック幅方向の広がり幅x
2=20nm、厚みT=10nm、中間層までの距離H=20nmである。発振素子Aでは、テーパー形状を持たないためx
1=0nm、x
2=0nmであり、厚みTとHは素子Bと同じである。
【0027】
図5より、発振素子Aでは電流増加とともに徐々に抵抗上昇を示し、素子に流す電流が5×10
8A/cm
2近傍になると急激に抵抗増加を示す。この抵抗増加は、徐々に素子内でエレクトロマイグレーションが進行していることを示しており、5×10
8A/cm
2程度の電流を素子に流すと、完全に素子構造が破壊されることを示している。素子が破壊する電流量を、以下、破壊電流量と定義する。このように、駆動電流量に対して破壊電流量が近く、繰り返し素子を駆動させると発振素子が破壊されてしまう不良が起こり易く、信頼性が低くなる。一方で、本実施例の発振素子Bでは、素子に流す電流を増加してもほとんど抵抗上昇がなく、素子に流す電流が1×10
9A/cm
2に至るまで素子破壊が起こらない。そのため、発振素子の発振領域で繰り返し駆動しても発振素子は劣化を示さず、従来の発振素子Aと比べて高い電流耐性を示す。
【0028】
非磁性金属層114をテーパー形状とすることで素子の電流耐性が向上する理由を、
図6を用いて説明する。
図6は、非磁性金属層114がテーパー形状を持たない発振素子Aと、非磁性金属層114がテーパー形状をした発振素子Bの中間層112のトラック幅方向における電流分布のプロファイルを示している。発振素子Aでは、局所的に1×10
9A/cm
2を超える高い電流密度の領域が中間層112の端部において発生していることがわかる。このため、端部では中間層112のCuがエレクトロマイグレーションを起こし、Cuの拡散が進むことで素子構造が破壊される。最終的に、
図5で示されるように抵抗が大きく増大し、完全な素子破壊に至る。一方、本実施例の発振素子Bでは、中間層112において均一な電流分布になっていることがわかる。これは、発振素子Bにおける非磁性金属層114のテーパー構造によって、素子中での電流集中を引き起こす原因となる主磁極から発振素子への急激な電流の絞り込みが緩和され、電流集中なく、中間層まで良好な電流パスが形成できていることを示している。したがって、非磁性金属層114をテーパー形状とした素子構造とすることで、発振素子中での電流集中、特に中間層での電流集中が防がれ、電流耐性の高い発振素子とすることが出来る。
【0029】
本実施例の非磁性金属層114のテーパー形状の範囲とその効果について
図7〜
図9を用いて説明する。中間層112において端部の電流集中を回避し、均一な電流分布を形成するためには、発振素子へ導入される電流の入り口を広げ、主磁極から発振素子への電流の急激な絞り込みを防ぐこと、発振素子中で急激な電流パスの狭窄が起こらないように中間層まで徐々に幅を狭めること、が重要である。そこで、主磁極120に隣接する非磁性金属層114の第2の端面のトラック方向の広がり幅x
2と非磁性金属層114の側面の傾斜の程度x
1/x
2を効果に関わるパラメータとして用いることができる。これらの範囲を定量的に表したのが式(1)と式(2)であり、本実施例の構成により十分な効果を得ることが出来るテーパー形状の範囲を示している。
【0030】
図7は、非磁性金属層114の第2の端面のトラック方向の広がり幅x
2と素子の破壊電流量の関係をプロットしたものである。本検討では、非磁性金属層114の厚みT=10nm、中間層までの距離H=20nmであり、非磁性金属層114の第1の端面のトラック方向の広がり幅x
1=0nmである。発振素子の中間層112における幅Twoは30nm,40nm,50nmの各々の場合で検討し、素子高さSHoもTwoと等しくなるようにした。
【0031】
図7より、x
2が10nm以上、40nm以下の範囲において、破壊電流量が1×10
9A/cm
2となっており、この範囲において中間層における端部の電流集中が緩和され、均一な電流分布が得られていることが分かる。x
2が40nmよりも広がった場合に再び破壊電流密度が低下する理由は、非磁性金属層114の第2の端面がトラック幅方向に広がり過ぎることによって固定層113の端部において電流パスが急激に狭窄されるため、その狭窄された部分で電流集中が生じ、中間層112においても端部で電流密度が高くなった不均一な電流分布となってしまうためである。したがって、式(1)で表されるように、10nm≦x
2≦40nmの範囲において、電流集中を緩和する十分な効果を得ることが出来る。
【0032】
図8は、比x
1/x
2を変化させた場合の素子の破壊電流量の変化をプロットしたものである。ここではx
2が10nm,20nm,30nmのそれぞれの場合で、x
1を変えて検討した。非磁性金属層114の厚みT=10nm、中間層112までの距離H=20nmとし、発振素子の中間層112における幅Twoは40nm、素子高さSHoもTwoと等しくなるようにした。
図8より、x
1/x
2が0.5よりも大きくなると破壊電流量が落ちることがわかる。このx
1/x
2を大きくした場合に破壊電流量が低下を示す時のx
1/x
2の値をx
1/x
2(limit)とする。
【0033】
図9は、非磁性金属層114の厚みTを変化させた構成において、それぞれのT/Hに対応するx
1/x
2(limit)の値をプロットしたものである。ここではTを5nm,10nm,15nm,20nmとして検討した。いずれの構成においても固定層113の厚みは10nmであり、中間層112までの距離H=T+10nmである。発振素子の中間層における幅Twoは40nm、素子高さSHoもTwoと等しくなるようにした。各々の構成におけるx
1/x
2(limit)は
図8の検討と同様に、x
1とx
2の大きさを変えた検討により得られた値を用いている。
【0034】
図9より、x
1/x
2(limit)はx
1/x
2=1−T/Hの関係を満たすようになっていることがわかる。つまり、x
1/x
2≦1−T/Hにおいて、中間層112における電流集中が緩和され、均一な電流分布が得られることを示している。この関係式が意味することは、
図4に示されるように、非磁性金属層114の第1の端面のトラック幅方向の端(M点)が、非磁性金属層114の第2の端面のトラック幅方向の端(N点)と中間層のトラック幅方向の端(L点)とを結んだ直線よりも、発振素子側に存在する、もしくはL−N線の直線上にあることである。x
1/x
2>1−T/Hのとき、つまり、非磁性金属層の第1の端面のトラック幅方向の端(M点)が、非磁性金属層の第2の端面のトラック幅方向の端と中間層のトラック幅方向の端とを結んだ直線(L−N線)よりも素子に対して外側に存在する場合、固定層113から中間層112にかけて電流パスが急激に狭窄されるため、中間層の端部に電流集中を生み、破壊電流量が低下する。したがって、式(2)で表されるように0≦x
1≦(1−T/H)x
2の範囲において、電流集中を緩和する十分な効果を得ることが出来る。
【0035】
以上より、本実施例の構成では、主磁極120側に隣接して設けられた非磁性金属層114において、式(1)(2)を満たすようにトレーリング側からリーディング側に向かって徐々にトラック幅方向に幅が拡大したテーパー形状とすることで、発振素子内の電流集中を防ぎ、電流耐性の高い発振素子とすることが出来る。
【0036】
[実施例2]
本実施例では、実施例1と同様に、主磁極120側の非磁性金属層114がテーパー形状を有するが、幅が広がる方向が実施例1とは異なる構成の例を説明する。
図10、
図11に、本実施例の主磁極120と発振素子110の部分の構成例を示す。
図10は媒体対向面を下向きにして磁気ヘッドの発振素子を側面から見た断面模式図であり、
図11は記録ヘッド部が備える発振素子の斜視図である。
【0037】
本実施例の特徴は、主磁極120側に隣接して設けられた非磁性金属層114がリーディング側に向かうにつれて徐々に素子高さ方向に幅が拡大したテーパー形状を有することである。言い換えると、非磁性金属層114は、中間層に近い側の端面(第1の端面)での素子高さが中間層112の素子高さSHoと同等かそれよりも高く、さらに中間層112から遠い側の端面(第2の端面)での素子高さは第1の端面の素子高さよりも高く、中間層から遠ざかるにつれて徐々に素子高さが高くなる形状を有する。
図11の場合、発振素子110には固定層113からFGL111に向かう向きの電流を流す。
【0038】
ここで、
図12に示すように、非磁性金属層114の第1の端面の中間層112に対する素子高さ方向への広がり幅をy
1、第2の端面の中間層112に対する素子高さ方向への広がり幅をy
2と表すと、非磁性金属層114のテーパー形状は実施例1のトラック幅方向の場合と同様に、
10nm≦y
2≦40nm (3)
0≦y
1≦(1−T/H)y
2 (4)
の関係を有する。ここで、Tは非磁性金属層114の厚み、Hは非磁性金属層114の第2の端面から中間層112までの距離を表す。その他、発振素子110の各層の材料や膜厚等は、実施例1と同様である。
【0039】
なお、
図10〜
図12に示すように、発振素子110は、主磁極120側から固定層113、中間層112、FGL111の順に積層して形成したが、主磁極120側からFGL111、中間層112、固定層113の順で積層して形成してもよい。この場合にも、発振素子110には固定層113からFGL111に向かう向きの電流を流す。また、FGL111とトレーリングシールド130bの間に磁気的な結合を遮断する目的として、
図10〜
図12に示すように、非磁性金属層115をトレーリングシールド130b側に設けてもよい。以上の構成とすることで、発振素子内の電流集中を防ぎ、電流耐性の高い発振素子とすることが出来る。本実施例は、実施例1に記載の構成とほぼ同様の効果が得られるため、効果に関する説明は省略する。
【0040】
[実施例3]
図13は、本実施例の磁気ヘッドの記録ヘッド部に設けられた発振素子の斜視図である。本実施例では、非磁性金属層114が、リーディング側に向かってトラック幅方向に幅が徐々に拡大したテーパー形状を有するとともに、素子高さ方向にも幅が徐々に拡大したテーパー形状を有する構成の例を説明する。
【0041】
本実施例の特徴は、主磁極120側に隣接して設けられた非磁性金属層114がリーディング側に向かうにつれて、トラック幅方向にも素子高さ方向にも幅が徐々に拡大したテーパー形状を有する点である。本実施例におけるテーパー形状は、実施例1及び実施例2と同様に定義される。すなわち、中間層112に対する、非磁性金属層114のトレーリング側端面(第1の端面)のトラック幅方向への広がり幅をx
1、リーディング側端面(第2の端面)のトラック幅方向への広がり幅をx
2、トレーリング側端面(第1の端面)の素子高さ方向への広がり幅をy
1、リーディング側端面(第2の端面)の素子高さ方向への広がり幅をy
2と表すと、非磁性金属層114のテーパー形状は、式(1)(2)(3)(4)の関係を有する。その他、発振素子110の各層の材料や膜厚等は、実施例1と同様である。また、FGL111とトレーリングシールド130bの間に、磁気的な結合の遮断を目的として、
図13に示すように、非磁性金属層115を設けてもよい。なお、
図13に示すように、発振素子110は、主磁極120側から固定層113、中間層112、FGL111の順に積層して形成したが、主磁極120側からFGL111、中間層112、固定層113の順で積層して形成してもよい。
【0042】
本実施例の構成によって、実施例1及び実施例2よりもさらに信頼性の高い磁気ヘッドを実現することができる。
図14を参照して、本実施例の効果について説明する。ここでは、非磁性金属層114がテーパー形状を持たない発振素子(構造C)、トラック幅方向に幅が拡大したテーパー形状を持つ実施例1の発振素子(構造D)、素子高さ方向に幅が拡大したテーパー形状を持つ実施例2の発振素子(構造E)、及びトラック幅方向にも素子高さ方向にも幅が拡大したテーパー形状を有する本実施例の発振素子(構造F)の4つの構造の電流破壊に対する信頼性を試験した。本検討における、それぞれの構造のパラメータを表1にまとめて示す。
【0044】
図14は、構造C〜Fの発振素子を持つ磁気ヘッドをそれぞれ100本ずつ用意して、高い電流を流したときに破壊した素子の割合をグラフにしたものである。ここでは、中間層を流れる平均の電流密度が5×10
8A/cm
2となるように、4.5mAの電流を1分間素子に流した。
図14より、構造Fが最も電流耐性が高く、破壊した素子はほとんど無いことがわかる。このことは、トラック幅方向にも素子高さ方向にも幅が拡大したテーパー形状の非磁性金属層を有する構造において、最も信頼性の高い磁気ヘッドが得られることを示している。実施例1の構成D及び実施例2の構成Eにおいて、破壊した素子が発生してしまう原因は、実際に作製した素子の出来上がり形状にばらつきが存在するためである。本実施例の構造Fは、トラック幅方向と素子高さ方向の両方に幅が拡大したテーパー形状としたことで、素子の出来上がりのばらつきによる不良の発生を抑えることが出来る。
【0045】
以上より、主磁極120側に隣接して設けられた非磁性金属層114を、トラック幅方向にも素子高さ方向にも中間層から離れるに従って徐々に幅が拡大するテーパー形状とすることで、電流耐性の高い発振素子とすることが出来、実施例1及び実施例2の構成よりもさらに信頼性の高い磁気ヘッドを実現することができる。
【0046】
[実施例4]
本実施例では、実施例1と同様に、非磁性金属層がテーパー形状を有するが、非磁性金属層の位置とテーパー方向が異なる構成の例を説明する。
図15、
図16に本実施例の磁気ヘッドの記録ヘッド部100の構成例を示す。
図15は、記録ヘッド部100の一部である主磁極120と発振素子110の部分を、リーディング方向を下にして媒体対向面から見た摸式図であり、
図16は発振素子の斜視図である。
【0047】
本実施例の特徴は、トレーリングシールド130b側に隣接して設けられた非磁性金属層115がリーディング側からトレーリング側に向かうにつれて徐々にトラック幅方向に幅が拡大したテーパー形状を有することである。言い換えると、非磁性金属層115の中間層112に近い側の端面(第1の端面)のトラック幅方向の幅が中間層112のトラック幅Twoと同等かそれよりも長く、さらに非磁性金属層115の中間層112から遠い側の端面(第2の端面)のトラック幅方向の幅は第1の端面のトラック方向の幅よりも長く、中間層112から遠ざかるにつれて非磁性金属層115のトラック幅方向の幅が徐々に拡大した構造である。つまり、実施例1の発振素子110の形状が上下反対となった場合の例である。発振素子110に流す電流は固定層113からFGL111の向きに流す。
【0048】
ここで、
図17に示すように、実施例1と同様に、非磁性金属層115の第1の端面の中間層112に対するトラック幅方向への広がり幅をx
1、非磁性金属層115の第2の端面の中間層112に対するトラック幅方向への広がり幅をx
2とすると、非磁性金属層115のテーパー形状は実施例1のトラック幅方向と同様に、式(1)(2)の関係を有する。ここで、Tは非磁性金属層115の厚み、Hは非磁性金属層115の第2の端面から中間層112までの距離を示している。発振素子110のトレーリングシールド130b側に配置された非磁性金属層115は、FGL111とトレーリングシールド130bとの磁気的な結合を遮断する目的を有する。
【0049】
非磁性金属層115の材料は、例えばTaであるが、これに限らない。材料は磁気的に非磁性であって、電気的に金属的な伝導を示す材料であればよい。Ta以外の材料としては、例えばRu,Pt,Cr,Irなどでもよい。また、一つの材料に限らず、それらの合金材料でもよいし、積層化してもよい。非磁性金属層115の厚みTは、0.5nm以上、20nm以下の範囲である。Tを0.5nm以上に設定する理由は、膜厚が薄すぎるとトレーリングシールド130bとFGL111とが磁気的に結合してしまうためである。また、この膜厚を20nm以下に設定する理由は、トレーリングシールド130bとFGL111の距離が離れてしまい、FGL111にかかる主磁極からの磁界が低下し、効率的な高周波磁界が得られなくなるためである。なお、
図15〜
図17に示すように、発振素子110は、主磁極120側から固定層113、中間層112、FGL111の順に積層して形成したが、主磁極120側からFGL111、中間層112、固定層113の順で積層して形成してもよい。その他、発振素子110の各層の材料や膜厚等は、実施例1と同様である。いずれの場合にも、発振素子110には固定層113からFGL111の向きに流れるように電流を流す。
【0050】
また、固定層113と主磁極120の間の磁気的な結合を遮断することを目的として、
図15〜
図17に示すように、非磁性金属層114を主磁極120側に設けてもよいが、この場合の非磁性金属層114は実施例1〜3のようなテーパー形状とはしない。これは、主磁極120側の非磁性金属層114とトレーリングシールド130b側の非磁性金属層115を同時にテーパー形状を持つ構造とすると、中間層112の端部に電流が集中するようになり、素子の電流耐性が逆に悪化してしまうためである。
【0051】
本実施例の構成によると、実施例1の構成とほぼ同様の効果が得られる。これは発振素子中に作られる電場の等電位面を考えた場合、実施例1の発振素子110の形状が上下反対となると、形成される等電位線の分布も同じように上下反対となり、電流耐性に影響する中間層112での電流分布は実施例1の構成と等しくなるためである。
【0052】
また、
図18に示すように、トレーリングシールド130b側に隣接して設けた非磁性金属層115を、トレーリング側に向かうにつれて、トラック幅方向ではなく素子高さ方向に徐々に幅が拡大するテーパー形状としてもよい。
図18に示した構成例は、実施例2の発振素子110の形状をトラック方向に反転した構成であり、実施例2に記載の構成とほぼ同様の効果が得られ、電流耐性の高い発振素子とすることが出来る。
【0053】
さらに、
図19に示すように、トレーリングシールド130b側に隣接して設けた非磁性金属層115を、トレーリング側に向かうにつれて、トラック幅方向とともに素子高さ方向にも徐々に幅が拡大するテーパー形状としてもよい。
図19に示される構成例は、実施例3の発振素子110の形状をトラック方向に反転した構成であり、実施例3に記載の構成とほぼ同様の効果が得られ、電流耐性の高い発振素子とすることが出来、信頼性の高い磁気ヘッドを実現できる。
【0054】
[実施例5]
図20は、本発明の磁気ヘッドを搭載した磁気記録再生装置の構成例を示す概略図である。
磁気ヘッドは実施例1〜4の何れのものであってもよく、ヘッドスライダー600に搭載される。
図20に示した磁気記録再生装置は、磁気記録媒体300をスピンドルモータ400にて回転させ、アクチュエータ500によってヘッドスライダー600を磁気記録媒体300の所望トラック上に誘導する。即ち磁気記録再生装置においてはヘッドスライダー600上に形成した再生ヘッド及び記録ヘッドがこの機構に依って磁気記録媒体300上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み及び読み取る。アクチュエータ500はロータリーアクチュエータであることが望ましい。磁気記録媒体300は各ビットが連続して存在する所謂連続媒体でもよいし、複数のトッラク間に記録ヘッドにより書き込み不可能な非磁性領域が設けられている所謂ディスクリートトラックメディアでもよい。また、基板上に、凸状の磁性パターンと磁性パターン間の凹部を充填する非磁性体とを含む所謂パターンド媒体でもよい。記録信号は、信号処理系700を通じて記録ヘッドにて媒体上に記録し、再生ヘッドの出力を信号処理系700で処理して再生信号とする。さらに再生ヘッドを所望の記録トラック上へ移動せしめるに際して、再生ヘッドからの高感度な出力を用いてトラック上の位置を検出し、アクチュエータ500を制御してヘッドスライダー600の位置決めを行うことができる。本図ではヘッドスライダー600、磁気記録媒体300を各1個示したが、これらは複数であっても構わない。また、磁気記録媒体300は両面に記録層を有して情報を記録してもよい。磁気記録媒体300が両面に記録層を有する場合、ヘッドスライダー600は磁気記録媒体300の両面に配置する。
【0055】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。