【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法は、シリンダと、このシリンダ内を往復動するピストンと、このピストンの両側に設けられた油圧室と、この両油圧室をつなぐ流路に接続され、
開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁を備えた油圧ダンパにおいて、 前記油圧ダンパが、前記シリンダに接続され、圧油を蓄え可能な補助油圧タンクと、前記補助油圧タンクと前記各油圧室との間に接続され、
開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁を備え、
前記ピストンがいずれかの向きに移動している最中は、
全開閉制御弁を閉鎖させて一方側の油圧室に圧力を発生させ、前記ピストンの移動する向きが反転したときに高圧側となった前記一方側の油圧室と前記補助油圧タンクを連結するいずれかの前記開閉制御弁を開放させて前記一方側の油圧室内の圧油を前記補助油圧タンクに移動させ、
その後、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させると共に、前記両油圧室を連結する前記開閉制御弁を開放させて高圧側の油圧室内の圧力を解放させ、両油圧室A、B間の圧力差を解消した後、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させると共に、前記一方側の反対側である他方の油圧室と前記補助油圧タンクを連結するいずれかの前記開閉制御弁を開放させて前記補助油圧タンク内の圧油を前記他方の油圧室に移動させ、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させる一連の操作をすることをを構成要件とする。
【0012】
油圧ダンパは
図1−(a)に示すように前記した特許文献2の油圧ダンパと共通する構造を持ち、ピストン3の両側に区画された油圧室A、B間に並列に接続された流路4の一部に両油圧室A、Bを連結する開閉制御弁Cが接続される。開閉制御弁Cは閉鎖状態に制御(保持)されているときに、ピストンロッド3Aに連結される、例えばフレーム20内のブレース21等、耐震要素等のつなぎ材(以下、ブレース21)を油圧ダンパ1に固定した状態にする。各油圧室A、Bを結ぶ流路4は分岐し、その分岐した流路5、6に補助油圧タンク7が接続され、補助油圧タンク7と各油圧室A、B間を結ぶ流路5、6の一部に開閉制御弁D、Eが接続される。
【0013】
補助油圧タンク7と各油圧室A、Bを連結する開閉制御弁D、Eの内、いずれか一方の開閉制御弁D(E)は両油圧室A、Bの内、ピストン3のいずれかの油圧室A(B)側への移動に起因していずれかの油圧室A(B)が相対的に高圧になった後、ピストン3の移動の向きが反転したときに開放して高圧側の油圧室A(B)からの圧油を補助油圧タンク7に移動させる。他方の開閉制御弁E(D)は高圧側の油圧室A(B)からの圧油の補助油圧タンク7への移動後、両油圧室A、Bを連結する開閉制御弁Cが一旦、開放し、両油圧室A、Bの圧力が平衡した後、開閉制御弁Cが閉鎖したときに開放して補助油圧タンク7からの圧油を他方側の油圧室B(A)に移動させる。
【0014】
油圧室Aと油圧室Bに区別はなく、開閉制御弁D、Eにも区別はない。
図1−(a)で言えば、油圧室Aが最初に高圧側になったときに、油圧室Aからの圧油が油圧室Aと補助油圧タンク7を連結する開閉制御弁Dを経て補助油圧タンク7に流れる。開閉制御弁Cの開放による両油圧室A、Bの圧力の平衡後、補助油圧タンク7からの圧油が油圧室Bと補助油圧タンク7を連結する開閉制御弁Eを経て油圧室Bに流れるが、油圧室Bが最初に高圧側になったときには油圧室Bからの圧油が開閉制御弁Eを経て補助油圧タンク7に流れる。その後、補助油圧タンク7からの圧油が開閉制御弁Dを経て油圧室Aに流れることになる。
【0015】
建物が振動している最中の本発明の方法を採用した油圧ダンパ1とブレース21の動きを模式的に示す
図2−(a)〜(e)により油圧ダンパ1の動作を説明する。フレーム20が振動により一方向に変形している最中(
図2−(a)から(b)の間)は全ての開閉制御弁C、D、Eを閉鎖状態に保持(制御)することにより油圧ダンパ1がブレース21に剛結された状態にある。請求項1における「ピストンがいずれかの向きに移動している最中」とは、フレーム20が振動により一方向に変形している間はずっと(継続的に)の意味である。
【0016】
層間変形に応じた荷重がブレース21に発生したときに、ピストン3を挟んだいずれか一方側の油圧室A(B)に圧力が発生する。フレーム20の振動の最大振幅点でまず、圧力が発生した油圧室A(B)と補助油圧タンク7を連結する開閉制御弁D(E)を開放させ、油圧室A(B)の圧油を補助油圧タンク7に移動させる。フレーム20が振動の最大振幅点を迎えたときは請求項1における「ピストンの移動する向きが反転したとき」に相当する。油圧室A(B)からの圧油の補助油圧タンク7への移動の際、油圧室A(B)の圧力は少し下がり、固定状態にあったピストン3の油圧室A(B)側への移動が可能になり、それに応じてブレース21も少し除荷される(
図2−(c))。
【0017】
油圧室Aと補助油圧タンク7の圧力が等しくなった時点で、開閉制御弁Dを閉鎖させて開閉制御弁Cを開放させると、ブレース21の荷重が完全に除荷されてブレース21は中立位置に戻る(
図2−(d))。このとき、高圧側の油圧室A(B)内の圧力が解放(除荷)され、両油圧室A、B間の圧力差が解消される。ブレースの除荷完了後、開閉制御弁Cを閉鎖させると共に、開閉制御弁Eを開放させると、補助油圧タンク7の圧油が他方側の油圧室Bに流入する。このとき、油圧室Bの圧力が油圧室Aの圧力より高くなるため、シリンダ2内ではピストン3が油圧室A側に押された状態となり、ブレース21に力が加わり、
図2−(b)と逆向きにブレース21が変形する(
図2−(e))。補助油圧タンク7の圧力と油圧室Bの圧力が等しくなった時点で開閉制御弁Eを閉鎖させる。
【0018】
図2−(b)から
図2−(e)までの一連の開閉動作に要する時間は建物振動周期と比較して十分短いため、ブレース21にオフセットの変形(荷重)が加わった状態で、外力の向きの変化に伴い、逆向きの振動が始まる。
【0019】
図3は本発明の方法によるダンパ荷重と層間変形の関係を、従来の切替制御および一般の油圧ダンパと比較して示した図であり、図中のa〜eの点は
図2−(a)〜(e)に対応している。
図4はダンパ荷重と油圧ダンパのみの変形(層間変形からブレース変形を除いた変形)の関係を示す。補助油圧タンクに圧力を一旦移動させ、それをブレースにオフセット変形を加えることに利用することで、ダンパ部の変形を層間変形δ以上に拡大できることが分かる。
【0020】
ところで、
図2−(e)の完了後、開閉制御弁Eを閉鎖させると、補助油圧タンク7には圧油(圧力)が残る可能性があるが、この圧油は補助油圧タンク7に残留させられることで振動の繰り返しに伴い、エネルギ吸収効率の向上に寄与し得る。
図5は静止状態から振動を開始した時の荷重−変形の軌跡を示す。振動の繰り返しに伴い、補助油圧タンク7の圧力が累積されていくため、エネルギ吸収効率が上昇し、数回で定常状態に達する。
図5中の符号(数字)はフレーム20が変形する前の状態からの層間変形の繰り返しに伴う荷重変形の経路を示す。このように補助油圧タンク7の残圧は良い方向に作用するが、く、建物の振動周期は
図2−(a)〜(e)の一連の開閉動作に比べてゆっくりであるため、振動中に補助油圧タンク7の圧力が抜けてしまう可能性もある。
【0021】
図6は
図2−(e)の後に補助油圧タンク7の残圧が完全に抜けてしまうと仮定した場合の荷重変形関係を示す。
図5と比較すると、ややループ面積は小さいものの、従来の切替制御よりも大きなエネルギ吸収が実現されることに変わりはない。
【0022】
図7は
図16−(b)に示すマックスウェルモデルの剛性Kに対する補助油圧タンクの等価剛性kが定常1サイクルのエネルギ吸収量に与える影響を示す。振動中に補助油圧タンクの圧力が維持されるか(
図5の場合)、抜けてしまうか(
図6の場合)により、最適な剛性設定値と効率が変化するが、概ねk/Kが0.5〜3.0程度に設定できれば、従来の切替制御の約1.5倍以上の効率が実現される。kの値が上記範囲を大幅に外れると効率は低下するものの、従来の切替制御よりも効率が低下することはない。補助油圧タンクに圧力を蓄える方法として、作動流体の圧縮剛性を利用する場合、補助油圧タンクの容量をV、作動流体の体積弾性係数をG、ダンパのピストン面積をAとすると、ダンパからみた補助油圧タンクの等価剛性kはk=GA
2/Vと表される。
【0023】
一方、ばね等を用いた方式の補助油圧タンクを使用すれば、剛性調整は更に容易になる。作動流体(油)の圧縮剛性は高いことから、補助油圧タンクの容量が小さければ、k/Kが3.0程度より大きくなるため、それを避けるには十分に大きなタンク容量を与える(k=GA
2/VのVを大きくする)必要があるが、ピストン式アキュムレータのような方式であれば、直接、ばね剛性の調節が可能になることに基づく。
【0024】
請求項1に記載の方法に使用される油圧ダンパは外部からの電流の供給により開閉制御弁C、D、Eの開閉を操作する電気的駆動手段を備える場合(請求項2)と、両油圧室A、B間の圧力差の変動に基づいて開閉制御弁C、D、Eの開閉を操作する油圧式駆動手段を備える場合(請求項3)があり、電気的駆動手段と油圧式駆動手段を併せ持つ場合(請求項4)もある。電気的駆動手段は主に電磁弁を用いる方法であり、油圧式駆動手段は主に油圧で駆動する切替弁を用いる方法である。