特許第6000872号(P6000872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000872油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法及びその方法に使用される油圧ダンパ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000872
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法及びその方法に使用される油圧ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/50 20060101AFI20160923BHJP
   F16F 9/20 20060101ALI20160923BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20160923BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   F16F9/50
   F16F9/20
   F16F15/02
   F16F15/023 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-37790(P2013-37790)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-163502(P2014-163502A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【審査官】 鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−092249(JP,A)
【文献】 特開平11−303926(JP,A)
【文献】 特開2006−153068(JP,A)
【文献】 特開2004−052921(JP,A)
【文献】 特開平11−230252(JP,A)
【文献】 特開2001−279947(JP,A)
【文献】 特開平10−176433(JP,A)
【文献】 特開平10−054157(JP,A)
【文献】 特開2007−296936(JP,A)
【文献】 特開2010−180894(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0167940(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/134277(WO,A1)
【文献】 米国特許第5662046(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00− 9/58
F16F 15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、このシリンダ内を往復動するピストンと、このピストンの両側に設けられた油圧室と、この両油圧室をつなぐ流路に接続され、開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁を備えた油圧ダンパにおいて、
前記油圧ダンパは、前記シリンダに接続され、圧油を蓄え可能な補助油圧タンクと、前記補助油圧タンクと前記各油圧との間に接続され、開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁を備え、
前記ピストンがいずれかの向きに移動している最中は、開閉制御弁を閉鎖させて一方側の油圧室に圧力を発生させ、前記ピストンの移動する向きが反転したときに高圧側となった前記一方側の油圧室と前記補助油圧タンクを連結するいずれかの前記開閉制御弁を開放させて前記一方側の油圧室内の圧油を前記補助油圧タンクに移動させ、
その後、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させると共に、前記両油圧室を連結する前記開閉制御弁を開放させて高圧側の油圧室内の圧力を解放させ、両油圧室間の圧力差を解消した後、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させると共に、前記一方側の反対側である他方の油圧室と前記補助油圧タンクを連結するいずれかの前記開閉制御弁を開放させて前記補助油圧タンク内の圧油を前記他方の油圧室に移動させ、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させる一連の操作をすることを特徴とする油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の開閉制御弁の制御方法に使用される油圧ダンパであり、外部からの電流の供給により前記開閉制御弁の開閉を操作する電気的駆動手段を備えていることを特徴とする油圧ダンパ。
【請求項3】
請求項1に記載の開閉制御弁の制御方法に使用される油圧ダンパであり、前記両油圧室間の圧力差の発生に基づいて前記開閉制御弁の開閉を操作する油圧式駆動手段を備えていることを特徴とする油圧ダンパ。
【請求項4】
請求項1に記載の開閉制御弁の制御方法に使用される油圧ダンパであり、外部からの電流の供給により前記開閉制御弁の開閉を操作する電気的駆動手段と、前記両油圧室間の圧力差の発生に基づいて前記開閉制御弁の開閉を操作する油圧式駆動手段を備えていることを特徴とする油圧ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地震や風等の振動外力による建物の揺れを低減するために使用される制震用の油圧ダンパに備えられる開閉制御弁を制御する油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法、及びその方法に使用される油圧ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の揺れを低減するための油圧ダンパ形式の制震装置として、開閉制御弁の開度を全開と全閉の2段階に制御可能とした可変減衰装置がある(特許文献1、2参照)。
【0003】
この種の油圧ダンパは図15に示すようにシリンダとシリンダ内を往復動する両ロッド型のピストンと、ピストンの両側に設けられた油圧室と、この両油圧室をつなぐ流路に設けられた開閉制御弁等を基本構造とし、開閉制御弁の開度を切り替えることで、油圧ダンパの減衰係数を最大値Cmaxと最小値Cminの2段階に切り替えられることに特徴がある。開閉制御弁の開閉を行う方法としては、電磁弁を用いてコントローラから電流制御を行う方法(例えば特許文献1参照)や、油圧変動(圧力差の発生)を用いて自動的に開閉制御する油圧回路を用いる方法(例えば特許文献2参照)等がある。
【0004】
このような油圧ダンパは図16−(a)に示すように建物層間にブレース等を介して取り付けられるため、ブレースとダンパを合わせた装置部の力学特性は図16−(b)に示すような、剛性Kのバネと減衰係数Cのダッシュポットが直列結合したマックスウェルモデルで表される。
【0005】
図17−(a)〜(c)に従来の切替則で制御された油圧ダンパの動きを模式的に示す。建物が最大振幅(図17−(a))から反対側の最大振幅(図17−(b))まで振動している最中は、開閉制御弁を閉じ、C=Cmaxとしてブレースをダンパに剛結し、変形振幅の最大点(図17−(b))で一度、弁を開いてC=Cminとしてブレースに蓄えられた歪エネルギを除荷吸収したのち、再度、弁を閉じてC=Cmaxとする(図17−(c))。このように開閉制御弁の弁開度の切り替えを振動の振幅最大点で行うことによるダンパ荷重と層間変形の関係は図18に示すような形になる。
【0006】
図18中、荷重変形関係のループ面積がダンパによる振動エネルギの吸収量を表しており、Cが一定の一般的な油圧ダンパと比べて大きなエネルギ吸収を行い、構造物の振動をより大きく低減することができることが分かる。
【0007】
図19はダンパ荷重とダッシュポットのみの変形(層間変形からブレース変形を除いたダンパ変形)の関係を示す。Cが一定の一般的な油圧ダンパではダッシュポットの変形は層間変形の振幅δより小さな値に限定されるのに対し、振動の最大振幅点で一度弁を開いてC=Cminとする切替制御を行うことで、ダッシュポットには層間変形と同じδの変形が生じる。切替制御はダッシュポット(油圧ダンパ)の変形を拡大する効果があり、これがエネルギ吸収効率が向上する理由である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2959554号公報(段落0024〜0039、図1図4
【特許文献2】特許第4042366号公報(請求項1、請求項2、段落0025〜0069、図1図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図18に示された荷重変形関係は、図16−(b)のマックスウェルモデルの減衰係数Cを切り替えることで実現できる理論上最大のループである。従ってこれを上回るにはモータを電力で駆動する等、外部からのエネルギ供給により制御力を加えるアクティブ(能動的)な方法しかないと考えられてきた。
【0010】
本発明は上記背景より、受動的な抵抗要素しか有しない油圧ダンパを用いながらも、図18に示したループ面積を上回るエネルギ吸収能力を発揮する開閉制御弁の制御方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法は、シリンダと、このシリンダ内を往復動するピストンと、このピストンの両側に設けられた油圧室と、この両油圧室をつなぐ流路に接続され、開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁を備えた油圧ダンパにおいて、 前記油圧ダンパが、前記シリンダに接続され、圧油を蓄え可能な補助油圧タンクと、前記補助油圧タンクと前記各油圧室との間に接続され、開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁を備え、
前記ピストンがいずれかの向きに移動している最中は、開閉制御弁を閉鎖させて一方側の油圧室に圧力を発生させ、前記ピストンの移動する向きが反転したときに高圧側となった前記一方側の油圧室と前記補助油圧タンクを連結するいずれかの前記開閉制御弁を開放させて前記一方側の油圧室内の圧油を前記補助油圧タンクに移動させ、
その後、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させると共に、前記両油圧室を連結する前記開閉制御弁を開放させて高圧側の油圧室内の圧力を解放させ、両油圧室A、B間の圧力差を解消した後、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させると共に、前記一方側の反対側である他方の油圧室と前記補助油圧タンクを連結するいずれかの前記開閉制御弁を開放させて前記補助油圧タンク内の圧油を前記他方の油圧室に移動させ、開放している前記開閉制御弁を閉鎖させる一連の操作をすることをを構成要件とする。
【0012】
油圧ダンパは図1−(a)に示すように前記した特許文献2の油圧ダンパと共通する構造を持ち、ピストン3の両側に区画された油圧室A、B間に並列に接続された流路4の一部に両油圧室A、Bを連結する開閉制御弁Cが接続される。開閉制御弁Cは閉鎖状態に制御(保持)されているときに、ピストンロッド3Aに連結される、例えばフレーム20内のブレース21等、耐震要素等のつなぎ材(以下、ブレース21)を油圧ダンパ1に固定した状態にする。各油圧室A、Bを結ぶ流路4は分岐し、その分岐した流路5、6に補助油圧タンク7が接続され、補助油圧タンク7と各油圧室A、B間を結ぶ流路5、6の一部に開閉制御弁D、Eが接続される。
【0013】
補助油圧タンク7と各油圧室A、Bを連結する開閉制御弁D、Eの内、いずれか一方の開閉制御弁D(E)は両油圧室A、Bの内、ピストン3のいずれかの油圧室A(B)側への移動に起因していずれかの油圧室A(B)が相対的に高圧になった後、ピストン3の移動の向きが反転したときに開放して高圧側の油圧室A(B)からの圧油を補助油圧タンク7に移動させる。他方の開閉制御弁E(D)は高圧側の油圧室A(B)からの圧油の補助油圧タンク7への移動後、両油圧室A、Bを連結する開閉制御弁Cが一旦、開放し、両油圧室A、Bの圧力が平衡した後、開閉制御弁Cが閉鎖したときに開放して補助油圧タンク7からの圧油を他方側の油圧室B(A)に移動させる。
【0014】
油圧室Aと油圧室Bに区別はなく、開閉制御弁D、Eにも区別はない。図1−(a)で言えば、油圧室Aが最初に高圧側になったときに、油圧室Aからの圧油が油圧室Aと補助油圧タンク7を連結する開閉制御弁Dを経て補助油圧タンク7に流れる。開閉制御弁Cの開放による両油圧室A、Bの圧力の平衡後、補助油圧タンク7からの圧油が油圧室Bと補助油圧タンク7を連結する開閉制御弁Eを経て油圧室Bに流れるが、油圧室Bが最初に高圧側になったときには油圧室Bからの圧油が開閉制御弁Eを経て補助油圧タンク7に流れる。その後、補助油圧タンク7からの圧油が開閉制御弁Dを経て油圧室Aに流れることになる。
【0015】
建物が振動している最中の本発明の方法を採用した油圧ダンパ1とブレース21の動きを模式的に示す図2−(a)〜(e)により油圧ダンパ1の動作を説明する。フレーム20が振動により一方向に変形している最中(図2−(a)から(b)の間)は全ての開閉制御弁C、D、Eを閉鎖状態に保持(制御)することにより油圧ダンパ1がブレース21に剛結された状態にある。請求項1における「ピストンがいずれかの向きに移動している最中」とは、フレーム20が振動により一方向に変形している間はずっと(継続的に)の意味である。
【0016】
層間変形に応じた荷重がブレース21に発生したときに、ピストン3を挟んだいずれか一方側の油圧室A(B)に圧力が発生する。フレーム20の振動の最大振幅点でまず、圧力が発生した油圧室A(B)と補助油圧タンク7を連結する開閉制御弁D(E)を開放させ、油圧室A(B)の圧油を補助油圧タンク7に移動させる。フレーム20が振動の最大振幅点を迎えたときは請求項1における「ピストンの移動する向きが反転したとき」に相当する。油圧室A(B)からの圧油の補助油圧タンク7への移動の際、油圧室A(B)の圧力は少し下がり、固定状態にあったピストン3の油圧室A(B)側への移動が可能になり、それに応じてブレース21も少し除荷される(図2−(c))。
【0017】
油圧室Aと補助油圧タンク7の圧力が等しくなった時点で、開閉制御弁Dを閉鎖させて開閉制御弁Cを開放させると、ブレース21の荷重が完全に除荷されてブレース21は中立位置に戻る(図2−(d))。このとき、高圧側の油圧室A(B)内の圧力が解放(除荷)され、両油圧室A、B間の圧力差が解消される。ブレースの除荷完了後、開閉制御弁Cを閉鎖させると共に、開閉制御弁Eを開放させると、補助油圧タンク7の圧油が他方側の油圧室Bに流入する。このとき、油圧室Bの圧力が油圧室Aの圧力より高くなるため、シリンダ2内ではピストン3が油圧室A側に押された状態となり、ブレース21に力が加わり、図2−(b)と逆向きにブレース21が変形する(図2−(e))。補助油圧タンク7の圧力と油圧室Bの圧力が等しくなった時点で開閉制御弁Eを閉鎖させる。
【0018】
図2−(b)から図2−(e)までの一連の開閉動作に要する時間は建物振動周期と比較して十分短いため、ブレース21にオフセットの変形(荷重)が加わった状態で、外力の向きの変化に伴い、逆向きの振動が始まる。
【0019】
図3は本発明の方法によるダンパ荷重と層間変形の関係を、従来の切替制御および一般の油圧ダンパと比較して示した図であり、図中のa〜eの点は図2−(a)〜(e)に対応している。図4はダンパ荷重と油圧ダンパのみの変形(層間変形からブレース変形を除いた変形)の関係を示す。補助油圧タンクに圧力を一旦移動させ、それをブレースにオフセット変形を加えることに利用することで、ダンパ部の変形を層間変形δ以上に拡大できることが分かる。
【0020】
ところで、図2−(e)の完了後、開閉制御弁Eを閉鎖させると、補助油圧タンク7には圧油(圧力)が残る可能性があるが、この圧油は補助油圧タンク7に残留させられることで振動の繰り返しに伴い、エネルギ吸収効率の向上に寄与し得る。図5は静止状態から振動を開始した時の荷重−変形の軌跡を示す。振動の繰り返しに伴い、補助油圧タンク7の圧力が累積されていくため、エネルギ吸収効率が上昇し、数回で定常状態に達する。図5中の符号(数字)はフレーム20が変形する前の状態からの層間変形の繰り返しに伴う荷重変形の経路を示す。このように補助油圧タンク7の残圧は良い方向に作用するが、く、建物の振動周期は図2−(a)〜(e)の一連の開閉動作に比べてゆっくりであるため、振動中に補助油圧タンク7の圧力が抜けてしまう可能性もある。
【0021】
図6図2−(e)の後に補助油圧タンク7の残圧が完全に抜けてしまうと仮定した場合の荷重変形関係を示す。図5と比較すると、ややループ面積は小さいものの、従来の切替制御よりも大きなエネルギ吸収が実現されることに変わりはない。
【0022】
図7図16−(b)に示すマックスウェルモデルの剛性Kに対する補助油圧タンクの等価剛性kが定常1サイクルのエネルギ吸収量に与える影響を示す。振動中に補助油圧タンクの圧力が維持されるか(図5の場合)、抜けてしまうか(図6の場合)により、最適な剛性設定値と効率が変化するが、概ねk/Kが0.5〜3.0程度に設定できれば、従来の切替制御の約1.5倍以上の効率が実現される。kの値が上記範囲を大幅に外れると効率は低下するものの、従来の切替制御よりも効率が低下することはない。補助油圧タンクに圧力を蓄える方法として、作動流体の圧縮剛性を利用する場合、補助油圧タンクの容量をV、作動流体の体積弾性係数をG、ダンパのピストン面積をAとすると、ダンパからみた補助油圧タンクの等価剛性kはk=GA/Vと表される。
【0023】
一方、ばね等を用いた方式の補助油圧タンクを使用すれば、剛性調整は更に容易になる。作動流体(油)の圧縮剛性は高いことから、補助油圧タンクの容量が小さければ、k/Kが3.0程度より大きくなるため、それを避けるには十分に大きなタンク容量を与える(k=GA/VのVを大きくする)必要があるが、ピストン式アキュムレータのような方式であれば、直接、ばね剛性の調節が可能になることに基づく。
【0024】
請求項1に記載の方法に使用される油圧ダンパは外部からの電流の供給により開閉制御弁C、D、Eの開閉を操作する電気的駆動手段を備える場合(請求項2)と、両油圧室A、B間の圧力差の変動に基づいて開閉制御弁C、D、Eの開閉を操作する油圧式駆動手段を備える場合(請求項3)があり、電気的駆動手段と油圧式駆動手段を併せ持つ場合(請求項4)もある。電気的駆動手段は主に電磁弁を用いる方法であり、油圧式駆動手段は主に油圧で駆動する切替弁を用いる方法である。
【発明の効果】
【0025】
フレーム20がいずれかの向きに最も変形したときに、両油圧室A、Bを連結する間開閉制御弁Cを直ちに開放状態にさせて油圧室A、B間の圧油の移動を自由にさせることなく、一旦、高圧側になった油圧室A(B)内の圧油を補助油圧タンク内へ流入させて油圧エネルギを保持してから間開閉制御弁Cを開放状態にさせ、油圧室A、B間の圧力を平衡状態にした後に、補助油圧タンク内の油圧エネルギを反対側の油圧室B(A)に注入するため、フレーム20の層間変形よりブレース21の変形を拡大することができる。
【0026】
この結果、1サイクルのフレーム20の変形の間の荷重(油圧ダンパ荷重)と変形(層間変形)の関係を表す履歴ループが従来の履歴ループより大きい面積のループを描くことが可能になるため、エネルギ吸収効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】(a)は本発明の油圧ダンパの構造を模式化して示した断面図、(b)は(a)の一例としての図8に示す油圧回路図を模式化して示した断面図である。
図2】(a)は図1に示す油圧ダンパを組み込んだフレームがいずれかの向きに変形している途中の様子を示した立面図、(b)は(a)の状態から最大の層間変形を生じたときの様子を示した立面図、(c)は(b)の状態の直後に開閉制御弁Dを開放状態にしたときの様子を示した立面図、(d)は(c)の状態の直後に開閉制御弁Dを閉じて開閉制御弁Cを開放状態にした(ピストンの移動を自由にした)ときの様子を示した立面図、(e)は(d)の状態の直後に開閉制御弁Cを閉じて開閉制御弁Eを開放状態にしたときの様子を示した立面図である。
図3図2−(a)〜(e)に示す制御がなされたときの1サイクルの振動時の油圧ダンパの荷重−変形(層間変形)関係を示した履歴特性図である。
図4図3中の層間変形からフレームの変形量を差し引いたときの油圧ダンパの荷重−変形(層間変形)関係を示した履歴特性図である。
図5】半サイクルの振動の間、補助油圧タンクの圧力が維持されると想定した場合の荷重−変形(層間変形)関係を示した履歴特性図である。
図6】半サイクルの振動の間、補助油圧タンクの圧力が維持されないと想定した場合の荷重−変形(層間変形)関係を示した履歴特性図である。
図7図2−(b)に示す力学モデルの剛性Kに対する補助油圧タンクの等価剛性kの比k/Kと、1サイクルのエネルギ吸収量の、従来型の切替制御がなされた油圧ダンパのエネルギ吸収量に対する比率との関係を示したグラフである。
図8】各開閉制御弁に付属したソレノイドへのコントローラからの指令に基づいて各開閉制御弁の開閉を制御する場合の、油圧ダンパと各開閉制御弁との接続例を示した油圧回路図である。
図9】油圧ダンパの両油圧室間の圧力差に起因して各開閉制御弁の開閉を制御する場合の、油圧ダンパと各開閉制御弁との接続例を示した油圧回路図である。
図10図9に示す例に図8に示す例におけるコントローラとその指令に基づいて動作するソレノイドを付加した場合の、油圧ダンパと各開閉制御弁との接続例を示した油圧回路図である。
図11】(a)は図1−(a)に示す油圧ダンパの両油圧室間を連結する位置にリリーフ弁12を組み込んだ状態を表す模式図、(b)は(a)に示す油圧室間に接続されるリリーフ弁が作動したときの油圧ダンパの荷重−変形(層間変形)関係を示した履歴特性図である。
図12図8に示す例における油圧ダンパの油圧室間の流路にリリーフ弁を接続した場合の、油圧ダンパと各開閉制御弁との接続例を示した油圧回路図である。
図13図9に示す例における油圧ダンパの油圧室間の流路と、バッファとアキュムレータ間の2箇所にリリーフ弁を接続した場合の、油圧ダンパと各開閉制御弁との接続例を示した油圧回路図である。
図14図10に示す例における油圧ダンパの油圧室間の流路と、バッファとアキュムレータ間の2箇所にリリーフ弁を接続した場合の、油圧ダンパと各開閉制御弁との接続例を示した油圧回路図である。
図15】開閉制御弁を有する従来の減衰係数切替型油圧ダンパの構造を模式化して示した断面図である。
図16】(a)は図15に示す油圧ダンパを柱・梁のフレーム内に配置されるブレース等の耐震要素とフレーム間に跨って設置した様子を示した立面図、(b)は(a)に示すブレースと油圧ダンパを合わせた装置部の力学モデルを示した模式図である。
図17】(a)は図16−(a)に示すフレームがいずれかの向きに最大の層間変形を生じたときの様子を示した立面図、(b)は逆向きに最大の層間変形を生じたときの様子を示した立面図、(c)は(b)の状態の直後に開閉制御弁を開いてシリンダ内のピストンの移動を自由にしたときの様子を示した立面図である。
図18図17−(a)〜(c)に示す1サイクルの振動時の油圧ダンパの荷重−変形(層間変形)関係を示した履歴特性図である。
図19図18中の層間変形からブレースの変形量を差し引いたときの油圧ダンパの荷重−変形(ダンパ変形)関係を示した履歴特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図8図13を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0029】
油圧ダンパ1はシリンダ2と、シリンダ2内を往復動するピストン3と、ピストン3の両側に設けられた油圧室A、Bと、両油圧室A、Bをつなぐ流路4に接続され、開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁Cと、シリンダ2に接続され、圧油を蓄え可能な補助油圧タンク7と、補助油圧タンク7と各油圧室A、Bとの間に接続され、開放状態と閉鎖状態が切り替えられる開閉制御弁D、Eを備える。
【0030】
図8は外部からの電流の供給により全開閉制御弁C、D、Eの開閉を操作する電気的駆動手段としてのコントローラ8からの指令に基づいて図1−(b)に示す油圧ダンパ1の全開閉制御弁C〜Eの制御を行う場合の油圧ダンパ1と各開閉制御弁C〜Eとの接続例を示す。
【0031】
図1−(a)に示す例では全ての開閉制御弁C〜Eが方向性を持たないため、油圧室Aが高圧側になったときに、油圧室A内の圧油が開閉制御弁Dを通じて補助油圧タンク7に移動し、補助油圧タンク7内の圧油が開閉制御弁Eを通じて反対側の油圧室Bに移動する。油圧室Bが高圧側になったときには、油圧室B内の圧油が開閉制御弁Eを通じて補助油圧タンク7に移動し、補助油圧タンク7内の圧油が開閉制御弁Dを通じて反対側の油圧室Aに移動する。
【0032】
図1−(b)は図1−(a)における開閉制御弁C〜Eが方向性を有する場合の図1−(a)の別の例としての油圧ダンパの構造を模式化して示す。図8図1−(b)に示す油圧回路図の具体例に相当する。図1−(a)では圧油が開閉制御弁Dを通じて油圧室Aと補助油圧タンク7間を高圧側から低圧側へ移動でき、開閉制御弁Eを通じて油圧室Bと補助油圧タンク7間を高圧側から低圧側へ移動できる。これに対し、(b)では切替弁2Aにより、高圧側のいずれかの油圧室A(B)からの圧油が開閉制御弁Dを通じて補助油圧タンク7へ移動でき、補助油圧タンク7からの圧油が開閉制御弁Eを通じて同じく高圧側のいずれかの油圧室B(A)へ移動できる。
【0033】
図1−(b)においてピストン3の移動により油圧室Aが高圧側であるとき、切替弁2Aにより、高圧側油圧室Aと開閉制御弁Dの流路が連結される。ピストン3の移動の向きが反転したときに、開閉制御弁Dを開くと、油圧室Aからの圧油は開閉制御弁Dを通じて補助油圧タンク7に移動する。補助油圧タンク7と油圧室Aの圧力が平衡になった後、一旦、開閉制御弁Dを閉鎖し、続いて開閉制御弁Cを開くと、油圧室Aの圧力が油圧室Bへ流れて解放される。油圧室A、B間の圧力差が解消されたときに開閉制御弁Cを閉じると、既にピストン3は僅かながら反対方向への移動を開始しているため、先ほどは低圧側であった反対側の油圧室Bが僅かながら高圧側となるため、切替弁2Aが切り替わり、油圧室Bと開閉制御弁Eの流路が連結される。その後、開閉制御弁Eを開くと、補助油圧タンク7の圧油が油圧室Bに移動する。図1−(b)中、切替弁2Aは高圧側の油圧室A(B)を開閉制御弁D及び開閉制御弁Eに連結する役目を果たすが、開閉制御弁D、Eに(a)に示すような両方向弁を使用する場合は必要ではない。
【0034】
図8に示す例では開閉制御弁Dと開閉制御弁Eのそれぞれには、開閉制御弁Dと開閉制御弁Eの開閉を操作するソレノイドバルブD1、E1が接続され、開閉制御弁Cには開閉制御弁Cの開閉を操作するソレノイドバルブC1が接続される。この例では両油圧室A、Bに、両油圧室A、Bの内、いずれかの油圧室A(B)が高圧側になったときに、高圧側の油圧室A(B)からの圧油を開閉制御弁Dと開閉制御弁C側へ流す切替弁2Aを接続している。
【0035】
切替弁2Aは両油圧室A、Bを結ぶ流路4に接続される。切替弁2Aはいずれか一方の油圧室A(B)内の圧力が他方の油圧室B(A)内の圧力を上回ったときに、高圧側の油圧室A(B)内の圧油が流路4と流路5に流れる状態にするように設定されている。
【0036】
切替弁2Aには開閉制御弁(ポペット弁)Cと開閉制御弁(ポペット弁)Dに油圧室A、Bからの圧油が移動し得る流路4、5が接続され、流路5に接続される補助油圧タンク7の先に、開閉制御弁Dを通過した圧油が開閉制御弁(ポペット弁)Eに移動し得る流路6が接続される。開閉制御弁Dに接続されたソレノイドバルブD1のソレノイドD2は励磁されたときにのみ、高圧側の油圧室A(B)内の圧油の開閉制御弁Dの通過を自由にする状態にあり、切替弁2Aを経て開閉制御弁Dに移動する圧油はソレノイドバルブD1がコントローラ8からの指令を受け(通電し)、ソレノイドD2が励磁されたときに開閉制御弁Dを通過して開閉制御弁E側へ向かうが、開閉制御弁Eは平常時にソレノイドバルブE1によって閉鎖した状態にあるため、開閉制御弁Dを通過した圧油は補助油圧タンク7へ移動する。
【0037】
開閉制御弁Cに接続されたソレノイドバルブC1のソレノイドC2は励磁されたときにのみ、流路4に進入した圧油の開閉制御弁Cの通過を自由にする状態にあり、流路4に進入した圧油はソレノイドバルブC1がコントローラ8からの指令を受け(通電し)、ソレノイドC2が励磁されたときに開閉制御弁Cを通過して低圧側の油圧室B(A)に流れ得る状態にする。
【0038】
開閉制御弁Eに接続されたソレノイドバルブE1のソレノイドE2は励磁されたときにのみ、補助油圧タンク7から流路6に進入した圧油の開閉制御弁Eの通過を自由にする状態にあり、補助油圧タンク7から流路6に進入した圧油はソレノイドバルブE1がコントローラ8からの指令を受け(通電し)、ソレノイドE2が励磁されたときに開閉制御弁Eを通過して高圧側の油圧室B(A)に流れ得る状態にする。
【0039】
コントローラ8には例えば両油圧室A、Bに設置された圧力計11、11の計測値が送信され、コントローラ8はいずれか一方の油圧室A(B)の圧力が上昇から下降へと変化したことを検出したときに(図2−(b))、ソレノイドバルブD1に通電の指令を送信し、ソレノイドD2を励磁させ、開閉制御弁Dを開放状態にする(図2−(c))。コントローラ8はフレーム20の層間変形量を計測する変位計等から送られる計測値等や、両油圧室A、B間の圧力差の変化により判明する計測値に基づいて、層間変形の向きが反転したことを判断することもある。
【0040】
開閉制御弁Dが開放すると(図2−(c))、いずれか高圧側になった油圧室A(B)内から流路5に進入した圧油が開閉制御弁Dを通過して補助油圧タンク7に移動し、一時的に蓄えられる。高圧側の油圧室A(B)内の圧油の補助油圧タンク7への移動により高圧側の油圧室A(B)内の圧力が降下し、高圧側の油圧室A(B)内の圧力と補助油圧タンク7の圧力が平衡する状態に至る。
【0041】
コントローラ8は油圧室A(B)と補助油圧タンク7の圧力が平衡したことを検出したときに、ソレノイドバルブD1への通電を遮断すると同時に、ソレノイドバルブC1に通電の指令を送信し、ソレノイドC2を励磁させ、開閉制御弁Dを閉鎖させながら、開閉制御弁Cを開放状態にする(図2−(d))。開閉制御弁Cが開放することで、両油圧室A、B間の圧油の移動が自由になり、両油圧室A、B間の圧力差が解消され、平衡状態に至る。
【0042】
コントローラ8は両油圧室A、B内の圧力が平衡した時点で、ソレノイドバルブC1への通電を遮断した後、ソレノイドバルブE1に通電の指令を送信し、ソレノイドE2を励磁させ、開閉制御弁Cを閉鎖させた後、開閉制御弁Eを開放状態にする(図2−(e))。開閉制御弁Cを閉じる時点で、層間変形は僅かながら反対方向への移動を開始しているため、開閉制御弁Cを閉じると、開閉制御弁Dを開く時には高圧側であった油圧室A(B)の圧力よりも、低圧側であった油圧室B(A)の圧力が僅かながら上昇する。このため、切替弁2Aが切り替わり、補助油圧タンク7から開閉制御弁Eを通過した圧油が流れる流路6は油圧室B(A)と連結される。従って、開閉制御弁Eを開放すると、油圧室B(A)内より相対的に高圧である補助油圧タンク7内の圧油が流路6を通じて流れ込み、補助油圧タンク7の圧力と平衡になるまで油圧室B(A)の圧力が高められることになる。
【0043】
図9は両油圧室A、B間の圧力差の発生(油圧変動)に起因して図1に示す油圧ダンパ1の全ての開閉制御弁C〜Eの制御を行う場合の油圧ダンパ1と各開閉制御弁C〜Eとの接続例を示す。この例においても両油圧室A、Bに、両油圧室A、Bの内、いずれかの油圧室A(B)が高圧側になったときに、高圧側の油圧室A(B)からの圧油を開閉制御弁Dと開閉制御弁Cに流す切替弁2Aを接続している。
【0044】
この場合は、コントローラ8による開閉制御弁C、D、Eの制御がないため、図8におけるソレノイドバルブC1〜E1に代わり、開閉制御弁C、D、Eには切替弁C3、D3、D4が接続される。切替弁C3と切替弁D3は平常時の状態では開閉制御弁C、Dの開閉を操作する圧油の流れをスプリングの力によって阻止することで、開閉制御弁C、Dを閉じた状態に維持している。開閉制御弁Eは、切替弁C3、D3が平常時の状態にあり、且つ補助油圧タンク7内の圧力が高圧側の油圧室A(B)内の圧力を上回るときに開いて、補助油圧タンク7内の圧油が高圧側の油圧室A(B)に流れ込むようになっている。
【0045】
流路5に開閉制御弁Dと並列に接続されたバッファ9内の圧力が高圧側の油圧室A(B)の圧力を上回ったときに、切替弁D3は開閉制御弁Dの開閉を可能にする圧油の流れを自由にする状態にスプリングの力に抗して切り替わり、開閉制御弁Dを開放状態にする(図2−(c))。図9の例では切替弁D3とその切り替えを操作するバッファ9とこれに圧油を流す逆止弁9Aの組み合わせが図8の例におけるソレノイドバルブD1に相当し、開閉制御弁Dの開閉を操作する働きをする。
【0046】
ピストン3の一方向への移動により、いずれか一方の油圧室A(B)の圧力が上昇中は高圧側の油圧室A(B)内の圧油が流路5から逆止弁9Aを通ってバッファ9内に入り込む。ピストン3の移動方向が反転すると、高圧側の油圧室A(B)内の圧力はそれに応じて低下するが、バッファ9と高圧側の油圧室A(B)を連結する流路に逆止弁9Aが備えられていることで、バッファ9の圧力の低下が阻止されるため、バッファ9内の圧力が高圧側の油圧室A(B)の圧力を上回ることになる。この結果、切替弁D3が切り替わって開閉制御弁Dが開放し(図2−(c))、高圧側の油圧室A(B)内の圧油が流路5から開閉制御弁Dを経由して補助油圧タンク7へ移動する。
【0047】
高圧側の油圧室A(B)内の圧油の補助油圧タンク7への移動に伴い、高圧側の油圧室A(B)内の圧力と補助油圧タンク7内の圧力が平衡したときに、切替弁D3に接続され、平常時に切替弁D3を通じたバッファ9からの流れを阻止している切替弁D4がバッファ9からの流れを自由にする状態に切り替わり、バッファ9からの圧油が切替弁D4に接続されたアキュムレータ10に流れ込む。バッファ9からの圧油のアキュムレータ10への移動によりバッファ9内の圧力が降下し、高圧側の油圧室A(B)内の圧力と平衡すると、切替弁D3がスプリングの力で平常時の状態に復帰し、開閉制御弁Dが閉鎖する。
【0048】
バッファ9内の圧油がアキュムレータ10に更に流れ込むことで圧力が降下し、高圧側の油圧室A(B)内の圧力を下回ると、切替弁D3は通常の位置に復帰し、切替弁C3が切り替わり、開閉制御弁Cを開放状態にする(図2−(d))。開閉制御弁Cの開放により開閉制御弁Cを通じた油圧室A、B間の圧油の移動が自由になり、油圧室A、B間の圧力が平衡する。油圧室A、B間の圧力が平衡することで、切替弁C3がスプリングの力で平常時の状態に復帰しようと動き始める。切替弁C3は僅かな移動量で開閉制御弁Cの背圧の流路を閉鎖し、完全に平常時の状態に復帰したときに開閉制御弁Eの背圧の流路が連結されるように設定されているため、切替弁C3が平常時の状態に復帰する途中で、まず開閉制御弁Cが閉鎖する。
【0049】
このとき、ピストン3は僅かながらも反対方向へ移動を開始しているため、開閉制御弁Cが閉鎖状態に戻ると、直前まで低圧側であった油圧室B(A)の圧力が直前まで高圧側であった油圧室A(B)より高くなって切替弁2Aが切り替わり、開閉制御弁Eからの流路6は直前まで低圧側であった油圧室B(A)と連結される。その後、切替弁C3が完全に平常時の位置に復帰すると、開閉制御弁Eを閉鎖状態に保っていた背圧の流路が、直前まで低圧側であった油圧室B(A)に連結される。補助油圧タンク7の圧力は油圧室B(A)内の圧力よりも上回っているため、開閉制御弁Eが開放し、補助油圧タンク7内の圧油が流路6を通じて油圧室B(A)内に流れ込む。このとき、開閉制御弁Cは閉鎖状態にあるから、補助油圧タンク7内の圧力と平衡になるまで、油圧室B(A)の圧力が高められることになる。
【0050】
図10図8に示す油圧回路における開閉制御弁Cにバッファ9及び逆止弁9Aを並列に接続すると共に、バッファ9にバッファ9と連通し得るアキュムレータ10を直列に接続し、開閉制御弁Cに付属するソレノイドバルブC1とアキュムレータ10との間に図9に示す油圧回路の切替弁D3を接続し、図8に示す油圧回路と図9に示す油圧回路を合成した油圧回路を形成した場合の例を示す。
【0051】
図10の例では開閉制御弁Dに付属するソレノイドバルブD1のソレノイドD2と、開閉制御弁Eに付属するソレノイドバルブE1のソレノイドE2を平常時(無通電時)に閉じた状態に保ち、ソレノイドバルブC1のソレノイドC2を無通電時に図示するように開いた状態、すなわちバッファ9からの圧油が切替弁D3側へ流れ得る状態に保つ。ソレノイドC2は平常時には通電した状態に置かれることで、バッファ9から切替弁D3へ向かう圧油の流れを阻止しており、コントローラ8からの指令を受けて無通電状態になったときに図示するようにバッファ9から切替弁D3へ向かう圧油の流れが生じ得る状態にする。
【0052】
この場合、油圧室A、Bのいずれか一方の圧力が上昇から下降へ変化したとき、コントローラ8からの指令によりソレノイドバルブD1に通電し、ソレノイドD2が励磁されると、開閉制御弁Dが開放し、高圧側の油圧室A(B)内の圧油が補助油圧タンク7に移動する。その後、補助油圧タンク7内の圧力と高圧側の油圧室A(B)内の圧力が平衡したときに、コントローラ8からの指令によりソレノイドD2への通電が遮断されると同時に、ソレノイドC2への通電も遮断されると、バッファ9内に蓄えられていた圧力が高圧側の油圧室A(B)内の圧力を上回り、切替弁D3がスプリングに抗して切り替わり、開閉制御弁Cが開放する。開閉制御弁Cの開放により油圧室A、B間の圧力差が解消される。
【0053】
油圧室A、B間の圧力差の解消に伴い、ソレノイドC2へ通電してバッファ9を通じた圧油の流れを遮断すると、制御弁Cが閉鎖し、ピストンの移動に伴い、それまで低圧側であった反対側の油圧室B(A)が相対的に高圧になり、切替弁2Aが切り替わる。続いてソレノイドE2へ通電すると、開閉制御弁Eが開放し、補助油圧タンク7内の圧油が油圧室B(A)内へ流入し、油圧室B(A)内の圧力が補助油圧タンク7の圧力と平衡するまで高められることになる。
【0054】
図10の例は、完全に自動で各開閉制御弁C〜Eの開閉が制御され、コントローラ8に依存しない図9に示す油圧回路より単純な構成でありながら、停電時等、電源からの電流供給が遮断された断電時にソレノイドC2が開くことで、特許文献2と同様の自動油圧開閉回路に切り替わるため、特許文献2と同様の切替制御が保証される利点がある。図10の例においても、ソレノイドC2、D2、E2への通電のタイミングを油圧室A、Bに設置された圧力計11、11からの計測値に基づいているが、フレーム20の層間変形の計測値に基づいて通電がされることもある。
【0055】
油圧ダンパ1が実際のフレーム20内に組み込まれるときには、油圧ダンパ1が発生する荷重(抵抗力)が過大にならず、ダンパ本体やフレーム20が損傷しないよう、すなわち油圧室A、B間の圧力差が一定値を超えないよう、図11−(a)に示すように油圧室A,B間を直接連結する流路にリリーフ弁12が接続されることがある。図11−(b)はリリーフ弁12が作動した場合の荷重−変形関係の模式図を示すが、リリーフ弁12が作動すると、荷重が最大となるタイミング(図11−(b)のP点)が層間変形が最大値を迎えるタイミングと一致しなくなることが分かる。そのため、ダンパの油圧室の圧力に基づいて開閉制御弁を制御すると、エネルギー吸収効率が損失する可能性がある。エネルギー吸収効率の損失を回避するためには、油圧ダンパ1の発生荷重がリリーフ弁12の作動荷重Frより大きい状態では、開閉制御弁の制御を行わないようにすればよい。
【0056】
図12図8に示す油圧回路における切替弁2A(流路4)に並列に、両油圧室A、B間の各向きの過剰な圧力差を逃がすリリーフ弁12を接続した場合である。層間変形の計測値に基づいて開閉制御弁の制御を行う場合は問題ないが、油圧室A,Bの圧力に基づいて制御する場合は、油圧室A,B間の圧力差がリリーフ弁12の作動荷重Frより大きい場合には開閉制御弁の制御を行わないアルゴリズム(プログラム)に変更すればよい。
【0057】
図13図9に示す油圧回路における切替弁2A(流路4)に並列にリリーフ弁12を接続し、バッファ9とアキュムレータ10との間にリリーフ弁13を接続した場合の例である。リリーフ弁13によりバッファ9の圧力がリリーフ弁12の作動荷重Frを超えないように制御されるため、バッファ9内の圧力が高圧側の油圧室A(B)内の圧力を上回ることによる開閉制御弁D、C、Eの開放の動作が回避される。
【0058】
図14図10に示す油圧回路における切替弁2A(流路4)に並列にリリーフ弁12を接続し、バッファ9とアキュムレータ10間にリリーフ弁13を接続した場合の例を示す。この場合も、断電時にソレノイドC2が開くことがあっても、リリーフ弁13によりバッファ9の圧力がリリーフ弁12の作動荷重Frを超えないように制御されるため、バッファ9内の圧力が高圧側の油圧室A(B)内の圧力を上回ることによる開閉制御弁Cの開放の動作が回避される。
【符号の説明】
【0059】
1……油圧ダンパ、
2……シリンダ、
A……油圧室、B……油圧室、
2A……切替弁、
C……開閉制御弁、C1……ソレノイドバルブ、C2……ソレノイド、C3……切替弁、
D……開閉制御弁、D1……ソレノイドバルブ、D2……ソレノイド、D3……切替弁、D4……切替弁、
E……開閉制御弁、E1……ソレノイドバルブ、E2……ソレノイド、
3……ピストン、3A……ピストンロッド、
4……流路(油圧室A、B間)、
5……流路(一方の油圧室と補助油圧タンク間)、6……流路(補助油圧タンクと他方の油圧室間)、
7……補助油圧タンク、8……コントローラ、
9……バッファ、9A……逆止弁、10……アキュムレータ、11……圧力計、
12……リリーフ弁(流路)、13……リリーフ弁(バッファとアキュムレータ間)、
20……フレーム、21……ブレース。
図1
図2
図3
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図5
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