(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出するステップと、
接地解析結果に基づき、タイヤ幅方向における或る位置上にある全ての要素の接地圧の累計値に対応する重み係数を、幅方向位置を異ならせて複数算出するステップと、
前記踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出するステップと、
抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を特定し、特定した重み係数を累積して累積値を氷雪性能の指標値とするステップと、
を有するタイヤ氷雪性能値の算出方法。
或る幅方向位置における前記重み係数は、接地面に設定した基点を通る幅方向に沿ったライン上の前記或る幅方向位置の接地圧と、前記基点の圧力値を基準値とした場合の前記基点を通る前後方向に沿ったラインの接地圧の累積値と、或る長さを基準長さとした場合の前記或る幅方向位置の接地長とを積算することで算出する請求項1に記載のタイヤ氷雪性能値の算出方法。
前記抽出した画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を、タイヤ幅方向における複数箇所の前記重み係数を補間することにより算出する請求項1又は2に記載のタイヤ氷雪性能値の算出方法。
踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出する接地圧算出部と、
前記接地圧算出部の算出結果に基づき、タイヤ幅方向における或る位置上にある全ての要素の接地圧の累計値に対応する重み係数を、幅方向位置を異ならせて複数算出する重み係数算出部と、
前記踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を特定し、特定した重み係数を累積して累積値を氷雪性能の指標値とする指標値算出部と、
を備えるタイヤ氷雪性能値の算出装置。
或る幅方向位置における前記重み係数は、接地面に設定した基点を通る幅方向に沿ったライン上の前記或る幅方向位置の接地圧と、前記基点の圧力値を基準値とした場合の前記基点を通る前後方向に沿ったラインの接地圧の累積値と、或る長さを基準長さとした場合の前記或る幅方向位置の接地長とを積算することで算出する請求項4に記載のタイヤ氷雪性能値の算出装置。
前記抽出した画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を、タイヤ幅方向における複数箇所の前記重み係数を補間することにより算出する請求項4又は5に記載のタイヤ氷雪性能値の算出装置。
踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出するステップと、
接地解析結果に基づき、タイヤ幅方向における或る位置上にある全ての要素の接地圧の累計値に対応する重み係数を、幅方向位置を異ならせて複数算出するステップと、
前記踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出するステップと、
抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を特定し、特定した重み係数を累積して累積値を氷雪性能の指標値とするステップと、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、一つのブロックだけの氷雪性能の評価値を算出するので、内部構造等のタイヤ構造を考慮した氷雪性能値を算出できない。また、従来方法では、ブロックのみのモデルを用いているので、タイヤにおけるサイプの配置位置を考慮していない。
【0006】
さらに、上記方法では、サイプ形状を含むブロックをモデル化しているため、サイプの配置やその傾きを変えて評価しようとする場合に、モデルを作り直し、有限要素法による解析を逐次行わなければならないので、モデルを生成又は修正する工数と、解析に要する時間が膨大となってしまう。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、工数及び計算コストの増大を回避しつつ、タイヤ構造を考慮した氷雪性能値を算出可能なタイヤ氷雪性能値の算出方法、タイヤ氷雪性能値の算出装置及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本発明のタイヤ氷雪性能値の算出方法は、踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出するステップと、接地解析結果に基づき、タイヤ幅方向における或る位置上にある全ての要素の接地圧の累計値に対応する重み係数を、幅方向位置を異ならせて複数算出するステップと、前記踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出するステップと、抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を特定し、特定した重み係数を累積して累積値を氷雪性能の指標値とするステップと、を有する。
【0010】
本発明のタイヤ氷雪性能値の算出装置は、踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出する接地圧算出部と、前記接地圧算出部の算出結果に基づき、タイヤ幅方向における或る位置上にある全ての要素の接地圧の累計値に対応する重み係数を、幅方向位置を異ならせて複数算出する重み係数算出部と、前記踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出する抽出部と、前記抽出部が抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を特定し、特定した重み係数を累積して累積値を氷雪性能の指標値とする指標値算出部と、を備える。
【0011】
このようにすれば、有限要素法による接地解析は一度で済み、評価対象となるサイプ画像からのエッジ画像の抽出、重み係数の特定、及び重み係数を累計するだけなので、評価対象となるサイプの配置位置及び向きを変えても、再度の有限要素法による接地解析を必要とせず、タイヤモデルを作り替える必要もない。したがって、計算コスト及び工数を著しく低減することが可能となる。それでいて、サイプ画素の幅方向位置に応じた重み係数を特定するので、サイプの位置を考慮した氷雪性能値(指標値)を算出でき、予測精度を向上させることが可能となる。
【0012】
重み係数を容易に算出するためには、或る幅方向位置における前記重み係数は、接地面に設定した基点を通る幅方向に沿ったライン上の前記或る幅方向位置の接地圧と、前記基点の圧力値を基準値とした場合の前記基点を通る前後方向に沿ったラインの接地圧の累積値と、或る長さを基準長さとした場合の前記或る幅方向位置の接地長とを積算することで算出することが好ましい。
【0013】
ユーザフレンドリーな解析を可能にするためには、前記抽出した画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を、タイヤ幅方向における複数箇所の前記重み係数を補間することにより算出することが好ましい。
【0014】
本発明は、上記方法を構成するステップを、プログラムの観点から特定することも可能である。
【0015】
すなわち、本発明のコンピュータプログラムは、踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出するステップと、接地解析結果に基づき、タイヤ幅方向における或る位置上にある全ての要素の接地圧の累計値に対応する重み係数を、幅方向位置を異ならせて複数算出するステップと、前記踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出するステップと、抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置に対応する前記重み係数を特定し、特定した重み係数を累積して累積値を氷雪性能の指標値とするステップと、をコンピュータに実行させる。
このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
[タイヤ氷雪性能値の算出装置]
本実施形態のタイヤ氷雪性能値の算出装置2は、評価対象となるサイプの氷雪性能値(指標値)を、タイヤの踏面に対する配置位置、向き(角度)及びタイヤ構造を考慮して算出する装置である。サイプ12は、
図2A及び
図2Bに示すように、踏面における形状で表現でき、種々の形状が考えられる。サイプ12は、タイヤ周方向CDに延びる主溝1で区画された陸部(ブロック10又はリブ11)に配置される。タイヤ幅方向WDの中央C側にある陸部をセンター陸部Ceと呼び、タイヤ幅方向WDの端部にある陸部をショルダー陸部Shと呼ぶ。主溝1の数によって、センター陸部Ceとショルダー陸部Shとの間にメディエイト陸部Meが存在する場合がある。サイプ12の配置位置及び向きは設計値として変更可能である。サイプ12は、配置位置に応じてショルダー陸部Sh、メディエイト陸部Me及びセンター陸部Ceのいずれかに配置される。
図2Aに示すサイプ12は、波形状のサイプの一例であり、
図2Bに示すサイプ12は、矩形状のサイプの一例である。
【0019】
具体的に、タイヤ氷雪性能値の算出装置2は、
図1に示すように、初期設定部20と、接地圧算出部21と、重み係数算出部22と、抽出部23と、指標値算出部24とを有する。これら各部20〜24は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0020】
図1に示す初期設定部20は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルに関する設定、タイヤモデルにかける荷重値及び内圧値など、有限要素法(Finite Element Method)を用いた接地圧解析に必要な各種設定を実行し、これら設定値をメモリ(図示せず)に記憶する。また、初期設定部20は、
図2A及び
図2Bに示す評価対象となるサイプ12のデータ(ベクトルデータ、画像データ等)、サイプの配置位置及びその向きに関する設定を受け付け、メモリに記憶する。本実施形態においてタイヤモデルとして、ブロック又はリブを始めとする陸部を有し、トレッド部からビード部の内部構造を含むタイヤモデルを使用するが、踏面にサイプが形成されていないタイヤモデルを用いる。サイプは、溝幅が1.5mm以下の溝を意味する。荷重を加える方向は、垂直方向のみに設定して計算を簡素化している。
【0021】
図1に示す接地圧算出部21は、予め設定されたタイヤモデル、所定荷重及び所定内圧を含む解析条件の下、タイヤモデルを用いた有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出する。
【0022】
図3は、接地圧算出部21の算出結果を例示する図である。
図3に示すように、接地解析の結果、接地面形状及び接地面を構成する要素毎に接地圧が得られる。
図3では、接地圧は図中において色で示し、編目状の線で要素を表している。説明の便宜上、タイヤ幅方向WDをx座標とし、タイヤ前後方向CD(タイヤ周方向)をy座標として説明する。同図に示すように、接地解析結果のデータは、タイヤ幅方向WD及びタイヤ前後方向CD(タイヤ周方向)の座標(xy)と当該座標(xy)における接地圧P
xyで構成される三次元データとなる。一方、サイプ形状は、
図2A及び
図2Bに示すように、タイヤ幅方向WD及びタイヤ前後方向CDの座標(xy)で構成される二次元データである。サイプのエッジ効果(氷雪性能値)は接地圧に応じて変化するため、サイプによる氷雪性能値を適切に算出するために、接地解析結果のデータとサイプ形状データの双方を参照する必要がある。
【0023】
そこで、
図1に示す重み係数算出部22は、二次元データのサイプデータと関連付けを可能にするために、三次元データである接地解析結果データを、タイヤ幅方向WDの座標xと当該座標xにおける重み係数wc(x)で構成される二次元データ(
図5参照)へ変換する処理を行う。重み係数wcは、
図3に示すように、タイヤ幅方向WDにおける或る位置X
1上にある全ての要素の接地圧P
(X1,j=1〜N1)の累計値に対応する値である。N1は、接地面を構成する要素のうち座標X
1における要素数を示す。
図1に示す重み係数算出部22は、接地圧算出部21の接地解析結果に基づき、幅方向位置xを異ならせて重み係数wc(x)を複数算出する。本実施形態では、接地面を構成するタイヤ幅方向WDの要素列の数、重み係数wc(x)を算出する。
【0024】
重み係数wc(x)は、タイヤ幅方向WDにおける或る位置X
1上にある全ての要素の接地圧P
(X1,j=1〜N1)の累積値に対応する値となるが、本実施形態では、タイヤモデルの要素の取り方に自由度を持たせ、重み係数wcの算出を容易にするために、次の処理を実施している。
【0025】
図4Aは、接地面Ch及び接地面の接地圧を高さで模式的に示す図である。具体的には、
図4に示すように、或る幅方向位置x
1における重み係数wc(x
1)は、接地面Chに基点S1を設定し、基点S1を通る幅方向WDに沿ったラインL1上の或る幅方向位置x
1の接地圧P(x
1)と、基点S1の圧力値P
S1を基準値(1)とした場合の基点S1を通る前後方向CDに沿ったラインL2の接地圧の前後方向累計値PLと、或る長さを基準長さ(本実施形態では1)とした場合の或る幅方向位置x
1の接地長CL(x
1)と、を積算することで算出する。本実施形態では、接地面Chの中央を基点S1に設定している。
図4Bは、基点S1を通る幅方向WDに沿ったラインL1上の接地圧分布PW(
図4A参照)を示す。或る幅方向位置x
1の接地圧P(x
1)は、図中に示す通りである。
図4Cは、基点S1を通る前後方向CDに沿ったラインL2の接地圧分布PL(
図4A参照)を示す。基点S1の圧力値P
S1は、図中に示す通りである。
図4Dは、
図2A及び
図2Bに示すサイプを繰り返し配置するときの最小単位の周方向長さPtを基準長さ(1)とした場合の接地長分布CLを示す。
【0026】
また、
図5に示すように、重み係数wcは、図中にてバツ印で示すように有限要素解析に起因して離散データとなる。そこで、重み係数算出部22は、同図に示すように、タイヤ幅方向WDの複数箇所(バツ印で示す箇所)の重み係数をスプライン等の補間処理で補間することにより連続データ(図中にて連続線で示す)に変換する。
【0027】
図6Aは、サイプ画像を示す図である。番号はサイプを示す画素である。
図1に示す抽出部23は、
図6Aに示すように、踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向(本実施形態では前後方向CD)に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出する。
図6Aに示すように、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素として、所定滑り方向(前後方向CD)にサイプ画素が複数連続する場合には先頭の画素(数字の1で示す画素)が挙げられる。数字の2で示す画素は、先頭の画素(数字1で示す)に連続する画素である。具体的に、サイプパターンの設計には、CAD等のベクトルデータを用いることが多く、ベクトルデータにおいてサイプパターンを適宜回転して所定の向きにする。次に、ベクトルデータを画素データ(ピクセルデータ)に変換する。すると
図6Aに示すように、画素データでは、サイプの太さや傾斜角度に応じてサイプを示す画素が集合してしまう場合がある。この場合において、エッジ効果を有する画素は、所定滑り方向に対して先頭の画素だけと考え、
図6Bに示すように先頭だけの画素を抽出する。
【0028】
図1に示す指標値算出部24は、抽出部23で抽出した画素(
図6B参照)毎に、当該画素のタイヤ幅方向位置xに対応する重み係数wc(x)を特定し、特定した重み係数wc(x)を累積し、累積値を氷雪性能の指標値とする。ここで、一つのサイプパターンに限定して指標値を算出すれば、サイプ単位での氷雪性能値を算出でき、タイヤに配置される全てのサイプパターンで指標値を算出すれば、タイヤ全体での氷雪性能値を算出できる。
【0029】
[タイヤ氷雪性能値の算出方法]
上記算出装置2を用いて、タイヤ氷雪性能値を算出する方法を、
図7のフローチャートを主に参照しつつ説明する。
【0030】
まず、ステップST1において、
図1に示す初期設定部20は、操作部(図示せず)を介してユーザの操作を受け付け、タイヤモデル、荷重値、評価対象となるサイプ画像データ及びその配置位置、向きなど、各種設定を行う。
【0031】
次のステップST2において、
図1に示す接地圧算出部21は、踏面にサイプが形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、
図3に示すように接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出する。
【0032】
次のステップST3において、
図1に示す重み係数算出部22は、接地圧算出部21の算出結果に基づき、タイヤ幅方向WDにおける或る位置X
1上にある全ての要素の接地圧P
(X1,j=1〜N1)の累計値に対応する重み係数wc(x)を、幅方向位置xを異ならせて複数算出する。具体的には、重み係数算出部22は、
図4A〜Dに示すように、或る幅方向位置x
1における重み係数wc(x
1)を、接地面Chに設定した基点S1を通る幅方向WDに沿ったラインL1上の或る幅方向位置x
1の接地圧P(x
1)と、基点S1の圧力値P
S1を基準値1とした場合の基点S1を通る前後方向CDに沿ったラインL2の接地圧の累積値PLと、或る長さを基準長さとした場合の或る幅方向位置x
1の接地長CL(x
1)とを積算することで算出する。
【0033】
次のステップST4において、
図1に示す重み係数算出部22は、
図5に示すように、タイヤ幅方向WDにおける複数箇所の重み係数wc(x)を補間して連続データに変換しておく。
【0034】
次のステップST5において、CPUは、設定されたサイプの向きに応じてベクトル画像データを回転させ、ピクセルデータに変換する。次のステップST6において、
図1に示す抽出部23は、
図6Aに示す路面に対して配置位置及び向きを設定したサイプ画像から、
図6Bに示すように所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素(数字1で表す画素)を抽出する。
【0035】
次のステップST7において、
図1に示す指標値算出部24は、抽出した画素毎に当該画素のタイヤ幅方向位置xに対応する重み係数wcを特定し、ステップST8において特定した重み係数を累積し、累積値を氷雪性能の指標値とする。
【0036】
上記算出装置2及び算出方法を実施した例を下記に示す。
【0037】
図8に示す例では、タイヤサイズを140/70R14とした踏面にブロック及びリブが配置されているが、サイプが配置されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを使用した。空気圧(内圧)は200kPaで垂直荷重は230kgfに設定し、有限要素法による接地解析を行った。そして、
図8に示す2パターンのサイプについて図中で示す角度(向き)に設定してメディエイト陸部Meに配置し、重み係数の累積値を算出した。図中のグラフに示すように矩形状サイプは向きを傾斜させる毎に性能が向上していることが分かる。傾斜角度0度のときにエッジ効果を発揮しなかった部位が徐々にエッジ効果を発揮していると推測される。一方、波状サイプは向きを傾斜させても性能が変わらなかった。これは、エッジ効果を新たに発揮する部位と、エッジ効果を失う部位がほぼ均等であると考えられる。
このように、有限要素法による接地解析1回実施するだけで上記のような考察を行うことができ、計算コスト及びタイヤモデルを生成する工数を著しく低減することが可能となる。
【0038】
図9に示す例では、図中に示す波状サイプをセンター陸部Ce、メディエイト陸部Me及びショルダー陸部Shに配置し、サイプの配置位置の違いによる性能の差を算出した。また、タイヤの荷重を異ならせて性能差を算出した。荷重1は230kgfで、荷重2は160kgfである。いずれの場合も、センター陸部Ceに配置したサイプ性能を100とし、他のサイプを指数で示した。
図9に示すように、タイヤ幅方向位置x、すなわち配置する陸部に応じて氷雪性能に差が生じることが分かる。
このような考察を、有限要素法による接地解析2回実施するだけで行うことができ、計算コスト及びタイヤモデルを生成する工数を著しく低減することが可能となる。
【0039】
以上のように、本実施形態のタイヤ氷雪性能値の算出方法は、踏面にサイプ12が形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出するステップ(ST2)と、接地解析結果に基づき、タイヤ幅方向WDにおける或る位置X
1上にある全ての要素の接地圧の累計値P
(X1,j=1〜N1)に対応する重み係数wc(x)を、幅方向位置xを異ならせて複数算出するステップ(ST3)と、踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出するステップ(ST6)と、抽出した画素毎に画素のタイヤ幅方向位置xに対応する重み係数wc(x)を特定し、特定した重み係数wc(x)を累積して累積値を氷雪性能の指標値とするステップ(ST7〜8)と、を有する。
【0040】
本実施形態のタイヤ氷雪性能値の算出装置2は、踏面にサイプ12が形成されていないタイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを用い所定荷重の下で有限要素法による接地解析を実施し、接地面形状及び接地面を構成する要素毎の接地圧を算出する接地圧算出部21と、接地圧算出部21の算出結果に基づき、タイヤ幅方向WDにおける或る位置X
1上にある全ての要素の接地圧
(X1,j=1〜N1)の累計値に対応する重み係数wc(x)を、幅方向位置xを異ならせて複数算出する重み係数算出部22と、踏面に対して配置位置及び向きを設定した評価対象となるサイプ画像から、所定滑り方向に応じたエッジ効果を有する部位の画素を抽出する抽出部23と、抽出部23が抽出した画素毎に画素のタイヤ幅方向位置xに対応する重み係数wc(x)を特定し、特定した重み係数wc(x)を累積して累積値を氷雪性能の指標値とする指標値算出部24と、を備える。
【0041】
この装置及び方法によれば、有限要素法による接地解析は一度で済み、評価対象となるサイプ画像からのエッジ画像の抽出、重み係数の特定、及び重み係数を累計するだけなので、評価対象となるサイプの配置位置及び向きを変えても、再度の有限要素法による接地解析を必要とせず、タイヤモデルを作り替える必要もない。したがって、計算コスト及び工数を著しく低減することが可能となる。それでいて、サイプ画素の幅方向位置xに応じた重み係数wc(x)を特定するので、サイプの位置を考慮した氷雪性能値(指標値)を算出でき、予測精度を向上させることが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態では、或る幅方向位置x
1における重み係数wc(x
1)は、接地面Chに設定した基点S1を通る幅方向WDに沿ったラインL1上の或る幅方向位置x
1の接地圧P(x
1)と、基点S1の圧力値P
S1を基準値1とした場合の基点S1を通る前後方向CDに沿ったラインL2の接地圧の累積値PLと、或る長さPtを基準長さとした場合の或る幅方向位置x
1の接地長CL(x
1)とを積算することで算出する。
このようにすれば、タイヤモデルの要素の取り方に自由度を持たせ、重み係数wcの算出を画一的に処理でき、容易な算出が可能となる。
【0043】
さらに本実施形態では、抽出した画素のタイヤ幅方向位置xに対応する重み係数wc(x)を、タイヤ幅方向WDにおける複数箇所の重み係数wcを補間することにより算出する。このようにすれば、有限要素法による接地圧を算出する座標と、画素の座標が一致していなくても、補間により重み係数wcを算出でき、ユーザフレンドリーな解析が可能となる。
【0044】
本実施形態に係るコンピュータプログラムは、上記タイヤ氷雪性能値の算出方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0046】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。