(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属部材が、鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンまたはチタン合金からなる、請求項1に記載の金属/樹脂複合構造体。
前記(B)充填材が、最大長さが10nm〜600μmであり、該最大長さの充填材が数分率で5〜100%存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属/樹脂複合構造体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる金属/樹脂複合構造体を構成する各構成要素およびその調整方法、さらに、金属/樹脂複合構造体の特徴について説明する。なお、文中の数字の間にある「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
<金属部材>
本発明にかかる金属/樹脂複合構造体を構成する金属部材は、樹脂部材との接合表面側に、凹部形状が複数施されていることを特徴とする。該凹部形状は、下記(i)〜(iii)の特徴を有し、好ましくはさらに(iv)の特徴を有する。以下、(i)〜(iv)の特徴および該凹部形状を有する金属部材の調製方法について説明する。
【0014】
(i)前記凹部の傾き
本発明において、金属部材に施される凹部は、金属部材表面に対して、5〜85°の傾きで形成される。該金属表面に対する角度は、好ましくは15〜75°、より好ましくは30〜60°である。当該角度は、基本形状としては、
図1の(c)に示すAの角度を意味するが、
図5に示すように一方のみが前記角度を有していたり、
図6、
図7に示すように、両方に角度を有している形状を妨げるものではない。
【0015】
前記凹部の傾きが前記範囲にあると、後述する樹脂部材を構成する樹脂が凹部に入り込むと、樹脂部材が金属部材内に斜めに固定化されるため、金属部材と樹脂部材の接合表面と平行な方向のみならず、垂直方向に対しても物理的な抵抗力(アンカー効果)が発現するため、このような条件で得られた金属/樹脂複合構造体は、金属部材と樹脂部材の界面において、強固な接合強度を発現することが期待できる。
【0016】
前記凹部の傾きは、金属部材を切削し、光学顕微鏡やレーザースキャン顕微鏡で撮影した写真から測定することができる。
【0017】
(ii)前記凹部の長さ
本発明において、金属部材に施される凹部の長さは、通常40〜400μmであり、好ましくは80〜300μm、より好ましくは100〜200μmである。
【0018】
前記凹部の長さが、40μm未満であると、凹部への樹脂侵入量が十分でなく、接合強度が低くなることがある。また、該凹部の金属表面からの長さが400μmより深くなると、該凹部の加工時間が長くなり、生産効率が悪くなる。
【0019】
なお、前記凹部の長さとは、上記(i)の傾きに沿って、金属部材内に形成した凹部の金属表面から最深部までの長さを示す。
【0020】
前記凹部の長さは、金属部材を切削し、光学顕微鏡やレーザースキャン顕微鏡で撮影した写真により測定することができる。
【0021】
(iii)接合面に形成された前記凹部の体積の総和
本発明において、前記凹部の体積の総和は、金属部材と樹脂部材の接合面1mm
2当たり、0.0024〜0.4mm
3であり、好ましくは0.005〜0.31mm
3であり、より好ましくは0.007〜0.28mm
3である。
【0022】
前記凹部の体積の総和が前記範囲内にあると、凹部深部まで侵入した樹脂のアンカー効果により、十分な接合強度を発現することができるという点で好ましい。
【0023】
(iv)前記凹部の幅
本発明において、金属部材に施される凹部の幅は、20〜500μmであることが好ましい。前記凹部の幅が上記範囲内であれば、後述する樹脂部材を構成する樹脂組成物に充填材が含まれる場合、充填材の一部が凹部に入り込むことにより、接合強度の向上が見込まれる点で有利である。前記凹部の幅は、より好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは40〜150μmである。
【0024】
なお、前記凹部の幅とは、例えば金属部材表面に凹部が直線状に形成される場合、該凹部の短辺側の溝の幅を言う。また、凹部が曲線状に形成される場合、中心からの外周方向にある凹部の溝の幅を言う。
【0025】
前記凹部の幅は、金属表面真上から、光学顕微鏡やレーザースキャン顕微鏡で撮影した写真により測定することができる。
〔金属部材の金属種類、その他形状〕
本発明において、前記金属部材を構成する金属の種類としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンまたはチタン合金からなる少なくとも一種であることが望ましい。これらのうち、好ましくは鉄、ステンレス、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金であり、より好ましくは鉄、ステンレス、アルミニウム合金、マグネシウム合金である。
【0026】
また、前記金属部材は、樹脂部材との接合表面側に上記(i)〜(iii)で示される特徴を有し、好ましくはさらに(iv)の特徴を有する凹部形状を有しさえすれば、その他、如何なる形状等を採ることが可能である。
【0027】
例えば、金属部材表面に凹部形状が直線状に複数本、形成されている場合、隣接する凹部形状間の距離は、50〜400μmであることが好ましい。このような隣接距離を採ることにより、金属部材と樹脂部材とがバランスよく接合するため好ましい。当該隣接する凹部形状間の距離は、より好ましくは100〜300μm、さらに好ましくは150〜250μmである。なお、隣接する凹部形状間の距離とは、隣接する凹部の中心間の距離を言う。
〔金属部材の調整方法〕
本発明において、前記金属部材の樹脂部材との接合表面側に形成される凹部形状は、例えば、レーザー照射による方法や、ローレット加工の方法により加工することができる。
【0028】
前記金属部材は、金属を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、上記方法による処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。必要な形状に加工された金属部材は、後述する樹脂部材と接合する面が酸化や水酸化されていないことが好ましく、長期間の自然放置で表面に酸化被膜である錆の存在が明らかなものは研磨、化学処理等でこれを取り除くことが好ましい。
【0029】
なお、上記方法による処理がなされた金属部材の表面にはプライマー層を形成させてもよい。プライマー層は、後述する樹脂部材の原料である樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂において金属部材との相互作用の低い非極性のものを用いる場合や、金属部材と樹脂組成物との接合強度をより高めたい場合などに形成させることがある。
【0030】
プライマー層を構成する材料は特に限定されないが、通常は樹脂成分を含むプライマー樹脂材料からなる。プライマー樹脂材料は特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、公知のポリオレフィン系プライマー、エポキシ系プライマー、ウレタン系プライマーなどを挙げることができる。プライマー層の形成方法は特に限定されないが、例えば上記のプライマー樹脂材料の溶液や、上記のプライマー樹脂材料のエマルジョンを、上記表面処理を行った金属部材に塗工して形成することができる。溶液とする際に用いる溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)ジメチルフォスフォルアミド(DMF)などが挙げられる。エマルジョン用の媒体としては、脂肪族炭化水素媒体や、水などが挙げられる。
<樹脂部材>
本発明にかかる金属/樹脂複合構造体を構成する樹脂部材は、(A)熱可塑性樹脂と、必要に応じて(B)充填材を含む樹脂組成物からなる。さらに、該樹脂組成物は必要に応じてその他の配合剤を含む。なお、便宜上、樹脂部材が(A)熱可塑性樹脂のみからなる場合であっても、樹脂部材は樹脂組成物からなると記載する。
【0031】
以下、(A)熱可塑性樹脂、(B)充填材、その他の配合剤について説明し、さらに樹脂組成物の調整方法を説明する。
〔(A)熱可塑性樹脂〕
本発明における樹脂部材の原料としての(A)熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、芳香族ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂等のポリエステル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の非晶性樹脂;その他、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂や、これら2種類以上を組み合わせたもの等を挙げることが出来る。好ましくは、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、非晶性樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂である。より好ましくは、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂である。ポリオレフィン樹脂については、ポリプロピレン樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
該(A)熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)や密度については、金属/樹脂複合構造体として求められる性能によって適宜選択して使用することができる。例えば、(A)熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂を用いる場合、ポリプロピレン樹脂のASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRは、好ましくは0.1〜800g/10分であり、より好ましくは0.5〜100g/10分であり、さらに好ましくは1.0〜20g/10分である。また、(A)熱可塑性樹脂として、ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド樹脂を用いる場合、ポリアミド樹脂の260℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRは、好ましくは1〜200g/10分、より好ましくは1〜150g/10分、さらに好ましくは1〜100g/10分である。
〔(B)充填材〕
本発明における樹脂部材を構成する樹脂組成物は、上記(A)熱可塑性樹脂を必須の成分とするほか、必要とされる用途等に合わせて、さらに(B)充填材を含んでいてもよい。
【0033】
(B)充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から1種以上選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルである。
【0034】
充填材の形状は繊維状、粒子状、板状等どのような形状であっても良い。
【0035】
該充填材は、最大長さが10nm以上600μm以下の範囲にある充填剤を数分率で5〜100%有する。当該最大長さは、好ましくは、30nm以上550μm以下、より好ましくは50nm以上500μm以下である。また、該最大長さの範囲にある充填剤の数分率は、好ましくは、10〜100%であり、より好ましくは20〜100%である。
【0036】
充填剤の最大長さが前記範囲にあると、樹脂組成物の成形時に溶融した(A)熱可塑性樹脂中を容易に動くことができるので、後述する金属/樹脂複合構造体の製造時において、金属部材表面付近にも一定程度の割合で存在することが可能となり、上述したように該充填剤と相互作用をする樹脂が金属部材表面の凹部に入り込む事で、強固な接合強度を持つことが可能となる。
【0037】
一方、充填材の最大長さが10nm未満であると、充填材が小さすぎて、充填材と相互作用する樹脂の補強効果が不十分である為に、接合強度の向上が図れないことが考えられる。また、充填材の最大長さが600μmより大きいと、樹脂組成物の成形時に樹脂組成物の流れ方向に配向がかかって固定化されてしまうため、充填材が金属部材表面付近に近寄れないので、金属部材表面の凹部との作用が期待できず、接合強度の向上が図れないことが想定される。
【0038】
また、充填剤の数分率が前記範囲にあると、金属部材表面の凹部と作用するのに十分な数の充填材が樹脂組成物中に存在することになる。
【0039】
なお、充填剤の長さは、得られる金属/樹脂複合構造体から樹脂組成物からなる部材を外したのち、該樹脂組成物をオーブン中で加熱することにより、完全に炭化させ、その後、炭化させた樹脂を取り除き、残った充填材を走査型電子顕微鏡で測定することにより求められる。ここで、充填剤の最大長さとは、
図8の模式図中でL
1〜L
3で示すように、長方形であれば、3辺の内で最大の長さL
1、円筒形であれば、円の長軸側の直径長さと円筒の高さとで長い方の長さL
2、球または回転楕円体であれば、あらゆる断面の長軸側の直径長さをとった時のもっとも長い直径の長さL
3の事である。
【0040】
充填剤の数分率は、上記充填剤の長さ測定を行う際に用いた電子顕微鏡写真に写るすべての充填剤の数を数え、そのうち、上記範囲に含まれる充填剤の数を算出することにより求められる。
【0041】
前記充填材は1種類であっても2種類以上でもよく、2種類以上用いる場合は、全ての種類の充填材をまとめて前述したような方法で最大長さを求めた。
【0042】
なお、該充填剤は、前記(A)熱可塑性樹脂と混練する前の段階では最大長さが600μm以上の充填材であってもよく、混練中および成形中に切断、粉砕されることで、最大長さが上記範囲に入ったものであってもよい。
【0043】
なお、樹脂組成物が(B)充填材を含む場合、その含有量は、前記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部であり、より好ましくは5〜90質量部であり、特に好ましくは10〜80質量部である。
【0044】
これらの充填材は、樹脂部材の剛性を高める効果の他、樹脂部材の線膨張係数を低減、制御できる効果がある。特に、本実施形態の金属部材と樹脂部材との複合体の場合は、金属部材と樹脂部材との形状安定性の温度依存性が大きく異なることが多いので、大きな温度変化が起こると複合体に歪みが掛かりやすい。上記充填材を含有することにより、この歪みを低減することができる。また、充填材の含有量が上記範囲内であることにより、靱性の低減を抑制することができる。
【0045】
ここで、(B)充填材が上述した最大長さを有する場合であって、さらに上記金属部材が(iv)で示す凹部の幅を有する場合には、該充填剤が該凹部内に進入することが可能となり、より強固な接合強度を生じることが期待できる。
〔その他配合剤〕
本発明において、樹脂部材には、個々の機能を付与する目的で配合剤を含んでもよい。
【0046】
該配合剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤などが挙げられる。
〔樹脂組成物の調整〕
前記樹脂組成物は、上記した(A)熱可塑性樹脂と、必要に応じて(B)充填材と、さらに必要に応じてその他配合剤とを、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機などの混合装置により、混合または溶融混合することにより得ることができる。
<金属/樹脂複合構造体>
本発明にかかる金属/樹脂複合構造体は、前記金属部材と、前記樹脂部材から構成される。
【0047】
より詳細には、本発明における金属/樹脂複合構造体は、上述した樹脂部材を構成する樹脂組成物が、前記金属部材の表面に形成された凹部に侵入して金属と樹脂が接合し、金属―樹脂界面を形成することにより得られる。
【0048】
特に、該金属/樹脂複合構造体は、金属部材として、該金属部材の樹脂部材との接合表面に、5〜85°の傾き、40〜500μmの長さで、かつ、接合面に形成された前記凹部の体積の総和が、金属部材と樹脂部材の接合面1mm
2当たり、0.0024〜0.4mm
3である凹部形状が形成されていることを特徴とする。
【0049】
射出成形など樹脂流動を生じる成形方法において、金属/樹脂複合構造体を製造する場合において、金属表面に形成される凹部の形状は、金属部材と樹脂部材との接合強度に大きな影響を及ぼすと考えられる。例えば、金属表面に対して垂直に凹部を形成させた場合、該凹部の幅の広さにもよるが、本発明において上述する凹部の幅で規定した程度であるときは、金属表面からの最大長さが40μm以下では高い接合強度が得られない。この理由としては、該凹部の深部まで樹脂組成物が充填しきれないことによると想定される。また、金属表面に対して垂直に凹部が形成されている場合、金属部材側から樹脂部材側に対する垂直な力方向への接合強度は弱い傾向にあると考えられる。
【0050】
一方、本発明にかかる金属/樹脂複合構造体で用いる金属部材は、上述のとおり、金属表面に対して形成する凹部に角度がついていることにより、樹脂組成物が該凹部の深部まで充填できることができ、これにより金属部材と樹脂部材との高い接合強度を得ることができると考えられる。さらに、凹部に角度をつけることで、金属部材と樹脂部材との間に垂直方向に対しても物理的な抵抗力(アンカー効果)が発現するため、如何なる方向からの力に対しても抵抗力(接合強度)があることが期待できる。
【0051】
また、その他の利点として、凹部に角度がついていると樹脂組成物が該凹部の深部まで充填しやすくなることから、相対的に該凹部の長さが、垂直に凹部が形成されている場合と比べて短くても高い接合強度を得ることが可能となるので、凹部を形成する際の製造効率を上げることが可能となる。
<金属/樹脂複合構造体の製造方法>
本発明の金属/樹脂複合構造体の製造方法は特に限定されず、上記特徴を有する金属部材に対して、上記樹脂組成物を所望の樹脂部材の形状になるように成形しながら接合させることにより得られる。
【0052】
樹脂部材の成形方法としては、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法が採用できる。
【0053】
これらの中でも、射出成形法が好ましく、具体的には、前記金属部材を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、樹脂部材を金型に射出する射出成形法により製造するのが好ましい。具体的には、以下の(i)〜(iii)の工程を含んでいる。
(i)樹脂部材を調整する工程
(ii)金属部材を射出成形用の金型内に設置する工程
(iii)樹脂部材を、上記金属部材の少なくとも一部と接するように、上記金型内に射出成形する工程
以下、各工程について説明する。
【0054】
(i)樹脂部材を調整する工程については、上述の通り、上記した(A)熱可塑性樹脂と、必要に応じて(B)充填材と、さらに必要に応じてその他配合剤とを、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機などの混合装置により、混合または溶融混合することにより得ることができる。
【0055】
次いで、(ii)、(iii)の工程による射出成形方法について説明する。
【0056】
まず、射出成形用の金型を用意し、その金型を開いてその一部に金属部材を設置する。その後、金型を閉じ、樹脂材料の少なくとも一部が上記金属部材の表面に凹部形状を形成した面と接するように、上記金型内に(i)工程で得られた樹脂組成物を射出して固化する。その後、金型を開き離型することにより、金属/樹脂複合構造体を得ることができる。
【0057】
なお、この際、好ましくは、金属部材を射出成形用の金型内に設置する際、金属部材表面の凹部形状の傾きが、樹脂組成物の流動方向に対抗する方向になっていることが好ましい。このように金属部材を設置することにより、樹脂組成物がより容易に凹部の深部まで進入することが可能になる。
【0058】
また、前記(i)〜(iii)の工程による射出成形にあわせて、射出発泡成形や、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(RHCM,ヒート&クール成形)を併用しても良い。射出発泡成形の方法として、化学発泡剤を樹脂に添加する方法や、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する方法、あるいは、窒素ガスや炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入するMuCell射出発泡成形法があるが、いずれの方法でも樹脂部材が発泡体である金属/樹脂複合構造体を得る事ができる。また、いずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、成形品の形状によってはコアバックを利用したりすることも可能である。高速ヒートサイクル成形は、急速加熱冷却装置を金型に接続することにより、実施することが出来る。急速加熱冷却装置は、一般的に使用されている方式で構わない。加熱方法として、蒸気式、加圧熱水式、熱水式、熱油式、電気ヒータ式、電磁誘導過熱式のいずれか1方式またはそれらを複数組み合わせた方式で良い。冷却方法としては、冷水式、冷油式のいずれか1方式またはそれらを組み合わせた方式で良い。高速ヒートサイクル成形法の条件としては、射出成形金型を100℃以上250℃以下の温度に加熱し、前記樹脂組成物の射出が完了した後、前記射出成形金型を冷却することが望ましい。金型を加熱する温度は、樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂によって好ましい範囲が異なり、結晶性樹脂で融点が200℃未満の樹脂であれば、100℃以上150℃以下が好ましく、結晶性樹脂で融点が200℃以上の樹脂であれば、140℃以上250℃以下が望ましい。非晶性樹脂については、100℃以上180℃以下が望ましい。
<金属/樹脂複合構造体の用途>
本発明の金属/樹脂複合構造体は、生産性が高く、形状制御の自由度も高いので、様々な用途に展開することが可能である。
【0059】
例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品などの家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品などが挙げられる。
【0060】
より具体的には、樹脂だけでは強度が足りない部分を金属がサポートする様にデザインされた次のような部品である。車両関係では、インスツルメントパネル、コンソールボックス、ドアノブ、ドアトリム、シフトレバー、ペダル類、グローブボックス、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク、ドア、ルーフ、座席シート、ラジエータ、オイルパン、ステアリングホイール、ECUボックス、電装部品などが挙げられる。また、建材や家具類として、ガラス窓枠、手すり、カーテンレール、たんす、引き出し、クローゼット、書棚、机、椅子などが挙げられる。また、精密電子部品類として、コネクタ、リレー、ギヤなどが挙げられる。また、輸送容器として、輸送コンテナ、スーツケース、トランクなどが挙げられる。
【0061】
また、各種家電にも用いることができる。例えば、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、エアコン、照明機器、電気湯沸かし器、テレビ、時計、換気扇、プロジェクター、スピーカーなどの家電製品類、パソコン、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、タブレット型PC、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、充電器、電池など電子情報機器などが挙げられる。
【0062】
その他の用途として、玩具、スポーツ用具、靴、サンダル、鞄、フォークやナイフ、スプーン、皿などの食器類、ボールペンやシャープペン、ファイル、バインダーなどの文具類、フライパンや鍋、やかん、フライ返し、おたま、穴杓子、泡だて器、トングなどの調理器具、リチウムイオン2次電池用部品やロボットなどが挙げられる。
【0063】
以上、本発明の金属/樹脂複合構造体の用途について述べたが、これらは本発明の用途の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明の実施形態を実施例により説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0065】
なお、
図2,3は各実施例の共通の図として使用する。
図2は、樹脂部材105と金属部材103との金属/樹脂複合構造体106を製造する過程を模式的に示した構成図である。具体的には所定形状に加工され、表面に微細凹凸面を有する表面処理領域104が形成された金属部材103を射出成形用の金型102内に設置し、射出成形機101により、樹脂組成物をゲート/ランナー107を通して射出し、微細凹凸面が形成された金属部材103と一体化された金属/樹脂複合構造体106を製造する過程を模式的に示している。
【0066】
図3は、樹脂部材105と金属部材103との金属/樹脂複合構造体106を模式的に示した外観図である。
(接合強度の評価方法および合否判定)
引っ張り試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除する事により接合強度(MPa)を得た。
【0067】
上記接合強度において、15MPa以上22MPa未満得られた成形品に対しては○、22MPa以上得られた成形品に対しては◎、15MPa未満であった成形品については×と判定した。
(樹脂部材中の充填材の最大長さ測定、数分率算出)
(金属/樹脂複合構造体中の充填材の最大長さ測定、数分率算出)
作成した金属/樹脂複合構造体の樹脂部分を400℃に熱したオーブンの中で24時間放置し、樹脂を完全に炭化させた。その後、炭化した樹脂を取り除き、残った充填材を走査型電子顕微鏡(日本電子製)にて充填材が100個以上撮影できる倍率で撮影し、1つ1つの充填材の最大の辺の長さを測定した。
【0068】
かかる方法で撮影された画像から、下記式を用いて、最大長さ10nm以上600μm以下にある充填材の数分率Xを求めた。
【0069】
X=(Y/Z)×100
X:樹脂組成物中に含まれる最大長さ10nm以上600μm以下の充填材の数分率(%)
Y:最大長さ10nm以上600μm以下の充填材の数
Z:全充填材の数
(金属の表面処理)
[調整例1]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を、18mm×45mmの長方形片に切断し、片側の端にレーザーマーカー(オムロン製MX−Z2000)を用いて、金属片の接合面に対して45°の角度(
図1の(c)中Aの角度が45°)で、一方向(
図1(a)中の矢印方向)のみに直線状にレーザースキャンし、金属部材を得た。レーザースキャン条件は以下の通りである。
<レーザースキャン条件>
レーザー:ファイバレーザー
出力:20W
波長:1,062nm
ビーム径:45μm
図1(a)で示す隣接する凹部の中心間距離:200μm
スキャン速度:500mm/sec
周波数:100kHz
ワーキングエリア:10mm×5mm
金属部材をレーザー顕微鏡(KEYENCE製VK−X100)にて、マーキング部を観察すると、金属表面に対して45°の角度で、深さが180μm、間隔周期が200μm、溝幅が50μmである線上の溝が形成されていた。これより、(i)前記凹部の接合表面に対する傾きは45°、(ii)前記凹部の長さは180μm、(iii)接合面に形成された前記凹部の体積の総和は0.036mm
3/mm
2、(iv)前記凹部の幅は50μmである。
[調整例2]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を、18mm×45mmの長方形片に切断し、片側の端にレーザーマーカー(オムロン製MX−Z2000)を用いて、
図1(d)に示すように金属片の接合面に対して90°の角度(
図1の(c)中Aの角度が90°)で一方向(
図1(a)中の矢印方向)のみに直線状にレーザースキャンし、金属部材を得た。レーザースキャン条件は以下の通りである。
<レーザースキャン条件>
レーザー:ファイバレーザー
出力:20W
波長:1,062nm
ビーム径:45μm
図1(a)で示す隣接する凹部の中心間距離:200μm
スキャン速度:500mm/sec
周波数:100kHz
ワーキングエリア:10mm×5mm
金属部材をレーザー顕微鏡(KEYENCE製VK−X100)にて、マーキング部を観察すると、金属表面に対して90°の角度で、深さが180μm、間隔周期が200μm、溝幅が50μmである線上の溝が形成されていた。これより、(i)前記凹部の接合表面に対する傾きは90°、(ii)前記凹部の長さは180μm、(iii)接合面に形成された前記凹部の体積の総和は0.036mm
3/mm
2、(iv)前記凹部の幅は50μmである。
[調整例3]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を、18mm×45mmの長方形片に切断し、片側の端にレーザーマーカー(オムロン製MX−Z2000)を用いて、
図4(b)に示すように金属片の接合面に対して90°の角度で二方向(
図4(a)中の矢印方向)に格子状にレーザースキャンし、金属部材を得た。レーザースキャン条件は以下の通りである。
<レーザースキャン条件>
レーザー:ファイバレーザー
出力:20W
波長:1,062nm
ビーム径:45μm
図1(a)で示す隣接する凹部の中心間距離:200μm
スキャン速度:500mm/sec
周波数:100kHz
ワーキングエリア:10mm×5mm
金属部材をレーザー顕微鏡(KEYENCE製VK−X100)にて、マーキング部を観察すると、金属表面に対して90°の角度で、深さが30μm、間隔周期が200μm、溝幅が50μmである線上の溝が形成されていた。これより、(i)前記凹部の接合表面に対する傾きは90°、(ii)前記凹部の長さは30μm、(iii)接合面に形成された前記凹部の体積の総和は0.011mm
3/mm
2、(iv)前記凹部の幅は50μmである。
[実施例1]
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内に調整例1によって調整されたアルミニウム片103を、マーキング部が樹脂部材105と接触する方向に設置した。次いで、その金型102内に樹脂組成物として、ガラス繊維強化ポリプロピレン(プライムポリマー製V7100、ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg荷重):18g/10min)80重量部、ガラス繊維20重量部)を、シリンダー温度250℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体を得た。接合強度の評価結果を表1に示す。
[実施例2]
使用した樹脂組成物をポリプロピレン(プライムポリマー製プライムポリプロJ105G(MFR(230℃、2.16kg荷重):9.0g/10min))に変更した以外は実施例1と同様の方法により金属/樹脂複合構造体を得た。接合強度の評価結果を表1に示す。
[比較例1]
使用したアルミニウム片を調整例2で調整したものに変更した以外は実施例1と同様の方法により金属/樹脂複合構造体を得た。接合強度の評価結果を表1に示す。
[比較例2]
使用したアルミニウム片を調整例3で調整したものに変更した以外は実施例1と同様の方法により金属/樹脂複合構造体を得た。接合強度の評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1で用いたアルミニウム片は、(i)前記凹部の接合表面に対する傾き、(ii)前記凹部の長さ、(iii)接合面に形成された前記凹部の体積の総和、さらには、(iv)前記凹部の幅、共に上述した範囲を満たすため、樹脂部材との接合強度が非常に高いものが得られる。
【0072】
一方、比較例1では、前記凹部の接合表面に対する傾きが90°であることから、本発明の特徴(i)を満たさない。それに伴い、樹脂部材との接合強度も低いものとなっている。また、比較例2については、樹脂部材との接合強度を向上させる目的で金属部材表面の凹部の本数を増やして樹脂部材との接合面積を増やすことを企図したが、所望の効果は得られなかった。これは、前記凹部の接合表面に対する傾きが本発明の特徴(i)を満たさないこと、さらには、本発明の特徴(ii)、(iii)を満たさないことに起因すると考えられる。