(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Niの質量濃度〔%〕が3.25〜9.5%のニッケル鋼の溶鋼を、大気圧下で、押湯部を形成するための断熱部を上部に設けた偏平鋳型;の内部空間内に、当該偏平鋳型の下に敷かれた定盤内に埋設された湯路部を通して下方より注入して、製品厚みt〔mm〕が100〜250mmとなる厚鋼板;の圧延素材となる偏平鋳塊を製造する方法において、
前記湯路部は除くが前記押湯部は含む鋳塊;の全体積Xに対する前記押湯部の体積Yの比率Y/Xが0.1〜0.2であり、
前記押湯部をも除く鋳塊本体;の上端面の最大厚みT0〔mm〕が850〜1150mmであり、
前記鋳塊本体の上端面からh=T0/3で計算される距離h〔mm〕だけ低い位置における、前記鋳塊本体の最大厚みをT1〔mm〕としたとき、Z=(T0−T1)/h×100で計算される鋳型テーパ率Z〔%〕が7.5〜9.0%であり、
V1=(H−h)/(1000×t1)で計算される下部湯面上昇速度V1〔m/min〕が下記式(1)を満たすとともに、
V2=h/(1000×t2)で計算される上部湯面上昇速度V2〔m/min〕が下記式(2)を満たす
ことを特徴とする引け欠陥のないニッケル鋼板用偏平鋳塊の製造方法。
150/{(10.5−Z)×T0}≦V1≦300/{(10.5−Z)×T0} ・・・(1)
60/{(10.5−Z)×T0}≦V2≦120/{(10.5−Z)×T0} ・・・(2)
ただし、
H:鋳塊本体の高さ〔mm〕、
t1:鋳型への溶鋼の注入開始から、鋳型内の溶鋼湯面が鋳塊本体の上端面」より距離hだけ低い位置に達するまでに要する時間〔min〕、
t2:溶鋼湯面が鋳塊本体上端面より距離hだけ低い位置から鋳塊本体上端面に達するまでに要する時間〔min〕
である。
【背景技術】
【0002】
内部に空孔性欠陥のない健全な厚鋼板製品を製造するためには、圧延による圧下比を3.0以上確保することが望ましいとされている。しかしながら、一般的な連続鋳造機により製造される鋳片の厚みは最大300mm程度であるため、製品厚みが100mm以上の厚鋼板用の圧延素材は、連続鋳造によらず、造塊鋳造によって製造される場合が多い。
【0003】
ところが、Niの質量濃度が3.25〜9.5%のニッケル鋼は、初晶がγ相となり易いため、初晶がδ相となる一般的な低炭素鋼に比べて凝固収縮率が大きく、また、同じく初晶がγ相となる高炭素鋼に比べると、固液共存温度域が狭いため、造塊鋳造した鋼塊の厚み中心付近にパイプ状欠陥と呼ばれる引け欠陥が発生しやすい。そして、鋼塊に引け欠陥が発生すると、その内面が酸化され、圧下比を3.0以上確保して圧延しても、引け欠陥を無害化することができず、製品欠陥が発生する場合がある。このため、スラブ切断面に引け欠陥が現れなくなるまで、スラブを切り増す必要が生じ、計画していた厚板製品を採取できなくなる等の問題が生じていた。
【0004】
引け欠陥の発生を抑制する手段としては、押湯部をアーク加熱して保温するホットトップ鋳造法(非特許文献1参照)が、引け欠陥を無害化する手段としては、鋳塊を鍛造する方法が、それぞれ提案されている。しかしながら、前者は余分な加熱エネルギーを必要とする問題があり、後者は圧延に比して生産性の低い鍛造を必要とするため、製造コストが大きくなる問題があった。
【0005】
また、鋳塊(鋼塊)の引け欠陥等を抑制する他の手段として、本発明と同様、鋳型内での湯面上昇速度を制御する従来技術が多数開示されている(例えば、特許文献1〜9、非特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、真空下で鋳造を行うことを前提にするものであり、大気下で鋳造を行うことを前提とする本発明とは、そもそも前提とする雰囲気条件が異なる。
【0007】
また、特許文献2〜4に開示された技術は、鋳型への上注ぎを前提とするものであり、鋳型への下注ぎを前提とする本発明とは、そもそも前提とする注入方式が異なる。
【0008】
特許文献5〜7、非特許文献2に開示された技術は、鋳型への下注ぎを前提とするものであるが、低炭素鋼や高マンガン鋼等を対象とするものであり、特定のNi質量濃度のニッケル鋼を対象とする本発明とは、そもそも対象とする鋼種が異なる。
【0009】
特許文献8、9に開示された発明は、ニッケルを含有するステンレス鋼を対象とし、鋳型への下注ぎを前提とするものであるが、鋳型形状(テーパ率や厚み)が不明であり、鋳型形状と鋳型内での湯面上昇速度とを関連付けて規定する本発明とは技術的思想が異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、所定のNi質量濃度のニッケル鋼の厚鋼板用素材となる偏平鋳塊を製造するに際し、押湯の保温のために余分な加熱エネルギーを消耗したり、鍛造のようなコストのかかる加工工程を追加したりすることなく、引け欠陥を防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る引け欠陥のないニッケル鋼板用偏平鋳塊の製造方法は、
Niの質量濃度〔%〕が3.25〜9.5%のニッケル鋼の溶鋼を、大気圧下で、押湯部を形成するための断熱部を上部に設けた偏平鋳型;の内部空間内に、当該偏平鋳型の下に敷かれた定盤内に埋設された湯路部を通して下方より注入して、製品厚みt〔mm〕が100〜250mmとなる厚鋼板;の圧延素材となる偏平鋳塊を製造する方法において、
前記湯路部は除くが前記押湯部は含む鋳塊;の全体積Xに対する前記押湯部の体積Yの比率Y/Xが0.1〜0.2であり、
前記押湯部をも除く鋳塊本体;の上端面の最大厚みT0〔mm〕が850〜1150mmであり、
前記鋳塊本体の上端面からh=T0/3で計算される距離h〔mm〕だけ低い位置における、前記鋳塊本体の最大厚みをT1〔mm〕としたとき、Z=(T0−T1)/h×100で計算される鋳型テーパ率Z〔%〕が7.5〜9.0%であり、
V1=(H−h)/(1000×t1)で計算される下部湯面上昇速度V1〔m/min〕が下記式(1)を満たすとともに、
V2=h/(1000×t2)で計算される上部湯面上昇速度V2〔m/min〕が下記式(2)を満たす
ことを特徴とする。
150/{(10.5−Z)×T0}≦V1≦300/{(10.5−Z)×T0} ・・・(1)
60/{(10.5−Z)×T0}≦V2≦120/{(10.5−Z)×T0} ・・・(2)
ただし、
H:鋳塊本体の高さ〔mm〕、
t1:鋳型への溶鋼の注入開始から、鋳型内の溶鋼湯面が鋳塊本体の上端面より距離hだけ低い位置に達するまでに要する時間〔min〕、
t2:溶鋼湯面が鋳塊本体上端面より距離hだけ低い位置から鋳塊本体上端面に達するまでに要する時間〔min〕
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引け欠陥のないニッケル鋼の厚鋼板用素材となる偏平鋳塊を、押湯の保温のために余分な加熱エネルギーを消耗したり、鍛造のようなコストのかかる加工工程を追加したりすることなく、効率的に製造することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
上述したように、本発明に係る引け欠陥のないニッケル鋼板用偏平鋳塊の製造方法は、
Niの質量濃度〔%〕が3.25〜9.5%のニッケル鋼(以下、「Ni鋼」とも表示する。)の溶鋼を、大気圧下で、押湯部を形成するための断熱部を上部に設けた偏平鋳型;の内部空間内に、当該偏平鋳型の下に敷かれた定盤内に埋設された湯路部を通して下方より注入して、製品厚みt〔mm〕が100〜250mmとなる厚鋼板;の圧延素材となる偏平鋳塊を製造する方法において、
前記湯路部は除くが前記押湯部は含む鋳塊;の全体積Xに対する前記押湯部の体積Yの比率Y/Xが0.1〜0.2であり、
前記押湯部をも除く鋳塊本体;の上端面の最大厚みT0〔mm〕が850〜1150mmであり、
前記鋳塊本体の上端面からh=T0/3で計算される距離h〔mm〕だけ低い位置における、前記鋳塊本体の最大厚みをT1〔mm〕としたとき、Z=(T0−T1)/h×100で計算される鋳型テーパ率Z〔%〕が7.5〜9.0%であり、
V1=(H−h)/(1000×t1)で計算される下部湯面上昇速度V1〔m/min〕が下記式(1)を満たすとともに、
V2=h/(1000×t2)で計算される上部湯面上昇速度V2〔m/min〕が下記式(2)を満たす
ことを特徴とする。
150/{(10.5−Z)×T0}≦V1≦300/{(10.5−Z)×T0} ・・・(1)
60/{(10.5−Z)×T0}≦V2≦120/{(10.5−Z)×T0} ・・・(2)
ただし、
H:鋳塊本体の高さ〔mm〕、
t1:鋳型への溶鋼の注入開始から、鋳型内の溶鋼湯面が鋳塊本体の上端面より距離hだけ低い位置に達するまでに要する時間〔min〕、
t2:溶鋼湯面が鋳塊本体上端面より距離hだけ低い位置から鋳塊本体上端面に達するまでに要する時間〔min〕
である(
図1、
図3参照)。
【0018】
<Niの質量濃度〔%〕が3.25〜9.5%のニッケル鋼の溶鋼>
本発明は、JIS G 3127に規定される低温圧力容器用Ni鋼鋼板のようなNi鋼を対象とする。Ni鋼は、γ凝固するために凝固収縮量が大きい上に、液相線から固相線までの固液共存温度域が狭く、柱状晶凝固しやすいために、鉛直方向に長い引け欠陥(いわゆる「パイプ状欠陥」)が発生しやすいという問題がある。そして、引け欠陥が分塊圧延後のスラブ切断面に露出すると、スラブ内部まで酸化が進行し、厚板圧延後の製品に有害な欠陥が残存するため、引け欠陥発生領域を切除する必要があり、歩留を著しく悪化させる問題がある。
【0019】
<大気圧下>
本発明は、圧延素材となる鋳塊を大気圧下で鋳造して偏平鋳塊を製造する方法を対象とし、鋳型を真空下に設置する、いわゆる真空鋳造法は対象に含めない。
【0020】
<押湯部を形成するための断熱部を上部に設けた偏平鋳型;の内部空間内>
造塊鋳造法においては、最終凝固部の濃化溶鋼が凝固して生じる中心偏析部を鋳塊の頭部に押し込めるとともに、凝固収縮に起因する引け欠陥の発生を抑制する目的で、鋳塊上部に断熱部を設け、押湯部を形成させる方法が一般的である。
押湯部を形成させる方法としては、
(1)鋳塊本体より背が高い鋳型を用い、鋳型内壁面の鋳塊本体より上方に当たる部位に断熱材からなる押湯ボードを貼り付け、押湯ボードを貼り付けた部位に押湯部を形成させる方法(
図1参照)
(2)鋳型の上に、内面に断熱材を設置した押湯枠を載せて組み合わせることにより、鋳型内空間を構成する方法
の2種類があるが、本発明は、このいずれをも対象とする。
上記(2)の押湯枠を使用する方法については、さらに詳細には、
(2−a)鋳塊本体とほぼ同じ高さの鋳型の上に、内面に断熱材を設置した上置式押湯枠を載せて組み合わせることにより、鋳型内空間を構成する方法(
図2参照)
(2−b)鋳塊本体より背の高い鋳型を用い、鋼塊本体の上端に当たる位置まで、内挿式押湯枠を鋳型内に挿入して鋳型内空間を構成する方法(図示せず)
の2種類があるが、どちらの方式を採用してもよい。
【0021】
<当該偏平鋳型の下に敷かれた定盤内に埋設された湯路部を通して下方より注入>
造塊鋳造には、上注ぎ鋳造と下注ぎ鋳造があるが、下注ぎ鋳造は、鋳肌がより優れた鋳片を製造することができる。本発明も、下注ぎ鋳造を対象とし、鋳型3の下に敷かれた定盤内に埋設された湯路部5を通して下方より鋳型空間内に溶鋼を注入する。なお、注入中に湯路部内で溶鋼が凝固して湯路部が閉塞してしまうことを防ぐため、溶鋼と接触する湯路部は、耐火物製とする。
【0022】
<製品厚みt〔mm〕が100〜250mmとなる厚鋼板;の圧延素材となる偏平鋳塊を製造する方法>
低温圧力容器用Ni鋼板は、内部にザク欠陥が残らないように、圧下率を3倍以上確保する必要がある。製品厚みt[mm]が100mm以下の厚板製品は、より製造コストの低い一般的な連続鋳造によって素材を製造できるので、本発明の対象から除外する。また、圧下率を3倍以上確保することが必要な内部品質に厳格なNi鋼であって、なおかつ、製品厚みが250mmを超えるような厚鋼板は、鍛造を用いて製造することが望ましく、これも本発明の対象外とする。したがって、本発明は、製品厚みt[mm]が100〜250mmであるような製品を製造する造塊鋳造を対象とする。
【0023】
<前記湯路部は除くが前記押湯部は含む鋳塊;の全体積Xに対する前記押湯部の体積Yの比率Y/Xが0.1〜0.2>
造塊鋳造において、押湯部は、鋳塊本体に、パイプ状欠陥や偏析不良部が発生しないようにする目的で設けられるが、Y/Xの比率が小さすぎると、偏析不良部を押湯部内に封印することが困難となり、鋳塊本体内の偏析が十分に解消されない場合があるため、偏平鋼塊の造塊鋳造では、Y/Xは0.1以上とすることが一般的である。また、Y/Xの比率が大き過ぎると、製品に充当できずに切り捨てる偏析不良部が過大となり、歩留りが悪化するため、Y/Xを0.2以下とすることも一般的である。本発明は、これら両方を満足する一般的な造塊鋳造を対象とする。
【0024】
<前記押湯部をも除く鋳塊本体;の上端面の最大厚みT0〔mm〕が850〜1150mm>
鋳塊の厚みは、大きい方が製品単重を確保しやすい一方、あまり過大になると、逆V偏析等が発生する問題がある。引け欠陥の発生には、特に鋳塊本体上端部の厚みの影響が大きいため、鋳塊厚みを鋳塊本体上端部の最大厚み(幅中央厚み)T0により規定し、T0〔mm〕が850〜1150mmとなる一般的な鋳塊を製造する造塊鋳造を対象とする。
【0025】
<前記鋳塊本体の上端面からh=T0/3で計算される距離h〔mm〕だけ低い位置における、前記鋳塊本体の最大厚みをT1〔mm〕としたとき、Z=(T0−T1)/h×100で計算される鋳型テーパ率Z〔%〕が7.5〜9.0%>
鋳型テーパ率は、小さすぎると、ザク欠陥や引け欠陥が発生しやすくなる一方、大きく確保しようとすると、鋳塊本体高さを低くして製品単重に制約が生じるか、あるいは、鋳塊本体上端部の厚みが過大となって、上記T0=850〜1150mmの条件を逸脱してしまう。引け欠陥の発生には、特に、鋳塊本体上端付近の鋳型テーパの影響が大きい。このため、鋳塊本体の上端面からh=T0/3で計算される距離h〔mm〕だけ低い位置における、鋳塊本体の最大厚みをT1〔mm〕としたとき、Z=(T0−T1)/h×100で計算される鋳型テーパ率Zが7.5〜9.0%となる一般的な造塊鋳造を対象とする。
【0026】
<V1=(H−h)/(1000×t1)で計算される下部湯面上昇速度V1〔m/min〕が、150/{(10.5−Z)×T0}≦V1≦300/{(10.5−Z)×T0} ・・・(1)を満たす>
本発明は、湯面上昇速度を適切に制御することにより、Ni鋼の造塊鋳造において問題となりやすい引けの発生の防止を図るものである。鋳型側壁面からの凝固に対して、鋳型下方から凝固を促進し、引けの発生を防止する観点からは、注入速度を低くすることが望ましい。しかしながら、湯面上昇速度を低くしすぎると、以下の(a)および(b)のような問題も発生するため、注入速度には下限もある。
(a)鋳型内湯面の凝固に起因する欠陥が発生するという問題
(b)トータルの注入時間が長くなりすぎると、鋳造中に溶鋼鍋内の溶鋼温度が低下しすぎてノズルが閉塞し、それ以上の鋳造ができなくなるという問題
特に、鋳型への溶湯注入中における湯面上昇速度を一律に低下させようとすると、上記(b)のノズル閉塞の問題が顕在化しやすくなる。
本発明は、引けへの影響の大きい鋼塊上端付近の上部湯面上昇速度V2に比べ、それ以外の本体部の下部湯面上昇速度V1を大きく設定することを第1の特徴としている。V1の適正範囲は、鋳型テーパ率Zに依存するため、後記実施例で説明する鋳造試験の結果に基づいて、上記式(1)のように規定した。なお、式(1)中の各係数と各定数は、鋳造試験のデータを用いて、パラメータフィッティングの手法により決定した。
【0027】
<V2=h/(1000×t2)で計算される上部湯面上昇速度V2〔m/min〕が、60/{(10.5−Z)×T0}≦V2≦120/{(10.5−Z)×T0} ・・・(2)を満たす>
また、引けへの影響の大きい鋳塊上端部付近の上部湯面上昇速度V2は、それ以外の本体部の下部湯面上昇速度V1より小さく、上記式(2)の規定を満足することを第2の特徴としている。この適正範囲は、V1に関する上記式(1)と同様、後記実施例で説明する鋳造試験の結果に基づいて決定した。なお、式(2)中の各係数と各定数は、式(1)と同様、鋳造試験のデータを用いて、パラメータフィッティングの手法により決定した。
V2が過大になると、引け欠陥が発生する場合があるので、上限以下の速度で注入する必要がある。しかしながら、V2が過小になると、鋳塊の鋳肌が悪化し、分塊圧延後に、大きな表面欠陥が生じる場合があるため、V2には下限も存在する。
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0029】
以下の方法および条件にて、造塊鋳造試験を実施した。
【0030】
〔鋼種〕
まず、造塊鋳造する鋼種としては、JIS G 3127に規定されているような低温圧力容器用Ni鋼として、下記表1に示す成分組成を有する2種類のNi鋼を用いた。
【0031】
【表1】
【0032】
〔注入方式〕
溶鋼の注入方式としては、大気圧下で注入管を用い、湯道煉瓦を介して鋳型内に下方から溶鋼を供給する下注造塊鋳造法を用いた。1枚の定盤に対し1本の注入管を立て、一枚の定盤には4個ないし2個の鋳型を載せる方法で鋳造を実施した。また、1ch当たり約250tonの溶鋼が入った溶鋼鍋から、2枚ないし3枚の定盤に分けて注入を実施した。
【0033】
〔溶鋼注入温度〕
溶鋼注入温度は、液相線温度+40℃とした。
【0034】
〔型内剤〕
型内剤としては、SiO
2、CaO、Al
2O
3系フラックスを用いた。
【0035】
〔鋼塊サイズ〕
鋼塊サイズとしては、30ton鋼塊(約31.0ton)と、40ton鋼塊(約38.2ton)の2種類の鋼塊を鋳造した。
【0036】
〔押湯部形成方法〕
押湯部形成方法としては、上記[発明を実施するための形態]で説明した、以下の2種類の方法を採用した。
(1)鋳塊本体高さより背が高い鋳型を用い、鋳型壁内面の鋳塊本体より上に相当する部位に断熱性の高い押湯ボードを貼り付けて鋳造する方法(
図1参照)
(2−a)鋳塊本体高さと背の高さがほぼ等しい鋳型を用い、内面に押湯ボードを貼り付けた押湯枠を鋳型の上に載せて鋳造する方法(
図2参照)
【0037】
〔押湯部体積比〕
押湯部体積比Y/Xについては、上記押湯部形成方法(1)を採用した鋳造では約0.2とし、上記押湯部形成方法(2−a)を採用した鋳造では約0.1とした。
【0038】
〔注入速度〕
溶鋼の注入速度は、鋳型内における湯面レベルを光学式センサーにより測定しつつ、溶鋼鍋から鋳型に注入する溶鋼流量を、溶鋼鍋に取り付けられた流量調整バルブの開度を調整することにより、湯面が押湯ボードに接触するまでの湯面上昇速度V1、V2が所定の条件に合致するように鋳造した。湯面が断熱材からなる押湯ボードに達した以後については、湯面上昇速度が凝固に及ぼす影響が小さくなるため、安定した注入が可能な、約0.08〜0.10m/minの湯面上昇速度で注入を実施した。
【0039】
〔湯面の保温方法〕
予め、断熱性の高い保温ボードを水平に押湯枠内に吊り下げておき、湯面が上昇してきた際に、湯面上に浮かぶようにした。また、注入末期に、保温ボード上に保温材を追加投入して、保温性を高めた。
【0040】
〔型抜き時間〕
30ton鋳塊、40ton鋳塊のいずれも、注入から12時間経て、凝固が完了した後に型抜した。
【0041】
〔鋳塊の形態〕
造塊鋳造試験で製造された偏平鋳塊の形態(形状・寸法等)について下記表2にまとめて示す。
【0042】
【表2】
【0043】
〔引け欠陥の調査方法〕
鋳塊をスラブ厚み250〜400mmで分塊圧延した後、スラブ上端側から鋳塊の押湯部に当たる部位をガス切断により切除し、目視観察により、その切断面にパイプ状欠陥の存在が認められる場合(
図4参照)は、パイプ状欠陥あり(記号:×)と判断した。一方、上記スラブのガス切断面にパイプ状欠陥が認められず、全面スムーズにガス切断できた場合は、パイプ状欠陥なし(記号:○)と判断した。
【0044】
〔表面欠陥の調査方法〕
鋳塊をスラブ厚み250〜400mmまで分塊圧延し、マシンスカーフを実施した後において、二重肌となるような表面欠陥が存在すると、手入れ工程を追加してその部分を切除する必要が生じ、歩留まりが低下する。このため、マシンスカーフ実施後のスラブ上端側から鋳塊の押湯部に当たる部位をガス切断により切除した本体側のスラブの表面を目視観察し、二重肌になったような表面欠陥が認められる場合は、表面欠陥あり(記号:×)、認められない場合は、表面欠陥なし(記号:○)とした。
【0045】
[総合評価方法]
上記引け欠陥および表面欠陥のいずれもが認められない場合(ともに○の場合)を合格(記号:○)とし、それ以外の場合(少なくともいずれかが×の場合)を不合格(記号:×)とした。
【0046】
造塊鋳造試験の結果を下記表3(比較例)および表4(発明例)に示す。
【0047】
表3の比較例では、いずれの試験No.も、上記式(1)および式(2)の少なくともいずれかを満たさず、製造された鋳塊には引け欠陥および表面欠陥の少なくともいずれかが認められることがわかる。
【0048】
これに対し、表4の発明例では、いずれの試験No.も、本発明の要件を全て満たし、製造された鋳塊には引け欠陥および表面欠陥のいずれかもが認められないことがわかる。
【0049】
したがって、本発明を適用することで、引け欠陥のないニッケル鋼の厚鋼板用素材となる偏平鋳塊を、押湯の保温のために余分な加熱エネルギーを消耗したり、鍛造のようなコストのかかる加工工程を追加したりすることなく、効率的に製造できることが確認できた。
【0050】
ここで、
図5に、式(2)の満足・不満足と、引け欠陥・表面欠陥発生の有無との関係を説明するためのグラフ図を示す。同図においては、全ての発明例および比較例について、(10.5−Z)×T0とV2との関係をプロットした。同図において、○と×が重なっているプロットは、式(2)は満たすものの、式(1)は満たさず、総合評価が不合格のデータを意味する。この
図5より、総合評価が合格となるためには、V2を式(2)の上下限の間とする必要があること、すなわち、少なくとも式(2)を満足する必要があることがわかる。
【0051】
また、
図6に、式(1)の満足・不満足と、引け欠陥・表面欠陥発生の有無との関係を説明するためのグラフ図を示す。同図においては、式(2)を満足しているデータのみについて、(10.5−Z)×T0とV2との関係をプロットした。この
図6より、総合評価が合格となるためには、V1を式(1)の上下限の間とする必要があること、すなわち、式(1)を満足する必要があることがわかる。
【0052】
したがって、総合評価が合格となるためには、式(1)および式(2)をともに満足する必要があることが確認できた。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】