(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない酸化物材料やSOFCの一般的事項、製造プロセス、SOFCの作動方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
ここに開示される電極材料は、本質的に、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物を含んでいる。ペロブスカイト型の結晶構造は、理想的には立方晶系の単位格子を有するものであるが、元素Aとの相互関係によりBO
6八面体の向きが傾くことにより、単位格子がより対称性の低い斜方晶や正方晶へと歪む。ここに開示される技術において、かかる酸化物の結晶構造は、リートベルト解析に基づき算出される上記結晶構造の格子歪が2.5%以下であることにより特徴づけられる。すなわち、このペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物(以下、ペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物を、単に、「ペロブスカイト型酸化物」ともいう。)は、一般的なペロブスカイト型酸化物の格子歪が3%程度ないしはそれ以上であるところ、この格子歪がより小さい値に適切に制御されている。かかる格子歪は、2.4%以下であるのがより好ましく、2.3%以下(例えば、2.2%以下)であるのがさらに好ましい。なお格子歪の下限については特に制限されないが、例えば、0.1%程度であるのが適当であり、0.2%以上とすることができる。これにより、この電極材料に対して、例えばSOFCの電極材料としてより好適な特性が付与されることとなる。
【0016】
なお、本明細書における格子歪(ε)は、実測されたX線回折プロファイルを、結晶学の分野で一般的に知られているリートベルト法により解析することで求めることができる。具体的には、X線回折パターンにおける観測強度(yi)と、結晶構造因子を指定して得られる計算強度(fi(x))との重み付き残差二乗和(S(x))が最小となるように、プロファイル・パラメータ群(x)を非線形最小二乗法によって精密化することで算出して得られるものであり得る。かかる解析においては、例えば、ペロブスカイト型酸化物の結晶構造モデルをR(−3)cとして、Thompson, cox, Hastings の擬フォークト関数をプロファイル関数として用い、ここに含まれるプロファイル・パラメータである半値全幅(Hk)、ローレンツ関数の半値全幅(H
kL)、ガウス関数の半値全幅(H
kG)の関係と、これらの算出式から、ガウス関数による格子歪(S
G)およびローレンツ関数による格子歪(S
L)との和として得られる値(S)を格子歪(ε)として採用するようにしている。詳細な格子歪(ε)の算出方法については、例えば、「粉末X線解析の実際」第2版,中井泉,泉富士夫編,朝倉書店(2009)等を参考にすることができる。
【0017】
[ペロブスカイト型酸化物]
ここに開示される電極材料に含まれる酸化物は、代表的にはABO
3で示されるペロブスカイト型の結晶構造を有している。ここで、上記のAおよびBは金属元素であり、典型的には、Aはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素等であり得る。また、Bは3価以上のイオンになり得る遷移金属、典型金属および希土類元素等であり得る。
ペロブスカイト型酸化物は、組成に関する自由度が比較的高く、上記のAサイトおよびBサイトの元素としては、様々な組み合わせを考慮することができる。しかしながら、全体として、格子歪が2.5%以下となる元素の組み合わせとすることで、例えば、SOFCの空気極を形成するに適した程度に電子伝導性および酸素イオン伝導性が向上され、その抵抗を低く抑えることが可能となり得る。
【0018】
以下、かかるペロブスカイト型酸化物の好適な形態について詳細に説明する。
上記のペロブスカイト型酸化物は、例えば、下記の一般式で示される組成を有するものであり得る。すなわち、かかるペロブスカイト型酸化物は、より限定的には、下記の一般式で示されるペロブスカイト型複合酸化物であるのが好まし形態であり得る。
(Ln
1−a,Ae
a)MO
3−δ
ここで、上記式中、LnおよびAeはAサイトを占める元素であって、Lnは原子番号57〜71のランタノイド元素である。また、Aeは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素およびランタノイド元素を除く希土類元素(すなわち、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y))であり得る。そして、Mは、Bサイトを占める元素であって、上記のとおり3価以上のイオンになり得る遷移金属、典型金属および希土類元素であり得る。そして、aは、0≦a<1を満たす。
【0019】
上式で示されるように、ペロブスカイト型酸化物のAサイトは、例えば、Lnの一部がAeにより置換された形態であると理解することもできる。かかるLnとしては、ランタン(Ln)からルテチウム(Lu)までの15種の元素を好ましく考慮することができる。Lnは、これら15種類のランタノイド元素からいずれか1種が単独で含まれていても良いし、2種以上が組み合わされて含まれていても良い。かかるランタノイド元素としては、より具体的には、例えば、ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),サマリウム(Sm)等の比較的イオン半径の大きな元素であることが好ましい。中でも、かかるランタノイド元素がLaまたはSm、なかでもLaであると、より安定した結晶構造を構成し得るために好ましい。ランタノイド元素としてLaと共にLa以外の元素を含む場合には、かかるLaの割合が高いことが好ましい。なお、本明細書におけるイオン半径とは、shannonのイオン半径を意味している。
【0020】
Aeは、上記の通りランタノイド(Ln)と置換され得る元素であって、より好適には、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)であるのが好ましい。これらの元素はいずれか1種が単独で含まれていても良いし、2種以上が組み合わされて含まれていても良い。なかでも、Srが含まれている形態が好ましい。Aeとして2種以上の元素が含まれる場合には、さらに、Srがより高い含有率で含まれているのが好適である。
【0021】
なお、Aeの置換可能な割合を示すaは、0であっても良い。すなわち、Aサイトはランタノイド元素のみにより占有されていても良い。しかしながら、例えば、Bサイトの元素との兼ね合いで、Aeを含むようにするのも好ましい。この場合、このペロブスカイト型酸化物は、高温においても良好な電気伝導性および電極活性を示し得る。ここで、aは、0以上0.6以下程度の範囲とするのが適当であり、好ましくは0.1以上0.5以下とすることができる。AサイトとBサイトの元素の組み合わせ等にもよるために一概には言えないが、aの値が0.1以上0.3以下、例えば0.25近傍(例えば、0.25±0.02)である場合に、Aサイトがおよそ3:1〜4:1の割合で2種以上のイオン(LnとAe)により秩序化して占有されたAサイト秩序型ペロブスカイト構造となり得るためにより好ましい。かかるAeがSrである場合においては、例えば、aが0.3以上0.5以下程度の範囲のものが好ましい形態であり得る。
【0022】
Mは、上記の通りのペロブスカイト型酸化物のBサイトを構成し得る元素から選択される1種または2種以上であり得る。より好適には、遷移金属元素であり得る。具体的には、元素周期律表で第3族から第11族の間に存在する元素であるのが好ましく、なかでもコバルト(Co)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびチタン(Ti)であるのが好ましい。これらの元素はいずれか1種が単独で含まれていても良いし、2種以上が組み合わされて含まれていても良い。ここに開示される発明においては、上記の格子歪をより好適に調整可能とするために、元素Mとして2種以上の元素が含まれることが好ましく、さらには、上記の遷移金属元素の中から2種以上の元素が選択されて含まれていることが好ましい。例えば、元素Mは、遷移金属元素の中から3種以上が選択されて含まれていても良い。なお、2種以上の元素が含まれる場合、それらのうち最もイオン半径の大きい元素M’が、元素Mに占める比は、0.1未満であるのが好ましい。
【0023】
そしてδは、かかるペロブスカイト型酸化物における電荷中性条件を満たすように定まる値である。即ち、上記のとおり、このペロブスカイト型酸化物は、ABO
3で表されるペロブスカイト型構造における酸素欠陥量を、δ値により示すものと理解できる。かかるδは、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類、置換割合の他、環境条件等により変動するため正確に表示することは困難である。このため、酸素原子数を決定する変数であるδは、典型的には1を超えない正の数(0≦δ<1)を採用し、(3−δ)と表示している。ただし、本明細書では、便宜上δを省略して記載する場合(例えば、下記の実施例や表1〜6等)もあるが、かかる場合においても異なる化合物を表しているわけではない。即ち、上記一般式中の(3−δ)は、本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【0024】
なお、特に制限されるものではないが、このようなペロブスカイト型酸化物の好ましい一態様として、例えば、具体的には、La
1−aSr
a(Co
1−yFe
y)
1−xM’
xO
3−δ,La
1−aSr
a(Co
0.2Fe
0.8)
1−xM’
xO
3−δ,La
1−aSr
a(Co
0.2Fe
0.8)
1−xM’
xO
3−δ,La
1−aSr
aCo
1−xM’
xO
3−δ,Sm
1−aSr
aCo
1−xM’
xO
3−δ,La(Ni
1−yFe
y)
1−xM’
xO
3−δ等として示される組成のものが挙げられる。なお、式中のx,yは、0<x<0.1,0≦y≦1を満たす。
【0025】
かかるペロブスカイト型酸化物は、Bサイトに遷移金属元素を含むことから、かかる遷移金属イオンのd電子が被局在化するために高い電気伝導性を示し得る。また、Bサイトに遷移金属が含まれるため、周辺環境により遷移金属のイオンの価数が変化し得、例えば、高温の還元雰囲気下では酸素の量が3より減じて空孔(酸素欠陥)が形成され得る。また、AサイトおよびBサイトの金属のイオンの価数の和が意図的に+6からわずかに減少されることによっても酸素欠陥が導入され得る。このように酸素欠陥が導入されたペロブスカイト型酸化物は、酸素欠陥を介して酸素イオンが速やかに動く酸素イオン導電体ともなり得る。すなわち、ここに開示される電極材料は、例えば、SOFCの電極材料として有用なペロブスカイト型酸化物イオン電子混合伝導材料であり得る。
【0026】
以上のペロブスカイト型酸化物は、例えば、公知の手法を利用して原料から調製することができる。具体的には、例えば、乾式法や、湿式法等が代表的なものとして知られている。
乾式法とは、例えば、粉末状のペロブスカイト型酸化物の構成成分の原料化合物を化学量論組成で混合し、仮焼する方法である。あるいは、原料化合物の混合物を、メカニカルアロイング等の手法により複合化(合金化であり得る)することに因っても調整することができる。
例えば、仮焼による方法では、典型的には、出発原料たる化合物(上記のLn源、Ae源、X源)および必要に応じてそれ以外の添加物を、所定の配合比(典型的には、化学量論比)になるよう秤量し、適当な混合機(例えばボールミル)に投入して混合する。この際に用いる材料は、特に限定されるものではないが、上記のLn、AeおよびXの各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、蓚酸塩等が挙げられる。かかる出発原料の平均粒子径についても特に制限はないが、0.1μm〜10μm、好ましくは0.3μm〜3μm程度のものが好適である。また、上記原料の混合は、任意の溶媒中で行う(即ち、湿式混合)こともできる。これにより、出発材料を均質に混合し、所望の組成を有するペロブスカイト型酸化物を安定して作製することができる。
【0027】
次に、かかる原料混合物を適当な高温条件下で焼成する。焼成は、おおよそ800℃〜1500℃、例えば、1000℃〜1200℃程度の温度で、およそ1時間〜10時間とすることが好ましい。そして、上記焼成した混合粉末を、適宜、粉砕および/または分級処理する。かかる粉砕処理では、従来用いられる装置のうち一種または二種以上を特に限定なく用いることができる。例えば、ジェットミル、プラネタリーミル等の非媒体型分散機や、ボールミル等の媒体型分散機を用いることができる。また、粉砕処理の条件(例えば、粉砕速度や粉砕時間等)は、所望の粒径が得られるよう、適宜を調節するとよい。
【0028】
また、湿式法とは、当該ペロブスカイト型酸化物の構成成分を化学量論比で全て含む混合溶液を作り、かかる混合溶液から目的のペロブスカイト型酸化物を析出させる方法である。代表的には、共沈法や噴霧法が挙げられる。共沈法は、上記のLn、AeおよびXの各元素を化学量論比で全て含む混合溶液に対し、沈澱形成液を添加して目的の金属元素を化学量論比で含む化合物(典型的には、水酸化物)を共沈させ、この共沈物を乾燥、仮焼する方法である。また、噴霧法は、上記と同様の混合溶液をアトマイザー等を利用して噴霧し、液滴化した状態で、かかる液滴を乾燥、仮焼する方法である。仮焼の条件は、上記の焼成条件と同様にすることができる。
【0029】
このペロブスカイト型酸化物の外形については特に限定されない。典型的には、粉末形態のものが扱いやすいことから好ましく用いられる。かかる粉末の形態は、代表的には、略球状であるが、いわゆる真球状のものに限られない。球状以外には、例えば、フレーク形状や破砕形状、造粒形状、不規則形状のものであっても良い。また、ペロブスカイト型酸化物粉末の粒径についても特に制限されず、当該粉末を構成する粒子の平均粒子径が20μm以下であるものが適当であり、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.3μm以上5μm以下であり、例えば2μm±1μmである。なお、ここでいう平均粒子径とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径;以下、D50と略記する場合もある。)を意味する。そして、さらには、かかる粉末状のペロブスカイト型酸化物が成形された成形体であっても良い。
【0030】
以上の電極材料は、ペロブスカイト型酸化物の格子歪が特定の範囲となるよう結晶構造が制御されている。したがって、常温から高温域において比較的高い電気伝導性を示し、なおかつ、高温の還元雰囲気下で高い酸素イオン伝導性を示し得る。また、かかる電極材料をSOFCの空気極に用いれば、電極(空気極)/電解質/気相(酸素含有ガス)が接する三相界面だけでなく、電極(空気極)自体の表面においても電極反応が進行し得るため、例えば、600℃程度の温度領域においても比較的高い電極活性を示し得るために好ましい。当該SOFCの電極反応抵抗を低減し、かつ、発電性能を高め得ることからも好ましい。さらに、かかるSOFCの優れたセル性能を長期に亘って維持することも可能とされる。すなわち、かかる電極材料は、SOFCの高性能および高品質な空気極を実現し得る材料であり得る。
【0031】
また、SOFCの単セル同士を接続する集電体は、SOFCの燃料極と空気極とを仕切る隔壁としての役目も併せ持っていることから、高い電気導電性に加え、高温での酸化性雰囲気および還元性雰囲気の両方に対して耐性を備えていることが求められる。このようなSOFCの集電体用の材料としても、ここに開示される電極材料を好ましく用いることができる。さらには、この集電体と、空気極とを接合するための接合材料としても好ましく用いることができる。なお、本明細書でいう集電体とは、SOFCにおいては、インターコネクタ、セパレータなどとも呼ばれる構成部材を包含し、例えば一方のセルの空気極と他方のセルの燃料極とを電気的に接合したり、一つの空気極と他の構成部材とを電気的に接続したりする部材であり得る。
【0032】
以上の電極材料は、上記のペロブスカイト型酸化物をそのまま単独で、あるいは焼結助剤、造孔材等の添加剤と共に所望の形態に成形し、焼成することで、目的の電極等の構成部材を作製することができる。
かかる成形に際しては、例えば、粉末状の電極材料をそのまま成形してもよいし、あるいは、粉末状の電極材料を分散媒中に分散したペースト(インク、スラリーなどを包含する)の形態に調製して用いるようにしても良い。すなわち、ここに開示される電極材料は、実質的に電極を構成する成分以外の成分として、例えば、上記のペロブスカイト型酸化物を分散し得る分散媒を含んでいても良い。かかる分散媒としては、ここに開示されるペロブスカイト型酸化物を良好に分散させ得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられている各種の分散媒を特に制限なく使用することができる。典型的には、かかる分散媒としては、ビヒクルと、粘度調整のための有機溶媒との混合物を考慮することができる。かかる有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶剤の1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、ビヒクルは、有機バインダとして種々の樹脂成分を含むことができる。かかる樹脂成分はペーストを調製するのに良好な粘性および塗膜形成能(例えば、印刷性や、基板に対する付着性等を含む。)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれているのが好ましい。なお、かかる分散媒には、分散剤や可塑剤等のこの種の分散媒に一般的に使用され得る任意の添加剤が含まれていても良い。
【0033】
かかる分散媒の割合は、かかる電極材料の仕様目的に応じて適宜調整することができる。例えば、SOFCの電極およびその他の構成部材の形態や、その成形に採用する手法等に応じて、適宜調整することができる。例えば、かかるペースト状の形態の電極材料は、印刷等の手法により上記のSOFCの構成部材を形成するのに好ましく用いることができる。より具体的には、例えば、スクリーン印刷やドクターブレード法等の手法によりSOFCの空気極を作製するためのグリーンシートを成形する場合を例にすると、かかる分散媒が、ペースト全体(すなわち、例えば、ペロブスカイト型酸化物と、造孔材と、分散媒との合計)に占める割合は、5質量%以上60質量%以下程度とすることができ、好ましくは7質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、ビヒクルに含まれる有機バインダは、例えば、ペースト全体の1質量%以上15質量%以下程度、好ましくは1質量%以上10質量%以下程度、より好ましくは1質量%以上7質量%以下程度の割合とすることが例示される。かかる構成とすることで、例えば、粉末状の電極材料を均一な厚さの層状体(例えば、塗膜)として形成(塗布)し易く、取扱いが容易であり、さらにかかる成形体から溶媒を除去するのに長時間を要することがないために好適である。特に、薄層化が進められるSOFCの空気極のグリーンシート(未焼成段階の成形体)を好適に形成することができる。
【0034】
なお、ペースト状に調製するに際し、ペロブスカイト型酸化物および分散媒の混合には、例えば、公知の三本ロールミル等を用いることができる。ペースト状の電極材料は、所望の用途に応じて適切な粘度に調整することによって、塗布または印刷等の形態で電極材料を所望の位置に所望の形態にて簡便に供給することが可能となる。例えば、極精密に寸法が管理されたSOFCの空気極や、複雑な形状の部位を有するインターコネクタ等の用途の成形体を簡便かつ好適に成形することができる。なお、ここに開示される電極材料でSOFCの空気極を形成する場合、空気極の全体をかかる電極材料で構成しても良いし、その一部のみをかかる空気材料で構成するようにしても良い。ここに開示される電極材料は、粉末状のものを所定の形態に圧縮成形する等して成形体(例えば、所望の形状のペレット)として用いることもできる。
【0035】
上記のようにして準備した電極材料の成形体は、従来のこの種の構成部材と同様に焼成することができる。この場合の焼成温度は、例えば1000℃〜1400℃程度とすることができる。ただし、かかる焼成を、他の構成部材の焼成と同時に行う場合等には、焼成温度を適宜変更することができる。これによって、例えば、SOFCの空気極や集電体等の、所望の燃料電池構成部材を作製することができる。
【0036】
[実施態様1]
かかる実施態様における固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムは、
図1に示される、アノード支持型のSOFCの単セル10を備えている。この単セル10は、多孔質構造の燃料極(アノード)40の表面(図では上面)に、順に、酸化物イオン伝導体からなる緻密な層状の固体電解質30、多孔質構造の空気極20(カソード)が形成されることで構成されている。なお、この実施態様においては、固体電解質30と空気極20との間に、両者の反応を防止する反応防止層25が設けられている。このSOFCの作動時には、燃料極40を通じて燃料極40側の固体電解質30表面に燃料ガス(典型的には水素(H
2))が、空気極20を通じて空気極20側の固体電解質30表面に酸素(O
2)含有ガス(典型的には空気)が、それぞれ供給される。一般的な動作においては、酸素(O
2)含有ガス中のO
2ガスが空気極20で還元されてO
2−アニオンとなり、固体電解質を通って燃料極40に移動し、H
2ガス燃料を酸化する。そしてかかる酸化反応に伴い、電気エネルギーを発生させている。
【0037】
ここで空気極20を構成する材料として、ここに開示される電極材料を用いることができる。かかる電極材料としては、ペロブスカイト型結晶構造における格子歪が2.5%以下のものを用いることができ、例えば、具体的には、(La
1−aSr
a)(Co
1−xNi
x)O
3−δ,(Sm
1−aSr
a)(Co
1−xNi
x)O
3−δ,La
1−aSr
a(Co
1−yFe
y)
1−xMn
xO
3−δ等が例示される。ここで、x<0.1であるのが好ましい。
固体電解質30としては、一例として、8%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)ランタンガレード(LaGaO
3)からなるものが例示される。反応防止層25としては、ガドリニアドープセリア(GDC)等に代表されるセリア系の酸化物からなるものが例示される。燃料極40としては、一例として、ニッケル(Ni)とYSZのサーメットからなるものが例示される。
なお、例えば、この
図1に示されるように、アノード支持型のセル10を構築する場合、ここに開示されるペースト状に調製された電極材料を、固体電解質30あるいは反応防止層25の上面にシート状に塗布して焼成することが好適である。
【0038】
[実施態様2]
かかる実施態様における固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムは、SOFCのスタックセル100を備えている。
図2に、スタックセル100の一形態の分解斜視図を模式的に示す。かかるスタックセル100は、SOFC(単セル)10A,10Bが、インターコネクタ50を介して複数層積み重なったスタックとして構成されている。単セル10A,10Bは、層状の固体電解質30の両面が、それぞれ層状の燃料極(アノード)40と空気極(カソード)20とで挟まれたサンドイッチ構造を備えている。図面中央に配されるインターコネクタ50Aは、その両面を二つの単セル10A,10Bで挟まれており、一方のセル対向面52がセル10Aの空気極20と対向(隣接)し、他方のセル対向面54がセル10Bの燃料極40と対向(隣接)している。ここで、空気極20は、ここに開示される電極材料から構成されている。また、インターコネクタ50は、例えば、LaCrO
3系のセラミックス材料や、Fe−Cr系耐熱合金,Crofer(ティッセンクルップ),ZMG(日立金属)等の金属材料等から構成されている。インターコネクタ50の、セル対向面52には複数の溝が形成されており、供給された酸素含有ガス(典型的には空気)が流れる空気流路53を構成している。同様に、反対側のセル対向面54にも複数の溝が形成されており、供給された燃料ガス(典型的にはH
2ガス)が流れるための燃料ガス流路55を構成している。かかる形態のインターコネクタ50では、典型的には空気流路53と燃料ガス流路55とが互いに直交するように形成されている。また、空気極20とインターコネクタ50との接合に際しては、空気極20の表面にここに開示されたペースト状の電極材料を塗布した後、インターコネクタ50を重ね合わせるようにし、両者に間隙が生じ酸素(O
2)含有ガス(ここでは空気(Air))の漏れが生じないようにされている。一般的な動作においては、酸素(O
2)含有ガス中のO
2ガスが空気極20で還元されてO
2−アニオンとなり、固体電解質30を通って燃料極40に移動し、H
2ガス燃料を酸化する。そしてかかる酸化反応に伴い、外部負荷において電気エネルギーを発生させている。
なお、以上のSOFCシステムの製造方法は、従来公知の製造方法に準じればよく特別な処理を必要としないため、詳細な説明は省略する。また、ここで開示される電極材料を用いたSOFCの空気極は、例えば、平板型、円筒型、積層型等の従来公知の種々の構造のSOFCに適用でき、形状やサイズ等は特に限定されない。また、支持体(基材)についても特に限定はなく、例えばアノードやカソード、固体電解質等であり得る。
【0039】
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0040】
[電極材料の用意]
下記の基本組成を有するペロブスカイト型酸化物において、Bサイトの元素およびその配合割合xを下記の表1〜6に示したように変化させることで、サンプル1〜46の電極材料を用意した。なお、Bサイトの元素のイオン半径は以下のとおりである。
[基本組成]
La
0.6Sr
0.4(Co
0.2Fe
0.8)
1−xMn
xO
3
La
0.6Sr
0.4(Co
0.2Fe
0.8)
1−xNi
xO
3
La
0.6Sr
0.4(Co
0.2Fe
0.8)
1−xTi
xO
3
La
0.6Sr
0.4Co
1−xNi
xO
3
Sm
0.5Sr
0.5Co
1−xNi
xO
3
La(Ni
0.6Fe
0.4)
1−xTi
xO
3
【0041】
[イオン半径]
Co
3+:0.545Å
Fe
3+:0.55Å
Mn
3+:0.58Å
Ni
3+:0.56Å
Ti
3+:0.67Å
【0042】
具体的には、例えば、サンプル1〜12の電極材料は、La
0.6Sr
0.4(Co
0.2Fe
0.8)
1−xMn
xO
3で表される基本組成を有することから、出発原料としてLa
2O
3,SrCO
3,Co
3O
4,Fe
2O
3およびMn
2O
3を用い、これらを化学量論比で湿式混合した後、大気雰囲気中、1100℃〜1400℃で焼成し、得られた焼成物をボールミルを用いて湿式粉砕して粒度を調整することで用意した。なお、他の電極材料の作製に際しては、Ni源としてNiOを、Ti源としてTiO
2を、Sm源としてSm
2(CO
3)
3を用い、その他は上記と同様にした。また、原料粉末には、いずれも純度99.9%以上の高純度試薬を用い、不純物の混入は極力回避するようにした。
【0043】
次いで、得られたサンプル1〜46の電極材料について、平均粒子径および格子歪の測定を行い、その結果を表1に示した。なお、各項目の測定は、以下の手順で行った。
[平均粒子径]
サンプル1〜46の電極材料の平均粒子径は、動的光散乱法に基づく粒度分布測定装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS)により検出した散乱光強度の揺らぎを、NNLS法(Non-negative linear least squares method;非負線形最小二乗法)により解析(解析ソフト:マルバーン社製、ゼータサイザーソフトウェア6.20)することで、個数基準の粒度分布を得た。そしてかかる粒度分布における累積50%径(D50)を、各サンプルの平均粒子径とし、表1〜6の平均粒子径の欄に記載した。
【0044】
[格子歪]
サンプル1〜46の電極材料の格子歪は、各サンプルについて25℃にて粉末X線回折分析(XRD)を行った結果を、リートベルト法により解析することで算出した。具体的には、十分に微細化したサンプル1〜46の電極材料について取得したXRD回折パターンを、結晶構造モデルを、サンプル33〜39についてはPmmaとし、その他のサンプルについてはR(−3)cとして、リートベルト法に基づきカーブフィッティングすることで、精密化した格子歪(microstrain)を算出した。
X線回折分析の条件は以下のとおりとした。
測定装置:RINT−TTRIII(株式会社リガク製)
ターゲット:CuKα線(波長0.154nm)
スリット:発散スリット=1°、受光スリット=0.1mm、散乱スリット=1°
測定領域:2θ=20°〜120°
ステップ幅および間隔:0.0200°,1.0s
測定温度:室温(25℃)
また、解析には、リートベルト解析プログラムRIETAN−FP用いた。なお、本実施形態では、格子歪(S)は、上記解析結果から、ガウス関数による格子歪S
Gおよびローレンツ関数による格子歪S
Lとの和として得られる値を採用している。
【0045】
[評価用のSOFCセルの作製]
上記のサンプル1〜46の電極材料をSOFCの空気極用材料として用い、以下の手順で、評価用のSOFCセルを作製した。
すなわち、まず、酸化ニッケル(NiO,平均粒子径0.5μm)粉末と、8%イットリア安定化ジルコニア(8%YSZ,平均粒子径0.5μm)粉末とを、60:40の質量比で混合することで、燃料極材料を用意した。そして、この燃料極材料と、造孔材(カーボン粒子)、バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)、可塑剤および溶媒(エタノール:トルエンの3:1混合溶媒)とを、順に58:5:8.5:4.5:5:24の質量比で混練することにより、ペースト状の燃料極支持体形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極支持体形成用組成物をキャリアシート上にドクターブレード法によりシート状に塗布、乾燥させて、厚みが0.5〜1mmの燃料極支持体グリーンシートを形成した。
【0046】
固体電解質材料として、平均粒子径0.5μmの8YSZ粉末と、バインダ(エチルセルロース;EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、65:4:31の質量比で混練することにより、ペースト状の固体電解質層形成用組成物を調製した。これを上記燃料極グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約10μmの固体電解質層グリーンシートを形成した。
【0047】
また、反応防止層材料として、平均粒子径0.5μmの10%ガドリニウムドープセリア(10GDC)粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、65:4:31の質量比で混練することにより、ペースト状の反応防止層用組成物を調製した。これを上記固体電解質層グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約5μmの反応防止層グリーンシートを形成した。
このようにして用意した積層グリーンシートを、1350℃で共焼成することで、SOFCのハーフセルを得た。
【0048】
次いで、空気極材料として、上記で用意したサンプル1〜46の電極材料を用い、空気極形成用組成物を調製した。すなわち、各電極材料と、バインダ(EC)および溶媒(α−テルピネオール;TE)と共に、80:3:17の質量比で混練することにより、ペースト状の空気極形成用組成物を得た。これを上記で用意したSOFCのハーフセルの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚み30μmの空気極層グリーンシートを形成した。なお、空気極形成用組成物の印刷条件は、印刷圧を2MPaで一定とした。次いで、これを1100℃で焼成して空気極を焼成し、評価用のSOFCセル1〜46を得た。
そして、このように得られた評価用のSOFCセル1〜46について、発電性能、電極反応抵抗および劣化率を以下に示す手順で測定した。
【0049】
[発電性能]
上記SOFCを下記の条件で運転させた際の電力密度を測定し、得られた最大出力密度(W/cm
2)を発電性能として、表1〜6の「発電性能」の欄に示した。
燃料極供給ガス:水素ガス(50ml/min)
空気極供給ガス:空気(100ml/min)
運転温度:700℃
【0050】
[電極反応抵抗]
上記のように得られた評価用のSOFCセル1〜46について、開回路状態において交流インピーダンス測定を行い、発電時の電圧損失から電極反応抵抗を算出した。交流インピーダンスの測定には、周波数応答アナライザ(Solartron社製、1260型)を用い、測定温度700℃、開回路状態において、測定周波数領域10MHz〜0.1Hzの条件で測定した。また、電極反応抵抗は、交流インピーダンス測定により得られたコール・コールプロットにおける、複数の円弧状の抵抗成分の全幅とした。例えば、
図3は、評価用のSOFCセルの交流インピーダンス測定の結果(コール・コールプロット)を例示している。この
図3に矢印で示した抵抗成分の実数成分Z’方向での広がり(全幅)を電極反応抵抗としている。この電極反応抵抗は、燃料極反応抵抗と空気極反応抵抗とを足し合わせた値に相当すると考えることができる。電極反応抵抗の測定結果を、表1〜6の「発電性能」の欄に示した。
【0051】
[劣化率]
上記のように得られた評価用のSOFCセル1〜46を、温度700℃、0.5A/cm
2の定電流で、100時間動作させた際の、電圧の低下率を算出して劣化率とした。劣化率の算出結果を、表1〜6の「劣化率」の欄に示した。
【0058】
[評価]
表1〜3は、ペロブスカイト型酸化物のBサイトの元素がCoおよびFeである場合に、さらにこれらよりもイオン半径の大きな元素Mn,NiおよびTiをそれぞれ含ませるようにして、格子歪を変化させたものである。そして、かかるペロブスカイト型酸化物の電極材料としての特性を評価した結果を示したものである。
表1に示されるように、格子歪が3.1(サンプル1)から小さくなることで、電極材料としての特性(発電性能、電極反応抵抗および劣化率)が徐々に向上されてゆき、格子歪が0.8(サンプル3)で最少の時に電極特性が極大となり、格子歪が再び増加するにつれて電極特性の向上効果も低減していく傾向があることが確認できた。そして、格子歪が2.5%以下の範囲において、SOCFCの発電性能、電極反応抵抗および劣化率が極めて良好で、全体としてバランスよく特性の向上が図られていることが確認できた。表2および3に示されるように、Bサイトの元素の組み合わせが異なる場合でも、同様のことが確認できた。
具体的な電極材料特性は、Bサイトの元素の組み合わせにもよるため一概には言えないものの、いずれのBサイトの元素の組み合わせにおいても、概ね、Bサイトに占めるイオン半径の最も大きな元素の原子比が、0.005以上0.03以下の範囲で、格子歪2.5%以下を確実に実現でき、発電性能、電極反応抵抗および劣化率が良好となり得ることが確認できた。また、格子歪が2.0%以下、1%以下、0.5%以下と小さくなるほど、さらに発電性能、電極反応抵抗および劣化率のいずれもが良好となることが確認できた。
【0059】
なお、サンプル1および12として示されるように、同一の組成であっても、平均粒子径が異なる電極材料においては、平均粒子径が小さいほど発電性能および電極反応抵抗については良好な特性を得ることができる。しかしながら、同一の組成であっても平均粒子径が異なる電極材料においては、平均粒子径が小さいほど格子歪が大きくなり、劣化率については著しく高くなってしまい、長期耐久性が得られないことが確認された。
【0060】
表4〜6は、基本となるペロブスカイト型酸化物の組成を変化させた場合について、同様に、格子歪の大きさを調整した酸化物の電極材料としての評価結果を示したものである。何れの組成においても、格子歪が2.5%以下の範囲で、電極材料としての特性(発電性能、電極反応抵抗および劣化率)がバランスよく良好に向上されていることが確認できた。また、このように基本的に組成が異なるペロブスカイト型酸化物についても、格子歪が2.5%以下の範囲で電極材料としての特性が極めて良好となり得ることが確認できた。
【0061】
以上のことから、ここに開示される電極材料を用いて、例えば、SOFCの空気極を形成することで、発電性能や耐久性に優れたSOFCが実現できることが確認された。なお、かかる電極材料は、SOFCの空気極を構成するのに好適なのはもちろんのこと、例えば、この空気極とインターコネクタとの間に配設される集電体や、インターコネクタ自体を構成するのにも、好ましく用いることができる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。