(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000943
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】固定キャリパブレーキ及び固定キャリパ用ブレーキパッド
(51)【国際特許分類】
F16D 65/092 20060101AFI20160923BHJP
F16D 55/228 20060101ALI20160923BHJP
F16D 65/02 20060101ALI20160923BHJP
F16D 65/097 20060101ALI20160923BHJP
F16D 66/02 20060101ALN20160923BHJP
【FI】
F16D65/092 D
F16D55/228
F16D65/02 B
F16D65/02 C
F16D65/097 B
!F16D66/02 A
【請求項の数】22
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-512834(P2013-512834)
(86)(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公表番号】特表2013-531195(P2013-531195A)
(43)【公表日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】EP2011058543
(87)【国際公開番号】WO2011151235
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2014年4月1日
(31)【優先権主張番号】102010043898.7
(32)【優先日】2010年11月15日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102010029679.1
(32)【優先日】2010年6月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500030596
【氏名又は名称】コンチネンタル・テベス・アーゲー・ウント・コンパニー・オーハーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】フロイント、フェレナ
(72)【発明者】
【氏名】クリステン、ディーター
(72)【発明者】
【氏名】パシュケ、クラオス・ディーター
(72)【発明者】
【氏名】レーム、ヨアヒム
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第92/017713(WO,A1)
【文献】
特表2002−537526(JP,A)
【文献】
国際公開第94/024454(WO,A1)
【文献】
米国特許第05297659(US,A)
【文献】
米国特許第04498564(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第102006052178(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第04133486(DE,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第02622266(FR,A1)
【文献】
英国特許出願公開第2231928(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのハウジング脚(3,4)と、これらのハウジング脚(3,4)を互いに所定間隔で曲げ剛性をもって接続するハウジングブリッジ(5)とを有するハウジング(2)と、
前記ハウジング脚(3,4)のボア(8,9)内に収容され、ピストン軸線方向に移動可能に案内されるピストン(13,14)と、
前記ハウジング(2)内を軸方向に移動可能に案内され、周方向の力に抗して支持されて周方向に沿って配置され、対をなすブレーキパッド(6,7)とを備え、
各ブレーキパッド(6,7)が、少なくとも1つのピストン(13,14)で直接駆動され、前記ブレーキパッド(6,7)が、入側で、前記ハウジングブリッジ(5)に形状的にはまり合うように支持される自動車用固定キャリパブレーキ(1)であって、
弾性的に予負荷が作用するばね部材(21)が前記ハウジング(2)と前記ブレーキパッド(6,7)との間に設けられ、このばね部材(21)は前記ブレーキパッド(6,7)を前記ハウジングブリッジ(5)の方向に半径方向外方に付勢されて、前記ハウジングブリッジ(5)の領域内で前記ハウジング(2)に配置され、さらに前記ブレーキパッド(6,7)に弾性的に予負荷を作用させるためにピストン軸線に平行に配置されたばねとして形成され、前記ハウジング(2)は、前記ばね部材(21)を形状的にほぼ一致するように収容するための開口を有することを特徴とする、自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項2】
前記ブレーキパッド(6,7)は、出側で、前記ハウジングブリッジ(5)にさらに支持されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項3】
前記ブレーキパッド(6,7)は、前記ハウジングブリッジ(5)に直接、または、補強材(28)を介して間接的に支持されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項4】
前記ハウジング(2)は、軽金属で一体的に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項5】
前記ハウジング(2)は、前記ピストン(13,14)の液圧チャンバ(33)間に、圧力媒体入口、通気孔、および、一体化された液圧通路である接続部(33)を有することを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項6】
前記ハウジング脚(3,4)は、互いに対向しかつ整合させて配置された前記ボア(8,9)を有し、これらの前記ハウジング脚(3,4)間の規定される距離は、前記ピストン(13,14)の長さよりも僅かに長く形成されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項7】
前記ハウジングブリッジ(5)は、ほぼ完全に閉じられ、前記ブレーキパッド(6,7)を取外すための開口なしに形成されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項8】
前記ばね部材(21)が、ブレーキディスクハットの領域内の半径方向内側で、前記ハウジング(2)に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項9】
前記ばね部材(21)は、ピストン軸線に平行に配置された一体化補強材(52)を有することを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項10】
一体化された組立体及び保持装置が前記ばね部材(21)のために設けられることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項11】
前記ばね部材(21)は、ロック部(37)を有し、このロック部は、ハウジング(2)のアンダーカット(38)に弾性的に係合することを特徴とする請求項10に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項12】
請求項11に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)を製造する方法であって、前記ハウジング(2)上のガイド(39)がロック部(37)に係合され、このロック部は、ピストン軸線に平行に向く挿入工程で、最初に弾性的に変形され、前記ガイド(39)の長さは、前記ロック部が挿入工程の最後に弾性ばね効果の下でアンダーカット(38)に自動的に嵌め込まれるように、形成されることを特徴とする、自動車用固定キャリパブレーキ(1)の製造方法。
【請求項13】
取付部材(41)が、自動車に取付けられたスタブ車軸と前記ハウジング(2)との間に設けられることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項14】
前記ばね部材(21)は、電気コンダクタ(47,48)を固定する保持部材(46)を取付けるためのキャリアとして設けられることを特徴とする、請求項8に記載のばね部材を有する、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項15】
弾性ラッチ装置(49)が、前記ばね部材(21)と前記保持部材(46)との間に設けられることを特徴とする、請求項14に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項16】
前記保持部材(46)は、複数のコンダクタ(47,48)を固定するための複数の弾性突起(50,51)を有することを特徴とする、請求項14又は15に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)。
【請求項17】
バックプレート(11)とこのバックプレート(11)の中央部(12)に適用される摩擦複合材(10)とを備え、このバックプレート(11)は、互いに反対方向に配置され、それぞれ支え部材に対して周方向の力を支えるために周方向において側方に配向されるアーム(15,16)を有する固定キャリパブレーキ(1)用ブレーキパッドであって、各アーム(15,16)は、入側が、半径方向外方で開口しかつ少なくとも一部が支え部材に抗して形状的に適合して当接する作用をなすフック形状に形成され、バックプレート(11)の中央部(12)は、半径方向外方に向き、ばね部材(21)を収容するため、又は、ばね腕を収容するための開口(40)を設けた部分を有することを特徴とする、請求項1に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)用のブレーキパッド。
【請求項18】
各アーム(15,16)は、出側が、半径方向外方で開口するフック形状に形成されることを特徴とする、請求項17に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)用のブレーキパッド。
【請求項19】
前記フック形状は、中央部(12)から始まり、互いに直角に配置されかつ結合される2つのアーム部(42,43)を備えることを特徴とする、請求項17又は18に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)用のブレーキパッド。
【請求項20】
前記バックプレート(11)は、ばね腕(44,45)を有することを特徴とする、請求項17に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)用のブレーキパッド。
【請求項21】
前記アーム部(42,43)は、バックプレート(11)の中央部(12)の厚さ(t2)よりも大きな厚さ(t1)を有することを特徴とする、請求項19に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)用のブレーキパッド。
【請求項22】
前記厚さ(t1)は、応力減少のために大きく設けられ、前記アーム部(43)の高さ(H)にわたってほぼ完全に設けられることを特徴とする、請求項21に記載の自動車用固定キャリパブレーキ(1)用のブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ独立形式の請求項の前段部分に記載の特徴を有する、自動車用の固定キャリパブレーキおよび固定キャリパ用ブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、固定キャリパブレーキ(fixed caliper brake)は、2つのハウジング脚(housing limbs)と、互いに所定間隔でこれらのハウジング脚を剛結合(flexurally rigid connection; biegesteifen Verbindung)するためのハウジングブリッジとを有するペンチ形状のハウジングを備える。部分的にライニングを有するディスクブレーキの場合、ロータの一部、換言するとブレーキディスクの一部が、この一部に作用するブレーキパッドと共に、ハウジング脚間の介在スペース(距離a)内に常時収容されている。ほとんどの場合に液圧又は電気機械的に駆動されるピストンが、ハウジング脚のピストン孔内に収容され、その内部を、ブレーキディスクに対して軸方向に移動可能に案内される。更に、支持脚およびハウジングブリッジは、半径方向外方に開き、ブレーキパッドの交換を容易とする立孔(shaft)を規定する。周方向の力を吸収するため、この立孔は、ブレーキディスクの出側領域(run-out region)に圧力下のブレーキパッドに接触する当接面を有する。固定キャリパが自動車のスタブ車軸に固定されている場合、ピストンを、好ましくは液圧又は電気機械的に、ブレーキディスクの摩擦面の方向に所定の垂直方向の力で移動することにより、制動効果を生じさせることができ、これにより、形成された摩擦又は周方向の力がブレーキパッドを介してハウジングに伝達される。ブレーキパッドを半径方向に保持するため、ブレーキパッドの孔を貫通し、ハウジング内の孔に装着されるピンが一般に用いられる。これにより、ブレーキパッドが意図せずして立孔から除去されることが防止される。ガタ付き音を防止するため、弾性的な予負荷でブレーキパッドをストッパに常時弾力的に付勢するばね腕を有するばねを設けることができる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、特に、強度の増大、残留制動トルクの減少、ブレーキライニング領域の最大化、重量の低減、コストの低減、および、外観の改善に関する現存の要求により好適に適合する、固定キャリパブレーキ、又は、固定キャリパブレーキに使用するためのブレーキパッドを提案することにある。この問題を解決するため、それぞれの独立形式の請求項に記載の特徴を有する固定キャリパブレーキ又はブレーキパッドが提案される。特に、ブレーキパッドは少なくとも入側で形状的に適合する態様(form-fitting manner)でハウジングブリッジに当接する固定キャリパブレーキが提案される。本発明の他の側面は、ブレーキライニングおよびブレーキライニング用のバックプレートを有するブレーキパッドの関し、このブレーキパッドのバックプレートは、少なくとも入側に、半径方向外方に開口するフック形状を持つアームを有し、このバックバックプレートは少なくとも部分的に形状的に適合する態様でハウジング部を受入れる作用をなす。このアームの半径方向外方に向く開形状は、バックプレートの主牽引負荷(primarily tractive loading)及びハウジングブリッジに対する力の付加と共に、更に、ノイズ作用(NVH)、腐食及び汚染に対する保護に関して改善された形状とすることを可能とする。本発明の詳細は、図面を参照する説明と共に従属形式の請求項から明らかとなる。ここに、
図1−17は、固定キャリパブレーキ、そのばね装置、および、固定キャリパブレーキ用のブレーキパッドの種々の実施形態を示し、これらの図では、それぞれ異なる図式表示で示してある。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図2】
図1の固定キャリパブレーキが外部の取付部材に取り付けられていることを示す斜視図。
【
図3】
固定キャリパブレーキ用のブレーキパッドのバックプレートを示す斜視図。
【
図4】
ブレーキキャリパハウジングに開口及び当接面を有するブレーキパッドを示す断面図。
【
図5】
図4に示すブレーキパッドの摩擦質量体を示す斜視図。
【
図6】
図2に示すブレーキキャリパハウジングと取り外された取付部材とを下から見た斜視図。
【
図7】
引き出された頂部ばね部材を含む、図6に示すブレーキキャリパを上からみた斜視。
【
図8】
ばね部材を搭載した、図7に示すキャリパブレーキを示す斜視図。
【
図12】
変形例のばね部材を有するブレーキキャリパの一実施例を下から見た概略図。
【
図13】
図3のブレーキパッドの一実施例を示す斜視図。
【
図14】
ブレーキパッドの他の実施例を示す斜視図。
【
図15】
キャリパを備えたディスクを上から見た斜視図。
【
図16】
外部の頂部ばね保持部材についての詳細を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0005】
自動車用固定キャリパブレーキ1は、自動車のスタブ車軸に取外し可能に固定することができ、実質的に側方に位置しかつ少なくともホイール側で完全に閉じた形状を有する2つの板状ハウジング脚(plateau-shaped housing limb)3,4と、これらのハウジング脚3,4を互いに所定の距離で曲げに対して剛態様(flexurally rigid manner)で接続するハウジングブリッジ5とを有する一体的に形成されたハウジング2(一体鋳造(monobloc)のハウジング)を備える。ハウジング脚3,4の閉じた平坦な外形は、特別な美的に完結し(aesthetically closed)かつ調和の取れた外観を与え、これは、公衆に効果的な態様で、特に製造業者のエンブレム等、特に応用デザイン要素に好適である。実質的に完全に閉じたハウジングブリッジ5は、高い曲げ剛性(bending stiffness)を確保し、ハウジング脚3,4の閉じた全体の外観と調和する。技術的効果(強さ)と審美性は最適化された共生関係を形成し、製造工程について以下に詳細に説明する。ハウジングブリッジ5のほとんどが閉じた構造−ブレーキパッド6,7を除去するための開口がない−は、半径方向外側領域においてブレーキパッド6,7及びブレーキディスク(図示しない)を覆って延びる。ピストン13,14は、ハウジング脚3,4のボア8,9内に軸線Aに沿って軸方向に移動可能に収容される。更に、ブレーキパッド6,7が軸方向に移動可能な態様でハウジング2内を案内される。周方向の力は、周方向においてハウジング2に吸収される。各ブレーキパッド6,7は、バックプレート11の中央部12で、実質的に中央に固定された摩擦複合材10を有する。各ブレーキパッド6,7は、ピストン13,14の少なくとも一方により直接作動可能である。バックプレート11は、互いに実質的に反対側に配置され、中央部12からそれぞれ側方に延び、周方向に配向された(oriented)アーム15,16を有し、これらのアーム15,16のそれぞれは、ハウジング2に対して周方向の力を牽引吸収(tractive absorption)するために使用されるアーム部42,43を備える。
【0006】
ブレーキパッド6,7のこの牽引(いわゆる引張(pull))支持を可能とするため、各バックプレート11は、入側(run-in side)が、形状的に適合する態様でかつ半径方向外方領域において、ハウジングブリッジ5の平坦な機械加工された所定の当接面17,18に当接(bear)するように形成され、これは力伝達のためのブレース部材として作用する。更に、ブレーキパッド6,7の各パックプレート11は、半径方向外側でハウジングブリッジ5の一部を半径方向に受入れるため、入側に少なくとも1のフック形状で半径方向外方に配向されたアーム15,16が設けられ、これらのアームは、ハウジングブリッジ5の当接面17,18に平行に、アーム部42が始めに周方向uに延び、この後、アーム部43に半径方向外方で整合する。これにより、引張支持されたブレーキパッド6,7に対する汚染および腐食(放出された塵埃(flung dirt)に対して)から保護された当接が形成される。各アーム15,16は、特に、ハンマーヘッド状の形状を有してもよく、一方のハンマーヘッドの先端は半径方向外方に向く。理想的には、ハウジング2に力を伝達するための理想的な作用点Xは、力の結合(coupling)が形成されないためにブレーキパッド6,7は原則として回転する傾向がなく、したがって、寄生回転作用が発生しないように、摩擦複合材10の面心(area centroid)Yに整合する。換言すると、バックプレート11の幾何学的配置および寸法(dimensions)を通じて、および、ハウジングブリッジ5に対する理想的に考えられる伝達力との関係による摩擦複合材10の幾何学的成形を通じて、回転傾向を最小限にすることが可能である。仮に、幾何学的配置に基づいて、摩擦力の仮想的な作用点Xが面心Yから半径方向所定距離に配置された場合、力の連結(couple of forces)がある程度形成され、したがって、ブレーキパッド6,7の出側端が半径方向外方に移動しようとし、ハウジングブリッジ5に対して追加の当接を形成する。この場合には、周方向uに平行に配置されたアーム15,16の当接面19,20が作用することになる。それぞれバックプレート11の出側に形成されたこの追加のアームは、出側に、ブレーキパッド6,7の規定された追加の当接を形成し、または、移動方向とは独立してブレーキパッド6,7を支える作用をなす。全てのアーム15,16は、周方向uに延びることに追加して、少なくとも半径方向外方に配向された当接面17,18を有する。
【0007】
ガタ付き音を防止するため、ハウジングに強固に配置されかつ少なくとも1つのばねアーム22,23で2つのブレーキパッド6,7に弾力的に常時負荷を作用させる、少なくとも1つのばね部材21が設けられ、上記ブレーキパッド6,7はハウジング2内のそのレセプタクル内で当接するために半径方向外方に押圧される。詳細及び代替例について以下に説明する。
【0008】
固定キャリパブレーキ1の上述の実施形態は、特に、軽量乗用車、追加的な回生制動を行う自動車、または、後車軸の領域に使用することを意図したものであり、これは、これらの用途は、主に、比較的小さな制動トルクおよび周方向の力または制限されたエネルギ変換を必要とするからであり、又は、他の理由により、一側(入り側)のみの周方向の力の吸収で十分な場合である。
【0009】
固定キャリパブレーキ1の他の実施形態は、エネルギ変換の増大および制動トルクの増大、または、作用点における表面圧力の減少を可能とし、ここでは、力の流れが分割され、追加の作用点X1,X2を利用することができる。これにより、力は出側の端部−バックプレート11がある程度の引張力だけを受ける−だけでなく、特に大きな制動トルクに対して、バックプレート11の押圧支持がある程度追加的に可能となる。この場合、各バックプレート11は、準弾性(quasi-elastic)構造を有してもよく、少なくとも高荷重において、追加の作用点X2が摩擦力(周方向の力)をハウジングブリッジ5のフレーム状延長部26,27に伝達するために設けられるように、追加の当接面24,25を出側の各アームに有する。これにより、力の流れは、ある程度分割され、第1の力成分は入側の作用点X1でストップ面29に伝達され、追加の力成分、特に、周方向の力が大きい場合は、出側の作用点X2でストップ面30に伝達することができる。バックプレート11の当接面17,18;24,25とハウジング2の対応するストップ面29,30との間の公差の寸法にしたがって、サポートを次第に変更可能に配置することができる(引張サポート及び追加の押圧サポートを、小さな周方向力から開始して、または、周方向の小さな力を有する引張サポート及び押圧サポートを増大した周方向の力から開始して)。ハウジング2の半径方向に配置されたストップ面29,30,31,32の費用効果の高い機械加工は、単一工具(フライス盤、または、ブローチ削り形状(broaching profile)は、2つの対向するストップ面29,31;30,32が工具の1の送り運動で同時に機械加工可能なように、形成されかつ寸法を定められ、ハウジング2の延長部26,27を介して案内される。
【0010】
原則として、周方向の力をバックプレートによりハウジングブリッジ5の関連する作用方向x1,x2に直接的に伝達することは十分可能である。しかし、種々の理由から、例えば、支持面に配置される比較的薄いステンレスシート材料の高合金鋼シート材である補強材28を介挿することにより、この力伝達を間接的に行うことが有益なこともある。これにより、バックプレート11(シート鋼材料)と固定キャリパのハウジングブリッジ5(特に、ねずみ鋳鉄、鋳鋼、又は、軽合金鋳物等の鋳物材料)との間に接触力及び摩擦状態を影響させること、および、相手方の即座の直接接触を防止することが可能となる。更に、腐食性または汚染に対する感度を好都合に影響させることが可能である。固定キャリパのハウジングがもともと、砂型鋳造工程で、または、重力金型鋳造工程(gravity diecasting process)で形成された、すなわち鋳物であり、工具がハウジング脚3,4間で、固定キャリパが完全に組立てられたときに、ブレーキパッド6,7及びブレーキディスクを収容する介挿スペース(intervening space)内に導入され、機械加工されることにより、ボア8,9がハウジング脚部3,4に形成される場合は、特に好ましい形態に製造される。これに関連して、全てのボア8,9がハウジング脚3,4内で直線状かつ互いに正確に対向して配置され、ボア8,9の機械加工およびピストン13,14の組立が介挿スペースを介して行われるように、ハウジング脚3,4に規定される距離が、ピストン13,14の長さよりも少なくとも僅かに大きく形成されることが有益である。この構造は、固定キャリパの多数の部材をねじ止め構造(screwed configuration)とすることを省略することができる。固定キャリパブレーキ1の液圧で作動する変形例では、他の機械加工工程で、追加の液圧接続ボア33または接続部34が設けられる。これは、特に、1または複数の液圧チャンバ35のための1または複数の通気孔、および、他の異なる液圧チャンバ35との間に1または複数の接続ボア33を設けることに関係する。ハウジング脚3,4が複数のボア8,9を有する場合は、常に、このような接続ボアが液圧チャンバ35間に必要となる。
【0011】
固定キャリパブレーキ1における他の本質的な手段は、対向するハウジング脚の対向する液圧チャンバ35間に少なくとも1の液圧接続部36を設けることである。この液圧接続部36は、内部、すなわちハウジング脚3,4内の圧力チャンバ35から始まり、または、このハウジング脚3,4内の圧力チャンバ間の接続ボア33から始まり、ハウジングブリッジ5を介して、対向するハウジング脚3,4内の液圧チャンバ33a、または、このハウジング脚内の圧力チャンバ33a,33b間の接続ボア33aまで、液圧管路が完全に一体化されるように延設される。しかし、固定キャリパブレーキ1の幾何学的形状により、直接的なポイントからポイントへの接続を実現できない場合は、互いに所定角度で整合する複数のボアセクションから接続ボアを形成することが適切でありかつ必要である。関連するボアセクションを形成する際、少なくとも1の望ましくない工具挿通開口、場合によっては更に望ましくない工具出口開口がハウジングに残るため、ボアの製造及びクリーニング、及び/又は、表面処理後にこれらのボアに閉鎖手段を設けることもできる。好ましい場合は、これらの閉鎖手段はボール形状であり、これらのボールを圧入することにより、これらの工具挿通及び出口開口が液圧的にシールした状態に閉鎖されるように、ボールの径がボアの径よりも僅かに大きい。圧入に代え、または、これに加え、特にボールである閉鎖手段をハウジング材料でコーキングしてもよく、複数の力作用点が周部の回りに規則的に分散され、例えば、圧力かぶり(pressure marks)を介して製品上に視認できるように設けられる。
【0012】
完全に一体化された管路に代え、機械加工費用が少ない、外部に取付けられる通常のパイプ接続部をハウジング脚3,4間に設けることも可能である。例えば、ハウジング脚3,4の一方の圧力チャンバを内部接続ボアで接続し、2つのハウジング脚3,4に、取付けられたパイプ接続部を介して供給する、混合形式も可能である。
【0013】
電気機械ホイールブレーキは原則として全く異なる作動エネルギ(active energy)を用いるが、電線による電気エネルギ供給は上述のように原則としてアナログ的に液圧作動エネルギ供給を行う。
【0014】
説明したように、ブレーキパッド6,7は、半径方向外方の対応する案内及び係留保持が行われるように、半径方向内方から固定キャリパブレーキ1のハウジングブリッジに係合する。半径方向内方で、ブレーキディスクハット(brake disk hat)(ホイールハブ)は本来ブレーキパッド6,7の脱落を防止するのが通常のデザインであり、これにより、構造的に確実に作用する係留保持が提供され、パッド6,7の脱落を防止する。ブレーキパッド6,7の交換は、ブレーキキャリパをスタブ車軸から取外し、ばね部材21を取外した後、ブレーキパッド6,7をハウジング2から取外すことにより行われる。本発明の他の実施形態では、ばね装置は、それぞれ、ブレーキパッド6,7がガイド内で半径方向外方に常時弾性的な態様で引張または押込まれるように形成される。少なくとも1の弾性的に張りを付与されたばね部材21が、ピストン13,14及び/又はハウジング2と、ブレーキパッド6,7との間に設けられ、ブレーキパッド6,7の少なくとも一方又は双方をハウジングブリッジ5の方向に半径方向外方に負荷を作用させる。
【0015】
この関連で、基本的に、ばね装置の複数の代替可能な複数の個別の変形が可能であり:
a) 例えばカップ状ピストン13,14内に係合することにより、ブレーキパッド6,7の一方または双方のバックプレート11に一体化した態様で固定される1又は複数のばね部材21;
b) ハウジング2に一体化される態様で固定される両ブレーキパッド6,7用1又は複数のばね部材21。
【0016】
ブレーキパッドに一体化された実施形態(タイプa))では、カップ状ピストン13,14に係合するための少なくとも1のばね腕39をバックプレート11が備える構造が好適であり、ばね作用は半径方向外方に向けられている。
【0017】
他の好ましい解決策(タイプb))では、ばね部材21は、ブレーキディスクハットの領域でハウジング2の半径方向内側に配置され、ブレーキパッド6,7をそのガイド内で半径方向外方に押圧する。特に、ばね部材21は、解除可能に固定することができる。純粋に例示のためであるが、ばね部材21はハウジング2にねじ止めされる(screw-fastened)。
【0018】
ばね部材21は、スチールワイヤから製造し、または、平坦な鋼板から実質的に機械加工することなく成形することができ、軸方向に配向されたリブ状補強部52を有する、対応する金属板構造を有してもよい。ばね部材21を固定するため、ハウジング2上のねじ又はラッチ装置が好適であり、これにより、例えば、ばね部材21の少なくとも1のロック部37が対応するガイド39上を摺動し、したがって、軸方向の挿入運動により、ハウジング2の少なくとも1の凹部またはアンダーカット38に形状的に適合する状態(form-fittingly)に又は背部に自動的に係合可能で、これにより、軸方向に配向されたばね部材21の組み立てが可能である。組み立ては、ブレーキパッド6,7をハウジング2内に挿入し、この後、ハウジング2が自動車に装着される前に、バックプレート11の開口40を通して軸方向axに平行にばね部材21を挿入ことにより、行われる。
【0019】
ハウジング2は、少なくとも1の開口を有し、好ましくは一体的に組立て、スナップ嵌め、又は、ラッチ締めで取付け、ばね部材21のロック部37を形状的に適合する状態に収容する。一体化されたガイド39に近接して、逆転可能な弾性変形(reversible elastic deformation)の後、ロック部37が、弾性的で、形状的に適合する態様で、アンダーカット部38内にスナップ係合する。これにより、ばね部材21はハウジング2に固定された状態に配置される。
【0020】
ばね部材21は、特に、以下の特徴と共に
図17に示す部材により、追加の機能を有するものであってもよい。ばね部材21は、保持部材46を取付けるためのキャリア(carrier)として形成されているため、少なくとも1の他の部材を支持するために追加的に使用することができる。例えば、保持部材46は突起50,51を有してもよく、これらの突起は、ブレーキライニング磨耗警報装置BBW(警報コンタクト)の1または複数のコンダクタ47,48が、例えばハウジング2の視認可能な前部又はブリッジ面の領域で、ハウジング2における光学的に魅力的でかつ費用効率が高い態様で配置され、磨耗、損傷等を受けずに固定される状態に配置されるように、これらのコンダクタ47,48をハウジング2に弾力的に固定する。更に、本発明による簡単な手段を通して、プラグ接続部のいかなる意図しない引抜きの発生も確実に防止することができる。EP602866B1に記載のような公知の管状部材に対する別個の費用は必要ない。本発明によると、軸方向axに平行に配置されたビーム形状のばね部材21は多数の機能を有する。更に、保持部材46とハウジング2との間の別個の固定手段は必要ない。したがって、本発明は、特に、摩擦複合材10の磨耗状態をモニタするための少なくとも1の別個の警報コンタクトがブレーキディスクの両側で各ホイールブレーキに配置される解決策に対して好適に適合する。少なくとも1の弾性ラッチ装置49を、ばね部材21と保持部材46との間に配置してもよく、このラッチ装置49は保持部材46を取外し可能な態様で固定する作用をなる複数のアームを有することが有益である。この固定は、保持部材46がばね部材21の開口内に係合するような方法で好適に解放される。
【0021】
図3,4,5,13,14に示すように、ブレーキパッド6,7は、上述の特徴の全てを組合わせて備え、又は、それぞれ以下の特徴を組合せ又は個々に備えてもよい。バックプレート11の少なくとも1のアーム部42,43は厚さt1を有し、この厚さt1はバックプレート11の中央部12の厚さt2よりも大きくてもよい。厚肉化部t1を位置決めすることは主引張応力(predominant tensile stresses)の領域におけるそのほぼ全高さHにわたって引張応力作用断面積(tensile stress-carrying cross section)を増大するため、応力集中を減少させた状態でのアーム部42,43に対する引張応力の改善された伝達が可能となる。本発明によると、アーム部42,43のフリーストレスド断面(free stressed cross section)における厚肉化部を形成するための所定量の追加の材料を準備するための問題が、バックプレート11の少なくとも1も冷間成形工程(cold-forming process)により解決される。これにより、このシステムは、EP1217247B1に記載の当接面の領域で部分的にのみ厚肉化するフローティングキャリパ用の公知のハンマーヘッド形状のバックプレートの基本的なコンセプトから十分に相違し、自由端は、主に、この当接部の領域における面圧が減少するように支え部材(bracing element)に拡大された当接面を形成するために、実質的に支え部材(ホルダ)の当接部の領域でその縁部が実質的に厚肉化された形状を有する。
【0022】
固定キャリパブレーキ1のハウジング2の全ての実施形態に対して、スタブ車軸(図示しない)とハウジング2との間の固定は、半径方向に配向された固着手段(ねじ)又は軸方向に配向された固着手段(ねじ)又はこれらの変更例の混合形式により、インターフェースを相互に適用して行うことができ、この固着手段はハウジング2の対応する固着孔に挿通される。しかし、異なる車両への装着状況に応用または適用するために、原則として、ハウジング2が半径方向に配向された固着手段のための固着孔のみを有し、軸方向に配向された固着用インターフェースを有する車両に対して低コストで適応可能とするための「標準」ハウジング等を別個の取付部材(アダプタ)に設け、または、この逆にするようなインターフェースキットを設けることが可能である。複数のハウジングの鋳型を光学的に受入可能な態様で製造するための追加費用は、取付部材41により省かれ、標準化が促進される。これは、機械的生産の合理化との関連で利益をもたらす。
【符号の説明】
【0023】
1 固定キャリパブレーキ
2 ハウジング
3,4 ハウジング脚
5 ハウジングブリッジ
6,7 ブレーキパッド
8,9 ボア
10 摩擦複合材
11 バックプレート
12 中央部
13,14 ピストン
15,16 アーム
17−20 当接面
21 ばね部材
22,23 ばね腕
24,25 当接面
26,27 延長部
28 補強材
29−32 ストップ面
33 接続ボア
34 接続部
35 圧力チャンバ
36 接続部
37 ロック部
38 アンダーカット
39 ガイド
40 開口
41 取付部材
42,43 アーム部
44,45 ばね腕
46 保持部材
47 コンダクタ
48 コンダクタ
49 ラッチ装置
50 突起
51 突起
52 補強材
a 距離
A 軸線
H 高さ/Hm 平均高さ
ax 軸方向
u 周方向
r 半径方向
t1,t2 厚さ
x,x1,x2 作用点
Y 面心
BBW ブレーキライニング磨耗警報装置(警報コンタクト)