特許第6000946号(P6000946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000946
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】肺感染症の治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7036 20060101AFI20160923BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20160923BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20160923BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   A61K31/7036
   A61K9/12
   A61P11/00
   A61P31/04
【請求項の数】27
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-518982(P2013-518982)
(86)(22)【出願日】2011年7月8日
(65)【公表番号】特表2013-530248(P2013-530248A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2011003405
(87)【国際公開番号】WO2012007130
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2014年4月9日
(31)【優先権主張番号】20101576
(32)【優先日】2010年11月8日
(33)【優先権主張国】NO
(31)【優先権主張番号】61/363,330
(32)【優先日】2010年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505371232
【氏名又は名称】クセリア ファーマシューティカルズ エーピーエス
【氏名又は名称原語表記】Xellia Pharmaceuticals ApS
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ノーリン、トマス
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−534763(JP,A)
【文献】 特表2008−540676(JP,A)
【文献】 特表2003−522003(JP,A)
【文献】 特表平09−511254(JP,A)
【文献】 特表2009−510077(JP,A)
【文献】 特表2005−514393(JP,A)
【文献】 特表2002−532430(JP,A)
【文献】 International Journal of Pharmaceutics, 1999, Vol.189, p.215-225
【文献】 新・薬剤学総論(改訂第3版), 1987, p.84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7036
A61K 9/12
A61P 11/00
A61P 31/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺系統における細菌感染症の治療的または予防的治療を必要とする患者の該治療において使用するための、150〜250mg/mlのトブラマイシンを含んでなる組成物において、前記組成物は吸入によって投与されるようになっており、かつ4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する単分散微小液滴の形態のエアロゾルを提供する計量式吸入器により投与されるようになっており、
前記計量式吸入器は、1.8〜3.9μmの範囲の直径を有するオリフィスを通して組成物を移送することによりエアロゾルの形成を提供するスプレーノズルユニットを有する、組成物。
【請求項2】
肺系統における細菌感染症の治療的または予防的治療を必要とする患者の該治療において使用するための、150〜250mg/mlのアミノグリコシドを含んでなる組成物において、前記組成物は吸入によって投与されるようになっており、4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する単分散微小液滴の形態のエアロゾルを提供する計量式吸入器により投与されるようになっており、かつ、塩化ナトリウムをほとんど含まない組成物。
【請求項3】
前記組成物は150〜250mg/mlのトブラマイシンを含んでなる、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、150〜250mg/mlのトブラマイシンに相当する硫酸トブラマイシンを含んでなる、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、180mg/mlのトブラマイシンに相当する硫酸トブラマイシンを含んでなる、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記硫酸トブラマイシンは水中に溶解されており、pHは任意選択でpH6〜8の範囲内にあるように調節される、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記吸入は1〜5分で行なわれるようになっている、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記吸入は、4分未満で行なわれるようになっている、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記吸入は3分未満で行なわれるようになっている、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
前記吸入は2分未満で行なわれるようになっている、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記吸入は1分未満で行なわれるようになっている、請求項に記載の組成物。
【請求項12】
単分散微小液滴は180mg/mlのトブラマイシンを含んでなり、前記吸入は4分未満で行なわれるようになっている、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記吸入は3分未満で行なわれるようになっている、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記吸入は2分未満で行なわれるようになっている、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記吸入は1分未満で行なわれるようになっている、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
組成物は最大で500μlまでの体積を有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
組成物は、投与を必要とする患者への50〜80mgの範囲の総アミノグリコシド量の投与を提供する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
組成物は、60〜70mgのトブラマイシンを含んでなる単位用量の投与であって、5分未満で行われるようになっている投与を提供する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
組成物の前記吸入は、投与を必要とする患者の肺系統への63mgトブラマイシン(180mg/mL×0.35mL)の投与を提供し、該組成物は患者が深くゆっくりとした吸入を7回行なうことによって吸入されるようになっている、請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
細菌感染症はシュードモナス属の細菌により引き起こされる、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
患者は嚢胞性繊維症のような慢性肺疾患に罹患している、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
300〜500mOsmol/kgの浸透圧重量モル濃度を有する、請求項1〜21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
375〜475mOsmol/kgの浸透圧重量モル濃度を有する、請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
組成物は、2〜8MPa(20〜80バール)の範囲の動作圧力を提供する計量式吸入器を使用して投与されるようになっている、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
前記圧力は、3〜4MPa(30〜40バール)の範囲である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記圧力は、3.5MPa(35バール)である、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
組成物は10〜50L/分の流量で投与されるようになっている、請求項1〜26のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肺感染症の治療に関し、特に患者が嚢胞性繊維症に罹患している症例における肺感染症の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌性の肺感染症は重要な問題であり、喘息、嚢胞性繊維症、および慢性閉塞性肺疾患のような慢性肺疾患に罹患している患者にとっては生命にかかわるものとなりうる。
具体的には、嚢胞性繊維症(CF)は、米国ではおよそ30,000人、および欧州ではおよそ40,000人に発症している常染色体劣性遺伝疾患である。CF突然変異は、CF膜コンダクタンス制御因子(CF transmembrane conductance regulator:CFTR)と呼ばれるクロライドチャネルタンパク質をコードする遺伝子に生じる。不完全なCFTR遺伝子についてホモ接合である患者は、一般に、慢性の再発性気管支内感染症(究極的には致命的)および副鼻腔炎に加えて、膵機能不全に起因する吸収不良、汗で失われる塩類の増大、閉塞性肝胆道系疾患、および低受精率に患う。
【0003】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)は、CF肺疾患において最も重要な病原体である。80%を超えるCF患者において最終的にはPaのコロニーが形成されるようになり、緑膿菌による肺の慢性感染の発症は、肺組織へのさらなる損傷および生命にかかわる呼吸不全を引き起こしうる、嚢胞性繊維症の典型的な特徴である。
【0004】
トブラマイシンは、ストレプトマイセス・テネブラリウス(Streptomyces tenebrarius)によって天然生産されるアミノグリコシド系抗生物質である。トブラマイシンは主として、タンパク質合成を中断させて細胞膜の透過性変化、細胞外膜の漸進的破壊および最終的には細胞死をもたらすことにより作用する。トブラマイシンは、その阻害濃度と同等またはわずかに高い濃度において殺菌力を有する。
【0005】
慢性肺疾患の患者の肺感染症を予防および治療するためには、アミノグリコシド系抗生物質のような抗生物質が広く使用される。非経口のアミノグリコシドは極性の高い作用薬であり、気管支内空間には不十分にしか浸透しない。更に、アミノグリコシドの痰への結合(非特許文献1〜3)または痰中の糖タンパク質もしくはDNAへの結合(非特許文献4)は生物活性を低減し、細菌標的に対するアミノグリコシドの低い有効性を克服するためには最小阻止濃度(MIC)の10〜25倍の局所濃度を必要とする。非経口投与を用いて感染部位における適切な薬物濃度を得るためには、血清レベルは腎毒性、前庭毒性および聴器毒性のような重篤な副作用を伴うレベルに接近する(非特許文献5、非特許文献6)。
【0006】
アミノグリコシドのエアロゾル投与は、気管支内空間の感染部位に高濃度の抗生物質を直接送達すると同時に全身バイオアベイラビリティを極小化する、非経口投与の魅力的な代案を提供する。
【0007】
トブラマイシンのようなアミノグリコシドは、ネブライザ、すなわちエネルギーを動力源とするデバイスであって液状アミノグリコシド製剤をミストに変換した後に形成された該ミストをフェースマスクまたはマウントピース(mount piece)を通して肺の中に吸い込むことにより該ミストが患者に投与されるデバイス、を使用してエアロゾル化されることが多い。エアロゾル製剤投与用の一般に用いられているネブライザは、「アトマイザ」とも呼ばれるジェット式ネブライザである。ジェット式ネブライザはチューブによってコンプレッサに接続され、コンプレッサは液状薬剤を通して圧縮空気または圧縮酸素を高速で噴射して、該薬剤を患者に吸入されるべきエアロゾルに変える。
【0008】
ジェット式ネブライザは、パソジェネシス・コーポレイション(PathoGenesis Corporation、現ノバルティス(Novartis))によって開発された市販の吸入用トブラマイシン溶液製剤(TOBI(登録商標);1/4生理食塩水5mL中に60mg/mL)の投与にも使用される。TOBI(登録商標)は1997年に米国食品医薬品局によって6歳より年長のCF患者における1日2回の使用が承認されている。
【0009】
吸入用トブラマイシン溶液の様々な製剤についても先行技術に記載されている。例えば、特許文献1は、4分の1の生理食塩水濃度に希釈された1mlの生理食塩水中に40〜100mgのアミノグリコシドを含んでなる製剤であって5.5〜6.5のpHを有しかつ該溶液がエアロゾル化により5mlの濃縮形態で送達される製剤を開示している。
【0010】
特許文献2は、0.45%(w/v)塩化ナトリウムを含有する水溶液に溶解された75mg/mlのトブラマイシンで構成されるエアロゾル製剤であって、pHが4.0〜5.5であり浸透圧モル濃度が250〜450mOsm/lの範囲にある製剤を開示している。
【0011】
特許文献3は、約100mg/ml〜200mg/mlの抗グラム陰性菌抗生物質を含んでなるエアロゾル製剤を示唆している。トブラマイシン製剤が示唆されているが、トブラマイシンを用いた実験は開示されていない。特許文献4は、約80〜120mg/mlのトブラマイシン、酸性アジュバント、およびごく低濃度の塩化ナトリウムを含んでなるトブラマイシン組成物を開示している。酸性アジュバントは硫酸ナトリウムまたはリン酸ナトリウムであってよい。特許文献4によれば、高濃度のトブラマイシンは組成物の粘性に起因する噴霧化への悪影響を有すると言われているので、活性作用物質の濃度は120mg/mlを超過するべきでない。更に、特許文献4によるトブラマイシン組成物は、ネブライザの使用により患者に投与されることになっている、すなわち有効成分は周期性呼吸により吸入される。
【0012】
特許文献5はとくに、生理学的に許容可能な担体中に60〜200mg/mlのアミノグリコシド系抗生物質を含んでなる4ml未満の溶液の組成物について記載している。特許文献5において報告された実験は、パリ・LCプラス(登録商標)ジェット式ネブライザ(パリ・ボーイN(Pari Boy N)コンプレッサ、ドイツ連邦共和国シュタルンベルク)を使用して120mg/mlのトブラマイシンを含んでなる組成物を投与するために必要な時間が約10分であることを示している。これは市販のTOBI(登録商標)の投与に必要な時間より短いかもしれないが、該所要時間は、患者のコンプライアンスおよび患者ユーザの扱い易さの観点から見れば依然として長すぎる。呼吸作動式吸入デバイスを使用して、特許文献5は既述の市販システムを用いて達成されるよりも迅速な投与時間を報告している。しかしながら、特許文献5に報告された実験で使用された呼吸作動式吸入デバイス(AcroDose(商標))を用いて達成された投与時間は、低いトブラマイシン濃度(60mg/ml)を有する組成物のみを使用して得られている。更に、AcroDose(商標)システムを使用する60mg/ml組成物の投与では、第2のアリコートが同様に投与されなければならない場合もあることが報告されている。第2のアリコートの補充および投与の必要は、患者の扱い易さおよびコンプライアンスの観点から見て不都合を意味する。
【0013】
トブラマイシン溶液は、局所投与、例えば角膜炎の治療における局所投与についても知られている。非特許文献7〜9を参照されたい。
利用可能な投与手段および治療レジメンの周知の短所は、とくに患者のコンプライアンスおよび患者の生活の質に影響する、投与に要する時間である。
【0014】
非特許文献10は、単施設(monocentric)オープンラベル交差試験であって、様々な量のトブラマイシン(TOBI(登録商標))が種々の吸入システム、すなわち良く知られたパリ・LCプラス(登録商標)ネブライザ(パリ・ボーイNコンプレッサ、ドイツ連邦共和国シュタルンベルク)およびパリ・LCプラス(登録商標)ネブライザと組み合わされたAKITA(登録商標)(アクティフアエロ(Activaero)、ドイツ連邦共和国ゲミュンデン)を使用して投与された試験の結果を報告している。該試験は、AKITA(登録商標)システムの使用によって、エアロゾル吸入に必要な時間が約20分から約7〜8分に短縮されることを示した。該試験はさらに、前述の臨床研究の二法により同様の血清中濃度が得られることを示した。
【0015】
AKITA(登録商標)投与デバイスの使用は一般の投与システムと比較して有効量のトブラマイシン投与のための所要時間を短縮するが、該所要時間はそれでも長すぎる。従って、嚢胞性繊維症患者およびトブラマイシンで治療可能な他の肺障害を有する患者のための、より良好なコンプライアンスおよび生活の質をもたらす、より短い投与時間を確実にする治療レジメンがなおも必要とされている。
【0016】
加えて、吸入により患者の肺へアミノグリコシドを投与するための先行技術のシステムおよび方法は、さらなる短所、例えば、製剤の残りがトブラマイシン製剤の投与後にネブライザデバイス内に残存する、または患者の周囲に出て消失するという事実が原因で、有効成分の量が作用部位に達しない、という短所を抱えている。よって経済的かつ環境上の観点から、より少量のトブラマイシン製剤しか無駄にならない投与レジメンも必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5508269号明細書
【特許文献2】米国特許第6987094号明細書
【特許文献3】米国特許出願第2007/0116649号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2007/0071686号明細書
【特許文献5】欧州特許出願第2186508号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】国際嚢胞性繊維症[ムコビシドーシス]協会(International Cystic Fibrosis [Mucoviscidosis] Association)、1995年年次アンケート調査、フランス国パリ、1995年
【非特許文献2】コリンズ、FS(Collins FS)、「嚢胞性繊維症の分子生物学および治療的意義(Cystic fibrosis molecular biology and therapeutic implications)」、サイエンス誌(Science)、1992年、第256巻、p.774−779
【非特許文献3】デイビス、PB(Davis PB)ら、「嚢胞性繊維症(Cystic fibrosis)」、米国呼吸器救命医学会雑誌(Amer J.Respir Crit Care Med)、1996年、第154巻、第5号、p.1229−56
【非特許文献4】コッホ、C(Koch C)、ホイビー、N(Hoiby N)、「嚢胞性繊維症の病原論(Pathogenesis of cystic fibrosis)」、ランセット誌(Lancet)、1993年、第341巻、第8852号、p.1065−1069
【非特許文献5】コンスタン、MW(Konstan MW)、バーガー、M(Berger M)、「嚢胞性繊維症における肺の感染および炎症(Infection and inflammation of the lung in cystic fibrosis)」、米国ニューヨーク州ニューヨーク、デッカー社(Dekker)、1993年
【非特許文献6】フィッツシモンズ、SC(FitzSimmons SC)、「嚢胞性繊維症の疫学の変化(The changing epidemiology of cystic fibrosis)」、小児科学会雑誌(J Pediatr)、1993年、第122巻、p.1−9
【非特許文献7】デイビス(Davis)ら、カナダ眼科学会雑誌(Canad.J Ophtal.)、1978年、第13巻、p.273
【非特許文献8】デイビス(Davis)ら、眼科学文書(Arch Opthalmol)、1978年、第96巻、p.123−125
【非特許文献9】ウンターマン(Unterman)ら、白内障屈折矯正手術学会雑誌(J.Cataract Refract.Surg.)、1988年、第14巻、p.500−504ページ
【非特許文献10】ドップァー(Dopfer)ら、「嚢胞性繊維症患者におけるトブラマイシンの吸入:二法の比較(Inhalation of Tobramycin in patients with cyctic fibrosis:Comparison of two methods)」、生理学薬理学会雑誌(Journal of Physiology and Pharmacology)、2007年、第58巻、補遺5、p.141−154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、アミノグリコシドのための、先行技術の短所を負っていない改善された投与レジメンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、アミノグリコシド系抗生物質、特にトブラマイシンを用いた肺感染症の治療および予防のための新規な投与形態および新規なレジメンを提供する。本発明は、先行技術と比較して、アミノグリコシド系抗生物質の高速かつ効率的な投与を提供する。市場で利用可能な投与レジメン(パリ・LC(登録商標)ネブライザを使用して投与されるTOBI(登録商標))と比較して、本発明による投与レジメンは、わずか数分(例えば1〜5分)でトブラマイシンを効率的に投薬する。
【0021】
本発明者らは、驚くべきことに、高濃度のトブラマイシン溶液を小体積の投与製剤と組み合わせると、効率的かつ改善された投薬レジメンを提供することを見出した。
さらに、本発明による投与形態および投与レジメンは、先行技術の投与レジメンと比較して、肺に投与されるべき2倍の有効成分、例えばトブラマイシン製剤を提供する。本投与レジメンのさらなる利点は、ボイド容量、従って本発明により使用される吸入デバイス内に残存する廃棄量が、先行技術の投与レジメンと比較して無視できるということである。廃棄量という語により、パリ・ネブライザを使用する場合に大気中へ吐出される微小粒子についても了解される。特に劇薬および抗生物質は作用部位にとどまるべきであり、一般環境中に存在すべきではない。例えば、低濃度の抗生物質は抵抗性の微生物を生じさせるおそれがある。
【0022】
本発明のさらに別の利点は、本発明によって得られる平均最大血漿中濃度が先行技術の投与レジメン(TOBI(登録商標)およびパリ・LC(登録商標)ネブライザを使用するトブラマイシン投与レジメン)を用いて得られる平均最大血漿中濃度と比較して低いことである。
【0023】
本発明の1つの態様によれば、肺系統における細菌感染症の治療的または予防的治療を必要とする患者の該治療のための組成物であって、150〜250mg/mlのトブラマイシンを含んでなり、吸入によって投与されるようになっている、組成物が提供される。
【0024】
本発明の別の態様によれば、肺系統における細菌感染症の治療的または予防的治療を必要とする患者の該治療のための組成物であって、肺系統における細菌感染症の治療的または予防的治療を必要とする患者の該治療のための150〜250mg/mlのアミノグリコシドを含んでなり、吸入によって投与されるようになっており、かつ、塩化ナトリウムをほとんど含まない、組成物が提供される。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、前記組成物のエアロゾル化によって形成された4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する単分散微小液滴の吸入によって投与されるようになっている、組成物に関する。
【0026】
本発明のさらなる態様は、肺系統における細菌感染症の治療的または予防的治療を必要とする患者の該治療のための、150〜250mg/mlのアミノグリコシドを含んでなる組成物であって、4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する単分散微小液滴の形態のエアロゾルの吸入により投与されるようになっている組成物に関する。
【0027】
本発明の1つの実施形態によれば、アミノグリコシドはトブラマイシンである。
本発明のさらに別の実施形態によれば、前記組成物は、150〜250mg/mlのトブラマイシンに相当する、例えば180mg/mlのトブラマイシンに相当する、硫酸トブラマイシンを含んでなる。一実施形態によるそのような組成物は吸入により投与可能であり、前記吸入は、4分未満、好ましくは3分未満、より好ましくは2分未満、より好ましくは1分未満で行なわれるようになっている。
【0028】
本発明の別の実施形態によれば、前記組成物は水中に溶解された硫酸トブラマイシンを含んでなり、pHは任意選択でpH6〜8の範囲内にあるように調節される。
本発明のさらに別の実施形態によれば、前記組成物は吸入によって投与されるようになっており、かつ前記吸入は1〜5分で行なわれるようになっている。
【0029】
さらなる実施形態によれば、前記吸入は、4分未満、好ましくは3分未満、好ましくは2分未満、より好ましくは1分未満で行なわれるようになっている。
本発明の別の実施形態によれば、組成物は最大で500μlまでの体積を有する。
【0030】
本発明のさらなる実施形態によれば、本組成物は、投与を必要とする患者への50〜80mgの範囲の総アミノグリコシド量の投与を提供する。
本発明のさらに別の実施形態によれば、本組成物は、60〜70mgのトブラマイシンを含んでなる単位用量の投与であって、5分未満で行なわれるようになっている投与を提供する。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態によれば、組成物の吸入は、投与を必要とする患者の肺系統への63mgのトブラマイシン(180mg/mL×0.35mL)の投与を提供し、該組成物は患者が深くゆっくりとした吸入を7回行なうことによって吸入されるようになっている。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態によれば、組成物は300〜500mOsmol/kg、好ましくは375〜475mOsmol/kgの浸透圧重量モル濃度を有する。
本発明のさらなる実施形態によれば、組成物は、1.8〜3.9μmの範囲の直径を有するオリフィスを通して組成物を移送することにより前記エアロゾルの形成を提供するスプレーノズルユニットを有する計量式吸入器を使用した投与に有用である。
【0033】
本発明による組成物は、2〜8MPa(20〜80バール)、例えば3〜4MPa(30〜40バール)の範囲、好ましくは3.5MPa(35バール)の動作圧力を提供する計量式吸入器を使用して投与されてもよい。
【0034】
本発明による組成物はさらに、10〜50L/分の流量で投与されてもよい。
本発明による組成物は、呼吸作動式吸入または連携式吸入に適した計量式吸入器を使用して投与されてもよい。
【0035】
本発明の組成物はさらに、シュードモナス(Psedomonas)属の細菌により引き起こされた肺系統における感染症の治療に特に有用である。
本発明の組成物はさらに、患者が嚢胞性繊維症のような慢性肺疾患に罹患している、肺系統における感染症の治療において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】Tobrair(登録商標)デバイス(6回作動)を使用してin vitroで送達された、放射性標識された20%(w/v)トブラマイシン溶液の物質収支を示す図。
図2】Tobrair(登録商標)デバイスを使用してin vitroで送達された、放射性標識されたトブラマイシン溶液の物質収支を示す図。
図3】Tobrair(登録商標)デバイスを介してin vitroで送達された、放射性標識された18%(w/v)トブラマイシン溶液の物質収支を示す図。
図4】パリ・LC(登録商標)プラス・ネブライザを使用してin vitroで送達された、放射性標識されたTOBI(登録商標)トブラマイシン溶液の物質収支を示す図
図5】治療レジメンA(60mgのトブラマイシンをTobrair(登録商標)デバイスを使用して送達)および治療レジメンB(300mgのトブラマイシン(TOBI(登録商標))をパリ・LC(登録商標)プラス・デバイスシステムを使用して送達)を実施されている全対象者についての肺浸透プロファイルを示す図。
図6】再生可能な電源パック(1)、使い捨ての薬物コンテナ(標準的なシリンジ)(2)およびスプレーノズルユニットを備えたマウスピース(3)を含んでなる適切な吸入器を示す図。
図7】レイリー分裂(Rayleigh breakup)によって微小液滴(6)を提供するシリコンチップ(5)を有する、スプレーノズルユニット(4)を備えたマウスピースを示す図。
図8】デバイスに挿入可能なシリンジであって、取り外し可能な保護キャップ(7)およびシリンジ(9)の内容物をデバイス内へ移送するためのピストン(8)を有するシリンジを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義:
本明細書中で使用される用語「アミノグリコシド」は、アミノ糖を含んでなる、ストレプトマイセスまたはミクロモノスポラによって天然生産されている抗生物質化合物を包含すると同時に、その合成誘導体および半合成誘導体も包含するように意図されている。よって「アミノグリコシド」は、抗菌化合物、例えばトブラマイシン、ストレプトマイシン、アプラマイシン、パロモマイシン、ソドストレプトマイシン(thodostreptomycin)、ネオマイシン、カナマイシン、アミカシン、アルベカシン、カプレオマイシン、およびネチルミシンを含むように意図されている。
【0038】
トブラマイシン、すなわち(2S,3R,4S,5S,6R)−4−アミノ−2−{[(1S,2S,3R,4S,6R)−4,6−ジアミノ−3−{[2R,3R,5S,6R)−3−アミノ−6−(アミノメチル)−5−ヒドロキシオキサン−2−イル]オキシ}−2−(ヒドロキシメチルシクロヘキシル]オキシ)−6−(ヒドロキシメチル)オキサン−3,5−ジオール)(化学情報検索サービス機関(CAS)により指定された登録番号32986−56−4)は、下式:
【0039】
【化1】
によって表すことができる。
【0040】
「硫酸トブラマイシン」は、化学情報検索サービス機関(CAS)により指定された登録番号49842−07−1の塩である。固体形態のこの塩は、トブラマイシンおよび硫酸を2:5比で含んでなる。
【0041】
「含水硫酸トブラマイシン」という用語は、トブラマイシンおよび硫酸イオンを任意の比率で含んでなる水溶液を包含するように意図されている。
「高濃度のアミノグリコシド溶液」は、1ml当たり100mgを超えるアミノグリコシドを含んでなる任意の溶液、例えば1ml当たり180mgのゲンタマイシンを含んでなる溶液である。トブラマイシンに関して、高濃度溶液は、本明細書中では、任意選択で硫酸トブラマイシンの形態の、150〜250mg/mlのトブラマイシンを含んでなるトブラマイシン溶液を意味する。
【0042】
トブラマイシンを含んでなる医薬製剤は滅菌水中にトブラマイシンまたは硫酸トブラマイシンを溶解することにより得られることも考えられる。そのような製剤のpHは肺送達に適したレベルに調節されうる。
【0043】
本発明による組成物の適切なpHは6〜8の範囲内となりうる。アミノグリコシド製剤のpHは、例えばアミノグリコシドがトブラマイシンである場合、硫酸の追加によって調節可能である。
【0044】
本発明の適切な組成物は、硫酸トブラマイシンおよび水で構成され、硫酸トブラマイシンの量は180mg/mlのトブラマイシンに相当し、かつ前記組成物のpHは6〜8の範囲内にある。
【0045】
本発明の1つの態様によれば、本発明による本組成物は塩化ナトリウムをほとんど含まない。「塩化ナトリウムをほとんど含まない」という用語は、トブラマイシンの溶液(例えば、滅菌水に溶解されたトブラマイシン)に塩化ナトリウムが添加されないことを意味する。したがって、塩化ナトリウムをほとんど含まない組成物中に存在する唯一の塩化ナトリウムは、硫酸トブラマイシンのようなトブラマイシンを溶解するために使用された水に含まれていて存在する塩化ナトリウムに起因する。
【0046】
本明細書中で使用される「治療用量」という用語は、本発明に従って患者に投与された時に、肺内のシュードモナス属細菌のレベルの減少をもたらすか、または肺内のシュードモナス属細菌の増殖速度の低下をもたらす用量であるものと了解されることになっている。
【0047】
平均最大血漿中濃度は、少なくとも100mg/mlのアミノグリコシド、例えば150〜200mg/mlのアミノグリコシド、例えば180mg/mlの本発明によるアミノグリコシドを含んでなる製剤の投与により得られる。この発明による平均最大血漿中濃度は、パリ・LC(登録商標)プラス・ネブライザを用いるTOBI(登録商標)の治療レジメンによって得られるよりも低い。
【0048】
本発明によれば、高濃度のアミノグリコシド溶液、例えば150〜250mg/mlのトブラマイシンを含んでなる組成物は、肺感染症の治療および予防において使用され、前記組成物は4〜7μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する単分散微小液滴を提供するエアロゾル化に適している。したがって「MMAD」は、微小液滴/エアロゾルの空気動力学的質量中央径として理解されることになる。
【0049】
水性計量式吸入器(aMDI)は、患者によって吸入される薬剤の液滴の短時間大量放出の形で、肺に特定量の医薬品を送達するデバイスである。
ネブライザは、周期性呼吸によって肺内へ連続的に吸入されるミストの形態で液体医薬品を投与するために使用されるデバイスである。典型的な投与時間はマスクを通した連続的かつ安定した呼吸で20分間である。先行技術の投与レジメンによってトブラマイシンを投与するために使用される周知のデバイスは、パリ・LC(登録商標)プラス・デバイスシステム(http://www.pari.com/products/nebulizers/product/detail/info/lc_plus_reusable_nebulizer.html)である。ネブライザを使用して医薬を投与する場合、患者はデバイスによって形成されたエアロゾルを周期性呼吸によって吸入する。これは、吸入が吸入器の作動と連携する本発明に適した計量式吸入器とは対照的である。したがって、投与はデバイスの作動毎に1回の吸入を含んでなる。デバイスの作動は当分野で既知の様々な手段により引き起こされうる。例えば、手動であってもよいし「呼吸センサ」によるものでもよい。
【0050】
計量式吸入器が呼吸センサの使用およびしたがって吸入のみによって作動せしめられる場合、組成物は「呼吸作動式吸入」によって投与される。
患者が1回の吸入を行なうと同時に計量式吸入器が手動で作動せしめられる場合、組成物は「連携式吸入」によって投与される。
【0051】
aMDIを用いた1回の吸入についての典型的な投与時間は数秒である。この操作が所望の用量を得るために数回繰り返されてもよい。
本発明で使用される最も好ましいaMDIは、およそ5〜5.7μm(GSD<1.6)の空気動力学的質量中央径(MMAD)を備えた単分散粒子を生産する。
【0052】
当業者には、肺への浸透が主として粒度および吸入流量に依存するという事実はよく知られている。肺への浸透は1〜5μmの範囲にわたり粒度(MMAD)の減少とともに増大し、かつ大きい粒子ほど口腔咽頭および太い気道において一般に衝突するので、1μm未満の粒子が一般に吐出されている。本発明の1つの態様によれば、組成物は、前記組成物のエアロゾル化によって形成された4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する単分散微小液滴の、10〜50L/分の流量を提供する適切な計量式吸入器を使用した吸入によって投与されるようになっている。計量式吸入器は、流量を制御するための絞り排気管を含んでなることもできる。
【0053】
いくつかの計量式吸入器が当業者に良く知られている。計量式吸入器は通常、特定用量の医薬製剤の肺への投与および送達のために設計されており、患者が操作すると同時にエアロゾル化された製剤の短時間大量放出を提供し、こうして該製剤が患者によって吸入される。簡潔に述べると、計量式吸入器は通常、下記構成要素すなわち:
i)組成物が放出されるのを可能にする基端側開口部を有する、エアロゾル化用の製剤を含んでなるコンテナ;
ii)計量デバイスであって、該デバイスの操作時に、例えば軸方向可動ピストンに力を加えることにより、送達されるべき所定量の製剤の送達を提供する計量デバイス;
iii)組成物の計量および送達を可能にする手段で構成されている電源パック;ならびに
iv)エアロゾルの形成を提供するスプレーノズルユニット(SNU)を備えたマウスピースであって、該マウスピースを通してエアロゾル化された薬剤が該デバイスを操作している患者によって吸入され、その結果該患者の肺の中へ組成物の前記エアロゾルの送達がもたらされる、マウスピース;
を含んでなる。
【0054】
組成物の計量および送達を可能にするための手段は、例えば、患者に投与されるべき所定量の薬剤の移送および送達を提供する計量式吸入器デバイスの外側で利用可能な投薬ノブを備え、該投薬ノブからピストンへと伝えられた力の集積が薬剤コンテナの内部圧力を作出してもよい。そのような圧力は、当業者に周知の任意の動力源、例えば電気力(バッテリー)、機械力(筋肉)、物理力(噴射剤)によって達成されうる。
【0055】
4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する高濃度アミノグリコシド製剤のエアロゾルを提供する任意の計量式吸入器が、本発明によって使用されうる。したがって、本発明の組成物を投与するのに有用な適切な計量式吸入器は、該計量式吸入器が4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する高濃度アミノグリコシド製剤のエアロゾルを形成するSNUを含んでなる限り、組成物の連携式吸入に適した計量式吸入器であっても、呼吸作動式吸入に適した計量式吸入器であってもよく、前記計量式吸入器は、吸入および吸入器の作動と同時にコンテナからSNUを通した本発明の組成物の移送を確実にする所望の圧力を提供する手段を含んでなる。
【0056】
本発明によれば、「微小液滴」または「エアロゾル」は、高濃度アミノグリコシド溶液のような医薬製剤を含んでなる、エアロゾル化された液体粒子である。
「GSD」は幾何標準偏差である。
【0057】
本明細書中で使用され、かつ実施例において以下に言及される「Tobrair(登録商標)デバイス」は、高濃度のトブラマイシンを含んでなる組成物の4〜7μmのMMADを有する単分散微小液滴を生じる、水性計量式吸入器(MDI)である。
【0058】
高濃度アミノグリコシド溶液、例えば150〜250mg/mlのトブラマイシン溶液を、例えば硫酸トブラマイシンの形態で含んでなる製剤の投与に有用な適切な計量式吸入器は、国際公開公報第2011/043712号パンフレットに記載されており、同文献は参照により本願に援用される。
【0059】
スプレーノズルユニット(SNU)は、本発明によって使用される計量式吸入器のマウスピースに設けられて、吸入時(呼吸作動式吸入または連携式吸入)および患者によるデバイス操作時に単分散に近い微小液滴の作出を可能にする。より具体的には、例えば投薬ノブに力を加えて電源パックの作動を引き起こしたとき、かつデバイスを操作する患者の口内にマウスピースを設置した状態での連携呼吸により、組成物はコンテナからマウスピースへと移送されて強制的にSNUを通過せしめられ、その結果吸入されるべき4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有するエアロゾルの形成がもたらされる。SNUは、前記エアロゾルの形成を提供する複数の通過オリフィスを含んでなる。
【0060】
4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有し、かつ高濃度のアミノグリコシド溶液を含んでなるエアロゾルを提供するための計量式吸入器で使用される適切なスプレーノズルユニット(SNU)は、国際公開公報第02/18058号パンフレットに記載されており、同文献は参照により本願に援用される。
【0061】
図6では、水性計量式吸入器は、本発明の投与レジメンに従って使用されうることが示されている。前記デバイスは、再生可能な電源パック(3)、シリンジホルダ、使い捨ての薬物コンテナ(標準的なシリンジ(2))、およびスプレーノズルユニット(SNU)を備えたマウスピース(1)を含んでなる。
【0062】
本発明による組成物の投与に適したaMDIは、高粘性液体の平均径4〜7ミクロンの個別かつ均一なエアロゾル微小液滴を形成することができる。国際公開公報第95/13860号パンフレットには、典型的には5nm〜50μmの細孔径を有する細孔を備えた薄膜フィルタが記載されている。4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有するエアロゾルを提供する大きさの細孔を有している、該文献中に開示される薄膜は、本発明による高濃度のトブラマイシン組成物を投与するために、例えば国際公開公報第2011/043712号パンフレットに開示された計量式吸入器のような計量式吸入器に設置されるスプレーノズルユニットにおいて使用されることが好ましい。
【0063】
本発明の好ましい実施形態によれば、計量式吸入器によって形成されたエアロゾルは、ウィシンク(Wissink)およびバン・ライン(van Rijn)、「呼吸器のドラッグデリバリー 8(Respiratory Drug Delivery 8)」、2002年(参照により本願に組込まれる)に記載されているようなスプレーノズルユニットを使用して提供される。同文献に開示された高性能マイクロノズルの使用は、粘着性から運動性へと転ずる噴流特性を備えて、0.5MPa(5バール)未満の経ノズル圧において<10μmオリフィスで完全なレイリー分裂を提供する。本発明については、組成物が150〜250mg/mlのアミノグリコシドを含んでなるとき、計量式吸入器は、2〜8MPa(20〜80バール)、好ましくは3〜4MPa(30〜40バール)の動作圧力を提供することが好ましい。
【0064】
本発明によれば、SNUは、4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有する高濃度アミノグリコシド溶液製剤のエアロゾル形成のための手段を備えている(上述のウィシンク(Wissink)および(van Rijn)(2008)を参照)。1つの実施形態によれば、SNUは、シリコンチップ(メッシュ)(4)および医療グレードのプラスチックの成型プラスチック部品に分けられる(図7参照)。
【0065】
吸入されるべきエアロゾル化用製剤を含んでなるコンテナは、1つの実施形態によれば1mlシリンジのようなシリンジ(10)であってよい。可動ピストン(8)、および計量式吸入器内へのシリンジの挿入前に取り外される取り外し可能な保護キャップ(7)、を有する適切な1mlシリンジは図8に示されている。
【0066】
本発明の投与レジメンに適した計量式吸入器は投薬ノブを含んでなる場合がある。患者が計量式吸入器の投薬ノブに圧力をかけると、該デバイスは作動せしめられ、ピストン(8)は所定距離を移動してシリンジからSNUを通して適切な投与量の移送を提供することになる。
【0067】
デバイスが作動せしめられると、次いでピストン(8)は一定距離(およそ50μlに相当)を移動し、液体はシリコンチップ(メッシュ)の穴部を通して押し出されることにより微小液滴を作出し、該液滴はその後吸入される。これは、合計吸入用量を送達するのに必要な回数だけ繰り返すことができる。
【0068】
例えば、ピストンは、移動せしめられると、高濃度アミノグリコシド溶液を含んでなる所定量の製剤を移送せしめかつSNUのオリフィスを通して押し出させ、4〜7μmの空気動力学的質量中央径を有するエアロゾルの形成を提供する。したがって前記エアロゾルは、高濃度アミノグリコシド溶液を含んでなる製剤を、シリコンチップ(メッシュ)(5)のようなSNUの穴部(オリフィス)に通して押し出すことにより、その後吸入される微小液滴が作出されて、形成される(図7)。これは、処方された用量を送達するのに必要な回数だけ繰り返すことができる。
【0069】
当業者であれば、本発明に従って1組の少量のエアロゾルを形成するために、SNUの例えばシリコンプレートまたは薄膜に設けられた1組の均一な大きさの穴部を通して粘稠溶液を移送することができるように、適切な圧力が加えられなければならないことを了解するであろう。本発明に従って使用される計量式吸入器は、2〜8MPa(20〜80バール)の範囲の動作圧力を提供することができる。好ましくは、180mg/mlの硫酸トブラマイシンを含んでなる組成物が吸入されることになっている場合、本発明に従って使用される計量式吸入器は、3〜4MPa(30〜40バール)の範囲、好ましくは3.5MPa(35バール)の動作圧力を提供することができる。
【0070】
本発明による組成物は、aMDIのSNUを通して押し出されると、穴部の直径のおよそ1.8倍の直径を備えた個別の微小液滴として穴部を出ることになる。したがって、本発明に従って組成物を通して移送せしめるべきSNUに存在するオリフィスの適切な直径は、1.8〜3.9μmの範囲にありうる。その後、マウスピースを通した呼吸が始動されると微小液滴は肺へと導かれ、微小液滴の大規模な合体は回避される。
【0071】
適切なノズルを含んでなる上記言及の適切な吸入器はさらに、高いせん断速度<50 1/Sで最大5mPaSの粘性を有する組成物のエアロゾルを形成することもできるであろう。
【0072】
適切な吸入器は10〜50L/分の流量を提供するであろう。
本発明は、先行技術を上回るいくつかの利点を有している。投与時間は、利用可能な普及型の投与システム(TOBI(登録商標)/パリ・LC(登録商標)プラス・ネブライザ)を使用した20〜30分に対して、5分未満である。更に、合計では低量のトブラマイシンを投与しながらも、本発明は肺へのより大量のトブラマイシンの送達を提供する(表12および表13を参照)。加えて、本発明の方法は、前記の普及型の投与システムと比較して、より低い血漿中トブラマイシン濃度をもたらす(表19を参照)。非常に低量の有効成分の投与が、なおも肺内に大量の有効成分をもたらすということは、驚くべきことである。本発明の方法が、たとえ肺内に大量の有効成分を提供するとしてもなお、普及型の投与レジメンを適用して得られる血漿中濃度と比較して低い有効成分の血漿中濃度をもたらすことは、更に驚異的である(表19を参照)。本発明の方法によって得られる低い血漿中濃度はさらに、トブラマイシンの血漿中濃度が望ましくない副作用と関連することから、先行技術よりも優れた改善点である。
【0073】
本発明の1つの態様によれば、水1mlあたり180mgのトブラマイシンを含んでなる薬剤溶液が使用される。これは、市販製品(TOBI(登録商標))中の溶液の濃度のおよそ3倍に相当する。60mg/mLのトブラマイシンは、より高い総用量レベルでも健常ボランティアにおいて忍容されることが知られているが;上記の濃度上昇は、局所刺激のリスクを潜在的に増大させるとは考えられても、総用量レベルは低いので本研究において全身曝露または全身性副作用の主要な動因になるとは考えられない。本発明に関して実施された臨床研究の結果は、本発明の治療レジメンに供された時にごく少数の局所刺激の事例があることを明らかにした。
【実施例】
【0074】
ここで本発明について、以降の実験データに照らして説明する。当然ながら、実施例は本発明の範囲について限定するものと解釈されるべきではない。
材料
以降の実施例において、in vitroの実験およびin vivoの臨床研究が提示され、普及型のネブライザ(パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザ)を使用して送達された普及型のトブラマイシン吸入溶液(TOBI(登録商標))が、本発明により4〜7μmの範囲の空気動力学的質量中央径を有するエアロゾルを提供するTobrair(登録商標)デバイスを使用して送達されたトブラマイシン吸入溶液と比較されている。
【0075】
前記被験トブラマイシン溶液は以下の特徴を有する:
【0076】
【表1】
パリ・ネブライザ中で5mLを使用した300mgトブラマイシンによる標準的治療は、用量のおよそ10%しか肺に到達しないという結果を生じることになる。Tobrair(登録商標)デバイスについては、これは標識された用量の20〜60%である。
【0077】
Tobrair(登録商標)デバイスのような適切なaMDIによって生じた微小液滴は、4〜7μmの範囲の空気動力学的質量中央径を有する。
以下の実施例で使用されるトブラマイシン溶液は、300mlの水に81.5gの硫酸トブラマイシンを溶解することにより調製された。よってin vivoの試験で患者に投与される溶液は、約63mgのトブラマイシン(0.35mlの180mg/mlトブラマイシン)の投与に相当する。
【0078】
実施例1:トブラマイシンのin vitro送達
臨床研究に先立ち、本発明によるトブラマイシンの溶液を放射性標識することが可能であること、および送達される放射活性のレベルがボランティアにとって安全かつシンチグラフィ撮像に十分であることを実証するために、in vitroの実験が行なわれた。更に、該実験は、使用されるネブライザシステムの様々な部品に残るトブラマイシン溶液の量に関する情報も提供した。
【0079】
次の溶液すなわち:
18%(w/v)トブラマイシン溶液、クセリア社(Xellia)、BN:80000991および80000992
20%(w/v)トブラマイシン溶液、クセリア社、BN:80000981
TOBI(登録商標)300mg/5mLトブラマイシン溶液、ノバルティス社(Novartis)、BN:X003812
過テクネチウム酸ナトリウム溶液(99mTc−ジェネレータから溶出)、IBA、BN:A−AJY−05およびA−ALL−13
99mTc−DTPAキット、コヴィデン(Coviden)、BN:292786、290187および294814
がin vitroの実験において使用された。
【0080】
20(w/v)トブラマイシン溶液の放射性標識
臨床研究計画(実施例2)に基づき、Tobrair(登録商標)デバイスは、ボランティアに60mgのトブラマイシンを、すなわち20%(w/v)溶液×0.3mLを吸入6回にわたって送達するように企図された。したがって、20%(w/v)トブラマイシン溶液はTobrair(登録商標)デバイスを使用する試験のために放射性標識された。99mTc(過テクネチウム酸ナトリウム)溶液はテクネチウムジェネレータから溶出され、必要な体積がDTPAキットに添加されて完全に混合された。得られた99mTc−DTPA溶液の放射活性が測定され、バイアルは密閉されて使用まで鉛製ポットに保管された。15mLの20%(w/v)トブラマイシン溶液は0.20μmフィルタを通してろ過され、清浄なシンチレーションバイアルに移された。その後、642MBqの放射活性を含有する99mTc−DTPA溶液ほぼ0.15mLが該薬物溶液に添加され、磁気撹拌で完全に混合された。トブラマイシン溶液の色の変化または薬物沈澱が無いことが、放射性標識後に観察され、該放射性標識の該薬物製品との適合性が示された。得られたトブラマイシン溶液中の放射活性レベルは42.8MBq/mLであり、0.3mL用量あたり12.8MBqの放射活性が得られた。最終薬物溶液中の99mTc−DTPA溶液の総体積はおよそ1.0%であったが、これは最終薬物溶液の特性(例えば粘性)にいかなる重要な影響も及ぼさず、従ってデバイス性能に影響を与えるものではない。
【0081】
Tobrair(登録商標)デバイスを使用する20%(w/v)トブラマイシンのin vitro送達
Tobrair(登録商標)デバイスによるin vitroトブラマイシン送達について、コプレイ(Copley)のフローポンプ(型番:HCP2)を使用し、連続流量45L/分(n=3)として特徴解析がなされた。
【0082】
試験に先立ち、ほぼ0.5mL(0.3mLに加えて十分な過剰量)の放射性標識された20%(w/v)トブラマイシン溶液が、メドスプレイ(Medspray)提供の説明書(Tobrair試験デバイスの使用説明書、SHLグループ、2010年1月11日、2010年3月2日および2010年4月6日)に従って薬物カートリッジ(1mLガラスシリンジ)に装荷され、放射活性が測定された。その後、薬物カートリッジ(シリンジ)はTobrair(登録商標)デバイスへ組み立てられた。プライミング後、スプレーノズルユニット(SNU)内の残存製剤はティッシュペーパーを使用して取り除かれた。デバイスの総重量(薬物カートリッジを加えたもの)は、該デバイスを吸入フィルタ(用量収集用)および次にコプレイフローポンプに接続する前に測定された。6回作動の後、重量減少(送達量)を計算するためにデバイスの重量が再測定された。その後、デバイスは分解され、各部分、すなわちノズルおよびマウスピース(SNU)、シリンジ、シリンジホルダ、フィルタおよびフィルタホルダを加えた電源パックの放射活性が、放射性標識の物質収支(放射活性分布)を計算するためにガンマカメラを使用して測定された
【0083】
表1に列挙された結果は、6回作動の後にデバイスから送達される薬物溶液の質量が正確でありかつ非標識製剤に非常に近いことを示している。この結果は、内標準法を用いる20%(w/v)トブラマイシン溶液の放射性標識が薬物製剤/デバイスの性能を変化させなかったことを示している。シリンジから送達された放射活性は、16.7〜20.6MBqであった。しかしながら、これらの値は単に情報を得るために得られたものであり、この数字はプライミング中に失われた放射活性を含むのでボランティアに送達される実際の放射活性はこの値未満になるであろう。
【0084】
【表2】
Tobrair(登録商標)デバイスからの送達後の放射性標識された20%(w/v)トブラマイシン溶液の放射活性分布は、表2に示された。3つの試験の間で比較的高い変動が観察されたが、これは、最初のシリンジへの製剤の装荷を正確にコントロールすることができなかったため、そのような装荷が変動的であることに起因すると思われた。送達される薬物(および放射性標識)用量はデバイスによってコントロールされるので、薬物装荷(従って総放射活性)の正確さは(装荷が6回の作動に十分である限り)重要ではない。しかしながら、最初の薬物装荷における変動は、投薬後にシリンジに残される製剤の様々な残存レベルをもたらす可能性があり、これは明らかに全物質収支の結果に影響するであろう。したがって、送達された用量の分布およびSNU、デバイスなどに残される製剤を反映するためには、シリンジを除外した物質収支がより正確であろう。そのような分布は表3および図1に示されており、表3および図1は比較的高い用量送達効率(54〜72%)がTobrair(登録商標)デバイスを使用して達成されうることを示している。6回の作動後にシリンジから送達された薬物および送達された放射活性の割合(%)に基づくと(キャピンテック(CapinTec)の型番:CRC−15Rを使用して測定)、該薬物溶液が対象時間に42.8MBq/mLの放射活性レベルを有する場合、Tobrair(登録商標)デバイスから送達された放射活性は2.4〜4.1MBqである(表3)。これらの放射活性レベルでは、in vitroのガンマカメラ撮像に十分であると思われた。しかしながら、より良好なシンチグラフィ像のためにより高い放射活性レベルが必要な場合、最初の放射活性レベルが適宜調節されてもよい。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
18%(w/v)トブラマイシン溶液の放射性標識
修正された製剤/デバイスの組み合わせが臨床研究で使用するために選択された。これは、吸入7回にわたる18%(w/v)溶液×0.35mLの送達を必要とした。したがって、Tobrair(登録商標)デバイスによる99mTc−DTPA放射性標識トブラマイシン溶液のin vitro送達が18%(w/v)トブラマイシン溶液を使用して反復された。放射性標識の方法は先述とほとんど同一であった。簡潔に述べると、99mTc溶液が溶出され、DTPAキットを使用して99mTc−DTPA溶液が調製された。計算された体積の99mTc−DTPA溶液(482MBqの放射活性を含有しているおよそ0.15mL)が、10mLの予めろ過処理されたクセリア社提供の18%(w/v)トブラマイシン溶液が入ったバイアルに添加され、磁気撹拌を用いて完全に混合された。得られたトブラマイシン溶液中の放射活性レベルは、0.35mL用量あたり16.9MBqの放射活性を与える48.2MBq/mLであった。放射性標識後、放射性標識された18%(w/v)トブラマイシン溶液の色の変化または薬物沈澱は観察されず、該放射性標識の薬物産物との適合性が示された。
【0087】
Tobrair(登録商標)デバイスを使用する18%(w/v)トブラマイシンのin vitro送達
試験に先立ち、ほぼ0.7mLの放射性標識された18%(w/v)トブラマイシン溶液が、既述のような薬物カートリッジに装荷された。プライミング後、SNUは残存製剤を除去するために水ですすがれ、残留水は1枚のペーパータオル上で穏やかにタッピングすることにより除去された。投薬送達のための試験条件は、20%(w/v)トブラマイシン溶液について上述されたものと同一であった。7回の作動後に送達された質量が決定され、放射性標識された溶液の物質収支(すなわち放射活性分布)も計算された。
【0088】
7回の作動後にデバイスから送達された薬物溶液の質量はほぼ0.45mLであり、予想された0.35mLより28%多いことが分かった(表4)。この比較的高い送達質量は、SNUに残った残存生理食塩水(デバイスアセンブリにおいて使用)および水(すすぎに使用)の寄与によると考えられた。この実験では、臨床研究のために計画された同じ手順を再現するために;マウスピースは水ですすがれ、作動前にはティッシュペーパーで先述のように拭われるのではなくタッピングで乾燥せしめられた。この手順を用いると、少量の水がSNUにまだ残っており、吸入の間に蒸発してみかけ上大きな重量減少を引き起こしているのであろう。
【0089】
【表5】
シリンジから送達された放射活性は26.17〜36.02MBqである。しかしながら、以前に議論されたように、これらの値はプライミングの間に送達された放射活性を含み、従ってボランティアに送達される実際の放射活性は表わしていない。Tobrair(登録商標)デバイスによる放射性標識された18%(w/)トブラマイシン溶液の送達の後、各部分における放射活性の分布がガンマカメラを使用して測定された。シリンジ内への最初の薬物装荷の変動が物質収支の結果に影響する可能性があるので、シリンジを除外した物質収支が計算されて表5および図2に示された。試験3aおよび3bの結果は、Tobrair(登録商標)デバイスを使用して比較的高い用量送達効率(77.8および86.1%)が達成可能されうることを示している。しかしながら、試験3cからは比較的低い放射活性が送達され、対照的に、シリンジホルダおよび電源パックに予想外の比較的高い放射活性が観察された。この問題についての当初の見解は作動中の製剤の漏出に起因するものであった。しかしながら、そのような漏出であれば、漏出した製剤は吸入フィルタに送達されるよりもむしろまだデバイスに残ると思われるのでより低い質量送達(重量減少)をもたらすであろうが、実際には試験3cから送達された全質量は他の2つの試験との差がない(表4)。したがって、デバイス作動中の製剤の漏出は除外された。別の可能性は、デバイスの分解または放射活性測定の際の試料の交差汚染である。これは、実験3cの送達された用量質量が3aおよび3bと同様であったにもかかわらず比較的低い放射活性を示した、表5の実験3cの送達された放射活性の結果により確認された。しかしながら、3つの試験すべての結果は、この放射活性レベルすなわち48.2MBq/mLにおいて、送達される放射活性が所要範囲にあることを示している。
【0090】
【表6】
加えて、実験3bおよび3cにおいて短い作動時間が観察された。始動から停止クリックまでの時は3.5秒未満であり、これは推奨される作動時間であった。停止クリックは作動のほとんど直後に生じた。シリンジチップとSNUキャビティとの間の緩い嵌合またはSNUのシリコンチップの損傷は恐らくは作動時間に影響し、該作動時間は1.5秒以下であることが考えられる。この問題は、以下にさらに議論されることになる。
【0091】
Tobrair(登録商標)デバイスを使用して送達された後の18%(w/v)トブラマイシンの質量減量
Tobrair(登録商標)デバイスを使用した18%(w/v)トブラマイシンの送達についてのin vitro試験の際、7回の作動後に該デバイスから送達される薬物溶液の質量が予想される0.35mLより28%高いことが分かった。この比較的高い質量送達は、プライミングおよびSNUのルアーキャビティ内に閉じ込められた空気の除去の後に薬物製剤をすすぐために使用された水および生理食塩水の同時蒸発に起因すると考えられた。この仮説を裏付けるために、先の実験で使用された減衰した放射性標識18%(w/v)トブラマイシン溶液を使用して、質量減少試験が行なわれた。デバイスは上述されたのと同じ方法を使用してプライミングされて乾燥せしめられた。その後、デバイスはコプレイのフローポンプに接続され、該ポンプは、デバイスの実際の作動を伴わずに45L/分で140秒間(7回の作動に必要な合計時間と同じ)操作された。残留水の蒸発を計算するため、この処理の前後にデバイスの重量が測定された。その後、デバイスは正規の手順のように7回作動され、さらなる重量減少が測定された。
【0092】
【表7】
表6に列挙された結果は、SNU内の残留水が総重量減少に影響すること、および、エアフローポンプを45L/分で140秒間運転することにより残留水を蒸発させた後は、送達された製剤からの実際の重量減少は0.37gであることを示した。1.115g/mLの製剤密度を考慮すると、平均送達体積は必要とされる用量をわずか4.6%しか下回らない0.334mLのはずである。この実験は、7回の作動で、Tobrair 4デバイスは臨床研究のための18%(w/v)トブラマイシン溶液の正確な用量を実際に送達することができることを立証している。
【0093】
3回の送達実験104418−04a、4bおよび4cの全体にわたって作動時間が観察された。実験4bおよび4cにおける7回の作動の各々はおよそ3.5秒であることが分かった。しかしながら実験4aでは、およそ1秒の短い作動時間を有する2回の作動(作動6および7)が存在していた。
【0094】
Tobrair(登録商標)デバイスを使用する放射性標識された18%(w/v)トブラマイシンのin vitro送達
Tobrair(登録商標)デバイスによる放射性標識された18%(w/v)トブラマイシン溶液のin vitro送達は、送達用量が適切であることを確認するために、また7回の作動の各々がおよそ3.5秒でエアロゾル化されることを実証するために、再び行われた。
【0095】
10mLの予めろ過処理された18%(w/v)トブラマイシン溶液は、0.15mL(薬物溶液の全体積の1.5%)の99mTc−DTPAキットを用いて放射性標識された。18%(w/v)トブラマイシン溶液の放射活性は対象時間において0.35mLあたり16.24MBqを与える46.4MBq/mLであった。この溶液は試験のために5つのシリンジ(公称の充填容積は0.7mLである)に充填された。シリンジ5bおよび5dは組み立てられたがプライミング中に短い作動時間が観察されたため試験は行われなかった。送達用量および物質収支の試験は、SNU中のあらゆる残留生理食塩水および水を除去するために、デバイス作動前に140秒の遅延時間が導入されて行われた。表7の結果は、送達された用量が7回の作動で名目上の用量すなわち0.35mLの10%の範囲内の18%(w/v)トブラマイシン溶液であることを実証した。表8に列挙された結果は、送達された放射活性が10〜20MBqの範囲内にあることを立証した。放射性標識された溶液の物質収支(表8および図4)は、Tobrair(登録商標)デバイスを使用して高い用量送達効率(68%〜84%)が達成されうることを実証した。
【0096】
コプレイ(Copley)の流量調節計(型番:TPK)のタイマーに基づけば、これら3つの実験からの7回の作動時間はすべて3秒以上であった。汚染または漏出はガンマカメラ像からは検知されなかった(図3)。
【0097】
【表8】
【0098】
【表9】
【0099】
【表10】
デバイスは、「Tobrair試験デバイス使用説明書(Instructions for Use of Tobrair test device)」の最新版に従ってプライミングされた。デバイスのプライミング中、シリンジはSNUキャビティに確実に嵌合されたが、不適当な作動時間(すなわち1秒以下)に関する問題は排除されないことが見出され、デバイスアセンブリに使用されたSNUまたはシリンジのうち少なくともいずれかに依存することが分かった。メドスプレイ(Medspray)との討議の後、最初のプライミングが用量設定ノブを保持するためにスパナを使用して実施された後に、作動が行われるべきであると考えられた。これは、SNU内部のシリコンチップを破損するおそれのある高圧下で最初の用量が放出されないことを確実にするためである。更に、制御された動力を備えたシリンジ押し込み用具が提供されており、該用具はSNUキャビティ内にシリンジを取り付けるために使用されるはずである。
【0100】
パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザを使用するトブラマイシン(TOBI(登録商標))のin vitro送達
TOBI(登録商標)溶液の放射性標識
使用された先行技術のトブラマイシン溶液および普及型の送達システムとの比較のために、パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザを使用して送達されるべきTOBI(登録商標)溶液(300mg/5mLのトブラマイシン)、個々のTOBI(登録商標)ユニットが放射性標識された。99mTc溶液が溶出され、DTPAキットを使用して99mTc−DTPA溶液が調製された。得られた99mTc−DTPA溶液の放射活性が測定され、バイアルは密閉されて使用まで鉛製ポットに保管された。TOBI(登録商標)溶液のアンプルの全内容物(〜5mL)が清浄なシンチレーションバイアルへ移され、計算された体積の99mTc−DTPA溶液(18.1MBq/5mLを含有するおよそ0.07mL)が該薬物溶液に添加され、磁気撹拌を用いて完全に混合された。放射性標識後、トブラマイシン溶液の色の変化または薬物沈澱は観察されず、TOBI(登録商標)溶液を用いた放射性標識の適合性が示された。得られた薬物溶液の平均放射活性レベルは単位用量あたり18.1MBqであり、最終薬物溶液中の99mTc−DTPA溶液の全体積はおよそ1.4%4であったが、これは最終薬物溶液の特性にいかなる重要な影響も及ぼさないと思われ、従ってデバイス性能に影響しないと思われる。
【0101】
パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザを使用するTOBI(登録商標)トブラマイシンの送達
パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザによるin vitroのトブラマイシン送達は、標準的な周期性呼吸モードを備えたコプレイ(Copley)BRS1000呼吸シミュレータを使用して特徴解析された(n=3):
・一回呼吸量: 500mL
・頻度: 毎分15回呼吸(15bpm)
・吸入/呼息比: 1:1
試験に先立ち、放射性標識されたTOBI(登録商標)溶液はシンチレーションバイアルからパリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザ内の薬物チャンバの中へ移された。放射性標識されたTOBI(登録商標)溶液の重量が測定され、次に放射活性が計算された(表10)。その後、ネブライザは呼息フィルタ(パリ・フィルタ/バルブセット)とともに組み立てられてから、吸入フィルタ(用量収集用)を介してコプレイBRS1000呼吸シミュレータに接続された。その後、該デバイスはパリ・ターボボーイN(TurboBOY N)コンプレッサを使用して乾固するまで運転された。投薬の後、送達された質量を計算するためにデバイスの重量が再度測定された。デバイスはさらに分解され、各部分すなわち吸入フィルタ、呼息フィルタ、T部品およびパリ・ネブライザの放射活性が、放射性標識の物質収支を計算するためにガンマカメラを使用して測定された(表11)。「実験室の詳細記録:104418−02 パリ・LCプラス・ジェット式ネブライザによる放射性標識TOBI溶液の送達用量および物質収支試験(Laboratory write up:104418−02 Delivered dose and Mass balance tests of radiolabeled TOBI solution via PARI LC PLUS Jet nebulizer)」、2010年2月2日付、を参照。
【0102】
表10に列挙された結果は、デバイスに装荷された放射性標識TOBI(登録商標)溶液の質量が5gよりわずかに多く、かつ投薬前のデバイス中の放射活性が15.5〜19.5MBqであったことを示している。しかしながら、噴霧化して乾固した後、すなわちエアロゾルがもはや生成されない時、最初に装荷された質量のおよそ40%がデバイス内に依然として残されていた(表10)。
【0103】
【表11】
【0104】
【表12】
パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザによる送達後の放射性標識されたTOBI(登録商標)トブラマイシン溶液の物質収支(放射活性として表示)は、表11および図4に示されている。該結果に基づくと、肺に沈着した製剤の割合(%)(吸入フィルタ内の分画として定義)はおよそ約30%であろうことが予想される。合計送達用量(吸入フィルタおよび呼息フィルタの合計)は、装荷用量の40.6〜53.5%であろう(1TOBI(登録商標)ユニット=300mgトブラマイシン)。
【0105】
デバイスに残された放射活性の割合(およそ50%)が質量の割合(35.8〜41.7%)より高いことが注目される。同様の知見は、ガトナッシュ(Gatnash)らによりネブライザからの用量送達について報告されており(ガトナッシュ、A.A.(Gatnash,A.A.)ら、「放射性トレーサを使用してエアロゾルネブライザ出力を測定する新しい方法(A new method for measuring aerosol nebulizer output using radioactive tracers)」、欧州呼吸学会雑誌(Eur.Respir.J.)、1998年、第12巻、p.467−471)、これは移行時の放射性標識(および薬物)溶液からの水蒸発に起因すると考えられた)。薬物濃度は噴霧化中に一定ではないので、噴霧化後に重量減少を測定することにより送達された薬物用量を決定することは適切ではない。しかしながら、薬物および放射性標識の両方が製剤中に溶解され、また噴霧化の際の放射活性の変化が薬物濃度の変化に相当するであろうことから;送達される放射活性は依然として送達される薬物用量の十分な代用物になるであろう。
【0106】
in vitroの特徴解析の結果から、99mTc−DTPA内標準法は、パリ・LC(登録商標)プラス・ネブライザによって送達される用量(放射活性)の割合(%)がTobrair(登録商標)デバイスについて観察される割合より低い可能性があるものの、臨床研究のためのTOBI(登録商標)トブラマイシン溶液の放射性標識に適していることが示されている。その結果、製剤中の放射活性は可能な限り高く、最大許容限界内を目標とされるべきである。さらに、臨床研究の際の画像収集時間が増大する好機は、研究目的を達成するのに適した良質な画像が得られることを保証するであろう。
【0107】
結論
両トブラマイシン溶液、すなわち高濃度の18%(w/v)溶液およびTOBI(登録商標)6%(w/v)溶液は、内標準法を使用して99mTc−DTPAで良好に放射性標識された。すべての放射性標識された薬物溶液は、沈澱が存在せず透明かつ無色であり、従って薬物・放射性標識相互作用は観察されなかった。良好な用量(放射活性)送達および物質収支の結果は、製剤送達の点でパリ・LC(登録商標)ネブライザよりも相対的に高い効率を示したTobrair(登録商標)デバイスから見出された。結論付けられることは、99mTc−DTPAがガンマシンチグラフィ検査に使用するのに好適な代理マーカーであること、ならびに18%(w/v)トブラマイシン溶液およびTOBI(登録商標)6%(w/v)トブラマイシン溶液に使用される放射活性のレベルはそれぞれ最高でも0.35mLにつき(NMT)20MBq以下およびTOBI(登録商標)1ユニット(〜5mL)につきNMT 20MBqであって、ボランティアへの投薬に適切であろうことである。
【0108】
実施例2:in vivoデータ;先行技術の投与レジメンと本発明による治療レジメンとの比較
本発明の治療方法によるトブラマイシンの肺沈着を評価するために、Tobrair(登録商標)デバイスおよびパリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザによるトブラマイシンの単回用量投与後の、健常者における肺分布および薬物動態を研究する二者間の非無作為化交差試験が行なわれた。該試験は、使用されるエアロゾル送達システムが何であるかを隠すことが不可能であるため、オープンラベル試験として設計された。
【0109】
18名の健康なボランティアの男性および健康なボランティアの妊娠していない授乳中でない女性が以下の治療レジメンの対象となった:
・およそ63mgのトブラマイシン(180mg/mL×0.35mL)を新規なTobrair(登録商標)デバイスによって深くゆっくりとした吸入7回にわたり肺に送達。
【0110】
・300mgのトブラマイシン(TOBI(登録商標)、60mg/mL×5mL)をパリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザによって緩やかな周期性呼吸を用いて乾固するまでまたは最大30分間、肺に送達。
【0111】
トブラマイシンの肺沈着を測定するために使用される方法は、確立したガンマシンチグラフィの放射線核種撮像技法であり(処方情報、吸入用TOPI(登録商標)トブラマイシン溶液(添付文書)、米国ワシントン州シアトル:カイロン・コーポレイション(Chiron Corporation);2004年、クラステルスク(Klastersku)ら、「グラム陰性菌による気管支肺感染の治療におけるアミノグリコシドの間欠的および持続的投与の比較試験(Comparative studies of intermittent and continous administration of aminoglycosides in the treatment of bronchopulmonary infections due to gram−negative bacteria)」、感染疾患総説誌(Rev.Infect Dis.)、1981年、第3巻、第1号、p.74−83)、該方法は肺送達システムからのin vivo沈積の定量的評価が定量化されるのを可能にする。ガンマシンチグラフィはさらに、主として太い気道に相当する中央領域と、主として細い気道および肺胞に相当する末梢領域とを備えた肺の中の沈積した薬物または製剤の領域分布の評価を提供することもできる。
【0112】
本臨床研究は、Tobrair(登録商標)デバイスを使用して健常者へ吸入により投与されたトブラマイシンのエアロゾル送達特性(in vivoの肺沈着および投与時間により測定)を、パリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザを使用した送達特性と比較するために設計された。加えて、血清トブラマイシン濃度および薬物動態パラメータが、トブラマイシン肺沈着との関連を評価するために決定された。
【0113】
ガンマシンチグラフィを使用してトブラマイシンの気管支肺での分布を評価するために、薬物溶液は代用マーカーとしてガンマ線を放射する放射性同位元素で標識された。より具体的には、テクネチウム99mジエチレントリアミンペンタ酢酸(99mTc−DTPA)が本研究で使用されて、Tobrair(登録商標)デバイスおよびパリ・LC(登録商標)プラス・ジェット式ネブライザを使用して1用量当たり10〜20MBqが達成された。
【0114】
安全性は、有害事象データならびにパルスオキシメトリおよび肺活量測定のデータを含む生命徴候データの調査により同じく評価された。
ボランティア被験者について実施されたガンマシンチグラフィの測定値は、Tobrair(登録商標)デバイスのような吸入器を使用するおよそ63mgのトブラマイシン(すなわち0.35mlの180mg/mlトブラマイシン溶液)の投与が、商業的に利用可能かつ普及型の投与レジメンと類似の肺浸透プロファイルを提供することを示している(図1参照)。この結果は、Tobrair(登録商標)デバイス内の投与に利用可能な合計量が普及型の投与レジメンと比較すると本発明の方法によれば相当に低いことを考慮に入れると、驚くべきことである。
【0115】
加えて、該結果は、レジメンAを使用する場合はレジメンBと比較してより少ないトブラマイシンが吐出されることを示している(表12および下記参照)。
【0116】
【表13】
【0117】
【表14】
該結果はさらに、本発明による治療レジメン(レジメンA)が、6つの肺領域(区域1〜6)において普及型の投与レジメン(レジメンB)と同様の沈着パターンおよび肺浸透プロファイルを提供することを示している(以下の表14参照)。
【0118】
【表15】
【0119】
【表16】
【0120】
【表17】
【0121】
【表18】
更に、本発明による治療レジメンは普及型の投与レジメン(レジメンB)と比較してより短い投与時間を提供する。治療レジメンAに従って、すなわち深くゆっくりとした7回の吸入により、トブラマイシン用量を吸入するためにかかる時間は、実施に60秒未満しか要しない。これは、7回の吸入それぞれにかかった時間が記録されている表18に示された結果によって例証される。
【0122】
【表19】
【0123】
【表20】
図6
図7
図8
図1
図2
図3
図4
図5