特許第6000947号(P6000947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロードの特許一覧

特許6000947ガンマジェニック元素(gammagenicelements)と、10%未満の窒素又は酸素を含有するガスとを使用する、アルミナイズ鋼部品に対するハイブリッドアーク/レーザー溶接方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000947
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】ガンマジェニック元素(gammagenicelements)と、10%未満の窒素又は酸素を含有するガスとを使用する、アルミナイズ鋼部品に対するハイブリッドアーク/レーザー溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20160923BHJP
   B23K 26/32 20140101ALI20160923BHJP
   B23K 26/14 20140101ALI20160923BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20160923BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20160923BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20160923BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20160923BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20160923BHJP
   C22C 38/08 20060101ALI20160923BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20160923BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20160923BHJP
   B23K 103/20 20060101ALN20160923BHJP
【FI】
   B23K26/348
   B23K26/32
   B23K26/14
   B23K9/16 J
   B23K9/16 K
   B23K9/173 A
   B23K9/23 K
   B23K9/00 501C
   C22C38/00 301Y
   C22C38/00 302Z
   C22C38/08
   C22C21/02
   B23K35/30 320F
   B23K103:20
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-519129(P2013-519129)
(86)(22)【出願日】2011年5月5日
(65)【公表番号】特表2013-533807(P2013-533807A)
(43)【公表日】2013年8月29日
(86)【国際出願番号】FR2011051016
(87)【国際公開番号】WO2012007664
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2014年4月14日
(31)【優先権主張番号】1055690
(32)【優先日】2010年7月13日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】ブリアン、フランシス
(72)【発明者】
【氏名】デュベ、オリビエ
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−018470(JP,A)
【文献】 特開2001−340981(JP,A)
【文献】 特開2008−161932(JP,A)
【文献】 特開2003−220481(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2001−0057596(KR,A)
【文献】 米国特許第9321132(US,B2)
【文献】 欧州特許第2593268(EP,B1)
【文献】 中国特許第102985215(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/348
B23K 9/00
B23K 9/16
B23K 9/173
B23K 9/23
B23K 26/14
B23K 26/32
B23K 35/30
C22C 21/02
C22C 38/00
C22C 38/08
B23K 103/20
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の溶融池において電気アーク及びレーザービームを互いに組み合わせて使用し、そこにおいて溶接金属が消耗ワイヤを溶融させることにより提供され、前記溶融池が、アルミニウム系表面被覆を含む少なくとも1つの鋼材被加工物において生じ、並びにシールドガスを使用するレーザー/アークハイブリッド溶接方法であって、消耗ワイヤが少なくとも3重量%かつ多くとも20重量%の1種以上のガンマジェニック元素を含有し、前記シールドガスがヘリウム及び/又はアルゴンと、少なくとも2体積%から10体積%未満の窒素又は酸素とから形成されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ガンマジェニック元素が、C、Mn、Ni及びNから選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記シールドガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンと、少なくとも2体積%から10体積%未満の窒素とから形成されていることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の鋼材被加工物が、5〜100μmの厚さを有するアルミニウム系表面被覆を含む鋼材製であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の鋼材被加工物が、50μm以下の厚さを有するアルミニウム系表面被覆を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の金属被加工物が、アルミニウム及びケイ素(Al/Si)に基づく表面被覆を有する鋼材製であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の金属被加工物が、アルミニウム及びケイ素に基づく表面被覆を有する鋼材製であり、前記表面被覆が70重量%より多くのアルミニウムを含有していることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤを前記電気アーク、好ましくはMIG溶接トーチによって得られたアークで溶融させることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、前記レーザービームを発振するレーザー発振器が、CO2タイプ、ファイバタイプ、又はディスクタイプであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜の何れか1項に記載の方法であって、溶接されるべき当該1つ以上の被加工物が、テーラードブランク及び排気パイプ若しくは排気チューブから選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤがC、Mn、Ni及びNから選択される複数種のガンマジェニック元素を含有することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤが少なくとも5重量%の1種以上のガンマジェニック元素を含有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤが少なくともMnを含有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤが更に鉄を含有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、アルミニウム系の表面被覆、特にはアルミニウム/ケイ素被覆を含む鋼材被加工物を溶接するためのレーザー/アークハイブリッド溶接方法に関し、この方法は、1種以上のガンマジェニック元素を含有するワイヤ、及び好ましくはアルゴン及び/又はヘリウムと小割合の窒素又は酸素とから形成されるシールドガスを使用する。
【0002】
所定の鋼材、例えばUSIBOR(登録商標)鋼は、アルミニウムによって又はアルミニウム系合金によって被覆されているのでアルミナイズ鋼と呼ばれ、熱延伸後に非常に高い機械的性質を有し、そのため、軽量化が望まれる場合、自動車製造の分野でますます使用されている。
【0003】
特に、これらの鋼材は、熱延伸作業中に、熱処理されてその後急冷されるように設計されており、このようにして得られる機械的性質は、標準的な高降伏強さの鋼材と比較して、乗り物の重量を非常に著しく低減することを可能にする。これらの鋼材は、主に、バンパービーム、ドア補強材、センターピラー、ウィンドウピラーなどの製造に使用される。
【0004】
文献EP-A-1878531は、このタイプのアルミナイズ鋼をレーザー/アークハイブリッド溶接方法を使用して溶接することを提案している。レーザー/アークハイブリッド溶接の原理は、当技術分野において周知されている。
【0005】
しかしながら、実際には、アルミニウムにより又はアルミニウム合金、特にはAl/Si合金により被覆された鋼材被加工物が、He/Ar混合物から形成されるシールド雰囲気を使用するハイブリッド溶接作業と、920℃での熱延伸及びその後のツールでの(30℃/秒での)急冷を含む溶接後熱処理とに供された後に、母材よりも及び溶接部−金属領域よりも低い引張り強さの相がしばしば溶接継手に現れることが観察されてきた。
【0006】
特に、この低い引張強さの相は、以下に説明するように、このようにして得られる溶接部に脆い領域を生じさせる。これらのより脆い領域は、アルミニウムの凝集体を含有する白色相の島(white-phase islands)の形態で、表面層からマルテンサイト領域に現れる。
【0007】
この相は、鋼材の延伸前熱処理中の鋼材のオーステナイト変態を防ぐかなりの割合のアルミニウム(>2%)を含有する、すなわちこの相は、デルタフェライト形態に留まり、その結果、非加工物の残りの部分よりも柔らく、マルテンサイト/ベイナイト変態を受けることが、分析により分かっている。
【0008】
溶接、延伸及びそれに続く熱処理後の継手の物理試験中、マルテンサイト変態を起こしていない相は、溶接継手にクラック又はせん断歪みを引き起こし得る。なぜなら、溶接のこれらの領域はアルミニウムを含有しているので、それらは堆積された金属よりも脆弱であるからである。
【0009】
直面する問題は、アルミニウム含有層により被覆された鋼材被加工物を溶接するための作業において生じる溶接部の機械的性質を向上させる、アーク/レーザーハイブリッド溶接方法を如何にして提供するかということである。より詳細には、問題は、典型的に約920℃での熱延伸、及び延伸機における、典型的に、800℃〜500℃までの、約30℃/秒の冷却速度での急冷後に、均一なマルテンサイト微細的構造を溶接部−金属領域において、すなわち溶接部において如何にして得るかということである。
【0010】
本発明の解決策は、例えば、単一の溶融池において電気アーク及びレーザービームを互いに組み合わせて使用し、そこにおいて溶接金属が消耗ワイヤを溶融させることにより提供され、溶融池が、アルミニウム系表面被覆を含む少なくとも1つの鋼材被加工物において生じ、且つシールドガスを使用するレーザー/アークハイブリッド溶接方法であって、消耗ワイヤが少なくとも3重量%の1種以上のガンマジェニック元素を含有し、シールドガスがヘリウム及び/又はアルゴンと、追加成分としての10体積%未満の窒素又は酸素とから形成されていることを特徴とする方法である。
【0011】
状況に応じて、本発明の方法は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る:
−ガンマジェニック元素は、炭素(C)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)及び窒素(N)から選択される;
−消耗ワイヤは少なくともMnを含有する;
−ガンマジェニック元素は、金属又は合金の形態、例えば炭素については炭素含有鉄合金又はグラファイト、マンガンについては電解金属マンガン又は鉄合金、元素ニッケル、又は窒素については窒素含有クロム鉄で、特にはメタルコアワイヤで提供され得る;
−消耗ワイヤは、C、Mn、Ni及びNから選択される複数種のガンマジェニック元素を含有する;
−消耗ワイヤは、少なくとも5重量%の1種以上のガンマジェニック元素を含有する;
−ワイヤは、多くとも約20重量%のガンマジェニック元素を含有する;
−消耗ワイヤは、鉄を更に含有する;
−ワイヤは、有芯ワイヤ、特にメタルコアワイヤ、又は中実ワイヤである;
−シールドガスは、ヘリウムとアルゴンとの混合物を含有する;
−シールドガスは、ヘリウム及び/又はアルゴンと、9体積%未満の窒素又は酸素、好ましくは、ガス中の窒素の存在は特に追加のガンマジェニック元素を供給するので、窒素とから形成される;
−シールドガスは、少なくとも2体積%の前記少なくとも1種の追加のO2又はN2成分を含有する;
−シールドガスは、少なくとも4体積%の窒素を追加の成分として含有する;
−シールドガスは、少なくとも5体積%の窒素を追加の成分として含有する;
−シールドガスは、多くとも8体積%の窒素を追加の成分として含有する;
−シールドガスは、少なくとも5.5体積%の窒素及び多くとも7.5体積%の窒素を含有する;
−使用するシールドガス中の窒素含有量は、アルゴン中又はヘリウム/アルゴン混合物中で約6〜7%である;
−酸素含有量は、アルゴン中又はヘリウム/アルゴン中で約8体積%未満である;
−酸素含有量は、アルゴン中又はヘリウム/アルゴン中で約3〜5体積%である;
−シールドガスは、ヘリウム及び/又はアルゴンと、4〜8体積%の窒素とから形成される;
−1つ以上の鋼材被加工物は、5〜100μm、好ましくは50μm以下の厚さを有するアルミニウム系表面被覆を含む;
−1つ以上の金属被加工物は、アルミニウム及びケイ素に基づく表面被覆を有する鋼材製であり、表面被覆は好ましくは70重量%より多くのアルミニウムを含有する;
−1つ以上の金属被加工物は、炭素鋼製である;
−消耗ワイヤを電気アーク、好ましくはMIG溶接トーチによって得られたアークで溶融させる;
−レーザービームを発振するレーザー発振器は、CO2タイプ、ファイバタイプ、又はディスクタイプである;
−溶接されるべき1つ以上の被加工物は、テーラードブランク及びチューブから選択される;
−複数の被加工物、特に2つの被加工物を互いに溶接する;
−被加工物をI形突合せ構造に配置して溶接する;
−溶接されるべき1つ以上の被加工物は、作ろうとする溶接部の平面における、すなわち、金属が溶融して溶接部を形成する位置、例えば溶接されるべき被加工物の端面の高さにおける厚さを考慮すると、厚さが0.2mm〜3mmである;
−被覆は、1つ以上の被加工物の少なくとも1つの表面を覆うが、好ましくは、該1つ以上の被加工物の周縁(end rims)上、すなわち例えばシートの端面上には、アルミニウム系被覆は存在していない又は殆ど存在していない;
−1つ以上の金属被加工物は、アルミニウム及びケイ素に基づく表面被覆を含み、この表面被覆は、珪素の5〜100倍大きい割合のアルミニウムを含有し、例えば、90重量%の割合のアルミニウムと、10重量%の割合のケイ素とを含み、すなわち、表面被覆層は珪素の9倍大きいアルミニウムを含む;
−1つ以上の金属被加工物は、アルミニウム及びケイ素に基づく表面被覆を含み、この表面被覆は、ケイ素のそれよりも5〜50倍大きい割合のアルミニウム、特に、ケイ素のそれよりも5〜30倍大きい割合のアルミニウム、特にケイ素のそれよりも5〜20倍大きい割合のアルミニウムを含有する;
−複数の被加工物、典型的には2つの被加工物を互いに溶接し、前記被加工物は、特に形状、厚さなどの点で、同一又は異なり得る;
−鋼材被加工物は、高合金鋼(>5重量%の合金元素)製、低合金鋼(<5重量%の頭金元素)製、又は非合金鋼製、例えば炭素鋼製である;
−溶接ワイヤは、0.5〜5mm、典型的には約0.8〜2.5mmの径を有する中実ワイヤ又は有芯ワイヤである;
−溶接方向を考える際、溶接中にレーザービームがMIGアークに先行する;
−MIG溶接法は、ショートアークタイプである;
−溶接電圧は、20V未満であり、典型的には11〜16Vである;
−溶接電流は、200A未満であり、典型的には118〜166Aである;
−溶接速度は、20m/分未満であり、典型的には4〜6m/分である;
−ガスの圧力は、2〜15barであり、例えば約4barである;
−ガスの流量は、5〜40l/分であり、例えば25l/分である;
−レーザービームの焦点は、溶接されるべき被加工物上、好ましくは3〜6mmの距離をとって合わせる;
−フィラーワイヤとレーザービームとの間の距離は、約2〜3mmでなければならない。
【0012】
本発明に係るレーザー/アークハイブリッド溶接方法の有効性を証明することを目的とした以下の例により、本発明はより十分に理解されるであろう。
【0013】
この目的のために、それぞれの割合が90重量%及び10重量%である約30μmのアルミニウム/ケイ素合金の層で被覆された鋼材被加工物に対して、CO2レーザー源及びMIGアーク溶接トーチを使用して、レーザー/アークハイブリッド溶接試験を行った。より正確には、以下の例1〜3では、溶接されるべき被加工物は、Usibor 1500(登録商標)アルミナイズ(Al/Si)鋼製のテーラードブランクであり、I形突合せ構造になっていた。
【0014】
例1〜3では、使用したシールドガスを25l/分の流量及び4barの圧力で供給し、溶接速度は4m/分であった。約15Vの溶接電圧及び約139Aの電流は、Air Liquide Welding Franceにより販売されている、共働モードのDigi@wave 500 (ショートアーク/ショートアーク)(EN 131)によって得た。
【0015】
例1
この例では、被加工物は厚さが1.7mmであった。
【0016】
用いたガスは、ARCAL 37 混合物(組成:70体積%のHe+30体積%のAr)に3体積%のO2を加えたものであった−ARCAL 37 ガス混合物はAir Liquidから販売中である。
【0017】
使用したトーチは、OTCによって販売されているMIGトーチであり、これに、鉄に加えて約20重量%のマンガン(Mn)を含有する1.2mm径のフィラーワイヤを3m/分の速度で供給して充填した。
【0018】
レーザー源はCO2レーザー発振器であり、用いた出力は8kWであった。
【0019】
得られた結果から、得られた溶接ビードが均一な微細構造を有している場合、溶接領域における高い割合のマンガン(すなわち、約20重量%のMn)の存在により、溶接ビードにおけるマンガンが少ない試験(すなわち、約2重量%のMn)よりも遥かに優れた結果が得られたことが分かった。
【0020】
急冷熱処理(800℃から500℃までの約30℃/秒の冷却速度)の後、継手の引張強さは急冷後の母材のそれと等しかったが、ビードがたった2%のマンガンを含有していた場合、引張強さは1000MPa(Rm)を超えなかった。
【0021】
この第1の例により、ワイヤにおけるガンマジェニック元素、すなわちここでは20%のMnの存在が、急冷後に溶接ビードが均一なマルテンサイト微細構造を溶接部−金属領域に有することを促進することが証明された。
【0022】
例2
この例では、被加工物は厚さが2.3mmであり、用いたガスはARCAL 37及び3体積%のO2から形成された混合物であった。
【0023】
使用したトーチはOTC MIGトーチであり、これに、鉄と、ガンマジェニック元素として0.7%の炭素(C)及び2%のマンガン(Mn)とを含む1.2mm径Nic 535(中実ワイヤ)フィラーワイヤを充填し、このワイヤを3m/分の速度で供給した。
【0024】
レーザー源は12kWのCO2レーザー発振器であった。
【0025】
得られた結果から、ワイヤ中のこの量のガンマジェニック元素、すなわちMn及びCは、オーステナイト変態に対抗して、溶接部−金属領域中のアルミニウムの存在によって引き起こされる影響を抑えるのに十分であったことが分かった。特に、顕微鏡写真から、白色相は完全に消失したか又は大きく低減されたことが分かった。
【0026】
更に、継手の引張強さは、オーステナイト化及び急冷後、母材のそれと等しかったことが分かった。
【0027】
この第2の例からも、ワイヤにおけるガンマジェニック元素、すなわちここではC及びMnの存在が、急冷後に溶接ビードが均一なマルテンサイト微細構造を溶接部−金属領域に有することを促進することが証明された。
【0028】
例3
例3は、本発明に係るレーザー/アークハイブリッド溶接方法を2.3mm厚の被加工物を溶接するのに使用し、シールドガスとして、70%のヘリウム及び30%のアルゴンから形成されたARCAL 37混合物と、6%の追加のN2とを使用した以外、上述の例2と同じである。
【0029】
トーチ、フィラーワイヤ及び他の溶接条件は、例2のそれと同じであった。
【0030】
比較として、ARCAL 37単独、すなわちN2を添加しなかったものについても試験した。
【0031】
得られた結果から、ガンマジェニック元素を含有したワイヤと、6%のN2を30%のアルゴン及び70%のヘリウムを含む混合物(すなわち、ARCAL 37)に添加することによって形成されたシールドガスとを組み合わせて使用することにより、シールドガスが窒素を含有しなかったがワイヤは同じものであった場合よりも優れた結果をもたらしたことが分かる。
【0032】
特に、窒素が混合物中に存在している場合、結果が著しく向上し、これは、混合物中のN2含有量に比例して向上した。例えば、顕微鏡写真から白色相が完全に消失したことが分かり、更には、オーステナイト化及び急冷後、継手の引張強さが母材のそれに等しかった。
【0033】
この向上は、10体積%未満を最適値として窒素含有量が多ければ一層顕著であった。これは、約6〜7%の窒素をアルゴン中で又はアルゴン/ヘリウム中で使用することを示唆するものである。
【0034】
概して、試験(例1〜3)で得られた結果から、消耗ワイヤ中でのガンマジェニック元素の存在は、アルミニウム/ケイ素合金製の表面層で被覆された鋼材の溶接の質を大きく向上させることを可能にし、詳細には、溶接部−金属領域における均一なマルテンサイト微細構造を得ることを可能にする。
【0035】
なお、この向上は、以下の何れかの場合に一層顕著である:
−シールドガス中の窒素含有量が10体積%未満を最適値として同時に高められる場合。これは、約6〜7%の窒素をアルゴン中で又はアルゴン/ヘリウム中で使用することを示唆するものである;
−又は、酸素含有量が10体積%未満を最適値として高められる場合。これは、アルゴン中又はアルゴン/ヘリウム中で約3〜5%の酸素を使用することを示唆するものである。
【0036】
本発明の方法は、自動車製造の分野で使用されるテーラードブランクを溶接するのに又はチューブを溶接するのに特に適している。
本願の出願当初の請求項を、実施の態様として以下に付記する。
[1] 単一の溶融池において電気アーク及びレーザービームを互いに組み合わせて使用し、そこにおいて溶接金属が消耗ワイヤを溶融させることにより提供され、前記溶融池が、アルミニウム系表面被覆を含む少なくとも1つの鋼材被加工物において生じ、並びにシールドガスを使用するレーザー/アークハイブリッド溶接方法であって、消耗ワイヤが少なくとも3重量%の1種以上のガンマジェニック元素を含有し、前記シールドガスがヘリウム及び/又はアルゴンと、10体積%未満の窒素又は酸素とから形成されていることを特徴とする方法。
[2] [1]に記載の方法であって、前記ガンマジェニック元素が、C、Mn、Ni及びNから選択されることを特徴とする方法。
[3] [1]又は[2]に記載の方法であって、前記ワイヤが多くとも20重量%のガンマジェニック元素を含有することを特徴とする方法。
[4] [1]〜[3]の何れか1項に記載の方法であって、前記シールドガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンと、10体積%未満の窒素とから形成されていることを特徴とする方法。
[5] [1]〜[4]の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の鋼材被加工物が、5〜100μmの厚さを有するアルミニウム系表面被覆を含む鋼材製であることを特徴とする方法。
[6] [1]〜[5]の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の鋼材被加工物が、50μm以下の厚さを有するアルミニウム系表面被覆を含むことを特徴とする方法。
[7] [1]〜[6]の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の金属被加工物が、アルミニウム及びケイ素(Al/Si)に基づく表面被覆を有する鋼材製であることを特徴とする方法。
[8] [1]〜[7]の何れか1項に記載の方法であって、当該1つ以上の金属被加工物が、アルミニウム及びケイ素に基づく表面被覆を有する鋼材製であり、前記表面被覆が70重量%より多くのアルミニウムを含有していることを特徴とする方法。
[9] [1]〜[8]の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤを前記電気アーク、好ましくはMIG溶接トーチによって得られたアークで溶融させることを特徴とする方法。
[10] [1]〜[9]の何れか1項に記載の方法であって、前記レーザービームを発振するレーザー発振器が、CO2タイプ、ファイバタイプ、又はディスクタイプであることを特徴とする方法。
[11] [1]〜[10]の何れか1項に記載の方法であって、溶接されるべき当該1つ以上の被加工物が、テーラードブランク及び排気パイプ若しくは排気チューブから選択されることを特徴とする方法。
[12] [1]〜[11]の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤがC、Mn、Ni及びNから選択される複数種のガンマジェニック元素を含有することを特徴とする方法。
[13] [1]〜[12]の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤが少なくとも5重量%の1種以上のガンマジェニック元素を含有することを特徴とする方法。
[14] [1]〜[13]の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤが少なくともMnを含有することを特徴とする方法。
[15] [1]〜[14]の何れか1項に記載の方法であって、前記消耗ワイヤが更に鉄を含有することを特徴とする方法。