【実施例】
【0153】
本発明は、本発明の例として提示される以下の非限定的な実施例を参照することにより、よりよく理解することができる。以下の例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に例示するために提示されるものであり、本発明の広範な範囲を限定するものとしてみなされるべきではない。
【0154】
(実施例1)
自己神経系細胞に結合する天然自己抗体(NatAb)の同定
ニューロンに結合する天然血清のヒトIgMを、モノクローナルIgGまたはモノクローナルIgMの高スパイク(血中に10mg/mlを超える)を伴う候補血清について、45年間にわたり収集された140,000を超える試料を含有するMayo Clinic血清バンクをスクリーニングし、次いで、血清を抗体の生存大脳皮質および生存小脳のスライスへの結合について調べることにより同定した(31)。次いで、このようなIgMを陽性試料から精製し、1)単離された初代ニューロンの表面への結合、2)神経突起伸長を支持するための基質として、3)ストレッサー分子に対するニューロンをアポトーシスから保護する能力についてさらに調べた。このスクリーニングプロトコールは、希突起膠細胞に結合し、MSモデル(22、およびWO0185797において記載されている)における再ミエリン化を促進するヒトIgMを同定するのに使用されるプロトコールに基づく。適切な組織または細胞の表面の認識は、治療用IgMの特徴を規定するのに重要であると考えられる。
【0155】
2つの新規で異なる血清由来ヒトニューロン結合IgM(sHIgM12およびsHIgM42)を同定した。これらの血清由来抗体の特定の特徴を表1に列挙する。血清に由来するsHIgM12およびsHIgM42はまず、神経突起伸長ならびに強力な基質であるラミニンを支持し、CNSミエリンによる神経突起成長の阻害を凌駕することがin vitroにおいて示されている(23)。
【0156】
さらなる研究は、マウスにおける夜間1時間当たりの平均自発活動を介して評価される通り、血清由来のsHIgM12が、TMEV感染マウスにおける自発的機能を改善することを示している(21)。既に同定されているIgM NatAb(sHIgM22およびsHIgM46)と異なり、sHIgM12もsHIgM42も脊髄の再ミエリン化を促進しない。
【0157】
【表1】
【0158】
自己抗体は、病原性であると考えられることが多い。これに対し、本明細書で裏付けられる通り、ニューロンに対する自己抗体(sHIgM12およびsHIgM42ならびにこれらに基づく組換え抗体)は、ニューロンを死滅させない。そうではなくて、これらのIgMは、ニューロンを死滅から保護し、神経突起伸長を促進し、in vivoにおけるNAAを増大させ、in vivoのTMEVモデルにおいて軸索を保護し、TMEV罹患マウスの夜間における自発的機能を改善する。
【0159】
ニューロン結合抗体であるIgM12およびIgM42は、CNS病変におけるニューロンを標的とし、ニューロンの喪失を可逆化し、かつ/またはニューロン損傷またはニューロン疾患の影響を改善するのに適用可能である。ニューロン結合ヒトIgMは、多様な疾患および神経変性、ニューロン損傷、またはニューロン死滅を伴う状態に対する固有の適用を伴う治療剤の新たなクラスを代表する。限定せずに述べると、このような疾患には、MS、脊髄損傷、ALS、アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脳血管事象、または脳卒中が含まれる。これらのヒトIgMは、動物に全身投与した場合の抗原性が最小限となっている。
【0160】
複数種類の生存ニューロンの表面に結合するヒトIgMの同定および特徴付け:
高濃度のIgGまたはIgM(>10mg/ml)を伴う血清試料を、抗体の、生存CNS組織のスライスにおけるニューロン層(皮質および小脳)への結合についてスクリーニングした。152例の被験血清のうち、17例のヒト血清が、組織スライスにおいて陽性であった(23)。
【0161】
抗体sHIgM12および抗体sHIgM42は、ニューロンマーカーであるニューロフィラメントまたはβIIIチューブリンで共標識される多種多様なニューロンの表面に結合する。これらには、ヒト側頭葉の生検に由来する小脳顆粒細胞(23)、皮質ニューロン、海馬ニューロン、ニューロン(
図1)、および網膜神経節細胞(データは示さない)が含まれる。rHIgM12は、海馬ニューロンの神経細胞体、神経突起、および成長円錐を染色させる(データは示さない)。この交差反応性は、ヒトIgMが、MS、筋萎縮性側索硬化症、または脳卒中など、多くの神経学的状態/疾患において影響を受けるCNS細胞において作用しうることを示唆する。
【0162】
本データは、sHIgM12またはsHIgM42のニューロン表面への結合が炭水化物依存性であることを示す。培養物中のニューロンに対するシアリダーゼ処置によりいずれのヒトIgMの細胞表面への結合も消失する一方、Fumonisin B1によりスフィンゴ脂質の合成を遮断するか、またはPIPLCによりGPI結合タンパク質を除去しても、IgMの結合は消失しなかった(23)。ガングリオシドは、これらのヒトIgMの抗原の候補物質である。共標識実験では、rHIgM12が、ニューロン膜におけるGM1と共に共局在化する(実施例11および
図21Cを参照されたい)。
【0163】
sHIgM12およびsHIgM42は、神経突起成長の誘発など、特定の機能的特徴を共有するが、差異を裏付けており、各々が固有の抗体である。これは、結合研究および免疫蛍光研究において明らかであり、sHIgM12およびsHIgM42により、小脳顆粒細胞の表面が異なるパターンで標識される。培養物中のラット小脳顆粒細胞についての免疫蛍光研究では、ニューロン膜がこれらの2つの抗体により標識されるパターンが異なる(
図2)。神経突起膜の小領域には、sHIgM12が結合する結果として、点状のパターンがもたらされる。神経突起膜の大領域には、sHIgM42が結合する結果として、分節化の高いパターンがもたらされる。
【0164】
(実施例2)
ヒトIgMは皮質ニューロンを過酸化物誘導性死滅から保護する
再ミエリン化促進ヒトIgMは、培養物中の希突起膠細胞を、活性アポトーシスのマーカーであるカスパーゼ3の過酸化物誘導性活性化から保護することが示されている(33)。本明細書で示される通り、sHIgM12またはsHIgM42も、類似のプロトコールにより評価した。sHIgM12またはsHIgM42のそれぞれ、および過酸化物を、マウス初代皮質ニューロンの培養物へと併せて添加し、24時間後にカスパーゼ3の活性化度をアッセイした(
図3)。
【0165】
培養されたニューロンをrHIgM12で処置した結果として、カスパーゼ3活性化のうちの80%に対する保護がもたらされた。また、ニューロンのsHIgM42による処置も、カスパーゼ3活性化のうちの約40%に対して保護的であった。これらの結果は、結果としてカスパーゼ3活性化からの保護が10%未満となる対照のヒトIgMと比較して有意に異なった(P<0.01)。
【0166】
したがって、ニューロン結合sHIgM12またはニューロン結合sHIgM42は、皮質ニューロンを、過酸化物により誘導される細胞死から保護した。したがって、神経細胞損傷(または死滅)誘導剤または神経細胞損傷(または死滅)剤を供給した場合、IgM12およびIgM42は、損傷(または死滅)が生じることを個別かつ有意に防止した。
【0167】
(実施例3)
sHIgM12に由来する組換え抗体
sHIgM12の2つの組換え形態を構築した。各形態では、重鎖および軽鎖についての組換えIgM22抗体(rHIgM22)について既に用いた発現ベクターと同じ発現ベクターを用いた(22、28、WO0185797)。ベクターは、SV40プロモーターの制御下で発現させた選択用dHfR遺伝子を包含する。マウスJ鎖を伴う部分ヒト組換えIgM12抗体の形態を、まず以下の通りに構築し、その後、ヒト/マウスハイブリドーマ系であるF3B6細胞により抗体を生成させた。
【0168】
組換えIgM12抗体(PAD12)用ベクターの構築は、ヌクレオチドデータベースに由来するリーダー配列を伴う重鎖可変領域のcDNAと、ヌクレオチドデータベースに由来するリーダー配列を結合させた完全軽鎖cDNAとを、下記のプライマーを用いる既に記載された形(6)と同様の形で挿入することにより実施した。ベクターを
図4に示す。組換えヒトIgM12抗体に用いた重鎖および軽鎖の配列を、可変領域および定常領域に言及して
図5に示す。
【0169】
rHIgM12VHを作製し、これを、データベース(M29812)に由来する、イントロンを伴うリーダー配列(小文字)へと重複伸長を介してスプライシングするのに用いたプライマー(Horton RMら(1989年)、Gene、77巻:61〜68頁)は、以下の通りである。
【0170】
【化4】
【0171】
rHIgM12Vkを作製し、これを、データベースに由来する、リーダー配列(小文字、受託番号:X59312)へと重複伸長を介してスプライシングする(soe)のに用いたプライマーは、以下の通りである。
【0172】
【化5】
【0173】
合成の抗体遺伝子を伴うベクターを、電気穿孔を介してF3B6ハイブリドーマ細胞へと導入し、既に記載されている通り(6)に、メトトレキサート(MTX)による増幅を実施した。
【0174】
略述すると、8百万個のF3B6マウス/ヒトヘテロハイブリドーマ細胞(American Type Culture Collection:ATCC)を、Bgl IIで直鎖化した10μgのPAD12ベクターと共に、800μlの無血清培地中で10分間にわたりインキュベートした後で、Biorad Gene Pulser(商標)(Biorad、Hercules、CA、USA)により0.2Vで電気穿孔した。氷上で10分間のインキュベーション後、細胞を、10%のウシ胎仔血清(FC)(Gibco、Carlsbad、CA、USA)を含有するRPMI−1640中で24mlまで希釈し、24ウェルプレートに播種して37℃でインキュベートし、48時間後、ベクターを含有する細胞を、1μMのメトトレキサート(Calbiochem、La Jolla、CA、USA)を用いて選択した。2週間にわたるインキュベーション後、コロニーを新たなプレートへと採取し、コンフルエントまで増殖させた。この時点で、上清を採取し、酵素免疫測定アッセイ(ELISA)を介して、ヒトIgMの存在についてアッセイした。陽性コロニーを、さらに2カ月間にわたり、メトトレキサートの用量を1μM〜200μMの範囲で増大させて選択した。このようにして、細胞を生成し、これにより、10μg/mlを超えるIgMを産生した。
【0175】
上記の通りに構築した最初の組換え抗体は、完全ヒト抗体ではない。完全ヒト形態を生成させるため、CHO細胞(GibcoBRL;型番:11619)を、E1AプロモーターおよびpCI(Promega)においてヒトJ鎖を発現させる構築物の制御下で組換え重鎖および組換え軽鎖をコードするベクターで共トランスフェクトした。細胞は、10%のコスミド(cosmic)クローンを伴うPowerCho1とIMDMとの50/50混合物中で、メトトレキサートの用量を増大させて選択し、ELISAを介する測定で抗体を最も多く生成させた2つのクローンをサブクローニングした。サブクローンを増殖させ、バイアルを凍結させた。いずれの組換えIgM12形態も、ニューロンへの結合および血清から単離されたIgMのin vivoにおける有効性の特徴を維持するが、マウスにおける半減期は短い(これは、グリコシル化の差異に起因する可能性がある)。
【0176】
同様で同等の手順を用いて、同等のベクターにより組換えHIgM42抗体を構築した。ヒトIgM42抗体の重鎖配列および軽鎖配列を、可変領域および定常領域について言及して
図6に示す。
【0177】
(実施例4)
rHIgM12の単回末梢投与は多発性硬化症(MS)のTMEVモデルにおける神経機能を改善した
rHIgM12により、培養物中の初代ニューロンが保護され、MSのTMEVモデルにおける身体障害が軸索喪失と相関する(2)という事実に照らして、TMEV感染マウスのrHIgM12による処置を用いて、神経欠損の進行を緩徐化する能力を評価した。
【0178】
軸索の喪失が始まる時点である、TMEV感染の90日後におけるマウス5匹の群を、rHIgM12 100μgまたは対照のヒトIgM 100μgの単回投与で処置した。5匹の感染マウスは、各群について無作為に選択し、処置前の機能記録を用いて、ベースラインの活性が群間で異ならないことを確認した。マウスは、複数週間における連続3日間にわたり、活動ボックスを用いて群として追跡した(34、35)。夜間挙動の変化は、TMEV媒介性疾患における神経欠損の高感度の尺度である。活動ボックスとは、筐体全体に格子を創出する赤外線ビームを対向させる透明のアクリル製ボックスであって、水平方向および垂直方向全ての運動を記録するボックスである。アッセイの感度は、後肢による立脚および歩行を測定する能力を反映する。TMEV感染マウスでは、後肢がこわばり、後肢による立脚が低減される。しかし、ケージ内の自発歩行が重度に影響を受けることはない。後肢がこわばったマウスは、後肢で立脚するより歩く方が容易であり疾患が進行したマウスでもなお、夜間には極めて活動的でありうる。
【0179】
各処置群は無作為に組み立て、処置前に活動ボックス内に72時間にわたり収容し、次いで、処置後各週につき72時間にわたり収容した。解析時間である72時間における午後6時〜午前6時の12時間にわたり、水平方向および垂直方向の活動について、1時間当たりの平均ビーム遮断回数を計算した。マウスが入眠するので、典型的には遮断が600回/時間未満となる、昼間における水平方向および垂直方向の活動に処置群間の差異は見られなかった。しかし、rHIgM12による処置群では、夜間における水平方向の自発活動のそれらの処置前のベースラインと比較した増大が記録された(3〜7週間にわたり:P<0.01)(
図7)。細胞に結合しない対照のヒトIgMは、活動を改善しなかった。
【0180】
同様の研究において、血清由来のsHIgM12について見られる効果、および、今やまた、組換え抗体rIgM12について見られる効果とも異なり、ヒト抗体sHIgM42は、同じ条件下で、TMEV感染マウスの夜間活動を変化させなかった。同じアッセイフォーマットにおけるsHIgM42のための代替的な投与パラメータは、夜間活動に対して異なり、かつ、より肯定的な結果をもたらす。
【0181】
機能の改善についての1つの可能な説明は、有効なIgMが、ウイルス負荷に干渉し、その結果として、疾患の軽減がもたらされるということである。しかし、これは、説明であるとは考えられない。慢性TMEV疾患を伴うマウスを、rHIgM12、sHIgM42、または対照のIgMの単回投与で処置し、5週間後に脳および脊髄を採取し、次いで、TMEV RNAゲノムの転写物レベルを、ウイルスタンパク質2に対するプローブによるPCRを介して測定した。ウイルス転写物は、群間で異ならなかった(P<0.01)(データは示さない)。
【0182】
(実施例5)
脊髄疾患を伴うマウスの脳幹におけるNAAレベル:脊髄全体における軸索保存の非侵襲的サロゲートマーカー
NAAとは、ニューロン機能と関連する代謝物質である(36、37)。NAAは、脳において2番目に豊富なアミノ酸であり、ほぼもっぱらニューロンに限定される。脳幹におけるNAAレベルの保存は、本発明者らのグループによりTMEVマウスモデルを用いて検証された脊髄軸索全体の健康の尺度である(8)。脊髄下部の軸索が損傷すると、脳幹の細胞が死滅し、NAAが低減される。MRSを介して測定されるNAAレベルは、主にニューロン密度を反映する。NAAは、他の神経細胞でも発現するが、NAAの主な発現は、ニューロンにおいてである。精製されたCNS細胞のMRSプロファイルを研究すると、NAAシグナルの振幅がニューロンにおいて優勢であるのに対し、希突起膠細胞または星状細胞のNAAシグナルの振幅は、ニューロンにおけるシグナルの、それぞれ、5%および10%であることが示される(38)。
【0183】
sHIgM12およびIgM42が軸索機能を保存することによりマウスの活動を改善する能力をさらに評価するため、本発明者らは、非侵襲的画像化アッセイおよび従来の形態解析を用いて脊髄軸索を評価した。逆行追跡を用いて、TMEV媒介性疾患の脱髄後における脊髄軸索の機能不全を裏付けた(5)。胸部軸索〜脳幹核における逆行標識の劇的な低減が測定された。脳幹とは、細胞体の多くが存在する場所であって、脊髄の全長に沿って長い軸索路を展出させる場所である。その後、既に報告されたプロトコール(8)を用いて、TMEV感染マウスにおいて、磁気共鳴分光法(MRS)を介して、脳幹におけるN−アセチルアスパラギン酸(NAA)レベルを評価した(
図8)。
【0184】
本発明者らは、TMEV誘導性疾患を伴うマウスにおいてある時間にわたる脳幹NAAの低減を観察した(
図9)。NAAレベルは、感染後最初の45日間にわたり低下し、感染の270日後まで低レベルを保った。TMEVに感染したSJLマウスでは、脊髄脱髄の程度が感染の90日後までプラトー状態を保つ(39)。このモデルにおいて軸索喪失が組織学を介してされるのは、この時点においてである(2)。したがって、NAAは、軸索における機能不全の高感度の尺度である。
【0185】
最後のMRS収集の後、軸索を、T6レベルにおける脊髄断面内の外見が正常な白質の6つの領域から体系的にサンプリングした。このレベルは、これにより脊髄全体においてランダムに分布する複数の脱髄病変に由来する軸索喪失が全体的に表される(39)ために選択した。本発明者らは、TMEV感染の270日後のSJLマウスにおける軸索は、非感染対照と比較して30.5%少ない(p<0.001)ことを見出した。脳幹NAAレベルと脊髄のT6レベルにおける軸索カウントとの間には、正の相関(r=0.823)が存在することが見出された(8)。
【0186】
ニューロン結合ヒトIgMの単回投与は脳幹におけるNAAレベルおよび脊髄における軸索を保存する:
ヒトニューロン結合IgMがTMEV感染マウスにおけるNAAレベルまたは軸索カウントを変化させる能力を評価した。これにより、TMEV感染マウスを、脊髄軸索の脱落の開始時(感染の90日後)に、ニューロン結合IgMであるsHIgM12またはsHIgM42 100μgずつの単回投与で処置したところ、10週間後に測定したときの胸部脊髄の正常白質における有髄軸索密度が増大することが見出された。
【0187】
感染の90日後におけるマウス10〜15匹の群を、sHIgM12、sHIgM42、対照のヒトIgM、または生理食塩液100μgずつの単回投与で処置した(
図10)。処置前ならびに処置の5および10週間後、各マウスを小型のボア磁石に入れ、脳幹におけるMRSを収集した。10週間後、マウスを屠殺し、脊髄を回収し、プラスチック包埋し、T6レベルで切断した断面をパラフェニレンジアミン(paraphenylamindiamine)で染色して、髄鞘を可視化し、400,000μmの外見が正常な白質を包含する切片1つ当たり6枚の画像を収集し、軸索を自動式でカウントした。2つのニューロン結合IgM(sHIgM12、sHIgM42)のうちのいずれで処置した群においても、NAAレベルは、5週間後および10週間後のいずれにおいても処置前のレベルと比較して増大した。対照のIgMで処置したマウスは低下傾向を示し、生理食塩液で処置したマウスは変化を示さなかった。
【0188】
sHIgM12およびsHIgM42で処置した群のNAAレベルは、それぞれ、9.13および9.3mMまで増大したが、これらの各々は、非感染マウスの12.0mMのレベルを大きく下回った。T6レベルにおける軸索を処置群間で比較した(表2)ところ、sHIgM12またはsHIgM42で処置したマウスは、生理食塩液で処置した群より多くの軸索を含有した(15,198本の軸索と比較して、17,303本および17,771本の軸索:P=0.008およびP<0.001)が、非感染マウスにおいてカウントされた軸索数(21,284本の軸索)より少なかった。
【0189】
TMEVモデルにより証拠立てられる通り、これらの結果は、sHIgM12抗体およびrHIgM12抗体の各々により、軸索の保存を介して機能が改善されることを示した。TMEVモデルでは、sHIgM42抗体により軸索が保存されたが、初期試験の夜間活動の評価では、裏付け可能な変化が観察されなかった。用量範囲探索研究の後、sHIgM42はまた、夜間活動試験における活動の増大も達成することが見出された。
【0190】
脳幹MRSを用いて、脊髄疾患のマウスモデルにおける軸索状態を評価することにより、本発明がさらに検証され、したがって、脳幹におけるNAAは、臨床試験でこれらのヒト抗体を用いるための優れた評価項目として用いられる。
【0191】
sHIgM42およびsHIgM12で処置してNAAレベルが改善されたマウスはまた、胸部中央の脊髄において含有する軸索も増大した。TMEV感染SJLマウス10〜15匹の群を、感染の90日後に、rHIgM22、sHIgM42、sHIgM12、対照のsHIgM39、および生理食塩液100μgずつの単回投与で処置した。処置の10週間後、脊髄を摘出し、胸部中央の切片をPPDで染色してミエリンを可視化した。各マウスから、400,000μm
2の白質を包含する6つの領域をサンプリングし、有髄軸索数をカウントした(1)。T6断面1つ当たりの有髄軸索絶対数の平均±SEMを表2に列挙する。
【0192】
【表2】
【0193】
(実施例6)
ニューロン結合IgMは再ミエリン化を促進することなしに軸索を保存する
希突起膠細胞に結合し、再ミエリン化を促進する複数のヒトIgM(例えば、sHIgM22およびsHIgM46)が同定されている(22、40、41)。下記で示される通り、ニューロン結合IgMは、ニューロン数を増大させ、ニューロン機能を改善するが、明白な再ミエリン化は伴わない。理論に束縛されずに述べると、作用機構は、軸索の直接的な活性化(保護、神経突起伸長)に起因し、かつ/または生得的免疫系または獲得的免疫系を活性化させてニューロンを保護する因子を分泌させることを介すると理解される。上記で提示した結果は、抗体が軸索/ニューロンに対して直接的な効果を及ぼすことを明確に裏付ける。sHIgM12およびsHIgM42を介する軸索保存および/または再成長が測定された同じ脊髄内では、脱髄、再ミエリン化、および炎症の全体が、処置群間で異ならなかった(
図11)。
【0194】
これらの属性は、脊髄の全長に沿って試料を代表する10の脊髄断面の四半部を等級づけすることにより定量化した(6)。rHIgM22処置群(陽性対照)が、予測される再ミエリン化の増大を示したのに対し、sHIgM12およびsHIgM42で処置したマウスは、脊髄の再ミエリン化をほとんど含有しなかった。したがって、TMEVモデルにおける神経欠損が、著明な再ミエリン化を要請することなしに改善され(例えば、IgM12)、さらに、検討された時間枠内では、軸索の保存および/または再成長のために再ミエリン化が必要ではない。
【0195】
(実施例7)
rHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)およびsHIgM42の血清半減期
ヒトIgM、rHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)、およびsHIgM42の半減期を決定するために、200μlの生理食塩液中に100μgのヒトJ鎖を含有するrHIgM12、または100μgのsHIgM42を、正常CD−1マウスの尾静脈へと注射した(
図12)。規定された間隔(15分間、1、4、8、24、48時間)で、マウス3匹ずつの群から、心穿刺を介して血液を回収した。血清を回収し、サンドウィッチELISAを用いて、ヒトIgMミュー鎖の存在についてアッセイした。
【0196】
rHIgM12では、15分後における初回の回収と8時間後における回収との間における半減期が、3.8時間であった。sHIgM42では、15分後における初回の回収と24時間後における回収との間における半減期が、20.5時間であった。これらの値は、マウスにおける半減期を15時間とし(29)、ウサギにおける半減期を90時間とする、再ミエリン化を促進するrHIgM22の半減期を一括する。半減期は、式:k
elim=(ln(c
peak)−ln(c
low))/t
intervalおよびt
1/2=0.693/k
elimを用いて計算した。
【0197】
(実施例8)
放射性標識したヒトモノクローナルIgMは血液脳関門を越える
分子量が百万に近いIgMは、循環から血液脳関門(BBB)を越え、これにより、CNSに入るには大型に過ぎる可能性があることがしばしば受け入れられている(42、43)。しかし、一部のIgMはBBBを越えるという特定の証拠は存在する。
【0198】
正常SJLマウスおよびTMEV感染SJLマウスの組織における
35S標識したrHIgM12の分布を測定した(
図13)。50μgのrHIgM12(1×10
7cpm)を腹腔内投与した。4または24時間後にマウスを生理食塩液で潅流し、組織を迅速に採取し、細断し、シンチレーション液中に溶解させた。非感染マウスの脳および脊髄は、いずれの時点においても放射性標識を含有した。TMEV感染マウスのCNSは、4時間後の時点で非感染マウスの2倍の放射性標識を含有した。これは、24時間後までに4倍に増大した。
【0199】
また、rHIgM12(ヒトJ鎖を伴うrHIgM12、およびヒトJ鎖を伴わないrHIgM12の両方)およびsHIgM42は、正常マウスおよびアルツハイマー病のモデルであるSAMP8マウスにおいてBBBを越えうることも見出された。したがって、
125I標識したヒトIgMを静脈内注射し、2時間後に脳を回収した。これらの抗体の各々は、正常マウスおよび疾患マウスの脳に蓄積される。これらの抗体はまた、IgMを、脳内注射を介して送達した場合であれ、静脈内注射を介して送達した場合であれ、アルツハイマー病のマウスモデルにおける認知障害も可逆化する。
【0200】
(実施例9)
腹腔内送達されたヒトニューロン結合IgMは脱髄した脊髄病変に入り、ニューロフィラメント陽性の軸索に局在化する
同位体で標識した、再ミエリン化を促進するマウスIgMである、SCH94.03についてのHunterによる研究(44)は、オートラジオグラフィーを用いて、放射性標識が、in vivoにおいてTMEV感染マウスの脊髄、とりわけ、微細構造的に希突起膠細胞と同定された細胞に局在化することを裏付けた。
35S rHIgM12による同様のオートラジオグラフィー研究も実施されている。本発明者らは、従来の免疫細胞化学を用いて、脊髄病変内のニューロン結合ヒトIgMを検出した(
図14)。
【0201】
したがって、1.0mgのrHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)、sHIgM42、または市販される対照のヒトIgM(Jackson Immuno Research)慢性脱髄を伴うTMEV感染マウスに腹腔内投与した。4時間後、マウスをパラホルムアルデヒドで潅流し、凍結させた脊髄を縦方向に切片化し、ヒトIgMミュー鎖の存在について免疫染色した。rHIgM12またはsHIgM42を施されたマウスでは、ヒトミュー鎖が、脱髄病変の軸索線維を示唆する並列経路に局在化した。対照のヒトIgMは、病変内にも、非病変脊髄にも見出されなかった。したがって、ニューロン結合ヒトIgMであるrHIgM12またはsHIgM42がTMEV感染マウスにおいてBBBを越えることが明らかとなった。
【0202】
次いで、隣接する脊髄切片を、抗ニューロフィラメント(NF)抗体(SMI−32およびSMI−34、Sternberger)の後、蛍光二次抗体である抗ヒトミュー鎖−FITC抗体および抗マウス−TRITC抗体で免疫標識した。共焦点顕微鏡法は、rHIgM12およびsHIgM42が、線維による経路の形で、および断続的に切断される軸索の神経線維束として、病変内のNF+軸索に共局在化することを裏付けた(
図15)。
【0203】
(実施例10)
疾患の発症時に施された場合、rHIgM12またはsHIgM42はMOGペプチド誘導性EAEを増悪させない
自己反応性のCNS結合IgMを自己免疫が活性な動物に投与することにより、疾患を増悪させうるという憂慮に対処するため、EAEを伴うマウスにおけるrHIgM12およびsHIgM42の効果を調べた。MOGペプチド(200μg)誘導性EAEを伴うC57BL6マウス10匹の群に、rHIgM12、sHIgM42、対照のヒトIgM、または生理食塩液100μgずつの単回静脈内投与を施した。個々のマウスは、それらの臨床スコアが1に到達した(尾の引きずり)時点で処置した。次いで、マウスを、処置群に対して盲検として、1日おきに体重を記録し、臨床スコアを評価する試験実施者が、マウスが免疫化の28日後に到達するかまたは臨死状態となるまで追跡した。
【0204】
体重または平均の臨床スコアにおいて、処置群間の差異は見られなかった(
図16:P=0.14)。加えて、各マウスの脊髄の全体を包含する10の脊髄断面を、脊髄の各四半部における髄膜炎および脱髄の存在について、盲検により評価した(6)。髄膜炎(P=0.825)または脱髄(P=0.766)を伴う四半部の百分率に、処置群間で差異は見られなかった(
図17)。したがって、TMEVモデルにおいて軸索を保護するのに有効なニューロン結合ヒトIgMの単回投与は、EAEによる臨床的欠損を増悪させたり、欠損の進行を加速化させたり、脊髄病態を悪化させたりしないことが見出された。
【0205】
【数1】
【0206】
【数2】
【0207】
【数3】
【0208】
【数4】
【0209】
(実施例11)
ヒトIgM抗体であるrHIgM12は軸索の形成を促進し、微小管を標的とする脂質ラフトと相互作用する
抗体sHIgM12は、初代培養小脳顆粒ニューロンにおける神経突起成長を促進した。本例では、初代海馬ニューロンを用いて、完全ヒト抗体(ヒトJ鎖を有するrHIgM12)が、軸索の形成を促進することを見出した。rHIgM12は、ニューロン膜に結合し、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1のクラスター形成を誘導する。
【0210】
さらに、膜結合rHIgM12は、2つのプールで分布し、1つのプールは脂質ラフトドメインと会合し、他のプールは、細胞骨格に富む洗浄剤に不溶性のペレットと会合する。洗浄剤による抽出の後、rHIgM12は、微小管には共局在化するが、線維状アクチンには共局在化せずに凝集する。共免疫沈降研究は、rHIgM12とβ3−チューブリンとが複合して存在することを裏付けた。これらの結果は、rHIgM12が、微小管細胞骨格にシグナル伝達する膜ドメインをクラスター形成させることにより軸索の形成を規定することを示す。
【0211】
ニューロンは、神経突起成長の制御を介して軸索を発生させる(BarnesおよびPolleux、2009年)。線維状アクチン(F−アクチン)および微小管を包含するニューロンの細胞骨格は、神経突起成長および成長円錐の経路探索において極めて重要な役割を果たす。
【0212】
血清由来抗体は、大スケールの研究に適切でない場合があり、特に、大量に生成させることができず、抗体をもたらす患者から使用のたびごとに単離しなければならない場合は、同等の活性および能力を示す組換え形態の生成が有利である。本研究は、組換えの完全ヒトIgM12抗体(rHIgM12)が、軸索形成を促進し、したがって、培養された海馬ニューロンにおけるニューロンの極性化を駆動することを裏付けた。rHIgM12は、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1を含有するニューロン膜ドメインをクラスター形成させる。
【0213】
スクロース密度勾配の画分化は、ニューロン膜結合rHIgM12が、カベオリン−1を含有する、洗浄剤耐性の軽い画分と会合する1つのプールと、細胞骨格に富むペレットを伴う他のプールとの2つのプールへと分別されることを示した。洗浄剤による生存ニューロンの抽出は、rHIgM12が、微小管と会合することを裏付けた。rHIgM12はまた、β3−チューブリンとも共免疫沈降した。まとめると、rHIgM12は、微小管と会合する膜ドメインに結合することが理解される。表面における基質として存在する場合、rHIgM12は、ニューロン膜における微小管のアンカリングを促進し、これにより、神経突起成長および軸索形成が促される。
【0214】
組換えヒトIgM12(rHIgM12):rHIgM12は、CHO細胞(GibcoBRL、型番:11619)において発現させた。ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症患者12例の血清において発現した主要な抗体の重鎖および軽鎖のコード配列を発現させるプラスミドを、ヒトJ鎖トランス遺伝子と共に、CHO−S細胞へとトランスフェクトした。結果として得られるCHO細胞を、メトトレキサートの用量を増大させて選択し、ELISAを介して測定される抗体を生成させる安定的なクローンを、サブクローニングし、増殖させた。培養物上清に由来するrHIgM12抗体を、クロマトグラフィーを介して、HPLC解析を介して測定される通りに97%まで精製した。
【0215】
細胞の培養および神経突起成長アッセイ:FVBマウスから初代海馬ニューロンを調製した。胎生期15日目の海馬ニューロンをトリプシン−EDTA中で解離させ、ガラス製のカバースリップに結合させたニトロセルロース膜の薄層にコーティングしたポリ−D−リシン(PDL)基質、ラミニンを伴うPDL基質、またはrHIgM12基質上に播種し、2%(v/v)のB27を含有するNeurobasal培地中で増殖させた。ニューロンを播種した12時間後、神経突起成長をアッセイした。ニューロンを4%のパラホルムアルデヒドで固定し、抗β3−チューブリン抗体で染色した。線維状アクチン(F−アクチン)はTexas−Redファロイジンで標識し、核はDAPIで標識した。Neuron Jソフトウェアを用いて神経突起長を測定し、Excel(Microsoft)で処理し、Prism(GraphPad)で統計学的に解析した。ステージ3のニューロンとは、Tau1染色を介して軸索として決定される最も長い神経突起(Dottiら、1988年)が、2番目に長い神経突起の長さの少なくとも2倍である、複数の神経突起を伴うニューロンとして定義した。Tau1は、軸索の遠位部分において非対称的に濃縮された。これに対し、ステージ2のニューロンは、複数の対称的な神経突起を有した。
【0216】
初代培養ニューロンの免疫染色、免疫沈降、およびスクロースの密度勾配による画分化:in vitroにおいて1〜3日間(DIV)にわたり培養した海馬ニューロンを、4%のパラホルムアルデヒドで固定して、0.2%のTriton X−100で透過処理した後に免疫染色した。Olympus製の正立顕微鏡を用いて画像を収集し、Photoshop(Adobe)を用いて処理した。rHIgM12の分布は、不連続的なスクロース勾配中の超遠心分離を介して決定した。略述すると、rHIgM12を、DIV7の生存皮質ニューロンに4℃で30分間にわたり結合させ、次いで、氷冷溶解緩衝液(50mMのTris.HCl、pH 7.4、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1%のTriton X−100、およびプロテアーゼ阻害剤によるカクテル)中で30分間にわたり溶解させた。ニューロン溶解物を、等容量の100%(w/v)スクロースと混合した。混合物を遠心分離管に移し、35%のスクロース8mlと5%のスクロース3.5mlとを随時重ね合わせた。4℃、6画分(各画分2mlずつ)、2×10
5gで20時間にわたり遠心分離した後、勾配の最上画分から回収した。各画分およびペレットを、SDS−試料緩衝液中で溶解させ、ウェスタンブロット法にかけた。
【0217】
rHIgM12を細胞骨格タンパク質と共免疫沈降させるため、DIV7の生存皮質ニューロンを、4℃で30分間にわたりrHIgM12により処置し、0.5%のNP−40を含有する緩衝液中で溶解させた。rHIgM12は、プロテインL−アガロースビーズにより捕捉し、β3−チューブリンは、プロテインG−樹脂(Thermo)により捕捉した。二重標識するために、生存ニューロンを固定した後、氷上でrHIgM12により染色し、0.2%のTriton X−100で透過処理した。生存ニューロンの抽出および固定は、60mMのPipes、25mMのHepes、5mMのEGTA、1mMのMgCl
2、4%のパラホルムアルデヒド、および0.1%のTriton X−100を含有する緩衝液中で実施した。
【0218】
この例における抗体および他の試薬:抗β3−チューブリン抗体(Promega);抗アクチン、EDTA、ポリ−D−リシン、メチル−β−シクロデキストリン、およびフィリピン(Sigma);抗Tau1抗体、抗カベオリン−1抗体、および抗トランスフェリン受容体抗体(Millipore);Texas Red−ファロイジン、コレラ毒素B、Neurobasal培地、およびB27(Invitrogen);プロテアーゼ阻害剤錠(Roche)。
【0219】
組換えヒトIgMであるrHIgM12は軸索形成を促進した:
IgMのニューロンの分化および根底的な分子機構に対する効果をさらに理解するために、組換えrHIgM12を用いて、培養された海馬ニューロンによる神経突起成長アッセイを実施した。海馬ニューロンは、3つの分化段階を経て軸索を形成する(Dottiら、1988年)。複数の過程が細胞体から始まる。急速に成長しつつある神経突起は、その後、そのうちの一方が軸索へと分化し、他方が樹状突起へと分化し、これは、それぞれ、Tau1およびMAP2の示差的分布を介して同定することができる(Lewisら、1989年;(KanaiおよびHirokawa、1995年)。本発明者らは、基質として存在する場合のrHIgM12が、ニューロンの分化を実質的に促進することを見出した。播種後12時間以内に、rHIgM12上で成長しつつある海馬ニューロンが複数の神経突起を発生させ、それらのうちの1つは、近傍の神経突起と比較してはるかに長かった。これに対し、ポリ−D−リシン(PDL)上に播種されたニューロンは、複数の対称的な神経突起を示した(
図18A、B)。
【0220】
神経突起長を測定した後、本発明者らは、rHIgM12上に播種されたニューロン(n=86)の全神経突起長が、PDL上に播種されたニューロン(n=74)と比較して有意に長い(195.8μm対150.7μm:p=0.0056)ことを見出した(
図18C)。最も長い神経突起長は2倍を超えた(117.1μm対51.8μm:p<0.0001)(
図18D)が、2番目に長い神経突起長には有意な差異が見出されなかった(38.7μm対33.3μm:p=0.0782)(
図18E)。rHIgM12上で成長しつつあるニューロンが保有する初代神経突起は少数であり(2.9対4.1:p<0.0001)(
図18F)、それらの大半の表現型は、ステージ3のニューロンであった(rHIgM12上の72%対PDL上の18%)(
図18G)。これらの結果は、基質として存在する場合のrHIgM12が、ニューロンの分化を促進することを示した。
【0221】
ニューロン分化に特徴的な特徴は、極性化された軸索成長および樹状突起からの分離である。本発明者らは、rHIgM12が1つの有意に長い神経突起を伴う神経突起伸長を促進することを観察した。ステージ3のニューロンに由来するこれらの最も長い神経突起が、軸索へと発生することをさらに検証するため、異なる基質上に播種された海馬ニューロンを、抗Tau1抗体および抗MAP2抗体で染色した(
図19)。Tau1染色は、PDL上で成長したニューロンにおいては弱かった(
図19A、D)が、PDL−ラミニン(
図19B、E)またはrHIgM12(
図19C、F)上に播種されたニューロンにおいてははるかに強かった。ラミニンは、ニューロン分化および軸索形成についての古典的な基質であり(Chenら、2009年)、陽性対照として用いた。
【0222】
PDL上で成長したニューロンによるTau1強度(
図19D)を比較すると、PDL−ラミニン(
図19E)またはrHIgM12(
図19F)上に播種されたニューロンにおけるTau1の分布は、最も長い神経突起の遠位部分において非対称的に濃縮され、はるかに大きかった。これに対し、MAP2は、全ての神経突起の近位部を染色した(
図19A2〜C2)。この結果は、rHIgM12上およびラミニン上の両方で成長したステージ3のニューロンに由来する最も長い神経突起が軸索であることを示した。これらの研究は、rHIgM12が複数のニューロン型に由来する神経突起成長を支持し、rHIgM12が軸索形成を駆動することを裏付ける。
【0223】
rHIgM12はニューロン膜のマイクロドメインのクラスター形成を誘導した
基質としてのrHIgM12上で成長しつつある海馬ニューロンは、分化の増強を示した(
図18および19)。しかし、本発明者らは、rHIgM12を培養液に適用しても、rHIgM12が神経突起成長を誘導することを観察しなかった(データは示さない)。この観察は、rHIgM12は、その機能を果たすために、細胞外マトリックス分子として提示するように要請されることを示唆する。rHIgM12−ニューロン膜間相互作用をさらに理解するために、生存ニューロンを、まず、rHIgM12で処置し、次いで、固定し、それぞれ、コレステロールまたはガングリオシドであるGM1に結合する、フィリピンまたはコレラ毒素B(CTB)で二重染色した(ShogomoriおよびFuterman、2001年)。rHIgM12、CTB、およびフィリピンは、非処置の対照ニューロンの細胞表面を均等に標識した(
図20A)。これに対し、37℃のrHIgM12による処置は、30分後にニューロン膜の再組織化を誘導した(
図20B、C)。第1に、rHIgM12は、非処置のニューロン(
図20A)、またはニューロン膜に結合しない対照のIgM抗体で処置したニューロン(データは示さない)では観察されない、膜における「パッチ」様構造(
図20B1、C1)へと凝集した。第2に、クラスター形成したコレステロール(
図20B2)およびGM1(
図20C2)のいずれもが、細胞体、神経突起軸、および成長円錐のニューロン膜において形成された。第3に、凝集したrHIgM12は、とりわけ、成長円錐の中央ドメイン(
図20B〜C、高拡大率)ではクラスター形成したが、成長円錐の末梢ではクラスター形成しなかった、コレステロール(
図20B3)またはGM1(
図20C3)と共局在化した。これらの結果は、液浴で適用したrHIgM12が、神経突起/軸索伸長は支持しないが、ニューロン膜の再構成を誘導することを示した。基質として提示された場合のrHIgM12は、膜分子を、rHIgM12−ニューロン膜間接触部位へと動員する結果として、方向付けのシグナル伝達を生成させうる可能性がある。
【0224】
脂質ラフトに結合するrHIgM12
低温状態における非イオン性洗浄剤による抽出に基づく生化学的研究を用いてコレステロールおよび糖スフィンゴ脂質を含有する脂質ラフトの存在が裏付けられている(ChichiliおよびRodgers、2009年)。しかし、ナノスケールのサイズは光学顕微鏡の解像度を超えるため、脂質ラフト内の形態的情報は限定されたものである(LingwoodおよびSimons、2010年)。rHIgM12が膜のクラスター形成を誘導し、コレステロール含有膜ドメインおよびGM1含有膜ドメインと共局在化する(
図20)ことの観察により、rHIgM12が脂質ラフトドメインと会合する可能性が立ち上がった。
【0225】
ニューロン膜は融点(Tm)が高いコレステロールおよび糖スフィンゴ脂質に富む(Samsonovら、2001年)ので、Tmを下回る膜温度の低下は、37℃ではより動的な脂質ラフトおよびその関連分子の可視化を促進しうる。この仮説を検証するために、生存ニューロンを4℃まで冷却した後、rHIgM12で染色した。rHIgM12が均等に結合した、ニューロンを37℃で固定する場合(
図21A)と異なり、4℃では、rHIgM12により、はるかに大型の点状構造が標識される。加えて、ニューロンの成長円錐も収縮した(
図21B)。
【0226】
本発明者らは、脂質ラフトがコレステロール依存性の膜ドメインであり、コレステロールの枯渇によりそれらの構造が破壊されるという事実を利用した(ChichiliおよびRodgers、2009年)。培養された海馬ニューロンを、まず、メチル−β−シクロデキストリン(MβCD)で処置してコレステロールを枯渇させ、次いで、4℃まで冷却するのに続いて、固定した後、rHIgM12およびCTBで染色した(Koら、2005年)。コレステロールを枯渇させ、CTB標識したGM1と共局在化させた後、rHIgM12は、ニューロン膜における点状構造に結合した(
図21C)。GM1は脂質ラフトマイクロドメイン内に常在し、rHIgM12により、GM1のクラスター形成が誘導される(
図20)ため、本発明者らは、rHIgM12が、ニューロン膜のコレステロールからは独立するGM1含有マイクロドメインに結合することを結論付けた。これらの実験により、脂質ラフトが、膜内に均等に挿入される、異なる形態的構造として存在する(
図20Aおよび
図21A)か、または凝集して大型のドメインを形成する(
図20BおよびC、
図21BおよびC)ことが確認された。これらの結果は、rHIgM12が、他の分子との生物物理的相互作用に応じて、ラフトドメインと非ラフトドメインとの間を往復する分子(複数可)に結合することを示す。
【0227】
本発明者らはさらに、rHIgM12が脂質ラフトに結合するという仮説も調べた。脂質ラフトは、低温において、非イオン性洗浄剤耐性膜(DRM)内に局在化する(Samsonovら、2001年)ため、4℃で調製した皮質ニューロン溶解物におけるrHIgM12の局在化を解析した。ニューロン溶解物を、抗ヒトIgM二次抗体でブロッティングしたところ、膜結合rHIgM12が、ペレットおよび上清のいずれにおいても見出されるのに対し、ニューロンに結合しない対照のIgM抗体は、洗浄溶出物だけに見出される(
図22A)ことが明らかとなった。これらの観察は、rHIgM12が、一方は上清中の「洗浄剤可溶性」画分に局在化し、他方は「洗浄剤不溶性」ペレットと会合する、2つのプールへと分別されることを示した。
【0228】
第2の実験では、皮質ニューロンを、まず、rHIgM12で標識し、次いで、4℃のスクロース密度勾配を介して画分化した。異なる画分のブロッティングは、rHIgM12が、脂質ラフトのマーカーであるカベオリン−1もまた含有する軽い画分に局在化するが、トランスフェリン受容体に富む非ラフト画分には局在化しないことを示した(
図22B)。しかし、この厳密な画分化工程(1%のTriton X−100および2×105gにおける超遠心分離)においてもなお、一部のrHIgM12は、主に洗浄剤不溶性細胞骨格を含有するペレット中に検出された(
図22B)。主に洗浄剤不溶性細胞骨格を含有するチューブリン(Soriceら、2009年)およびアクチン(LevitanおよびGooch、2007年)のいずれもが存在するが、ラフト中ではβ3−チューブリンだけが検出され、アクチンの大半は、非ラフト画分へと移行した(
図22B)。これらのデータは、一方は脂質ラフト中に存在し、他方はペレット中に存在する、膜結合rHIgM12の2つのプールの存在を示した。
【0229】
rHIgM12は微小管と会合する
本発明者らのデータは、凝集したrHIgM12が、微小管が優越する細胞体、神経突起軸、および成長円錐の中央ドメインなどの領域(
図20)に局在化することを示した(ForscherおよびSmith、1988年)。膜結合rHIgM12が、これらのいずれもがβ3−チューブリンを含有する脂質ラフト画分およびペレット画分へと分別されたという事実(
図22B)と併せて述べると、これらの知見は、rHIgM12が、細胞骨格の構成要素(複数可)と会合しうることを示唆する。この仮説を検証するために、海馬ニューロンを、rHIgM12で処置して、膜の再構成を誘導し、次いで、37℃で0.1%のTriton X−100を含有する4%のパラホルムアルデヒドにより同時に固定および抽出した。抽出後、rHIgM12で標識した洗浄剤不溶性膜の点が、神経突起軸に束ねられた微小管束に沿って並んだ(
図23A2)。成長円錐では、rHIgM12が、脱束生微小管により占められる中央ドメインに主に局在化したが、F−アクチンに富む成長円錐末梢には局在化しなかった(
図23A3およびA4)。これらの結果は、rHIgM12が微小管と会合しうることを示した。
【0230】
本発明者らは、rHIgM12が、GM1と共局在化することを見出した(
図21C)。GM1は、小脳顆粒ニューロンの膜におけるチューブリンによりアンカリングされ、架橋形成後に抗チューブリン抗体によりプルダウンされることが示された(Palestiniら、2000年)。したがって、rHIgM12が、チューブリンを含有する膜のマイクロドメインと会合することが可能である。この仮説をさらに検証するため、4℃でrHIgM12により処置した生存皮質ニューロンに由来する細胞溶解物により、改変プルダウン実験を実施した。本発明者らは、rHIgM12およびβ3−チューブリンの両方が、互いに共免疫沈降する(
図23B)ことから、rHIgM12とβ3−チューブリンとが、複合体として存在すると示唆されることを見出した。IgM分子は五量体構造を有し、分子量を約900kDaとする。rHIgM12が、ニューロン溶解物中でチューブリンまたは微小管と直接会合する可能性を除外するため、rHIgM12に結合するが、β3−チューブリンを発現するN2A神経芽細胞腫細胞によりプルダウンアッセイを実施した(
図25A)。rHIgM12は、β3−チューブリンと会合することも、ペレット中に存在することもなかった。rHIgM12は、N2A神経芽細胞腫細胞溶解物の上清だけで検出された(
図25B)。まとめると、これらの結果により、脂質ラフトが、rHIgM12と、その抗原と、微小管との会合を媒介することが確認された。
【0231】
本明細書のデータは、基質として存在する場合の完全ヒト組換えIgMであるrHIgM12が、初代培養海馬ニューロンにおける軸索成長を促進することにより、ニューロンの極性化を駆動することを裏付けた(
図18および19)。rHIgM12は、ニューロン表面に凝集し、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1のクラスター形成を誘導した(
図20)。rHIgM12は、GM1と共局在化する(
図21)。スクロース勾配によるニューロン溶解物の画分化は、膜結合rHIgM12が、一方は脂質ラフトと会合し、他方はペレットと会合する2つのプールへと分別されることを示した(
図22)。生存ニューロンを非イオン性洗浄剤で抽出することにより、本発明者らはさらに、膜結合rHIgM12が、微小管と共局在化し、β3−チューブリンと共免疫沈降することを示した(
図23)。
【0232】
前出は、rHIgM12が、脂質ラフトマイクロドメインに結合し、これらと相互作用することを示し、さらに、rHIgM12会合ラフトドメインが、微小管へのシグナル伝達を担うことも示す。結果として、rHIgM12は、軸索成長を駆動する微小管の安定化を媒介する。
【0233】
この例は、rHIgM12が、初代海馬ニューロンの軸索成長を選択的に促進することを裏付けた(
図18および19)。
【0234】
近年、本発明者らは、ヒト血清IgMであるsHIgM12が、広範な軸索変性および軸索喪失を発症する多発性硬化症の動物モデルの神経機能を改善したことを示した(Rodriguezら、2009年)。これらの研究は、HIgM12が、軸索成長を促進することによりその機能を果たすという概念を裏付ける。
【0235】
ニューロンは、神経突起伸長を制御する制御された内因性のプログラムを介して軸索を特化させる。発生しつつあるニューロンは、複数の神経突起を誘発する。神経突起のうちの一方は軸索へと分化し、他方は樹状突起へと分化する。近傍の神経突起は、互いに競合し合う。また、伸長速度も最も速い神経突起である、最も長い神経突起が、まず対称的な神経突起伸長を遮断して軸索へと発生するのに対し、他の神経突起は伸長がはるかに遅く、後に樹状突起へと発生する(Dottiら、1988年;GoslinおよびBanker、1989年)。F−アクチンと微小管とは、神経突起伸長および軸索形成に関与する2つの主要な細胞骨格である。軸索の特化についての本発明者らの理解も、伸展しつつある。主に成長円錐の末梢に局在化するF−アクチンが主要な役割を果たすと考えられていた。神経突起軸において優越し、成長円錐の中央ドメインに局限される微小管は、F−アクチンに対して二次的であると考えられていた。近年、微小管はまた、軸索成長において極めて重要な役割も果たすことが見出された。微小管は、成長円錐のアクチンメッシュワークを動的に探索することが可能である。微小管の安定化は、軸索形成を誘導するのに十分である(WitteおよびBradke、2008年)。
【0236】
本発明者らのrHIgM12とβ3−チューブリンとが共免疫沈降したという結果、rHIgM12が微小管と共局在化したという結果、およびrHIgM12が洗浄剤による抽出後にペレット中に存在したという結果は、微小管を、中心的な役割を果たすものとして裏付けるだけではない。加えて、このデータは、当技術分野において、微小管がニューロン膜と直接相互作用することの最初の証拠ももたらした。これらの知見は、rHIgM12が、細胞外シグナルを微小管へと伝達する膜貫通カスケードと相互作用するかまたはこれに結合するという概念を裏付ける。微小管が、例えば、成長円錐において、増進および退縮する動的特性により、それらがニューロン膜の運動を駆動することが可能となる(DentおよびKalil、2001年)。安定化した微小管は、ニューロン膜にアンカリングする。動的微小管および安定化した微小管の存在、ならびに/またはこれらの2つの状態の間の移行により、神経突起成長が軸索を特化させる過程が組織化される。したがって、IgM12は、微小管の安定性をもたらすことにより、軸索の伸長を増強する。
【0237】
脂質およびタンパク質は、持続的に細胞膜へと組み込まれ、次いで、マイクロドメイン、いわゆる脂質ラフトへと分割される。膜ラフトは一般に、ステロールおよびスフィンゴ脂質で濃縮された、ナノスケール(10〜200nmの)であり、異質で、動的な膜コンパートメントとして定義される(LingwoodおよびSimons)。
【0238】
本発明者らは、rHIgM12が、脂質ラフトに結合することを提起する。第一に、本発明者らは、rHIgM12が、ニューロン膜に凝集し、コレステロールまたはガングリオシドであるGM1のクラスター形成を誘導することを観察した(
図20)。これらの結果は、rHIgM12が、コレステロールおよびGM1を含有する脂質ラフトドメインに結合することを示す。低分子であるラフトは、脂質および/またはタンパク質と相互作用しうる。個別の微量のラフトは、シグナルを統合し、シグナル伝達経路の強度および振幅を制御する、高分子のプラットフォームを安定化させ、これらに融合することが可能である。五量体構造を保有するIgM抗体は、隣接する抗原(受容体)に架橋形成し、かつ/または抗原を架橋形成または相互作用を増強するのに十分な程度に近接させることにより、シグナルを増幅しうる。したがって、架橋された抗原および会合したシグナル伝達分子は、クラスター形成しうる。第二に、本発明者らは、海馬ニューロンを4℃まで冷却したところ、rHIgM12が、ニューロン膜上のはるかに大型の斑点に結合することを示した(
図21)。コレステロールおよびスフィンゴ脂質は、融点が高い(Tm)。Tmを下回る温度においてニューロンを処置すると膜の動態が減殺され、これにより、凝集した脂質ラフトの可視化が促進される。rHIgM12が、コレステロールを枯渇させた後においてもなおGM1と共局在化するという知見(
図21)と併せると、これらの結果は、rHIgM12が、GM1と共局在化するニューロン膜の分子に結合し、これらと相互作用することを示唆する。培養されたラット小脳顆粒ニューロンをシアリダーゼ処置するとsHIgM12の結合が消失するという本発明者らによる以前の知見は、sHIgM12が結合したエピトープが炭水化物であることを示唆するが、正確な識別は明らかでない(Warringtonら、2004年)。第三に、ニューロン溶解物をスクロースにより画分化した後、膜結合rHIgM12は、脂質ラフトマーカーであるカベオリン−1もまた含有する軽い画分へと局在化した。まとめると、本発明者らの結果は、rHIgM12が脂質ラフトに結合するという仮説を裏付ける。
【0239】
ニューロン膜の外葉から細胞内の細胞骨格へのシグナルカスケードは、軸索の特化にとって中心的である。rHIgM12の凝集物は、微小管が優越し、線維状アクチンは優越しない(
図23)、神経突起軸および成長円錐の中央ドメインへと分配された(
図20)。rHIgM12の凝集物の一部は、洗浄剤不溶性であり、洗浄剤による抽出の後、束生微小管の束に局在化した(
図23A)。これらの観察は、脂質ラフトと会合するプールとは異なりうる、rHIgM12結合分子の別のプールの存在を示す。スクロース画分化研究により、洗浄剤不溶性ペレット中に局在化するrHIgM12会合分子のプールが存在し(
図22B)、これは、
図23Aで検出された微小管と共に局在化するプールでありうることがさらに確認された。
【0240】
これらの結果は、rHIgM12のうちの一部が、細胞骨格成分(複数可)、おそらくは微小管と会合することを裏付けた。上清中の「洗浄剤可溶性」分子と会合する(
図22Aおよび
図23B)rHIgM12が、β3−チューブリンとも共免疫沈降した(
図23B)という知見は、rHIgM12結合分子(複数可)と、β3−チューブリンとが、脂質ラフト中に複合体として存在しうることを示す。しかし、rHIgM12が結合しないN2A神経芽細胞腫細胞において、rHIgM12は、β3−チューブリンをプルダウンしなかった(
図25)ため、rHIgM12が、β3−チューブリンと直接相互作用することは可能ではない。したがって、細胞骨格および脂質ラフトの両方に会合するrHIgM12は、チューブリンの近傍に局在化する分子に結合する。この概念は、rHIgM12が、GM1と共局在化するという観察(
図21C)、およびGM1が架橋形成反応後において抗チューブリン抗体によりプルダウンされたという観察によりさらに強化された(Palestiniら、2000年)。
【0241】
脂質ラフトドメイン内のrHIgM12結合分子は、神経突起成長過程および軸索伸長過程の間常に細胞骨格へと組み込まれうる。この仮説は、rHIgM12が、成長円錐領域では中央ドメインに凝集し(
図3および6A)、37℃で洗浄剤不溶性であった(
図23A)という知見により裏付けられる。まとめると、HIgM12は、HIgM12から微小管へのシグナル伝達を媒介する脂質ラフトに結合し、この動態に影響を及ぼすことが開示される。
【0242】
F−アクチンがrHIgM12誘導性シグナル伝達に関与するかどうかは明らかでない。アクチンおよびアクチン結合タンパク質の両方が、脂質ラフトと会合することを示す筋の証拠は多い(LevitanおよびGooch、2007年)。アクチン線維と微小管とは、ニューロンもまた包含する協調的な細胞運動において活発に相互作用する(Rodriguezら、2003年)。したがって、アクチンはまた、rHIgM12誘導性シグナル伝達において役割を果たすことも可能である。β3−チューブリンと共に、少量のアクチンが、rHIgM12によりプルダウンされた(
図26B)。したがって、rHIgM12は、アクチンおよびβ3−チューブリンの両方を含有する脂質ラフトに結合する。
【0243】
しかし、ニューロンを4℃で処理したところ、rHIgM12で標識された点が成長円錐の最外縁部にとどまったのに対し、F−アクチンのネットワークは成長円錐の末梢から収縮した(
図26A)。スクロース勾配による画分化の後、アクチンは主にラフト以外の画分に局在化し、洗浄剤不溶性ペレット中には少量のアクチンだけが検出された(
図22B)。これらの観察は、F−アクチンが極めて動的であり、低温状態において、かつ/または洗浄剤抽出を介して、その大半が脱重合化することを示す。したがって、アクチンが、rHIgM12を介するシグナル伝達に関与しうる。
【0244】
本発明者らは、ヒトIgMであるrHIgM12が、脂質ラフトに結合し、これらを認識すること、および微小管が下流の標的のうちの1つであることを結論付ける。rHIgM12は、基質として提示される場合に限り、軸索の伸長を促進する。基質としてのrHIgM12を固定化し、そのニューロン膜との相互作用に制約した。モルフォゲン誘導性シグナル伝達においてしばしば観察される通り、固定化されたrHIgM12は、ニューロン膜にわたりシグナル勾配を創出した可能性がある(Schmittら、2006年)。これに対し、液浴によるrHIgM12の適用は、脂質ラフトのランダムなクラスター形成(
図20)を促進しうるに過ぎず、対称的な神経突起成長を遮断し、軸索の伸長を増強するのに十分ではありえない。略述すると、本発明者らの結果は、
図24で提起したモデルを裏付ける。ニューロン膜は、両方ラフトラフトマイクロドメインおよび非ラフトマイクロドメインを含有する。ラフトドメインの2つのプールが存在し、それらのうちの1つは微小管と会合する(
図24A)。2)rHIgM12は、ラフトドメインに結合し、クラスター形成させ、これにより、微小管の安定化および膜へのアンカリングが促進される(
図24B)。3)成長円錐では、rHIgM12により誘導されたラフトのクラスター形成が、成長円錐の末梢の中央ドメインへの移行、軸索形成を特化させる対称的な神経突起成長の遮断を増強しうる(
図24C)。
【0245】
【数5】
【0246】
【数6】
【0247】
(実施例12)
脊髄損傷に有益なヒトモノクローナル抗体についてのナノ細孔光学バイオセンサーアッセイ
脊髄損傷(SCI)後における軸索の保護および修復は、運動ニューロンの喪失および永続的な身体障害を防止するのに有効な戦略としての大きな可能性を保持する。ニューロンの保護は、傷害後における軸索の損傷を防止し、軸索の修復を促進するために標的化される栄養因子を用いて達成されている。これらの分子は主に、特異的な低分子である神経栄養因子の標的化に焦点を当てるin vitro系に基づく選択戦略を用いて同定された。
【0248】
天然の自己反応性モノクローナル抗体は、損傷および疾患の複数のモデルを用いて、CNS細胞における有益な生物学的機能を裏付けている。抗体を介するニューロン生存の促進、軸索の再生、および機能回復が、マウスモノクローナルIgMであるIN−1を用いて、in vivoにおいて裏付けられている(Bregman、1995年;CaroniおよびSchwab、1988年)。同様の結果が、CNS損傷に先立つ脊髄ホモジネート(SCH)の免疫化を用いて得られた(Ellezam、2003年;Huang、1999年)。
【0249】
IgM12および再ミエリン化抗体IgM22を含めたニューロン結合ヒト抗体による本発明者らのデータに基づき、ニューロン生存および機能を促進することにより軸索を損傷から保護し、SCIなどのCNSの損傷および/または疾患を処置するのに有益なヒトモノクローナル抗体の相互作用が、病理学的/生理学的状態下における表面の細胞質膜タンパク質−脂質二重層間相互作用に依存することが開示される。
【0250】
神経傷害または損傷(例えば、SCIにおける)後においてニューロンの生存を促進するか、またはニューロンを傷害または死滅から保護する結果として、各症例において神経機能の保存をもたらすヒト抗体を、病理学的/生理学的表面の細胞質膜タンパク質−脂質二重層を維持する技法を用いて評価し、特徴付け、かつ/または同定した。
【0251】
本研究において、本発明者らは、タンパク質−脂質二重層表面プラズモン共鳴(SPR)センサーを用いて、表面におけるヒトモノクローナル抗体の結合相互作用の反応速度を決定する。ヒトモノクローナル抗体は、脊髄損傷後における齧歯動物に由来するex vivoの組織切片の脊髄病変における結合を用いて特徴付けるかまたは同定する。次に、齧歯動物の脊髄挫滅損傷モデルを用いて、ヒト抗体が、in vivoにおいてニューロンの生存、神経突起伸長、または再ミエリン化を促進する結果として、病態を軽減し、神経機能を改善する能力をさらに評価する。
【0252】
新規のSPR脂質二重層センサーは、表面のタンパク質−脂質間における、有益なヒトIgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーの特徴付けを可能とする迅速な無標識法を提供する。この表面プラズモン共鳴(SPR)センサー法は、生理学的な平面的脂質二重層と組み合わせた金属膜における周期的なナノ細孔アレイに基づき開発された。SPR法は、迅速な無標識によるIgM抗体の関与性の抗原との結合反応速度および結合アフィニティーの特徴付けを可能とした。
【0253】
小さな差異を定量化するのに重要な結合反応速度は、開発時におけるリード分子を選択する根拠がもたらし、in vivoにおける治療用分子の用量および効力のいずれに対しても影響を及ぼす。SPRは、業界環境および研究環境で標準的な方法として受容されており、これにより、典型的には、可溶性結合パートナー対の間の分子的相互作用が特徴付けられる。しかし、この技法は、膜結合抗原の必要に適合し始めたばかりである。SPRセンシングにおいて用いられる金基質は、脂質膜を支持して形成するのには適さない。さらに、金表面と直接接触する膜タンパク質は、それらの機能性を喪失することが多い。しかし、周期的なナノ細孔アレイで穿通された金薄膜を用いる新規のナノ細孔センシング構築法の開発は、これらの難題を克服している(例えば、
図27を参照されたい)。各ナノ細孔は、ガラス製の基質上に配置され、微小なウェルを形成して、支持される脂質膜を閉じ込める一方、周囲の金膜は、SPR効果をもたらして、分子の膜への結合を動的にモニタリングする(
図27B)。力学的安定性を維持し、両面を緩衝液に取り囲ませながら、ナノ細孔上に薄い脂質二重層を懸濁させうるので、金膜に圧し延ばされたナノ細孔アレイにより、固有の形状がもたらされる(
図27B)。
【0254】
これにより、膜タンパク質を、金によるナノ細孔アレイのSPRセンシング能と継ぎ目なく統合することができ、これにより、それらの天然状態をより緊密に模倣する環境におけるそれらの機能性が維持される。さらに、自立的な脂質二重層に組み込まれた膜タンパク質は、両面からの接近が容易となりうることが、この手法を、細胞表面における抗原−抗体間結合が、結果として細胞シグナル伝達をもたらす機構を研究するのにより魅力的なものとしている(
図27B)。このSPR脂質二重層センサーは、表面のタンパク質−脂質間における、治療用ヒトIgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーを評価し、同定し、特徴付けるのに用いられる迅速な無標識法を提供する。
【0255】
このセンサープラットフォームは、脊髄損傷の動物モデルにおける試験ために、表面のタンパク質−脂質間における、治療用ヒトIgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーを特徴付ける。本発明者らは、小脳組織およびCNS内の細胞の固定されない「生存」表面への結合を介して同定される特定のIgM抗体を広範に特徴付けた。これらのIgM抗体(IgM22およびIgM46により例示される)は、in vitroにおいてカルシウム流を刺激し、in vivoにおいて再ミエリン化を促進した。同じ基準に基づき、Mayo Clinicにおけるタンパク異常血症の血清バンク試料をスクリーニングすることにより、ヒト抗体が同定されている。さらなるヒトIgM抗体(本明細書では、IgM12およびIgM42により例示される)は、in vitroにおいてニューロンの表面に結合し、神経突起成長を促進し、ニューロンの死滅を防止した。
【0256】
CNS損傷およびCNS疾患についての複数のマウスモデルに由来する、固定されていない「生存」皮質切片を用いたところ、ニューロン結合抗体は、特定のCNS細胞に対する特異的免疫反応性、損傷の構造、および疾患の病態を呈示した。
【0257】
天然のヒトモノクローナル抗体は、損傷および疾患についての複数のモデルに由来するCNS細胞において有益な生物学的機能を強化することが示されている。ヒトモノクローナル抗体は、小脳ニューロン、皮質ニューロン、網膜神経節ニューロン、および脊髄ニューロンを含めた培養物中の多種多様なニューロンの表面に結合する(例として挙げると、ヒト抗体IgM12およびIgM42)。これらの抗体は、CNSニューロンからの神経突起伸長を誘導し(
図28)、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害を凌駕する(Warringtonら、2004年)。
【0258】
in vitroにおける研究は、ヒトモノクローナル抗体の、ニューロン表面の細胞膜への結合を裏付けている。特徴的な結合が0℃で均一となるのに対し、表面の再構成形態である点状構造は15℃で均一となる(
図29)。細胞表面における結合は、シグナルカスケードを誘発するシグナル伝達分子と会合してクラスター形成する膜のマイクロドメインに特徴的である(Howeら、2004年)。
【0259】
ヒトモノクローナル抗体は、脊髄組織に入り、静脈内投与の4時間後に損傷部位に蓄積される(
図30)。ビブラトームによる脊髄切片に対して実施する免疫細胞化学により、ニューロン結合抗体を投与した後の病変内にはヒトIgMが検出されるが、対照のヒトIgMを投与した後の病変内にはヒトIgMが検出されない。慢性脊髄疾患を伴うマウス(TMEV感染マウス)に、腹腔内を介してsHIgM42 0.5mgを施し、4時間後に脊髄を摘出し、脊髄断面におけるヒトIgMの存在を検出した(
図30)。sHIgM42を施されたマウスに由来する脊髄の損傷領域は、蛍光タグ付けした抗ヒトIgMに結合する並列線維を示す(
図30A)。対照のヒトIgMを施されたマウスに由来する脊髄の損傷領域は、ヒトIgMを含有しない(
図30B)。
【0260】
ヒトモノクローナル抗体は、Mayo Clinicのタンパク異常血症血清バンクに由来する試料をスクリーニングするための生物学的機能アッセイを用いて同定した。40年間にわたり収集された115,000例の血清試料は、単クローン性免疫グロブリン血症を伴う患者に由来する高濃度のモノクローナル抗体を含有する。本発明者らは、動物モデルにおいて再ミエリン化促進活性を有する組換えヒトIgM22(Mitsunaga、2002年;Warrington、2000年)を合成し、調べた。
【0261】
一実施形態では、本実施例により、ヒトSCIまたはCNSのニューロンを露出させる脱髄性状態などの神経変性状態、神経傷害および/または損傷における治療適用、予後診断適用、診断適用、および/または予防適用に有用なGMP品質のモノクローナル抗体を生成させる。
【0262】
これらの研究はさらに、外傷性SCI後においてニューロンの生存を促進する結果として、神経機能の保存をもたらすヒトIgM抗体も特徴付けて評価する。SCI後における行動学的試験および軸索数の形態的測定を評価し、神経機能の内因性保存と神経機能の抗体を介する保存との差異を決定する。SCI後において抗体対照と比較した軸索保護抗体および軸索伸長抗体による処置を用いて、神経機能保存の差異を、特異的抗体を介する活性について特徴付ける。
【0263】
細胞膜タンパク質−脂質二重層を含有する膜小胞を、生理学的条件下で細胞から単離する。SPRセンサーのナノ細孔を、正常CNSおよび脊髄損傷組織から単離されたニューロン、神経膠、シナプトソーム、およびミエリン膜の微小胞調製物を用いてコーティングする。ヒトモノクローナル抗体血清試料および組換え抗体試料をスクリーニングして、特定の膜の種類の結合反応速度を決定する。
【0264】
SPRセンサーを用いて確認される通り、生理学的条件下で、凍結されず固定されていない「生存」細胞および「生存」組織表面の細胞膜に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体を、SCI後における、凍結されず固定されない病理学的「生存」組織を用いて、特異的結合について調べる。脊髄病変への結合を裏付けるヒトモノクローナル抗体を、齧歯動物のSCI後の処置における適用可能性および活性についてさらに特徴付ける。
【0265】
プロトコールデザイン:改変動脈瘤クリップ(FEJOTAマウスクリップ:閉止力を3gまたは8gとする)を用いて、10週齢の雌(18〜22g)C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratories)のT9レベルにおいて圧迫損傷を生成させる。このSCIモデルは、初期影響だけでなく、小球性(microcystic)キャビテーション、軸索変性、および頑強なアストログリオーシス、ヒト外傷性SCIの全ての顕徴を促進する持続的な圧迫期も包含する(JoshiおよびFehlings 2002年)。ラット用のBasso,Beattie,Bresnahan(BBB)運動評価スケール、および運動のBassoマウススケール(BMS)を用いて、行動学的試験を決定して、SCI後における神経欠損を評価する。
図31に技法を示す。
【0266】
次いで、凍結させず、固定させていないex vivoの生存組織切片を、齧歯動物における脊髄圧迫損傷後における病理学的病変から調製する。生理学的条件下で維持した切片に対する免疫蛍光(IF)染色を用いて、ヒトIgM抗体結合の免疫反応性をスクリーニングする。
【0267】
脊髄圧迫損傷後迅速に、マウスを、腹腔内投与されるrHIgM12およびsHIgM42またはrHIgM42を含めたヒト抗体で処置する。ヒト抗体が軸索保存または組織修復を促進する能力を測定する。BBBスケールおよびBMSスケールを用いる行動学的試験を、SCI後の5週間において定期的な間隔で実施する。SCIの30分後に、ヒト抗体0.5mgの単回投与を、腹腔内を介してマウスに施す。マウスの群(15匹のマウス)に、ニューロン保護、神経突起成長を促進するヒト抗体、細胞に結合しない対照のヒト抗体、または対照を施す。個別のマウスを毎週1回一晩にわたり自動式赤外線活動ボックスに収容し(Mikamiら、2002年)、後肢を引きずる身体障害の尺度である後肢による自発的立脚と水平方向の活動とを記録した(Accuscan Inc、Ohio)。また、従来のBBBスコアも毎週収集した。機能的評価は、盲検により実施する。
【0268】
処置の4週間後、Fluoro−GoldおよびFast Blueを、マウス4匹の胸部下方の脊髄へと注射する。1週間後、マウスを潅流し、脳および脊髄を摘出する。脳幹の網様核、前庭神経核、および赤核において逆行標識された細胞体を、蛍光顕微鏡を介して群を通してカウントする(UreおよびRodriguez、2002年)。脳幹(ビブラトーム切片)内で標識された細胞体の数は、脊髄全体における機能的軸索のレベルを反映する。脊髄に沿って1mmごとに採取した組織断面において、βアミロイドタンパク質の蓄積についての免疫細胞化学を実施する。切片中のβアミロイド凝集物の数は、胸部下方において機能障害を来した軸索輸送、および胸部下方における軸索の機能不全を反映する。
【0269】
損傷の5週間後、残りのマウスをホルムアルデヒド/グルタルアルデヒド(gluteraldehyde)で潅流し、脊髄を摘出した。脊髄病変部位を含む1mmのブロックを1つおきにAralditeプラスチック中に包埋し、切片化(1ミクロン)し、パラフェニレンで染色して、ミエリンにより取り囲まれて保存された軸索を可視化した。Microsuiteソフトウェア(Olympus)を用いて、病変領域の断面、保存された軸索数、および病変への免疫細胞浸潤を測定する。軸索の頻度を測定し、群間で比較した(McGavernら、2000年;Rodriguezら、1987年)。全ての解析は、実験群について知らされずに、コード化および盲検化された試料について行う。保存された軸索は、病変1mm
2当たりの保存された軸索数として表す。実験群間および対照群間におけるデータの対比較では、マン−ホイットニーランクサム検定を用いる。
【0270】
【数7】
【0271】
【数8】
【0272】
(実施例13)
多発性硬化症モデル:用量反応評価
IgM抗体を、それらがマウスの多発性硬化症モデルにおいて機能的改善を促進し、再ミエリン化過程、神経突起成長過程、またはこれらの両方の過程を増強する能力について評価する。モデルは、Warringtonら、2007年と同様の方法を用いてヒトMSにおいて見出される病変と同様の特徴を伴う、CNSの遷延性、慢性で進行性の脱髄性病変を誘導する、ピコルナウイルスのサイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)の使用を伴う。
【0273】
雌マウスおよび雄マウス(約8週齢:SJL/J株)に、サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(2×10
5プラーク形成単位のDaniel株:10μLの脳室内注射)を注射する。処置のための無作為化の前に、マウスを6カ月間にわたり回復させる。次いで、マウスを、被毛状態、歩行、および立ち直り反射について観察し、処置群へと無作為に割り付ける(処置表に示す)。次いで、マウスを、ビヒクル(通常の生理食塩液)または組換えヒトIgM抗体(0.025〜2.5mg/kg)の単回静脈内注射で処置する。神経機能を、処置の2週間後、1カ月後、および2カ月後にモニタリングする。
【0274】
機能的評価項目は、被毛状態、歩行、およびロータロッド能力に基づく評価を包含した。被毛外観については、評価を以下の通り:疾患なし(0)、最小の被毛変化(1)、つやのない被毛(2)、失禁および被毛浸潤(3)とする。活動の変化は、自動式活動ボックスにより定量化する。さらに、歩行は、歩行速度>90cm/秒を用いるディジタル式の歩行捕捉法(DigiGait)を用いて解析する。定量的な歩行解析評価項目は、立幅および持続時間、歩幅および頻度、足の角度のほか、揺れ、制動および推進の持続時間を包含する。歩行のベースラインからの変化を定量化する。ロータロッド能力(回転軸上の速度および持続時間との関係で運動を測定する回転軸上を動物が歩く能力を介して、感覚および平衡調整の尺度を評価する)は、動物が一連の試行にわたり回転装置上にとどまる時間の合計として定量化する。
【0275】
実験が終了したら、動物を、CO
2への過剰曝露を介して安楽死させる。1)髄鞘形成の程度(プラスチック包埋してパラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒドで固定してオスミウム処置した組織の、電子顕微鏡による解析)および2)神経突起成長(立体評価法を介する神経突起密度の評価)を評価するために、脳および脊髄を摘出する。
【0276】
第1の実施形態では、組換えヒト抗体を、表3Aおよび表3Bに示す3つの用量レベルにおいて単独で投与する。
【0277】
【表3A】
【0278】
【表3B】
【0279】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改善スコアの値は、所与の抗体の用量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体についてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0280】
この実施例では、組換え抗体であるIgM12、IgM42、IgM22、およびIgM46の各々が、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目の各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意で(p<0.05)用量依存的な改善をもたらすことが見出される。ビヒクルで処置される動物は、TMEV損傷の6カ月間以内に、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目における安定的な欠損をもたらす。各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の感覚運動の評価項目における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの感覚運動の評価項目におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの感覚運動の評価項目におけるなおより大きな改善X+++を伴う、感覚運動の評価項目における有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。したがって、抗体IgM12、IgM42、IgM22、およびIgM46の各々は、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0281】
この実施例では、IgM12およびIgM42が、立体法を介してビヒクルによる処置の対照と比較して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における神経突起成長の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の神経突起成長における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの神経突起成長におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの神経突起成長におけるなおより大きな増大X+++を伴う、神経突起成長の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0282】
IgM22およびIgM46は、立体法を介してビヒクルによる処置の対照と比較して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における再ミエリン化の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の再ミエリン化における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの再ミエリン化におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの再ミエリン化におけるなおより大きな増大X+++を伴う、再ミエリン化の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0283】
(実施例14)
多発性硬化症モデル:抗体の組合せ
この実験では、用量比を固定した組換えIgM抗体の多様な組合せを、前出の例で記載したMSのTMEVモデルにおける神経学的転帰の改善について検討する。TMEVへの曝露の6カ月後、マウスにおける組換えIgMの組合せによる処置を開始する。この一連の研究では、マウスに単独のビヒクルまたはIgMの多様な組合せを静脈内単回投与(混合剤)により施す。上記の通りに、感覚運動の評価項目をモニタリングする。髄鞘形成および神経突起成長を評価して、抗体の組合せによりもたらされる変化を検討する。評価される組合せを表4Aおよび表4Bに示す。
【0284】
【表4A】
【0285】
【表4B-1】
【0286】
【表4B-2】
【0287】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改善スコアの値は、所与の抗体の用量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体についてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0288】
この実施例では、組換え抗体の組合せであるIgM12+IgM42、IgM22+IgM46、IgM12+IgM22、IgM12+IgM46、IgM42+IgM22、およびIgM42+IgM46が、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0289】
さらに、これらの組合せの各々による感覚運動の評価項目の改善度は、抗体の各々単独により予測される相加的改善と比較して統計学的に有意で用量依存的な形で相乗的(相乗作用が呈示される)である。ここでもまた、性別に基づく改善の差は見出されない。
【0290】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM12+IgM42の組合せは、神経突起成長を、ビヒクルによる対照と比較して有意に(p<0.05)増強した。神経突起成長度は、単独で投与される各抗体の相加的効果と比較して相乗的である。したがって、これらの抗体は、異なる作用機構を介して成長を誘発し、これは、これらの抗体の神経組織へのそれぞれに異なる結合パターンと符合することが理解される。
【0291】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM22+IgM46の組合せは、髄鞘形成を、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらした。さらに、再ミエリン化度は、単独で投与されるIgM22またはIgM46について予測される相加的効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0292】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM12+IgM22の組合せは、損傷している脊髄における髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM12またはIgM22それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0293】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM12+IgM46の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM12またはIgM46それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0294】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM22+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM22またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0295】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM46+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM46またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0296】
(実施例15)
脊髄損傷モデル
IgM抗体を、それらがラットの脊髄損傷モデルにおいて機能的改善を促進し、再ミエリン化過程、神経突起成長過程、またはこれらの両方の過程を増強する能力について評価する。モデルは、脊髄を、幅を2.5mmとするカバースリップ用ピンセットを改変したブレードの間で側方から、あらかじめ設定したブレード間隔である0.9mmまで、15秒間にわたり圧迫することを伴う。結果として得られる病変は、ヒトSCIにおいて見出される特徴と同様の特徴を示す(Grunerら、1995年)。
【0297】
雄ラットおよび雌ラット(約200〜225g、Long Evans)に手術を施して、上記の脊髄損傷をもたらす。手術の10分後、組換えIgM抗体またはビヒクルによる処置を、静脈内を介して施す。BBB運動評価スケールを用いて、後肢における運動機能および歩行を12週間にわたり評価する(例えば、Basso DM、Beattie MS、Bresnahan JC、Anderson DK、Faden AI、Gruner JA、Holford TR、Hsu CY、Noble LJ、Nockels R、Perot PL、Salzman SK、Young W.(1996年)、「MASCIS evaluation of open field locomotor scores: Effects of experience and teamwork on reliability」、Journal of Neurotrauma、13巻:343〜359頁;Basso DM、Beattie MS、Bresnahan JC.(1995年)、「A sensitive and reliable locomotor rating scale for open field testing in rats」、Journal of Neurotrauma、12巻:1〜21頁を参照されたい)。ラットを、1、3、5、7、および10日後に調べ、次いで、SCI後9〜12週間にわたり毎週、ベースラインからのBBB変化を定量化する。
【0298】
実験が終了したら、動物を、CO
2への過剰曝露を介して安楽死させる。1)髄鞘形成の程度(プラスチック包埋してパラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒドで固定してオスミウム処置した組織の、電子顕微鏡による解析)および2)神経突起成長(立体評価法を介する神経突起密度の評価)を評価するために、脳および脊髄を摘出する。
【0299】
(実施例16)
脊髄損傷モデルにおける個別の抗体の使用
この実験では、組換えヒト抗体を、表5Aおよび表5Bに示す通り、3つの用量レベルにおいて単独で投与する。
【0300】
【表5A】
【0301】
【表5B】
【0302】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改善スコアの値は、所与の抗体の用量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体についてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0303】
この実施例では、改良型BBBパラメータにより、組換え抗体であるIgM12、IgM42、IgM22、およびIgM46の各々が、後肢における運動機能の、統計学的に有意で(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)用量依存的な改善をもたらすことが見出される。ビヒクルで処置される動物は、中等度レベルの脊髄損傷の6週間以内に、安定的なBBBスコアをもたらす。各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時のBBBレベルにおける改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときのBBBにおけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときのBBBにおけるなおより大きな改善X+++を伴う、BBBスコアにおける有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。したがって、改良型BBBにより、抗体IgM12、IgM42、IgM22、およびIgM46の各々は、後肢における運動機能の、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目についてp<0.05)で用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0304】
IgM12およびIgM42が、立体法を介してビヒクルによる処置の対照と比較して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における神経突起成長の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の神経突起成長における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの神経突起成長におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの神経突起成長におけるなおより大きな増大X+++を伴う、神経突起成長の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0305】
IgM22およびIgM46は、立体法を介してビヒクルによる処置の対照と比較して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における再ミエリン化の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の再ミエリン化における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの再ミエリン化におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの再ミエリン化におけるなおより大きな増大X+++を伴う、再ミエリン化の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0306】
(実施例17)
脊髄損傷:抗体の組合せ
この実施例では、用量比を固定した組換えIgM抗体の多様な組合せを、本明細書の実施例14で記載した脊髄損傷モデルにおける神経学的転帰の改善について検討する。したがって、IgM抗体の組合せ(混合剤として)またはビヒクル対照による静脈内処置を、損傷の10分後に施す。運動評価項目を、上記の通りにモニタリングする。さらに、髄鞘形成および神経突起成長を評価して、抗体の組合せによりもたらされる変化を検討する。評価した組合せを、表6Aおよび表6Bに示す。
【0307】
【表6A】
【0308】
【表6B-1】
【0309】
【表6B-2】
【0310】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改善スコアの値は、所与の抗体の用量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体についてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0311】
この実験では、組換え抗体の組合せであるIgM12+IgM42、IgM22+IgM46、IgM12+IgM22、IgM12+IgM46、IgM42+IgM22、およびIgM42+IgM46の各々が、BBBパラメータを介して見出される後肢機能(運動評価項目)の統計学的に有意で用量依存的な改善をもたらすことが見出される。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0312】
さらに、これらの組合せの各々は、運動機能を、同じ用量における抗体の各々単独による改善と比較して相加的を超える(すなわち、相乗的)な形で改善することが見出される。ここでもまた、性別に基づく改善の差は見出されない。
【0313】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM12+IgM42の組合せは、神経突起成長を、ビヒクルによる対照と比較して有意に(p<0.05)増強した。神経突起成長度は、単独で投与される各抗体の相加的効果と比較して相乗的である。したがって、これらの抗体は、異なる作用機構を介して成長を誘発し、これは、これらの抗体の神経組織へのそれぞれに異なる結合パターンと符合することが理解される。
【0314】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM22+IgM46の組合せは、髄鞘形成の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらした。さらに、再ミエリン化度は、単独で投与されるIgM22またはIgM46について予測される相加的効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0315】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM12+IgM22の組合せは、損傷している脊髄における髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM12またはIgM22それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0316】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM12+IgM46の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM12またはIgM46それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0317】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM22+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM22またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0318】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加えて、IgM46+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与されるIgM46またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0319】
(実施例18)
ヒトニューロン結合IgMである組換えrHIgM12抗体は脊髄軸索を保護する
本発明者らは、天然ヒト血清抗体であるsHIgM12が、in vitroにおいてニューロンに結合し、神経突起成長を促進することを裏付けた。本発明者らは、同一の特性を伴う組換え形態であるrHIgM12を生成させた。サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス株の脳内感染は、多発性硬化症の進行性の形態と同様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患を引き起こす。このモデルを、希突起膠細胞に結合するIgMクラスの抗体で処置すると、CNSの再ミエリン化が改善される(Warringtonら(2007年)、J Neurosci Res、85巻:967〜976頁)。これに対し、ニューロンに結合する血清由来のヒトモノクローナル抗体(sHIgM12)は、ラミニンと同程度に頑健な神経突起成長を促進し、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害効果を低減する(Warringtonら(2004年)、J Neuropathol Exp Neurol、63巻(5号):461〜473頁)。より近年には、上記と同一の生物学的特性を伴うヒトsHIgM12の組換え形態(rHIgM12)を生成させた。rHIgM12の脊髄軸索の完全性に対する効果を研究するために、本発明者らは、解剖学的に連続であり、機能的に保存された軸索に依拠する技法である逆行標識法を実施した。
【0320】
方法
逆行標識法:マウスに麻酔をかけた後、下部胸椎(T10〜11)において背部椎弓切除を実施した。脊髄を右側において片側切断し、片側切断部位に4%Fluorogoldの滅菌溶液を充填した。手術の1週間後、マウスを屠殺し、脳を摘出した。脳幹の連続切片(40mm厚)を作製し、切片を4枚ごとに解析した。16枚の脳幹スライスから、大型で明るい蛍光ニューロンを、200倍の拡大率下でカウントした。
【0321】
結果
TMEVモデルは、神経保護を促進し、軸索喪失を防止する戦略を開発するためのプラットフォームをもたらす。疾患の早期は炎症および脱髄を包含し、後期は軸索喪失および機能欠損を提示する。前出例で詳述し、共焦点顕微鏡画像(
図15)を介して確認される通り、1mgの単回腹腔内注射の後、rHIgM12は脊髄に入り、ニューロフィラメント+(NF)の軸索に局在化する。rHIgM12はまた、クロスカット形としてNF+神経線維束にも共局在化する(
図15D)。動物研究では、rHIgM12が、逆行標識した脳幹ニューロン数を増大させる。感染の90日後(dpi)に、rHIgM12または生理食塩液をSJLマウスに投与した。処置の9週間後に、逆行標識法のための脊髄手術を実施した。手術の1週間後、マウスを屠殺し、脳幹の連続切片により、蛍光標識したニューロンを定量化した。rHIgM12は、生理食塩液対照と比較して逆行標識した脳幹ニューロン数を増大させる(データは示さない)。したがって、rHIgM12で処置したマウスの逆行標識した脳幹ニューロンは、生理食塩液で処置した対照と比較して増大した。
【0322】
(実施例19)
ニューロン結合ヒトモノクローナル抗体の単回投与はマウス脱髄モデルにおける自発活動を改善する
本発明者らの実験室は、天然ヒト血清抗体であるsHIgM12が、in vitroにおいてニューロンに結合し、神経突起成長を促進することを裏付けた。本発明者らは、同一の特性を伴う組換え形態であるrHIgM12を生成させた。サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス株の脳内感染は、結果として、多発性硬化症の進行性の形態と同様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患をもたらす。rHIgM12のTMEV感染マウスの運動機能に対する効果を研究するため、本発明者らは、夜間における自発活動を、何週間にもわたってモニタリングした。通常は活動的な夜間のモニタリング時間において最大限の活動変化が生じることが予測されるため、夜間挙動は、齧歯動物の神経機能についての高感度の尺度である。ベースラインの自発活動についてまとめるため、マウスを、処置前に8日間にわたり活動ボックスに入れた。処置後、各群における活動を8週間にわたり持続的に記録した。本発明者らは、以下の2つの理由で8週間にわたる長期のモニタリング期間を選択した:(1)本発明者らは既に、IgM誘導性再ミエリン化が、処置後5週間までに示されると裏付けたこと、および(2)この株におけるTMEV誘導性脱髄性疾患の進行は極めて遅いこと。長期の観察期間および大規模なデータセットに起因して、フィルタリングされていない元の記録を研究しながら、処置群間の差異を察知することは困難でありうる。高度に変動的な元のデータにおける変化を明確に詳述するために、本発明者らは、3つの異なる方法:(1)ビニング法、(2)ガウスローパスフィルター(GF)の適用、および(3)多項式近似を適用した。3つの方法の各々を用いて、本発明者らは、rHIgM12による早期の処置が、水平方向の運動機能および垂直方向の運動機能のいずれにおいても、対照のIgMおよび生理食塩液と比較して改善を誘導するのに対し、後期の処置が改善するのは水平方向の活動だけであることを示した。rHIgM12は、正常な非感染マウスの活動を変化させなかった。この研究は、ニューロン結合IgMによる処置は、in vitroにおいてニューロンを保護するだけでなく、また、運動機能の改善にも影響を及ぼすという仮説を裏付ける。
【0323】
序説
齧歯動物の疾患モデルにおける、長期にわたる神経機能のモニタリングおよび解析は、依然として難題である。通常は活動的な夜間のモニタリング時間において最大限の活動変化が生じることが予測されるため、夜間挙動は、齧歯動物の神経機能についての高感度の尺度である[1]。しかし、進行が緩徐な疾患の動物モデルでは、機能状態のモニタリングが数週間にわたることが多い。本発明者らは既に、希突起膠細胞結合抗体(rHIgM22)が、処置後5週間までに、再ミエリン化を増強することを報告した[2]。疾患および修復の発生のいずれもが緩徐な過程であることを考え合せ、かつ、活動における任意の変動を確かに考慮に入れるために、本発明者らは、短期のモニタリングにおいて用いられるサンプリング密度と同じサンプリング密度で、長期にわたる活動をモニタリングする。これにより、大規模で高度に変動的なデータセットが創出された(
図32A、C)。処置後の変化を明確に詳述し、長期の活動における一般的な傾向を復元するために、本発明者らは、Mathematica(Wolfram Research,Inc.)を用いることにより、データビニング、ガウスフィルタリング、および多項式近似の使用を比較した。
【0324】
サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス株の脳内感染は、結果として、多発性硬化症の進行性の形態と同様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患をもたらす[3]。このモデルを、希突起膠細胞に結合するIgMクラスの抗体で処置すると、CNSの再ミエリン化が改善される[4]。これに対し、ニューロンに結合する血清由来のヒトモノクローナル抗体(sHIgM12)は、ラミニンと同程度に頑健な神経突起成長を促進し、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害効果を低減する[5]。より近年には、上記と同一の生物学的特性を伴うヒトsHIgM12の組換え形態(rHIgM12)を生成させた。本発明者らは、rHIgM12の半減期は3.6時間であるが、なおも血液脳関門を越え、神経組織に結合することを既に示した(未刊行の観察)。rHIgM12のTMEV感染マウスの活動に対する効果を研究するため、本発明者らは、AccuScan活動ボックス(Accuscan Instruments,Inc.、Columbus、OH)を用いて夜間における自発活動を数週間にわたってモニタリングした。本発明者らは、以下の2つの理由で8週間にわたる比較的長期のモニタリング期間を選択した:(1)IgM誘導性再ミエリン化が、処置後5週間までに示されること、および(2)この株におけるTMEV誘導性脱髄性疾患の進行は、MSの純粋に自己免疫的なEAEモデルと比較して極めて遅いこと[6]。既に刊行された研究と比較して長期の観察期間(表7)に起因して、生データの目視により変化を同定することは、困難であるとわかった。
【0325】
【表7】
【0326】
材料および方法
マウス:SJL/Jマウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、ME)を、Mayo Clinicの動物ケア施設に収容し、飼育した。動物用のプロトコールは、Mayo ClinicのInstitutional Animal Care and Use Committeeにより承認された。
【0327】
脱髄のサイラーウイルスモデル:脱髄性疾患は、6〜8週齢の雌マウスにおいて、TMEVの脳内注射を介して誘導した。27ゲージの注射針により、Daniel株のTMEV2.0×10
5プラーク形成単位を含有する10μlを送達した。この結果、発症率を>98%とするが致死性はまれな感染がもたらされた。全ての動物は、2週間以内に消失する軽度の脳炎を発症した。動物は、次の6〜8カ月間において、慢性脊髄脱髄性疾患により増悪した。軸索損傷および軸索喪失は感染の3カ月後に始まり、神経機能不全と相関する[3]。
【0328】
抗体による処置:SJLマウス(非感染、感染の45日後および90日後)を、0.5mlのPBS中に溶解させた抗体(rHIgM12またはアイソタイプのIgM対照)200μgの単回腹腔内投与で処置した。第3群は、0.5mlのPBSだけで処置した。
【0329】
自発活動のモニタリング:自発運動の活動は、Digiscan open field(OF)装置(Omnitech Electronics;Columbus、OH)およびVersamaxソフトウェア、v.4.12−1AFE(Accuscan Instruments,Inc.、Columbus、OH)により記録した。この装置は、2セットの光電管を保持する金属製フレームにより支持される6つのアクリル製ケージ(40×40×30.5cm)からなる。このデバイスは、投射された赤外線ビームの遮断回数を集計することにより、水平方向の運動および垂直方向の運動の個別の数を測定する。全てのケージにおいて、マウスを、以下の同一の環境状態に曝露した:(a)食物および水を自由に摂取可能とすること、(b)通常の12時間の明/暗周期、(c)周囲温度を70°Fとすること。各実験において、活動過剰の動物、および、まれな場合には、体重過剰の動物は除外し、残りのマウスを無作為化した。SJLマウス5匹ずつの複数の群を各ケージの中央に入れ、連続8日間にわたり、ベースラインの自発活動についてまとめた。この期間の後、ベースラインの活動が最も類似する3つの群のマウスを、rHIgM12、対照のIgM抗体、または生理食塩液で処置し、次いで、8週間にわたりモニタリングした。1時間のブロック当たりのビーム遮断回数としてデータを収集した。水平方向および垂直方向の全活動は、Versadatプログラム、v.3.02−1AFE(Accuscan Instruments)を用いて記録した。本発明者らは、これがInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により許容される最大限の動物数であるため、活動ボックス1つ当たりに5匹を超える動物を入れることができなかった。
【0330】
データ解析:フィルタリングされていない元の記録を研究しながら、処置群間の差異を察知することは困難でありうる(
図32A〜C)。高度に変動的な元のデータにおける緩徐な傾向を復元するために、本発明者らは、3つの異なる方法:(1)ビニング法、(2)ガウスローパスフィルター(GF)の適用、および(3)多項式近似を適用した。
【0331】
データビニングとは、最も単純な方法であり、あらかじめ選択したビン内のデータ点の群を、それらの平均値で置換する。本発明者らの場合、本発明者らは、マウスの活動が夜間にピークとなることを踏まえ、夜間におけるビンを選択した。したがって、本発明者らは、
図33A、33B、35C、35D、37C、および37Dに示す通り、全ての夜間におけるリーディング(12時間/日)を、それらの平均値で置換した。群の比較は、処置1回当たり12時間にわたる有効な試料サイズを伴う平均の差異についての単純なt検定を介して実施することができる。これらの比較は単純であるが、各時点における試料サイズが小型である結果として標準誤差が大きくなり、統計学的な比較の使用は限定されたものとなる。全体的に、データビニングは、ノイズの多いデータを可視化するのに有効な方法であるが、統計学的検定のための使用は限定されたものとなる。
【0332】
ガウスフィルタリング(GF)(また、ローパスフィルタリング、データの平滑化、または感度の増強としても公知である)は、フーリエ変換分光法および画像処理において一般に用いられるノイズ低減手順である[7]。ガウスブロードニング(GB、日単位)の適切な選択により実施されるGFにより、高頻度の変動が、所望のレベルで除去された。フィルターの選択は任意であり、予測される活動変化の割合を指針とすることができる。GFは、影響がガウス関数に従い減衰するように、両側の値から採取した点からの情報を用い、これらの点の影響を考慮する平滑化法である。コンピュータ利用について述べると、GFは、以下の2つの同等な方式で実装することができる:1)データをフーリエ変換(FT)した後、ガウス関数で乗じ、この積のFTの逆数を取る方式、および2)ガウス核によるデータの直接的なコンボリューション。高レベルのソフトウェアパッケージ(Matlab(Mathworks)またはMathematica(Wolfram))では、ガウスフィルター関数が、使用者によるプログラミングを最小限とするかまたはプログラミングを伴わずに利用可能である。GBを適切に選択すれば、上記で詳述したGF法により、高度に複雑かつ異質なデータの単純な可視化が可能となる。GFの1つの限界は、GFにより傾向の容易な可視化が可能となる一方で、GBを選択することにより、統計学的な比較が複雑化することである。
【0333】
比較のために、かつ、単純な統計学的比較を可能とする方法を裏付けるために、本発明者らは、多項式でデータを近似する。これらのモデルは、任意の次数(xn)までの多項式の項を許容し、各処置群について個別の形態パラメータ(相互作用項)を推定した。本発明者らによる6次多項式の選択は、複数の選択肢を探索した後の恣意的なものであったが、ある時間にわたる非線形効果をモデル化するのに十分な柔軟性を可能とした。次数を変化させる多項式を用いて異なる処置群を最適な形で近似したため、本発明者らは、高次における柔軟性を可能とすることを選択した。Akaike Information Criteria(AIC)を用いて、多項式系による複数の処置群にわたる「最良の近似」を決定した[8]。AICとは、さらなる項を足し合わせることによりR
2の増分を相殺するが、過剰複雑性(すなわち、自由度の使用)にはペナルティーを科すモデル比較の方法である。AICによれば、一般に、3次の近似が、データの傾向を捕捉するのに十分とされ、場合によっては、2次近似、なおまたは線形近似が「最良」とされた。しかし、本発明者らの主な目標は、観察される時点における処置群を比較することであった。データ点が多数であり、本発明者らは、多項式近似を用いて、本発明者らの観察データ以外の処置値を予測する(または外挿する)わけではないため、結果に対する「過剰近似」の影響は最小限である。
【0334】
多項式近似の1つの利点は、処置群の統計学的な比較が単純であり、指定した時点において、予測されるモデル値およびそれぞれの標準誤差を用いて処置を比較しうることである。直接的な対応のある処置の比較は、時間枠の全体にわたり、定期的な間隔で実施して、処置群が有意に異なったときを決定することができる。最後に、多項式近似は、さらなる中程度頻度および低頻度のノイズを除去し、これにより、時間枠の全体にわたり、視覚的注意の焦点が一般的な傾向に当てられる。
【0335】
しかし、実験の各々においては、一部の群のマウスのベースラインにおける水平方向および垂直方向の活動(8日間)が、何らかの形で異なっていた。したがって、本発明者らはまず、Z値を用いて、各群について個別にベースラインの活動を標準化し、次いで、これらの値に対して、ガウスフィルタリングを実施するか、または多項式を近似するした。
【0336】
統計学的な解析:Mathematica(Wolfram)で書かれたマクロプログラムを用いることにより、データのビニングおよびガウスローパスフィルターによるデータの平滑化を実施した。マクロプログラムおよび指示書は、mayoresearch.mayo.edu/mayo/research/rodriguez_lab/software.cfmにおいて入手可能である。z統計(SAS Institute,Inc.)に基づいて予測されるモデル値およびそれぞれの標準誤差を用いて、多項式回帰モデルおよび処置群の統計学的比較を実施した。直接的な対応のある処置の比較は、時間枠の全体にわたる各日において実施し、統計学的な有意性は、閾値を典型的なα=0.05として決定した。多重比較のための調整は行わなかった。
【0337】
結果
感染の90日後において施すと、rHIgM12はSJLマウスにおける水平方向の活動を改善する
感染の90日後(dpi)におけるSJLマウス5匹ずつの3つの群を活動ボックスに入れ、連続8日間にわたりベースラインの活動を測定した。2つの群のマウスを、rHIgM12またはアイソタイプの対照IgM 200μgずつの単回投与で処置した。第3群は、生理食塩液で処置した。処置後、自発活動を、8週間にわたり持続的に記録した。データは、1時間のブロックで収集したため、本発明者らは、各群について約900ずつのデータ点を得た。この元の生データ(
図32A〜C)は高度に変動的であるので、処置群間の差異を察知することは困難でありうる。3つの方法(ビニング法、ガウスフィルタリング、および多項式近似)全てにより、rHIgM12で処置したマウスが、水平方向の活動における改善を示すのに対し、対照のIgMおよび生理食塩液で処置したマウスは、8週間にわたり活動の変化を示さないことが明らかとなった(
図33A、C、およびE)。多項式近似の後、本発明者らは、3つの処置についての直接的な対応のある比較を用いて、rHIgM12処置マウスにおける水平方向の運動機能の改善が、処置の7日後(対照のIgMと比較して)および11日目において(生理食塩液と比較して)統計学的に有意となることを決定した(
図34)。rHIgM12処置動物の水平方向の夜間活動において観察される改善は、約30日間にわたり持続し、次いで、ベースラインレベルに戻った。生理食塩液処置群の対照IgM処置群と対比した対応のある比較は、38〜52日目にわたり統計学的な有意性を示した。しかし、rHIgM12処置群と対照との間で観察される主要な差異と比較した場合、本発明者らは、対照群間におけるこれらの差異は、生物学的に有意ではないと考える。他方、垂直方向の活動は、主要な差異を示さず、3つの群全てにおいて同様であった(
図33B、D、およびF)。
【0338】
感染の45日後に施すと、rHIgM12はSJLマウスにおける水平方向および垂直方向の活動を改善する
以前の研究では、垂直方向の活動(後肢による立脚挙動)を主要なリードアウトとして用いた[1]。慢性TMEV感染マウスでは、軸索の脱落に起因して、後肢が徐々に脆弱となり、こわばるので、後肢による立脚が低減された。この研究の第1の実験では、rHIgM12を、脱髄が最大となり、進行性の軸索喪失が始まる時点で投与した(感染の90日後)ところ、水平方向の活動だけが改善された。後肢による立脚挙動は影響を受けず、3つの処置群全てにおいて同等であった。したがって、本発明者らは、早期の時点における処置がより有益でありうるか否か問うた。第2の実験では、マウス5匹の群を、感染の45日後に、rHIgM12、アイソタイプの対照IgM、または生理食塩液200μgずつの単回投与で処置した。同一の実験デザインを用い、ベースラインの活動を8日間にわたり収集し、処置後の活動を8週間にわたり収集した。処置の約2週間後に始まるこの実験では、rHIgM12で処置したマウスが、水平方向および垂直方向のいずれの活動においても明らかな改善を示した。これは、3つの方法の全て:データの平均化、ガウスフィルターまたは多項式近似の適用を用いた後で明らかとなった(
図35C〜H)。対照のIgMおよび生理食塩液で処置したマウスは、研究の終了まで同様の活動レベルを示した。rHIgM12で処置したマウスでは、実験が終了するまで、水平方向の活動の改善が明らかであった。他方、垂直方向の活動の改善は、約4週間にわたって続き、次いで、ベースライン値へと低下した。3つの処置についての直接的な対応のある比較は、rHIgM12で処置したマウスにおける水平方向の運動機能の改善が、処置の13日後において(対照のIgMと比較して)、および処置の9日後において(生理食塩液と比較して)有意に異なることを示した(
図36AおよびC)。同様に、rHIgM12で処置したマウスにおける垂直方向の運動機能の改善も、処置の14日後において(対照のIgMと比較して)、および処置の6日後において(生理食塩液と比較して)有意に異なった(
図36BおよびD)。対照のIgM処置群を生理食塩液処置群と対比する比較は、水平方向の活動または垂直方向の活動のいずれについても大きな生物学的差異を明らかにしなかった(
図36EおよびF)。
【0339】
rHIgM12は正常の非感染マウスにおける自発活動を変化させない
以前の2つの実験におけるrHIgM12による処置は、神経障害を来した感染マウスにおいて明らかに有益な効果を示した。この抗体が刺激性の特性を有し、したがって、運動機能の増大を誘発する可能性を除外するために、本発明者らは、非感染マウスによる同様の実験を実施した。週齢を一致させた非感染マウスの3つの群を、rHIgM12、対照のIgM、または生理食塩液で処置した。感染マウスにおける活性の増強と比較して、rHIgM12、ならびに、他の2つの処置は、正常マウスの運動機能の増大を誘導しなかった(
図37)。3つの群全てが、自発活動の低下傾向を示した。この結果は、いずれの抗体も、正常マウスにおける活動の増大に影響を及ぼさないことを示す。
【0340】
考察
多発性硬化症のほか、他の脱髄性疾患および神経変性疾患のための神経保護療法を開発することが火急に必要とされている。炎症性CNS疾患における軸索損傷の軽減を間接的にもたらしうる抗炎症薬も存在するが、ニューロン/軸索のレベルで直接作用する薬物は存在しない。神経保護の主要な目標は、ニューロンの機能不全を限定し、ニューロンおよび軸索の機能的完全性を維持しようと試みることである。多年にわたり、MSの病理学的顕徴である脱髄は、永続的な神経欠損の原因であると考えられた。今日では、脱髄が永続的な軸索喪失に必要ではあるが十分ではないことが明らかである[9]。脱髄だけが、露出された軸索に、T細胞の細胞傷害作用または死滅した希突起膠細胞に由来する局所性の神経栄養性の支持の喪失により引き起こされる続発的損傷に対する素因を与える[10]。
【0341】
ニューロン結合抗体であるsHIgM12が、頑健な神経突起伸長を促進したという以前の観察[5]は、in vitroにおける明らかに有益な応答を表す。この抗体の組換え形が、in vitroにおいて同様の特性を示したため、本発明者らは、それがTMEV誘導性脱髄性疾患を伴うマウスの運動活動に影響を及ぼすか否か問うた。運動機能の解析は、夜間における自発活動をモニタリングすることにより実施した。第一に、本発明者らは、脱髄が最大となり、軸索喪失が始まる時点(感染の90日後)において、マウスを処置した。処置の8週間後、rHIgM12が、水平方向の運動活動だけを改善したのに対し、垂直方向の活動は影響を受けなかった。しかし、疾患の早期に(感染の45日後に)マウスを処置したところ、rHIgM12は、水平方向および垂直方向のいずれの活動も改善した。慢性TMEV誘導性疾患では、後肢による立脚挙動(垂直方向の活動)への影響が最も重度であり、この活動の一因となる軸索の変性および喪失は、不可逆性であると考えられる。この結果、これらの軸索の損傷が不可逆的ではない疾患の早期が、処置に理想的な時点であると考えられる。Jonesらは、EAEモデルを用い、軸索の脱落と運動機能とを研究することにより、神経保護薬による処置は、疾患の早期、運動欠損が始まるさらに前に開始すべきであるという同一の枠組みを提起した[11]。第二に、機能的改善が生じるのは処置後2週間以内であり、約25〜30日間後には減衰し始めるため、運動機能を維持するには、処置を反復することが必要でありうる。本発明者らの研究では残念ながら、結果としてアナフィラキシーをもたらす、マウスにおける抗ヒト抗体免疫反応のために、ヒトIgMの複数回投与を検証することが可能ではなかった。A2B5とは、神経突起成長もまた促進する[5]マウスモノクローナル抗体であり、機能的転帰およびその作用の持続時間に対する複数回投与対単回投与を検証することが可能な候補抗体を表す。最後に、いずれの処置も、非感染の正常動物の運動機能には効果を及ぼさなかった。処置に関わらず、正常マウスの全ての群は、自発活動の漸進的な低下を示したが、これは、環境への馴化により説明することができる。正常動物におけるこの活動の低下は、rHIgM12により誘導される、疾患マウスの活動の増大をさらにより印象的なものとする。
【0342】
本発明者らは、神経欠損の発症を防止することが一般に極めて困難であった、炎症性脱髄性疾患の慢性進行性モデルにおける運動機能の改善を裏付けた。したがって、ニューロン結合モノクローナル抗体rHIgM12は、ヒトMSを処置するだけでなく、また、他の脱髄性障害または神経変性障害を処置するためにも極めて有望な治療剤を表す。加えて、臨床的に無症状のMSによる侵襲例も見られるため[12、13]、本発明者らは、神経保護的化合物を免疫調節剤で補完すべきであることも提起した[11]。本発明者らは、免疫調節剤薬とrHIgM12とによる組合せ処置が、軸索損傷後におけるCNSの保存および修復の著明な増強を結果としてもたらしうることを提起する。
【0343】
まとめると、この研究による結果は、以下の3つの重要な結論を提示する:1)処置を施す病期が極めて重要である(早期の処置ほど有益性が増大する)こと;2)運動機能の改善をさらに維持するには、処置の反復が必要でありうること;および3)rHIgM12が毒性ではなく、正常な非感染動物における運動機能には影響を及ぼさないこと。これらの知見は、ニューロンを標的とする組換え抗体が、慢性軸索脱髄モデルにおける神経機能を改善するという仮説と符合する。
【0344】
【数9】
【0345】
【数10】
【0346】
(実施例20)
運動ニューロン疾患であるALSを処置するためのニューロン保護的ヒトモノクローナル抗体
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、主に前角細胞および皮質脊髄路ニューロンを損なう深刻な神経疾患である。ALSとは、脳および脊髄における運動細胞の進行性の変性を特徴とする運動ニューロン疾患である。運動細胞(ニューロン)は、個体が動き回り、話し、呼吸し、嚥下することを可能とする筋肉を制御する。神経がそれらを活性化しなければ、筋肉は徐々に脆弱化し、失われる。広範な研究にもかかわらず、この障害の病因は、大部分未知であり、有効な処置は見られない。ALSのまれな遺伝子形態を伴う少数の患者において関与する遺伝子により、この障害に対する潜在的な鍵がもたらされる[1]。同定された1つの遺伝子変異は、Cu/Zn SOD(銅/亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ)変異であり、これは、ALSの遺伝子形態を伴う患者のうちのわずかな比率において存在する[2]。SOD変異を保有する患者は、関連の遺伝子変異を伴わずにこの疾患を自発的に発症する患者と比較して、神経学的転帰が酷似することが明らかである[3]。この酵素は、スーパーオキシドを触媒して、酸素および過酸化水素をもたらす。SOD1とは、ALSと関連する酵素形態である。軸索輸送を急速に損なうSOD1の機能獲得が認められると考えられている[4]。家族性ALSにおけるSOD変異の頻度は12〜23%で変化し、この遺伝子は通常、常染色体優性遺伝子として遺伝する。
【0347】
この遺伝子を同定することにより、新たな薬物をデザインし、調べるための、ALSの疾患特徴を伴う動物モデルの開発が可能となった。ALSの遺伝形態と非遺伝形態とは類似の疾患であるため、根底的な原因は、関連している可能性がある。したがって、遺伝性ALSのマウスモデルにおいて有効な薬物はまた、ALSのより一般的なランダム形態を伴う患者においても作用する。ヒトSOD1遺伝子およびALSの病理学的特徴を伴うトランスジェニックマウスモデルの利用可能性により、この疾患のための薬物の開発が推進されてきた[5]。これらのトランスジェニックマウスは、進行性の運動ニューロン喪失および神経欠損を発症する。ALSの遺伝形態と非遺伝形態とは臨床的に類似するため、運動ニューロン機能における根底的な欠損が関連している可能性がある。SOD1関連ALSにおいて有効な試薬はまた、有病率の高いALSの散発形態の一助ともなる。現在のところ、ALS用に市販されている薬物は、グルタミン酸遮断薬であるRilutek(登録商標)(Riluzole錠)の1つに過ぎない。しかし、研究により、この薬物は、患者の生活の質を改善せず、寿命を平均2カ月間延長しうるに過ぎないことが示されている。より有効な薬物が火急に必要とされていることが明らかである。
【0348】
本発明者らの実験室では、中枢神経系(CNS)の脱髄性障害および変性障害を処置するための新規の療法を開発し[6]、CNSにおける修復を誘導することが示されている、希突起膠細胞[7]またはニューロン[8]に結合する一連のヒトモノクローナル抗体(mAb)を同定した。これらの抗体は、クローニングされ、配列決定され[9]、将来の臨床試験のためにGMPグレードの施設で大量に作製されている[10]。組換えヒト抗体IgM12(rHIgM12)は、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症を伴う患者から単離された抗体に由来する[11]。この抗体は、CNSのニューロンおよび軸索を特異的に標識する[8]。IgM抗体であるにもかかわらず、上記の実施例で示した通り、IgM12は、血液脳関門を越え、CNS内の軸索およびニューロンに特異的に結合する。In vitroにおいて、rHIgM12は、小脳顆粒ニューロン、皮質ニューロン、海馬ニューロン、および網膜神経節細胞ニューロンを含めた広範なニューロンに結合する[12]。in vitroにおける実験は、rHIgM12が、ニューロンを細胞死から保護することを裏付ける。ALS(ALSの遺伝形態および自発形態の両方)の早期に患者に投与されたモノクローナル抗体であるrHIgM12は、前角細胞を保護し、軸索損傷を防止し、これにより、身体障害の開始を遅らせ、生存を改善するように作用しうる。
【0349】
結果
本発明者らは、G86R hSOD1変異(FVBTg SOD1 G86R M1Jwg、Jackson Labs)[13]を伴うマウスを、ヒト抗体rHIgM12で処置する実験を実施した。G86Rマウスは、出生時は正常に見える。しかし、約90〜100日齢から、G86Rマウスは、顕著な体重減少を経て、著明な筋肉の萎縮を発症し、急激な体重減少から数週間以内に呼吸器不全で死滅する。LUDOLPH?無作為化「盲検」試験では、これらのマウスが55日齢のときに、GMPグレードで精製されたrHIgM12を、単回腹腔内投与(200μg)として施した。これに対し、プラセボ群には、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)を施した。少数のマウスは未処置のまま放置して、人為的な操作を伴わない疾患の自然経過を決定した。PBS処置マウスおよび非処置マウスについてのデータは同様であったため、これらの群を統計学的な解析のために併合した。マウスは、本発明者らの実験室の1人の試験実施者による処置のために無作為化し、それらが臨死となるまで、別の「盲検処理された」試験実施者に神経欠損について観察させた。処置する試験実施者と、病理学的解析を実施する他の試験実施者とは、コードが解読されるまで無作為化プロトコールについて知らされなかった。
【0350】
動物は毎週ベースで秤量して、ヒトmAbによる処置が、生存を延長するだけでなく、また、体重減少の開始も遅らせるか否か決定した。結果は驚くべきものであり、rHIgM12を施された動物における生存の、PBSを施された動物と比較して統計学的に有意な延長を示した。試験実施者は、平均で25〜30日間にわたる生存の増大(これは、カプラン−マイヤー曲線(
図38)を介して統計学的な有意性(P=0.008)を示した)を記録した。加えて、rHIgM12で処置したマウスは、動物の疾患進行の評価において一般に評価されるパラメータである体重の減少[18]がそれほど顕著ではなかった(
図39)。本発明者らの知る限り、これは、ニューロンを指向する完全組換えヒトモノクローナル抗体が、ALS表現型を伴う動物の生存を延長するのに有効であることについての最初の実証である。
【0351】
動物が臨死期に到達したら、それらを屠殺し、Trump固定剤で潅流した。脊髄を摘出し、1mmのブロックへと切断し、1μm厚の切片用のAralditeプラスチック内に包埋した。これらの切片を組織学的に検討した。SOD変異に由来するALSを発症した動物は、軸索が分解されるときに比較的容易に同定されるミエリン渦が脊髄白質において発生するように、白質路において著明な軸索変性を示した。rHIgM12を施された動物の胸部切片における脊髄渦(変性軸索)の数を、PBSを施された動物の場合と対比して定量化したところ、モノクローナル抗体療法で処置した動物におけるミエリン渦の数は、統計学的に有意に少なかった(
図40)。
【0352】
また、脊髄切片を、CNSにおけるニューロンを特異的に標識し、前角細胞のほか、後角細胞におけるニューロンも極めて良好に明確化するマーカーであるNeuNに対する抗体でも染色した。多くの前角細胞を、rHIgM12を施された動物の脊髄胸部において、PBSと比較して定量化した(
図41、左)。rHIgM12を施された動物において保存された前角細胞の数の増大には、PBSと対比して高度に統計学的な差異が見られた。また、後角細胞におけるニューロンについての同様の解析も、rHIgM12で処置したマウスのニューロンの有意な増大を明らかにした(
図41、右)。
【0353】
ヒト抗体であるrHIgM12は、マウス、ヒト(
図42)、ウサギ、および霊長動物を含めた多くの種から得られた多くの種類のCNSのニューロンの表面に結合する。これにより、rHIgM12によるニューロンのシグナル伝達が、マウスからヒトを含めた哺乳動物において保存されていることの証拠が提示される。SODマウスによる本発明者らの研究は、前角細胞および後角細胞を死滅から保護することにより、脊髄軸索の変性が減少し、動物の生存が増大しうることを示唆する。上記の前出の実施例において記載した培養物中の皮質ニューロンによる実験は、ニューロンをrHIgM12で処置することにより、ニューロンを細胞死から保護しうることを裏付ける(
図3を参照されたい)。新生仔マウスから増殖させた皮質ニューロンを、ごく高濃度の過酸化水素に曝露して、ニューロンのうちの90%が死滅する濃度を決定した。過酸化水素に曝露したニューロンを、rHIgM12またはニューロンに結合しない別のヒトIgMで同時に処置した。rHIgM12による処置は結果として、ニューロンのうちの80%の保存をもたらした。これに対し、対照のIgMによる処置は結果として、過酸化水素への曝露後におけるニューロンのうちの90%の死滅をもたらした。本発明者らは、rHIgM12が、ニューロンを細胞死から保護することにより、ALSを伴う動物における寿命を延長すると仮定した。
【0354】
ヒト抗体はまた、組織培養プレート上における基質としても調べ、小脳ニューロンまたは皮質ニューロンからの正常な細胞伸長過程を促進する能力について比較した。ニューロンの表面に結合する抗体であるrHIgM12およびsHIgM42と、ニューロンに結合しない抗体であるrHIgM22およびsHIgM39とを、この過程を強力に支持する細胞外マトリックス分子であるラミニンと比較した。ヒト抗体であるrHIgM12またはsHIgM42の基質上で成長しつつあるニューロンは結果として、ラミニンにより観察される場合と同様の、ニューロン成長の劇的な拡大をもたらした[8]。この研究はまた、rHIgM12の存在下では、ニューロンの挙動が正常であることも示した。
【0355】
分子量が百万に近いIgMは、循環から血液脳関門(BBB)を越えてCNSに入るには大型に過ぎるというのが一般に受容された定説であった[15][16]。しかし、一部の抗体は、BBBを確かに越えるという証拠が蓄積されつつある。本発明者らは上記で、末梢への注射後に、rHIgM12を脊髄内で検出することについて記載した。rHIgM12または対照のヒトIgM 1.0mgを、脱髄性脊髄病変を伴うマウスへと腹腔内投与した。4時間後、マウスを屠殺し、脊髄切片を、ヒトIgMミュー鎖および抗ニューロフィラメント抗体の存在について免疫染色した。rHIgM12を施されたマウスでは、共焦点顕微鏡法により、脱髄病変内のヒトミュー鎖が、並列経路内に末端で切断された束として、軸索のマーカーである抗ニューロフィラメント抗体と共局在化することが裏付けられた(
図15を参照されたい)。対照のIgMを施されたマウスの脊髄病変内では、ヒトIgMが見出されなかった。
【0356】
提示される研究は動物モデルにおける研究であるが、これらの研究結果のうちの多くの興味深い側面により、この新規の手法がヒト患者において有効であることがさらに示される。本明細書で記載されて用いられるIgM12抗体が、完全ヒト、モノクローナル抗体であることは重要である。結果として、マウスでこの抗体を用いうるのは単回投与だけである。その後も投与すれば、動物に抗体に対する免疫反応を発生させる結果として、rHIgM12の中和またはアナフィラキシーに起因する動物の死がもたらされる。しかし、これらは「真の」ヒト抗体であるので、rHIgM12で処置したヒト患者は、それらに対する免疫反応を発生させる可能性が低い。rHIgM12はまた、有害作用または抗体遮断反応の発生を伴わずに、潜在的に持続的な間欠的ベースで患者に施すこともできる。rHIgM12は、天然ヒト自己抗体であるため、有害な副作用が生じる可能性が低く、したがって、本発明者らは、この薬剤の毒性が最小限となることを予測する。rHIgM12がヒトにおいて安全であることの証拠が多く存在する。ALSモデルにおいてこれらの肯定的な結果がもたらされる前に、本明細書の上記の通り、神経疾患の複数のモデルにおいて、抗体の血清形態であるsHIgM12を調べたが、毒性は生じなかった。これらの研究において、本発明者らは、1)1mgの投与後、ウイルスを介する脱髄を伴うマウスにおけるCNS病態の増大が見られないこと、2)200μgの投与後、活性EAEを伴うマウスにおける臨床スコアの重症度に増大が見られないこと、および3)300μgの投与後、正常CD−1マウスでは、血液化学反応および組織病態に異常がないことを見出した。そうであってもなお、ALSの認知された動物モデルにおけるマウスへの単回投与が、目覚ましい結果をもたらしたことが注意される。
【0357】
rHIgM12は既に、GMPグレードの施設で、FDAのガイドラインに従い増殖させており、安定的な、トランスフェクト細胞系を、FDAのガイドラインに準拠して生成し、外膜感染を伴わずに保管している。これらの細胞系を、>50の感染性生物によるパネルに対して調べたところ、全ての細胞系が陰性の結果を示した。加えて、これらの細胞系により、組織培養物(150μg/ml)中に大量の抗体が作製される。rHIgM12を、FDAのガイドラインに従い、外膜のウイルス、DNA、RNA、または他の外因性物質を伴わずに、純度>97%まで精製する方法が確立されたことから、前臨床段階におけるrHIgM12の、早期ALSを伴う患者における将来の第I相臨床試験のための強力な基礎がもたらされている。
【0358】
進行中の研究
上記で、組換えヒトモノクローナル抗体(rHIgM12)が、前角細胞および軸索の喪失を防止することにより、ヒトALSのトランスジェニックモデルにおける生存を延長しうることを示したので、ALS患者における第I相臨床試験へと向かって、薬物動態および毒性を介する前臨床データを作成する研究が進行中である。
【0359】
プラセボ抗体と対比した盲検研究
ALSの表現型を伴うSODマウスの2つの株(SOD1 G86RおよびSOD1 G93A)において、組換えヒト抗体rHIgM12を、アイソタイプ対照のヒト抗体であるsHIgM39と対比して調べる、決定的な「盲検」プラセボ対照研究を実施する。組換えヒト抗体であるrHIgM12 200μgの単回投与の、疾患を軽減する有効性を、G86R SOD1およびG93A SOD1両方[14](B6 Cg−Tg SOD1 G93A 1Gur、Jackson Labs)の変異体トランスジェニックマウスモデルにおいて、アイソタイプ対照のヒト抗体であるsHIgM39 200μgの投与と比較して調べる。ENMCによる発症前処置の推奨に従い、抗体による処置を55日齢で行った[18]ところ、rHIgM12をPBSと比較するパイロット研究を反映する結果がもたらされた(
図38〜41)。主要評価項目は、生存および体重減少の防止である。各実験群は、上記データに基づく差異を検出するのに十分な24匹のマウスからなる。加えて、屠殺後の全てのマウスにおけるCNSも検討し、NeuNについての標識を用いて胸部中央の脊髄における前角細胞の数を決定した。異常なミエリン渦により示される、変性した軸索の数をカウントした。G93A SOD1変異体モデル(B6.Cg−Tg)であるSOD1 G93A 1Gur/J(型番004435;Jackson Laboratory)は、これが、ALSについての、最初の、遺伝子ベースで、最も広く用いられ、最もよく特徴付けられたモデルであり、rHIgM12についての結果を、処置の枠組みについての広範なデータベースと比較することを可能とするために包含した。G86Rマウスは、疾患の発症が遅く(7カ月後)、進行が速いのに対し、G93Aマウスは、発症が速く(3〜4カ月後)、進行が遅い。この研究は、SOD1マウスへの外来タンパク質の導入について調整し、また、作用機構の概念についても取り組むものである。rHIgM12のニューロン結合特徴は、極めて重要であり、ニューロンに結合しないIgMは、疾患を改善しないはずである。本研究における主要評価項目は、生存の増大(10%以上:P<0.05)および体重減少の軽減(10%以上:P<0.05)である。SOD1マウスのうちの少なくとも1つの株で改善が見られれば、成功と考える。全てのマウスを、いずれかの側に仰臥させて15〜30秒間以内に自ら直立できなくなる時点で屠殺する。副次評価項目では、ミエリン渦の異常、および脊髄胸部(T6レベル)におけるNeuN陽性前角細胞の密度により示される、変性した軸索の数を測定する。1)rHIgM12で処置したマウスの体重減少が対照と比較して20%多い場合、2)rHIgM12で処置したマウスが発作を発症する場合、3)rHIgM12で処置したマウスの死亡率が対照より20%高い場合は、有害事象を考慮した。
【0360】
用量滴定研究
上記の研究における肯定的な結果に続き、SOD1マウスを死滅から保護するのに要請される最小限の用量を決定するために、用量滴定研究(55日齢のマウス1匹当たり0、5、50、100、および250μgの単回投与を施す)を企図する。マウス脳幹についてのMR分光法を用いて、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)を測定する。本発明者らは、他の神経疾患モデルにおいて、脳幹内のNAAが、脊髄全体における軸索健康の優れたサロゲート指標であることを示した[17]。MR分光法のデータは、rHIgM12を用いる潜在的なヒト試験における抗体有効性についてのサロゲートマーカーとしてのNAAを検証する一助となる。55日齢のSOD1マウス20〜24匹の群に、腹腔内を介して0、5、50、100、および250μgの単回投与を施す。主要評価項目および副次評価項目ならびに有害事象については上記と同じとするが、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)を測定する、脳幹におけるMR分光法が加わる。MR分光法は、100日齢時および屠殺直前の抗体による処置日において、各マウスについてまとめる。100日後または最終走査時の任意のrHIgM12処置群の脳幹におけるNAA濃度の、生理食塩液で処置したマウスと比較した10%(P<0.05)の増大を改善と考える。
【0361】
薬物動態研究およびBBB
研究は、正常マウス血液免疫グロブリンのバックグラウンドにおけるヒトIgMを特異的に検出する、確立されたELISA検出システムを用いて、200μgの静脈内単回投与の50〜70日[18]後のSOD1 G86RマウスおよびSOD1 G93Aマウスにおいて実施する。ヒトIgMは、投与後の多様な時点(0、15分間、30分間、1時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間、2日間、3日間、5日間、および7日間)の血液中で測定する。マウスの血液量は、少量(全血液量<1.5ml)であるため、各回収時点では、3つの個別のマウスを用いる。
【0362】
rHIgM12は、末梢への注射後、血液脳関門を越え、ニューロンと相互作用して、それらを死滅から保護しながら、神経系に直接作用することが提起される。ヒト抗体が血液脳関門を越えず、免疫反応の側面を刺激し、次いで、軸索保護をもたらす可能性もあるが、その可能性は高くない。この問題に十分に取り組むために、in vivoにおける35S標識したrHIgM12の追跡を用いる。35S標識したrHIgM12の2つの用量レベルである、250μgと、上記で確立された最小有効用量とを、50〜70日齢のSOD1マウスにおいて追跡する。35S標識したrHIgM12の静脈内投与後、血液脳関門を越え、注射の4、8、24、48、および72時間後の脳/脊髄実質において見出される35Sの百分率を決定した。加えて、既に公表されているオートラジオグラフィー法[19]を用いて、脳/脊髄における35Sの局在化部位も決定した。
【0363】
血清半減期研究
rHIgM12が有効性を裏付けた、SOD1株(複数可)における200μgの投与を用いて、rHIgM12についての血中反応速度試験を実施する。研究は、静脈内注射後7日間にわたる13の回収点において、1時点当たり3匹ずつのSOD1マウス群により実施する。50〜70日齢のSOD1マウスを処置して、処置時点における抗体反応速度を理解する。rHIgM12の血清半減期、曝露の飽和、および中和抗体であるIgMの存在について決定する。放射性同位体(35S)標識したrHIgM12を追跡する研究では、上記の最小限の有効用量の決定が要請される。50〜70日齢のSOD1マウスに、rHIgM12 250μgおよびrHIgM12の最小限の有効用量(少なくとも1×10
7cpmを含有する)[19]の単回静脈内投与を施して、rHIgM12が、治療的処置の時点でCNSに入るかどうかに取り組む。注射の4、8、24、48、および72時間後において、脳、脊髄、肝臓、心臓、肺、胃、腸、筋肉、脾臓、肝臓、膵臓を含めた主要な組織を迅速に摘出する。組織部分150mgを摘出し、秤量し、Solvable(Perkin Elmer)中で溶解させ、シンチレーション液(Ultima Gold、Perkin Elmer)中でcpmを決定した。同位体で標識したrHIgM12を、オートラジオグラフィーを用いて脊髄切片中で局在化させる[19]。この実験では、主要評価項目を、rHIgM12を注射した4、8、24、48、および72時間後に対照のゼロ時点と比較した、マウスの脳または脊髄における35S同位体の蓄積とする。任意の時点の脳または脊髄の全体1mg当たりの35Sのカウントの50%(P<0.05)の増大を有意と考え、rHIgM12がCNSに入りうることの証拠であると考えた。オートラジオグラフィー研究では、マウスに標識したrHIgM12を投与し、rHIgM12がCNS内で増大する時点において脊髄を摘出した。脊髄切片中のニューロン全体1mm
2当たりの銀目の50%の増大を、in vivoにおける抗体ターゲティングの有意な証拠と考えた。
【0364】
初期毒性研究
rHIgM12により実験を実施して抗体が正常CD−1マウスおよび正常ウサギにおいて毒性であるか否か決定する:両方の性別の正常CD−1マウス10匹の群に、上記で決定したrHIgM12の最小限の有効用量の1倍(1×)、10倍(10×)、および20倍(20×)、または生理食塩液を、1回または7日間にわたり毎日静脈内投与する。2週間後、「完全」剖検を介して血液および組織を回収して解析する。主要な器官全ての組織切片を、毒性評価において熟練した獣医科の病理学者が「盲検により」検討する。血液を、肝臓酵素、心臓酵素、電解質および血液学グループに対する効果についての血液研究を含めた、通常の毒性スクリーンパネルのための化学および血液学で特徴付ける。同一の曝露研究を齧歯動物以外の種において実施し、各性別のウサギ2匹ずつを各用量で調べる。加えて、rHIgM12を用いる組織の交差反応性研究を、抗体が他の任意の組織または器官に結合するか否か決定するのに用いる。マウス、ウサギ、霊長動物、およびヒト(Zymed)に由来するパラフィン包埋した組織切片のパネルを、rHIgM12または対照のヒトIgMで免疫標識する。in vivoにおける状況をより緊密に模倣するので、各組織内の結合の強度および構造を画像化し、rHIgM12および対照のIgMによる組織チョッパーで切断した生存組織スライスの標識化と比較する[7]。加えて、FDAへの治験薬申請の予備的毒性試験部門と一致して、rHIgM12および対照抗体の結合も、凍結ヒト組織および凍結霊長動物組織において調べる。組織交差反応性研究は、マウスおよびウサギにおける曝露研究の間、特に、器官をモニタリングするための鍵をもたらす。
【0365】
組織への結合
有効性を決定した後、これらの研究では、標的組織および標的以外の組織への結合に取り組む。ヒトおよびカニクイザル(Charles River)の市販される組織アレイ(Zymed)および切片を、10μg/mlのrHIgM12および対照のヒトIgMであるsHIgM39で免疫標識する。ディジタル画像を用いて標識の強度を比較する。rHIgM12の、パラフィン包埋して固定した組織アレイおよび凍結させたヒトおよび霊長動物の脳および脊髄への結合を、生存マウスの小脳スライスにおいて観察される抗体結合と比較する。本発明者らは、標準的な効力アッセイである生存小脳スライスへの抗体結合を用いたが、これは、rHIgM12の血清形態が同定された最初のスクリーンである。
【0366】
【数11】
【0367】
【数12】
【0368】
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱しない限りにおいて、他の形態で実施することもでき、他の方式で実行することもできる。したがって、本開示は、例示的なものであり限定的なものではない全ての態様、付属の特許請求の範囲により示される本発明の範囲にあるものと考えられ、同等性の意味および範囲内に収まる全ての変化がその中に包含されることを意図する。
【0369】
本明細書全体では多様な参考文献が引用されるが、それらの各々が参照によりその全体において本明細書に組み込まれる。