特許第6000962号(P6000962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000962低いエネルギー透過を有するプラスチックの多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000962
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】低いエネルギー透過を有するプラスチックの多層構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20160923BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20160923BHJP
   B60J 7/043 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   B32B27/18 A
   B60J1/00 G
   B60J1/00 W
   B60J7/043
【請求項の数】15
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-535371(P2013-535371)
(86)(22)【出願日】2011年10月20日
(65)【公表番号】特表2013-542103(P2013-542103A)
(43)【公表日】2013年11月21日
(86)【国際出願番号】EP2011068342
(87)【国際公開番号】WO2012055757
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年10月17日
(31)【優先権主張番号】10188778.4
(32)【優先日】2010年10月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ・プートライナー
(72)【発明者】
【氏名】ティモ・クールマン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・マイヤー
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−234066(JP,A)
【文献】 特表2008−528313(JP,A)
【文献】 特開2008−150548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C08J 5/00− 5/02
C08J 5/12− 5/22
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
B60J 1/00− 1/20
B60J 7/00− 9/04
B60J11/00− 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−少なくとも1つの透明熱可塑性物質および赤外線吸収剤として、基層用のプラスチック組成物の総重量に基づき0.038重量%〜0.5重量%の、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物に基づくナノ粒子を含有する少なくとも1つの基層であって、更なる赤外線吸収剤として六ホウ化ランタンを含有しないもの、および
−赤外線放射を反射し、相互に直接隣接した層において異なるプラスチックと異なる屈折率を有する少なくとも1つの多重層
を含み、
前記基層の層厚が少なくとも2mmである、ことを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
多重層が光学干渉フィルムから製造される層であることを特徴とする、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
多重層が、相互に直接隣接した個々の層における屈折率が相互に少なくとも0.03差を有する多重層である、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
多重層が、異なる屈折率を有する少なくとも10の層を有することを特徴とする、請求項1〜3の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
多重層の個々の層が30〜500nm層厚を有することを特徴とする、請求項1〜4の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項6】
インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物に基づくナノ粒子を、基層用のプラスチック組成物の総重量に基づき、0.038重量%〜0.500重量%量で含有することを特徴とする、請求項1〜5の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物に基づくナノ粒子が、200nm未満平均粒径を有することを特徴とする、請求項1〜6の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項8】
基層における透明熱可塑性物質が、ジフェノールに基づくポリカーボネートまたはコポリカーボネート、ポリ−またはコポリエステルカーボネート、ポリ-またはコポリアクリレート、およびポリ−またはコポリメタクリレート、スチレンとのコポリマー、エチレンおよび/またはプロピレンに基づくポリマー、芳香族ポリエステル、環状オレフィンに基づくポリマー、および透明熱可塑性ポリウレタンから成る群から選択される1つ以上のプラスチックであことを特徴とする、請求項1〜7の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項9】
基層側および/または多重層側に少なくとも1つの耐引掻きコーティングを有することを特徴とする、請求項1〜8の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項10】
基層および/または所望により存在する耐引掻きコーティングが少なくとも1つの紫外線吸収剤を含有することを特徴とする、請求項1〜9の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項11】
基層の層厚が少なくとも500μmであることを特徴とする、請求項1〜10の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項12】
基層が1200〜2300nmの波長域において20%以下の赤外線透過率を有し、多重層が、850〜1800nm波長域において赤外線放射の30%を反射することを特徴とする、請求項1〜11の少なくとも1項に記載の多層構造体。
【請求項13】
請求項1〜12の少なくとも1項に記載の多層構造体の製造方法であって、
A)少なくとも1つの透明熱可塑性物質、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物に基づくナノ粒子、および所望による少なくとも1つの紫外線吸収剤および/または少なくとも1つの安定剤を含有するプラスチック組成物を調製し、
B)プラスチック製の基層を、工程A)で得られたプラスチック組成物から押出し成形または射出成形を用いて製造し、
C)多重層フィルムを、工程B)で得られたプラスチック製基層に接着剤を用いおよび/またはラミネートにより施し、
D)少なくとも1つの耐引掻きコーティングを、工程C)で得られた製品の1つの外面または両方の外面に、所望により施す
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項14】
建造物、自動車、鉄道車両および航空機におけるプラスチックから成るグレージングを製造するための、請求項1〜12の少なくとも1項に記載の多層構造体の使用。
【請求項15】
請求項1〜12の少なくとも1項に記載の少なくとも1つの多層構造体を含む、建造物、自動車、鉄道車両および航空機分野におけるプラスチック製グレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの透明な熱可塑性物質と特定の無機赤外線吸収剤とを含む基層および赤外線反射多重層を含む多層構造体、このような多層構造体の製造、および建造物、自動車、鉄道車両および航空機におけるプラスチック製グレージング(glazing)の製造におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリカーボネートなどの透明な熱可塑性ポリマーを含有する組成物から製造されるグレージングは、車両分野および建造物分野におけるガラス製の常套のグレージングよりも多くの利点を有する。これらは、例えば、耐破砕特性または軽量化をもたらし、このことは、自動車グレージングの場合、交通事故の際、乗員に対してより高い安全性を提供することが可能であり、かつ、より低い燃料消費を可能にする。最後に、透明な熱可塑性ポリマーを含有する透明材料は、より簡単な成形性に起因して、著しく大きなデザインの自由度をもたらす。
【0003】
しかしながら、欠点は、太陽の下での透明な熱可塑性ポリマーの高い熱透過性(すなわち、赤外線放射に対する透過性)が、車両および建造物の内部に望ましくない加熱を導くことである。内部空間における温度上昇は、乗員または住人の快適性を低減し、および、空調の要求を増加させ、このことは、回り回ってエネルギー消費を増加させ、そしてこの結果、プラス効果を相殺してしまう。それにもかかわらず、乗員または居住者の高い快適性を備えつつ低いエネルギー消費に対する要求を配慮するために、適当な熱保護を備える窓ガラス(pane)が必要である。
【0004】
以前から知られているように、400nm〜750nmの間の光の可視領域に加えて、太陽エネルギーの大部分は、750nmおよび2500nmの間の近赤外(NIR)領域に収まる。例えば、浸透した太陽放射は、自動車の室内に吸収され、5μm〜15μmの波長を有する長波長熱放射として放出される。この長波長領域において、常套のグレージング材料(特に、可視領域において透明な熱可塑性ポリマー)は、透過的ではないので、熱放射は、外部に放射されない。温室効果がもたらされ、内部空間は熱くなる。したがって、この効果を可能な限り小さくするために、NIRにおけるグレージングの透過性を可能な限り小さくすべきである。しかしながら、常套の透明な熱可塑性ポリマー、例えばポリカーボネートなどは、可視領域およびNIRにおいて共に透過的である。
【0005】
したがって、例えば、可視領域のスペクトルにおける透明性に不都合な影響を及ぼすことなく、NIRにおいて可能な限り低い透明性を示す添加剤が必要とされている。
【0006】
したがって、プラスチックに熱吸収特性を付与するために、対応する赤外線吸収剤(IR吸収剤)が添加剤として使用されている。特に、NIR領域における広範な吸収スペクトルを備え、同時に、可視領域において低い吸収(ごく僅かな固有色)を備える赤外線-吸収剤系が、このことに関して興味深い。対応するプラスチック組成物は、さらに、高い熱安定性と優れた光安定性を有する。
【0007】
透明な熱可塑性物質に使用できる、有機または無機材料に基づく多くの種類の赤外線吸収剤が既知である。このような材料の選択は、例えば、J.Fabian, H.Nakazumi, H. Matsuoka, Chem. Rev. 第92巻、第1197頁(1992年)、US-A5712332またはJP-A06240146に記載されている。
【0008】
しかしながら、有機材料に基づく赤外線-吸収添加剤は、それらが熱または放射への暴露に対して低い安定性を示すといった欠点を有する場合が多い。したがって、プラスチックを加工する間に最大330℃の温度が要求されるので、これらの添加剤の多くは、透明な熱可塑性物質中に加えられる得る熱に対して十分に安定ではない。さらに、グレージングは、使用の間に、太陽放射に起因する、50℃よりも高い温度に比較的長期にわたって曝されることが多く、このことは、有機吸収剤の分解または変質を生じ得る。さらに、有機赤外線吸収剤は、NIR領域において十分に広い吸収バンドを示さないことが多いので、グレージング材料における赤外線吸収剤としてのそれらの使用は効果が無い。これらの系の望ましくなく強い固有色も、更に生じることが多い。
【0009】
無機材料に基づく赤外線-吸収添加剤は、有機添加剤と比較して、より明確な安定性を示すことが多い。多くの場合において、それらは明確により好ましい費用/パフォーマンス率を有するので、これらの系の使用はより経済的であることが多い。したがって、微粒子ホウ化物に基づく材料、例えば、六ホウ化ランタンなどは、効果的な赤外線吸収剤であることが判明している。なぜならば、それらは、高い耐熱性と相まって、幅広い吸収帯を有するからである。La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、およびCaに基づくこのようなホウ化物は、例えば、DE−A10 392 543またはEP-A1 559 743に記載されている。
【0010】
しかしながら、それらの固有色は、これらの添加剤の欠点である。ホウ化物含有添加剤は、その混入後に透明なプラスチックに対して緑色の着色をもたらし、このことは、中間色もたらす余地を大幅に制限するので、望ましくないことが多い。
【0011】
例えば、DE−A10 392 543、US−A2004/0028920、EP−A1 559 743、EP−A1 865 027およびEP−A2 009 057は、無機ホウ化物粒子に基づくポリマー組成物を開示する。しかしながら、これらの組成物は、記載したような望ましくなく著しい固有色を有する。
【0012】
EP−A1 559 743は、ホウ化物に基づく無機赤外線吸収剤を紫外線吸収剤と組合わせて含有するポリカーボネート組成物を開示している。しかしながら、これらの組成物は、低いエネルギー透過性、特に低い二次エネルギー透過性に対する高い要求を満たさない。さらに、これらの組成物は、著しい固有色を有する。
【0013】
この固有色を補償するために、さらに比較的多量の、好ましくは補足的着色剤が使用されることが多いが、これは組成物の光学特性を損ない、可視領域において著しく低下した透過率をもたらす。これは、車両用グレージングにおいて特に望ましくないか、または、運転者の視点において機能を損なってはいけない特定の場合においては、許容できない。
【0014】
先行技術から既知の無機ホウ化物系赤外線吸収剤と比べて、可視スペクタル領域において、より低い固有吸収を有するタングステン化合物から成る群からの赤外線吸収添加剤がさらに知られている。熱可塑性材料におけるこれらの物質の製造および使用は、例えば、H.Takeda, K.Adachi, J.Am.Ceram.Soc. 第90巻、第4059〜4061頁(2007年)、WO-A2005/037932およびWO−A2009/059901に記載されている。しかしながら、熱暴露に対する長期間安定性の欠如は、欠点として判断される。タングステン酸化物の熱に対する不安定な性質がとりわけ知られており、例えば、Romanyuk等によるJ.Phys.Chem.C2008,第112巻、第11090頁-第11092頁に記載されているが、これらの化合物がポリマーマトリックス内に混入される場合、赤外線領域における吸収は、対応するポリマー組成物(例えば、ポリカーボネート組成物の場合)の昇温下で熱貯蔵する間に、著しく低下することが見いだされている。
【0015】
しかしながら、グレージング分野、特に自動車グレージングに使用するために、対応する赤外線-吸収プラスチック組成物が、より高い温度、特に、強烈な太陽放射(例えば、50℃-110℃)の下で、プラスチック製物品が取り得るような温度でも、長期に亘る安定性を示すことは、本質的な要素である。さらに、組成物は、常套の加工条件下で、それにより赤外線吸収特性が減少することなく加工できることを保証しなければならない。
【0016】
赤外線吸収剤を含有するグレージングの更なる欠点は、その熱貯蔵である。赤外線吸収剤を含有する窓ガラスは、日光の照射を受けた際に熱くなり、それにより貯蔵された熱貯蔵はその後再び部分的に外部へと放出されるが、一部は車両または建造物の内部へも放出される。内部へのこの二次熱伝達は重大な問題である。なぜならば、このことは、直接エネルギー透過に加え内部を熱くするからである。二次熱伝達も考慮するために、いわゆる「グレージング内部に伝達される太陽エネルギー総量」、(以下、ISO13837に従い、「総日射透過率」TTsという)は、系の性能を明確にすることが多い。低い一次および二次エネルギー移動(TTs)を有する可視領域において、最も高い伝達性(Ty)を有する系が目標とされる場合が多い。
【0017】
二次熱伝達による間接加熱を避けるために、赤外線放射を反射する顔料またはコーティングが既知である。この反射の結果、窓ガラスの加熱は弱まり、内部への二次熱伝達は低くなる。しかしながら、このような系は、窓ガラスにとっては極めて低い透過率を示すことが多い。これらの窓ガラスは半透明なことが多い。他の欠点は、例えば、電波の遮蔽がおこり、モバイル通信の機能および航法装置の機能を損ない得る。
【0018】
US6,333,084およびUS5,589,280は、例えば、とりわけ、金属製の赤外線反射薄層を含む多層構造体を開示する。しかしながら、これらの系は、電波の通過を妨げ、それにより、とりわけ、航法装置またはモバイル通信装置を妨げる。さらに、金属製の薄層は、腐食の影響を受けやすい。
【0019】
DE−A10 117 786は、有機赤外線吸収剤を含有する基層とIR反射層から成る多層構造体を開示している。しかしながら、単独の有機赤外線吸収剤では、上記安定性に関する問題を有するに過ぎない。
【0020】
US−A2006/0251996は、熱可塑性ポリマーと、赤外線吸収添加剤として金属酸化物を含有するコア層を含む多層シートを開示している。これらの系も、低いエネルギー透過性、特に低い二次エネルギー透過性に対する高い要求を満たさない。
【0021】
WO−A99/36257およびUS−A2004/0032658は、赤外線反射特性を有する多層系を開示する。しかしながら、これらの系は、極めて低いエネルギー透過と併用される高い可視光透過に関する高い要求を満たさない。
【0022】
US2008/0292820A1は、金属酸化物、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモン酸化物(ATO)などに基づくナノ粒子、および赤外線吸収剤、例えば、六ホウ化ランタンなどを含有する多層フィルムを開示している。赤外線吸収層の薄い厚みに起因して、多層構造体であっても、フィルム外部領域と内部領域に異なる色深さを生じ得るといった欠点を有する。
【0023】
US2008/0075948A1は、とりわけ、赤外線反射層および赤外線吸収層から成る多層構造体を開示する。多層体の構造および使用される赤外線吸収剤に起因して、フィルムの全領域におよぶ均一な色流れは予期されない。
【0024】
WO2004/000549A1は、積層ガラスから成る多層体を開示している。これらの構造は、とりわけ、赤外線反射層および赤外線吸収層を含む。ここでもまた、赤外線吸収層の薄い厚みおよび使用される赤外線吸収剤に起因して、均一な色流れは予期されない。
【0025】
赤外線吸収剤を含有する隣接層を有する多重層の組合せは、例えば、US−A2008/0291541およびUS−A2006/0154049に記載されている。赤外線吸収剤を含有する層は、好ましくは最大50μmの薄いコーティングである。記載された構造の欠点は、吸収剤層の高い固有色と、可視波長領域における極めて低い光透過性を伴うことである。厚み方向の極めて小さな偏向は色彩を著しく損なうので、赤外線吸収剤を含有する薄層は色流れをさらに有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】US-A5712332
【特許文献2】特開H06−240146号公報
【特許文献3】DE−A10 392 543
【特許文献4】US−A2004/0028920
【特許文献5】EP−A1 559 743
【特許文献6】EP−A1 865 027
【特許文献7】EP−A2 009 057
【特許文献8】WO-A2005/037932
【特許文献9】WO−A2009/059901
【特許文献10】US6,333,084
【特許文献11】US5,589,280
【特許文献12】DE−A10 117 786
【特許文献13】US−A2006/0251996
【特許文献14】WO−A99/36257
【特許文献15】US−A2004/0032658
【特許文献16】US2008/0292820A1
【特許文献17】US2008/0075948A1
【特許文献18】WO2004/000549A1
【特許文献19】US−A2008/0291541
【特許文献20】US−A2006/0154049
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】J.Fabian, H.Nakazumi, H. Matsuoka, Chem. Rev. 第92巻、第1197頁(1992年)
【非特許文献2】H.Takeda, K.Adachi, J.Am.Ceram.Soc. 第90巻、第4059〜4061頁(2007年)
【非特許文献3】Romanyuk;J.Phys.Chem.C2008,第112巻、第11090頁-第11092頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
したがって、上記欠点を生じること無く、可視領域における高い透過率(Ty)と、低い一次および二次エネルギー透過率(TTS)を有するプラスチック製の多層構造体が必要とされている。
【0029】
したがって、本発明の目的は、可視領域における高い透過率(Ty)と、低い一次および二次エネルギー透過率(低いTTS値)を有するプラスチック系の多層構造体を見いだすことである。構造体は、可能な限り低い固有色と、プラスチックの加工温度にておよびグレージングで長期間使用される間のいずれにおいても高い熱安定性を有するべきであり、ならびに、恒久的な入射光に対する高い安定性を有するべきである。この系は、さらに、モバイル通信装置および航法装置の機能を損なうべきでは無く、すなわち、電波に対する可能な限り最も高い透過率を有するべきである。これらの多層構造体は、建造物用のグレージング要素または車両用グレージングにおける長期間の使用に適し、すなわち、光および熱安定性に関して同様に長寿命を有する。経済的に許容できる費用/パフォーマンス率も、このような使用領域において興味深い。
【課題を解決するための手段】
【0030】
驚くべきことに、少なくとも1つの透明熱可塑性物質および赤外線吸収剤として、基層用のプラスチック組成物の総重量に基づき、少なくとも0.030重量%の、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物由来のナノ粒子を含有する少なくとも1種の透明プラスチック基層と、赤外線放射を反射し、相互に直接的に隣接した層において、異なるプラスチックと異なる屈折率を有する少なくとも1つの多重層を含む多層構造体により、この目的を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
したがって、本発明は、
−少なくとも1つの透明な熱可塑性物質と、赤外線吸収剤として、基層用のプラスチック組成物の総重量に基づき、少なくとも0.038重量%〜0.5重量%の、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物(ATO)由来のナノ粒子を含有する少なくとも1つの基層、ただし、該基層は、更なる赤外線吸収剤として使用可能な六ホウ化ランタンを含有しない、および
−赤外線放射を反射し、相互に直接的に隣接した層において、異なるプラスチックと異なる屈折率を有する少なくとも1つの多重層
を含むことを特徴とする多層構造体を提供する。
【0032】
驚くべきことに、先行技術から既知の系と比べて、本発明に係る多層構造体は低いTTS値および、可視光線領域において低い固有吸収を有し、その結果、固有色が小さくなる。好ましくは、本発明に係る多層構造体は、可視波長領域において70%よりも高い透過率を有すると共に、TTS値60%未満、好ましくは58%未満、特に好ましくは56%未満を有する。本発明に係る多層構造体の固有色は、a値=0±5およびb=0±5、好ましくはa値=0±4およびb=0±4の値を有するニュートラルグレーである(ASTM E308に記載されている式および計量係数を用い、ASTM E1348に従い色を測定した;CIELAB色座標L、a、bは、D65の光種および10°の通常観察により算出した)。
【0033】
本発明に係る多層構造体は、赤外線反射特性が、赤外線吸収特性により相乗的に補完されて大きな効果をもたらすという利点をもたらし、すなわち、赤外線吸収剤は、赤外線反射層の赤外線反射力がごく僅かしかない又はほとんど存在しない波長領域において高い吸収力を有し、反対に、赤外線反射層は、赤外線吸収剤の吸収力が低い波長領域において特に高い赤外線反射力を有する。好ましくは、本発明に係る多層構造体は、ごく僅かな波長域、好ましくは100nm以下を含む範囲を有し、この範囲で、30%よりも高い高反射力および顕著な吸収力、すなわち基層において20%未満の赤外線透過率が存在する。さらに、本発明に使用される無機の赤外線吸収剤は、良好な費用/性能比を有する。
【0034】
基層は、好ましくは少なくとも500μmの層厚、好ましくは少なくとも1mm、特に好ましくは少なくとも2mm、まさに特に好ましくは少なくとも3mmの層厚を有する。層厚の最大厚さは特に限定されない。好ましくは、2cm以下、特に好ましくは8mm以下、まさに特に好ましくは7mm以下の層厚が、常套の使用範囲である。ある用途において、特に鉄道車両および航空機の場合、基層の厚さは特に8mmより厚く、好ましくは9mm〜20mmであり、それに応じて、付随する赤外線吸収剤および所望による本発明において採用される安定剤の量が決定される。
【0035】
使用されるアンチモンドープしたスズ酸化物(ATO)は、特に、SnO:Sb型のうちの1つ、すなわち、アンチモンでドープしたスズ(IV)酸化物である。このようなATOは商業的に入手できる。
【0036】
使用されるインジウムスズ酸化物(ITO)は、特に、インジウム(III)酸化物とスズ(IV)酸化物の混合酸化物、好ましくは90モル%のインジウム(III)酸化物(In)および10モル%のスズ(IV)酸化物(SnO)を有するものである。このようなITOは商業的に入手できる。
【0037】
基層は、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物(ATO)に基づくナノ粒子を、基層用のプラスチック組成物の総重量に基づき、0.038〜0.500重量%の量、好ましくは0.050〜0.250重量%の量、特に好ましくは0.063〜0.150重量%の量で含有する。
【0038】
本発明において使用されるATOまたはITOに基づくナノ粒子の平均粒径は、好ましくは200nm未満、特に好ましくは100nm未満、およびまさに特に好ましくは50nm未満である。特に好ましい実施態様において、平均粒径は、1nm〜50nmの間である。
【0039】
平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定でき、このようにして測定した算術平均粒径を意味する。
【0040】
ITOおよび/またはATO粒子は、スペクトルの可視波長領域における放射に対して透明であり、透明とは、赤外線領域における吸収と比べて、光の可視領域におけるこれらの赤外線吸収剤の吸収が低いことを意味し、組成物または最終生成物の赤外線吸収剤が著しく増加した曇りを生じさせず、それらの(光の可視領域における)透過率の著しい低下を生じさせないことを意味する。
【0041】
更なる実施態様において、本発明に係るATOおよび/またはITO系ナノ粒子に加えて、更なる赤外線吸収剤を、熱可塑性組成物中に、所望により付加的に使用できる。しかし、このような組成物の総量は、いずれの場合も、ATOおよび/またはITO系ナノ粒子の含有量を下回る。好ましくは、併用される付加的な赤外線吸収剤の場合は総量で、基層のプラスチック組成物の総重量に基づき0.03重量%未満の、付加的な赤外線吸収剤が使用される。付加的な赤外線吸収剤が使用される場合、好ましくは、赤外線吸収剤としてのITOおよび/またはATOを含んで、合計で2〜5、好ましくは2〜3種の異なる赤外線吸収剤が使用される。
【0042】
基層は、ランタン六ホウ化物(LaB)を含有しない。好ましくは、更なる金属ホウ化物は付加的な無機赤外線吸収剤として使用されない。従って、本発明の特に好ましい実施態様において、基層は金属ホウ化物を含有しない。
【0043】
基層の組成物は、タングステン、好ましくはセシウムタングステン酸セシウムに基づく少なくとも1つの更なる赤外線吸収剤を所望により含有できる。
【0044】
適当な付加的な有機赤外吸収剤は、例えば、M.Matsuoka,「赤外吸収染料」plenum Press, ニューヨーク、1990年における物質分類により記載されている。特に適当なものは、フタロシアニン、ナフタロシアニン、金属錯体、アゾ染料、アントラキノン、クアドラティック(quadratic)酸誘導体、インモニウム染料、ペリレン、クォテリレン(quaterylene)およびポリメチンから成る分類からの赤外吸収剤である。これらのうち、特に適当なものは、フタロシアニンおよびナフタロシアニンである。
【0045】
基層の組成物は、所望により、クォテリレンに基づく少なくとも1種の更なるIR吸収剤を含有する。
【0046】
上述の、赤外線吸収剤の組合せが、特に適当である。なぜならば、当業者は、標的の選択により近赤外領域における吸収の最適化を得ることができるからである。
【0047】
好ましい実施態様において、本発明によるポリマー組成物は、紫外線吸収剤を更に含有する。基層用のプラスチック組成物において使用するのに好適な紫外線吸収剤は、400nmより短い場合により低い透過を有し、400よりも長い場合により高い透過を有する化合物である。このような化合物およびその調製法は、文献から公知であり、例えば、EP−A0839623、WO−A96/15102およびEP−A0500496に開示されている。本発明に係る組成物中での使用に特に好適な紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール、トリアジン、ベンゾフェノンおよび/またはアリール化シアノアクリレートである。
【0048】
特に好適な紫外線吸収剤は、ヒドロキシベンゾトリアゾール、例えば2-(3',5'-ビス-(1,1-ジメチルベンジル)-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)234、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、2-(2'-ヒドロキシ-5'-(tert-オクチル)-フェニル)-ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)329、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、2-(2'-ヒドロキシ-3'-(2-ブチル)-5'-tert-ブチル)-フェニル)-ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)350、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、ビス-(3-(2H-ベンゾトリアゾリル)-2-ヒドロキシ-5-tert-オクチル)メタン(Tinuvin(登録商標)360、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)フェノール)(Tinuvin(登録商標)1577、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)など、およびベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-ベンゾフェノン(Chimasorb22(登録商標)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)および2-ヒドロキシ-4-(オクチルオキシ)-ベンゾフェノン(Chimassorb81、チバ、バーゼル)、2-プロペン酸、2-シアノ-3,3-ジフェニル-、2,2-ビス[[2-シアノ-1-オキソ-3,3-ジフェニル-2-プロペニル)オキシ]-メチル]-1,3-プロパンジイルエステル(9CI)(Univul(登録商標)3030、BASF AG、ルートヴィッヒシャーフェン)、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-エチルヘキシル)オキシ]フェニル-4,6-ジ(4-フェニル)フェニル-1,3,5-トリアジン(CGX UVA 006, チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、またはテトラエチル-2,2'-(1,4-フェニレンジメチリデン)ビスマロネート(Hostavin(登録商標)B-Cap,クラリアントAG)などである。
【0049】
これら紫外線吸収剤の混合物も使用してよい。
【0050】
組成物中に含有される紫外線吸収剤の量に関しては、紫外線放射の所望される吸収および組成物から製造される成形品の十分な透明性が保証されるのであれば、特に制限されない。好ましくは、基層用のプラスチック組成物は、基層用のプラスチック組成物の総重量に基づき、紫外線吸収剤を0.05wt%〜20.00wt%、特に0.07wt%〜10.00wt%の量、および正に特に好ましくは0.10wt%〜1.00wt%の量で含有する。
【0051】
基層は更に、少なくとも1つの更なる安定剤を付加的に含有できる。それらは、例えば、および好ましくは、熱安定剤、長期安定剤、および/または加工処理用安定剤であり、特に好ましくこれらの特性のうちの幾つかをカバーする複数の安定剤または安定剤の混合物である。リン系安定剤またはフェノール系安定剤が好ましい。適当な付加的な安定剤はホスフィン、ホスフィット、またはフェノール系酸化防止得剤またはそれらの混合物である。なぜならば、これらは、これらの安定性に悪影響を及ぼすこと無く赤外線吸収剤と併用できるからである。商業的に入手可能であり、適当な好ましい安定剤は、例えば、トリフェニルホスフィン、Irgafos(登録商標)168(tris-(2,4-ジ-tert-ブチル)フェニルホスファイト)および、Irganox(登録商標)1076(2,6-ジ−tert−ブチル-4-(オクタデカンオキシカルボニルエチル)フェノール)であり、いずれの場合も単独または組合せてもよい。
【0052】
本発明の一実施態様において、ATOおよび/またはITOに基づく赤外線吸収剤と、安定剤としてのトリフェニルホスフィンの組合せが好ましい。本発明の更なる実施態様において、ATOおよび/またはITOに基づく赤外線吸収剤と、安定剤としてのトリフェニルホスフィンおよびIrgafos(登録商標)168((tris-(2,4-ジ-tert-ブチル)フェニルホスファイト)の組合せが好ましい。本発明の更なる実施態様において、ATOおよび/またはITOに基づく赤外線吸収剤と、安定剤としてのトリフェニルホスフィンおよびIrgafos(登録商標)168((tris-(2,4-ジ-tert-ブチル)フェニルホスファイト)とIrganox(登録商標)1076(2,6-ジ−tert−ブチル-4-(オクタデカンオキシカルボニルエチル)フェノール)もしくはIrganox(登録商標)1010(ペンタエリトリトール3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチル)プロピオネート:CAS:6683−19−8)の組合せが好ましい。
【0053】
所望により使用されるホスフィンの量は、基層におけるプラスチック組成物の総重量に基づき、好ましくは0.01〜0.20重量%である。所望により使用されるホスフィット量は、基層におけるプラスチック組成物の総重量に基づき、好ましくは0.20重量%〜0.01重量%、特に好ましくは0.10重量%〜0.02重量%である。所望により使用されるフェノール系酸化防止剤の量は、基層におけるプラスチック組成物の総重量に基づき、好ましくは0.100重量%〜0.001重量%、特に好ましくは0.050重量%〜0.005重量%である。
【0054】
本発明における基層に適当な透明な熱可塑性物質は、例えば、エチレン性不飽和モノマーのポリマーおよび/または2官能性反応性化合物の重縮合物である。透明な熱可塑性ポリマーの例は、例えば、ジフェノールに基づくポリカーボネートまたはコポリカーボネート、ポリ−またはコポリエステルカーボネート、ポリ-またはコポリアクリレート、およびポリ−またはコポリメタクリレート、例えばポリ−若しくはコポリメチルメタクリレート(例えばPMMA)など、スチレンとのコポリマー、例えば、透明なポリスチレンアクリロニトリル(PSAN)、あるいはエチレンおよび/またはプロピレンに基づくポリマーまたはコポリマー、芳香族ポリエステルまたはコポリエステル、例えば、ポリ−またはコポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ−またはコポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ−またはコポリブチレンテレフタレート(PBT)、またはグリコール変性PET(PETG)および透明な熱可塑性ポリウレタンである。環状オレフィンに基づくポリマーまたはコポリマー(例えば、TOPAS(登録商標)、Ticonaの市販品)、テレフタル酸の重縮合物または共重縮合物、例えばポリエチレンテレフタレートまたはコポリエチレンテレフタレート(PETまたはCoPET)またはPETGを更に混合させてもよい。複数の透明熱可塑性ポリマーの混合物も可能である。
【0055】
好ましい透明な熱可塑性物質は、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリエステル、ポリカーボネートまたはコポリカーボネートであり、ポリカーボネートまたはコポリカーボネートが特に好ましい。
【0056】
特に好ましいポリカーボネートまたはコポリカーボネートは、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)に基づくホモポリカーボネート、1,3-ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンに基づくホモポリカーボネートおよび、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)モノマーと1,1-ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンモノマーの2つのモノマーに基づくコポリカーボネートである。
【0057】
以下において、ホモポリカーボネートおよびコポリカーボネートを共にポリカーボネートと称する。ポリカーボネートは、直鎖状であってもよく、既知の方法で分岐させてもよい。
【0058】
ポリカーボネートの調製は、ジフェノール、カルボン酸誘導体、所望による連鎖停止剤および分岐剤から既知の方法により行われる。本発明に係るポリカーボネートは、あらゆる既知の方法、例えば相界面法または溶融エステル交換法により調製でき、相界面法により調製されたポリカーボネートが好ましい。ポリカーボネートの製造の詳細は、多くの特許明細書に約40年にわたって開示されている。単に一例として、Schnell,“Chemistry and Physics of Polycarbonates”,Polymer Reviews,第9巻,Interscience Publishers,ニューヨーク,ロンドン,シドニー1964年、D.Freitag,U.Grigo,P.R.Mueller,H.Nouvertne,BAYER AG,"Polycarbonates"in Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,第11巻,第二版,1988年,648〜718頁、および最後にDrs.U.Grigo,K.Kirchner and P.R.Mueller"Polycarbonate"in Becker/Braun,Kunststoff-Handbuch,第3/1巻,Polycarbonate,Polyacetale,Polyester,Celluloseester,Carl Hanser Verlag ミュンヘン,ウィーン1992年,117〜299頁参照。
【0059】
ポリカーボネートを製造するのに適切なジフェノールは、例えばヒドロキノン、レソルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、α、α'−ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、イサチン誘導体またはフェノールフタレイン誘導体から誘導されるフタルイミジン、およびそれらの核アルキル化および核ハロゲン化化合物である。
【0060】
好ましいジフェノールは、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサン、および1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンである。
【0061】
ホモポリカーボネートの場合、わずか1つのジフェノールが使用され、コポリカーボネートの場合、複数のジフェノールが使用される。
【0062】
適当な炭酸誘導体は、例えば、ジフェニルカーボネート、4−tert−ブチルフェニル−フェニルカーボネート、ジ−(4−tert−ブチルフェニル)カーボネート、ビフェニル−4−イル−フェニルカーボネート、ジ−(ビフェニル−4−イル)カーボネート、4−(1−メチル−1−フェニルエチル)−フェニル−フェニルカーボネート、ジ−[4−(1−メチル−1−フェニルエチル)−フェニル]カーボネートおよびジ−(メチルサリチレート)カーボネートから成る群から選択されるジアリール化合物またはホスゲンである。
【0063】
特に好ましい炭酸誘導体は、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートである。
【0064】
ポリカーボネートの調製に使用され得る適当な連鎖停止剤は、モノフェノールおよびモノカルボン酸の両者である。適当なモノフェノールは、フェノールそのもの;アルキルフェノール、例えばクレゾール、p-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、p-n-オクチルフェノール、p-イソ-オクチルフェノール、p-n-ノニルフェノールおよびp-イソ-ノニルフェノールなど、ハロフェノール、例えば、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、p-ブロモフェノールおよび2,4,6-トリブロモフェノール、2,4,6-トリヨードフェノール、p-ヨードフェノール、ならびにそれらの混合物である。
【0065】
好ましいモノフェノールは、フェノール、クミルフェノールおよび/またはp-tert-ブチルフェノールである。
【0066】
さらに、適当なモノカルボン酸は、安息香酸、アルキル安息香酸およびハロ安息香酸である。
【0067】
さらに、好ましい連鎖停止剤は、直鎖または分岐状の、C〜C30アルキル残基で1度または繰り返して置換されたフェノール、好ましくはtert-ブチルで置換されたまたは未置換のフェノールである。
【0068】
使用される連鎖停止剤の量は、使用される特定のジフェノールの物質量に基づき、好ましくは0.1モル%〜5モル%の量である。
【0069】
適当な分岐剤は、ポリカーボネート化学において既知の三官能性または三官能性以上の化合物、特に、3または3以上のフェノール性OH基を有するものである。適当な分岐剤は、例えば、フロログルシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプト−2−エン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリ−(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス−[4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス−(2−ヒドロキシ−5'−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシ−フェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、ヘキサ−(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェニル)オルトテレテレフタル酸エステル、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ)メタン、および1,4−ビス((4',4''−ジヒドロキシトリフェニル)メチル)ベンゼン、ならびに2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌール酸クロライドおよび3,3−ビス−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドールである。
【0070】
特に好ましい分岐剤は、3,3−ビス−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドールおよび1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)エタンである。
【0071】
所望により使用される分岐剤の量は、使用される特定のジフェノールの物質量に対して、好ましくは0.05モル%〜2.00モル%の量である。
【0072】
本発明による芳香族ポリカーボネートは、5000〜200000の間、好ましくは10000〜80000の間、および特に好ましくは15000〜40000の間に重量平均分子量Mw(ゲル浸透クロマトグラフィおよびポリカーボネート較正による較正によって測定された分子量)を有する。このことは、ポリスチレン標準試薬を用いて較正された、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定された、12000〜330000の間、優先的に20000〜135000の間および特に好ましくは28000〜69000の分子量に概ね相当する。
【0073】
基層用のプラスチック組成物は、所望により更なる常套のポリマー添加剤、例えば、防炎剤、光学的光沢剤、着色剤、顔料、流れ改良剤または加工助剤(例えば離型剤)、EP-A0839623、WO−A96/15102、EP-A0500496または「プラスチック添加剤ハンドブック」,Hanz Zweifel,第5版,2000年、Hanser Verlag,ミュンヘンに記載されたものを、個々の熱可塑性材料に対して常套の量で含有できる。
【0074】
好ましくは、更なるポリマー添加剤は、特定のポリマーの総組成物量に基づき、いずれの場合も0wt%〜5wt%以下、好ましくは0.1wt%〜1wt%の量で使用される。複数の添加物質の混合物も適当である。
【0075】
適当な着色剤または顔料は、例えば、硫黄含有顔料、例えば、カドミウムレッドおよびカドミウムイエローなど、鉄-シアン化物系顔料、例えば、ベルリンブルーなど、酸化物顔料、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロム、チタニウムイエロー、亜鉛/鉄系ブラウン、チタン/コバルト系グリーン、コバルトブルー、銅/クロム系ブラックおよび銅/鉄系ブラックなど、またはクロム系顔料、例えば、クロムイエローなど、フタロシアニン由来の染料、例えば、銅フタロシアニンブルーおよび銅フタロシアニングリーンなど、縮合多環染料および顔料、例えば、アゾ系染料および顔料(例えば、ニッケルアゾイエロー)、硫黄インディゴ染料、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン由来、ジオキサジン系、イソインドリノン系およびキノフタロン由来の誘導体、アントラキノン系複素環系である。
【0076】
市販品の具体例は、例えば、MACROLEX(登録商標)Blau RR、MACROLEX(登録商標)Violett 3R、MACROLEX(登録商標)Violett B(ランクセスAG、ドイツ)、Sumiplast(登録商標)Violett RR、Sumiplast(登録商標)Violett B、Sumiplast(登録商標)Blau OR(住友化学株式会社)、Diaresin(登録商標)Violett D、Diaresin(登録商標)Blau G、Diaresin(登録商標)Blau N(三菱化学株式会社)、Heliogen(登録商標)BlauまたはHeliogen(登録商標)Grun(BASF AG、ドイツ)である。
【0077】
これらのうち、シアニン誘導体、キノリン誘導体、アントラキノン誘導体およびフタロシアニン誘導体が好ましい。
【0078】
本発明に係る組成物に関して特に適当な離型剤は、例えばペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)またはグリセロールモノステアレート(GMS)である。
【0079】
好ましくは、赤外線放射を反射する多層の光学干渉フィルムであることができる。このような干渉フィルムは、好ましくは交互ポリマー層の共押出しにより製造される。このような干渉フィルムは、共押出しを用い個別の干渉フィルムとして好ましく製造できる。それらは、光干渉の結果としての狭い反射領域により特徴付けられる。
【0080】
赤外線放射を反射する多重層は、上下に平行に配置された透明熱可塑性材料から成る複数の層から構築され、基層用の上記熱可塑性材料を使用できる。芳香族ポリ−またはコポリエステル、例えば、ポリ−またはコポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ−またはコポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ−またはコポリブチレンテレフタレート(PBT)、またはグリコール変性PET(PETG)、ポリアクリレート-またはコポリアクリレート、およびポリメタクリレートまたはコポリメタクリレート、例えばポリメチル若しくはコポリメチルメタクリレート(例えばPMMA)などがここでは特に好ましい。相互に直接隣接した個々の層は、好ましくは異なる熱可塑性物質から製造される。相互に直接隣接した個々の層の屈折率は、好ましくは相互に少なくとも0.03の差を有し、特に好ましくは、屈折率は少なくとも0.06異なる。赤外線放射を反射するこのような多重層は、好ましくは少なくとも10の層を含む。好ましくは、この層は、2つの異なる熱可塑性物質の層が交互配置され、交互に異なる屈折率を有する。少なくとも1つの芳香族ポリ−またはコポリエステルおよび少なくとも1つのポリ−またはコポリアクリレート、あるいはポリメタクリレートまたはコポリメタクリレートが交互に存在する層構造が、本発明においては好ましい。この層構造は、機械的な安定化のために片面または両面に保護層を所望により施してもよい。例えば、芳香族ポリ−またはコポリエステルが、この保護層のプラスチック材料として適当であり好ましい。
【0081】
赤外線放射を反射する多重層の個々の層は、好ましくは極めて薄く、約30〜500nm、好ましくは約50〜400nmの範囲に層厚を有する。多重層フィルムの総層厚は、好ましくは10〜500μm、特に好ましくは15〜250μm、およびまさに特に好ましくは20〜100μmである。その結果、多くの界面で反射された光波の干渉を強化させる。多重層における個々の層の層厚および熱可塑性ポリマーの屈折率に起因して、主波長域が反射されると共に残りの光がフィルムを透過する。反射光の量(反射能)は、2層の屈折率差、交互の層構造の場合、2つの屈折率の差、該層の光学的厚さの比、層数、および層厚の均一性に依存する。
【0082】
赤外線放射を反射する、このような多重層、特にフィルム形態は、当該技術分野において当業者によって既知であり、例えば、US3.610.729、US3.711.176、US4.446.305、US4.540.623、US5.448.404、US5.882.774、US6.531.230、US6.783.394、WO−A99/39224およびWO−A03/100521に記載されている。それらは、さらに、フィルムの形態で商業的に入手できる。
【0083】
好ましい実施態様において、基層は800〜2300nm、特に好ましくは1200〜2300nm、まさに特に好ましくは1400〜2300nmの波長域において、低い赤外線透過率を示す。
【0084】
好ましい実施態様において、1200nm〜2300nmの波長域における赤外線透過率は20%未満、好ましくは15%未満である。特に好ましくは、1400nm〜2300nmの波長域における赤外線透過率は10%未満、特に好ましくは6%未満である。
【0085】
IT透過は、透過率で加重された太陽スペクトル(ASTM G173−3に従う太陽スペクトル)の積分により求められ、定められた特定の波長域に対して、ASTM G173−3に従う太陽スペクトルに規格化される。
【0086】
更に好ましい実施態様において、多重層は850〜1800nmの波長域、特に好ましくは850〜1500nmの波長域において30%の赤外線放射を反射する(ASTM D1003に従い測定される)。特に好ましくは、多重層は、800〜1200nm波長域において40%の赤外線放射を反射する。
【0087】
好ましくは、基層の吸収能は、それらが低い赤外線透過率(20%未満)を有する波長域に対して、すなわち、これらが赤外線放射を40%よりも多く反射する波長域に対して、それらが多重層の反射特性と著しく重複しないように調整される。
【0088】
本発明に係る多層構造体は、少なくとも片面に耐引掻きコーティングを好ましく有し、特に好ましくは両面に有する。この耐引掻性コーティングは、付加的なUV吸収剤を含有できる。2層系は、耐引掻性コーティングとして好ましい。2層系の最外層が、特に好ましくは付加的なUV吸収剤を有する、シロキサン系の耐引掻性コーティングである系が特に好ましい。
【0089】
本発明に係る多層構造体は、低いTTS値と可視波長域において共に高い光透過率を有する。さらに、本発明に係る多層構造体は、中間色の固有色を有する。
【0090】
本発明に係る多層構造体は、単純な方法で製造できる。
【0091】
したがって、本発明はまた、本発明に係る多層構造体の製造法を提供し、以下の工程を特徴とする:
A)少なくとも1つの透明熱可塑性物質、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物に基づくナノ粒子、および所望による少なくとも1つの紫外線吸収剤および/または少なくとも1つの安定剤を含有するプラスチック組成物を調製し、
B)プラスチック製の基層を、工程A)で得られたプラスチック組成物から押出し成形または射出成形を用いて製造し、
C)多重層フィルムを、工程B)で得られたプラスチック製基層に接着剤を用いおよび/またはラミネートにより施し、
D)少なくとも1つの耐引掻きコーティングを、工程C)で得られた製品の1つの外面または両方の外面に、所望により施す。
【0092】
少なくとも1つの透明熱可塑性物質、インジウムスズ酸化物(ITO)および/またはアンチモンドープしたスズ酸化物に基づくナノ粒子、および所望による少なくとも1つの紫外線吸収剤および/または少なくとも1つの安定剤および所望による更なるポリマー添加剤を含有する上記A)に係るプラスチック組成物の製造は、相互に導入し、混合しおよび各成分を均質化することによる通常の混入方法で行われ、この均質化は、特に好ましくは、せん断力をかけながら溶融状態で行われる。相互に導入し混合することは、粉末のプレミックスを用いて、溶融均質化の前に所望により行われる。適当な溶媒を用いる混合成分の溶液から調製されるプレミックス、溶液中で行われる所望による均質化およびその後溶媒を除去することも採用できる。
【0093】
特に、本発明に係る組成物の、赤外線吸収剤、熱安定剤、紫外線安定剤および他の添加剤を、既知の方法によって混入でき、またはバスターバッチとして混入できる。
【0094】
マスターバッチの使用が好ましく、特に、赤外線吸収剤の混入に特に好ましく、分散剤を含有するすぐに使用できる赤外線吸収剤配合物の形態で赤外線吸収剤が混入されるポリカーボネートに基づくマスターバッチが特に使用される。対応する赤外線吸収剤配合物と併用してこれらのマスターバッチを使用することにより、ポリマー組成物中における赤外線吸収剤の凝集を効果的に防ぐ。
【0095】
ITOおよび/またはATOナノ粒子を、粉状分散体として使用できる。
【0096】
無機ITOまたはATOナノ粒子は、少なくとも1つの分散剤、および更なる有機溶媒、例えば、トルエン、ベンゼン、または他の芳香族炭化水素などと混合し、適当なミル(例えばボールミル)を用いて、(例えば0.3mmの直径を有する)酸化ジルコニウムと共に粉砕して、所望の粒径分布を得てもよい。ITOまたはATOナノ粒子は分散体の形態で得られる。破砕のあと、更なる分散剤を所望により添加してもよい。溶媒を、減圧条件下、温度上昇させて除去する。
【0097】
透明熱可塑性物質中で使用するために、この方法で得られたITOまたはATO粒子は、有機マトリックス、例えばポリマー分散剤中に好ましくは分散し、適当な補助物質、例えば二酸化ジルコニウムを用い、および所望により有機溶媒(例えば、トルエン、ベンゼン、または同様の炭化水素)を用いて、ミルを使用して上述のようにして所望により破砕し、その後、溶媒または複数の溶媒を減圧条件下、温度上昇させて除去する。
【0098】
適当な分散剤は、上記全てのもの、ポリマー分散剤、好ましくは、高い光透過率を有するこれらの分散剤である。使用可能なこれらの分散剤は、例えばおよび好ましくは、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステル、またはポリエステル-ウレタンである。
【0099】
本発明に適当な分散剤は、商業的に入手できる。特に、ポリアクリレートに基づく分散剤が適当である。このような適当な分散剤は、例えばチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社から商品名EFKA(登録商標)、例えばEFKA(登録商標)4500およびEFKA(登録商標)4530として入手できる。ポリエステル含有分散剤は、同様に適当である。それらは、例えば、Avecia社から、商品名Solsperse(登録商標)たとえば、Solsperse(登録商標)22000、24000SC,26000、27000の商品名で入手可能である。さらに、ポリエーテル含有分散剤も既知であり、例えば、クスモト化学により製造されるDisparlon(登録商標)DA234およびDA325の商品名で入手可能である。ポリウレタンに基づく系もまた適当である。ポリウレタンに基づく系は、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社からEFKA(登録商標)4046、EFKA(登録商標)4047の商品名で入手可能である。Texaphor(登録商標)P60およびP63は、コグニスの対応する商品名である。
【0100】
好ましい分散剤はポリアクリレートポリエーテルおよびポリエステル系ポリマー、ポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレートまたはポリメチルアクリレート(共にポリメチル(メタ)アクリレートと称される)、およびポリエステルであり、ポリエステルが高い熱安定性の分散剤として特に好ましい。これらのアクリレートに基づくポリマーの混合物またはコポリマーも使用できる。このような分散助剤およびこのようなATOナノ粒子分散体の調製法は、例えば、JP-A2009-235303およびDE-A69930822に記載されている。ポリアクリレートに基づく分散剤が特に適当である。
【0101】
分散剤中のITOまたはATOナノ粒子の量は、ITOまたはATOナノ粒子を含有する本発明において使用される分散体の総重量に基づき、好ましくは0.2重量%〜80.0重量%、特に好ましくは1.0重量%〜40.0重量%、まさに特に好ましくは5重量%〜35重量%、およびとりわけ特に好ましい実施態様においては10重要%〜30重量%である。すぐに使用できる赤外線吸収剤分散体の総組成物は、赤外線吸収剤と分散剤に加えて、更なる補助物質、例えば、ジルコニウム酸化物、残留溶媒、例えば、トルエン、ベンゼンまたは同様の芳香族炭化水素を含有できる。
【0102】
工程A)に係る基層用のプラスチック組成物を相互に混合し、均質化しその後常套の装置、例えばスクリュー押出機(例えば、二軸押出機、)、ニーダー、ブラベンダーミルまたはバンバリーミルなどで押出すことができる。押出の後、押出物を冷却して粉砕してもよい。個々の成分を予め混合して、次いで、残りの出発材料をそれぞれ添加してもよくおよび/または同様に混合してもよい。
【0103】
透明な熱可塑性プラスチック組成物を加工して、例えばシート、フィルムまたは成形体の形態の適当な基材をもたらすことができる。これに関連して、工程A)に係るプラスチック組成物を、まず記載されたように粒状に加工し、この粒状体を既知の方法、例えば押出しまたは射出成形を用いる適当な加工法により加工し、種々の基材をもたらすことができる。これに関連して、押出しを用いる加工は共押出しを含む。これに関連して、本発明に係る層系用のプラスチックから成る基材を、例えば、ホットプレス、スピニング、ブロー成形、熱成形、押出または射出成形により、製品もしくは成形品、成形物、例えば、玩具部品、繊維、フィルム、テープ、シート、例えばソリッドシート、多層シート、2層シートまたは波形シートなど、容器、チューブまたは他の物品へと変換できる。
【0104】
押出のために、(所望により、例えば乾燥によって予め処理された)プラスチック組成物は、押出機に供給され、押出機の可塑化システムで融解される。次いで、プラスチック融解物をシートダイまたは多層シートダイを介して押出し、平滑カレンダーのローラー間隙でそのようにして形成されものを所望の最終的な形態にし、次いで、周囲空気の条件下、平滑ローラーで相互に冷却することにより形態を固定させる。ポリマー組成物を押出加工するのに必要な温度が設定され、それは通常、製造者の指示に従う。ポリマー組成物が、例えば、高溶融粘度を有するポリカーボネートを含有する場合、これらは、通常、260℃〜320℃の溶融温度で加工され、可塑化シリンダーのシリンダー温度およびダイ温度も対応して調整される。
【0105】
1種以上の横押出機および多チャネルダイを用いることにより、または所望により、シートダイの上流の適当な溶融アダプターを用いることにより、種々の組成物製の熱可塑性溶融体を1層ずつ重ね、その結果、多層シートまたは多層フィルムを製造することができる。これらの層のうちの1つを、本発明における基層となる。共押出しに関して、EP-A0110221、EP-A0110238およびEP−A0716919を参照、アダプターおよびダイ方法の詳細は、Johannaber/Ast:"Kunststoff- Maschinenfuehrer", Hanser Verlag, 2000年、およびGesellschaft Kunststofftechnikによる"Koextrudierte Folien und Platten: Zukunftsperspektiven, Anforderungen, Anlagen und Herstellung, Qualitatssicherung" VDI-Verlag,1990年参照)。
【0106】
成形体は、射出成形によって上記熱可塑性基材から製造されうる。この方法は当業者にとって既知であり、“Handbuch Spritzgiessen”,Friedrich Johannnaber/Walter Michaeli,ミュンヘン;ウィーン:Hanser,2001年,ISBN 3−446−15632−1または“Anleitung zum Bau von Spritzgiesswerkzeugen”,Menges/Michaeli/Mohren,ミュンヘン;ウィーン:Hanser,1999年,ISBN 3−446−21258−2に記載されている。
【0107】
この方法では、射出成形装置を用いて、特定の材料、または成形組成物を、射出ユニットで可塑化し、射出型内へ射出される。金型の中空部、空洞は形状を規定し、生成した部品の表面構造を規定する。
【0108】
本発明における射出成形は、全ての射出成形法を含み、多成分射出成形および射出圧縮法を含む。プラスチック加工において既知の射出成形および射出圧縮の変形例は、プラスチック成形品の製造に使用される。
【0109】
射出圧縮法を除く常套の射出成形法は、小さな射出成形部品の製造に特に使用され、ここで生じる短い流路および穏やかな射出圧が使用される。常套の射出成形プロセスでは、固定位置の2つの密閉金型プレートの間に形成されるキャビティにプラスチック組成物を射出し、そこで固化する。
【0110】
射出圧縮法は、射出および/または固化操作を金型プレートの移動中に行うことが常套の射出成形法と異なる。既知の射出圧縮法では、金型プレートは、後の固化中に起こる収縮を補い、必要とされる射出圧を低減させるために射出操作のいくらか前に既に開いている。従って、予め大きくされたキャビティは、射出操作の開始時に既に存在する。金型の流出面は、金型プレートが幾分開かれていても予め大きくされたキャビティの十分な気密性を保証する。プラスチック組成物をこの予め大きくされたキャビティに射出し、金型を密閉方向に移動させる間にまたはその後に圧縮する。長い流路を用いる、特に大面積薄肉成形品の製造には、より複雑な射出圧縮技術が好ましいか、または場合によっては不可欠である。このようにして初めて、大きな成形品に要求される射出圧力の低減が達成される。更に、高い射出圧力の結果として生じる射出成形部品のストレスまたは歪は、射出圧縮によって防止されうる。このことは、光学用途用のプラスチック、例えば自動車におけるグレージング(ウィンドウ)、の製造に特に重要である。なぜなら、ストレスがないことへの高まる要求を光学用途用のプラスチックに着実に実行すべきであるからである。
【0111】
これに関連して、ITOおよび/またはATOに基づく赤外線吸収剤は、プラスチックの加工温度にて高い熱安定性を有し、その結果、プラスチック加工により、それらの赤外線吸収能が損なわれないか、またはごく最小限の損傷となり、好ましくは損なわれない。
【0112】
基材への多重層フィルムを施すことは、接着剤および/またはラミネーションを用いて行われ、接着剤を併用して行われるラミネーションにより施すこと、または接着剤を全く用いることなくラミネーションにより施すことも可能である。さらに、熱可塑性基層と多重層フィルムの複合材料を製造するために、熱可塑性基の対応する材料と共に、多重層フィルムを金型内に導入できる。
【0113】
接着剤を用いて施す場合、潜在性反応性接着剤の使用がまさに特に好ましい。
【0114】
潜在性反応性接着剤は、当業者に既知である。好ましい潜在性反応性接着剤は、水性分散体を含み、および>30℃の融点または軟化点を有するジ−またはポリイソシアネートおよびイソシアネートと反応性のポリマーを含有するものである。好ましくは、該水性分散体は、少なくとも2000mPasの粘度を有する。さらに、好ましくは、この分散体におけるイソシアネート反応性ポリマーは、熱機械分析(TMA)により計測した場合、+110℃未満の温度、好ましくは+90℃未満の温度にて部分的にまたは完全に脱結晶化する結晶性ポリマー鎖から構成されたポリウレタンである。TMAによる測定は、ISO11359 パート3「浸透温度の決定」と同様に行う。さらに、好ましくは、ジ−またはポリイソシアネートは、二量化生成物、三量化生成物およびTDI(トルイレン−ジイソシアネート)またはIPDI(イソホロン−ジイソシアネート)のウレア誘導体の群から選択されるものである。このような潜在性反応性接着剤は、例えばDE−A102007054046に記載されている。
【0115】
特定の実施態様において、本発明に係る多層構造体は、片面または両面を、好ましくは両面を、好ましくは付加的な紫外線吸収剤を含有する耐引掻きコーティングでコーティングされてもよい。このコーティングは、多層構造体を、表面の機械的損傷(例えば引掻き傷)から保護する役割、および一般的な風化作用(例えば日光からの紫外線放射による損傷)から保護する役割を果たし、その結果、このコーティングは、これに対応して処理された製品の耐性を増加させる。
【0116】
プラスチック製の物品に耐引掻きコーティングを施すための様々な方法が知られている。例えば、エポキシ系、アクリル系、ポリシロキサン系、コロイダルシリカゲル系、または無機/有機(ハイブリッド系)に基づくラッカーを使用できる。これらの系は、例えば、ディッピング法、スピンコーティング、噴霧法またはフローコーティングを介して行なえる。硬化は、熱的にまたはUV放射を用いて行なえる。単層または多層系を使用できる。耐引掻きコーティングは、例えば、プライマーを用いる基材表面の調製後または直接的に施すことができる。更に、耐引掻きコーティングは、プラズマ補助重合法、例えばSiOプラズマを介して施すことができる。例えば防曇コーティングまたは他のコーティングなどの付加的に使用可能な更なるコーティングを、プラズマ法を介して同様に製造できる。種々の添加剤、例えば、トリアゾールまたはトリアジンから誘導される紫外線吸収剤などを、耐引掻き層に存在させてもよい。耐引掻きラッカー自体またはプライマー層はこれらの添加剤を含有できる。耐引掻き層の厚さは、好ましくは1μm〜20μm、好ましくは2μm〜15μmである。1μmを下回ると、無機耐引掻き層の耐性は通常不十分である。20μmを上回ると、ラッカーに亀裂が生じる危険性がある。製造後、本発明の多層構造体は、好ましくは、上述の少なくとも1つの耐引掻き層と共に射出成形を用いてまたは押出し成形を用いてもたらされる。
【0117】
ポリカーボネート系表面のコーティングに関して、耐引掻性ラッカーの接着性を改良するために、紫外線吸収剤を含有するプライマーが好ましく使用される。プライマーは、更なる安定剤、例えばHALS系(立体障害アミンに基づく安定剤)、接着促進剤、フロー助剤などを含有してもよい。特定のプライマー樹脂を、多数の材料から選択でき、例えば、「ウルマンズ工業化学百科事典」、第5版、第.A18巻、第368頁〜第426頁、VCH、ワインハイム1991年に記載されている。ポリアクリレート、ポリウレタン、フェノール系、メラミン系、エポキシおよびアルキド系またはこれらの系の混合物を使用できる。樹脂は、通常、適当な溶媒に溶解され、多くの場合、アルコールに溶解される。選択される樹脂に応じて、硬化は、室温または昇温条件下で行うことができる。50℃〜130℃の間の温度であり、溶媒の大部分を室温で簡単に除去したのちに施されることが多い。商業的に入手可能な系は、例えば、Momentive Performance Material社により製造されたSHP470、SHP470FT2050およびSHP401である。このようなコーティングは、例えばUS6350512B1、US5869185、EP1308084、WO2006/108520に記載されている。
【0118】
好ましい耐引掻きラッカーは、シロキサンから構成され、好ましくは紫外線吸収剤を含有する。それらは、好ましくは、ディッピング法またはフロー法を介して施される。硬化は、50℃〜130℃の温度で好ましく行われる。商業的に入手可能な系は、例えば、Momentive Performance Material社製のAS40000、SHC5020、およびAS4700である。このような系は、例えば、US5041313、DE3121385、US5391795、WO2008/109072に記載されている。これらの材料の合成は、通常、アルコキシシランおよび/またはアルキルアルコキシシランを酸触媒または塩基触媒の存在下での縮合により行われる。所望により、ナノ粒子を導入できる。好ましい溶媒は、アルコール、例えば、ブタノール、イソプロパノール、メタノール、エタノール、メトキシプロパノールおよびそれらの混合物である。
【0119】
プライマー/耐引掻きコーティングの組合せの代わりに、1成分ハイブリッド系を使用できる。これらは、例えば、EP0570165またはWO2008/071363またはDE2804283に記載されている。商業的に入手可能なハイブリッド系は、例えば、Momentive Performance Material社からPHC587またはUVHC3000の商品名で入手できる。
【0120】
本発明に係る多層構造体は、本発明の多層構造体を含むシート、フィルム、例えば車両窓またはルーフ用グレージング(例えば自動車窓、自動車サンルーフ、鉄道用窓または航空機用窓など)、パノラミックルーフ、屋根もしくは建造物用グレージングの製造に特に適している。これに関連して、2層シートまたは多層シートも使用できる。本発明に係る組成物に加えて、本発明の製品の更なる構成要素として、本発明に係る製品は、例えば、更なる適切な部品を含んでもよい。例えば、グレージングは、グレージングの縁にシーリング材を有してもよい。屋根は、屋根ふき要素を固定するまたは(折りたたみ式またはスライディングルーフの場合)案内する役割を果たす例えば金属の構成要素、例えば、ねじ、金属ピンなどを有してもよい。本発明に係る組成物と更なる材料を、例えば2成分系射出成形により併用してもよい。したがって、赤外線吸収能を有する対応成分を、例えば接着に役立つ端部に施してもよい。
【0121】
本発明に係る多層構造体は、プラスチックの加工温度およびグレージングにおける長期間の使用において高い熱安定性を有し、および永続的な入射光に対して高い安定性を有し、それらの使用は、建造物、自動車、鉄道車両、および航空機におけるプラスチック製グレージングにおける長期間の使用に特に好ましい。
【0122】
本発明は、建造物、自動車、鉄道車両、および航空機におけるプラスチック製グレージング用の本発明に係る多層構造体の使用を更に提供する。
【0123】
本発明は、更に、本発明に係る少なくとも1つの多層構造体を含む、建造物、自動車、鉄道車両、および航空機分野におけるプラスチック製グレージングを更に提供する。
【0124】
以下の実施例は、実施例により本発明を説明する役割を果たし、これらに限定されるべきではない。
【実施例】
【0125】
本発明は、実施態様例を活用して以下により詳細に説明され、逆のことが記載されていない限り、ここに記載された測定法は、本発明による全ての対応量に適用される。
【0126】
メルトボリュームレート(MVR)の測定:
メルトボリュームレート(MVR)を、ISO1133(300℃にて、1.2kg)に従い行った。
【0127】
色の測定:
透過中の色を、ASTM E308に記載された式および重み係数を用いるASTM E1348に従い測光球を用いるPerkin Elmer製のLambda 900分光光度計を用いて測定する。
【0128】
CIELAB色座標L*、a*、b*を、光種D65および10°の通常観察者から算出する。
【0129】
光透過率:
光透過率を、ISO13468−2に従い、測光球を用いるPerkin Elmer製のLambda 900分光光度計を用いておこなった。
【0130】
DS値(日光の直接透過率)、RDS(日光の直接反射率)およびTTS値(日光の総透過率)の測定:
透過率および反射率の測定を、測光球を用いるPerkin Elmer製のLambda 900分光光度計を用いて行った。Δλ5nmごとに、320nm〜2300nm以下の波長にて全ての値を測定した。
【0131】
「日光の直接透過率」TDS、「日光の直接反射率」RDSおよび「日光の総透過率」TTSをISO13837、計算規定「A」に従い算出した。これに関連して、TTS値の算出をISO13837の添付Bに従い行った。これに関連して、(ISO13837の添付B.2に従い)固定媒体に対して垂直に配置すること、およびISO13837の添付B.2における「注記2」に基づく単一のガラスに関して述べられた係数を想定した。
【0132】
本発明において採用される赤外線吸収剤ナノ粒子の平均粒径の測定:
粒径の測定をFEI Company(5651 GG Eindhoven、オランダ)製のEM208型の透過型電子顕微鏡を用いておこなった。これに関して、(透過型電子顕微鏡用に)赤外線吸収剤の分散体(例えば、分散系FMDS 874)を、メノウ乳鉢を用いて破砕し、その後、銅製の支持格子上のエタノール中で超音波を用いて調製した。
310000の固定倍率で撮影した。粒径を明視野コントラストにおける画像分析測定法を用いて測定した(濃淡値コントラストによる粒径評価)。
【0133】
平均粒径の測定を製品FMDS874について行い、以下の結果を得た:
評価した対象物数:217
最小の測定値:3.0nm
最大の測定値:20.1nm
算術平均(平均粒径):7.80
【0134】
サンプルシートの製造:
サンプルシートを製造するために、ISO1133に従い300℃および1.2kgの加重で12cm/10分のメルトボリュームレート(MVR)を有するBayer Material Science製の添加剤不含ポリカーボネートMakrolon(登録商標)2608(直鎖状のビスフェノールAポリカーボネート)を使用した。
【0135】
添加剤の配合は、100rpmの回転速度、270℃の溶融温度、および260℃のハウジング温度にて、KrausMaffei Berstorff製のZE25型の2軸押出機を用いて行った。
【0136】
粒子を、真空条件下、120℃にて3時間乾燥させ、続いて、90℃の金型温度、および300℃の溶融温度にて、25の射出ユニットを有する、Arburg370型の射出成形機を用いて加工して、60mm×40mm×4mm寸法を有するサンプルシートを形成した。
【0137】
粉状分散体(住友金属鉱山(日本)製のFMDS874、ポリアクリレート分散体)を、ATOに基づく赤外線吸収剤として使用し、分散体中におけるSnO:Sbの固形分は25重量%であった。
【0138】
六ホウ化ランタン、LaB(住友金属鉱山(日本)製のKHDS 06)を、比較例における赤外線吸収剤として使用した。製品は、ポリアクリレート中の紛状分散体の形態であった。使用した市販のKHDS06分散体における六ホウ化ランタンの固形分は21.5重量%であった。
【0139】
トリフェニルホスフィン(TPP、シグマアルドリッチ、82018、Taufkrichen、ドイツ)を、熱安定剤として使用した。
【0140】
BASF AG(Ludwigshafen)製のTINUVIN(登録商標)329(以下、「TIN329」;(2−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(2,4,4-トリメチルペンタン−2−イル)フェノール/CAS番号3147−75−9)を、紫外線吸収剤として使用した。
【0141】
ペンタエリスリトールテトラステアレート(Cognis Oleochemicals GmbH、Dusseldorf)を、離型剤として使用した。
【0142】
多重層フィルム:
3M製の商業的に入手できる赤外線反射フィルム(SRF1200)を使用した。このフィルムは透明であり、850〜1100nmの領域において20%未満の光透過率を有する赤外反射フィルムである(ASTM D1003に従い測定した)。
【0143】
接着剤コーティングおよび多重層フィルムへの塗布
熱可塑性基層(サンプルシート)に多重層フィルムをラミネートするために、接着剤層を接着促進剤として使用した。これは、以下の成分を含有する接着剤分散体から調製した:
A)ポリウレタン分散体:Dispercoll(登録商標)U53
Bayer Material Science AG, 51368 Leverkusen;製のポリウレタン分散体;固形分約45重量%;直線状のポリウレタン鎖からなるイソシアネート−反応性ポリマー)
B)増粘剤:Borchi(登録商標)Gel L75N
非イオン性、液体、脂肪族ポリウレタン系増粘剤:23℃での粘度:>9000mPas;不揮発性成分:50重量%。
C)表面不活性化ポリイソシアネート:Dispercoll(登録商標)BL XP2514
固形分が約40重量%である、表面不活性化TDIウレトジオン(TDIダイマー)の水中懸濁液。
【0144】
接着剤分散体を調製するために、まず、7重量部の増粘剤B)を、撹拌しながら700重量部のポリウレタン分散体A)に添加し、粘度を増加させた。次いで、10重量部の表面不活性化ポリイソシアネートC)を100重量部のこの粘度上昇分散体に撹拌しながら添加し、水性分散体を得た。
【0145】
次いで、赤外線反射フィルムを、接着剤分散体の湿潤層厚が100μmとなるように、スパイラルドクターブレードを用いて接着剤分散体によりコーティングし、これにより、約30μmの層厚が得られた。コーティングを施したフィルムを、次いで、乾燥キャビネット中で、約35℃にて90分間乾燥させ、その後、ラミネーションにおいてすぐに使用できるようにした。
【0146】
サンプルシートへのフィルムのラミネートは、以下のパラメーターを用いるBurkle製の貼合せプレスを用いて行った。:
−プレスを170〜180℃に予備加熱し、
−5N/cmの圧力の下、8分間押圧し、
−200N/cmの圧力の下、2分間押圧し、
−プレスを38℃まで冷却し、プレスを開く。
【0147】
例1(比較例)
上記条件にて、0.05%のトリフェニルホスフィンをMakrolon(登録商標)2608に添加し、混合物を配合した。サンプルシートの製造後、多重層フィルムを上述のようにして貼合せた。
【0148】
例2(比較例)
0.025重量%のATO(プラスチック組成物の総重量に基づく、ATOの重量含有量;ATOを含有するFMDS874分散体の0.1重量%に相当する)および0.05%のトリフェニルホスフィンを、上記条件にて、Makrolon(登録商標)2608に添加し、混合物を配合した。サンプルシートの製造後、多重層フィルムを上述のようにして貼合せた。
【0149】
例3(比較例)
0.0022%の六ホウ化ランタン(プラスチック組成物の総重量に基づく、LaBの重量含有量;LaBを含有するKHDS06分散体の0.01重量%に相当する)および0.05%のトリフェニルホスフィンを、上記条件にて、Makrolon(登録商標)2608に添加し、混合物を配合した。サンプルシートの製造後、多重層フィルムを上述のようにして貼合せた。
【0150】
例4(比較例)
0.0065%の六ホウ化ランタン(プラスチック組成物の総重量に基づく、LaBの重量含有量;LaBを含有するKHDS06分散体の0.03重量%に相当する)および0.05%のトリフェニルホスフィンを、上記条件にて、Makrolon(登録商標)2608に添加し、混合物を配合した。サンプルシートの製造後、多重層フィルムを上述のようにして貼合せた。
【0151】
例5(本発明に係る)
0.075%のATO(プラスチック組成物の総重量に基づく、ATOの重量含有量;ATOを含有するFMDS874分散体の0.3重量%に相当する)および0.05%のトリフェニルホスフィンを、上記条件にて、Makrolon(登録商標)2608に添加し、混合物を配合した。サンプルシートの製造後、多重層フィルムを上述のようにして貼合せた。
【0152】
例6(本発明に係る)
0.10%のATO(プラスチック組成物の総重量に基づく、ATOの重量含有量;ATOを含有するFMDS874分散体の0.4重量%に相当する)および0.05%のトリフェニルホスフィンを、上記条件にて、Makrolon(登録商標)2608に添加し、混合物を配合した。サンプルシートの製造後、多重層フィルムを上述のようにして貼合せた。
【0153】
例1〜6のTTS、Ty、Reおよび明度の測定結果を、表1にまとめた。
【0154】
【表1】
【0155】
本発明に係る例5および6は、本発明に係る層構造により赤外線放射に対して、低い総透過率(TTS<56%)を示し、同時に可視波長域において高い透過率(Ty)と低い固有色をもたらすことができることを示す。したがって、これらの系は、熱放射に対する高い保護を有しながらも、可視透過率を損なわない。これとは対照的に、比較例に係る系はIR放射に対する極めて高い総透過率を示し(例1および2参照;TTs値が極めて高い)または、固有色を有する(例3および4参照)。例3および6は、TTsおよび可視光透過率(Ty)の観点では同等であるが、例3は、著しく高い色値を有する。例4は、確かに低いTTs値を有するが色および光透過率は許容できない。