(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の糸(15)は、中心の長手方向の軸(15’)と、前記中心の長手方向の軸(15’)を包囲し前記中心の長手方向の軸に沿って伸びる中心区域(15−1)と、前記中心区域(15−1)を包囲し前記中心の長手方向の軸(15’)に沿って伸びる外側区域(15−2)とを有し、
前記第1の繊維、前記第2の繊維および前記第3の繊維は、
前記中心区域(15−1)における前記第2の繊維の濃度(V1(r))が前記外側区域(15−2)におけるよりも大きく、
前記外側区域(15−2)における前記第1の繊維の濃度(V2(r))が前記中心区域(15−1)におけるよりも大きく、
前記外側区域(15−2)における前記第3の繊維の濃度(V3(r))が前記中心区域(15−1)におけるよりも大きい
形態で、前記第1の糸において空間的に分布するものである(V1(r),V2(r),V3(r))、
請求項1乃至8のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
前記第1の糸(15)の前記第3の繊維は、ポリマー、または相異なるポリマーの混合物を含むものである、請求項1乃至10のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
前記第3の繊維は、ポリマーである、ポリアミド、ポリエステルまたはポリオレフィンの中の1種以上を含むものである、請求項1乃至11のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
前記第1の糸(15)の合計重量に対する前記第1の繊維および前記第2の繊維の重量比は、前記第1の糸(15)の合計重量に対する前記第3の繊維の重量比より大きいものである、請求項1乃至12のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
前記第1の糸(15)の前記第2の繊維の各々、および/または、前記第2の糸(16)の前記再生セルロース繊維の各々は、材料である、ビスコース(CV)、モーダル(CMD)またはリヨセル(CLY)の中の1種からなるものである、請求項1乃至15のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
前記第1の繊維、および/または前記第2の繊維、および/または前記第3の繊維、および/または前記第2の糸の前記再生セルロース繊維、および/または前記第1の糸全体、および/または前記第2の糸全体、および/または前記織物基材全体が、難燃剤に含浸されたものである、請求項1乃至16のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
染色されていて、800nm乃至2000nmの波長範囲の赤外線に対して、平均で少なくとも50%の反射率を有する、請求項1乃至19のいずれかに記載の織物基材(1、1A)。
請求項1乃至20のいずれかに記載の織物基材(1、1A)で構成される、座席装置(50)の座席(51)および/またはシートバック(52)および/または側部部品(53)および/またはアームレスト部(54)を被覆する被覆材料であって、
前記第1の面(2−1)は製品の表側を形成するものである、被覆材料。
【背景技術】
【0002】
そのような織物基材(Textilsubstrate)は、水および水蒸気を吸収し放散(Ableitung:排出)する優れた能力によって特徴付けられる。それらの織物基材は、例えば、それぞれの織物基材の外表面に到達した水分(例えば、水、水蒸気)が、その表面から離れて放散されて織物基材内に移送または輸送される特性を有する。この特性によって、そのような織物基材は、例えば、座席(シート)装置のシート(座席)カバーとして適しており、特に、そのような織物基材で形成されたシート・カバーは、シート・カバーに座っているときに人によって発生されて放出される水分を吸収して移送することができ、その結果、比較的長い時間座った後でも、人はシート・カバーが湿っていると知覚することがなく、一般的に、乾燥していると知覚する。従って、そのようなシート・カバーによって、非常に快適な座席と関連づけられた“空気調整された”座席が提供される。
【0003】
これらの織物基材は、一般的に、高い通気性、比較的低い熱抵抗、および水分を輸送し吸収する良好な能力を有し、従って、(制御工学手段によって水分に影響を与えずに)概して“受動的に”空気調整された座席を確保することができる。即ち、相互の組合せによって、これら織物基材の前述の特性によって、結果的に、そのような織物基材で形成された座席面は、比較的乾燥した心地良い涼しさを維持する。従って、そのような織物基材は、中断することなく長期間座るのに一般的に使用される座席装置用のシート・カバーとして特に適しており、例えば、自動車およびバス、鉄道車両並びに航空機における座席装置用の、およびオフィスの椅子および車椅子、等用のシート・カバーとして適している。
【0004】
欧州特許公報第1127969号(B1)で公知の、水を吸収し放散する織物基材は、経糸の形態の第1の糸系(以下、“経糸群”(Kette、warp)という)と、横糸の形態の第2の糸系(以下、“横糸群”(Schuss、weft)という)とで形成されており、ウール繊維と、ビスコース(CV)の形態の再生セルロース繊維とを含有する。それらの糸系の一方(即ち、経糸群または横糸群)は、30〜70重量%のウールおよび30〜70重量%
のビスコースで構成された混合糸を含み、それらの糸系の他方(即ち、横糸群または経糸群)は、交互に、30〜70重量%のウールおよび30〜70重量%のビスコースで構成された混合糸と、100重量%のビスコースで構成された糸とを含んでいる。この織物基材において、ビスコース繊維は、特に、比較的に多量の水を吸収して比較的長い距離にわたってそれぞれの繊維中に水を放散して、その織物基材が、シート・カバーに
該基材を使用するのに適した水に関する吸収能力を有するようになっている。
【0005】
さらに、毛細管現象システムによって水分を輸送する織物基材が知られている。それらの織物基材は、高分子材料またはポリマー材料の繊維で構成されることが好ましい。一般的に、そのような繊維は水分を殆どまたは全く吸収せず、そのような繊維で形成された織物基材は、水分を吸収してそれぞれの繊維の間の中間空間中に輸送し、そこで水分は個々の繊維の各表面に隣接する境界層を形成し、繊維のそれぞれの表面に沿ってこれらの境界層において輸送することができるようになる。そのような織物基材は、一般的に、その構造によって水分の吸着剤となり、即ち、個々の繊維の各表面のそれぞれの幾何学的な配置によって、水分を吸収し輸送するそれぞれの織物基材の能力が決まる。繊維が比較的細く、束状態で比較的高い密度で配置されて毛細管効果が有効であり得る場合には、一般的に、水分は相異なる繊維の間を比較的効率的に輸送され得るに過ぎない。その結果、それぞれの織物基材における各繊維の幾何学的配置に関して、繊維の配置を変化させる余地範囲はほんの少ししかない、という欠点がある。その理由は、特に、そうでなければ、空気調整された座席の要件を満たすことができないからである。さらに、また、水分の輸送は制限される。即ち、毛細管効果の結果として、水分は、好ましくは、それぞれの繊維束に沿って分布して、それぞれの繊維の配置によって決まる表面に実質的に沿って分布する。特定の要件について、例えばスポーツ・ウェアの場合、これは望ましい。その理由は、特に、境界表面上での水の蒸発と、織物基材からのこのプロセスに必要な熱量の取出しとによって、境界表面上で、高い冷却性能と、同時に速い乾燥とが達成できるからである。しかし、前述の効果は、受動的に空気調整される座席に対して満たされるべき基本的な必要条件であって、“空気調整された”座席に適合しない状態でのみ一般的に達成できる必要条件と、対立または競合する。一方、前述のタイプの織物基材は、その上に座っている人が既に激しく汗をかいているときだけ、前述の冷却効果を実際に達成する。汗をかいている人が、そのような織物基材の表面に比較的長時間接触して、その後でこの表面から離れて移動したときには、この表面上に集められた水分は、比較的短い時間で蒸発してこの表面を比較的強く冷却する。織物基材の表面と新たに接触すると、前述の状態で“寒くて湿っている”として人に知覚されるであろう。これ(後者)は、特に、長い期間座るための座席装置用のシート・カバーとしてのそのような織物基材の使用に対して反対する根拠となり、それは、特に、人々がそのような座席装置上で短い中断で比較的長い時間座って、人が、そのような中断後のそれぞれのシート・カバーとの新たな接触を、“寒くて湿っている”と知覚し、従って不快と知覚するからである。
【0006】
さらに、ウールと5%〜15%のポリマー繊維との均質なまたは密な混合物を含有する織物基材が知られている。この欠点は、製品の表側(rechte:外側)の比較的ゆっくりした乾燥と、低い熱伝達性とであり、その利点は良好な耐摩耗性である。さらに、ウールおよびポリマー製の繊維を含有する織物基材が知られており、水分に関するその性質または振
舞いは、ポリマー製の繊維の前述の毛細管効果と、水蒸気を吸収するウールの特性とによって決まる。この場合、ポリマー製のステープル・ファイバの高い割合は、織物基材の乾燥能力が改善されるという効果を有するが、水分の限定された吸収および保存と、織物基材の低い熱伝導度とが欠点である。
【0007】
また、任意選択的に相異なる材料で形成され互いに接続または結合された、互いに上下に配置された複数の層で形成された多層構造として、形成された織物基材が知られている。そのような織物基材は、その複雑な構造のために、一般的に比較的高価である。さらに、その多層構造のために、そのような織物基材は、一般的に、シート・カバーとして使用するには不充分な表面安定性を有する。
【0008】
座席装置に関して、座席装置の重量をできるだけ多く減少させる要求、さらに座席環境または気候に積極的に影響を与えそれを調節することによって座席の快適さを改善する要求が常に存在する。その結果、座席装置の所望の特性を保証することができる最も少ない可能な軽量の構成要素またはコンポーネントで座席装置を組み立てる要求がある。この場合、座席表面は、座っているときの満足状態のために、人と座席の間の界面としての特定の位置を占める。座席装置は、一般的に、それぞれのシート・カバーを支持する変形可能な部分的な構造を含んでいる。このような部分的な構造は、主に、重量を減少させるためにあまり厚くない発泡体材料で製造される。そのような部分的な構造が薄ければ薄いほど、それが吸収できる水分がより少なくなる。これは、シート・カバーとして使用される織物基材についても、同様である。
【0009】
そのような設計では、頻繁に、人は、シート・カバーとの接触面の領域に座っているときに発汗する。これらの負の効果は、頻繁に、座席装置の環境を冷却し同時に空気を乾燥させるためのエネルギー集中的なおよび高コストの解決法によって、補償される。ここで、経験の示唆によれば、その結果として、座席装置に座る人にとって、座り心地(長い満足状態の意味で)は不十分である。その理由は、座っている人は、一般的に、それぞれの座席の特性(この場合、人は湿潤な座席表面および高い座席表面温度を認識する傾向がある)と、環境の特性(この場合、人は人工的に低下された周囲温度および低減された湿度を認識する)との間の差に対して、敏感に反応し、これらの差は、その差が大きいほど、一層大きい苛立たしいこととして知覚されるからである。
【発明の開示】
【0011】
本発明の目的は、上述の欠点を回避し、比較的簡単な組立て構造の、コスト効率良く製造でき、水分(水および/または水蒸気)の放散に関して、長い着座の期間において改善された座り心地を有する、受動的に空気調整された座席を可能にするシート・カバーとして、織物基材を使用することを可能とする特性を有する織物基材を開発することである。
【0012】
この目的は、請求項1の特徴(以下、“変形例1による織物基材”という)を有する織物基材によって、および請求項2の特徴(以下、“変形例2による織物基材”という)を有する織物基材によって達成される。
【0013】
変形例1による
本発明による織物基材は、経糸群および横糸群で構成され、ウール(羊毛)および少なくとも再生セルロース繊維を含んでいる。ここで、経糸群は複数の経糸を含み、横糸群は複数の横糸を含んでいる。また、各経糸は複数の横糸それぞれと少なくとも1つの交差点で交差し、各横糸は複数の経糸それぞれと少なくとも1つの交差点で交差して、経糸群および横糸群が、一緒に、一方の面に第1の面と、他方の面に第1の面と反対側の第2の面とを有する1つの層(Schicht、layer)を形成するようになっている。この場合、複数の横糸の中の少なくとも1本は第1の糸で構成され、複数の横糸の中の少なくとも1本は第2の糸で構成される。
【0014】
本発明によれば、第1の糸は、ウール製の複数の第1の繊維と、再生セルロース製の複数の第2の繊維と、合成材料製の連続的な繊維の形態の複数の第3の繊維とを含む三成分糸である。さらに、第2の糸は、所定の量の再生セルロース繊維を含有する。ここで、第2の糸のそれぞれの合計質量に対する第2の糸にそれぞれ含まれている再生セルロース繊維の質量の百分率割合(画分)(“質量割合”)は、第1の糸のそれぞれの合計質量に対する第1の糸に含まれているそれぞれ
の再生セルロース
製の第2の繊維の質量の百分率割合(“質量割合”)より大きい。
【0015】
さらに、その層は、第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸と、第2の糸で構成される少なくとも1本の横糸とが、次の(i)〜(iv)の形態で伸びる、少なくとも1つの領域を含んでいる。
【0016】
(i)第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸は、各部分(セクション)が2つの隣接の交差点の間で伸びその層の第1の面上で伸びる1つ以上の長手方向の部分(セクション、線分)と、各部分が2つの隣接の交差点の間で伸びその層の第2の面上でそれらの長さの少なくとも一部にわたって伸びる1つ以上の長手方向の部分と、を含んでおり、および、
【0017】
(ii)第
2の糸で構成される少なくとも1本の横糸は、各部分が2つの隣接の交差点間で伸びその層の第1の面上でそれらの長さの少なくとも一部にわたって伸びる1つ以上の長手方向の部分
と、各部分が2つの隣接の交差点間で伸びその層の第2の面上で伸びる1つ以上の長手方向の部分
と、を含んでおり、および、
【0018】
(iii)第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸の場合、その層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長は、その層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長より長く、および、
【0019】
(iv)第2の糸で構成される少なくとも1
本の横糸の場合、その層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長は、その層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長より
短い。
【0020】
各経糸は少なくとも1つの交差点において複数の横糸と交差し、各横糸は少なくとも1つの交差点において複数の経糸と交差して、その経糸群および横糸群が一緒に1つの層を形成するので、本発明による織物基材は、多層構造を形成せず、即ち、特定の部分量の経糸が、特定の部分量の横糸と共に、織物基材内の互いに重ねて構成された異なる層の形態で配置される構造を形成しないことが、達成される。経糸および横糸は、一緒に、唯一の層の形で配置されるので、織物基材は、比較的簡単な手段によって比較的少ない経費で、従ってコスト効率良く生成できる、という利点を有する。
【0021】
織物基材は、水および水蒸気を放散し(-ableitend)、水および水蒸気の放散のために、一方では、第1の糸および第2の糸に含まれる繊維の材料が、他方では、相異なる繊維の空間的配置、または織物基材における第1の糸および第2の糸の空間的配置が、重要な役割を果たす。
【0022】
織物基材がシート・カバーとして使用され、また、織物基材上に座っている人が座席に座っているときに水分(例えば、水および/または水蒸気)を放出しおよび一般的に熱をも織物基材に放出する場合、織物基材に放出された水分の放散と、織物基材のそれぞれの温度とによって、座り心地が実質的に決定される。従って、本発明は、座り心地を最適化するために、織物基材に放出される水分および熱に対する織物基材の反応ができるだけ快適なものと座る人が知覚するように、第1の糸および第2の糸に含まれる相異なる繊維の空間的配置が選択される、という思想に基づくものである。
【0023】
水分に対する本発明による織物基材の反応は、第1の糸および第2の糸が、異なる繊維を含むこと(即ち、ウールおよび再生セルロース製の繊維、および、第1の糸の場合において合成材料製の連続的繊維の形態の繊維、第2の糸の場合において少なくとも再生セルロース製の繊維)、および、第1の糸および第2の糸がそれぞれ第1の面または第2の面に対して異なる形態で配置されること、によって実質的に決まる。その結果、第1の糸および第2の糸は、水分に対して異なる性質または振
舞いを呈する。また、その別の結果として、
織物基材は水分の作用または振
舞いの下で非対称性を呈し、即ち、第1の糸と第2の糸の異なる配置によって、織物基材の第1の面と第2の面は水分の作用の下で異なる振
舞いをも示す。
【0024】
ウール製のそれぞれの繊維と、再生セルロース製のそれぞれの繊維との双方は、大量の水分を吸収できる織物繊維であり、室内の気候がおよび従って水分が変化し得る環境では、これらの繊維は、多量の水分を吸収できて、繊維が環境との間で連続的に水分平衡状態にある(相異なる室内環境条件の少なくとも或る範囲内で)。それぞれの繊維と環境の間の水分平衡状態(バランス)を連続的に可能にするために、それぞれの場合において、水分の吸収および脱離は、分子の浸透に基づいて同時に生じる。
【0025】
しかし、これに関連して、ウール製の繊維および再生セルロース製の繊維は、水または水蒸気を吸収しまたはそれぞれの繊維において水または水蒸気を輸送する能力に関して、互いに異なることに、留意すべきである。再生セルロース製の繊維は、例えば、ウール製の繊維の場合よりも、水(液体状態の水)を実質的により速く吸収でき、水を実質的により速く放出できる。従って、ウール製の繊維は、再生セルロース製の繊維よりも、乾燥に実質的により長い時間を必要とする。一方、ウール製の繊維は、(再生セルロース製の繊維とは対照的に)比較的多量の水蒸気を吸収する。
【0026】
織物基材中に存在する合成材料製の連続的繊維は、2つの観点で、水分に対する織物基材の反応に影響を与える。一方で、これらの連続的繊維は、収着(Sorption)によってその表面上で水分を移送することができ、従って、好ましくは隣接の連続繊維の間における中間空間において毛細管効果によって、その表面上で水分を分散分布させる傾向があり、急速に乾燥する傾向がある。他方で、合成材料製のこれらの連続的繊維は、織物基材においてウール製または再生セルロース製の繊維の空間的な配置に影響を与えるために使用されて、これらの連続的繊維のそれぞれの配置が、ウール製および再生セルロース製のそれぞれの繊維の反応にも間接的に影響を与えるようになる。
【0027】
前述の特徴(i)〜(iv)の結果として、本発明による織物基材は、水分に対する反応に関して、次の特性を有する。
【0028】
− 特徴(i)および(ii)により、第1の糸で形成されたそれぞれの横糸と、第2の糸で形成されたそれぞれの横糸とは、第1の面上の少なくとも各部分(セクション)と、第2の面上の少なくとも各部分で伸び、第1の糸で形成されたそれぞれの横糸と、第2の糸で形成されたそれぞれの横糸との双方によって、第1の面から第2の面へまたその逆へと水分が交換できる。
【0029】
− 第1の糸と第2の糸の双方が、それぞれ、再生セルロース製の1つ以上の繊維を含んでいる。第2の糸のそれぞれの合計質量に対する第2の糸に含まれるそれぞれの再生セルロース繊維の質量割合は、第1の糸のそれぞれの合計質量に対する第1の糸に含まれる再生セルロース製のそれぞれの他の(第2の)繊維の質量割合より大きく、また、再生セルロース製のそれぞれの繊維は、ウール製のそれぞれの繊維(少なくとも第1の糸中に存在するもの)よりも、水(液体状態の水)を実質的により速くより大量に吸収するので、一般的に、第1の糸によるよりも、第2の糸によって、かなりより多くの水が織物基材と接触し得る或る量の水(液体状態の水)から吸収される。第2の糸の合計質量に対する第2の糸にそれぞれ含まれる再生セルロース繊維の質量割合と、第1の糸のそれぞれの合計質量に対する第1の糸に含まれるそれぞれの第2の再生セルロース繊維の質量割合との間の差が大きければ大きいほど、
単位時間当りの吸収される水の量に関する差が増大する。従って、液体の水は、第2の糸で構成されるそれぞれの横糸によって主に吸収される。
【0030】
− 従って、液体状態の水が織物基材の第1の面に接触した場合に、この水は、好ましくは、第2の糸で構成される横糸の
第1の面上で伸びるそれぞれの長手方向の部分を介して吸収され、従って織物基材の内部に輸送される。第2の糸で構成されるそれぞれの横糸の場合、その層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長は、その層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長より、短いので、第1の面から織物基材の内部へ侵入する大部分の水は、織物基材の第2の面上で伸びる第2の糸で構成されるそれぞれの横糸の長手方向の部分に集まる。従って、この水は、織物基材の第2の面の近傍に集中する。
【0031】
− 特徴(iii)によりその層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸の長手方向の各部分(セクション)と、特徴(iv)によりその層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる第2の糸で構成される少なくとも1本の横糸の長手方向の各部分(セクション)とは、複数の経糸の両側(両面)にある(即ち、第1の面を向いたそれぞれの経糸の側、
または第2の面を向いたそれぞれの経糸の側における)それぞれの経糸と交差する(を横断する)。それらの経糸は、特徴(iii)によりその層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸の長手方向の各部分と、特徴(iv)によりその層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる第2の糸で構成される少なくとも1本の横糸の長手方向の各部分とは、その層の第1の面に関して(対して)垂直方向の(またはその層の第2の面に関して垂直方向の)複数の経糸によって、空間的に分離される、という効果を有する。それぞれの経糸の太さが太ければ太いほど、その空間的な分離が増大する。垂直方向のこの空間的な分離は、第2の面の近傍に集中することが好ましい(上述の通り)水が、第1の面からの比較的大きく離れた距離の位置において集中する、という効果を有する。その結果、第1の面と第2の面の間の織物基材の内部における水分の濃度
(Konzentration:集中、集中量)の空間的な分布は、水分の濃度が、第1の面から開始して、第2の面の方向に次第に増大する形態の分布となる。この(後者の)点については、後で詳しく説明する。
【0032】
−
(特徴(iii)および(iv)による)第1の糸と第2の糸の空間的な配置に起因して、
水(液体状態の水)の吸収に関して、本発明による織物基材は、
第1の面上において、弱い疎水性の形態で振
舞い、一方
、織物基材は、
第2の面上において、親水性があり、水(液体状態の水)に対する強い吸収性がある。
【0033】
− ウール製のそれぞれの繊維によって、織物基材は、織物基材の断面全体にわたって蒸気の形態の水分(水蒸気)に対して高い浸透性(透水性)を確実に有するようになる。従って、蒸気形態の水
分(水蒸気)の浸透性は、第1の糸で形成されたそれぞれの横糸が伸びる織物基材の各領域において、それに応じて特に高い。水蒸気が第1の面から織物基材内に導入された場合、これは、水蒸気が織物基材の内部に浸透することができ、または織物基材を貫通することができ、任意に凝縮(凝結)することができる、という効果を有する。水蒸気のそのような凝縮は、一般的に、織物基材の第2の面の近傍で生じる。従って、凝縮中に放出された凝縮熱は、第1の面から比較的長い距離の位置で生成される。これは、織物基材における凝縮熱が、第1の面から離れた織物基材の領域において生成される、という効果を有する。このようにして、凝縮熱に起因する第1の面の温度上昇が、有利な形態で、大幅に回避される。この場合、水蒸気の凝縮によって生成された水は、第2の糸で構成されるそれぞれの横糸によって吸収できることが好ましく、この水は、また、主に第2の面の近傍において集中するようになっている(特徴(iv)による)。
【0034】
− 第1の糸は再生セルロース繊維および合成材料製の連続的繊維の双方を含んでいるので、第1の糸における(液体の)水の吸収によって、不均一な水分分布が生じ、特に、再生セルロース繊維は水を速くかつ多量に吸収することができ、一方、合成材料製の連続的繊維は速く乾燥する。第1の糸の製造において、合成材料製のそれぞれの連続的繊維(第3の繊維)は、それぞれの連続的繊維が第1の糸の断面の外側の端縁に主として配置され
るように案内され、一方、再生セルロース製の繊維はその断面の中心またはその中心の近傍に配置される。そのような繊維の分布は、その糸の表面に隣接する層内の液体の水を吸収した後の第1の糸が、合成材料製のそれぞれの連続的繊維のために、速く乾燥できる、という効果を有する。従って、第1の糸によって吸収された水が、短い時間の後で、第1の糸の断面に対して、水の濃度がその断面の中心領域で最大になる一方で水の濃度がその断面の端縁において低くなる形態で、空間的に分布して、第1の糸に含まれる水分の瞬間的な分布が第1の糸の断面の中心に向く勾配(グラジエント)を有するようになる。これによって、幾つかの利点が得られる。一方
では、織物基材の第1の一面は、水の吸収の後の極めて短い時間内に乾燥することができて、織物基材の第1の面が乾燥した感触が得られるようになる。
他方
では、再生セルロース製のそれぞれの繊維に含まれる水は、計量された(dosiert
:計算された)形態で、第1の糸の表面に放出されるようにでき、そこで蒸発することができる。これ(後者)によって、織物基材の第1の面の計量された冷却が生じ、特に、特徴(
iii)によって、第1の糸は、第2の面におけるよりも第1の面においてより長い長さにわたって伸びているので、上述の水の蒸発と、蒸発を伴う冷却とが、主として織物基材の第1の面上で生じる。
【0035】
− また、それぞれの第2の糸は、第1の面上のその長さの少なくとも或る部分に渡って伸びる(特徴(ii)および(iv))ので、水分は、第2の面から第2の糸を介して第1の面へと通過することができ、第1の面上で伸びる第2の糸のそれぞれの長手方向の部分によって脱着されて(desorbiert)蒸発させることができる。また、このプロセスによって、織物基材の第1の面の計量された冷却が可能になる。
【0036】
前述の特性は、シート装置のシート・カバーとしての織物基材の使用に関して特に有利であり、この場合、特に、長い着座の期間において改善された座り心地の受動的に空気調整された座席の必要条件を形成する。
【0037】
織物基材がシート・カバーとして使用される場合、これは、織物基材の第1の面がシート面として(即ち、シート・カバーの表側(rechte)として)機能する場合に、特に有利である。織物基材の第1の面と身体を接触させて織物基材上に長い時間期間座る人が、織物基材の少なくとも1つの領域における第1の面に水分(液体状態および/または水蒸気)を連続的に放出した場合に、幾つかの有利な効果が明らかになる。
【0038】
一方
では、水分(即ち、織物基材内に第1の面を通して侵入する水、および織物基材において水蒸気の凝縮によって生成された水)が、織物基材の少なくとも1つの領域に分散分布するが、それは、第1の糸または第2の糸で構成される横糸の空間的な配置と、織物基材のそれぞれの面に実質的に平行に伸び織物基材に垂直な方向に連続的に配置された相異なる層における第1の糸または第2の糸におけるそれぞれの繊維の空間的な配置と、によるものである。ここで、水分のそれぞれの濃度は、第1の面からの距離の関数として、それぞれの場合において変化する。この場合、水分の濃度は、一般的に第2の面の方向における第1の面からの距離の関数として織物基材において徐々に増加して、第1の面からの距離の関数としての織物基材における水分の濃度が、非線形の勾配を呈し、特に、第2の面の方向に徐々に増加する(以下、“漸増的な水分勾配”という)。この場合、水分の濃度は、第2の面の近傍で、即ち第1の面から離れた位置で、最大値を有する。
他方
では、第1の面
からの或る距離内の第1の面に隣接する1つの層における水分の濃度は、座った人が第1の面を乾燥していると知覚する形態で、低い。この場合、本発明による織物基材の特定の利点は、この“乾燥した”層が、水分に関する織物基材の飽和限界に到達しない限りにおいて、第1の面上に存在し得ることであり、即ち、織物基材の飽和限界に達していないことが確実である限り、任意選択的に任意の長さの時間に
おいて、第1の面上に存在し得ることである。
【0039】
また、第1の面からの距離の関数としての水分の濃度の漸増的な振
舞いは、織物基材の乾燥に関する、および水の蒸発の結果としての織物基材の冷却に関する利点を有する。一方、相対的に少ない僅かな水が第1の面上で蒸発して、第1の面が蒸発によって計量された形態で冷却されるようになる。さらに、ウール製の繊維が、再生セルロース製の繊維よりも、乾燥に実質的に長い時間を必要とする、という事実は、重要性を失う。
【0040】
織物基材に侵入する水蒸気が第2の面近傍において凝縮することができ、従って、凝縮中に放出された凝縮熱が第1の面から或る距離の位置で生成され、その一方、第1の面は水の蒸発によって計量された形態で絶え
ず冷却されるので、織物基材の第1の面上の温度は、座る人の体温に近い値に安定させることができる。また、これ(後者)は、座っていた人が、比較的長い座る段階(フェーズ)の後に、座るのを中断したときにも、適用される。その中断の間に、第1の面は、非常にゆっくりとだけ冷える。その理由は、第1の面の冷却が、水の蒸発によって計量された形態で生じるからである。これには、座っている人が、相対的に長い座る段階の後で、座るのを中断することができ、その中断の後でも、その中断に続いてその人に不快な形態で第1の面を冷やすことなく、座り続けることができる、という利点がある。
【0041】
変形例2による本発明による織物基材は、経糸群および横糸群で構成され、ウールと、少なくとも再生セルロース繊維とを含んでいる。ここで、経糸群は複数の経糸を含み、横糸群は複数の横糸を含んでいる。各経糸は、複数の横糸とそれぞれ少なくとも1つの交差点で交差し、各横糸は、複数の経糸とそれぞれ少なくとも1つの交差点で交差して、経糸群および横糸群が、共に、1つの側面に第1の面と、別の側面に第1の面と反対側の第2の面とを有する層を形成するようになる。この場合、複数の経糸の中の少なくとも1本は第1の糸で構成され、複数の
経糸の中の少なくとも1本は第2の糸で構成される。
【0042】
本発明によれば、変形例2による織物基材は、第1の糸が三成分糸である形態で構成されており、その三成分糸は、ウール製の複数の第1の繊維と、再生セルロース製の複数の第2の繊維と、合成材料製の連続的繊維の形態の複数の第3の繊維とを含んでいる。さらに、第2の糸は所定の量の再生セルロース繊維を含有し、第2の糸のそれぞれの合計質量に対する第2の糸にそれぞれ含まれる再生セルロース繊維の質量の百分率割合(画分)(“質量割合”)は、第1の糸のそれぞれの合計質量に対する第1の糸に含まれるそれぞれ
の再生セルロース
製の第2の繊維の質量の百分率割合(“質量割合”)より大きい。
【0043】
さらに、その層は、第1の糸で構成される少なくとも1本の経糸と、第2の糸で構成される少なくとも1本の
経糸とが、以下の(a)〜(d)の形態で伸びる、少なくとも1つの領域を含んでいる。
【0044】
(a)第1の糸で構成される少なくとも1本の
経糸が、各部分(セクション)が2つの隣接の交差点間で伸びその層の第1の面上で伸びる1つ以上の長手方向の部分と、各部分が2つの隣接の交差点間で伸びその層の第2の面上でそれらの長さの少なくとも一部にわたって伸びる1つ以上の長手方向の部分と、を含んでおり、および、
【0045】
(b)第2の糸で構成される少なくとも1本の
経糸は、各部分(セクション)が2つの隣接の交差点間で伸びその層の第1の面上で
それらの長さの少なくとも一部にわたって伸びる1つ以上の長手方向の部分と、各部分が2つの隣接の交差点間で伸びその層の第2の面上
で伸びる1つ以上の長手方向の部分と、を含んでおり、および、
【0046】
(c)第1の糸で構成される少なくとも1本の
経糸の場合、その層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長は、その層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長より長く、および、
【0047】
(d)第2の糸で構成される少なくとも1本の
経糸の場合、その層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長は、その層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域において伸びる全ての長手方向の部分の全長より短い。
【0048】
変形例2による織物基材が変形例1による織物基材と実質的に相違する点は、変形例2による織物基材におけるそれぞれの経糸の配置または機能が、変形例1による織物基材におけるそれぞれの横糸の配置または機能に対応し、また、変形例2による織物基材におけるそれぞれの横糸の配置または機能が、変形例1による織物基材におけるそれぞれの経糸の配置または機能に対応することである。その結果として、変形例1による織物基材の横糸または経糸に関して上述した特性および利点は、変形例2による織物基材の経糸または横糸に割り当てられ得る特性および利点に、同様にまたは類似的に対応する。
【0049】
従って、変形例2による織物基材の場合における、水分(水、水蒸気)の輸送に関する特徴(a)〜(d)に基づいて、第1の糸で構成される少なくとも1本の経糸と、第2の糸で構成される少なくとも1本の経糸とによって得られる効果は、変形例1による織物基材の場合における、特徴(i)〜(iv)に基づいて、第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸と、第2の糸で構成される少なくとも1本の横糸とによって得られる効果と、同じである。
【0050】
それに対応して、変形例2による織物基材の場合、それぞれの横糸は、変形例1による織物基材の場合におけるそれぞれの経糸と同じ機能を有する。特に、変形例2による織物基材の場合、それぞれの
横糸が有する効果は、機能(c)によってその層の第1の面上のその層の少なくとも1つの領域で伸びる第1の糸で構成される少なくとも1本の経糸の複数の長手方向の部分と、機能(d)によってその層の第2の面上のその層の少なくとも1つの領域で伸びる第2の糸で構成される少なくとも1本の経糸の複数の長手方向の部分とが、その層の第1の面に関して(対して)垂直方向に(またはその層の第2の面に関して(対して)垂直方向に)複数の横糸によって空間的に分離されることである。この空間的な分離は、それぞれの
横糸の太さが大きいほど、増大する。垂直方向のこの空間的な分離が有する効果は、水分が、好ましくは、第2の面の近傍に、特に、第1の面から相対的に大きく離れた位置に、集まることである。その結果、第1の面と第2の面の間の織物基材の内部における水分の濃度の空間的な分布は、水分の濃度が、第1の面から開始して、第2の面の方向に次第に増大する形態の分布となる。
【0051】
変形例1による織物基材の実施形態は、第1の糸(Gran、yarn)で構成される横糸が単一糸(Enfachgarn)であるかまたは複数の単一糸(Enfachgarnen)で形成される撚
糸(Zwirn
)であり、および/または、第2の糸で構成される横糸が単一糸であるかまたは複数の単一糸で形成される撚
糸である形態で、構成される。それに対応して、変形例2による織物基材の実施形態は、第1の糸で構成される経糸が単一糸であるかまたは複数の単一糸で形成される撚
糸であり、および/または、第2の糸で構成される経糸が単一糸であるかまたは複数の単一糸で形成される撚
糸である形態で、構成される。従って、第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸(変形例1による織物基材の前述の実施形態の場合)または第1の糸で構成される少なくとも1本の経糸(変形例2による織物基材の上記実施形態の場合)、および、第2の糸で構成される少なくとも1本の横糸(変形例1による織物基材の前述の実施形態の場合)または第2の糸で構成される少なくとも1本の経糸(変形例2による織物基材の前述の実施形態の場合)は、単一糸である必要はない。即ち、第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸または経糸は、例えば、共に撚られた複数の単一糸
を含む1つの撚
糸であることができ、その第1の糸はそれぞれの単一糸を形成する。それに対応して、第2の糸で構成される少なくとも1本の横糸または経糸は、共に撚られた複数の単一糸
を含む1つの撚
糸であることができ、その第2の糸はそれぞれの単一糸を形成する。このようにして、それぞれの糸のおよびそれぞれの織物基材の高い機械的な荷重負担能力(load-bearing capacity)、特に、それぞれの糸のおよび織物基材の高い引張り強度または抗張力(tensile strength)が、確保される。
【0052】
変形例1による織物基材の別の実施形態の場合、1本以上の経糸は第1の糸で構成することができる。この実施形態が有する利点は、第1の糸で構成される少なくとも1本の横糸と、同じ(第1の)糸で構成される1本以上の経糸
とが交差することである。このようにして、第1の糸の前述の特性により、水分(特に、水蒸気)を、第1の面(または第2の面)に平行な空間的2次元(2つの次元)において織物基材内で効率的に輸送できること、が有利な形態で確保される。第1の糸で構成される複数の経糸は、第1の糸で構成されるそれぞれの横糸と、第2の糸で構成されるそれぞれの横糸との双方と交差するので、第1の糸で構成される複数の経糸によって、織物基材の第1の面から第2の糸で構成されるそれぞれの横糸への水分の効率的な輸送が、確実に行われる。このようにして、織物基材の少なくとも1つの領域において、第1の面を通して織物基材中に侵入する水分(即ち、第1の面を通して織物基材中に侵入する水と、織物基材において水蒸気の凝縮によって生成された水
と)が、第1の糸で構成される複数の横糸
および複数の経糸のまたは第2の糸で構成される複数の横糸の空間的な配置と、第1の糸または第2の糸におけるそれぞれの繊維の配置とによって、水分のそれぞれの濃度が第1の面からの距離の関数としてそれぞれの場合において第2の面の近傍において特に顕著に次第に増大する形態で、空間的に分布する。
【0053】
変形例1による織物基材の前述の実施形態の別の発展形態は、1本以上の横糸が第2の糸で構成され、また、第1の糸で構成される経糸が、それぞれの場合において、第2の糸で構成される複数の横糸と(との間で)、1つ以上の織り点(Bindungspunkte:結合点)を形成し、または(追加的にまたは代替的に、)第2の糸で構成される横糸が、それぞれの場合において、第1の糸で構成される複数の経糸と(との間で)、1つ以上の織り点を形成するように、それぞれ
の経糸と
それぞれの横糸とが交差するような、形態で構成することができる。
【0054】
この文脈において、1本の経糸が、織物基材の一方の面上で互いに隣接して配置された3本の横糸の中の中央の1本と交差し、織物基材の他方の面上で前記3本の横糸の中の他の2本と交差する形態で、その1本の経糸が、前記(互いに隣接して配置された)3本の横糸と交差するときに、その1本の経糸は、或る複数の横糸と(との間で)“織り点”(Bindungspunkt:結合点)を形成する。この場合、“織り点”は、それぞれの場合において、1本の経糸が3本の横糸の中の中央の1本と交差する位置(交差点)を表す。
【0055】
従って、1本の横糸が、織物基材の一方の面上で互いに隣接して配置された3本の
経糸の中の中央の1本と交差し、織物基材の他方の面上で前記3本の
経糸の中の他の2本と交差する形態で、その1本の横糸が、前記(隣接して配置された)3本の経糸と交差するときに、その1本の横糸は、或る複数の
経糸と(との間で)“織り点”を形成する。この場合、“織り点”は、それぞれの場合において、1本の横糸が3本の経糸の中の中央の1本と交差する位置(交差点)を表す。
【0056】
第1の糸で構成される1本の経糸は、それぞれの場合において、第2の糸で構成される1本の横糸と(との間で)1つ以上の織り点を形成するので、第1の糸で構成される経糸が、特に大きい面上でそれぞれの織り点において第2の糸で構成される横糸と接触すること、が達成される。この利点は、それぞれの第1の糸からの水分が、それぞれの織り点の中の1つの織り点においてそれぞれの第2の糸に対して特に効率的に放出できることであり、その逆でもあることである。このようにして、水分は、第1の糸とそれぞれの第2の糸の間で、特にそれぞれの織り点において、効率的に輸送することができる。それに対応する利点が達成されるのは、第2の糸で構成される1本の横糸が、それぞれの場合において、第1の糸で構成される複数の経糸と(との間で)、1つ以上の織り点を形成する場合である。
【0057】
変形例2による織物基材の別の実施形態の場合(変形例1による織物基材の前述の実施形態と同様にまたは類似して)、1本以上の
横糸は第1の糸で構成することができる。このようにして、1本以上の経糸が第1の糸で構成される場合に、変形例1による織物基材の場合に得られる利点と同じ利点が達成される。
【0058】
従って、変形例2による織物基材の前述した実施形態の別の変形例は、1本以上の経糸が第2の糸で構成され、また、第1の糸で構成される横糸が、それぞれの場合において、第2の糸で構成される複数の経糸と(との間で)、1つ以上の織り点を形成し、または(追加的にまたは代替的に、)第2の糸で構成される経糸が、それぞれの場合において、第1の糸で構成される複数の横糸と(との間で)、1つ以上の織り点を形成するように、それぞれの
経糸とそれぞれの横糸とが交差するような、形態で構成することができる。
【0059】
織物基材の実施形態は、特徴として、第1の糸が、中心の長手方向の軸と、その中心長手方向軸を包囲し中心長手方向軸に沿って伸びる中心区域(ゾーン)と、その中心区域を包囲し中心長手方向軸に沿って伸びる外側区域(ゾーン)とを有し、また、それぞれの第1の繊維、それぞれの第2の繊維およびそれぞれの第
3の繊維が、次の3つの形態で、第1の糸において空間的に分布する。
【0060】
− 中心区域における(再生セルロース製の)第2の繊維の濃度が、外側区域におけるよりも、大きく、および、
− 外側区域における(ウール製の)第1の繊維の濃度が、中心区域におけるよりも、大きく、および、
− 外側区域における(それぞれの場合において合成材料製の連続的繊維の形態の)第3の繊維の濃度が、中心区域におけるよりも、大きい。
【0061】
それによって、水分(水および/または水蒸気)が第1の糸によって吸収されるが、それは、第1の糸で構成されるそれぞれの
糸(経糸または横糸
)の外側区域が、それぞれの第3の繊維によって、直ぐに乾燥して、乾燥状態を維持し、また、ウール製の繊維によって、外側区域を通した水蒸気の輸送を確実にでき、その一方で、織物基材内に侵入しまたは織物基材において凝縮された水が、中心区域における再生セルロース製の第2の繊維によって吸収される形態で、達成される。この場合、水分は、水を高速にかつそれにもかかわらず水の計量された蒸発を可能にする第1の糸において分散分布する。この(後者の)利点は、織物基材の各面、特に織物基材の第1の面が、特に短時間で乾燥し、織物基材のそれぞれの面が心地良く涼しい効果を有することである。
【0062】
織物基材の別の実施形態は、特徴として、第1の糸における(再生セルロース製の)第2の繊維が、ステープル・ファイバ(Stapelfasern、staple fiber:短繊維、紡ぐ前の繊維)として形成される。ステープル・ファイバは一般的に比較的短いので、第1の糸におけるそれぞれのステープル・ファイバは、頻繁に、それらの端部の1つの端部が第1の糸の表面の位置にまで突出する形態で、配置される。このようにして、それぞれの第2の繊維は、水分をより速く(第1の糸の表面の位置まで突出する繊維の端部を介して)吸収することができる。
【0063】
第1の糸のそれぞれの第3の繊維は、例えば、ポリマーまたは相異なるポリマーの混合物を含むことができる。例えば、それぞれの第3の繊維は、ポリマー
である、ポリアミド、ポリエステル、またはポリオレフィンの中の1種以上を含むことができる。
【0064】
織物基材の別の実施形態の場合、第1の糸は、25〜55重量%の割合(画分)で(ウール製の)それぞれの第1の繊維と、25〜55重量%の割合で(再生セルロース製の)それぞれの第2の繊維と、5〜40重量%の割合で(合成材料製の連続的繊維の形態の)それぞれの第3の繊維とを含んでいる。この場合、再生セルロース繊維によって、水の適切に計量された蒸発が可能になる。これによって、第1の面から織物基材中に侵入する水分
が、織物基材において第2の面から第1の面
まで蓄積するような質量で、それぞれの第2の糸によって吸収される
といった危険性が、低減する。これによって、織物基材の第2の面上に水分が生じて過剰に蓄積することが防止され、織物基材の第1の面が乾燥状態を維持して織物基材が水分で飽和状態にならないことが確実にされる。
【0065】
織物基材の別の実施形態では、第1の糸の合計の重量に対するそれぞれの第1の
繊維およびそれぞれの第2の繊維の重量の比は、第1の糸の合計の重量に対するそれぞれの第3の繊維の重量の比よりも大きい。この場合、利点として、それぞれの第1の糸は、相対的に粗い第1および第2の繊維にもかかわらず、小さい直径を有することができる。
【0066】
織物基材の別の実施形態の場合、第2の糸は、50〜100重量%の再生セルロース繊維を含んでいる。このようにして、任意選択的に、織物基材によって吸収される水分の特に大きい比(割合)を、第2の糸によって吸収することができる。この利点は、特に、織物基材の第1の面と接触するにいたる水分が、第2の糸を介して第2の面へと特に効率的に輸送されるようにすることができることである。さらに、織物基材中の水分は、第1の面から第2の面へと向かう特に大きい水分勾配が形成される形態で、分布する。
【0067】
第1の糸または第2の糸に含まれる再生セルロース製の繊維に関して、多数の変形が可能である。第1の糸のそれぞれの第2の繊維の個々の1つ、および/または第2の糸のそれぞれの再生セルロース繊維の個々の1つは、材料である、ビスコース(CV)、モーダル(CMD)またはリヨセル(CLY)、またはこれらの材料の混合物の中の1種で構成されることが好ましい。また、第1の糸および第2の糸は、それぞれの場合において、幾つかの異なる再生セルロース繊維を含有することができ、また、それらの再生セルロース繊維は、前述の材料または前述の材料の相異なる混合物の中の相異なる複数のもので構成される点で、異なる。
【0068】
本発明による織物基材は、それが、例えば織布(fabric)のような簡単な形態で、製造できる、という別の利点を有する。
【0069】
織物基材の別の実施形態の場合、それぞれの第1の繊維および/またはそれぞれの第2の繊維および/またはそれぞれの第3の繊維および/または第2の糸のそれぞれの再生セルロースおよび/または第1の糸全体および/または第2の糸全体および/または織物基材全体には、難燃剤が含浸される。この含浸のおかげで、織物基材は、例えば、自動車、航空機、鉄道列車、公共の建物などにおける適用例における、防火に関して高い安全基準が満たされなければならない多くの分野での使用に適している。
【0070】
シート・カバーとしての織物基材の使用に関して、例えば、水蒸気透過性に対する抵抗および/または織物基材の熱抵抗は、織物基材上に座る人が、長い時間座った段階(局面)の後であっても、人が織物基材と接触して知覚する水分および温度に関して、できるだけ快適である(“空気調整されている”)と感じることが達成されるように、最適化することができる。
【0071】
このために、それぞれの織物基材は、織物基材を通した水蒸気の侵入に関して、織物基材が、(DIN EN31092による、温度35℃、相対湿度40%での、国際的に標準化された試験方法での、人間の肌に対する肌モデルに基づいて測定された)9m
2Pa/W未満のR
et値を有する水蒸気透過性に対する抵抗R
etを有する形態で、構成できることが、好ましい。さらに、それぞれの織物基材は、(DIN EN31092による、温度20℃、相対湿度65%での、国際的に標準化された試験方法での、人間の肌に対する肌モデルに基づいて測定された)24×10
−3m
2K/W未満である熱抵抗R
ctを有する形態で、構成できることが、好ましい。水蒸気透過に対する抵抗R
etと、それぞれの織物基材の熱抵抗R
ctとの双方は、相異なるパラメータに応じて決まりまたは依存し、とりわけ、織物基材におけるそれぞれの経糸および横糸の密度と、それぞれの経糸および横糸に含まれる繊維の密度およびタイプ(種類)とに応じて決まりまたは依存し、従って、これらのパラメータを変化させることによって変えることができる。
【0072】
織物基材の水蒸気透過に対する抵抗R
etが9m
2Pa/W未満である場合、人がそのような織物基材上に座るとき、織物基材上に座っている間に人によって放出される水蒸気に対して、織物基材が充分な透過性(“通気性”)があることを確実にすることができて、織物基材に放出された水蒸気が、長時間座った段階の後でも、それぞれの人に受け入れ可能な方法で、織物基材の温度および織物基材に含まれるそれぞれの水分を変化させるようになっている。
【0073】
織物基材の熱抵抗R
ctが24×10
−3m
2K/W未満である場合、人がそのような織物基材に座るとき、人が織物基材上に座っている間に、織物基材が充分に冷却されるように、また、長時間座った段階の後でも、織物基材の温度が、それぞれの人に許容できない程度に上昇しないように、織物基材が充分に熱を除去できること、が確実にされる。従って、座っている人が、織物基材上における熱の蓄積を感知するのを防止し、または、織物基材と接触する身体の領域(面積)において発汗を生じさせるのを防止して、従って過剰な量の汗が織物基材中に放出されるのを防止する。
【0074】
織物基材に含まれる繊維の自然色と異なる色に織物基材を着色するために、織物基材に染料を供給する場合、織物基材が(対応する未着色の織物基材と比較して)過剰に強く赤外線を吸収しない形態で、織物基材をそれぞれの染料で着色することは役立つ。その理由は、そうでなければ、赤外線に晒された場合、織物基材は、織物基材上で空気調整された状態で座ることがもはや確保できない形態で暖められ得るからである。
【0075】
前述の目的を達成するために、本発明による織物基材は、800nm乃至2000nmの波長範囲の赤外線に対して、平均で少なくとも50%の反射率を有する形態で着色できることが好ましい。織物基材の反射率の度合には、この場合、通常の手段によって影響を与えることができ、例えば、前述の条件が満たされるように、適切な染料を選択することによって、着色用の染料のそれぞれの量によって、またはそれぞれの糸に含まれる繊維を選択することによって、影響を与えることができる。前述の織物基材には、織物基材の反射率が、対応する未着色の織物基材の反射率と比較して、800nm乃至2000nmの波長範囲において相対的により少なく低減されるという、利点がある。従って、この織物基材は、800nm乃至2000nmの波長範囲の赤外線の相対的に大きい部分を反射して、織物基材がそのような赤外線の作用の下で相対的に小さい程度まで加温されるだけで、織物基材の温度
が僅かに上昇する
に過ぎないようにされる。従って、織物基材によって放出される任意の熱放射の強度は、800nm乃至2000nmの波長範囲の赤外線が織物基材に作用した場合でも、相対的に僅かしか変化せず、そのような環境において織物基材はその周囲の加温に対してほとんど寄与または関与しないようにされる。従って、織物基材は、日光に晒され
得る、場合によって熱放射によって加熱され得る空間において使用するのに非常に適しており
、例えば、自動車またはその他の輸送手段または生活領域における座席またはシート用のシート・カバーとして使用するのに非常に適している。
【0076】
本発明による織物基材は、例えば、座席および/またはシートバック(背もたれ)および/または側部部品および/または座席装置のアームレスト部を覆うための被覆(カバー)材料として、適しており、ここで、第1の面は、それぞれの場合において、被服材料の外を向いた側面(製品の表側(rechte))を形成する。
【0077】
従って、本発明は、座席および/またはシートバック(背もたれ)および/または側部部品および/またはアームレスト部を含むシート装置に関するものでもある。ここで、座席は本発明による織物基材を含み、その織物基材の第1の面は座席の外面を形成し、および/または、シートバックは本発明による織物基材を含み、その織物基材の第1の面はシートバックの外面を形成し、および/または、側部部品は本発明による織物基材を含み、その織物基材の第1の面は側部部品の外面を形成し、および/または、アームレスト部は本発明による織物基材を含み、その織物基材の第1の面はアームレスト部の外面を形成する。
【0078】
以下、本発明の実施形態のさらなる詳細および特定の例を、図面を参照して、説明する。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下の図面の詳細な記載において、同様のまたは同様の機能を有する構成要素には、図面を簡明にするために、同じ参照番号が付けられている。
【0081】
図1は、本発明による、この例において1つの平面に平行に伸びまたは広がる織布(fabric)の形態の織物基材1の斜視図を示している。この場合、織物基材1は、厚さdの平坦な層を形成し、第1の面2−1と、この第1の面2−1とは反対側の第2の面2−2とを有する。
図1において、矢印IIAは第1の面2−1に垂直方向に向
いており、矢印IIBは第2の面2−2に垂直方向に向
いている。
【0082】
図2Aは、矢印IIAの方向における第1の面の平面図における、
図1に示された織物基材1の領域1−1を示し、一方、
図2Bは、矢印IIBの方向における第2の面2−2の平面図における織物基材1の領域1−1を示している。
【0083】
図2Aおよび2Bに示されているように、織物基材1は、複数の経糸Kiで構成された経糸群Kと、複数の横糸Sjで構成された横糸群Sとで形成されている。ここで、参照符号iおよびjは、これに関連して、経糸群Kのそれぞれの経糸と、横糸群Sのそれぞれの横糸とに番号を付与して適切に識別するために用いられる番号を表している。
【0084】
図2Aおよび2Bから分かるように、領域1−1は、複数の経糸Ki(i=10、...、39)と、複数の横糸S
j(j=10、...、35)とを含み、即ち、合計で30本の経糸および26本の横糸を含んでいる。図から分かるように、図示された経糸Kiの各々は、その交差点においてそれぞれの図示された複数の横糸Sjと交差して、それぞれの経糸の少なくとも個々の長手方向の部分(セクション)が面2−1上で伸び、それぞれの経糸Kiの他の個々の長手方向の部分(セクション)が面2−2上で伸びる形態になっている。それに対応して、図示された横糸Sjの各々は、その交差点においてそれぞれの図示された複数の横糸Kiと交差して、それぞれの横糸Sjの少なくとも個々の長手方向の部分(セクション)が面2−1上で伸び、それぞれの経糸Kiの他の個々の長手方向の部分(セクション)が面2−2上で伸びる形態になっている。従って、織物基材の全ての経糸および横糸は、経糸群Kと横糸群Sとが共に1つの層を形成する形態で、互いに接続されまたは連結されまたは織られている(verbunden)。
【0085】
図2Aおよび2Bから分かるように、その織物基材は、第1の糸15および第2の糸16で形成される。この場合、この例では、経糸群Kの全ての経糸Kiは第1の糸15で構成され、ここで、それぞれの経糸Kiは、例えば、単一の
第1の糸15で構成され、または、撚
糸を形成するように細工または編成された複数の第1の糸15を含むことができる。一方、また、横糸群Sは、第1の糸15で構成された複数の横糸(個々の第1の糸15、または複数の第1の糸15で形成された撚
糸の形態のもの)に加えて、第2の糸16で形成された複数の横糸(個々の第2の糸16、または複数の第2の糸16で形成された撚
糸の形態のもの)を含んでいる。
【0086】
図2Aおよび2Bから分かるように、少なくとも領域1−1において、横糸群Sは
、第1の糸15で構成される1本の横糸と、第2の糸16で構成される1本の横糸と
が交互する形態で構成されて、それぞれの場合において、第1の糸15で構成される1本の横糸が、第2の糸16で構成される2本の横糸の間に配置されるようになっている。
【0087】
第1の糸(Garn)15は、ウール製の繊維と、再生セルロース製の繊維と、合成材料製の少なくとも1つの連続的な繊維とを含む三成分糸(Dreikomponentengarn)である。
【0088】
第2の糸16は再生セルロース繊維を含有し、ここで、第2の糸16のそれぞれの合計の質量に対する第2の糸16にそれぞれ含まれる再生セルロース繊維の質量の百分率割合(画分)(“質量割合”)は、第1の糸15のそれぞれの合計の質量に対する第1の糸15に含まれるそれぞれの第2の再生セルロース繊維の質量の百分率割合(画分)(“質量割合”)より大きい。
【0089】
図2Aおよび2Bにおいて、それぞれの経糸および横糸はそれぞれ織物基材1の平面図において3次元の物体として示されている。ここで、これらの物体の湾曲した表面は、それぞれの場合において、異なるグレー(灰色)の陰影を付けて示されており、第1の糸15で構成される経糸または横糸は、それぞれの場合において、第2の糸16で構成されるそれぞれの横糸よりも明るいグレーの陰影で示されている。
【0090】
それぞれの経糸の特性を特徴づけることができるようにするために、以下では、領域1−1における各経糸Kiは互いに前後に配置された複数の長手方向の部分(セクション、線分)で形成され、その長手方向の各部分の長さは、複数の経糸Kiと交差する複数の横糸によって決定されるもの、と仮定する。2本の隣接の横糸SjおよびS(j+1)がそれぞれの経糸Kiと交差する2つの点(交差点)は、それぞれの場合において、1本の経糸Kiのそれぞれの長手方向の部分(セクション)の中の1つの部分の2つの端部を画定する。
【0091】
それぞれの横糸の特性を特徴付けることができるようにするために、以下では、領域1−1における各横糸Sjは互いに前後に配置された複数の長手方向の部分(セクション、線分)で形成され、その長手方向の部分の各長さは、複数の横糸Sjと交差する複数の経糸によって決定されるもの、と仮定する。2本の隣接の経糸KiおよびK(i+1)がそれぞれの横糸Sjと交差する2つの点(交差点)は、それぞれの場合において、1本の横糸Sjのそれぞれの長手方向の部分(セクション)の中の1つの部分の2つの端部を画定する。
【0092】
本発明に関しては、これに関連して、それぞれの横糸Sjの前述の長手方向の複数の部分(セクション)は、面2−1および2−2に対するそれらの空間的な配置に関して同一でないことが適切または重要であり、また、それぞれの横糸Sjのそれぞれの長手方向の部分の
中の或る個々の部分は、横糸Sjのそれぞれの長手方向の部分とその2つの端部で交差する2本の隣接の経糸の間
で伸びて、1つの長手方向の部分の2つの(両)端部の一方が面2−1または2−2のうちの一方の上に位置し、1つの長手方向の部分の2つの端部の他方が面2−1または2−2のうちのそれぞれの他方の上に位置する形態になっており、一方、それぞれの横糸Sjのそれぞれの
長手方向の部分の中の他の
部分は、2つの面2−1または2−2の中の一方の上で排他的に伸び、即ち、面2−1上で排他的にまたは面2−2上で排他的に伸びる。
【0093】
図2Aおよび2Bから分かるように、領域1−1において、第1の糸15で構成される全て
の横糸(S11、S13、S15、S17、S19、S21、S23、S25、S27、S29、S31、S33、S35)は、織物基材1の面2−1および2−2に対して、その振
舞い(性質)に関して、次のような非対称性を有する。即ち、第1の糸15で構成される
各横糸の場合、織物基材1の第1の面2−1上の領域1−1において伸びる全ての長手方向の複数の部分の全長は、織物基材1の第2の面2−2上の領域1−1において伸びる全ての長手方向の複数の部分の全長より長い。
【0094】
図2Aおよび2Bから分かるように、領域1−1において、第2の糸16で構成される全ての横糸(S10、S12、S14、S16、S18、S20、S22、S24、S26、S28、S30、S32、S34)は、また、織物基材1の面2−1および2−2に対して、その
伸び具合(
Verlaufs:伸び方向、伸び方)に関して、次のような非対称性を有する。即ち、第2の糸16で構成される各横糸の場合、織物基材1の第1の面2−1上の領域1−1において伸びる全ての長手方向の複数の部分の全長は、織物基材1の第2の面2−2上の領域1−1において伸びる全ての長手方向の複数の部分の全長より短い。
図2Aおよび2Bから分かるように、第2の糸16で構成される複数の横糸のいずれも長手方向の部分を有することはなく、その長手方向の部分はその全長(即ち、2本の隣接の経糸がそれぞれ横糸と交差する交差点の間の長さ)上で排他的に第1の面2−1上で伸びる(第2の糸16で構成されるそれぞれの横糸のそれぞれの長手方向の部分(セクション)は、第2の面2−2上で排他的に伸びるか、または、一方の端部が第1の面2−1上に位置し他方の端部が第2の面2−2上に位置するような2つの端部を有する)。
【0095】
第1の糸15で構成される複数の横糸の前述の非対称性と、第2の糸16で構成される複数の
横糸の前述の非対称性とは、それぞれの場合において、第1の面2−1および第2の面2−2に関して、逆の関係にある。この例において、これは、特に次の点で示される。即ち、領域1−1において横糸によって形成される織物基材1の第1の面2−1の部分の中の75%より多いものが、第1の糸15で構成される横糸によって形成され、その25%より少ないものが、第2の糸16で構成される横糸によって形成される(
図2A参照)。また、領域1−1において横糸によって形成される織物基材1の第2の面2−2の部分の中の約25%のものが、第1の糸15で構成される横糸によって形成され、その約75%のものが、第2の糸16で構成される横糸によって形成される(
図2B参照)。
【0096】
また、前述の非対称性は図
3を参照しても分かる。
図3は、
図2Aおよび2Bにおける線III−IIIに沿った織物基材1の領域1−1の断面図を示している。この場合、織物基材1の領域1−1の部分3だけが示されており、
図2Aおよび2Bにおいて、部分3は、参照番号3が付された長方形によって境界が定められている(白の破線で示されている)。
図3は、特に、第1の糸15で構成される横糸S29の構成(この糸の外形(contour、等高線)が
図3において実線で示されている)と、9本の異なる経糸K26,K27,K28,K29,K30,K31,K32,K33,K34に対する、第2の糸16で構成される経糸S30の
伸び具合(この糸の外形(等高線、contour)が
図3において破線で示されている)と、を示している。前述の経糸Ki(i=26、...、34)は、
図3において、それぞれの場合、図の平面に対して垂直に伸び、ここで、
図3において、それぞれの経糸Kiの断面の輪郭が、破線の円形で示され、それぞれの円の中心において、破線で形成された十字形が、それぞれの経糸Kiの中心の長手方向の軸に符号で示されている。
【0097】
図3において、それぞれの横糸Sj(j=29または30)がそれぞれの経糸Ki(i=26、...、34)と交差するそれぞれの交差点は、また、それぞれ、シンボル“C(Sj,Ki)”と、シンボルC(Sj,Ki)に関連付けられた矢印とによって識別される。この場合、シンボル“C(Sj,Ki)”は、横糸Sjが経糸Kiと交差する交差点を識別し、それぞれの関連付けられた矢印がそれぞれの横糸Sjに対するそれぞれの交差点の位置を示す(
図3において、交差点C(Sj,Ki)の位置は、交差点C(Sj,Ki)における横糸Sjが第1の面2−1上で伸びる場合には、経糸Kiの中心の長手方向の軸を第1の面2−1上に投射することによって、または、一方、交差点C(Sj,Ki)における横糸Sjが第2の面2−2上で伸びる場合には、経糸Kiの中心の長手方向の軸を第2の面2−2上に投射することによって、識別される。)
。
【0098】
図3から分かるように、それぞれの場合において領域1−1の部分(セクション)3における第1の糸15で構成される横糸S29は、交差点C(S29,K26)、C(S29,K27)、C(S29,K28)、C(S29,K29)、C(S29,K30)、C(S29,K31)、C(S29,K32)、C(S29,K33)、C(S29,K34)の中のそれぞれの2つの隣接の交差点の間で伸びる8つの長手方向の部分(セクション)を有する。これらの8つの長手方向の部分の中の合計5つの長手方向の部分は第1の面2−1上で排他的に伸び(これは、交差点C(S29,K27)とC(S29,K32)の間で伸びる全ての長手方向の部分に、適用される)、1つの長手方向の部分は、排他的に、第2の面2−2上で伸びる(これは、交差点C(S29,K33)とC(S29,K34)の間で伸びる長手方向の部分に、適用される)。
【0099】
一方、前述の8つの長手方向の部分の中の2つの部分は、第1の面2−1上でのそれらの長さの或る一部分に渡って伸び、第2の面2−2上でのそれらの長さの別の一部分にわたって伸びる。これ(後者)は、交差点C(S29、K32)とC(S29、K33)の間で伸びる長手方向の部分と、交差点C(S29、K26)とC(S29、K27)の間で伸びる長手方向の部分と、に適用される。
【0100】
第1の面2−1上で伸びる横糸S29の全ての部分(セクション)の全長と、第2の面2−2上で伸びる横糸S29の全ての部分の全長との間の差分Δ(S29)は、第1の面2−1と第2の面2−2の間の横糸S29の
伸び具合を特徴付ける非対称性に関する定量的な尺度として考えることができる。交差点C(S29,K32)とC(S29,K33)の間で伸びる長手方向の部分
、および交差点C(S29,K26)とC(S29,K27)の間で伸びる長手方向の部分は、この差分Δ(S29)に寄与せず、特に、それは、その2つの長手方向の部分の各々が、第1の面2−1上と第2の面2−2上
でその長さの等しい部分
として伸びるからである。従って、差分Δ(S29)は、第1の面2−1上で排他的に伸びる横糸
S29の全ての部分の全長
と、第2の面2−2上で排他的に伸びる横糸S29の全ての部分の全長
との差分と同じである
(等しい)。従って、この例における差分Δ(S29)は、織物基材1の領域1−1の部分3に基づくものであり、交差点(S29,K27)とC(S29,K32)の間で伸びる5つの長手方向の部分の長さと、交差点(S29,K33)とC(S29,K34)の間で伸びる1つの長手方向の部分の長さとの間の差分である。上述の差分Δ(S29)の計算は、領域1−1における横糸S29の
伸び具合に対して、類似形態で実行することができ、その結果として、Δ(S29)>0が得られる。
【0101】
図3から分かるように、第2の糸16で構成される横糸
S30は、
領域1−1の部分3において、横糸
S29と類似
して、交差点C(S30,K26),C(S30,K27),C(S30,K28),C(S30,K29),C(S30,K30),C(S30,K31),C(S30,K32),C(S30,K33)および C(S30,K34)のそれぞれの2つの隣接の点の間で伸びる8つの長手方向の部分を有する。これらの8つの長手方向の部分の中の合計4つの長手方向の部分は第2の面2−2上で排他的に伸び(これは、交差点C(S30,K28)とC(S30,K32)の間で伸びる全ての長手方向の部分に、適用される)、一方、第1の面2−1上で排他的に伸びる長手方向の部分は存在しない。
【0102】
一方、前述の8つの長手方向の部分の中の4つの部分は、第1の面2−1上のそれらの長さの或る一部分に渡って伸び、第2の面2−2上のそれらの長さの別の一部分にわたって伸びる。これ(後者)は、交差点C(S30,K26)とC(S30,K27)の間で伸びる長手方向の部分と、交差点C(S30,K27)とC(S30,K28)の間で伸びる長手方向の部分と、交差点C(S30,K32)とC(S30,K33)の間で伸びる長手方向の部分と、交差点C(S30,K33)とC(S30,K34)の間で伸びる長手方向の部分と、に適用される。
【0103】
第1の面2−1上で伸びる横糸S30の全ての部分(セクション)の全長と、第2の面2−2上で伸びる横糸S30の全ての部分の全長との間の差分Δ(S29)は、第1の面2−1と第2の面2−2の間の横糸S30の
伸び具合を特徴付ける非対称性に関する定量的な尺度として考えることができる。交差点C(S30,K26)とC(S30,K27)の間、または交差点C(S30,K27)とC(S30,K28)の間、または交差点C(S30,K32)とC(S30,K33)の間、または交差点C(S30,K33)とC(S30,K34)の間で伸びる4つの長手方向の部分は、この差分Δ(S30)に寄与せず、特に、それは、これらの長手方向の部分の各々が、第1の面2−1上と第2の面2−2上とでその長さの等しい部分
として伸びるからである。従って、差分Δ(S30)は、第1の面2−1上で排他的に伸びる横糸S30の全ての部分の全長
と、第2の面2−2上で排他的に伸びる横糸S30の全ての部分の全長
との差分と同じである(等しい)。従って、この例における差分Δ(S30)は、織物基材1の領域1−1の部分3に基づくものであり、交差点C(S30,K28)とC(S30,K32)の間で伸びる4つの長手方向の部分の長さの負の値である。上述の差分Δ(S30)の計算は、領域1−1における横糸S30の構成に対して、類似形態で実行することができ、その結果として、Δ(S30)<0が得られる。
【0104】
また、
図3から分かるように、横糸S30は、経糸K27上と経糸K33上の双方で織り点(Bindungspunkt:結合点)をそれぞれ有する。これらの織り点は、
図3では、シンボルB(S30,K27)またはB(S30,K33)によって指定され、交差点C(S30,K27)またはC(S30,K33)と同じ位置を有する。
図2Aおよび2Bから分かるように、横糸S30は他の織り点を有する。それに対応して、領域1−1において第2の糸で構成される他の全ての横糸は、複数の織り点を有する。
【0105】
第1の糸15の好ましい実施形態の構成を、
図4を参照して以下で説明する。
図4は、第1の糸15の断面を示しており、また、この糸に含まれる第1の繊維(ウール製)、第2の繊維(再生セルロース製)、および第3の繊維(合成材料製の連続的な繊維)の空間的な分布を示している。第1の糸15は、糸15の長手方向に伸びる中心の長手方向の軸15’を有する。その断面の外側の形状は、
図4に、中心長手方向軸15’を包囲し半径R2を有する破線円形によって示されている。
図4から分かるように、第1の糸15は、中心長手方向軸15’を包囲し中心長手方向軸15’に沿って伸びる中心区域(ゾーン)15−1と、中心区域(ゾーン)15−1を包囲し中心長手方向軸15’に沿って伸びる外側区域(ゾーン)15−2とを有する。
外側区域(ゾーン)15−
2の外側の形状は、
図4に、半径R1を有
する中心長手方向軸15’の周りの破線円形によって示されている。また、
図4は、それぞれの場合に概略的図の形態で、中心長手方向軸15’からの半径方向の距離rの関数として、第1の繊維の濃度(Konzentration)V1(r)、第2の繊維の濃度V2(r)、および第3の繊維の濃度V3(r)を示している。
【0106】
図4によれば、それぞれの第1の繊維、それぞれの第2の繊維、およびそれぞれの第3の繊維は、次の形態で、第1の糸の断面にわたって空間的に分布している。
【0107】
− 中心区域15−1における第2の繊維の濃度V2(r)は、外側区域15−2におけるその濃度より大きく、
− 外側区域15−2における第1の繊維の濃度V1(r)は、中心区域15−1におけるその濃度より大きく、および
− 外側区域15−2における第3の繊維の濃度V3(r)は、中心区域15−1におけるその濃度より大きい。
【0108】
この場合、第2の繊維(再生セルロース)の濃度V2(r)は中心区域15−1の中央部において最大であり、一方、第3の繊維(合成材料製の連続的繊維)の濃度V3(r)は外側区域15−2の外側表面の近傍で最大である。
図4による第1の糸15は、主に中心区域15−1において水を吸収できる一方で、外側区域15−2が一般的に直ぐに乾燥する、という特性を有する。
図4において示されたそれぞれの繊維の空間的な分布を有する第1の糸15を形成することができ、それによって、例えば、ウール製の繊維が、再生セルロース製のステープル・ファイバと、同時に作製されている加工された連続的ポリマー
糸と共に密に紡がれる。再生セルロース製のステープル・ファイバは、この場合、ウール製の繊維と近似的に同じ長さを有することができる。それぞれの繊維を紡いでいる期間において、繊維の表面の相異なる品質が考慮に入れられる。再生セルロース製のステープル・ファイバは、一般的に、ウール繊維よりもおよび一般的に絡まっている加工ポリマー糸の繊維よりも、滑らかな表面を有し少ない巻きを有する。紡いでいる期間において、再生セルロース製の繊維は、徐々に糸の中央に位置する傾向があり、一方、加工ポリマー糸の絡まった繊維およびウール製の繊維は、徐々に第1の糸15の外側区域15−2に配置される傾向がある。また、前述のタイプの複数の単一糸は、複数の
撚糸(Zwirnen)を形成するように撚り合わせることができる。
【0109】
図5A〜5Cおよび
図6は、(液体の)水および水蒸気の形態の水分に対する
図1〜3による織物基材1の反応(応答動作)を示している。
図5A〜5Cおよび
図6に示された反応は、織物基材1を用いて、実験的に決定され、その際、第1の糸15は、
25乃至55重量%のウール、ビスコース(viscose)の形態の
25乃至55重量%の再生セルロース、および
5乃至40重量%のポリアミド(加工された連続的ポリアミド糸の形態のもの)で構成され、第2の糸16は、ビスコースの形態の100重量%の再生セルロースで構成された。第1の糸15で構成される経糸および横糸は、この場合、それぞれが単一糸として存在する複数の第1の糸15を撚り合わせた1つの撚糸(Zwirn)として生成される。この場合、それぞれの第1の糸15は、
図4に示されているように、再生セルロース(ビスコース)製のそれぞれの繊維の濃度が、第1の糸15の中心区域(
図4の15−1)において最大となり、ウールおよびポリアミド製のそれぞれの繊維の濃度が、第1の糸15の外側の区域(
図4の15−2)において最大となる形態で、製造された。第1の糸15の製造に使用された再生セルロース繊維はステープル・ファイバとして存在し、その繊維の長さは、第1の糸中に存在するウール製の繊維の繊維長に近似的に対応する。第1の糸15で構成される経糸および横糸は、それぞれの場合において、混合糸Nm36/2として製造されたものである。このタイプの糸は、“コヴェルガルン”(Covergarn)という名称の商業的な梳毛糸紡績工場で注文することができ、例えば、“Wagenfelder Spinning Group”(自動車紡績グループ)(Wagenfelder Spinnereien GmbH, D-49419 Wagenfeld、ドイツ)に属する会社で注文することができる。第2の糸16で構成される横糸は、標準的なステープル糸Nm18として製造されたものである。
【0110】
図5A〜5Cは、水に対する前述のタイプの織物基材1の反応を示している。その水は、液体状態で、領域1−1において、時間tの関数として、織物基材1の第1の面2−1上に衝突するものである。この場合、
図5Aは、時間t=t0を開始点として、断面で示された織物基材1の面2−1と接触する水滴20を示している。
図5Bに示されているように、水滴に含まれる水は、第1に、面2−1を通して、織物基材1内に侵入し、面2−1および2−2に実質的に垂直に移送されて、その際、水が、時間t1>t0において、第1の面2−1上で直ぐに第1の面2−1に平行に拡散することなく、面2−2に到達するような形態となる。
図5Bにおいて、1fが付された面は、水が時間t1までに分布する織物基材1の断面の領域を示している。時間が時間t2>t1まで進んだとき、水の移送は実質的に第2の面2−2において生じ、その際、水は第2の面2−2に沿って直ぐに2次元的に分布し、一方、第1の面2−1上では、第1の面2−1に平行に水の有意な(かなりの)分散が直ちに生じることはない(
図5Cにおいて1fが付された面は、織物基材1の断面の領域を示し、水は時間t2までに分散配置されまたは分布した)。
図5A〜5Cに示された織物基材1内での水の移送は、第2の糸16(再生セルロース繊維を含有するもの)で構成される横糸繊維における速い水の吸収と、織物基材1内の横糸繊維の空間的な配置とによって、実質的に、引き起こされる。
図5Cに示された状態は、数秒後に既に確立され、第1の面2−1は、数秒後に既に乾燥状態を感じさせ、一方、水は、可視的におよび知覚的に凝縮されて第2の面2−2上で拡散する。ここで、水は、第1の面2−1から開始するが、織物基材1における2つの面2−1および2−2にして対称的には分布せず、また、織物基材1における領域1f内の水の分布は、特に、第1の面2−1から第2の面2−2の方向に向いた勾配であって、第2の面2−2の方向に、第2の面2−2の方向の第1の面2−1からの距離の関数として徐々に大きくなる勾配を有することが、分かる。
【0111】
図6は、全体の領域1−1において、織物基材1の第1の面2−1に(境界を)接する水蒸気を含む雰囲気に対する前述のタイプの織物基材1の反応を示している。この場合、水蒸気は、第1の面2−1を通して織物基材1中に侵入することができ、織物基材1内で拡散することができる。位置の関数としての異なる時間における織物基材1の領域1内の水分(凝縮水および任意に水蒸気)の分布が、コンピュータ・トモグラフィ(断層撮影法)を用いて測定された。
【0112】
図6は、織物基材内に存在し第2の面2−2からの距離zの関数としての或る時間において測定された水分Fを概略的に示す図と組み合わせた、織物基材1の概略的な断面図を示している。水分の測定された振
舞い(性質)または状態F(z)が示すように、水分は、それぞ
れ第2の面2−2に対して垂直
に互いに重なるように配置されそれぞれ第1の面2−1または第2の面2−2に平行に伸びまたは広がる実質的に3つの“層”において、第1の面2−1と第2の面2−2の間の織物基材1内で、距離zの関数として分布する。これら3つの層は、
図6において層(A)、(B)および(C)として概略的に示されており、これらの層は、織物基材1の図において示されており、特に、それらの層は水分の分布に関して特徴的な差を呈して、
水分は層(A)、(B)および(C)に渡って非対称に分布するようになっている。
図6による水分の測定された振
舞いまたは状態F(z)が示すように、第1の面2−1に隣接する層(A)は、乾燥状態と見なしてもよいような測定可能な水分を含まないことを特徴とする。中間層(B)(層(A)および(C)に隣接する層)の水分は、面2−1の方向に距離zの関数として線形に減少し、従って第2の面2−2に向かって層(B)内で
一定(konstant)の勾配を有する。第2の面2−2に隣接する層(C)では、水分は、第2の面2−2の方向に距離zの関数として非常に次第に大きく増大する。従って、層(C)内の水分F(z)は、第2の面2−2に向いた勾配であって、第2の面2−2の方向に層(C)内でより大きく増大する勾配を有する。
【0113】
この場合、この例において、層(A)における水分は約0%、層(B)における水分は約2〜4%であり(層(B)にわたる平均値)、および層(C)における水分は約8〜12%である(層(C)にわたる平均値)。この場合、本発明による織物基材1の設計によって、水分のこの非対称的な分布を一定に保つことができることは、明らかである。層(C)は、飽和の限界まで水分を吸収することができ、その水分の濃度は層(C)において最大で飽和限界に達し、一方、層(A)は常に乾燥状態を維持する。任意の長さの時間において水分のこの非対称な分布を維持できるようにするために、層(C)から第2の面2−2を通して水分を移送することができる。層(B)に含まれる水分によって、第1の面2−1にわたって水分の蒸発を制御することが確実に行われ、また、第1の面2−1の領域において織物基材1の計量された冷却が可能になる。
【0114】
水分のこの層化
によって、結果的に、織物基材1に存在する再生セルロース製の繊維は、(織物基材中に存在する他の繊維と比較して、)水に対する非常に高い吸収率を有し、さらに、それらは第2の面2−2上よりも低い濃度で第1の面2−1上に存在することとなる。さらに、層(A)の領域における第1の面2−1上で、ポリアミドおよびウール製の繊維は、相対的に高い濃度で存在し、その高い濃度が、層(A)内の織物基材1の相対的に急速な乾燥を促進する。水分の前述の層化を一定に保つことができるようにするために、水分が織物基材1に存在する異なる繊維間で効率的に交換できることが、適切または重要である。この水分の交換が効率的に発生するようにすることを、水蒸気透過に対する低い抵抗R
et、および相対的に低い熱抵抗R
ctが促進する。
【0115】
図3と
図6の比較によって示されるように
、経糸、この例における第1の糸15で形成された経糸が、
主に(中間)層(B)内で伸びている(層にわたる平均値で)。
図3が示すように、第1の糸15で構成される横糸S29は、少なくとも複数の部分(セクション)で(例えば、2つの交差点C(S29,K33)とC(S29,K32)および2つの交差点C(S29,K26)とC(S29,K27)の間で)層(B)をも通して伸び、また、同様に、第2の糸16で構成される横糸S30は、少なくとも複数の部分(セクション)で
(例えば、交差点C(S30,K26)とC(S30,K27)、交差点C(S30,K27)とC(S30,K28)、交差点C(S30,K32)とC(S30,K33)、および交差点C(S30,K33)とC(S30,K34)の間で)層(B)をも通して伸びる。しかし、第1の糸15または第2の糸で構成される横糸は、経糸と比較して、層(B)の相対的に小さい部分を含んでいる。この例における層(B)における水分の濃度は、経糸に含まれる水分によって実質的
に決定される。
図3と
図6の比較によって示されるように、第2の糸16で形成され
た横糸は、
主に層(C)内で伸びており(層にわたる平均値で)、層(C)における水分の濃度は、第2の糸16で構成された横糸に含まれる水分によって実質的に決定される。従って、第
1の糸15で形成され
た横糸は
主に層(A)内で伸びていて(層にわたる平均値で)、層(
A)における水分の濃度が、第1の糸15で構成された横糸に含まれる水分によって実質的に決定されるようになっている。
【0116】
図1〜6に示された織物基材は、例えば、1cm当り36本の経糸の経糸密度で、および1cm当り16本の横糸の横糸密度で製造された。その結果、R
et値<6m
2Pa/Wを有する水蒸気透過に対する抵抗(これは、織物基材に対する定義“極端な通気性”に対応する)と、熱抵抗R
ct<19×10
−3m
2K/Wとが得られる。
【0117】
図1〜6に示された織物基材は、本発明の文脈内で多くの方法で変更することができる。例えば、それぞれの経糸と横糸の組成、経糸および横糸におけるそれぞれの繊維の配置、および織物基材におけるそれぞれの経糸および横糸の配置は、変えることができる。
【0118】
図7Aおよび7Bは、
図2A、2Bおよび3による織物基材1とは、次の点で異なる変形例2による織物基材1Aを示している。即ち、領域1−1における織物基材は、横糸Si(i=10、...、39)および経糸
Kj(j=
10、...、35)を有し、即ち、合計で30本の横糸および26本の経糸を有する。
【0119】
図7Aは、矢印IIAの方向での第1の面2−1の平面図におけ
る織物基材1
Aの
(図1で示された)領域1−1を示している。一方、
図7Bは、矢印IIBの方向での第2の面2−2の平面図における織物基材1
Aの領域1−1を示している。
【0120】
図7Aおよび7Bからも分かるように、織物基材1
Aは、第1の糸15および第2糸16で形成されている。
【0121】
図8は、
図7Aおよび7Bにおける線VIII−VIIIに沿った織物基材1Aの領域1−1の断面図を示している。
図3と
図8の比較によって示されるように、経糸K29およびK30に関して、
織物基材1Aは、織物基材1の横糸S29およびS30と同じ非対称性を有する。
【0122】
図9は、座席装置50用の被覆材料としての本発明による織物基材1の使用法を示している。座席装置50は、座席51、シートバック52、2つの側部部品53、および2つのアームレスト部54を含み、各アームレスト部54は、側部部品53の1つに固定される。
図9に示されているように、座席51、シートバック52、2つの側部部品53の各々、および2つのアームレスト部54の各々は、
図1〜3による織物基材1で覆われていて、それぞれの場合においてそれぞれの織物基材1の第1の面2−1が、座席51、シートバック52、2つの側部部品53の各々、および2つのアームレスト部54の各々の外面を形成し、従ってそれぞれの織物基材1の表側(rechte)として供され、一方、それぞれの織物基材1の第2の面2−2は裏側(linke)として供される。
図9において、それぞれの場合のチェック(升目模様)の面は、座席装置50の面の領域1−1を特徴づけ、座席装置50上に座る人が、通常、座っている長い時間の期間にそれぞれの織物基材1に対して水分(水および水蒸気)を放出する。空気調整された座席を確保するために、
図9によるそれぞれの織物基材1の少なくともそれらの領域1−1は、
図2Aおよび2Bに示された
図1〜3による織物基材1の領域1−1のように設計される。代替形態として、
図9による各織物基材1も、当然、
図2Aおよび2Bに示された
図1〜3による織物基材1の領域1−1のように設計できる。座席装置51は、それぞれの織物基材1の製品の裏側(linke)から、座席装置51の内部へと水が放散できるように、形成できる。このようにして、それぞれの織物基材1の第1の面2−1が、長い期間座った後であっても常に乾燥状態を維持し、第1の面2−1が、座った人の体温に近い温度になることが確保される。