特許第6000983号(P6000983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000983ニッケル粉末、導電ペースト、および、積層セラミック電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000983
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】ニッケル粉末、導電ペースト、および、積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20160923BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20160923BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160923BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160923BHJP
   H01G 4/232 20060101ALI20160923BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20160923BHJP
   B22F 9/14 20060101ALN20160923BHJP
【FI】
   B22F1/00 M
   C22C19/03 M
   H01B1/00 F
   H01B1/22 A
   H01G4/12 361
   H01G4/30 301C
   !B22F9/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-554131(P2013-554131)
(86)(22)【出願日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2013006702
(87)【国際公開番号】WO2014080600
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-254199(P2012-254199)
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】牧瀬 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】諸住 健志
(72)【発明者】
【氏名】恩田 賀菜
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−024961(JP,A)
【文献】 特開2008−081818(JP,A)
【文献】 特開2008−179841(JP,A)
【文献】 特開2008−179842(JP,A)
【文献】 特開2012−193418(JP,A)
【文献】 特開2009−228070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/00 − 9/30
C22C 19/03
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01G 4/232
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層セラミック電子部品の内部電極に用いるニッケル粉末であって、
X線回折によって面心立方格子(FCC)構造のピークが得られ、
a軸長が3.530Å以上3.600Å未満であり、
ニッケルの含有率が50質量%以上あり、スズ濃度が0.1〜10質量%のニッケル粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のニッケル粉末を用いた導電ペースト。
【請求項3】
請求項2に記載の導電ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末、導電ペースト、および、積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粉末は、例えば、積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエーターなどの積層セラミック電子部品の内部電極を形成する材料として、使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−353089号公報
【特許文献2】特開2006−037195号公報
【特許文献3】特許第4089726号公報
【特許文献4】特表2005−505695号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Alloys and Compounds 457(2008)6−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層コンデンサを形成するためには、まず、チタン酸バリウムなどの誘電体セラミックグリーンシート上に、内部電極用導電ペーストを所定のパターンで印刷し、このシートを複数枚積み重ね数十〜数百MPaで圧着して、セラミックグリーンシートと内部電極用導電ペーストとが交互に積層された未焼成の積層体を得る。得られた積層体を所定の形状に切断した後、高温でセラミックグリーンシートと内部電極用導電ペーストとを同時焼成して、積層セラミックコンデンサ素体を得る。
次いで、得られた素体における内部電極が露出する端面に、導電性粉末、チタン酸バリウム等の誘電体および有機溶媒を主成分とする端子電極用導電ペーストを、浸漬等により塗布し、乾燥した後、高温焼成することで端子電極が形成される。
このとき、チタン酸バリウム等の誘電体を導電ペーストに含めないと、セラミックグリーンシートの焼結温度である1000℃以上の温度に達する前に、ニッケル粉末が焼結し、セラミックグリーンシートが焼結する際に内部電極に応力がかかりクラック等が発生する。
そこで、ニッケル粉末の焼結温度を誘電体の焼結温度に近づけるために、従来はニッケル粉末に硫黄が添加されている(特許文献2)。硫黄添加は、ニッケル粉末の表面に濃化して焼結抑制効果が得られるため、ニッケル粉末が細粒化するに従って、必要な硫黄の量も増加する。コンデンサになる前に硫黄は除く必要があるため、細粒ニッケル粉末においては硫黄除去の手間は増える方向にしか働かない。また、硫黄添加したニッケル粉末は、焼成時の水素濃度が高くなるほど焼結温度が低下する傾向がある。
【0006】
近年、積層セラミック電子部品の薄層化は著しく、コンデンサの内部電極も薄層化しており、内部電極用導電ペーストに用いられるニッケル粉末の細粒化が望まれている。
ニッケル粉末は、細粒化すると導電ペーストにする際に強い凝集を起こしやすく、強固な二次粒子が生成してしまうため、細粒化した効果が十分に得られない。特に一次粒子径が200nm以下のニッケル粉末は、凝集が強い。
導電ペーストに粗大な二次粒子が残っていると内部電極どうしでショートを起こす原因となるため、凝集体をフィルターで濾過するが、これによりコストが増大し、歩留まりも悪化する。そこで、細粒化したニッケル粉末の凝集を低減することが強く求められている。
ところで、細粒ニッケル粉末の導電ペーストを電子顕微鏡で観察すると、ひも状に連なった粒子が多数観察されることから、粒子どうしの凝集力として、磁気力が強い影響を及ぼしていることが分かる。
磁気力を低減させる方法としては、ニッケル粒子を六方最密充填(以下、「HCP」ともいう)構造の非磁性ニッケル相に変化させるという方法が挙げられる(特許文献1)。この方法は、液相法で製造したニッケル粒子をポリオール中で150〜380℃に加熱することにより面心立方格子(以下、「FCC」ともいう)構造からHCP構造に相転移させるものである。しかし、低温では相転移の速度が遅く、高温ではHCP構造は不安定になりやすい。細粒ニッケル粉末においては、相転移を起こすための加熱により粒子どうしが焼結してショートの原因となる粗大な粒子が生成するため好ましくない。また、HCP構造の非磁性ニッケルは熱的に不安定な結晶構造であるため、400℃以上に加熱すると磁性を持つFCC構造に戻ってしまう(非特許文献1)。
【0007】
高容量の通信を行うためには電子回路で扱う周波数を高める必要があり、電子回路の処理速度を上げるためにも回路内で扱う周波数を高める必要がある。このような高周波信号を扱う電子回路においては、ノイズ除去用のローパスフィルターや電源周りのバイパスコンデンサなどの用途でコンデンサが用いられている。近年ではGHzを超えるようなノイズの処理が求められている。ノイズの処理においてコンデンサのインピーダンスが高いと、ノイズをグラウンド側に除去しようとした際にノイズ電流が小さくなってしまうため、より高い電圧を印加する必要がある。
積層セラミックコンデンサには、容量Cの他に、誘電体材料および内部電極による抵抗成分であるESR(等価直列抵抗)、リード線および内部電極が持つインダクタ成分であるESL(等価直列インダクタンス)があり、こうした成分が直列に繋がって現される。コンデンサの自己共振周波数までは容量成分がインピーダンスの主体であり、高周波になるに従ってインピーダンスは低下するが、自己共振周波数以上ではインダクタ成分がインピーダンスの主体となり、高周波になるほどインピーダンスは増加する。
高周波回路に用いるコンデンサを製造するためには、インダクタ成分を低下させる必要がある。高周波電流を流すとコンデンサ内の磁場が電流の向きに応じて変化する。この磁場の変化がインダクタ成分となっている。
このため、現在の対策としては、外部電極から内部電極の先端までの距離を短くして、コンデンサ内で磁場が打ち消しあうような構造とすることで発生する磁場の低減を図っている(特許文献3)。
コイルのインダクタ成分については、構造だけでなく、電極部材の比透磁率にも依存する。ニッケルは強磁性の金属であるため、比透磁率が低い物質に置き換えればインダクタ成分をさらに低減でき、コンデンサの性能を上げることができる。地金の安さと比透磁率の低さを考えると銅電極という手段もあるが、焼結温度が低く酸化しやすいため高誘電率の誘電体とは一緒に焼成できない。
また、磁気凝集の対策として効果的であるHCP構造のニッケルは、1000℃の焼結で磁性を持つFCC構造に戻るため、コンデンサの高周波特性を改善するためには役立たない。
また、コンデンサ焼成時には電極ペーストの溶媒成分が残留していると急激に蒸発して気泡を生じさせ電極層と誘電体層の間に剥離が生じコンデンサの性能が低下してしまう。そこで焼成前に溶媒成分を揮発させる必要があるが、高温の酸化雰囲気で脱媒すると脱媒速度が増して生産性を上げる事ができる。脱媒時にニッケル粉末は耐酸化性が要求される。なお脱媒とはターピネオール等の有機溶媒成分を除去することをいう。積層セラミックコンデンサ用の耐酸化性を向上させた合金粉末という例がある(特許文献4)。この特許文献では銅およびニッケル粉末の耐酸化性向上のために各種合金が有効と述べているが、不可避不純物としてジルコニウムが混入する。酸化ジルコニウムはチタン酸バリウムのキュリー温度を調整するために添加するが、ジルコニウムが酸化する事で電極から誘電体層に拡散して混入してしまい、キュリー温度が変化して所定の誘電特性を得られなくなってしまう問題がある。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、積層セラミック電子部品の内部電極に用いるニッケル粉末であって、焼結温度が高く、凝集が抑制され、高周波特性が改善されたニッケル粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、ニッケルに非磁性金属元素を添加することでa軸長を特定範囲にしたニッケル粉末は、残留磁化が低くなり凝集を抑制できること、焼結温度を高くできること、高周波特性が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
なお本発明では、ニッケルに非磁性金属元素を添加したニッケル合金粉末を含めてニッケル粉末というものとする。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(3)を提供する。
(1)積層セラミック電子部品の内部電極に用いるニッケル粉末であって、X線回折によって面心立方格子(FCC)構造のピークが得られ、a軸長が3.530Å以上3.600Å未満であり、ニッケルの含有率が50質量%以上であり、スズ濃度が0.1〜10質量%のニッケル粉末。
(2)上記(1)に記載のニッケル粉末を用いた導電ペースト。
(3)上記(2)に記載の導電ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、焼結温度が高く、凝集が抑制され、高周波特性が改善されたニッケル粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PVD装置1の一例を示す模式図である。
図2】マイクロリアクタ31の一例を示す模式図である。
図3】ニッケル粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図4図3のXRDパターンの一部を拡大して示すグラフである。
図5】ニッケル粉末の温度と体積変化率との関係を示すグラフである。
図6】実施例6のニッケル粉末の温度と体積変化率との関係を示すグラフである。
図7】ニッケル粉末の周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフであり、(A)は比較例1、(B)は実施例2である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のニッケル粉末は、積層セラミック電子部品の内部電極に用いるニッケル粉末であって、X線回折によって面心立方格子(FCC)構造のピークが得られ、a軸長が3.530Å以上3.600Å未満であり、ニッケルの含有率が50質量%以上である、ニッケル粉末である。
【0014】
本発明のニッケル粉末においては、FCC構造を有するニッケルに、例えばスズ等の非磁性金属元素を添加することにより、a軸長を伸ばし、結晶構造を歪めることで磁性の低減を図っている。
本発明のニッケル粉末において、a軸長は3.530Å以上とする。a軸長が伸びるほど単磁区が形成されにくくなることから、3.540Å以上が好ましい。
【0015】
さらに、元素の添加によってa軸長が伸びすぎると、結晶構造が熱的に不安定になり、コンデンサの焼成中に電極内にニッケル以外の異相の合金組織が析出し、異相が成長する過程で電極内の連続性が低下してしまう。また、電極の連続性が保たれたとしてもニッケルと異相との境界面では電気抵抗が増加するため好ましくない。
以上の問題を抑制する観点から、a軸長は、3.600Å未満とするがより好ましくは3.570Å未満であり、3.550Å未満がさらにより好ましい。
【0016】
本発明のニッケル粉末においては、a軸長を上記範囲とするために、ニッケルに対する添加元素の量は、固溶範囲とするのが好ましい。
すなわち、本発明のニッケル粉末におけるニッケルの含有率は、50質量%以上であり、70〜99.5質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましい。
【0017】
本発明のニッケル粉末において、ニッケルに添加する元素としては、非磁性金属元素であれば特に限定されず、例えば、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、イットリウム(Y)やランタノイド元素などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、コストが安く、かつ、融点から沸点までの液相の温度領域が広いために合金粉末を容易に製造できるという理由から、スズが好ましい。スズ濃度の好適範囲は0.1〜10質量%、より好ましくは1〜6質量%である。なお不可避的不純物である鉄の濃度は0.01質量%未満が好ましい。また、不純物としてZrは30ppm以下が好ましい。
【0018】
ところで、粒子を細かくすると単磁区化していくため、細かいニッケル粉末、特に一次粒子径が200nm以下のニッケル粉末では、より強い磁気の凝集力を受けやすく、二次粒子径が大きくなりやすい。
しかしながら、元素添加によってa軸長が伸びた本発明のニッケル粉末においては、後述[実施例]でも説明するように、飽和磁化だけではなく残留磁化も低減する。このため、磁気による凝集力が減り、粒子どうしの引力が低減して、二次粒子径が小さくなる。
【0019】
また、a軸長が伸びた本発明のニッケル粉末は、後述[実施例]でも説明するように、焼結温度が向上し、例えば、従来の硫黄添加と同等以上の効果が得られる。
このため、焼結抑制効果のために導電ペーストに混ぜる共剤のチタン酸バリウムの量を低減することができ、より平滑な高品質の内部電極を形成できる。
そして、従来の硫黄添加による焼結抑制では、焼成時における水素濃度を高くすると、焼結温度が低下する傾向にあるが、a軸長が伸びた本発明のニッケル粉末においては、水素濃度を高くしても、焼結温度の低下幅は小さく、より脱媒しやすい条件を選ぶことができる。
【0020】
また、本発明のニッケル粉末を用いて導電ペーストを製造し、インピーダンスを測定すると、後述[実施例]でも説明するように、例えばスズを添加した本発明のニッケル粉末においては、純ニッケル粉末と比較して、インピーダンスは増加するものの、周波数が高くなっても、インピーダンスの増加量は小さく、高周波領域でも低インピーダンスで使うことができる。
【0021】
また、後述[実施例]でも説明するように、本発明のニッケル粉末末を用いた場合、上記のように、高周波でのインピーダンスの上昇幅が小さいことに加え、誘電損失を低減できることから、コンデンサとした際に、高周波での発熱ロスが抑えられ、使用できる周波数の上限を広げることができる。
なお、ニッケルの透磁率はニッケルと比べて小さくなるために、コンデンサのリアクタンスも小さくなり高周波特性が改善される。これは他の非磁性元素を添加した際にも成り立つ。
このように、高周波特性が改善されるため、本発明のニッケル粉末末は、高容量コンデンサに好適である。
【0022】
本発明のニッケル粉末の製造方法としては、特に限定されず、気相法、液相法などの方法があるが、液相法で得られる粉末は、結晶性が低く、焼結しやすいことから、気相法が好ましい。気相法は、PVD法とCVD法とに大別される。
【0023】
PVD法は、概略的には、ニッケルと対象金属または合金化した試料を用意して、試料を直流または交流アーク放電、高周波誘導プラズマ、マイクロ波プラズマ、高周波誘導加熱、レーザーなどの熱によって蒸発させ、急冷することで粉末を得る方法である。PVD法は化学反応を用いないため、冷却速度を上げることで細かい粉末を製造することが容易である。
【0024】
PVD法によるニッケル粉末の製造に用いるPVD装置の一例について、図1に基いて説明する。
図1は、PVD装置1の一例を示す模式図である。PVD装置1は、試料4を蒸発させるためのチャンバ11と、試料4の蒸気を冷却するための熱交換器6と、捕集フィルタ7が設けられた捕集器12とを備え、熱交換器6を介して、チャンバ11と捕集器12とが連結されている。チャンバ11の内部には、試料4を支持するために、例えば水冷銅るつぼである試料支持台5が設置されている。また、チャンバ11の内部には、電極2が設置されている。電極2は、その先端が試料支持台5に近接する位置で、トーチ13内に配置されている。トーチ13は、図示しない水冷手段によって水冷されている。
PVD装置1においては、ライン14からチャンバ11に導入されたガスが、熱交換器6および捕集器12を経て、循環ポンプ8に戻り、ガス気流が形成される。ライン14は、トーチ13に接続する分岐ライン14aを有し、ライン14を流れるガスの一部は、分岐ライン14aを経由してトーチ13内に導入され先端から放出される。ライン14の途中には、ガス気流の流量を測定するためのチャンバ用流量計10が設けられ、トーチ13に接続する分岐ライン14aの途中にも、トーチ用流量計9が設けられている。
このような構成において、チャンバ11内でアーク放電を発生させる雰囲気(以下、「アーク雰囲気」ともいう)を所定のガス雰囲気とし、試料支持台5を直流電源(図示せず)の陽極と接続し、電極2を直流電源の陰極と接続して、試料支持台5上の試料4と電極2の先端との間でアーク放電を生じさせ、移行式アーク3を生じさせて、試料支持台5に支持された試料4を強制蒸発させて気相とする。試料4の蒸気は、ガス気流に搬送されて、熱交換器6を経由して、捕集器12に導かれる。この過程において、蒸気は冷却され、原子どうしが互いに凝集し、粉末が得られる。捕集器12においては、捕集フィルタ7に粉末が付着して捕集され、ガスが分離される。
なお、電極2の最先端には、平坦な端面(平坦面)が形成されているのが好ましい。これにより、アーク3は、それほど絞られずに加速が抑制されて、試料融液は対流が減少して温度が上昇し、蒸発量が増加して回収率が向上する。
【0025】
PVD法は、設備の大型化が可能で、安価な電源が利用できる直流アーク放電が有利である。直流アーク放電においては、るつぼ上に試料を置くので、混ぜ合わせた金属どうしの蒸気圧が大きく異なると合金化させることが困難である。このため沸点がニッケルと近い元素を添加するのが好ましい。また、試料蒸気を急冷することで粉末内の合金組成の濃度勾配を抑えることができる。このため、高温部が大きくなってしまう断熱るつぼを用いるのではなく、アーク周囲の一点のみが高温部となる水冷銅るつぼおよび水冷されたプラズマチャンバを用いるのが好ましい。また、水冷銅るつぼと試料融液は凝固した試料を挟んで接しているためるつぼ材が混入しないという点でも好ましい。
【0026】
CVD法は、概略的には、塩化物または炭酸化合物などの原材料を反応させて、金属粉末を製造する方法である。CVD法による金属粉末の製造には、例えば、マイクロリアクタが用いられる。
図2は、マイクロリアクタ31の一例を示す模式図である。マイクロリアクタ31は、小さな空間で化学反応させる実験装置であり、電気炉32と、石英反応管33と、水素ガスノズル34と、キャリア窒素ガスノズル35と、を有する。
まず、試料ボート36に金属塩化物を入れて、石英反応管33内(電気炉32の外側)にセットする。電気炉32により還元温度まで石英反応管33を加熱し、水素ガスノズル34から水素ガス、キャリア窒素ガスノズル35から窒素ガスを流しながら、石英反応管33内にセットされた試料ボート36を電気炉32の内側に押し込み、金属塩化物を気化させ(金属塩化物を気化させる領域を「気化部」ともいう)、水素還元反応させることにより金属粉末を生成させる。
このとき、水素ガスノズル34の先端から電気炉32の出口までが反応部37であり、反応部37の長さをl、反応部37の内径をdとした場合に、l×dの領域で水素還元反応と粒子成長とが行われると考えられる。
なお、生成した金属粉末については、例えば、冷却管(図示せず)内を通過させてフィルタ(図示せず)にて捕集し、回収することができる。原料の金属塩化物として塩化ニッケルを用いる事でニッケル粉末を、塩化ニッケル及び他の金属塩化物を一緒に用いる事でニッケル粉末を作製する事ができる。
【0027】
CVD法による製造の場合、金属塩化物を気化させ、水素により金属に還元させる。一般的に、塩化物は金属に比べ気化しやすいためエネルギー効率がよく、CVD法により安価に粉末を製造できる。しかし、CVD法で粒子径が100〜200nm以下の粉末を得ようとする場合、粒成長をすぐに止めるために、反応場を出た直後の場所で冷やすことになる。したがって、保温している反応場の近くで冷却ガスを吹くことになるため、多量の冷却ガスが必要となり、コストが大きくかさむ。
【0028】
本発明のニッケル粉末は、例えば、積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエーターなどの積層セラミック電子部品の内部電極を形成する材料として、好適に用いることができる。この場合、本発明のニッケル粉末を用いて導電ペーストを作製し、作製した導電ペーストを用いて内部電極を作製すればよい。なお、導電ペーストおよび積層セラミック電子部品の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
<PVD法によるニッケル粉末の製造>
図1のPVD装置1を用いて、ニッケル粉末を製造した。
まず、チャンバ11内を10Pa以下まで真空引きし、アルゴンで満たし0.7気圧となったところで、ニッケルと添加金属とを一緒に溶融させ試料4を作製した。試料支持台5上に試料4をセットし、試料4の質量は合計で60gとなるようにした。その後、トーチ13の先端部に取り付けてある電極2からアーク3を試料4に向かって飛ばし、溶融させた。より均一な試料とするため、溶融させた試料4を裏返して溶融させ、この操作を3回繰り返した。このようにして得られた試料4を用いた。
製造条件は、アーク雰囲気をアルゴンと水素との混合ガス雰囲気として、その体積比(アルゴン/水素)を50/50とした。また、チャンバ11内の圧力を0.7気圧として、試料4に対してアーク放電を行い、アーク電流150A、アーク電圧40Vとなるように調整し、蒸発した金属蒸気を、熱交換器6で十分に冷却した後、捕集器12の捕集フィルタ7で、ニッケル粉末を捕集した。トーチ13の先端の電極2には、3質量%の酸化トリウムを添加したタングステン電極を用いた。トーチ用流量計9で測定されるガス流量を1NL/minとし、チャンバ用流量計10で測定されるキャリアガスの流量を150NL/minとして、ガスを循環ポンプ8で循環させた。
捕集したニッケル粉末は、窒素ガスをベースとしたガスで徐酸化を行った。上記と同じガス流量でガスを循環させ、酸素0.25%で30分、酸素1%で30分、酸素5%で30分、酸素20%で30分の徐酸化を行った。徐酸化を行った後、フィルタ7の内側から外側にガスを噴出させ、フィルタ7に付着した粉末を落とすことで、ニッケル粉末を回収した。
【0031】
<CVD法によるニッケル粉末の製造>
図2のマイクロリアクタ31を用いて、ニッケル粉末を製造した。なお、反応部37の内径dを26mm、反応部37の長さlを130mmとした。
まず、石英反応管33を電気炉32により加熱し、塩化スズを気化させる気化部の温度を800℃、塩化ニッケルを気化させる気化部の温度を1120℃、水素還元反応させる反応部37の温度を1050℃に保ち、キャリア窒素ガスノズル35からの窒素ガスのガス量を6.5NL/minとし、水素ガスノズル34からの水素ガスのガス量を3.0NL/minとし、電気炉32内の温度およびガス量を安定させた。
次に、無水塩化ニッケル40gおよび無水塩化スズを充填させた試料ボート36を電気炉32の外側から内側に押し込み、ニッケル粉末を製造した。このとき、無水塩化スズの量は、実施例1では1.2g、実施例2および3では3.1g、実施例4では5.1gとした。なお、図2のマイクロリアクタ31においては、気化した塩化ニッケルガスおよび塩化スズガスがスムーズに反応部37に送られるようにするため、キャリア窒素ガスが試料ボート36内を通過する構造とした。製造したニッケル粉末については、冷却管(図示せず)内を通過させてフィルタ(図示せず)にて捕集し、回収した。
【0032】
<a軸長>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、15〜20℃の雰囲気で、X線回折装置(D8 ADVANCE、ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて、下記条件でX線回折を行ない、XRDパターンを得た。
・管球:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:150mA
・サンプリング間隔:0.02度
・スキャンスピード:4.0度/min
・開始角度:20度
・終了角度:100度
【0033】
図3は、ニッケル粉末のXRDパターンを示すグラフである。なお、図3のグラフには、得られたニッケル粉末およびニッケル粉末のうちの数例のみを挙げて示している。比較例1〜4および実施例1〜9のニッケル粉末については、XRDパターンのピーク位置の2θの値からsin2θを計算するとその比が3:4:8:11:12となる事からFCC構造の(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面のピークであることを判断した。また、強度の強い(111)面の44度付近のピーク位置からa軸長(単位:Å)を求めた。なお、スズを50質量%含むニッケル粉末については、多数のピークが見られており単相が得られなかった。
図4は、図3のXRDパターンの一部を拡大して示すグラフである。(111)面のピークの2θの角度および測定に用いたX線の波長λから(111)面の面間隔dが2dsinθ=λと求められ、FCC構造のa軸長は(111)面の面間隔の√3倍となる。図4に示すようにスズの添加量が増えるほど2θが低角度側に移るピークシフトが見られるのでスズ添加に伴いa軸長が伸びていくことが分かる。例えばスズ2質量%で3.536Å、スズ5質量%で3.547Å、スズ8質量%で3.560Å、スズ20質量%で3.614Åとなった。
【0034】
<一次粒子径(D50)>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、電子顕微鏡(HITACHI S−4300)を用いて倍率2万倍で撮影されたSEM像から、一次粒子の粒子径を測定し、平均粒子径(D50)を求めた(単位:nm)。
【0035】
<飽和磁化、残留磁化>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、試料振動型磁力計を用いて、飽和磁化および残留磁化を測定した(単位:emu/g)。
【0036】
<二次粒子径(D50)>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、日機装社製のレーザー粒度測定装置(マイクロトラック)を用いて、二次粒子の粒子径を測定し、平均粒子径(D50)を求めた(単位:nm)。
【0037】
<焼結温度>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末の焼結温度(単位:℃)を求めた。具体的には、まず、得られた粉末5gに対して10%PVA水溶液0.25mLを、添加混合し、乾燥した後、0.58gを量り取り、6kNでプレス整形して7mmφのペレットを作製した。次に、作製したペレットを、窒素ガスをベースとした水素0.12%あるいは窒素ガスをベースとした水素3%のガス雰囲気で、10℃/minで昇温させた。これにより、ペレットの体積は徐々に縮んでいく。
図5は、ニッケル粉末の温度と体積変化率との関係を示すグラフである。なお、図5のグラフには、得られたニッケル粉末のうちの数例のみを挙げて示している。
図5に示すように、温度(単位:℃)と体積変化率(単位:%)とをグラフに取り、体積変化が起こる前後の温度領域の接線(図5中には図示せず)を引き、2つの接線が交わる点の温度を、焼結温度として求めた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示す結果から明らかなように、a軸長が3.530Å以上3.600Å未満である実施例1〜7、参考例8、9と、a軸長が3.530Å未満である比較例1〜4とを対比すると、実施例1〜7、参考例8、9は、比較例1〜4よりも、残留磁化を低減でき、二次粒子径が小さくなる傾向が見られた。なお、ジルコニウムは全試料で検出下限の10ppm未満であった。
また、実施例1〜7、参考例8、9は、比較例1〜4よりも、焼結温度が高くなることが分かった。
なお、PVD法によってスズ20質量%を添加したニッケル粉末を作製した所、軸長が3.600Åを超えても「準安定状態」の単相の粉末を得る事ができた。しかし、熱履歴を受けた後の試料のスズの分布をエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて観察した所、スズの濃い領域と薄い領域の2相に分かれていた。電極ペーストを焼成する際にも同様な熱履歴がかかるので好ましくない。なお、軸長が3.600Å以下の試料では焼結温度の測定の熱履歴で2相に分かれた試料は無かった。
【0040】
ニッケル粉末の焼成時の水素濃度の焼結温度に与える影響を調べるために以下のような調査も行った。一次粒子径のD50が220nmの硫黄を0.2%添加したニッケル粉末(比較例5)と一次粒子径のD50が230nmのスズ5質量%添加したニッケル粉末(実施例10)を作製し、焼結温度を比較した。スズ無添加のニッケル粉末の場合は水素0.12%雰囲気での焼結温度は480℃であったのに対して水素を3%まで増加させると焼結温度は310℃と低下した。スズを添加したニッケル粉末の場合は水素0.12%雰囲気での焼結温度は550℃であったのに対して水素3%雰囲気での焼結温度は540℃とあまり変化しなかった。

次に、実施例6のニッケル粉末を用いて、水素濃度を変えて、焼結温度を測定した。具体的には、上記と同様にして、ペレットを作製して焼結温度を求めたが、このとき、窒素ガスをベースとしたガス雰囲気の水素を0.12%または3%として、焼結温度を求めた。結果を図6に示す。
図6は、実施例6のニッケル粉末末の温度と体積変化率との関係を示すグラフである。図6のグラフに示すように、実施例6のニッケル粉末においては、水素濃度を0.12%から3%に上げても焼結温度は変化せず、高い水素濃度でも焼結温度の低下が抑制できることが分かった。
【0041】
次に、比較例1のニッケル粉末および実施例2のニッケル粉末について、インピーダンスの周波数依存性を調べた。具体的には、比較例1で得られた粉末を分級したニッケル粉末、または、実施例2で得られた未分級のニッケル粉末40gに対して、分散剤(KD−12、クローダ・ジャパン社製)1.44g、バインダ(TE−45、ヤスハラケミカル社製)31.25g、および、溶剤(ターピネオールC)27.31gを配合し、導電ペーストを得た。次に、得られた導電ペーストを、ガラス基板上に塗布した後、650℃で10分焼成することにより、10μm厚の膜状の試料を作製した。作製した試料について、インピーダンス測定器を用いてインピーダンス(単位:Ω)を測定し、周波数(単位:kHz)との関係をプロットしてグラフ化した。
図7は、ニッケル粉末の周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフであり、(A)は比較例1、(B)は実施例2である。図7のグラフに示すように、スズを添加した実施例2のニッケル粉末においては、比較例1と比べて、インピーダンスは増加しているものの、周波数が増加してもインピーダンスの増加量は小さく、高周波領域でも低インピーダンスで使うことができることが分かった。
【0042】
次に、比較例1のニッケル粉末および実施例2のニッケル粉末を用いて得られた上記導電ペーストを用いて、積層セラミックコンデンサを作製し、積層評価を行った。積層条件として、誘電体は0.2μmのBT粉を用いたX5R特性材とし、シート厚さ3μm、形状は3225タイプで積層数は5層、焼成温度1220℃、水素0.9%、Wetter35℃とした。
作製した積層セラミックコンデンサについて、LCRメーターを用いて誘電損失(DF、単位:%)を測定し、絶縁抵抗計を用いて絶縁抵抗(単位:×1010Ω)を測定した。なお、各例ともにコンデンサを5個作製し、5個の測定結果を求めた。結果を下記第2表に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、実施例2の誘電損失(DF)は、比較例1の約3.3%から、約3.1%に低減できたことが分かった。また、実施例2の絶縁抵抗の値は比較例1と比べて安定していることが分かった。これにより、コンデンサの歩留まりや性能を安定させることができる。
高周波でのインピーダンスの上昇幅が小さいこと(図7参照)、DFが小さいことの2点により、コンデンサとした際に、高周波での発熱ロスが抑えられ、使用できる周波数の上限を広げることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 PVD装置
2 電極
3 アーク
4 試料
5 試料支持台
6 熱交換器
7 捕集用フィルタ
8 循環ポンプ
9 トーチ用流量計
10 チャンバ用流量計
11 チャンバ
12 捕集器
13 トーチ
14 ライン
14a 分岐ライン
15 ライン
31 マイクロリアクタ
32 電気炉
33 石英反応管
34 水素ガスノズル
35 キャリア窒素ガスノズル
36 試料ボート
37 反応部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7