【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
<PVD法によるニッケル粉末の製造>
図1のPVD装置1を用いて、ニッケル粉末を製造した。
まず、チャンバ11内を10Pa以下まで真空引きし、アルゴンで満たし0.7気圧となったところで、ニッケルと添加金属とを一緒に溶融させ試料4を作製した。試料支持台5上に試料4をセットし、試料4の質量は合計で60gとなるようにした。その後、トーチ13の先端部に取り付けてある電極2からアーク3を試料4に向かって飛ばし、溶融させた。より均一な試料とするため、溶融させた試料4を裏返して溶融させ、この操作を3回繰り返した。このようにして得られた試料4を用いた。
製造条件は、アーク雰囲気をアルゴンと水素との混合ガス雰囲気として、その体積比(アルゴン/水素)を50/50とした。また、チャンバ11内の圧力を0.7気圧として、試料4に対してアーク放電を行い、アーク電流150A、アーク電圧40Vとなるように調整し、蒸発した金属蒸気を、熱交換器6で十分に冷却した後、捕集器12の捕集フィルタ7で、ニッケル粉末を捕集した。トーチ13の先端の電極2には、3質量%の酸化トリウムを添加したタングステン電極を用いた。トーチ用流量計9で測定されるガス流量を1NL/minとし、チャンバ用流量計10で測定されるキャリアガスの流量を150NL/minとして、ガスを循環ポンプ8で循環させた。
捕集したニッケル粉末は、窒素ガスをベースとしたガスで徐酸化を行った。上記と同じガス流量でガスを循環させ、酸素0.25%で30分、酸素1%で30分、酸素5%で30分、酸素20%で30分の徐酸化を行った。徐酸化を行った後、フィルタ7の内側から外側にガスを噴出させ、フィルタ7に付着した粉末を落とすことで、ニッケル粉末を回収した。
【0031】
<CVD法によるニッケル粉末の製造>
図2のマイクロリアクタ31を用いて、ニッケル粉末を製造した。なお、反応部37の内径dを26mm、反応部37の長さlを130mmとした。
まず、石英反応管33を電気炉32により加熱し、塩化スズを気化させる気化部の温度を800℃、塩化ニッケルを気化させる気化部の温度を1120℃、水素還元反応させる反応部37の温度を1050℃に保ち、キャリア窒素ガスノズル35からの窒素ガスのガス量を6.5NL/minとし、水素ガスノズル34からの水素ガスのガス量を3.0NL/minとし、電気炉32内の温度およびガス量を安定させた。
次に、無水塩化ニッケル40gおよび無水塩化スズを充填させた試料ボート36を電気炉32の外側から内側に押し込み、ニッケル粉末を製造した。このとき、無水塩化スズの量は、実施例1では1.2g、実施例2および3では3.1g、実施例4では5.1gとした。なお、
図2のマイクロリアクタ31においては、気化した塩化ニッケルガスおよび塩化スズガスがスムーズに反応部37に送られるようにするため、キャリア窒素ガスが試料ボート36内を通過する構造とした。製造したニッケル粉末については、冷却管(図示せず)内を通過させてフィルタ(図示せず)にて捕集し、回収した。
【0032】
<a軸長>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、15〜20℃の雰囲気で、X線回折装置(D8 ADVANCE、ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて、下記条件でX線回折を行ない、XRDパターンを得た。
・管球:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:150mA
・サンプリング間隔:0.02度
・スキャンスピード:4.0度/min
・開始角度:20度
・終了角度:100度
【0033】
図3は、ニッケル粉末のXRDパターンを示すグラフである。なお、
図3のグラフには、得られたニッケル粉末およびニッケル粉末のうちの数例のみを挙げて示している。比較例1〜4および実施例1〜9のニッケル粉末については、XRDパターンのピーク位置の2θの値からsin
2θを計算するとその比が3:4:8:11:12となる事からFCC構造の(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面のピークであることを判断した。また、強度の強い(111)面の44度付近のピーク位置からa軸長(単位:Å)を求めた。なお、スズを50質量%含むニッケル粉末については、多数のピークが見られており単相が得られなかった。
図4は、
図3のXRDパターンの一部を拡大して示すグラフである。(111)面のピークの2θの角度および測定に用いたX線の波長λから(111)面の面間隔dが2dsinθ=λと求められ、FCC構造のa軸長は(111)面の面間隔の√3倍となる。
図4に示すようにスズの添加量が増えるほど2θが低角度側に移るピークシフトが見られるのでスズ添加に伴いa軸長が伸びていくことが分かる。例えばスズ2質量%で3.536Å、スズ5質量%で3.547Å、スズ8質量%で3.560Å、スズ20質量%で3.614Åとなった。
【0034】
<一次粒子径(D50)>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、電子顕微鏡(HITACHI S−4300)を用いて倍率2万倍で撮影されたSEM像から、一次粒子の粒子径を測定し、平均粒子径(D50)を求めた(単位:nm)。
【0035】
<飽和磁化、残留磁化>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、試料振動型磁力計を用いて、飽和磁化および残留磁化を測定した(単位:emu/g)。
【0036】
<二次粒子径(D50)>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末について、日機装社製のレーザー粒度測定装置(マイクロトラック)を用いて、二次粒子の粒子径を測定し、平均粒子径(D50)を求めた(単位:nm)。
【0037】
<焼結温度>
得られたニッケル粉末およびニッケル粉末の焼結温度(単位:℃)を求めた。具体的には、まず、得られた粉末5gに対して10%PVA水溶液0.25mLを、添加混合し、乾燥した後、0.58gを量り取り、6kNでプレス整形して7mmφのペレットを作製した。次に、作製したペレットを、窒素ガスをベースとした水素0.12%あるいは窒素ガスをベースとした水素3%のガス雰囲気で、10℃/minで昇温させた。これにより、ペレットの体積は徐々に縮んでいく。
図5は、ニッケル粉末の温度と体積変化率との関係を示すグラフである。なお、
図5のグラフには、得られたニッケル粉末のうちの数例のみを挙げて示している。
図5に示すように、温度(単位:℃)と体積変化率(単位:%)とをグラフに取り、体積変化が起こる前後の温度領域の接線(
図5中には図示せず)を引き、2つの接線が交わる点の温度を、焼結温度として求めた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示す結果から明らかなように、a軸長が3.530Å以上3.600Å未満である実施例1〜
7、参考例8、9と、a軸長が3.530Å未満である比較例1〜4とを対比すると、実施例1〜
7、参考例8、9は、比較例1〜4よりも、残留磁化を低減でき、二次粒子径が小さくなる傾向が見られた。なお、ジルコニウムは全試料で検出下限の10ppm未満であった。
また、実施例1〜
7、参考例8、9は、比較例1〜4よりも、焼結温度が高くなることが分かった。
なお、PVD法によってスズ20質量%を添加したニッケル粉末を作製した所、軸長が3.600Åを超えても「準安定状態」の単相の粉末を得る事ができた。しかし、熱履歴を受けた後の試料のスズの分布をエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて観察した所、スズの濃い領域と薄い領域の2相に分かれていた。電極ペーストを焼成する際にも同様な熱履歴がかかるので好ましくない。なお、軸長が3.600Å以下の試料では焼結温度の測定の熱履歴で2相に分かれた試料は無かった。
【0040】
ニッケル粉末の焼成時の水素濃度の焼結温度に与える影響を調べるために以下のような調査も行った。一次粒子径のD50が220nmの硫黄を0.2%添加したニッケル粉末(比較例5)と一次粒子径のD50が230nmのスズ5質量%添加したニッケル粉末(実施例10)を作製し、焼結温度を比較した。スズ無添加のニッケル粉末の場合は水素0.12%雰囲気での焼結温度は480℃であったのに対して水素を3%まで増加させると焼結温度は310℃と低下した。スズを添加したニッケル粉末の場合は水素0.12%雰囲気での焼結温度は550℃であったのに対して水素3%雰囲気での焼結温度は540℃とあまり変化しなかった。
次に、実施例6のニッケル粉末を用いて、水素濃度を変えて、焼結温度を測定した。具体的には、上記と同様にして、ペレットを作製して焼結温度を求めたが、このとき、窒素ガスをベースとしたガス雰囲気の水素を0.12%または3%として、焼結温度を求めた。結果を
図6に示す。
図6は、実施例6のニッケル粉末末の温度と体積変化率との関係を示すグラフである。
図6のグラフに示すように、実施例6のニッケル粉末においては、水素濃度を0.12%から3%に上げても焼結温度は変化せず、高い水素濃度でも焼結温度の低下が抑制できることが分かった。
【0041】
次に、比較例1のニッケル粉末および実施例2のニッケル粉末について、インピーダンスの周波数依存性を調べた。具体的には、比較例1で得られた粉末を分級したニッケル粉末、または、実施例2で得られた未分級のニッケル粉末40gに対して、分散剤(KD−12、クローダ・ジャパン社製)1.44g、バインダ(TE−45、ヤスハラケミカル社製)31.25g、および、溶剤(ターピネオールC)27.31gを配合し、導電ペーストを得た。次に、得られた導電ペーストを、ガラス基板上に塗布した後、650℃で10分焼成することにより、10μm厚の膜状の試料を作製した。作製した試料について、インピーダンス測定器を用いてインピーダンス(単位:Ω)を測定し、周波数(単位:kHz)との関係をプロットしてグラフ化した。
図7は、ニッケル粉末の周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフであり、(A)は比較例1、(B)は実施例2である。
図7のグラフに示すように、スズを添加した実施例2のニッケル粉末においては、比較例1と比べて、インピーダンスは増加しているものの、周波数が増加してもインピーダンスの増加量は小さく、高周波領域でも低インピーダンスで使うことができることが分かった。
【0042】
次に、比較例1のニッケル粉末および実施例2のニッケル粉末を用いて得られた上記導電ペーストを用いて、積層セラミックコンデンサを作製し、積層評価を行った。積層条件として、誘電体は0.2μmのBT粉を用いたX5R特性材とし、シート厚さ3μm、形状は3225タイプで積層数は5層、焼成温度1220℃、水素0.9%、Wetter35℃とした。
作製した積層セラミックコンデンサについて、LCRメーターを用いて誘電損失(DF、単位:%)を測定し、絶縁抵抗計を用いて絶縁抵抗(単位:×10
10Ω)を測定した。なお、各例ともにコンデンサを5個作製し、5個の測定結果を求めた。結果を下記第2表に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、実施例2の誘電損失(DF)は、比較例1の約3.3%から、約3.1%に低減できたことが分かった。また、実施例2の絶縁抵抗の値は比較例1と比べて安定していることが分かった。これにより、コンデンサの歩留まりや性能を安定させることができる。
高周波でのインピーダンスの上昇幅が小さいこと(
図7参照)、DFが小さいことの2点により、コンデンサとした際に、高周波での発熱ロスが抑えられ、使用できる周波数の上限を広げることができる。