【実施例1】
【0057】
<補正倍率設定支援画面>
補正倍率設定支援機能の実施例1として、
図8に補正倍率設定支援画面400を示す。補正倍率設定支援画面400は、グラフ表示部410、加工時状態データ抽出部430、加工時状態データ入力/表示部450および補正倍率調整操作部470から構成される。
【0058】
グラフ表示部410は、上段に表示される加工寸法グラフ表示部412および下段に表示される温度グラフ表示部421から構成される。
加工時状態データ抽出部430は、データ抽出モードスイッチ432、選択データ誘導入力部433、補正軸変更/表示部435および工具番号変更/表示部437から構成される。
補正倍率調整操作部470は、補正倍率増減スイッチ472、最適補正倍率算出スイッチ474、補正倍率表示部476および補正倍率決定スイッチ478から構成される。
【0059】
次に、各構成部の機能について説明する。
加工時状態データ抽出部430を操作することにより、長期間に亘って蓄積された多数の加工時状態データ250の中から、補正倍率設定支援画面400にグラフ表示する加工時状態データセット251が抽出される。
【0060】
データ抽出モードスイッチ432を操作すると、選択データ誘導入力部433のワークNo.の列に、すべての加工時状態データ250に記録されている全ワーク番号が番号順に表示される。その他の列はすべて空欄となる。
【0061】
表示されたワーク番号WNOの中から特定のワーク番号を、画面上をタッチ等して指定することにより、指定されたワーク番号を有する加工時状態データ250のみが抽出される。そして、抽出された加工時状態データ250に存在する補正軸CAxと工具番号TNOの組合せが、選択データ誘導入力部433の補正軸と工具No.の列に表示される。
【0062】
表示された補正軸CAxと工具番号TNOの組合せの中から特定の組合せを、画面上をタッチ等して指定することにより、前記ワーク番号WNO、前記補正軸CAxおよび前記工具番号TNOのすべてを含む加工時状態データ250のみが抽出される。
【0063】
そして、抽出したデータを加工日DATE、加工時刻TIME順に並べ替える。並べ替えたデータに関しその前後のデータの加工時刻の差が所定の時間間隔未満のデータは、連続してその加工を行ったとする。また、その前後のデータの加工時刻の差が所定の時間間隔以上のデータは、その前後で連続加工が途切れたとして、複数の連続加工データ群に分割される。
【0064】
分割されたそれぞれの連続加工データ群について、先頭のデータの加工日DATEを加工開始日、最後のデータの加工日DATEを加工終了日として、選択データ誘導入力部433の開始日と終了日の列に一覧表示する。
表示された中から特定の開始日を、画面上をタッチ等して指定することにより、グラフ表示を行う加工時状態データセット251が確定される。
【0065】
補正軸変更/表示部435は、補正倍率の設定変更を行う対象の軸を変更し表示する機能を有する。
前述した選択データ誘導入力部433の操作により加工時状態データセット251が抽出されている場合は、抽出された加工時状態データセット251の補正軸CAxを表示している。この状態時に、変更スイッチを操作して補正軸を変更した場合は、上記で設定されたワーク番号WNOと工具番号TNOを有し、且つ変更された補正軸CAxを有するデータの直近の時刻を有する加工時状態データ250が、加工時状態データセット251として抽出される。
【0066】
また、新しい加工時状態データセット251が抽出された場合は、抽出条件のワーク番号WNO、補正軸CAxおよび工具番号TNOをすべて有する加工時状態データ250が抽出される。そして、加工日DATE、加工時刻TIME順に並び変えられ、加工開始日と加工終了日が加工時状態データ抽出部430に一覧表示され、最新の加工開始日を選択したマークが付された状態で表示される。
なお、設定されたワーク番号WNOと工具番号TNOを有し、且つ変更された補正軸CAxを有する加工時状態データ250がなかった場合は、アラームを表示するなどして、加工時状態データセット251の変更は行われない。ただし、変更された補正軸はそのまま表示され、次に説明する工具番号の変更時には、変更された補正軸と新しい工具番号で加工時状態データ250が抽出される。
【0067】
工具番号変更/表示部437は、補正倍率の設定変更を行う対象の工具番号TNOを変更し表示する機能を有する。
前述した選択データ誘導入力部433の操作により加工時状態データセット251が抽出されている場合は、抽出された加工時状態データセット251の工具番号TNOを表示している。この状態時に、変更スイッチを操作して工具番号を変更した場合は、上記で設定されたワーク番号WNOと補正軸CAxを有し、且つ変更された工具番号TNOを有するデータの直近の時刻を有する加工時状態データ250が、加工時状態データセット251として抽出される。
なお、設定されたワーク番号WNOと補正軸CAxを有し、且つ変更された工具番号TNOを有する加工時状態データ250がなかった場合は、アラームを表示するなどして、加工時状態データセット251の変更は行われない。
【0068】
加工時状態データセット251が抽出されると、抽出された加工時状態データセット251の実績加工寸法MSzと加工時刻TIMEに基づいて加工寸法のグラフが表示される。加工寸法のグラフ表示に関しては、後述する。
また、補正倍率設定支援画面400へ画面が切り替わる時には、前回抽出されていた加工時状態データセット251が保持されており、前に表示されていた加工時状態データセット251にて画面が表示される。
【0069】
加工時状態データ入力/表示部450により、抽出された加工時状態データセット251のデータが表示される。なお、加工寸法の欄にのみ、カーソルが移動可能であり、手動による数値入力が可能である。加工後にワークの寸法を計測した作業者は、この加工時状態データ入力/表示部450を用いて、加工時状態データ250の実績加工寸法MSzを入力することができる。加工寸法は、必ずしもすべての加工ワークを計測するものではなく、加工寸法のばらつきの傾向に応じて、毎回計測する場合もあれば、5回に1回とか、10分に1回とか、の頻度を決めて計測する場合もある。従って、実績加工寸法MSzは空欄のこともある。また、自動計測の場合は、加工完了時には実績加工寸法MSzは入力済みである。
【0070】
補正倍率調整操作部470の補正倍率増減スイッチ472は、補正倍率を0.1単位で増加または減少させるためのスイッチである。補正倍率表示部476には、補正倍率設定支援画面400に切り替えたときには、補正倍率Bが表示されており、補正倍率増減スイッチ472を操作することで補正倍率を変更することができる。
ただし、補正倍率変更後、補正倍率決定スイッチ478が押されるまでは、変更した補正倍率は実際の熱変位量の推定演算には用いられないため、補正倍率表示部476に点滅表示することにより、暫定的な補正倍率であることを明示している。この状態の補正倍率を「仮補正倍率B’」と称す。仮補正倍率B’は、後述する加工寸法グラフ表示部412に調整後加工寸法グラフ414を表示させるときの計算に用いられる。
なお、補正倍率増減スイッチ472により補正倍率を増減したり、最適補正倍率を算出する際に丸めたりするときの単位を0.1で説明したが、0.1に限定するものではない。パラメータ等で設定することにより、増減の単位を自由に設定することも可能である。
【0071】
また、補正倍率調整操作部470の最適補正倍率算出スイッチ474を操作することにより、最適な補正倍率が演算され、0.1単位で丸めた倍率が補正倍率表示部476に点滅表示される。すなわち、最適補正倍率算出スイッチ474を操作して演算された補正倍率は、仮補正倍率B’として設定され、加工寸法グラフ表示部412に調整後加工寸法グラフ414を表示させる。補正倍率決定スイッチ478を操作する前は、補正倍率増減スイッチ472による手動での調整も可能である。最適補正倍率の算出処理の詳細に関しては後述する。
【0072】
加工寸法グラフ表示部412には、抽出された加工時状態データセット251に基づき、加工寸法が時間の推移に伴って変化する様子がグラフ表示される。実線の調整前加工寸法グラフ413は、前記操作により抽出された加工時状態データセット251の実績加工寸法MSzに基づいて表示される。破線の調整後加工寸法グラフ414は、仮補正倍率B’を調整することで調整前加工寸法グラフ413の近傍で上下移動する形態で表示される。加工寸法グラフの表示処理に関しては後述する。
【0073】
温度グラフ表示部421には、工作機械に備えられたすべての温度センサ81〜90の測定温度値が時間の推移に伴って変化する様子が、上記の加工寸法グラフと同一の時間軸でグラフ表示される。なお、すべての温度センサ81〜90の測定温度値は、所定時間ごとに時刻とともに関連付けて記録されている。
【0074】
このグラフ表示により、異常な温度推移を示す温度センサを発見することができ、補正倍率の調整以前に対処を行うことが可能となる。例えば、環境温度系熱変位量の推定は、工作機械を構成する部材の特定個所が、外部要因によって熱を与えられたり、奪われたりすることを想定してはいない。そのため、空調機器や隣接する機械のブロアの風が工作機械の特定箇所に直接当たると、補正倍率で補正できないような熱変位が発生する場合がある。温度グラフ表示部421は、この様な事態を容易に発見することに有効であるため、補正倍率による本補正機能を運用する上で、重要な支援機能といえる。
【0075】
<加工寸法グラフ表示処理>
図9は、補正倍率設定支援画面400において加工寸法グラフを表示する処理を説明するための図である。ここで、補正軸CAxはX軸、目標加工寸法TSzはφ22.0mmであるところ、表中では省略している。
【0076】
まず、
図9の表中のデータについて説明する。
TIMEは、加工時刻である。
MSzは、加工時状態データセット251中の実績加工寸法である。
図9で実線で示すグラフMSzは、横軸に加工時刻をとり、実績加工寸法の時間変化を表現したものである。
A$WVは、加工時状態データセット251中の工具摩耗補正量である。
【0077】
T1、T2、T3およびT4は、加工機械の各部に備えられた温度センサの計測温度値である。ここでの説明は、温度センサが4個備えられた例で説明する。
X2は、MSzに対して同一時刻に有効であった工具摩耗補正量A$WVを考慮して、その工具摩耗補正量A$WVによる補正がなかった場合の加工寸法の計算値(以後、「工具摩耗補正なし計算上加工寸法」という)である。具体的には、X2=MSz−A$WVで計算される。
【0078】
S1は、加工時に適用された環境温度系熱変位補正量(以後、「適用済み熱変位補正量」という)である。補正軸CAxがX軸であるので、加工時状態データセット251中の環境温度系熱変位補正量A$HCXデータである。具体的には、S1=A$HCXである。
X4は、工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2に対して、更に同一時刻の適用済み熱変位補正量S1を考慮して、その熱変位補正がなかった場合の加工寸法の計算値である。すなわち、工具摩耗補正も環境温度系熱変位補正も行わなかった場合の加工寸法の計算値である。以後、X4を「工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法」という。具体的には、X4=X2−S1で計算される。
【0079】
図9のグラフに示した矢印S1は、その時刻における適用済み熱変位補正量である。工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4を適用済み熱変位補正量S1で熱変位補正を行うことで、工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2が得られることを示している。つまり、グラフX2は、熱変位補正を適用した状態で目標加工寸法TSzに位置決めしたときの、実際に位置決めされた刃先位置の座標値と言い換えることができる。すなわち、目標位置とのズレであり、熱変位補正を適用しているにも係らず補正しきれていない変位量がグラフX2として表れているのである。従って、この工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2は、環境温度系熱変位補正の時間的推移の一例と言える。
【0080】
一方、時刻11:55における工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4の値(21.951)から目標加工寸法TSzの値(22.000)を減じて、符号を反転させると、時刻11:55における理想的な熱変位補正量(0.049)が得られる。この値を時刻11:55における適用済み熱変位補正量S1(0.030)の値で除すると、1.63が得られる。これは、補正倍率を1.63倍にすることにより、工具摩耗補正を行わなくともほぼ目標の加工寸法が得られることを示している。仮補正倍率B’は、手動設定時には0.1単位であるため、ここでは1.6に丸める。この結果の値が前述した最適補正倍率算出値である。
【0081】
S2は、適用済み熱変位補正量S1を仮補正倍率B’である1.6で乗算したものである。以後、S2を「仮補正倍率調整後熱変位補正量」という。
X3は、工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4を仮補正倍率調整後熱変位補正量S2で補正することにより求められる。すなわち、X3は、調整後の仮補正倍率を適用した場合の計算上の加工寸法である。以後、X3を「仮補正倍率調整後計算上加工寸法」という。
【0082】
図8の補正倍率設定支援画面400の加工寸法グラフ表示部412は、上記で説明した工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2と仮補正倍率調整後計算上加工寸法X3を表示する。工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2は、調整前加工寸法グラフ413であり、実線でグラフ表示される。また、仮補正倍率調整後計算上加工寸法X3は、調整後加工寸法グラフ414であり、点線でグラフ表示される。
【0083】
以上、仮補正倍率B’を自動計算した場合を説明したが、仮補正倍率B’を手動で設定する場合も同様である。すなわち、加工寸法グラフ表示する対象の加工時状態データセット251を抽出した直後は、調整前加工寸法グラフ413のみが表示されている。ここで、仮補正倍率B’を大きくすることにより、調整前加工寸法グラフ413の上側に調整後加工寸法グラフ414が表示される。仮補正倍率B’を大きくすればするほど、グラフを上に移動させることができる。逆に、仮補正倍率B’を小さくすることにより、調整前加工寸法グラフ413の下側に調整後加工寸法グラフ414が表示される。仮補正倍率B’を小さくすればするほど、グラフを下に移動させることができる。このように操作することで、調整後加工寸法グラフ414を目標加工寸法TSz近傍で推移する位置に移動させて、補正倍率を決定すればよいことになる。
【0084】
以上のようにして、調整後加工寸法グラフ414を上下に移動させた結果、調整後加工寸法グラフ414が目標加工寸法TSz近傍で推移しているか否かを視認することができる。すなわち、補正倍率による補正の効果が目で見える形に表現され、作業者は自信を持って補正倍率を決定することができる。
【0085】
図10は、加工寸法グラフ表示処理の手順を説明するフローチャートである。このフローチャートを
図9に示されたデータに基づいて説明する。
補正倍率設定支援画面400において、表示すべき加工時状態データセット251が抽出されると、この処理が開始される。以下の各ステップにおける演算処理部分は、システムプログラムメモリ121に格納されている所定のプログラムを用いてCPU100により実行される。
【0086】
ステップS10において、CPU100は、加工時状態データセット251の実績加工寸法MSzと工具摩耗補正量A$WVから工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2を計算する。すなわち、X2=MSz−A$WVの計算を行う。
【0087】
次にステップS20において、CPU100は、工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2から工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4を計算する。工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4は、加工時に有効であった環境温度系熱変位補正量A$HCX、A$HCYおよびA$HCZによる環境温度系熱変位補正を行わなかった場合の加工寸法であり、前述したように、X4=X2−S1である。
図9のデータの場合、補正軸CAxがX軸であるので、S1=A$HCXである。工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4は、後述する最適補正倍率算出処理や、手動設定時のグラフ表示に使用するため、予めこの時点で計算をしておく。
【0088】
最後にステップS30において、グラフ表示プログラムにより工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2がグラフ表示される。このグラフが、
図8の調整前加工寸法グラフ413である。ただし、工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4に関しては、グラフ表示はしない。
【0089】
図11は、最適補正倍率算出処理の手順を説明するフローチャートである。
表示すべき加工時状態データセット251が抽出されて調整前加工寸法グラフ413が表示されている状態で、作業者が最適補正倍率算出スイッチ474を操作すると、この処理が開始される。以下の各ステップにおける演算処理部分は、システムプログラムメモリ121に格納されている所定のプログラムを用いてCPU100により実行される。
【0090】
ステップS100において、CPU100は、仮補正倍率B’を計算する。すなわち、加工寸法グラフが表示されている最新時刻において、
図10の処理中に計算済みとなった工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4の値と、目標加工寸法TSzの値との差(TSz−X4)をまず計算する。次に、CPU100は、その最新時刻において有効であった環境温度系熱変位補正量A$HCX(すなわち、S1)をその時刻において有効であった補正倍率A$Bで除した値(すなわち補正倍率1に換算した計算上熱変位補正量)で除して、0.1単位で丸めることにより、自動計算の仮補正倍率B’を得る。適用済み熱変位補正量S1を用いて表わすと、B’=ROUND((TSz−X4)/(S1/A$B)、1)となる。前記最適補正倍率を算出する計算処理が、最適補正倍率算出部である。工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4は、工具摩耗補正も熱変位補正もしていない場合の加工寸法であるので、目標加工寸法との差を熱変位補正量とすれば、工具摩耗補正を行わないでも目標加工寸法になるはずである。
仮補正倍率B’を決定した後に、ステップS110において、CPU100は、適用済み熱変位補正量S1を適用済み補正倍率A$Bで除算した値(すなわち補正倍率1に換算した計算上熱変位補正量)に仮補正倍率B’を乗算して、仮補正倍率を適用した環境温度系熱変位補正量S2を計算する。
なお、
図9で加工寸法グラフ表示処理を説明するときは、分かり易くするために適用済み熱変位補正量は補正倍率が1であることを前提に説明したが、一度補正倍率を調整した後に加工を行って得た加工時状態データ250を用いて調整することもあるため、上記の適用済み補正倍率A$Bで除算する処理が付け加わる。
【0091】
ステップS120において、CPU100は、工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4に仮補正倍率を適用した環境温度系熱変位補正量S2を加算してX3を計算する。X3は、仮補正倍率を適用した場合の計算上加工寸法となる。
【0092】
ステップS130において、グラフ表示プログラムによりこのX3がグラフ表示される。このグラフが、
図8の調整後加工寸法グラフ414である。
【0093】
ステップS140において、作業者は、このグラフ表示を見て、加工精度が向上したか否かを判断する。作業者が加工精度が向上したと判断した場合(OK)には、ステップS150において、作業者は補正倍率決定スイッチ478を操作してこの仮補正倍率B’を補正倍率Bに決定する。その後の熱変位補正は、決定された補正倍率Bを用いて計算され、環境温度系熱変位補正制御が行われることになる。
ステップS140において、作業者が調整後加工寸法グラフ414の加工精度に満足できない場合(NG)には、ステップS160に移り、後述する手動設定処理が実行されることになる。
【0094】
図12は、補正倍率を手動操作で設定する手動設定処理手順を説明するフローチャートである。この処理は、補正倍率設定支援画面400の補正倍率調整操作部470を操作すると実行される処理である。
図11の最適補正倍率算出処理におけるステップS160においては、自動計算された補正倍率に満足できなかったときに実行され、すなわち補正倍率調整操作部470を用いて自動計算された補正倍率を手動で変更する場合である。
【0095】
補正倍率を増減する前は、前述したように
図10の加工寸法グラフ表示処理により、加工寸法グラフ表示部412には、実線の調整前加工寸法グラフ413のみが表示されている。工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4については、グラフ表示はしないが計算は行われている。工具摩耗補正なし計算上加工寸法X2は、工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4に適用済み熱変位補正量S1を加算した値である。以下の各ステップにおける演算処理部分は、システムプログラムメモリ121に格納されている所定のプログラムを用いてCPU100により実行される。
【0096】
ステップS210において、作業者が補正倍率増減スイッチ472を操作することにより、仮補正倍率B’を手動変更する。
【0097】
ステップS220において、CPU100は、適用済み熱変位補正量S1を適用済み補正倍率A$Bで除算して得た値に、変更された仮補正倍率B’を乗算して、仮補正倍率を適用した環境温度系熱変位補正量S2を計算する。
【0098】
ステップS230において、CPU100は、工具摩耗補正&熱変位補正なし計算上加工寸法X4に仮補正倍率を適用した環境温度系熱変位補正量S2を加算して、仮補正倍率を適用した場合の計算上加工寸法X3を計算する。
【0099】
ステップS240において、グラフ表示プログラムにより仮補正倍率を適用した場合の計算上加工寸法X3がグラフ表示される。これが、
図8の調整後加工寸法グラフ414である。
【0100】
ステップS250において、作業者が、調整後加工寸法グラフ414が採用可能か否かを判断する。作業者が採用不可(NG)と判断した場合には、ステップS210に戻って、作業者は仮補正倍率B’の再調整を行う。
作業者が採用可(OK)と判断した場合には、ステップS260に進み、作業者は補正倍率決定スイッチ478を操作する。これにより、仮補正倍率B’が補正倍率Bに設定され、その後の補正倍率Bが決定される。
【0101】
ここで、補正倍率増減スイッチ472の操作により仮補正倍率を増加した場合、適用済み熱変位補正量S1に補正倍率が乗算されるので、調整後加工寸法グラフ414の点線表示が、実線表示の調整前加工寸法グラフ413の上側に表れてくる。作業者は、補正倍率増減スイッチ472を操作して点線表示の調整後加工寸法グラフ414を上下させて、目標寸法に最も近づいて良好な補正倍率を決めて補正倍率決定スイッチ478を操作し、補正倍率を決定することができる。
【0102】
以上で説明したように、作業者は、補正倍率を調整することによって、調整後加工寸法グラフを目標寸法に近づけることができる。作業者にとってこの違和感のない作業が、環境温度系熱変位補正の補正量を是正することになる。したがって、従来作業者が熱変位補正に対して正確に補正されていないと感じていながらも補正することができなかったという問題点を解消することができる。
【0103】
しかも、作業者が加工寸法を計測する目的は、公差の指定があり精度を確保するためである。作業者による寸法計測値を環境温度系熱変位補正量の計算に活用することで、最も精度が必要な位置における熱変位量を計測したことになり、高精度な環境温度系熱変位補正を行うことが可能となる。
さらに、加工精度を保つために行う加工後の寸法計測は、作業者にとっては通常業務に過ぎない。その結果、作業者に新たな負担をかけることなく、環境温度系熱変位補正を高精度に調整できることになる。
【0104】
また、最適補正倍率算出機能を使用すれば、自動的に調整後加工寸法が目標値近傍となる最適補正倍率が計算される。このため、経験の浅い作業者にとっても環境温度系熱変位補正量の是正を容易に行うことが可能となる。