(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る新規ペプチド及び当該ペプチドの利用について詳細に説明する。
新規ペプチド
本発明に係る新規なペプチドは、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチドである。本発明に係る新規なペプチドは、糖化残査成分に対する吸着能を有しており、糖化残査成分の存在下で糖化酵素による糖化率を向上する機能を有している。ここで糖化残査成分とは、詳細を後述するセルロース系バイオマスを糖化酵素により糖化処理したときに、糖化酵素により加水分解されず残査として残った成分を意味する。
【0016】
本発明に係る新規ペプチドは、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列からなるペプチド、すなわち全長が12アミノ酸残基からなるペプチドでも良い。
【0017】
また、本発明に係る新規ペプチドは、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に対して、1又は複数のアミノ酸を付加したアミノ酸配列からなり、糖化残査成分への吸着能を有するペプチドでもよい。すなわち、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に対して1又は複数のアミノ酸を付加したとしても、糖化残査成分に対する吸着能、及び糖化残査成分存在下で糖化酵素による糖化率を向上する機能を保持することができる。
【0018】
ここで、複数のアミノ酸とは、特に限定されず、例えば2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜30個、更に好ましくは2〜20個、更に好ましくは2〜10個、更に好ましくは2〜7個、最も好ましくは2〜5個のアミノ酸とすることができる。なお、前述したアミノ酸の個数は、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列のN末端に付加するアミノ酸又はC末端に対して付加するアミノ酸の個数を意味している。
【0019】
さらに、本発明に係るペプチドは、配列番号1〜3のいずれかに示す複数のアミノ酸配列を、スペーサー配列を介して或いはスペーサー配列を介さず直接連結した構成であっても良い。配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列の繰り返し回数としては、特に限定されず適宜、設定することができる。配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列の繰り返し回数としては、例えば2〜50回、好ましくは2〜30回、より好ましくは2〜20回、最も好ましくは2〜10回とすることができる。配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列の繰り返し回数をこの範囲とすることによって、糖化残査成分に対する吸着能をより向上でき、糖化残査成分の存在下で糖化酵素による糖化率をより向上できることが期待できる。ここで、スペーサー配列とは、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列の間を連結するアミノ酸配列であり、その長さ及び配列には何ら限定されるものではない。スペーサー配列としては、例えば2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜30個、更に好ましくは2〜20個、更に好ましくは2〜10個、更に好ましくは2〜7個、最も好ましくは2〜5個のアミノ酸配列とすることができる。
【0020】
本発明に係るペプチドは、糖化残査成分に対して吸着する能力を有している。ペプチドが糖化残査成分に対して吸着する能力を有するか否かは、従来公知の吸着試験によって評価することができる。ここで、吸着試験とは、吸着等温線を測定し、液相吸着のラングミュア式を用いて最小二乗法により結合定数と飽和結合量を計算するといった手法を挙げることができる。だたし、吸着試験としては、上述した手法による試験に限定されず、糖化残査成分に対する供試ペプチドの吸着を定性的に評価できる試験であればどのような原理に従う試験であってもよい。なお、吸着試験としては、糖化残査成分に対する供試ペプチドの吸着を定量的に評価できる試験を採用しても良い。
【0021】
特に、本発明に係るペプチドは、糖化残査成分に対して特異的に吸着する能力を有することが好ましい。ここで、糖化残査成分に対して特異的に吸着する能力とは、少なくともセルロースへの吸着能、好ましくはセルロースへの吸着能及びヘミセルロースへの吸着能と比較して、糖化残査成分への吸着能が有意に高いことを意味する。すなわち、本発明に係るペプチドは、セルロースへの吸着能と比較して、糖化残査成分に対する吸着能が有意に高いといった特徴を有していることが好ましい。さらに、本発明に係るペプチドは、セルロースへの吸着能及びヘミセルロースへの吸着能と比較して、糖化残査成分に対する吸着能が有意に高いといった特徴を有していることが更に好ましい。糖化残査成分に対して特異的に吸着する能力とは、糖化残査成分を除く他の全ての分子に対して全く吸着しないことを意味するのではないことに留意する。
【0022】
供試ペプチドについて、糖化残査成分への吸着能、セルロースへの吸着能及びヘミセルロースへの吸着能は上述した吸着試験によってそれぞれ測定することができる。特に、糖化残査成分に対する供試ペプチドの吸着を定量的に評価できる試験により、糖化残査成分への吸着能、セルロースへの吸着能及びヘミセルロースへの吸着能を比較可能に検証することができる。これにより、供試ペプチドが糖化残査成分に対して特異的に吸着する能力を有するか否か、更には供試ペプチドにおける糖化残査成分に対する吸着能の特異性を定量的に判断することができる。
【0023】
また、本発明に係るペプチドは、糖化残査成分の存在下における糖化酵素の糖化率(糖化効率と同義)を向上させることができる。これは、本発明に係るペプチドが、糖化残査成分に優先的に吸着することで糖化酵素と糖化残査成分との非特異的な吸着を阻害することによると考えられる。ここで、糖化率は、セルロース等の炭水化物ポリマーを糖化酵素により加水分解し(糖化し)、生成された単糖を定量し、単糖の生成量として評価できる。単糖の生成量を定量する方法としては、例えば、Somogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、ビシンコニン酸法(BCA法)Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)等の公知の方法を適宜採用すればよい。ここで、糖化残査成分の存在下とは、バイオマスを構成するリグニンやリグニン由来物質(例えばリグニン分解物)を含む糖化残査成分が糖化酵素による加水分解反応の反応系に含まれている状態を意味する。例えば、植物バイオマスを糖化酵素により糖化する工程は、植物バイオマスを構成する糖化残査成分が反応系に含まれるため、糖化残査成分の存在下で糖化する工程となる。
【0024】
糖化酵素
ここで、糖化酵素とは、バイオマスに含まれる炭水化物ポリマーを構成単糖に加水分解する酵素(酵素群)を意味する。糖化酵素としては、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを挙げることができる。
【0025】
セルラーゼとは、セルロースのグリコシド結合を加水分解する活性を有する酵素の総称である。セルラーゼを構成する酵素としては、結晶セルロースの末端からセロビオースを遊離するエキソ型のセロビオハイドロラーゼ(CBH1及びCBH2)、結晶セルロースを分解できないが非結晶セルロース(アモルファスセルロース)鎖をランダムに切断するエンド型のエンドグルカナーゼ(EG)、β-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒するβグルコシダーゼを挙げることができる。
【0026】
なお、セルラーゼとしては、従来公知のものを適宜使用することができる。また、セルラーゼとしては、化学的に合成されたものでも良いし、微生物の生産物を精製したものでも良い。また、セルラーゼとしては、市販のセルラーゼ製剤を使用することもできる。また、本発明に係るポリペプチドは、セルラーゼを発現する微生物、すなわちセルロース系バイオマスを加水分解する能力を有する微生物と共存することで、当該微生物の糖化活性を増強することもできる。セルラーゼの分泌生産能が高い微生物としては例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)が挙げられる。すなわち、本発明に係るポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)による糖化活性を増強することができる。そのようなセルラーゼ生成能を有する微生物としては、例えばAspergillus niger、A. foetidus、Alternaria alternata、Chaetomium thermophile、C. globosus、Fusarium solani、Irpex lacteus、Neurospora crassa、Cellulomonas fimi、C. uda、Erwinia chrysanthemi、Pseudomonas fluorescence、Streptmyces flavogriseus、Trichoderma viride及びAcremonium cellulolyticus等を挙げることができる。
【0027】
また、ヘミセルラーゼは、ヘミセルロースをキシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース等に加水分解する酵素反応系を触媒する酵素群の総称である。ヘミセルラーゼには、キシラナーゼ、アラビナナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、ガラクタナーゼ、キシロシダーゼ、マンノシダーゼ、キシログルカナーゼ及び4-o-メチルグルコニダーゼ等の酵素が含まれる。
【0028】
糖化処理
糖化処理の対象となるセルロース系バイオマスとは、セルロース繊維の結晶構造とヘミセルロース及びリグニンとの複合体を含むバイオマスを意味する。特に、セルロース繊維の結晶構造及びヘミセルロースをセルロース系バイオマスに含まれる多糖類として扱う。セルロース系バイオマスには、間伐材、建築廃材、産業廃棄物、生活廃棄物、農産廃棄物、製材廃材及び林地残材及び古紙等の廃棄物が含まれる。また、セルロース系バイオマスとしては、段ボール、古紙、古新聞、雑誌、パルプ及びパルプスラッジ等も含む。さらに、セルロース系バイオマスとしては、おが屑や鉋屑等の製材廃材、林地残材又は古紙等を粉砕、圧縮し、成型したペレットをも含む。
【0029】
セルロース系バイオマスは、いかなる形状で使用しても良いが、いわゆるソフトバイオマスについては圧搾処理しておくことが好ましく、いわゆるハードバイオマスについては粉砕処理しておくことが好ましい。ソフトバイオマスの圧搾処理とは、ソフトバイオマスに対して所定の圧力を加えることで、バイオマスの組織を緩和・破壊する処理を意味する圧搾処理には、食品分野、農業分野で通常使用されている圧搾装置を利用することができる。また、ハードバイオマスの粉砕処理とは、例えばカッターミルなどの装置によってバイオマスを粉砕する処理を意味する。粉砕処理では、ハードバイオマスを例えば0.1〜2mm(平均径)程度に粗粉砕することが好ましい。
【0030】
糖化処理とは、以上のようなセルロース系バイオマスに対して、糖化酵素を作用させる、或いは糖化酵素生産能を有する微生物を作用させる処理である。糖化処理によりセルロース系バイオマスに含まれるセルロース及びヘミセルロースが、グルコース、マンノース、ガラクトース、キシロース、アラビノース等の単糖(可溶糖)まで糖化される。このとき、本発明に係るペプチドを存在させることによって、糖化率を向上させることができる。なお、本発明に係るペプチドは、大腸菌などの宿主細胞を用いて合成したものでも良いし、当該ペプチドをコードする核酸を、上記糖化酵素生産能を有する微生物に発現可能に導入することで合成したものでも良い。
【0031】
上述した本発明に係るペプチドは、この糖化処理において糖化酵素による糖化率を向上できるため、セルロース系バイオマスの仕込量に対する可溶糖の生成量を向上させることができる。言い換えると、上述した本発明に係るペプチドを糖化処理の反応系に存在させることで、セルロース系バイオマスを効率良く糖化することができ、目的とする可溶糖の生産量を向上することができる。
【0032】
なお、上述のように、本発明に係るペプチドによれば糖化酵素の糖化率を向上できるが、これは、言い換えると、糖化酵素の使用量を低減できることをも意味する。本発明に係るペプチドを使用することによって、糖化酵素の使用量を下げることができるためコストの低減を達成することができる。
【0033】
さらに、本発明に係るペプチドは、糖化酵素による糖化処理の最中に糖化残査成分に吸着した状態を維持し、糖化残査成分への糖化酵素の吸着を防止することができる。よって、糖化処理の終了後、糖化酵素を回収する際の回収量を大幅に向上させることができる。
【0034】
一方、本発明に係るペプチドは、糖化酵素を吸着した状態の糖化残査成分に作用すると、糖化残査成分に吸着した糖化酵素を剥離して、優先的に糖化残査成分に吸着することとなる。よって、本発明に係るペプチドを糖化処理の反応終了後に反応液に添加することによって、糖化残査成分に吸着した糖化酵素を剥離して、糖化酵素の回収率を向上させることができる。
【0035】
アルコール発酵
本発明に係るペプチドを利用したアルコール発酵とは、セルロース系バイオマスをセルラーゼにより糖化して得られる糖からアルコールを生合成することを意味する。特に本発明に係るペプチドを利用することで、上述のようにセルロース系バイオマスを効率良く糖化でき、セルロース系バイオマス由来の糖の生産量を向上することができる。したがって、本発明に係るペプチドを利用することによって、アルコール発酵におけるアルコール収量も向上することができる。
【0036】
特に、本発明に係るペプチドを利用したアルコール発酵は、いわゆる同時糖化発酵であってもよい。同時糖化発酵とは、セルロース系バイオマスをセルラーゼにより糖化する工程と、糖化により生成されたグルコースを糖源とするエタノール発酵の工程とが同時に進行することを意味する。ここで、アルコール発酵は、従来公知のアルコール発酵能を有する酵母を利用することができる。
【0037】
このような酵母としては、特に限定されないが、Candida shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae及びSchizosaccaromyces pombeなどの酵母が挙げられ、特にSaccharomyces cerevisiaeが好ましい。また、酵母としては、実験面での利便性のために使われる実験株でも良いし、実用面での有用性のために使われている工業株(実用株)でも良い。工業株としては、例えば、ワイン、清酒や焼酎作りに用いられる酵母株を挙げることができる。また、アルコール発酵能を有する酵母は、野生型の酵母でも良いし、野生型の酵母に突然変異が導入された変異型の酵母でも良いし、また所定の遺伝子を導入又は欠損するように改変された組換え酵母であっても良い。
【0038】
また、アルコール発酵に際して、培養液のpHは特に限定されないが、例えば培養液のpHを4〜6とすることが好ましい。また、アルコール発酵に際して、反応液を攪拌や振とうしてもよい。
【0039】
本発明を利用したアルコールの製造方法では、アルコール発酵の後、培地からアルコールを回収する。アルコールの回収方法は、特に限定されず、従来公知のいかなる方法も適用することができる。例えば、上述したアルコール発酵が終了した後、固液分離操作によってアルコールを含む液層と、酵母や固形成分を含有する固層とを分離する。その後、液層に含まれるアルコールを蒸留法によって分離・精製することで、純度の高いアルコールを回収することができる。なお、アルコールの精製度は、アルコールの使用目的にあわせて適宜調整することができる。
【0040】
本発明に係るペプチドの利用
上述した本発明に係るペプチドは、糖化残査成分に対する吸着能を有し、糖化残査成分の存在下で糖化酵素による糖化率を向上する作用を有する。このような機能を利用することによって、上述した本発明に係るペプチドを「糖化残査成分吸着剤」や「糖化率改善剤」として使用することができる。以下、これら「糖化残査成分吸着剤」や「糖化率改善剤」を単に「剤」或いは「本発明に係る剤」と呼称する。
【0041】
一方、上述した本発明に係るペプチドを剤として使用する場合、上述した本発明に係るペプチドに対して機能部を連結したような構成としてもよい。すなわち、本発明を適用した剤は、上述した本発明に係るペプチドと、当該ペプチドに連結した機能部とを備える構成でもよい。ここで、機能部としては、上述した本発明に係るペプチドの使用用途に応じて適宜設定することができる。機能部とは、上述した本発明に係るペプチドと連結することで、当該ペプチドと機能部とからなる分子に所定の機能を付与するものである。例えば、機能部としては、所定の酵素活性を有するタンパク質を挙げることができる。タンパク質を機能部とする場合、本発明に係る剤は、従来公知の手法を適用して上述したペプチドと機能部とからなる融合タンパク質として製造することができる。
【0042】
その他にも、機能部としては、蛍光物質、発光物質、色素及びナノ粒子といった分子を例示することができる。
【0043】
より具体的に、機能部としては、リグニン分解酵素を挙げることができる。リグニン分解酵素を機能部とすることによって、本発明に係る剤は、上述したペプチドによる糖化残査成分吸着能と、当該機能部によるリグニン分解能を併せ持つこととなる。リグニン分解酵素としては、ラッカーゼ、リグニンペルオキシダーゼ(LiP)及びマンガンペルオキシダーゼ(MnP)が挙げられる。これらリグニン分解酵素は、如何なる生物由来の酵素であっても良く、例えば、白色腐朽菌由来の酵素を特に限定すること無く使用することができる。具体的に、本発明に係る剤は、公知のリグニン分解酵素のN末端及び/又はC末端にリンカーを介して又はリンカーを介さずに直接上述したペプチドを結合した融合タンパクとして合成することができる。
【0044】
なお、セルラーゼは、炭水化物ポリマーの加水分解反応に関与する触媒部位と、炭水化物ポリマーへの結合に関与する基質結合部位がリンカーで結ばれた構造をしており、基質結合部位を欠損させると反応性が低下することが報告されている。この報告から、本発明に係る剤においては、上述したペプチドがセルラーゼにおける基質結合部位と同等に機能することとなり、機能部たるリグニン分解酵素によるリグニン分解効率が向上することが理解される。
【0045】
一方、より具体的に、機能部としては、蛍光物質や発光物質を挙げることができる。蛍光物質や発光物質を機能部とすることによって、本発明に係る剤は、上述したペプチドによる糖化残査成分吸着能により、糖化残査成分に対して当該ペプチドを介して蛍光物質や発光物質を吸着させることができる。具体的に、本発明に係る剤は、上述したペプチドのN末端及び/又はC末端に、定法に従って蛍光物質や発光物質を連結した物質として合成することができる。
【0046】
このように構成された剤は、リグニン分解酵素といった糖化残査成分を分解する分解酵素の活性を測定する際に使用することができる。例えば、先ず、リグニン等の糖化残査成分と上述した構成の本発明に係る剤とを共存させることで、糖化残査成分に対して当該ペプチドを介して蛍光物質や発光物質を吸着させる。その後、評価対象の分解酵素を作用させる。分解酵素が糖化残査成分を分解すれば、反応液上清に蛍光物質や発光物質が出てくることになる。よって、反応液を固液分離に供し、得られた反応液上清の吸光度を測定するなどして蛍光物質や発光物質を定量的に測定することによって、分解酵素の糖化残査成分分解活性を測定することができる。
【0047】
一方、より具体的に、機能部としては、色素や特異的な波長に励起される物質を挙げることができる。色素や特異的な波長に励起される物質を機能部とすることによって、上述したペプチドが吸着した部位を可視化することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕
本実施例では、糖化残査成分を豊富に含むバイオマスを調製し、これを抗原として使用するファージディスプレイ法により糖化残査成分に対する吸着能を有するペプチドを特定し、さらに特定したペプチドについて糖化率を向上させる機能を検証した。さらに、本実施例では、特定したペプチドについて、吸着特性を検証した。
【0050】
<糖化残査成分を豊富に含むバイオマスの調製方法>
先ず、前処理バイオマス10%(dry w/v)にセルラーゼ製剤(ノボザイムズ社製)及び50mM 酢酸緩衝液(pH5.0)を添加し、50℃で60時間の条件で糖化反応を行った。ここで、前処理バイオマスとしては、圧搾、蒸煮処理したネピアグラスを使用した。
【0051】
反応終了後、糖化残渣を回収し、得られた糖化残査を純水で2回洗浄した。洗浄後の糖化残査を6M塩酸グアニジン溶液に80℃で40時間浸漬した。これにより、糖化反応に使用したセルラーゼ製剤を除去した。
【0052】
次に、再び、糖化残渣を回収し、得られた糖化残査を純水で2回洗浄した。そして、再度、糖化残渣を6M塩酸グアニジン溶液に80℃で30分間浸漬した。これにより、セルラーゼ製剤を除去した
次に、再び、糖化残渣を回収し、得られた糖化残査を純水で2回洗浄した。そして、50mM酢酸バッファー(pH5.0)で2回洗浄した。洗浄後、糖化残査を50℃で2日間乾燥させた。乾燥した糖化残査を乳鉢で潰し、150μmの金網でふるいに掛けた。得られた糖化残査は、糖化残査成分を豊富に含むバイオマスとして、ファージディスプレイ法における抗原として使用した。
【0053】
<ファージディスプレイ法>
上述のようにして得られた糖化残査成分を豊富に含むバイオマスを抗原として使用した。ファージディスプレイ法は、市販のPh.D.-12TM Phage Display Peptide Library Kit(NEB社製)を使用して実施した。ファージディスプレイ法における結合・洗浄用水溶液としては、50mM 酢酸緩衝液(pH5.0、200mM NaCl、0.5% Tween20)を使用した。また、ファージディスプレイ法における解離用水溶液としては、50mM 酢酸緩衝液(pH5.0、2M NaCl)を使用した。ファージディスプレイ法におけるパンニング回数は4回とした。なお、ファージディスプレイ法の詳細な手順は、キットに添付の説明書に記載された通りとした。
【0054】
ファージディスプレイ法の結果、以下の3種類のペプチドを糖化残査成分を豊富に含むバイオマスに対して吸着するペプチドとして同定することができた。
ペプチド1:SGHHNLHKTEHR(配列番号1)
ペプチド2:SSLQAHKPHHLR(配列番号2)
ペプチド3:KHVPRSPVEALY(配列番号3)
【0055】
<糖化試験>
上述のようにして同定された3種類のペプチドについて、糖化酵素の糖化率を向上させる機能を糖化試験により検証した。糖化試験では、バイオマス量が0.5重量%となるように調整した前処理バイオマス溶液(200μl)、50mM酢酸緩衝液(pH5.0)、同定されたペプチド及びトリコデルマ培養上清(10μl)からなる反応液を準備した。なお、前処理バイオマスとしては、圧搾、蒸煮処理したネピアグラスを使用した。また、前処理バイオマス溶液は、前述の前処理バイオマスをウェットな状態のままで乳鉢で粉状にし、これを50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に混合した溶液である。調製した反応液は、撹拌装置を用いてよく懸濁した。
【0056】
糖化試験は40℃の温度条件とし、1800rpmで攪拌しながら糖化反応を行った。また、反応時間を43時間とした。反応終了後、遠心分離(15000rpm)により固液分離し、反応上清を回収した。回収した反応上清に含まれる還元糖量をTZアッセイにより測定した。なお、TZアッセイはJue CK and Lipke PN (1985) Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 11, 109-115に記載されている。
【0057】
糖化試験の結果を
図1に示した。
図1に示すように、供試した3種類のペプチドは全て、糖化酵素による糖化反応の糖化率を向上させる機能を有することが明らかになった。特に、ペプチド3を使用した場合、対コントロール比で1.7倍の遊離糖を検出することができた。また、ペプチド3は、他のペプチドと比較して、糖化率の向上効果が最も優れていることが明らかとなった。
【0058】
<吸着試験>
上述のようにして同定された3種類のペプチドについて、バイオマス成分に対する吸着特性を吸着試験により検証した。本試験では、バイオマス成分として、アビセル(FMC BioPolymer社製)、再生アモルファスセルロース(RAC)、糖化残渣バイオマスを用いた。
【0059】
RACは、Biomacromolecules 2006, 7, 644-648のExperimental SectionにおけるRegenerated amorphous cellulose preparationの欄に記載された方法に準じて調製した。すなわち、約0.2gのアビセルを50mLの遠心分離菅に入れ、これに0.6mLの滅菌水を加えてアビセルを湿潤した。これによりセルロース懸濁スラリーを調製した。このスラリーに10mLの氷冷リン酸(86.2%)を徐々に添加し、強く撹拌することでリン酸の最終濃度が83.2%となった。最後の2mLのリン酸を添加する前にセルロース懸濁液を均一に撹拌した。セルロース混合物は数分内に透明に変化し、時折撹拌しながら氷上に約1時間置いた。その後、約40mLの氷冷した水を約10mLずつ添加した。氷冷水の添加間隔では強く撹拌した。この処理により白濁した沈殿物が形成された。得られた沈殿物を〜5000g、4℃の条件で20分間で遠心分離した。得られたペレットを氷冷水に懸濁し、その後、遠心分離することでリン酸を含む上清を除去した。この処理を4回繰り返した。約0.5mLのNa
2CO
3を添加して残存するリン酸を中和し、その後、45mLの氷冷滅菌水を使用してペレットを懸濁した。遠心分離後に得られたペレットを滅菌水に懸濁し、遠心分離する処理を2回又はpHが5〜7になるまで行った。アジ化ナトリウムを少量添加し、4℃以下の温度で長時間保持することで、再生アモルファス(均質)セルロース・スラリーを調製した。
【0060】
また、糖化残査バイオマスとしては、上述した<糖化残査成分を豊富に含むバイオマスの調製方法>に記載した方法により調製したバイオマスを使用した。
【0061】
吸着試験は以下のように実施した。すなわち、先ず、N末端に蛍光分子であるFITCを接合したペプチド1〜3をそれぞれ化学合成した。これらFITC接合ペプチド1〜3を様々な濃度となるように反応液に添加し、室温で10分間静置した。ここで、反応液としては、50mMの酢酸緩衝液(pH5.0)に糖化残査バイオマス、アビセル及びPASCのいずれかを5mg/mlとなるように分散させた溶液を使用した。
【0062】
反応終了後、反応液を12,000×gで10分間遠心分離し、その後、上清画分を回収した。そして、回収した上清画分を495nmで励起したときの520nmの蛍光強度を測定した。測定される蛍光強度は、バイオマスに吸着していないペプチドに由来するものである。よって、測定された520nmの蛍光強度を用いて、定法に従ってバイオマスに吸着していないペプチド量を算出することができる。そして、反応液に投入したペプチド量から、バイオマスに吸着していないペプチド量を差し引くことによって、バイオマスに吸着したペプチドを算出することができる。
【0063】
このように算出した、バイオマスに吸着したペプチド量を
図2A〜Cに示した。
図2Aは、バイオマスとして糖化残査バイオマスを用いた実験結果である。
図2Bはバイオマスとしてアビセルを用いた実験結果である。
図2CはバイオマスとしてRACを用いた実験結果である。
図2A〜Cに示すように、供試した3種類のペプチドは全て、セルロース(アビセル、RAC)には吸着しないが、糖化残渣バイオマスに対する吸着能を有することが明らかとなった。