特許第6001377号(P6001377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6001377マスク治具、ガスセンサ素子の製造方法、および、ガスセンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6001377
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】マスク治具、ガスセンサ素子の製造方法、および、ガスセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20160923BHJP
【FI】
   G01N27/409 100
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-179501(P2012-179501)
(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-37998(P2014-37998A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2014年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾
(72)【発明者】
【氏名】磯村 浩
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−182158(JP,A)
【文献】 特開2011−247621(JP,A)
【文献】 特開昭55−141665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406−27/41
G01N 27/417−27/419
C25D 1/00 − 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる有底筒状の基体の内表面に、メッキ液に含まれる金属を析出させて電極及び電極リードを形成する際に、前記電極及び電極リードを形成する領域とは異なる領域を覆うマスク治具であって、
少なくとも前記電極リードを形成するためのスリットを有し、前記基体の後端側から内部に挿入されて前記電極及び前記電極リードを形成する領域とは異なる領域を覆うマスク部と、
前記基体の内孔から前記基体の後端側にかけた形状に沿った形状であって、前記マスク部から前記基体の後端側に向かって前記基体の径方向の外側に斜めに延びるテ―パ形状を有しつつ、前記テ―パ形状の後端側から前記径方向の外側に延びる鍔状に形成され、前記マスク部における前記軸線方向の配置位置を定める係止部と、
が設けられていることを特徴とするマスク治具。
【請求項2】
前記係止部には前記基体の開口側の端部と当接する面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマスク治具。
【請求項3】
前記係止部には、前記軸線方向先端側に向かって延びる折返し部が設けられ、
前記折返し部は、前記基体の外径以上の内径を有するように形成されていることを特徴とする請求項に記載のマスク治具。
【請求項4】
軸線方向に延びる有底筒状の基体の内表面に核を付着させる核付け工程と、
前記核が触媒として作用するメッキ液を用いて、前記メッキ液に含まれる金属を前記基体の内表面に析出させて電極及び電極リードを形成するメッキ工程と、
を有するガスセンサ素子の製造方法であって、
前記核付け工程の際に、前記基体の内表面における前記電極及び電極リードを形成する領域とは異なるマスク領域に、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のマスク治具を装着する装着工程を更に有することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項5】
基体の内表面に電極及び電極リードが形成されたガスセンサ素子を有するガスセンサの製造方法であって、
前記ガスセンサ素子は、請求項に記載のガスセンサ素子の製造方法により製造されたガスセンサ素子であることを特徴とするガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク治具、ガスセンサ素子の製造方法、および、ガスセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサとして測定対象ガスに含まれる酸素などの特定ガス成分濃度を測定するセンサあり、例えば内燃機関の吸気や排気に含まれる酸素濃度を測定するガスセンサが知られている。
【0003】
上述のガスセンサとして、固体電解質体から形成されたガスセンサ素子を用いたものがある。ガスセンサ素子は一端が閉塞された筒形状に形成され、その内面および外面に白金などの貴金属から形成された電極を備えている。
【0004】
ガスセンサ素子の内面および外面の電極は、例えば、白金錯塩水溶液およびヒドラジン溶液を混合したメッキ溶液中の白金を析出させるメッキ加工により形成されている。そのため、ガスセンサ素子の内部にメッキ溶液を満たした状態でメッキ加工を行うとガスセンサ素子の内面全体に電極が形成される。
【0005】
しかしながら、ガスセンサ素子の内面において電極が必要な領域は限られている。そのため、上述の方法では電極が不要な領域にまで電極を形成してしまい、高価な貴金属を無駄に使用していた。
【0006】
この問題を解決する方法として、電極が不要な領域を覆うマスク治具を配置して電極が不要な領域への電極形成を抑制し、電極が必要な領域にのみ電極を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
特許文献1では、円筒の一部を軸線方向に沿って切り欠いた形状のマスク治具を用いる技術が記載されている。このマスク治具全体をガスセンサ素子の内部に挿入し、電極が不要な領域を当該マスク治具で覆っている。より具体的には、特許文献1のマスク治具はガスセンサ素子の内周面よりも径が大きく形成されており、マスク治具をガスセンサ素子の内部に配置する際には、マスク治具の径が小さくなるように変形させてガスセンサ素子の内部に挿入し、マスク治具の径が大きくなる力を利用してマスク治具を所望の位置に留まらせている。このようにマスク治具を所望の位置、つまり電極が不要な領域に配置させることにより、電極が必要な領域にのみ電極を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−247621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されたマスク治具では、メッキ加工の最中にマスク治具の配置位置がずれやすく、電極が必要な領域に電極を形成できない場合があるという問題があった。
【0010】
つまり、特許文献1のマスク治具はその全体がガスセンサ素子の内部に配置されているため、そもそもマスク治具を所望の位置の留まらせる力が弱く配置位置がずれやすい。そのため、電極が必要な領域に電極を形成できない場合があるという問題があった。
【0011】
さらに、メッキ液をガスセンサ素子の内部に注入したり、外部へ排出したりする際に、ガスセンサ素子の内部に注入排出に用いられる管が挿入される。この管とマスク治具とが干渉することにより、マスク治具の配置位置がずれる場合があった。そのため、電極が必要な領域に電極を形成できない場合があるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、マスク治具の配置位置のズレを抑制して、所望の領域に電極及び電極リードを形成しやすくするマスク治具、ガスセンサ素子の製造方法、および、ガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明のマスク治具は、軸線方向に延びる有底筒状の基体の内表面に、メッキ液に含まれる金属を析出させて電極及び電極リードを形成する際に、前記電極及び電極リードを形成する領域とは異なる領域を覆うマスク治具であって、少なくとも前記電極リードを形成するためのスリットを有し、前記基体の後端側から内部に挿入されて前記電極及び電極リードを形成する領域とは異なる領域を覆うマスク部と、前記マスク部よりも後端側に径方向の外側に延びる鍔状に形成され、前記マスク部における前記軸線方向の配置位置を定める係止部と、が設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明のマスク治具によれば、マスク部に係止部を設けているため、基体にマスク治具を取り付けた際に、軸線方向の配置位置のズレの発生が抑制される。つまり、マスク治具を基体に挿入する際に、係止部を基体の開口端や、基体に取り付けた別の部材の端部などに、鍔状に形成された係止部を係止させることでマスク部の軸線方向の配置位置を定めるとともに、電極及び電極リードを形成する工程においてマスク部の配置位置が軸線方向に移動することを抑制できる。
【0015】
上記発明において前記マスク部と前記係止部との間に設けられ、前記基体の内表面に全周で接触して覆う筒状部を有することが好ましい。
このように、基体の内表面に全周で接触して覆う筒状部を有することで、マスク治具の姿勢変化による配置位置のズレの発生が抑制される。つまり、筒状部が基体の内表面に周方向にわたって接触するため、マスク部と基体の内表面との相対的な位置関係が変動しにくくなる。
【0016】
上記発明において前記筒状部には、前記基体から突出し、前記係止部に向かって径が大きくなる拡径部が設けられ、前記係止部は、前記基体から突出した前記拡径部の径方向外側の周囲に配置される筒状の支持部の端部と当接する面が設けられていることが好ましい。
【0017】
このように基体の内部から突出するとともに、係止部に向かって基体の内表面よりも径が大きくなる拡径部を設けることにより、マスク治具における拡径部の内部にメッキ液を貯める空間を確保できる。基体の内表面に電極及び電極リードを形成する際には、電極及び電極リードの形成に必要な量の金属を析出させるのに必要な量のメッキ液が用いられる。基体内部の容積は、一般的に上述の必要量のメッキ液の体積よりも小さい。そのため、基体の内部から突出し、かつ、係止部に向かって径が大きくなる拡径部を設けてその内部にもメッキ液を貯めることにより、上述の必要量のメッキ液を貯める空間を確保できる。
【0018】
さらに、電極及び電極リードを形成する領域とは異なる領域を覆い、当該領域への金属の析出を抑制できるマスク治具の一部である拡径部の内部にメッキ液を貯める空間を確保するため、この空間での金属の意図しない析出を抑制できる。例えば、基体を保持するゴムなどの弾性部材からなる保持部に上述の必要のメッキ液を貯める空間を確保した場合には、保持部とメッキ液との接触面で意図しない金属の析出が発生することがある。電極及び電極リードを形成する領域に所望の厚さの電極を形成するためには、上述の意図しない金属の析出を考慮した量のメッキ液を用いる必要がある。特に析出させる金属が貴金属の場合には、高額な材料の使用量が増加するため製造コストが増加しやすい。この場合と比較して、メッキ液を貯める空間を金属の析出を抑制できる拡径部の内部に設けることにより、金属の使用量を抑制することができ製造コストを抑制しやすくなる。
【0019】
上記発明において前記係止部には、前記基体の開口側の端部と当接する面が設けられていることが好ましい。
このように鍔状に形成された係止部を基体の開口側の端部に当接させて、マスク部における軸線方向の配置位置を定めることにより、軸線方向にマスク部の配置位置が移動することを抑制しやすくなる。例えば、基体の閉塞端方向に向かってマスク治具を押しこむ力が働いても、係止部が開口側の端部に当たっているためマスク治具が軸線方向に移動することが抑制される。
【0020】
上記発明において前記係止部には、前記軸線方向先端側に向かって延びる折返し部が設けられ、前記折返し部は、前記基体の外径以上の内径を有するように形成されていることが好ましい。
【0021】
このように折返し部を設けることにより、基体にマスク治具を取りつけた際にマスク治具の姿勢が安定しやすくなり、マスク部の配置位置のズレの発生を抑制しやすくなる。具体的には、マスク治具を基体に取り付けた際に、基体の内部に配置される筒状部と折返し部との間に基体の開口端近傍の部分が挟みこまれる。そのため、マスク治具は、筒状部および折返し部において基体と接触して姿勢が保持されることとなり、筒状部のみで姿勢を保持する場合と比較して、より姿勢を安定させやすくなる。
【0022】
本発明のガスセンサ素子の製造方法は、軸線方向に延びる有底筒状の基体の内表面に核を付着させる核付け工程と、前記核が触媒として作用するメッキ液を用いて、前記メッキ液に含まれる金属を前記基体の内表面に析出させて電極及び電極リードを形成するメッキ工程と、を有するガスセンサ素子の製造方法であって、前記核付け工程の際に、前記基体の内表面における前記電極及び電極リードを形成する領域とは異なるマスク領域に、上記本発明のマスク治具を装着する装着工程を更に有することを特徴とする。
【0023】
本発明のガスセンサ素子の製造方法によれば、上記本発明のマスク治具を用いることによりマスク治具の配置位置のズレを抑制でき、基体の内表面における所望の位置に電極及び電極リードを形成することができる。
【0024】
本発明のガスセンサの製造方法は、基体の内表面に電極及び電極リードが形成されたガスセンサ素子を有するガスセンサの製造方法であって、前記ガスセンサ素子は、上記本発明のガスセンサ素子の製造方法により製造されたガスセンサ素子であることを特徴とする。
【0025】
本発明のガスセンサの製造方法によれば、上記本発明のガスセンサ素子の製造方法に基づいて製造されたガスセンサ素子、つまり基体の内表面における所望の位置に電極及び電極リードが形成されたガスセンサ素子を用いたガスセンサを製造できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のマスク治具によれば、マスク部に係止部および筒状部を設けているため、基体にマスク治具を取り付けた際に、軸線方向の配置位置のズレや、マスク治具の姿勢変化による配置位置のズレの発生が抑制されるため、所望の領域に電極及び電極リードを形成しやすくなるという効果を奏する。
【0027】
本発明のガスセンサ素子の製造方法によれば、上述のマスク治具を用いることによりマスク治具の配置位置のズレを抑制でき、基体の内表面における所望の位置に電極及び電極リードを形成することができる。
【0028】
本発明のガスセンサの製造方法によれば、上述のガスセンサ素子の製造方法に基づいて製造されたガスセンサ素子、つまり基体の内表面における所望の位置に電極及び電極リードが形成されたガスセンサ素子を用いたガスセンサを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1の実施形態に係るマスク治具の構成を説明する斜視図である。
図2図1のマスク治具の構成を説明する正面図および側面図である。
図3図1のマスク治具を基体に取り付けた状態を説明する外観図である。
図4】基体に取り付けられたマスク治具の状態を説明するA−A断面視図である。
図5】基体の内表面におけるマスク治具により覆われる領域を説明する展開図である。
図6】基体およびマスク治具の内部にメッキ液等を満たす工程を説明する摸式図である。
図7】本実施形態に係る方法で製造されたガスセンサ素子を備えるガスセンサの構成を説明する断面視図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係るマスク治具の構成を説明する斜視図である。
図9図8のマスク治具の構成を説明する正面図および側面図である。
図10】基体に取り付けられたマスク治具の状態を説明する断面視図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係るマスク治具の構成を説明する斜視図である。
図12図11のマスク治具の構成を説明する正面図および側面図である。
図13】基体に取り付けられたマスク治具の状態を説明する断面視図である。
図14】本発明の第4の実施形態に係るマスク治具の構成を説明する斜視図である。
図15】基体に取り付けられたマスク治具の状態を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係るマスク治具100の構成、および、マスク治具100を用いたガスセンサ素子10並びにガスセンサ1の製造方法ついて説明する。まず、図1から図5を参照しながらマスク治具の構成について説明する。なお図2(a)はマスク治具を正面から見た構成を示す図であり、図2(b)は側面から見た構成を示す図である。
【0031】
本実施形態のマスク治具100は、基体120に電極をメッキ処理にて形成してガスセンサ素子10を製造する際に用いられる治具である。マスク治具100の使用方法、つまりマスク治具100を用いたガスセンサ素子10の製造方法などについては後で詳述する。
【0032】
マスク治具100は、図1および図2に示すように、マスク部101と、筒状部102と、係止部105と、から主に構成されている。マスク部101、筒状部102および係止部105は、軸線Oにそって順に並んで配置されている。マスク治具100を構成する材料としては、後述するメッキ処理においてメッキ液に含まれる貴金属が析出して付着しにくい材料が好ましい。例えば、マスク治具100を構成する材料としてポリプロピレンなどの樹脂材料を例示することができる。
【0033】
マスク部101は、図4の断面視図に示すように基体120内部に挿入されるものであり、基体120の内表面の一部を覆い、内表面に所望の形状の電極を形成させるものである。より具体的には、図5の展開図に示すように、基体120の内表面におけるマスク領域(電極が形成される領域とは異なる領域)106の一部(図5の左右に分かれている部分)を覆い、内側電極領域(電極が形成される領域)123および内側電極リード領域(電極が形成される領域)124を露出させるものである。
【0034】
マスク部101は、図1および図2に示すように、基体120の内周面と略同じ径に形成された円筒の一部を軸線にそって切り欠いた形状に形成されたもの、言い換えると、断面が円環を切り欠いた円弧形状に形成されたものである。マスク部101の外径は、マスク部101と基体120の内表面とを密着させるために、内表面の内径と同じ径または若干大きな径とされている。
【0035】
本実施形態でマスク部101は、半円弧状の断面を有する形状に形成された例に適用して説明するが、マスク部101の形状、つまりマスク領域106の形状は、基体120の内表面に形成する内側電極の形状に基づいて定められるものであるため、マスク部101の形状は適宜変更することができるものである。
【0036】
筒状部102はマスク治具100における筒状に形成された部分であり、マスク部101側の小径部103と、係止部105側の拡径部104とを備えたものである。
小径部103は、マスク部101と隣接する部分であり、マスク部101と同じ径で形成された筒状の部分である。小径部103は、マスク部101とともに基体120の内部に挿入されてマスク領域106の一部(図5の上側の部分)を覆うものである。
【0037】
拡径部104は、小径部103と係止部105との間に配置された部分であり、小径部103よりも大きな径で形成された筒状の部分である。本実施形態で拡径部104は、小径部103から係止部105に向かって径が次第に大きくなるテ―パ部分と、径が一定のストレート部分とから構成されている。
【0038】
係止部105は、筒状部102の拡径部104から径方向の外側に延びる鍔状に形成された部分である。係止部105は、後述する保持部110の端面112と当接して係止することにより、基体120に対するマスク治具100の軸線O方向の配置位置を定めて、配置位置のズレを抑制するものである。
【0039】
次に、本実施形態のマスク治具100を用いたガスセンサ素子10の製造方法ついて図3から図6を参照しながら説明する。まず基体120の構成ついて説明する。
基体120は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質から形成されたものであり、図3および図4に示すように、軸線Oを中心とする有底円筒状に形成されたものである。より具体的には、公知のプレス成形法を用いて有底円筒状に成形し、1500℃で2時間程度焼成したものである。基体120における閉塞された端部(図4の下側の端部)を先端部(閉塞端)121とし、開口された端部(図4の上側の端部)を後端部(開口端)122とする。
【0040】
基体120の外周面における先端部121および後端部122の間には、径方向の外側に向かって環状に突出する突出部14が設けられている。突出部14は、後述するガスセンサ1の主体金具60と係合される部分である。
【0041】
基体120の内表面では、図5に示すように、後述するメッキ処理によって内側電極領域123と、内側電極リード領域124とに電極が形成される。内側電極領域123は、内表面の先端部側121側(図5の下側)の全体であり、内側電極リード領域124は、内側電極領域123から後端部122側(図5の上側)に向かって延びる帯状の領域である。
【0042】
基体120を構成する固体電解質としては、例えば、Y23又はCaOを固溶させたZrO2が代表的なものである。この個体電解質以外にも、アルカリ土類金属または希土類金属の酸化物とZrO2との固溶体である固体電解質を使用しても良い。また、アルカリ土類金属または希土類金属の酸化物とZrO2との固溶体に、さらにHfO2が含有された固体電解質を使用しても良い。
【0043】
次に、ガスセンサ素子10の製造方法について説明する。そのなかでも、上述のマスク治具100を用いて基体120の内表面における内側電極領域123および内側電極リード領域124に電極を形成する方法を中心に説明する。
【0044】
基体120の内表面に電極を形成する前に、基体120の外表面に電極を形成する処理が行われる。例えば、外表面における内側電極領域123と対応する領域である外側電極領域と、この外側電極領域から後端部122に向かって帯状に延びる外側リード領域に電極を形成する処理が行われる。
【0045】
その後に基体120の内表面に電極を形成する処理が行われる。最初の核付け工程において、基体120の内表面に核を付着させる処理が行われる。まず、図4に示すように、マスク治具100が基体120および保持部110に装着される。マスク治具100は、マスク部101を基体120の先端部側121側として挿入され、係止部105が保持部110の端面112に当たり、係止されるまで差し込まれる。このとき筒状部102の小径部103も基体120の内部に挿入されている。
【0046】
マスク部101および小径部103の外表面は、基体120の内表面と接触している。具体的には、図5に示すマスク領域106を覆うように接触している。さらに、筒状の小径部103が基体120の内表面と周方向にわたって接触しているため、基体120に対するマスク治具100の相対位置、特に径方向の相対位置が定まりやすくなる。
【0047】
保持部110は、シリコンゴムなどの弾性材料から形成された筒状の部材であり、基体120の後端部122を保持するとともに、内部にマスク治具100が配置可能なものである。保持部110における後端部122と嵌め合わされる部分は、内部に後端部122を挿入可能な円柱状の空間が形成され、空間の奥に後端部122が付き当てられる段差111が形成されている。保持部110における基体120を保持する部分と反対側は、基体120の内表面よりも径が大きな内周面が形成され、ここにマスク治具100の拡径部104が配置される。さらに保持部110における反対側の端面112は、マスク治具100の係止部105と接触する面となっている。
【0048】
そして、マスク治具100が装着されると核を付着させる処理が行われる。図6に示すように、基体120の内表面に囲まれた空間および保持部110の内部空間に塩化白金酸水溶液(白金濃度が0.5g/Lの水溶液)が注入される。
【0049】
上述の塩化白金酸水溶液の注入には、注液装置130が用いられる。注液装置130には、基体120やマスク治具100や保持部110の内部に挿入される管部131が設けられている。塩化白金酸水溶液は、基体120および保持部110に挿入された管部131から注液される。
【0050】
基体120等に注液された塩化白金酸水溶液は加熱され、これにより基体120の内表面に塩化白金酸水溶液の塗膜が形成される。塗膜が形成されると、基体120および保持部110に注液された塩化白金酸水溶液を、注液装置130を用いて基体120および保持部110の外に排液する処理が行われる。
【0051】
その後、基体120および保持部110の内部にヒドラジン水溶液(濃度が5質量%の水溶液)が注入される。ヒドラジン水溶液の注入には、塩化白金酸水溶液の場合と同様に注液装置130が用いられる。注入されたヒドラジン水溶液は75℃に加熱され、その状態で30分間放置される。すると、基体120の内表面に白金の核が析出する。核が析出すると、基体120などの注入されたヒドラジン水溶液を、注液装置130を用いて基体120の外に排液する処理が行われる。
【0052】
その後、メッキ工程の処理が行われる。基体120およびマスク治具100の内部には、図6に示すようにメッキ液が注入される。メッキ液の注入は注液装置140を用いて行われ、メッキ液は基体120の内部を満たし、さらにマスク治具100の拡径部104に液面が至るまで注入される。
【0053】
メッキ液は、基体120の内表面に析出させた核を触媒としてメッキ液中の貴金属(本実施形態では白金)が析出するものである。本実施形態では、白金錯塩水溶液(白金濃度が15g/Lの水溶液)とヒドラジン水溶液(濃度が85質量%の水溶液)とを混合して調整されたものである。
【0054】
そして注入されたメッキ液を加熱し、所定の時間だけ放置する処理が行われる。この放置された時間の間に、メッキ液に含まれる白金は、基体120の内表面におけるマスク部101に覆われていない領域である内側電極領域123および内側電極リード領域124に析出する。所定の時間が経過すると、基体120およびマスク治具100の内部に注入されたメッキ液は、注液装置140によって外へ排液される。
【0055】
排液が完了するとメッキされた基体120の取り外し工程が行われる。メッキされた基体120は、保持部110から下方(図6の下側)へ引き抜かれる。この時マスク治具100は保持部110の内部に取り残されるため、メッキされた基体120の内部からマスク治具100も同時に引き抜かれる。
【0056】
そしてメッキされた基体120に対して還元工程の処理が行われる。メッキされた基体120は、750℃の還元雰囲気中で加熱処理される。この処理により内側電極領域123および内側電極リード領域124に析出した白金である電極の表面に付着している酸素が取り除かれる。さらに当該電極が、基体120の内表面に焼き付けられて、所望の特性を有する電極となる。このようにしてガスセンサ1の製造に用いられるガスセンサ素子10が完成する(図7参照)。
【0057】
このようにして製造されたガスセンサ素子10は、ガスセンサ1の製造に用いることができる。ガスセンサ1の製造方法としては公知の製造方法を用いることができ、特にその詳細を限定するものではない。図7は、このようにして製造されたガスセンサ1の構成を説明する断面視図である。
【0058】
次に、上述のガスセンサ素子10の製造方法によって製造されたガスセンサ素子10を用いて製造されたガスセンサ1について説明する。なお、ガスセンサ1の製造方法としては公知の製造方法を用いることができる。
【0059】
本実施形態で製造されたガスセンサ1は、例えば乗用車等の車両に搭載された内燃機関の排気流路に締結され、排気流路の内部にガスセンサの先端部分が突出されたセンサであり、排気ガス中の酸素濃度を計測する酸素センサである。なお、以下の説明では、軸線Oに沿う方向のうち、主体金具60に対してプロテクタ80の取り付けられる側を先端側とし、この逆側を後端側として説明する。
【0060】
ガスセンサ1は、後述するガスセンサ素子10を加熱するためのヒータ20を備えたセンサであり、ヒータ20の熱によってガスセンサ素子10を加熱して活性化し、排気ガス中の酸素濃度を計測するものである。
【0061】
ガスセンサ1には、図7に示すように、ガスセンサ素子10と、ヒータ20と、セパレータ30と、シール部材40と、複数の端子金具50と、リード線55と、それらの周囲を覆う主体金具60と、プロテクタ80と、外筒90等が、主に備えられている。
【0062】
ヒータ20は、図7に示すように、ガスセンサ素子10の内部に配置されてガスセンサ素子10の加熱を行う長尺の加熱手段である。
複数の端子金具50には、第1センサ端子金具51、第2センサ端子金具52、第1ヒータ端子金具および第2ヒータ端子金具(図示せず)が含まれる。複数の端子金具50は、ニッケル合金(例えばインコネル750。英インコネル社製、登録商標)から形成された金具である。複数の端子金具50には、それぞれ、リード線55の芯線が加締め接続されて電気的に接続されている。図7では、4本のリード線55のうち3本のリード線55が図示されている。
【0063】
第1センサ端子金具51は、ガスセンサ素子10の内側電極リード領域124に形成された電極(図5参照)と電気的に接触し、第2センサ端子金具52と共に、ガスセンサ素子10の検出信号を外部に出力するものである。また、第1センサ端子金具51は、ヒータ20を把持するとともに、ヒータ20の発熱部(図示せず)が設けられている領域を、ガスセンサ素子10の内面に押し付けるものである。その一方で、第2センサ端子金具52は、ガスセンサ素子10の外側電極と電気的に接続されるものである。
【0064】
セパレータ30は、図7に示すように、ガスセンサ素子10とシール部材40との間に配置される部材であり、電気絶縁性を有する材料、例えばアルミナから形成された円筒形状の部材である。セパレータ30には、複数の端子金具50などを収納する収容部31が設けられている。収容部31は、セパレータ30を軸線O方向に貫通して形成された貫通孔であり、セパレータ30よりも先端側の空間と、後端側の空間との間で大気の流通を可能とするものである。
【0065】
シール部材40は、例えばフッ素ゴムなどの弾性材料からなる栓部材であり、ガスセンサ1の後端に配置される部材である。シール部材40は、軸線O方向を高さ方向とする略円柱状に形成された、外筒90の後端を塞ぐ部材である。シール部材40は、セパレータ30の後端側の面に当接するように外筒90の後端側の開口に嵌め込まれている。
【0066】
大気連通孔41は、シール部材40により閉塞された外筒90の内部に大気を導く貫通孔である。大気連通孔41の内部には、フィルタ部材43および留め金具44が挿入されている。フィルタ部材43は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂から形成されたマイクロメートル単位の網目構造を有する薄膜状のフィルタである。そのため、フィルタ部材43は、水滴等の透過を許さず、大気の通過は許容するものである。留め金具44は、筒状に形成された部材であり、フィルタ部材43をシール部材40に固定するものである。具体的には、留め金具44の外周と大気連通孔41の内周との間にフィルタ部材43を挟みこみ、フィルタ部材43をシール部材40に固定するものである。
【0067】
主体金具60は、図7に示すように、ステンレス合金(例えば、JIS規格のSUS310S)から形成された部材であり、概ね円筒状に形成された部材である。主体金具60には、ガスセンサ素子10の突出部14を支持する段部61が、内周面から径方向内側に向かって、周方向にわたって突出して設けられている。
【0068】
主体金具60の先端側の外周面には、ガスセンサ1を内燃機関の排気流路(図示せず。)に取付けるネジ部62と、ネジ部62を排気流路にネジ込むための取付工具を係合させる六角部63と、が周方向にわたって設けられている。ネジ部62と六角部63との間には、環状のガスケット64が配置されている。ガスケット64は、ガスセンサ1と排気流路との間の隙間からのガス抜けを防止するものである。
【0069】
主体金具60における六角部63よりも後端側には、ガスセンサ素子10を加締め固定する加締固定部67と、が形成されている。
主体金具60の内部には、段部61から後端側に向かって順に、金属製の先端側パッキン71、アルミナからなる筒状の支持部材72、金属製の後端側パッキン73、滑石の粉末からなる充填部材74、アルミナ製のスリーブ75、および、環状のリング76が配置されている。支持部材72の内周面には段部が形成されており、当該段部によりガスセンサ素子10の突出部14が支持されている。なお、支持部材72と突出部14との間に後端側パッキン73が挟まれて配置されている。
【0070】
リング76は、スリーブ75と加締固定部67との間に配置されるものであり、加締固定部67が、径方向内側かつ先端側に変形されることにより加わる先端方向への力を、充填部材74、後端側パッキン73、支持部材72、先端側パッキン71に伝えるものである。この押し付ける力により、充填部材74は軸線O方向に圧縮充填され、かつ、主体金具60の内周面およびガスセンサ素子10の外周面との隙間を気密に埋める。
【0071】
プロテクタ80は、ガスセンサ1が排気流路に取り付けられた際に、流路内に突出するガスセンサ素子10を、流路内を流れるガス中に含まれる水滴や異物等の衝突から保護するものである。プロテクタ80は、ステンレス鋼(例えば、JIS規格のSUS310S)から形成された部材であり、ガスセンサ素子10の先端を覆う保護部材である。
【0072】
プロテクタ80は、軸線O方向に延びる有底筒状に形成された外側プロテクタ81および内側プロテクタ82からなる2重構造を有している。外側プロテクタ81および内側プロテクタ82の後端縁は、主体金具60に溶接によって固定されている。
【0073】
外筒90は、主体金具60とは異なるステンレス鋼(例えば、JIS規格のSUS304L)から形成された部材であり、外筒90の内部に主体金具60が差し込まれて固定されるものである。外筒90の内部には、主体金具60の後端から突出したガスセンサ素子10の後端や、セパレータ30や、シール部材40が配置されている。
【0074】
上記の構成のマスク治具100によれば、マスク部101に係止部105を設けているため、基体120にマスク治具100を取り付けた際に、軸線O方向の配置位置のズレの発生が抑制される。つまり、マスク治具100を基体120に挿入する際に、係止部105を基体120の開口端や、基体120に取り付けた保持部110の端面112などに、鍔状に形成された係止部105を係止させることでマスク部101の軸線O方向の配置位置を定めるとともに、内側電極領域123および内側電極リード領域124に電極を形成する工程においてマスク部101の配置位置が軸線O方向に移動することを抑制できる。そのため、内側電極領域123および内側電極リード領域124などの所望の領域に電極を形成しやすくなる。
【0075】
また、マスク部101と係止部105との間に設けられ、基体120の内表面に全周で接触して覆う筒状部102を有することで、マスク治具100の姿勢変化による配置位置のズレの発生が抑制される。つまり、筒状部102が基体120の内表面に周方向にわたって接触するため、マスク部101と基体120の内表面との相対的な位置関係が変動しにくくなる。そのため、内側電極領域123および内側電極リード領域124などの所望の領域に電極を形成しやすくなる。
【0076】
基体120の内部から突出するとともに、係止部105に向かって基体120の内表面よりも径が大きくなる拡径部104を設けることにより、マスク治具100における拡径部104の内部にメッキ液を貯める空間を確保できる。基体120の内表面に電極を形成する際には、電極の形成に必要な量の金属を析出させるのに必要な量のメッキ液が用いられる。基体120内部の容積は、一般的に上述の必要量のメッキ液の体積よりも小さい。そのため、基体120の内部から突出し、かつ、係止部105に向かって径が大きくなる拡径部104を設けてその内部にもメッキ液を貯めることにより、上述の必要量のメッキ液を貯める空間を確保できる。
【0077】
マスク領域106を覆い、マスク領域106への金属の析出を抑制できるマスク治具100の一部である拡径部104の内部にメッキ液を貯める空間を確保するため、この空間での金属の意図しない析出を抑制できる。例えば、基体120を保持するゴムなどの弾性部材からなる保持部110に上述の必要のメッキ液を貯める空間を確保した場合には、保持部110とメッキ液との接触面で意図しない金属の析出が発生することがある。内側電極領域123および内側電極リード領域124に所望の厚さの電極を形成するためには、上述の意図しない金属の析出を考慮した量のメッキ液を用いる必要がある。特に析出させる金属が貴金属の場合には、高額な材料の使用量が増加するため製造コストが増加しやすい。この場合と比較して、メッキ液を貯める空間を金属の析出を抑制できる拡径部104の内部に設けることにより、金属の使用量を抑制することができ製造コストを抑制しやすくなる。
【0078】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るマスク治具ついて図8から図10を参照して説明する。本実施形態のマスク治具の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、筒状部および係止部の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、図8から図10を用いて主に筒状部および係止部の構成について説明し、その他の構成要素の説明を省略する。なお、図9(a)はマスク治具を正面から見た構成を示す図であり、図9(b)は側面から見た構成を示す図である。
【0079】
本実施形態のマスク治具200は、図8および図9に示すように、マスク部101と、筒状部202と、係止部205と、から主に構成されている。マスク部101、筒状部202および係止部205は、軸線Oにそって順に並んで配置されている。マスク治具200を構成する材料としては、マスク治具100と同様にポリプロピレンなどの樹脂材料を例示することができる。
【0080】
筒状部202はマスク治具200における筒状に形成された部分であり、マスク部101と同じ径で形成された筒状の部分である。筒状部202は、マスク部101と係止部205との間に配置され、マスク部101とともに基体120の内部に挿入されてマスク領域106の一部(図5参照)を覆うものである。
【0081】
係止部205は、筒状部202から径方向の外側に延びる鍔状に形成された部分である。係止部205は、基体120の後端部122と当接して係止することにより、基体120に対するマスク治具200の軸線O方向の配置位置を定めて、配置位置のズレを抑制するものである。
【0082】
次に、マスク治具200を用いたガスセンサ素子10の製造方法について説明する。なお、第1の実施形態と同様である箇所は、その説明を省略する。
まず、基体120の内部マスク治具200が挿入される。このとき、マスク治具200は、係止部205が後端部122に当接して係止されるまで差し込まれる。その後、マスク治具200が差し込まれた基体120は、再び保持部110に差し込まれる(図10参照)。
【0083】
その後の核付け処理以降は第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。メッキ工程が終了した後の取り外し工程では、第1の実施形態と同様に、メッキされた基体120は保持部110から下方へ引き抜かれる。この時、第1の実施形態と異なり、マスク治具200は基体120とともに保持部110から引き抜かれ、その後に基体120から上方へ引き抜かれる。その後の還元工程の処理は、第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0084】
また、上述の製造方法で製造されたガスセンサ素子10を用いたガスセンサ1の製造方法およびガスセンサ1の構造は、第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0085】
上記の構成のように鍔状に形成された係止部205を基体120の後端部122に当接させて、保持部110とで挟持させてマスク部101における軸線O方向の配置位置を定めることにより、軸線O方向にマスク部101の配置位置が移動することを抑制しやすくなる。例えば、基体120の先端部121方向に向かってマスク治具200を押しこむ力が働いても、係止部205が後端部122と保持部110とで挟持されているためマスク治具200が軸線O方向に移動することを抑制できる。
【0086】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係るマスク治具ついて図11から図13を参照して説明する。本実施形態のマスク治具の基本構成は、第2の実施形態と同様であるが、第2の実施形態とは、係止部の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、図11から図13を用いて主に係止部の構成について説明し、その他の構成要素の説明を省略する。なお図12(a)はマスク治具を正面から見た構成を示す図であり、図12(b)は側面から見た構成を示す図である。
【0087】
本実施形態のマスク治具300は、図11および図12に示すように、マスク部101と、筒状部202と、係止部305と、折返し部306から主に構成されている。マスク治具300を構成する材料としては、マスク治具100と同様にポリプロピレンなどの樹脂材料を例示することができる。
【0088】
係止部305は、筒状部202から径方向の外側に延びる鍔状に形成された部分である。係止部305は、基体120の後端部122と保持部110とで挟持させて係止することにより、基体120に対するマスク治具300の軸線O方向の配置位置を定めて、配置位置のズレを抑制するものである。
【0089】
折返し部306は、係止部305における径方向の外側から軸線O方向に沿って図11の下側に向かって延びる筒状の部材である。さらに折返し部306は、基体120の外径以上の内径を有し、図13に示すように折返し部306の内表面が基体120の外表面と接触するように構成されている。
【0090】
次に、マスク治具300を用いたガスセンサ素子10の製造方法について説明する。なお、第1の実施形態と同様である箇所は、その説明を省略する。
まず、基体120の内部マスク治具300が挿入される。マスク治具300は、係止部305が後端部122に当接して係止されるまで差し込まれる。同時に、マスク部101および筒状部202と、折返し部306との間に基体120の後端部122が挟みこまれる。
【0091】
その後の核付け処理以降は第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。メッキ工程が終了した後の取り外し工程では、第1の実施形態と同様に、メッキされた基体120は保持部110から下方へ引き抜かれる。この時、第1の実施形態と異なり、マスク治具200は基体120とともに保持部110から引き抜かれ、その後に基体120から上方へ引き抜かれる。その後の還元工程の処理は、第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0092】
また、上述の製造方法で製造されたガスセンサ素子10を用いたガスセンサ1の製造方法およびガスセンサ1の構造は、第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0093】
上記のように折返し部306を設けることにより、基体120にマスク治具300を取りつけた際にマスク治具300の姿勢が安定しやすくなり、マスク部101の配置位置のズレの発生を抑制しやすくなる。具体的には、マスク治具300を基体120に取り付けた際に、基体120の内部に配置される筒状部202と折返し部306との間に基体120の後端部122近傍の部分が挟みこまれる。そのためマスク治具300は、筒状部202および折返し部306において基体120と接触して姿勢が保持されることとなり、筒状部202のみで姿勢を保持する場合と比較して、より姿勢を安定させやすくなる。
【0094】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係るマスク治具ついて図14を参照して説明する。本実施形態のマスク治具の基本構成は、第2の実施形態と同様であるが、第2の実施形態とは、係止部及び筒状部の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、図14を用いて主に係止部の構成について説明し、その他の構成要素の説明を省略する。
【0095】
本実施形態のマスク治具400は、図14に示すように、マスク部101と、係止部405とから主に構成されている。マスク治具400を構成する材料としては、マスク治具100と同様にポリプロピレンなどの樹脂材料を例示することができる。
【0096】
係止部405は、図15に示すように、マスク部101から基体120の形状に沿って径方向の外側に延びる鍔状に形成された部分である。つまり、基体120は内孔から後端部122にかけてテーパ形状をなしており、係止部405はその形状に沿ってテーパ形状を有しつつ、径方向の外側に延びる。係止部405は、基体120の後端部122と当接して係止することにより、基体120に対するマスク治具400の軸線O方向の配置位置を定めて、配置位置のズレを抑制するものである。
【0097】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。
【符号の説明】
【0098】
1…ガスセンサ、10…ガスセンサ素子、100,200,300,400…マスク治具、101…マスク部、102,202…筒状部、105,205,305,405…係止部、104…拡径部、120…基体、121…先端部(閉塞端)、122…後端部(開口端)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15