(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の井戸層のうちで前記第2p側層に最も近いp側井戸層の厚さは、前記複数の井戸層のうちの他のいずれの前記井戸層の厚さよりも厚い請求項1に記載の半導体発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る半導体発光素子を例示する模式図である。
図2は、第1の実施形態に係る半導体発光素子を例示する模式的断面図である。
まず、
図2により、半導体発光素子の構成の概要について説明する。
【0009】
図2に表したように、本実施形態に係る半導体発光素子110は、n形半導体層10と、p形半導体層20と、発光層30と、を含む。発光層30は、n形半導体層10とp形半導体層20との間に設けられる。
【0010】
n形半導体層10は、窒化物半導体を含む。
n形半導体層10には、例えば、シリコン(Si)がドープされたn形GaN層が用いられる。n形半導体層10は、n形コンタクト層を含む。n形コンタクト層におけるSiの濃度は、例えば、1×10
18(atoms/cm
3)以上1×10
19(atoms/cm
3)であり、例えば、約8×10
18(atoms/cm
3)である。n形半導体層10の厚さは、例えば、2マイクロメートル(μm)以上8μmであり、例えば、5μmである。n形半導体層10の少なくとも一部は、例えば、n形クラッド層として機能する。
【0011】
n形半導体層10からp形半導体層20に向かう方向をZ軸方向とする。Z軸方向は、n形半導体層10、発光層30及びp形半導体層20を含む積層構造体90における積層方向に対して平行である。
本明細書において、積層される状態は、互いに接して重ねられる状態の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる状態も含む。
【0012】
p形半導体層20は、第1p側層21と、第2p側層22と、第3p側層23と、を含む。第2p側層22は、第1p側層21とn形半導体層10との間に配置される。第3p側層23は、第1p側層21と第2p側層22との間に配置される。この例では、第4p側層24がさらに設けられる。第4側層24は、第1p側層21と第3p側層23との間に配置される。
【0013】
第1p側層21は、Mgを含む。第1p側層21として、例えば、Al
x1Ga
1−x1N(0≦x1<1)が用いられる。第1p側層21のAl組成比x1は、例えば、0以上0.01未満である。第1p側層21には、例えば、p形GaN層が用いられる。第1p側層21は、例えば、p側コンタクト層である。第1p側層21におけるMg濃度は、例えば、1×10
20cm
−3以上3×10
21cm
−3以下ある。第1p側層21の厚さは、例えば、5ナノメートル(nm)以上20nm以下であり、例えば、約10nmである。
【0014】
第2p側層22は、Mgを含む。第2p側層22として、例えば、Al
x2Ga
1−x2N(0<x2<1)層が用いられる。
第3p側層23は、Mgを含む。第3p側層23として、例えば、Al
x3Ga
1−x3N(x2<x3<1)層が用いられる。
第2p側層22及び第3p側層23の例については、後述する。
【0015】
第4p側層24は、Mgを含む。第4p側層24として、例えば、Al
x4Ga
1−x4N(0≦x4<1)が用いられる。第4p側層24のAl組成比x4は、Al組成比x3よりも低い。例えば、Al組成比x4は、Al組成比x2よりも低い。Al組成比x4は、例えば、0以上0.1未満である。第4p側層24としては、例えば、p形GaN層が用いられる。第4p側層24は、例えば、p側クラッド層として機能する。第4p側層24におけるMg濃度は、第1p側層21におけるMg濃度よりも低い。第4p側層24におけるMg濃度は、例えば、1×10
19cm
−3以上1×10
20cm
−3以下である。第4p側層24の厚さは、例えば、20nm以上150nm以下であり、例えば約80nmである。
【0016】
発光層30は、n形半導体層10と、p形半導体層20の第2p側層22と、の間に配置される。
【0017】
この例では、n形半導体層10は、第1部分10pと、第2部分10qと、含む。第2部分10qは、Z軸方向に対して垂直な方向に沿って第1部分10pと並ぶ。この例では、p形半導体層20は、第1部分10pに対向する。発光層30は、第1部分10pと、p形半導体層20と、の間に設けられる。
【0018】
本願明細書において、対向する状態は、直接面している状態に加え、間に別の要素が挿入されている状態も含む。
【0019】
発光層30は、例えば、多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構成を有する。発光層30は、複数の障壁層31と、複数の井戸層32と、を含む。複数の井戸層32のそれぞれは、複数の障壁層31どうしのそれぞれの間に設けられる。例えば、複数の障壁層31と、複数の井戸層32と、がZ軸方向に沿って交互に積層される。
【0020】
発光層30は、例えば、(n+1)個の障壁層31と、n個の井戸層32と、を含む(nは、2以上の整数)。第(i+1)障壁層BL(i+1)は、第i障壁層BLiとp形半導体層20との間に配置される(iは、1以上(n−1)以下の整数)。第(i+1)井戸層WL(i+1)は、第n井戸層WLnとp形半導体層20との間に配置される。第1障壁層BL1は、n形半導体層10と第1井戸層WL1との間に設けられる。第n井戸層WLnは、第n障壁層BLnと第(n+1)障壁層BL(n+1)との間に設けられる。第(n+1)障壁層BL(n+1)は、第n井戸層WLnとp形半導体層20との間に設けられる。井戸層32の数nは、例えば、6以上である。
【0021】
障壁層31には、例えば、Al
z1In
y1Ga
1−y1N(0≦y1<1、0≦z1<1)が用いられる。井戸層32には、In
y2Ga
1−y2N(0<y2≦1、y1<y2)が用いられる。すなわち、井戸層32は、Inを含む。障壁層31がInを含む場合は、障壁層31におけるIn組成比y1は、井戸層32におけるIn組成比y2よりも低い。または、障壁層31は、Inを実質的に含まない。障壁層31には、例えばGaN層が用いられる。障壁層31におけるバンドギャップエネルギーは、井戸層32におけるバンドギャップエネルギーよりも大きい。障壁層31におけるIn組成比y1は、例えば、0.01以下である。井戸層32におけるIn組成比y2は、例えば、0.08以上0.18以下であり、例えば、0.1以上0.14以下である。
【0022】
井戸層32の厚さは、例えば、1.5nm以上6nm以下である。
以下に説明するように、複数の障壁層31において、p形半導体層20に近い障壁層31の厚さは薄い。それ以外の障壁層31の厚さは、例えば、3.5nm以上8nmである。
【0023】
複数の障壁層31のうちでp形半導体層20に最も近い障壁層31をp側障壁層31pとする。p側障壁層31pは、第(i+1)障壁層BL(i+1)に相当する。複数の井戸層32のうちでp形半導体層20に最も近い井戸層32をp側井戸層32pとする。p側井戸層32pは、第n井戸層WLnに相当する。例えば、p側障壁層31pは、複数の障壁層31のうちの最上障壁層に相当する。例えば、p側井戸層32pは、複数の井戸層32のうちの最上井戸層に相当する。
【0024】
以下では、p側障壁層31pがInを実質的に含まない場合の例について説明する。すなわち、p側障壁層31pにおいては、上記のIn組成比y1が実質的に0である。例えば、In組成比y1は、0.001以下である。
【0025】
p側障壁層31pは、第1層33aと第2層33bとを含む。第1層33aは、p側井戸層32pと、p形半導体層20(例えば第2p側層22)と、第2層33bは、の間に配置される。第1層33aとp形半導体層20(例えば第2p側層22)との間に配置される。
【0026】
第1層33aには、Al
z1Ga
1−z1N(0≦z1)層が用いられる。第2層33bには、Al
z2Ga
1−z2N(z1<z2<x2)層が用いられる。第1層33aには、例えば、GaN層が用いられる。第2層33bには、例えば、AlGaN層が用いられる。第1層33aにおけるAl組成比z1は、第2層33bにおけるAl組成比z2よりも低い。第2層33aがAlを含まない状態も、Al組成比z1がAl組成比z2よりも低い状態に含まれる。第2層33bにおけるAl組成比z2は、第2p側層22におけるAl組成比x2よりも低い。
【0027】
複数の障壁層31のうちでp側障壁層31pを除く障壁層31の厚さは、例えば、p側障壁層31pの厚さよりも厚い。複数の障壁層31のうちでp側障壁層31pを除く障壁層31の厚さは、例えば、井戸層32の厚さよりも厚い。複数の障壁層31のうちでp側障壁層31pを除く障壁層31の厚さは、例えば、複数の井戸層32のうちでp側井戸層32pを除く井戸層32の厚さよりも厚い。
【0028】
これに対して、p側障壁層31pの厚さは、例えば、井戸層32の厚さよりも薄い場合がある。例えば、p側障壁層31pの厚さは、p側井戸層32pの厚さよりも薄い場合がある。
p側井戸層32p及びp側障壁層31pの例については、後述する。
【0029】
この例では、半導体発光素子110は、基板50と、下地層60と、第1電極70と、第2電極80と、をさらに含む。下地層60は、積層構造体90に含まれる。基板50とn形半導体層10との間に下地層60が設けられる。
【0030】
第1電極70は、n形半導体層10に電気的に接続される。第2電極80は、p形半導体層20に電気的に接続される。
【0031】
この例では、第1電極70は、n形半導体層10うちの第2部分10qの上に設けられている。第1電極70は、n形半導体層10と電気的に接続される。第2電極80は、例えば、p形半導体層20の上に設けられ、p形半導体層20と電気的に接続される。
【0032】
本願明細書において、「上に設けられる」状態は、直接接して設けられる状態の他に、間に他の層が挿入される状態も含む。
【0033】
第1電極70と第2電極80との間に電圧を印加することで、n形半導体層10及びp形半導体層20を介して、発光層30に電流が供給される。発光層30から光が放出される。半導体発光素子110は、例えば、発光ダイオード(LED)である。半導体発光素子110は、レーザダイオード(LD)でも良い。
【0034】
発光層30から放出される光(発光光)のピーク波長は、例えば400nm以上650nm以下である。
【0035】
この例では、半導体発光素子110は、積層体40をさらに含む。n形半導体層10と発光層30との間に積層体40が設けられる。積層体40は、積層構造体90に含まれる。積層体40には、例えば、窒化物半導体層の積層膜が用いられる。
【0036】
積層体40は、例えば、複数の第1膜41と複数の第2膜42とを含む。複数の第1膜41と複数の第2膜42とは、Z軸方向に交互に積層される。
【0037】
第1膜41には、例えば、GaN層が用いられる。第1膜41には、例えば、Siがドープされたn形GaN層が用いられる。第1膜41におけるSi濃度は、例えば、5×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下であり、例えば約2×10
18cm
−3である。第1膜41の厚さは、例えば、1nm以上5nm以下であり、例えば3nmである。
【0038】
第2膜42には、例えば、InGaN層が用いられる。第2膜42には、例えば、アンドープのIn
αGa
1−αN(0<α<0.1)層が用いられる。第2膜42の厚さは、例えば、0.5nm以上5nm以下であり、例えば約1nmである。積層体40は、例えば、超格子構造を有する。この例では、第2膜42の数は、例えば20以上である。
【0039】
以下、発光層30及びp形半導体層20の例について説明する。
図1は、発光層30及びp形半導体層20におけるAl組成比の例をモデル的に表している。横軸は、深さ方向(Z軸方向)の位置dzである。縦軸は、Al組成比CAlを表す。
【0040】
図1に表したように、p側井戸層32p、p側障壁層31pの第1層33a、p側障壁層31pの第2層33b、第2p側層22及び第3p側層23が、この順で並ぶ。
【0041】
p側井戸層32pにおけるAl組成比CAlは、例えば実質的に0である。
【0042】
第2層33bにおけるAl組成比z2は、第1層33aにおけるAl組成比z1よりも高い。第2p側層22におけるAl組成比x2は、第2層33bにおけるAl組成比z2よりも高い。第3p側層23におけるAl組成比x3は、第2p側層23におけるAl組成比x2よりも高い。
【0043】
以下、p側井戸層32p、p側障壁層31p、第2p側層22及び第3p側層23の例について説明する。
【0044】
p側井戸層32pには、例えば、In
y3Ga
1−y3N(0<y3≦1、y1<y3)が用いられる。p側井戸層32pの厚さは、例えば、3nm以上6nm以下である。p側井戸層32pの厚さは、例えば、他の井戸層32の厚さと同じでも良く、異なっても良い。後述するように、p側井戸層32pの厚さは、他のいずれの井戸層32の厚さよりも厚くても良い。p側井戸層32pにおけるIn組成比y3は、他の井戸層32におけるIn組成比y2とは異なっても良い。
【0045】
p側障壁層31pの第1層33aには、Al
z1Ga
1−z1N(0≦z1)が用いられる。p側障壁層31pにおけるAl組成比z1は、例えば、実質的に0である。Al組成比z1は、例えば、0.003未満である。第1層33aにおけるMg濃度は、例えば、p形半導体層20(例えば第4p側層24)におけるMg濃度よりも低い。第1層33aには、例えば、アンドープのGaN層が用いられる。
【0046】
p側障壁層31pの第2層33bには、例えば、Al
z2Ga
1−z2N(z1<z2<x2)層が用いられる。第2層33bにおけるAl組成比z2は、例えば、0.003以上0.03未満であり、例えば、0.01である。第2層33bにおけるMg濃度は、p形半導体層20(例えば第4p側層24)におけるMg濃度よりも低い。第2層33bには、例えば、アンドープのAlGaN層が用いられる。
【0047】
p側障壁層31pの厚さは、3.5nm未満である。第1層33aの厚さは、例えば、2nm以上3nm未満である。第2層33bの厚さは、例えば、0.5nm以上1.5nm未満である。第1層33aの厚さに関する上記の範囲と、第2層33bの厚さに関する上記の範囲と、は、p側障壁層31pの厚さが、3.5nm未満であるという条件を満たすように設定される。例えば、第1層33aの厚さと第2層33bの厚さとの合計は、3.5nm未満である。
【0048】
第2p側層22におけるAl組成比x2は、例えば、0.03以上0.15未満であり、例えば、0.1である。第2p側層22は、例えば、発光層30に電子を閉じ込める第1の電子ブロック層として機能する。第2p側層22におけるMg濃度は、5×10
18cm
−3以上5×10
19cm
−3以下である。第2p側層22の厚さは、例えば、5nm以上20nm以下であり、例えば7.5nmである。
【0049】
第3p側層23は、Mgを含む。第3p側層23として、例えば、Al
x3Ga
1−x3N(x2<x3<1)層が用いられる。第3p側層23のAl組成比x3は、例えば、0.15以上0.25以下であり、例えば、0.20である。第3p側層23も、例えば、発光層30に電子を閉じ込める第2の電子ブロック層として機能する。第3p側層23におけるMg濃度は、第2p側層22におけるMg濃度よりも高い。第3p側層23におけるMg濃度は、例えば、5×10
19cm
−3以上3×10
20cm
−3cm
−3以下である。第3p側層23の厚さは、例えば、5nm以上20nm以下であり、例えば7.5nmである。
【0050】
このように、Al組成比CAlは、発光層30からp形半導体層20に向かって、第2層33b、第2p側層22及び第3p側層23の順に上昇する。この例では、Al組成比CAlの変化(増加)は、段階的である。
【0051】
半導体発光素子110においては、p側障壁層31pの厚さが、3.5nmm未満と、非常に薄く設定されている。p側障壁層31pの厚さが非常に薄いため、電子ブロック層として機能するp形半導体層20(例えば第2p側層22)が、p側井戸層32pに近い。そのため、正孔の注入効率が大幅に改善され、井戸層32での発光再結合確率が高まる。
【0052】
さらに、半導体発光素子110においては、発光層30の第2層33bからp形半導体層20に向かう方向に沿って、Al組成比が増加する。例えば、p側障壁層31pの第1層33a(例えばGaN層)の上に、Al組成比が0.01のAlGaN層(第2層33b)が設けられ、その上にAl組成比が0.1のAlGaN層(第2p側層22)が設けられ、その上にAl組成比が0.2のAlGaN層(第3p側層23)が設けられる。このように、Al組成比CAlを井戸層32に近い部分(p側障壁層31pの第2層33a)で低くし、井戸層32から離れた部分(第3p側層23)で高くすることで、第3p側層23におけるAl組成比x3を高くできる。
【0053】
Al組成比を高くすると、結晶性が低下し易い。Al組成比が低いと高い結晶性が得られる。本願発明者は、種々の実験により、発光層30からp形半導体層20に向かう方向に沿ってAl組成比CAlを上昇させることで、高い結晶性を維持したまま、第3p側層23におけるAl組成比x3を高めることができることを掴んだ。第3p側層23におけるAl組成比x3を高くすることで、高い電子ブロック効果が得られる。これにより、発光効率が向上できる。
【0054】
さらに、本実施形態においては、p形半導体層20から発光層30へのMgの拡散(移動)を抑制できる。
Mgを含むp形半導体層20を発光層30に近づけると、Mgが発光層30内に拡散してしまい、発光層30の品質が低下する場合がある。そのため、発光層30(井戸層32)からp形半導体層20を遠ざけるために、発光層30とp形半導体層20との間に中間層(拡散防止層)などを配置する構成が考えられる。この構成においては、発光層30とp形半導体層20との間の距離が長く、例えば、その距離は、4nm以上である。場合によっては、6nm以上とされる。
【0055】
本願発明者の検討によると、Mgを含む電子ブロック層におけるAl組成比CAlが高い場合には、電子ブロック層から発光層30へのMgの拡散(移動)の程度が大きいのに対して、Mgを含む電子ブロック層におけるAl組成比CAlが低い場合には、Mgの拡散(移動)の程度が小さくなることを見出した。Al組成比が高いと結晶性が悪いためMgが離脱し易いと考えられる。例えば、第2p側層22におけるAl組成比x2が高いと、それに含まれるMgが離脱し易く、離脱したMgが井戸層32に移動し易いと考えられる。第2p側層22におけるAl組成比x2が低いと、それに含まれるMgは離脱し難く、Mgは井戸層32に移動し難い。
【0056】
Mgの拡散を抑制するために第2p側層22におけるAl組成比x2を低くすると、電子ブロック効果が小さくなる。本実施形態においては、井戸層32から離れた第3p側層23におけるAl組成比x3を高めることで、高い電子ブロック効果を得る。そして、Mgの拡散(移動)が抑制できるため、第2p側層22を井戸層32に近接させることができる。これにより、ホールの注入効率が高まる。
【0057】
このように、本実施形態にかかる半導体発光素子110においては、発光層30からp形半導体層20に向かう方向に沿って、Al組成比を増加させる。発光層30に近い部分におけるAl組成比が低く発光層30へのMgの拡散が抑制できるため、電子ブロック層(例えば第2p側層22)を発光層30に近づけることができる。これにより、ホールの注入効率が向上できる。そして、高い結晶性を維持しつつ、第3p側層23のAl組成比x3を高くでき、電子のブロック効率を高めることができる。これにより、高い発光効率が得られる。
【0058】
多重量子井戸構造を有する発光層30においては、例えば、GaN層とInを含む層(InGaN層)と、が交互に積層される。発光層30においては、Inを含むInGaN層が、InGaN層とは格子定数の異なるGaN層上に、コヒーレントに形成される。それにより、発光層30内に応力が蓄積される。発光層30においては、p形半導体層20に近づくほど応力が大きくなり、結晶欠陥が生じ易くなる。これに加えて、超格子構造を有する積層体40においても、積層体40内に応力が蓄積される。積層体40においても、p形半導体層20に近づくほど応力が大きくなり結晶欠陥が生じ易い。
【0059】
電子ブロック効果を高めるためには、p形半導体層20において、Al組成比を高めることが望ましい。しかしながら、Al組成比が高い電子ブロック層を発光層30の近くに配置すると、格子不整合が顕著となり、格子定数のミスマッチにより結晶欠陥が導入され易い。特にAl組成が高い場合や、層の厚さが厚い場合には、結晶欠陥がより発生し易くなる結晶欠陥は、半導体発光素子の発光効率を低下させる。
【0060】
発光層30のInGaN層(p側井戸層32p)の近くに、Alを含む層(例えばp側障壁層31pの第2層33bや、p形半導体層20の第2p側層22)を配置することで、カウンターバランスにより、発光層30に蓄積された応力を緩和することができ、結晶欠陥の導入が軽減されると考えられる。
【0061】
Al組成比CAlが過度に高いAl含有層がp側井戸層32pに近づくと、逆に構成不整合が大き過ぎて、ミスマッチによる結晶欠陥が生じ易くなる。本実施形態においては、Al組成比CAlが高い層(第3p側層23)とp側井戸層32pとの間に、Al組成比CAlが低い第2p側層22を挿入することで、ミスマッチによる結晶欠陥の発生を抑制できる。これにより、結晶性が高まり、発光効率が向上する。
【0062】
本実施形態に係る半導体発光素子110においては、p形半導体層20の電子ブロック層(例えば第2p側層22)を発光層30の近くに配置しつつ、p形半導体層20内において発光層30から離れた位置にAl組成比が高い層(例えば第3p側層23)を配置する。発光層30からp形半導体層20に向かう方向に沿って、Al組成比を増加させる。これにより、格子長は、急激に変化するのではなく、徐々に変化する。応力も徐々に緩和される。格子定数のミスマッチが生じ難く、結晶欠陥の発生を抑制できる。電子ブロック層のAl組成比CAlを高くすることができるため、電子ブロック効果を高めることが可能となる。これにより、総合的に広い電流領域において、発光効率を高めることができる。
【0063】
図3は、第1の実施形態に係る半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。
図3は、半導体発光素子の発光効率を表すグラフ図である。横軸は、p側障壁層31pの厚さdp(ナノメートル:nm)である。縦軸は、発光効率Eff(ミリワット/ミリアンペア:mW/mA)である。発光効率Effは、半導体発光素子から放射される光の強度を、半導体発光素子に供給される電流Idで除算した値に対応する。
図3においては、電流Idが100mAのときの発光効率Effが示されている。
【0064】
図3には、実施形態に係る半導体発光素子111の特性に加え、第1〜第3参考例の半導体発光素子119a〜119c(断面図は省略する)の特性も例示されている。
【0065】
半導体発光素子111は、
図1及び
図2に関して説明した半導体発光素子110の構成を有する。以下、半導体発光素子111の具体的な構成について説明する。
【0066】
半導体発光素子111は、積層構造体90を有する。積層構造体90においては、c面サファイアの基板50上に、バッファ層(図示しない)、厚さが3μmのアンドープGaN層(下地層60)、厚さが5μmでSi濃度が8×10
18atoms/cm
3のn形GaN層(n形半導体層10)、積層体40、発光層30及びp形半導体層20が、この順に積層されている。
【0067】
積層体40においては、例えば、厚さ3nmでSi濃度が2×10
18atoms/cm
3のn形GaN層(第1膜41)と、厚さ1nmでIn組成比が0.07のアンドープInGaN層(第2膜42)と、が交互に30周期積層されている。
【0068】
発光層30においては、例えば、厚さが5nmのGaN層(障壁層31)と、厚さが3.5nmのInGaN層(井戸層32、p側井戸層32p)と、が8ペア積層される。8ペアのうちの最後の井戸層32が、p側井戸層32pとなる。この例では、p側井戸層32p及び他の井戸層32において、In組成比は、0.13である。p側井戸層32pの厚さは、他の井戸層32の厚さと同じである。さらに、p側井戸層32pの上に、p側障壁層31pが積層される。すなわち、p側障壁層31pの第1層33aとなるGaN層が形成される。第1層33aにおけるAl組成比z1は0である。そのGaN層の上に、p側障壁層31pの第2層33bとなる、Al組成比z2が0.01のアンドープAlGaN層が形成される。第1層33aと第2層33bの厚さの合計は、3nmである。例えば、第1層33aの厚さが2nmであり、第2層33bの厚さが1nmである。
【0069】
p形半導体層20として、第2p側層22と、第3p側層23と、第4p側層24と、第1p側層21と、が、この順に積層される。例えば、第2p側層22として、厚さが7.5nmで、Al組成比x2が0.1で、Mg濃度が約1×10
19以上1×10
20cm
−3以下のp形AlGaN層が形成される。その上に、第3p側層23として、厚さが7.5nmで、Al組成比x3が0.2で、Mg濃度が約1×10
20以上3×10
20cm
−3以下のp形AlGaN層が形成される。その上に、第4p側層24として、厚さが80nmで、Mg濃度が約2×10
19cm
−3のp形GaN層が形成される。その上に、第1p側層21として、厚さが10nmで、Mg濃度が約1×10
21cm
−3のp形GaN層が形成される。
【0070】
この積層構造体90において、p形半導体層20の表面側から、エッチングを行いn形半導体層10一部を露出させる。露出したn形半導体層10の上に、Ti膜/Pt膜/Au膜(第1電極70)が形成。コンタクト層であるp形GaN層(第1p側層21)の上に、Ni膜/Au膜(第2電極80)が形成される。
【0071】
一方、第1参考例の半導体発光素子119aにおいては、p側障壁層31pの第1層33a(GaN層)の厚さが3nmであり、p側障壁層31pの第2層33b(アンドープAlGaN層)の厚さが2nmである。これ以外の構成は、半導体発光素子111と同じである。半導体発光素子119aにおいては、p側障壁層31pの厚さが、5nmであり、第3p側層23のAl組成比x3は、第2p側層22のAl組成比x2よりも高い。
【0072】
第2参考例の半導体発光素子119bにおいては、p側障壁層31pの第1層33a(GaN層)の厚さが5nmであり、p側障壁層31pの第2層33b(アンドープAlGaN層)の厚さが3nmであり、第3p側層23(p形AlGaN層)のAl組成比x3は0.1である。それ以外の構成は、半導体発光素子111と同じである。半導体発光素子119bにおいては、p側障壁層31pの厚さが、8nmであり、第3p側層23のAl組成比x3は、第2p側層22のAl組成比x2と同じである。
【0073】
第3参考例の半導体発光素子119cにおいては、p側障壁層31pの第1層33a(GaN層)の厚さが3nmであり、p側障壁層31pの第2層33b(アンドープAlGaN層)の厚さが2nmであり、第3p側層23(p形AlGaN層)のAl組成比x3は0.1である。それ以外の構成は、半導体発光素子111と同じである。半導体発光素子119cにおいては、p側障壁層31pの厚さが、5nmであり、第3p側層23におけるAl組成比x3は第2p側層22におけるAl組成比x2と同じである。
【0074】
図3に表したように、半導体発光素子119aにおける発光効率Effは、45%である。半導体発光素子119cにおける発光効率Effは、42%である。半導体発光素子119aにおける発光効率Effは、半導体発光素子119cよりも高い。前者においては、第3p側層23のAl組成比x3は、第2p側層22のAl組成比x2よりも高い。後者においては、第3p側層23のAl組成比x3は、第2p側層22のAl組成比x2と同じである。第3p側層23のAl組成比x3を、第2p側層22のAl組成比x2よりも高くすることで、発光効率Effを向上できることが分かる。
【0075】
半導体発光素子119bにおける発光効率Effは、41%である。半導体発光素子119cにおける発光効率Effは、半導体発光素子119bよりも高い。前者のp側障壁層31pの厚さ(5nm)は、後者のp側障壁層31pの厚さ(8nm)よりも薄い。このことから、p側障壁層31pの厚さが薄い方が発光効率Effを向上できることが分かる。
【0076】
一方、半導体発光素子111における発光効率Effは、49%である。半導体発光素子111においては、半導体発光素子119a〜119cのいずれよりも高い発光効率Effが得られる。半導体発光素子111においては、第3p側層23のAl組成比x3を、第2p側層22のAl組成比x2よりも高く、かつ、p側障壁層31pの厚さが3nmと薄い。
【0077】
p側井戸層32pと、第2p側層22と、の間の距離(この例では、p側障壁層31pの厚さに対応する)が、3nm未満のときに、発光効率の向上効果が特に高いことが分かった。
【0078】
図4(a)〜
図4(c)は、第1の実施形態に係る別の半導体発光素子を例示する模式図である。
図4(a)〜
図4(c)は、第1の実施形態に係る別の半導体発光素子110a〜110cにおけるAl組成比の例を、それぞれ表している。横軸は、深さ方向(Z軸方向)の位置dzであり、縦軸は、Al組成比CAlである。
【0079】
図4(a)に表したように、半導体発光素子110aにおいて、Al組成比CAlは、第1層33aと第2層33bとの間、第2層33bと第2p側層22との間、及び、第2p側層22と第3p側層23との間において、それぞれ、緩やかに変化する。この例では、各層内においては、Al組成比CAlは、ほぼ一定である。Al組成比CAlは、p側障壁層31pからp形半導体層20に向かう方向に沿って上昇している。
【0080】
図4(b)に表したように、半導体発光素子110bにおいて、Al組成比CAlは、各層内において、変化(上昇)している。
【0081】
図4(c)に表したように、半導体発光素子110cにおいては、Al組成比CAlは、各層どうし間、及び、各層内において、連続的に変化している。
【0082】
半導体発光素子110a〜110cにおいても、Al組成比CAlは、p側障壁層31pからp形半導体層20に向かう方向に沿って上昇する。そして、p側障壁層31pの厚さは、3.5nm未満である。これらの半導体発光素子においても、高い発光効率が得られる。
【0083】
各層の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、または、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)などにより検出できる。各層における、組成比及び不純物濃度(Mg濃度など)は、例えば、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry)により検出できる。エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)を用いても良い。
【0084】
本実施形態において、基板50として、例えば、サファイア基板(例えばc面サファイア基板)が用いられる。基板50には、例えば、GaN、SiC、ZnO及びSiなどの基板を用いても良い。例えば、基板50の上に、積層構造体90が形成される。この形成は、例えばエピタキシャル成長である。積層構造体90の形成の後に、基板50が除去されても良い。
【0085】
下地層60として、例えば、アンドープのGaN層が用いられる。下地層60の厚さは、例えば、約1μm以上5μm以下であり、例えば、約3μmである。基板50を除去する際に、下地層60の少なくとも一部が除去されてもよい。基板50と下地層60との間に、バッファ層をさらに設けても良い。下地層60として、AlGaN層を用いても良い。下地層60及びバッファ層の少なくともいずれかとして、複数の窒化物半導体層の積層膜を用いても良い。
【0086】
第1電極70には、例えば、Ti膜/Pt膜/Au膜の積層膜が用いられる。第2電極80には、例えば、Ni膜/Au膜の積層膜が用いられる。
【0087】
本実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の例について説明する。
c面サファイアなどの基板50を、例えば、有機洗浄及び酸洗浄する。洗浄後の基板50上に、バッファ層、下地層60、n形半導体層10、積層体40、発光層30、及び、p形半導体層20を順に結晶成長させる。これにより、基板50の上に、積層構造体90が形成される。バッファ層は、必要に応じて形成される。
【0088】
積層構造体90の形成には、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。これらの層の形成には、ハイドライド気相成長法(HVPE:Halide Vapor Phase Epitaxy)、分子線気相成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)などを用いても良い。ここでは、MOCVD法により積層構造体90を形成する例について説明する。
【0089】
洗浄後の基板50を、MOCVD装置の反応室内に収納する。窒素(N
2)ガスと水素(H
2)ガスとの常圧混合ガス雰囲気中で、抵抗加熱により、基板50の温度を、1160℃に上昇させる。これにより、基板50の表面が気相エッチングされ、表面に形成されている自然酸化膜が除去される。
【0090】
基板50の温度を、530℃まで下げる。基板50の上にバッファ層(低温バッファ層)を形成する。バッファ層の形成においては、キャリアガスと、プロセスガスと、が供給される。キャリアガスとして、例えば、N
2ガスとH
2ガスの混合ガスが用いられる。プロセスガスとして、この例では、V族原料ガスと、Gaを含むガスと、Alを含むガスと、が供給される。V族原料ガスとして、例えば、アンモニア(NH
3)ガスが用いられる。Gaを含むガスとして、例えば、トリメチルガリウム(TMG:Tri-Methyl Gallium)が用いられる。Gaを含むガスとして、例えば、トリエチルガリウム(TEG:Tri Ethyl Gallium)が用いられても良い。Alを含むガスとして、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA:Tri-Methyl Aluminum)が用いられる。
【0091】
下地層60として、例えば、アンドープのGaN層を形成する。NH
3の供給を続けながら、TMG及びTMAの供給を停止する。温度を1160℃まで上昇させる。温度を1160℃に保持しつつ、再びTMGを供給する。これにより、下地層60が形成される。
【0092】
n形半導体層10として、例えば、n形GaN層を形成する。プロセスガスは変化させず、Siを含むガスをさらに供給する。Siを含むガスとして、例えば、シラン(SiH
4)ガスが用いられる。基板50の温度は1160℃である。
【0093】
NH
3の供給を続けながら、TMG及びSiH
4ガスの供給を停止する。基板50の温度を、800℃まで下げ、800℃で保持する。
【0094】
積層体40の第1膜41として、例えば、n形GaN層を形成する。基板50の温度は、800℃である。キャリアガスとして、N
2ガスを用いる。プロセスガスとして、NH
3、TMG及びSiH
4ガスを用いる。
【0095】
積層体40の第2膜42として、例えば、アンドープIn
y3Ga
1−y3N(0<y3<0.1)層を形成する。第2膜42の形成においては、SiH
4ガスの供給を停止し、Inを含むガスを供給する。Inを含むガスとして、例えば、トリメチルインジウム(TMI:Tri-Methyl Indium)が用いられる。基板50の温度は、800℃である。
【0096】
上記の第1膜41の形成と、上記の第2膜42の形成と、を複数回繰り返す。すなわち、SiH
4ガスの供給と、TMIの供給と、を、交互に繰り返す。繰り返しの回数は、例えば、30周期である。これにより、超格子構造を有する積層体40が形成される。
【0097】
発光層30を形成する。まず、障壁層31として、例えば、GaN層を形成する。TMG、TMI、SiH
4ガスの供給を停止する。N
2ガスとNH
3ガスの供給を続けながら、基板50の温度を、880℃まで上昇させる。この後、TMGを供給する。
【0098】
井戸層32として、例えば、In
y2Ga
1−y2N層(0<y2<1)を形成する。井戸層32の形成においては、TMGの供給のみ停止して、基板50の温度を、820℃まで下げる。その後、TMGとTMIとを供給する。
【0099】
例えば、上記の障壁層31の形成と、上記の井戸層32の形成と、を複数回繰り返す。繰り返しの回数は、例えば、8周期である。
【0100】
p側井戸層32pの上に、最終障壁層(p側障壁層31p)を形成する。TMGとTMIの供給を停止する。N
2ガスとNH
3ガスの供給を続けながら、基板50の温度を、880℃まで上昇させて保持する。この後、TMGを供給する。それにより、GaN層(p側障壁層31pの第1層33a)が形成される。
GaN層の上に、例えば、AlGaN層(p側障壁層31pの第2層33b)を形成する。このAlGaN層は、例えば、アンドープである。プロセスガスの供給はそのままにして、TMAをさらに供給することでこのAlGaN層が形成される。
【0101】
次に、NH
3の供給を続けつつ、TMG及びTMAの供給を停止する。N
2ガス雰囲気中で、基板50の温度を、1030℃まで上昇させて保持する。
【0102】
1030℃の基板温度において、p形AlGaN層(第2p側層22)を形成する。キャリアガスとして、N
2ガスとH
2ガスの混合ガスが用いられる。プロセスガスとして、NH
3、TMG、TMA、及び、Mgを含むガスが供給される。Mgを含むガスとして、例えば、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp
2Mg)が用いられる。
さらに、TMAの供給量を増やして、p形AlGaN層(第3p側層23)を形成する。
【0103】
TMG及びCp
2Mgを供給し続けながら、TMAの供給を停止して、p形クラッド層となるp形GaN層(第4p側層24)を形成する。
次に、Cp
2Mgの供給量を増やし、p形コンタクト層となるp形GaN層(第1p側層21)を形成する。
【0104】
NH
3の供給を続けながら、TMG及びCp
2Mgの供給を停止する。すなわち、全てのプロセスガスの供給を停止する。キャリアガスは、引き続き供給する。基板50の温度を自然降下させる。NH
3の供給は、基板50の温度が300℃に達するまで、継続させる。
【0105】
基板50をMOCVD装置の反応室から取り出す。
積層構造体90の一部を、p形半導体層20の側から、n形半導体層10に達するまで除去する。積層構造体90の除去には、例えば、RIE(Reactive Ion Etching)法が用いられる。露出したn形半導体層10の上に、第1電極70を形成する。第1p側層21上に、第2電極80を形成する。
これにより、本実施形態に係る半導体発光素子(例えば半導体発光素子110)が形成される。基板50の上に積層構造体90を形成した後に、基板50を除去しても良い。基板50の除去の際に、下地層60の一部が除去されても良い。
【0106】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る半導体発光素子を例示する模式的断面図である。
図5に表したように、本実施形態に係る半導体発光素子120においては、p側井戸層32pの構成が、複数の井戸層32のうちの他の井戸層32の構成とは異なる。その他の構成については、半導体発光素子110と同様とすることができるので説明を省略する。
【0107】
半導体発光素子120においては、発光層30に含まれる複数の井戸層32において、p側井戸層32pの厚さが最も厚い。例えば、半導体発光素子120において、p側井戸層32pの厚さは、約5nmである。p側井戸層32pを除く他の井戸層32の厚さは、約3.5nmである。
【0108】
この例では、p側井戸層32pにおけるIn組成比は、他の井戸層32におけるIn組成比よりも低い。p側井戸層32pにおけるIn組成比は、例えば、0.12である。他の井戸層32におけるIn組成比は、0.13である。
【0109】
図6は、第2の実施形態に係る半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。
図6は、半導体発光素子120における発光効率を半導体発光素子111の発光効率と共に表している。横軸は、電流Id(ミリアンペア:mA)であり、縦軸は、発光効率Eff(ミリワット/ミリアンペア:mW/mA)である。発光効率Effは、半導体発光素子から放射される光の強度を、半導体発光素子に供給される電流Idで除算した値に対応する。
【0110】
図6に表したように、半導体発光素子120においては、p側井戸層32pの厚さが他の井戸層32と同じである半導体発光素子110と比べて、発光効率Effが向上する。
【0111】
井戸層32の体積を増やすと、半導体発光素子に供給される電流Idが増えた場合においても、井戸層32において電流密度(電荷密度)が高くなることが抑制される。これにより、井戸層32における電流集中(電荷集中)が抑制できる。従って、発光層30からの電子のオーバーフローが抑制され、正孔キャリア注入効率がさらに改善する。特に、p側井戸層32pにおける厚さを他の井戸層32における厚さよりも厚くして、p側井戸層32pにおける堆積を増やす。これにより、p側井戸層32pにおける電流集中が低く維持できる。これにより、発光への寄与の程度が高いp側井戸層32pにおける電流集中を抑制でき、p側井戸層32pにおける発光効率が向上できる。
【0112】
半導体発光素子120においても、p側井戸層32pの近くに電子ブロック層(例えば第2p側層22)が配置され、発光層30からp形半導体層20に向かう方向に沿って、Al組成比CAlが徐々に上昇する。これにより、半導体発光素子120においては、発光効率はさらに高くできる。
【0113】
井戸層32であるInGaN層を厚くすると、発光層30に蓄積される応力が大きくなる。このため、結晶欠陥が導入されやすくなり、高品位な結晶を維持することが難しくなる。
本実施形態である半導体発光素子120においては、p側井戸層32pを厚くするだけでなく、p側井戸層32pに近接して、Al組成比CAlが上昇するAlGaN層が配置される。これにより、p側井戸層32pが厚い場合でも、応力が緩和されやすい。また、Al組成比が高いAlGaN層を含むため、高い電子ブロックも維持されるため、発光効率Effが大幅に改善される。半導体発光素子120においても、高い発光効率が得られる。
【0114】
上記の第1及び第2の実施形態において、発光層30におけるp側障壁層31p(第1層33a、第2層33b)の厚さは、例である。p形半導体層20(例えば第2p側層22、第3p側層23)の厚さ、Al組成比、及び、Mg濃度は、例である。本実施形態において、各層の厚さ、組成比及びMg濃度は種々の変更が可能である。
【0115】
(第3の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体を含むn形半導体層10と、p形半導体層20と、発光層30と、を含む半導体発光素子の製造方法に係る。p形半導体層20は、Mgを含むAl
x1Ga
1−x1N(0≦x1<1)の第1p側層21と、第1p側層21とn形半導体層10との間に設けられMgを含むAl
x2Ga
1−x2N(0<x2<1)の第2p側層22と、第1p側層21と第2p側層22との間に設けられMgを含むAl
x3Ga
1−x3N(x2<x3<1)の第3p側層と、を含む。発光層30は、n形半導体層と第2p側層との間に設けられる。発光層30は、複数の障壁層31と、複数の井戸層32と、を含む。複数の井戸層32のそれぞれは、複数の障壁層31どうしの間に設けられる。
【0116】
図7は、第3の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図7に表したように、本製造方法は、n形半導体層10の上に発光層30を形成する工程(ステップS110)と、発光層30の上にp形半導体層20を形成する工程(ステップS120)と、を含む。
【0117】
発光層30の形成(ステップS110)は、複数の障壁層31のうちで第2p側層22に最も近いp側障壁層31pが、第1層33aと第2層33bとを含み、p側障壁層31pの厚さが3.5nm未満となるように、発光層30を形成することを含む。第1層33aは、n形半導体層10と第2p側層22との間に設けられ、Al
z1Ga
1−z1N(0≦z1)を含む。第2層33bは、第1層33aと第2p側層22との間に設けられ、第1層及び第2p側層22に接し、Al
z2Ga
1−z2N(z1<z2<x2)を含む。
【0118】
例えば、第1の実施形態に係る半導体発光素子110または111に関して説明した製造方法を実施する。本実施形態に係る半導体発光素子の製造方法によれば、発光効率が高い半導体発光素子及びその製造方法が提供できる。
【0119】
実施形態によれば、発光効率が高い半導体発光素子及びその製造方法が提供できる。
【0120】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、B
xIn
yAl
zGa
1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0121】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0122】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、半導体発光素子に含まれる基板、バッファ層、下地層、半導体層、積層体、発光層、及び電極などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0123】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0124】
その他、本発明の実施の形態として上述した半導体発光素子、及び半導体発光素子の製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての半導体発光素子、及び半導体発光素子の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0125】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0126】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。