【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されているロータ体は、ロータカラーをプレス加工によって形成するため比較的廉価である上、バーリング加工によって圧入口を形成するために回転シャフトを十分な圧入代をもって固定可能である。しかし、ロータカラーと永久磁石の固定は、両者の間隙の全周に渡って高価な接着剤を充填する必要があり、接着作業が煩雑である上に、その充填量や硬化時間の管理も煩雑であった。
【0008】
また、特許文献2で開示されているロータ体は、接着剤が不要な点で特許文献1のロータ体よりは有利である。一方、ロータ体の永久磁石の外周面は、ステータの内周面と所定エアギャップ(間隙)をもって対向するため、回転シャフトの回転軸と永久磁石の外周面の同心度には高い精度が要求されていた。したがって、このロータ体は、回転シャフトと永久磁石を一体化するロータカラーの各部もその曲げ加工に高い精度が要求され、永久磁石の内外径の同心度にも高い加工精度が要求されていた。この結果、製造コストが嵩むものであった。
【0009】
特許文献3で開示されているロータ体は、ロータカラーの外縁部を多角形に形成し、その外縁部を永久磁石の内周面に食い込ませて一体化しているため、接着剤が不要となる上に、寸法精度の確保も容易と考えられる。しかし、このロータ体は、上記外縁部を永久磁石側に食い込ませているため、その加工時や加工後の永久磁石に割れやヒビが発生するおそれがあり、その品質管理が困難なものであった。
【0010】
そこで、本願発明は、上記課題に着目してなされたものであり、簡易な構成でありながら回転シャフトと永久磁石の外周面の同心度精度及び回転シャフトの軸心と永久磁石の外周面の寸法精度を確保したロータ体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため本願発明にかかるロータ体は、以下のように構成している
【0012】
すなわち、モータケース内に回転自在に保持される回転シャフトと、該回転シャフトにその中心部をもって垂直に固定した1又は複数個の板状のロータカラーと、該ロータカラーを介して回転シャフトと同軸状に環装保持すると共に異極着磁領域を周面に沿って交互に形成した円筒状の永久磁石と、から構成されたロータ体において、上記ロータカラーは、上記永久磁石
の円筒内へ挿入可能な形状の基板と、該基板から永久磁石の
円筒内径より外径側に突出
させて形成した2個以上の突片とから成り、
該突片を曲げ変形させて永久磁石の円筒状内周面と摩擦固定したことを特徴としている。
【0013】
このロータカラーは、軽量金属の板材から形成し、上記突片を曲げによって塑性変形させると共に、曲げ変形後は突片の永久磁石の内周面への当接面積とその弾発力によって発揮される摩擦力によって永久磁石を固定している。
【0014】
また、前記ロータカラーは、突片に基板から曲げ変形し易い応力集中部を形成したことを特徴としている。この応力集中部は突片部分を基板部分より薄肉状に形成したり、または突片と基板間に薄肉状とした溝を形成したりするようにしても良い。この構成により、突片の応力集中部に曲げ応力が集中し、突片のみの曲げ変形が容易になる。
【0015】
また、ロータカラーの突片の形成位置は、基板中心部に対して対向位置、又は円周等分の多点位置であることを特徴としている。例えば、突片を2個形成した場合には、基板中心部に対して対向位置に形成することであり、3個以上であれば、基板中心部に対して円周等分位置に形成すれば良い。これにより、突片の永久磁石に対する曲げ変形後の摩擦固定位置が均等となり、両者の固定状態が安定する。なお、突片はロータカラーに円周等分で3個以上形成することが好適である。
【0016】
さらに、回転シャフトに対して複数個のロータカラーの固定時には、各ロータカラーの突片の形成位置が回転シャフトの軸方向に対して重畳しない位置としたことを特徴としている。例えば、回転シャフトに2個のロータカラーを固定する場合、ロータカラーの突片が各ロータカラー間で回転シャフトの軸回転方向にずれていることを示す。より具体的には、突片が2個である場合、ロータカラー間でその形成位置を回転シャフトの軸回転方向に180度回転した位置とすることが挙げられる。また、突片が3個であれば、同様に60度回転した位置、突片が4個であれば、同様に45度回転した位置が挙げられる。なお、ロータカラーの固定個数は、永久磁石の高さ寸法にもよるが、少なくとも2個以上の複数個を配置することが好適である。
【0017】
上記構成のロータ体は、ロータカラーの突片を曲げ変形させて永久磁石を摩擦固定する形態を特徴とするため、ロータ体を組み立てる組立治具についても以下に説明する。
【0018】
かかる組立治具は、回転シャフト周囲に空隙をもって永久磁石を同軸状に配置可能とし、少なくとも回転シャフトの軸線と永久磁石の外周面の同心度を芯出しする芯出治具と、該芯出治具に配置した回転シャフトとの干渉を避ける回避孔を中央部に形成すると共に、ロータカラーの突片や前記回避孔以外に当接して上記回転シャフトの所定位置までロータカラーを圧入する円筒状の圧入治具と、から構成する
【0019】
また、上記の芯出治具と圧入治具に加え、上記モータの回転シャフトの外周位に配置した上記圧入治具に外嵌すると共に、圧入治具の全体を案内手段として、永久磁石の端部に当接して上記芯出治具の配置位置に永久磁石を押し込む押込治具と、から構成しても良い。
【0020】
かかる構成の組立治具は、以下のように使用に供する。なお、回転シャフトとロータカラーの固定手段として、ロータカラーの中心部に回転シャフトを圧入固定する圧入口を開孔した例として説明する。
【0021】
まず、芯出治具の所定位置に回転シャフト及び永久磁石を配置する。
次に、突片が半径方向に拡張したロータカラーを、上記圧入口に回転シャフトの先端側の一部が挿入するように配置する。
その後、ロータカラーの突片及び圧入口以外の部分に圧入治具を当接させ、圧入治具を介してロータカラーを回転シャフトに圧入する。回転シャフトが圧入口部分を通過した後は、回転シャフトとの干渉を回避孔で避けつつ、更にロータカラーを永久磁石側に圧入する。この時、ロータカラーの突片は、永久磁石の内周面の母線方向に倣いつつ、押し込み方向と逆方向に曲げ変形(塑性変形)する。
上記ロータカラーが回転シャフトに対して所定高さに達したら圧入治具を止め、圧入治具を芯出治具から取り出す。この時、ロータカラーは回転シャフトの所定位置を圧入によって固定し、塑性変形した突片は永久磁石の内周面を半径方向の外側に押し出す弾発力と当接部分によって発揮される摩擦力により固定している。
そして、次のロータカラーを上記と同様に圧入治具で圧入しつつその突片を曲げ変形させ、ロータカラーを回転シャフトの軸延長方向に多段状に固定し、回転シャフトと永久磁石を複数個のロータカラーを介して一体化させる。
所定数のロータカラーの圧入が終了したら、圧入治具を芯出治具から取り出し、最後に、芯出治具からロータ体を取り出す。
【0022】
この組立治具は、予め回転シャフトと永久磁石の外周面との同心度を決め、これに合わせてロータカラーの突片を永久磁石の内周面に倣わせて曲げ変形させている。このため、ロータ体は、回転シャフトと永久磁石、特にその外周面については良好な同心度精度を確保できる。
【0023】
ロータカラーを2段、又は多段状に複数個配置する場合であって、ロータカラーの突片の曲げ変形方向を異なる方向に設定したい場合は、以下の方法でロータ体を組み立てることも可能である。
【0024】
すなわち、回転シャフト及び永久磁石を芯出治具に配置し、任意のロータカラーの圧入と突片の曲げ変形が完了した後に、回転シャフト、任意のロータカラー、及び永久磁石が一体化したロータ体を、一旦、芯出治具から取り出した上で上下を引っ繰り返し、この引っ繰り返したロータ体を改めて芯出治具に配置し、上記と同様に圧入治具を介して次のロータカラーを圧入し、突片を曲げ変形させる使用方法である。
【0025】
また、上記の芯出治具及び圧入治具に加えて、永久磁石用の押込治具を用いた場合は、以下のように使用に供する。
【0026】
まず、芯出治具の所定位置に回転シャフトのみを配置し、次に、突片が半径方向に拡張したロータカラーを、その圧入口に回転シャフトの先端側の一部が挿入するように配置する。
その後、ロータカラーの突片及び圧入口以外の部分に圧入治具を当接させ、圧入治具を介してロータカラーを回転シャフトに圧入する。回転シャフトが圧入口部分を通過した後は、回転シャフトとの干渉を回避孔で避けつつ、更にロータカラーを回転シャフトに対して所定位置まで圧入する。
次に、圧入治具を上記位置に置いたまま、永久磁石を芯出治具の所定位置に配置する。この時、圧入済みのロータカラーの突片はその半径方向に拡張しているため、永久磁石は途中で停止する。
そして、押込治具を圧入治具に外嵌させつつ永久磁石の上端部に当接させ、圧入治具の全体を案内手段として永久磁石を芯出治具側に押し込む。この時、ロータカラーの突片は、永久磁石の下端部によって押し込み方向側に曲げ変形し始め、さらに押し込まれると永久磁石の内周面に倣いつつ曲げ変形(塑性変形)することとなる。
次に、圧入治具と押込治具を芯出治具から抜き取り、突片が半径方向に拡張した次のロータカラーを、その圧入口に回転シャフトの先端側の一部が挿入するように配置する。
その後、ロータカラーの突片及び圧入口以外の部分に圧入治具を当接させ、圧入治具を介してロータカラーを回転シャフトに圧入する。
回転シャフトが圧入口部分を通過した後は、回転シャフトとの干渉を回避孔で避けつつ、更にロータカラーを永久磁石側に圧入し、ロータカラーの突片を、永久磁石の内周面に倣わせつつ、押し込み方向と逆方向に曲げ変形(塑性変形)させる。
上記ロータカラーが回転シャフトに対して所定高さに達したら圧入治具を止め、圧入治具を取り出す。
最後に、芯出治具からロータ体を取り出す。