特許第6001504号(P6001504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6001504
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】ロータ体
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20160923BHJP
   H02K 37/14 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   H02K1/27 501C
   H02K37/14 K
   H02K37/14 X
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-115844(P2013-115844)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-236563(P2014-236563A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年4月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398075426
【氏名又は名称】沖マイクロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095717
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 博文
(72)【発明者】
【氏名】本柳 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 賢
(72)【発明者】
【氏名】石川 敏之
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−109636(JP,A)
【文献】 特開2000−253609(JP,A)
【文献】 特開平09−215234(JP,A)
【文献】 特開2008−278647(JP,A)
【文献】 特開2004−208353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 37/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケース内に回転自在に保持される回転シャフトと、
該回転シャフトにその中心部をもって垂直に固定した1又は複数個の板状のロータカラーと、
該ロータカラーを介して回転シャフトと同軸状に環装保持すると共に異極着磁領域を周面に沿って交互に形成した円筒状の永久磁石と、
から構成されたロータ体において、
上記ロータカラーは、上記永久磁石の円筒内へ挿入可能な形状の基板と、該基板から永久磁石の円筒内径より外径側に突出させて形成した2個以上の突片とから成り、該突片を曲げ変形させて永久磁石の円筒状内周面と摩擦固定したことを特徴とするロータ体。
【請求項2】
ロータカラーは、突片に基板から曲げ変形し易い応力集中部を形成したことを特徴とする請求項1記載のロータ体。
【請求項3】
ロータカラーの突片の形成位置は、基板中心部に対して対向位置、又は円周等分の多点位置であることを特徴とする請求項1、又は2記載のロータ体。
【請求項4】
回転シャフトに対して複数個のロータカラーの固定時には、各ロータカラーの突片の形成位置を回転シャフトの軸方向に対して重畳しない位置としたことを特徴とする請求項1、2、又は3記載のロータ体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、各種OA機器、家電等に搭載されるステッピングモータの技術分野に属し、特に、その必須構成要素であるロータ体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、PM型(永久磁石型)ステッピングモータの必須構成要素であるロータ体としては、SN極を交互かつ周方向に着磁させた円筒状の永久磁石をその支持部材である円板状のロータカラー(以下、これに相当する部材については「ロータカラー」と称して用いる。)の外周に環装配置し、このロータカラーを回転シャフトに固定するものがあった。
【0003】
かかるロータ体としては、軽量化やコスト削減を図るため、上記ロータカラーに軽量金属の板材を採用するものがある。そして、円板状のロータカラーの中央部にプレスのバーリング加工によって圧入口を形成し、この圧入口に回転シャフトを圧入固定すると共に、ロータカラーの外縁部に永久磁石の内周面を接着剤によって一体化した形態のものが開示されている。例えば、特許文献1には、上記ロータカラーに相当する部材が「カップ」として開示されている。
【0004】
他にも、特許文献2に示すように、回転シャフトの側面の固定部と永久磁石の内周面の固定部とを繋ぎ部をもって板材から一体的に曲げ形成したロータカラー(文献内では「固定部材」。)によって、回転シャフトと永久磁石とを固定するロータ体が開示されている。
【0005】
また、特許文献3に示すように、回転シャフトに対しては圧入により固定すると共に、多角形に形成したロータカラー(文献内では「ブッシュ部材」。)の外縁部を永久磁石の内周面に食い込むようにして一体化したロータ体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−215234号公報
【特許文献2】特開2008−278647号公報
【特許文献3】特開2004−208353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されているロータ体は、ロータカラーをプレス加工によって形成するため比較的廉価である上、バーリング加工によって圧入口を形成するために回転シャフトを十分な圧入代をもって固定可能である。しかし、ロータカラーと永久磁石の固定は、両者の間隙の全周に渡って高価な接着剤を充填する必要があり、接着作業が煩雑である上に、その充填量や硬化時間の管理も煩雑であった。
【0008】
また、特許文献2で開示されているロータ体は、接着剤が不要な点で特許文献1のロータ体よりは有利である。一方、ロータ体の永久磁石の外周面は、ステータの内周面と所定エアギャップ(間隙)をもって対向するため、回転シャフトの回転軸と永久磁石の外周面の同心度には高い精度が要求されていた。したがって、このロータ体は、回転シャフトと永久磁石を一体化するロータカラーの各部もその曲げ加工に高い精度が要求され、永久磁石の内外径の同心度にも高い加工精度が要求されていた。この結果、製造コストが嵩むものであった。
【0009】
特許文献3で開示されているロータ体は、ロータカラーの外縁部を多角形に形成し、その外縁部を永久磁石の内周面に食い込ませて一体化しているため、接着剤が不要となる上に、寸法精度の確保も容易と考えられる。しかし、このロータ体は、上記外縁部を永久磁石側に食い込ませているため、その加工時や加工後の永久磁石に割れやヒビが発生するおそれがあり、その品質管理が困難なものであった。
【0010】
そこで、本願発明は、上記課題に着目してなされたものであり、簡易な構成でありながら回転シャフトと永久磁石の外周面の同心度精度及び回転シャフトの軸心と永久磁石の外周面の寸法精度を確保したロータ体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため本願発明にかかるロータ体は、以下のように構成している
【0012】
すなわち、モータケース内に回転自在に保持される回転シャフトと、該回転シャフトにその中心部をもって垂直に固定した1又は複数個の板状のロータカラーと、該ロータカラーを介して回転シャフトと同軸状に環装保持すると共に異極着磁領域を周面に沿って交互に形成した円筒状の永久磁石と、から構成されたロータ体において、上記ロータカラーは、上記永久磁石の円筒内へ挿入可能な形状の基板と、該基板から永久磁石の円筒内径より外径側に突出させて形成した2個以上の突片とから成り、該突片を曲げ変形させて永久磁石の円筒状内周面と摩擦固定したことを特徴としている。
【0013】
このロータカラーは、軽量金属の板材から形成し、上記突片を曲げによって塑性変形させると共に、曲げ変形後は突片の永久磁石の内周面への当接面積とその弾発力によって発揮される摩擦力によって永久磁石を固定している。
【0014】
また、前記ロータカラーは、突片に基板から曲げ変形し易い応力集中部を形成したことを特徴としている。この応力集中部は突片部分を基板部分より薄肉状に形成したり、または突片と基板間に薄肉状とした溝を形成したりするようにしても良い。この構成により、突片の応力集中部に曲げ応力が集中し、突片のみの曲げ変形が容易になる。
【0015】
また、ロータカラーの突片の形成位置は、基板中心部に対して対向位置、又は円周等分の多点位置であることを特徴としている。例えば、突片を2個形成した場合には、基板中心部に対して対向位置に形成することであり、3個以上であれば、基板中心部に対して円周等分位置に形成すれば良い。これにより、突片の永久磁石に対する曲げ変形後の摩擦固定位置が均等となり、両者の固定状態が安定する。なお、突片はロータカラーに円周等分で3個以上形成することが好適である。
【0016】
さらに、回転シャフトに対して複数個のロータカラーの固定時には、各ロータカラーの突片の形成位置が回転シャフトの軸方向に対して重畳しない位置としたことを特徴としている。例えば、回転シャフトに2個のロータカラーを固定する場合、ロータカラーの突片が各ロータカラー間で回転シャフトの軸回転方向にずれていることを示す。より具体的には、突片が2個である場合、ロータカラー間でその形成位置を回転シャフトの軸回転方向に180度回転した位置とすることが挙げられる。また、突片が3個であれば、同様に60度回転した位置、突片が4個であれば、同様に45度回転した位置が挙げられる。なお、ロータカラーの固定個数は、永久磁石の高さ寸法にもよるが、少なくとも2個以上の複数個を配置することが好適である。
【0017】
上記構成のロータ体は、ロータカラーの突片を曲げ変形させて永久磁石を摩擦固定する形態を特徴とするため、ロータ体を組み立てる組立治具についても以下に説明する。
【0018】
かかる組立治具は、回転シャフト周囲に空隙をもって永久磁石を同軸状に配置可能とし、少なくとも回転シャフトの軸線と永久磁石の外周面の同心度を芯出しする芯出治具と、該芯出治具に配置した回転シャフトとの干渉を避ける回避孔を中央部に形成すると共に、ロータカラーの突片や前記回避孔以外に当接して上記回転シャフトの所定位置までロータカラーを圧入する円筒状の圧入治具と、から構成する
【0019】
また、上記の芯出治具と圧入治具に加え、上記モータの回転シャフトの外周位に配置した上記圧入治具に外嵌すると共に、圧入治具の全体を案内手段として、永久磁石の端部に当接して上記芯出治具の配置位置に永久磁石を押し込む押込治具と、から構成しても良い。
【0020】
かかる構成の組立治具は、以下のように使用に供する。なお、回転シャフトとロータカラーの固定手段として、ロータカラーの中心部に回転シャフトを圧入固定する圧入口を開孔した例として説明する。
【0021】
まず、芯出治具の所定位置に回転シャフト及び永久磁石を配置する。
次に、突片が半径方向に拡張したロータカラーを、上記圧入口に回転シャフトの先端側の一部が挿入するように配置する。
その後、ロータカラーの突片及び圧入口以外の部分に圧入治具を当接させ、圧入治具を介してロータカラーを回転シャフトに圧入する。回転シャフトが圧入口部分を通過した後は、回転シャフトとの干渉を回避孔で避けつつ、更にロータカラーを永久磁石側に圧入する。この時、ロータカラーの突片は、永久磁石の内周面の母線方向に倣いつつ、押し込み方向と逆方向に曲げ変形(塑性変形)する。
上記ロータカラーが回転シャフトに対して所定高さに達したら圧入治具を止め、圧入治具を芯出治具から取り出す。この時、ロータカラーは回転シャフトの所定位置を圧入によって固定し、塑性変形した突片は永久磁石の内周面を半径方向の外側に押し出す弾発力と当接部分によって発揮される摩擦力により固定している。
そして、次のロータカラーを上記と同様に圧入治具で圧入しつつその突片を曲げ変形させ、ロータカラーを回転シャフトの軸延長方向に多段状に固定し、回転シャフトと永久磁石を複数個のロータカラーを介して一体化させる。
所定数のロータカラーの圧入が終了したら、圧入治具を芯出治具から取り出し、最後に、芯出治具からロータ体を取り出す。
【0022】
この組立治具は、予め回転シャフトと永久磁石の外周面との同心度を決め、これに合わせてロータカラーの突片を永久磁石の内周面に倣わせて曲げ変形させている。このため、ロータ体は、回転シャフトと永久磁石、特にその外周面については良好な同心度精度を確保できる。
【0023】
ロータカラーを2段、又は多段状に複数個配置する場合であって、ロータカラーの突片の曲げ変形方向を異なる方向に設定したい場合は、以下の方法でロータ体を組み立てることも可能である。
【0024】
すなわち、回転シャフト及び永久磁石を芯出治具に配置し、任意のロータカラーの圧入と突片の曲げ変形が完了した後に、回転シャフト、任意のロータカラー、及び永久磁石が一体化したロータ体を、一旦、芯出治具から取り出した上で上下を引っ繰り返し、この引っ繰り返したロータ体を改めて芯出治具に配置し、上記と同様に圧入治具を介して次のロータカラーを圧入し、突片を曲げ変形させる使用方法である。
【0025】
また、上記の芯出治具及び圧入治具に加えて、永久磁石用の押込治具を用いた場合は、以下のように使用に供する。
【0026】
まず、芯出治具の所定位置に回転シャフトのみを配置し、次に、突片が半径方向に拡張したロータカラーを、その圧入口に回転シャフトの先端側の一部が挿入するように配置する。
その後、ロータカラーの突片及び圧入口以外の部分に圧入治具を当接させ、圧入治具を介してロータカラーを回転シャフトに圧入する。回転シャフトが圧入口部分を通過した後は、回転シャフトとの干渉を回避孔で避けつつ、更にロータカラーを回転シャフトに対して所定位置まで圧入する。
次に、圧入治具を上記位置に置いたまま、永久磁石を芯出治具の所定位置に配置する。この時、圧入済みのロータカラーの突片はその半径方向に拡張しているため、永久磁石は途中で停止する。
そして、押込治具を圧入治具に外嵌させつつ永久磁石の上端部に当接させ、圧入治具の全体を案内手段として永久磁石を芯出治具側に押し込む。この時、ロータカラーの突片は、永久磁石の下端部によって押し込み方向側に曲げ変形し始め、さらに押し込まれると永久磁石の内周面に倣いつつ曲げ変形(塑性変形)することとなる。
次に、圧入治具と押込治具を芯出治具から抜き取り、突片が半径方向に拡張した次のロータカラーを、その圧入口に回転シャフトの先端側の一部が挿入するように配置する。
その後、ロータカラーの突片及び圧入口以外の部分に圧入治具を当接させ、圧入治具を介してロータカラーを回転シャフトに圧入する。
回転シャフトが圧入口部分を通過した後は、回転シャフトとの干渉を回避孔で避けつつ、更にロータカラーを永久磁石側に圧入し、ロータカラーの突片を、永久磁石の内周面に倣わせつつ、押し込み方向と逆方向に曲げ変形(塑性変形)させる。
上記ロータカラーが回転シャフトに対して所定高さに達したら圧入治具を止め、圧入治具を取り出す。
最後に、芯出治具からロータ体を取り出す。
【発明の効果】
【0027】
上記のように構成した本願発明のロータ体は、以下のような技術的な効果を奏する。
【0028】
すなわち、ロータカラーの複数個の突片がその曲げ変形による弾発力をもって永久磁石の内周面へ当接するため、各突片と前記内周面に摩擦力が発生し、この摩擦力によってロータカラーと永久磁石との固定が可能となる。この結果、回転シャフト、ロータカラー、及び永久磁石が、十分な一体性を確保したロータ体を提供できる。加えて、従来は必要としていた高価、かつ煩雑な固定作業を要する接着剤が不要となり、引いてはステッピングモータ全体の製造コストの削減も図れる。
【0029】
また、ロータ体は、回転シャフトの軸心と永久磁石の外周面の同心度精度を予め設定し、これに適合するようにロータカラーの突片を曲げ変形させる組み立てが可能なため、前記の同心度精度、及び永久磁石の外周面の回転シャフトの軸中心からの寸法精度の確保も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本実施例のロータ体を備えたステッピングモータの一部切り欠き縦断面図である。
図2】本実施例のロータ体を示す一部切り欠き斜視図である。
図3】本実施例のロータ体のロータカラーを示す一部切り欠き斜視図(A)、(B)である。
図4】本実施例のロータ体用の組立治具を示す一部切り欠き組立斜視図である。
図5】本実施例のロータ体用の組立治具の使用方法を示す説明図(A)、(B)である。
図6】本実施例のロータ体用の組立治具の使用方法を示す説明図(C)、(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本願発明のロータ体に関し、その最良の実施形態例を図面に基づいて説明する。
【0032】
まず、図示符号Mは、上記ロータ体1を必須の構成要素とするステッピングモータ(以下、「モータ」と略称する。)である。
【0033】
本実施例のモータMは、図1に示すように、主にモータMのモータケースOの内部に円筒状のステータSを2段状に配置し、このステータSの中央内部空間にロータ体1を2個の軸受Bをもって回転自在に配置して成る構成である。
【0034】
モータケースOからは回転シャフト2の一部が突出してモータ全体の出力部21を成している。また、ステータSは、コイルCを捲回した略円筒体をその厚さ方向に2段重ねた2層構造とし、全体的にも中央内部空間を形成した円筒状を呈している。
【0035】
なお、モータMやステータSの基本的な構成は、従来技術と同様であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0036】
次に、本願発明の主眼であるロータ体1について説明する。
ロータ体1は、モータMの回転力を出力する回転シャフト2の軸延長方向に所定間隔にて2個の円板状のロータカラー3を固定し、さらにこのロータカラー3に外縁部に円筒状の永久磁石4を回転シャフト2と同軸状に固定し、前記回転シャフト2、2個のロータカラー3、及び永久磁石4の全体を一体化させて構成している。
【0037】
かかるロータ体1は、ステータSの中央内部空間に、モータケースOに配置した上下2個の軸受Bによって、回転シャフト2の両端部側を軸支持されてステータSに対して回転自在に配置される。
【0038】
上記ロータカラー3は、永久磁石4に内挿可能な略円板状にメッキ鋼板から形成した基板31と、この基板31の中央に回転シャフト2を圧入状態で固定する圧入口32を形成している。また、一方側の基板31の圧入口32の周囲には、ロータカラー3の剛性向上と回転シャフト2との圧入寸法を確保するため、肉厚としたボス部32aを形成している。
【0039】
また、ロータカラー3の基板31の外縁部には、ボス部形成側に薄肉状とし、かつ永久磁石4の内径寸法より外側に突出した突片33を円周等分で3箇所形成している。この突片33は、上面視で外側が短い台形状(又は爪状)を成すと共に、基板31との接続部において永久磁石4の内周面42の母線方向に倣うように曲げにより塑性変形する(矢印a)。また、3個の突片33は、この曲げ変形後は外側へ拡張する弾発力(矢印b)と永久磁石4の内周面42への当接状態によって発揮される摩擦力をもって、永久磁石4の全体を固定する。さらに、突片33は、上記の薄肉状とすることによって応力集中部を成し、曲げ応力の集中性を高めることにより突変33の基板31からの曲げ変形を容易にしている。
【0040】
なお、本実施例のロータ体1は、2個のロータカラー3を回転シャフト2の軸延長方向に2段状に2個の配置としているが、突片33の位置はロータカラー毎に回転シャフト2の軸方向に重畳しない位置、具体的には回転シャフト1の軸回転方向に対して60度ずれた位置となるように、ロータカラー全体を回転させて固定している。
【0041】
ロータカラー3の外縁部に固定する永久磁石4は、ロータカラー3の突片33の曲げ変形時の弾発力や変形後の摩擦力に耐え得る適度な剛性を有するフェライト、アルニコ、サマリウムコバルト、ネオジムから適宜に選択した焼結系のものから構成している。
【0042】
この永久磁石4は、ロータカラー3と摩擦固定する内周面42と、SN極の着磁域を周方向に交互にかつ所定ピッチで連続的に形成した外周面41と、から円筒状を呈するように形成している。
【0043】
永久磁石4の外周面41は、ロータ体1を成してステータSの中央内部空間に配置された場合、ステータSのヨークの各磁極(図示省略)と所定ギャップ(間隙)をもって対向する。
【0044】
本実施例のロータ体1は上記構成であるが、以下のようにその構成を変更しても良い。
【0045】
すなわち、永久磁石4を固定するロータカラー3は、回転シャフト2に対して2段配置に限定するものでなく、モータMの仕様(例えば、要求トルク)によっては、1段、3段、それ以上の複数個の配置に適宜に変更しても良い。
【0046】
また、上記実施例のロータカラー3の突片33は、曲げによる塑性変形後の永久磁石4の内周面42へ摩擦力を発揮する面積や曲げ変形時の所謂肉逃げスペースを確保するために上記の台形状を成し、かつ3個としているが、この形状に限定するものではない。つまり、上記永久磁石4を固定し得る摩擦力を発揮する面積と、変形後の肉逃げスペースを確保できるものであれば、矩形、三角形、半円形と適宜に変更可能であり、その個数も適宜に増減しても良い。また、突片33の応力集中部としては、突片全体を薄肉状にするだけでなく、基板31との間に溝を形成するようにしても良い。
【0047】
ロータカラー3の材質についても、突片33やボス部32aをプレス加工やバーリング加工によって容易に形成できるために、かかる加工が容易なメッキ鋼板を採用しているが、この材質に限定するものではない。つまり、ロータカラー3の材質は、所定の剛性を確保でき、塑性変形、弾性変形、摩擦係数の所定性状を有するのであればアルミ等の他の金属材としても良い。
【0048】
さらに、ロータカラー3と永久磁石4の回転時のずれを防止するため、ロータカラー3の突片33の他に、例えば、ロータカラー3の外縁部と永久磁石4の内周面42の両者に相互に適合する凹凸部を予め形成し、これを係合させる構成としても良い(図示省略)。
【0049】
本実施例のロータ体1は、ロータカラー3の突片33を曲げ変形させて永久磁石4を摩擦固定する形態を特徴とするため、ロータ体1を組み立てる具体的な組立治具5の実施例についても以下に説明する。
【0050】
本実施例の組立治具5は、主に芯出治具51と、この芯出治具51に一部を挿入可能な圧入治具52、及び押込治具53の3要素から構成している。
【0051】
まず、芯出治具51は永久磁石4の全体が挿入可能な略有低筒状を呈し、中央部に回転シャフト2を立設配置するシャフト孔51aを貫通形成すると共に、その周囲に一部が底面部51bから迫り上がった平面状の当接面51cを形成して構成している。
【0052】
上記当接面51cは、ロータカラー3の突片33を除いた基板31とほぼ同じ面積の円形に形成している。一方、芯出治具51の底面部51bは、上記当接面51cの形成によって永久磁石4の一方の端面側を挿入した立設配置が可能となるリング状の溝を呈している。
【0053】
芯出治具51は、回転シャフト2と永久磁石4を配置した場合に回転シャフト2の軸線と永久磁石の外周面41の同心度を芯出し可能とすると共に、回転シャフト2の軸線と永久磁石4の外周面41との半径方向の寸法精度を確保している。また、前記寸法に加え、回転シャフト2に対して永久磁石4のアキシャル方向の位置も設定している。
【0054】
圧入治具52は、芯出治具51に配置した状態の永久磁石4の内部側に所定の隙間をもって挿入可能な略円筒状に形成して構成している。圧入治具52は、その中央部に芯出治具51に配置した回転シャフト2との干渉を避ける回避孔52aを貫通形成し、一方の端部側(図面下側)にはロータカラー3の圧入口32を除いた基板31に当接可能な圧入面52bを形成すると共に、圧入面側の回避孔周囲をさらに拡径した逃穴52cを形成している。上記圧入面52bは、芯出治具51の当接面51cとほぼ同じ面積を有している。
【0055】
押込治具53は、一端側が永久磁石4とほぼ同じ直径寸法を有し、他端側がこれより拡径したフランジ部53cを有する略円筒状に形成して構成している。また、押込治具53は、その中央部に上記圧入治具52の全体を案内手段として嵌合するガイド穴53aを貫通形成し、反フランジ側の端部(図面下側)を永久磁石4の上端部に当接可能な押込面53bを形成している。
【0056】
かかる構成の組立治具5は、以下のように使用に供し、本実施例のロータ体1を組み立てることができる。
【0057】
まず、芯出治具51を平盤面に裁置し、そのシャフト孔51aに回転シャフト2を立設状に配置する。
【0058】
次に、突片33が半径方向に拡張した状態のロータカラー3を、ボス部32aの反対側の圧入口32に回転シャフト2の上端部が一部挿入するように配置する。
【0059】
このロータカラー3の配置後、その圧入口32を除く基板31に圧入治具52の圧入面52bを当接させ、圧入治具52を介してロータカラー3を回転シャフト2に圧入する。この時、圧入治具52には逃穴52cを拡張形成しているため、ボス部32aと圧入面52bとの干渉は回避されている。
【0060】
回転シャフト2が圧入口部分を通過した後は、回転シャフト2の干渉を回避孔52aによって回避し、更にロータカラー3を芯出治具側に圧入し(矢印c)、ロータカラー3の基板31を芯出治具51の当接面51cに押し当てて停止させる。この時、ロータカラー3の突片33は芯出治具51の当接面51cから外側に突出している。
【0061】
次に、圧入治具52の当該位置に圧入時の押し下げ力を維持したまま、芯出治具51に永久磁石4を配置する。この時、上記ロータカラー3の突片33はその半径方向に拡張しているため、永久磁石4の下端部が突片33に引っ掛かり途中で停止することとなる。
【0062】
この後、押込治具53を、そのガイド穴53aを圧入治具52に嵌合させて案内手段とすると共に、押込面53bを永久磁石4の上端側に押し当てつつ芯出治具側に押し込む(矢印d)。この時、ロータカラー3の突片33は、永久磁石4の下端部によって押し込み方向に曲げ変形し始め、さらなる押し込みにより内周面42に倣いつつ曲げ変形(塑性変形)する。一方、ロータカラー3の基板31は、圧入治具52の押し下げ力を維持しているため、芯出治具51の当接面51cからの浮き上がりが抑制されている。
【0063】
次に、圧入治具52と押込治具53の両方を芯出治具51から抜き取り(矢印e)、突片33が半径方向に拡張した次のロータカラー3をボス部側の圧入口32に回転シャフト2の上端部が一部挿入するように配置する。この時、ロータカラー3の突片33の位置は、先のロータカラー3の突片33とは回転シャフト2軸回転方向に所定角度(本実施例では60度)ずらし、上下で重畳しないようにする。
【0064】
ロータカラー3の配置後、その圧入口32及び突片33以外の基板31に圧入治具52の圧入面52bを当接させ、圧入治具52を介してロータカラー3を回転シャフト2に圧入する。
【0065】
そして、回転シャフト2がロータカラー3の圧入口部分を通過した後は、回転シャフト2との干渉を回避孔52aで避けつつ、更にロータカラー3を永久磁石側に圧入する(矢印f)。この圧入により、ロータカラー3の突片33が永久磁石4の上端面により曲げ変形し始め、さらにその内周面42に倣いつつ、押し込み方向と逆方向に曲げ変形(塑性変形)する。
【0066】
上記の圧入治具52の圧入距離が、回転シャフト2に対して所定高さに達したら圧入治具52の圧入を止め、圧入治具52を回転シャフト2から取り出す。
【0067】
最後に芯出治具51から回転シャフト2、2個のロータカラー3、永久磁石4とを一体化したロータ体1を取り出す。この組立治具5で組み立てたロータ体1は、予め回転シャフト2と永久磁石4の外周面41と同心度が確保されており、これに合わせてロータカラー3の突片33を曲げ変形させているため、回転シャフト2と永久磁石4の外周面41について良好な同心度精度を確保できるだけでなく、回転シャフト2の軸中心から永久磁石4の外周面41の半径方向の寸法精度も確保されている。
【符号の説明】
【0068】
1 ロータ体
2 回転シャフト
21 出力部
3 ロータカラー
31 基板
32 圧入口
32a ボス部
33 突片
4 永久磁石
41 外周面
42 内周面
5 組立治具
51 芯出治具
51a シャフト孔
51b 底面部
51c 当接面
52 圧入治具
52a 回避孔
52b 圧入面
52c 逃穴
53 押込治具
53a ガイド穴
53b 押込面
53c フランジ部
M モータ
S ステータ
C コイル
B 軸受
O モータケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6