特許第6001544号(P6001544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6001544
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】圧電/電歪アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/053 20060101AFI20160923BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20160923BHJP
   H01L 41/23 20130101ALI20160923BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   H01L41/053
   H01L41/09
   H01L41/23
   H04R17/00
【請求項の数】14
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-534714(P2013-534714)
(86)(22)【出願日】2012年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2012073822
(87)【国際公開番号】WO2013042658
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2015年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-206898(P2011-206898)
(32)【優先日】2011年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-58887(P2012-58887)
(32)【優先日】2012年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509302663
【氏名又は名称】エヌジーケイ・セラミックデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】海老ヶ瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】勝 晃司
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−188639(JP,A)
【文献】 特開2006−114615(JP,A)
【文献】 特開2009−081347(JP,A)
【文献】 特開2010−118641(JP,A)
【文献】 特開2000−211129(JP,A)
【文献】 特開2002−271897(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069769(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層の圧電/電歪層と前記圧電/電歪層の両面にそれぞれ配置された1対の電極とを含む積層体を少なくとも1つ含んでなり、前記圧電/電歪層が前記1対の電極に挟まれている部分に対応する作動部と、前記圧電/電歪層が前記1対の電極に挟まれていない部分に対応する非作動部とを有する圧電/電歪素子、並びに、
少なくとも前記作動部と前記非作動部との境界近傍を覆うように配置されている防湿膜であって、25℃での飽和水分率が300ppm以下であり、当該飽和水分率における耐電圧が6kV/mm以上である、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体からなる防湿膜、
を含んでなり、
40℃×85%RHの環境下での前記液体の液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満である、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、n−d−M法によって求められる前記液体におけるパラフィン炭素の割合(%CP)、ナフテン炭素の割合(%CN)、及び芳香族炭素の割合(%CA)が、下式(1)によって表される関係を満足する、圧電/電歪アクチュエータ。
【数1】
【請求項3】
請求項2に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記液体における硫黄の含有率が100ppm未満である、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記液体が、5質量%未満のゲル化剤を更に含んでなる、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記ゲル化剤が植物性油脂に由来するゲル化剤である、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記圧電/電歪素子が基板上に配置されている、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記基板が薄肉部を有しており、前記圧電/電歪素子がその薄肉部の少なくとも一部を覆うように配置されている、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項8】
請求項7に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記圧電/電歪素子が、前記基板上の前記薄肉部に対応する領域に固着されている、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記基板と前記圧電/電歪素子が、前記電極を介して固着されている圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜が前記作動部と前記非作動部との境界近傍及び前記作動部を覆うように配置されており、前記圧電/電歪素子における前記作動部と前記非作動部との境界近傍又は前記作動部に含まれる圧電/電歪層を構成する結晶粒の粒界近傍に微細な亀裂を有し、当該亀裂が前記防湿膜を構成する前記液体によって充填されている、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜の上に少なくとも1層の保護膜が更に配置されている、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項12】
請求項11に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層がフッ素系有機材料を含んでなる、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項13】
請求項11に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層が、前記防湿膜の表面にあり前記防湿膜を構成する液体と同じ液体を硬化した物である、圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項14】
請求項11に記載の圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層が、ポリパラキシリレン系有機材料を含んでなる、圧電/電歪アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電/電歪アクチュエータに関する。より詳しくは、本発明は、圧電変位の阻害を抑制しつつ、高湿度雰囲気下での絶縁耐久性が改善された圧電/電歪アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電/電歪アクチュエータは、サブミクロンのオーダーで変位を精密に制御することができるという利点を有する。特に、圧電/電歪磁器組成物の焼結体を圧電/電歪体として用いた圧電/電歪アクチュエータは、変位を精密に制御することができる他にも、電気機械変換効率が高く、発生力が大きく、応答速度が速く、耐久性が高く、消費電力が少ないという利点も有し、これらの利点を生かして、インクジェットヘッドやマイクロポンプ等に採用されている。
【0003】
しかしながら、当該技術分野においては、高温、高湿度における圧電膜(圧電体)の劣化や絶縁破壊に対する懸念が従前より存在しており、このような水による圧電膜の劣化や絶縁破壊を抑制するために、種々の手段が講じられている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、水蒸気透過率が低い電極を圧電膜上に設けると共に、当該電極及び圧電膜の周縁部を覆う無機材料からなる保護膜を設けることによって、当該圧電膜への水分の侵入を防止することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2においては、積層圧電アクチュエータの外周面にアクリル系塗料等を電着及び焼付(電着塗装)しただけではコーナー部における絶縁層の厚みが不十分となるため、上記塗料を電着塗装した後に、改めて二回目の電着塗装を行うことにより、コーナー部からの水分の侵入を抑制することが記載されている。
【0006】
更に、特許文献3においては、スライシング加工時に発生した微小クラックを有するインクジェットヘッド用圧電素子をエポキシ系接着剤で被覆することによって微小クラックを充填し、その後エポキシ系接着剤を乾燥及び硬化させることによって強度向上及び防湿を図ることが記載されている。
【0007】
また更に、特許文献4においては、積層型圧電セラミックにおける内部電極層及び外部電極の露出部をシリコーンで被覆し、当該シリコーンを硬化させて外装部とすることにより、電極材のマイグレーションやショートを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−081347号公報
【特許文献2】特開2003−347621号公報
【特許文献3】特開2003−062999号公報
【特許文献4】特開2000−270568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、当該技術分野において、高温高湿環境における圧電膜の劣化や絶縁破壊、電極のショート等に対する懸念は従前より存在しており、鋭意検討が重ねられた結果、実用における信頼性という観点からは高いレベルに到達してはいるものの、かかる懸念は未だに完全には払拭されておらず、品質管理のための加速劣化試験等において未だ解決すべき課題として認識されている。特に分極処理又は圧電/電歪素子としての駆動の際に、主に活性部(作動部)と不活性部(非作動部)との間や粒界(特に、三重点となる粒界)に生ずるマイクロクラック(微細な亀裂)を主因とする圧電/電歪層の劣化や絶縁破壊、電極のショート等の問題に対しては、従来技術は未だ十分な解決策を見出すに至っていないのが実情である。尚、活性部(作動部)と不活性部(非作動部)、及び粒界(特に、三重点となる粒界)の詳細については後述する。
【0010】
また、前記特許文献1において防湿目的の保護膜として使用されている無機コーティングは硬く、圧電素子の変位を阻害するため、活性部を覆わないようにするためのパターニング等の対策を要する。現に、前記特許文献1においても、周縁部を除く圧電膜(つまり、活性部)に対応する位置に、保護膜が開口部を有することが構成要件となっている。かかるパターニングを行うことは、製造工程を複雑化し、コスト増大に繋がる。
【0011】
一方、前記特許文献2乃至4には、防湿膜として有機コーティングを使用することが開示されているが、無機コーティングと比較すると、防湿性、ひいては高湿絶縁性が不十分であり、また有機コーティングといえども硬化後の硬い状態では圧電素子の変位を幾分かは阻害することに変わりは無い。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、圧電変位の阻害を抑制しつつ、高湿度雰囲気下での圧電/電歪アクチュエータの絶縁耐久性を改善することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための、本発明の第1の実施態様は、
1層の圧電/電歪層と前記圧電/電歪層の両面にそれぞれ配置された1対の電極とを含む積層体を少なくとも1つ含んでなり、前記圧電/電歪層が前記1対の電極に挟まれている部分に対応する作動部と、前記圧電/電歪層が前記1対の電極に挟まれていない部分に対応する非作動部とを有する圧電/電歪素子、並びに、
少なくとも前記作動部と前記非作動部との境界近傍を覆うように配置されている防湿膜であって、25℃での飽和水分率が300ppm以下であり、当該飽和水分率における耐電圧が6kV/mm以上である、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体からなる防湿膜、
を含んでなり、
40℃×85%RHの環境下での前記液体の液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0016】
加えて、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、n−d−M法によって求められるパラフィン炭素の割合(%CP)、ナフテン炭素の割合(%CN)、及び芳香族炭素の割合(%CA)が、下式(1)によって表される関係を満足する、圧電/電歪アクチュエータである。
【0017】
【数1】
【0018】
また、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第2の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、硫黄の含有率が100ppm未満である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0019】
更に、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第3の実施態様のいずれか1つに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記液体が、5質量%未満のゲル化剤を更に含んでなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【0020】
また更に、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第4の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記ゲル化剤が植物性油脂に由来するゲル化剤である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0021】
加えて、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第1乃至第5の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記圧電/電歪素子が基板上に配置されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0022】
また、本発明の第7の実施態様は、
本発明の前記第6の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記基板が薄肉部を有しており、前記圧電/電歪素子がその薄肉部の少なくとも一部を覆うように配置されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0023】
更に、本発明の第8の実施態様は、
本発明の前記第7の実際態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記圧電/電歪素子が、前記基板上の前記薄肉部に対応する領域に固着されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0024】
また更に、本発明の第9の実施態様は、
本発明の前記第6乃至第8の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記基板と前記圧電/電歪素子が、前記電極を介して固着されている圧電/電歪アクチュエータである。
【0025】
加えて、本発明の第10の実施態様は、
本発明の前記第1乃至第9の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜が前記作動部と前記非作動部との境界近傍及び前記作動部を覆うように配置されており、前記圧電/電歪素子における前記作動部と前記非作動部との境界近傍又は前記作動部に含まれる圧電/電歪層を構成する結晶粒の粒界近傍に微細な亀裂を有し、当該亀裂が前記防湿膜を構成する前記液体によって充填されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0026】
また、本発明の第11の実施態様は、
本発明の前記第1乃至第10の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜の上に少なくとも1層の保護膜が更に配置されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0027】
更に、本発明の第12の実施態様は、
本発明の前記第11の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層がフッ素系有機材料を含んでなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【0028】
また更に、本発明の第13の実施態様は、
本発明の前記第11の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層が、前記防湿膜の表面にあり前記防湿膜を構成する液体と同じ液体を硬化した物である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0029】
加えて、本発明の第14の実施態様は、
本発明の前記第11の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層が、ポリパラキシリレン系有機材料を含んでなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、圧電変位の阻害を抑制しつつ、高湿度雰囲気下でも優れた絶縁耐久性を呈する圧電/電歪アクチュエータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の1つの実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータの平面図(a)、図中に示す線Yに沿った断面図(b)、及び図中に示す線Xに沿った断面図(c)である。
図2】本発明のもう1つの実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータの平面図(a)、図中に示す線Yに沿った断面図(b)、及び図中に示す線Xに沿った断面図(c)である。
図3】圧電/電歪層(圧電体)を構成する結晶粒粒界及び粒界三重点を表す模式図である。
図4】圧電/電歪層(圧電体)を構成する結晶粒の粒界に生じた亀裂に防湿膜を構成する液体材料が充填されている様子を表す模式図である。
図5】防湿膜を構成する液体材料の液境膜における水分の移動係数(k)の測定に用いる測定装置の概要を表す模式図である。
図6】本発明の1つの実施態様に係る防湿膜材料における、活性値(X)の時間(t)に対するプロットを表すグラフである。
図7】発明の1つの実施態様に係る防湿膜材料における、−ln(1−X)の時間(t)に対するプロットを表すグラフである。
図8】各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれについての移動係数のナフテン比率に対するプロットを表すグラフである。
図9】各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれについての劣化後の絶縁抵抗のナフテン比率に対するプロットを表すグラフである。
図10】実施例12に係る圧電/電歪アクチュエータの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、圧電/電歪素子を含んでなる圧電/電歪アクチュエータにおいて、基板及び圧電/電歪素子からなる部分の、少なくとも作動部と非作動部との境界近傍を覆うように防湿膜を設けることにより、分極処理の際又は圧電/電歪素子としての駆動の際に、主に作動部と非作動部との境界近傍に発生するマイクロクラックを主因とする高湿絶縁劣化(例えば、圧電/電歪層の劣化や絶縁破壊、電極のショート等)を抑制しようとするものである。
【0033】
かかる課題を解決しようとするにあたり、従来技術においては、前述の先行技術文献において開示されているように、無機コーティング又は有機コーティングを圧電/電歪アクチュエータの特定の部位に塗布し、当該コーティングを硬化させることによって、圧電膜への水分の侵入を防止しようとしている。しかしながら、このような従来技術に係る手法においては、前述のように、主として圧電/電歪素子の活性部(作動部)と不活性部(非作動部)との間や、粒界(特に、三重点となる粒界)に生ずるマイクロクラック(微細な亀裂)を主因とする圧電/電歪層の劣化や絶縁破壊、電極のショート等の問題や、防湿を目的として配設される保護膜が硬いことに起因する圧電素子の駆動時の変位の阻害等の問題を同時に解決することは難しい。
【0034】
そこで、かかる課題についての鋭意研究の結果、本発明者は、意外なことに、特定の性状を有する液体を硬化させること無く防湿膜として用いることによって、高湿絶縁劣化をより有効に防止することができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。尚、前記「作動部」とは、圧電/電歪素子において、圧電/電歪層が1対の電極に挟まれている部分に対応する部分(即ち、電界印加時に変位を生ずる部分)を指し、前記「非作動部」とは、圧電/電歪素子において、圧電/電歪層が1対の電極に挟まれていない部分に対応する部分(即ち、電界印加時に変位を(殆ど又は全く)生じない部分)を指す。
【0035】
また、前記「粒界」とは、圧電/電歪層(圧電体)を構成する複数の結晶粒の境界を指す。更に、前記「三重点となる粒界」(以降、「粒界三重点」と称する場合がある)とは、隣り合う3つの結晶粒の境界が交わる点を指す。図3は、前述のように、圧電/電歪層(圧電体)を構成する結晶粒粒界及び粒界三重点を表す模式図である。図3において、略六角形は圧電体を構成する結晶粒(セラミックス粒子)を表し、隣り合う結晶粒の境界(略六角形の共通辺)は粒界を表し、3つの共通片が交わる点(図中、矢印によって示す)は粒界三重点を表す。
【0036】
第1の実施態様
本発明の第1の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、
1層の圧電/電歪層と前記圧電/電歪層の両面にそれぞれ配置された1対の電極とを含む積層体を少なくとも1つ含んでなり、前記圧電/電歪層が前記1対の電極に挟まれている部分に対応する作動部と、前記圧電/電歪層が前記1対の電極に挟まれていない部分に対応する非作動部とを有する圧電/電歪素子、並びに、
少なくとも前記作動部と前記非作動部との境界近傍を覆うように配置されている防湿膜であって、25℃での飽和水分率が300ppm以下であり、当該飽和水分率における耐電圧が6kV/mm以上である、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体からなる防湿膜、
を含んでなる圧電/電歪アクチュエータである。
【0037】
上記圧電/電歪層は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の圧電/電歪磁器組成物や昨今の環境保護の観点から精力的に開発が進められている非鉛系の圧電/電歪磁器組成物を始めとする、圧電/電歪焼結体の製造に使用される各種圧電/電歪磁器組成物の中から適宜選択することができる。具体例としては、例えば、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、チタン酸バリウム、ニッケルニオブ酸ビスマス、チタン酸ナトリウムビスマス、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス等の単独、あるいは、2成分以上、好ましくは3成分以上の混合物として含有するセラミックスが挙げられる。また、上記電極は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)等、当該技術分野において電極として使用される種々の材料の中から適宜選択することができる。
【0038】
尚、圧電/電歪層(「圧電体」とも称される)とこれらの電極との積層は、当該技術分野において周知の何れの手法(例えば、気相成長法、又は各層のスクリーン印刷後の焼成等)によって行ってもよい。また、上記圧電/電歪層や電極の厚みについても、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータを適用しようとする用途に応じて、適宜設定することができる。
【0039】
ところで、上記圧電/電歪素子は、上記積層体を2つ以上含んでもよい。このように上記積層体を2つ以上含む圧電/電歪素子もまた、当該技術分野において周知の手法によって製造することができる。
【0040】
いずれの場合であっても、当該技術分野において既知の様々な手法を用いて上記圧電/電歪素子を様々な構成に製造することができることは当業者にとって明らかであるので、本明細書においては、これ以上の詳細な説明は割愛する。
【0041】
上記圧電/電歪素子が含む上記積層体(1層の圧電/電歪層と前記圧電/電歪層の両面にそれぞれ配置された1対の電極とを含む)の数の如何にかかわらず、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータに含まれる圧電/電歪素子には、上記圧電/電歪層が上記1対の電極に挟まれている部分に対応する作動部と、上記圧電/電歪層が上記1対の電極に挟まれていない部分に対応する非作動部とが存在する。
【0042】
上記圧電/電歪素子において、上記作動部は、上記圧電/電歪層が上記1対の電極に挟まれている部分に対応する部分を指し、当該作動部は、焼成後の当該圧電/電歪素子において、上記電極間に電界が印加された際に、印加された電界に応じた変形(変位)を生ずる部位である。一方、上記非作動部は、上記圧電/電歪層が上記1対の電極に挟まれていない部分に対応する部分を指し、当該非作動部は、焼成後の当該圧電/電歪素子において、上記電極間に電界が印加されても、印加された電界に応じた変形(変位)を(殆ど又は全く)生じない部位である。
【0043】
従って、分極処理の際又は圧電/電歪素子としての駆動の際に、作動部と非作動部との境界近傍に応力がかかり、マイクロクラックが発生しがちである。このマイクロクラックは、圧電/電歪層の劣化や絶縁破壊、電極のショート等の問題を引き起こす主因となり、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性を低下させる要因となる。
【0044】
また、上記圧電/電歪素子において、粒界とは、圧電/電歪層(圧電体)を構成する複数の結晶粒の境界を指す。更に、粒界三重点とは、隣り合う3つの結晶粒の境界が交わる点を指す。圧電体においては、電界が印加された際に、結晶粒内のドメインが伸縮、回転することにより、変位が発現される。その際、特にドメインや結晶格子の方向性が整っていない粒界において応力が集中する。粒界の三重点は、かかる粒界の中で特に応力が集中し易い箇所である。従って、前記作動部に含まれる圧電/電歪層(圧電体)の粒界(特に、粒界三重点)においても、マイクロクラックが発生しがちである。ましてや、作動部と非作動部との境界近傍に含まれる圧電/電歪層(圧電体)の粒界においては、マイクロクラックが特に発生し易い。
【0045】
そこで、作動部と非作動部との境界近傍に防湿膜を設ける試みが従来より検討されているが、本発明においては、意外なことに、特定の性状を有する液体を硬化させること無く防湿膜として用いることによって、高湿絶縁劣化がより有効に防止されることが判った。ここでいう「特定の性状を有する液体」とは、具体的には、25℃での飽和水分率が300ppm以下であり、当該飽和水分率における耐電圧が6kV/mm以上である、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体を指す。
【0046】
上記飽和水分率は、液体中の水分率を測定する方法として当該技術分野において知られている種々の方法によって測定することができる。具体的には、上記飽和水分率は、例えば、湿度85%以上の高湿環境下において24時間以上静置した後、液体の水分量をカール・フィッシャー式電量滴定法によって測定することができる。このようにして測定される上記液体の飽和水分率は、上記のように300ppm以下、より好ましくは200ppm以下であることが望ましい。飽和水分率が300ppmを超えると、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性を低下させる虞が高まるので望ましくない。
【0047】
また、上記耐電圧は、上記飽和水分率に相当する量の水分を上記液体が含んでいる状態において上記液体が絶縁破壊を起こさない最大の電界強度を指す。上記耐電圧は、各種材料の耐電圧を測定する方法として当該技術分野において知られている種々の方法によって測定することができる。具体的には、上記耐電圧は、例えば、直径12.5mmの一対の球形電極を、2.5mmの電極間ギャップにて、測定対象となる液体中に浸し、当該電極間の印加電圧を毎秒約3kVの割合にて上昇させ、絶縁破壊が発生した際の電圧を測定することによって測定することができる。このようにして測定される上記液体の耐電圧は、上記のように6kV/mm以上、より好ましくは8kV/mm以上であることが望ましい。耐電圧が6kV/mm未満であると、例えば、従来よりも大きい圧電変位をより小型の圧電/電歪素子において達成することが要求される場合等において、従来よりも高い電界が圧電/電歪素子の電極間に印加される際に、十分な絶縁耐久性を発揮することが困難となる虞がある。
【0048】
更に、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜の材料としては、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータが曝される温度の範囲において液体の状態を保ち、且つ飽和水分率及び耐電圧が上述の範囲に入る限り、入手可能な種々の液体材料の中から適宜選択して使用することができる。かかる液体材料としては、例えば、各種溶剤や各種オイル(例えば、鉱物油や合成油等)、種々のポリマー等の種々の液体を挙げることができる。これらの中でも、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物は、石油製品として広く流通しており、容易に入手することができ、また安価であることから、コスト面でも有利である。従って、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、前記防湿膜を構成する前記液体として、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体を使用することが望ましい。
【0049】
ここで、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体とは、当該液体の大部分を構成する材料が炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物である液体を指す。逆に言えば、圧電/電歪アクチュエータにおける前記防湿膜としての使用において何等かの悪影響を及ぼさない限り、上記液体は、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物以外の成分を少量含有していてもよい。また、圧電/電歪アクチュエータにおける前記防湿膜としての使用において何等かの悪影響を及ぼさない限り、上記炭化水素系有機化合物が炭化水素基以外の置換基を一部に有するものであってもよい。更に、上記炭化水素系有機化合物は、圧電/電歪アクチュエータにおける前記防湿膜としての使用において何等かの悪影響を及ぼさない限り、不飽和結合(二重結合、三重結合)や環状構造を含むものであってもよい。
【0050】
例えば、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜の材料として、鉱油を使用することもできる。鉱油の中には、不純物元素として、硫黄(S)、酸素(O)、又は窒素(N)等を含む成分が少量(例えば、数百ppm程度)含まれるものがあるが、かかる不純物元素を含む成分が少量含まれる鉱油であっても、圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜としての使用において何等かの悪影響を及ぼさない限り、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜の材料として使用することができる。好ましくは、かかる不純物元素を含む成分が少量含まれる場合であっても、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜の材料としては、その99.5質量%以上が、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体からなるものを使用することが望ましい。逆に言うと、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜の材料においては、かかる不純物元素を含む成分の含有率が0.5質量%未満であることが望ましい。本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜の材料において、かかる不純物元素を含む成分の含有率が0.5質量%を超えると、例えば、飽和水分率が高くなったり、圧電/電歪層の絶縁破壊電圧が低下したり、圧電/電歪層の酸化に伴う劣化が起こり易くなって信頼性が低下したりするので好ましくない。
【0051】
尚、上記液体は、容易に揮発する成分を含まないことが望ましい。上記液体が、かかる容易に揮発する成分を含んでいると、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータを使用する機器等において、当該揮発成分が当該機器の種々の部分において凝結したり、付着したり、吸着されたりして、当該部分を汚染し、例えば、電気的接続のための端子において接触不良を招いたりする虞があるので望ましくない。但し、後述するように前記防湿膜の上に保護膜が更に配置される実施態様において、当該保護膜が上記揮発成分を封止することができる場合は、必ずしもこの限りではない。加えて、上記液体は、圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜としての使用において何等かの悪影響を及ぼさない限り、例えば、植物性油脂等に由来するゲル化剤を少量(例えば、上記液体の総量に対して5質量%未満)含んでいてもよい。
【0052】
尚、上述の範囲に入る飽和水分率及び耐電圧を有する、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体材料からなる上記防湿膜は、少なくとも上記作動部と上記非作動部との境界近傍を覆うように配置される必要がある。これは、前述のように、高湿絶縁劣化(高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁性の低下)の原因となり得るマイクロクラックが主に発生する上記作動部と上記非作動部との境界近傍を上記防湿膜によって覆うことにより、上記圧電/電歪素子内への水分の侵入を防止するためである。
【0053】
従って、上記防湿膜は、少なくとも上記作動部と上記非作動部との境界近傍を覆ってさえいれば、他に(製造工程上等の)不都合が無い限り、上記圧電/電歪素子が固着されている側の外表面のうち、少なくとも上記作動部と上記非作動部との境界近傍以外の部分を覆っていてもよい。具体的には、上記防湿膜は、前記防湿膜が前記作動部と前記非作動部との境界近傍及び前記作動部を覆うように配置されていてもよい。尚、かかる上記作動部と上記非作動部との境界近傍以外でマイクロクラックが発生し易い部位としては、前述のように、圧電/電歪層(圧電体)の粒界(特に、粒界三重点)を挙げることができる。従って、より好ましくは、圧電/電歪層(圧電体)の粒界(特に、粒界三重点)を覆うように防湿膜を配置することが望ましい。
【0054】
上記防湿膜は、上記圧電/電歪素子が上記基板に固着されてなる圧電/電歪アクチュエータの分極処理の後に塗布するのが望ましい。上記防湿膜の塗布方法としては、防湿膜を構成する液体材料の性状(例えば、粘度等)や、上記圧電/電歪素子が上記基板に固着されてなる圧電/電歪アクチュエータの構成等に応じて、様々な周知の塗布方法の中から適宜選択することができる。具体的には、上記防湿膜の塗布方法としては、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディスペンサやインクジェットでの塗布、スクリーン印刷、及びスタンプ印刷等が挙げられる。尚、より好ましくは、上記防湿膜の塗布の際に、例えば真空引き等の手法により、上記圧電/電歪素子における既存の欠陥(例えば、マイクロクラック等)中への上記防湿膜を構成する液体材料の充填を促進することが望ましい。より好ましくは、上部電極に微細な貫通孔を形成して、例えば、欠陥(例えば、マイクロクラック等)、及び粒界(特に、粒界三重点)と上部電極との間の隙間等への、上記防湿膜を構成する液体材料の充填を促進させることが望ましい。
【0055】
尚、上記防湿膜の厚みは、0.01〜20μmの範囲にあるのが望ましい。防湿膜の厚みがこの範囲よりも薄いと、塗布斑が発生し、防湿膜を均一な連続膜として塗布することが困難となり、防湿効果が損なわれるので望ましくない。逆に、防湿膜の厚みがこの範囲よりも厚いと、防湿膜を塗布する際に、目的とする領域以外にまで防湿膜の材料がはみ出す等の問題(ダレ)が生じたり、高温高湿環境から低温環境へと急激に温度が下がった際等に上記防湿層を構成する液体に含まれる水分が遊離して水滴を生じたりする場合があるので望ましくない。より好ましくは、防湿膜の厚みは、0.02〜10μmの範囲にあるのが望ましい。
【0056】
第2の実施態様
また、本発明の第2の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第1の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜として使用されている状態における前記液体の水分率が20ppm以上である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0057】
本発明に係る圧電/電歪アクチュエータが密閉された環境下で使用されない場合、前記防湿膜を構成する前記液体には、ある程度の水分が例えば周囲環境等から侵入する。かかる場合において、十分な絶縁耐久性を発揮することが困難となる液体を前記防湿膜の材料として使用すると、結果として、圧電/電歪アクチュエータの高湿絶縁劣化をより有効に防止することが困難となる虞がある。従って、上記のように、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、かかる場合においても十分な絶縁耐久性を発揮することができる液体を前記防湿膜の材料として使用することが望ましい。具体的には、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいて前記防湿膜を構成する液体は、20ppm以上、より好ましくは25ppm以上の水分率において、6kV/mm以上の耐電圧を有することが望ましい。
【0058】
第3の実施態様
更に、本発明の第3の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第1の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、40℃×85%RHの環境下での前記液体の液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0059】
前述のように、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータによれば、圧電変位の阻害を抑制しつつ、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性(高湿絶縁耐久性)を改善することができる。しかしながら、例えば、より厳しい条件下での加速劣化試験後でも高い絶縁抵抗を保持する等、更に高い高湿絶縁耐久性を達成することが要求される用途も想定される。そこで、本発明者は、より高い高湿絶縁耐久性を達成すべく、鋭意研究の結果、防湿膜を構成する液体の液境膜における水分の移動係数が予め定められた閾値未満である場合に、更に優れた高湿絶縁耐久性を発揮することができることを見出した。
【0060】
具体的には、上述のように、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、少なくとも前記作動部と前記非作動部との境界近傍を覆うように配置されている防湿膜を構成する前記液体において、40℃×85%RHの環境下での液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満である。これにより、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、圧電変位の阻害を抑制しつつ、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性(高湿絶縁耐久性)をより一層改善することができる。
【0061】
尚、上記移動係数は、例えば、以下のようにして求めることができる。上記液体が接する周囲雰囲気中の水分が上記液体に溶解する際の溶解速度が上記液体の液境膜における水分の移動によって律速されると仮定すると、上記溶液への水蒸気の溶解の総括速度式は、下式(2)によって表される。
【0062】
【数2】
【0063】
上式中、Vは上記液体の体積を表し、Sは上記液体と周囲雰囲気との気液界面面積を表し、Cwは上記液体中に溶存する水の濃度を表し、Cwは上記液体中に溶存する水の飽和濃度を表し、tは時間を表し、そしてkは液境膜における水分の移動係数を表す。ここで、Cw/Cw=Xとし、時間t=0のときにX=0であるという初期条件の下に上記式(2)を解くと、下式(3)が得られる。
【0064】
【数3】
【0065】
従って、所定の環境(40℃×85%RH)下で、所定の体積(V)の上記液体を周囲雰囲気に所定の表面積(S)を介して接触させた状態における上記液体中の水分の濃度を、例えば市販のオイル内水分計等の検出手段によって測定する。かかる測定結果から−ln(1−X)を算出し、時間(t)に対してプロットする。斯くして得られたプロットの傾き((S/V)×k)から、上記移動係数(k)を求めることができる。
【0066】
本発明者は、上記のようにして得られる防湿膜の移動係数(液境膜物質移動係数:k)と高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性(高湿絶縁耐久性)との間に相関関係を見出し、優れた高湿絶縁耐久性を達成し得る移動係数の範囲を特定するに至ったものである。具体的には、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータが備える防湿膜は、40℃×85%RHの環境下での液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満、より好ましくは0.18cm/Hr未満であることが望ましい。移動係数が0.2cm/Hr以上である場合、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性を低下させる虞が高まるので望ましくない。
【0067】
尚、上述のように、本実施態様においても、本発明の前記第1の実施態様と同様に、上記防湿膜を構成する液体としては、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体を使用することが望ましい。また、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体の定義についても、本発明の前記第1の実施態様と同様である。更に、上記液体は、容易に揮発する成分を含まないことが望ましいものの、後述するように前記防湿膜の上に保護膜が更に配置される実施態様において、当該保護膜が上記揮発成分を封止することができる場合は、必ずしもこの限りではない。加えて、上記液体は、圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜としての使用において何等かの悪影響を及ぼさない限り、例えば、植物性油脂等に由来するゲル化剤を少量(例えば、上記液体の総量に対して5質量%未満)含んでいてもよい。
【0068】
また、本実施態様においても、本発明の前記第1の実施態様と同様に、上記防湿膜は、上記圧電/電歪素子内への水分の侵入を防止する観点から、少なくとも上記作動部と上記非作動部との境界近傍を覆ってさえいれば、他に不都合が無い限り、上記圧電/電歪素子が固着されている側の外表面のうち、少なくとも上記作動部と上記非作動部との境界近傍以外の部分を覆っていてもよい。更に、上記防湿膜は、上記圧電/電歪素子が上記基板に固着されてなる圧電/電歪アクチュエータの分極処理の後に塗布するのが望ましく、上記防湿膜の塗布方法としても、本発明の前記第1の実施態様と同様のものを採用することができる。加えて、上記防湿膜の厚みも、本発明の前記第1の実施態様と同様に、0.01〜20μm、より好ましくは0.02〜10μmの範囲にあるのが望ましい。
【0069】
第4の実施態様
加えて、本発明の第4の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第3の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、n−d−M法によって求められる前記液体におけるパラフィン炭素の割合(%CP)、ナフテン炭素の割合(%CN)、及び芳香族炭素の割合(%CA)が、下式(1)によって表される関係を満足する、圧電/電歪アクチュエータである。
【0070】
【数4】
【0071】
上記n−d−M法は、当業者に周知であるように、例えば潤滑油等のオイルの組成分析において多用される環分析であり、例えば、屈折率(n20D)、密度(d204)、分子量、及び硫黄分(wt%)を測定し、パラフィン炭素数、ナフテン炭素数、及び芳香族炭素数を、それぞれ%CP、%CN、及び%CAとして、全炭素に対する割合(百分率)で表示するものである。
【0072】
上記のように、本実施態様においては、n−d−M法による環分析の結果、前記液体におけるパラフィン炭素の割合(%CP)とナフテン炭素の割合(%CN)との和に対するナフテン炭素の割合(%CN)の比率(ナフテン比率)が、20%以上、より好ましくは21%以上であり、且つ40%未満、より好ましくは39%未満であることが望ましい。上記ナフテン比率が上記範囲から逸脱すると、前述の移動係数が増大して、結果として、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性を低下させる虞が高まるので望ましくない。また、芳香族炭素の割合(%CA)は、上記のように、2%未満、より好ましくは1.8%未満であることが望ましい。芳香族炭素の割合(%CA)が2%以上であると、やはり前述の移動係数が増大して、結果として、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性を低下させる虞が高まるので望ましくない。
【0073】
第5の実施態様
また、本発明の第5の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第4の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記液体における硫黄の含有率が100ppm未満である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0074】
上記のように、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、前記液体における硫黄の含有率が100ppm未満である。前記液体における硫黄の含有率が100ppm以上であると、前述の移動係数が増大するので望ましくない。一方、前記液体に少量の硫黄が含まれることにより、酸化安定性の向上等が可能となることから、前記液体は、移動係数の大幅な増大を招かない範疇において、少量の硫黄を含有していてもよい。
【0075】
第6の実施態様
更に、本発明の第6の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第1乃至第5の実施態様のいずれか1つに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記液体が、5質量%未満のゲル化剤を更に含んでなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【0076】
上記のように、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、前記液体が、5質量%未満のゲル化剤を更に含んでなる。これにより、例えば、防湿膜を塗布する際に目的とする領域以外にまで防湿膜の材料がはみ出す等の問題(ダレ)が生じたりすることを抑制することができる。但し、ゲル化剤を過剰に(即ち、5質量%以上)添加すると、上記液体の流動性が不十分となる。結果として、圧電/電歪素子内への水分の侵入を防止する機能が低下したり、高湿絶縁劣化の主因となるマイクロクラック(微細な亀裂)への防湿膜の材料の充填(詳しくは後述する)が困難となったりする虞があるので望ましくない。
【0077】
第7の実施態様
また更に、本発明の第7の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第6の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記ゲル化剤が植物性油脂に由来するゲル化剤である、圧電/電歪アクチュエータである。
【0078】
上記のように、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、前記ゲル化剤が植物性油脂に由来するゲル化剤である。植物性油脂に由来するゲル化剤は、基本的に、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素、水素、及び酸素のみからなるものが多いことに加えて、当該技術分野において広く流通しており、容易に入手することができ、また安価であることから、コスト面でも有利である。
【0079】
第8の実施態様
加えて、本発明の第8の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第1乃至第7の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記圧電/電歪素子が基板上に配置されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0080】
上記基板は、圧電/電歪アクチュエータ用の基板において一般的に用いられるものであり、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)等の材質を用いて製造することができる。また、上記基板には、少量の添加剤、例えば、酸化イットリウム(Y)、酸化チタン(TiO)等が含有されていてもよい。更に、基板の製造方法としては、当該技術分野において周知の技法(例えば、グリーンシート成形等)を用いることができる。尚、上記基板の厚みや形状については、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータを適用しようとする用途に応じて、適宜設計することができる。
【0081】
第9の実施態様
また、本発明の第9の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第8の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記基板が薄肉部を有しており、前記圧電/電歪素子がその薄肉部の少なくとも一部を覆うように配置されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0082】
上記の如く、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、前記基板は薄肉部を有しており、前記圧電/電歪アクチュエータ素子は、その薄肉部の少なくとも一部を覆うように配置されている。この薄肉部もまた、圧電/電歪アクチュエータ用の基板において一般的に用いられている手法によって形成することができる。例えば、薄肉部は、基板をエッチング等の手法によって切削することによって形成されていてもよく、また、薄肉部を形成すべき相対的に薄い(例えば、数μmの厚みを有する)部材に、薄肉部に対応する箇所に開口部を有するように加工された比較的厚い別の部材(厚肉部)を積層することによって形成されていてもよい。
【0083】
つまり、一体式または積層式の如何を問わず、上記薄肉部の圧電/電歪素子が固着される側とは反対の側には、ある面(例えば、上面)が薄肉部に接し、その面と交差する面(例えば、側面)が厚肉部の開口部の内壁に接する空間が存在することになる。尚、上記基板の厚みや上記基板における薄肉部の厚みや面積、厚肉部の開口部の容積(厚肉部の厚み)についても、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータを適用しようとする用途に応じて、適宜設計することができる。
【0084】
例えば、インクジェットプリンタにおいて使用されるインクジェットヘッド等の液体噴射ヘッドとして本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータを使用する場合には、インク等の液体を噴射させるための機構(例えば、噴射ノズル等)を、上記空間の開口面(薄肉部にも厚肉部の内壁にも接していない面)に接続するように設けることができる。かかる噴射機構の構成についても、液体噴射ヘッドの技術分野において一般的に用いられる構成を採用することができる。
【0085】
第10の実施態様
更に、本発明の第10の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第4の実際態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記圧電/電歪素子が、前記基板上の前記薄肉部に対応する領域に固着されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0086】
換言すれば、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいて、前記圧電/電歪素子は、前記基板の前記空間(厚肉部の開口部)とは反対側の、上記薄肉部に対応する領域に固着される。当該圧電/電歪素子は、1層の圧電/電歪層と前記圧電/電歪層の両面にそれぞれ配置された1対の電極とを含む積層体を少なくとも1つ含んでなる。
【0087】
第11の実施態様
また更に、本発明の第11の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第8乃至第10の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記基板と前記圧電/電歪素子が、前記電極を介して固着されている圧電/電歪アクチュエータである。
【0088】
即ち、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、前記圧電/電歪素子を構成する電極のうち、前記基板に最も近い電極が、前記圧電/電歪層を介すること無く、前記基板に直接固着されている。かかる構成により、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、例えば、前記基板の厚み方向における寸法をより小さくする(薄型化する)ことができる。また、かかる構成は、前記基板に最も近い電極が前記圧電/電歪層を介して前記基板に固着されている(即ち、前記基板に最も近い電極と前記基板との間に前記圧電/電歪層が介在する)構成と比較して、圧電変位に寄与しない部分がより少ないことから、より小さい圧電/電歪アクチュエータにおいて、より大きい圧電変位を達成しようとする用途において有用である。
【0089】
第12の実施態様
加えて、本発明の第12の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第1乃至第11の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜が前記作動部と前記非作動部との境界近傍及び前記作動部を覆うように配置されており、前記圧電/電歪素子における前記作動部と前記非作動部との境界近傍又は前記作動部に含まれる圧電/電歪層を構成する結晶粒の粒界近傍に微細な亀裂を有し、当該亀裂が前記防湿膜を構成する前記液体によって充填されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0090】
前述のように、高湿絶縁劣化の主因となるマイクロクラック(微細な亀裂)は、作動部と非作動部とを有する圧電/電歪素子の分極処理の際又は圧電/電歪素子としての駆動の際に作動部と非作動部との境界近傍又は前記作動部に含まれる圧電/電歪層を構成する結晶粒の粒界近傍に発生する傾向がある。従って、前述のように、圧電/電歪素子の分極処理の後に前記作動部と前記非作動部との境界近傍及び前記作動部を覆うように防湿膜を塗布して、防湿膜を構成する液体材料をマイクロクラック中に充填することにより、分極処理時に発生したマイクロクラックを介する水分の侵入を有効に抑制することができる。
【0091】
マイクロクラック中への前記液体材料の充填は、前記液体材料の塗布の際に自然に起こる所謂「毛細管現象」によって行うことができる場合が多いが、前記液体材料の性状(例えば、粘度等)やマイクロクラックの大きさや形状等によっては、前記液体材料がマイクロクラック中に自然には充填されない場合がある。この場合、例えば真空引き等の方法により、マイクロクラック中への前記液体材料の充填を促進してもよい。
【0092】
尚、上記マイクロクラックは、圧電/電歪素子の分極処理の際のみならず、圧電/電歪素子としての駆動の際にも発生し得る。しかしながら、上述のように圧電/電歪素子の分極処理の後に前記作動部と前記非作動部との境界近傍及び前記作動部を覆うように防湿膜が塗布されているので、その後、圧電/電歪素子としての駆動の際に作動部と非作動部との境界近傍又は前記作動部に含まれる圧電/電歪層を構成する結晶粒の粒界近傍において新たなマイクロクラックが発生しても、その新たに発生したマイクロクラックは防湿膜を構成する前記液体材料によって覆われているので、その新たに発生したマイクロクラック中に前記液体材料が直ちに侵入し、当該マイクロクラックに起因する高湿絶縁劣化を抑制することができる。
【0093】
図4は、前述のように、圧電/電歪層(圧電体)を構成する結晶粒の粒界に生じた亀裂に防湿膜を構成する液体材料が充填されている様子を表す模式図である。図4に示すように、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、圧電/電歪素子における作動部と非作動部との境界近傍又は作動部に含まれる圧電/電歪層60を構成する結晶粒の粒界110の一部において、上部電極70と共に、亀裂120が生じている。本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、防湿膜80が作動部と非作動部との境界近傍及び作動部を覆うように配置されている。これにより、防湿膜80を構成する前記液体によって亀裂120が充填されているので、亀裂120を介する圧電/電歪層(圧電体)への水分の侵入を有効に抑制することができる。その結果、当該亀裂120に起因する圧電/電歪層(圧電体)の高湿絶縁劣化を有効に抑制することができる。
【0094】
第13の実施態様
また、本発明の第13の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第1乃至第12の実施態様のいずれかに係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記防湿膜の上に少なくとも1層の保護膜が更に配置されている、圧電/電歪アクチュエータである。
【0095】
本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいて、「防湿膜の上」とは、当然のことながら、防湿膜の圧電/電歪素子とは反対側を指す。上記保護膜は、当然のことながら、前記防湿膜を構成する前記液体材料と混ざり合ったり、反応したりすることの無い材料を含んでなることが望ましい。より好ましくは、上記保護膜は、前記防湿膜の上に更に塗布されることによって、本実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの防湿性能を更に向上させ得る材料であることが望ましい。上記保護膜を構成する材料としては、例えば、フッ素系溶剤に溶解し、乾燥後に皮膜化できるフッ素樹脂等が挙げられる。
【0096】
ところで、前述のように、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータの防湿膜は液体材料からなる。液体材料は流動性を有するため、例えば、液体噴射ヘッド(具体的には、インクジェットヘッド等)等の、目的とする装置に当該圧電/電歪アクチュエータを組み込もうとする場合に、防湿膜が他の部材に接触した際に当該部材に付着したり、圧電/電歪アクチュエータの傾斜等に起因して防湿膜が流れて所定の位置からずれたりする等のハンドリング上の問題や、圧電/電歪アクチュエータの長期間にわたる使用に伴い防湿膜を構成する前記液体材料が徐々に蒸発して、防湿膜としての機能が低下する等の長期耐久性の問題が想定される。
【0097】
従って、上記のような問題を解消するためには、防湿膜の上に少なくとも1層の保護膜が更に配置されている、本実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータが好適である。好ましくは、上記保護膜は1MPa以上のヤング率を有することが望ましい。このように、防湿膜とは異なり、比較的高い弾性率を有する(硬い)保護膜で防湿膜を覆うことにより、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおいて想定される上記のようなハンドリング上の問題及び長期耐久性の問題が解消される。
【0098】
保護膜のヤング率は、例えば、JIS K 7127に規定される方法によって測定することができる。保護膜のヤング率が1MPa未満であると、特に、上述のハンドリング上の問題が十分に解消されないので望ましくない。より好ましくは、保護膜のヤング率は10MPa以上であることが望ましい。
【0099】
尚、上記のように、比較的高い弾性率を有する(硬い)保護膜を塗布しても、弾性率が高い(硬い)防湿膜を塗布する場合とは異なり、圧電変位の阻害という問題は発生しない。これは、保護膜は(上述のように液体からなる)防湿膜の上に塗布されるため、圧電/電歪素子の作動部に直接接しているのは流動性のある液体からなる防湿膜であり、弾性率が高い保護膜は作動部には直接接していないので、作動部において生じた圧電変位が防湿膜において緩和/吸収され、保護膜による影響(圧電変位の阻害)を受け難い状態にあることが原因であると考えられる。
【0100】
上記保護膜の塗布方法としては、保護膜を構成する液体材料の性状(例えば、粘度等)や、上記圧電/電歪素子が上記基板に固着されてなる圧電/電歪アクチュエータの構成等に応じて、様々な周知の塗布方法の中から適宜選択することができる。具体的には、上記保護膜の塗布方法としては、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディスペンサやインクジェットでの塗布、及びスクリーン印刷等が挙げられる。
【0101】
尚、保護膜の厚みは、0.1〜10μmの範囲にあるのが望ましい。保護膜の厚みがこの範囲よりも薄いと、保護膜を均一な連続膜として塗布することが困難となり、保護膜に穴が開く等の問題が生ずるので望ましくない。逆に、保護膜の厚みがこの範囲よりも厚いと、保護膜を塗布する際に、目的とする領域以外にまで保護膜の材料がはみ出す等の問題(ダレ)が生じたり、(作動部において生じた圧電変位が防湿膜において緩和/吸収されるとはいえ)圧電/電歪素子の変位を阻害したりする場合があるので望ましくない。より好ましくは、保護膜の厚みは、0.2〜8μmの範囲にあるのが望ましい。
【0102】
第14の実施態様
更に、本発明の第14の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第13の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層がフッ素系有機材料を含んでなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【0103】
前述の如く、上記保護膜は、前記防湿膜を構成する前記液体材料と混ざり合ったり、反応したりすることの無い材料であって、より好ましくは、前記防湿膜の上に更に塗布されることによって、本実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの防湿性能を更に向上させ得る材料を含んでなることが望ましい。かかる材料として特に好ましいのは、フッ素樹脂である。
【0104】
第15の実施態様
また更に、本発明の第15の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第13の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層が、前記防湿膜の表面を硬化させることによって形成されてなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【0105】
本発明の前記第14の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、フッ素系有機材料を含んでなる少なくとも1層の保護膜が防湿膜の上に更に設けられている。このように、保護膜を、防湿膜とは別個の層として、防湿膜の上に塗布することによって設けてもよいが、防湿膜の表面を硬化させることによって保護膜を形成させてもよい。このように防湿膜の表面を硬化させる方法としては、例えば、プラズマ照射処理、紫外線硬化処理、湿気硬化処理等の方法が挙げられる。また、防湿膜を構成する液体の中に保護膜成分(例えば、フッ素樹脂)を混合又は溶解させておき、加熱処理等によって防湿膜の表面に保護膜成分を分離させた後、この表面にプラズマ処理、紫外線硬化処理、湿気硬化処理等を施して、分離した保護膜成分を硬化させて保護膜を形成させてもよい。
【0106】
尚、上述のように防湿膜の上に保護膜が配設されている本発明の前記第13乃至第15の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、保護膜を2層構造としてもよい。具体的には、上述の各実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータの防湿膜の上に第1の保護膜を配設した後に、真空設備等を使用して、より防湿効果の高い膜を第2の保護膜として積層することが可能である。より具体的には、例えば、スパッタ法や化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition))法等を用いて、アルミナ、ガラス、ポリパラキシリレン等を、上記第1の保護膜の上に積層して、第2の保護膜を設けることができる。かかる第2の保護膜を設けた場合、防湿膜や第1の保護膜からのアウトガスを防止する効果があり、より好ましい。
【0107】
第16の実施態様
加えて、本発明の第16の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータは、本発明の前記第13の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータであって、前記保護膜のうち少なくとも1層が、ポリパラキシリレン系有機材料を含んでなる、圧電/電歪アクチュエータである。
【0108】
上述のように、防湿膜の上に少なくとも1層の保護膜が更に配置されている実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、防湿膜の上に配設された第1の保護膜の上に積層された第2の保護膜を備えていてもよい。より好ましくは、当該第2の保護膜は防湿効果の高い膜であることが望ましい。かかる防湿効果の高い膜は、上述のように、例えば、アルミナ、ガラス、ポリパラキシリレン等を、スパッタ法やCVD法等を用いて、上記第1の保護膜の上に積層することにより設けることができる。
【0109】
しかしながら、本発明者は、更なる研究の結果、上記のような第2の保護膜を、第1の保護膜を介すること無く、防湿膜の上に直接設けることも可能であることを見出した。具体的には、例えば、ポリパラキシリレン系有機材料を含んでなる保護膜を、本発明に係る防湿膜の上に積層しようとする場合において、例えばCVD法等の手法によれば、防湿膜との溶解を招く虞がある溶剤等を使用すること無く、当該保護層を防湿膜の上に直接設けることができる。
【0110】
以下に記載する実施例によって本発明を更に詳しく説明するけれども、本発明の技術的範囲は、これらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0111】
圧電/電歪アクチュエータの製造
本発明の実施例1〜7及び比較例1〜9に係る圧電/電歪アクチュエータの製造について以下に説明する。但し、以下に説明する構成や製造方法等はあくまでも例示であって、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータの構成や製造方法は、これらに限定されるものではない。
【0112】
(1)圧電/電歪アクチュエータの製造
ここでは、図1を参照しながら説明する。図1は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータの平面図(a)、図中に示す線Yに沿った断面図(b)、及び図中に示す線Xに沿った断面図(c)である。先ず、薄肉部20の厚みが6μmの基板10をグリーンシート成形によって成形し、1450℃で焼成した。次に、上記薄肉部20に対応する領域に、厚さ1.5μm、幅120μmの白金(Pt)電極(下部電極30)をスクリーン印刷によって積層し、1350℃で焼成した。この下部電極30の上に、厚さ6μm、幅160μmの下層圧電膜40をスクリーン印刷によって積層し、厚さ1.5μm、幅120μmの白金(Pt)電極(内部電極50)、及び厚さ6μm、幅160μmの上層圧電膜60をスクリーン印刷によって積層し、1250℃で焼成した。更に、この上層圧電膜60の上に、厚さ0.2μm、幅120μmの金(Au)電極(上部電極70)をスクリーン印刷によって積層し、800℃で焼成した。
【0113】
即ち、本実施例において使用する圧電/電歪アクチュエータ100は、上記の如く、内部電極50が2層の圧電膜(下層圧電膜40及び上層圧電膜60)で挟まれており、その両面に下部電極30及び上部電極70が設けられた構成となっているので、本実施例における圧電/電歪素子90は、前述の「1層の圧電/電歪層と前記圧電/電歪層の両面にそれぞれ配置された1対の電極とを含む積層体」を2つ含むことになるが、圧電/電歪素子が当該積層体を1つのみ含む態様、及び圧電/電歪素子が積層体を3つ以上含む態様も本発明の範囲に含まれる。尚、上記圧電/電歪アクチュエータ100の長手方向(上記幅方向及び厚み方向に直行する方向)の長さは1000μmとした。
【0114】
尚、上記基板10の材料としては、金属元素換算で3mol%の酸化イットリウム(Y)を含有する酸化ジルコニウム(ZrO)を使用した。また、上記圧電膜40及び60の材料としては、0.17Pb(Mg1/3Nb2/3)O + 0.03Pb(Ni1/3Nb2/3)O + 0.80PZTを使用した。
【0115】
本実施例において使用する圧電/電歪アクチュエータ100においては、下層圧電膜40の下部電極30と内部電極50とによって挟まれる部分及び上層圧電膜60の内部電極50と上部電極70とによって挟まれる部分が作動部に該当する。即ち、これらの部分は、これらの電極間に電界が印加されると、印加された電界に応じた変形(変位)を生ずる。一方、下層圧電膜40の下部電極30と内部電極50とによって挟まれていない部分及び上層圧電膜60の内部電極50と上部電極70とによって挟まれていない部分は非作動部に該当する。即ち、これらの部分は、これらの電極間に電界が印加されても、印加された電界に応じた変形(変位)を(殆ど又は全く)生じない。従って、前述のように、分極処理の際又は圧電/電歪素子としての駆動の際に、作動部と非作動部との境界近傍(図1においては、点線で囲まれている部分)に応力がかかり、マイクロクラックが発生しがちである。このマイクロクラックは、圧電/電歪層の劣化や絶縁破壊、電極のショート等の問題を引き起こす主因となり、高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁耐久性を低下させる要因となり得る。
【0116】
ところで、圧電/電歪素子が当該積層体を1つのみ含む態様の一例を図2に示す。図2は、前述のように、本発明のもう1つの実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータの平面図(a)、図中に示す線Yに沿った断面図(b)、及び図中に示す線Xに沿った断面図(c)である。図2に示す実施態様においては、上記基板10の材料としては、金属元素換算で3mol%の酸化イットリウム(Y)を含有する酸化ジルコニウム(ZrO)を使用し、薄肉部20の厚さを1.5μm、幅を100μmとした。また、この薄肉部20に対応する領域に、厚さ1.0μm、幅90μmの白金(Pt)電極(下部電極30)を積層した。更に、この下部電極30の上に、0.17Pb(Mg1/3Nb2/3)O + 0.03Pb(Ni1/3Nb2/3)O + 0.80PZTのセラミックスを使用し、厚さ2.5μm、幅80μmの上層圧電膜60を積層した。また更に、この上層圧電膜60の上に、厚さ0.1μm、幅70μmの金(Au)電極(上部電極70)を積層した。このように、圧電/電歪素子が当該積層体を1つのみ含む態様もまた、本発明の変形例として含まれる。
【0117】
(2)圧電/電歪アクチュエータの分極処理
上記のようにして得られた圧電/電歪アクチュエータを分極処理に付した。上記のように電極が形成された圧電/電歪アクチュエータ(焼結体)の電極に電圧を印加した。この際、圧電/電歪アクチュエータを50〜150℃に加熱する高温分極処理を行うことが望ましい。高温分極処理を行うときには、圧電/電歪アクチュエータに2〜20kV/mmの電界が印加される。尚、本実施例においては、圧電/電歪アクチュエータ100に、70℃において、15kV/mmの電界を印加したが、分極処理の条件もまた、圧電/電歪素子90の構成等に応じて、当該技術分野において周知の種々の技法の中から適宜選択することができる。
【0118】
更にエージング処理を行う場合は、電極が開放された状態で当該圧電/電歪アクチュエータを大気中で100〜300℃に加熱してもよい。
【0119】
(3)防湿膜の塗布
上記のように製造された圧電/電歪アクチュエータ100の、圧電膜と電極との積層体(圧電/電歪素子90)が固着されている側の外表面に、スピンコート法によって防湿膜80を塗布した。実施例1〜7及び比較例1〜9の圧電/電歪アクチュエータにおける各防湿膜の材料、水分率、耐電圧、及び塗布厚みは、下記表1に列挙されている。尚、本実施例においては、上記の如く、スピンコート法によって防湿膜を塗布したが、前述の如く、防湿膜の材料の性状や圧電/電歪アクチュエータの構成等に応じて、当該技術分野において周知の種々の塗布方法から適切な方法を適宜選択して使用することができる。
【0120】
表1において、実施例1における防湿膜材料である鉱油Aは、40℃における動粘度が56[mm/s]であり、n−d−M法によって求められるパラフィン炭素、ナフテン炭素、及び芳香族炭素の割合(それぞれ%CP、%CN、及び%CA)がそれぞれ66、34、及び0であり、硫黄分が100ppm未満である。また、実施例2における防湿膜材料である鉱油Bは、40℃における動粘度が8.0[mm/s]であり、%CP、%CN、及び%CAがそれぞれ54、38、及び8であり、硫黄分が300ppmである。更に、実施例3における防湿膜材料である鉱油Cは、40℃における動粘度が8.5[mm/s]であり、%CP、%CN、及び%CAがそれぞれ47、46、及び7であり、硫黄分が100ppmである。尚、n−d−M法(「n−d−M環分析法」とも称する)は、前述のように、油分の組成分析において一般的に用いられる分析手法であり、油分中のパラフィン炭素数、ナフテン炭素数、及び芳香族炭素数の全炭素に対する割合をn(屈折率)、d(密度)、M(平均分子量)、及び硫黄分濃度から実験式的に推定する方法である。
【0121】
加えて、表1において、実施例4における防湿膜材料であるポリブテンAは、40℃における動粘度が110[mm/s]であり、硫黄分が100ppmである。また、実施例5における防湿膜材料であるポリブテンBは、40℃における動粘度が650[mm/s]であり、硫黄分が100ppmである。尚、本実施例において代表例として使用した防湿膜材料の組成及び物性等に関する上記記載はあくまでも例示であり、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータにおいて使用される防湿膜材料は、これらの例示に限定されるものと解釈されるべきではない。また、本実施例において代表例として使用した防湿膜材料の組成比及び物性値等は、例えば、測定上の誤差や防湿膜として採用する各種材料の製造上の品質のバラツキに起因して、ある程度(±数%程度、具体的には±5%程度)の変動を伴う場合があることにも留意されるべきである。
【0122】
高湿絶縁劣化の評価
本実施例における各種圧電/電歪アクチュエータの高湿絶縁劣化及び圧電変位の評価方法につき、以下に説明する。
【0123】
(1)加速劣化試験
上記のように製造された各種圧電/電歪アクチュエータを、40℃×85%RHの条件下で、4kV/mmの直流印加駆動を100時間にわたって行った。この加速劣化試験は、表1に列挙されている各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれにつき、900個のサンプル数にて実施した。
【0124】
(2)絶縁抵抗測定
各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれにつき、上記加速劣化試験を経た900個のサンプルのうち、加速劣化試験終了時の外観において破損や変質が認められるものを除外して、残るサンプルについて絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗値のうち最も低い値を、それぞれの圧電/電歪アクチュエータの劣化後の絶縁抵抗値とした。即ち、劣化後の絶縁抵抗値が高いものほど、高湿度雰囲気下での絶縁耐久性が高い圧電/電歪アクチュエータであるということになる。尚、上記加速劣化試験を行う前の(劣化前の)絶縁抵抗は、何れの圧電/電歪アクチュエータにおいても、1000MΩ以上であった。
【0125】
(3)圧電変位測定
各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれにつき、上記加速劣化試験後について、4kV/mmの電界における、厚み方向の変位量をレーザードップラーで測定し、圧電変位の量とした。上記防湿膜として塗布された材料が硬く、圧電/電歪素子の変位を阻害する場合は圧電変位量が小さくなる。従って、圧電変位量が大きいほど、防湿膜による圧電変位の阻害が小さいことを意味するので望ましい。
【0126】
(4)高湿絶縁劣化の評価結果
上記手順によって得られた圧電変位及び絶縁抵抗測定の結果を、各種実施例及び比較例において使用した防湿膜の材料、水分率、耐電圧、及び塗布厚みと併せて、以下の表1に列挙する。
【0127】
【表1】
【0128】
表1に示されているように、防湿膜が塗布されていない対照標準としての比較例1の圧電/電歪アクチュエータにおいては、当然のことながら圧電変位の阻害は認められないものの、加速劣化試験後の絶縁抵抗が0.3MΩと著しく低下している。これは、加速劣化試験によって作動部と非作動部との境界近傍に生じたマイクロクラックを介して圧電/電歪アクチュエータ内に水分が侵入したためと考えられる。
【0129】
また、モノテルペンアルコールの一種であるテルピネオールを防湿膜として塗布した比較例2の圧電/電歪アクチュエータにおいては、液体からなる防湿膜を使用していることから圧電変位の阻害は認められないものの、加速劣化試験後の絶縁抵抗が6MΩと著しく低下している。これは、そもそも、テルピネオールの飽和水分率が1500ppmと高く、耐電圧が1kV/mmと低いため、高湿度雰囲気下での絶縁耐久性の改善効果を発揮することができないためと考えられる。
【0130】
更に、ポリオレフィン、ポリパラキシレン、フッ素膜、シリコーン系ゴム、及び酸化珪素(SiO)を防湿膜としてそれぞれ採用した比較例3、4、及び7乃至9の圧電/電歪アクチュエータにおいては、防湿膜が塗布されていない対照標準としての比較例1の圧電/電歪アクチュエータと比較して、いずれも圧電変位の阻害が認められる。これは、これらの圧電/電歪アクチュエータにおいて採用された防湿膜が硬く、圧電変位の阻害要因となったことを示唆している。
【0131】
しかも、これらの圧電/電歪アクチュエータにおいては、加速劣化試験後の絶縁抵抗も著しく低下している。これは、これらの圧電/電歪アクチュエータにおいて採用された防湿膜が流動性に乏しいため、加速劣化試験中に作動部と非作動部との境界近傍に新たに発生したマイクロクラック中に防湿膜の材料が十分に充填されなかったり、あるいは防湿膜が圧電/電歪アクチュエータの表面に十分に密着した状態を維持できなかったりして、高湿絶縁劣化を十分に抑制することができなかったことを示唆している。
【0132】
一方、比較的流動性が高いフッ素オイル及びフッ素ゲルを防湿膜として塗布した比較例2の圧電/電歪アクチュエータにおいては圧電変位の阻害は認められない。また、フッ素オイル及びフッ素ゲルについては、飽和水分率もそれぞれ5ppm及び10ppmと低い。また、フッ素オイル及びフッ素ゲルの耐電圧もそれぞれ8kV/mm及び10kV/mmと高いが、高湿度雰囲気下での絶縁耐久性の改善効果を発揮することができず、加速劣化試験後の絶縁抵抗も、それぞれ10kV/mm及び0.8kV/mmと、著しく低下している。
【0133】
上記のように、フッ素オイル及びフッ素ゲルは、飽和水分率及び耐電圧がいずれも本発明に係る圧電/電歪アクチュエータの防湿膜の材料として好適な範囲に入っているにもかかわらず、高湿度雰囲気下での絶縁耐久性の改善効果を発揮することができなかった。これは、フッ素オイル及びフッ素ゲルは、炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体ではないために、圧電/電歪アクチュエータにおける防湿膜として、高湿度雰囲気下において所望の絶縁耐久性を発揮することができなかったものと思われる。
【0134】
一方、飽和水分率及び耐電圧がいずれも本発明に係る圧電/電歪アクチュエータの防湿膜の材料として好適な範囲に入っており且つ炭素−炭素結合を主骨格とし、炭素及び水素のみからなる炭化水素系有機化合物を主成分とする液体である、鉱油A乃至C、ポリブテンA及びB、ノナン、並びにウンデカンを防湿膜として採用した実施例1〜7の圧電/電歪アクチュエータにおいては、圧電変位を阻害すること無く、加速劣化試験前に匹敵する高い絶縁抵抗を維持している。これは、加速劣化試験中に作動部と非作動部との境界近傍に新たに発生したマイクロクラックについても防湿膜を構成するこれらの材料が十分に充填され、且つ防湿膜が圧電/電歪アクチュエータの表面に十分に密着した状態を維持することができた(剥離しなかった)ために、高湿絶縁劣化を十分に抑制することができたことを示唆している。
【実施例2】
【0135】
以下に示す実施例においては、本発明の前記第3の実施態様に係る圧電/電歪アクチュエータのように、例えば、より厳しい条件下での加速劣化試験後でも高い絶縁抵抗を保持する等、更に高い高湿絶縁耐久性を達成しようとする場合における、本発明の幾つかの実施態様及び比較例としての実施態様について説明する。
【0136】
圧電/電歪アクチュエータの製造
本発明の実施例11〜17及び比較例11〜16に係る圧電/電歪アクチュエータの製造について以下に説明する。但し、以下に説明する構成や製造方法等はあくまでも例示であって、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータの構成や製造方法は、これらに限定されるものではない。
【0137】
(1)圧電/電歪アクチュエータの製造及び分極処理
本発明の実施例11〜17及び比較例11〜16に係る圧電/電歪アクチュエータは、前述の本発明の実施例1〜7及び比較例1〜9に係る圧電/電歪アクチュエータと同様に製造し、分極処理を施した。
【0138】
(2)防湿膜材料の移動係数の測定
前述のように、防湿膜を構成する液体材料の液境膜における水分の移動係数(k)は、所定の環境(40℃×85%RH)下で、所定の体積(V)の上記液体を周囲雰囲気に所定の表面積(S)を介して接触させた状態における上記液体中の水分の濃度を、例えば市販のオイル内水分計等の検出手段(例えば、ヴァイサラ(VAISALA)製HUMICAP(登録商標)MMT162オイル内水分変換器)によって測定し、当該測定結果から−ln(1−X)を算出し、時間(t)に対してプロットすることによって得られたプロットの傾き((S/V)×k)から、上記移動係数(k)を求めることができる。尚、前述のように、Xは、液体中に溶存する水の濃度(Cw)の液体中に溶存する水の飽和濃度(Cw)に対する比(「活性値」とも称する)を表す。
【0139】
ここで、各種防湿膜を構成する液体材料の液境膜における水分の移動係数(k)の測定に用いた測定装置につき、添付図面を参照しながら説明する。図5は、前述のように、防湿膜を構成する液体材料の液境膜における水分の移動係数(k)の測定に用いる測定装置の概要を表す模式図である。図5に示す測定装置においては、所定の容積(例えば、30mmΦ×50mmH)を有する容器中に防湿膜を構成する液体210を所定量(例えば、25mL)保持し、当該液体中に浸るように水分検出手段220を配設する。かかる構成を有する測定装置を、40℃×55%RHの環境下に24時間に亘って設置し、水分検出手段220からの検出信号に基づく水分濃度(Cw)の変化を定期的に(例えば、10分間隔で)記録した。尚、本実施例においては、水分検出手段220として、ヴァイサラ(VAISALA)製HUMICAP(登録商標)MMT162オイル内水分変換器を使用した。
【0140】
上記のようにして得られた水分濃度(Cw)の飽和水分濃度(Cw)に対する割合を活性値(X)として算出し、時間(t)に対してプロットしたグラフの一例を図6に示す。前述のように、図6は、本発明の1つの実施態様に係る防湿膜材料における、活性値(X)の時間(t)に対するプロットを表すグラフである。また、上記のようにして算出された活性値(X)から−ln(1−X)を算出し、時間(t)に対してプロットしたグラフの一例を図7に示す。前述のように、図7は、発明の1つの実施態様に係る防湿膜材料における、−ln(1−X)の時間(t)に対するプロットを表すグラフである。
【0141】
前述のように、図7に示すグラフの傾きは(S/V)×kに該当する。従って、当該傾きの値に上述のS及びVを代入して、各種防湿膜を構成する液体の液境膜における水分の移動係数(k)を算出した。尚、図7に示すようなグラフは、測定初期は上記液体210中の水分が水分検出手段220まで未だ到達していない虞が高い。一方、測定終期は、上記液体210中の水分の濃度(Cw)が飽和水分濃度(Cw)に近付くため、拡散律速から逸脱する。従って、当該グラフの傾きを求める際には、測定初期及び測定終期のデータを除外して、決定係数R2が0.99以上となるようにした。
【0142】
(3)防湿膜の塗布
前述の本発明の実施例1〜7及び比較例1〜9に係る圧電/電歪アクチュエータと同様に、上記のように製造された圧電/電歪アクチュエータの、圧電膜と電極との積層体(圧電/電歪素子)が固着されている側の外表面に、スピンコート法によって防湿膜を塗布した。実施例11〜17及び比較例11〜16の圧電/電歪アクチュエータにおける各防湿膜の材料、水分率、耐電圧、及び塗布厚みは、下記表2に列挙されている。尚、本実施例においては、上記の如く、スピンコート法によって防湿膜を塗布したが、前述の如く、防湿膜の材料の性状や圧電/電歪アクチュエータの構成等に応じて、当該技術分野において周知の種々の塗布方法から適切な方法を適宜選択して使用することができる。
【0143】
表2に示すように、実施例11乃至17に係る防湿膜材料においては、n−d−M法によって求められるパラフィン炭素の割合(%CP)とナフテン炭素の割合(%CN)との和に対するナフテン炭素の割合(%CN)の比率(ナフテン比率)が20%以上、且つ40%未満であり、芳香族炭素の割合(%CA)が2%未満であり、40℃×85%RHの環境下での前記液体の液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満であり、そして硫黄の含有率が100ppm未満である。即ち、これらの実施例に係る防湿膜材料においては、これら全ての項目が望ましい範囲に収まっている。
【0144】
一方、比較例11及び12に係る防湿膜材料においては、n−d−M法によって求められるナフテン比率が40%以上であり、芳香族炭素の割合(%CA)が2%以上であり、水分の移動係数が0.2cm/Hr以上であり、そして硫黄の含有率が100ppm以上である。即ち、比較例11及び12に係る防湿膜材料においては、これら全ての項目が望ましい範囲から逸脱している。また、比較例13乃至16に係る防湿膜材料においては、芳香族炭素の割合(%CA)及び硫黄の含有率は望ましい範囲内に収まっているものの、その他の項目(ナフテン比率及び移動係数)については、望ましい範囲から逸脱している。
【0145】
高湿絶縁劣化の評価
本実施例における各種圧電/電歪アクチュエータの高湿絶縁劣化の評価方法につき、以下に説明する。
【0146】
(1)加速劣化試験
上記のように製造された各種圧電/電歪アクチュエータのそれぞれにつき、40℃×85%RHの条件下での直流印加駆動を100時間にわたって行った。この際、前述の本発明の実施例1〜7及び比較例1〜9に係る圧電/電歪アクチュエータについては4kV/mmの電界を印加したのに対し、本発明の実施例11〜17及び比較例11〜16に係る圧電/電歪アクチュエータについては8kV/mmの電界を印加した。この加速劣化試験は、表2に列挙されている各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれにつき、900個のサンプル数にて実施した。
【0147】
(2)絶縁抵抗測定
各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれにつき、前述の本発明の実施例1〜7及び比較例1〜9に係る圧電/電歪アクチュエータと同様に、上記加速劣化試験を経た900個のサンプルのうち、加速劣化試験終了時の外観において破損や変質が認められるものを除外して、残るサンプルについて絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗値のうち最も低い値を、それぞれの圧電/電歪アクチュエータの劣化後の絶縁抵抗値とした。即ち、劣化後の絶縁抵抗値が高いものほど、高湿度雰囲気下での絶縁耐久性が高い圧電/電歪アクチュエータであるということになる。尚、上記加速劣化試験を行う前の(劣化前の)絶縁抵抗は、何れの圧電/電歪アクチュエータにおいても、1000MΩ以上であった。
【0148】
(3)高湿絶縁劣化の評価結果
上記手順によって得られた絶縁抵抗測定の結果を、各種実施例及び比較例において使用した防湿膜の材料、組成、水分率、及び移動係数と併せて、以下の表2に列挙する。
【0149】
【表2】
【0150】
表2に示されているように、防湿膜材料のナフテン比率、芳香族炭素の割合(%CA)、水分の移動係数、及び硫黄の含有率の全てが望ましい範囲から逸脱している比較例11及び12に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、加速劣化試験後の絶縁抵抗がそれぞれ372MΩ及び80MΩと著しく低下している。これらの比較例に係る圧電/電歪アクチュエータは、それぞれ前述の実施例2及び3に係る圧電/電歪アクチュエータに対応するものであり、相対的に穏やかな条件(具体的には4kV/mmの電界)下での加速劣化試験後であれば良好な絶縁抵抗を保持することができたものの、より厳しい条件(具体的には8kV/mmの電界)下での加速劣化試験後では良好な絶縁抵抗を保持することができなかった。
【0151】
同様に、比較例13乃至16に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、上述のように、芳香族炭素の割合(%CA)及び硫黄の含有率は望ましい範囲内に収まっているものの、その他の項目(ナフテン比率及び移動係数)については、望ましい範囲から逸脱していることから、より厳しい条件(具体的には8kV/mmの電界)下での加速劣化試験後では良好な絶縁抵抗を保持することができなかった。尚、比較例16に係る圧電/電歪アクチュエータは、前述の実施例7に係る圧電/電歪アクチュエータに対応するものであり、相対的に穏やかな条件(具体的には4kV/mmの電界)下での加速劣化試験後であれば良好な絶縁抵抗を保持することができたものの、より厳しい条件(具体的には8kV/mmの電界)下での加速劣化試験後では良好な絶縁抵抗を保持することができなかった。
【0152】
一方、防湿膜材料のナフテン比率、芳香族炭素の割合(%CA)、水分の移動係数、及び硫黄の含有率の全てが望ましい範囲に収まっている実施例11乃至17に係る圧電/電歪アクチュエータにおいては、より厳しい条件(具体的には8kV/mmの電界)下での加速劣化試験後においても、良好な絶縁抵抗を保持することができた。
【0153】
ここで、各種実施例及び比較例に係る圧電/電歪アクチュエータのそれぞれについての移動係数及び劣化後の絶縁抵抗のナフテン比率に対するプロットを表すグラフをそれぞれ図8及び図9に示す。図8に示すグラフからも明らかであるように、防湿膜を構成する液体の液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満であるのは、ナフテン比率が20%以上、且つ40%未満である液体であることが判る。また、図9に示すグラフからも明らかであるように、より厳しい条件(具体的には8kV/mmの電界)下での加速劣化試験後でも良好な絶縁抵抗を保持することができるのは、図8に示すグラフにおいて0.2未満の移動係数を呈した、ナフテン比率が20%以上、且つ40%未満である液体であることが判る。即ち、前述のように、40℃×85%RHの環境下での防湿膜を構成する液体の液境膜における水分の移動係数が0.2cm/Hr未満とすることにより、より厳しい条件(具体的には8kV/mmの電界)下での加速劣化試験後でも良好な絶縁抵抗を保持することができる圧電/電歪アクチュエータを提供することができることが確認された。
【0154】
また、実施例12に係る圧電/電歪アクチュエータの断面試料を、凍結状態における収束イオンビーム(FIB)加工によって作成し、走査型電子顕微鏡(SEM)によって防湿膜の塗布状態を観察した結果を図10に示す。図10に示すSEM写真において、圧電膜330における粒界340と上部電極(Au)320との間には隙間が存在すること、及び当該隙間には防湿膜310が充填されていることを確認することができる。これにより、当該隙間を介して上記圧電/電歪素子内に水分が侵入することを防止して、高湿絶縁劣化(高湿度雰囲気下での圧電/電歪素子の絶縁性の低下)を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
以上のように、本発明によれば、圧電変位の阻害を抑制しつつ、高湿度雰囲気下でも優れた絶縁耐久性を呈する圧電/電歪アクチュエータが提供される。
【符号の説明】
【0156】
10 基板
20 薄肉部
30 下部電極
40 下層圧電膜
50 内部電極
60 上層圧電膜
70 上部電極
80 防湿膜
90 圧電/電歪素子
100 圧電/電歪アクチュエータ
110 粒界
120 粒界に生じた亀裂
210 防湿膜材料
220 水分検出手段(オイル内水分計)
310 防湿膜
320 上部電極(Au)
330 圧電膜
340 粒界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10