(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された燃料供給装置では、燃料昇圧ポンプの吐出量を検出する圧力センサを有する。そのため、高価な圧力センサを含む複雑な制御系を組む必要があり、コスト面で不利になるおそれがある。
【0005】
この発明は上記事情に鑑みてなされたもので、高価な圧力センサ等を用いずに安く簡単に燃料フィルタの詰まりを検出することができる燃料供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、燃料タンク(1)内に取り付けられる燃料ポンプ(12)と、前記燃料ポンプ(12)の吸い込み口(17)に取り付けられる燃料フィルタ(11)と、前記燃料ポンプ(12)に有するポンプ部(16)の上流で開口し、前記吸い込み口(17)より
前記ポンプ部(16)内に浸入した気泡を排出する脱気孔(22)と、を備える燃料供給装置(10)であって、一端が前記脱気孔(22)に連結し、他端が前記燃料タンク(1)の燃料量変化過程において少なくとも一時的に気相となる位置に配置されるベーパー排気管(14)を備え、前記燃料フィルタ(11)は、中空状をなし、その内部に前記燃料ポンプ(12)の前記吸い込み口(17)を連通させ、圧損の上昇に伴い、初期状態の第一形態(A1)から前記第一形態(A1)よりも収縮した第二形態(A2)に弾性変形可能であり、かつ、前記第二形態(A2)にあるときに、前記燃料ポンプ(12)が前記ベーパー排気管(14)から前記気相を吸い込むことにより、前記第一形態(A1)に弾性的に復元可能であり、前記燃料フィルタ(11)の形態変動により、燃圧に脈動を生じさせる
とともに、エンジン回転数を検出する回転数検出器(32)を有し、所定期間内に前記燃圧の脈動による前記エンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じた場合に警告を発することを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、前記ベーパー排気管(14)の上端部は、前記燃料フィルタ(11)よりも上方に位置することを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ(33)を有し、前記エンジン回転数が前記スロットル開度と同期するときは、前記エンジン回転数が変動しても前記燃圧の脈動によるものと判定せず、前記エンジン回転数が前記スロットル開度と同期しないとき
は、前記エンジン回転数の変動が前記燃圧の脈動によるものと判定することを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、燃料フィルタにダストが付着した場合、燃料フィルタの圧損が上昇し、燃料フィルタ内が負圧になると、燃料フィルタは、初期状態の第一形態から第一形態よりも収縮した第二形態に弾性変形する。燃料フィルタが負圧状態にあるときにベーパー排気管が気相内にあると、ベーパー排気管から空気を吸い込むことにより燃料フィルタの内部が略大気圧になって、蓄積されている弾性復元力により燃料フィルタが第一形態に復元する。これにより、フィルタ表面に吸着したダストが破断し、燃料フィルタの圧損が低減されて燃圧が回復する。このような燃料フィルタの形態変動が繰り返されることにより、燃圧に脈動が生じて、燃料フィルタが交換時期であることを促すことができる。したがって、高価な圧力センサ等を用いずに安く簡単に燃料フィルタの詰まりを検出することができる。
また、燃圧の脈動に伴い、所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じた場合には、燃料フィルタに詰まりが生じていると判定して警告を発することにより、燃料フィルタが交換時期であることを明確かつ早期に報知することができる。
請求項2に記載した発明によれば、ベーパー排気管の上端部が燃料フィルタよりも上方に位置するために、ガス欠になる前に燃料フィルタの形態変動が生じて、燃料フィルタが交換時期であることを促すことができる。
請求項3に記載した発明によれば、スロットル操作によるエンジン回転数の変動を除外した上で、エンジン回転数がスロットル開度と同期しない場合に、所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じたか否かを判別することにより、燃料フィルタが交換時期であることをより正確に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の燃料供給装置10は、いわゆる上付けタイプの燃料ポンプモジュールMを備える。燃料ポンプモジュールMは、燃料タンク1の上壁2に形成された開口3から燃料タンク1内に挿入され、燃料タンク1の上壁2に取り付けられて吊下された状態で、燃料タンク1に貯蔵された燃料内に浸漬される。燃料タンク1では、残燃料無(ガス欠、燃料メータE点)と液面レベルの第1レベルL1と、後述する燃料フィルタ11による詰りの検知開始レベルL2と、が設定される。
【0010】
図2に示すように、燃料ポンプモジュールMは、燃料ポンプ12と、ホルダ部13と、ベーパー排気管14と、燃料フィルタ11と、を備える。
燃料ポンプ12は、燃料タンク1の上壁2と交差する略円柱形状に形成されており、上側に配設されるモータ部15と、下側に配設されるポンプ部16と、を有する。図中線CLは燃料ポンプ12の中心軸線を示す。
【0011】
モータ部15には、例えば不図示のブラシ付直流モータが使用される。このブラシ付直流モータは、その出力軸が、モータ部15の上側とポンプ部16の下側とに配置された不図示の軸受等により回動自在に軸支される。
【0012】
ポンプ部16は、不図示のインペラを有する非容積型のポンプであって、モータ部15のブラシ付直流モータの出力軸に相互回転不能に結合されたインペラを不図示のポンプ室内に収容する。ポンプ部16の下端部には、吸い込み口17が形成される。ポンプ部16は、モータ部15の駆動により回転するインペラによって生じた負圧力により、燃料を吸い込み口17から上側に向けて圧送する。
【0013】
ホルダ部13は、燃料ポンプ12に上方から被さるアッパーハウジング18と、燃料ポンプ12に下方から被さるロワーハウジング19と、を備える。アッパーハウジング18と、ロワーハウジング19とは、軸線CL方向に二分割可能、かつ一体的に組み立て可能である。アッパーハウジング18とロワーハウジング19とは、モータ部15とポンプ部16とを内部に収容して組み立てられる。
【0014】
アッパーハウジング18には、燃料タンク1の上壁2に支持される支持フランジ20が設けられる。アッパーハウジング18には、支持フランジ20上で燃料タンク1の外部に配置されてポンプ部16に連通接続される燃料吐出口21が形成される。燃料吐出口21は、エンジン4(
図5参照)に有する不図示の燃料供給系に連通接続される。
【0015】
ロワーハウジング19の底部には、この底部を厚さ方向に貫通する脱気孔22が形成される。脱気孔22は、ポンプ部16の上流で開口しており、吸い込み孔23より浸入したベーパー(気泡)を、ベーパー排気管14を通じてポンプ部16の外部に排出する機構を有する。
【0016】
ベーパー排気管14は、脱気孔22近傍に配置された一方端が脱気孔22と連通接続される。ベーパー排気管14のアッパーハウジング18側に位置する他方端には、キャップフィルター24が取り付けられる。キャップフィルター24は、燃料タンク1の燃料量変化過程において少なくとも一時的に気相(空気)となる位置(検知開始レベルL2よりも上方)に配置される。ベーパー排気管14は、脱気孔22から排出されたベーパーを上方に向けて流通させ、キャップフィルター24を通じてポンプ外に排出する機能を有する。ここで、燃料タンク1内の燃料量が検知開始レベルL2以下である場合、ベーパー排気管14の他方端(上端部)は、検知開始レベルL2よりも上方に配置される。そのため、ベーパー排気管14は、脱気孔22から排出されたベーパーを、他方端から検知開始レベルL2上の空気層内に排出する。このときのベーパーの流れを図中矢印F1で示す。
【0017】
燃料フィルタ11は、中空状をなし、燃料ポンプ12の吸い込み口17に連通接続される。燃料フィルタ11は、例えば、弾性を有する樹脂製の骨格25の外側に濾布26が装着される。骨格25としては、例えば、格子状に形成されるのが好ましい。
【0018】
図3、
図4を参照し、燃料フィルタ11は、詰まりを生じた際の燃料の圧損の上昇に伴い、初期状態の第一形態A1から第一形態A1よりも収縮した第二形態A2に弾性変形可能であり、かつ第二形態A2から第一形態A1に弾性的に復元可能である。
【0019】
燃料フィルタ11は、
図3(a)に示すように、初期状態である第一形態A1に対し、
図3(b)に示すように、濾布26の表面にダストDが吸着して詰まりを生じると、燃料の圧損の上昇に伴い、初期状態の第一形態A1から第一形態A1よりも収縮した第二形態A2に弾性変形する。そして、燃料フィルタ11は、前記収縮に伴い弾性反発力を蓄積する。
【0020】
図4に示すように、燃料フィルタ11が第二形態A2にあり、かつ、燃料タンク1の燃料量がベーパー排気管14の他方端よりも下方の検知開始レベルL2以下である場合において、燃料ポンプ12は、燃料フィルタ11の圧損の増加によりベーパー排気管14の流れに逆転が生じたとき、ベーパー排気管14によって検知開始レベルL2上の気相(空気)を吸い込み、一時的にエア噛みによるガス欠症状を発生させる。このときの気相の流れを図中矢印F2で示す。
【0021】
なお、燃料タンク1内の油面(燃料量)が、ベーパー排気管14の他方端よりも上方の検知開始レベルL2を超えた第2レベルL3である場合、燃料フィルタ11の圧損が増加しても、ベーパー排気管14によって検知開始レベルL2上の燃料を吸い込むため、前記ガス欠症状は生じない。
【0022】
図3(c)に示すように、燃料フィルタ11は、第二形態A2にあるときに気相を吸い込むと、第二形態A2から第一形態A1に弾性的に復元する。その際、燃料フィルタ11は、濾布26表面で詰まりを生じているダストDにクラック等の隙間D1を形成し、この隙間D1を通じて燃料を吸い込むことで、圧損を低下させる。
しかし、濾布26の表面にはダストDが吸着したままなので、燃料フィルタ11は間もなく第二形態A2に収縮し、かつエア噛みにより第一形態A1に復元することを繰り返す。この繰り返しが燃圧の脈動を生じさせるとともに、前記繰り返しの周期が所定以下になると、燃料フィルタ11が詰まりの解消を要する状態にあると判定できる。
【0023】
図5は、燃料供給装置10の要部のブロック構成図を示す。
図5に示すように、燃料供給装置10は、自動二輪車等の車両のエンジン4の運転に用いられるもので、制御部31、回転数検出器32、スロットル開度センサ33、燃圧センサ34、O
2センサ35、警報器36を備える。
【0024】
回転数検出器32は、エンジン4の回転数を検出して回転数情報を制御部31に与える。制御部31は、不図示のマップを参照する等してエンジン回転数とスロットル開度とが同期しているか否かを監視する。制御部31は、エンジン回転数とスロットル開度とが同期していない場合で、所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じた場合に、燃料フィルタ11に詰まりが生じていて、燃料フィルタ11の形態変動に伴う燃圧の脈動を生じていると判定し、乗員に警報器36による警告を促す。ここで、警報器36による警告とは、メータ内に設置される警告灯の点灯又は点滅等による視覚表示や、警報による音声表示等を意味する。なお、前記視覚表示は、メータ内に設置されるのに代えて、ハンドル等の視認し易い位置に設置されてもよい。また、既存の液晶燃料メータを用いて、E点以上のセグメントも含めて点滅させるような特別な表示を行うようにしてもよい。
【0025】
スロットル開度センサ33は、エンジン4の制御系におけるスロットル開度情報を検出して制御部31に与える。通常、エンジン4の回転数は、スロットル開度に同期する。しかし、燃料フィルタ11の詰まりが生じている場合、エンジン回転数がスロットル開度と同期しない変動を生じることがある。そして、制御部31は、所定期間内に、スロットル開度に同期しないエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じたか否かを判別する。その結果、所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じた場合には、燃料フィルタ11の詰まりが生じていて、燃料フィルタ11による形態変動に伴って脈動を生じていると判定し、警報器36により警告を促す。
【0026】
燃圧センサ34は、例えば燃料ポンプ12の吐出側に設けられ、燃料ポンプ12から不図示のインジェクタに供給する燃料の吐出圧(燃圧)を検出して制御部31に与える。本実施形態の燃圧センサ34は単なるON・OFFスイッチでよい。
O
2センサ35は、マフラーや触媒に取り付けられており、排ガス中の酸素濃度に応じた電気信号を制御部31に与える。制御部31は、O
2センサ35の信号から空燃比を検出し、燃料噴射量をフィードバック制御する。
【0027】
図6は、燃料供給装置10における燃圧と空燃比とエンジン回転数とスロットル開度との関係を示すタイミングチャートを示す。
図6に示すように、燃圧センサ34が検出した燃圧Pは、例えば、時点t1と時点t2との間(n=1)の所定時間(例えば3〜5秒)、及び時点t3と時点t4との間(n=2)の所定時間では、設定下限値を下回る。
【0028】
O
2センサ35の信号から検出した空燃比A/Fは、時点t1と時点t2との間の所定時間、及び時点t3と時点t4との間の所定時間で設定上限値を上回る。このとき、n=1、n=2…では、酸素量大のリーン側張付き状態(ガス欠状態)となり、エンジン回転数NEはスロットル開度THと同期しない変動(低下)を生じさせる。これらが短い周期で繰り返されると、燃料フィルタ11の詰まりが限界に近いと判定できる。
【0029】
エンジン回転数NEにおいて、例えばスロットル開度THの時間あたりの変動ΔTHが所定値未満(ΔTH<設定値)のときに異質な回転数低下が生じたときには、これを制御部31がカウントする。すなわち、エンジン回転数がスロットル開度と同期しない場合に、所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じたか否かを判別する制御が行われる。
【0030】
図7は、燃料供給装置10の制御動作を説明するフローチャートを示す。
図7に示すように、制御部31は、エンジン4の通常運転時に、O
2センサ35を用いたO
2フィードバック制御、及びLAFセンサ(Linear Air Fuel ratio sensor)を用いたLAFフィードバック制御の少なくとも一方を行う。
【0031】
O
2センサ35を用いたO
2フィードバック制御において、ステップS101でフューエルカットが未実施(フューエルカット未実施)であり、且つ、ステップS102で燃料メータがE点以上(油面が第1レベルL1以上、燃料メータE点以上)であるときに、ステップS103で、VO
2(空燃比)またはKO
2(噴射量補正係数)の値からリーン側張付き状態時(VO
2またはKO
2リーン側張付き)と判定され、次いで、ステップS104で制御部31に内蔵されたROMに記憶(カウント)される。
【0032】
そして、ステップS105で単位時間あたりのカウント数nが所定値N未満(n<N回)であると判定されると、ステップS106で警報器36による警告は行わない。一方、ステップS107で単位時間あたりのカウント数nが所定値N以上(n≧N回)であると判定されると、ステップS108で警報器36による警告を行う。
【0033】
LAFセンサを用いたLAFフィードバック制御において、ステップS109でフューエルカットが未実施(フューエルカット未実施)であり、且つ、ステップS110で燃料メータがE点以上(油面が第1レベルL1以上、燃料メータE点以上)であるときに、ステップS111で、VLAF(空燃比)またはKLAF(噴射量補正係数)の値からリーン側張付き状態時(VLAFまたはKLAFリーン側張付き)と判定され、次いで、ステップS112で制御部31に内蔵されたROMに記憶(カウント)される。
【0034】
そして、ステップS113で単位時間あたりのカウント数nが所定値N未満(n<N回)であると判定されると、ステップS114で警報器36による警告は行わない。一方、ステップS115で単位時間あたりのカウント数nが所定値N以上(n≧N回)であると判定されると、ステップS116で警報器36による警告を行う。
【0035】
以上説明したように、上記実施形態における燃料供給装置10では、燃料フィルタ11にダストDが付着した場合、燃料フィルタ11の圧損が上昇し、燃料フィルタ11内が負圧になると、燃料フィルタ11は、初期状態の第一形態A1から第一形態A1よりも収縮した第二形態A2に弾性変形する。燃料フィルタ11が負圧状態にあるときにベーパー排気管14の他方端が気相内にあると、ベーパー排気管14から空気を吸い込むことにより燃料フィルタ11の内部が略大気圧になって、蓄積されている弾性復元力により燃料フィルタ11が第一形態A1に復元する。これにより、フィルタ表面に吸着したダストが破断し、燃料フィルタ11の圧損が低減されて燃圧が回復する。このような燃料フィルタ11の形態変動が繰り返されることにより、燃圧に脈動が生じて、燃料フィルタ11が交換時期であることをライダー等の乗員に促すことができる。したがって、高価な圧力センサ等を用いずに安く簡単に燃料フィルタ11の詰まりを検出することができる。
【0036】
また、燃料供給装置10において、ベーパー排気管14の他方端(キャップフィルター24)が、燃料フィルタ11よりも上方に位置するために、ガス欠になる前に燃料フィルタ11の形態変動が生じて、燃料フィルタ11が交換時期であることを促すことができる。
【0037】
また、燃料供給装置10において、燃圧の脈動に伴い、所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じた場合には、燃料フィルタ11に詰まりが生じていると判定して警告を発することにより、燃料フィルタ11が交換時期であることを明確かつ早期に報知することができる。
【0038】
また、燃料供給装置10において、スロットル操作によるエンジン回転数の変動を除外した上で、燃圧の脈動により所定期間内にエンジン回転数の変動が所定回数を超えて生じたか否かを判別することにより、燃料フィルタ11が交換時期であることをより正確に検出することができる。
【0039】
なお、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、適宜な変形や改良等が可能である。例えば、燃料ポンプ、ホルダ部、燃料フィルタの形状は一例であって、図示したものに限定されることはない。