特許第6001805号(P6001805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6001805-燃料電池スタック 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6001805
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/24 20160101AFI20160923BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160923BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20160923BHJP
【FI】
   H01M8/24 E
   H01M8/02 K
   H01M8/12
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-133299(P2016-133299)
(22)【出願日】2016年7月5日
【審査請求日】2016年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-135971(P2015-135971)
(32)【優先日】2015年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−216237(JP,A)
【文献】 特開2005−187241(JP,A)
【文献】 特許第5770400(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
H01M 4/86 − 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向において交互に積層された複数の燃料電池と複数の集電部材とを備え、
前記複数の燃料電池それぞれは、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置されジルコニア系材料を主成分とする固体電解質層とを有し、
前記複数の燃料電池は、前記積層方向中央に位置する第1燃料電池と、前記積層方向一端に位置する第2燃料電池とを含み、
前記第1燃料電池の前記固体電解質層のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比は、前記第2燃料電池の前記固体電解質層のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比よりも大きい、
燃料電池スタック。
【請求項2】
前記複数の燃料電池は、前記第1燃料電池と前記第2燃料電池の間に位置する第3燃料電池を含み、
前記第3燃料電池の前記固体電解質層のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比は、前記第1燃料電池についての強度比よりも小さく、前記第2燃料電池ついての強度比よりも大きい、
請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記第1燃料電池についての強度比は、0.05以上0.8以下である、
請求項1又は2に記載の燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平板状の燃料電池と金属製の集電部材とが交互に積層された燃料電池スタックが知られている(例えば、特許文献1参照)。燃料電池は、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置される固体電解質層とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−135272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池スタックの稼動開始時、燃料電池スタックの上方及び下方に配置した熱源を用いて燃料電池スタックを加熱すると、積層方向両端に位置する燃料電池は速やかに昇温されるのに対して、積層方向中央に位置する燃料電池は速やかには昇温されない。一方で、集電部材は燃料電池に比べて熱伝導率が高いため、積層方向中央に位置する集電部材は、積層方向両端に位置する集電部材と同様に速やかに昇温される。
【0005】
その結果、積層方向中央に位置する燃料電池とそれに接続される集電部材との熱膨張度合いに差が生じるため、燃料電池と集電部材の間に応力が発生して、燃料電池の固体電解質層が損傷するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、積層方向中央に位置する燃料電池の固体電解質層が損傷することを抑制可能な燃料電池スタックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池スタックは、積層方向において交互に積層された複数の燃料電池と複数の集電部材とを備える。複数の燃料電池それぞれは、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置されジルコニア系材料を主成分とする固体電解質層とを有する。複数の燃料電池は、積層方向中央に位置する第1燃料電池と、積層方向一端に位置する第2燃料電池とを含む。第1燃料電池の固体電解質層のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの第1強度比は、第2燃料電池の固体電解質層のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの第2強度比よりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、積層方向中央に位置する燃料電池の固体電解質層が損傷することを抑制可能な燃料電池スタックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】燃料電池スタックの構成を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
(燃料電池スタック10の構成)
燃料電池スタック10の構成について図面を参照しながら説明する。図1は燃料電池スタック10の構成を模式的に示す断面図である。
【0012】
燃料電池スタック10は、6枚の燃料電池20と、7個の集電部材30と、6個のセパレータ40とを備える。
【0013】
6枚の燃料電池20と7個の集電部材30は、積層方向において交互に積層されている。各セパレータ40は、各燃料電池20を取り囲むように配置される。燃料電池スタック10は、6個のセパレータ40と後述する7枚のコネクタ33を積層方向に貫通するボルトによって締結されている。
【0014】
6枚の燃料電池20は、いわゆる固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。6枚の燃料電池20それぞれは、平板状に形成される。
【0015】
6枚の燃料電池20は、積層方向中央に位置する2枚の第1燃料電池20Aと、積層方向両端に位置する2枚の第2燃料電池20Bと、第1燃料電池20Aと第2燃料電池20Bの間に位置する2枚の第3燃料電池20Cとを含む。2枚の第1燃料電池20Aのうち上側の第1燃料電池20Aと積層方向上端の第2燃料電池20Bとの間隔は、下側の第1燃料電池20Aと積層方向下端の第2燃料電池20Bとの間隔と略同じである。
【0016】
燃料電池スタック10は、3枚以上の燃料電池20を備えていればよく、燃料電池20の枚数は適宜選択することができる。本実施形態では、燃料電池スタック10が偶数枚の燃料電池20を備えているため、積層方向中央に2枚の第1燃料電池20Aが位置しているが、これに限られるものではない。燃料電池スタック10が奇数枚の燃料電池20を備えている場合には、積層方向中央に位置する第1燃料電池20Aは1枚となる。
【0017】
また、本実施形態では、燃料電池スタック10が6枚の燃料電池20を備えているため、第3燃料電池20Cが2枚あるが、これに限られるものではない。燃料電池スタック10が7枚以上の燃料電池20を備えている場合、第3燃料電池20Cは4枚以上となり、燃料電池スタック10が4枚以下の燃料電池20を備えている場合、第3燃料電池20Cは2枚以下となる。さらに、燃料電池スタック10が燃料電池20を3枚だけ備えている場合、第3燃料電池20Cは存在しなくなる。
【0018】
(燃料電池20の構成)
燃料電池20は、燃料極21と、固体電解質層22と、空気極23とを有する。燃料極21と固体電解質層22と空気極23は、積層方向においてこの順に積層されている。
【0019】
燃料極21は、燃料電池20のアノードとして機能する。燃料極21は、燃料ガス透過性に優れた多孔質体である。燃料極21の厚みは、0.2mm〜5.0mmとすることができる。燃料極21は、例えばNiO(酸化ニッケル)-8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)によって構成することができる。燃料極21がNiOを含んでいる場合、NiOの少なくとも一部は、燃料電池20の稼働時にNiに還元されてもよい。
【0020】
固体電解質層22は、セパレータ40に固定されている。固体電解質層22は、燃料極21と空気極23の間に配置される。固体電解質層22の厚みは、3μm〜30μmとすることができる。固体電解質層22は、ジルコニア系材料を主成分として含有する。ジルコニア系材料には、立方晶系ジルコニアと正方晶系ジルコニアが含まれる。
【0021】
本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが70重量%以上を占めることを意味する。
【0022】
立方晶系ジルコニアとは、結晶相が主として立方晶の相からなるジルコニアである。立方晶系ジルコニアとしては、例えば、8YSZや10YSZ(10mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)が挙げられる。
【0023】
正方晶系ジルコニアとは、結晶相が主として正方晶の相からなるジルコニアである。正方晶系ジルコニアとしては、例えば、2.5YSZ(2.5mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)や3YSZ(3mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)のように3mol%以下のイットリアで安定化されたジルコニアが挙げられる。正方晶系ジルコニアの導電率は、立方晶系ジルコニアの導電率よりも低い。
【0024】
第1乃至第3燃料電池20A〜20Cの固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの濃度差については後述する。また、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの分布については、分布例1と分布例2を挙げて後述する。
【0025】
空気極23は、固体電解質層22上に配置される。空気極23は、燃料電池20のカノードとして機能する。空気極23は、酸化剤ガス透過性に優れた多孔質体である。空気極23の厚みは、5μm〜50μmとすることができる。
【0026】
空気極23は、一般式ABOで表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有することができる。このようなペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF((La,Sr)(Co,Fe)O:ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSF((La,Sr)FeO:ランタンストロンチウムフェライト)、LSC((La,Sr)CoO:ランタンストロンチウムコバルタイト)、LNF(La(Ni,Fe)O:ランタンニッケルフェライト)、LSM((La,Sr)MnO:ランタンストロンチウムマンガネート)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0027】
(集電部材30の構成)
集電部材30は、燃料電池20同士を電気的に接続するとともに、燃料ガスと酸化剤ガスを隔離する。集電部材30は、燃料極集電体31と、空気極集電体32と、コネクタ33とを有する。
【0028】
燃料極集電体31は、燃料極21とコネクタ33の間に配置される。燃料極集電体31は、燃料極21とコネクタ33とを電気的に接続する。燃料極集電体31は、導電性接合剤を介して燃料極21及びコネクタ33と機械的に接続されていてもよい。燃料極集電体31は、導電性を有する材料によって構成される。燃料極集電体31は、燃料ガスを燃料極21に供給可能な形状を有する。燃料極集電体31としては、例えばニッケル製のメッシュ部材を用いることができる。
【0029】
空気極集電体32は、コネクタ33を挟んで燃料極集電体31の反対側に配置される。空気極集電体32は、空気極23とコネクタ33の間に配置される。空気極集電体32は、空気極23とコネクタ33とを電気的に接続する。空気極集電体32は、空気極23と電気的に接続される複数の接続部32aを有する。複数の接続部32aは、マトリクス状に配列されている。各接続部32aは、空気極23側に突出する。接続部32aは、導電性接合剤を介して空気極23と機械的に接続されていてもよい。空気極集電体32は、導電性を有する材料によって構成される。空気極集電体32は、酸化剤ガスを空気極23に供給可能な形状を有する。空気極集電体32としては、例えば鉄とクロムを含有するステンレス(SUS430等)製の板状部材を用いることができる。
【0030】
コネクタ33は、燃料極集電体31と空気極集電体32の間に配置される。コネクタ33は、導電性を有する材料によって構成される。コネクタ33としては、例えば鉄とクロムを含有するステンレス製の板状部材を用いることができる。コネクタ33と燃料極21の間には、燃料ガスが供給される空間が形成される。コネクタ33と空気極23の間には、酸化剤ガスが供給される空間が形成される。
【0031】
(第1乃至第3燃料電池20A〜20Cの固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの濃度)
本実施形態において、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、第2燃料電池20Bの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比よりも高い。また、第3燃料電池20Cの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比よりも低いことが好ましい。第3燃料電池20Cの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、第2燃料電池20Bの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比よりも高いことが好ましい。
【0032】
固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、以下に説明するようにラマンスペクトル分析によって求めることができる。
【0033】
まず、固体電解質層22の厚み方向(積層方向と同じ)に平行な断面において、固体電解質層22を厚み方向に垂直な面方向に等分する5箇所でラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルの取得には、堀場製作所製の顕微レーザラマン分光装置(型式:LabRAM ARAMIS)が好適である。
【0034】
次に、立方晶系ジルコニア及び正方晶系ジルコニアそれぞれに固有のラマンスペクトル(既知のスペクトルデータ)を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比(以下、「強度比」と適宜略称する。)を算出する。ラマンスペクトルを既知のスペクトルデータを用いて解析する手法としては、ラマンスペクトルから化学種を推定するための周知の手法であるCLS法を用いるものとする。
【0035】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度比を算術平均することによって、第1乃至第3燃料電池20A〜20Cそれぞれの固体電解質層22における「立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比」が算出される。第1強度比R1は、固体電解質層22の中央22Aにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比(存在比率)を示す指標である。
【0036】
積層方向中央に位置する第1燃料電池20Aの固体電解質層22は、立方晶系ジルコニアを主成分として含有するとともに、正方晶系ジルコニアを副成分として含有する。第1燃料電池20Aの固体電解質層22のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比は特に限られないが、0.02以上1.1以下とすることができ、0.05以上0.8以下であることが好ましい。
【0037】
また、積層方向一端に位置する第2燃料電池20Bの固体電解質層22は、立方晶系ジルコニアを主成分として含有する。第2燃料電池20Bの固体電解質層22は、正方晶系ジルコニアを副成分として含有していてもよいが、正方晶系ジルコニアを含有していなくてもよい。第2燃料電池20Bの固体電解質層22のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比は特に限られないが、0以上0.25以下とすることができ、0以上0.2以下であることが好ましい。
【0038】
また、第1燃料電池20Aと第2燃料電池20Bの間に位置する第3燃料電池20Cの固体電解質層22は、立方晶系ジルコニアを主成分として含有する。第3燃料電池20Cの固体電解質層22は、正方晶系ジルコニアを副成分として含有していなくてもよいが、正方晶系ジルコニアを副成分として含有していることが好ましい。第3燃料電池20Cの固体電解質層22のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比は特に限られないが、0以上0.5以下とすることができ、0以上0.4以下であることが好ましい。
【0039】
本実施形態において、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における強度比は、第2燃料電池20Bの固体電解質層22における強度比よりも大きい。そのため、第1燃料電池20Aの固体電解質層22では、立方晶系ジルコニア粒子よりも粒径が比較的小さい正方晶系ジルコニア粒子によって立方晶系ジルコニア粒子同士を強固に連結することができる。これにより、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における骨格構造を強化できるため、燃料電池スタック10の稼動開始時に集電部材30との熱膨張度合いの差によって応力が発生しやすい第1燃料電池20Aの固体電解質層22が損傷することを抑制できる。
【0040】
また、第3燃料電池20Cの固体電解質層22における強度比は、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における強度比よりも小さく、かつ、第2燃料電池20Bの固体電解質層22における強度比よりも大きいことが好ましい。これにより、第3燃料電池20Cの固体電解質層22の骨格構造を強化できるため、第2燃料電池20Bよりも応力が発生しやすい第3燃料電池20Cの固体電解質層22が損傷することを抑制できる。また、第1燃料電池20Aよりも応力が発生しにくい第3燃料電池20Cの固体電解質層22に対する正方晶系ジルコニアの導入量を抑えることによって、第3燃料電池20Cの固体電解質層22の導電率が低下してしまうことを抑制できる。
【0041】
さらに、第1燃料電池20Aでは、厚み方向の5箇所で取得されたラマンスペクトルのうち、燃料極21から3μm以内の位置で検出されたラマンスペクトルにおいて、正方晶系ジルコニアのスペクトル強度比が最大値をとることが好ましい。これにより、固体電解質層22のうち燃料極21側の骨格構造を特に強化できるため、酸化還元反応によって膨張収縮しやすい燃料極21との界面付近が損傷することをより抑制できる。
【0042】
(燃料電池スタック10の製造方法)
次に、燃料電池スタック10の製造方法の一例について説明する。
【0043】
まず、NiO粉末、セラミックス粉末、造孔剤(例えばPMMA)、バインダー(例えばPVA)をポットミルで混合することによって燃料極用スラリーを作製する。そして、燃料極用スラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製して、混合粉末を一軸プレスすることで板状の燃料極21の成形体を作製する。
【0044】
次に、立方晶系ジルコニア粉末とテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質用スラリーを作製する。この際、第1燃料電池20Aの固体電解質層22を作製する際には、正方晶系ジルコニア粉末を添加する。また、第2燃料電池20B及び第3燃料電池20Cの固体電解質層22を作製する際には、正方晶系ジルコニア粉末を添加してもよいが、第1燃料電池20Aの固体電解質用スラリーよりも含有率が少なくなるように調整する。
【0045】
次に、スクリーン印刷法などを用いて、固体電解質用スラリーを燃料極21の成形体上に塗布することによって固体電解質層22の成形体を形成する。この際、第1燃料電池20Aの固体電解質層22の燃料極21側における正方晶系ジルコニア濃度を高くしたい場合には、正方晶系ジルコニアを含有する固体電解質用スラリーを塗布した後に、それよりも正方晶系ジルコニアの含有率が低い固体電解質用スラリー、又は、正方晶系ジルコニアを含まない固体電解質用スラリーを塗布すればよい。
【0046】
次に、燃料極21及び固体電解質層22の成形体を共焼成(1300℃〜1600℃、2〜20時間)して、燃料極21及び固体電解質層22の共焼成体を形成する。
【0047】
次に、空気極用粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製する。そして、スクリーン印刷法などを用いて、空気極用スラリーを固体電解質層22上に塗布して空気極23の成形体を形成する。
【0048】
次に、空気極23の成形体を焼成(1000℃〜1100℃、1〜10時間)して空気極23を形成する。以上によって燃料電池20が完成する。
【0049】
次に、6枚の燃料電池20と6個のセパレータ40とを接合する。
【0050】
次に、7枚のコネクタ33の両主面に燃料極集電体31と空気極集電体32とを接合することによって、7個の集電部材30を作製する。
【0051】
次に、セパレータ40が接合された6枚の燃料電池20と7個の集電部材30とを積層方向において交互に配置する。この際、コネクタ33と燃料電池20の間にシール用のガラス材料を介挿させてもよい。
【0052】
次に、セパレータ40とコネクタ33を貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化する。この際、積層体の外側面をシール用のガラス材料で被覆してもよい。
【0053】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0054】
上記実施形態では特に触れていないが、燃料電池20は、固体電解質層22と空気極23の間に設けられる拡散防止層を備えていてもよい。拡散防止層は、CeやGdなどの1種以上の希土類元素とZrとを含有する複合酸化物によって構成することができる。このような拡散防止層によって、空気極23の構成元素が固体電解質層22に拡散することを抑制できる。
【0055】
上記実施形態では、空気極集電体32が空気極23に接続される接続部32aを有することとしたが、燃料極集電体31が燃料極21と部分的に接続される接続部を有していてもよい。
【0056】
上記実施形態では、集電部材30は、燃料極集電体31と空気極集電体32とコネクタ33とによって構成されることとしたが、周知のセパレータ(例えば、特開2001−196077号公報)を集電部材として用いることができる。
【0057】
上記実施形態では特に触れていないが、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、面方向の中央部において高くなっていてもよい。また、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、空気極集電体32の接続部32aと積層方向において重なる部分で高くなっていてもよい。さらに、燃料極集電体31が燃料極21に部分的に接続される接続部を有する場合、第1燃料電池20Aの固体電解質層22における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比は、燃料極集電体31の接続部と積層方向において重なる部分で高くなっていてもよい。
【実施例】
【0058】
(サンプルNo.1の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1に係る燃料電池スタックを作製した。
【0059】
まず、NiO粉末と8YSZ粉末とPMMAの調合粉末にIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0060】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することによって板を成形し、その板をCIP(成形圧100MPa)でさらに圧密することによって燃料極の成形体を作製した。
【0061】
次に、立方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質用スラリーを作製した。サンプルNo.1では、固体電解質用スラリーに正方晶系ジルコニア粉末を添加しなかった。
【0062】
次に、スクリーン印刷法を用いて、固体電解質用スラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって、固体電解質層の成形体を形成した。
【0063】
次に、燃料極及び固体電解質層の成形体を共焼成(1400℃、2時間)して、燃料極及び固体電解質層の共焼成体を形成した。燃料極のサイズは、縦100mm×横100mm、厚み800μmであった。固体電解質層のサイズは、縦100mm×横100mm、厚み10μmであった。
【0064】
次に、LSCF粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製した。そして、スクリーン印刷法を用いて空気極用スラリーを固体電解質層上に塗布して空気極の成形体を形成した。その後、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。空気極のサイズは、縦90mm×横90mm、厚み50μmであった。
【0065】
以上のように作製した燃料電池を6枚準備して、6枚の燃料電池それぞれにステンレス製セパレータを接合した。
【0066】
次に、7枚のステンレス板それぞれの両主面にニッケルメッシュと複数の凸部(空気極との接続部)を有するステンレス部材とを接合して、7個の集電部材を作製した。
【0067】
次に、ステンレス製セパレータが接合された6枚の燃料電池と7個の集電部材とを積層方向において交互に配置した。
【0068】
次に、セパレータとセパレータを貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化した。
【0069】
(サンプルNo.2〜7の作製)
サンプルNo.2〜7では、6枚の燃料電池のうち積層方向中央に位置する2枚の燃料電池を以下のように作製した。以下に説明する2枚の燃料電池以外には、上記サンプルNo.1と同じ燃料電池を用いた。
【0070】
まず、NiO粉末と8YSZ粉末とPMMAの調合粉末にIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0071】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することによって板を成形し、その板をCIP(成形圧100MPa)でさらに圧密することによって燃料極の成形体を作製した。
【0072】
次に、立方晶系ジルコニア粉末と正方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質用スラリーを作製した。この際、正方晶系ジルコニア粉末の添加量を調整することによって、表1に示すように、固体電解質層のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比をサンプルごとに調整した。
【0073】
次に、スクリーン印刷法を用いて、固体電解質用スラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって、固体電解質層の成形体を形成した。
【0074】
次に、燃料極及び固体電解質層の成形体を共焼成(1400℃、2時間)して、燃料極及び固体電解質層の共焼成体を形成した。燃料極及び固体電解質層のサイズは、サンプルNo.1と同じであった。
【0075】
次に、LSCF粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製した。そして、スクリーン印刷法を用いて空気極用スラリーを固体電解質層上に塗布して空気極の成形体を形成した。その後、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。空気極のサイズは、サンプルNo.1と同じであった。
【0076】
以上のように作製した燃料電池を2枚と、サンプルNo.1と同じ燃料電池を4枚準備して、6枚の燃料電池それぞれにステンレス製セパレータを接合した。
【0077】
次に、7枚のステンレス板それぞれの両主面にニッケルメッシュと複数の凸部を有するステンレス部材とを接合して、7個の集電部材を作製した。
【0078】
次に、ステンレス製セパレータが接合された6枚の燃料電池と7個の集電部材とを積層方向において交互に配置した。この際、固体電解質層に正方晶系ジルコニアを含ませた2枚の燃料電池を積層方向中央に配置した。
【0079】
次に、セパレータとセパレータを貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化した。
【0080】
(ラマン分光法による立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比測定)
サンプルNo.1〜No.7における積層方向中央及び積層方向一端に配置された燃料電池の固体電解質層について、厚み方向に平行な断面上における等間隔の5箇所においてラマンスペクトルを取得した。そして、1箇所ごとにラマンスペクトルを解析して立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比を求め、5箇所それぞれの強度比を算術平均した。算出結果は、表1に示すとおりであった。
【0081】
(燃料電池スタックの熱サイクル試験)
サンプルNo.1〜No.7について熱サイクル試験を行った。
【0082】
具体的には、まず、常温から750℃まで90分かけて昇温した後、750℃に維持した状態で4%水素ガス(Arガスに対して4%の水素ガス)を燃料極側に供給することで還元処理を行った。そして、燃料電池スタックの初期出力を測定した。次に、4%水素ガスの供給を継続して還元雰囲気を維持しながら100℃以下になるまで降温した。そして、昇温工程と降温工程を1サイクルとして、20サイクル繰り返した。
【0083】
その後、積層方向中央に配置された燃料電池の燃料極側に加圧したHeガスを供給して、当該燃料電池の空気極側へのHeガスの漏洩の有無を確認した。また、積層方向中央に配置された燃料電池の固体電解質層の断面を顕微鏡で観察することによって、固体電解質層におけるクラックの有無を確認した。
【0084】
以上の熱サイクル試験結果を表1にまとめて示す。表1では、初期出力が高く(すなわち、固体電解質層の抵抗が小さく)、かつ、クラックが発生していなかったサンプルが「◎(良)」と評価され、初期出力が比較的低い(すなわち、固体電解質層の抵抗が比較的大きい)サンプル、又は、燃料電池の性能及び耐久性への影響が小さい5μm以下のクラックだけが発生していたサンプルが「○(可)」と評価され、5μmより大きなクラックが発生していたサンプルが「×(不良)」と評価されている。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、積層方向中央に配置された燃料電池の固体電解質層における強度比を、積層方向一端に配置された燃料電池の固体電解質層における強度比よりも大きくしたサンプルNo.2〜7では、積層方向中央の燃料電池の固体電解質層にクラックが発生することを抑制できた。これは、立方晶系ジルコニア粒子よりも粒径が比較的小さい正方晶系ジルコニア粒子によって立方晶系ジルコニア粒子同士を強固に連結することによって、固体電解質層における骨格構造を強化できたためである。
【0087】
表1に示すように、強度比を0.05以上0.8以下とすることによって、固体電解質層のクラックをより抑制できるとともに、固体電解質層の抵抗をより低減させられることがわかった。
【符号の説明】
【0088】
10 燃料電池スタック
20 燃料電池
20A 第1燃料電池
20B 第2燃料電池
20C 第3燃料電池
21 燃料極
22 固体電解質層
23 空気極
30 集電部材
31 燃料極集電体
32 空気極集電体
32a 接続部
33 コネクタ
40 セパレータ
【要約】
【課題】積層方向中央に位置する燃料電池の固体電解質層が損傷することを抑制可能な燃料電池スタックを提供する。
【解決手段】燃料電池スタック10は、積層方向において交互に積層された6枚の燃料電池20と7個の集電部材30とを備える。6枚の燃料電池20それぞれは、燃料極21と、空気極23と、燃料極21と空気極23の間に配置されジルコニア系材料を主成分とする固体電解質層22とを有する。6枚の燃料電池20は、積層方向中央に位置する第1燃料電池20Aと、積層方向一端に位置する第2燃料電池20Bとを含む。第1燃料電池20Aの固体電解質層22のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比は、第2燃料電池20Bの固体電解質層22のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比よりも大きい。
【選択図】図1
図1