特許第6001812号(P6001812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6001812
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/40 20060101AFI20160923BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20160923BHJP
   B60C 5/01 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   C08G69/40
   B60C1/00 D
   B60C5/01 A
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-514788(P2016-514788)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2015077613
(87)【国際公開番号】WO2016052565
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2016年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-199161(P2014-199161)
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 夕記
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−046030(JP,A)
【文献】 特開昭61−162528(JP,A)
【文献】 特表2013−521360(JP,A)
【文献】 特表2012−531486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69/00−69/50
C08L7/00−101/12
B60C1/00
B60C5/01
B29D30/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体を有し、
前記樹脂材料は、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)とを有し、1分子鎖中に含まれる前記ソフトセグメント(SS)が1単位であり、前記1分子鎖の両末端が前記ハードセグメント(HS)であり、且つ数平均分子量が12,000〜24,000である熱可塑性エラストマーを含み、
前記熱可塑性エラストマーが、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであるタイヤ。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーのハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)との質量比(HS/SS)が20/80〜50/50である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが、反応性官能基を分子中に1つ有する2単位のハードセグメント(HS)と、反応性官能基を分子中に2つ有する1単位のソフトセグメント(SS)と、が重合されてなる重合体である請求項1又は請求項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リムに装着されるタイヤにかかり、特に、タイヤケースの少なくとも一部が樹脂材料で形成されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の車両には、ゴム、有機繊維材料、スチール部材などから構成された空気入りタイヤが用いられている。
近年では、軽量化や、成形の容易さ、リサイクルのしやすさから、樹脂材料、特に熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーなどをタイヤ材料として用いることが検討されている。これら熱可塑性の高分子材料(熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂材料等)は、射出成形が可能であるなど、生産性の向上の観点から有利な点が多い。例えば、特開2012−46030号公報には、前記熱可塑性の高分子材料としてポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いたタイヤが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
熱可塑性の高分子材料を用いたタイヤは、ゴム製の従来タイヤと比べて、製造が容易で且つ低コストである。しかし、ゴム製の従来タイヤと比べ、低転がり抵抗性(低ロス性)の観点で改良の余地がある。また、熱可塑性エラストマーを用いてタイヤを製造する場合、製造効率を高め低コストを実現しつつ従来のゴム製タイヤと比して遜色のない性能を実現することが求められる。
そして、タイヤの性能としての弾性率および低ロス性は、いずれも優れており両立されていることが、熱可塑性エラストマーを用いたタイヤにおいて求められている。
【0004】
そこで、本発明は、前記事情を踏まえ、樹脂材料を用いて形成され、望ましい弾性率および優れた低ロス性を両立したタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体を有し、前記樹脂材料は、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)とを有し、1分子鎖中に含まれる前記ソフトセグメント(SS)が1単位であり、前記1分子鎖の両末端が前記ハードセグメント(HS)であり、且つ数平均分子量が12,000〜24,000である熱可塑性エラストマーを含み、前記熱可塑性エラストマーが、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであるタイヤ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、樹脂材料を用いて形成され、望ましい弾性率および優れた低ロス性を両立したタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
図1B】本発明の一実施形態に係るタイヤにおける、リムに装着したビード部の断面図である。
図2】第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のタイヤは、樹脂材料で形成され(つまり少なくとも樹脂材料を用いて形成され)且つ環状のタイヤ骨格体を有する。そして、前記樹脂材料は、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)とを有し、1分子鎖中に含まれる前記ソフトセグメント(SS)が1単位であり、前記1分子鎖の両末端が前記ハードセグメント(HS)であり、且つ数平均分子量が12,000〜24,000である熱可塑性エラストマーを含む。
【0009】
本発明のタイヤは、樹脂材料に含まれている熱可塑性エラストマーが、ハードセグメントとソフトセグメントとを有することにより、これらのセグメントが有する特性を得ることができる。一方で、これらのセグメントの界面において存在する、ハードセグメントとソフトセグメントとが混合している領域(以下、「中間相」と称する)により、それぞれのセグメントが有する特性が期待通りに十分に得られない場合がある。
【0010】
そこで、本発明のタイヤの樹脂材料に含まれる熱可塑性エラストマーおいては、まず、ソフトセグメント(SS)が1単位であり且つ1分子鎖の両末端がハードセグメント(HS)である構造を取る。即ち、1分子鎖中において両末端にそれぞれハードセグメント(HS)が存在し、その2つ(2単位)のハードセグメント(HS)の間に、ハードセグメント(HS)を一切含まないソフトセグメント(SS)のブロックが1単位存在する、HS−SS−HSのトリブロック構造を取る(ソフトセグメント(SS)同士またはハードセグメント(HS)同士が鎖延長剤により繋がれている場合も含む)。
このトリブロック構造を取ることで、HSとSSとが混ざり合った中間相を減らすことが出来るため、弾性率に影響するHSの結晶化度が増し、弾性率が向上する。
また、結晶化度が増えることで全体が固くなり弾性率が上がるとともに、両末端がHSであり、この末端のHS同士が結晶化するため、自由末端が減る効果も得られ、ロスが低下する。
これにより、望ましい弾性率と優れた低ロス性との両立が実現される。
【0011】
《樹脂材料》
<熱可塑性エラストマー>
前記樹脂材料として用いられる熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)とを有し、1分子鎖中に含まれる前記ソフトセグメント(SS)が1単位であり、前記1分子鎖の両末端が前記ハードセグメント(HS)である。また、数平均分子量が12,000〜24,000である。
【0012】
尚、前記樹脂材料は、上記熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーや、任意の成分を含んでいてもよい。また、本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含む概念であるが、天然ゴムは含まない。
【0013】
また、上記熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)との間に結合部を有していてもよい。本明細書において「結合部」とは、2つ以上のセグメントを結合する結合部であり、つまり、ハードセグメントとソフトセグメントとの結合部である。結合部は、例えば、後述する鎖長延長剤により結合された部分が挙げられる。
【0014】
−トリブロック構造の達成方法−
1分子鎖中に含まれるソフトセグメント(SS)が1単位であり且つ1分子鎖の両末端がハードセグメント(HS)である構造、即ちHS−SS−HSのトリブロック構造(但しハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)との間に結合部を有していてもよい)を有する熱可塑性エラストマーを実現する方法について説明する。該方法としては、特に限定されるものではないが、反応性官能基を分子中に1つ有するハードセグメント(HS)を2単位、反応性官能基を分子中に2つ有するソフトセグメント(SS)を1単位、重合する方法が挙げられる。
【0015】
−トリブロック構造の確認方法−
熱可塑性エラストマーにおいて1分子鎖中に含まれるソフトセグメント(SS)が1単位であり且つ1分子鎖の両末端がハードセグメント(HS)である構造、即ちHS−SS−HSのトリブロック構造を有するか否かの確認について説明する。該確認方法は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって熱可塑性エラストマーの平均分子量を測定し、且つNMRによってハードセグメント(HS)やソフトセグメント(SS)等の構成単位の平均分子量を測定することで行うことができる。
例えば、熱可塑性エラストマーが1種のハードセグメント(HS)および1種のソフトセグメント(SS)のみからなる場合であれば、下記の等式が成り立つはずである。
熱可塑性エラストマー平均分子量=HS平均分子量×2+SS平均分子量×1
【0016】
また、上記熱可塑性エラストマーには結合部が含まれていてもよく、ハードセグメント(HS)、ソフトセグメント(SS)に加えて結合部を含む場合にも、同じくNMRによって、ハードセグメント(HS)、ソフトセグメント(SS)、および結合部それぞれの平均分子量を測定することで、HS−SS−HSのトリブロック構造を有するか否かが確認できる。
【0017】
ここで、NMRによるハードセグメント(HS)、ソフトセグメント(SS)、及び結合部等の平均分子量の測定方法について説明する。
H−NMR、13C−NMRを、測定対象の熱可塑性エラストマーを重水素化したトリフルオロ酢酸に溶解して、定法に従って測定する。次に、それぞれの官能基の帰属を行い、HS、SS、及び結合部の構造を同定し、分子量を求める。それぞれの部位の分子量を足しあわせた数値が、すなわち繰り返しあたりの平均分子量に相当する
【0018】
−分子量−
熱可塑性エラストマーの数平均分子量は12,000〜24,000の範囲である。12,000未満であると、リム組み性が低下してしまう。一方24,000を超えると、溶融粘度が高くなり、タイヤ骨格体の際に充填不足が発生するおそれがあるため、成形温度、金型温度を高くする必要がある。このため、サイクルタイムが長くなる為、生産性が劣る。
【0019】
熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、更に15,000〜24,000が好ましく15,000〜22,000がより好ましい。
【0020】
尚、数平均分子量を上記範囲とするには、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)の分子量をそれぞれ調整する方法、更に結合部を有する場合には該結合部の分子量も調整する方法がある。
【0021】
前記熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができ、例えば、東ソー株式会社製の「HLC−8320GPC EcoSEC」等のGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いることができる。
【0022】
−HS/SS比−
熱可塑性エラストマーにおいて、前記ハードセグメント(HS)及びソフトセグメント(SS)の質量比(HS/SS)は、5/95〜50/50が好ましく、15/85〜45/55がより好ましく、20/80〜40/60が更に好ましい。尚、タイヤの剛性の観点では20/80〜50/50が好ましい。
前記熱可塑性エラストマーにおいてハードセグメント(HS)及びソフトセグメント(SS)の質量比(HS/SS)におけるハードセグメントの含有量が5質量%以上であることにより、タイヤに必要な剛性を付与することができる。一方50質量%以下であることにより、SSを一定量有することにより、リム組性を確保できる。
【0023】
尚、結合部を有する場合、すなわち鎖長延長剤を用いる場合、その含有量はソフトセグメントの原料となるモノマーの水酸基又はアミノ基と、鎖長延長剤のカルボキシル基とがほぼ等モルになるように設定されることが好ましい。
【0024】
本発明に適用しうる熱可塑性エラストマーの種類としては、例えば、JIS K6418:2007に規定されるポリアミド系熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Amid elastomer、TPA)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Thermoplastic PolyOlefin、TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(Styrenic Thermoplastic Elastomer、TPS)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Polyurethane、TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(ThermoPlastic Vulcanizates、TPV)、又はその他の熱可塑性エラストマー(Thermoplastic elastomers other、TPZ)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、及びポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、重付加の反応による結合部を有する重合体であって、この結合部の構造等を変化させるだけで熱可塑性エラストマーの物性を変化できる重合体であり、その手法も確立されているため、好ましい。
そして、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、及びポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)の中でも、耐加水分解性の観点から、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)がより好ましい。
以下、本発明において好ましい熱可塑性エラストマーである、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、及びポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)について説明する。
【0025】
(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)
本発明において、「ポリアミド系熱可塑性エラストマー」とは、結晶性で融点の高いハードセグメントの一部又は全部を構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントの一部又は全部を構成するポリマーとを有する共重合体の熱可塑性エラストマーであって、ハードセグメントの一部又は全部を構成する前記ポリマーの主鎖にアミド結合(−CONH−)を有するものを意味する。
【0026】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントの一部又は全部(好ましくは全部)を構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル又はポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントの一部又は全部(好ましくは全部)を構成している材料が挙げられる。
【0027】
−ハードセグメント−
前記ハードセグメントの一部又は全部を形成するポリアミドについて説明する。該ポリアミドとしては、例えば、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーを用いて合成されるポリアミドであって、且つその片末端に反応性官能基が残存しないよう重合を停止させる役割を担うモノマー(以下、「停止剤」と称す)を用いて合成されるポリアミドを挙げることができる。
【0028】
【化1】

【0029】
一般式(1)中、Rは、炭素数2〜20の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数2〜20のアルキレン基)を表す。
【0030】
【化2】

【0031】
一般式(2)中、Rは、炭素数3〜20の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数3〜20のアルキレン基)を表す。
【0032】
一般式(1)中、Rとしては、炭素数3〜18の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数3〜18のアルキレン基)が好ましく、炭素数4〜15の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数4〜15のアルキレン基)が更に好ましく、炭素数10〜15の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数10〜15のアルキレン基)が特に好ましい。また、一般式(2)中、Rとしては、炭素数3〜18の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数3〜18のアルキレン基)が好ましく、炭素数4〜15の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数4〜15のアルキレン基)が更に好ましく、炭素数10〜15の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数10〜15のアルキレン基)が特に好ましい。
前記一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーとしては、ω−アミノカルボン酸やラクタムが挙げられる。また、前記ハードセグメントの一部又は全部を形成するポリアミドとしては、これらω−アミノカルボン酸やラクタムの重縮合体や、ジアミンとジカルボン酸との共縮重合体等が挙げられる。
【0033】
前記ω−アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、又は12−アミノドデカン酸などの炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ω−エナントラクタム、又は2−ピロリドンなどの炭素数5〜20の脂肪族ラクタムなどを挙げることができる。
前記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルペンタメチレンジアミン、又はメタキシレンジアミンなどの炭素数2〜20の脂肪族ジアミンなどのジアミン化合物を挙げることができる。また、ジカルボン酸は、HOOC−(R−COOH(R:炭素数3〜20の炭化水素の分子鎖、m:0又は1)で表すことができ、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又はドデカン二酸などの炭素数2〜22の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0034】
前記停止剤としては、例えば「R−COOH(Rは、炭素数2〜20の炭化水素の分子鎖、炭素数2〜20のアルキレン基、又は、炭素数3〜20の環状構造を有する官能基を表す)」の構造を有するモノマー等が挙げられる。
停止剤の具体例としては、例えば、ドデカン酸、カプロン酸、ラウリン酸、又はステアリン酸などの飽和脂肪酸、リノール酸、又はオレイン酸などの不飽和脂肪酸等が挙げられる。
これらの停止剤を共に重合させることで、片末端に反応性官能基が残存しないよう重合を停止させる役割を担わせることができ、片末端のみが修飾されたポリアミドが得られる。
【0035】
また、停止剤の添加量を調整することにより、得られるハードセグメントの分子量を制御することができる。
【0036】
前記ハードセグメントの一部又は全部を形成するポリアミドとしては、ε−カプロラクタムを開環重縮合したポリアミド(ポリアミド6)、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド(ポリアミド11)、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド(ポリアミド12)、12−アミノドデカン酸を重縮合したポリアミド(ポリアミド12)、ジアミンと二塩基酸との重縮合ポリアミド(ポリアミド66)又はメタキシレンジアミンを構成単位として有するポリアミド(アミドMX)等を挙げることができる。
【0037】
前記ポリアミド6は、例えば、{CO−(CH−NH}(nは任意の繰り返し単位数を表す)で表すことができ、例えば、nとしては2〜100が好ましく、3〜50が更に好ましい。
前記ポリアミド11は、例えば、{CO−(CH10−NH}(nは任意の繰り返し単位数を表す)で表すことができ、例えば、nとしては2〜100が好ましく、3〜50が更に好ましい。
前記ポリアミド12は、例えば、{CO−(CH11−NH}(nは任意の繰り返し単位数を表す)で表すことができ、例えば、nとしては2〜100が好ましく、3〜50が更に好ましい。
前記ポリアミド66は、例えば、{CO(CHCONH(CHNH}(nは任意の繰り返し単位数を表す)で表すことができ、例えば、nとしては2〜100が好ましく、3〜50が更に好ましい。
【0038】
また、メタキシレンジアミンを構成単位として有するアミドMXは、例えば、下記構成単位(A−1)〔(A−1)中、nは任意の繰り返し単位数を表す〕で表わすことができ、例えば、nとしては2〜100が好ましく、3〜50が更に好ましい。
【0039】
【化3】

【0040】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとして、−[CO−(CH11−NH]−で表される単位構造を有するポリアミド(ポリアミド12)を有することが好ましい。上述のようにポリアミド12は、ラウリルラクタムを開環重縮合又は12−アミノドデカン酸を重縮合することで得ることができる。
【0041】
−ソフトセグメント−
前記ソフトセグメントの一部又は全部を形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステルや、ポリエーテルが挙げられる。更に、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、又はABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。なお、これらを単独で又は2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアンモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができ、例えば、ABA型トリブロックポリエーテルジアミンを用いることができる。
【0042】
ここで、「ABA型トリブロックポリエーテル」とは、下記一般式(3)に示されるポリエーテルを挙げることができる。
【0043】
【化4】

【0044】
一般式(3)中、x及びzは、それぞれ独立に1〜20の整数を表す。yは、4〜50の整数を表す。
【0045】
前記一般式(3)において、x及びzとしては、それぞれ、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数が更に好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。また、前記一般式(3)において、yとしては、5〜45の整数が好ましく、6〜40の整数が更に好ましく、7〜35の整数が特に好ましく、8〜30の整数が最も好ましい。
【0046】
また、「ABA型トリブロックポリエーテルジアミン」とは、下記一般式(N)に示されるポリエーテルジアミンを挙げることができる。
【0047】
【化5】

【0048】
一般式(N)中、X及びZは、それぞれ独立に1〜20の整数を表す。Yは、4〜50の整数を表す。
【0049】
前記一般式(N)において、X及びZとしては、それぞれ、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数が更に好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。また、前記一般式(N)において、Yとしては、5〜45の整数が好ましく、6〜40の整数が更に好ましく、7〜35の整数が特に好ましく、8〜30の整数が最も好ましい。
【0050】
前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルジアミンの組み合わせ、アミノドデカン酸の重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、アミノドデカン酸の重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、アミノドデカン酸の重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、アミノドデカン酸の重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、又はアミノドデカン酸の重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルジアミンの組み合わせ、が好ましい。また、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルジアミンの組み合わせ、アミノドデカン酸の重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、又はアミノドデカン酸の重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルジアミンの組み合わせ、が特に好ましい。
【0051】
前記ソフトセグメントの一部又は全部を形成するポリマーは、炭素数6〜22の分岐型飽和ジアミン、炭素数6〜16の分岐脂環式ジアミン、又は、ノルボルナンジアミン等のジアミンをモノマー単位として含んでいてもよい。また、これら、炭素数6〜22の分岐型飽和ジアミン、炭素数6〜16の分岐脂環式ジアミン、又は、ノルボルナンジアミンは、それぞれ単独で用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。また、上述の、ABA型トリブロックポリエーテルや前記ABA型トリブロックポリエーテルジアミンと組み合わせて用いてもよい。
【0052】
前記炭素数6〜22の分岐型飽和ジアミンとしては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン及び2−メチル−1,8−ジアミノオクタンなどが挙げられる。
【0053】
前記炭素数6〜16の分岐脂環式ジアミンとしては、例えば、5−アミノ−2,2,4−トリメチル−1−シクロペンタンメチルアミン、及び5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン等を挙げることができる。これらのジアミンはシス体及びトランス体のいずれであってもよく、これら異性体の混合物であってもよい。
【0054】
前記ノルボルナンジアミンとしては、例えば、2,5−ノルボナンジメチルアミン、2,6−ノルボナンジメチルアミンあるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0055】
更に、前記ソフトセグメントの一部又は全部を構成するポリマーは、上述以外の他のジアミン化合物をモノマー単位として含んでいてもよい。他のジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、又は3−メチルペンタンメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、又は1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどの脂環式ジアミン、或いは、メタキシリレンジアミン、又はパラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
上述のジアミンは単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組合せて使用してもよい。
【0056】
−結合部−
上述の通り、ポリアミド系熱可塑性エラストマーの結合部は、例えば、鎖長延長剤により結合された部分が挙げられる。
前記鎖長延長剤としては、例えば、ジカルボン酸、ジオール、及びジイソシアネート等が挙げられる。前記ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族、脂環式及び芳香族ジカルボン酸から選ばれる少なくとも一種又はこれらの誘導体を用いることができる。前記ジオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、及び芳香族ジオールが挙げられる。前記ジイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、及び脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を用いることができる。
【0057】
前記ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、デカンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又はドデカン二酸等の炭素数2〜25の直鎖脂肪族ジカルボン酸;トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14〜48の二量化脂肪族ジカルボン酸及びこれらの水素添加物等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、並びにテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。これらの中でも、ドデカン二酸、エイコサン二酸、フェニル二酢酸、テレフタル酸、及びアジピン酸が好ましい。
【0058】
前記ジイソシアネートの具体例としては、例えば、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、及び1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を挙げることができる。これらの中でも、芳香族ジイソシアネートが好ましく、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートがより好ましい。
【0059】
前記ジオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジオールが好ましく、ブタンジオールがより好ましい。
【0060】
−合成方法−
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントの一部又は全部を形成するポリマー及びソフトセグメントの一部又は全部を形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。例えば、前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントの原料となるモノマー(例えば、前述の片末端のみに反応性官能基を有するモノマー)と、ソフトセグメントの原料となるモノマー(例えば、前記ABA型トリブロックポリエーテルや前記ABA型トリブロックポリエーテルジアミン)とを容器内で重合させることで得ることができる。特に、ハードセグメントの原料となるモノマーとしてω−アミノカルボン酸を使用する場合、常圧溶融重合又は常圧溶融重合に、更に減圧溶融重合を行って合成することができる。ハードセグメントの原料となるモノマーとしてラクタムを用いる場合には、適量の水を共存させることができ、0.1〜5MPaの加圧下での溶融重合とそれに続く常圧溶融重合及び/又は減圧溶融重合を有する方法で製造することができる。また、これら合成反応は、回分式及び連続式のいずれでも実施することができる。また、上述の合成反応には、バッチ式反応釜、一槽式若しくは多槽式の連続反応装置、管状連続反応装置などを単独であるいは適宜組み合わせて用いてもよい。
【0061】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの製造において、重合温度は、150〜300℃が好ましく、160〜280℃が更に好ましい。また、重合時間は、合成するポリアミド系熱可塑性エラストマーの数平均分子量及び重合温度との関係で適宜決定できるが、例えば、0.5〜30時間が好ましく、0.5〜20時間が更に好ましい。
【0062】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの製造においては、必要に応じて分子量の調整や成形加工時の溶融粘度安定化を目的として、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びメタキシリレンジアミンなどのモノアミン若しくはジアミン、酢酸、安息香酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、及びドデカン二酸などのモノカルボン酸、或いはジカルボン酸などの添加剤を添加してもよい。これら添加剤は、本発明の効果に悪い影響を与えない範囲で、得られるポリアミド系熱可塑性エラストマーの分子量や粘度等の関係で適宜選定することができる。
【0063】
また、前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの製造においては、必要に応じて触媒を用いることができる。前記触媒としては、P、Ti、Ge、Zn、Fe、Sn、Mn、Co、Zr、V、Ir、La、Ce、Li、Ca、及び、Hfからなる群より選択される少なくとも1種を含む化合物が挙げられる。
例えば、無機系リン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機スズ化合物等が挙げられる。
具体的には、無機系リン化合物としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸等のリン含有酸、リン含有酸のアルカリ金属塩、又はリン含有酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
有機チタン化合物としては、チタンアルコキシド〔チタンテトラブトキシド、又はチタンテトライソプロポキシド等〕等が挙げられる。
有機ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムアルコキシド〔ジルコニウムテトラブトキシド(「Zr(OBu)」または「Zr(OC」とも称される)等〕等が挙げられる。
有機スズ化合物としては、ジスタノキサン化合物〔1−ヒドロキシ−3−イソチオシアネート−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン等〕、酢酸スズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、又はブチルチンヒドロキシドオキシドヒドレート等が挙げられる。
触媒添加量及び触媒添加時期は、目的物を速やかに得られる条件であれば特に制限されない。
【0064】
(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリウレタンが物理的な凝集によって疑似架橋を形成しているハードセグメントの一部又は全部を構成し、他のポリマーが非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントの一部又は全部を構成している材料が挙げられる。例えば、下記式Aで表される単位構造を含むソフトセグメントと、下記式Bで表される単位構造を含むハードセグメントとを含む共重合体として表すことができる。
【0065】
【化6】

【0066】
−ソフトセグメント−
式A中、Pは、長鎖脂肪族ポリエーテル又は長鎖脂肪族ポリエステルを表す。式A又は式B中、Rは、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は芳香族炭化水素を表す。式B中、P’は、短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は、芳香族炭化水素を表す。
【0067】
式A中、Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテル及び長鎖脂肪族ポリエステルとしては、例えば、分子量500〜5000のものを使用することができる。前記Pは、前記Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテル及び長鎖脂肪族ポリエステルを含むジオール化合物に由来する。このようなジオール化合物としては、例えば、分子量が前記範囲内にある、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(ブチレンアジベート)ジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、又は前記ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0068】
式A中、Rは、Rで表される脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素を含むジイソシアネート化合物に由来する。Rで表される脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,2−エチレンジイソシアネート、1,3−プロピレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
また、Rで表される脂環族炭化水素を含むジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート及び4,4−シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。更に、Rで表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジイソシアネート化合物としては例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、及びトリレンジイソシアネートが挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0069】
−ハードセグメント−
式B中、P’で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は、芳香族炭化水素としては、例えば、分子量500未満のものを使用することができる。また、P’は、P’で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素を含むジオール化合物に由来する。P’で表される短鎖脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジオール化合物としては、グリコール及びポリアルキレングリコールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール及び1,10−デカンジオールが挙げられる。
また、P’で表される脂環族炭化水素を含む脂環族ジオール化合物としては、例えば、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、及びシクロヘキサン−1,4−ジメタノール等が挙げられる。
更に、P’で表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジオール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、クロロヒドロキノン、ブロモヒドロキノン、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、フェノキシヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、1,1−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、1,4−ジヒドロキシナフタリン、及び2,6−ジヒドロキシナフタリン等が挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
また、式B中のRは、式A中のRと同じである。
【0070】
−結合部−
結合部は、例えば、鎖長延長剤により結合された部分が挙げられる。鎖長延長剤としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマーにおいて上述したものが挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの鎖延長剤としては、ドデカン二酸、エイコサン二酸、フェニル二酢酸、テレフタル酸、アジピン酸が好ましい。
【0071】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントの一部又は全部を形成するポリマー及びソフトセグメントの一部又は全部を形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0072】
前記樹脂材料には、所望に応じて、ゴム、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ)、老化防止剤、オイル、可塑剤、着色剤、耐候剤、及び補強材等の各種添加剤を含有させてもよい。前記添加剤の樹脂材料(タイヤ骨格体)中の含有量は特に限定はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜用いることができる。前記樹脂材料に添加剤など樹脂以外の成分を加える場合、前記樹脂材料中の樹脂成分の含有量は、樹脂材料の総量に対して、50質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましい。尚、樹脂材料中の樹脂成分の含有量は、前記樹脂成分の総量から各種添加剤の総含有量を差し引いた残部となる。
【0073】
<樹脂材料の物性>
次に、タイヤ骨格体の一部又は全部を構成する樹脂材料の好ましい物性について説明する。本発明におけるタイヤ骨格体は、上述の樹脂材料を用いるものである。
【0074】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体の融点(又は軟化点)としては、通常100℃〜350℃、好ましくは100℃〜250℃程度であるが、タイヤの生産性の観点から120℃〜250℃程度が好ましく、120℃〜200℃が更に好ましい。
このように、融点が120℃〜250℃の樹脂材料を用いることで、例えばタイヤの骨格体を、その分割体(骨格片)を融着して形成する場合に、120℃〜250℃の周辺温度範囲で融着された骨格体であってもタイヤ骨格片同士の接着強度が十分である。このため、本発明のタイヤは耐パンク性や耐摩耗性など走行時における耐久性に優れる。尚、前記加熱温度は、タイヤ骨格片の一部又は全部を形成する樹脂材料の融点(又は軟化点)よりも10℃〜150℃高い温度が好ましく、10℃〜100℃高い温度が更に好ましい。
【0075】
前記樹脂材料は、必要に応じて各種添加剤を添加して、公知の方法(例えば、溶融混合)で適宜混合することにより得ることができる。
溶融混合して得られた樹脂材料は、必要に応じてペレット状にして用いることができる。
【0076】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張降伏強さは、5MPa以上が好ましく、5MPa〜20MPaが好ましく、5MPa〜17MPaがさらに好ましい。樹脂材料の引張降伏強さが、5MPa以上であると、走行時などにタイヤにかかる荷重に対する変形に耐えることができる。
【0077】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張降伏伸びは、10%以上が好ましく、10%〜70%が好ましく、15%〜60%がさらに好ましい。樹脂材料の引張降伏伸びが、10%以上であると、弾性領域が大きく、エアシール性をよくすることができる。
【0078】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張破断伸びとしては、50%以上が好ましく、100%以上が好ましく、150%以上がさらに好ましく、200%以上が特に好ましい。樹脂材料の引張破断伸びが、50%以上であると、リム組み性がよく、衝突に対して破壊しにくくすることができる。
【0079】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)としては、50℃以上が好ましく、50℃〜150℃が好ましく、50℃〜130℃がさらに好ましい。樹脂材料の荷重たわみ温度が、50℃以上であると、タイヤの製造において加硫を行う場合であってもタイヤ骨格体の変形を抑制することができる。
【0080】
[第1の実施形態]
以下に、図面に従って本発明のタイヤの第1の実施形態に係るタイヤを説明する。
本実施形態のタイヤ10について説明する。図1Aは、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。図1Bは、リムに装着したビード部の断面図である。図1に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0081】
図1Aに示すように、タイヤ10は、図1Bに示すリム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)と、を有するタイヤケース17を備えている。
【0082】
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、樹脂材料として、例えば、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)とを有し、1分子鎖中に含まれる前記ソフトセグメント(SS)が1単位であり、前記1分子鎖の両末端が前記ハードセグメント(HS)であり、且つ数平均分子量が12,000〜24,000である熱可塑性エラストマーに各添加剤を含めたものを用いることができる。
【0083】
本実施形態においてタイヤケース17は、単一の樹脂材料のみで形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(サイド部14、クラウン部16、及びビード部12など)に異なる特徴を有する熱可塑性樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、及びクラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、及び織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0084】
本実施形態のタイヤケース17は、樹脂材料のみで形成された一対のタイヤケース半体(タイヤ骨格片)17A同士を接合させたものである。タイヤケース半体17Aは、一つのビード部12と一つのサイド部14と半幅のクラウン部16とを一体として射出成形等で成形された同一形状の円環状のタイヤケース半体17Aを互いに向かい合わせてタイヤ赤道面部分で接合することで形成されている。なお、タイヤケース17は、2つの部材を接合して形成するものに限らず、3以上の部材を接合して形成してもよい。
【0085】
前記樹脂材料を少なくとも用いて形成されるタイヤケース半体17Aは、例えば、真空成形、圧空成形、インジェクション成形、及びメルトキャスティング等で成形することができる。このため、従来のようにゴムでタイヤケースを成形する場合に比較して、加硫を行う必要がなく、製造工程を大幅に簡略化でき、成形時間を省略することができる。
また、本実施形態では、タイヤケース半体17Aは左右対称形状、即ち、一方のタイヤケース半体17Aと他方のタイヤケース半体17Aとが同一形状とされているので、タイヤケース半体17Aを成形する金型が1種類で済むメリットもある。
【0086】
本実施形態において、図1Bに示すようにビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、スチールコードのみからなる円環状のビードコア18が埋設されている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略することもできる。なお、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、又は硬質樹脂などを用いて形成されていてもよい。
【0087】
本実施形態では、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分に、タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料、例えば、ゴムのみからなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はタイヤケース17(ビード部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてもよい。タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料としては、タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料に比して軟質な材料を用いることができる。シール層24に用いることのできるゴムとしては、従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、前記樹脂材料よりもシール性に優れる他の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)を用いてもよい。このような他の熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系熱可塑性樹脂、又はポリエステル樹脂等の樹脂やこれら樹脂とゴム若しくはエラストマーとのブレンド物等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーを用いることもでき、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、或いは、これらエラストマー同士の組み合わせや、ゴムとのブレンド物等が挙げられる。
【0088】
図1に示すように、クラウン部16には、タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26がタイヤケース17の周方向に巻回されている。補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、補強コード層28を形成している。補強コード層28のタイヤ径方向外周側には、タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムのみからなるトレッド30が配置されている。
【0089】
図2を用いて補強コード26によって形成される補強コード層28について説明する。図2は、第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。図2に示されるように、補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、タイヤケース17の外周部の一部と共に図2において破線部で示される補強コード層28を形成している。補強コード26のクラウン部16に埋設された部分は、クラウン部16(タイヤケース17)の一部又は全部を構成する樹脂材料と密着した状態となっている。補強コード26としては、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又は、スチール繊維を撚ったスチールコードなどこれら繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態において補強コード26としては、スチールコードが用いられている。
【0090】
また、図2において埋設量Lは、タイヤケース17(クラウン部16)に対する補強コード26のタイヤ回転軸方向への埋設量を示す。補強コード26のクラウン部16に対する埋設量Lは、補強コード26の直径Dの1/5以上であれば好ましく、1/2を超えることがさらに好ましい。そして、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されることが最も好ましい。補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/2を超えると、補強コード26の寸法上、埋設部から飛び出し難くなる。また、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されると、表面(外周面)がフラットになり、補強コード26が埋設されたクラウン部16上に部材が載置されても補強コード周辺部に空気が入るのを抑制することができる。なお、補強コード層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
【0091】
上述のように補強コード層28のタイヤ径方向外周側にはトレッド30が配置されている。このトレッド30に用いるゴムは、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、トレッド30の代わりに、タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したクラウンを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターンが形成されている。
以下、本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
【0092】
(タイヤケース成形工程)
まず、上述のように本実施形態における熱可塑性樹脂エラストマーを含む樹脂材料を用いて、タイヤケース半体を形成する。これらタイヤケースの形成は、射出成形で行うことが好ましい。次に、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤケース半体同士を互いに向かい合わせる。次いで、タイヤケース半体の突き当て部分の外周面と接するように図を省略する接合金型を設置する。ここで、前記接合金型はタイヤケース半体17Aの接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている。次いで、タイヤケース半体の接合部周辺を、タイヤケースの一部又は全部を構成する樹脂材料の融点(又は軟化点)以上で押圧する。タイヤケース半体の接合部が接合金型によって加熱や加圧されると、前記接合部が溶融しタイヤケース半体同士が融着しこれら部材が一体となってタイヤケース17が形成される。尚、本実施形態においては接合金型を用いてタイヤケース半体の接合部を加熱したが、本発明はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって前記接合部を加熱したり、予め熱風、赤外線の照射等によって軟化又は溶融させ、接合金型によって加圧して。タイヤケース半体を接合させてもよい。
【0093】
(補強コード部材巻回工程)
次に、図を省略するが、補強コード26を巻き付けたリール、コード加熱装置、各種ローラ等を備えたコード供給装置を用い、加熱した補強コード26をクラウン部16の外周面に埋設しながら巻き付けることで、タイヤケース17のクラウン部16の外周側に補強コード層28を形成することができる。
【0094】
このようにして、加熱した補強コード26をクラウン部16の外周面に埋設しながら巻き付けることで、タイヤケース17のクラウン部16の外周側に補強コード層28が形成される。
【0095】
次に、タイヤケース17の外周面に加硫済みの帯状のトレッド30を1周分巻き付けてタイヤケース17の外周面にトレッド30を、接着剤などを用いて接着する。なお、トレッド30は、例えば、従来知られている更生タイヤに用いられるプレキュアクラウンを用いることができる。本工程は、更生タイヤの台タイヤの外周面にプレキュアクラウンを接着する工程と同様の工程である。
【0096】
そして、タイヤケース17のビード部12に、加硫済みのゴムのみからなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
【0097】
(作用)
本実施形態のタイヤ10は、タイヤケース17の一部又は全部が、ハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)とを有し、1分子鎖中に含まれる前記ソフトセグメント(SS)が1単位であり、前記1分子鎖の両末端が前記ハードセグメント(HS)であり、且つ数平均分子量が12,000〜24,000である熱可塑性エラストマーを含む樹脂材料によって形成される。このため、本実施形態のタイヤ10は、望ましい弾性率を有し且つ低ロス性に優れる。
【0098】
また、本実施形態のタイヤ10では、樹脂材料を少なくとも用いて形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に前記樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26が周方向へ螺旋状に巻回されていることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、樹脂材料を少なくとも用いて形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
【0099】
また、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視(図1に示される断面)で、樹脂材料を少なくとも用いて形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に補強コード26の少なくとも一部が埋設され且つ樹脂材料に密着していることから、製造時のエア入りが抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのが抑制される。これにより、補強コード26、タイヤケース17、及びトレッド30に剥離などが生じるのが抑制され、タイヤ10の耐久性が向上する。
【0100】
そして、図2に示すように、補強コード26の埋設量Lが直径Dの1/5以上となっていることから、製造時のエア入りが効果的に抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのがさらに抑制される。
【0101】
さらに、ビード部12には、金属材料のみからなる環状のビードコア18が埋設されていることから、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、リム20に対してタイヤケース17、すなわちタイヤ10が強固に保持される。
【0102】
またさらに、ビード部12のリム20と接触する部分に、タイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料よりもシール性のあるゴム材のみからなるシール層24が設けられていることから、タイヤ10とリム20との間のシール性が向上する。このため、リム20とタイヤケース17の一部又は全部を構成する樹脂材料のみとでシールする場合と比較して、タイヤ内の空気漏れがより一層抑制される。また、シール層24を設けることでリムフィット性も向上する。
【0103】
また、第1実施形態では、補強コード26を加熱する構成としたが、例えば、補強コード26の外周をタイヤケース17と同じ樹脂材料で被覆する構成としてもよい。この場合には、被覆補強コードをタイヤケース17のクラウン部16に巻き付ける際に、補強コード26と共に被覆した樹脂材料も加熱することで、クラウン部16への埋設時におけるエア入りを効果的に抑制することができる。
【0104】
また、補強コード26は螺旋巻きするのが製造上は容易だが、幅方向で補強コード26を不連続とする方法等も考えられる。
【0105】
第1実施形態のタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、完全なチューブ形状であってもよい。
【0106】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0107】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]
・ハードセグメント(HS):片末端修飾PA12(ナイロン12)の合成
攪拌機、窒素ガス導入口、縮合水排出口を備えた容積2リットルの反応容器に、アルドリッチ製12−アミノドデカン酸58.2g、アミノドデカノラクタム800g、ドデカン酸80gを入れ、容器内を十分窒素置換した後、280℃まで昇温し、0.6MPaの加圧下で4時間反応させた。圧力を解放したあと、窒素気流下でさらに1時間反応させ、所望の数平均分子量約2,000の片末端修飾PA12重合物である白色固体を得た。
【0109】
・ソフトセグメント(SS):数平均分子量8,000のポリプロピレングリコールの合成
数平均分子量4,000のポリプロピレングリコール(和光純薬製)200gとドデカン二酸23gを前記ハードセグメント(HS)の合成と同様の反応容器に導入し、窒素気流下200℃でジルコニウムテトラクロライドを触媒量加え、6時間反応を行った。未反応ポリプロピレングリコールは、分取GPCで除去し、数平均分子量約8,000のポリプロピレングリコールを得た。収率76%であった。
【0110】
・熱可塑性エラストマーの製造
得られた片末端修飾PA12(数平均分子量2,000)300g、数平均分子量8,000のポリプロピレングリコール200gを前記ハードセグメント(HS)の合成と同様の反応容器に導入し、窒素気流下200℃1時間撹拌後、230℃に昇温し、ジルコニウムテトラクロライドを触媒量加えて、6時間反応を行った。過剰量のポリプロピレングリコールをメタノールで洗浄除去し、熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
得られた熱可塑性エラストマーはペレット化し、260℃で射出成形し、サンプル片を得た。各種測定は、このサンプル片から試験片を打ち抜いたサンプルを用いて実施した。
【0111】
[実施例2]
実施例1において、ハードセグメント:片末端修飾PA12の合成の際のドデカン酸の量を53.3gに変更して数平均分子量約3,000の片末端修飾PA12を得た以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0112】
[実施例3]
実施例1の熱可塑性エラストマーの製造において、ソフトセグメントとして数平均分子量12,000のポリプロピレングリコール(和光純薬製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0113】
[実施例4]
実施例1において、ハードセグメント:片末端修飾PA12の合成の際のドデカン酸の量を40gに変更して数平均分子量約4,000の片末端修飾PA12を得、且つ熱可塑性エラストマーの製造において、ソフトセグメントとして数平均分子量12,000のポリプロピレングリコール(和光純薬製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0114】
[実施例5]
実施例1において、ハードセグメント:片末端修飾PA12の合成の際のドデカン酸の量を53.3gに変更して数平均分子量約3,000の片末端修飾PA12を得、且つ熱可塑性エラストマーの製造において、ソフトセグメントとして数平均分子量12,000のポリプロピレングリコール(和光純薬製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0115】
[実施例6]
実施例1において、ハードセグメント:片末端修飾PA12の合成の際のドデカン酸の量を26.7gに変更して数平均分子量約6,000の片末端修飾PA12を得、且つ熱可塑性エラストマーの製造において、ソフトセグメントとして数平均分子量12,000のポリプロピレングリコール(和光純薬製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0116】
[実施例7]
実施例1において、ハードセグメント:片末端修飾PA12の合成の際のドデカン酸の量を106.7gに変更して数平均分子量約1,500の片末端修飾PA12を得、且つ熱可塑性エラストマーの製造において、ソフトセグメントとして数平均分子量12,000のポリプロピレングリコール(和光純薬製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0117】
[実施例8]
・ハードセグメント(HS):片末端修飾PA6の合成
攪拌機、窒素ガス導入口、縮合水排出口を備えた容積2リットルの反応容器に、アルドリッチ製カプロラクタム400g、ドデカン酸53g、アミノヘキサン酸51gを入れ、容器内を十分窒素置換した後、280℃まで昇温し、0.6MPaの加圧下で4時間反応させた。圧力を解放したあと、窒素気流下でさらに1時間反応させ、水洗工程をへて所望の数平均分子量約1,500の片末端修飾PA6重合物である白色固体を得た。
【0118】
・熱可塑性エラストマーの製造
得られた片末端修飾PA6(数平均分子量1,500)を200gとり、更に実施例3で用いたソフトセグメント(SS、数平均分子量12,000のポリプロピレングリコール、和光純薬製)800gを加え、230℃6時間撹拌を行った。Irganox1010(BASF社製)1gを加え、白色の熱可塑性エラストマー(ポリアミドエラストマー)を得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
得られた熱可塑性エラストマーはペレット化し、260℃で射出成形し、サンプル片を得た。各種測定は、このサンプル片から試験片を打ち抜いたサンプルを用いて実施した。
【0119】
[比較例1]
・熱可塑性エラストマーの製造
ハードセグメントとして両末端修飾のナイロン12(数平均分子量3,000)120g、ソフトセグメントとして数平均分子量1,000のポリプロピレングリコール37gを前記実施例1のハードセグメント(HS)の合成と同様の反応容器に導入し、窒素気流下200℃1時間撹拌後、230℃に昇温し、ジルコニウムテトラクロライドを触媒量加えて、6時間反応を行った。過剰量のポリプロピレングリコールをメタノールで洗浄除去し、熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、一分子中におけるハードセグメント(HS)の単位の数(平均値)及びソフトセグメント(SS)の単位の数(平均値)がいずれも25個であり、分子鎖の末端がハードセグメント(HS)であるものとソフトセグメント(SS)であるものとが混在した構造のTPAであった。
得られた熱可塑性エラストマーはペレット化し、260℃で射出成形し、サンプル片を得た。各種測定は、このサンプル片から試験片を打ち抜いたサンプルを用いて実施した。
【0120】
[比較例2]
実施例1において、ハードセグメント:片末端修飾PA12の合成の際のドデカン酸の量を47.2gに変更して数平均分子量約3,900の片末端修飾PA12を得、且つ熱可塑性エラストマーの製造において、ソフトセグメントとして数平均分子量4,000のポリエーテル(HUNTSMAN社製、エラスタミンD−4000)を用い、片末端修飾PA12(数平均分子量3,900)の量を300g、エラスタミンD−4000の量を307gとした以外は、実施例1と同様の方法により熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造のTPAであった。
【0121】
[比較例3]
・ハードセグメント(HS):両末端修飾PA12の合成
攪拌機、窒素ガス導入口、縮合水排出口を備えた容積2リットルの反応容器に、アルドリッチ製12−アミノドデカン酸43.7g、アミノドデカノラクタム600g、ドデカン二酸19.5gを入れ、容器内を十分窒素置換した後、280℃まで昇温し、0.6MPaの加圧下で4時間反応させた。圧力を解放したあと、窒素気流下でさらに1時間反応させ、所望の数平均分子量約7,500のPA12重合物である白色固体を得た。
【0122】
・熱可塑性エラストマーの製造
得られた両末端修飾PA12(数平均分子量7,500)300gに、数平均分子量2,000のポリオキシプロピレンジアミン(HUNTSMAN社製、エラスタミンRP−2009)147gを加え、230℃2時間撹拌を行ったのち、Irganox1010(BASF社製)を1g加え反応を終了した。イソプロパノールとヘキサフルオロイソプロパノール混合溶媒中で未反応物を抽出することで、数平均分子量約19,000のポリアミド系熱可塑性エラストマーを得た。
得られた熱可塑性エラストマーは、一分子中におけるハードセグメント(HS)の単位の数(平均値)及びソフトセグメント(SS)の単位の数(平均値)がいずれも2個であり、分子鎖の末端がハードセグメント(HS)であるものとソフトセグメント(SS)であるものとが混在した構造のTPAであった。
得られた熱可塑性エラストマーはペレット化し、260℃で射出成形し、サンプル片を得た。各種測定は、このサンプル片から試験片を打ち抜いたサンプルを用いて実施した。
【0123】
[評価]
実施例及び比較例から得た熱可塑性エラストマーを用いて、以下の項目について評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0124】
(弾性率)
JIS K7113:1995に規定される引張弾性率(以下、特に特定しない限り本明細書で「弾性率」とは引張弾性率を意味する。)を測定した。
なお、弾性率は300〜700の範囲であればタイヤ骨格体として用いるのに適しており、700を超えると乗心地が悪化する恐れがあり、300未満であるとリム組性が悪くなることがある。
【0125】
(低ロス性)
2mm厚のサンプル片から、φ8mmの円盤状に打ち抜いた試験片を測定に用いた。粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度30℃、歪み1%、周波数20Hzで損失正接(tanδ)を測定した。次に、上記測定方法で得られたtanδの実測値に対して、比較例1の値を100として計算を行い、換算値を求めた。尚、値が小さい程低ロス性に優れている。
【0126】
(軟化点Tm)
軟化点Tmを、JIS K7121:2012に則って、DSC(TAインスルメント社製)で測定を実施した。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
表1及び表2からわかるように、HS−SS−HSの構造、即ちトリブロック構造を有し、且つ平均分子量が12,000〜24,000の範囲である実施例は、この何れかを少なくとも満たさない比較例に比べて、優れた弾性率と低ロス性能とが両立されている。
【0130】
なお、日本出願2014−199161の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0131】
10 タイヤ、12 ビード部、16 クラウン部(外周部)、17 タイヤケース(タイヤ骨格体)、18 ビードコア、20 リム、21 ビードシート、22 リムフランジ、24 シール層(シール部)、26 補強コード(補強コード部材)、28 補強コード層、30 トレッド、D 補強コードの直径(補強コード部材の直径)、L 補強コードの埋設量(補強コード部材の埋設量)
図1A
図1B
図2