特許第6002018号(P6002018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6002018-住宅壁の改修方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6002018
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】住宅壁の改修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20160923BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   E04G23/02 H
   E04B1/64 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-269274(P2012-269274)
(22)【出願日】2012年12月10日
(65)【公開番号】特開2014-114592(P2014-114592A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】507004417
【氏名又は名称】特定非営利活動法人 体育環境発明機構
(73)【特許権者】
【識別番号】512318590
【氏名又は名称】システムセーリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133282
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 春喜
(74)【代理人】
【識別番号】100116780
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 雅子
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】山元 忠春
(72)【発明者】
【氏名】松永 齊
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−054555(JP,A)
【文献】 特許第4251083(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅壁の下地材に粘着されたビニールクロスに複数個の微細な貫通孔を形成する工程と、該複数個の微細な貫通孔内を含む該ビニールクロスの表面に石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、少なくともゼオライト及びホタテパウダーを含む内装塗り壁材を塗布する工程とを備えた住宅壁の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽機能を有する住宅壁の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月の東日本大震災に伴う原発事故によりばらまかれた放射性物質による放射能汚染は、依然として問題となっている。
一方、放射性物質の除染も進められており、居住が許されない計画的避難区域も順次解除されてきている。
【0003】
このため、一部の避難住民の帰宅も実現されている。
ところが、除染が進んだとはいえ放射線の影響が懸念されることから、帰宅を躊躇している住民もいる。
また、計画的避難区域外で放射線量が規定値以下の比較的安全とされる地域であっても、低線量の放射線に長期に渡って曝されることによって、高線量の被爆以上のダメージが生じるとされるペトカウ効果を懸念して、今までの住宅にそのまま住み続けてよいものかどうか迷っているケースも少なくない。
【0004】
日本の多くの住宅では、住宅の内壁の仕上げ材としてビニールクロスが使用されている。
ビニールクロスの放射線遮蔽機能を次のような実験により調べた。
【0005】
γ線放射線源(核種:セシウム137、134)と日立アロカメディカル社製TGSβγサーベイメ−タ)との間に、厚さ0.4mm、15cm角7gのビニールクロス片を配置して放射線遮蔽効果の検証を行った。放射線量の計測は、各3組読み取り、中間値の平均値で1回の線量として、これを2回繰り返した。
【0006】
ビニールクロス片を計測すると、遮蔽後の第1回目線量は、1025/分、第2回目線量は、1081/分であった。
ここで、γ線放射線源の放射線量は、2925/分であり、室内ブランクは、49/分である。
このデータを基に遮蔽率を算出すると、第1回目は、66.6%であり、第2回目は、64.1%となる。
以上によれば、ビニールクロスにも放射線遮蔽効果は認められるが、遮蔽率は65%前後であり、放射線の遮蔽は十分とはいえない。
【0007】
住宅内の放射線遮蔽のため、ビニールクロスの上に重ねて、例えば希土類系酸化物の放射線遮蔽材料粉末を熱可塑性樹脂中に含有させた放射線遮蔽シート、ウレタン系又はエポキシ系のエラストマ等から構成される基材中に、ステンレス、タングステン等の放射線遮蔽材料からなるフィラーを充填した放射線遮蔽シート等(例えば、特許文献1〜3参照)を増張することも考えられるが、高価で硬質で重く作業性も良くないという問題がある。
【0008】
さらに、ビニールクロスには次のような問題点がある。
(1)ビニールクロスは通気性がないため、室内結露が発生する。
(2)特に冬場は暖房のためにカビが発生し、そのカビからは胞子が室内に漂い、喘息やアレルギーの原因になる。
(3)人体に悪影響を及ぼすホルムアルデヒドを室内に放出する。
(4)ビニールクロスは熱分解すると、塩酸やダイオキシンのような有害な有機塩素化合物のガスを、大量に生成するため、火災時には非常に危険である。
【0009】
次に、上記のような問題点を避けるためにビニールクロスを剥がして、放射線遮蔽シート等を設置しようとすれば、ビニールクロスの剥がし工程及び処分費用が発生しさらにコスト高となってしまうという問題が残る。
【0010】
ビニールクロスの上記(1)〜(4)の問題を解決するため、石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、適宜ホウ酸等を加えこれに繋ぎ剤を水で撹拌して製作した内装塗り壁材も使用されているが、放射線の遮蔽の視点からはこれまで検討されたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO01/099119号公報
【特許文献2】特開2007−85865号公報
【特許文献3】特開2011−99791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、放射線を効率よく遮断防御でき作業性が良く低価格の内装塗り壁材を用いた住宅壁の改修方法並びに改修された住宅壁構造を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、上記に加えて通気性に優れるとともにシックハウス改善、調湿、防臭、消臭に優れた内装塗り壁材を用いた住宅壁の改修方法並びに改修された住宅壁構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(1)住宅壁の下地材に粘着されたビニールクロスに複数個の微細な貫通孔を形成する工程と、該複数個の微細な貫通孔内を含む該ビニールクロスの表面に石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、少なくともゼオライト及びホタテパウダーを含む内装塗り壁材を塗布する工程とを備えた住宅壁の改修方法。
(2)上記複数個の微細な貫通孔は、周囲に針が埋め込まれた針付ローラーにより形成されることを特徴とする(1)に記載の住宅壁の改修方法。
(3)上記内装塗り壁材は、さらに天然接着剤を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の住宅壁の改修方法。
(4)上記内装塗り壁材は、さらに硼酸を含むことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかにに記載の住宅壁の改修方法。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載された改修方法により改修された住宅壁構造。
(6)住宅壁の下地材に粘着され複数個の微細な貫通孔が形成されたビニールクロスと、該複数個の微細な貫通孔内を含む該ビニールクロスの表面に形成され、石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、少なくともゼオライト及びホタテパウダーを含む内装塗り壁材とを有する改修された住宅壁構造。
(7)上記内装塗り壁材は、さらに天然接着剤を含むことを特徴とする(6)に記載の住宅壁の改修方法。
(8)上記内装塗り壁材は、さらに硼酸を含むことを特徴とする(6)又は(7)に記載の改修された住宅壁構造
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
(1)放射線を効率よく遮断防御でき作業性が良く低価格の内装塗り壁材をビニールクロス上に確実に設けることができる住宅壁の改修方法並びに改修された住宅壁構造が得られる。
(2)通気性に優れるとともにシックハウス改善、調湿、防臭、消臭に優れた内装塗り壁材を用いた住宅壁の改修方法並びに改修された住宅壁構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る改修された住宅壁構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(内装塗り壁材の検証)
石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、ゼオライト、ホタテパウダーを含む内装塗り壁材片を用意して放射線遮蔽効果を検証した。
実験では、γ線放射線源(核種:セシウム137、134)と日立アロカメディカル社製TGSβγサーベイメ−タ)との間に、厚さ1.5mm、15cm角の内装塗り壁材片を配置して放射線遮蔽効果の検証を行った。放射線量の計測は各3分間としこれを2回繰り返した。
ここで、γ線放射線源の放射線量は、2925/分であり、室内ブランクは、49/分であった。
【0017】
内装塗り壁材片による遮蔽後の検証結果を表1に示す。
【表1】
なお、検証1では内装塗り壁材片は、石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、ゼオライトを30g添加し、これに繋ぎ剤を加え水で撹拌して製作した。
また、検証2では内装塗り壁材片は、石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、ホタテパウダーを4.2g添加し、これに繋ぎ剤を加え水で撹拌して製作した。
【0018】
検証1に係るゼオライト、検証2に係るホタテパウダー共に放射線遮蔽率94%程度の高い放射線遮蔽率を有することが検証された。
したがって、放射線遮蔽機能の向上を図るためには、住宅壁の改修に当たってビニールクロスの上から、石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材として、ゼオライト、ホタテパウダーを含む内装塗り壁材を塗布すればよいことになるが、これには次のような問題点があることがわかった。
(1)上記ビニールクロスと上記内装塗り壁材は接着性が悪く、剥離等が生じる。
(2)ビニールクロスが依然として残るためにビニールクロス自体に起因する問題点が解消されない。
【0019】
以上の検証結果及び上記の問題点を踏まえて、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ビニールクロスに上記内装塗り壁材を塗布するのに先だって、ビニールクロスを貫通する複数の微細な孔を形成しておくことによって解決されることを見出した。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図1を参照して詳細に説明する。
一般に住宅壁は、図1に模式的に示すように、住宅の外部から内部に向かって外壁材1、断熱材2、石膏ボード、ベニア等の下地材3、ビニールクロス4の順に組み合わされて壁構造を構成している。
【0021】
本発明に係る住宅壁の改修方法では、このように構成された壁構造の表面のビニールクロスに、例えば周囲に複数の針が埋め込まれた針付ローラーにより複数個の微細な貫通孔5を先ず形成する。
貫通孔の直径は、0.5mm〜5mmが好ましい。
次に複数個の微細な貫通孔内を含む該ビニールクロスの表面に石灰プラスターと紙を解繊したセルローズ綿を基材とし、少なくともゼオライト及びホタテパウダーを含む内装塗り壁材を塗布する。
【0022】
本発明の住宅壁の改修方法によれば、ビニールクロスに複数個の微細な貫通孔が形成されているため、その上に塗布される内装塗り壁材が剥離することがない。
さらに、ビニールクロスに複数個の微細な貫通孔が形成されており、貫通孔に入り込んだ内装塗り壁材は通気性を有するため、ビニールクロスの欠点である通気性の点が改善される。
【0023】
内装塗り壁材としては、放射線の遮蔽という観点からは、少なくともゼオライト及びホタテパウダーの一方を含んでいれば十分であるが、次の理由から少なくともゼオライト及びホタテパウダーの両方を含んでいるのが好ましい。
(1)ゼオライトには防臭・調湿効果がある。
(2)ホタテパウダーにはシックハウス改善、消臭・調湿効果がある。
したがって、これらを適量含有させることにより双方の利点を生かすことができる。
さらに、接着性を高めるために、天然接着剤を混合してもよい。
また、硼酸には防火効果があり、また防虫・防カビ効果があるためこれを適量加えてもよい。
【0024】
また、本発明に係る改修された住宅壁構造によれば、放射線を効率よく遮断防御できるとともにシックハウス改善、調湿、防臭、消臭に優れた住宅壁構造を得ることができる。
【0025】
なお、本明細書に開示した実施例は、本発明の理解を容易にするために例示したものであって、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、住宅壁の改修に当たって、適宜の設計変更が可能であることは言うまでもないことである。
【符号の説明】
【0026】
1:外壁材
2:断熱材
3:下地材
4:ビニールクロス
5:微細な貫通孔
6:内装塗り壁材


図1