(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、本発明の実施の形態によるハイブリッド式作業車両について説明する。
図1は実施の形態のハイブリッド式作業車両200の一例として示されるホイールローダの外観側面図であり、
図2はハイブリッド式作業車両200の主要構成を示す回路ブロック図である。
【0011】
図1に示すように、ハイブリッド式作業車両200は、アーム201、バケット20、前輪18a,18b等を有する前部車体202と、運転室19、後輪18c,18d等を有する後部車体203とを有する。アーム201はアームシリンダ13の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット20はバケットシリンダ14の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。なお、前輪18a,18bと後輪18c,18dについて、総称する場合には車輪18として説明する。
【0012】
前部車体202と後部車体203とは、不図示の連結軸により互いに回動自在に連結されている。このハイブリッド式作業車両200は、連結軸にて前部車体202と後部車体203とが屈曲されるアーティキュレート式の作業車両である。前部車体202と後部車体203には、連結軸を中心とする一対のステアリングシリンダ(以下、ステアリングシリンダ)12の一端と他端とが、それぞれ回転可能に係止されている。後述する油圧装置により一対のステアリングシリンダ12のうち一方を伸長、他方を縮退させることにより、前部車体202と後部車体203とをそれぞれ連結軸を中心に回転させる。これにより、前部車体202と後部車体203との相対的な取付角度が変化し、車体が屈曲して換向する。
【0013】
図2に示すように、ハイブリッド式作業車両200は、エンジン1、エンジン1の駆動を制御するエンジン制御装置(以下、エンジンコントローラ)2、蓄電素子(以下、キャパシタ)3、コンバータ4、発電電動機5、発電インバータ6、走行電動機7F,7R、走行インバータ8F,8R、油圧ポンプ9、操作装置31およびDPF(Diesel Particulate Filter)32を備えている。またハイブリッド式作業車両200は、以上の構成部を制御する主制御装置(以下、メインコントローラ)100を備えている。
【0014】
油圧ポンプ9はハイブリッド式作業車両200の各油圧アクチュエータ、すなわちステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14に圧油を供給する可変容量型油圧ポンプである。油圧ポンプ9の回転軸はエンジン1の駆動軸と同軸上に設けられている。油圧ポンプ9がエンジン1により駆動されると、オイルタンク10の作動油がコントロールバルブ11を介してステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14に供給される。コントロールバルブ11は、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のボトム室またはロッド室への作動油の流れを制御する制御弁である。コントロールバルブ11は、運転室19内に設置された操作装置31から出力される信号(油圧信号または電気信号)によって制御される。油圧ポンプ9からコントロールバルブ11に導かれた作動油は、操作装置31の操作に応じてステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14に分配される。
【0015】
発電電動機5は、エンジン1の駆動軸と同軸上にある回転軸にロータが取り付けられ、ロータの外周にステータが配置されている。発電電動機5は発電機モードと電動機モードのいずれかのモードで駆動される。発電機モードが選択されているとき、発電電動機5は、エンジン1によってロータが回転することにより発電する。発電インバータ6は発電電動機6で発電された交流電力を所定電圧の直流電力に変換する。電動機モードが選択されているとき、発電電動機5は、発電インバータ6から交流電力が供給されて電動機として機能する。発電電動機5の回転軸はエンジン1の回転軸と油圧ポンプ9の回転軸に連結されている。そのため、発電電動機5の出力トルクは油圧ポンプ9に与えられる。
【0016】
コンバータ4は、キャパシタ3に蓄電された直流電力を所定電圧に昇圧して、発電電動機5、走行電動機7F,7Rに供給する。コンバータ4は、後述するメインコントローラ100により制御される。
なお、キャパシタ3は、たとえば鉛蓄電池や、リチウムイオンバッテリのように、直流電力を蓄電する2次電池でもよい。
【0017】
走行電動機7F,7Rは、キャパシタ3および発電電動機5に電力線を介して接続され、キャパシタ3および発電電動機5の一方、または双方から供給される電力によって車輪18を駆動する。走行加速時には、走行電動機7F,7Rは、後述する走行インバータ8F,8Rにより力行駆動される。力行駆動により発生した力行トルクはプロペラシャフト15f,15r、ディファレンシャルギア16f,16rおよびドライブシャフト17f,17b,17c,17dを介して前輪18a,18bおよび後輪18c,18dへと伝えられ、ハイブリッド式作業車両200が加速する。走行制動時には、走行電動機7F,7Rが発生した回生トルク(制動トルク)は、力行トルクと同様にして車輪18へと伝えられ、ハイブリッド式作業車両200が減速する。
【0018】
走行インバータ8F,8Rは、走行加速時には走行電動機7F,7Rに交流走行駆動電力を供給してそれぞれ駆動する。また、走行インバータ8F,8Rは、走行制動時に走行電動機7F,7Rで発生した回生電力(交流電力)を所定電圧の直流電力に変換してキャパシタ3に供給する。コンバータ4、発電インバータ6および走行インバータ8F,8Rは、同一の電力線に接続され、相互に電力の供給が可能となるように構成されている。また、コンバータ4は、電力線に取り付けられた平滑コンデンサ(不図示)の直流電圧(DC電圧)を監視し、この平滑コンデンサのDC電圧を一定に保つようにキャパシタ3の充放電を制御する。
【0019】
運転室19に設けられた操作装置31は、ステアリングホイール、リフトレバー、バケットレバー等を含んで構成される。ステアリングホイールはステアリングシリンダ12を伸縮させる際に操作される。オペレータはステアリングホイールを操作することで、ステアリングシリンダ12を伸縮させてハイブリッド式作業車両200の操舵角を調整して、ハイブリッド式作業車両200を旋回させる。リフトレバーはアームシリンダ13を伸縮する際に操作される。バケットレバーはバケットシリンダ14を伸縮する際に操作される。オペレータはリフトレバー、バケットレバー等を操作することにより、アームシリンダ13およびバケットシリンダ14を伸縮させて、バケット20の高さと傾きとを制御し、掘削および荷役作業を行う。
【0020】
運転室19には、アクセルペダル290a、ブレーキペダル291a、前後進スイッチ操作部292aが設けられている。オペレータは、上記のアクセルペダル290a、ブレーキペダル291a、前後進スイッチ操作部292aを操作することによって、車輪18a、18bを駆動してハイブリッド式作業車両200を走行させることができる。アクセルペダル290aの踏込量はアクセルペダル踏込量に応じアクセル信号を出力するアクセルペダル踏込量センサ290で検出され、ブレーキペダル291aの踏込量はブレーキペダル踏込量に応じたブレーキ信号を出力するブレーキペダル踏込量センサ291で検出される。それらのセンサ290,291は、オペレータによる操作量、すなわち踏込量に応じて、それぞれアクセル信号とブレーキ信号とを後述するメインコントローラ100へ出力する。また、前後進スイッチ操作部292aが前進側または後進側に操作されたことは前後進スイッチ292により検出され、この前後進スイッチ292は前進信号または後進信号をメインコントローラ100に送信する。
【0021】
なお、本実施の形態のハイブリッド式作業車両200は、ブレーキペダル291aの操作に応じて油圧ブレーキ制御弁35a,35bに所定の油圧力が導入され、ディスクブレーキである油圧ブレーキ36a,36bにより摩擦力で車輪18a,18bの回転を機械的に制動する。そして、上述した走行電動機7F,7Rの回生トルクによる回生制動力も加味される。
【0022】
また、速度センサ21は、ハイブリッド式作業車両200の走行速度を検出して、速度信号をメインコントローラ100へ出力し、モータ回転数センサ22は、走行電動機7F,7Rの回転数を検出して、モータ回転数信号をメインコントローラ100へ出力する。
【0023】
メインコントローラ100は、CPU、ROM、RAMなどを有し、制御プログラムに基づいてハイブリッド式作業車両200の各構成要素を制御したり、各種のデータ処理を実行したりする演算回路である。また、上述したアクセルペダル踏込量センサ290、ブレーキペダル踏込量センサ291からそれぞれ入力したアクセル信号とブレーキ信号とを用いて、後述するように、アクセルペダル290aやブレーキペダル291aの踏込量に応じた車速制御を行う。
【0024】
図3に示すように、メインコントローラ100は、蓄電管理部110と、油圧要求演算部120と、走行要求演算部130と、出力管理部140と、目標回転数演算部150と、発電電動機制御部160と、傾転角制御部170と、走行電動機・ブレーキ制御部180と、ブレーキ制御部190とを機能的に備える。
【0025】
−許容充電電力−
蓄電管理部110は、キャパシタ3の許容充電電力を演算して出力演算部140に出力する。蓄電管理部110には、コンバータ4で検出されるキャパシタ3の蓄電電圧が入力される。蓄電管理部110は、コンバータ4から入力したキャパシタ3の蓄電電圧と、メインコントローラ100内の記憶装置(不図示)に記憶された許容充電電力マップとに基づいて、キャパシタ3の許容充電電力を算出する。
【0026】
図4に許容充電電力マップの一例を示す。
図4では、Vcmin、Vcmaxはそれぞれキャパシタ3が劣化しにくい使用範囲における最低電圧、最高電圧である。許容充電電力マップは、キャパシタ3の蓄電電圧が最高電圧Vcmaxを超えないように、許容充電電力が最高電圧Vcmax付近で0以下になるように設定されている。一方、
図4において、Icmaxはコンバータ4の最大電流制限に基づいて設定される。許容充電電力マップは、充電電流が最大電流制限Icmaxを超えないように蓄電電圧が低いほど許容充電電力が小さくなるようにも設定されている。
【0027】
−油圧要求演算部120−
油圧要求演算部120は、油圧ポンプ9の油圧要求出力P
wr_pmp_reqを演算する。油圧要求演算部120には、リフトレバーおよびバケットレバー、すなわち操作装置31からレバー信号が入力され、油圧ポンプ9とコントロールバルブ11との間に設けられた圧力センサ(不図示)からポンプ圧p
pmpが入力される。なお、説明を簡略化するため、ステアリングホイールの操作およびステアリングシリンダ12の動作については演算に含めないものとする。
【0028】
図5は、ポンプ要求流量マップの一例を示す図である。ポンプ要求流量マップは、レバー信号にポンプ要求流量がほぼ比例するように設定され、メインコントローラ100の記憶装置(不図示)に記憶されている。油圧要求演算部120は、受信したレバー信号とポンプ要求流量マップとに基づいて、ポンプ要求流量q
pmp_reqを算出する。そして油圧要求演算部120は、算出したポンプ要求流量q
pmp_reqと、受信したポンプ圧力p
pmpとを用いて、以下の式(1)により油圧要求出力P
wr_pmp_reqを算出する。
P
wr_pmp_req=q
pmp_req・p
pmp…(1)
なお、説明を簡略化するため、油圧ポンプ9の効率は考慮しないものとし、以下の計算式においても同様に油圧ポンプ9の効率は含まれない。
【0029】
−走行要求演算部130−
走行要求演算部130は、走行時に走行電動機7F,7Rに要求されるトルクである走行要求トルクT
rq_reqを(2)式に基づいて算出して出力し、走行時に走行電動機7で消費または発生(回生)される電力である走行要求出力P
wr_drv_reqを(3)式に基づいて算出して出力する。このとき、走行要求演算部130は、メインコントローラ100の記憶装置(不図示)に記憶されたアクセル要求トルクマップを用いて演算を行う。
【0030】
図6にアクセル要求トルクマップの一例を示す。アクセル要求トルクマップは、走行電動機7F,7Rの最大トルクカーブについて、アクセル要求トルクT
rq_accが、アクセル信号に比例しつつ走行電動機7F,7Rの回転数の絶対値に反比例するように設定されている。走行要求演算部130は、アクセルペダル290aの踏込量を検出するアクセルペダル踏込量センサ290から入力されるアクセル信号と、モータ回転数センサ22から入力される走行電動機回転数N
motとに基づいて、アクセル要求トルクマップを用いてアクセル要求トルクT
rq_accを算出する。そして、走行要求演算部130は、算出したアクセル要求トルクT
rq_accと、前後進スイッチ292から入力される前後進スイッチ信号V
FNRと、モータ回転数センサ22から入力される走行電動機回転数N
motと、ブレーキペダル291aの踏込量を検出するセンサ291から入力されるブレーキ信号V
brkとを用いて、以下の式(2)により走行要求トルクT
rq_reqを算出する。
T
rq_req=sign(V
FNR)・T
rq_acc−sign(N
mot)・K
brk・V
brk
…(2)
ただし、signは符号関数であり、引数が正の場合は1を、負の場合は「−1」を、0の場合は「0」を返すものとする。さらに、前後進スイッチ信号V
FNRは、前後進スイッチ292が前進方向の場合は「1」を、後進方向の場合は「−1」を、中立の場合は「0」を示す。K
brkは比例定数であり、ブレーキペダル291aの操作によって過不足のない減速が得られるように予め設定されている。
【0031】
走行要求演算部130には、コンバータ4で検出されるDC電圧V
DCと、走行インバータ8F,8Rで検出される走行直流電流(DC電流)I
DC_motが入力されている。ただし、走行DC電流は走行インバータ8F,8Rの電力線側を流れるDC電流であり、消費側を正とし、回生側を負とする。走行要求演算部130は、DC電圧V
DCと、走行DC電流I
DC_motとを用いて、以下の式(3)により走行要求出力P
wr_drv_reqを算出する。
P
wr_drv_req=V
DC・I
DC_mot…(3)
(3)式によれば、回生運転時の走行要求出力P
wr_drv_reqは負の値をとる。
【0032】
−出力管理部140−
出力管理部140には、エンジンコントローラ2からのエンジン回転数N
engと、蓄電管理部110からの許容充電電力P
wr_chg_maxと、油圧要求演算部120からの油圧要求出力P
wr_pmp_reqと、走行要求演算部130からの走行要求出力P
wr_drv_reqとが入力される。
出力管理部140は、(4)に基づいて余剰電力P
wr_supを算出する。また、(5)式に基づいて傾転角増加指令dD
pmpを算出して出力し、(6)式に基づいて回生電力低減指令dP
wr_mot_tを算出して出力し、(8)式に基づいて発電出力指令P
wr_gen_tを算出して出力し、(9)式に基づいてエンジン出力指令P
wr_eng_tを算出して出力する。
なお、出力管理部140は、エンジン回転数を受信して演算に用いているが、エンジン1、発電電動機5および油圧ポンプ9が機械的に接続されているため、エンジン回転数に代えて発電電動機5および油圧ポンプ9の回転数をセンサ等を介して適宜受信して演算に用いてもよい。
【0033】
(余剰電力)
出力管理部140は、走行要求演算部130で(3)式で算出した走行要求出力P
wr_drv_reqを受信する。この走行要求出力P
wr_drv_reqが0以上であれば、出力管理部140はハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判断し、走行要求出力P
wr_drv_reqが負であればハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断する。ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断すると、出力管理部140は、蓄電管理部110からの許容充電電力P
wr_chg_maxと、走行要求演算部130からの走行要求出力P
wr_drv_reqとを用いて、以下の式(4)により、余剰電力P
wr_supを算出する。
P
wr_sup=max(|P
wr_drv_req|−P
wr_chg_max,0)…(4)
【0034】
回生時の走行要求出力P
wr_drv_reqの絶対値が許容充電電力P
wr_chg_maxより大きいとき、その差が余剰電力P
wr_supとして計算される。回生時の走行要求出力P
wr_drv_reqの絶対値が許容充電電力P
wr_chg_maxより小さいとき、その差は負となり、余剰電力P
wr_supは0として計算される。この場合、回生電力でキャパシタ3を充電することができる。
【0035】
出力管理部140は、算出した余剰電力P
wr_supが0か否かを監視することで、走行電動機7F,7Rで発生した全ての回生電力をキャパシタ3に充電可能か否か、すなわち余剰電力P
wr_supが発生するか否かを判定する。ただし、力行運転中と判断されている場合には、余剰電力P
wr_supは0に設定される。
すなわち、出力管理部140は、式(4)で算出される余剰電力P
wr_supから以下のことを判定することができる。
(a)余剰電力P
wr_supが0のときに回生電力でキャパシタ3を充電することができる。(b)余剰電力P
wr_supが0ではないときには、回生電力でキャパシタ3を充電することができないので、発電電動機5を電動モードで駆動して回生電力を消費する。
【0036】
(エンジン回転数判定)
出力管理部140は、ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断すると、エンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1以下であるか、さらに第2設定閾値N
eng_th2以下であるかを判定する。ここで、第1設定閾値N
eng_th1および第2設定閾値N
eng_th2は、「エンジン1のアイドル回転数<第1設定閾値N
eng_th1<第2設定閾値N
eng_th2<min(エンジン1の最高回転数、油圧ポンプ9の最高回転数)」を満たすように設定されている。第1設定閾値N
eng_th1および第2設定閾値N
eng_th2は、メインコントローラ100の記憶装置に記憶され、必要に応じて適宜再設定が可能である。なお、エンジン1の回転数に代えて、発電電動機5の回転数を用いても良いし、油圧ポンプ9の回転数を用いても良い。
【0037】
出力管理部140は、入力されたエンジン1の回転数と第1設定閾値N
eng_th1と第2設定閾値N
eng_th2とを比較して、エンジン1が低回転モードか、回転抑制モードか、高回転モードかを判定する。この場合、エンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1以下であれば、出力管理部140はエンジン1を低回転モードと判定する。エンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1よりも大きく第2設定閾値N
eng_th2以下であれば、出力管理部140はエンジン1を回転抑制モードと判定する。エンジン1の回転数N
engが第2設定閾値N
eng_th2よりも大きい場合は、出力管理部140はエンジン1を高回転モードと判定する。
【0038】
なお、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判断された場合には、出力管理部140は、エンジン回転数N
engの大小にかかわらず、エンジン1を通常モードと判定する。
以上のように、この実施の形態のハイブリッド作業車両200ではエンジン1の運転モードを以下の4つのモードに分類している。
回生運転時は、低回転モードと、回転抑制モードと、高回転モードに分類し、力行運転時は、通常モードに分類する。
【0039】
(掘削装置動作判定)
出力管理部140は、油圧要求演算部120で(1)式から算出された油圧要求出力P
wr_pmp_reqに基づいて、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれが動作中であるかを判定する。油圧要求出力P
wr_pmp_reqが、たとえばポンプ圧力×最小吐出流量で算出される設定値以上であれば、出力管理部140はステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14が動作中であると判定する。
【0040】
なお、油圧要求出力P
wr_pmp_reqに代えて、操作装置31の操作を検出してステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれが動作中であるかを判定してもよい。この場合、操作装置31からレバー信号が出力されていることを検出するセンサ、たとえば、レバー信号が油圧信号の場合は圧力センサを設け、出力管理部140は、センサによって検出された検出値を用いて上記シリンダ12〜14のいずれかが動作中であると判定すればよい。また、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14の伸縮速度を検出するセンサを設け、出力管理部140は、センサにより検出された検出速度を用いて判定してもよい。
【0041】
(傾転角増加指令)
さらに、出力管理部140は、以下の3つの条件(i)〜(iii)を満たす場合に、油圧ポンプ9の傾転角を増加するための傾転角増加指令dD
pmp_tを下記(5)式にしたがって算出する。
(i)ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判定されている。
(ii)回生運転時に余剰電力で発電電動機5が駆動されているとき、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれも動作中でないと判定されている。
(iii)エンジン1が回転抑制モードまたは高回転モードと判定されている。
【0042】
出力管理部140は、エンジンコントローラ2から入力されたエンジン回転数N
engと、第1設定閾値N
eng_th1とを用いて、以下の式(5)により傾転角増加指令dD
pmp_tを算出する。
dD
pmp_t=max{K
nD(N
eng−N
eng_th1),0}…(5)
ただし、K
nDは、第1設定閾値N
eng_th1と実回転数N
engの差から傾転角増加指令を算出する比例定数であり、あらかじめメインコントローラ100に記憶されている。
【0043】
なお、走行電動機7F,7Rの余剰電力で電動発電機5が駆動されている場合であっても、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれかが動作中である場合には、出力管理部140は傾転角増加指令dD
pmp_tを0に設定する。
また、力行運転中と判定された場合には、出力管理部140は傾転角増加指令dD
pmp_tを0に設定する。さらに、回生運転中、回生電力の全量がキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、油圧ポンプ9の負荷が小さいときには、出力管理部140は、(5)式で算出された傾転角増加指令dD
pmp_tを出力する。その結果、油圧ポンプ9の傾転角が大きくなって余剰電力の消費量が増加する。
【0044】
回生運転中に上記の式(5)に基づいて傾転角増加指令dD
pmp_tが算出された場合、エンジン回転数N
engが高くなるほど傾転角増加指令dD
pmp_tが大きくなり、油圧ポンプ9の吐出容量が大きくなる。この結果、エンジン回転数N
engが高くなるほど、油圧ポンプ9の負荷トルク、すなわち回生制動力を大きくすることができる。
【0045】
(回生電力低減指令)
出力管理部140は、走行電動機7F,7Rの余剰電力で発電電動機5が駆動され、かつエンジン1が高回転モードと判定された場合、走行電動機7F,7Rが発電する回生電力を低減するための回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを算出する。出力管理部140は、エンジンコントローラ2から入力されたエンジン回転数N
engと、第2設定閾値N
eng_th2とを用いて、以下の式(6)により回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを算出する。
dP
wr_mot_t=max{K
nP(N
eng−N
eng_th2),0}…(6)
なお、式(6)において、K
nPは、第2設定閾値N
eng_th2と実エンジン回転数N
engとの差から回生電力低減指令を算出する比例定数である。
【0046】
以上のとおり、出力管理部140は、回生運転時に回生電力の全量がキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、エンジンが第2設定閾値N
eng_th2以上の高速で運転されているときに、(6)式で算出された回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを出力する。
エンジン1が通常モード、低回転モード、回転抑制モードのいずれかの場合には、出力管理部140は回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを0に設定する。
【0047】
上記の式(6)に基づいて回生電力低減指令値dP
wr_mot_tが算出されると、エンジン回転数N
engが高くなるほど、回生電力低減指令dP
wr_mot_tが大きくなり、走行電動機7F,7Rの回生電力が小さくなる。この結果、エンジン回転数N
engが高くなるほど、発電電動機5で消費される回生電力が小さくなる。
この回生電力低減指令制御は、エンジン1の回転数が高速域で走行しているときに、例えば、アクセルペダル290aを解放して作業車両200が回生運転に入るような場合は、走行電動機7F,7Rも高速域で運転されおり、発電量が大きくなりすぎることを防止するために行われる。
【0048】
(消費電力)
出力管理部140は、ハイブリッド式作業車両200が回生運転中であると判定した場合に、走行電動機7F,7Rで発生する回生電力のうち発電電動機5で消費すべき電力である消費電力P
wr_cnsを算出する。出力管理部140は、算出した余剰電力P
wr_supと、算出した回生電力低減指令dP
wr_mot_tとを用いて、以下の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。
P
wr_cns=max(P
wr_sup−dP
wr_mot_t,0)…(7)
ただし、出力管理部140は、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判定した場合には、消費電力P
wr_cnsを0に設定する。
すなわち、出力管理部140は、回生運転時にのみ、(7)式により消費電力P
wr_cnsを算出する。
【0049】
出力管理部140は、(3)式で算出される走行要求出力P
wr_drv_reqと(7)式で算出される消費電力P
wr_cnsに基づいて、以下の式(8)から発電出力指令P
wr_gen_tを算出する。
P
wr_gen_t=max(P
wr_drv_req,0)−P
wr_cns …(8)
【0050】
力行運転時と回生運転時に(8)式で算出される発電出力指令P
wr_gen_tをまとめると以下のとおりである。
力行運転時、消費電力P
wr_cnsは0に設定され、また、走行要求出力P
wr_drv_reqは正の値をとるので、(8)式の発電出力指令P
wr_gen_tは、(3)式で算出される走行要求出力P
wr_drv_reqとなる。一方、回生運転時、走行要求出力P
wr_drv_reqは負の値をとるので、(8)式の発電出力指令P
wr_gen_tは、(7)式で算出される消費電力P
wr_cnsとなる。
換言すると、力行時の発電出力指令P
wr_gen_tは走行要求出力P
wr_drv_reqであり、回生時の発電出力指令P
wr_gen_tは消費電力P
wr_cnsであり、負の値をとる。
【0051】
出力管理部140は、油圧要求演算部120からの油圧要求出力P
wr_pmp_reqと、(8)式で算出した発電出力指令P
wr_gen_tとを用いて、以下の式(9)によりエンジン出力指令P
wr_eng_tを算出する。
P
wr_eng_t=P
wr_pmp_req+P
wr_gen_t…(9)
【0052】
力行運転時と回生運転時に(9)式で算出されるエンジン出力指令P
wr_eng_tをまとめると以下のとおりである。
力行運転時、出力管理部140が算出するエンジン出力指令P
wr_eng_tは、ポンプ要求流量q
pmp_reqとポンプ圧力p
pmpとの積である油圧要求出力P
wr_pmp_req((1)式で算出される)に、(8)式で算出した走行要求出力P
wr_drv_reqである発電出力指令P
wr_gen_tを加算したものとなる。
回生運転時、出力管理部140が算出するエンジン出力指令P
wr_eng_tは、ポンプ要求流量q
pmp_reqとポンプ圧力p
pmpとの積である油圧要求出力P
wr_pmp_req((1)式で算出される)に、(7)式で算出した消費電力P
wr_cnである発電出力指令P
wr_gen_tを加算したものとなる。
換言すると、力行時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは油圧要求出力P
wr_pmp_reqに走行要求出力P
wr_drv_reqを加算したものであり、回生時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは油圧要求出力P
wr_pmp_reqから消費電力P
wr_cnsを減算したものである。
【0053】
−目標回転数演算部150−
目標回転数演算部150は、エンジンコントローラ2に送信するエンジン回転数指令N
eng_tを算出する。目標回転数演算部150は、出力管理部140で式(9)から算出されたエンジン出力指令P
wr_eng_tに基づいて、エンジン等燃費マップを用いて、最もエンジン効率が高くなる動作点を算出する。そして、目標回転数演算部150は、算出した動作点でのエンジン回転数をエンジン回転数指令N
eng_tとする。エンジンコントローラ2は、エンジン回転数指令N
eng_tを目標回転数演算部150から受信すると、そのエンジン回転数指令が示すエンジン回転数でエンジン1を回転させる。
【0054】
−発電電動機制御部160−
発電電動機制御部160には、エンジンコントローラ2からのエンジン回転数N
engと、出力管理部140からの発電出力指令P
wr_gen_tと、目標回転数演算部150からのエンジン回転数指令N
eng_tとが入力される。発電電動機制御部160は、これらの値を用いて、以下の式(10)によって発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを算出する。
T
rq_gen_t=max{K
p(N
eng_t−N
eng),0}
−(P
wr_gen_t/N
eng) …(10)
ただし、K
pは、エンジン回転数N
engとエンジン回転数指令N
eng_tとの差から発電電動機トルクを算出する比例定数である。
そして、発電電動機制御部160は、算出した発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを発電インバータ6へ送信する。これにより、発電電動機5が駆動制御される。
【0055】
力行運転時と回生運転時に(10)式で算出される発電電動機トルク指令T
rq_gen_tをまとめると以下のとおりである。
力行運転時、エンジン回転数指令N
eng_tはエンジン回転数N
engより大きい。したがって、力行運転時、発電電動機制御部160は、K
p(N
eng_t−N
eng)で求めた要求トルクから、エンジン出力指令P
wr_eng_tをエンジン回転数N
engで除して得られるトルクを減算することにより、発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを算出する。力行運転時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは、油圧要求出力P
wr_pmp_reqに走行要求出力P
wr_drv_reqを加算したものである。
一方、回生運転時、エンジン回転数指令N
eng_tはエンジン回転数N
engより小さい。また、回生時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは油圧要求出力P
wr_pmp_reqから消費電力P
wr_cnsを減算したものである。したがって、回生運転時に発電電動機制御部160が算出する発電電動機トルク指令T
rq_gen_tは、油圧要求出力P
wr_pmp_reqから消費電力P
wr_cnsを減算した値をエンジン回転数N
engで除して得られるトルクとなる。
【0056】
−傾転角制御部170−
傾転角制御部170は、下記の式(11)に基づいて傾転角制御信号V
Dp_tを算出して、この傾転角制御信号に基づいて油圧ポンプ9の図示しないレギュレータを駆動することによって、油圧ポンプ9の傾転角、すなわち容量を制御する。傾転角制御部170は、エンジンコントローラ2からのエンジン回転数N
engと、油圧要求演算部120からのポンプ要求流量q
pmp_reqと、出力管理部140からの傾転角増加指令dD
pmp_tとを用いて、以下の式(11)によって傾転角制御信号V
Dp_tを算出する。
V
Dp_t=K
Dp{(q
pmp_req/N
eng)+dD
pmp_t}…(11)
なお、K
Dpは、油圧ポンプの傾転角を目標値とするために必要な傾転制御信号を算出するための比例定数である。
また、力行運転中と判定された場合には、出力管理部140は傾転角増加指令dD
pmp_tを0に設定する。さらに、回生運転中、回生電力の全量がキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、油圧ポンプ9の負荷が小さいときには、出力管理部140は、(5)式で算出された傾転角増加指令dD
pmp_tを出力する。その結果、油圧ポンプ9の傾転角が大きくなって余剰電力の消費量が増加する。
【0057】
傾転角増加指令dD
pmp_tが0の場合、すなわち、(1)力行運転中と判定された場合、または、(2)走行電動機7F,7Rの余剰電力で発電電動機5が駆動され、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれかが動作中の場合には、傾転角制御信号V
Dp_tが以下のように設定される。すなわち、操作装置31を介してオペレータから要求されるポンプ要求流量に実際のポンプ吐出流量が保持されるように傾転角制御信号V
Dp_tが設定される。したがって、油圧ポンプ9の傾転角は、油圧ポンプ9の吐出量がオペレータによって要求する値(ポンプ要求流量)に保持されるように、エンジン1、発電電動機5または油圧ポンプ9の回転数の増加に合わせて小さくなるように制御される。
【0058】
−走行電動機・ブレーキ制御部180−
走行電動機・ブレーキ制御部180には、走行要求演算部130で(2)式から算出された走行要求トルクT
rq_reqと、モータ回転数センサ22からの走行電動機回転数N
motと、出力管理部140で(6)式から算出された回生電力低減指令dP
wr_mot_tとが入力されている。走行電動機・ブレーキ制御部180は、これらの値を用いて、以下の式(12)によって走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを算出する。
T
rq_mot_t=sign(T
rq_req)・max{|T
rq_req|−
(dP
wr_mot_t)/|N
mot|,0} …(12)
ただし、signは符号関数であり、引数が正の場合は1を、負の場合は「−1」を、0の場合は「0」を返すものとする。
【0059】
走行電動機・ブレーキ制御部180は、算出した走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを走行インバータ8F,8Rに送信する。これにより、走行電動機7F,7Rの力行・回生が制御される。
【0060】
すなわち、走行電動機・ブレーキ制御部180は、アクセルペダル踏込量とブレーキペダル踏込量とに基づいて(2)式で算出した走行要求トルクT
rq_reqの絶対値を算出する。力行運転時、走行要求トルクT
rq_reqは正、回生電力低減指令dP
wr_mot_tがゼロなので、(12)式で算出される走行電動機トルク指令T
rq_mot_tは走行要求トルクT
rq_reqとなる。
【0061】
回生運転時、回生電力の全量をキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、エンジンが第2設定閾値N
eng_th2以上の高速で運転されているとき(エンジンが高速モードのとき)、(6)式から回生電力低減指令値dP
wr_mot_tが算出される。走行要求トルクの絶対値|T
rq_req|から、回生電力低減指令dP
wr_mot_tを走行電動機回転数N
motの絶対値で除して求めた回生電力低減トルクを減算して減算値を算出する。走行要求トルクT
rq_reqが負であるので、この減算値を負とした値が走行電動機トルク指令T
rq_mot_tとなる。これが回生制動トルクとなる。
【0062】
また、走行電動機・ブレーキ制御部180は、算出した走行電動機トルク指令T
rq_mot_tと、走行要求トルクT
rq_reqと、走行電動機回転数N
motとを用いて、以下の式(13)により制動トルク指令T
rq_brk_tを算出する。制動トルク指令T
rq_brk_tはブレーキ制御部190に出力される。
T
rq_brk_t=max{−sign(N
mot)・(T
rq_req−T
rq_mot_t),0}
…(13)
ただし、signは符号関数であり、引数が正の場合は1を、負の場合は「−1」を、0の場合は「0」を返すものとする。
【0063】
制動トルク指令T
rq_brk_tが算出されると、回生電力低減指令dP
wr_mot_tが大きいほど走行電動機トルク指令T
rq_mot_tの絶対値が小さくなり、この減少分だけ制動トルク指令T
rq_brk_tが大きくなる。
【0064】
(13)式で算出される制動トルク指令T
rq_brk_tは、アクセルペダル踏込量とブレーキペダル踏込量とに基づいて(2)式で算出した走行要求トルクT
rq_reqから、(12)式で算出した走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを減算して求めた減算値を電動機が正回転の時は負とし、電動機が逆回転の時は正の値として算出される。すなわち、そして、これらの演算値と0のいずれか大きい値を制動トルク指令T
rq_brk_tとする。したがって、力行運転中の制動トルク指令T
rq_brk_tはゼロとなる。
一方、回生制動運転中は、走行要求トルクT
rq_reqと走行電動機トルク指令T
rq_mot_tはともに負である。したがって、走行要求トルクT
rq_reqの絶対値が走行電動機トルク指令T
rq_mot_tの絶対値よりも大きい場合、走行電動機が正転していれば、(T
rq_req−T
rq_mot_t)が正なので、最大値としてゼロが選択され、制動トルク指令T
rq_brk_tはゼロとなる。また、走行電動機が逆転していれば、(T
rq_req−T
rq_mot_t)が正なので、最大値として(T
rq_req−T
rq_mot_t)が選択される。
【0065】
−ブレーキ制御部190−
走行電動機・ブレーキ制御部180で演算された制動トルク指令T
rq_brk_tから次式(14)を用いてブレーキ制御信号V
brk_tを演算する。
V
brk_t=K
brk・T
rq_brk_t …(14)
ただし、K
brkは、制動トルク指令T
rq_brk_tと油圧ブレーキの実際の制動トルクが一致するように予め設定された比例定数である。
ブレーキ制御信号V
brk_tに基づいて油圧ブレーキ制御弁31a,31bが駆動され、油圧ブレーキ35a,35bが車輪18を制動する。これが回生協調時の機械的ブレーキ力である。
【0066】
−メインコントローラ100の処理−
以下、メインコントローラ100により行われる処理について詳細に説明する。以下の説明は、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中の場合と、回生運転中の場合とに分けて行う。
【0067】
−力行運転の場合−
力行運転時に走行電動機・ブレーキ制御部180から出力される走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを説明する。上述したように、走行電動機トルク指令T
rq_mot_tは式(12)から算出される。力行運転時、走行電動機・ブレーキ制御部180は、走行電動機トルク指令T
rq_mot_tとして、走行要求トルク指令T
rq_reqを出力する。走行用インバータ8F,8Rはこの走行要求トルク指令T
rq_reqにより駆動され、走行電動機7F,7Rは要求されたトルクを出力する。
【0068】
メインコントローラ100の出力管理部140は、上述したように、走行要求演算部130で算出された走行要求出力P
wr_drv_reqが0以上の場合に、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判断する。そして、メインコントローラ100は、走行電動機7F,7Rに必要な電力を供給するために、(8)式により発電出力指令P
wr_gen_tおよび(9)式によりエンジン出力指令P
wr_eng_tを算出する。発電出力指令P
wr_gen_tにより発電電動機6が駆動され、エンジン出力指令P
wr_eng_tによりエンジンが駆動制御される。
【0069】
走行電動機・ブレーキ制御部180は上述した式(13)により制動トルク指令T
rq_brk_tを算出する。上述したように、力行運転時、式(13)から算出され制動トルク指令T
rq_brk_tはゼロである。
【0070】
また、本発明では、後述するように、坂道登坂路で停止している作業車両200を発進させるとき、オペレータがインチングペダル294を操作せず、ノーインチング状態でブレーキペダル291aとアクセルペダル290aを踏み込んで発進させても、ブレーキの引きずり現象を抑制する制御をメインコントローラ100で実行する。
【0071】
なお、この実施の形態のハイブリッド式作業車両200は、後述のインチングペダル294の踏み込み量の増加に伴い走行電動機7F,7Rの回転数を減らし、走行速度を下げるインチング装置295と、インチング装置295を動作させるインチングペダル294と、インチング装置295の作動を許可するオン位置、作動を禁止するオフ位置の切換位置を行うインチング操作部材293とを有している。なお、インチング装置295は、メインコントローラ100内に機能として構成される。インチング操作部材293でインチング装置295をオフしたノーインチング状態では、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aが同時に踏み込まれたときにブレーキの引きずり現象が生じる。インチング装置295をオンにしてインチングペダル294が踏み込まれると、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aが同時に踏み込まれても、走行電動機7F,7Rの走行駆動トルクが減じられ、ブレーキの引きずり現象が防止できる。
【0072】
この実施形態のハイブリッド作業車両200は、インチング操作部材293によりインチング装置295がオフ、すなわち、ノーインチング状態が選択され、かつ、ブレーキペダル291aとアクセルペダル290aが同時に踏み込まれている場合に、車速が所定値未満であれば、アクセルペダル290aの踏込み量に拘わらず走行電動機がクリープトルクを出力するように制御してブレーキの引きずりを防止する。
【0073】
−回生運転の場合−
回生時に走行電動機・ブレーキ制御部180から出力される走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを説明する。上述したように、走行電動機トルク指令T
rq_mot_tは式(12)から算出される。回生時、走行要求トルクT
rq_reqは負であり、回生電力低減指令dP
wr_mot_tが所定値となる。走行要求トルクの絶対値|T
rq_req|から、回生電力低減指令dP
wr_mot_tを走行電動機回転数N
motの絶対値で除して求めた回生電力低減トルクを減算した値の負の値が走行電動機トルク指令T
rq_mot_tとなる。これが回生制動トルクである。インバータ8F,8Rはこの回生制動トルク指令に基づいて駆動され、走行電動機7F,7Rからの回生電力を取り出し、発電機インバータ6により発電電動機6を駆動制御する。また、充電可能なときはキャパシタ3を充電する。
【0074】
メインコントローラ100の出力管理部140は、上述したように、走行要求演算部130で算出された走行要求出力P
wr_drv_reqが負の場合に、ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断する。この場合、メインコントローラ100の出力管理部140は、走行電動機7F,7Rで発電された回生電力をキャパシタ3および発電電動機5へ配分するために、(8)式により発電出力指令P
wr_gen_t、(9)式によりエンジン出力指令P
wr_eng_t、(5)式より傾転角増加指令dD
pmp_t、(6)式より回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを算出する。発電出力指令P
wr_gen_tにより発電電動機6が駆動され、エンジン出力指令P
wr_eng_tによりエンジンが駆動制御される。傾転角増加指令dD
pmp_tによりポンプレギュレータが駆動制御される。
【0075】
メインコントローラ100の出力管理部140は、上述した式(4)を用いて算出した余剰電力P
wr_supが0の場合には、キャパシタ3への充電が可能と判断する。そして、回生運転時、発電電動機制御部160は、式(10)にしたがって発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを算出する。すなわち、回生運転時の発電電動機トルク指令T
rq_gen_tは、エンジン回転数指令と実エンジン回転数との差分に定数を乗じて得たトルクから、発電出力指令P
wr_gen_tをエンジン回転数N
engで除して得られるトルクを減算した値となる。メインコントローラ100が式(10)で算出された発電電動機トルク指令T
rq_gen_tにより発電インバータ6を駆動し、発電電動機5が回生電力により電動機モードで回生電力を消費する。
【0076】
出力管理部140は、回生運転中に算出した余剰電力P
wr_supが0以外の場合には、キャパシタ3への充電ができないと判断する。この場合、出力管理部140は、エンジン1が低回転モードか、回転抑制モードか、高回転モードかを判定した後、余剰電力P
wr_supのうち発電電動機5で消費すべき電力である消費電力P
wr_cnsを算出する。各モードでの消費電力P
wr_cnsは次のとおりである。
【0077】
−低回転モード−
エンジン1が低回転モードの場合、すなわちエンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1以下の場合、出力管理部140は、余剰電力P
wr_supと、回生電力低減指令値dP
wr_mot_tとを用いて、上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。上述したように、エンジン1が低回転モードの場合には、出力管理部140は回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを0に設定するので、低回転モードの場合には、余剰電力P
wr_supが消費電力P
wr_cnsとなる。
【0078】
−回転抑制モード−
エンジン1が回転抑制モードの場合、出力管理部140は、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれも動作中でなければ傾転角増加処理を行った後、上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。傾転角増加処理では、出力管理部140は、エンジン回転数N
engと、第1設定閾値N
eng_th1とを用いて、上記の式(5)により傾転角増加指令dD
pmp_tを算出する。そして、出力管理部140は、低回転モードの場合と同様に上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。上述したように、エンジン1が回転抑制モードの場合には、出力管理部140は回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを0に設定するので、回転抑制モードの場合においても、余剰電力P
wr_supが消費電力P
wr_cnsとなる。
【0079】
−高回転モード−
エンジン1が高回転モードの場合、出力管理部140は、回生電力低減処理を行った後、上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。回生電力低減処理では、出力管理部140は、エンジン回転数N
engと、第2設定閾値N
eng_th2とを用いて、上記の式(6)により回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを算出する。なお、高回転モードの場合であっても、出力管理部140は、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれも動作中でなければ、回転抑制モードの場合と同様に傾転角増加処理を行う。
【0080】
上述したように、低回転モード、回転抑制モード、高回転モードのいずれかにおいて消費電力P
wr_cnsが算出されると、出力管理部140は、上記の式(8)を用いて発電出力指令P
wr_gen_tを算出する。発電電動機制御部160は、エンジン回転数N
eng_tと、出力管理部140により算出された発電出力指令P
wr_gen_tと、エンジン回転数指令N
eng_tとを用いて、上記の式(10)によって発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを算出する。そして、発電電動機制御部160は、算出した発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを発電インバータ6へ送信することによって、発電電動機5を制御する。その結果、余剰電力により生じるトルクが適宜減じられたトルク値によって発電電動機5が駆動される。
【0081】
発電出力指令P
wr_gen_tが算出されると、出力管理部140は、油圧要求演算部120からの油圧要求出力P
wr_pmp_reqと、発電出力指令P
wr_gen_tとを用いて、上記の式(9)によりエンジン出力指令P
wr_eng_tを算出する。目標回転数演算部150は、出力管理部140で算出されたエンジン出力指令P
wr_eng_tに基づいて、上述したように、エンジン等燃費マップを用いて、エンジン回転数指令N
eng_tを算出し、エンジンコントローラ2へ出力する。エンジンコントローラ2は、エンジン回転数指令N
eng_tを目標回転数演算部150から受信すると、そのエンジン回転数指令が示すエンジン回転数でエンジン1を回転させる。
【0082】
以下、ブレーキペダル踏込時にメインコントローラ100で実行される速度制御について説明する。本実施の形態のメインコントローラ100は、ブレーキペダル踏込時の速度制御に関して、次の2通りの制御を行う。
(1)通常走行時、すなわちアクセルペダル290aの踏み込みによりクリープ速度(たとえば1km/h)よりも高速で走行中にブレーキペダル291aが踏込操作された場合
(2)坂道発進等の低速時、すなわちクリープ速度で走行中にブレーキペダル291aが踏込操作された場合
なお、この実施形態では、インチング装置295をオフにしたノーインチング状態であることを前提に説明する。
【0083】
(1)通常走行中にブレーキペダル291aが踏込まれた場合
メインコントローラ100は、アクセルペダル290aからアクセル信号を入力し、ブレーキペダル291aからブレーキ信号を入力すると、ハイブリッド式作業車両200の走行速度がクリープ速度よりも高速であるか否かを判定する。この場合、メインコントローラ100は、速度センサ21から入力した速度信号に基づいて、ハイブリッド式作業車両200の走行速度を算出する。そして、ハイブリッド式作業車両200の走行速度がクリープ速度よりも高速の場合、メインコントローラ100は、アクセルペダル290aの踏込量(操作量)などに基づきトルク制御を行うとともに、ブレーキペダル291aの踏込量(操作量)に応じたブレーキ制御を行う。
【0084】
すなわち、メインコントローラ100の走行要求演算部130は、上述した式(2)を用いて走行要求トルクT
rq_reqを算出する。走行電動機・ブレーキ制御部180は、上述した式(12)を用いて走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを演算して走行電動機7F,7Rの力行・回生を制御するとともに、上記の式(13)を用いて制動トルク指令T
rq_brk_tを算出する。制動トルク指令T
rq_brk_tから式(14)を用いてブレーキ制御信号を演算し、油圧ブレーキ制御弁35a,35bを駆動する。この結果、ハイブリッド式作業車両200の走行速度はオペレータによるブレーキペダル291aの踏込量に応じて減少する。
【0085】
(2)クリープ速度以下の速度で走行中にブレーキペダル291aが踏込まれた場合
速度信号に基づいて算出したハイブリッド式作業車両200の走行速度がクリープ速度以下の場合、メインコントローラ100はアクセルペダル290aの踏込量に関わらず、ハイブリッド式作業車両200の走行速度をクリープ速度に制御する。換言すると、メインコントローラ100は、ハイブリッド式作業車両200の目標走行速度をたとえば1km/hに制御する。
【0086】
この場合、メインコントローラ100は、まず、前後進スイッチ292から入力された前後進スイッチ信号に基づいて、前後進スイッチ292により指示されるハイブリッド式作業車両200の進行方向を判別する。上述したように、前後進スイッチ信号V
FNRは、ハイブリッド式作業車両200の進行方向として前進方向を指示する場合は「1」を、後進方向を指示する場合は「−1」を、中立の場合は「0」を示す。前後進スイッチ信号V
FNRが「0」の場合は、メインコントローラ100は以下の制御を行わない。
【0087】
前後進スイッチ信号V
FNRが「1」または「−1」の場合、メインコントローラ100は、速度センサ21により検出された走行速度に基づく走行方向が、前後進スイッチ292により指示されたハイブリッド式作業車両200の進行方向と一致しているか否かを判定する。そして、メインコントローラ100は、走行方向と前後進スイッチ292により指示されたハイブリッド式作業車両200の進行方向とが一致している場合に、以下に説明するように、ハイブリッド式作業車両200の目標走行速度が1km/hとなるように制御する。
【0088】
本実施の形態のハイブリッド式ホイールローダ200では、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aのいずれも踏み込まれていないときにクリープ走行可能に設定されている。このようなクリープ走行は、予め設定したクリープ車速に必要な走行トルクを走行電動機7F,7Rに与えることにより実現される。そのため、メインコントローラ100の走行電動機ブレーキ制御部180は、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aのいずれも踏み込まれていないクリープ走行条件が成立したときは、車速が1km/hで走行できる程度の走行電動機トルク指令T
rq_mot_t、すなわちクリープトルク指令を出力するようにしている。この結果、ハイブリッド式作業車両200の走行速度は目標走行速度が1km/hに制御される。この目標走行速度が上述したクリープ速度である。
なお、クリープトルクは、一般的な路面の平坦路においてハイブリッド式作業車両200がクリープ速度で走行可能な値として定められている。
【0089】
目標走行速度がクリープ速度となるように制御されているときにブレーキペダル291aからブレーキ信号が入力されなくなった場合には、メインコントローラ100は、上記の制御を終了する。そして、メインコントローラ100は、オペレータによるアクセルペダル290aの踏込量に応じてハイブリッド式作業車両200の走行速度を制御する。
【0090】
メインコントローラ100は、走行方向と前後進スイッチ292により指示されたハイブリッド式作業車両200の進行方向とが一致していない場合に、ハイブリッド式作業車両200の目標走行速度が1km/hとなるようにトルク指令値を大きくするような制御を行う。
【0091】
図7に示すフローチャートを用いて、メインコントローラ100による処理を説明する。
図7の処理はメインコントローラ100でプログラムを実行して行われる。このプログラムは、メモリ(不図示)に格納されており、ハイブリッド式作業車両200の図示しないイグニッションスイッチがオンされると、メインコントローラ100によってプログラムが起動され、実行される。
【0092】
ステップS1では、前後進スイッチ292から前後進スイッチ信号V
FNRと、アクセルペダル踏込量センサ290からアクセル信号と、ブレーキペダル踏込量センサ291からブレーキ信号と、モータ回転数センサ22から走行電動機回転数N
motとを入力してステップS2へ進む。
ステップS2では、アクセルペダル290aの踏み込みの有無が判定される。肯定されるとステップS3に進む。ステップS3では、ブレーキペダル291aの踏込操作の有無を判定する。ブレーキペダル291aが踏込操作されていない場合、すなわち、ステップS1においてブレーキペダル踏込量センサ291からブレーキ信号を入力していない場合には、ステップS3が否定判定されてステップS9へ進む。ステップS9では、トルク指令値演算処理、すなわち上記の式(12)を用いて走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを算出して処理を終了する。
【0093】
ブレーキペダル291aが踏込操作されている場合、すなわち、ステップS1においてブレーキペダル踏込量センサ291からブレーキ信号を入力している場合には、ステップS3が肯定判定されてステップS4へ進む。ステップS4では、速度センサ21によって検出されたハイブリッド式作業車両200の走行速度がクリープ速度を超えているか否かを判定する。走行速度がクリープ速度以下の場合には、ステップS4が否定判定されてステップS6へ進む。ステップS6では、走行電動機トルク指令T
rq_mot_tとして、予め定められているクリープトルクを設定する。
【0094】
その後、ステップS7において、ハイブリッド式作業車両200の実走行方向と前後進スイッチ292により指示された進行方向とが一致するか否かを判定する。実走行方向と前後進スイッチ292に対応する進行方向とが一致する場合には、ステップS7が肯定判定されて所定のステップに戻る。実走行方向が指示された進行方向と一致しない場合には、ステップS7が否定判定されてステップS8へ進む。実走行方向が指示された進行方向と一致しないのは、逆走していることを意味している。すなわち、坂道発進する際に後ろ向きで降坂している。したがって、ステップS8では、ステップS6で算出したトルク指令を大きくするような制御、たとえば、クリープトルクに所定の増分トルクを加算して得たクリープトルクを設定する制御を行い、所定のステップに戻る。
【0095】
ハイブリッド式作業車両200の走行速度がクリープ速度を超える場合には、ステップS4が肯定判定されてステップS5へ進む。ステップS5では、上述した式(12)を用いて走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを演算して走行電動機7F,7Rの力行・回生を制御するとともに、上記の式(13)を用いて制動トルク指令T
rq_brk_tを算出してブレーキ制御弁35a,35bを駆動して、所定のステップに戻る。
【0096】
ステップS2が否定されると、ステップS11でブレーキ踏込を判定する。ステップS11でブレーキ踏込が否定されると、ステップS12において、予め記憶しているクリープトルクが設定される。すなわち、走行電動機がクリープトルクを出力するように駆動制御される。ブレーキが踏み込まれている場合にはステップS11が肯定され、ステップS13において、トルク指令演算により回生トルク指令が算出され、また、ブレーキ踏込量に応じたブレーキ弁制御が行われる。
【0097】
以上で説明した実施の形態によるハイブリッド式作業車両によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)ハイブリッド式作業車両200は、車輪18を駆動する走行電動機7F,7Rと、アクセルペダル290aの踏込量およびブレーキペダル291aの踏込量の少なくとも一方に応じた走行速度となるように走行電動機7F,7Rを制御するメインコントローラ100と、走行速度を検出する速度センサ21とを備える。そしてメインコントローラ100は、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aとが踏込操作されているときに速度センサ21により検出された走行速度が目標走行速度であるクリープ速度以下の場合、アクセルペダル290aの踏込量に関わらず、走行速度が所定の目標走行速度であるクリープ速度となるように走行電動機7F,7Rを制御するようにした。
以上の速度制御を行うため、ハイブリッド式作業車両200は、以下の機能を有するメインコントローラ100を備えている。すなわち、メインコントローラ100は、アクセルペダル290aが踏み込まれている第1条件と、ブレーキペダル291aが踏み込まれている第2条件と、車速が所定値以下である第3条件の全てが成立したときに、ブレーキ引きずり制御条件が成立したと判定する条件判定機能部と、ブレーキ引きずり制御条件が成立していることが判定されているときは、アクセルペダル踏込量に拘わらず、車速が所定の目標値になるように走行電動機を駆動制御するとともに、ブレーキ引きずり制御条件が成立していることが判定されていないときは、アクセルペダル踏込量と、ブレーキペダル踏込量と、車速とに基づいて、走行電動機の駆動を制御する電動機駆動制御機能部とを備える。
【0098】
作業車両でかきあげ作業を行う場合などにおいては、たとえば30度程度の急勾配の坂道で坂道発進を行う必要がある。従来の作業車両のように、動力を切って制動するインチング走行と、動力を切らずに制動するノーインチング走行とを行うためのインチング装置を備える場合、オペレータはノーインチングの状態でブレーキペダルを踏み込みながらアクセルペダルを踏み込むことができる。この場合、作業車両が動き出してから、オペレータはブレーキペダルの踏込を解除する。このため、従来の作業車両で坂道発進を行う場合、ブレーキのひきずり、発熱等があった。
【0099】
本実施の形態のハイブリッド式作業車両200は、上述したようにインチング装置295を備えている。インチング装置295をオフして操作する場合、上述したように、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aとが踏込操作されているときに、走行速度がクリープ速度を超えていない場合には、目標走行速度がクリープ速度となるように走行電動機7F,7Rを制御するようにした。このため、かきあげ作業等のように、急勾配の坂道で坂道発進する必要がある場合でも、ブレーキのひきずり、発熱等が抑制され、ブレーキの耐久性が向上する。
【0100】
(2)ブレーキ引きずり制御条件が成立していることが判定されているとき、電動機駆動制御機能部は、車両の走行方向と前後進指示部材で指示された走行方向とが異なるとき、走行電動機の出力トルクを増加させるようにした。したがって、どのような勾配の登坂路でも確実にずり落ち現象を防止しつつ、ブレーキ引きずり現象を抑制できる。
【0101】
(3)走行電動機と車輪との間で伝達される走行駆動トルクを制御するインチング装置295と、インチング装置295をオンするオン位置と、オフするオフ位置とに切り替わるインチング操作部材293とを設けた。そして、上述した第1〜第3条件に加えて、インチング操作部材293がオフ位置に操作されている第4条件が成立していると判定すると、ブレーキ引きずり制御条件が成立したと判定するようにした。したがって、オペレータの好みで、インチング装置295をオンした登坂路発進走行も可能となる。
【0102】
以上で説明した実施の形態のハイブリッド式作業車両200を、次のように変形できる。
(1)低速走行時にアクセルペダル290aとブレーキペダル291aが同時に踏込操作された場合の速度制御として、走行速度をクリープ速度に設定するものとして説明した。クリープ速度は、平坦路においてアクセルペダル290aとブレーキペダル291aがともに操作されていないときに作業車両200が走行する速度である。勾配が10度以上30度未満の所定勾配の登坂路での坂道発進時に、ブレーキペダル291aとアクセルペダル290aの双方を踏み込まない状態で車両が1km/hで走行するようなトルクを付与してもよい。
【0103】
(2)以上では、車速がクリープ速度以下のときに、アクセルペダル290aとブレーキペダル291aが踏み込まれたときに引きずり制御条件が成立したと判断し、走行電動機7F,7Rにクリープトルクを付与して車速がクリープ速度となるようにした。しかしながら、引きずり制御条件として採用する車速は、クリープ速度より大きい所定速度に設定してもよい。すなわち、目標となる速度と、引きずり制御条件としての車速を異なる値としてもよい。
【0104】
(3)インチング装置295をオン、オフに設定する以外、1/3だけインチング装置295を動作させる中間切替位置を設けてもよい。これは、インチング操作部材293が中間切替位置に切り替えられ、かつ、ブレーキペダル291aとアクセルペダル290aが同時操作されたとき、クラッチの伝達トルクをオンオフするのではなく、伝達トルクを1/3程度のハーフクラッチ状態で使用するものである。
【0105】
(4)インチング操作部材293としてオン位置、オフ位置、中間位置を切り替えるスイッチを採用せず、クラッチ伝達トルクを0〜100%までオペレータが任意に設定できるダイアルを採用してもよい。クラッチにより伝達されるトルクをオペレータの好みで任意に調節でき、不慣れなオペレータから、熟練したオペレータまで操作性の良いハイブリッド作業車両を提供できる。
【0106】
(5)以上では、インチング装置295を備えたハイブリッド式作業車両200について説明し、インチング装置295をオフした場合の登坂路発進時でのブレーキ引き連り現象を防止するようにした。しかし、ハイブリッド式作業車両200からインチング装置295を廃止することもできる。この場合、オペレータはインチングとノーインチングとの間の切り換え操作が不要になり操作性が向上する。
【0107】
(6)前輪用の走行電動機7Fと、後輪用の走行電動機7Fを設けたが、一つの走行電動機を有するハイブリッド作業車両にも本発明を適用することができる。
また、ハイブリッド制御処理を行う構成も実施形態に限定されない。
【0108】
(7)ハイブリッド式作業車両200は、エンジン1により駆動された発電電動機5によって車輪18を駆動するシリーズハイブリッド式を用いるものに代えて、エンジン1と、エンジン1により駆動された発電電動機5との少なくとも一方によって車輪18を駆動するパラレルハイブリッド式を用いてもよい。
【0109】
また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。説明に用いた実施の形態および変形例は、それぞれを適宜組み合わせて構成しても構わない。