(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、γが前記適用範囲上限よりも大きくなると、前記筒内噴射エンジンが冷機条件においても、吸気行程の吸気弁開後に燃料を噴射するように噴射時期を切り替えることを特徴とする制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
油水温の低い冷機条件において適用され、
排気弁が閉じる時期から吸気弁が開くまで時期を燃料噴射可能期間とし、
上記燃料噴射可能期間に全部若しくは殆どの燃料が噴射できるように燃料噴射期間を設定し、
アイドルで最も燃料噴射期間が短くなる条件での排気弁閉時期、吸気弁開時期、燃料噴射期間を基準とし、基準位置からの排気弁進角量をα、吸気弁遅角量をβ、燃料噴射期間増加量をγとすると、γが長くなるにつれてα+βも長くなるように吸排気弁が制御され、更に適用範囲上限であるγが最大となる条件でβ>αとなることを特徴としている。
また、γが小さい領域ではαのみを増加させ、γが大きい領域ではβのみを増加させるよう吸排気弁を制御することを特徴としている。この方法では排気弁を先に作動させることで筒内の温度を高くできるため、エンジン始動直後の燃料温度が低い条件で加速しても気化促進が図られピストン付着抑制効果が高い。
【0009】
また、γが大きくなるにつれて、αとβを同時に増加させるように吸排気弁を制御することを特徴としている。この方法ではγの増加分をαとβで分担できることで排気弁α又は吸気弁β単独で変化させる場合に比べ変化量が少なく、応答性が良い利点がある。
また、γが大きくなるにつれて、αとβを加算した総変化量に占めるαの割合が高くなる様に吸排気弁を制御することを特徴としている。この方法ではγが小さい範囲では残留ガスの増加を最小に維持できるため燃焼変動や燃費への跳ね返りが殆どない。
また、燃料噴射期間増加量γが所定値よりも大きくなると、吸気行程の吸気弁開後に燃料を噴射するように噴射時期を切り替えることを特徴としている。これにより残留ガス量が過剰になり必要な空気が吸入できなくなることを抑制でき、燃料リッチ化による排気悪化を防止できる。
【0010】
本発明の第1の実施例における筒内噴射エンジンの構成を
図1に示す。本構成では1気筒当たり400ccの直列4気筒エンジンとなっている。
シリンダヘッド1とシリンダブロック2、そしてシリンダブロック2に挿入されたピストン3により燃焼室が形成され、燃焼室の中心上部に点火プラグ4が設けられている。燃焼室に吸気管5と排気管6がそれぞれ開口しており、開口部を開閉する吸気弁7と排気弁8が設けられている。排気弁と吸気弁はカム動作方式となっており、クランク軸に連動して回転する。また、電動駆動式可変機構が備えられており、吸気弁7は吸気弁可変機構9、排気弁8は排気弁可変機構10によって位相が変化する。
【0011】
燃焼室の吸気側には燃焼室に直接燃料が噴射できるように燃料噴射弁11が設けられる。
燃料は燃料タンク12に貯蔵され、フィードポンプ13によって燃料配管を通じて高圧ポンプ14に送られる。高圧ポンプ14は排気カムによって駆動され、昇圧された燃料がコモンレール15に送られる。フィードポンプ11は0.3MPa程度の昇圧に対し、高圧ポンプ14は20MPaまで昇圧することができる。コモンレール14には燃圧センサ16が設置され、燃料圧力を検知できるようになっている。コモンレール14の先には4気筒分のインジェクタがそれぞれ接続されている。
【0012】
ピストン3はコンロッド17を介してクランク軸18と連結されており、クランク角センサ19によりエンジン回転数を検知できる。クランク軸18にはセルモータ(図示しない)が連結され、エンジン始動時にセルモータによりクランク軸を回転させ始動することができる。
【0013】
シリンダブロック2には水温センサ20が取り付けられており、エンジン冷却水の温度を検知できる。吸気管の上流にはコレクタ21が接続されており、コレクタの上流には図示していないがエアフローセンサとスロットル弁が備えられており、燃焼室に吸入される空気量をスロットルの開閉によって調節できる。図では1気筒のみの記述だが、コレクタ21から各気筒に空気が分配されている。排気管下流には三元触媒22や触媒温度センサ23のほか、図示しないが空燃比センサ、酸素濃度センサ等が設けられている。エンジンコントロールユニット(ECU24)は各種センサの信号を受け取り、内部演算ののち
吸気弁可変機構9、排気弁可変機構10、燃料噴射弁11や高圧燃料ポンプ14といったデバイスを制御できるよう接続されている。ECU24内のROMには一般的に用いられるエンジン回転数や水温、触媒温度、空燃比に応じた各種デバイスの設定値がマップデータとして記録されているほか、本発明の特徴である、冷機時における燃料噴射期間に対する吸気弁7の閉弁時期、排気弁8の開弁時期のデータも記録されている。
【0014】
なお、すべての実施例は冷機条件を想定しており、アクセルからの要求負荷に対し運転空燃比が14.5になるように燃料噴射量と空気量が制御させる。
【0015】
第1の実施例を
図2〜5を用いて説明する。本実施例では
図2に示すように、アイドル(A)から車速40km/h(B)を経て車速80km/h(C)に至るまでの動作を記す。
各条件A、B、Cのエンジン回転数と充填効率を
図3に示す。条件Aは回転数750r/min、充填効率40%、条件Bは回転数1250r/min、充填効率60%、条件Cは2000r/min、充填効率は90%である。
【0016】
本実施例での燃料圧力は5MPa一定としており、条件Aの噴射パルス時間は1.5ms、条件Bの噴射パルス時間は2.2ms、条件Cの噴射パルス時間は3.6msと充填効率(負荷)上昇に応じて長くなっている。噴射パルス時間を各条件での回転数におけるクランク角度に換算すると、条件Aの燃料噴射期間は6.8deg、条件Bの燃料噴射期間は16.5deg、条件Cの燃料噴射期間は43.2degとなる。
【0017】
条件Aでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルと燃料噴射信号を
図4に示す。本実施例において回転数、噴射量、燃圧が最小となるアイドル条件Aでの燃料噴射期間は6.8degであることから、燃料噴射開始時期はTDC、燃料噴射終了時期は6.8degATDCに設定した。そして、排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの燃料噴射可能期間を6.8degとするため、排気弁閉時期をTDC、吸気弁開時期を6.8degとした。ここで、条件Aを基準として、排気弁進角量をα、吸気弁遅角量をβ、噴射期間増加量をγと定義する。
【0018】
条件Bは燃料噴射期間が16.5degであることからγは9.7deg、条件Cは燃料噴射期間が43.2degであることからγは36.4degとなる。
【0019】
本実施例では排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間に燃料を噴射する制御とし、α+β=γとなるようα及びβの動作を決定している。また、γが10degとなるまではαのみを増加させ、γが10deg以降はβのみを増加させる手法としている。噴射期間増加量γに対する排気弁進角量α、吸気弁遅角量β及びα+βのデータを
図5に示す。
【0020】
条件Bでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルと燃料噴射信号を
図7に示す。条件Bではγが9.7degと10deg以下であることから、排気弁のみ進角することで噴射可能期間を長くするように制御され,α=9.7deg、β=0degに決定される。
【0021】
条件Cでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルと燃料噴射信号を
図8に示す。条件Cではγが36.4degと10deg以上であることから、排気弁の進角と吸気弁の遅角により噴射可能期間を長くするように制御され,α=10.0deg、β=26.4degに決定される。
なお、本実施例では本発明の適用範囲をγが40deg以下としており、γが40degを超える条件では通常の吸気行程噴射に制御される。
【0022】
燃料噴射開始時期は排気弁閉時期に設定するため、γに応じて排気弁進角量αと同じように噴射開始時期も進角される。条件Aでの燃料噴射開始時期はTDCであり,条件Bはαが9.7degであることから燃料噴射開始時期は9.7degBTDC、条件Cではαが10.0degであることから燃料噴射開始時期は10.0degBTDCに設定される。
【0023】
本実施例での作用を記す。エンジン始動直後、水温センサ20、触媒温度センサ23の入力信号から一般的に用いられている触媒暖機モード有無が判定される。ここでは触媒暖機モードに入ったものとし、吸気行程と圧縮行程の分割噴射及び点火リタードによる昇温制御が用いられる。そして、触媒温度が活性温度まで上昇したとき昇温制御が解除される。
【0024】
本実施例では昇温制御が解除された条件は条件Aのエンジン回転数750r/min、アイドル条件とし、燃圧は通常運転で用いられる最小燃圧5MPaとなっている。昇温制御解除と同時に水温センサ20により冷機及び暖機が判定される。ここでは水温を30℃とし、冷機状態と判定される。冷機と暖機の判定温度は明確に決定できないが、ここでは60℃以上で暖機と判断するようECU24に入力されている。冷機と判定された時点で噴射パルス幅から、クランク角センサ19から算出された回転数を用い、燃料噴射期間が算出される。
【0025】
本実施例ではECU24に最少燃料噴射期間6.8degが記録されており、上記で算出された燃料噴射期間から6.8degを減算することでγが求められる。アイドルでは燃料噴射期間が6.8degのためγはゼロと判定され、ECU24に入力されている、
図4に示す状態になるよう吸気弁可変機構9、排気弁可変機構10が制御される。また、燃料噴射開始時期はTDCに設定される。
【0026】
アクセルを踏み込むことで要求トルクが上昇したと判定され、アクセル開度やエンジン回転数の情報から1気筒当たり目標燃料噴射量が決定される。ここでは車速40km/h、条件Bの燃料噴射量18.2mgがECU24から決定される。そして燃料圧力センサ16の信号から燃料圧力が5MPaと判定され、噴射パルス時間2.2msが算出される。クランク角センサ19からエンジン回転数が1250r/minが算出され、燃料噴射期間16.5degが算出される。16.5degから条件Aの最少燃料噴射期間である6.8degが減算され、γ=9.7degが算出される。
図5のデータから、αが9.7deg進角されて排気弁閉時期が9.7degBTDC、βは0degのままで吸気弁開時期は6.8degが維持される。そして、噴射量に対し空燃比14.5の吸入空気量となるようにスロットルが制御される。
【0027】
燃料噴射開始時期はαと同じ9.7deg進角され9.7degBTDCとなる。排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間は9.7+6.8の16.5degとなっており、燃料噴射期間と同じになっている。
【0028】
更にアクセルを踏み込んだ車速80km/hの条件Cでは、アクセル開度やエンジン回転数の情報から1気筒当たり目標燃料噴射量29.5mgがECU24から決定される。そして燃料圧力センサ16の信号から燃料圧力が5MPaと判定され、噴射パルス時間3.6msが算出される。クランク角センサ19からエンジン回転数が2000r/minが算出され、燃料噴射期間43.2degが算出される。43.2degから条件Aの最少燃料噴射期間である6.8degが減算され、γ=36.4degが算出される。条件Cでは
図5のデータから、αが+10.0deg、更にβが+26.4degされて排気弁閉時期が10degBTDC、吸気弁開時期は6.8degに26.4が加算され33.2degATDCとなる。そして、噴射量に対し空燃比14.5の吸入空気量となるようにスロットルが制御される。
【0029】
燃料噴射開始時期はαと同じ10.0deg進角され10.0degBTDCとなる。排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間は10.0+6.8+26.4の43.2degとなっており、燃料噴射期間と同じになっている。
【0030】
第2の実施例を、
図6及び9、10を用いて説明する。本実施例での、噴射期間増加量γに対する排気弁進角量α、吸気弁遅角量β及びα+βのデータを
図6に示す。第1の実施例と異なる点は、γの増加に応じてαとβも増加させている点である。ここで、α+βの増加量に対し、αが27.5%、βが72.5%となるようにしている。その他は第1の実施例と同じである。
【0031】
基準となる条件Aでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルは
図4の実施例1と同じである。
【0032】
条件Bでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルと燃料噴射信号を
図9に示す。第2の実施例ではαが27.5%、βが72.5%になるように決定されることから、γが9.7degではαは2.4deg、βは7.3degとなり、排気及び吸気弁がそれぞれ制御される。
【0033】
条件Cでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルと燃料噴射信号を
図10に示す。条件Cではγが36.4degであり、γに対しαが27.5%、βが72.5%になるように決定されることから、α=9.1deg、β=27.3degに決定される。
【0034】
第2の実施例の動作を示す。動作点は
図2、3に示す第1の実施例と同じ条件A、B、Cである。
【0035】
条件Aまでは第1の実施例と動作が同じため省略する。
【0036】
条件Bでは燃料噴射期間16.5degであり、16.5degから条件Aの最少燃料噴射期間である6.8degが減算され、γ=9.7degが算出される。
図6のデータから、αが2.7deg進角されて排気弁閉時期が2.7degBTDC、βは7.0deg遅角されて吸気弁開時期は6.8+7.0の13.8degATDCとなる。
【0037】
燃料噴射開始時期はαと同じ2.7deg進角され2.7degBTDCとなる。排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間は2.7+13.8の16.5degとなっており、燃料噴射期間と同じになっている。
【0038】
条件Cでは燃料噴射期間43.2degであり、43.2degから条件Aの最少燃料噴射期間である6.8degが減算され、γ=36.4degが算出される。
図6のデータから、αが10.0degされて排気弁閉時期が10degBTDC、吸気弁開時期は6.8degに26.4が加算され33.2degATDCとなる。
【0039】
燃料噴射開始時期はαと同じ10deg進角され10degBTDCとなる。排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間は10+6.8+26.4の43.2degとなっており、燃料噴射期間と同じになっている。
【0040】
第3の実施例を、
図11、12を用いて説明する。本実施例での、噴射期間増加量γに対する排気弁進角量α、吸気弁遅角量β及びα+βのデータを
図11に示す。第2の実施例と異なる点は、γの増加に応じてαとβを同時に増加させつつ,γが大きくなるにつれて吸気弁と排気弁の総変化量α+βに対してαの占める割合を高くなるようにしている点である。
図12にγに対するα/(α+β)の変化を示す。その他は第1、第2の実施例と同じである。
【0041】
基準となる条件Aでの吸気弁7及び排気弁8のプロファイルは
図4の実施例1と同じである。
【0042】
条件B、Cでのα及びβは
図11から決定され、条件Bのγが9.7degにおいてαは0.8deg、βは8.9degに、条件Cのγが36.4degにおいてαは8.7deg、βは27.7degとなるように排気及び吸気弁がそれぞれ制御される。
第3の実施例の動作を示す。動作点は
図2、3に示す第1の実施例と同じ条件A、B、Cである。
【0043】
条件Aまでは第1の実施例と動作が同じため省略する。
条件Bでは燃料噴射期間16.5degであり、16.5degから条件Aの最少燃料噴射期間である6.8degが減算され、γ=9.7degが算出される。
図11のデータから、αが0.8deg進角されて排気弁閉時期が0.8degBTDC、βは8.9deg遅角されて吸気弁開時期は6.8+8.9の15.7degATDCとなる。
【0044】
燃料噴射開始時期はαと同じ0.8deg進角され0.8degBTDCとなる。排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間は0.8+15.7の16.5degとなっており、燃料噴射期間と同じになっている。
【0045】
条件Cでは燃料噴射期間43.2degであり、43.2degから条件Aの最少燃料噴射期間である6.8degが減算され、γ=36.4degが算出される。
図11のデータから、αが8.7deg進角されて排気弁閉時期が8.7degBTDC、βは27.7deg遅角されて吸気弁開時期は6.8degに27.7が加算され34.5degATDCとなる。
燃料噴射開始時期はαと同じ8.7deg進角され8.7degBTDCとなる。排気弁が閉じてから吸気弁が開くまでの期間は8.7+6.8+27.7の43.2degとなっており、燃料噴射期間と同じになっている。
【0046】
なお、第3の実施例におけるγに対する吸気弁と排気弁の総変化量α+βに対してαの占める割合を、
図13、
図14のように、γが10degまではαのみを増加させ、γが10degよりも大きくなると、γが大きくなるにつれて吸気弁と排気弁の総変化量α+βに対してαの占める割合を高くなるようにして第3の実施例と同じ効果が得られる。
【0047】
第1の実施例では、排気弁進角量の最大値に対し吸気弁遅角量の最大値を大きくすることで、燃焼室内温度を気化が悪化しない温度に維持しつつ残留ガスによる燃焼変動増加と燃費悪化を抑制できる。また、γが小さい領域ではαのみを増加させ、γが大きい領域ではβのみを増加させることで残留ガスによる筒内温度上昇効果を早期に得ることができ、エンジン始動直後の燃料温度が低い条件で加速しても気化促進が図られピストン付着抑制効果が高い。
【0048】
第2の実施例では、γが大きくなるにつれて、αとβを同時に増加させるように吸排気弁を制御しており、この方法では残留ガスの増加を最小に維持できるため燃焼変動や燃費への跳ね返りが殆どなく、更にγの増加分をαとβで分担できることで排気弁α又は吸気弁β単独で変化させる場合に比べ変化量が少なく、応答性が良い利点がある。
【0049】
第3の実施例では、γが大きくなるにつれて、αとβを加算した総変化量に占めるαの割合が高くなる様に吸排気弁を制御しており、この方法ではγが小さい範囲では残留ガスの増加を最小に維持できるため燃焼変動や燃費への跳ね返りなしで排気を低減できる。